本部
掲示板
-
海龍退治!
最終発言2018/09/05 09:21:30 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/09/04 11:32:19
オープニング
●飲み込まれたのは『星』か『竜』か
不気味な笛の音を引き金に、スワナリアから恐竜が脱走した。
古代都市上部を覆っていたドームの消失で翼竜は大空へ飛び立ち、四方の門以外にも存在した門の解放で陸生の恐竜はアフリカの大地に解き放たれた。これをマガツヒのテロと断定したH.O.P.E.が、対処のため目撃情報などを元に方々へエージェントを派遣し、事態の収拾をはかろうとしていた。
そして、恐竜の流出は空や陸だけでなく海――地中海にも及んでいた。
「あれは……先日お伺いした遺物にいた古代の生物、ですね」
スワナリアの地下から地中海へ繋がる海底トンネルから現れた海竜たちを目撃し、ステラ・マリス(az0123)は頭上を泳ぐ巨大な生物を見上げながら歩いて後を追う。
「数日前に彼の遺構全体へ伝わる笛の音が発生したと記憶していますが……なるほど、彼らを古代の檻より解放するためだったのでしょう。そして、彼らの無軌道でいて秩序めいた行動の指針にもなっている……」
従魔のスディレを動かして得た情報から状況を素早く分析し、ステラは程なくおおよその答えにたどり着いた。海中の浮力を無視し、ゆったりとした歩調で海竜をぼんやりと見上げつつ、ステラは海竜とつかず離れずの距離を保って追跡を続ける。
「これだけの数がいるのですから――少数の協力者を募っても、見咎められることはないでしょうか?」
しかしふと、ステラが浮かべた笑みはそのままに純粋な悪意を言葉に乗せれば、複数のスディレが海竜の目前まで移動した。
瞬間、海竜は餌とでも思ったか口を大きく開けてかみつき、何度かの咀嚼を経て飲み込んでしまう。
「地上で見かけた生物と比べ、見るからに精強そうな生物です。従魔を憑依させずとも、私(わたくし)が少し手を貸すだけで素晴らしい活躍をしてくださるやもしれません」
従魔が捕食された結果を満足そうに見届け、ステラは海竜の群れが進む方向からそれて進路を変えた。
「では、参りましょうか。貴方様方が進むべき場所へ――」
再び歩き出す前にステラは一度だけ背後を振り返り、邪気のない笑顔を向けた。
……先ほどスディレを食べたがために、苦しそうにもがきながら暴れ泳ぐ海竜の様子を眺めながら。
●海竜の暴走を止めろ
「先ほど、一般からの通報で地中海を進む海竜の群れが確認されました」
エージェントたちはトルコにあるH.O.P.E.支部の職員と、プロジェクターに映された地中海の地図を見る。
「スワナリアにいた恐竜がマガツヒによって解き放たれ、各地で被害をもたらしているのは皆さんもご存じの通りですが、今回は少々様子が異なります」
そう前置きして映し出されたのは、通報者が撮影した動画だろうか。男性が驚き慌てる声とともに、海面から何度も顔を出す2種の海竜が確認できる。
「それぞれワニのような頭をした海竜が『ダコサウルス』、フォルムがイルカに似た海竜が『ステノプテリギウス』という種類ですが、問題はこの海竜の泳ぎ方です」
言われてよくよく見直してみると、泳ぐというより暴れているような荒々しさがある。
「これは他に確認された恐竜たちには見られない行動です。適当に吹いた笛の音だと、凶暴化する効果はあっても意図的に苦しめる効果はありません。もし存在したとしても特殊な旋律が必要でしょうし、塔にいた彼女から笛を奪っただけのマガツヒにそれを知るすべなどないでしょう」
つまり、この苦しんでいる様子はマガツヒとは別の要因が作用しているということ。
「他にも、海竜の数がおよそ10体程度と少ないことも気になります。これは私の私見ですが、まるで群れから無理やり引きはがされたような印象を受けるのです」
海竜の行動を縛るため苦しめているとすれば、状況として筋は通っているように思える。
気になるのは目的だが、それも海竜の予測進路が示されたことですぐにわかった。
「そして、先ほど入った情報によるとこの海竜たちはさらに二手へ別れました。1つはトルコ、もう1つはイスラエルへと向かっている模様です。行動強制の影響か進行速度はそこまで早くないのですが、かといって時間的な余裕はさほどないでしょう。皆さんにもそれぞれの場所に分かれ、海竜を迎撃していただきます」
すでにH.O.P.E.から海岸付近の都市に警告し、どんな理由でも海には近づかないよう呼びかけている。
エージェントたちはそれぞれの海岸から少し離れた海上で、海竜を迎え撃つことになるだろう。
