本部

【終極】連動シナリオ

【終極/機抗】作戦コード「狼の沈黙」

影絵 企我

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/10/05 21:06

掲示板

オープニング

●陰謀
「H.O.P.E.に頼まれていた件について、こちらの情報網を用いて調査出来る限りの調査を行った」
 澪河 青藍(az0063)に向かって、ロバート・アーウィンの秘書が書類の束とUSBを差し出す。青藍は書類を手に取ると、ぱらぱらとめくっていく。
「それを見て貰えばすぐにわかるが、アルター社は極秘裏にリオ・ベルデと接触を続けていた。資金や物資の相互の融通が行われている。米墨は影に日向にリオ・ベルデに対する圧力を数年間続けていたが、彼らが音をあげなかったのはこのパイプの影響も大きいだろう」
「……まあ、一研究員が独断で国を巻き込んで武器開発とか、無理にもほどがありますからね。あくまで主導はケイゴ・ラングフォード、アルター社は彼の行動をしっかり認知して資金の拠出を行っていた、というところですか」
 青藍の呟きを聞いて、ロバートは頷く。
「概ねそんな所だ。だが、今回君の耳に入れておきたいのはそこではない」
 ページを捲る手を止めて、彼女は首を傾げる。ロバートの秘書はそっと青藍の傍に歩み寄ると、傍らから覗き込んでページを捲っていく。
「これをご覧になってください」
 言われるがままに目を通すと、それはアルター社とリオ・ベルデの間で行われた会合内容の記録だった。内容は資金の融通がどう、ライヴス鉱石の取引がどうという、良くある闇取引だったが、眺めているうちに青藍は眉をひそめていく。
「少しニュースを見ていればわかると思うが、リオ・ベルデのクーデターを成功させたハワード・クレイはそれ以降殆ど公に姿を見せていない。普段は彼の英雄とみられる人間がメッセンジャーを務め、彼は闇の中に引きこもっている」
「待ってください。……この記録が確かなら……」
「まあ、公に姿を現さないだけなら、理解できない事もない。軍人が優れた弁士とは限らないし、うっかり姿を見せたところを暗殺……が独裁者の最も恐れるところだろう。だがどうだ。我々との秘密裏の会合にすら一度も姿を見せた事がないらしい」
 ロバートはそこまで語り終えると、一度天を仰いで息を整える。 
「勿論、アルター社如きには自分が出向くまでもないという意志の現れかも知れないし、我々による暗殺を恐れた可能性もある」

「だが……彼の引きこもりっぷりは、何処か怪し過ぎると思わないか?」

●影に生きる
「第九地区に従魔が発生したようだ」
 軍服を纏った細身の女が、白髪の男に向かって淡々と報告する。男は手にしていた書類を目の前に投げ出し、ソファに背を預けた。
『またか。今月に入ってもう十件目だ。流石に数が多いな。あの洞窟の出現も響いているか』
『プリセンサーからの報告によりますと、この地区にはH.O.P.E.のエージェントが出現するとの見込みもありますが。いかがいたしましょう?』
 長い金髪を後ろで纏めた少女が、デスクに向かう女に尋ねる。H.O.P.E.、の名を聞いた瞬間に女は眉間に皺を寄せた。ズレた眼鏡をかけ直し、女は静かに立ち上がる。
「セオドラ、出立の準備をしろ。エヴァンス、ジョンソン、フリッツ、スミスの四人を招集してこい。それから、今回は私も出るから、武装の支度もしてくれ」
『了解しました』
 少女は静かに立ち上がると、駆け足で部屋を飛び出していく。その背中を見送りつつ、男は肩を竦めた。
『まあ、御嬢様ならそう言うだろうと思った。ならば各省への連絡は私がやっておこう。君は思う存分視察してこい』
「いつも迷惑かけるが……よろしく頼む」
 部屋の隅に掛けた軍帽を手に取り、女は目深に被る。

