本部

【終極】連動シナリオ

【終極】希望で溶かせ、絶望の氷

絢月滴

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2018/11/19 20:57

掲示板

オープニング

●祈り届かず
 シベリア鉄道の車掌、ニコライ・イリイチは時刻表を確認した。イルクーツク駅を出発して、数時間。ということはそろそろクルトゥク駅に到着する。
 車窓からバイカル湖が見え始めた。
 ニコライは半年前の事を思い出してしまった。
 乗客が愚神に襲われた事件。
 H.O.P.E.のエージェント達によって無事解決したけれど、どうしても事件が起こったバイカル湖に近づくと緊張してしまう。
 何事もなく、このまま。
 ニコライは切実に祈った。
 ――だが、直後、彼は異変に気付く。
 寒い。
 こんなにも暖房を焚いているのに、寒い。一等車両の方から声が聞こえる。異常な寒さに乗客が動揺しているのだ。これは問い合わせがある前に、調べなければ。
 ニコライは思い切って車掌室の窓を開けた。
 そこから見えたのバイカル湖。蛇らしき影が見える。その影がぐわ、と大きく口を開いた。その口から吐かれているのは吹雪。その影響でバイカル湖が凍っていく。どういうことだ、これは。
(と、とにかく……お客様の安全を! H.O.P.E.に連絡を!)
 ニコライは窓を閉め、電話を手にした。


●今一度、大陸横断の平穏を
 H.O.P.E.サンクトペテルブルク支部。
 集まったエージェント達を前に西原 純(az0122)は任務の概要説明を開始した。
「バイカル湖に巨大な愚神の姿が確認された。その愚神の影響か、湖の一部とその近辺は凍り付いた。運悪く、その時に近くを走っていたシベリア鉄道が巻き込まれ、立ち往生になっている。そこに別の愚神が迫っているという報告も上がっている。そいつらを討伐し、シベリア鉄道の乗客の救助を。……説明は以上。後は任せた」

解説

バイカル湖に現れた愚神の討伐及び人命救助が今回の目的です。
以下の事柄に注意しながら、目的を達成して下さい。


◆状況
 バイカル湖の一部(アンガラ川より西の部分)が凍り付いています。
 時刻は真夜中近く。
 シベリア鉄道はクルトゥク駅(バイカル湖の最西端)の手前で立ち往生しています。
(駅に被害は出ていません)

◆愚神について
 目撃した車掌からの情報は以下の通りです。
 
  ・バイカル湖の愚神
   →巨大な蛇の姿をしています。数は一体です。氷に幾つか穴を開けそこから顔を出して周りを吐息によって更に凍らせています。少しずつ凍っている範囲を広げている様子が伺えるそうです。
  
  ・列車に迫る愚神
   →節足動物(いわゆる蜘蛛やムカデ)の姿をしています。大きさは様々。数は多く、数えることが不可能です。列車のドアや窓をこじ開けようとしています。
   

◆救助について
 シベリア鉄道の乗客は三百人程(スタッフ含む)です。列車から救助後は特別車でH.O.P.E.がイルクーツク(安全は保障されている)まで移送します。


◆その他
 分からないことがあれば、純が答えます。

リプレイ

●列車へ
「またロシアに来ることになるとはな」
 救助に向かう車の中で、ニノマエ(aa4381)は呟いた。それを聞いていたミツルギ サヤ(aa4381hero001)は息を一つ吐いて、言葉を返す。
『ぶつぶつ言うな。乗客が凍る前に助け出すぞ』
 サヤはこれから使う武器の確認をする。窓の外の吹雪を睨みつけた。酷い。これが愚神の影響とは――。



『……それにしても』
 心底嫌そうな息を吐きだしたのは、ラドシアス(aa0778hero001)だ。その手には、純から連携されたレポートが握られている。
『……また虫か』
「……これで3回目だね、こいつ等も北極から来たのかな」
 皆月 若葉(aa0778)が言った。



 皆から少し離れた場所でアリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)は肩を並べて、目を閉じて静かに座っていた。目的はただ一つ、オーダークリア――。
(……そういうオーダー、だから)
 それ以上でもそれ以下でもない。ただ、強いて言うのであれば。
「寒いのは嫌いなんだ。さっさと済ませよう」
『同じく。早く倒そう』



 風代 美津香(aa5145)は、今列車の中で震えている人々の事を思った。
 この寒さだ――いや、寒さだけではない。愚神が迫っている。その恐怖で震え、おびえているのだ。
「早く皆を助けなきゃ!」
 その言葉にアルティラ レイデン(aa5145hero001)も強く同意する。
『ええ、必ずお助けしましょう!』