「なお、マガツヒとは別に海竜へ干渉している存在にも気をつけてください。ここ最近の動向からして、おそらく愚神ステラ・マリスの介入である可能性が高いです。判明した能力からして、海竜が皆さんへ直接危害を加えることもできるようになっているかもしれないので」
職員から重ねて用心を言い渡されたエージェントたちは、それぞれ部隊を分けて現場へ向かった。
解説
●目標
海竜の侵攻阻止・撃退
●登場
ダコサウルス×5…全長約4m、巨大なワニのような顔と鋭い歯を持つ口が特徴で、手足のように4つあるオール状のヒレと尾ビレで泳ぐ。略称:鰐竜
能力…攻撃↑↑、防御・命中↑、回避・移動・イニシアチブ↓
ステノプテリギウス×5…全長3~4m、イルカや魚に近い流線型のフォルムとサメに似た背ビレを持ち、かなりの速度で泳ぐことが可能。略称:魚竜
能力…回避↑↑、移動・イニシアチブ↑、防御・特殊抵抗・生命力↓
ステラ・マリス…主に地中海沿岸の国で活動する高位愚神の少女。『スワナリア』の東門に派遣した分身でエージェントと戦闘後、マガツヒが操る海竜に干渉し従魔の代用として港襲撃をもくろむ。
スディレ×10…ミーレス級従魔。岩のような表皮を持つ1mほどのヒトデ。黄白色の肉体を発光・振動させ、ステラの指示を伝達する指揮能力を保有。ステラの指示&スキル受信機として海竜に捕食された。
●状況
地中海へ逃げ出した海竜の一部が独立して動いているとの情報で出動
侵攻予測進路はトルコとイスラエルの海岸沿いにあるリゾート地
ほぼ同時に両国へ到着する可能性が高く、2部隊に分かれ海岸から約30sq離れた海上で迎撃部隊を展開
海上から10sqが防衛ライン(海竜が離脱判定に勝利→陸上に進出し都市への侵攻優先)
(以下、PL情報=ステラ作戦概要
海底トンネルから抜け出した一部海竜にスディレを捕食させ、適宜体内で暴れさせて進路を誘導
移動後、笛の効果を妨害しない範囲で海竜の凶暴性に任せて暴れさせる
ステラは戦闘区域内のどこかから海竜の動きを観察し、適宜スキルを使用
海竜がPCとの戦闘で強化+自動回復スキル使用→ライヴス攻撃への適性を無理やり付与
海岸に接近でも同スキル使用→強引に陸上活動を可能とさせ都市への侵攻を強制)
リプレイ
●見えない『星』
「今度は古代恐竜か。明らかに他個体と動きが違う。何かしらの干渉を受けているな」
動画を鋭く眺めていた月影 飛翔(aa0224)にルビナス フローリア(aa0224hero001)が頷く。
「もしステラの仕業なら、ここにスディレが関わっているのでしょうけれど」
「素直に表へ出てこないから直接叩けない分、厄介この上ない」
そして職員が名を挙げた愚神を思い出し、それぞれ悩む仕草を見せた。
「暴れてるのは竜の意思の様だけど……」
「仮定を話すなら、スディレを媒介にしたステラの干渉がそうさせているのだろうね」
フィアナ(aa4210)も海竜の動きに首をひねれば、ルー(aa4210hero001)の言葉でさらに悩む。
「討伐じゃあなくって撃退が目的なのだし、んー……そうね、ステラを見つけたら教えてもらいましょ」
その後、フィアナは自身で納得する答えを出した。
「ステラ……今度は海竜までも利用する気か」
「一刀斎様……」
が、何度も直接戦闘を経験した獅堂 一刀斎(aa5698)の表情は固く、命を削るステラの技を憂う比佐理(aa5698hero001)を少しでも慰めようと頭を撫でる。
「海竜の集団暴走……、明確に目的地を定めての行動、マガツヒの犯行が発端ってのは間違いなさそうだな」
「そこへまた愚神が関わっているなら、どこまでの協力関係にあるかも気になるね」
広い視点で事件の大枠を見定める沖 一真(aa3591)と、今回の黒幕だろうステラとのつながりを気にする月夜(aa3591hero001)は、どう対処すべきか個別に思考を回す。
「海の生物なら、陸へ上げるとか浅瀬へ追い込んでとか、動きを制限する事が出来ないのかしら」
「沖の浅瀬や珊瑚礁に小島、引潮時限定でも囲える場があれば……」
航海用の海図を前にメリッサ インガルズ(aa1049hero001)と荒木 拓海(aa1049)は周辺の地形を確認。
特に水深の浅い場所を調べ、海竜の動きを制限できないか模索する。
「鰐竜に魚竜……響きが美味しそうですじゃ」
「食い意地を張るのも良いが油断するでないぞ。迂闊に通すは危険じゃからな」
一方、魚はともかく鰐でもよだれを流せる剛の者・天城 初春(aa5268)に、辰宮 稲荷姫(aa5268hero002)は呆れながらたしなめた。
「分かっておりますじゃ。少々、作為と悪意が見え見え過ぎて気持ち悪いですがの」
「まぁ、ここまで一直線じゃと分かりやすすぎるの」
