本部

【終極】連動シナリオ

【終極/機抗】絶望を呼ぶ希望

茶茸

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
9人 / 4~10人
英雄
8人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/10/10 09:53

掲示板

オープニング

 H.O.P.E.ニューヨーク支部に設置された捜査本部に新たな脅威の情報が開示された。
 エスペランツァ―――希望を意味する名を持つそれは、改造従魔やRGW開発研究に携わる愚神ディー・ディーと科学者D.D.が長年手掛けて来た物だと言う。D.D.は研究を進めるに従い生み出された新たな技術でエスペランツァを改良し続け、起動まであと少しと言う所にこぎ着けた。
「エスペランツァの詳しい能力については不明ですが、これまでの改造従魔やRGW兵に使われた技術の集大成、最新鋭機だと考えてください」
 ブリーフィングのために集まったエージェント達の前で説明するのはこのチームを担当するタオ・リーツェン、ではなく別の職員だった。
 タオはどうしたのかと言う質問に、職員は「寝かせました」と答えた。
 解析作業で無理をし過ぎたせいか眩暈を起こし、周りが丁度いいからと寝かせたらしい。
「ひと眠りしたらチームに合流します。これも万全の状態でみなさんをサポートしてもらうためですから」
 タオは今までも任務に同行しサポートを行っているが、今回の任務は今までより危険度が高いのだ。
「エスペランツァの起動には大量のライヴスが必要なようですが、今の時点では起動まであと少しといった状態のようです」
 職員が次にスクリーンに表示したのは「補給装置」「生産拠点」と書かれたマーカーのついたマップだった。
「これはエスペランツァの情報と一緒に解析された人工的にライヴスを生産する場所と、ライヴスが集められている補給装置の場所です。これらがエスペランツァ起動のためのライヴスを送っていると見て間違いないでしょう」
 それぞれに警備の改造従魔やRGW兵が配置されているが、特に補給装置がある研究所の警備が厚い。
「目的は補給装置の破壊ですが、研究所の警備は厚く改造従魔やRGW兵以外にも警備システムが設置されているようです。また装置を破壊するには防護壁も解除しないといけません」
 無策で突撃するだけでは警備に阻まれ装置に到達するのも難しいだろう。
「同行するタオさんには補給装置の防護壁の解除と、エスペランツァの手掛かりを得るために研究所のコンピューターにハッキングしてもらいます」
 研究所のメインコンピューターは補給装置のすぐ傍にある。
 装置の防護壁の解除が最優先だが、破壊から撤退までの間にできる限りの情報を集めたい。
「装置に辿り着くまでなるべく消耗を抑えてタオさんがハッキングしている間時間を稼いでください。防護壁さえ解除すれば一撃与えるだけで装置を破壊する事ができるはずです。破壊した後は逃げ道が塞がれる前に撤退してください」
 この作戦はほとんどのチームが各自担当する場所へ出払い救援に向かう事ができない。
 撤退が遅れれば非常に危険な状態に陥ってしまうだろう。
「私は居残り組なのでここで無事を祈る事しかできません。念入りに準備して無事に帰って来て下さい」
 そう言って職員はエージェント達に向かって祈りを捧げる。
 同時刻、タオ・リーツェンはパートナーであるケッツァー・カヴァーリと話していた。
「俺の意志は伝えて来た。止めるヤツが多かったが、理解してくれるヤツもいたよ」
 普段のタオとは全く違う口調だが、ケッツァーと二人きりの時は素に戻るのが常だった。
 彼の義眼やこめかみの機械には見慣れない装置が取り付けられているが、これは彼自身が施した物だ。
「ワシの気持ちは変わらん。どうしようもない時は契約に則りワシが引導を渡してやろう。なぁに、死出の旅路は道連れになってやるわい」
「クソジジイと一緒か。ぞっとしねえな」
 ニヤリと笑うタオにケッツァーは女の一人も作らんかったおまえが悪いわと豪快に笑う。
「……さて、そろそろ顔合わせに行くか。最後までよろしくな」
「今からそんな心構えでどうするんじゃ。まだ先は分からんぞ」
 ケッツァーがタオが大きくつんのめるほど背中を叩く。
 タオはいつも通り胡散臭い笑みを浮かべてブリーフィングルームに向かった。
 