 そろそろ列車が見える頃です、という運転手の言葉を受けて、荒木 拓海(aa1049)はスマートフォンを手にした。今立ち往生している列車の車掌室へとかけた。聞こえてきたのは少し懐かしい声。
「また会ったね」
【その声は……荒木さん!』
「ああ。……ニコライさん、君なら経験者だ、嬉しく無いだろろうが……乗客誘導を安心し任せられるよ」
【はいっ、お任せ下さい!】
 ニコライの声色が少し明るくなったことに、メリッサ インガルズ(aa1049hero001)が笑う。
『彼もまた”希望”ね』
「そうだね。……さあ、行こう」



 車のドアが開く。
 いざ、戦いへ。




●湖畔
 紫 征四郎(aa0076)は少しずつ、だが確実に凍っていく湖に眉根を寄せた。ガルー・A・A(aa0076hero001)も同じような表情をしている。
「凍っていきます……!」
『早めになんとかしねえとやばいかもな。行くぜ、征四郎』
「はい!」


「うおぉ……マジで寒いな」
 吹雪まき散らす蛇の愚神にリィェン・ユー(aa0208)は感嘆ともとれる声を漏らした。
「何にせよ……あれをどうにかしない限り乗客を逃がすこともできんだろうしな」
 列車の救出に向かった仲間を思い、リィェンは一度目を閉じて、そして開いた。
「待ってろよ、蛇野郎」



 日暮仙寿(aa4519)は手の中にある椿の短剣と椿の大太刀を見つめていた。それと同時に昔のことを――抱いていた感情を思い出す。”俺が俺なことが厭で仕方なかった”。
(今は違う)
 仙寿は傍らに居る不知火あけび(aa4519hero001)へ視線を送った。仙寿の視線に気づいたのか、あけびが微笑む。
(俺は俺で良かった。……剣の腕を誇る為じゃなく、この世界を守る為にヒーローになってやろう)
『白夜丸は初めて使うね』
「心は据えた。刺客の業も使って、敵を討つ」



 黛 香月(aa0790)は吹雪の音を聞いていた。虫や蛇は本来ならば春の訪れと共に目覚めるというのに。いや、たとえそこが熱帯だろうと極寒だろうと、彼女は愚神の匂いを逃さない。必ずや「王」を見つけ出し、憎き愚神との決着をつけるためならば彼女の辞書に安息の文字はない。
「そんなに暴れたきゃ相手をしてやろう。対価は貴様らの命だがな」
『そうですね、香月様』
 アウグストゥス(aa0790hero001)が香月に同意する。
 



 ナイチンゲール(aa4840)は黙って、湖で暴れる愚神を睨みつけていた。最近、彼女は口数が少なくなってきている。必要な会話はもちろんするが――と墓場鳥(aa4840hero001)は彼女に気づかれぬよう息を吐きだす。今、ナイチンゲールは何を考えているのか――。
『……グィネヴィア、行くぞ』
 墓場鳥の手をナイチンゲールは無言で取った。