「恐竜たちに悪意はない故、できれば助けたいですの」
それで初春も意識を切り替え、稲荷姫とともに話し合いに参加する。
「……ん。笛を、取り戻せれば……海竜たちも、きっと、おとなしくなってくれる。それまで、海竜たちを、抑え込めれば……殺さなくても、都市は、守れる……はず」
「なら、できるだけ早い無力化が望ましいわね」
すると、海竜への対処について氷鏡 六花(aa4969)が反応。
アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は六花の意志を尊重するように、頭を撫でて微笑む。
「殺さず止めるというなら、留意しよう」
初春や六花に続き、半数が海竜を殺さないとした主張に八朔 カゲリ(aa0098)も同意。
「ステラ・マリス……間接的とはいえいつか刃を交えた、利他的行動に終始した酔狂な愚神か。ふむ――」
どこか楽しげな笑みを浮かべるナラカ(aa0098hero001)は、試行錯誤に励む様子を俯瞰していた。
●たとえ命を燃やそうと
トルコ周辺の地形を共有した後、船上に残る拓海は浦島のつりざおを手にモスケールのゴーグルを装着。
「オレ達はまず索敵と海竜の妨害をやるよ」
事前に判明した浅瀬の少なさと、海竜を引き揚げるには心許ない性能とサイズのレンタル船を考慮し、防衛ラインの維持に集中する。
『……他人の策からちょろまかして企む割には、随分と面倒な事をしてくれる』
「まぁ、僕らの対応を分散させてくるのは、向こうとしても常道だしね。海竜もなるべく殺さない方がよさそうだし」
ベルフ(aa0919hero001)が混ぜた言葉の苦みに肩をすくめた九字原 昂(aa0919)は、空へ放った『鷹の目』と感覚を共有する。
『だからこそ、癪に触るって事だ。ただし昂、いざとなれば――』
「大丈夫。優先順位を間違えたりしないよ」
それから装備を確認し、ベルフの忠告に頷いた昂は船から降りてアサルトユニットで海上へ降り立った。
「おー! またお魚さんがたっくさんだー!! みぃーんなピピが食べちゃうもんねー!」
『だ、ダメだよピピちゃん。流石に可哀想だよ……』
一方、ピピ・浦島・インベイド(aa3862)は食欲に忠実な発言で海へダイブ。
共鳴した音姫(aa3862hero001)がストッパーとしてなだめるも、思いっきり首を傾げられた。
(うにゅー? どしてー? お魚さんだよー???)
『え、えっとね、……ど、どうしても。いーい?』
(むー、しょーがないなぁー)
無邪気な捕食者へどう説明したものか苦慮した結果、音姫はもろもろすっ飛ばしてNOを念押し。
渋々頷いたピピは、一度海面に顔を出して偵察の『鷹の目』を飛ばした。
「俺たちは海竜のライヴスの流れを調べよう。その時、他に異常が見つかればすぐに知らせる」
「ライヴスの痕跡を追えるよう前に出ますので、何かあれば援護もお願いしますね」
さらに一真と月夜は海竜への調査を明言し、共鳴して船から飛び降りた。
「御屋形様、援護はお任せを!」
その背を弓張月を手に見送った初春は、拓海と同じく船に残り矢をつがえる。
程なくして現れた5体の海竜に仲間が包囲されないよう、牽制射撃で海竜の分断を狙った。
(っ、と。魚竜なら、俺でも受けきれるか)
その内、真っ直ぐ突き進んできた魚竜の牙を金剛夜叉明王の錫杖で受け止め、一真は魚竜の力を確認しながら『マナチェイサー』を発動。
『傍に愚神がいないなら、ライヴスの流れからしておそらくは体内から操っているはず。けど、愚神につながりそうな痕跡はない……』
1体につき浮かび上がった『2つ』のライヴスに、月夜が怪訝そうに疑問をこぼす。
(どう思う?)
『……試してみましょう』
一真は錫杖を振り魚竜から離れ、付近に鰐竜も確認した月夜に頷き『幻影蝶』を展開。
(うおっ!?)
しかし、魚竜と鰐竜の動きは全く鈍らず一真へ襲いかかった。
『やっぱり。海竜はまだ、従魔じゃない』
『幻影蝶』に有効な対象から考えて、月夜は海竜が従魔と独立した存在だと確信する。
(へっへーん。こっちこないとホントに食べちゃうぞー!)
『ピピちゃん、食べないで……』
一方、『鷹の目』で上空から捕捉した海竜を泳いで追うピピ。
『潜伏』で己の気配をごまかし、音姫の控えめな注意も聞き流して1体の魚竜にロックオン。
(うにゅ?)
だが魚竜は浦島のつりざおに反応せず、明らかにピピを認識して接近してきた。
(やー! ガブガブするなー、ピピがガブガブするんだぞー!!)
加えて別方向から鰐竜も口を開けて迫り、2体に狙われたピピは鯱のワイルドブラッドとして培った泳ぎで攻撃を躱す。
『ガブガブされるのも嫌だけど、ガブガブするのもダメだからね!!』
(えー!)
