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【異界逼迫】連動シナリオ

【界逼】スワナリア東門攻略作戦

一 一

形態
イベント
難易度
やや難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
24人 / 0~25人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/08/22 20:00

掲示板

オープニング

●攻略作戦・数時間前
 アフリカ大陸西部に出現した古代都市・スワナリア。
 その玄関口となる4つの門のうち、便宜上『東門』と呼ばれている場所にはすでにマガツヒ構成員がたむろしていた。物資を載せた大型トラックが何度も出入りし、時間を追うごとにガラの悪い連中が増えていく。その規模は小さくとも簡素な拠点として機能しており、マガツヒのスワナリア探索を後押ししている。
「何だぁ、テメェは?」
「1人でノコノコ現れるなんて、死にてぇのか?」
 そんな東門の前で、警備にあたっていたマガツヒ構成員数名が1人の人物を囲んでいた。
「ふふふ、このような歓待を受けるとは思いもしませんでした」
『あ゛ぁん!?』
 囲まれているのは、濃紺のローブのようなもので全身を覆う少女。状況に深刻さを感じないのか、フードの奥から朗らかな笑みを見せる。反面、マガツヒはバカにされたと感じ一段と声と顔にドスを利かせる。
「舐めやがって――殺せ!」
 気が短いらしく、二言目に排除を口にした者に追従して全員が少女へ攻撃を集中させた。
「――拙速(せっそく)は時に足をすくわれ、思わぬ窮地を招きますよ?」
『な、っ!?』
 が、マガツヒの武器はすべて少女の頭上から飛来した従魔・スディレによって防がれ、完全に止まる。
 マガツヒが驚愕に目を剥く中、ローブのように変化させていたヴェールを解いて姿をさらしたステラ・マリス(az0123)は、変わらず周囲へ笑みを向けていた。
「それに、皆様方の行方を左右する大事を前にして、私(わたくし)などにかまけていていいのですか?」
「な、なにを……?」
「『希望』掲げる方々が、今まさにこの場へと歩みを進めているのですよ?」
「『希望』? ……H.O.P.E.か!?」
 ステラからもたらされた情報でさらに動揺が広がるマガツヒへ、なおも弧を描く口は言葉を紡ぐ。
「見ての通り、愚神である私も彼の方々に狙われる身――如何です? ここは一時、共通の敵へ対抗するためにお互いの手を取り合いませんか?」
 意外にも友好的なステラの態度に、マガツヒは顔を見合わせ答えに窮する。
「彼の方々はもうすぐそこまでいらっしゃっております……ご決断を」
 だが、まるで見ているかのように語るステラに対して、マガツヒの答えは1つしか浮かばなかった。

●攻略作戦・開始
「――H.O.P.E.の襲撃だ!」
 果たして、ステラの言葉通りエージェントからの攻撃を受けたマガツヒは東門の外で迎撃を開始する。
「くっそ、強ぇ――!」
「ばらけるとすぐにやられるぞ! 固まって戦え!」
 戦闘に参加したマガツヒは10名ほど。
 エージェントとは数も質も差があり、それほど待たずして東門の内側へと撤退せざるを得なくなる。
「仲間を呼ばれる前に制圧するぞ!」
 敵戦力は浮き足立っていると見たエージェントたちは、ここが攻め込む好機と判断。
 スワナリアへと逃げたマガツヒを追い、一気に東門へと入っていく。
 ――ズン!
「な、っ!?」
 しばらく警戒しながら道を進んでいくエージェントたちは、背後に響いた音に振り向いて閉じられた東門に驚愕する。よく見れば、門とエージェントの目から離れるようにマガツヒ構成員が散っていった。
 冷静さを取り戻す前に都市の建物からマガツヒが次々と出現。慌てて周囲を視線に飛ばせば、建物の2階や3階部分の窓から銃や魔法書などを構える人影があり、瞬く間に囲まれてしまった。
「まさか、こちらの動きを知られていたのか?!」
 エージェントが実施したのは、マガツヒに動きを察知されないようスワナリアまで一直線に進行する電撃作戦。その性質上、エージェントたちも相手に迎撃態勢を取らせないまま迅速な鎮圧を目標としていた。
 しかし、不意打ちを受けたにしてはマガツヒの対応が不自然なほど策略めいている。
 まるで、事前に攻撃されることがわかっていたかのように……。
「こうなりゃ数はこっちが上だ! 全員で潰せぇ!」
 1人が吠えた瞬間、マガツヒ全員の顔に攻撃的な笑みが浮かぶ。
 一転して劣勢に立たされたエージェントたちは、それでも戦意を失わず武器を構えた。

●『星』を見上げ、『星』を読む
「――ここまでは打ち合わせた通りですね。後は、皆様方の奮戦を期待いたしましょう」
 スワナリア東門近くにある、とある建物の中。
 窓の外からスディレが放つ光を見上げ、ステラは1人部屋の中でたたずんでいた。
「ですが、たとえ仮初めの共闘関係とはいえ、私だけ助言のみでは戦いに身を投じる方々に失礼と言うもの」
 そのまま目を閉じ、胸元で組まれた両手に力を込めて、ステラは片膝をつく。
「私も私にできることを――マガツヒの方々を少しでも導き、勝利のために『祈り』ましょう」
 うっすらと開けた目と鋭く裂けた口は、影を落としたような嘲笑を浮かばせていた。

解説

●目標
 マガツヒ拠点の制圧(東門確保)

●登場
 マガツヒ構成員×50…橋頭堡として占拠する東門に展開された防衛戦力。各クラスほぼ同数が配置され、実力はPCたちよりやや劣る。その他、物資運搬やAGW保管・整備などを担当する末端組織の下っ端が多数いるが、戦闘能力はかなり低く基本的に逃げ回るだけ。

 ステラ・マリス…主に地中海沿岸の国で活動する高位愚神の少女。ギリシャの遺跡で『スワナリア』の存在を知り、東門に到着後マガツヒと接触。エージェントの襲撃を知らせ、一時的な共闘関係を構築。

 スディレ×5…ミーレス級従魔。岩のような表皮を持つ1mほどのヒトデ。黄白色の肉体はライヴスで発光し、ステラの指示を伝達する指揮能力を保有。飛行能力と高い防御能力を持つが、攻撃性能はない。

●場所
 スワナリア東門
 大型トラックの搬入出も容易な広い門の先には古代都市の街並みが広がる
 北門・南門エリアに通じる地下への通路があり、探索部隊の補給地点の役割を果たす
 一部の建物を居住空間や食料・武器保管庫として利用している

●状況
 PC到着後、東門の外を警戒していたマガツヒ10名程度と交戦
 徐々に門の内側へ追い込み、突入したところで待ち伏せを受ける(マスタリング開始)
 4車線程度の幅がある道の両側に2~3階建ての建物が並び、後衛20人程度が窓から攻撃姿勢
 残り20名が建物から飛び出しPCたちを包囲散開
 組織だった動きはそこまでで、戦闘ではほぼ火力押しか各自の判断任せのため連携は弱い

(PL情報)
 建物のどこかからステラがマガツヒを戦術支援
 スディレの一部をマガツヒに配布し、振動の回数・強弱などを変化させた簡易的な指揮を実施
 スディレは戦場を俯瞰する位置におり、1体につきマガツヒ10人を担当
 PC側の行動をあらかじめ把握していた可能性あり

