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【神月】連動シナリオ

【神月】ツアー大英博物館・防衛戦

布川

形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
36人 / 1~50人
英雄
35人 / 0~50人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2016/06/11 21:02

掲示板

オープニング

●ティファレトの短剣
 H.O.P.E.とセラエノの間で繰り広げられる、熾烈な短剣の争奪戦。

 一連の騒動を受け、短剣が大英博物館に収められていると知ったH.O.P.E.のロンドン支部は、早速大英博物館に連絡をとった。皮肉なことに、この騒動が短剣の正体を明かすこととなった。

 英国、大英博物館。
 歴史的な資料が一堂に会するこの場所に、これがあったのは偶然か、必然か。

「まさか、これが……」
 館長のスマークはずり落ちそうになる眼鏡を持ち上げ、短剣を眺めた。金細工の施された優美な短剣は、新たな調査により、この世界にとってこのうえない影響力をもったものであるという可能性が浮上してきていた。
 博物学をはじめ、あらゆる学問に対して深い造形を持つスマーク。しかし、スマーク氏には、この短剣が不思議な力を持っているとはわからない。
 遺物のすべてを解き明かせないことを悔しく思いながらも、スマーク氏は名残惜しそうに短剣の前から去る


●大英博物館、館内
 大英博物館、館内に集められた一同。
 一同の前に進み出たスマーク氏が、ゆっくりと辺りを見渡した。

 H.O.P.E.と大英博物館は協議を重ね、短剣を一度H.O.P.E.のロンドン支部へと移動させることとした。

「えー、今回、諸君らに担当していただきますのは、価値ある歴史的資料、『ティファレトの短剣』の護衛です。我々は慎重にトラスティーと会談を重ね、この短剣を、H.O.P.E.に預けることを決めました……」
「この『ティファレトの短剣』は、我が館が誇る歴史的な一品です。我々がこの短剣をオークションハウスから購入し……彫金の技法は……古代ヘレニズム文化と……この短剣の歴史的価値は……云々かんぬん……」
 話が長い。

 要点だけ、とたしなめられて、スマーク氏は残念そうにスピーチの束をめくる。およそ10分の9ほどがぺらりと一気にめくられた。

「みなさんにお願いしたいのは、この『ティファレトの短剣を守ること』です。現在、ティファレトの短剣は我々の博物館のガラスケースの中に厳重に収められております。
とはいえ、ここにある間は、安心していただきたい。もともと、大英博物館はまさに”歴史的価値ある資料の宝物庫”。
警備は万全、我が大英博物館のセキュリティは、まさしく『世界最高峰』です。そこのお方、少々よろしいですかな」
「あ、ああ」
 ちょうどその場にいたコリーが、指をさされて、適当なショーケースに手を触れる。その瞬間、けたたましく警報が鳴り響いた。ガスが飛び出し、顔にぶつかる。
「げほっ」
 強烈な攻撃に、膝をつくコリー。
『侵入者発見、侵入者ハッケン!!!』
 けたたましく鳴り響く警報装置を、スマークは職員に合図して止めさせた。

「見ての通りでございます。異様なライヴスの変動や増減を感知するシステムや、それによる愚神や従魔の侵入を警戒するシステム、もっと言えば能力犯罪者(ヴィラン)に対抗する為、接触感知式のケース。果ては、建物の様々な侵入経路ではその接触に応じて自動的に対象を写す警備カメラなどなど、従来型システムの強化発展型も多勢盛り込まれています」
 館長は、もったいをつけて職員に警報を止めさせる。
「お分かりいただけましたかな?」
「て、停電などさせられたら?」
 よろよろと立ち上がるコリーが言う。
「ご安心ください。これらは外部からの電力ではなく、地下のライヴス装置によって独立駆動しているものです。大規模な停電などにさえ対抗できる強力なものです」
 H.O.P.E.の職員が、スマーク氏の言葉を引き継ぐ。
「館長のスマーク氏が言う通り、ここでの動きにさして警戒する予定はないようだ。怪しげな動きがあれば直ちに警報が出るし、警備に来た君たちにも情報がいきわたる。警戒すべきは、”道中”と思われる。ルートと布陣を確認する。短剣を回収し、ロンドン支部まで送り届けることとする」

 だが、しかし。
 セラエノの影は、すぐそこまで忍び寄っていたのだ。

●忍び寄る影(PL情報)
 その能力を犯罪に使うヴィラン。その中でも、『芸術犯罪』に力を傾ける者たちがいた。

 大英博物館にエージェントたちが集う数日前、セラエノの幹部、ミトラはとあるヴィランに接触を図っていた。

「やあ、『コピーキャット』さまに仕事を頼みたいって?」
 高層ビルの一室、ベルも鳴らさず入ってきたミトラを、もう一人の男は悠々と迎える。ミトラは苦々し気にヴィランを見た。

 コピーキャットの部屋には、優美な美術品があふれかえっている。この部屋の男にとって、美術品は生活の糧であると同時に、嗜好品である。
 セラエノの男は、イーゼルの上にかかっている一枚の絵を見て、心のうちで舌を巻いた。専門家も誤魔化せそうな出来の一枚の有名絵画。――完成すればだが。
 『コピーキャット』の名のとおり、模造品の作成はお手の物であるらしい。
「我々は近日中”大英博物館”を襲う」
「秘密結社から足を洗うのかい?」
「……」
「おや、てっきり自首でもしにいくのかと。あそこのセキュリティは僕でも手が出せないんだ。ロマンを追うのはいいけれど、セラエノの誇大妄想癖にはつきあえないな。どうしても狙うっていうなら、品物が運び込まれる道中のほうが……」
「あのセキュリティは無効化するアテがある」
「……ほう?」
「まあ、まかせておけ。H.O.P.E.の連中は、『道中』の襲撃を考えているだろうからな。理由は聞くな。お前に依頼だ」

「それじゃあ、段取り通りに」
「首尾よく」
 扉が閉まると同時に、二人は吐き捨てた。

「薄汚い泥棒風情が」
「は、秘密主義者め」

●沈黙
 警備センターから情報と指揮を受け取り、各自配置についていたエージェントたち。
 不意に、照明が落ちる。
「停電か?」
 放送は入らず、いつまでも沈黙していた。スマークはカチカチとマイクのスイッチを押す。反応はない。
「いったい……」
「すぐに自家発電装置を!」
「ダメです。中央のセキュリティ―ルームからの通信が途絶えました。通信機も入りません!」
「馬鹿な!」
 スマークは頭を抱える。
「いったい、いったい、……どうしたら!?」
 エージェントたちへの情報が途切れた。
 それと同時に、セキュリティールームに駆け込んでいく、H.O.P.E.のエージェントの影。
 攻撃を受けた職員がその場に気絶する。
「メリオンテは、うまく動いているようだな」
「ああ、世界一の警備装置も形無しだ」
 博物館の警備員の中に、セラエノのメンバーが混じっていたのだ。

 パニックに陥る大英博物館。1階、2階の数か所で、爆音がとどろく。

 それぞれの配備の位置についたエージェントたちには、いったいあたりがどうなっているのかわからない。ライヴス通信機も使えない。
 確かなことは、ただ一つ。
 エージェントたちは、各自の経験と判断に頼ってセラエノの襲撃を撃退しなければならない――。

解説

●目標:ティファレトの短剣を守る
なにかあれば、コリー・ケンジ・ボールドウィン(az0006)がお答えします。

●登場
<セラエノ>
・短剣奪取部隊×15
隊長『ミトラ』
副隊長『フォックス』
 どちらもシャドウルーカー。

・セキュリティ部隊×5
 地下のライヴス装置の周辺。
 複数人が『メリオンテのようなもの』を所持。本物は一つ。
・陽動部隊×10
 各階のトイレ等に爆弾を仕掛けて騒動を起こす。
『コピーキャット』
 怪盗ヴィラン。仮面の男。
 騒ぎに乗じて美術品を盗み出そうと2Fに去っていく。
・攪乱部隊×数名
 エージェントや博物館の警備員に化ける。
・連絡部隊×数名
 1F,2F、東西南北などに。仲間との連絡。

<オーパーツ>
・メリオンテ
拳大の複雑な文様がついた物体。ライヴストーンを停止させる効果を持つ。セラエノ以外にも扱える。
(「【神月】溢れだす幸福のまやかし」参照)

●地図
・建物は二階建て+地下。
・主な出入り口はモンタギュ広場に面する北口とグレイト・ラッセル通りに面する南口の二か所。中央の大観覧室を、通路状のギャラリーが回の字に取り囲む。
・2Fへ出入りする階段はホール、北の通路。
また、大観覧室は1F、2Fが吹き抜け。リンカーであれば移動可能。

・ホール 南口と大観覧室の間に近い場所にある。
・大観覧室 建物の中央にある。一階、二階吹き抜け。
・大観覧室を回の字に取り囲む、東西南北の通路状のギャラリー(1Fと2F分、8通路。)
 ※展示のための、かなり広い通路。
・1F、西側通路はかなり広く、展示のために壁で区切られている。
・西の最奥に『ティファレトの短剣』が収められた場所がある。
・ライヴス装置 大観覧室・地下。大観覧室からハッチを開けて梯子を下りたところにある。

●その他
それぞれの配備場所に近いところからスタート。

●(PL情報)
・セラエノは、オーパーツが含まれている可能性のある考古資料や遺物は積極的に破壊しない。

リプレイ

●賽は投げられた
 世界最高峰の警備装置の停止。ライヴス通信機の不通。
 一瞬の間に、状況はあまりに変わっていた。
「くそ。どういうことなんだ!」
 スマークは叫ぶ。
 セラエノの周到な計画に、博物館の人間はなすすべがなく翻弄される。
 あちこちから上がる悲鳴。企図された静寂と、情報の氾濫。