三度音姫が注意すると、ピピは不服そうにしつつも欲望を抑え、口を開いた鰐竜へAGルアーを突っ込んだ。
口が閉じた瞬間さらに『縫止』でひるませ、強引に浦島で釣り上げ船まで引っ張っていく。
「笛で操るならマガツヒは音の響く範囲に居る……と思ったけど」
『海竜の5体とも体内に別のライヴス反応――大きさはミーレス級かしらね』
「オーパーツか従魔か……リサはスディレだと思う?」
『ステラならやりかねないわね』
一真やピピの通信で拓海とメリッサもモスケールの結果に表情を引き締め、愚神の警戒を通信機で促した。
「……ステラ・マリスはいないね」
『海上は、な』
集まる情報から浮かぶステラの影を追う昂とベルフは沖へ移動。
しつこくつきまとう1体の魚竜を白夜丸で受け流しつつ、探索に集中する。
「じゃあ、海の中?」
『戦況を俯瞰できる場所と考えれば、可能性はある』
ベルフの意見で海竜の脇を抜けた昂は『潜伏』をまとい、迷わず海面へ向けて飛び込んだ。
「ぬおっ!?」
その時、もう1体の鰐竜が船上をまたぐように跳びはねて初春へ食らいつく。
とっさに弓で防御し直撃を避けたが、鰐竜は再び海へ戻ってしまった。
「体内の反応を確かめる!」
すかさず反応した拓海がその鰐竜を釣り糸で絡め、強引に船体へ引き寄せ持ち上げる。
瞬時にウコンバサラを握ると、空中にさらされた腹部へ『烈風波』を叩き込めば、鰐竜の口から見覚えのある物体が飛び出した。
「稲荷姫様、なんか見覚えのあるヒトデが出てきましたの……」
『事前の予想では、海竜が変なものを飲み込んだがためライヴスを有し、食中毒のような苦しみから暴れていると疑っておったが……奴か、また奴なのか』
初春は稲荷姫と同じ冷めた目をして白夜丸を抜刀し、跳躍して空中のスディレを切りつけた。
「スディレ確認! やっぱり此度もあの陰険愚神の仕業じゃ! 間違いなくどこかに潜んでますぞ!」
『迂闊に近づきすぎるな! 最悪、海竜の暴走に巻き込まれるぞ!』
通信機で仲間全員へ声を伝えた初春はALブーツで海上に着地。
稲荷姫の警告が終わればもう一度スディレへ飛びかかり、『ジェミニストライク』でとどめを刺す。
「このままスディレを倒して、海竜の暴走を抑えよう!」
笛の影響が残るのかスディレ抜きでも凶暴な海竜に拓海はひるまず仲間を鼓舞した。
(――いた!)
海中を探索してしばらく後、昂は海底を歩くステラを発見。
『潜伏』のまま奇襲をかけようと一気に泳ぎ進む。
『――っ、後ろだ、昂!』
しかし、射程距離より先に届いたベルフの忠告で昂は急いで反転。
迫る魚竜の歯へ刃をぶつけ、敵と己の軌道をずらす。
「――おや?」
攻防は一度……されど明確な存在感の発露でステラに気づかれた。
(奇襲は無理そうだね――でも)
昂は追撃してきた魚竜の巨体を冷静に蹴って回避し、わざとステラの眼前へ着地。
ステラの意識を引きつけると同時、接近中に投擲していた『縫止』を時間差で落とす。
「――急な来訪ですね?」
(あなたとの戦いに礼儀は不要ですから)
柔和な笑みのステラは左の『腕』で針を弾き、右の『腕』で昂を狙う。
さらに前進して『腕』をかいくぐった昂は、EMスカバードから抜刀した白夜丸でステラを両断した。
『感謝いたします』
(っ、こちらは分身!)
が、分かれた肉体は瞬時に復元し分裂。
1体の追撃を昂が『零距離回避』で躱す間、もう1体がライヴスを膨張させて消える。
「ちょうど、イスラエルへ癒しの祈りを捧げようとしておりましたから」
『――いやみな女だ』
舌打ちに代えたベルフのつぶやきはステラとの攻防に紛れて消え、再び魚竜が昂の背後から接近。
(そこです)
瞬間、噛みつきを躱して放った昂の『縫止』が『腕』の防御をすり抜けた。
『消えろ』
硬直したステラの隙を逃さず肉薄した昂は、ベルフの声と同時に鍔鳴りを納める。
「――おみごと、です」
直後、抜刀の軌跡で上下に分かれた分身ステラは消滅した。
残りの敵を排除するため振り返れば、先ほどまで襲ってきた魚竜がいない。
(後は海竜だけだ)
急いで反転した昂は『鷹』が見る船の周辺へ戻っていった。
同じ頃。
「鰐さん釣ったぞー!」
「出してしまえ――きっと楽になる!」
引っ張ってきた鰐竜をピピが浦島で持ち上げた瞬間、アサルトユニットを装備した拓海が接近。
スディレから解放しようと一時的に浮き上がった体めがけ、斧刃の腹で殴り飛ばした。
『拓海!』
衝撃で鰐竜がスディレを吐き出すと、運良く眼前へ迫ったヒトデにメリッサが反応。
「ああ!」
攻撃の勢いで一回転した拓海は、稲光を帯びた刃でスディレを粉砕する。
(むー? ヒトデさんって美味しいのかなー???)
