本部

万引き少年を捕まえろ!

一 一

形態
シリーズ(新規)
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2018/08/06 21:32

掲示板

オープニング

●はた迷惑な少年窃盗団
「あっ! またやりやがったなガキども!!」
 イタリアのトリノで開かれている有名な青空市、ポルタ・パラッツォ。
 朝から多くの観光客や地元民でにぎわう市場で、ある男性の怒声が響きわたった。
「うわ、見つかった!」
「逃げるわよ」
 拳を振り上げる店主に背を向け、やんちゃそうな少年と落ち着いた雰囲気の少女が逃げ出した。
 見た目は少年も少女も細く小柄で、おおよそ10歳程度。服装はお世辞にも綺麗とはいえず、汚れや虫食いが目立ちみすぼらしい。が、逃げる速度はかなりのもので、店主が追いかけようと店先に出た頃には少年たちの姿はどこにもなかった。
「くそっ! これで今月何回目だ!?」
 しばらく周囲を見渡した店主だが、少年たちの足の速さを熟知しているのか追いかける素振りはない。追跡したところで無駄だと悟っているのだろう。
「――あ? 何があったって?」
 そこへ、たまたまこの場所にいたエージェントが店主へ話しかけた。
「どうもこうも、ガキにうちの商品を盗まれたんだよ」
 ホラ、と店主が指さす先には数種類のパンが並んでおり、焼きたてなのかおいしそうな匂いが漂っている。
「それも1回や2回じゃねぇし、うち以外にも万引きの被害にあった店は多いんだ。ここらで悪さするガキは主に3人なんだが、どうやら全員能力者みてぇでな。盗んだ商品を幻想蝶に入れて器用に買い物客の中に紛れちまうもんだから、追っても捕まえられやしねぇ」
 エージェントも改めて周囲を見渡すと、なるほど油断すればすぐに通行人とぶつかるだろう密度の人混みでは、まともに走ることも難しいだろう。その上、追跡するのは子どもとはいえ英雄と共鳴しただろう能力者。一筋縄ではいかないのも頷ける。
「あんたたちも能力者ってやつか? だったら、あのガキども捕まえてきちゃくれねぇか? ポルタ・パラッツォで店を出す連中みんな嫌気がさしてんだ。このままじゃ観光客にも手を出すかもしれねぇし、早いとこ何とかしてぇんだよ」
「こらあぁーっ!!」
 すると、店主の話がとぎれるタイミングで別の場所から叫び声が上がった。
 どうやら、少年たちがまた万引きをしたらしい。
「頼むよ、な? 最近H.O.P.E.はゴタゴタしてそうだから連絡しづれぇし、かといって普通の警察じゃ当てにならねぇんだ。少しくらいなら謝礼も弾むぜ?」
 店主から頭を下げられたエージェントは、とりあえず少年たちを捕まえようと動き出した。

●たくらむ悪童たち
「アドルフォ、アロンザ。ど、どうだった?」
「チョロいチョロい。戦利品はこの中にバッチリだぜ、ティノ!」
「でも、まだまだぜんぜん足りない。やっぱり、店の大人の目が厳しくなってる」
 ポルタ・パラッツォから少し離れた路地裏で、気弱そうな少年――ティノが幻想蝶を叩いた少年――アドルフォとその後ろについてきた少女――アロンザを迎えた。
『みんな大丈夫? 怪我とかしてない?』
『私もイラーリも、大丈夫』
『そんな心配すんなって、アガタ! アドルフォとソフィアがヤバけりゃ、俺とアロンザで逃がすって!』
 次いで、ティノの口を借りた少女――アガタの心配そうな声に、アドルフォから少女――ソフィアの小さな声が、アロンザから明るい男の子――イラーリの声が飛び出した。声音からして、どうやら少年たちの英雄もまた同年代らしい。
「そっか……もう1回、行くの?」
「おう、これ食ったらな! ティノも食っとけ」
「今度はティノの力も借りるかもしれないから、一緒にきて」
 すると、幻想蝶から取り出した1つのパンを手でちぎり、ティノへ渡したアドルフォはおいしそうにパンにかぶりつく。アロンザも三等分されたパンを食べながら、遠慮気味なティノへ食べるよう視線で促す。
「……わかったよ。僕とアガタも、協力する」
 少し悩んだ後、ティノは2人に頷いて手にしたパンを口に入れた。
 ――グゥ~ッ!
 瞬間、ティノのおなかが空腹を思い出したかのように鳴り響き、6人分の小さな笑い声が重なった。