「我々が沈黙を破る時も、間近かもしれん」

●沈黙のうちに
「今回の任務は、リオ・ベルデに出現した従魔の群れの討伐です」
 ブリーフィングルームに集められた君達を前に、オペレーターは説明を始める。スクリーンには現場の地図が映されている。道路網が複雑に入り組み、迷路のようだ。
「……表向きは。むしろ、今回の任務の最大の目的は、この戦場に出てくるであろうリンカー特殊部隊の戦力分析にあります」
 スクリーンの映像は替わり、アメリカのライヴス鉱山に出現したリンカー特殊部隊の映像が映される。軍服の上から黒いロングコートを纏った彼らは、幽霊のように闇から闇へと飛び回り、米軍リンカーを翻弄していた。
「彼らも治安維持のため、国内に出現した従魔は必ず討伐しています。国家間でのトラブルを避けるために、H.O.P.E.はリオ・ベルデ内での愚神、従魔討伐を彼らに任せてきましたが……最早そのようには言っていられない状況です」
 映像は再び地図へと移り変わる。一番太い通りに、降下点を示す星印が刻まれた。
「リオ・ベルデとは衝突が起きるかもしれません。その時に備えて、大義名分がある時に、抜ける情報は抜いておかなければならないのです」

「当然、相手も同じことを考えている筈です。その点には注意しておいてください」

解説

メイン リオ・ベルデ国内に出現した従魔の群れを討伐せよ
サブ リンカー特殊部隊の戦力(装備、スキル等)を確認せよ[☆の能力を抜く事で成功]

ENEMY
デクリオ級従魔レイス×20
半透明の姿を持つ従魔。見た目通りに壁や障害物を透過して移動する能力を持っている。

NPC
リンカー特殊部隊×4
 ハワード・クレイ肝いりの特殊部隊。全て命中適性ジャックポットで構成されている。
ステータス(PL情報)
・命中ジャックポット(70/45)
スキル(PL情報)
・テレポートショット
☆アハトアハト
・トリオ
☆弾道思考
・誓約復唱

オフィサー×1
 特殊部隊を束ねる士官。厳格な雰囲気を覗かせる女性。
ステータス(PL情報)
・命中ジャックポット(80/50)(スキルは特殊部隊と同様)
作戦(PL情報)
・シュレッダー
 全員で一つのターゲットに対して攻撃。如何な防御も強引に削り切る。
・スカーミッシュ
 都市内に散開。敵を分散させてから個別に叩く。

FIELD
・リオベルデ
 様々な高さの建物が入り混じり、道路も蜘蛛の巣のように複雑。敵を見失いやすい。
・市民
 従魔の襲撃で混乱し、物陰に隠れたり逃げ惑ったりしている。可能なら支援を。
・昼
 明かりは必要ないが、市内は影になって薄暗い。

TIPS
・従魔撃破のためとはいえ、存在を特殊部隊に悟られてはいけない。実力を秘匿される。
・特殊部隊は住民の避難を優先しない。常に従魔を狙い続ける。
・【共宴】Propagandaに参戦していた場合、PCは自動的にオフィサーに対する何らかの知見を得る。
 →していない場合はプレイング次第。情報共有は必須。

