本部

【異界逼迫】連動シナリオ

【界逼】破滅の予兆~比良坂清十郎~

一 一

形態
イベント
難易度
難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
23人 / 0~25人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/12/28 20:54

掲示板

オープニング

●投げられた賽(さい)の行方
「ここが帝都ですか」
「大規模な戦闘があったと聞いていましたが、思ったより破壊の跡は少ないですね。安心しました」
 この日、キュリス・F・アルトリルゼイン(az0056)とヨイは厳重な警備が敷かれた帝都を訪れていた。
 多くのエージェントが侵入者がいないか目を光らせ、キュリスとヨイの周囲にも護衛が囲んでいる。
「しかし、私の目的は『天蓋の世界樹』を再起動させて転移現象を終息させること。操作も複雑ではありませんし、わざわざご足労いただかなくとも大丈夫でしたよ?」
「一連の事件に携わった者として、事件の終わりを直に見届けたいのですよ。それに、超古代文明の帝都を実際に見てみたいという個人的な興味もありますしね」
 どうしても物々しい雰囲気は漂うが、ヨイとキュリスのやりとりは気安く穏やかだ。
 道中、キュリスが疑問に思ったことをヨイが解説しながら帝都を歩き、神殿にたどり着いた。
「これは、相当激しい戦いがあったのですね」
「すみません。まだ修繕まで手が回っていないのです」
 そして、『天蓋の世界樹』祭壇がある部屋へたどり着いたヨイとキュリスは室内の様子に嘆息する。
 先日の戦闘からあまり日が経っておらず、比良坂清十郎(az0134)が逃走時に空けた大穴もそのままだ。
「ここには多くの帝国民も水晶の中で眠っていたと聞きましたが、人的被害が少ないのは本当に幸いでした」
「彼らの肉体はコールドスリープ……時間停止に近い状態にあるのでしょうか?」
「はい。専用のオーパーツを用いれば、再び目を覚ますことでしょう」
 浮かべた憂いを素早く追い出し、ヨイは取り出したタイムジュエリーをセットする。
「それでは、始めます」
 祭壇を操作すると宝石がバチバチと放電し、『天蓋の世界樹』を再起動しようとした――その時。
「っ!? これは……」
「どうしました?」
 突然ヨイの表情が一変し、慌てて操作する様子にキュリスが近づく。
「一部の操作が受け付けなくなりました! このままでは、今までの比ではない暴走が起こります!」
「っ! ――皆さん、タイムジュエリーの破壊を!」
 余裕がないヨイの言葉に、キュリスはすぐさま判断を下す。
 遠距離用AGWを持つ護衛エージェントが次々と攻撃を放ち……煙から無傷のタイムジュエリーが現れた。
「まさか、タイムジュエリーから放出されているライヴスがAGWの出力を上回っている……?」
『緊急事態発生! 比良坂清十郎が、マガツヒを連れて帝都を襲撃してきました!』
 分析しながら驚愕に染まったキュリスの顔が、通信機から響いたエージェントの警告に険しくなる。
「……状況からして、比良坂清十郎の仕業と考えてよさそうですね」
 ここにいても伝わってくる威圧感と遠くから聞こえる爆発音に、キュリスは護衛を振り返った。
「皆さんも比良坂清十郎とマガツヒの迎撃に向かってください! 私たちはここで『天蓋の世界樹』の操作を取り戻せないか試します!」
「まだ完全に乗っ取られてはいませんが、それも時間の問題でしょう! 可能な限り急いでください!」
 事態の深刻さを表すキュリスとヨイの大声を受け、エージェントたちは最低限の護衛を残して部屋を出た。

「行け、同士たちよ! 壊し、殺し、本能のままに欲望を満たせ!」
『うおおおおっ!!』
 帝都ドームの外壁を破壊し、侵入した清十郎は声高にマガツヒの士気を高めてあおる。
 首領から直接命令を下されたマガツヒ構成員は歓喜と狂気を笑みに乗せ、それぞれ好き勝手に動き出した。
「……残った有象無象も、最後くらいは役に立って欲しいものだ」
 静かになった場所で1人、ぽつりとこぼした清十郎は中央にそびえる神殿へ顔を向けた。
「さあ、見定めるとしよう――次元と終焉の果てに、我らの救済があるのか否かを」
 怒号と爆音を背景に、たなびく和装を背後へ流して歩き始める。
 漆黒の布に浮かぶ金輪は、『天蓋の世界樹』をまっすぐ捉えていた。

解説

●目標
 比良坂清十郎の討伐
『天蓋の世界樹』暴走阻止

●登場
・比良坂清十郎
 マガツヒの首領でありトリブヌス級愚神
 浮上したガリアナ帝国の帝都ドームに再び出現
 前回『天蓋の世界樹』に仕込んだライヴスを操り、完全な状態での暴走を狙う

 能力…物攻C 物防E 魔攻B 魔防D 命中B 回避A 移動D 特抵F イニS 生命C

 スキル
・先見の明…常時発動、命中・回避判定で相手の基礎値-10%
・無明…射0・範5、魔攻-60、命中+40、命中→2D6sq後退、特殊抵抗判定【魔攻vs魔防】勝利→BS衝撃付与
・奈落…射1~20・範3、魔攻+40、命中-50、命中→BS拘束、特殊抵抗判定勝利→BS減退(2)付与
・涅槃…『奈落』が命中→1度以上減退が発生、魔攻-200、必中→BS気絶(5)・暴走・封印付与

・マガツヒ
 総数不明
 清十郎の命令を受け、『天蓋の世界樹』暴走までPCたちを積極的に妨害
 H.O.P.E.警備部隊も迎撃するが、広範囲に展開しておりすべてに手は回らない

・キュリス
 H.O.P.E.ロンドン支部長
 帝都内の視察、および転移現象の終息を確認するためヨイに同行

・ヨイ
 ガリアナ帝国の女帝
『天蓋の世界樹』安定のためタイムジュエリーを使い祭壇を操作

●状況
 場所は地中海に浮かぶガリアナ帝国帝都ドーム
 中心部に大きな神殿のような城がそびえ、周囲を円形に取り囲むように民家が並ぶ
 警備は24時間体制で街中・神殿まで配置され、民家の一部は臨時の宿泊・待機場所として利用中

 当日PCはキュリス・ヨイの護衛or帝都警備として参加
『天蓋の世界樹』起動後に異変が発生し、同時に清十郎とマガツヒが帝都へ襲撃
 汚染された『天蓋の世界樹』を正常に戻すため、清十郎の討伐(生死問わず)に動く