リプレイ

●集中砲火
 四方八方から飛来する遠距離攻撃を前に、エージェントたちはすぐさま防御を固めた。
「妙に退きが早いと思えば……!!」
『ふむ。嵌められたな』
 メルカバを盾にした鬼灯 佐千子(aa2526)がこぼした焦燥は、共鳴したリタ(aa2526hero001)の冷静なつぶやきの後に生じた爆発と同時に弾ける。
「出迎えの準備が整ってるとは驚きだな」
『こんな歓迎なら遠慮したかったわ』
 前後左右、完全に狙いすました包囲網を見渡した久兼 征人(aa1690)は、共鳴したミーシャ(aa1690hero001)の本当に嫌そうな苦情もあって思わず苦笑する。
『王さん!? 完全に囲まれてるっすよね、これ?!』
「そのようだ。こちらが奇襲のつもりだったのだがな……読まれたか」
 焦り声の君島 耿太郎(aa4682)に冷静さを保って答えつつ、共鳴の主導権を握るアークトゥルス(aa4682hero001)はコルレオニスで矢や銃弾を打ち落として目を細めた。
「マガツヒを襲撃する作戦じゃなかったのかよ?!」
『情報が漏れてた? でもどこから……?』
 ヘルハウンドの剣身で防御するカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)の悪態から、自然と動く肉体越しに御童 紗希(aa0339)は現状に対する推測を挟むが熟考の余裕はまだない。
《周辺に多数の敵性反応を確認――包囲か、小賢しい》
「如何しますか、篝様?」
 同時に告げたストレイド(aa0212hero001)の索敵結果を通信機に乗せた灰堂 焦一郎(aa0212)は、グロウスヴァイルを掲げた火乃元 篝(aa0437)の意向を確認する。
「無論、叩き潰す!」
『うわぁ、主ならそう言うと思ってましたよぉ!』
 そして返されたシンプルかつ豪胆な宣言をディオ=カマル(aa0437hero001)の愉快そうな笑いが彩った。
「まさに袋の鼠状態というわけか」
『タイミングが良すぎる気もするけど――っ、一真!』
 沖 一真(aa3591)が金烏玉兎集を展開し反撃の機をうかがう中、月夜(aa3591hero001)が頭上から迫る『ストームエッジ』に気づき警告。
「御屋形様に傷をつけるなど、私がいる限りさせません! 守ってみせます!!」
『おー、がんばれー』
 そこへ陰陽玉を操作する三木 弥生(aa4687)が間に入る。鎧のガシャガシャ音に混じる三木 龍澤山 禅昌(aa4687hero001)のやる気がない声はとりあえずスルー。
「絶体絶命――とまでは言いませんが」
『相手の思惑に乗ってしまったのは、どうにも癪だね』
『鉄壁の構え』からあえて前に出た零月 蕾菜(aa0058)は、大盾のようなパイルバンカーを構え魔法を止める。共鳴した十三月 風架(aa0058hero001)も口調は穏やかだが、少々の不機嫌さが混じっていた。
「防衛線の維持ならお手の物よ――雑魚相手に遅れは取らない」
 同じように橘 由香里(aa1855)はパトリオットシールドを地面に突き立て、自身に『リジェネーション』を施し攻撃をしのぐ。
『見事に敵の罠にハマってしまったようじゃのぅ』
「みたいだな……しかし、悟られないように電撃作戦を実施したんじゃないのか?」
 手応えの薄かった東門前における小競り合いから一転、窮地のような状況にイン・シェン(aa0208hero001)は笑みをこぼし、リィェン・ユー(aa0208)は戦闘の勢いをそがれて眉をひそめた。
「……情報に敏い奴が居たか」
『もしくは先読みでもされた、というところですわね』
 赤城 龍哉(aa0090)が前方に立ちふさがったマガツヒ前衛の背後へ消えた囮たちを睨み、共鳴したヴァルトラウテ(aa0090hero001)からやや苦い声が響く。
「――妙に敵の動きが良すぎる」
「偶然……というには出来過ぎかしらね」
 神斬の飛刃で攻撃の相殺と敵の牽制をしながら、アウグストゥス(aa0790hero001)と共鳴した黛 香月(aa0790)はエージェント全員が抱く疑問を漏らし、アムブロシア(aa0801hero001)と共鳴した水瀬 雨月(aa0801)が同意した。
「やはり、こちらの動きが読まれていたのか?」
「どちらかと言えば、どこかに『目』があったと考える方が自然だけれども……」
 振り返った香月の視線を受けつつ、反撃のためライヴスをためながら雨月はある懸念から言葉を濁す。
 ――その『目』は果たして、マガツヒと判断していいのだろうか?
「狙い澄ました待ち伏せで有利な状況から、各自好き勝手な力押しか……こちらの作戦を事前に傍受できたとは思えないちぐはぐさだな」
『別口の介入があった、と?』
「だとしたら、どこから情報が漏れたのでしょうね?」
『――ロロ』
 ダーインスレイヴで攻撃を防ぐ月影 飛翔(aa0224)が口に出した違和感をルビナス フローリア(aa0224hero001)が浮き彫りにすれば、メルカバで直撃を避ける構築の魔女(aa0281hero001)が視線を巡らし、辺是 落児(aa0281)の吐息が小さくこぼれる。
『必然、マガツヒに情報をもたらしたやつがおるのじゃろうて』
「にしては罠に急造感が目立つから、襲撃を知られたのはついさっき……内部じゃなく外部から情報がもたらされた可能性が高いか」
『うむ。つまりじゃ――マガツヒ以外の敵もおると見て間違いなかろう』
 さらにインとリィェンが推測を固めることで、エージェントたちの表情がより引き締まる。
「……この前の時といい、ステラが浮かぶな」
『となると、狂暴化される前に数を減らすべきですね』
『ルビナスさんに賛成よ。あれは、命を燃やし尽くす危険な力だわ』
「ああ……たとえ敵であろうと、望まぬ姿で使役されて死ぬのは見たくない」
 今と似た状況から飛翔が最初に思い浮かんだ敵は、ギリシャに現れた愚神ステラ・マリス。その時の記憶からルビナスがステラの強化で『暴走』したマガツヒに言及し、共鳴状態のメリッサ インガルズ(aa1049hero001)と荒木 拓海(aa1049)が頷く。強化そのものも脅威だが、戦闘後に強化マガツヒ全員が死亡したことも看過できない。
「マガツヒはもっと正体不明かつ破壊的で、絶望に満ちた奴等だと思っていたが……こいつらは随分と腑抜けた俗物だな」
 祭服と【斑雪の冬薔薇】を振り乱し、『鉄壁の構え』で動じない海神 藍(aa2518)は辛辣に吐き捨てた。
「どこから人数をかき集めたのか知らんが、今は――」
『ええ、お掃除が必要ですね』
 徐々に攻勢が弱まる気配を感じた藍に共鳴したサーフィ アズリエル(aa2518hero002)が同意し、建物の上階から顔を出すマガツヒを見上げる。
「だが、退路を断ったのは失敗だったな――囲い込んだ鼠は凶暴だぜ!」
 そして、連携など考えない遠距離攻撃が息切れを起こした瞬間、龍哉が獰猛な笑みで駆けだした。
 ――獅子と驕った猫たちへ、龍が如く窮鼠が噛みつく。