●希望の戦いを~乗客救出~
 サヤと共鳴したニノマエは、今一度車内と連絡を取った。
【えっと、ニノマエさん、でしたよね】
「ああ、事前に頼んでいたことはどうなっている」
【列車最後尾、湖側ドアのみを出口とする。乗客は順に並んで下車するよう案内する……ですよね。はい、乗客の皆さまには最後の車両に順次移動して貰っています。……ですが、車内は少しずつ混乱してきています】
 ニコライに、ニノマエは低く落ち着いた声で言った。
「エージェントが避難を妨げられないよう愚神を引き離し、安全を確保する。慌てず安心して避難してほしい。そう乗客に伝えてくれ」
【分かりました!】
 ニノマエは通信を切った。
 ――戦いの始まりだ。
 ニノマエのライヴスの中、サヤが楽しそうに言う。ニノマエは彼女には答えず、ライヴスキャスターを発動させた。目標はもちろん虫の群。列車に傷をつけるものか。ニノマエの狙いは上手くいった。群れがばらばらになり、後方へと吹き飛んでいく。もちろん全てが先頭車両へと飛ばせた訳ではない。ニノマエを敵と判断した蜘蛛が糸を吐く。ニノマエは避けようとしたが、失敗した。腕に糸が絡みつく。残っていた虫を誘導しようと、アルティラと共鳴した美津香は守るべき誓いを発動させた。虫達が一斉に彼女の方へその頭を向けた。
「ハァイ! そんな所にへばりついていないでお姉さんと遊ばない? こんな美人と付き合えるなんてめったにないよ!」
(……まあ、本当はそんなこと思ってないけど)
 ――そんなことないですよ。
(ありがと)
 アルティラにお礼を言いながら、先頭車両へ向けて走り出す。何体かの虫がついてきた。だが、多くがその場から動かない。ASMG”チェルカーレG”で攻撃する。その場から動かなかった虫の何割かが雪原に落ち、息絶える。美津香の攻撃を防いだ、あるいは躱した虫たちは彼女を追いかけ始めた。
 ――虫なら光に集まる習性はないかしら?
 メリッサの言葉に、やってみようと拓海は同意する。列車になるべく衝撃を与えないようにしながらイグニスで虫たちを”あぶり落とす”。ウェポンライトの明るさを足せば、充分すぎる光量。……だが、相手は全く反応しない。
(駄目だったか)
 ――それなら正攻法ね。
 拓海はミョルニルを構えた。全て剥ぐぞ、と自身に言い聞かせる。ニノマエが放ったストームエッジが更に虫を先頭車両方面へと移動させる。やはり全てとはいかない。襲いくる虫の攻撃を受け、時には躱し、通常攻撃でニノマエは敵にとどめを刺していく。列車中央に向かっていくニノマエをほとんどの虫が追いかけ始めた。しかし一際大きな蜘蛛とムカデ含む何十体かはその場に残る。彼らは未だ後方車両に群がる虫を排除していた若葉と拓海へその目を向ける。。
(拓海さんの光と熱に少しは反応するものだと思っていたけれど)
 ――だが、やることは変わらんだろ。
「当然っ」
 声に出してラドシアスへと返事をし、若葉は弓を構えた。この敵の弱点は何処だ。
「……見えた!」
 正確なショットで、若葉は敵の足の根元を貫く。一撃。若葉はライヴス通信機を通じて、皆に敵の弱点を連携した。よし、次だ。数を、数を減らす! 若葉は武器を持ち替えた。その隙をついて、虫が噛みついてくる。痛みに顔をしかめながら、若葉は杖を振るう。範囲攻撃で敵を攻撃する。H.O.P.E.の特別列車は先にニノマエが手配してくれた通り、最後尾――つまりすぐそば――につけていてくれている。この敵を全て滅したら、乗客に乗り込んでもらおう。
 若葉と拓海は同時に声を上げた。
「……ここを守る!」
 
 
 
 一方Aliceと共鳴したアリスはひらりと――優雅に――先頭車両の上へと乗った。屋根に居た虫たちが彼女へと敵意を向ける。アリスはすかさず、アルスマギカ・リ・チューンとアルス・ペンタクルを展開する。その範囲に居る虫全てを燃やし、散らしていく。この車両に乗客はもう乗っていないようだ。ならば、後ろへ。敵の意識を自分へ。ふと顔を上げれば、虫を引き連れた美津香がやってきた。アリスに気づいたのか、虫の何匹かが彼女に向かってくる。アリスは表情一つ変えることなく、向かってくる敵を炎で包み、吹き飛ばした。その一撃でやられる虫も居れば、まだ敵意剥き出しの虫も居る。そういった虫には炎の効果で、敵の体力が徐々に減ることをアリスは期待していが、それは叶わなかったようだ。
 美津香は敵がまとまっているところにライヴスショットを打ち込む。かなりの数がその動きを止めた。一際大きな虫が残り、美津香へと攻撃をする。美津香はその攻撃を余裕で避ける。この数ならライヴスショットは使わない方がいいだろう。あとは剣で乱戦だ。
 ――彼らも愚神であるからには何処かの世界からやってきた存在なのですね。傷つけるのは可愛そうですが……。
 哀しみが含まれた、アルティラの声。
(だからといって罪もない人達を犠牲にする訳には行かないからね。だから、この子達にはあるべき世界へと還ってもらうよ!)
 先程若葉から連携された弱点を、美津香は穿つ。一撃で決めようとしたが、相手にぎりぎりで避けられた。
 この戦い、どれほど早く終わらせられるかが鍵だ。