解説

●目標
 少年ヴィランを1人以上逮捕

●登場
 アドルフォ&ソフィア…回避適正の少年とシャドウルーカーの少女。窃盗の実行犯。AGWはないが、驚異的な回避・逃走能力を有する。少年が勝ち気、少女がおとなしい性格。

 スキル
・ジェミニストライク…リアクション、3人に分身して逃走、対抗判定(回避vs命中×1/3)勝利→回避成功+1D10sq移動
・ターゲットドロウ…リアクション、回避+30、味方の前に出て攪乱、対抗判定(回避vs命中)勝利→回避成功+BS翻弄付与

 ティノ&アガタ…回避適正の少年とバトルメディックの少女。サポート役。AGWはないが、スキルセンスは高い。少年が気弱、少女が優しい性格。

 スキル
・クリアレイ…スキル解説に準拠
・セーフティガス…スキル解説に準拠

 アロンザ&イラーリ…回避適正の少女とカオティックブレイドの少年。サポート役。ナイフAGWを所持し、妨害・逃走援護を担当。少女が冷静、少年が活発な性格。

 スキル
・インタラプトシールド…リアクション、回避+30、味方の周囲に盾を作り逮捕妨害、対抗判定(回避vs命中)勝利→味方回避成功
・デストロイクラッシュ…射程1、範囲1、リアクション、回避+60、ナイフの刃を粉々に四散させ目くらまし、対抗判定(回避vs命中)勝利→回避成功+BS衝撃付与

●状況
 場所はイタリアのトリノで開かれる青空市、ポルタ・パラッツォ
 広い敷地に700近い屋台が並び、地元民からレストランの仕入れまで多くの買い物客でにぎわう
 食品は基本的に量り売りで、たとえば果物は1個単位でも購入可能

 PCは午前中に偶然現場に居合わせ、周囲の店主や警官から事情を聞き行動開始
 市場の人混みにより追走は難しい(PC移動力・イニシアチブ-2)
 盗んだ食料品を幻想蝶に入れ、何度も大人の追跡を躱してきた悪童として有名
 年齢は全員10歳前後だが、逃走技術に関する身体能力はエージェント並