『えっと、確か食べれるヒトデと食べられないヒトデがある、って聞いたことはあるけど……そもそもこんなデカいのじゃ、私は食べる気にはなれないかなぁ?』
その間にも寄ってきた魚竜を避けつつ、ピピは爆散したスディレに斜め上の疑問を覚える。
まだ余裕があるため律儀に答える音姫だが、たぶんそういうことではない。
(なるべく、殺さずに、済むなら、いいが!)
『ちょっと、厳しいね』
近くでは一真が連続『ブルームフレア』で魚竜と鰐竜を牽制するが、あまり余裕はない。
魚竜は機敏な動きで魔法を躱し、鰐竜は肉体が頑丈でダメージも構わず迫ってくる。
気づけば3体に囲まれた状態となり、月夜の声にも苦みが走った。
「大丈夫か!?」
そこへ拓海が滑り込み、魚竜の攻撃を避けざま腹を殴ってスディレを引きずりだす。
「ぶはっ! 悪い!」
それで魚竜が『戦闘不能』となり、集中攻撃が緩んで余裕ができた一真。
海面に顔を出して拓海へ感謝を告げ、再度『マナチェイサー』を発動した。
『……だめだね。たぶん、スディレからステラはたどれないよ』
「ならせめて、何かされる前にスディレを倒すぞ!」
残念そうな月夜の声に思考を切り替え、一真は錫杖の白光を従魔へぶつける。
「ガブガブー!」
スディレが空中でよろけると、今度はピピが海から飛び出す。
AGWではなくギザギザの歯と強靱な顎で試食しようと、積極的にカブりつきに行った。
「むう、さすがに岩のようなヒトデは食指が動かんですじゃ」
しばらく飛び跳ねるピピの攻撃はことごとく躱され、横から初春が放った弓矢がスディレの動きを捉えた。
「食らえ!」
好機と見た一真は魔血晶を砕き、ひときわ輝く破邪の白光でスディレを消し去る。
「あー! ピピのヒトデさん!!」
『え!? 本当に食べる気だったの!?』
なお、消えたスディレを名残惜しそうに眺めるピピに驚愕する音姫がいたとかいなかったとか。
「――ぬ!? 様子が変じゃぞ!」
それから魚竜と鰐竜を1体ずつ『戦闘不能』としたところで、初春が残る異変に気づく。
鰐竜の肉体を覆うライヴスが活性化し、いきなり海岸へ進み出したのだ。
「おそらく、ステラの指揮です!」
さらに沖から海岸へ一直線に向かう魚竜を追跡する昂の叫びが聞こえた。
「もう、止めろ……っ!」
ステラに利用され牙をむく海竜に死を連想した拓海は、悲痛な表情で斧を振るう。
「何者かに操られ、戦わされる生物を殺すのは――ごめんだ!」
自然に任せた結果の敵対なら、受け入れ共生するか戦い勝ち取るしかないだろう。
が、笛の持ち主さえ変われば海竜は今までの暮らしへ戻れるのだ。
海岸へ走る魚竜を止めるため、拓海は『疾風怒濤』を腹部へ突き刺した。
『倒せば良いのよ……元凶(ステラ)を』
魚竜は二撃で沈黙、続けて吐き出されたスディレも追撃で消滅させた拓海にメリッサが奮起を促す。
「あの陰険愚神~っ!」
『急ぎ止めよ、お初!』
「わかっておりますじゃ!」
初春は離れようとする鰐竜へ矢を連続で射かけ、表情にステラへの苛立ちを浮かべた。
とはいえ、稲荷姫の指示にはきちんと従い敵の進路を阻みつつダメージを重ねる。
「いいぞ、初春!」
続けて船上に戻り後衛として動く一真が、鰐竜の背へ錫杖の力をぶつけて『戦闘不能』に。
「これで終わりだ!」
同時に鰐竜から飛び出し逃走を図るスディレにも白光を浴びせ、間もなく撃破した。
●歩む姿に迷いはない
「方針は任せる――行くぞ、ナラカ」
『心得ておるよ、覚者。障害を前にした子等が自(おの)ずから魅せる意志の輝きに、此度(こたび)も私は期待しよう』
イスラエルでは『リンクコントロール』でライヴスを活性化したカゲリが、仲間へ一言残してナラカと共鳴して船から下りた。
(……尤(もっと)も、見定めるは子等に限らぬが、な)
水しぶきに紛れて微笑むナラカの声を泡沫に溶かし、カゲリは遠く迫る海竜へと向かう。
『……見当たりませんね』
「ああ……海竜をけしかけたのがステラなら海の何処か――スディレに霊力が届く範囲に潜んで居るようには思う。直感だが、な」
反対に、飛ばした『鷹の目』から海を見渡す比佐理に答える一刀斎は、仲間からの理解を得た上で船上からモスケールを機動しステラの探索に集中する。
「海中では足跡も磯の香りも当てにはできん……くそッ、根気良く捜し続けるしかないか」
しかしそれらしい姿や反応は見つからず、一刀斎は海へと身を投じた。
『沖合に移動したから、防衛ラインにはまだ距離があるけど?』
「私たちを無視して海岸へ向かわれたら困るもの。ついでに範囲攻撃もしやすくなるかしら? って」
真っ先にアサルトユニットで前へ出たフィアナは共鳴したルーに答えつつ、ライラプスの槍をくるくると手元でもてあそび、複数の海竜を前に『守るべき誓い』の威圧を発散して構えた。
「さて、ステラの干渉でこの動きなら、スディレはどこにいるのかしら――ねぇ?」
直後、海面から時間差で飛び出した2体の魚竜と1体の鰐竜を、フィアナは素早い身のこなしと体さばきで受け流しその場へ釘付ける。
(――っ!)