●希望の戦いを~蛇愚神との対峙~
 ガルーと共鳴し、征四郎は皆にフットガードをかけた。これで皆、氷上でも動きやすくなったはずだ。仙寿が若葉と連絡を取り、一般人の避難状況を確認する。なかなか、安全な状況を作れないらしい。それならば、目の前の蛇を早く倒し、列車に近づけないよう事を念頭に置かなくては。仙寿は潜伏を発動させた。敵に気づかれぬよう、まずは穴の開いている場所を確認する。一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ。距離は等間隔。とりわけどれが大きいという訳ではない。その内の一つから、蛇は頭を出していた。頭は少し高い位置にある。工夫しなければ叩けない。
 ナイチンゲールもまた、氷上へと足を踏み入れた。彼女に気づいた蛇がその鎌首をもたげ、口を開く。吹雪が来るか、とナイチンゲールは身構えたけれど、蛇は首を伸ばし、ナイチンゲールへと噛みついてきた。牙がナイチンゲールの腕を掠める。
「私が相手になります、お覚悟を!」
 剣を構え、征四郎は蛇の眼前に躍り出た。蛇が自分を標的としたことを確認して、列車とは逆方向へ向かせることに成功した。あとはセンジュが動きをとめてくれる瞬間を狙おう。
 香月はバイカル湖から離れた場所でアンチマテリアルライフルを構えた。もちろん火力はトップギアで底上げしてある。蛇がその身を揺らしながら、近くに居る征四郎とナイチンゲールに噛みつき攻撃を仕掛けている。ややあって、蛇の目が紅く変化する。口元の空気が急に冷えたのだろう。白の空気がより白く。あれが吹雪を吐く合図かと皆が思った。吹雪を止める、と香月は狙いを蛇の口に合わせる。
 香月は引き金を引いた。銃弾が蛇に向かっていく。
 狙いは正確だった。
 ただ、当たる直前に気づいたのか蛇は避けた。香月はもう一度機会を伺うことにした。蛇の口元に再び冷気が集まっていく。リィェンは斬撃を飛ばした。冷気が散る。
「これ以上寒くされたら困るんでね」
 蛇が湖へと潜る。何処から飛び出るか、皆相手の気配を探る。
 気づいたのは征四郎とナイチンゲールだった。たった今まで蛇が頭を出していた穴の右斜め奥。二人はそこに向かった。蛇が再び顔を出す。ナイチンゲールは目立つように左右に蛇行した。蛇の噛みつき攻撃を躱す、躱す。
(……うん、大丈夫……こっちに、向いてる)
 当たらない攻撃に焦れてきたのか、蛇の目が再び紅くなった。仙寿が蛇の背後に回り込む。今だ、と仙寿は縫止を放った。蛇がこちらを向く。避けられるか――と仙寿は一瞬思ったけれど、ぎりぎりで蛇に命中した。蛇が咆哮を上げる。蛇の動きが止まり、口周りの白い空気が散った。
《動きは止めた。頼むぞ、小夜》
 ナイチンゲールはコンビネーションを発動させた。墓場鳥との絆の力を利用し、蛇の頭に叩き込んでいく。一発、二発、三発……! それに合わせて征四郎もブラッドオペレートを発動した。蛇の皮膚を下から上へと切り裂く。これで再び水に潜ってもダメージは継続する。仙寿は武器を白夜丸に変えた。蛇の口までは若干距離がある。だが首辺りなら。そこに狙いを定め、仙寿はザ・キラーを発動する。
(ザ・キラーも元刺客である俺の為にあるようなスキルだ……鍛錬を積んで、様々な友人や敵と出会って。最後は俺らしく戦える)
 ――不思議だね。
(ああ、そうだな)
 蛇が雄たけびを上げた。三人の攻撃が終わると同時に香月が再びその口元を狙う。しかし――当たらない。これは接近戦の方が分が良さそうだ。
 武器を大剣に変え、香月は蛇が居る方向へ全力移動する。あれだけの攻撃を叩き込んでも、まだ動き回る相手。
(……厄介だ)



●避難開始
 最後尾の車両から少し離れた場所で、若葉は最後の一匹を倒した。ライヴス通信が受信を告げる。ニノマエからだ。
「ニノマエさん、どうしました?」
【こっちも片付いた。が、敵の群れが新たに近づいている。そいつらは俺達が足止めする。その隙に乗客の避難を】
「分かりました」
 一旦武器を仕舞い、若葉は車内に居るニコライへと連絡を取る。拓海は足止めに加わる為、モスケールに映る敵の反応へ向けて走り出す。
「辺りの敵は倒しました。今から避難を開始します。ゆっくりと、焦らず出てきてください」
【分かりました。ありがとうございます!】
 若葉は最後尾の湖側の扉の側に立った。辺りの敵を倒したとは言え、注意しなければ。扉が開き、乗客が降りてくる。若葉は彼らの足元を証明で照らした。子供や高齢者に対しては積極的に手を貸す。
「大丈夫です、落ち着いて列車へ」