リプレイ

●万引きは立派な犯罪です
「なるほど、災難だったね」
「――じゃない! 早く捕まえないと!」
 事情を把握したヴィクター・M・メルキオール(aa5141hero001)の完全に他人事な相づちに、恋條 紅音(aa5141)は食い気味に反応して追跡を主張した。
「……どうして、万引きを……?」
「生きるため、かしら?」
 同年代の氷鏡 六花(aa4969)は犯罪を行う子供たちを想い表情をくもらせ、慰めるように頭を撫でるアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)も明確な答えは出せない。
「ヴィランて……何処に属しとるんどすやろか?」
「スラム街では、子供の集団が悪さをするのはままある事だ」
 訝しげな弥刀 一二三(aa1048)は神妙な顔のキリル ブラックモア(aa1048hero001)に眉間にシワを寄せる。子供たちの身なりからキリルの見解は妥当で、世界ではありふれた話だが、許容はできないようだ。
「速い子達だったわね――舐めてかかると痛い目を見そう」
「余力が無いと怪我させるか、取逃がしそうだな」
 一瞬だけ走り去る子供たちを目撃したメリッサ インガルズ(aa1049hero001)は思案顔。侮れないと承知しつつ、荒木 拓海(aa1049)は怪我をさせないよう武器の使用は控えようと決める。
「大きな怪我は観光地としてもよくないですしね」
『ロロ……』
 すでに共鳴した構築の魔女(aa0281hero001)は辺是 落児(aa0281)の肯定を聞きつつ、『愚者』の二挺拳銃に非殺傷用のゴム弾を装填した。
「でもおかしくない? 3人分にしては盗む量が多すぎるよ。英雄は食料要らないし」
 一方、別の視点で懸念を挙げたルー・マクシー(aa3681hero001)にテジュ・シングレット(aa3681)が同意。
「孤児か病人といった働けない仲間がいるのではないか? もしそうなら、食料を供給する3人が捕まる事は絶対に避けたい筈だ」
「男の子2人のどっちかはオレが。育児放棄(ネグレクト)の可能性もあるし、放っておけない」
『助けたい気持ちはわかるけど、手加減して逃がしたら元も子もないわよ?』
 テジュの言葉で俄然やる気な拓海はメリッサと共鳴し、注意に頷きつつ白虎の爪牙を装備する。
「ともあれ――大人の事情で苦しんどる、っちゅうんどしたら何とかせんと、どすな」
『うむ!』
 続けて一二三もキリル共鳴し、モスケールの燐光で光る金銀混じりの長髪を散らばせた。
「俺たちは空から探ろう」
『よーし、急いで捕まえないと!』
 テジュもルーと共鳴した後、『鷹の目』を飛ばして探索を命じる。
「……ん。六花も、この子と一緒に、空から追うね?」
 続けて共鳴した六花も『マジックブルーム』で生み出した樹氷の箒に跨がり、テジュの鷹と同じ方向へ浮上すると人々の頭上を低空飛行で駆けていった。