●PL情報
 清十郎が祭壇(神殿)に近づくほど暴走の危険が高まる
 タイムジュエリー破壊での暴走阻止は不可能

リプレイ

●戦端
 襲撃直後、『鷹の目』で帝都を見下ろす高山 浩司(aa2042)は表情が渋くなる。
「うわ、ウジャウジャいやがる」
『まさに蜘蛛の子を散らすような感じだねえ』
「……骨が折れるぞ、これ」
 共鳴するたんぽぽ(aa2042hero001)は面白がっているが、今から対処する側にすれば愉快でいられない。
『ん~、あ! アレじゃないかな?』
「だな……比良坂を見つけました。現在位置と予測進路は――」
 それからすぐにたんぽぽが清十郎を見つけ、浩司が通信機で情報を共有していく。
「後は……不審な船が近付いてます。敵の増援かもしれないので警戒を」
 追加で上空を旋回する『鷹の目』から得た情報を伝え、防衛のため帝都を駆けだした。
「ついにか」
『然り。手心も何もいらぬ』
「あぁ。今回だけは、殺すだけだ。私たちとマガツヒの平行線は変わらない」
 襲撃の報にも動じないクレア・マクミラン(aa1631)の冷淡な言葉から、わずかな暗い熱がともる。
 アルラヤ・ミーヤナークス(aa1631hero002)の短い肯定を受け、狙撃銃を担いで高台を目指した。
「大人しくしてる訳がないとは思っていたが、こう来るか……」
『……ん、またやることが、多くなりそう、だねぇ』
 同じ頃、麻生 遊夜(aa0452)も共鳴したユフォアリーヤ(aa0452hero001)とため息をつく。
 ジャングルランナーで宙を舞って高所を陣取り、素早く狙撃体勢を整えた。
「調査がまだ残っているというのに……奴らに帝都を破壊させる訳にはいかない」
 一方、帝都警備の傍らオーパーツの工房を探していた獅堂 一刀斎(aa5698)は悪態をこぼす。
『それに、神官様の安否も未だ不明です』
「無論、オーパーツの製法を知る彼らも決して殺させぬ」
 共鳴した比佐理(aa5698hero001)の提言に神妙に頷き、一刀斎は『黒糸』へ目を落とす。
「何処が工房で誰が神官か分からぬなら――全てを守る」
 顔を上げた表情には、決然の色が浮かんでいた。
「マガツヒ……やはり来たのか!」
「行くわよ、拓海。前回のように、被害は広げさせない」
 警備隊として待機所にいた荒木 拓海(aa1049)は、すぐにメリッサ インガルズ(aa1049hero001)と共鳴。
「『ヨイさんの大切な人達が、ここへ戻る日の為に』」
 願いを口にし迷いを捨てて、幻想蝶から出したダーインスレイヴを構えて怒号と爆発音の方へと走る。
『決着を着けましょう』
「借りは返さないとな」
 前回、清十郎から侮られた形のマイヤ サーア(aa1445hero001)と迫間 央(aa1445)は戦意が高い。
『とにかく、清十郎を神殿に近付けない事を第一にしないとね』
「奴が混沌と絶望を求めると言うのなら、俺達は希望を示し続けるだけだ」
 不知火あけび(aa4519hero001)の方針に頷き、日暮仙寿(aa4519)は小烏丸の柄に手を添え央と並ぶ。
「とはいえ、前はマガツヒ構成員への対応が甘かったからな」
『横槍が入らないよう、先に大人しくしてもらいましょうか』
 忍刀の鍔に浮かぶ龍紋を確認し、最初の標的をマガツヒへ定める。
「比良坂の奴、あの時何か仕込んでいたなんて」
 悔しげな表情のGーYA(aa2289)は、モスケールで索敵しながら帝都を走る。
「――ぐぇ!」
「とにかく、マガツヒの動きを止めないと!」
 次々と増えるライヴス反応を睨み、ジーヤはツヴァイハンダー・アスガルをすれ違った構成員へ振るった。
『来たね』
「言った通りでしょう?」
 共鳴した聴 ノスリ(aa5623)の声に、サピア(aa5623hero001)は艶然と口元へ手を当てた。
『でも、ここからじゃちょっと遠いかな』
「問題ありません」
 屋根の上から騒動を見渡し、通信機から届いた清十郎の位置を伝えたノスリに答え、一歩。
「多少の寄り道で、ご同胞は咎めませんから」
『名も無き本』から文字があふれ、サピアの指がページを進めた。

 同時刻、神殿内のメンバーにも連絡が届く。
「職員の方々は重要物の搬出や隠匿、難しければ処分をお願いします!」
『マガツヒの収奪や破壊を防ぐためだ、急いでくれ』
 すぐにファリン(aa3137)はヤン・シーズィ(aa3137hero001)と共鳴し、各所へ連絡と警戒を促した。
『愚神だったならば好都合じゃな』
「あぁ、心置きなく殺れる――その首、今度こそ狩らせてもらうぞ」
 共鳴したイン・シェン(aa0208hero001)の言葉に、リィェン・ユー(aa0208)は低い声で答える。
 人間であれ愚神であれ、リィェンにとって清十郎は昔の仲間たちを殺した仇の大元だ。
 過去の闇は拭えずとも正義の味方として歩むと決めた以上、弔いも兼ねたけじめが必要だった。
『やっぱりね。探偵のいるところに犯人は現れるよ』
「いきなり何言ってるの」
 共鳴した百薬(aa0843hero001)から飛び出した名(迷?)言に、餅 望月 (aa0843)は若干呆れ気味。
「まあ、やっぱり比良坂清十郎はあきらめてなかったし、タイムジュエリーは常に注視してないとだけどね」
 気を取り直し、望月はヨイとキュリスの様子から事態の深刻さを改めて確認した。
「共鳴をどうにか、なんて甘い話は無理そうだね。みんなとここで、比良坂清十郎を絶対に倒す」
『だね。破壊も混沌も、愛と癒しで包もうか』
 百薬の明るさと聖槍「エヴァンジェリン」を携え、次々と望月たちは部屋を出ていく。
『うちらも行くよ!』
「でも、春月は荒事に向いていないだろう?」
 遅れて共鳴した春月(aa4200)の言葉に、レイオン(aa4200hero001)は迷いを見せた。
『回復なら、うちでもできるから!』
「……わかった。なら、攻撃は僕にやらせてもらいたいな」
 春月の戦いに向かない性格を心配しての躊躇はしかし、気丈に振る舞う姿に押し切られる。
 最後はレイオンが条件を付けて頷き、聖槍を手に走り出した。
「前回の戦いは有効打をかわされ過ぎて詰め切れなかった。なら、回避できない状態に追い込んでから、耐久力を超える打撃を一気に叩き込めば勝てるはず」
『随分とまっとうな案じゃな。面白味には欠けるが』
 道中で方針を固めた橘 由香里(aa1855)に、共鳴した飯綱比売命(aa1855hero001)の声は意外そう。
「奇策っていうのは一回だけだから意味があるの。毎回狙うのは素人なんだから!」
 返事の後に秘薬でライヴスを高め、ドローミチェーンを握った由香里は不敵に笑った。
「今回は、皆を守りきってみせる」
『重体者』が複数出た前の戦いを思い出し、藤咲 仁菜(aa3237)はアイギスの盾を握る手に力がこもる。
『……大丈夫! 清十郎の攻撃は全部見たから、ニーナと俺ならやれる!』
 共鳴したリオン クロフォード(aa3237hero001)の心配を隠した励ましを受け、自然と頬が緩んだ。
 いつも背を押すリオンの「大丈夫」で臆病風を吹き散らし、仁菜は戦いへの集中力を高める。
「……比良坂は、愚神。愚神は、殺す。ぜんぶ……殺すの」
『ひときわ大きな反応は捕捉できたわ。これでいつでも追える』
 終焉之書絶零断章を開いた氷鏡 六花(aa4969)は氷柱の翼を広げ、感情が抜け落ちた顔で冷然とこぼした。
 戦屍の腕輪の感知を担うアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)に従い、ひた走る。
『ひゃはははっ!』
 神殿の外へ出てすぐ、エージェントたちは大勢のマガツヒと遭遇した。
「敵の総数が不明で様々な妨害が考えられますから、僕たちはマガツヒの勢力を優先して削ぎましょう」
『彼の方を討ちに行く皆様を手助けするためにも、迅速な行動が求められますね』
 ヴュールトーレンTRを構えた宮ヶ匁 蛍丸(aa2951)の言葉に、共鳴した詩乃(aa2951hero001)が頷く。
 直後、道をふさぐ敵を睨む銃口が連続で火を噴き、風穴を開けんと人の壁を撃ち抜いた。
「あんな男に踊らされるとは、貴様らも家畜同然だな」
 アウグストゥス(aa0790hero001)と共鳴した黛 香月(aa0790)も、アンチマテリアルライフルを構え告げる。
「このままここでミンチにされるか、それともムショに入るか――もはやこの世に自由の道はないぞ」
 冷淡な瞳と無機質な銃口が近づくマガツヒを捉えた瞬間、殺意の弾丸が鼓膜と肉を貫いた。
『して、徹はどう動くつもりじゃ?』
「回復の他に、比良坂の攻撃から味方をかばって支援するつもりだ」
 共鳴したハニー・ジュレ(aa5409hero001)に、乙橘 徹(aa5409)はこともなげに言う。
「恐怖なんてとっくに無くした。死ななければ俺の勝ちだ」
『ワシは怖いぞ? 今度こそ楽に死にたいものよ』
「安心しろ――ここで死ぬつもりはない!」
 ハニーのどこかおどけた返しに笑み、徹は日輪舞扇で形成した炎の刃でマガツヒの太股を貫く。
「ぁづ――ぅぐ!?」
 ひるんだ隙に接近し、今度は扇で直接打ち据え意識を落とし物陰へと投げ込んだ。
『とどめはよいのか?』
「なるべく死人は出したくない!」
 余裕のあるハニーへ返事をしつつ、徹は足を止めず前に続く。
「しばらく眠っていてもらいますわ!」
 続くファリンも『攻撃予測』と身軽さを活かし、前へ出て敵の死角から延髄打ちを放つ。
 1人1人的確に気絶させると、徹と同様に空き家へ放り込んだ。
 不慮の殺害や事故死を防止する他、仲間を殺しにきた別のマガツヒを誘う囮効果も期待した処置だ。
「ここまで用意周到に仕掛けてくるとはね」
『それだけ向こうも本気、と言うか本命なんだろう』
 白夜丸で敵を牽制する九字原 昂(aa0919)は、共鳴したベルフ(aa0919hero001)の言葉に身を引き締める。
 狡猾な策も厳重な警備を突破する強引さも、それだけ清十郎が襲撃の効果を期待している証拠だろう。
「だからこそ僕らも引けないね……比良坂は必ず、ここで討ち取らないと」
 行く手を阻むマガツヒを『女郎蜘蛛』で縛り『繚乱』で蹴散らして、昂は道を強引にこじ開けた。
「小細工しやがって!」
『気付かなかった自分への叱咤は後回しですわ!』
 赤城 龍哉(aa0090)も共鳴したヴァルトラウテ(aa0090hero001)にさとされつつ大剣を薙ぐ。
「今度こそ斬らねば」
 共鳴した雪ノ下・正太郎(aa0297)も続き、開いた道をさらに広げて清十郎の元へと急ぐ。
「比良坂清十郎……生きている限り俺たちの障害となるか」
『行くぞ、覚者。私も奴には用がある』
 八朔 カゲリ(aa0098)は共鳴したナラカ(aa0098hero001)の声に無言で返し、遠く正面を見据える。
 散ったマガツヒの間を抜けて、大きな気配へ続く道をまっすぐ走っていった。
「今どこかで世界崩壊を防ぐ為、戦っている父と母の為にも……!」
 ミラージュシールドで戦闘を躱した月鏡 由利菜(aa0873)は、誓約を強く思い浮かべライヴスを高める。
『絆、律動せよ! 『シンフォニック・ハート』!』
 さらにリーヴスラシル(aa0873hero001)の宣言で、よりライヴスが活性化していく。
 清十郎を相手にはまだ足りぬと秘薬も消費し、由利菜は今できる最高の力を引き出そうとしていた。
「行くよ、つーちゃん! 祭壇に近づかせちゃ大変だもんね!」
『ああ。元が人間だろうと、愚神の存在は捨て置けない。絶対に倒そう』
 その後ろをリリア・クラウン(aa3674)が走り、共鳴した伊集院 翼 (aa3674hero001)が決意を語る。
「それに、ボクたちが比良坂清十郎とどれだけ戦えるか楽しみ!」
『……本来の目的さえ忘れていなければいいか』
 ただ、リリアは力を温存するためかマガツヒはすべてスルー。
 強者への好奇心でいっぱいな様子にため息を飲み込み、翼は改めて気を引き締めた。
「ワタシたちはこのまま、周辺のマガツヒを相手にします! 比良坂清十郎の対処はお願いします!」
 敵の壁を突破した後、望月が殿(しんがり)を名乗り出て聖槍をマガツヒへ向けた。
「畜生、待ちやがれ!」
「今度はこちらが通さない番だ。仲間の邪魔はさせないよ」
 清十郎の討伐へ向かったメンバーに怒鳴るマガツヒの前に、レイオンも残って槍を構える。
『――っ』
 立場の逆転で数を頼りに襲ってくるマガツヒを前に、春月は静かに息をのんだ。
『今回も眠らせるの?』
「余裕がなさそうだし、一構成員相手でも手加減は無理かな。きちんと倒して回るよ」
 百薬の問いに短く答え、望月は手近な敵へ鋭い突きをたたき込む。
 それからわざと敵の注意を引くよう、いろんな相手へ攻撃していった。

