本部

存在しない子供たち

一 一

形態
シリーズ(続編)
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/08/28 01:39

掲示板

オープニング

●諦念の告白
 イタリアのH.O.P.E.支部にて、集められたエージェントは職員の難しい顔へ視線を集中させた。
「あれから彼らにも事情を聞いてみたのですが……事態は思ったよりも深刻かもしれません」
 まず、数日前にポルタ・パラッツォで万引きの現行犯で逮捕された少年たちについて触れた後、職員は『戸籍がなかった』少年たちから聞いた話をする。
「話によると、彼らは今まである教会に『監禁』されていたそうです」
 いきなり飛び出した不穏な言葉に思わず顔がこわばるが、職員はそのまま続けた。
「その教会は一見すると普通の教会だそうですが、生後すぐに置き去りにされた捨て子やスラム暮らしで身よりのない子供を隠れて引き取っているようです。それだけなら慈善活動にも聞こえますが、役所に届け出ていない子供たちへの扱いは相当悪質みたいですね」
 曰く、『懲罰』と称した殴る蹴るや言葉の暴力は当たり前で、食事も死なない程度にしか与えられない。外から常に監視されてトイレ以外の外出は許されず、まともな教育など受けたことがないらしい。
 自分たちの名前でさえ、幼い頃にいた年上の孤児が偶然誓約できた英雄からもらったのだという。
「ただ、彼らが青空市にいたのは、以前いた孤児が作った抜け穴で教会を出入りしていたからだそうです。彼ら以外にも能力者に覚醒した子供たちだけが利用し、同じように窃盗で足りない食料をまかなっていたとか。特に体が弱い子たちのため、栄養のつくものを食べさせるためだと」
 そこでふと、疑問の声が上がった。
 それだけ酷い状態なのに、何故外の人間に助けを求めなかったのか?
「……『大人は信用できない』、とはっきり言われてしまいました。おそらく、今まで誰も彼らのSOSを真剣に捉えなかったのでしょう。こういうのは酷ですが、一般人からすれば少々現実離れした内容ですから」
 ともすれば、ドラマや映画の世界で聞くような話だ。まして、それを主張するのは幼い子供。いくら真剣に訴えても、大人の気を引きたいための嘘と思われてもおかしくない。
「実際、今まで露見しなかったのも冗談だと思われてきたからでしょう。詳しいことはあまり話してくれませんでした。ですが、気になることを教えてくれました」
 それは『孤児の数は常に増減している』こと。
「増やすのはまだしも、定期的に人数を減らす手段は限られています。……それが秘密裏に行われてるとすれば、いい想像はできません」
 職員は明確な言葉にしなかったが、エージェントも言わんとしていることは察する。
 すなわち――『人身売買』が行われている可能性があるのだ。
「もちろん、あくまで予想のため確証はありません。ですが事実なら、放置することはできません。よって、皆さんにはその教会の調査をお願いします。そうでなくとも、彼らの話と栄養欠乏状態から一度本格的に調べる必要はありそうですから」
 内容がたとえ荒唐無稽でも、身分不詳でやせ細った子供の主張は調査の大義名分になる。
 教会へ乗り込むことは、おそらく可能だ。
「しかし、証拠がない上にかなり醜聞の悪い名目になりますから、調査できる機会は1度だけくらいに思ってください。我々も情報収集はしていきますが、おそらく何かあるなら教会の中にあるはずです。あの子たちが世界や大人に絶望しないよう、力を尽くしましょう」
 少年たちの協力が得られれば楽になるだろうが、彼らは口を閉ざしたまま。
 ひとまず、エージェントたちは彼らを救うために今後の動きを話し合った。