そんな中、カゲリが突出した別の鰐竜1体にレーギャルンから解放した【天剱】の黒光を浴びせて止める。
(目的は侵攻阻止……とはいえ)
進路をこちらへ変えた鰐竜の牙を弾き、カゲリはしびれる手で錠前の鞘に剣を戻す。
(状況次第ではあるが、殺害も視野に入れるべきか)
そして折り返し襲ってきた鰐竜を見据え、カゲリは【天剱】の封印を1つ解いてから『リンクコントロール』で焼(く)べたライヴスを補充した。
「スワナリアにいたマガツヒは欠片で強化された。あれだけの巨体なら、1体丸ごとも可能だろうが……」
『見える場所にいないとなると、考えられるのはお腹の中でしょうか?』
船を離れアサルトユニットで海上を進む飛翔は、共鳴したルビナスと会話しつつフリーガーG3を構え、前方から海面を割って突き進む影へロケット弾を放つ。
ほぼ眼前で着弾したが影は進行を止めず、反撃とばかりに飛翔へ飛びかかった。
「――っ、なるべく殺さないようにとなると、強化される前に何とかしないと拙いな」
現れた鰐竜の牙をとっさに構えたダーインスレイヴで防ぎ、飛翔はそのまま切り結んでいく。
「パペットみたいに――いえ、それだと苦しんでいた理由が分からないわね。なら……内部?」
『試してみればわかるだろうけど、1人じゃ少し難しいかな?』
しばらく単独で3体を足止めしていたフィアナは、攻撃を躱しつつ海竜の異変に思考を割いていた。
周辺へ視線を飛ばし、スディレの居場所の可能性を考えるがルーの言葉で意識を現実に戻す。
「っ! 兄さんの、言う通り――ねっ!」
前方、側面、背後から迫る牙を確認したフィアナは『一閃』で迎撃して危機を遠ざけた。
(貴方たちは……ただ、あの海で平和に暮らしてただけ、だもんね。ん……苦しい、よね。大丈夫……すぐに、助けてあげるから……貴方たちのことも、救ってみせる、から)
その時、『マナチェイサー』を発動しスディレの痕跡を見つけた六花が泳いでフィアナに追いついた。
海中でフィアナの隙をうかがう海竜たちへ視線を向け、『氷鏡』で拡散させた終焉之書絶零断章の魔法で牽制をかける。
「この魔法は――六花! 海竜の体内だけ、攻撃できる!?」
(……ん)
足下に広がる光景を見て六花を特定したフィアナが、通信機越しに援護を求めた。
水中で声が出せない六花は返事の代わりにライヴスを集中――氷結した『幻影蝶』で海竜を包み込む。
またすぐにフィアナへ群がる海竜には一見ダメージがなさそうだが、六花が再び『マナチェイサー』で確認したライヴスの痕跡はそれぞれ1つになっていた。
「――んっ! 海竜たちの体内にいたライヴスは、消えた、よ」
「ありがとう! 私は平気だから、カゲリと飛翔を助けてあげて!」
海上に顔を出した六花の報告でスディレの懸念がなくなり、フィアナはもう一度『一閃』で薙ぎ払う。
分散しかけた3体の意識を引き戻し、魚竜の反撃を『クロスガード』で受け止めて六花へ声をかけた。
「さて、月並みで申し訳ないのだけれど――通す訳にはいかないのよね」
そう不退転の意志を示したフィアナは、海竜の暴走を止めるため休まず槍を振り続けた。
『一刀斎様、レーダーに反応が』
(――そこか、ステラ!)