●叩くは元凶
 徐々に戦渦が広がる中、清十郎は1人うつむき、己へ向けた言葉をこぼす。
「……ああ、『私』はまだ間違っていない――っ」
 直後、清十郎は地を蹴り後方へ跳躍。
 頭蓋めがけて飛来したヴァリアブル・ブーメランを紙一重で躱す。
「逃がしません」
 ほぼ同時に清十郎の側面へ接近した昂が、鞘から抜刀した白刃で切りかかる。
「っ、性格の悪い攻め手だな」
『褒め言葉をどうも』
 体勢の崩れで避けきれず、ライヴスで防御した清十郎はベルフの笑みから一度離れた。
「比良坂!」
 その間に龍哉が曲線軌道のブーメランをキャッチし、さらに加速。
 距離を詰めるまでに剣への変形をすませて追撃を打ち込んだ。
「この前は世話になったな!」
「こちらの台詞でもある。君の傷は修復にずいぶん手間取ったよ」
 黒爪の清十郎と切り結び、龍哉は『ヘヴィアタック』の後にブレイブザンバーへ持ち換える。
「前もごちゃごちゃ言ってたが、ここでお前の仕掛けを打ち破れなけりゃ、どの道世界は詰みだ。なら尚の事、俺らも存分に足掻かせて貰うぜ!」
「面白い……その意志にある先、視(み)せてもらおう!」
 間断なく繰り出される刃は、『先見の明』で次々と受け流される。
 しかし、確かな手応えがなくとも龍哉の攻撃は清十郎を狙い続けた。
「俺が突っ込む。信じてるぜ、相棒!」
 そこへリィェンが短い声かけから龍哉と入れ替わり、神斬・【極】の斬撃で乱入した。
「今度は君か。あまり功を焦ると機そのものを失うぞ?」
「てめぇに忠告される筋合いはねぇよ!」
 そのまま近接戦へ持ち込み、清十郎の行動を阻害しつつ動きを見極める。
「そこだ」
 しかし、一瞬の隙で懐への侵入を許し、清十郎の黒爪がリィェンへ迫った。
「させません!」
 そこへ仁菜が滑り込み、聖なる白盾を掲げて受け止める。
 同時に聖旗「ジャンヌ」が風ではためき、フィールドの光が周囲に弾けた。
「貴方の欲望は、私達の意志が止めます――皆が大切な人と進む『明日』を掴むために!!」
「やってみろ。口だけの『明日』を取りこぼさないようにな」
 清十郎の力を完全に受け止め、仁菜は強いまなざしで両目を覆う金輪を見上げる。
「――比良坂清十郎!」
 拮抗する仁菜の後ろ、好機と見た由香里が鎖で黒爪の腕を束縛した。
「いくら先読みがすごくても、動きを止めてしまえば同じ! このまま金縛りにします!」
「なるほど、道理だ」
 二方向からの押さえ込みに合いながら、清十郎は他人事のような口振りで頷き。
「だが、やりようはある」
『な――っ!?』
 突如として由香里の鎖から抵抗が消え、仁菜も同様に前へたたらを踏んだ。
 脱力した清十郎は仁菜の影に入り接近する龍哉の進路を阻み、リィェンの追撃も由香里の鎖で退けた。
「――ふっ!」
 暗雲のぞく膠着はカゲリが破り、清十郎の標的が瞬時に移る。
 道中の『リンクコントロール』で高めた絆の力も燃(く)べられた【天剱】の力を器用に受け流した。
『汝は何故に『混沌』を望む? その先に何を視た?』
「『終焉』だ。そこに我らの救いはある」
『終焉に救済などあるものかよ。総ての生命は、より良き明日を求めるが故に在(あ)る』
 黒光の刃を黒爪で幾度も弾き躱す清十郎へ、憮然としたナラカの声が突き刺さる。
『次代に何かを託すでもなく『終焉』を求めるとは諦観に他ならぬ。『諦観に足掻いた』と嘯(うそぶ)いた汝の意志は偽りか? 現実に疲れたから自殺するのと何が違うのかね?』
「『私』は君ほど寛容でも慧眼でもないさ――自死の逃避すら選べなかった『愚者』でしかない」
 互いの得物がひときわ大きく衝突し、カゲリと清十郎が互いに離れる。
『わかっているな、ファリン?』
「ええ――回復役のわたくしたちが倒れるわけには参りません」
 後方、五色布を巻いたガーンデーヴァを手にしたファリンは、ヤンの意図を言葉にして徹へ視線を向ける。
「より重傷な方は自分が。どちらかが動けなくても、回復は途切れないようにしましょう」
「比良坂の範囲攻撃を考慮し、味方との距離にもご注意ください、乙橘様」
 交戦経験のあるファリンの忠告に徹が頷き、2人は別々の方向へ走り出した。
「比良坂清十郎――自らの為に利用できる者を悉く犠牲にしてきた者よ、ギムレーへ至る資格はない!!」
 もう1人、由利菜は『先見の明』の警戒から命中精度に優れるグングニルを構え、青白い魔法陣を展開。
「元より許しを請うつもりなどないさ」
 投擲された三叉の穂先は、寸前で清十郎に届かず地へ沈む。
 遅れて槍を引き抜いた由利菜の刺突も空を穿つのみ。
「くっ、未来予知で先手を取られる……!」
『どれだけ先読みで回避しようと、隙は完全には消せん。多人数や広範囲への攻撃まで防ぎきることも不可能だ。敵の回避行動の終わり際を狙え!』
「言うは易いが、行うはどうかな?」
 リーヴスラシルの助言で槍捌きを変化させる由利菜だが、清十郎の対応は迅速。
 槍がその身を貫く前に、躱しざま反撃を見舞って仕切り直した。
「迂闊に近づけば『未来予知』に捕まるとしても、やられない戦い方はある!」
『リンクコントロール』で活性化したライヴスを用い、正太郎は中距離を動き回りながら神斬を振るう。
「気概とは裏腹に、ずいぶん慎重なことだ」
 次々と斬撃を回避する清十郎に構わず、正太郎の腕も足も止まらず動く。
 今は虚空や大地を削るだけでも、少しずつ敵の動きは制限していた。
「よそ見はダメだよっ!!」
 そこへリリアが『トップギア』で力を高め、神斬による『スロートスラスト』を叩き込む。
「剣筋の鋭さは賞賛に値するが、身のこなしが甘い」
「――う゛っ!?」
 しかし、清十郎は跳躍でリリアの頭上を飛び越え回避し、ついでに手痛いカウンターも入れた。
『リリア!』
「けほっ! ……いたた、参ったね。本当に強いよ」
 翼の声を受け、リリアは霊符も使用し立ち上がる。
『一筋縄ではいかない相手だとは思ってたけど、こうも簡単に避けられるとはね』
「だからって、諦める理由にはならないよ! とにかく攻撃を続けて、動きを止めなきゃ!」
 おおよその力量差を理解した翼の不安を吹き飛ばすように、リリアはすぐさま斬撃を飛ばした。
 特に連携を重視する立ち回りを意識し、誰が痛撃を与えてもいいように攻めの姿勢を崩さない。
「援護いたします!」
 少し離れた位置からも、ファリンがリリアへ『ケアレイ』を飛ばしさらに治癒を促す。
「いざとなればカバーにも入りますが、無理はなさらないように!」
「もちろんだ! お互い、生きて帰るぞ!」
 続けてファリンの援護射撃が通り過ぎ、正太郎は返事と共に新たな斬撃を飛ばした。
(あくまで『味方を助ける』ことに専念しないと)
 攻撃役と防御役が清十郎へ集まったタイミングで、由香里は『クリーンエリア』で前衛を保護。
 その後、自身もスキルの光が舞う中へ飛び込み、再び盾役である仁菜の後方へ移動した。
 心の中で己の役割を確かめ、由香里は中距離から仲間と清十郎を注視する。
「これでも先を急ぐ身だ――道を開けてもらおう!」
 すると、苛立ちを声に乗せた清十郎は前衛を範囲内へ収める位置へ身を滑らせ、『無明』を展開した。
「赤城さん!」
 とっさに徹が扇を広げ、漆黒の竜巻から守る盾となる。
 同じようにリリアには仁菜が、正太郎にはファリンが防御に回った。
『ぐ――はっ!?』
「たかだか肉の壁で止まるほど、手ぬるい力を振るうと思ったか?」
 しかし、衝突と同時に凄まじい風圧で全員の体が浮き上がり、地面へ叩きつけられ『衝撃』が襲う。
「まだ刃向かう気なら、すぐに引導を渡そう」
「……っ、はああっ!」
 底冷えする清十郎の声にとっさに答えられる者はおらず、それでも追撃に反応した仁菜が盾で前へ出た。
「建て直せますか!?」
 その間に『無明』を受けた味方へファリンが『ケアレイン』を。
 徹がピキュールダーツの『ケアレイ』を飛ばして回復を行う。
 ブレイブガーブの補助があるカゲリはマシだが、龍哉とリィェンは特別魔法攻撃に強くはない。
 攻撃の要である彼らを早々に失うのはリスクが高く、ファリンたちバトルメディックの緊張は高まる。