●密談する悪童たち
(……話したのか、ティノ)
(う、うん)
 とある夜、H.O.P.E.支部の施設内で寝泊まりするアドルフォたちは暗闇の中で静かに話し合っていた。
(マジか……下手したら俺たち、死ぬぞ?)
(でも、あの人たち優しかったし、何とかしてくれるかもって、私は思う……)
 ティノの頷きにイラーリが顔をしかめるが、アガタがフォローするように口を動かす。
(アガタの言いたいこと、わかるよ。私も、みんな助かって欲しいし)
(そうね……あの人たちが『アイツら』と繋がってたら、明日いるのは知らない大人の家だと思うけど)
 さらにアガタに同意を示したソフィアだが、続くアロンザの言葉に全員が唇を引き結ぶ。
 彼らは知っている。
 あの教会を出た孤児仲間が、今どこで何をしているのかわからないことと、その意味を。
(……ま、話しちまったのは仕方ない。後はお互い、死なないことを神に祈ろうぜ?)
(何それ? 今まで神様に祈ったことなんてないでしょ? 愚神にでもすがるつもり?)
(これでみんな酷いことされたら、僕のせいだよね。ごめんね、う、ぅ……)
 軽口を叩くアドルフォに鋭く指摘するアロンザを見て、ティノは自分の軽率を理解して涙する。
 残りの5人は慰めるようにティノを囲むが、やはり彼らの間に声はない。
 彼らが生活を送るうち、自然と身についた夜目と読唇術。
 いずれも、『アイツら』に隠れて話すための技術である。
 就寝時間で電灯が切れた真っ暗な室内を、身振りと口の動きだけで話していく。
 H.O.P.E.の庇護下にあってさえ、いまだ彼らの悲観は色濃く残っていた。

解説

●目標
 疑惑の教会調査

●登場
 アドルフォ&ソフィア…回避適正の勝ち気な少年とシャドウルーカーの大人しい少女。驚異的な回避・逃走能力を有し、幼い孤児仲間のため窃盗をし続けた。

 ティノ&アガタ…回避適正の気弱な少年とバトルメディックの優しい少女。窃盗には反対しつつ、仲間を助けようと鍛えたスキルセンスは高い。

 アロンザ&イラーリ…回避適正の冷静な少女とカオティックブレイドの活発な少年。偶然手に入れたナイフAGWを利用し、窃盗の逃走援護を積極的に続けてきた。

●状況
 イタリアのトリノにある某教会
 見た目は普通の教会で、特別変わった活動なども行っていない
 礼拝用のホールや修道士たちの居住空間、洋室や書庫など間取りも普通

 数日前に逮捕し、交流の中で態度が若干軟化したティノの証言から人身売買拠点の疑惑が浮上
 表向きに運営する小規模な孤児院とは別に、出自や身元が不明な子供たちを監禁する場所があるという
 聞き出せた情報は以上で、監禁場所の詳細や子供の人数などは不明のまま
 少年たちの『大人』に対する敵意や不信感は強く、いまだ完全に心を開ききっていない

(PL情報)
 少年たちが情報を話さない要因
・複数の大人からの日常的な虐待の記憶(監禁・肉体的暴行・精神的暴行など)
・過去に里子へ出された監禁孤児は全員行方知れず→まともな身元引受人はいない?
 以上の点から、PCたちが『今は優しくても後で酷いことをする大人』である可能性を捨てきっていない