一方、海中の深くまで潜っていた一刀斎は比佐理の声で動き出す。仲間が上手く海竜を集めたため妨害もなく、海中に浮かび上がった不審なライヴス反応を頼りに泳ぎながら装備を戦闘用へ変更していく。
「トルコ近海に続き、こちらでは貴方様ですか」
やがて肉眼でステラを目視した瞬間、一刀斎はキリングワイヤーをけしかけた。
(……会いたかったぞ。東門では一歩及ばなかったが、今回こそは、お前の好きなようにはさせん)
ステラは右の『腕』でワイヤーの襲撃を弾き、左の『腕』で刺突の反撃。
とっさに防げず流血しながらも一刀斎は前進し、黒いもやを引きずるディバイド・ゼロを叩きつけた。
(ライヴスの解放を謳(うた)うのならば……俺の体に宿るライヴス、解放してみせろ!)
「……人は独力にて海中での発声はできないようですが、代わりに目が映す想いはとても雄弁ですね」
大剣に響く重い感触で一刀斎は本体だと悟り、ステラと凄絶な殴り合いを始めた。
一刀斎は『ジェミニストライク』も交えた猛攻で指揮や強化の余裕を奪い。
ステラは激しく『腕』を操りスキル発動や急所を狙える隙を見定めて。
お互いのライヴスを削り、食らっていく。
「頑丈な体だな」
その頃、飛翔は何度か鰐竜の腹部を狙うも、いまだスディレを吐かせるには至らない。
対処法を考えながら海岸側へ後退する内、ふと背後の海面に人影を見た。
「――俺が誘導する! 体内のスディレを頼めるか!?」
瞬時に通信機で呼びかけた飛翔は、ロケットアンカー砲で鰐竜を捕まえそちらへ放り投げる。
「――わかった」
飛翔の呼びかけに応え、海中から飛び出したカゲリは鞘から【天剱】を振り抜いた。
「ゴ、ガアァ!!」
空中を駆けた衝撃破は鰐竜の腹部へ突き刺さったが、スディレを吐き出すには至らない。
そして、勢いの衰えない跳躍から鰐竜の大口がカゲリへ食らいつき、同時に海中へと沈む。
(力は深刻な脅威ではないが、物理も魔法も同程度まで耐えるか)
すんでで防御が間に合い、カゲリは噛みつきから強引に逃れて次の手を模索する。
(……ん)
ちょうどその真下では、深い位置に潜水して移動していた六花が飛翔とカゲリの姿を捉えた。
(六花たちの後ろには……平和に暮らしてる人たちの、命が、あるの)
すると『高速詠唱』で『氷鏡』を多重展開。
2体の鰐竜が近づいた瞬間、六花は魔導書の力を解放する。
(だから。ここは……絶対に、通さない)
『氷鏡』の1つから乱反射した氷槍は、さらに大量の『氷鏡』へ連鎖的に衝突。
六花が咲かせた大輪の氷華は鰐竜たちを飲み込み、ヒレや尾を凍結させて動きを封じた。
(……いた)
さらに六花は鰐竜に近づくと、脱力した口から体内へ進入してスディレを直接撃破する。
しかし、もう1体は痙攣した後なぜか動きだし海面へとぐんぐん上昇していく。
「強化!? ……いや、回復か!」
あまりに不自然な覚醒をステラの介入と断定し、飛翔は足下から跳躍した鰐竜の奇襲を寸前で躱す。
『まるで生命を使い潰す所業ですね』
「スディレを、吐き出せ!」
ルビナスの不快そうな声とともに飛翔は身を反転、むき出しだった腹へ魔剣を叩き込んだ。
その一撃で鰐竜は今度こそ『戦闘不能』となり、口からスディレが飛び出してくる。
「暫く眠っていてくれ」
『再び捕食される前に破壊を』
鰐竜から視線を切り、飛翔はルビナスに促されてスディレを追う。
「っ、邪魔をするな!」
が、フィアナが抑えていた鰐竜の横やりに阻まれ、『疾風怒濤』で反撃する間に距離を離されてしまう。
その間に、スディレはフィアナと海竜の戦いへ滑り込んだ。
『フィアナ!』
「――っ!?」
魚竜を1体『戦闘不能』にしたところで現れた従魔にルーが警戒を促し、フィアナは2体の海竜へ叫ぶ。
「アレは食べちゃダメなのよ!」
大声と『守るべき誓い』により大気がビリビリと震え、フィアナは再び敵意を己へ縫い止めた。
(させ、ない!)
すると、スディレを追って浮上してきた六花が『氷鏡』で氷槍を拡散。
飛翔が攻撃した鰐竜も範囲に収めて『戦闘不能』にし、スディレを消滅させる。
(残る海竜はあれだけか)
そこへ加わったカゲリが、フィアナへ向かう魚竜の1体へ黒光の斬撃を飛ばした。
『意志を燃やし、覚悟を示せ。眼前に聳(そび)える困難こそ、汝等が超えるべき試練也』
(――愉しそうだな)
やがてフィアナの槍で体を弛緩させた魚竜を見送れば、ナラカの弾む声にカゲリが小さく反応する。
『不服か?』
(いや)
愉悦を隠さず問うたナラカだが、即答を返したカゲリにはどこか呆れが混じる。
(お前は元より、誰の在(あ)り方も俺は否定しない。ただ成すと決めた意志を貫き、進むだけだ)
『不変不屈の燼滅たる魂――嗚呼、それでこそ覚者よ』
すでに相互の在り方を理解している故に、この問答は単なる戯(たわむ)れ。
カゲリは水中でため息を飲み込み、上機嫌なナラカを連れて仲間の下へ向かった。
トルコで分身ステラが消滅した瞬間、一刀斎も動いた。
(っ、そこだ!)