 白い清潔な空間に茶器が擦れる僅かな音だけが響いている。
「あら、いつも以上に苦い顔ね。何かあったのかしら?」
 愚神ディー・ディーは顔を上げ、部屋に入って来たD.D.を見て口許に笑みを浮かべる。
「『目』を一つ潰された。まだ気付いて対処しただけだと思うが……」
「どう言う事かしら?」
「こちらでモニタリングしている事に気付いたんだ。逆もできると考えるだろうし、それが出来る人材と設備も整っている」
 D.D.は『目』を使ってH.O.P.E.の動向を知る事が出来た。
 『彼女』の存在に気付かれた事までは分かったが、その後の情報は遮断された。直前の状況を考えれば『目』がモニタリングされている事に気付いて対処したためにそこからどう行動するかまでは分からなかった。
「ライヴスの生産量を増やす。安定した数値を維持したかったが仕方あるまい」
「エスペランツァの場所はまだ気付かれていないの?」
「おそらくな。生産所には警備も増やすように連絡しておく。貴様のペットも全て出してもらうぞ」
 そう言われて少し考えたディー・ディーだったが、彼女とてエスペランツァの起動は心待ちにしているのだ。今の時点で停止処置などされては困るのも事実。
「そうね。ペットはまた作ればいいし、連れて行くわ」
 ディー・ディーは彼女のペットである改造従魔を集めるためにその場から移動する。
「機械は便利だけど、すぐに対処されるのが不便ね」
 歩きながらくすくす笑うディー・ディーはついてくるRGW兵を見上げて笑みを深くする。
 D.D.が監視といざと言う時にディー・ディーを拘束するためにつけた物だが、もはやその用は果たせない。
「みんなみんなわたしの子。あなたが重宝している『目』だってそう。わたしの子の目はわたしの目、わたしの子の耳はわたしの耳」
 くすくすと笑う声はどこまでも無邪気で悪意が無い。だが悪意がないからと言って害がないとは限らない。無邪気な行いは時として下手な悪を凌ぐ残酷さになり得るものだ。
「パンドラがいなくなってしまったのは残念だけど、その分わたしの声が届きやすくなったもの。残念がってばかりはいられないわね」
 RGW兵はいい出来だ。自分一人では到底作れなかった。
「あとは『彼女』だけ。できるだけ完璧に仕上げないとね」
 ディー・ディーは自分に与えられた実験室に入る。
 そこには見るも悍ましい異形の改造従魔がひしめいていた。
「さあ行ってらっしゃい。頑張ってね」
 創造主にして母であり悍ましい仇である愚神の指示を受け、改造従魔は移動を開始する。

解説

●目的
・装置の破壊

●情報
・『研究所』
 この施設のコンピューターにハッキングできるのはタオ・リーツェンのみ
 扉はハッキング1ラウンド、破壊2ラウンド消費で開くが破壊すると再度施錠できない
 隠し扉はハッキングで3ラウンド消費で開き、1ラウンド過ぎると再び施錠される
 装置の破壊後、または失敗時は即撤退を推奨

表示説明:
◎=扉 ▲=RGW兵 ●=改造従魔 F=上の階へ B=下の階へ T=トラップ 
★=隠し扉 →=隠し通路 
・一階:改造従魔A×10、RGW兵AB×各15、トラップ×3

   資搬入口 
  □□□◎□□
  □  T▲●□
□□□□□□◎□
□▲▲◎T▲● □
□   □T B □
□◎□□□□□□
表入口

・地下一階:改造従魔B×10、RGW兵AB×各10、トラップ×3
□□□□□
□F  ★→↓   
□□□◎□□★□
□TTT□  □
□▲▲ □ ◎□
□●●  ◎B□
□□□□□□□□

・地下二階:改造従魔B×10、RGW兵AB×各10、トラップ3
 防壁の解除、情報収集Pで操作しなければならない
 P=コンピューター 脱=地上に繋がる脱出経路 装置=補給装置
 □□□□□□□□□
 □F □T▲ ●装□
 □  □T▲   □
←★  ◎T▲● 置□
↓□□□□□◎□□□□□  
↓□P◎    ★◎脱□
↓□□□★□□□□□□□
→→→→↑