リプレイ

●とらわれた子供たち
「っ!? 酷いッ!」
「……っ」
 最初にルー・マクシー(aa3681hero001)が彼らの過酷な境遇を聞き、内から湧く怒りで涙を浮かばせる。隣のテジュ・シングレット(aa3681)も無言のまま顔をしかめた。6人を捕まえる時に窃盗の理由を予想していたが、より深刻な現実に拳を強く握り締める。
「許せない……絶対に他の子たちも助ける!」
「彼らの主張が『嘘』でないなら、ね」
 同様に己の正義感から恋條 紅音(aa5141)もいきり立つが、英雄であるヴィクター・M・メルキオール(aa5141hero001)の見方は少々厳しい。というより、興味の外にある子供たちに過剰な肩入れはしない、という立場からの発言だろう。
「きずいな大人の、最大の犠牲者が子供どす! ええどす! うちも後の事は考えんと気張ったりますわ!」
「……? 気合い十分だなフミ」
 弥刀 一二三(aa1048)も子供を虐げる者のエゴに憤慨と決意(?)を感じ取ったキリル ブラックモア(aa1048hero001)は首を傾げつつ、自分も気合いを入れようとお菓子を取り出す。
「あかん!」
「な!?」
 が、キリルは一二三に菓子を奪れ、問答無用で食べられてしまう。
「き、貴様! 死ぬ覚悟は出来ているか?!」
「死ぬより嫌な目に遭う覚悟、決めとりますわ! アンタもあんじょうきばりなはれ!」
 キリルが抗議するもなぜか一二三は退かず、しばらく菓子を巡る口論が続いた。
「さて、相手の目的が一体何かですよね」
「……」
 その間に件の教会に関する収支報告や周囲に監視カメラの有無など、複数の調査をH.O.P.E.に依頼した構築の魔女(aa0281hero001)は黙考する辺是 落児(aa0281)の横で調査の段取りを頭の中で組み上げる。……何となく一二三がやろうとしていることも察したが、とりあえず口出しはしなかった。
「……ん。みんな、元気? ちゃんと、ごはん……食べれてる?」
 大まかな方針が固まった後、エージェントたちは保護された6人の元へ訪れる。その際、氷鏡 六花(aa4969)が『チャルケセット』と『カレープリンあんぱん』を差し入れに渡した。
「あのね。ティノが、話してくれたから……その教会に、調査に行くことに、なったの。それで……お願い。貴方たちが使ってた、抜け穴の場所……教えて、ほしい、の」
『っ!?』
 しかし、続く六花の言葉で全員の表情が緊張でこわばる。
「直接確かめられれば、あなたたちの仲間も助けてあげられると思ったのだけれど」
 続けてアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)が補足して6人へ笑みを向けるも、警戒心からか一様に口を閉ざしてしまう。
(……必ず、真実を暴く。今、彼らの心に響くのは言葉ではなく、成果だけだろう)
 助けを求めることすら恐れるような姿を前に、テジュは早々に場を辞し調査へ向かった。
 抑えきれない怒りで獣化した肉体を隠すように。
「教えてくれてありがとう。お守り、ってワケじゃないけど……これ、できれば持ってて。じゃあね!」
 無理には聞き出せないとこの日は解散となり、帰る間際に紅音が追跡可能な状態にしたスマートフォンを巾着袋に入れてティノへ渡していた。
『捨てられたらどうする?』
「それでもいい。なんか、一応確認は出来るようにしたいじゃん」
 部屋を出た後、幻想蝶にいたヴィクターからの指摘に紅音は肩をすくめる。
 あくまで保険であり、活躍しない方がいいとも思いながら。
「あの子達の警護、しばらく念入りにお願いします」
「少なくとも、私たちの調査が終わるまではよく注意を払ってください」
 また荒木 拓海(aa1049)とメリッサ インガルズ(aa1049hero001)も子供たちを職員へ頼み、調査が始まった。

●教会調査
 教会近くへ足を運んだエージェントたちは事前調査を話し合う。
「……あの子達が僕達の事も疑うのは、仕方ない……だから、僕も信じてくれとは言わないよ。でも、信じさせてみせる。世界はあの子達が考えるほど、捨てたもんじゃないんだって」
「ああ!」
 険しい表情で教会を睨むルーに頷き、テジュは迷彩マントで隠した禍々しい獣化姿を収めるように共鳴――2人分の怒りを抱えた眼光や思考が強く研ぎ澄まされていく。
「孤児院が併設されてるだけあって、結構広いね」
「まだ顔を知られたくないから、あまり目立たないようにね」
 同じく外観をキョロキョロと眺める紅音に、ヴィクターはさらに注意を重ねた。
「あともう一つ先に言っておくけど、もし何か見ても『考え無しに飛び出す』ことは絶対しないように」
「わかってる」
 良くも悪くもプラス思考で、考えるよりまず行動になりやすい気質を指摘された紅音は頷いた。……調査中に新たな被害者を見かけたら飛び出すだろうなと、ヴィクターから予想されていたが。
「俺はこの周辺を調べる。地下に遺跡が点在するような古い町だ、偶然発見された地下空間を隠し通路や監禁場所としている可能性もある」
「うちとキリルは、建物の外側からモスケールで調査しよう思っとります」
 テジュに続き一二三が提案するが、肝心のキリルは睨み返すのみ。
「断る! 菓子をくれない貴様と共鳴などおことわr」
 ぺかー!
「――フミリルに任せてくれれば、心配事はパパッと解決よ☆」
 すったもんだで共鳴すると、現れたのはかわいらしいポーズの少女剣士フミリル。
 いつもは一二三が回避する共鳴姿だが、今回はわざとキリルのやる気を下げた意図的な変身だ。
「ちょっと変に思われても、フミリルの愛らしさならどんな相手もイチコロだから安心して!」
 赤い衣装をひらめかせるフミリルの見た目なら油断を誘え、犯人側の反応次第で潜入の可能性もある。フミリルでの依頼参加を決めた一二三の覚悟は強いようだ。
「では、私たちは教会の監視と連絡係をしましょう。ついでに教会に関する情報を色々集めるようH.O.P.E.に協力も求めたので、多少の情報解析も行いましょうか」
 それから構築の魔女が連絡を終え、落児・紅音・ヴィクターの同意を得てそう告げる。
「念のため、相手はレーダーユニットなどのライヴスを感知可能な手段を所持するヴィランと想定して動きましょう」
 最後に2人へ警戒を促してから、構築の魔女はテジュとフミリルを送り出した。