●血と死が飛ぶ
 帝都の戦闘はマガツヒの拡散により広がっていった。
『比良坂劣勢の噂は、見事に無視されたみたいね』
「散らばられると厄介なのに、首領への崇拝に近い絶対的な信頼……か」
 警備隊含む仲間と通信機で連絡を取りあい、各場所の状況を聞いたメリッサと拓海。
 手加減なしに会敵と撃破を短時間で繰り返し、1人でも多くのマガツヒを無力化に努める。
「敵は警備隊に任せて、負傷者や重要物はひとまず神殿へ! 手が空いてる戦闘員は撤退支援を!」
 簡易の救護室としていた建物内では、浩司の声が大きく響いた。
 中にはマガツヒ突撃時に不意を打たれた者も集まっており、動ける人員のほとんどが職員。
 戦闘可能なエージェントは優先的に防衛に向かわせたため、敵に狙われれば厳しい状態だ。
「つッても、負傷者はここ以外にも集まッてるよな?」
『護衛が足りないなら、敵をひっかき回しちゃおう!』
 悩む浩司だがたんぽぽのいたずらっぽい提案を採用し、援護のため自身も建物を出た。
「これ以上は壊させない!」
『ぎゃああっ!?』
 警備隊の数が薄くマガツヒが多い場所では、ジーヤが『怒濤乱舞』で敵を一気に昏倒。
 ひるまず接近する構成員は『ストレートブロウ』で吹き飛ばし、後続にいた別の構成員へぶつける。
「行動不能にしていけば、キュリスさんやヨイさんの安全は確保できるはず」
 一通り敵を片づけ捕縛したジーヤは装備をチェルカーレGに持ち替え、次の敵へ弾幕をばらまいた。
「がぁ!?」
「ぎゃあ!!」
「ぐぇ!?」
 一方、違う場所でも建物や水晶ごと帝都民を破壊しようとしたマガツヒが次々倒れていく。
『……一刀斎様』
「すまん、比佐理……」
 また1人、一刀斎は『蛇糸』で引き寄せた敵の喉笛を『黒糸』が斬り刻んだ。
 戦闘が終わる度に背後へ増えていく死体に、比佐里は動揺を隠しきれない。
「あの娘を治す為、再び『黒ネコ』と呼んで貰う為ならば……この手が幾ら血で汚れようと構わぬ」
『全てを守る』ため、敵を切り捨てる。
 一刀斎とてこの選択に葛藤はあったが、己の目的と天秤にかけたマガツヒの命は軽すぎた。
「帝都は広く、明確な守護対象も定まらない現状、手加減する余裕は無い」
 そして、射程の長い『鋼糸』を伸ばしてこちらに気づいたマガツヒの急所を貫き、一刀斎はひた走る。
「本命も大事だが、末端に暴れられるのも困るんでな」
 高所を確保した遊夜は、狙撃地点で餓狼を砲身に刻むヘパイストスを取り出し、狙撃体勢へ。
 外壁よりあふれる敵集団を見下ろし、『弾道思考』の照準を合わせた。
『……ん、暴れる悪い子には……オシオキ、だよ?』
 クスクスと笑うユフォアリーヤの声を聞き、帝都を荒らす不届き者へ『トリオ』の弾雨を浴びせた。
「壊せ!」
「殺せ!」
 すると、マガツヒ一陣の反対方向から二陣が出現した。
 近くの警備隊がすぐに迎撃へ向かうが、人数差もあり連携がうまくいかない。
「ひゃはは――ぁがっ!?」
「ぎゃうっ?!」
 しかし、突如その中から悲鳴とともに倒れる者が出始める。
『サニタールカ、股間を狙え。弾が少しでも流されれば、大腿動脈と下行大動脈が傷つく』
「機動力を奪い、確実に仕留めるにはもってこいか」
 帝都でも高い建物の上。
 狙撃姿勢でスコープ越しに『トリオ』の成果を見届けたアルラヤとクレアは、冷淡に次の標的を探す。
 脚部を徹底的に狙うことで機動力を奪い、動きが鈍れば頭部を狙って文字通り敵の数を減らしていく。
「4時方向の戦線は安定を確認――」
 対マガツヒの戦線が安定するまでは構成員を相手にすると決め、クレアは随時位置を変更。
 カウンターを避けるべく移動を繰り返し、通信から状況確認した劣勢な場所を優先して侵攻を阻止する。
「……好き勝手やってるように見えて、こっちの妨害には熱心だな」
『……ん、でも、連携はバラバラ』
 移動する警備隊を執拗に狙うマガツヒを狙撃した遊夜は、俯瞰して見える敵の動きに嘆息する。
 ただ、耳を動かすユフォアリーヤの言う通り撃破は容易く、次第に奇襲の混乱からは脱しつつあった。
「この分なら、暴走阻止に必要そうな人や物は確保できるだろ……っ!?」
 優勢な流れに安堵した直後、遊夜はマガツヒの遠距離攻撃でダメージを負う。
「ちっ、目が多いとバレるのも早いか!」
『……ん、あの顔、覚えた』
 すぐにジャングルランナーを使用し、ユフォアリーヤの不穏な台詞を残して敵の攻撃から退避した。