・『トラップ』/物理系
 特殊な電磁波を1フェーズに1回使用する
 確率で【衝撃】のバッドステータス

・『改造従魔』AB
 Aは味方に命中か攻撃アップを付与
 Bは敵に回避か防御ダウンのデバフ付与

・『RGW兵A』
 アサルトライフルと大型ナイフを装備
 平均的な能力だが連携に優れている

・『RGW兵B』
 大盾を装備した耐久特化型
 カバーリング性能が高くタフ

●NPC
・『タオ・リーツェン』
 英雄と共鳴した状態で同行します
 希望があれば戦闘にも加わりますが、その間ハッキングや情報収集は行えません

リプレイ

●敷地内。敵地突入
『もう二度と会えなくなった人にもう一度会えたら……どうしますか? なんて、訊くのは意地悪でしょうか』
 作戦開始のタイミングを待つ僅かな時間。共鳴しているセラフィナ(aa0032hero001)の呟きを聞いて、真壁 久朗(aa0032)は自嘲気味に笑った。
「どうもしないなら、今此処にお前もいない」
『ふふ、かもしれませんね。でも、もう僕達は“今を生きる”と誓いましたから。……がんばりましょう!』
 セラフィナが気分を切り替えたので、久朗もそれ以上話題を続ける事はしなかった。
 再び建物に目をやると、喧騒からは程遠い空間に突如として爆音が響き渡った。場所は物資の搬入口だ。
 外にいても建物内で鳴っているだろう警報器の音が聞こえて来る。今頃警備は搬入口に向かっている事だろう。
「タオ、警備の様子は?」
 久朗に聞かれたタオ・リーツェン(az0092)は持ち込んだコンピューターのディスプレイを確認する。
「搬入口近くの警備が動きました」
 ディスプレイには建物の配置図と内部に広がる光点が移動して行く様が映っている。
 この場所は愚神ディー・ディーとD.D.が守るべきと判断した場所だ。警備の厚さから考えても正面からただ突入するのは危険だった。
「仕掛けは上手く作動したようね」
『凄まじい爆音だな』
 大音量のデスソニックを仕掛けた藤咲 仁菜(aa3237)とパートナーの九重 依(aa3237hero002)は同じ仕掛けを手掛けた荒木 拓海(aa1049)と頷き合う。
「これで少しは侵入しやすくなるはずです」
『あとは上手く次の仕掛けに行けばいいけど』
 拓海に共鳴しているメリッサ インガルズ(aa1049hero001)が焦れるように言ったが、すぐに何かが破裂する音と同時に建物の裏手が明るくなる。
「仕上げは上々ってな」
『……ん、すごく派手……』
 麻生 遊夜(aa0452)は発火装置に仕掛けておいた大量の花火「動」を見張っていたのだ。
 何せ量が量である。上手く発火しなかった物は装置ごと狙撃し火の中に弾き飛ばした。
「似たような任務で無様晒したからな」
『……ん、汚名挽回……返上?』
 尾が楽し気に揺れているのは共鳴したユフォアリーヤ(aa0452hero001)に連動しているのだろう。
「よし、突入するぞ。もう一度通信機の確認を」
 迫間 央(aa1445)の呼びかけに全員が通信手段を確認する。
 央自身も問題がない事を確認し、この場に集まった十人が建物の正面入り口に向かう。
『央、気を付けて。正面入り口の敵は動いていないようだから』
 マイヤ サーア(aa1445hero001)の警告に分かっていると返しながら進む。
 搬入口に向かった敵が戻って来る可能性は十分にある。下手をすれば背後に回り込まれて挟み撃ちだ。
 木陰 黎夜(aa0061)と共鳴したアーテル・V・ノクスは突入口である正面入り口の状況をタオに聞く。
「正面入り口の……数は……」
「八体のRGW兵がいるようです」
『面倒な方が残ったか』
 事前情報通りならRGW兵は守りの大盾、攻めの銃器持ちの両方がいる。
「別経路からの侵入はしっかり警戒されている訳か」
 不知火あけび(aa4519hero001)と共鳴した日暮仙寿(aa4519)は苦々しい顔で近付く正面入り口を見る。
 この研究所は愚神ディー・ディーとD.D.が作り上げた『エスペランツァ』を起動させるためのエネルギー源。彼の二人に対する怒りはあるが頭は冷えている。
 扉はフロストガラスのようでここから内部を窺う事はできないが、確実に警戒を強めているだろう。こちらも冷静に掛からねばならない。
(ダスティン達の意思に応えるためにも)
 言葉にしない思いと共にまた一歩入口に近付く。
『向こうから掛かって来るかもね』
 あけびの懸念の声は聞こえていないだろうが、泉 杏樹(aa0045)は大丈夫だと言った。
「信頼できるお友達、いっぱいで、心強いの」
 口調こそおどおどとして聞こえるが、その目に恐怖はなく仲間達を信頼しているのが分かる。
「大好きな兄様と、一緒に、守るの。一緒なら、怖くない、です。ナイチンゲールも、共に戦った、大切な友達、一緒に戦えて嬉しいの」
 ナイチンゲール(aa4840)は杏樹の視線を受けてもちろんと頷く。
「必ず成功させてみせるわ」
『この施設もろくなものではなさそうだしな』
 墓場鳥(aa4840hero001)の言葉には同意しかなく、ナイチンゲールはいよいよ到着する正面入り口の扉を前に武器を握る手に力を込める。
 全員が正面入り口周辺に取り付き、タオを囲むように立つ。
 その時、モスケールを見ていた遊夜は搬入口側に向かっていた光点の動きが変わった事に気付いた。
「搬入口の仕掛けに気付いたか?」
「急ぎます」
 タオが手早く入口横にあるキーボックスを開き、攻略を始めた。
 頭部と義眼に見慣れない機械を装着したタオはノートパソコンのような機械端末とコードを取り出し、キーボックスと接続。そして頭部の機械にもコードを繋ぎ端末を操作をする。
 緊張感故にか酷く長い時間に感じたが、実際にはほんの十秒程度で電子音が鳴り、鍵が解除された。