「上からは、今回は調査だけ……って、言われてるんだけど。こうしてる間にも、たくさんの子たちが、辛い思い、してる……んだよね? そんなの、絶対に……許せない」
 一方、六花と拓海は6人との面会に時間を費やしていた。
「一刻も早く、助けてあげたいし……調査が入ったことで、他の子たちが、危ない目に遭ったりしたら……ティノ、きっと、六花たちに話してくれたこと……後悔、しちゃう、でしょ? 六花は……六花たちを信じて、話してくれたティノの気持ちに、応えたい……の」
 詳しい情報を得ると同時に彼らの心を開きたいと、誠意を持って説得を続ける。
「話したくなったら、オレ達に教えてくれると嬉しい。ところで、君達は教会に入る前はどんな場所で生活して、どうして教会に来たんだ?」
 黙ったままの6人に取りなした拓海は、次に世間話のような体で話題を変えた。内容は、事前に一二三から聞くよう頼まれたこと。子供の生活圏から相手の活動範囲がわかり、大人に騙されて教会へ行ったのならモンタージュが作れると考えたからだ。
「知らねー。俺は捨て子らしいし」
「私も2~3歳の頃って聞いたわね」
「僕は、5歳くらいまでスラムにいた、けど……」
 が、アドルフォとアロンザは教会がほぼ生家にあたり、ティノは拉致同然で連れ去られたらしい。英雄たちは教会で出会い、6人が知る他の子に関しても経緯はそう変わらないようだ。
「君達はこの件の生き証人だ。オレ達以外が外へ連れ出そうとしても『決して着いて行かないで』ほしい。もしかしたら顔見知りの子が現れても、先ずH.O.P.E.に相談してくれ」
 それから差し入れのレモンパイを渡した拓海は、子供を拉致するような相手が手段を選ぶと思えず6人にも警戒するよう切り出し、その日は部屋を後にした。



 そのまま情報収集をしながら機をうかがい、大きな進展がないまま数日が経過する。
「これ、集まった資料とご飯だよ」
「ありがとうございます。目視する限り、警報や厳重な監視網などはなさそうですね」
 手荷物を持った紅音は交代で教会の動きを観察する構築の魔女へそれらを渡す。
「公表されている情報に偽りが、とも思いましたが……」
 彼女が読んでいるのは、H.O.P.E.や自分たちで集めた教会に関する資料だ。一応、表向きにある孤児院の運営状況に不審な点はなく、一般的な知名度や評判は良くも悪くも普通といったところ。
 と、工事に関する記録を読み進めたところで、紙がくしゃりとゆがむ。
「大規模な改築が1度――それも『15年前』、ですか……今は、これが無関係であることを祈りましょう」
 構築の魔女が危惧する通りなら、想定をはるかに越える人数の子供が関係している可能性がある。
「難しい、何か役に立ちそうな情報は……」
「何でも良い、紅音は色々見て。代わりに私が色々考えよう。たとえば、子供の人数でどれ位の規模の組織か、子供の状態でどのような使い道で売るかとかは、ある程度予想できるからね」
 また紅音とヴィクターが広げる複数の地図には、2人分の加筆が加えられていた。
 まず、テジュによると町の地下に教会へ繋がるようなところは見つからなかったらしく、教会の間取り図と照合しつつ敷地外からライヴス反応を調べたフミリルの結果も微妙。
 一般人だとライヴスが微弱で反応が不明瞭ということもあり、地下を含む探索範囲から何も出なかったようだ。日をずらせば強い反応も見られたが、犯人の確証はない。
「とはいえ、思ったより警戒が薄いのは気のせいでしょうか? 証拠隠滅の気配すらないのは危機感がないのか、発覚しても問題ないと思える自信があるのか……何にせよ、『顧客』がいるならば情報流出や紛失はできる限り避けたいところです」
 一読で内容を記憶した構築の魔女は、再び教会へ視線を戻そうとしてふと隣を見る。
「ところで落児と恋條さん……それ、飽きませんか?」
「ロロ……?」
「え? ぜんぜん」
 調査開始から数日続くあんパン+牛乳という食事を指されるも、3人は互いに首を傾げるだけだった。