●囲いを食い破れ!
「包囲しているのに連携をしない……作戦の立案は入れ知恵でしょうか?」
 最初に構築の魔女が先ほどの防御で割り出した攻撃の軌道や角度をたどり、見つけたジャックポット(以下、『JP』)の銃口へ一瞬で狙いを定め、反撃の号砲を撃ち鳴らす。
『うわぁっ!?』
 相手の攻撃態勢が整うのを待たずして放たれた『トリオ』の砲撃は3方向へ分散し、マガツヒ前衛の頭上を越えて並び建つ建物上階の窓際へ飛び込み、悲鳴と爆発が弾けた。
「――くそ! てめぇらやりやがったな!」
「拙い行動でも退路は塞がれ、退く事は出来ずと……なら、風穴を空けるしかないわね」
「……ん。この遺跡に、何があるのか、調べるためにも……まずは、拠点を確保、しなくちゃ……」
『その足がかりに包囲網を崩すのね』
「援護します!」
 仲間をやられてドレッドノート(以下、『DN』)の1人がいきり立つも、雨月は冷静に敵前衛と距離をとりながらぼそりと行動指針を口にする。その言葉を近くにいた氷鏡 六花(aa4969)とアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)、そして蕾菜が拾い頷くと瞬時にライヴスを高める。
「潰せぇ! ……あ?」
 その間に短気を起こしたマガツヒ前衛の10人がエージェントたちへと突撃しようとしたが、数歩を踏み出したところで周囲を舞い踊る何かに阻まれた。
「『凍蝶』……」
「これ以上、そちらの自由にはさせません」
 それは、六花と蕾菜の放った『幻影蝶』の群れ。左右に広がった蝶はマガツヒたちのライヴスを奪い、次々と状態以上を引き起こしていく。
「ふはははは!」
 勢いがほぼ止まったところを見計らい、大鉈を振りかぶった篝が1人突出。『減退』で動きが鈍い手近なマガツヒへ切りかかった。
「くそっ! 舐めんな!」
 他の近接戦を得意とするエージェントも続こうとしたが、『幻影蝶』に抵抗できたブラックボックス(以下、『BB』)の1人が、『蒼の王』をまとった状態から『蒼き舌』を発動。範囲を広げた水流を操作し足下を絡め、瞬時に凍結させて足止めを図る。
「今だ! ぶっ放――」
「突破を支援致します。お気をつけて」
 続けざまにBBがエージェント側面の建物に控える後衛へ追撃を促そうとしたが、焦一郎が展開したカチューシャの爆発音にかき消された。その間に場所を移動しながら装備を外した焦一郎はLSR-M110を手に、窓から篝を狙っていた後衛へ『トリオ』で牽制を行っていく。
「いくぞいくぞいくぞ!!」
「うわっ!?」
 通信機から焦一郎の声を聞いていた篝は、さらに猛進。爆撃の煙ごと引き裂く『疾風怒濤』で『狼狽』から抜け出せないDNを『戦闘不能』にし、すぐに新たな獲物へ走り集団をひっかき回す。
「何やってんだ! どんどん攻撃しろ!」
 とはいえ物量差はすぐに埋まらず、建物上階からマガツヒの攻撃が再び始まる。
「くっ、――上から狙ってる連中を抑えないことには仕方がないわね……!!」
 ソフィスビショップ(以下、『SB』)の『ブルームフレア』を堪えた佐千子は武装を対愚神用のまま、左側面の建物の2階部分を切り取った窓へ『アハトアハト』を撃ち込んだ。
『見える範囲だけでもマガツヒの戦力はこちらより多い。現状で敵の生命を斟酌できる余裕はないか』
「そういうこと!」
 建物の振動と敵の悲鳴が響く中、リタが対人用の意識は捨てるべきとした判断に理解を示すと、佐千子はさらに右側の建物にいる人影へと『トリオ』で牽制を放つ。
「げほっ! ……撃て! 撃ちまくれ!」
 寸前で防御が間に合い、大きくせき込んだカオティックブレイド(以下、『CB』)は佐千子を中心に『ストームエッジ』を射出。同階にいるSBに叫びながら追撃を促した。
「――っ?!」
 瞬間にCBの横を何かが通り過ぎ、思わずそちらへ振り返る。それが回転する『消火器』だと理解した直後、さらに飛び込んできた『烈風波』により破裂――煙幕となった消火剤がフロア内に広がった。
「なん、っ!?」
 混乱するCBだが、正気に戻るよりも早く背中に感じた軽い衝撃の後、同じ箇所へ何十倍にもなった重い衝撃が襲いかかった。
「うげっ!? て、めぇ!!」
『お邪魔いたします。『お掃除』に参りました』
「早々にしとめる!」
 背中を突かれ吹き飛ばされたCBが立ち上がると、ジャングルランナーで窓からダイナミックに侵入した藍を睨む。豪快な突入に反し冷静なサーフィの声と同時、藍は大剣を構えCBの視線ごと斬る勢いで肉薄した。
「調子に乗るなよ!」
『王さん! 後ろからきます!』
 マガツヒ後衛の勢いが鈍ると、東門への退路を塞ぐように展開したマガツヒからシャドウルーカー(以下、『SR』)が飛び出し、『ジェミニストライク』でアークトゥルスへ襲いかかった。
「――ちぃっ!」
「焦りを隠せていないぞ。私たちの反撃がそこまで怖いか?」
 耿太郎の警告に反転し剣で防ぎ、分身ごと跳ね返したアークトゥルスは後背の守りとして敵と対峙。『リンクコントロール』でライヴスを活性化させると、包囲突破まで後衛の防御に集中する。
「そうなら最初から大人しくしていて欲しいけど、無理にとは言わないわ」
 その後ろから、雨月が終焉之書絶零断章を手に高密度のライヴスを放出。
「あの女の魔法を止めろ! ――づっ!?」
「伊達に俺も、『素戔嗚尊』などと呼ばれている訳ではないのでな」
『この程度でどうにかなる私達じゃないのよ』
 それに気づいたブレイブナイト(以下、『BN』)が叫びながら発動を止めようと剣を振りかぶるも、進路に割り込んだ迫間 央(aa1445)とマイヤ サーア(aa1445hero001)の振り抜いた天叢雲剣と声に阻まれる。
「――私たちで大人しくさせても、結果は同じだもの」
『ぐああっ!?』
 そして弾けた『ブルームフレア』の炎に紛れた悲鳴と、雨月の泰然とした声と表情がマガツヒを萎縮させた。
『うむ。劣勢の状況下でなお輝く皆の意志と奮起に、私は期待しているぞ』
「環境も優劣も関係ない。進むと決めたからには、その道をただ征き蹴散らすだけだ」
 反抗に転じて激しくなる戦況にナラカ(aa0098hero001)が俯瞰者として声を弾ませる中、八朔 カゲリ(aa0098)は総てを受け入れる姿勢のまま淡々と『リンクコントロール』でライヴスを活性化。ブレイブガーブの能力を引き上げつつ、レーギャルンから抜き放った天剣の衝撃波でさらに攻勢を殺ぐ。
「包囲されてちゃこっちがヤバイ! 中央突破を急ぐぞ!!」
「数で囲んだところで――勝てると思うな!」
「死にたくないなら、英雄を失いたくないならここから離れろ!」
 後方から迫る敵に舌打ちを漏らし、『蒼き舌』から抜け出したカイはお返しとばかりにカチューシャを展開。それを合図に飛翔が担いだフリーガーを、拓海がカチューシャを呼応して構え一斉にロケット弾をばらまいた。
『ぎゃああっ!?』
 精強なDN3人による広範囲制圧爆撃はマガツヒに回避する暇など与えず、行く手を阻んだ者たち全員を巻き込んで粉塵を舞い上げる。
「御屋形様! 三木殿! 死角は拙者が守ります故、前にお進みくだされ!」
『そちらはすでに瓦解寸前、もう一押しすれば折れるはずじゃ!』
「周囲は私たちが引き受けます、御屋形様!」
「助かる! じゃ、期待に応えて派手にぶち抜こうか!」
 さらに、天城 初春(aa5268)は東門側から接近したBNに白夜丸で切りかかりつつ、共鳴した辰宮 稲荷姫(aa5268hero002)と一緒に前進を促した。それに弥生が陰陽玉で飛来した攻撃を肩代わりしたことで応え、術式構築に集中できた一真は『霊力浸透』を付与した『ブルームフレア』を敵集団の中心で爆ぜさせた。
「ぐ……そう簡単に、抜かせるかよ!」
 エージェントの連続攻撃で満身創痍の中、前衛の中にいたバトルメディック(以下、『BM』)が『エマージェンシーケア』や『ケアレイン』で何とか再起を図ろうとする。
「それじゃあ、やろうかAlice」
『OK、アリス』
 しかし、共鳴で同時に主人格を担うアリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)がオーダーを確認するように頷くと、立ち上がろうとしたマガツヒへ『ブルームフレア』で追い打ちをかけた。
「僕らも行くよ、シーエ!」
『もちろん♪ カオブレは範囲攻撃の総本山なんだからぁ♪』
 ダメ押しに、前へ出たエスト レミプリク(aa5116)が共鳴したシーエ テルミドール(aa5116hero001)の言葉を体現するように、『ライヴスキャスター』でわずかに残ったマガツヒの体力を削りきった。
「包囲は崩れた! 行くぞ!」
 すぐさま獅堂 一刀斎(aa5698)は倒れたマガツヒの横を駆け抜ける。
『一刀斎様、あちらは先ほど、刃を交えた方々では?』
 すると、共鳴した比佐理(aa5698hero001)の声に目を細めると、門の外で交戦した囮役たちが『ケアレイン』の光に包まれていた。包囲で時間稼ぎをしている間に態勢を整えようとしていたようだが、エストのスキルに巻き込まれた直後に攻め入られて困惑の表情が並ぶ。
「築(きずき)の予想通り入れ知恵なら、ここからどう対応出来るか――見せて貰おうか!」
「ぎゃああっ!?」
 そのまま一刀斎がディバイド・ゼロで切りかかる背中に続き、龍哉も『強羅』を叩きつけた。『一罰百戒』の気概で放たれた一撃で敵のDNが宙を舞い、『戦闘不能』で地面に落ちた様は大幅に士気を奪う。
「よくもまあ俺らを罠にかけてくれたなぁ!」
 さらに追い打ちをかけるように、進み出たカイが及び腰のマガツヒへ『怒濤乱舞』で襲いかかった。
「ぐっ……一度退いて、っ!」
「逃がさん」
 瞬く間に削られていく仲間たちを見たシャドウルーカーが建物内へ逃げようとするも、香月がアンチマテリアルライフルで足下を撃ち抜き離脱を阻む。
「こ、の――上等だぁ!」
 もはや逃げられないと察したからか、逆上したマガツヒは再び気力を取り戻す。囮役だった前衛が戦意を取り戻し、左右側面に建つ建物にいたJPが射撃の雨をエージェントたちに集中させる。
「射撃の反動と位置取りを調整すれば、避けれないことはありませんか」
「ちっ!」
 敵の『ダンシングバレット』や『テレポートショット』の合間を縫って、構築の魔女はJPへの砲撃を利用しDNの『ストレートブロウ』を後退して避ける。
(しかし、月影さんの懸念通りギリシャでマガツヒに関心を示したステラ・マリスが関与しているとすれば、スキルを指すだろう『祈り』をまだ見せていませんね。使用条件を想定するなら、知覚網でしょうか?)
「おらぁ!」
「っ、……並行して調査すべきですね」
 同時にH.O.P.E.の作戦をリークした指揮官についての考察も行いつつ、構築の魔女は『ヘヴィアタック』をメルカバで受け止めた。