 こちらは先に清十郎へ向かったメンバーを見送った香月が、銃から『餓狼』へ持ち替え疾駆。
「状況が状況だ。確実な無力化のため容赦はせん……死にたい奴から刻んでやる!」
『ぎゃああっ!?』
『怒濤乱舞』でマガツヒの集団を一気に蹴散らし、破壊神と形容されるに相応しい畏怖を叩きつけた。
「前回のような小細工で妨害されても厄介だ。誰一人とて神殿には近づかせん」
 特殊モーターの振動で漏れる大剣から電撃をまき散らし、香月の足下にまた一人ヴィランが倒れる。
『反応がどんどん集まってるわ。彼らに追いつくには、突破するしかないわね』
「愚神を殺す、邪魔をするなら……」
 集団の後方にいたため、清十郎対応から離されていた六花は、アルヴィナの台詞でライヴスを放出する。
「貴方たちも――殺してあげる」
『うぎゃああぁ!?』
 そして、躊躇なく放たれた『氷炎(ブルームフレア)』がマガツヒを包み、凄絶な絶叫が上がった。
「レイオンに春月ちゃんも、危険な戦場だから無理に突っ込むなよ!」
 そこへ駆けつけた拓海が、レイオンの存在に気づきデストロイヤーによる『怒濤乱舞』で乱入した。
『見てるだけなんてやだよ!』
「っ~、なら支援を頼んだ! 危なくなったらオレを盾にしていいから!」
『頼りにしてるよっ、お父さん!(でも盾にはしないぞ……!)』
 レイオンの口を借りた春月の意志が強い返答に、拓海は短く答えて再び魔剣を取り出し攻勢に戻った。
『……下心まで聞こえた気がするわ』
(どちらも心強い相棒で、共闘に他意はないから!)
 なお、意識内で交わされたメリッサと拓海のやりとりはオフレコで。
「どうやらマガツヒの戦力はこの場に集中しつつ、帝都の広範囲に散っているようだな」
『単純に数を頼りにした力押しだけど、混乱を広めるだけなら効果的ね』
 通信機から状況確認をしつつ、央はマイヤの分析で眉間にしわを増やす。
 本命が清十郎なのは明白だが、帝都での破壊活動は無視できずこちらの戦力も分散せざるをえない。
『繚乱』で攪乱した後に後退した央は、拓海と背中合わせになって周囲を睨み牽制した。
「ならば、マガツヒの支柱を折ることで混乱も一気に収められるな」
『その前に、邪魔はなるべく減らさないとね!』
 仙寿とあけびも加わり互いに頷いた後、再び周囲のマガツヒへ攻撃をしかけた。
「全体の戦況はやや優勢ですが……比良坂清十郎の方は足止め程度の効果しかないようですね」
『わかってはいましたが、たった1人で何名ものエージェントと渡り合うとは』
 常に通信機の情報を確認していた蛍丸の言葉に、詩乃の声も不安に揺れる。
「ぐえっ!?」
 武器を『鬼哭』の十字槍に持ち直し、迫るマガツヒを刺し貫く様子に危なげはない。
 だが、最大の障害である清十郎が健在では安全とはほど遠いだろう。
「やはり、僕たちも直接援護に向かう必要がありそうです! 急ぎましょう!」
 同じ場にいる仲間へ声をかけ、蛍丸は鋭い踏み込みでまた1人マガツヒを行動不能にした。

 蛍丸たちの場所から距離は離れ。
 ――パンッ!
「っ!?」
 単独行動のマガツヒ構成員が破裂音を聞き身構える。
「――ごぇっ?!」
 瞬間、背後から伸びた腕が首を締め付け、重心が上がった足を簡単に払われ空き家へ引き込まれた。
「比良坂がやられるまで、ここでジッとしててくださいねッ――と」
『死んだら損ソン、人生楽しまなきゃね!』
『戦闘不能』の構成員から自害用の道具を奪った浩司は、たんぽぽとともに笑む。
 彼らの戦法は、花火セットを囮にした少人数ずつマガツヒを奇襲。
 建物の陰や高所などの死角に隠れて移動し、生きたまま確保するため銀晶爪と合気道で掴み投げて無力化。
 後で身柄を回収するため、複数の空き家にバラけさせて拘束していた。
「さて、後は比良坂か……」
 通信機から把握した現状だと、マガツヒの動きは鈍りつつあり警備隊との戦況は拮抗。
 悩んだ末、浩司もそちらを援護するため走り出した。

「マガツヒは抑える、急げ!」
 また別の場所では、『女郎蜘蛛』で集団ごと敵を捕縛した一刀斎が職員へ撤退を呼びかけていた。
 浩司の指示で避難していた人々の中に、帝都民の水晶を運ぶ一団を見つけたため護衛に入ったのだ。
 着実に『黒糸』でしとめて余裕が生まれると、一刀斎は己の目的も思い出す。
「俺は別のところも回る……それと、オーパーツの工房らしき場所を知らないか?」
「み、未確定ですがいくつか――」
「感謝する!」
 運良く研究職から独特な魔法円が描かれた建物の情報を得て、一刀斎は急ぎそちらへ向かった。
「ひゃはは――はがっ!?」
「させん!」
 到着した直後すでにいたマガツヒへ『縫止』を放ち、建物破壊を籠手状のライヴスで防御し睨む。
「ここに至るまで、もう何人も手をかけてきた――今さら躊躇はせぬ!」
 敵を発見次第、交戦と殺害を繰り返した一刀斎は『ジェミニストライク』を発動し咆哮した。

「あらかた片づいたか。他の場所でも、警備隊がマガツヒを押さえてくれている」
『私達も比良坂清十郎の元へ向かいましょう』
 央とマイヤの言葉に頷き、エージェントたちは戦意をそのまま動きだそうとする。
「治療を行いますので、集まってください!」
 その前に望月が仲間を呼び止め、『ケアレイ』や『ケアレイン』を振りまき口を開いた。
「確認ですが、比良坂清十郎の戦闘はまだこの先で続いており、状況は膠着状態に近いみたいです」
『ワタシたちは残る構成員の追撃に向かうよ。ついでに、絶対死守ポイントも抑えるつもり』
「ともかく、清十郎侵攻ルートを作らないように動きます。皆さんもお気をつけて!」
『絶たせぬ術』で大幅な回復を施し、望月と百薬は通信機からの援護要請を受けて走り出した。
「……ん、急ぐ」
 その背を見送った六花は清十郎がいる方向へ視線を向け、先頭に立って再び走り出した。
 ――重度の凍傷と火傷を負い、『氷鏡』で拡散した氷塊の下で息絶えた大勢のマガツヒを、一顧だにせず。

 複数の足音が去った道から、ほど近い通り。
『一応、警備は志願だったよね?』
「してますでしょう?」
 積極的に動かないサピアへ向けたノスリの疑問は、『ストームエッジ』を返答とした。
「神殿へはこの道付近を通る……こちらに来るかしら? 来るでしょう? 来ると良いわ」
 建物の上から倒れた数人のマガツヒを見向きもせず、サピアは軽やかに屋根を飛び移る。
「――もしもまた貫きに来るようなら、そのまま抱きしめてあげましょう」
 愉し気に細めた目は、近づく戦場をただ映す。