●悪童たちを捕まえろ!
『――見つけた! 外から市場に戻ってきたみたいや』
『こちらも確認した。鷹を頭上につける』
 程なくして、一二三がスマホ画面に映したマップとモスケールが示した反応を照らし合わせ、位置を通信機に乗せて伝える。続くテジュの通信後、偵察に出した鷹が子供の上空に陣取り旋回飛行を始めた。
「現在窃盗犯の追跡中です! 可能なら僅かだけ立ち止まってください!
 2つの位置情報を元に子供たちのところへ向かう中、構築の魔女が大勢の買い物客へ制止と協力を促すため声を張り上げる。が、その声は威勢のいい市場の喧噪にほとんど紛れてしまった。
「移動が速いっ……!」
 共鳴して黒い鎧を纏った紅音は人混みをかき分けつつ、するすると動く鷹を見上げて口を引き結ぶ。
『紅音よりも速そうだね。しかも地の利があるときた。さぁどうする?』
「モチロンこのまま追いかける! でも、正直には追いかけない!」
 瞬時に移動速度の差を理解したヴィクターの問いかけに、紅音は一度大きく踏み込み跳躍して答えた。
「メルキオール!」
『変身した紅音の重量でも踏み抜いてしまわない所――そこかな!』
 市場にある屋台の屋根はほとんどが簡易テントであり、そのまま踏み抜けば大惨事となる。そのため紅音はヴィクターの指示を受け、テントを支える支柱の上に片足で着地した。
『足場にできそうな部分は少ないし、上からの奇襲も一度が限界だろう。このまま行く?』
「置いて行かれるよりマシだ!」
 足場や紅音の技量を暗に揶揄したヴィクターに構わず、紅音はピョンピョンと支柱を頼りに追跡を続行。
「こらー!」
「……見つけた!」
 新たな店主の怒号を聞き、拓海は視線を向けた先にいた子供の背中を追う。
「よし、確保! っとと」
 そして、最後尾にいたティノへ手を伸ばすが、ギリギリで加速され掴まえ損なった。
「待て~!」
『今、わざと外さなかった?』
(もし怖がらせて暴走したら、周りを巻き込むかもしれないだろ?)
 再び追いかけながら、メリッサとの精神会話で拓海はダメさを演出した意図を語る。
「や~い、マヌケ~!」
「……どんくさ」
「ふ、2人とも、あの地味な人がかわいそうだよ」
「――待てぇ!!」
『……暴走しないでね?』
 すると、こちらを振り返ったアドルフォ・アロンザ・ティノの挑発(?)に、拓海は声音を低くして速度を上げた。予想外の効果で漏れたメリッサの苦笑が空気に溶ける。
「……止まって!」
 そのまま逃走に集中しだした3人組の前方に、樹氷で空を飛ぶ六花がつく。通行人の頭上を滑空しながら終焉之書絶零断章を開き、魔法陣から放出した氷結のライヴスで先頭を走るアドルフォの足を狙った。
「ヘタクソ!」
 が、気配に敏感なアドルフォは進路を直角に曲げて回避。その後も六花は併走しながら魔法を使用するものの、彼らの速度は衰えない。
「――そこだ!」
 そこへテジュが3人組の後方へ追いつき、浦島のつりざおを振り抜いた。
「させない!」
 一般人を避けて山なりに進む釣り糸が最後尾のティノへ届く寸前、アロンザがナイフを取り出し『インタラプトシールド』を発動。
『テジュ、足下!』
「っ!?」
 ルーの注意で地面から複製された多数の刃がテジュの足を持ち上げ、重心を崩すと同時に手元がブレた。軌道が乱れた釣り糸はあらぬ方向へ流れてしまう。
『窃盗メインの活動や年齢と不相応な身のこなしからして、広範囲に影響を及ぼすスキルの使用にも注意を! 周囲に被害が及ぶなら、意識を奪ってでも早急に制圧しなければなりません!』
 そこへ、構築の魔女から警戒を促す通信が入った。現状、子供から攻撃らしい反撃はないが相手は共鳴した能力者。使用が懸念されるスキルを挙げていき、構築の魔女はテントを1つ挟んだ道を走る。
「……さて、私は可能な限り状況を有利にしましょうか」
 そのまま合流を見送った構築の魔女は人の隙間を瞬時に見極め、『全力移動』で人波を器用に走り抜けた。
「へへーん! このまま撒いてやる!」
「――うわっ!?」
 調子に乗ったアドルフォがさらに速度を上げたところ、裕福な身なりの老人が驚いて倒れてしまった。
「イタタ……あかん、捻挫したかもしれん」
『――ティノ』
「あの……大丈夫?」
 2人は足首をかばってうずくまる老人を素通りするが、アガタの声でティノだけ足を緩めると心配そうに『クリアレイ』を発動した。
「これは親切に、すまんなぁ……かんにんやで!」
「え――わぁっ!?」
 直後、イメージプロジェクターが投影した老人の姿がブレて伸びた一二三の腕がティノを捕まえた。
「よっしゃ! 囮作戦成功や!」
『ティノ!』
 暴れるティノをホールドする一二三に気づき、アドルフォとアロンザが反転。
「騙すなんて卑怯だぞ!」
「ティノの優しさにつけこんで、最低!」
『見損なったぞ、フミ!』
「ちょお待ち!? 乗り気やったキリルには言われたないで!?」
 仲間を助けようと飛びかかる子供2人と身内1人の罵声にひるみつつ、一二三は必死に回避する。
「う、うわぁっ!!」
「ヒフミ! その子、何かやらかすぞ!」