●東門前の攻防
「よし! 次は先ほどから鬱陶しい後ろの奴らだ!」
『おっとぉ、忙しなくないですかぁ?!』
「あんま無理しちゃダメっすよ!?」
 突破した仲間が進行方向で新たな戦闘を始めたことを確認し、篝は大きく頷くと真逆の方向へ走り出した。ディオのツッコミごと問答無用で引きずってエージェントの後衛へ向かう途中、すれ違った征人がボロボロの姿に目を丸くしながら『ケアレイ』を飛ばす。
 味方の無差別攻撃も多い状況で暴れ回った結果、攻撃が最大の防御を地でいく篝の消耗は激しかった。
『付き添わずともよいのか?』
「こちらが気にかけずとも、あいつは好きにやるだろう」
『覚者がいうなら問題ないか。さて、こちらに趨勢が傾き始めた今、禍津日の連中がどう動くか、だな』
 征人に続きナラカが哄笑を上げる少女に言及すると、幼なじみで腐れ縁なカゲリは素っ気なく返す。
 それがカゲリなりの信頼と捉えたナラカは軽く頷き、動揺が生まれた敵側に期待のまなざしを向けた――性質の善悪を問わず、遍(あまね)く人の子が放つ意志の輝きを尊ぶため、敵でさえ見守るのが彼女である。
「これで少しは余裕が生まれたか……では、近い場所から殲滅する!」
 敵も味方も戦力と戦場が二分され、奥へ十分な数の仲間を送り出した香月は装備を神斬に持ち替え体を反転。退路側に散らばるマガツヒを蹴散らすため、『怒濤乱舞』で切りかかる。
「ふっ!」
「くっ……そ!」
「そらそらそらぁ!」
 同じくその場に残った央が『ジェミニストライク』でBNを襲撃し、動きが止まったところを篝が割り込んで『オーガドライブ』の追撃。
「――っ! 積極的な攻撃は頼もしい限りですが」
「深追いは危ないわよ!」
 盾と『クロスガード』ごと貫こうと苛烈に攻める篝の背へ『銀の魔弾』が迫ると、とっさに近くにいたアークトゥルスがカバーに入り由香里が『ケアレイ』で援護するが、篝に聞こえているかはわからない。
「……前衛の足止めはできているが、上から飛ぶ魔法攻撃が厄介だな」
《右方の攻勢は海神 藍の制圧行動により動きが鈍い》
「左の建物へも牽制射撃は行っていますが、やはり直接排除が最善でしょうか」
 常に移動しながら別々の敵を相手にする央がつぶやくと、建物にいる敵の位置や数をゴーグルで確認していたストレイドと焦一郎が答えた。
「好戦的に見せているのは、こちらを誘う罠ということはない?」
 さらに、由香里が雷上動でマガツヒ後衛を牽制しつつ推測を口にする。
「さっきから聞こえてくる策士気取りの愚神がもし近くにいるなら、あえて『付け込む隙』を見せてやれば尻尾を出すかも。……逆に、愚神の奇襲を誘ってもいいしね」
 要するに、相手の策にはまったフリをして逆に利用する、ということ。
 相応の危険はあるが、得体の知れない何かの正体は掴めるかもしれない。
「では、まだこちらに余裕がある間に仕掛けましょう」
「死ねぇ!」
「っ、【共鳴を解除してください】!」
 決断は短く、蕾菜が敵DNへ『支配者の言葉』で命令を下したことを合図に、一部のエージェントたちは動きを変えた。
「では、私は左側の建物へ突入した後、屋上にて狙撃ポイントを確保します」
「私も行こう」
 まず、焦一郎が東門から向かって左側にある建物の2階天井へジャングルランナーのマーカーを射出し、同時に香月が『全力移動』で1階から侵入し階段を駆け上がる。
《マーカー設置確認――飛べ》
 すぐに2階からマガツヒの怒号が聞こえ、ストレイドの声で焦一郎はジャングルランナーを起動し香月と同じフロアへ窓から飛び込んだ。
『サチコ、我々はすでに右の建物内へ潜入したランの援護に向かうぞ』
「わかったわ!」
 次いで、リタの声に頷いた佐千子が重装備であるメルカバとレイジ・マトリクスをパージ。幻想蝶から取り出した高機動型PAEスーツを補助防具として着込むと、ドラグノフ・アゾフを手に『全力移動』で階上を駆け上った。
「ちっ、待ちやがれ!」
 しかし、後衛が狙われたと気づいたマガツヒ前衛のSRが建物内へ追跡しようとする。
「いちいち逃げ回られると鬱陶しい……特に迫間さんには悪いけど、少し動きにくくしても大丈夫?」
「問題ない」
『ハンデがあったくらいが、むしろちょうどいいわ』
「了解――行くよ」
 その動きに気づいたアリスが通信機で注意を促し、央やマイヤを始め仲間から許可を得た後で『重力空間』を発動した。
『う、ぐっ!?』
 瞬間、アリスを中心にした結界が内側にいたほぼ全員の足を重圧で縛り、この場へとどまるよう強いる。
「おわっ!? 何だ、急に体が重くなったぞ!?」
『って、主! 人の話はちゃんと聞きましょうよ!?』
 約1名、話半分で頷いたために目を丸くするエージェントと道化がいたとかいないとか。
「あなたたちの相手はわたしたちだよ。――安心して、すぐに終わらせるから」
 篝はさておき、アリスは建物の入り口へ近い位置にいたマガツヒを『ゴーストウィンド』で吹き飛ばす。
「ちっ! あのソフィスビショップを殺れぇ!」
「させません! ――くっ!?」
 すると、激高したBNがアリスを標的にするよう叫び『ライヴスショット』を発射。かろうじて蕾菜のカバーリングが間に合ったが、爆発の余波が広がり完全には防ぎきれなかった。
「今度は俺が吹っ飛ばして――っち!」
「つれないな。俺たちも相手にしてくれよ?」
 続けてマガツヒのBBがスキルを使おうとしたが、先に央の『ジェミニストライク』に割り込まれ『狼狽』でライヴスが霧散する。
「どうやら、貴様らは連携そのものが得意ではないようだな」
「はっ! テメェらも仲間に足引っ張られてんじゃねぇか!」
 また、アークトゥルスが違う場所から攻撃しようとしたDNを抑えると、挑発じみた言葉を浴びせられた。
「笑止。私たちの役割は貴様らの行く手を阻み、倒すことだ」
『これくらい、不利でも何でも無いっすね!』
 が、アークトゥルスも耿太郎もマガツヒの安い挑発を歯牙にもかけず、『アタックブレイブ』で周囲の仲間へ絆の力を上乗せする。
「……ん、動けなくて困るのは、そっち」
 そして、六花が終焉之書絶零断章へライヴスを凝縮し、冷たいまなざしを向けた。
「なっ、待――!」
「……凍って」
 その勢いに臆したマガツヒの制止も聞かず、六花は『氷炎(ブルームフレア)』を放ちDN2人が沈黙する。
「バラバラに動くな! 1人を集中的に狙って確実に潰していけ!」
 すると、『ケアレイン』で味方を回復したBMがようやく指揮らしいことをし始めた。
(さて、これが愚神の介入なら、備えはしておきましょうか)
 愚神が釣れたかと内心でこぼし、由香里は密かに『ライブスミラー』を自身に展開する。
 そして、愚神からの攻撃を誘うため武器を薙刀「冬姫」へ持ち替えて前に出た。