リプレイ

●H.O.P.E.到着
 ステルス機能を施した輸送機が高高度を駆け抜ける。エージェントはハッチから飛び出し、一気にリオ・ベルデの市街地へと舞い降りた。事件地からはやや遠く、警備部隊が気付いた気配もない。八組は素早く路地裏へ身を潜め、それぞれ準備を始めた。
 四人が一斉にイメージプロジェクターを起動し、服装を偽る。地図を片手に、赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)は囁き合う。
「俺らが居ると明らかになった時点で目的の半分は失敗ってとこか」
『スニーキングミッションですわね、蛇に倣いませんと』
「段ボールなんざ被らねえからな」
 いつものゴシックロリータを古ぼけた服に装ったカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は、御童 紗希(aa0339)に尋ねる。
『なぁマリ。澪河の話によると、大佐は今まで殆ど表に出てないらしいじゃないか』
「それが何?」
『以前大佐と戦っただろ? こんな表に出てこない奴が戦闘の最前線にいきなり出てくるのはおかしいと思わないか? しかも奴は堂々と俺らの前に姿まで晒した。その画像データも残ってる』
 カイに言われ、紗希はぼんやりと以前の戦いを思い出した。猛禽を思わせる容貌とは裏腹に、その立ち振る舞いは白鳥のようにしなやか。およそ男の動きとは思えなかった。
『あの時戦った奴は、本当にクレイ大佐だったのか……?』
 泉 杏樹(aa0045)は二人のやり取りを聞きつつ首を傾げる。彼らとは違い、杏樹は大佐の姿を殆ど見られずにいた。クローソー(aa0045hero002)は娘に尋ねる。
『ハワード・クレイとは何者だ』
「自分の国に住む人を使って、人体実験をしているかも……しれない、人なの」
『そうか。それはいかんな。他者の自由を奪うのは、許されることではない』
 ショールを巻いて口元を隠し、杏樹は頷く。既に現地の地理情報は頭に叩き込んだ。スピーカー「アンジュ」で敵の動静を探る用意も整えてある。彼女は意気込んでいた。
「今度こそ、リオ・ベルデの皆さんを、救うの。レジスタンスの、皆さんの代わりに」
 黒のレースを重ね、黒いベール付きの帽子に長手袋までして、きっちりとその身を覆い隠したナイチンゲール(aa4840)は、僅かに目を伏せる。
「レジスタンス……」
 人体実験の証拠を掴み、監視社会で束縛する独裁者を倒すために立ち上がったレジスタンス。しかし結局はアルター社の陰謀に踊らされていただけだった。
『気にかかるか』
「気にかかることだらけだよ。最近は特にね」
『それもそうか。……だが心せよ。彼奴等は我々と戦力の本質が違う』
 墓場鳥(aa4840hero001)は改めてナイチンゲールに言い含める。片や民兵、片や正規軍。個々の実力で勝っていても、H.O.P.E.は彼らに何度も辛酸を舐めさせられた。霧吹きで髪を湿らせつつ、彼女は頷く。
「わかってるよ」
 そこへ、ヴァイオレット メタボリック(aa0584)がやってくる。一般的な老婆に成りすました彼女は、西洋式の喪服に身を包んだ彼女を見上げる。
「おぬしはクリスチャンだか?」
「ええ、まあ。いざという時は墓参りで来た、って誤魔化そうかと」
「最近、婆にしか変われない様になっちまっただ。このまま弱い婆になり切るしかねえだな」
 ヴィオは杖を片手で振るう。本当の歳が幾つだったかも最近よく判らなくなってきていた。そんなヴィオの顔を、ポンチョを羽織ったプリンセス☆エデン(aa4913)が覗き込む。
「大丈夫? 無理しないでよ?」
 尋ねられると、急に彼女は真面目くさった口調になる。
【ええ。心します】
『それにしても、これは中南米ファッションとして古典的ではないかと』
 Ezra(aa4913hero001)は変装道具で“地味になった”エデンに尋ねる。上下の服はともかく、上着のポンチョが風でひらひらしている。その中に隠れた手には、魔導書が握られていた。
「でも、これ着とかないと魔導書が隠せないし」
『まあ確かに』
 その隣で、桜小路 國光(aa4046)がクロスボウの弦の張りを確かめていた。
「備えあれば憂いなし、だな……よし」
『弓……いつの間に教えてもらったんですか?』
 メテオバイザー(aa4046hero001)は尋ねる。その意識に浮かんでいるのは、彼にとって気の置けない親友の背中。それを感じ取った國光は苦笑した。敬愛する“兄”に弓術を教わっていた事、國光はメテオに話したつもりだったのだが。
「忘れてるし……」

 銘々手早く準備を済ますと、いよいよ作戦の地へと歩を進める。シキ(aa0890hero001)は十影夕(aa0890)の左手をそっと握りしめた。
『さ、しんこきゅうだ。ふるえるてでは、とりこぼすよ』
「わかってる。……大丈夫。シキがいる」
『うむ。わたしは、いつでもおまえのためにある』
 幾つもの戦火を潜り抜けるうち、何故か依頼前に身体が強張るようになってしまった。夕は深呼吸をすると、そっとシキと共鳴する。
「ああ。共鳴すればいつもどおりだ」