 そこへ追いついた直後、ティノの異変に気づいた拓海が警告を上げたが一歩遅く、『セーフティガス』が散布され一般人が次々と倒れていった。
「っ、皆さん、急いでここから離れてください!」
 先回りして人払いをしていた構築の魔女もその様子を確認し、協力要請から避難指示に切り替え催眠ガスの中心点へ向かう。狙いはアロンザだが、すかさずアドルフォの『ターゲットドロウ』が道を阻む。
(血腥(なまぐさ)い話を聞かなかったので、実戦経験は少ないはず――)
 瞬時の妨害も構築の魔女は焦らず、細かい足捌きで回り込むように移動しやり過ごした。
「っ! このっ!」
 身の危険を感じたアロンザは、再び『インタラプトシールド』を展開。
(――ですが、力の使い方が柔軟ですね)
 重心を崩す角度で着地寸前の足下に出現した刃盾を一瞥し、構築の魔女は瞬時に体の動きを操作。転倒狙いの盾を足場として利用し、平然と跳躍して見せればアロンザが息を飲む。
「っ!? ――まだ!」
 なおも諦めず、自身を跳び越えた構築の魔女から逃れようと背後に『インタラプトシールド』を壁として出現させた。
「……邪魔するものは、凍らせて、壊す」
 しかし、展開してすぐに上から降ってきた六花の声と同時、アロンザと構築の魔女を阻む盾にのみ反映させた『ブルームフレア』を発動。青白い炎は盾から熱を奪うかのように亀裂を刻み、瞬く間に網の目状にヒビを広げた。
「大人しくしてください」
「きゃ、っ!?」
 そこへ構築の魔女がゴム弾で盾にとどめを刺し、崩れ落ちる刃をくぐってアロンザを抱き上げた。
「アロンザ! くそ、邪魔すんな地味顔!」
「ぐ、っ! 魔女さん、ナイフはすぐ没収した方がいい!」
 残るアドルフォを『烈風波』で足止めしていた拓海は言葉の刃に顔をゆがませ進言する。
「――アドルフォ! ティノ! 逃げて!」
 その時、アロンザがナイフを一二三へと放り投げた。無理な姿勢からの投擲は誰にも届かないだろうが、刃から漏れる破裂寸前のライヴスを警鐘と取るには十分すぎる。
「……だめ、間に合わない!」
 即座に六花が魔法の冷気でAGWのライヴスを凍結させようとしたが、表面に霜が浮かんだところで臨界点に到達。内側から弾けた『デストロイクラッシュ』の破片が、まるで手榴弾のように飛散した。
「っ、目潰しか!?」
「えいっ!」
 特に集中して迫る破片に一二三は思わず片腕で顔をかばうと、その隙にティノが腕から逃れた。
「ティノ、走れるか!? 一旦逃げ――」
「――逃がすかぁ!」
 1人が拘束から脱して笑顔を浮かべたアドルフォだが、頭上から落ちてきた怒号に肩を跳ねさせる。慌てて首を上へひねると、ずっと機をうかがっていた紅音がテントの屋根から飛び降り、身柄を取り押さえようと腕を広げていた。
「っ、ティノ! 先行くぞ!」
 躊躇は一瞬、アドルフォは敵意をむき出しにした表情で地を蹴った――3方向に向かって。
「えっ!? どうなって――!?」
『へぇ、逃げるための分身か。器用なものだ』
 確実に隙をつけたと思った矢先の予想外な動きに混乱する紅音は、すぐに得心したヴィクターのつぶやきに『ジェミニストライク』だと理解。どれが本物か考える時間もなく、左右へ走り去る影を諦め真下をくぐろうとした子供を捕まえ……かき消えた。
「もう悪さはさせないぞ!」
「うわぁ!?」
 一方、アドルフォに続いて逃げようとしたティノは肉薄した拓海の『一気呵成』に足を取られ転倒。無手かつ地面を狙った衝撃のためダメージこそなかったものの、そのまま確保されご用となった。
「~っ、くそぉ!」
「待て!」
 1人脱出したアドルフォは悔しそうに背を向け『全力移動』。テジュはその小さな背中へ小石を投擲すると、確かに当たったのを見届け足を止めた。
「うぅ~!」
「コラ! 大人しくしなさい!」
『大人しそうな子なのに、すごい抵抗するわね……?』
 ジタバタと暴れるティノを傷つけないよう押さえる拓海。
 どうもティノから異様な必死さを覚えたメリッサは首を傾げる。
「逃がしちゃってごめん!」
「恋條殿、まだ手遅れではない。一二三殿、モスケールでの追跡は可能か?」
「今のところは範囲内やけど、早よ追いかけな見失うで」
「……ん。その時は『マナチェイサー』で、ライヴスの痕跡を追える」
「ならば、早々に後を追おう。幸い、先ほど『デスマーク』の付与に成功し鷹にも追尾を命じている。遠くへ逃げられても、しばらくは位置がわかる。効果が切れたときは、氷鏡殿にも追跡を頼む」
 その間に紅音が捕まえ損ねたことに謝罪した頭をテジュが上げさせ、モスケールの反応を見ていた一二三に水を向ける。そこへ3人の目線の高さをフヨフヨと浮かぶ六花が追跡手段に言及し、最後にテジュが話をまとめてアドルフォの追跡を再開させた。
「――離して」
「それは聞けない相談です」
 4人が『全力移動』で去った後、アロンザの要求を拒否した構築の魔女はメリッサと同じ疑問を抱く。
(妙ですね……普通、この年齢の子供がしていい目つきではないのですが)
 ……まるで射殺さんばかりの『憎悪』が宿った視線を浴びながら。