 ただ一つ。
 博物館にとっての幸運は、エージェントたちがいたことに他ならない。

●予防措置
 獅子ヶ谷 七海(aa1568)は、事態を把握すると、一撃で手近な博物館の職員を気絶させる。
「な、なにをしているんだね、君は!」
 その光景を見て、スマークはあっと息をのんだ。
 獅子ヶ谷は、一見して小動物を思わせるような少女である。五々六(aa1568hero001)と共鳴した今も、その姿に変化はない。しかし、今は五々六の人格が表に出ているようだ。
「……」
 獅子ヶ谷は、スマークの質問に答えない。
(ただ油断を突かれただけなら、構わない。だが故意に油断させられたなら問題だ。この職員や館長は、「本物」だろうか)
 獅子ヶ谷の思考にある推論。獅子ヶ谷の表情から、スマークは悟る。
「そうか、……我々、職員の中に裏切り者がいる、ということか」
 侵入者の手際があまりに良すぎる。内通者の存在は、間違いがないように思えた。
 スマークは、気絶した職員を横目で見やった。命に別状はないようだ。
「殺しまではしねえよ」
 獅子ヶ谷は、目をつむったスマークを気絶させる。ひとまずその場にいた職員らを、安全そうなそのあたりの小部屋に押し込んだ。
 それは、優しさからというわけではない。単純に、戦場では邪魔であるからだ。人質に取られたら厄介でもある。
(警戒すべきは道中……ね)
 地下に隠し通路でもない限り、侵入者は外からやって来る。そして当然、外へと撤退してゆく。
 獅子ヶ谷は、博物館の入口へと向かう。途中で、内部へと急ぐエージェントたちとすれ違う。同じように、別の入り口へと向かう者もいる。

 少なくともエージェントたちは、このまま、事態に屈する気はないということだ。

●1F、通路、および入り口付近の喧騒について
「セキュリティがやられるのはお約束かな?」
『……はぁ。さて、どうします?』
 重いため息をついて、ラウティオラ(aa0150hero001)は志賀谷 京子(aa0150)に問いかける。
 志賀谷は唇に指を当て策を巡らせる。作戦を練るのは志賀谷の担当だ。可愛らしい顔立ちに、すぐにいたずらっぽい笑みが浮かんだ。
「んー、敵も大掛かりみたい。わたしたちは反攻して撹乱させようか」
 ラウティオラと共鳴した志賀谷は、大人びて長い髪を揺らす。
「きっと連絡役がいるはずだよ」
『――狩りだしましょう』
 二人は屠剣「神斬」を握りしめて、ゆっくりと博物館の暗がりを歩く。
 大英博物館の北口に向けて進む志賀谷のすぐ傍を、ひらりと大きな天使の羽を翻したエージェントが駆けていくのが見えた。
(あれは……望月さんね)
 もう少し小さなものだったが、あの天使の羽には覚えがある。百薬(aa0843hero001)の羽だ。

 餅 望月(aa0843)の予感は、当たりだ。
「事前にメンバーの確認しとこうか、HOPEだって全員が信頼できるとも限らないよね」
 そう思い、頭に入れておいたメンバーの情報が、今になって役に立ったようだ。
(万全の警備とか言うフラグは破られるためにあるわけだし、その時はスパイか裏切り者のせいだわ)
 ここは大英帝国博物館だ。
 北の入口へと急ぐ二人の視界を、様々な美術品が横切っていく。
「百薬は美術品とかわかる?」
『本物は時々わかるよ』
「まるで当てにならないわね。ま、あたしも値段とかはわかんないや」
 百薬の言葉に少しだけ笑うと、餅はきりと顔を引き締める。

 北口には、染井 義乃(aa0053)とシュヴェルト(aa0053hero001)がいた。
「爆発したってことは、敵はもういるって事よね」
『ドラマでもよくあるスパイというものか。どう見分けるか。これだけは分かる。戦えるんだな』
「盗まれないようにするのが優先だからね」
 染井の忠告を聞いてか聞かずか、シュヴェルトは楽しそうだ。戦闘狂――すぐそこにある戦いの気配が、気を昂らせる。
 シュヴェルトの色に髪を染めた染井は、確かめるようにカッツバルゲルを一度だけ振ると、その手ごたえに満足した表情を浮かべた。

 辺是 落児(aa0281)は、いち早くライヴス通信機がつながらないことを確認すると、即座に
構築の魔女(aa0281hero001)と共鳴を果たす。
「まずは混乱を脱し主導権を確保するところからですね」
 爆音がとどろくこのような状況にあっても、構築の魔女は静かだった。異世界の赤き魔術師は、相棒の力を得て、状況を冷静に見つめなおす。
「よろしくね!」
 構築の魔女の横では、桜木 黒絵(aa0722)は、シウ ベルアート(aa0722hero001)とともに、黒猫の装いで廊下を駆ける。
 図らずも、異界での魔術師と魔術師が揃った。構築の魔女と桜木らの足は南口へと向いていた。

「ここは危険です、立ち入らないようにしてください」
 南口へとたどり着いた辺是は、一般人に避難を促す。
「この状況、確実に内部犯の仕業でしょう。買収か潜伏かは知りませんが…そちらも観察しましょう。たとえば、この状況で内部からでてくる一般人ですとか警備員とか」
「そうだね」
 構築の魔女の言葉に、黒絵が同意する。
 南口の外には、鶏冠井 玉子 (aa0798)とオーロックス(aa0798hero001)がいた。


 彼女らもまた、とりあえずのところは事態の収拾に努めていた。
「……」
 響く爆音にも、オーロックスはコメントしない。驚いてはいるようだったが。
 陽動であるのは分かり切ったことだ。むざむざ敵の罠に飛び込む必要はない。獲物を狙う狩人としての嗅覚が、そう告げている。
 それは、鶏冠井にしても同意見のようだった。
(賊が館内に紛れ込んだのは明白、かつセキュリティ室が機能していない。であればまず行うのは、外部への報告と判断しよう)
 共鳴を果たした鶏冠井は、その場にへたり込んでいた職員に近寄り、手短に用件を伝える。
「頼みたいのは、地元警察に携帯電話による状況連絡と、博物館周囲の封鎖だ。できるか?」
 職員はなんとかといった体で駆けていく。
(聞こえてくる喧噪から察するに、コソ泥の数は少なく見積もっても十人以上。但し、対するリンカーの数と比較すると、目当てのモノを奪取して逃走まで至れる数はそうそう多くはないはずだ)
 博物館のあちこちには、手練れのエージェントが配備されている。
 今、バトルに参加する必要はない――まだ。入り口付近の仲間たちと連携を密にとり、逃がさないのが最重要だ。
 辺是、桜木らと合流した鶏冠井は、入り口をふさぐようにして隊列を整える。

●1F、西の最奥付近の報告
「入り込んでいた者が陽動を仕掛け、それに乗じて奪取か。常套手段だな」
『そのようですね』
 非常事態にも関わらず、月影 飛翔 (aa0224)とルビナス フローリア(aa0224hero001)は冷静な態度を崩さない。
 相手の目的は分かっている。ここにある、『ティファレトの短剣』である。

(イギリスは、私の母の故郷……ですが、感慨に浸る余裕はなさそうですね……)
『急ごう、由利菜』
 ほんの少しだけ名残惜しそうにしながら、月鏡 由利菜(aa0873)は、リーヴスラシル(aa0873hero001)に頷きを返し、共鳴を果たす。
 ラシルのライヴスが、主君の由利菜を守る光の鎧ネルトゥス、姫冠フラズグズルを紡ぐ。胸部に備わるの赤い宝石、ノーブル・ルビーが、ほんのわずかな日光をたたえて、薄暗い中で輝いた。

「ねぇねぇニック。館長さんさぁ、すっごくセキュリティーの事を自慢していたけど、アレ絶対フラグだよね!」
『フラグかどうかは知らないが、敵がこちらの裏を衝いてくる事は十分考えられるな』
 大宮 朝霞(aa0476)とニクノイーサ(aa0476hero001)は、響く爆音に顔を見合わせる。
「ほらね! やっぱり!」
『状況ははっきりわからないが、俺達はとにかく短剣を護るとしよう。朝霞、共鳴するぞ』
「”変身”でしょ! ミラクル☆トランスフォーム!」
 ポーズを決めた大宮は、英雄と共鳴を遂げる。そこに現れたのは、<聖霊紫帝闘士ウラワンダー>。ひらりとマントが翻る。白とピンクを基調にした衣装。バイザーの奥から、大宮はきらりと前を見据えた。
「行くわよ、ニック!」

「完全に後手に回らされた襲撃……周到だな」
『今回は大人数での護衛任務ですから、その中に敵が紛れ込んで情報を流していたのかもしれませんね』
「ああ……だがこちらもやられてばかりではない」
 真壁 久朗(aa0032)は、セラフィナ(aa0032hero001)と共鳴を果たす。髪が白銀に染まり、右目が幻想的に煌めく緑眼に変化する。
  何者にも屈しない。凛と眼前を見据える真壁の姿。 曇りのない白いコートが、鈴宮 夕燈(aa1480)には頼もしく見えた。
「これなら通じるようだ」
 真壁はスマートフォンを示し、仲間たちに伝える。敵の動向が、少しでも探れれば良い。

(短剣を守る……! なんかコレ、怪盗さんと探偵とか、そんな感じっぽいやんなぁ……わくそわ!)
 きらきらと目を輝かせる鈴宮。それとは対照的に、落ち着き払ったAgra・Gilgit(aa1480hero001)。
 真壁をはじめとするエージェントたちが共鳴するのを見て、涼宮も慌てて共鳴する。
 普段の違う髪の色。束になった白銀の髪。偶然にも、その髪は真壁と同じような色をしていた、それになにより、こうして外見の変化を感じることで、鈴宮は感じることができる。
(ちゃんとエージェントとして共鳴できてる)
 Agraが、力を貸してくれる。