 エージェント達は一斉に駆け出した。

●特殊部隊、降下
 市街地に足を踏み込むと、既に死霊の軍団が出現して人々を脅かしつつあった。避難を急がなければならない。エージェント達はその足を速めようとするが、空を裂くプロペラ音がそれを遮る。
 咄嗟に物陰に隠れて空を窺うと、開いたハッチから五人が一斉に飛び降りてきた。軍服の上から黒いロングコートを纏い、顔はゴーグルで覆い隠している。モシン・ナガン風のライフルを手にし、腕章を身に着けた一人が他の四人に指示を送っている。

『コマンドポスト付きの特殊部隊とは本格的ですわね』
「もしかしたら情報収集用のドローンを飛ばしてるかもしれねえ。迅速に、でも慎重にな」
 龍哉は味方に指示を送りつつ、一体のレイスを追って建物の中へと飛び込む。中では、今まさにレイスが透明な手を一人の男に向かって振り回そうとしているところだった。龍哉は咄嗟に間へ割って入り、攻撃を両腕で受け止める。
「大丈夫か? 今のうちに逃げろ」
『出来るだけ静かに。身を低くして移動するのですわ』
 響く男女の声に、目を白黒させながら男は逃げ出す。それを見送った龍哉は、素早く周囲に目を配り、幻想蝶から取り出した大太刀を抜き放った。壁の中へ引っ込んだレイスを、壁ごと強引に叩き切る。
「まだ銘は無いが、こいつの斬れ味は一味違うぜ」
『……本当に壁ごと斬るとは思いませんでしたわ』
 龍哉はモルタルの欠片を払い落すと、武器を幻想蝶へ戻して窓際へ寄る。雨樋を登った兵士が、ベランダからレイスを撃ち下ろしている。見られないよう気を付けながら、彼はそっとハンディカメラを向ける。
「なるほど。連中、斬り込んで来るタイプじゃないらしい」
『位置取りから言っても、今回は狙撃部隊のようですわ』
 兵士がちらりと龍哉の方へ眼を向ける。彼はカメラとその身を咄嗟に壁へ引っ込めた。

 淡く光る左目をガーゼ眼帯で隠し、カイは物陰に身を潜める。そのまま登山リュックに偽装したモスケールを起動すると、レイスや特殊部隊の位置を探りはじめた。リュックは青い光を放っている。
「見た目は誤魔化せても光は無理なんだ……」
『しゃーねえ。今んところ奴らの死角にいるから問題ないだろ』
 モスケールを切ったカイは、アンカーを屋根に引っ掛け、鎖を伝って一気に屋根へ登る。その服装は、動き出した時のものからさらに変わっている。
[あいつらベランダとかにいるぞ。気を付けろよ]
『わかってる。そうヘマはしねえって』
 龍哉の連絡を受けつつ、カイは慎重に屋根から下を覗き込む。ナイチンゲールが所定の動きでレイスを掻き集めているが、一部は構わず周辺をふらふらと漂っている。カイはその一体に狙いを定めると、素早く屋根を飛び降り、レイスの一撃を受け止める。
『向こうには従魔が居なかったから、さっさと逃げろ』
 傍の住民に言い放つと、彼らが背中を向いた隙に大剣を抜いて敵を切り払った。

「怪我はねえだか?」
 老婆に成りすましたヴィオは、屋内に隠れた住民達に向かって救命バッグを取り出す。一人の腕からレイスにやられたらしい火傷を見つけると、彼女はわざとらしく驚いてみせる。
「あんれまぁ、こりゃいけねえ」
 アイシングパックを取り出すと、彼女は傷に押し当てる。
「すまねえ」
「困った時はお互い様だ。後は部隊が何とかしてくれるべよ」
「まあな。もう少し俺達に気を向けてくれたら言う事ねえんだが」
 ヴィオは男の顔を覗き込む。雑談に交ぜ込んで、リンカー特殊部隊の動静を探る算段だった。
「そうだな。こっちの避難も手伝って欲しいもんだ」
「仕方ないわよ。その分早く片付けてくれるんだからいいじゃない。早く戻らないと煮込んでた豆がぐずぐずになっちゃうわ」
 恰幅のいい女が平然として言う。傍の従魔より鍋の心配。彼女は襲撃に随分と慣れ切っているらしい。ヴィオは彼女に尋ねた。
「おぬし、部隊についてどう思う?」
「どう思うって言われても……人体実験の噂もあったけど、アレはアルター社が流した嘘だったでしょう? 出てきた従魔や愚神はきっちり退治してくれるし、特に何とも思わないわね」
 何を当たり前のことを。女はそう言わんばかりだった。