「始末する」
「な!?」
 地上の戦闘が激しさを増す中、左側の建物2階へ進んだ香月は素早く視線を動かし敵2人を確認。奥側にいたSBへ斬撃を飛ばして先に牽制をしかけ、手前にいたSBへは肉薄と同時に『一気呵成』で『戦闘不能』にする。
「や、やりやがったな!」
「我々の作戦目標は拠点制圧――互いに降伏の意思がないならば、戦闘が不可避だと承知のはずです」
 奇襲で1人残されたSBは慌てて香月へ『リーサルダーク』を放とうとしたが、その前に窓から飛び入り床を転がるように着地した焦一郎の『テレポートショット』が死角から撃たれ、意識がわずかにそれる。
「眠っていろ」
『翻弄』のまま射出されたライヴスの闇は見当違いの方向へ飛び、逆に香月から放たれた鋭い斬撃はSBの胴体を捉え、声も出させぬまま『戦闘不能』に落とす。
 その後、口数が少ない2人は視線で互いの意思を確認し3階への階段を上っていった。

「邪魔だ!」
「く……遮蔽物がないと、1人では集中的に狙われるか」
 一方、家具も何もない建物内で先に戦闘を開始していた藍は、大剣を盾にしながらマガツヒのCB、BM、BMを同時に相手にしていた。いまだ致命傷は受けていないが、回復役がいるためこちらも一気に倒しきれない。
「加勢します!」
「ぐあっ! あ、新手か!?」
 膠着状態が続く中、階下から合流した佐千子が『ストライク』を放ち参戦。上階へ続く壁際にいたSBが被弾し、準備していたスキルが霧散する。
「助かった、一気に攻める!」
「させっか、よっ?!」
 それを好機に藍が防戦から攻勢へ転じる。慌てて接近したCBの剣を弾き飛ばし、隙をついた『烈風波』でSBを追撃し『戦闘不能』にした。
「くそ! 上の奴らと合流するぞ!」
「待ちなさい!」
 これで2対2となったが、マガツヒは『全力移動』で3階へと逃げた。上には別のSBが2人いたと思い出した佐千子が追跡のため走り出す。
「ん? ――なんだ?」
 藍も後に続こうとしたが、ふと気絶したマガツヒの懐から転がった小石のような物を拾う。
『……海の匂い。報告にあった悪意の星では?』
「ステラ・マリスか……これが面倒なことにならなければいいが」
 眼前にかざした瞬間に漂った磯の香りにサーフィが指摘すると、藍はすぐに通信機から仲間へ連絡した。
「海神だ――倒したマガツヒから、ステラと関連が疑われる岩の欠片を見つけた」

●突破後の再戦
 藍から通信が入る少し前。
 こちらは包囲を突破後にエージェントが再度ぶつかった、元・囮役のマガツヒたちとの戦闘地点。
「前衛はDN、BN、SR、BBで固定みたいっす! こっちの建物にいる後衛はJP3人とCB1人ずつ! BMは前衛にも後衛にもバラけてるみたいっすよ!」
 右側の建物に寄ってモスケールを起動し、目視とあわせて索敵を行う征人の声が通信機で伝えられた。
「――次は!?」
『そのまま後退すれば全方角、いけるわよぉ♪』
「わかった!」
 最初に負わせた傷を回復していた囮役たちへ、再びダメージを重ねるためにエストは単独で敵の中心に移動し『ウェポンズレイン』を発動。シーエから聞く周囲の情報で位置や範囲を見極め、敵のみを影殺剣の刃に巻き込んでいく。
「ヴィランだから殺しちゃマズいが、野放しも邪魔になるだけだ、な!」
「ぐ、ぎゃあ!?」
 剣の雨が止んだタイミングでリィェンが敵陣へ踏み入り、『ヘヴィアタック』で防御態勢のBNを『戦闘不能』にし手脚を折る。
「そうして無力化しておけば、捨て置いても構わないだろう」
「ちっ!」
 愚痴のような言葉に答えつつライヴスを活性化させたカゲリも、天剣の衝撃波を飛ばしSRの『女郎蜘蛛』を断ち切り避ける。
「拙者が牽制しております故、その間に回復を!」
「弥生、これも使え」
「ありがとうございます、御屋形様」
 左側の建物近くでは、弓張月で矢をばらまく初春の背後で一真が弥生へ『ヒールアンプル』を、弥生自身も『霊符』を使用し失ったライヴスを回復していた。包囲の時も突破の時も、積極的に一真の攻撃も引き受けたためダメージが大きかったためだ。
「もう大丈夫です! 偵察の『鷹』も放ちましたし、行きましょう!」
「無茶するなよ!」
 そうして体力を取り戻した弥生は護衛のため生成が遅れた『鷹の目』を空へ放つと、肉薄した敵の攻撃を防御し『リフレックス』効果でダメージを蓄積。一真は戦法的にマガツヒに囲まれる弥生を心配しつつ、まとめて『ブルームフレア』で炎に包んだ。
『少しでも敵の数を減らして、連携をさせないことが大事よぉ♪』
「わかってる! そのために――相手も場所も選ばず動き続ける!」
 敵の後衛が配置された建物に左右を挟まれた状態で、シーエの助言を聞きながらエストは常に足を止めず前衛に接近と離脱を繰り返し、着実にダメージを重ねていく。
「ん?」
 その時、一歩退いた場所からマガツヒを見ていた初春が小首を傾げる。
「なんじゃあ奴ら、急に動きに統制が出てきおったの……指揮官でも出てきたか? それにしては、指示出しが行われているようには見えぬが?」
 それはほんのわずかな違和感――個人行動に埋もれた、流れを変えようとする小さな何か。
「初春、どうした?」
「御屋形様、申し訳ない。少し下がりますじゃ。【我が分け身たる鷹よ、我が目となりて飛び立ちたまえ】」
 放置するには奇妙なそれを確かめるため、背にかばう一真の隣まで後退した初春は『鷹の目』を発動した。
「天城殿?」
 ついさっき『鷹の目』を飛ばしたばかりの弥生も訝しげな表情をするも、初春は目を閉じて『鷹』の感覚に集中しだした。