 ティファレトの短剣が収められていた西の最奥は、不気味なほどに静寂に満ちていた。それを破ったのは、一人の男だった。
「セラエノが迫ってきた! ライヴス装置が動かないから、短剣を移動させろとの指令が出た……」
 男が一人、息も絶え絶えに展示コーナーへと駆け込んでくる。エージェントたちに、緊張が走る。
「来たわね、賊共! ウラワンダーがいる限り、思い通りにはいかせないわよ!」
 大宮は、男に武器を向ける。H.O.P.E.のもの以外は、この状況では信用できないと心得ているのだ。
「う、うらわんだー……? とにかく、た、助けてくれ、俺は……動けない」
「そうか」
 月影は、金の目で闖入者を鋭く一瞥した。
「ところで偽物判定の印はどうした?」
「印?」
「少し前に急に決まっただろ、コレだよ」
 月影は、手首に巻いたハンカチを見せる。
「ああ……すまないが、連中から逃げたときに、落と」
 男のセリフは不意に途切れた。みぞおちに、月影の持つ、バンカーメイスの石突が突き刺さったからだ。続けざまに、月影はメイスを振り上げ、男の顎を撃ち抜いた。
「ど、どうして……」
「成敗っ」
 トドメに大宮が一撃を食らわせると、男はその場に伸びる。
『単純な手ほど引っかかりますね』
 ルビナスは、男に対してそんな感想を漏らした。
 最初から、そんな合図は「ない」のだ。本物のエージェントであれば、知らないと答えるはずだった。
「とりあえず足止めと嫌がらせになればな」
『先頭が引っかかれば、後続が警戒して突入が遅くなる可能性もありますしね』
 月影は、折を見て、ブースの隙間にロープを張り、カーペットを敷いていた。入口付近に展示用にあったものだ。勢いをつけて流れてくる敵のタイミングが少しでも狂えばいいという狙いだった。

(ライトアイ、使うと蘇るトラウマ……)
 鈴宮は、おそるおそるとライトアイを使用する。視界を確保した瞬間、くっきりと見える敵の顔。
 目が合った。
『……』
「チィ……」
『ちょ、あかんて、きゃーーーっ』
 響く爆音。悲鳴を上げる。
 それを皮切りにして、セラエノの部隊が西の部屋になだれ込んでくる。

 強烈な閃光を浴びて、2人の人影が姿を現す。餅と、エージェントの男だった。
 餅はちらりと月影を見ると、こんなセリフを口にした。
「合言葉は?」
「さあな」
 即座に答える月影に、餅は迷いなく背を預ける。セラエノの男は、何が起こっているのかもわからずにうろたえた。
「合図を知っているか?」
「さあ」
 なんといっても、――知らないのが正解だ。
 セラエノの男を部隊に任せ、餅は、ひとまず北口へと至る。

●B1、ライヴス装置と『メリオンテ』
「……妙だな」
 海神 藍(aa2518)は、H.O.P.E.の職員の説明に違和感を覚えていた。
「ライヴスで駆動するセキュリティ、ならばオーパーツ:メリオンテがすぐ思い当たる。その情報は正式な報告書に記載されているはずだ」
 報告書に記載された、『メリオンテ』の存在。説明した職員は、わざとにその情報を隠匿したようにも思えた。
『怪しい、ですよね……?』
 禮(aa2518hero001)が海神を見上げる。
「あのHOPEの職員、それに一切触れなかった。魔術師を侮る類の人間か、あるいは……?」
 それは、H.O.P.E.で事務職として働いた経験のある海神であるからこそ思い至った違和感かもしれない。報告書の一枚が、エージェントの生死を分けることだってある。
「動いてみるかな」
 杞憂なら良し。騒ぎの中で、海神はHOPEの職員を尾行していた。照明が落ちた。
 彼は、非常事態とは思えぬほどに足を速めて、中央、大観覧室へと急いでいた。
(当たりか)
 禮と共鳴した海神は、連絡部隊を探す。その見た目は、さながら、禮が成長したような姿である。海神は、この男の動向とメリオンテについて仲間に伝えるために、スマートフォンを手にとった。

「また英国の依頼かえ。前回来た時は大英図書館で、今回は博物館。なにやら頭が良くなった気がするのう」
「それは気のせいね。間違いないわ」
 面白そうに眼を細める飯綱比売命(aa1855hero001)の横で、橘 由香里(aa1855)は生真面目に任務のことを考える。
 敵に準備万端で侵入された以上、目標物の防衛は難しい。まずもって確保するべきは、逃走防止用の、館内防犯システムの再稼動である――橘は、そう考えた。
「下へ行くわ」
 橘の言葉に答えるように、飯綱比売命が共鳴する。橘の心に、飯綱比売命の精神が備わる。

「お仕事じゃなかったら、じっくり見て回りたかったんだけどなー」
『僕も同感だ。だが、今は仕事だ。集中しよう』
「うん! おいらたち、停電が直らない原因を調べてくるね!」
 残念そうな様子を見せるリッソ(aa3264)は、鴉衣(aa3264hero001)の進言に元気よく従った。
「警報が作動しない。つまり犯人は内部に紛れ知り尽くしている可能性は高いね」
 リッソのシマリスの耳が、爆音にぴくぴくと反応する。地下へのハッチを滑り降りるようにして、二人は共鳴する。
 懐かしい記憶、英雄との接点。意識は混じり合い、姿は、2人の『先生』の姿を模した姿となっている。赤毛から覗くシマリスの耳だけが、リッソのまま。彼らが、リッソと鴉衣であることを示している。

 リッソらに続き、御門 鈴音(aa0175)は、スマートフォンをライト代わりに地下へと進む。後ろを警戒していたが、エージェントがあとからやってくるようだ。
 大丈夫。
「……ゲームとかだと意外とこういう何もないような所から敵が現れたりするものよね……」
「ふむ……たまにはそなたが好きなぴこぴこ知識も役に立つの。敵じゃ」
 輝夜(aa0175hero001)の言葉の通り、地下にはセラエノの部隊が交戦しているのがわかった。
 御門と輝夜は共鳴を果たす。 金色の長髪が背中を覆い、御門は着物姿となった。共鳴して見せると、臆病な感情がどこかに引っ込み、敵へ向かい合う決心がつく。
(誰かの役に立てる……)
 暗闇を睨み、仲間たちのために降りる。


「慌てるな……でも急げ」
 桜小路 國光(aa4046)は、エージェントの中でも、いち早く地下へと達していた。やってきた仲間同士で素早く固まる。暗闇の中で、服にガラケーを挟みライトをつける。ぼんやりと見えるその明かりで、エージェントたちは集まっていく。
 やれるだろうか。サーベルを握りしめる。メテオバイザー(aa4046hero001)と同じ色をした瞳と、桜小路の緑のオッドアイが、モノクルの奥から敵を見据える。
(了解なのです!)
 黒のローブに綺麗な文様のストラ。多く覗くスリットの中からは、フリルがあふれるように出ている。まだ、剣を握ることにためらいを感じるときはある。けれど、今は、その時ではない。

「盗ませたりしませんよ」
 そう言って、暗闇に構える葛井 千桂(aa1076)。地下に向かいながら、……ほんのわずかに、普段は入れない博物館の地下を見れる機会を楽しみにしていたのではあるが、クールな装いからは、それは全く察せられない。

「ふふ、映画みたいでわくわくするね!」
『……わくわくしてる場合じゃない……』
 木霊・C・リュカ(aa0068)は、もしかすると暗闇には慣れたもの……だったのかもしれない。木霊の発言は、いつも、周りの者を落ち着かせるような響きを持っている。それは、今回の非常事態にあっても例外ではなかった。
『しかし一体なんなんだろうな、この大きな流れは』
「何事もなく、守り通せれば良いのですが」
 ここのところ、立て続けに起こる事件には何らかの流れを感じないでもない。
 紫 征四郎(aa0076)は胸のブローチをはずして握り、ガルー・A・A(aa0076hero001)と拳を合わせる。ひとたび共鳴すれば、そこにあったのは、騎士然とした凛々しい雰囲気の青年である。
 木霊もまた、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)と共鳴を果たす。オリヴィエは大観覧室から地価に降りるものを警戒して武器を構える。
『……少し後から行く。背後は任せろ』
 紫は頷き、ハッチの下へとするりと降りていく。

 地下は暗い。
 薄暗がりで、エージェントとセラエノの小競り合いが始まっていた。セラエノの後ろに職員がいた。能力者ではない、博物館の警備員だ。
 セラエノは攻撃しようか迷ったようだったが、橘のセーフティーガスが、その場にいた職員らを気絶させる。
「なにも一般人を相手にしなくても、相手はたっぷりいるでしょう?」
「……」
 セラエノとて、警備員を狙っているわけではない。狙い通り、エージェントたちに向き直る。
(停電、という状況が良くないね)
 赤嶺 謡(aa4187)は仲間と固まり、攻撃のタイミングを探る。ジャスリン(aa4187hero001)の不思議な香りがふわりと漂った。

 喧騒とともに、――ハッチが閉まる。安全を確認した木霊が配置についたのだ。
 1、2、3、4……5。
 ライヴスゴーグルで敵の数を確認した紫は、味方にライトアイを付与する。
(……行きますよ!)
 セラエノも、それと同時に動き出していた。
「やあ君達。ご機嫌よう。巷で噂のセラエノかな?」
「退路はふさがれたか。なかなか勘が良い連中だ」
「機械そのものを弄ったと思ったのだが、道中に思い出したのだ。ライヴスで駆動する機械を停止させる力を持つオーパーツの存在を。君達、持っているのなら置いていってくれるかな?」
「フン、この騒動のもとがなんであるのか、分かっているということか……だが、無駄だ。貴様らに、これを判別する術はないのだからな」
 セラエノの一人が、見せびらかすように小さな小片を放った。
「……」
 エージェントたちは、固まった。その隙をついて、セラエノが一斉攻撃にかかる。
『危ない!』
 セラエノの何人かが、不意の警告に振り返った。続く小さな爆音、ほんのわずかな音に――それが録音であったことに気が付く。それは、橘がスマートフォンに吹き込んだものだ。
「っあああああ!」
 赤嶺が一陣に斬り込んでいた。敵は動揺し、隊列を崩す。
 敵に時間を与えずに動揺を誘えれば吉、考える時間を与えない。
 セラエノは動揺し、僅かに前線を下げた。確かなことは、――目の前の者たちを、倒さなければならないということだ。