 夕は子ども達やその他を連れて迷路のような路地を進んでいた。
「ねえ、逃げるならどこがいいと思う?」
 従魔の襲撃に少女は怯えきっていたが、それでも敢えて尋ねてみる。考え事をさせて緊張を和らげる。そんなつもりだった。
「……いつもは、南の広場に逃げてる。そこに逃げろって、キスクのおじさんが言ってた」
「おじさん?」
「いつもテレビに出てる人だよ。知らないの?」
 言われて夕は思い出す。大佐は表に出ず、普段からメッセンジャーが国民とのコミュニケーションを取っているのだという話を。
「(キスクっていうのが、そのメッセンジャーなのかな)」
 夕が思いを巡らせたとき、突然周囲から悲鳴が響き渡る。壁をすり抜け、三体のレイスが少年少女へ襲い掛かろうとした。
「まずい……!」
 もはや四の五の言っていられない。咄嗟に武器を取り出すと、レイスを三体纏めて撃ち抜いた。ライヴスを受けてうっすら燐光を放つ銃身を見つめ、少年が尋ねる。
「お兄さん、リンカーなの?」
 夕は応えず、傍を通りかかった夫婦を呼び止める。
「待って。この子達を逃がして」
 何故他人の面倒まで、と彼らは露骨に嫌そうな顔をする。夕はレイスの攻撃を身を挺して受け止めながら、彼らを諭す。
「こんな時だもの。落ち着いて、助け合わなきゃ。そうでしょ?」

『(建物の高さがバラバラなのです)』
「(迂闊に屋根に登ると、あいつに見つかる可能性は大きいな……)」
 頭から布をすっぽり被った國光は、個人商店の中からそっと外を窺う。二階の窓辺に陣取った特殊部隊の一人が、マグナムで通りがかったレイスを撃ち抜いていた。
「(マグナム系AGWの有効射程は30メートルくらいだったハズ……)」
『(上から撃ち下ろしてる事も考えると、もう少し距離があるように見えるのです)』
 もう既に何発も撃っている。弾道思考を取り入れているのは明白だ。気付かれる前に顔を引っ込めると、背後に縮こまっていた女へ振り返る。その腕には包帯が巻かれていた。彼が手早く手当てしたのだ。
「今は安全みたいです。このうちに避難しましょう」
 彼女に手を貸し、國光はそっと立ち上がらせる。同時に、窓から腕だけがひょいと覗いた。
「あっちが安全そうだよ!」
 エデンの声だ。メテオも女に声を掛ける。
『とりあえず、彼女に従って行動してください』
「は、はい」
 女は包帯を押さえながら窓の枠を乗り越え、通りを駆けていく。それを見送った國光は、こっそりとクロスボウを構え、目の前の建物に漂っているレイスを撃ち抜いた。