「みんなー! いっくよー!!」
『おー!』
 同じ頃のフミリルはというと、昨日から教会の正規孤児院で暴れ回っていた。
 早々に調査の限界を覚え、仲間の理解とH.O.P.E.の協力を得て孤児として内部調査を始めたのだ。裏孤児の監禁場所へ行く手段が少なく、安全・確実・バレにくいことから現在の形に落ち着いている。
「ま、待ちなさーい!」
 職員を困らせる問題児なフミリルだが、もちろん理由はある。派手に動き回って仲間への警戒心を弱めるとともに教会の間取りや家具等の配置を目視で確認の他、常駐する教会関係者の顔を明らかにするためだ。
(一二三――いや、フミリル殿)
 夜になると、テジュが昼間の調査で得た情報をフミリルから受け取り夜間の調査へ移る。現場の偵察と動きが制限されたフミリルの補助が目的の潜入になる。
 フミリルの最優先事項は本調査までエージェントだと気づかれないこと。有事の際は動けるよう幻想蝶は人工皮膚で体に接着しているが敵の正体と手札が不明なため、盗撮用カメラ以外の道具使用を控えていた。
(『裏』の動きは活発ではないとしても、これは……)
『うん、無防備すぎる』
 職員の顔が映った動画データと内装の情報をもらった後、テジュは寝静まった教会内を探索。天井に張り付いて一般職員を時々やり過ごし、金庫らしい物を神父の部屋で、隠し通路らしい物を書庫で簡単に発見すればルーとともに疑問を覚える。
(深追いは避けるべき、か?)
『だね。慎重にいこう』
 構築の魔女とも相談して機密文書の奪取も目標だったが、テジュもルーも『鍵師』の使用を止める。そうして情報を手にしたテジュは、夜明け前に素早く脱出した。

 調査と並行した子供たちの説得にも変化が。
「大人を信じられないのは仕方ない……だが、いつか君達が大人になった時、どんな大人になりたい?」
 連日6人へ顔を見せる拓海は、六花とともに根気強く語りかける。
「君達の様に苦労して大人になる人や、助けようとする大人も居る。大人や子供ではなく個人を――『その人を信じられるか』を感じて欲しい」
「本格的な調査になれば、貴方たちを監禁していた人たち……証拠隠滅のため、監禁してる子たちを、『処分』しようとするかもしれない……。そうなる前に、六花は……貴方たちが、窃盗までして、守ろうとしてた子たちを、守りたい……助けたい、の」
 現状のまま乗り込むのは博打要素が高い。せめて6人が利用した抜け穴の場所だけでも知れればと、拓海も六花もまっすぐに彼らと目を合わせた。
「H.O.P.E.を信じ切れないなら、それがオレ達の人徳だからだろう。だが、騙すならこんな遠回しな事はしない……ただ、助けたいんだ。状況を詳しく聞かせて貰えないか? きっと、何とかしてみせる」
「六花も、みんなと同じ……孤児、だから。放っておけない……の。ねぇ、お願い。監禁されてる子たちの人数と、抜け穴の場所を……教えて」
『…………』
「今は多分、子供は20~30人いて、見張りは2~3人くらい、武器も持ってる」
「抜け穴は、教会裏手にあるマンホールの途中、だよ」
 すると6人はそれぞれ顔を見合わせ、ティノとアガタが期待と恐怖を半分ずつ浮かべた顔を上げる。
「ありがとう――行ってくる」
 拓海は両方の頭をなで、立ち上がった。