●一階。時間との勝負
 飛び交う攻撃はいくらかエージェント達にダメージを与えるが、それは敵側も同じ。
 央は可能な限り刀身で敵の銃弾を凌ぎ、ライヴスによって分身を作り出す。
「数は此方が上。突破するぞ」
「応」
 仙寿が抜き放った守護刀「小烏丸」で斬りかかる。
 銃のRGW兵を狙った攻撃をすかさず遮る大盾持ちのRGW兵の盾と刀が火花を散らす。
「まずは扉までのルートを確保しないと」
 拓海は敵の背後にある扉を視認する。
 敵はこちらの狙いを察しているらしい。進路上に大盾持ちのRGW兵が陣取り、後方で銃を持つRGW兵が構えていた。
「全員相手にしていたら増援が来るな」
 フラメアを手に立ち回る久朗は自分と味方が持つスキルやアイテムの限界数を思い返す。
「損耗はなるべく減らさなければ」
 本命は地下二階。そこにも警備のRGW兵や改造従魔がいるのだ。ここで消耗しきってはいけない。
 久朗は扉の進路上の障害物となったRGW兵を穿つためフラメアを突き立てる。
 黎夜と共鳴して補佐役に回っているアーテルはやや後方から戦況を見詰めていた。
「数が多いから……早め、速めに、だな……」
『全員を相手にするのは厳しいだろうからな。だが、焦るな』
 黎夜のリフレクトミラーが攻撃範囲を広げ、密集体形に近くなっている盾のRGW兵を狙うも手応えは硬く、しかと構えた大盾は揺るがない。
 一筋縄ではいかない連中が相手だと嫌でもわかる。
 遊夜は仲間の援護を死ながらその陣形を崩すチャンスを待つ。
「上手く行くといいが……」
『……ん、こういうのは……上手く行けば、儲けもの』
 ユフォアリーヤのあっさりした物言いにそうもいかんだろうと放ったフラッシュバンは見事に敵の視界を眩ませた。
「行くよ!」
 その隙を突いて仁菜と杏樹がタオを伴って扉までのルートをこじ開ける。
 ナイチンゲールはフラッシュバンの影響を受けなかった敵を狙ってレーヴァテインを鞘から抜く。
「邪魔はさせない!」
 鞘の名はレーギャルン。引き抜かれたレーヴァテインの攻撃は離れて場所にいる敵を切り裂いた。
「タオさん、ハッキング最優先で、お願いします、です」
 杏樹が盾を持ち、敵の攻撃からタオを守る。
 全ての攻撃を杏樹一人でカバーリングするのは難しくとも、ナイチンゲールが、仁菜が、敵を抑えている仲間達がいるのだ。
 だが、仲間がいるのはエージェント達だけではない。
「開きました!」
「搬入口の連中が来るぞ!」
 タオと遊夜の声がほぼ同時に響く。
「多少の無理は仕方ない。突っ込むぞ!」
 銃弾と大盾を構え突撃してくるRGW兵を凌ぎながら扉をくぐる。
 次のフロアには邪魔にならない程度の椅子や観葉植物らしき物があるが、その周辺にたむろっていたのは数人のRGW兵と一体の改造従魔だった。奥にあるのは地下に繋がる階段だろう。
 央はフロアの状況を見て取るべき行動を組み立て、仙寿に声を掛ける。