「くくく……くくくく……そういうことですか」
「なんだ!?」
「あなた方は、本物のメリオンテを持っている。そうでしょう?」
 石井 菊次郎(aa0866)が、暗がりからゆっくりと姿を現した。
「……!?」
 石井はテミス(aa0866hero001)との共鳴の証十字の剣の意匠が浮き出した、宝典を手にしている。どことなく、超然とした雰囲気がある。
「くくく……偉大な知識の宝庫を狙うネズミ共に義の鉄槌を打ち下ろさねばならないようですね。この! 力ある! 宝典で!」
『……主よ、何時にも増して怪しげだが……その本か?』
 テミスの言葉に、石井は頷く。
「は……はい、力はあるのですが……おお! 今鬼神も慄く術式が!! 骨髄まで沸騰させてあげましょう!」
 石井の手にあるのは、極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』。
 この宝典は、非常に強い力をもつものではあるが、……術者をハイテンションにする副作用と言うべき効果があるのである。
 剣戟がほとばしる中、石井は呪文を唱えている。
「くそ、何をする気だ。とっとと攻撃しろ……!」
 その隙に、遮蔽物に隠れて接近した御門が、大きく海神の斧を振るう。力に任せた一撃が、前線を乱す。
「おい? おい……」
 仲間の一人が――後衛の一人が、不自然に棒立ちになる。ふらふらと前に歩み出る。
「おい!?」

●一方そのころ、地下、某所にて
 齶田 米衛門(aa1482)とスノー ヴェイツ(aa1482hero001)は、喧騒のさなか、地下の全く別の階に出ていた。
 迷ったのだ。
 展示室、地下の死者の碑文の収容された部屋のようだ。もっとも、彼にとっては、迷子はよくあることである。
「開き直って、んじゃここ守るッス」
「そうか」
「来ねば来ねで良いこった」
 齶田は、謎の小部屋でどっしりと構える。近くで救援要請が来れば、それはそれで助けにいける。
「迷子ん時は動くなって家訓だ」
 齶田はぱちんと膝を打ち鳴らし、どっかりと座り込む。堂々としたその行動には、妙な安心感すらある。
……しばらくそうしていると、すぐ上から足音がした。
 齶田はとっさに、インスタントカメラで展示品を撮影する。何かなくなっていれば分かるだろう。
『用心に越した事はねぇしな』
「盗られねのが一番だどもな」
 セラエノの狙いを知れば、あとあとにも動きやすくなってくる。
 身を潜めていると、物音がすぐそばまで迫ってきていた。
「食らえ」
 男が、扉を蹴り破る。武器を構えて、あたりを見据える。
 沈黙。
 男はきょろきょろとせわしなくあたりを見て、不意に、男は暗がりで館内マップのようなものを広げた。男は手当たり次第に扉を開けて、あちこちを行ったり来たりしている。
 同類である。

 電光石火で振るわれる、回転のこぎりによる一撃。奇襲は見事にセラエノの背中に決まり、セラエノは驚愕した表情を浮かべる。
「そうか……罠……か! くそ、H.O.P.E.はどこまで卑劣なやつらなんだ!」
「罠ってことねえけどよ」
 迷子同士の奇跡の邂逅。相手は体制を立て直そうとするが、焦りが顔に浮かんでいる。
「迷子ん時、動いたらいけね」
 再びの一撃。倒れ込む男。
 セラエノにも、こういったものはいるのか。あるいは、日が浅いのか。齶田の長く赤い髪が揺れた。

●2F、用意!
 あちこちで響く爆音。
「やあ、始めさせてもらおうか」
 仮面の男が、二階から階下を眺めている。陽動の隙間を狙って、くるりと身をひるがえす。
 コピーキャットが、博物館へと身を躍らせる。

 始まった。
 カール シェーンハイド(aa0632hero001)と共鳴したレイ(aa0632)は爆音を背に、戦いの予感に胸を高鳴らせる。

「繋がりませんわね」
 南側通路にて。
 クラリス・チェンバース(aa4212)は、ライヴス通信を何度か試みたあと、H.O.P.E.まんを取り出した。
「こちらはどうかしら」
 H.O.P.E.まんの紙を華麗な動作で剥がす。本来であれば、ほかほかに温まるであろう紙は、ただただ沈黙を返している。
「温まりませんわ。ライヴスへの干渉……噂のメリオンテですの?」
『その可能性が高いでござるな』
 木下三太郎重繁(aa4212hero001)はふむと顎に手を当て、頷きを返す。
「ではこちらで」
 スマートフォンは、問題なく作動した。

 洗練された動きで、クラリスと木下の意識が混ざり合う。頭からつま先まで、すべて計算されつくした、「カッコイイ」動きである。ちょうどよく、変身を終えたとき、背後で爆音が鳴り響いた。 
 きらりと光る閃光が、さながら演出のようだ。
 少し荒々しいが、悪くない。
(決まりましたわ……)
(ああ)
 彼らはほうと自賛を浮かべた。

「……見事に裏をかかれたね」
『手際が良いな……内通者がいたか?』
 皆月 若葉(aa0778)とラドシアス(aa0778hero001)は、周辺の仲間を確認しながら共鳴を果たす。
 スマートフォンで仲間と連絡を取る。真壁、海神……エージェントたちが、次々と答える。

 皆月の前に、博物館の警備員が、二人。
「二人、か」
『警備員は一人のはずだ』
 ラドシアスの助言を得て、皆月は警備員に銃口を向けた。わざと、大幅に反らしての発砲。一人は慌てて手を挙げるだけだったが、もう一人が素早く避ける。正体がばれたと分かったセラエノは、皆月めがけて飛びかかる。
 熟練者。――ただの警備員ではない。こちらへ飛びかかってくるセラエノの体制を、Pride of foolsの二挺拳銃が撃ち抜いた。
「そこ、怪しいですわね。助太刀いたしますわ!」
 クラリスらはくるりと華麗な決めポーズをとりながら、相手の退路に立ちふさがる。
「くっ、どけ!」
 セラエノが、持っていた斧を振るう。――回避一択。
 斧ははらりと、クラリスの頬のすぐ横をかすめた。
「止まって見えますわ」
 強がりを言いながら、クラリスは決めポーズを忘れない。皆月の銃撃に、あえなく男は倒れることとなった。
「次! ですわ!」
 去っていくクラリス。
「……よく覚えたよね」
 意識をなくすセラエノに目を落とし、皆月は感嘆の声を漏らす。博物館の警備情報は、少なくともぱっと覚えられる量には思えなかった。
『……これ位は基本だろ』
 ラドシアスは、そっけなくそう言うのだった。

『コピーキャット……ですか』
(野放しにしておくのは危険な気がする。模倣品が増えるのは構わないが”真鍮”が無くなるのは不味い)
 通路の南側に陣取っていた不知火 轍(aa1641)と雪道 イザード(aa1641hero001)は、事態の異常を察して、すぐさま共鳴を果たす。
 忍装束を纏った不知火は、頭に叩き込んだ情報と、仲間の通信をもとに、コピーキャットを追いかけることにした。
「轍。こちらは北東から追い詰める」
 クレア・マクミラン(aa1631)が、無線の奥で不知火に言った。クレアらも、コピーキャットの情報は、すでに頭に叩き込んでいる。
「……了解」
 天井に張り付くには、少しばかり高そうだ。不知火は風のように地を蹴って、手すりを足場にしながらも吹き抜けを飛び越えた。片目をつむり、目を慣らしながら、素早く移動する。
 吹き抜けの下は、大観覧室。
 地下に降りると言っていた齶田が吹き抜けから見ても姿を現さない気がするが、それはまた別の話だ。

「何!? 何なの!?」
 二階の、こちらは西側の地点である。
 停電に、一瞬だけ焦りを見せるアンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)。すぐに、ゆっくりと深呼吸して落ち着く。できることを考えるべきだ。
 持っていたサイリウムを使い、光源を取る。薄暗がりであれば十分だ。
「マルコさん、これ!」
 アンジェリカがサイリウムを用意している間に、マルコ・マカーリオ(aa0121hero001)は、気泡緩衝材をばら撒いた。
 二人は共鳴を果たす。
 小さなアンジェリカの背がぐんと伸び、成人女性の姿を取る。……何年後の姿。このころのアンジェリカは、世界的な歌姫となっているだろうか。

「停電……この手の警備に、絶対なんて、ねーんだ、な……」
 東側通路にて、木陰 黎夜(aa0061)は、ぎゅっと自分の拳を握りしめた。
『説明の時に既に混ざり込んでいたのかもしれないわねぇ』
 相方の前では、アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)は女性的な口調でしゃべる。女性的な顔立ちと相まって、違和感は感じられない。
 木陰のチョーカーにアーテルが触れる。共鳴するのは、まだ怖い。木陰は少しだけ身をすくませた様子を見せたが、してしまえば、少しだけ恐怖心が安らいだ。木陰の後ろ髪が腰まで伸び、左目の眼帯が外れると、アーテルと同じくくすんだ黒色が姿を現す。
 事前に連絡先を交換していて正解だった。仲間からの情報に従って、木陰もまた陽動部隊を追う。

 北西の廊下。
「随分と広い建物でござるなぁ……うむ、拙者にはよく分からぬ品ばかりでござるが、きっと価値があるものなんでござろうな」
「これだけ大きかったらお掃除とかとても大変そう……!」
 小鉄(aa0213)と稲穂(aa0213hero001)はあたりを見回しながら、ほうと嘆息する。
「まぁ今の私達にはどれもオーパーツみたいなものよね……」
 稲穂はそんなことを言うのだった。
「警備も忍びの得手とするところ……しかして、この騒動は何事か」
『もう泥棒が入っちゃってるってことじゃない? ほらお仕事お仕事!』
 共鳴を果たした小鉄の両の瞳が変化する。 薄暗がりで、きらりと光る金色の目。その眼の輝きは、共に目の前の困難に立ち向かうという英雄の意思の表れでもあった。
 不知火の姿を発見し、小鉄は頷いた。
「よし、行くでござる」