●白日にさらして
『表も裏も、突入時に反応があれば知らせます。また、紙媒体や記録媒体を破壊する素振りがあれば、すぐに合流しましょう』
 共鳴状態で教会を広く監視する構築の魔女から通信を受け、エージェント達は教会の査察に動き出す。
「……ん」
『ここね』
 マンホールを見つけた六花は迷彩マントで身を覆い、共鳴したアルヴィナに頷くとフタを持ち上げる。
「さて入れるかね? 紅音ってスリムってより若干筋肉しt」
「それ以上良いから一旦幻想蝶に戻って! こう……つっかえない様に頑張れば、っ!」
 同じく抜け穴突入班を希望した紅音は幻想蝶にヴィクターを押し込み、先に地下への梯子を降りていく。
『頑張れば?』
「……くっ!」
 程なくして色合いが異なる金属部分を見つけたが、ヴィクターの漏らす笑い声に紅音は反論できない。
 抜け穴のサイズは見るからに小さく、六花でもギリギリ入るかどうか怪しい大きさだった。
「恋條さん、上からお願い」
 物理的な厳しさから、紅音へ声をかけた六花はすぐに単独で横穴に入っていく。
(……ん、ぐ、せまい)
『抜け穴から脱出できたらよかったけど、共鳴した能力者じゃないと無理ね』
『マナチェイサー』でたどる穴は手で掘ったらしく、かなり窮屈な上に距離が長く呼吸もできない。六花とアルヴィナは脱出口としての利用は無理と判断しつつ、やがて行き止まりにたどり着く。教えてもらったノックで合図を送ると、壁だと思っていたやせこけた背中がズレた。
「っ! ……(こちら六花、監禁場所に到着――)」
 思わず出そうになった声を抑え、六花は身じろぎして通信機を起動。内部の情報や逃走路について小声で短く伝えた後、穴から這いだして迷彩を利用しつつカメラで録画を始める。

『リサ、後は頼む』
「――ええ、任せなさい」
 連絡を受け、拓海の声に頷いたメリッサは待機状態で起動したモスケールを幻想蝶へ収納。
 素早くフェイクスキンマスクの変装や通信機のイヤホンを確認した。
「メルキオール、氷鏡さんの場所から正面に出られそうなルートって考えつく?」
『正面入口や建物の広さは確認済みだから、侵入した方角と今までの情報から推測は可能だ。けど、そこまで期待しないように』
 急遽、正面突破組に加わった紅音もヴィクターと段取りを相談する。
「リサ殿、恋條殿、武運を祈る」
 そして、訪問時の隙をついて証拠隠蔽の現場を押さえる役目のテジュが2人を見送り『潜伏』を纏う。
「神父様はいらっしゃいますか?」
 そのままメリッサは堂々と教会へ向かい、職員に神父への取り次ぎを求める。
「先ほど敷地内に入ったトラックは?」
「神父様と知り合いの企業さんから月1回届く、食料や服など孤児院への寄付ですよ」
 案内の道中、メリッサは世間話を装い企業名を確かめつつ応接室に到着した。
「せっかくだから、『紅音ちゃん』は教会の中を見学していて」
「わ、わかったよ『義姉(ねえ)さん』」
 入室前に振り返ったメリッサの微笑みに、設定上の関係を反芻しつつ紅音はぎこちなく頷いた。このまま正規の孤児院へ向かい、この時間に『お昼寝中』のフミリルと合流する手はずである。
「ご用件とは?」
「私はここの孤児院出身で、先日里親を亡くした際に遺産を相続しまして。ふと、お世話になった教会を思いだし、一部を寄付したいと考え『義理の妹』とともに訪問しました」
 ……という設定を違和感なく演じたメリッサに神父は納得して見せた。
 人身売買で稼ぐ輩が食いつくだろうと『寄付の話』をしたが反応は薄い。
「わざわざご足労を――っ!?」
 が、直後に発生した地響きで神父の顔から余裕が消えた。

「う、ぐっ!?」
「あ? なんだこのガキ?」
 その少し前、見張りが子供へ武器を振り上げた姿を見た六花が盾になっていた。
「……おい、そいつ能力者か?」
「ちっ! 面倒な」
 敵は鞘ごと刀で殴ったシャドウルーカー、階段付近で身構えるソフィスビショップ、苛立った表情のブラックボックスの3人。反撃を考えた六花だが、子供が多い密閉空間を考慮しとっさに通信機を指で叩いた。
『な、っ!?』
 瞬間、見張りの背後から爆発が発生。
「なになに? フミリルもー! 混ぜて―!」
「ぐ、っ!? コイツ、仲間か!?」
 さらに煙の中からフミリルが飛び出し、『守るべき誓い』で注意を引きつける。
「おいおい、隠し扉の物理と魔法の罠、両方ゴリ押しかよ!?」
『今回は調査だったけど、緊急事態だしね。全員外に出すまで、持ち堪えようか』
「わかった!」
 続けて黒い鎧姿の紅音も加わり、落下の勢いを乗せたアダーラレガースで蹴りを見舞った。
「みんな、下がってて!」
 その間に装備を構えた六花は孤児たちを背にかばい、『氷鏡』を天井付近に展開。終焉之書絶零断章の凍気を乱反射した氷槍を降り注ぐ。
「さぁ、君達は全員守るから、皆で逃げるよ!!」
 そうして全滅した見張りに目を丸くする孤児たちへ、紅音は鎧兜から明るい声で手を差し出した。