「仙寿、探知を頼む。ここは俺が解除に当たろう」
「では敵の応対はおまえ達に任せた」
 仙寿が仲間達の方を見ると、言われるまでもないといった表情が返って来た。
 それもそうかと仙寿は敵ではなく罠を見る。やや離れた場所に一つ。エレベーター近くに一つ発見する。
 罠の位置を伝えるとナイチンゲールがクロスガードで防御を上げた。
「それじゃ、その間こっちは私が抑えるよ」
 ナイチンゲールが武器を向けたのは先程通った扉ではなくこのフロアにあるもう一つの扉。
 遊夜のモスケールには扉のすぐ向こうで集まって来る敵影が見えていた。
「頼もしい、麻生さん、黎夜さんに、援護は、お任せです」
 杏樹が盾から薙刀に持ち替える。エージェント達はまだ不利といった状態ではないが、タオを庇っている杏樹以外にもじわじわと負傷が増えて行っている。このあと地下一階、地下二階とある事を考えれば、増援が来る前に急いで階段前の敵を退け階下に降りなければならない。
 遊夜と黎夜もそれぞれの武器を構え突破の姿勢を取り、タオもこの状況ではと端末を武器に持ち替えようとする。
「私も加勢を……」
「駄目だ」
 それを止めたのは拓海だった。
「前の戦いのような変わり果てた人を見たくない……その為にもオレ達を盾とし利用する気合で身を守ってくれ」
「……では鍵のコードを変えられないかやってみます」
 鍵を開ける時とは勝手が違うので上手くいくかは分からないが何もしないよりもいいだろうとタオが言う。
「大丈夫、杏樹と、ナイチンゲールが、しっかり、守るの」
 杏樹にそう言われ、拓海は頷いてその場を任せる。ウコンバサラを手に向かうは階段前にいるRGW兵だ。
 続くのは久朗と仁菜の二人、そして仙寿と央である。
「迫間と日暮は罠を頼んだ」
「敵の方は私達に任せて」
 久朗と仁菜、拓海が階段前の敵と交戦している間にと央と仙寿が罠を解除して行く。
 機械によって作動する罠は解除されるまでに幾度かエージェント達の行動を阻害してきたが、場数を踏んだ彼等にとって脅威とはならなかった。
 罠を解除した後は仙寿と央もRGW兵の対処に回り、元々数体しか残っていなかったRGW兵と改造従魔を退ける事にも成功する。
「よし、皆下へ!」
 拓海の合図で後ろの扉の警戒をしていたナイチンゲールと杏樹もタオと共に階段へと向かう。
 全員が階段を降り切ったのを確認したと所で扉が開きフロアにRGW兵たちが雪崩れ込んだのが見えた。
「すまんがここは通行止めなんだ」
『……ん、大人しく……上で待ってて、ね?』
 楽し気なユフォアリーヤの声を聴きながら、遊夜は階段に向けてカチューシャを撃つ。
 拓海も同じようにカチューシャを撃ち階段を破壊するが、相手は改造従魔とRGW兵である。階段が無くなっても飛び降りて来るだろうとデストロイヤーで階段周辺も含めて徹底的に破壊した。