 2F、吹き抜け地点にて。
「セラエノ……!? チッ……短剣を渡してなるものか……!」
【暗闇に乗じてなんてぇ、いい度胸だよねぇ】
 カミユ(aa2548hero001)と賢木 守凪(aa2548)。すでに共鳴していた賢木の左目は緋色に染まり、左耳には同じく緋色のピアスが現れている。
「平介、行くぞ」
 賢木に、笹山平介(aa0342)がいつもの笑顔で答える。
「守凪さん、カミユさん何かあれば遠慮なく♪」
「ああ、もちろんだ」
「大事なものは渡せないからね……」
『……そうね』
 笹山の言葉に、柳京香(aa0342hero001)は神妙にうなずく。
 柳は笹山の右手小指にある指輪に触れる。「指きり」をすると、二人の姿が、溶け合い髪の毛が銀髪に変化する。カフが左耳に現れる。
 その姿はさながら、カフスを消して、僅かに自由になった賢木とは対のようでもあった。
「気合入れて援護するぜ」
『あぁ失敗はゆるされん』
 呉 琳(aa3404)の尖った歯がのぞく。彼は、サメのワイルドブラッドであるのだ。呉は、濤(aa3404hero001)と素早く共鳴を果たす。
「リン、無理はするなよ」
 賢木の言葉に、呉は頷く。
「かみな……援護は任せろ!」
『こちらが合わせます!』
「短剣を盗まれない様に頑張ろうな! 琳ちゃん!」
『俺たちが背中は守るので安心して欲しいでござる』
 虎噛 千颯(aa0123)と白虎丸(aa0123hero001)が共鳴を果たすと、虎耳とホワイトタイガーの尻尾が現れた。
「ちはや! 頼りにしてるぜ!」
『信じてますよ!』
 虎噛は手を挙げて答える。
「いえーい!! 平介ちゃんも頑張ろー!!」
『柳殿、今回はよろしくでござる。』
「頼りにしてます♪ お父さん」
 仲間の信頼に答えるように、虎噛の尻尾がひょいひょいと揺れた。オッケーまかせて、とでもいうように。

 北の通路、階段付近には、千冬(aa3796hero001)とナガル・クロッソニア(aa3796)が潜んでいた。仲間からの連絡を受け、ナガルはまず情報収集にあたる。
「ナガルちゃん、鷹の目頼んだよ!」
『千冬殿もご無理をなさらずにでござる』
『お気遣い、ありがとうございます』
「任せてください!」
 千冬に続いて、ナガルがスマートフォンから元気よく答えた。ナガルはびゅんと鷹の目を飛ばし、状況を仲間にスマートフォンに伝える。
「ナガル、よろしく頼む。状況はどうだ?」
 賢木に応じて、ナガルは状況を中継する。
「何人か、あちこちに姿が見えます! 北に一人、南に一人……と、南は片付いたみたいですね。西の、トイレの周辺にいち、にい……連絡係でしょうか……なにかしゃべってるみたいです。あ、あれは!」
 途中、仮面の男の姿が目に入り、ナガルは唇を噛んだ。コピーキャットは、小脇に何かを抱えているようだ。鷹を横目に見ると、ボウガンを構えると、鷹を撃ち抜いた。
 視界が途切れる。
「コピーキャット……猫の名前を使って悪事を働くなんて、ゆるしません!」
「マスター、本来の目的はオーパーツの護衛です。お忘れなきよう」
 憤るナガルを、千冬がやんわりとなだめる。尻尾をピンと立てながらも、ナガルは再びスマートフォンを持った。
「コピーキャットが、通路を駆けて! 北……北へ行きます!」
『西側の通路を、北上していると思われます』
 ナガルの言葉を、千冬が補足する。

「コピーキャットがこちらに向かっています」
 リリアン・レッドフォード(aa1631hero001)の言葉に、クレアは頷く。
「こちらに来ますね……、了解」
 短く共鳴すると、瞳と髪の色が赤く染まる。右頬に浮かび上がる、アザミの花の紋章。ライヴスで構成された白衣の幻影をまとうと、戦場へと駆け出していく。

●1F、北口防衛
 博物館の一階では、セラエノとエージェントの小競り合いが巻き起こっていた。

「しっかり陽動されてあげますが、ワタシはここでさんざん暴れまわってあげましょう。こう見えても、体力ありますから」
 西で交戦するヴィランを抜けて、北口へと姿を現した餅。
 染井が、セラエノと交戦している。敵は二人。
 鉄壁の誓い。守りを固めて、攻撃を難なくいなしているが、一人の攻撃をかわした隙に、染井のライヴスプロテクトの効果が切れた。セラエノが大きく剣を振り上げた、まさにその時。
「させない!」
 餅がケアレイを飛ばす。体勢を立て直した染井は、カッツバルゲルを振りぬいた。
「こいつ……」
 セラエノの前に、餅が立ちふさがる。
「ついでに、ここは通しません。大事なものを守りきったら勝ちですから、ワタシには意外とやりやすいです」
 守りの戦いは、餅が得意とするところだ。
 セラエノが攻撃しようと構える。餅は、顔色を変えずにトリアイナでセラエノの部隊を撃ち抜く。
 守るべき誓いを使用した染井が、敵の注目を再び集める。今度は、染井がライヴスリッパーを食らわせる。後は一人。こちらが優勢。
 お互いに目を見かわして、再びの戦闘に備える。

●ティファレトの短剣をめぐる攻防
「……!」
 飛び込んできたセラエノの一人が、カーペットに気が付き、一歩。ぐらついて地面を蹴る。
 空中では、その動きは無防備に過ぎる。なだれ込んできたセラエノを押し込むようにして、真壁がセラエノをフラメアで一薙ぎにする。
 一人が踵を返す。おそらくは、連絡係だろう。――逃がさない。
『敵を斬れ、シュヴェルトライテ!』
 月鏡の無形の影刃が、三日月状の紋章を象った衝撃波を放つ。かつてアンゼルムの用いた影の刃は、今や白銀騎士の意思を持ち、まっすぐに連絡部隊の脚を切り裂く。
 真壁の脇をすり抜けようとしたセラエノの部隊を、真壁は素早く狙い定める。真壁の一撃は、セラエノの肩口を鋭くえぐった。
 真壁の動きを真似るようにして、もう一人が真壁に斬りかかってくる。
(同じ攻撃か……)
 芸がない。それでは、当たらない。真壁は後退し、攻撃をはねのけた。月影が素早く駆け寄り、脛を薙いで機動力を減じさせる。
「断章を騙る者達よ……紅き波動を浴び、地に伏せよ!」
 月鏡の放つライヴスショットが、敵をはねのける。一人が昏倒をし、地面に倒れる。
「かまうな! 我らの狙いは一つ!」
 セラエノの部隊は、必死に部屋に身を躍らせようとする。

 一人のシャドウルーカーが、真壁にライヴスの針を放った。明らかに動きの違うシャドウルーカーだった。真壁は一度下がり、耐性を立て直す。
 小柄ながら、素早い女だった。フォックスだ。
「あなたの相手はこちらです!」
「くっ!」
 月鏡が割り込み、フォックスと相対する。
「危ないっ!」
 大宮が、フォックスに続いて攻撃を仕掛けてきたセラエノの動きを防御した。
「そんなの効かないから!」
「H.O.P.E.のエージェントというのも、なかなかやるな……」
 頭上から、不意に男が姿を現した。ミトラだ。
 不可視の攻撃。ザ・キラー。真壁は、素早く斧を投擲していた。
 男は斧を躱すように着地し、攻撃を繰り出す。
 フォックスと同じく、こちらも、一見しただけでかなりの手練れであるのは間違いがない。
「それ以上はさせない」
 月影はミトラを妨害するようにメイスを振るう。
「此処までする程あの短剣に価値があるなら、その価値を教えてくれないか?」
「フン。貴様らにその価値は理解できまい」
『……セラエノと愚神の繋がりを疑っている』
「ほう?」
 リーヴスラシルの言葉に、ミトラは面白そうに顔を歪める。
『どちらも近い時期に各地の短剣を狙っている。偶然の一致とは思えん』
「我々が欲するのは、力だ。大いなる力を理解できない貴様らには過ぎたおもちゃだ。……これ以上、話す必要はあるまい!」
 ミトラの一撃を、月鏡が受け止める。
「ふむ、なかなかやるな……」
 追撃の様子を見せるミトラに、大宮はレインメーカーを構える。真壁は、すぐさまに男にブラッドオペレートを放った。

「えい! えいえい!」
 真壁らをサイリウムを振って応援する鈴宮。タイミングよく、治癒の光線を飛ばしている。
「痛いの飛んでけー!」
「くそ、治癒部隊は厄介だ……先に沈めろ!」
 フォックスの指示に、セラエノの数名が同時に鈴宮に飛びかかる。
「へ?」
 鈴宮は慌てて後退する。それに合わせて、じりじりと近づくセラエノたち。
「ちょ、逃げる! 前に少しはお仕事もするけどなっ」
 鈴宮はセーフティーガスを走らせる。
「耐えろ! 小童ども!」
 ミトラの一括に、セラエノの部隊はなんとか意識を保とうとする。
「ごめんてー眠ったってなぁー? ……え? 寝らへんの!? うちすぐ寝落ちたのに!」
「!」
 その時だった。
 真壁が鈴宮の動きに合わせて、ライヴスフィールドを展開した。ライヴスの攪乱が、敵の思考をかき乱す。
「ぐあ、こんな、ばかな……」
 セラエノの一人が、耐え切れずにその場に倒れた。
「あ。え? 何!? あ、ありがとなあ!」
「この女!」
 敵の攻撃で、涼宮の義手がすっぱ抜けた。
「きゃあ!」
「!?」
 その動きに、セラエノの部隊も少なからず動揺したようだった。跳ね上げられてくるくると回る義手。蜥蜴のしっぽ斬りのように、鈴宮はその場から駆け出した。
「きゃーーー」
(……あー夕燈、落ち着け。確り一つずつやれ)
 相棒が、心のうちで呼びかける。

「いーーやーーー」
「くそ、ちょこまかと!」
 通路を走り抜ける鈴宮に、セラエノが一人追いすがっている。
 居合わせた志賀谷は敵をにらむ。西側の大きな部隊はスルーしていたが、幸か不幸か、一人引き離している。
 志賀谷が潜み、隙を待つと、ちょうどよく二階で爆音が響き渡った。
 鈴宮が気を取られる。……しめた、と思ったセラエノもだ。
 志賀谷はセラエノの一人に素早く近寄ると、背に狙いを定めてストライクを放つ。
「ッチ、分が悪い!」
 男は後退し、その場から逃げ出した。
「あ、ありがとう?」
「どういたしまして」
 志賀谷はあたりを見回し、爆弾を仕掛けたであろうセラエノのもとへと駆けあがる。2階だ。

「大丈夫か」
 真壁が、義手を拾って鈴宮に渡す。
『……あ、うちのお手て…拾ってくれてありがとうなぁー』
 鈴宮はよろよろと立ち上がる。
「よろしゅうなぁ、うち鈴宮言いますー」
 のほほーんと挨拶を返すと、再び攻撃が飛んでくる。
「下がれ!」
「え? しとる場合とちゃう??」
 真壁は敵に向き直り、攻撃をシールドで受け止める。鈴宮はよろよろと後ろに下がり、再び支援体制に入る。