『みんな、捕まっちゃった……』
「俺たちだけでも帰らないと――」
 何とか路地裏まで逃げて息を整えた後、ソフィアの悲しそうな声にアドルフォが苛立ちを吐き出す。
「……見つけた」
「くそっ!」
 が、次に前方の上空から落ちてきた六花の声に顔を上げ、何かされる前にアドルフォは逆側へ逃走。
「行かせん!」
「舐めんな!」
 そちらもテジュが待ち構えており、投擲された『縫止』の針に対してアドルフォは再び『ジェミニストライク』で分散した。『デスマーク』で本体がすぐバレたが、身体能力でテジュの手から逃れる。
「今度こそ!」
「まだまだ!」
 次にテジュの後ろに控えていた紅音が飛びかかるも、アドルフォは鎧の肩を踏み台にして軽やかに躱す。
「……待って!」
「やなこった!」
 そのまま振り返らず走る背後から、地面を滑るように追いかける六花の魔法を飛び跳ねながら回避し、アドルフォは路地裏から逃げ切った。
「――捕ったぁ!」
「わぁっ?!」
 と思いきや、出口付近で待ち伏せていた一二三にあえなく捕獲され、結局は全員逮捕の運びとなった。

●謝罪と更生の後に
「君達より強い者なんていっぱい居る。本当にヴィランと見なされたら、今の生き方は絶対に通じなくなるし、人生の相棒となった英雄も危険な目に遭うんだよ?」
 その後、青空市で全員が合流し共鳴を解除された6人へ懇々と説教するのは拓海。穏やかな口調なれど、彼らの身を案じて叱る勢いに手加減はない。
「座して死ねとまでは言わずとも……自身が為したことを自身が為されても文句は言えないものですよ」
「……えっらそうに。盗み以外でまともに食っていけるかよ」
 さらに構築の魔女から注意……というか忠告が下ると、アドルフォが不服そうに文句をつぶやく。
「ほう? なら他に生きる術は無かったと? それだけの速さと器用さをもちながら? ずっと盗み食いの道で生きていこうと本気で思っていたのかい?」
 が、耳ざとく反応したヴィクターがアドルフォを見下ろすと、思ったままに口を開いた。
「何かの簡単な運び屋や、街の案内も出来なかった? その特技をマトモに活かそうと本気で考えたかな? 何にせよ、少なくとも私の眼には今のキミ達が人の仔には映っていないがね。強いて言えば……路地の犬?」
「ちょっとメルキオール!!」
「だが事実だ。真っ当に生活している“人間”からすれば堪ったモンじゃないってコトさ」
 容赦のない弁舌に子供たちが睨み返し紅音が思わず止めるが、ヴィクターに態度を改める素振りはない。
「確認だが、お前達が居なくなっては飢える仲間がいるのではないか?」
「悪い様にしないよ、君達の状況を教えて?」
『……っ』
 ずっとだんまりを決め込んでいたが、テジュとルーの問いかけには動揺を見せた。
 どうやら、他に仲間がいるのは事実らしい。
「盗品の数と比べて、お前達の体は細すぎる。どうしようもなかったのだろう、だが別の道もある」
「力で奪うんじゃなく、無い道を作ろう! 手助けするよ」
 目線を合わせて手をさしのべるテジュとルーに迷いを見せるが、それでも6人はうつむいたまま。
 ――グゥ~ッ!
「……お腹、空いてるの?」
 そのタイミングで3人分の胃袋が悲鳴を上げ、六花が小首を傾げた。
「なら……屋台で好きなもの、好きなだけ、食べさせてあげる。……但し、条件。今まで、盗みを働いたお店……ぜんぶ回って、ごめんなさいをすること……できたら、買ってあげる、よ」
 すると、頑なだった少年たちの顔に迷いが生まれる。同年代の六花が申し出たためか、今まで敵意しか見せなかった空気が初めてほぐれた。
「仲間が大切で、守りたいんだろう? 盗みは自分が助かる分、正当な持ち主を苦しめる行為だから見逃せない。ひとまず、今の生活は辞めよう。オレたちが力に成る……でも、その前にまずちゃんと謝らないとね?」
 だめ押しに拓海が代表して話をまとめると、取り上げた幻想蝶を子供たちに返して告げた。