●地下一階、速攻戦
 破壊された階段付近に配置された敵はいなかったが、階段を破壊音は充分聞こえただろう。
 事前情報に記された隠し扉を探している途中、近くの扉が開く音がした。
「早速のお出ましか」
 真っ先に反応した仙寿の女郎蜘蛛が扉を出ようとしていた改造従魔を絡め取る。
 その後ろにいたRGW兵は隠し扉を探そうとしているタオを不審に思ったらしく銃口を向けたが、遊夜の狙撃で防がれてしまう。
「流石、H.O.P.E.でトップの精密射撃だな」
 央の賞賛に遊夜もまんざらではない。
「命中特化の面目躍如ってな」
『……ん、ボク達の目からは……逃げられない、よ』
 ユフォアリーヤが聞こえないのを承知で告げると同時に扉の境目にいる改造従魔の影から攻撃しようとしたRGW兵の銃が遊夜の狙撃で弾かれる。
「扉を見付けました。時間稼ぎをお願いします」
 その間もタオは顔も向けずに作業を初めているが、不満に思う者はいない。
 自分達を信頼しての事であればそれに応えるまで。
 隠し扉前の廊下はそれなりの広さはあるがエージェント達が展開し敵と戦うには少々手狭だ。
 しかし、黎夜とアーテルには好都合だった。
「密集してるなら……好都合……」
『飛んで火にいるなんとやら』
 扉を通ってこようとする敵は仙寿と仁菜の女郎蜘蛛で一番前にいる敵を絡められ、その体が障害物として扉に集まって来た敵の障害物になっている。
 自然と後ろで密集体系になる敵に向かって黒い魔法書を開く。
「まとめて……倒す……」
 リフレクトミラーの力で攻撃範囲を広げられた霧の猛獣が襲い掛かった。
『ブルームフレアは温存だ。この状況なら通常攻撃だけでいい』
「分かった……」
 アーテルの意見を聞き入れ、黎夜はひたすら黒の魔法書による攻撃に徹する。
「扉が開いたわ! 閉じる前に入って!」
 戦闘中、隠し扉が開いたのを見た仁奈がすぐに声を上げる。
 この扉は一定時間が過ぎると閉じる仕組みらしく、一度閉じればまたタオがハッキングして開くまで迫る敵の中に残される羽目になるのだ。
「敵中孤立なんざ勘弁だからな」
『……ん、逃げ場もないから……脱出も出来ないねぇ』
 遊夜にユフォアリーヤも同意する。
 エージェント達は急いで隠し扉に飛び込んで行くが、その途中タオがふらつき足が止まった。
「あぶない、ですっ」
 咄嗟に杏樹が抱え、後ろで何かあったと気付いた遊夜が消火器を敵前に放り投げて破壊すると言う目くらましをし事なきを得たが、流石に肝が冷えたと安堵の息が漏れる。
「大丈夫、です、か?」
「ええ、なんとか。ありがとうございます」
 タオ自身まさかの失態だったのか糸目が少し開いていたが、一瞬その色が若草色に見えたような気がした。
「にしても、随分な数の警備だな」
 隠し通路を走りながら久朗は仲間達に治療を施す。
 見れば自前の回復アイテムを使っている者もおり、今のところ上手くいっているように見える行動も一歩間違えれば総崩れを起こしても不思議ではないように思えた。
『それだけの物があるのなら、危険を冒す価値もあるかもしれません』
 セラフィナの励ますような言葉にそうだなと返しつつ、回復スキルとアイテムの残量を忘れないよう頭に刻みつけておく。
「地下二階まであと一頑張りね」
 ナイチンゲールが通路の先を指差した。
 この隠し扉を抜ければ地下二階に繋がる階段は目の前だ。
「……大丈夫なの?」
 タオが隠し扉の解錠のため頭部と端末の両方にコードを繋ぐのを見ながら、ナイチンゲールは小さく尋ねた。
 仁菜もタオの顔をじっと見ている。D.D.の一件で荒れている姿を見られている事もあり、タオの胡散臭い笑みが少し困った感じになった。
「役目は果たしてみせますよ」
 言い終わると同時に扉が開き、それ以上の追及は出来ずに終わった。