●決死
「マガツヒの迎撃は……順調そうだね」
『油断はするな。常に視野は広く、思考は柔軟にしておけ』
 意識の大部分を清十郎へ向けつつ、マガツヒへの警戒も切らさない昂。
『零距離回避』でかすめた黒爪から離脱し、ベルフに無言で頷くと再度距離を詰める。
『そして、俺たちの仕事は――』
「――比良坂への牽制と妨害で、追撃の隙を作ること」
 清十郎の回避方向を先読みし、仲間と挟撃する位置から絶えず攻め続ける。
 ベルフとのやりとりで己の役割を再確認し、昂は大太刀での近接戦へ身を踊らせた。
「どうした? 動きが鈍ってきたぞ?」
 しかし、激しい接近戦を経てなお清十郎は衰えを見せない。
 すでに奇跡のメダルが砕け後がない龍哉だが、表情に浮かぶは獰猛な笑み。
「てめぇこそ、俺への反応が過剰だぜ?」
『私たちへの警戒が強い証拠ですわ』
「どんなに泥臭かろうと喰らいついてやる!」
 血塗れの肉体を起こし、ヴァルトラウテと頷き龍哉はリンクバーストでさらに踏み込んだ。
「ラシル! あなたに行動権を委ねます――コード・μετανοια(メタノイア)!!」
 由利菜も【超過駆動】の宣言と同時にライヴスソウルを砕き、顕現したリーヴスラシルが疾駆する。
「ニア・エートゥスを屠った神技、貴様に受けきれるか! 『ホッドミミル・リーヴスラシル』!!」
「――っ」
 青い髪をたなびかせ、紫の瞳で射竦めた清十郎へ向けるは激流がごとく間断なき超速の剣閃。
 リーヴスラシルの技巧がフロッティの軌道に自由を与え、回避に専念させられた清十郎を追いつめる。
『流れはこちらに傾きつつあるのじゃ!』
「おう! 【超過駆動】起動――押し切るぞ!」
 清十郎の防戦を見たインの言葉で、リィェンは神経接合スーツのリミッター解除を宣言する。
「――精神的優位は同時に、油断や慢心を生むものだ」
 爆発的に上昇した身体能力から繰り出す斬撃の嵐でも、清十郎を捉えきるにはまだ遠い。
「君の判断は早計だったな」
「ご――はっ!?」
 制限付きの強化から積極的に攻勢へ出た結果、リィェンは『無明』のカウンターで吹き飛び崩れ落ちた。
「『愚者』を名乗りし汝に問う。『終焉』の果て、『終わりの先』に見出す救済とは何だ?」
 奇跡のメダルが砕け、カゲリの【天剱】解放にて黄金をまとったナラカは『コンビネーション』で肉薄。
「汝の底がそれだけとは如何にも思えぬ――聞かせてみろ、吼えてみせろ! それすら出来ぬなら、汝は現実に負けた只の敗北者に過ぎぬぞ!」
「ならば『私』は真に敗北者だろう」
 連続で迫る刃を紙一重で回避しながら、清十郎は淡々と最後の袈裟切りを腕で受け止めた。
「いや――己にも視えていない救済を視た夢想家か」
「か、はっ!?」
 動きが止まり、ナラカは腹部へ刺さった蹴りで吹き飛んでいく。
 全力を出しても攻め切れない状況だったが、ここで他の場所にいたエージェントたちが姿を現した。
「遅くなりました! 援護します!」
 発光する陰陽玉を携えた蛍丸が前衛の前へ滑り込み、清十郎と対峙する。
「次から次へと……やはり、無能な部下を持つと苦労するのはどの組織も同じか」
「っ……! 貴方の命令で、たくさんの人が、死にました。貴方の下についた、人々も」
「ああ」
「人の命は、消耗品ではありません!」
「そうだな――少なくとも君たちの妨害もできない役立たずなど、消耗品にすら届かない塵芥だろう」
「っ! 比良坂清十郎!!」
 清十郎の言葉により、蛍丸から赤黒いオーラが漏れ出て黒爪を弾いた。
『……変わろうか?』
「っ! うちがやるから!」
 清十郎の威圧や殺意が充満する戦場の空気にひるむ春月。
 主導権を渡し、なお心配そうなレイオンの提案を強めに断る。
 傷ついた仲間の姿を目の当たりにして、逃げ出したい気持ちを抑え込んだ。
『わかった。味方の位置や負傷度に気を付けて。他のメディックとも連携するんだよ』
「皆が戦いに集中できるように……だね!」
 レイオンの助言を反芻し、春月は見るからに外傷がひどい仲間へ『ケアレイン』を放った。
『こちらでも比良坂を視認した! 援護に回る!』
 さらに通信機から遊夜の声が届き、一瞬後にアンチマテリアルライフルの銃弾が清十郎へ突き刺さった。
「前回は忙しくて相手できなかったが……」
『……ん、今回は……存分に味わって、ね?』
 戦場から遠い建物の上、スコープに瞳を収め犬歯がのぞく遊夜にあわせユフォアリーヤもクスクス笑う。
「命中特化の維持に掛けて逃がさん! 着弾の衝撃先すら利用してみせよう!」
 そして、前回の戦闘からくすぶる不満ごと引き金を引き、『ダンシングバレット』を撃ち出した。
「君たちに構う暇はない」
「――私たちが貴様へ配慮すると思うか?」
 集中砲火から抜け出した清十郎だが、正面に現れた香月の『ストレートブロウ』を前に足を止めた。
「本能のままに暴れ回る化け物など、ましてやそれが愚神ならなおのこと、この世に必要ない」
 香月が抱く比良坂への認識は『マガツヒ首領』ではなく、れっきとした『愚神』――憎悪の対象だ。
「貴様一人、ここで無残に散れ」
 故に有無を言わさず滅ぼすのみと、明確な殺意を乗せた香月の刃は清十郎を再び後退させる。
「っ!?」
 直後、清十郎は不意に背中へ沈んだ刃の感触と痛みで吐息を漏らす。
「――どうした? 俺の優先順位は低いんだろう?」
 同時に『潜伏』から姿を現した央が『ザ・キラー』で貫いた天叢雲剣をねじり、傷口を広げた。
「俺達は“お前を倒す”。世界樹には近付かせない」
 さらに、腹部にも『潜伏』から接近していた仙寿の『ザ・キラー』が突き刺さる。
 清十郎の黒爪による反撃は『攻撃予測』で見切り、攻撃範囲から素早く離脱。
『油断する隙なんて与えない――私達はいつでも、あなたの『死』に寄り添っているのだから』
「……なるほど、厄介だな」
 仙寿とは逆方向へ離れゆくマイヤの声に、清十郎の声音から余裕が消えた。
「っ……愚神!」
 さらに、憎悪の色濃い声を絞り出した六花が清十郎を『氷鏡』で囲む。
 間を置かず届いた断章の冷気が乱反射し、一瞬で全方位に形成された氷槍が中心へ射出された。
「手荒い挨拶だが、実に君らしいな」
 清十郎は黒爪で氷槍を砕き、時に軌道を変えて作った安全地帯へ逃れる。
「……殺す!」
 奥歯を噛みしめた六花は次々と氷槍を射出し、執拗に清十郎を追尾した。
「――比良坂は何を視て、世界樹を暴走させようとしたのかな? この状況も視えただろうにさ」
 ふと、多くのエージェントに囲まれ劣勢な清十郎を見たジーヤが疑問を口にする。
 最上位に近いプリセンサーの清十郎が、命を失うリスクを承知で襲撃したメリットが見えない。
「……どんなたくらみがあっても、俺たちが止めないと!」
 逡巡は短く、大剣を構えたジーヤも清十郎の包囲戦へ加わった。
「いい加減、道を開けてもらおう!」
 エージェントたちの猛攻に押されはじめ、焦れた清十郎は周囲に『奈落』を展開。
「危ない!」
 前衛へ迫る『奈落』に、仁菜はとっさに突き飛ばし亡者の腕からかばった。
『――ニーナ!』
『拘束』から伝わる腕の浸食に抵抗ながら、リオンの声に振り返ると新たな腕が生えてきた。
「手が足りぬなら、増やせばいいだけだ」
 清十郎の言葉通り亡者の腕は花弁のように伸び、着実に複数の肉体を貫きダメージを与えていく。
 ――しかし、エージェントたちの心は折れない。
「っ! それでも私達は、【最後まで守ることを諦めません】!」
 腕から脱した仁菜は『クリアプラス』を付与した『ケアレイン』で『減退』を消し去り、盾を掲げた。
「この盾は、私達が誓った守護の意志です!」
『小手先なんかじゃ、俺達は決して壊れやしない!』
「……厄介な盾があったものだ」
 仁菜とリオンの堅い手応えに、清十郎の声は苦々しい。
「攻め時は、ここだ!」
 その時、事前に展開した『ライヴスシールド』と神斬で『奈落』をしのいだ正太郎が単身突撃。
 無傷ではない体を酷使し進む姿に、清十郎は冷静に黒爪を突き立てる。
「っ!?」
 が、予想に反し正太郎は止まらず清十郎に隙ができた。
「敵を斬るのが俺の芸――だからこそ、芸の出し時は惜しまねえ!!」
 ファリンからもらった奇蹟のメダルを砕き、正太郎の『天下御免斬り』が脳天へ落ちる。
 とっさの回避が致命傷を避けたが、清十郎の体に一筋の裂傷が刻まれた。
「うちだって……まだやれる!」
『奈落』を耐えた春月は『クリアレイ』で仲間の『減退』を除去し、『リジェネーション』で回復を促す。
「やっと、お父さんの役に立てるよっ!」
 少し遅れて腕に『拘束』されていた拓海を『クリアレイ』で解放し、駆ける背中を笑みで後押しした。
「貴方に道は譲れません」
「っ、く――!?」
 早々にエージェントたちが復帰する中、真っ先に飛び出したのは昂。
『猫騙』からほとばしる殺気は、清十郎を脊髄反射で動かし止める。
「いい加減、範囲スキルはうんざりだ!」
 また『潜伏』状態にいた浩司が飛ばした『縫止』を体をねじって避け、清十郎は姿勢を大きく崩した。
「仙寿!」
「ああ!」
 その時、清十郎の周囲を回りながら行動を限定させる攻撃を繰り返していた央と仙寿が仕掛けた。
 仲間の攻撃で生じた一瞬の空白を埋め、わずかな逃げ道さえも奪う挟撃で清十郎を押さえて叫ぶ。
「決めろ拓海! 俺達を軽く見た事、後悔させてやれ!」
「はああっ!!」
 そこへ、無間の護符を掲げた拓海が『電光石火』で突撃した。
「今を守れば壊れる未来もある、当然だ……だが、各人各様の未来を貴様が決めるな!」
「目先しか視えぬ者に、最初から理解など期待しない」
「組織結集しても力尽くで奪うしか出来ない奴に、倣う気はない!!」
「……やはり、足下を気にする者と天気の話など無意味か」
 さらにリンクバーストを発動した拓海が『疾風怒濤』で攻め立てるも、清十郎は意に介さず躱し続ける。
(しぶとい――まだ行けるか?)
(問題ない)
 攻防の間に清十郎から離れた央と仙寿は、視線での意志疎通と同時に『潜伏』を発動。
 気配を極限まで薄め、清十郎を中心に大きく旋回しながら徐々に加速していく。
「偏っても『先』を見られりゃジリ貧だ、全てを合わせねばなるまい」
『……ん、飽和攻撃、だね?』
「それが最善だが……今は威力据え置きが本気で悔しい!」
 狙撃で清十郎の目・膝裏・足下などを射抜き、追撃の誘導や足止めで確実に身動きを封じていた遊夜。
 役目を果たしつつ決定打となる攻撃力がないもどかしさでうなる姿に、ユフォアリーヤは尻尾を揺らした。
『距離良し、誤差計算良し』
 攻撃がさらに激化する中、中心にいる清十郎を俯瞰する場所で。
『引き金を引け、サニタールカ』
 アルラヤの調整を終えた担ぎ型射出式対戦車刺突爆雷が火を噴いた。
「香港、東嵐の時からお前を追い続けた」
 遠く視線の先、攻撃態勢になった清十郎へ『ストライク』が着弾。
「香港での悲劇から今日まで続いたマガツヒの悪夢も――終わりだ」
 爆風が晴れて味方が再び清十郎へ殺到する姿を見下ろし、クレアは素早く2射目を準備する。
「消えろ、この世界から」
『射手の矜持』で追撃のタイミングを合わせ、残弾も連続で『ストライク』を用い清十郎へ放った。
「く……っ!」
『おっと、悪いな』
「こちらは通行止めです」
 分が悪いと駆け出す清十郎の足は、しかしベルフと昂から放たれた声とウヴィーツァに止められた。
「逃がしません」
 強引に離れようとした清十郎だが、蛍丸のアンチマテリアルライフルによる狙撃でさらに動きが鈍る。
「――ここだ!」
 間髪入れず、遊夜の『テレポートショット』が小さな隙をさらにこじ開けた。
「まだだ! 示現流――『一ノ太刀』!!」
 さらに国士無双へライヴスを集中させた正太郎の一閃が清十郎を襲い、間髪入れず居合で追撃。
「包囲に穴は作りませんわ!」
 背後に回っていたファリンが追加で矢を射り、清十郎の回避動作を潰しその場へ縫いつけた。
「もう好き勝手はさせない!」
 完全に動きが止まったタイミングでジーヤが側面からドローミチェーンを振るい、清十郎の足を狙う。
「今度こそ逃がさないわ!」
 さらに反対からは由香里も加わり、叩きつけるように伸ばした鎖が清十郎の腕を縛り付けた。
「2人じゃ抜け出せても、さすがにこの人数なら振り解けないでしょ!?」
「……っ」
 様々な力で押さえ込まれた清十郎は小さく舌打ちをこぼす。
「比良坂、貴様はもはや人間ではない。愚神……延いては化物だ。ここで果てろ」
 香月は『トップギア』で集積したライヴスを狙撃銃の弾丸へ込め、味方が形成した隙へ撃ち込んだ。
「……っ!!」
 大きくのけぞった姿を見た六花は、清十郎を『雪風(ゴーストウィンド)』の中心に閉じこめる。
「ちっ!」
 舌打ちから強引に拘束を抜け出た清十郎は、直撃を避けようと凍える暴風から素早く脱出した。
「……逃がさない!」
「あまり余裕がないから、当たってはやれんな」
 六花は動じず、追憶のしおりを持ち出し連続で『雪風』を吹き荒らすも、粘る清十郎を捉えきれない。
「……六花も、アルヴィナも……【寒さを厭わない】」
 それでも六花は戦意を高め、アルヴィナとの絆と誓約を意識しライヴスソウルを砕く。
『どんな苦境(さむさ)も受け入れ、乗り越えましょう』
「っ!?」
 そして、リンクバーストと『限界突破』の力で展開した3度目の『雪風』が、ついに清十郎を飲み込んだ。
「一気に攻めるよ!」
 仲間のリンクバーストに触発され、リリアも『トップギア』で蓄積した力のまま清十郎へ突貫した。
「これがボクの全力だーっ!!」
『ドレッドノートドライブ』でまっすぐ突き進み、動きが止まった清十郎へ『オーガドライブ』を叩き込む。
「っ……捨て身とは恐れ入る!」
「世界をぐちゃぐちゃにされちゃ困るからね! このままじっとしててもらうよ!」
 ライヴスを集中させた腕で受け止めた清十郎へ、リリアはその場へ縫いつけようとさらに力を乗せた。
 仲間の全力で終わらせるため、リスクを承知で体を張り清十郎の動きを止めることだけに全力を費やす。
『もう一度聞くよ。『過去機知』で何を視たの?』
「……終わりの始まりを告げる出会い。そして、世界の脆さだよ」
 その間に接近した仙寿の口から出たあけびの詰問に、清十郎は皮肉げに笑う。
「この帝国も、無数の崩壊に紛れたか細い奇蹟をたどって『今』に至りながら、『終焉』は常につきまとう」
『縫止』を弾き、虚無を吐き出して、押さえ込みから身をひるがえす。
「ならば、『終焉』の引き金を『私』が成したところで問題となるまい?」
 何とか集中攻撃から抜け出せた清十郎は、背後から聞こえた笑い声に反応した。
「ご機嫌よう。嫌がらせに参りましたよ、ご同胞」
「――君か」
「わざわざ、そうわざわざ。二度も腹を貫いてくださったものですから、余程私に会いたいのではと」
 サピアの笑みが一呼吸を生み、無数の文字がふわりと浮かぶ。
「諦念に抗うと仰いましたね? ――遠慮はしませんよ、ご同胞。さあさ、終の終まで抗ってみせて?」
「無論だ……『私』にはもう、それしかない」
 瞬間、清十郎が駆け抜けた軌跡が次々と破裂した。
「そんなに私がお好きかしら? それとも苛立ちなのかしら?」
 反転して迫る清十郎にくすくす笑うサピアの体を、三度穿つは黒爪の腕。
「聞くまでもなかろう? ――『羨望』と『同族嫌悪』だよ、サピア」
 サピアの腕は清十郎の背中へ回り、手には『ウェポンディプロイ』の複製魔導銃。
「ふ、ふ……“分かってて”やった、嫌がらせ、よ」
 発砲。
「っ!! ――手厳しいな、君は」
 吐血した口が愉快げにゆがむ。
「『王』が現れて、皆が死ぬかもしれない、大切な英雄を失ってしまうかもしれない――」
 ふらつく清十郎を再度追いつめ、なお退く意志を一切見せない様子に仁菜が詰め寄る。
「そんな時に壊して、殺して……なんの意味があるの!」
「あるさ――壊れた果ての『私』が見いだした意味だがな!」
『リジェネーション』と盾からほとばしる光を裂くように、清十郎は黒爪を振り乱した。
「もはや言葉は不要! ギンヌンガ・ガップに沈め!!」
「――ぐ、っ!?」
 仁菜が押しとどめた隙にリーヴスラシルが肉薄し、再び神速の連撃を展開。
 弾き、流し、避けて食らいつく清十郎だが、避けきれない数度の斬撃が肉を穿ち苦悶が漏れる。
「ぐ……まだ、終わら――っ!」
 ダメージでよろめく清十郎は、わずかに視えた未来に急ぎライヴスで両腕を保護。
 刹那、凄まじい衝撃に身を固めた。
「即興の連携だと『未来予知』の感度も鈍いか?」
 右腕には仙寿と小烏丸。
「言ったはずだ。わずかでも意識を外せば、『死』を貴様に突き立てると」
 左腕には央と天叢雲剣。
「渦巻く螺旋の遠心力を利用した二刀一閃――『二重星雲-フタエネビュラ-』とでも」
「長く共に戦ってきた俺の友人達を侮ってくれた礼だ、遠慮なく受け取れ」
「……せっかくの申し出だ、私からも返礼を送ろう!」
 央と仙寿からの攻撃に痛手を受けながら致命傷は避けた清十郎は、『無明』で強引に2人を引きはがした。
「ぐっ――拓海!」
「はあっ!!」
 至近からの竜巻に弾かれた央の合図で、拓海が再び『電光石火』で詰め寄り清十郎を押さえ込んだ。
「今だ、六花ちゃん!」
「――死ね」
 凍える声を漏らして『高速詠唱』で魔血晶を取り出し砕いた六花は、何度目とも知れない『雪風』を発動。
 凍てつくライヴスが血濡れて染まり、必殺の意志そのままに清十郎を喰らっていく。
「――援護を頼む!」
「っ!? させん!」
 その時、大剣を担ぎ終一閃を起動した龍哉に反応した清十郎はすぐさま『涅槃』の種を砕いた。
 直後、リンクバースト状態以外のエージェントが『気絶』で同時に倒れた。
「不覚ですわ……っ、皆様! 先ほどの攻撃は『気絶』の他、『暴走』や『封印』をもたらします!」
『奈落』の浸食を自力で抵抗していたファリンは軽い攻撃で『気絶』を解消。
『クリアレイ』を使用しながら『涅槃』の効果を周知した。
「手伝います!」
 対処法を確認した蛍丸も続き、『クリアプラス』を込めた『エマージェンシーケア』で治療へ回る。
「回復手段がある方は手伝ってください!」
 同じように由香里が残った『クリアプラス』を付与した『エマージェンシーケア』を飛ばした。
 主に後衛の迅速な対応により、倒れた者たちの戦闘復帰は早かった。
「時間稼ぎにもならんか――っ!」
 エージェントの攻勢を止められず、悪態をついた清十郎は先に視た『未来』と相対する。
「待たせたな。こいつが、今の俺が切れる最強の札――」
『反撃の狼煙』と『限界突破』の補助に加え、龍哉は『チャージラッシュ』を充填し終えて前進。
「二太刀不要の一振りだ!」
 さらに『ドレッドノートドライブ』で超加速し、伸張した極大の刃へ『タイラント』を上乗せ。
 破壊力を極限まで追求した斬閃が清十郎へ叩きつけた。
「ちったぁ身に染みたかよ!」
「っ、ぐ! ……残念だが、あと一歩――!?」
「俺が決めると思ったか? ――出番だぜ、相棒!」
 左腕、左肺、胴体まで切り裂かれた清十郎は、龍哉の笑みとともに背後を振り向いた。
「――油断や慢心は命取りだぞ!」
 見れば『戦闘不能』と思われたリィェンが動きだし、膨大なライヴスとともに咆哮を叩きつけた。
 奇襲のため装備した緊張化体感時空間圧縮装置が2度目の肉体限界を迎え、意識が一気に加速。
 奇蹟のメダル、祈りの御守り、ライヴスソウルの残骸を背後へ残し、清十郎へ肉薄する。
「――お願いします、リィェンさん!」
 さらに、逆側から迫った徹が清十郎のたなびく長髪とマフラーを掴んだ。
「っ、捕縛には弱い!」
「がはっ!」
 ぐ、と後ろへ引っ張られる力の直後、清十郎は舌打ちをして徹の懐へ裏拳を放つ。
 呼気を漏らす徹は、衣服と地面を貫き固定していた骸切ごと背後へ吹き飛んだ。
『返しは見事――じゃが、『次』への対処が多少は甘くなろう?』
 ただ、離れゆくハニーのつぶやきの通り、清十郎は眼前に迫った脅威に奥歯をきしませる。
 ――もう逃げる時間も余裕もない。
「貴様が神となるのなら、限界だろうが超えてその悪を斬る――そのための神を斬り屠る剣だ!」
『ドレッドノートドライブ』に加え、『トップギア』と『チャージラッシュ』を【極】へ集積。
 リンクバーストも加えたすべての力を『疾風怒濤』へ乗せた。
「比良坂清十郎! その首、武の鬼たる俺が貰い受ける!!」
「っ!!」
 何とかライヴスを纏った腕で防ごうとした清十郎だが、襲いくる刃は6連撃。
 満身創痍の身に余る速度に追いつけず、ついにリィェンの剣は仇敵に――神に届いた。
「があっ!!」
 体中から大量の鮮血が散り、清十郎の吐血が地面で混じる。
「……く、くくく……」
 目元を覆った金輪の布が血だまりへ落ち――爪で何度もひっかいたような両目がさらされた。
「まだだ! まだ『未来は視えていない』!」
 明らかな致命傷も気にせず、彼は哄笑する。
「『私』の求めた救済は終わっていない! 『混沌』は潰えず蠢いている!」
 ただただ狂喜に震え、天を仰いで喚(わめ)いた。
「『私』は、人類は、世界は、『終焉』に抗い続けるぞ! ――『王』よ!!」
 ……それが、比良坂清十郎の最期の言葉だった。
(私は終に諦めて、貴方は未だ諦めない)
『重体』であるサピアの耳にも、それは届いた。
(もがいて、足掻いて、それでも手を伸ばしたそれが、貴方の目指した“途中経過”……)
 重いまぶたをうっすら開け、微笑む。
(比良坂清十郎――私の、希望。貴方の進んだその果てに、どうか救いがありますように)
 そうして、サピアの本音は瞳とともにすべて覆い隠された。
「これで少しは……アイツラの心を救えたんだろうか」
 水を打ったような静寂が、マガツヒの終焉を告げる福音か。
 清十郎の肉体が消滅していく様子を見送り、リィェンのつぶやきが大気に混じって消えた。