「きゃー! こっちに従魔がいる!」
 物陰に隠れたエデンが悲鳴を上げる。迫真の演技だ。実際には物陰でライヴスゴーグルを掛けたり、スマホを置いてみたりやたらとせわしなく動いているのだが。
 エデンが道路に眼を向けると、小太りの男が転んだまま動けずにいる。彼女は諸々の道具を幻想蝶へ押し込めると、近くを通ろうとした青年へ近寄っていく。
「ねえお兄さん、怪我してる人がいるの。か弱いあたしじゃ肩を貸せないよ~助けて~」
 化粧で地味にしていても、溌溂とした美少女っぷりだけは誤魔化せない。青年はいいとこみせようと張り切り、腕まくりを始める。
「任せな。コイツの事か?」
「うん、そうだよ~」
 腰を押さえてうんうん呻いている男を、青年は全力で担ぎ上げる。
「いだだだ」
「なっさけねえなあ、お前も男だろうが」
 青年は呻く男に喝を飛ばしつつ、南へ向かって歩き出す。エデンはそれを見送ると、雨樋を伝って素早く屋根へと上る。
『(気を付けてください。近くに兵士がおります)』
「おっと」
 エデンは素早くパラペットに身を隠す。兵士は地上をふらつくレイスを黙々と撃ち抜いていた。その動きには迷いが無い。
「(あの人達はどうやって従魔の場所を特定してるのかな?)」
『(我々が使うモスケールのような装備を使用してるのでしょうか?)』
「(だとしたらあたし達の場所も知られてるかな?)」
 改めて覗き込むが、彼らがエデンに気付いている素振りは無い。
「(とにかく、今はこれでちゃんと見とかないとね)」
 エデンはミラーリングしたスマホを取り出し、映る兵士を見つめていた。

 一方、もう一人のアイドルは市民のふりして掻き集めた市民を南の避難場所まで逃がしているところだった。
「敵が匂いで嗅ぎつけるかも、なの。風上に、逃げる、です」
 こっそりと風を巻き起こし、杏樹は人々に手招きする。ジャンヌのような勇ましさだが、四の五の言う者も無く、彼らは素直に逃げていた。
『(今の所は上手く行っているようだが――)』
 クロトが呟きかけた瞬間、風に吹かれたようにレイスが人々へ襲い掛かろうとする。杏樹は咄嗟に身を挺して人々を庇った。誰かが悲鳴を上げたが、杏樹は構わず声を張り上げる。
「アンジュは、大丈夫です。行ってください」
 それを号令に、人々が一気に逃げ出す。杏樹は扇を手に取ると、再びの攻撃を防ぎながら周囲を見渡す。兵士はいない。杏樹は左手にライヴスを込め、路地に土壁を造り出した。自身の姿を隠すために。
 杏樹は扇を振るい、レイスの頭に痛打を見舞う。レイスは咄嗟に距離を取ろうとする。杏樹は見えざる鞭を放ってレイスを縛り付け、すかさずもう一撃見舞った。レイスは声も無く消滅する。
『(杏樹、一旦下がるぞ)』
 道路の真ん中に突っ立っていては見つかる。杏樹達は時を歪め、一瞬にして建物の中へと飛び込んだ。ここならば簡単には見つからない。

 そのはずだったのだが。

 屋根を伝って駆けていた一人の兵士が、土壁を目にする。そこは只の道路だったはずの場所。首を傾げると、兵士は士官へ連絡を送る。
「B4区画にて未確認の物体を発見。金の掌で作られた土壁と思われます」
[ならば近くにH.O.P.E.のエージェントがいるはずだ。警戒して任務を続行しろ]
「了解」
 兵士は頷くと、身を低く構え、ゴーグルのこめかみに手を当てる。うすぼんやりと光るゴーグルは、周囲を鋭く睥睨した。

●8.8cm Flak “Cannae”
 喪装を纏ったナイチンゲールは、息を切らすようにしながら走り回る。周囲には多くのレイスが漂っている。ひたすら逃げ回る彼女を、既に5、6体ものレイスが取り囲んでいた。
『(よくもまあ掻き集めたものだ)』
「(仕上げはこっからだから)」
 出くわした女に向かって怯えきった悲鳴を上げて、彼女はさらに逃げ惑った。レイスはその後を追いかけていく。作戦は良くハマっていた。
 人っ子一人いない広場に駆け込むと、兵士達の姿が見えた。二階の窓に一人、ベランダに一人、屋根の上に一人、ゴミ箱の影に一人。てんでバラバラの位置につけているが、その銃口は全てレイスを向いている。
「(よくもまあ、綺麗に布陣を敷いちゃって……)」
『(ブリーフィングの映像もそうだったが、ゲリラ戦にも長けているようだな)』
「(なら、その実力を見せてもらおうかな)」
 ナイチンゲールはわざとアスファルトの罅割れに蹴躓いて倒れ込む。起き上がるが、腰を抜かしてしまったふりをして、涙を浮かべながら後ろへずり下がっていく。その姿はまるで、今にも取って食われそうな小市民。
「(さ、どうするの?)」