『うわあっ!?』
 すると、左側の建物から爆発音とマガツヒの悲鳴が響いた。
「下から突いて黙らせる」
 1階に立ちこめる煙の中、飛翔が天井を破壊したフリーガーからダーインスレイヴへ装備を変えたところで、上階から落ちてきたJPへ拓海が接近する。
「はあっ!」
「――うごっ!」
 そして、防御も回避も許さないままウコンバサラの『ヘヴィアタック』で『戦闘不能』に追い込む。
「おい、何があった!?」
「飛翔、3階にいたマガツヒが降りてきてくれたみたいだ」
 拓海は素早くJPから幻想蝶を取り上げ、モスケールの反応と穴から聞こえる焦った声から上を指さした。
「先に行くぞ、拓海」
 瞬間、飛翔は膝を曲げてから大きく跳躍して2階へ降り立ち、驚愕しながら武器を構えたマガツヒを睥睨。
『対応が遅いですね。その程度でいい気になっていたなど――』
「俺たちを侮りすぎだ!」
 ルビナスの失笑と飛翔の叫びが連なったと同時、『怒濤乱舞』の一撃が残る4人へ叩きつけられた。
「ぐ……ざけんなよ!」
 すぐ後に拓海が2階へ上ると、とっさに展開した『フラグメンツエスカッション』で踏ん張ったCBが悪態をつき、BMの『ケアレイン』でライヴスを取り戻す。
「悪いが、これで沈める!」
 しかし、次に動いた拓海の『怒濤乱舞』まではしのぎきれず、建物内のマガツヒは呆気なく全滅した。
「……これは」
 すると、拓海もマガツヒの懐から転がった欠片を見つける。
 あらかじめ意識に止めていたこともあり、色合いや質感からそれがすぐにスディレに近い物だと気づいた。
「オレ達H.O.P.E.と遭遇するために、追い掛けてきたのか?」
『だとしたら、ずいぶんと下に見られたものね』
 ステラの介入を確信した拓海とメリッサが静かな怒りを冷たい声に乗せ、モスケールを起動しながら通信機で情報を伝える。ステラは従魔の破片を利用して戦況を把握し、見えない位置から指示を出している可能性がある、と。
「索敵は任せる。俺は隣に移って引き続きマガツヒを倒す」
 スディレの破片は反応が小さすぎて識別が困難で、本体もレーダー範囲にいない。それを確認した飛翔は、香月や焦一郎がいる隣の建物へ飛び移るため、屋上を目指した。

「ば、バケモノが!」
「お前らが軟弱なだけだろ」
 同じ頃、飛翔たちの向かい側の建物でも速攻でマガツヒ2人が倒され、隙を見たCBは1人捨て台詞を残して3階へ逃げた。直接バケモノ扱いされた龍哉は鼻を鳴らすと、背後の怒声に振り返る。
「お前ら、何故H.O.P.E.が奇襲に来ると知っていた!? 俺は気が短いんだ! 喋らねえってなら、お前の脳天に風穴が開くぞ!」
 そこでは、カイが『戦闘不能』になったBMの胸ぐらをつかみ上げていた。
「ぐ、ぐしん、が――」
 すると、BMは拙い言葉で説明しようとするも、打ち所が悪かったのかそのまま気絶してしまった。懐に入れていた手には、スディレの欠片が握られている。
「これが居るって事は、例の首謀者も出張って来てたか」
 龍哉も以前の依頼で相手にしたことがあり、すぐにスディレとステラを連想できた。すると、通信機からも欠片の目撃証言に加え、スディレとステラについて簡潔な連絡が届いた。
「報告書を読んだが、その愚神って相当危険らしいな」
『こんなに大勢いる中で、愚神を発見できる?』
「何処かに潜んでいるなら、動かずにいる筈だ。留まってる個体を発見できれば、多分そいつでビンゴだろ」
 龍哉からスディレの特徴を聞き、カイは記憶を掘り起こしながら紗希と対処法を相談する。
「ただ、これの本体がどこにいるか――」
 と、何気なく窓の外を見上げたカイは、キラリと光る何かを発見し神経接合マスクでズーム。
「あれかっ!」
 それがヒトデ型の従魔だと気づいた瞬間、カイは幻想蝶から取り出したヘパイストスと『弾道思考』で撃ち落とした。
「追加情報だ。空で発見したスディレ本体を倒したら、欠片の方も溶けて消えたぜ」
 そして、その様子を見ていた龍哉によって、新たな情報が通信機で広まった。

「……なんじゃあのヒトデ? どっかで見覚えが」
『お初、全員に警告飛ばせ。こやつはスディレ、この間ギリシャで暴れおった、愚神の従魔じゃ!』
「話に聞く陰険女愚神のですか!」
 その直前にも、初春の『鷹の目』が別のスディレを見つけ稲荷姫が注意するが、突如『鷹』との感覚共有が途切れる。見れば、右側建物3階のJPが空へ狙撃の銃口を向けていた。
「くっ! ――全員に通達、愚神ステラが敵勢の背後にいる可能性あり! 取っ組み合いは避けられたし!」
 マガツヒの妨害により、初春は愚神とのつながりを確信して通信機へ警戒を飛ばす。
「指示伝達の発光も、ステラ本人が直接見ているなら無制限に届くわけではないでしょうし……まあ、ひとまず不安材料は潰しておきましょう」
 真っ先に反応したのは構築の魔女。口頭で伝えられた位置情報から『ノイズキャンセラー』も併用して目をすがめ、『弾道思考』で延長したメルカバの砲撃で2体目のスディレを撃ち落とした。
「目測ですが、スディレがいた高度は地上からおよそ100m上空です! 他のみなさんもお気をつけて!」
 そして、他のスディレも同じ高さにいる可能性を告げ、構築の魔女はさらなる探索と狙撃のため高所をめざし、龍哉やカイがいる手近な建物に入っていった。

「ぐぇっ!」
(ステラはH.O.P.E.を、マガツヒを、遺跡を学んだ……今回もきっと近くに居る!)
 手近なマガツヒを切り払った一刀斎も、どこか焦りに似た感情を胸にステラの居場所を探していた。ひとまず、眺めが良く戦場を見渡せる建物内と目星を付け『鷹の目』を空へ上げた。
(スディレがいて、ステラが来てないわけないよな……どこにいる?)
 征人もまた行動傾向を予想してステラを意識しつつ、味方前衛へ『ケアレイン』を施して薙刀「焔」で近接戦闘に加わる。
『この人数で前みたいな強化されたら、シャレにならないわ。それと、私たちが出くわしたら逃げるわよ。相性が悪すぎる』
「俺としちゃ、この間の奴が勉強した成果を聞いてみたいんだがな。何を学び、誰を導き、ライヴスの解放なんかして何になるのか? ……正体が曖昧って意味じゃ、ステラもマガツヒと似てるのかもな」
(だったら、そんなの行き着く先は破滅しかないじゃない)
 並行して征人が通信機でステラの詳細情報を説明すると、ミーシャはまだエージェントと同じ数だけいるマガツヒや、前回の戦闘で耐久型と判明したステラに不安を抱く。
 すると、本心からの疑問か不安を和らげる軽口か、征人は冗談めかした口調で笑みを浮かべるが、ミーシャの心にはさらに強い憂慮が広がった。
「よう。その従魔の欠片、どんな愚神から何て言われて借りたんだい?」
 一方、一真は『戦闘不能』にしたマガツヒを起こして話を聞く。なお、聴取中のマガツヒから欠片は見つからず、どうやら構築の魔女が倒したスディレのものだったようで連携が弱まっていた。
「は、知らねぇ、な」
「……俺の経験上、人ならざる者から力を貰った人間の末路は悲惨なものだぜ。まだ人間としての生に未練があるなら、そいつから離れることだ」
『人間のままなら生かしたままという選択肢もあるの。私に化け物退治をさせないで』
 答えを拒絶するマガツヒになおも迫る一真と月夜だが、まともに話すことはなく最後はまた気絶させた。
「……見つけたぞ!」
 その時、スディレが消滅した場所まで『鷹』を移動させていた一刀斎が『全力移動』で駆けだした。
「獅堂だ! かなり離れた位置の建物でステラらしき人影を発見した! 一度そちらへ向かう!」
 スディレが見える場所からならステラも確認できるだろうという考えが的中し、一刀斎は部隊の中でも上位に入る俊足であっという間に戦場から離れていった。
「きな臭いと思っていたら……またあいつか!」
『どうするのぉエスト?』
「獅堂さんが迎撃に行った、あそこに雑魚まで群がらせるわけにはいかない!」
『じゃ、引き続き遊撃ねぇ♪』
 確定した情報を聞いて思わず顔がゆがむエストだが、シーエの問いには返答素早く目の前の敵へそのまま切りかかる。
「御屋形様、私の『鷹』も姿を捉えました! 獅堂殿とともに参りま――っ!?」
「行かせるかよ!」
 同じタイミングでステラを見つけた弥生は一真に進言したが、敵SRの『縫止』を受け体が硬直してしまう。
「こんなところに愚神が、って気持ちは分かるが、目の前のことにも集中しろよ!」
 そこへリィェンが切りかかり追撃は避けられたが、残るマガツヒは行く手を阻むように散らばった。
「愚神の存在に気づかれたら、あらかじめ足止めしろって言われてたからな。あんな小娘の命令に従うのは癪だしおっさん1人は通しちまったが、なんかやらかしてくれるだろうよ!」
 そう言うと、武器を構えたマガツヒは一斉にエージェントたちへ接近した。