●終わりの始まり
 清十郎の消滅はマガツヒもすぐに察知したのか、帝都から逃げ出す者が多く出始めた。
「ぁ……」
『春月!』
 凄まじい緊張感から解放されて春月の膝から力が抜け、レイオンはすかさず共鳴の主導権を交代する。
「――お疲れさま」
 倒れる前に体を支え、気が抜けて返事もできない春月をいたわり微笑んだ。
「逃げた構成員もいるはずです。指名手配などで捕縛していきましょう」
『ワタシたちの愛で精神的に再教育すれば、健全な人生を送ってもらえるはずだよ』
「愛のムチ的な?」
『いずれ癒しになるかもね』
「そっちの教育は遠慮するよ」
 ずっとマガツヒと応戦していた望月は警備部隊へ指示を出しつつ、百薬との軽口で緊張をほぐしていく。
『『天蓋の世界樹』は無事、安定させることができました。皆さん、お疲れさまでした』
 ほどなく、全エージェントの通信機からキュリスの声が響き、異変の終結が宣言された。
 未修復の部分が多かった帝都の破壊はさらに進んだが、幸い深刻な被害は出なかった。
 その後、余力がある者たちで倒れたマガツヒの回収も行う……生存者も死者も、少なくない。
「主、最後に奴が残した言葉は一体――」
「それがどうした?」
 疲労で誰もが動けずにいる中、共鳴を解除したアウグストゥスの言葉を香月は遮った。
「どれほど高尚な思惑があったとしても、比良坂やマガツヒがしてきた非道は消せない」
 満身創痍で座り込みながら、鋭い目つきは崩さない。
「愚神は殺す。例外はない」
 独白のように断言する香月に、アウグストゥスは口をつぐんだ。