「……三文芝居も良いところだ」
 三階の窓から、オフィサーは静かにナイチンゲールを見下ろしていた。闇に溶け込んだ彼女の姿に、ナイチンゲールは気づけない。その一方でオフィサーはそのゴーグルでナイチンゲールの保有するライヴス量をしっかりと確かめていた。
「H.O.P.E.の諸君。愚神や従魔を斬り伏せる力はともかく、まだまだ強かさには欠けるな」
 オフィサーは口端に笑みを浮かべ、一人呟く。ボルトを引くと、彼女は一発の弾丸を薬室の中に押し込めた。
「だがまあ、誠実だ。その誠実さに倣って、君達の望みを少しくらいは叶えてやろう」
 ボルトを押し戻すと、彼女は素早く物陰から身を乗り出し、ナイチンゲールが集めたレイスの群れにオープンサイトで狙いを定める。
「“Cannae”、3、2、1……」
 彼女は引き金を引く。同時に他の四か所からも銃弾が放たれた。放たれた五発の銃弾は間もなく白熱して膨張し、レイス達の周囲で弾け飛ぶ。ライヴスの奔流の中心へと押し込められ、逃げ場も断たれた従魔達は、瞬く間にその存在を削り取られ、消滅した。

 物陰に潜み、激しい爆発をカイ達も眺めていた。その爆発を見ると、苦い思い出が蘇る。
「(……今のって)」
『間違いねえ。……アハトアハト、しかも同時に四、五発入れてる』
 モスケールを起動してみると、既に周囲に敵影は無い。敵の情報も確認は出来た。後は撤退するのみだ。カイは素早く通信機を取った。
『敵は全滅した。とっとと撤退――』
 刹那、こめかみに何かが押し当てられる。
「他人の庭に上がり込んでおいて、挨拶も無しか?」
『なっ……』
 振り返ると、腕章を付けた兵士がライフルを構えて傍に立っていた。カイは咄嗟に剣を抜いて脇に構える。

「ちょっとちょっと。ヤバい感じだよね?」
 エデンはポンチョを脱ぎ捨てると、魔導書を構えて屋根から階下を見下ろす。しかし、そんな彼女をEzraが呼び止める。
『お待ちください、御嬢様。左を……』
 見れば、同じく屋根から身を乗り出し、兵士がピストルの銃口を彼女へ向けている。
「うわぁ、ピンチって感じだよ……」

「カイさん、紗希さん……!」
 仲間のピンチを杏樹は見逃さない。再び時を跨ぎ、全力で紗希の傍へと駆けつける。
『彼らの背中を守るんだ、杏樹。どこからも狙われている』
 扇を構えると、杏樹はカイと背中合わせになって立つ。物陰から兵士が狙いを定めていた。

 通信が不自然に途絶えた事に気付き、夕は必死にアパートの狭間を駆けていた。
「ここで戦いになるのはマズい。……止めないと」
 夕は再び銃を抜く。フラッシュバンを叩き込んで、その隙に逃げる。前もってそう伝えていたが、彼もまた兵士に狙われていた。
「……強引には突破できない、か」
 彼もまた銃を兵士に向ける。いつでも威嚇射撃で牽制できるように。

 こうなっては誤魔化しても仕方ない。ナイチンゲールは帽子だけ脱ぎ捨てると、剣に手を掛けながら現場へと駆け寄る。
「すごいね。貴方までいるなんて、全く気付けなかった」
「これが我々の本分だ」
 ナイチンゲールも路地の前で足を止める。刃にライヴスを纏わせ、ベランダから狙いを定めている兵士と睨み合った。

 ヴィオは通信機からそんな彼らの様子を耳にしていた。
【相手に出来る者では有りませんね。隠密行動に移行します】
 迷彩マントを羽織ると、彼女は身を隠してこっそりと移動を始める。勝てない相手と戦火を交えるつもりは無かった。
【とにかく、情報を持ち帰れるようにしなければ……】