●短剣の行方は
 ミトラとフォックスをはじめとする、短剣の奪取を試みるセラエノ部隊。
「くそっ……このままでは……」
 セーフティーガスで倒れた一人が、起き上がって短剣に手を伸ばそうとした。
「やっぱりこの隙で狙う者がいたな」
 月影がブーメランで短剣を弾き飛ばす。
「はっ」
 すかさず大宮が、起き上がったセラエノをレインメイカーで打ちのめす。

 ブーメランにはじかれた短剣は、くるくると弧を描き、――両者の間に落ちた。
「今だ!」
 ミトラがジェミニストライクを放つ。分身が手を伸ばし、エージェントの攻撃により、それが掻き消えると……。
 短剣は、セラエノの手に渡っていた。
「ぐうっ……」
 ミトラは利き腕を押さえた。後退するように、短剣の奪取部隊はじりじりと下がる。

「脱出せよ! 繰り返す、脱出せよ!」
 背を向けるミトラに、真壁はとっさに香水を投げつけた。香水の瓶が割れ、セラエノと短剣にふりかかった。
 北か、南か。――いや、後退するだけで、精いっぱいだった。セラエノ部隊は、かろうじて、大観覧室へとなだれ込む。

●2F、通路周辺の動き
 連絡を受けた賢木は、あえてコピーキャットではなく連絡部隊の方へと向かっていた。

「! おっと」
 その時、虎噛は、爆弾を仕掛けていたもう一人のセラエノに近づいていた。
 虎噛のブラットオペレートが、通信を仕掛けていたセラエノの部隊に突き刺さる。
「こんなトコまでご苦労さんだけどそのまま退場願おうか!」
「く、……」
 セラエノの爆弾は、設置される前のようだ。セラエノが気絶したはいいが、このままでは爆発する。
『貴重な美術品を荒らさせる訳には行かないでござる!』
 虎噛はとっさに上に覆いかぶさった。
 爆音がとどろく。
「ふうう……セーフ!」
「大丈夫か!」
「びっくりしました。無茶したらだめですよ♪」
 賢木らが駆けつけてくる。
「けがはないな!」
「見たところ、フツーの爆弾だったからね」
「ライヴス爆弾だったらどうするんだ?」
 焦げた服をほろいながら、虎噛はにっと笑って見せた。
「どうする? 追う?」
「いや、大丈夫そうだ。ナガルの言っていた……もう一人の方を狙おう」
 賢木は、逃げた男を、志賀谷がすぐに追いかけていたのを見たのである。

「あれですね♪」
 しばらくすると、笹山は、部隊のものを発見した。博物館の警備員の格好をしているが、ひっきりなしに無線でしゃべっている。――セラエノだ。
『こちら、トゥエンティ。こちら、トゥエンティ、隊長が目標物を……確保。離脱します、繰り返す』
 笹山は盾を持ち、セラエノに接近する。狙いを定めると、思い切りよくライオンハートを振るう。
「くっ!」
 セラエノは銃を抜いた。銃口が笹山を向いた。笹山は、焦らずにライオンハートの狙いを定めることに集中する。
 目の前の敵を見ていたが――呉は、自分の出番であることを悟った。
「まかせろ!」
 笹山の信頼に応えるように、呉が素早く威嚇射撃を行った。正確無比の射撃は、セラエノの銃を弾き飛ばす。
 そこへ、賢木は、背後からセラエノにヘヴィアタックの一撃を食らわせる。弧を描いた無線を、笹山が賢木にパスする。
「どうした?」
 無線の奥に、賢木は答える。
「こちら、トゥエンティ。通信機器をHOPEに奪われた。繰り返す、通信機器をHOPEに奪われた」
 賢木は倒れたセラエノのコードネームを真似て、偽の情報を流した。
「短剣の奪取は偽情報か……! 了解した、引き続き陽動にあたる」
 賢木は、無線のスイッチを切る。
「……これで少しは掻き乱せるといいんだが」
「1階が危ないです。援護しに行きましょう♪ 呉さん、いけますか?」
「いつでも行けるぜへーすけ!」
「ああ、急ごう」

 一方そのころ、また別の回廊では、海神もまた工作にあたっていた。
 爆発音を背に、海神は思考を巡らせる。
(これほど大規模に動くとは……セラエノは何を焦っている?)
「魔術師らしい手だね、やってくれる」
 海神は言うと、暗がりに身をひそめる。
『……敵はどうやって通信を取っているんでしょう?』
 オーパーツがそれほどの数あるとは思えない。
「ライヴスを介さない……通常の無線、か?」
 ならば、それを奪えば良い。
通路の角に身をひそめる部隊を見つけた。英雄経巻が、呼応するように紐を解く。素早く、呪力を込め、リーサルダークを放つ。
「!」
「おい、どうした?」
 通信装置を持ち上げると、偽情報を吹き込む。
「くそ! 短剣は偽物だ! 東へいそ……」
 そこまで言って、無線機を破壊する。賢木の無線で、彼らは短剣のありかに疑いを持っているはずだ。
 これがやられたとみれば、本物らしい情報になったはずだ。

 逃げ惑うセラエノの部隊に向かって、木陰が蛇弓・ユルルングルを構えていた。まるで、狙いに手を添えるように、アーテルが囁く。
『弓、私に引かせて頂戴?』
「……仕方ねー、な……」
 木陰はアーテルに操作を預ける。雷を纏った矢が、一直線にセラエノの肩を射抜いた。
「ぐっ」
 セラエノは、銃を構えながら狙撃手を探ってあたりを見回す。
「パワーに難あり……いつものに、チェンジで……」
 再び、操作は木陰に戻る。銃弾を避け、スピードを上げて接近を果たす木陰。黒の猟兵を構え、黒い霧の中から魔弾を浴びせかける。
(……よし)
 セラエノが気絶したのを確かめて、木陰も無線を手に取る。
『短剣は――南よ……』

 セラエノの情報網は錯綜していた。ミトラらの連絡部隊は既に沈められてしまった上に、情報の確認が取れない。
「セラエノとやら、ここは通さぬでござる」
 セラエノの前に立ちふさがる小鉄。
 その時だった。天井から、華麗な決めポーズを決めるクラリスが降ってきた。
「とうっ!」
「ぐえっ」
 小鉄と交戦中だったセラエノは思い切り後頭部を押さえる。
「好機!」
 二人は、同時にセラエノに攻撃を食らわせる。
 その動きを見て、二人は、思い当たったことがあるようだった。
「ぬ、お主の気配……侍でござるか?」
「むむっ、かく言うお主は忍者でござるな? と、申しておりますわ」
 クラリスと小鉄の間に、バチッと火花が散る。
「!」
 クラリスの視界に、不知火が入った。こちらも忍者だ。
 不知火から、気配を感じない。
「むむむ……!」
 不知火はクラリスを一瞥すると、小鉄とともに、コピーキャットを追う。
「とう!」
 クラリスもまた、くるりと踵をひるがえし、ポーズを決めてからセラエノを追う。

(地図から見て左、こちらにコピーキャットの趣向品はない……あったとしてもセラエノ向けだろう。協力体制になってる雰囲気を感じない。ならば個人の趣味を優先するんじゃないかな)
 不知火はそう考え、コピーキャットの足取りを追う。

●猫の舞踏
「おや、これは……」
 コピーキャットのハイヒールが妙な音を立てた。その隙にアンジェリカの電光石火が、コピーキャットをかすめた。エクスキューショナーが振り下ろされる。風を切る重い音がする。
 ものを壊さないように。――アンジェリカは、再び構える。
「あなたが敷いたんですか? 変わったカーペットですね」
「いかにもって恰好してるけど、顔を見せられないのは相当自分の顔に自信がないんだね!」
「ふっふっふ……ご覧になりますか? 捕まえられたら、ですがね! 私はもう、目当てのものを手に入れました。さあ、追いかけっこと行きましょう……」
「逃がしませんよ」
 コピーキャットの横から、クレアが現れる。ケルベロスが獣の咆哮のような銃声が上がる。3発を交わしたが、魔導銃50AEの銃撃が飛ぶ。
「くっ……ははは! 当たらないさ! よく狙うんだね。美術品が壊れてしまうよ」
(これは当てるための射撃じゃない……)
 コピーキャットも、よく見れば分かったはずだ。クレアの射撃は、すべて何もない床か壁を直撃していた。……狙いが外れているわけではない。
 クレアは分かれ道を塞ぎ、コピーキャットの動きを誘導していた。コピーキャットはそうとは知らず、あたかも自分で逃げるためにその道に進んでいるかのように廊下を駆ける。
「そっちへ行った、轍」
(了解)
 コピーキャットが、次第に追い込まれていく。
 クレアの言葉を合図にするように、ライヴスのネットが走る。
「!」
 コピーキャットの動きが鈍る。ネビロスの操糸に足をとられた。
「おっとっと」
 そこへ、不知火が女郎蜘蛛を放つ。呼吸を合わせるようにして、小鉄のノーブルレイが拘束を試みる。攻撃を受けたコピーキャットは、持っていたコインをばらばらに取り落とした。
「! わ、私のコレクションが……!」
 駆け付けたナガルの縫止が、コピーキャットの動きをさらに鈍らせる。
「そこまでですよ、お縄頂戴です!」
 ナガルはピンと耳と尻尾を立て、コピーキャットに武器を向ける。
「猫の名前を使って悪事を働こうなんて、どの猫が許しても私が許しませんから!」
「おや、本物の猫のお嬢さんか……どうしても通してくれないというのなら、一戦、交えるしかないようだね」
 コピーキャットは持っていたボウガンから、接近戦に備えてレイピアに持ち替えた。クレアはバンカーメイスに持ち替える。