 現れた群れに向かい、ニノマエは声を張り上げた。
「おまえらのボスは湖の奴か? まだ後ろに強ぇヤツいるよな?」
 その声に反応したのか、反応の塊がニノマエへと一気に向かってくる。
 ――指揮官が居るみたいだ。
「そいつを潰す!」
 愚神の群れにニノマエは向かった。拓海も合流する。彼のライヴス通信機に美津香から連絡が入った。今からそっちにアリスちゃんと向かうよ、と。それに力強く返事をして、拓海は群れに飛び込む。デストロイヤーで多くを屠った。



●”絶望”は一片たりとも、残さない
 蛇の首が特別車両がある方角を向く。その隙を狙ってリィェンは重い一撃を放った。
「俺から気をそらすとは……いい度胸だ蛇野郎」
 穴から出ている胴体部分を狙い、香月は疾風怒濤を放つ。数々の攻撃を受けたというのに、この蛇は倒れる雰囲気がない。どれだけ、頑丈なんだ。蛇が穴の中へと顔を引っ込める。
「モグラたたきのつもりか? しかし貴様より機械の方が幾分も速いぞ」
 再び、全員がどの穴から蛇が出るかを探る。今回気づいたのは三人。ナイチンゲールと香月とリィェン。自分の下から蛇が出てくる気配を感じ、リィェンはその場から退いた。ばきばきと氷が割れ、蛇がそこから顔を出す。しゅーしゅーと荒い息を出し、また口元に冷気を纏わせ始めていた。蛇の死角から仙寿はもう一度縫止を発動させる。吐く吹雪は防げなかったが、動きを止めることは出来る。仙寿が縫止を使うのが分かっていたかのように、ナイチンゲールは再度最大火力での攻撃を行った。蛇はナイチンゲールの攻撃を受けつつも、彼女に顔を向ける。至近距離で吹雪を吐いた。ナイチンゲールは反応できなかった。氷上に落ちた彼女に征四郎がケアレイをかける。
「大丈夫ですか? 一度下がって!」
「……ごめん」
 仙寿は再度白夜丸を構え、二度目のザ・キラーを放つ。こちらも、あちらも随分消耗している。仙寿は若葉に連絡を取った。
《避難の状況はどうだ?》
【六割方、と言ったところ。新しい敵の集団は拓海さんたちが抑えてくれているから大丈夫】
「分かった」
 ――ちょっとまずいかな?
《あと少しだと思うが、な》
 ――征四郎。
「何ですか、ガルー」
 ――あの冷気がいわゆる蛇毒のようなものなら、上顎あたりから出てるんじゃねえかとも思うんだが。
「……試してみましょう! 皆さん、お願いします! 蛇の頭を低く!」
「任せな!」
「引き受けた」
 香月とリィェンが二人同時に蛇へと向かう。征四郎に合わせようと、潜伏を解いて仙寿はタイミングを伺った。吹雪を吐こうとする蛇に対してリィェンが斬撃を飛ばす。一番深い傷に更に追い打ちをかけようと、香月が大剣を振るった。その傷を守ろうとするかのように、蛇が頭をさげ香月に噛みつこうとする。
 ――今だ!
 征四郎が蛇の上顎を貫く。仙寿は彼女に合わせ、全ての力を込めた攻撃を行う。リィェンはオーガドライブを発動させる。香月は目前に迫った蛇の舌を切り裂いた。
 今までで一番醜い悲鳴を出し、蛇が倒れる。
 一息ついてから、五人は特別車両へと向かった。