ほんのわずかに反応が鈍った『腕』を漆黒の刃で強引にこじ開け、一刀斎は『縫止』を投擲。
「っ!?」
肩へ針が刺さった直後、ステラは『封印』によるライヴスの乱れに戸惑う。
(『縫止』は二発しか使えん。スキルを封殺したまま、倒す!)
勝機を見た一刀斎は『ジェミニストライク』で一気に畳みかけようとした。
「――私(わたくし)が拝命せし『海の星』とはすなわち導(しるべ)の名」
が、ステラは繭のように『腕』で全身をくるみ防御。
「――寄る辺の光を同胞へ示し続けることが至上の使命」
解かれた『腕』の先に『縫止』を握り、ライヴスを復調させたステラは祈る。
「――故に、私の『祈り』は潰えません……『オルトゥ・ステラ』」
直後、ステラは複数の対象を強化するライヴスをあふれさせ、遠方のスディレへ伝えた。
(一刀斎!)
そこへ海竜との戦闘を終えて援護に駆けつけた飛翔が合流。
(っ、ステラ!)
「ぐ、っ。途切れかけた『祈り』が届いた命は2つ……私は敗れたのですね」
スキル発動を許した自責から一刀斎が追撃するも、敗色を自覚したステラはきびすを返す。
「皆様方がそうであるように、私もまた――折れません」
最後にそう言い残し、ステラは一刀斎と飛翔から逃れて消えた。
●膨れ衰えなお輝く
トルコでは戦闘後、異変が生じた魚竜と鰐竜1体ずつの死亡を確認。
残る海竜は拓海のロケットアンカー砲で牽引されるが、再び初春がよだれをじゅるり。
「そう言えば――お主たちって美味しいのかの?」
「お初! まだ息のある海竜を見て言うでない!」
ビジュアル的に美味そうに見えない海竜を、まるで魚介類を眺めるがごとき初春に稲荷姫は突っ込む。
元々あった初春の親父臭さに加え、悪食までも悩みの種となる日は近そうだ。
(結局食べられなかったー! お魚食べるー!)
『ピピちゃん、よかったら従魔の残りとか、怪しいものがないか探して――』
(待て待てー!)
『き、聞いてくれない……』
また噛みつきが不発で海竜もスディレも味見できなかったピピは海の魚を追いかけ回していた。
共鳴したままの音姫は調査について言及するが、遊び半分のピピには届かない。
まあ、結果的には空振りに終わったのだが。
「いい加減ステラの居場所を特定して、直接叩かないとイタチごっこだ」
イスラエルでも奇妙な回復をした鰐竜1体が犠牲となり、生存した海竜はトルコ同様に保護。
その後エージェントが集まった場で、飛翔はステラへ勝手を許している現状に眉根を寄せる。
『しかし、スディレからステラの足取りが掴めなかったのは妙ですね。強化でも回復でも、ステラのライヴスを従魔から発現させれば、必ず何かしらの繋がりや痕跡が残るはずですが……』
一方のルビナスは、『マナチェイサー』で得た結果を気がかりとしていた。
「分身や強化・回復支援を繰り返す事で、ステラは確実に力を消耗していくはずだ。むしろ他を操る能力に特化した分、ステラ自身が長く戦えない明確な弱点があるとも思う」
ただ拓海はステラとの交戦回数から、敵の疲弊も相当だろうと推測を加える。
「……ん。マガツヒも、愚神も……絶対に、許さない。ぜんぶ、凍らせて……誰も悲しまずに済む、平和な世界を、六花は……作るの」
そして、ひたすら心を凍てつかせる六花は、世界への憎悪がいまだ解けずにいた。
「六花……」
ただ、六花を想うことで心に温もりをともすアルヴィナからすれば、その姿はひどく痛ましい。
海竜を……命を道具のように扱った者への殺意がより冷たく、鋭く、危うくしていく。
本質が優しいからこそ、一度凝り固まった六花の激情は新たに知った痛みを糧に肥大化していた。
「……っ」
逃げ延び歩むステラの体が不意に傾ぐ。
「ふふ、黒豹の方へうそぶいた大言壮語も、私はあと何度口にできるでしょう?」
『腕』を支えに浮かべるは自嘲。
「戦いにて与え、削られ、失ったライヴスの消耗は、もはや看過しえない域なのですね」
ライヴスを『授与』こそすれ、一度の『簒奪』さえしなかった愚かな『聖母』は笑う。
「それでも、私は解放を成すのです……すべては『王』の御心のままに」
ステラが去った後、残る足跡は歪な乱歩。
命の限界は近い。