●メリオンテ争奪戦、地下の攻防
「知恵の足らぬ猿風情どもには過ぎる宝物、<メリオンテを頭上に掲げよ>」
「あ、あああ……」
 セラエノの一人は、石井の支配者の言葉にあらがいきれず、メリオンテを頭上に掲げる。
「馬鹿が! それでもセラエノの一員か!」
 その隙に、桜小路がライヴスショットの弾を盾にするようにしてセラエノに迫る。桜小路への攻撃は、御門が盾で防ぐ。
 ジャスリンとの共鳴を果たした赤嶺は、真正面からの戦いを挑む。呼吸を合わせるように、セラエノに斬り込んでいく。
――囲まれる。
 赤嶺は思った。けれど、退くわけにはいかなかった。ちょうど足元に、博物館の警備員が倒れていたからだ。
(焦る必要はない!)
 腰の位置より高めで、童子切を振るう。破魔の力を持った剣が、一瞬だけ輝いたような気がした。追い詰められていることを知らせるために、無軌道に。もう一度。
(……受け取った)
 梯子の上から、銃声が響いた。
 御門への攻撃を、オリヴィエのスナイパーライフルが威嚇射撃で反らしたのである。
 まずは、一つ目。桜小路がメリオンテを回収すると、後ろに投げる。
「誰か確保してくれ!」
「まかせて」
 葛井が受け取った。続けて、赤嶺が男を薙ぐ。懐からこぼれたメリオンテを、逃さずに蹴り飛ばす。二つ目。桜小路は武器で弾き飛ばした確認は、後衛に任せる。
「一度下がってください、メリオンテを奪われて困ります」
 石井の言葉に頷いて、葛井はゆっくり後ろに下がる。
 メリオンテは作動しない。これではない。
「本当は本物を示させたかったのですが、知らされて居ない可能性も高いので」
 石井は、そう言って肩をすくめる。そう。二人のセラエノは、メリオンテを盗られて焦っていた。
「1人ずつ確実に倒して、炙り出しましょう。本命を」
 紫の言葉に、一同は頷く。
「全力でサポートします」
 今度は、葛井がライトアイを使用する。

 敵陣に身を躍らせた御門が、怒涛乱舞を発揮する。爆発的な俊敏性が、一体ずつを次々と斧で斬りつけていた。
 石井が宝典を手に、敵を攻撃する。ブルームフレア。燃え盛る炎の中で、哄笑する蛇が、牙を剥き、絡みつくように敵をなぎ倒していく。
 狙いは、動揺していたもう一人。知らされていないということは、――下っ端である可能性が高い。
 なんなら、破壊することも厭わない。

 パリン。
 石井の炎に巻かれて、メリオンテが一つひび割れた。容赦のない攻撃に、セラエノは青ざめる。
 三つ目。
 これも、本物ではない。

 にわかに、上階、大観覧室が騒がしくなった。――短剣を争っているのだろう。
 セキュリティが、復旧すれば。
 エージェントたちは気合を入れなおした。

●猫が逃げるその先
 エージェントは、コピーキャットと刃を交える。
(私だって負けませんからね!)
 ナガルの振るう朱里双釵が、赤い軌道を描いて残す。クレアの放ったブラッドオペレートが、コピーキャットの動きをさらに鈍らせる。それまで身軽に動いていたコピーキャットは、体勢を大きく崩す。吹き飛ばされて、壺がぐらついた。
(! 危ない)
 アンジェリカはそちらのカバーへと回る。
「……どうやら、潮時のようだね!」
 コピーキャットは、閃光弾を炸裂させ、くるりと背を向け逃げ出す姿勢をとる。

「大人しくお縄に付くでござるよ!」
「まだまだ美しいものをコレクションするのさ!」
 コピーキャットが駆けていく。小鉄が、そのあとを追う。
 脱兎のごとく逃げるコピーキャットに、不知火はデスマークを放っていた。これで、もう少し追える。
(爆音があった。なら壁壊されてんじゃないのかな。どちらもプロだ。逃走経路確保してるだろ)
 おそらくは、西。
 不知火の読み通り、コピーキャットが向かうは、2F、博物館の西の壁――激戦を躱すようにして、走り抜ける。スイッチを懐から取り出すと――大きな爆音が響き渡った。
(杞憂ならそれでいい。万一に備えたというのを言い訳にサボっていられる。むしろそのほうが気楽だ)
 外壁の防備にと当たっていた獅子ヶ谷はちょうど西の壁が崩れ去ったところを見た。
「なるほどな」
 獅子ヶ谷は外から窓枠に手をかけ、二階へと飛び上がる。そして、壁から飛び出してきた男を――敵だと確かめるまでもない。素早く、ストレートブロウで押し戻す。
「なっ……!」
(! 今でござる!)
 小鉄が、素早くノーブルレイを走らせる。今度こそ、怪盗は大人しくするしかなかった。
 男の懐から、最後の一枚。隠し込んでいた金貨がこぼれた。
「コピーキャット、確保」
 クレアが無線で連絡する。

「なんだかあっけないね、マルコさん」
「いつかリベンジの機会もあるさ」
 コピーキャットを追いかけていたアンジェリカは、どことなく悔しそうにしている。アンジェリカは、マルコにそう慰められるのだった。

●大観覧室にて、激闘。
 フォックス、ミトラ。そして、まだ戦えるセラエノ数名は、短剣を奪取したはいいものの、離脱しあぐね、大観覧室へと追い詰められていた。
「真壁さん! 援護します!」
 上階から笹山が叫ぶ。
「背中は俺ちゃんに任せて思いっきりいっちゃって!」
 ミトラとフォックスが、波状攻撃を仕掛けようと刃を構える。連携してことにあたるつもりだ。
「させるか!」
 呉は二人を引き離すようにして銃弾の威嚇射撃を浴びせる。

 階下、西側で戦っていたエージェントたちが追いかけてきた。東西南北に布陣する。
 狙いをつけるため、射撃班は無防備をさらしているが、流れ弾や攻撃からは、虎噛がしっかりと庇っていた。
「みなさん、大丈夫ですか!」
 餅と大宮が、治癒の光線を飛ばす。
「くっ!」
 セラエノは、奇妙な形の撃ち出し銃を天井へ向けた。ワイヤーを射出するつもりだ。
「みんな! 目をつむって!」
 セラエノの動きを見て、皆月がフラッシュバンを走らせる。手元の狂ったセラエノが、次々と狙いをそらしていく。
「くそ、ここさえ乗り切れば……!」
 エージェントたちの一斉射撃が、天井を向いた。
 簡素な電燈がぐらぐらと揺れ、ガラスが飛び散る。

 ワイヤーの先が一つ、また一つと切れていく。狙いが定まったワイヤーもあったが、合流した木陰が、上階から、ゴーストウィンドをぶつける。
「ぐっ……」
「撃ち落とせ!」
 セラエノの部隊が射撃部隊に向かって弓を構えた。
「守凪さん」
 小さな爆発に伴って、足元がぐらぐらと揺れた。笹山が賢木を後ろに引っ張り、庇うようにして爆発を躱す。賢木は倒れ込みながら、賢木もまた笹山に向かって飛んできた飛び道具を狙い落とそうとする。
 隣で、呉がオートマチックの狙いを変えていた。出来た隙、ほんのわずかな隙間を縫うようにして、放たれた矢を薙ぎ払う。
 隙の大きい攻撃だ。しかし。
「ナイス! 琳ちゃん!」
 時間さえ、ほんの数舜。稼げば足りた。
 残った矢の雨を、虎噛の掲げたスヴァリンがすぐさまに受け止める。一呼吸おいて、治癒の光線が走る。
「あれ、なんだ!」
 呉は、大観覧室の扉が――それも、妙な位置の扉が開くのを見た。

「貴様! どこから現れた!?」
「……わがんねえな」
 姿を現したのは、救援要請を受けて現れた齶田だった。雷神の書を巻き付けた腕で、巻き込むように疾風怒濤を繰り出した。
「久朗、タイミングよかったッスな」
「ああ」
「登れ、登るんだ!」
 一人がよじ登るが、どこからともなく飛んできた皆月のテレポショットに叩き落された。
 ミトラは唇を噛みしめる。

●熾烈な情報戦は続く
(ちょっと、まずいみたい)
 黒絵は北口から離れ、階段を登る。手近な連絡部隊がいないかと思ったからだ。虎噛から逃げるセラエノを、追い詰めていた志賀谷のもとに出くわした。
 二人の顔を交互に見る黒絵に、セラエノの男は言い募る。
「あんた、H.O.P.E.か? た、助けてくれ。オレは、ただの職員なんだ」
「……」
 黒絵は首をかしげて、二人に質問をする。
「スマークが関係者に配ったロケットペンダント、持ってる?」
「……奪われたんだ」
「そんなもの、無かったわ」
 黒絵は笑みを浮かべる。
「そうだよね、京ちゃん。でも、用があるのはこっちの人なの」
 志賀谷はいつでもセラエノの男に武器を抜けるようにしながら、事の推移を見守る。
「あのね……」
 黒絵は、ゆっくりと呪文を唱える。

「確保したティファレトの短剣を猫耳の女子高生に奪われた! 繰り返す、確保したティファレトの短剣を猫耳の女子高生に奪われた!」
「無線機をH.O.P.E.に奪われている! 信用するな!」
「コピーキャットが短剣を奪ったのか?」
「違う、猫耳の女子高生に奪われたという連絡が入った」
「ええい、とにかく、ネコミミだ!」
「ばかげている、そんなバカな話があるのか!」
 ミトラらが大観覧室で激闘を繰り広げる最中、セラエノの通信網は、大いに混乱していた。その奥の声も、一人、また一人と減っていく。

 二階、コピーキャットと交戦を終えたエージェントたちのもとに、身を潜めていたセラエノの残党が姿を現した。
「いた! ネコミミだ!」
「え!?」
 セラエノが必死の形相になって、ナガルを追いかける。
「やつが短剣を持っているぞ!」
「持ってないですよ!?」
『どうやら、誤解のようですね……』
 やってきたなら好都合。壁に空いた穴をふさぐようにして、エージェントたちは再び構える。

「いたぞ! こっちだ!」
「こっちにもいたぞ! どうなってる!?」
「短剣を持っている。あいつだ」
 黒絵を追いかけるセラエノの残党たち。黒絵が手に持っているのは、イメージプロジェクターで偽装したティフェレトの短剣である。
(前は、贋作を掴まされたけど、今回は逆の結果になったね)
 攻撃をひょいひょいとかわしながら、階段から二階へと黒絵は走る。主戦場から、遠ざけるように。