●地下二階。巨大装置
 地上一階、地下一階と敵の追撃を凌ぎながら駆け下りた階段も、地下一階の時と同じく破壊する。
 そうして辿りついた地下二階はひどく静かだった。
 警備に当たっているものは決して装置から離れないよう指示されているのかもしれない。
 一歩間違えば怒涛の如く押し寄せただろう敵を切り抜けて来たエージェント達にとってこの静けさは逆に不気味であった。
「ここからは二手に分かれるよ」
 仁菜がそう言うと、その場に集まったエージェント達はいよいよだと頷く。
 二手に分かれた内の一方が装置とそれを守る警備を、もう一方が隠し通路から回り込み、装置の防護壁を消すためのコンピューターがある場所に向かう。
 杏樹はここでタオの護衛から外れる。コンピューターのある場所に向かうのは仁菜とタオの二人だけだ。
「仁菜さんなら、安心して、タオさん、お任せなの」
「任せて」
 タオが装置側のフロアの扉を解錠する。
 エージェント達は互いに頷き合いってタオに開けるよう促した。
 そして開いた瞬間に襲い掛かる集中砲火。
「不死の巫女、杏樹は、痛くないの。だいじょぶ、です」
 護衛から殲滅側へと変わった杏樹は薙刀を手にフロアに飛び込む。
 脇をすり抜け央と仙寿が駆ける。
 罠師で発見したトラップは三つ。敵との戦闘の傍ら解除するのは困難だったが、仲間達の協力を受けて無事すべてを外す事ができた。
 トラップを解除し憂いなく戦いに集中できると、仙寿と央が武器を抜く。
「タオが目的を達成するまで時間を稼ぐ。行くぞ、央!」
「仁菜がついているが、二人を長く孤立させられないな」
 央が敵の攪乱のためジェミニストライクで分身を作れば、仙寿はライヴスジェットブーツで文字通り飛ぶようにようにフロア中央へと走り敵の真っただ中に飛び込んだ。
 そしてすべての武器が自分に向く前に、影を模して作った繚乱の桜の花弁が舞い踊る。
「央さんと、仙寿さん、最強コンビ、いつも、かっこいいの」
「これは負けていられないな」
 杏樹の呟きに遊夜が冗談めかして言う。
 タオと仁菜は既に隠し扉の向こうに消えた。防護壁を解除するまでどれだけ時間が掛かるか分からないが、今は目の前の敵に集中するだけだ。
 フロア前に陣取りひたすら引き金を引く。
「ここで……出し惜しみは、しない」
 黎夜はここぞとばかりにブルームフレアをはじめとしたスキルを惜しみなく使って行く。
 倍以上の数がいる敵からの攻撃は苛烈だった。
「俺の方はそろそろ品切れか……泉さん、次は頼む!」
 久朗が大盾の横手から飛び出そうとしてきたRGWを槍で仕留めつつ叫ぶ。
 RGW兵には恩恵を、自分達には妨害を与えて来る従魔を薙刀で払い、杏樹は久朗に任せろと頷く。
「癒しを、お届け」
 勿論杏樹のスキルにも限界はあり、各々が持つ回復アイテムも数に限りがある。
 しかし装置を目の前にして引けないのはエージェント達も同じ。
「ここで負ける訳にはいかない。これ以上の犠牲は見たくない」
 拓海はデストロイヤーを手に敵が居並ぶ場所へ突撃する。怒涛乱舞の攻撃が破壊者の名に相応しい鉄槌を以て大盾を、銃を持つRGW兵に襲い掛かり、改造従魔はその悍ましい体をくねらせ断末魔の声を上げる。
 その声は酷く悲しく、苦痛に満ちており、ナイチンゲールは歯噛みした。
「早く終わらせないと……」
 仲間達を守るべく敵前に立ちはだかりレーギャルンから剣を抜く。
 今だ列を成す敵の背後に見えるのは床から天井まで伸びる巨大な装置。
 あれが目的のライヴス補給装置だと言うのは誰の目にも明らかだった。
「ライヴスを”生産する”ってどういうことだと思う?」
 ナイチンゲールは返ってくる言葉をほぼ予想しながらも言わずにいられなかった。
『遺憾ながらお前と同意見だ』
 果たして墓場鳥から返ってきたのは源泉として「使われた」犠牲を思わせるものだった。
「……残念だよ」
 そう呟いて、ナイチンゲールは剣を振り下ろす。
 一方、仁菜とタオは無事隠し通路を抜けコンピュータールームへと到着していた。
 ずらりと並ぶモニターと様々なコンソールを前に、タオは扉の解錠と同じように機械のコードを引っ張り出して端末と自身の頭部に装着した機械に繋げ操作する。
 これまでの違ったのは端末に大量の記号と数字の羅列が流れ始めると同時にタオの表情が歪んだ事だ。
「負担がかかっているみたいね」
 仁菜の指摘に曖昧に笑ったタオは唇に人差し指を当てる。
 今は答える余裕もないと言う事か、それとも言いたくない事があるのか。どちらとも判断がつかなかったが、仁菜は多数の敵を相手に装置の防護壁が消える時を待つ仲間の事を思い口を噤んだ。
 フル回転する端末の機械音とタオがコンソールを操作する音だけが響く。
 今か今かとその時を待っていた仁菜の耳に突如大きなブザーのような音が飛び込んで来た。
 はっと顔を上げるとコンピュータールームのすべてのモニターが赤くなっている。
「何が……!」
 タオを連れて離れるべきかと思ったが、振り向いたタオの糸目が半月の形に笑っているのを見て、今度はその意味を正確に理解した。
「やった!」
 思わず快哉を叫んだ仁菜。
 同じ声が壁を一枚隔てたフロアでも響いていた。