 一方、少し離れた物陰から龍哉は様子を窺っていた。
「おいおい、どうする……」
『一旦様子を見た方がいいですわ。問答無用、というわけではないようですし』
 五人が得物を向け合う緊張状態。誰もが引き金に指を掛けながら、動く気配は見せない。龍哉は大太刀を抜き放ち、刃を足元に伏せた。

 國光も建物の中から様子を見守っていた。クロスボウに矢は番えてある。いつでも撃つことは出来た。だが撃ってもカウンターショットされるのがオチ。動く事は出来ない。
『このままじゃ何も出来ないのです』
「……動けないのは相手も同じだ。ここは出方を窺っておこう」

「せ、せーので武器を下ろさない? ね? 穏便にさー……」
 目の前に対峙した兵士に向かってエデンは尋ねる。兵士はピストルを構えたまま、左手で士官へサインを送る。士官はそれを見ると、顎でカイ達に武器を下ろすよう迫る。
『お前達も下ろせよ?』
「我々は馬鹿ではない」
 様子を窺いながら、エージェントと兵士達はゆっくりと武器を下ろしていく。しまいには幻想蝶へ武器を押し込め、ようやく彼らは構えを解いた。
「避難誘導及び従魔掃討の協力には感謝しよう。だがこそこそと我々を嗅ぎ回ろうという態度は感心しないな。それはH.O.P.E.的ではない」
 士官はフードを下ろし、マスクも取る。輪郭の引き締まった、理知的な雰囲気を漂わせる三十がらみの女だ。夕は彼女の顔を覗き込むようにしながら、一歩一歩歩み寄っていく。
「H.O.P.E.的ではない、か。どういう事かな」
「君達は既に希望の象徴。いつでも正々堂々としているべきだと私は思うね」
 女は影に潜む龍哉と國光へ眼を向けた。
「というわけで出てきたまえ。最早隠れる必要もあるまい」
 逆らう理由も無かった。二組は武器を下ろして広場へ姿を見せる。
「大方、我々と戦火を交える事を見越して、敵情視察に来たというところだろう。“カンナエ”砲撃は良く撮れたか?」
 女は龍哉に尋ねる。憮然とした顔で腕を組み、淡々と龍哉は応える。
「問題があるなら返すが?」
「構わん。君達が居ると分かっていて撮らせたんだ」
「オレ達が貴方達を仮想敵にしていると考えて、それでもオレ達に塩を送るなんて、一体どういうつもりなんですか?」
 國光はすかさず尋ねる。女は肩を竦めた。
「そんな理由、考えればすぐにわかる事だろう」
 それだけ言うと、彼女は四人の兵士と早口でやり取りする。頷き合うと、兵士は徒手のままエージェント達の傍らに立つ。
「送ってやるから、さっさと帰りたまえ。無駄にうろつくなら我々も容赦はしない」
 女は仏頂面のまま踵を返し、大股で歩き去っていく。その背中を見送っていた紗希は、はっと息を詰まらせる。カイは眉を顰める。
『どうした?』
「……絶対そうだよ。さっきの銃の構え方……前に戦った大佐とおんなじだった……!」
『バカな。女じゃねえか』
 カイは顔を顰める。前に紗希が大佐を指して「女みたい」と言った事を、嫌でも思い出す。同じ戦場に立っていた杏樹も、ぽつりと呟く。
「以前会った、ハワード大佐は、あの人……です?」
『影武者か? ……いや、それ以上の所以がありそうだな』
「もうアルター社も、味方じゃないの。隠していられないはず、です」
 ナイチンゲールは振り返ると、女の背中に尋ねる。
「貴方、名前は?」
「イザベラだ。覚えておけ」
 そう言い残し、イザベラは静かに歩き去った。



 つづく

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • エージェント
    十影夕aa0890
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840

重体一覧

参加者

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • 大切な人へ
    クローソーaa0045hero002
    英雄|29才|女性|ブラ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中



  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    シキaa0890hero001
    英雄|7才|?|ジャ
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
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