●追撃の手は緩めない
「っぐ……」
 躱しきれなかった。月鏡のライヴスリッパーで、フォックスは大きく吹き飛んだ。
 2階からの射撃と、月鏡の動きが、二人を分断させた。
「隊長……増援が来ません」
「やむをえん、強行突破しかあるまい」
 ミトラは、猫だましを放つ。
「作戦Cだ。後で落ち合う」
 ミトラは、素早くフォックスに背を向けた。
 フォックスは、なんとなく悟った。ここで別れれば、もう、ミトラと会うことはないだろう。
「みんな!」
 陽動部隊をひとしきり倒し終わった志賀谷が、二階の吹き抜けから飛び降り、逃げ出そうとする敵に向けてフラッシュバンを放つ。 すこし時間を稼ぐことが出来れば、それはきっと大事な時間になる。
 エージェントたちは目をつむる。

 一瞬の閃光。
 ミトラも閃光弾を放り投げていた。

 博物館が、まばゆく光り輝く。

 よろけながらも、ミトラは南口へと走り出す。フォックスは、北口へと。
 それを追いかけるエージェントたち。追い詰められたミトラは、途中でくるりと踵を返す。最後の悪あがきを開始した。防御を捨てた、捨て身の攻撃。それでも、数の差は覆しがたい。エージェントたちの方が上手だった。
 真壁のブラッドオペレートが、ミトラに膝をつかせる。
「無駄だ」
 ミトラは膝をつく。嗤っていた。齶田がノーブルレイと睡眠薬で拘束を試みる。
 ミトラは、短剣を持っていない。
「南、か? いや……」

●メリオンテの奪還、『復旧』
 上階での喧騒が遠ざかっていく。残された時間は。あと……あと少し。
「くっ……」
 御門は斧を振りかざし、仲間を庇う。傷ついた仲間たちを、葛井が回復する。
「囮がいるということは、本物を持っている人は。隠れているかもしれませんか」
 相手の反応をうかがいながら、リッソたちは考える。
(おそらくは、本物を持ったものは、後方にいる……。それか、どこかに隠れている)
 状況を確認していた紫は、紫は敵の数が一人足りないのに気が付いた。ライヴスゴーグルを装着して、敵を探る。
「あれです!」
 職員に交じり、息をひそめていた一人。跳ねるように起き上がるが、オリヴィエの動きの方が早かった。
 射手の矜持で定めた狙いが、まっすぐに敵へと向かう。オリヴィエが狙ったのは、通気口。……敵からすれば、わずかな光源である。
 トップギアで力をためた御門が、動いていた。
 疾風怒涛の攻撃に、敵の一体は大きくよろめく。
 リッソたちは意識を合わせて、縫止を走らせる。相手が体制を崩したところで、赤嶺が斬りつける。石井の魔法攻撃が、それを追いかける。
「ぐう……」
 セラエノはよろけたが、意識は保ったようだ。手に掴んだメリオンテを離さない。
(そうか、それなら)
 リッソたちの分身が、フェイントを仕掛ける。仲間に合わせて、死角から、顎を渾身の力で殴りつける。
 追いすがるセラエノらを、木霊が射貫く。メリオンテが跳ねた。赤嶺は、それを仲間の方に蹴りだす。させまいと繰り出される攻撃の間に、禁軍装甲を振りかざす桜小路が割り込んだ。
「さて、外れていないと良いのだが……」
 リッソが念じると、地下室が明るくなった。
 ゆっくり、またゆっくりと。徐々にスピードを上げて、電力が回復していく。
 ちょうど、紫が最後のセラエノを沈めたところだった。
「どうしてかな、まだ、動かない」
「隠れていましたし、焦っているように思えました。それだと思ったのですが……」
 電気もついた。間違いがない。
 リッソたちと葛井は中央の装置をにらむ。スイッチを見つけた。スイッチが切れていたようだ。
 二人で力を合わせてレバーを引き上げる。
「聞こえるか? 聞こえたら返事してくれ!!」
 桜小路の言葉は、上階のエージェントたちにも聞こえていた。
 ライヴス通信機の回復。桜小路の言葉に、H.O.P.E.のエージェントたちは息をのんだ。
 ハッチから次々と、地下班が顔を覗かせる。
「別に鳥目って訳じゃ無いけどね。暗すぎると本も読めないだろ」
 赤嶺は、鷹の目をつむりながらそう言った。

●北と南
「私が敵なら、これだけの戦力がいる中を強行突破はしないわ。そうね……逃げた犯人を皆が追い掛けていったあと、悠々と本物を持って立ち去るのではないかしら? 一番短剣を持っていてもおかしくない人に化けて」
 橘は、無線でそう警告していた。
「警備を無力化していることから計画的な行動なのは間違いありません。ならば、本命が失敗したときの予備のプランやダミーなどもあるでしょう」
「来るか……」
「来ましたね」
 南口には辺是と鶏冠井が構えている。ゆっくりとした足取りで、足を引きずりながら出てきたのは、一見して、博物館の職員である。
 なんの変哲もない――ただの職員だ。
(出て来る人物は可能な限り疑ってかかりましょう。そう、職員のかたも……)
 真壁の投げた、きつい香水の匂いが香った。短剣を持っている。辺是が、男の肩に手をかける。
「くそ!」
 職員は素早く動きを変えて、二人を斬りつけた。
 鶏冠井は傷口を抑える。しかし、そこに焦りはない。
(味方戦力が全滅でもしない限り、こちらへ来る者もいるだろうしな)
「粘りの戦いを見せようじゃないか」
 二人は構える。
「逃がさないよ!」
 戻ってきた黒絵も加わった。
 エージェントたちが駆けつけた、その時だった。

 博物館に明るさが戻った。同時に、けたたましい警報装置が鳴り響く。部外者であるミトラに向かって、ガスが噴き出す。
 追いついてきたエージェントたちが、職員――最後に、化けていたセラエノに銃口を向ける。セラエノはゆっくりと膝をつき、その場に倒れ込んだ。捕縛用ネットがあびぜられた

 北口にて。
「まだやるなら歓迎するが?」
 染井の言葉に、フォックスははっと息をのんだ。
 北口へと至ったフォックスは、博物館の明かりを悟ると、任務の失敗を悟った。傷口を押さえて、立ち止まらずに、その場を去っていく。
(守り、きれた……)
 餅は、機能を取り戻した博物館を見上げた。

 セラエノの狙った短剣は、エージェントたちの手の中にあった。任務は――成功だ。

 セラエノの動きなど、エージェントにはどうしようもないいくばくかの幸運と、特注のガラスケース。なによりもエージェントの配慮のおかげで、博物館の展示品は、ほとんどが無事のようだ。
 特に貴重な品物は、一個として欠けてはいない。もちろん、あのティファレトの短剣を入れて、である。
 これならば、スマークも文句は言わないに違いない。

「完璧なる勝利ですわ!」
 クラリスは最後にポーズを決めると、満足げに共鳴を解いた。

「もっと早く見ておけば良かったな」
「あははっヨウちゃん引きこもりすぎだからね」
 赤嶺の言葉に、ジャスリンは朗らかに笑う。
「やったね! 今からでも見に行こうかな?」
『うん、かまわないと思うよ』
 共鳴を解いたリッソが、にこにこと笑う。
「あとは、お片づけですね」
 紫はにこにこと笑う。

「ところでおーぱーつってなんじゃ? 美味いのかぇ?」
 戦いを終え、きょとんとした様子で言う輝夜。御門は呆れた表情を浮かべる。
「……とりあえず知らないものは食べれるかどうかから入るのね……まぁ……輝夜の頭じゃ理解できないものってことだけは確かかな……」

 一仕事が終わった。
「飲みに行きますか」
 クレアの誘いに、不知火と小鉄が乗った。美味しいお酒が飲めそうだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
  • コードブレイカー
    賢木 守凪aa2548
  • エージェント
    リッソaa3264
  • Gate Keeper
    赤嶺 謡aa4187

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • エージェント
    染井 義乃aa0053
    人間|15才|女性|防御
  • エージェント
    シュヴェルトaa0053hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 守護の決意
    輝夜aa0175hero001
    英雄|9才|女性|ドレ
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • 薫風ゆらめく花の色
    柳京香aa0342hero001
    英雄|24才|女性|ドレ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
    シウ ベルアートaa0722hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 炎の料理人
    鶏冠井 玉子aa0798
    人間|20才|女性|攻撃
  • 食の守護神
    オーロックスaa0798hero001
    英雄|36才|男性|ドレ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 非リアを滅す策謀料理人
    葛井 千桂aa1076
    人間|24才|女性|生命



  • ~トワイライトツヴァイ~
    鈴宮 夕燈aa1480
    機械|18才|女性|生命
  • 陰に日向に 
    Agra・Gilgitaa1480hero001
    英雄|53才|男性|バト
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • エージェント
    獅子ヶ谷 七海aa1568
    人間|9才|女性|防御
  • エージェント
    五々六aa1568hero001
    英雄|42才|男性|ドレ
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • ドクターノーブル
    リリアン・レッドフォードaa1631hero001
    英雄|29才|女性|バト
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
    人間|21才|男性|生命
  • Survivor
    雪道 イザードaa1641hero001
    英雄|26才|男性|シャド
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • コードブレイカー
    賢木 守凪aa2548
    機械|19才|男性|生命
  • 真心の味わい
    カミユaa2548hero001
    英雄|17才|男性|ドレ
  • エージェント
    リッソaa3264
    獣人|10才|男性|攻撃
  • 味覚音痴?
    鴉衣aa3264hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • やるときはやる。
    呉 琳aa3404
    獣人|17才|男性|生命
  • 堂々たるシャイボーイ
    aa3404hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 跳び猫
    ナガル・クロッソニアaa3796
    獣人|17才|女性|回避
  • エージェント
    千冬aa3796hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • Gate Keeper
    赤嶺 謡aa4187
    獣人|24才|?|命中
  • Gate Keeper
    ジャスリンaa4187hero001
    英雄|23才|?|ドレ
  • 我が歩み止まらず
    クラリス・チェンバースaa4212
    機械|19才|女性|回避
  • エージェント
    木下三太郎重繁aa4212hero001
    英雄|38才|男性|ブレ
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