●装置破壊。宣戦布告
 ブザー音は装置を前に奮闘するエージェント達の耳にも届いていた。
 もしや増援が来る前兆かと身構えたが、装置がまとっていた淡い光がふっと消えたのを見て何が起きたかを悟る。
「仁菜の方は上手くやったようだな」
 仙寿が近間の敵を斬り伏せると、戦列を無理矢理こじ開けるように飛び出す。
「ああ、後は装置を破壊するだけだ」
 央自身は破壊には向かわず繚乱を使い敵を翻弄する。
「装置破壊に向かう奴は急いでくれ!」
 久朗は敵の数を減らすよりも装置破壊に向かう仲間の道を開けるために槍を振るう。
 回復スキルは使い切り、杏樹と視線が合った時に問い掛ければ彼女の方も品切れだと言う。
 手にした回復アイテムもそれが最初の一つでない事は分かっている。
「もう少し耐えて!」
 ナイチンゲールが仙寿の後に続き、彼女が抜けた穴を拓海と杏樹が埋める。
『皆聞こえる?!』
 装置の破壊に向かう者とそれを阻止しようとする者、更にそうはさせじとする者で混戦状態になり始めた時、エージェント達の通信機に仁菜の声が届いた。
『防護壁が消えたのは分かったと思う。後は破壊するだけなんだけど……』
 どうやらタオから説明を受けたらしく、彼が言うには装置に一定以上のダメージを与え破損させると蓄積されたライヴスが高密度を保てなくなり霧散する。
 そこまではいいのだが、フロア内と言う限定された空間で急上昇したライヴスは切っ掛けさえ与えれば大爆発してしまうと言う事だった。
『ここで戦い続けていたら何が起爆剤になるか分からない。装置を破壊したら急いで脱出しないと』
 仁菜はタオを伴い既にコンピュータールームから出て地上に繋がる脱出経路を発見していると言う。
「……予想は、してたけど……」
 黎夜は思ったよりも危険な報せを聞いて、心なしか攻撃がより激しくなった。
 同じく中列組として戦っていた遊夜もこれはまずいとすぐに脱出できるようルート確保のために拓海や久朗、杏樹、央たちと合流して戦う。
 そして装置の破壊に向かった仙寿とナイチンゲールは迅速に目的を果たして離脱するため足を急がせていた。
「あまり時間は掛けられん」
「一気にやるわよ!」
 防護壁を失った装置はRGW技術を応用しているのか、二人の武器を以てしても即破壊とはいかなかったが攻撃を続けていると突然点灯していたランプなどが全て切れて行った。
「破壊確認、任務完了だな」
『……ん、あとは……逃げろ逃げろ』
 遊夜とユフォアリーヤの言葉に続いてフロアにあるもう一つの扉が開いた。
 飛び出して来たのは仁菜である。
「皆、急いでこっちに!」
 全速力で脱出経路に向かったエージェント達が辿り着いたのは地上に繋がるエレベーターのような物だった。
 中にはボタンが一つだけあり、押すとなかなかのスピードで動きだす。
「皆さん、お見事でした」
 タオのその言葉を聞き、漸くエージェント達からも緊張感が薄れて行く。
 ほっと胸を撫で下ろす者、やれやれと腰を下ろす者など様々だったが、ナイチンゲールはタオに聞きたい事があると言った。
 実はハッキングの際、ライブス補給装置の”源泉”は何か、人であれば救助可能か調べて欲しいと頼んでいたのだが、タオが首を横に振った事で全てを悟ってしまった。
 それは周囲の仲間も同様で、ナイチンゲールは気遣わしげな仲間達に哀しく微笑むしかなかった。
「なんなんだろうね、これ」
『あら、文句を言いたいのはこっちだわ』
 突然響いた声にエージェント達が身構える。
 声の出所はエレベーター内部にあるスピーカー。そして操作盤の上についていたモニターが勝手に作動し、若草色の髪をした少女、愚神ディー・ディーが映った。
『本当にいけない人達。私のペットやおもちゃならいくら壊しても許してあげたけど、これだけはだめよ。私のかわいいエスペランツァ。彼女が起きるのを楽しみにしてたのに……許さないわ』
 そしてディー・ディーは告げる。
『この代償は必ず払ってもらうわ。放っておいてもあなた達は滅ぶけど、それじゃだめ。私がひとつひとつ壊してあげる。楽しみにしていてね』
 画面の向こうで無邪気に笑うディー・ディー。
 ベールから唯一覗く唇が愛らしく微笑んでいると言うのに、エージェント達はその笑みに寒気を覚えた。
 一体何が起きると言うのか。分かるのはそれが人にとって悍ましい悲劇に成り得るだろうと言う事だけだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命



  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 私はあなたの翼
    九重 依aa3237hero002
    英雄|17才|男性|シャド
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
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