 堅い感触がぶつかり、反発した音が響く。
「……また会えたな」
「ふふ、貴方様とは、よくお会いしますね」
 助走の勢いそのまま2階の窓から飛び込んだ一刀斎は、すれ違いざまの刃がヴェールの『手』に防がれたことを見送り、着地。
「大切な『祈り』を邪魔してすまんが――少し俺と遊んでくれるか、ステラ!」
 膝を曲げて衝撃を殺すと、バネのように体の方向を変えた一刀斎は『ジェミニストライク』で追撃した。
『よく、私(わたくし)の場所がわかりましたね?』
「姿を見たのは偶然だが、足跡や磯の香りなどごまかさずしてよく聞けるものだ」
 だが、大剣で両断された体は前回同様肉体が復元し、2人となったことで分身だと悟る。
「本体はどこだ? お前のことだ、この都市に潜んでいるのだろう?」
「いいえ、ここに遣わしたのは偽りの『私』だけ……貴方様方がいう、偵察、のようなものですから」
 次に一刀斎が切りかかれば分身は消え、もう1体から伸びる『腕』を防いで反撃すればまた分裂する。
 どうやら、この場で増やせる分身は2体までらしい。
『とはいえ、このままライヴスを削られるだけというのも立場がありませんので――』
「っ! 待て!!」
 瞬間、分身『2体』からライヴスの膨張を感知した一刀斎が肉薄し1体を両断。返す刃で再度『ジェミニストライク』を放つと、防御した『腕』ごと切り裂いた。
『――少しばかり、マガツヒの方々へ微力を添えましょう』
 が、驚異的な再生能力でまたも分裂した2体の分身は同時にライヴスを膨張させ、ドロドロと溶け落ちる。
「くそ!」
『一刀斎様、他の皆様が!』
 そこから入ったマガツヒの異変を知らせる通信に一刀斎は歯噛みし、比佐里の声に答える代わりに『全力移動』で来た道を戻っていった。

●抱く者に『星』は輝く
『ステラがスキルを発動したようです! みなさん、マガツヒの挙動に注意をしてください!』
 分身ステラと一刀斎の攻防を見守っていた弥生の声が通信機を伝い、エージェントたちに緊張が走る。
「ぐはっ!」
『ん~、こっちは特に変化とかないわねぇ?』
「不発? それとも、ハッタリとか?」
 しかし、東門から離れた場所で戦うシーエやエストに、以前感じた強化や『暴走』の気配は感じられない。先ほど『戦闘不能』にしたマガツヒも、強さは変わらないままだった。
『零月です! マガツヒの様子が変化しました! 気をつけてください!』
 直後、東門に近い位置で戦っていた蕾菜からの通信で、エストの予想が外れていたことを知る。
「考えられるとすれば、スディレとか言う従魔に何かあるんだろう」
 そこへカゲリが『ライヴスブロー』でまた1人『戦闘不能』にした後、エストへ振り向いた。
「戦場を俯瞰する位置にあり、指揮能力の一端とはいえ発光するのみの従魔など不審でしかない。残る役割があったとすれば、マガツヒが渡されたという『従魔の欠片』に仕掛けがあったのだろう」
 スディレの撃破報告はカゲリたちのいる奥側の2体だけ。さらに撃破と同時に消滅した欠片はマガツヒの全員が所持していたと思われることから、ステラのスキルを伝える受信機のような役割があったと推測できる。
『ふむ、然(しか)し其れが事実だとすれば興味深いな。自分より味方、攻撃よりも支援を是とする利他的な心……愚神であるその身に如何にして生じるものか。利己の装飾などと答えられれば詰まらぬだけだが、そこに何らかの信念があるのであれば、是非直に相対し言葉を交わしてみたいものよ』
 それを聞いたナラカが面白そうに頷くが、カゲリは反応せずに別のマガツヒへ攻撃を繰り出す。
「まったく……ヴィランと従魔の混成の集団ってのは加減が難しいから面倒なもんだが、今回はさらに上回って面倒だな」
『なんじゃ、ややこしい事態に頭を使うのが手間か?』
「そうじゃない。誰かが通信で言ってただろ……前にその愚神の力を受けたマガツヒは、戦闘が終われば全員死んだってな」
『なんと! ならば、そ奴ら相手であれば手心など不要ということじゃな!』
「……嬉しそうだな」
 また1人、マガツヒを『戦闘不能』にしたリィェンが渋い表情でつぶやくと、インの心なしか弾んだような声音に思わずつっこんだ。
「こっちの建物にいたマガツヒは倒しました!」
「俺らも終わったぜ! 屋上に構築さんが残って援護してくれるってよ」
 すると、左側の建物から神経接合スーツへ装備を変更した拓海が、右側の建物からカイが龍哉を伴って現れ、制圧完了を告げる。
「では、こちらはあらかた終わりましたかの」
 そして、最後に初春が残っていたSRを弓で倒すとマガツヒで動ける者はいなくなった。
「それじゃ、門の方へ戻って援護に行きましょう!」
 一息ついた後、補助防具をPAEスーツに変更し賢者の欠片でライヴスを回復する征人が促すと、エージェントたちは強化マガツヒと戦う仲間の元へ走っていった。

「ヒ、ハハハッ!!」
「哀れだな。愚神にいいように利用されていることも知らぬ愚か者どもが……」
《ライヴス膨張・常時流血及び回復を確認》
「話には聞いていましたが、厄介ですね」
 ステラのスキル発動直後、東門に近い左側の建物3階でマガツヒ3人と相対していた香月と焦一郎はわずかに渋面を作っていた。能力強化は元より、事前情報との相違点がより戦いにくさに繋がっている。
 ――自動の肉体回復と、かろうじてだが『暴走』状態でないことだ。
「ヒヒッ、殺ス、殺シテヤ――」
『香月、焦一郎、部屋の中央から離れろ』
 ゆらり、と剣を持ち上げたCBがスキルを使おうとしたところ通信機から飛翔の声が響き、直後天井が盛大に爆発し瓦礫とともに人影が降ってきた。
「援護する」
「ゲェッ!?」
「助かります」
 着地と同時に前進した飛翔はフリーガーから魔剣に持ち替え、眼前のCBを『疾風怒濤』で一息に倒す。形成が逆転したところで『シャープポジショニング』の体勢をとった焦一郎が狙撃でSBを、『一気呵成』で踏み込んだ香月がBMの意識を刈り取った。
「飛び移る時にスディレを2体見たが、俺の装備では射程が足りない。どちらか対処を頼めるか?」
「私がやる」
「私はこの場所にとどまり、篝様へ狙撃支援を行います」
 休む間もなく地上へ行こうとした飛翔が去り際に残した言葉に香月が引き受け、焦一郎はそのまま窓から銃口で下に広がる戦場を見下ろした。
「――あれか」
 天井の穴から屋上へ出た香月は『トップギア』をまとうと、この建物にいたマガツヒを見ていただろうスディレをライフルで撃ち落とした。
「私に目を付けられたたった今から、貴様らに安全な場所はない。首を洗って待っているがいい」
 さらに香月は凍てつく殺気を視線と引き金に込め、飛翔がいた建物を見ていただろうスディレも『トップギア』の銃弾で狙撃した。