「一体、何が――」
「少し前、ここで『お世話になってた子』から話は聞いたわ。『色々と』、ね?」
 混乱する神父だったが、少しも動じず笑みを崩さないメリッサに息をのむ。
「人が人を、まして逆らえぬ子を物の様に扱うなんて……H.O.P.E.が許すと思う?」
「っ!」
 瞬間、監禁・虐待の確証を得て表情が消えたメリッサに神父は慌てて部屋から逃げていく。
『インガルズさんの連絡にあったトラックからヴィラン数名を確認。救出班と私を含め4人が建物の外にて交戦中です』
「わかりました!」
 武具を装備したメリッサが部屋を出ると、構築の魔女からの通信で救出班の応援へ向かった。
「はぁ、はぁ」
 他方、息を切らせた神父は自室の扉を開けると、一直線に机に向かう。
 引き出しから取り出したのは――何かのスイッチ。
「せめて、金庫だけは爆破して――」
「やらせん!」
 神父が手を伸ばした瞬間、密かに追尾していたテジュが跳躍。
 机を飛び越え神父の背後を取り腕を背中へ回して動きを封じた。
「……教会で裏孤児に関係するのは、お前1人だな?」
 犯人を前に噴出した怒りで力加減に苦労するテジュの問いに、震えながら神父は頷く。他の職員はヴィランを除き、混乱と恐怖で動けない様子だったため口調は断定的だった。
「しくじってんじゃねぇぞ、オッサン!」
 次に、金庫にも隠し扉と同じ仕掛けがあるだろうと解除方法を尋ねようとした時、入り口からまっすぐ火炎が飛来する。
「くっ! 証拠ごと燃やすためのブラックボックスか!?」
 とっさに神父を投げてかばったテジュは、『赤の王』で強化された『赤き声』に舌打ちを漏らす。
「そら、もう一発――ぐぇっ!?」
「ヴィランは全員捕縛しました! 後は貴方だけです!」
 さらにスキルを使おうとしたヴィランは、しかし駆けつけた構築の魔女の『テレポートショット』で動きを止める。
「構築の魔女殿!」
「しばらく眠っていてください!」
 その隙を逃さず、テジュが『女郎蜘蛛』でヴィランの動きをさらに縛り、素早く懐に入った構築の魔女が双銃を零距離で撃ち抜き『戦闘不能』にする。
「証拠を確保し犯人は外へ! 建物内の一般人には避難誘導を!」
「ああ!」
 休む間もなく構築の魔女は燃え広がった部屋の消火のため指示を出し、テジュは金庫ごと幻想蝶へ入れて神父とヴィランを担ぎ教会の外へ走った。



 その後、迅速な対応で火事の影響は神父の部屋だけですんだ。戦闘による負傷者はヴィランのみで、職員や孤児は全員無事。神父とヴィランたちはご用となった。またトラックの荷物を調査すると眠らされた子供も数人発見され、彼らも保護されることになる。
 なお、共鳴時間が長く精神のダメージと闇を背負った一二三が、無言の三角座りで『の』の字を地面に書いて孤児仲間(?)に心配されていたのは余談である。
「愚神が煽動していた場合は別ですが、売買があるなら痕跡は残るはずです」
 逮捕された犯人たちの取り調べと並行して、構築の魔女は金庫から見つかった出納帳で金銭の流れを調べていた。いわゆる裏帳簿からは顧客を含む新たな情報が次々発見される。
「直接の売買は同じヴィラン組織のようですが、これは……」
 律儀に転売先も書かれており、それらの名前を見て構築の魔女は顔をしかめる。
 孤児たちの買い手に『個人』は少なく、大部分が『医療機関』だったのだから。

 ――続く

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969

重体一覧

参加者

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 絆を胸に
    テジュ・シングレットaa3681
    獣人|27才|男性|回避
  • 絆を胸に
    ルー・マクシーaa3681hero001
    英雄|17才|女性|シャド
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • エージェント
    恋條 紅音aa5141
    人間|18才|女性|防御
  • エージェント
    ヴィクター・M・メルキオールaa5141hero001
    英雄|27才|男性|ブレ
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