結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

  • エージェント・
    聴 ノスリaa5623

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • 敏腕スカウトマン
    雪ノ下・正太郎aa0297
    人間|16才|男性|攻撃



  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 偽りの救済を阻む者
    アウグストゥスaa0790hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • 我等は信念
    アルラヤ・ミーヤナークスaa1631hero002
    英雄|30才|?|ジャ
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 王虎
    高山 浩司aa2042
    人間|19才|男性|回避
  • エージェント
    たんぽぽaa2042hero001
    英雄|16才|女性|シャド
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃



  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • 危急存亡を断つ女神
    ファリンaa3137
    獣人|18才|女性|回避
  • 君がそう望むなら
    ヤン・シーズィaa3137hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • 家族とのひと時
    リリア・クラウンaa3674
    人間|18才|女性|攻撃
  • 歪んだ狂気を砕きし刃
    伊集院 翼aa3674hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • そうだよ、楽しくやるよ!
    春月aa4200
    人間|19才|女性|生命
  • 変わらない保護者
    レイオンaa4200hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • ガンホー!
    乙橘 徹aa5409
    機械|17才|男性|生命
  • 智を吸収する者
    ハニー・ジュレaa5409hero001
    英雄|8才|男性|バト
  • エージェント
    聴 ノスリaa5623
    獣人|19才|男性|攻撃
  • 同胞の果てに救いあれ
    サピアaa5623hero001
    英雄|24才|女性|カオ
  • 黒ネコ
    獅堂 一刀斎aa5698
    獣人|38才|男性|攻撃
  • おねえちゃん
    比佐理aa5698hero001
    英雄|12才|女性|シャド
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