「ほら、悪いことしたんだから謝る! アタシも一緒に謝るから!! すみませんでしたッ!!!」
『――ごめんなさい(ボソッ)』
「コラ、頭はもっとしっかり下げる」
『ぅわっ!?』
 それから一行は不承不承ながら頷いた子供たちを連れ、被害に遭った店主たちへ謝罪しに回った。紅音が率先して頭を下げると、子供たちも小声だがつられて謝罪を口にする。が、そっぽを向いた頭を拓海に押さえられ、表面上は今度こそ深々と頭を下げた。
「この子たちも反省している。被害分の弁償も、店の手伝いという形で対価を支払うのはどうだろうか? ……できれば毎回、廃棄直前やクズ野菜でもいいから、食料を彼らに渡してもらえるとありがたい」
 さらに、一緒に頭を下げていたテジュがエージェント内で話し合った提案を店主たちに告げていた。六花の全額支払うという申し出もあったが、子供たちの意思も確認し負担を負わせるべきと労働で返すことに。
「沢山食べろよ」
「……ん。誰も、取らない」
 一通り謝罪し終えた後、拓海と六花は市場の食べ物を子供たちに買い与えた。
「……六花も、貴方たちと、同じ位の歳だけど……エージェント、やってるの。六花の他にも、子供でも、エージェントやってる人は……少なくない、し。ちゃんと、お仕事したら……お金ももらえるし、そしたら……ごはんも、おなかいっぱい、食べれる、よ」
 結局短時間に終わった食事の後、六花が子供たちの能力や仲間を思いやる気持ちを評価してH.O.P.E.へ勧誘した。
(犯罪歴は窃盗のみのようですし、H.O.P.E.で保護し矯正と教育を施すのもいいかもしれませんね)
 反応はやや渋かったが、そのやりとりを聞いた構築の魔女はH.O.P.E.へ連絡し、事情を報告する他に子供たちを受け入れ可能か確認した。
「学校、職業訓練、能力者業……さて、多くある生き方から、彼らはどの道を選ぶのでしょうね?」
 どうあれ、いずれ彼ら自身が選択するだろう。大人は選択の場を整えればいいと、通話を終えた。