「……燃えろ」
 高速詠唱とリフレクトミラーを組み合わせ、アリスはぱちん、と指を鳴らす。迫る虫が業火に包まれる。美津香は遠距離攻撃で拓海の援護をする。攻撃を避けきれなかったニノマエを見て、ハイカバーリングを発動させた。敵の数は確実に減り、不意に拓海のモスケールに大きな反応が現れた。拓海は皆に声をかける。その姿を最初に視認したのはニノマエだった。
「でけぇ蜘蛛」
「……これを倒せばいいんだね」
「あと少し!」
「皆、頑張ろう!」
 巨大蜘蛛が四人に向かって糸を吐く。アリスはその糸を燃やした。炎の合間を縫うようにして、美津香はチェルカーレGで狙撃する。巨大蜘蛛の意識が美津香へと向いた。
「荒木さん!」
 ニノマエは拓海に声をかけた。拓海は一つ頷き、ミョルニルを構えた。二人同時に重い一撃を巨大蜘蛛に与えた。蜘蛛の足が何本か飛ぶ。蜘蛛が再び糸をまき散らした。先程と同じようにアリスは糸を焼き切ろうとしたが、敵わず。四人全員に糸がまとわりつく。巨大蜘蛛が笑うように鳴いた。何とか糸を振り解こうと四人は抵抗する。残った足で蜘蛛は四人を薙ぎ払った。受けた衝撃にアリスと美津香にまとわりついていた糸が切れる。
「終わらせる!」
「さっさと、灰になって」
 アリスの炎に、美津香の剣。二人の攻撃が巨大蜘蛛の体を灰燼と化した。
 蜘蛛の断末魔の悲鳴を聞きながら、拓海はもう一度モスケールを確認する。



 敵の反応は、全て消失した。



●希望、灯し続け
「終わった終わった」
 ふー、とリィェンは息を吐き、盛大な伸びをした。
「……さて、次の敵を探すか」
 そう言いつつも、リィェンはおそらく”次”になるであろう敵を思い浮かべていた。
(あいつの敵討ち……ようやく狩れるところに来たか……)



「列車にも損害がなくて、良かったです」
『乗客にも被害はなし』
「うん、良かった。……皆、お疲れ様」
 シベリア鉄道の食堂車、ロシア紅茶を味わいながら征四郎、ガルー、若葉、ラドシアス、拓海、メリッサは一息ついていた。
『それにしても……あの大群。どこから出たのかしら』
 メリッサの言葉に、拓海も同意する。
「ドロップゾーンがないか、探ってみたけど……分からなかった」
『こことは別のところからやってきた、ということなのかしら』
 メリッサは暫く考えこみ――微笑した。
『暫く警備が必要って事にして、乗込みましょうか♪』
「リサ、それじゃあ仕事」
「征四郎も賛成です!」
「そうだね。こんな機会めったにないね」
 いいでしょ、ラド? と若葉がラドシアスを見る。彼は肩を竦めたが、反対はない。ピピにお土産を買おう、と若葉は意気込む。
 六人を乗せた列車は静かに出発した。



『香月様、お疲れ様でした』
「ああ」
 香月はソファーに身をゆだねた。
 今回も全てを倒すことが出来た。また次も討伐依頼があるのであれば、積極的に受けよう。
 全ては愚神との決着をつけるために。
 ――「王」を見つけ出すために。



 サンクトペテルブルク支部へ戻る車の中、アリスとAliceは向き合っていた。今回の戦いについて考える。
「えらくタイミングが良かったけど、果たしてこれは偶然なのかな」
 王の出現。
 二度目の、世界蝕。
『どうだろうね』
「まあ、いいか」



 ニノマエは車窓の外を流れる景色をただ見ていた。サヤは幻想蝶の中で眠りについている。荒木さんが居るからと、シベリア鉄道に残ることにした。がたんごとんと規則正しい音が少しだけ心地いい。
 これからもあのような大勢の敵――あるいは強大な能力を持った相手――が現れるのだろうか。だがどうであっても、自分の信念は、一つ。
「……その時に俺がどうありたいか、だ」



 仙寿とあけびは皆と別れ、イルクーツクのホテルに居た。ソファに座り、白夜丸を見つめる仙寿の隣にあけびは腰を降ろす。
『愛刀は小烏丸だけど、この切れ味は今後の切り札になるね』
「そうだな。胸に留めておこう」
『……仙寿』
 あけびが仙寿を呼ぶ。呼び捨ては二人きりの時だけの秘密の音。
『生きるも死ぬも、貴方の側だから』
「俺もだ、あけび」
 二人指を絡め、身を寄せ合う。
(必ず勝つ。――それだけだ)



結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃



  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 偽りの救済を阻む者
    アウグストゥスaa0790hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381
    機械|20才|男性|攻撃
  • 砂の明星
    ミツルギ サヤaa4381hero001
    英雄|20才|女性|カオ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 鋼の心
    風代 美津香aa5145
    人間|21才|女性|命中
  • リベレーター
    アルティラ レイデンaa5145hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
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