 その後、ひとまずの処遇としてアドルフォたちはH.O.P.E.の預かりとなり、近くの支部へ引き取られた。頑なに居住地や自分たちのことを話そうとせず、保護者に相当する人物と連絡できなかったためだ。
「個人的にいい気はしないが、迷惑をかけた分は働いて返すと約束したからな」
 身元調査と平行して、子供たちはテジュを含めたエージェントの監督役付き添いの下、万引きを働いた店の手伝いを行うことになった。お金はH.O.P.E.が一時的に立て替えたため、返済先はH.O.P.E.になる。
 最初はいやそうに働いていた子供たちだが、ある時。
「――盗ったぁ!」
「あ! こら、おかしどろぼー!!」
『待てー!』
 盗みを働いたお菓子屋で仕込みや掃除、店番などの作業中にキリルが乱入し、商品を子供たちの前で盗んだことがあった。
「どうだ? 自分が少しでもかかわり、作った物を盗まれると腹が立つだろう? お前たちがやってきたことは、つまりそういうことだ!」
 反射的に追いかけた子供たちは、キリルに追いついたタイミングで向けられた言葉に目を丸くする。窃盗への反省や罪悪感の薄さが目立ったため、キリルがひと芝居打って悪いことだと教えたのだ。
「……キリルが食うた商品、おいくらどすか? うちが支払うさかい、かんにんしておくれやす」
 なお、この芝居が子供たちに一定の効果があった反面、狂言で盗んだはずのお菓子がキリルの胃の中に消えたことで一二三の財布にもダメージがあった。提案から実行まで秒単位の間しかなかった故の弊害である。
「共鳴した3人が働けても、他の子達も同じじゃないんでしょ?」
 他にも、店の手伝いがない時間にルーが子供たちを誘って簡単な紙作りも教えた。
「まず雑草や木の皮を、繊維が柔らかくバラバラになるまでお湯でよく煮るの。数日丁寧に水にさらすと、白くてきめ細かくなるよ!」
「ルーちゃん、こんなのでどうかな?」
「――うん! 拓海さんの作ってくれた枠いい感じ! この枠で繊維をすくって乾燥させて レターセットを作るんだ。技術は工夫から、色々試してねっ!」
 ルーの主導で拓海が補助についての紙作りは販売目的ではなく、自信をつけさせる意味合いが大きい。
「最初は生意気だと思ったけど、無邪気なところは子供らしいな。養子に欲しい……」
「子猫じゃないんだから、先ず奥様に相談でしょ」
 次第に楽しそうな顔を見せた子供に、和む拓海から思わずこぼれた台詞はメリッサに苦笑でツッコまれた。

「すみません、少しお話が」
 こうして数日間の更生期間が過ぎた時、子供たちについて職員から相談があった。
「これを見ていただけますか?」
 職員から調査をまとめた資料を受け取り、視線を落としてすぐに誰かが息を飲む。
「あくまで書面上の話ですが――彼らは『存在しない人間』です」
 今日まで世話してきた子供たちには、『戸籍』がなかった。
 ……後に、彼らが抱える問題は予想以上に深刻らしいと知ることになる。

 ――続く


結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 絆を胸に
    テジュ・シングレットaa3681

重体一覧

参加者

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 絆を胸に
    テジュ・シングレットaa3681
    獣人|27才|男性|回避
  • 絆を胸に
    ルー・マクシーaa3681hero001
    英雄|17才|女性|シャド
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • エージェント
    恋條 紅音aa5141
    人間|18才|女性|防御
  • エージェント
    ヴィクター・M・メルキオールaa5141hero001
    英雄|27才|男性|ブレ
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