「効カネェナァ!」
「ちっ、何て堅さ!」
「粋がるなよ、チンピラ風情が」
 右側の建物では、『インタラプトシールド』の盾越しに笑うCBへ悪態をつく佐千子と藍も苦戦。SBを1人倒し2対3ではあるものの、ステラのスキル強化後は思うようにダメージを通せず、膠着状態が続いていた。
「この――っ?」
「何だ、この揺れは?」
『鬼灯さん! 藍! 今からその部屋の真ん中、ぶち抜くぞ!』
 それでも攻撃を続けようと床を踏みしめた佐千子と藍はわずかな揺れを感じ取り、通信機から聞こえた拓海の声に数秒遅れて爆発した床に目を丸くする。
「ギ……クソ、ァ?」
「何か荒っきー、過激じゃね?」
 運悪くCBとBMが床の崩壊に巻き込まれ、2階の穴も素通りして1階へ落下する。
 そして、体勢を整えようとしたCBは待ちかまえていたカイの大剣を受け吹き飛ばされた。
「それだけ危険だってことだよ、大目に見てくれ」
「ゴ、ゲェ!?」
 残るBMもまともに動けない状態から拓海の斧による『疾風怒濤』を受け、動かなくなる。
「……ヒギャッ!」
「悪い、手間をかけた」
 程なくして、藍が上階に残るSBを『ストレートブロウ』で窓の外へ吹っ飛ばし、何かが潰れたような声が聞こえた後、室内の穴から降りて2人に頭を下げた。
「問題ねーよ。ついでにこの建物を見てたスディレも殺っといたから、後は外の残党だけだ」
 賢者の欠片で回復しながらカイが出口を指さしつつ答えると、拓海と藍は頷いて建物の外へ出た。

「死ネ!」
「くっ!? 明らかに、攻撃が重くなりましたね!」
 東門前の地上では、蕾菜が全員へ通信を行った直後に強化されたDNの『スロートスラスト』を受け、『衝撃』で震える腕に顔をしかめた。
「はああっ!」
「ギッ、キヒヒッ!」
「――堅い! キモい!」
『そんなバッサリ! 実際そうですけどぉ』
 近くでは篝が大鉈で切りかかった『疾風怒濤』を『クロスガード』で固めたBNに止められ、不満そうな声を上げた。ディオもツッコミつつ同意したのは、それだけマガツヒの様子が正常とはいえないからだろう。
「燃エロォ!」
「気をつけて! こいつら、強化だけじゃなくて『リジェネーション』に近い治癒効果が付与されてる!」
 薙刀でBBの『赤き声』を防御しつつ叫んだのは由香里。同じスキルを用いて壁役をしていたこともあり、能力上昇の代償による自壊と並行して発動する効果を理解したのも早かった。
「自動回復か……ステラとやらは回復スキルまで使えるのか」
『聞く限り、かなり支援に特化した愚神みたいね――人間にはかなり毒のようだけど』
 押され気味だった戦況を盛り返すため、『繚乱』で複数の敵へ『翻弄』をしかけた央が後退しながらつぶやくと、マイヤがマガツヒの様子を見渡し不快そうな声をにじませる。
「全ては等しく凍り付く……と、冬の訪れには些か早かったかしら」
 マガツヒの動きが鈍ったところで、攻撃と離脱を繰り返していた雨月が味方との距離を測りつつ敵集団の中へ身を踊らせると、『霊力浸透』を用いた『ディープフリーズ』でライヴスを凍てつかせた。
『ウ、オォォッ!!』
「っと、そのまま固まってくれていればよかったんだけど、本当に頑丈ね」
 ただ、倒れたマガツヒは数人で『拘束』による動きの鈍化を起こした者はいない。見た目や言動も相まってまるでリビングデッドだと苦笑し、雨月はエヴァンジェリンで防御しながら足を止めずその場から離れた。
「……悪いけど、寒いのは嫌いなんだ」
 そこへ、仏頂面をしたアリスがアルスマギカで発生させた魔法の炎をリフレクトミラーで乱反射させ、先ほど凍結の力を受けたマガツヒを火炙りにする。『ディープフリーズ』の範囲外で被害は受けなかったものの、アリス的にはあまり歓迎できない攻撃だったらしい。
「……倒れて、っ!」
「おっと! 耿太郎も俺も、貴女を前には出せませんよ、お嬢さん」
 さらに六花の『雪風(ゴーストウィンド)』が吹き荒れるが、なかなか倒れない敵に焦れたのか無意識に前のめりになる六花をアークトゥルスが押しとどめた。どこか冗談めかした口調だったが、言葉通り愚神への憎悪が高まったことでより攻撃的になった六花をかなり気にかけているらしい。
(りっちゃん、大丈夫かしら……)
「シャァッ!」
「っと! 今は、目の前の事かしらね」
 雨月もまた友人として六花を心配しているようだったが、SRから『ジェミニストライク』の襲撃にあい走り回る状態でよそ見はマズいと思い直す。聖槍での防御でやり過ごし、的にならないよう駆けだした。
『ギ、アァ?!』
 その時、後方から突き進んだ『サンダーランス』がエージェントを追い越し、複数のマガツヒを貫いた。
「血魔晶で増幅した魔法だ! 効いただろ!」
「ここからは私たちも加勢します!」
 遅れて一真が後衛たちの隣へ並び、少し前へ出た弥生が別の場所にいるマガツヒを縛ろうと『女郎蜘蛛』を投擲した。
「後はお前らで終わりだ!」
 さらに、龍哉がアックスチャージャーを起動した『強羅』を構えてBNに肉薄し、防御の上から『疾風怒濤』で叩き潰す。
「さんざん手こずらせてくれたお礼よ!」
 こうしてエージェントが東門前にて合流したことで、マガツヒへ攻撃が一気に集中。戦場には前衛がなだれ込み、建物の上からも狙撃場所を確保した佐千子たちによる援護射撃が降り注ぐ。
「……ふぅ、みなさん、お疲れさまでした」
 最後はアークトゥルスの『ライヴスブロー』が逃げ回っていたSRを沈め、拠点制圧戦は終了した。

●捧げる『祈り』はどこへ導く?
 戦闘後、改めて東門付近を探索したエージェントたちだが、戦闘員以外のマガツヒはどさくさに紛れて全員逃げ出していた。かなり早い段階で逃走を決めたのか、運び込んでいた物資の多くも消えている。
「わたしはなるべく被害を抑えたつもりだったけど……」
『状況が状況だったから、仕方ないね』
 その際、1人でふらっと付近を調査していたアリスとAliceは、戦闘の余波で崩れた建物にため息をこぼしていた。この光景を作り出した者を非難するつもりも思いもないが、ただ少しだけ、家系ゆえか興味がひかれた古代都市の破壊跡にもやもやを覚えただけで。
 ひとまず、弥生が準備していた拘束具で『戦闘不能』にしたマガツヒを捕縛・回収し、再び東門の前に集まった。結果、倒した50人の内ステラのスキルを受けた15人が死亡し、残りも生きてこそいるが重傷者が多い。
『……征人』
「わかってる、ヤバそうな奴だけは治す」
 ただし、かなり重篤な傷を負った者はミーシャと征人が回復スキルを施したため、大事には至らなかった。
『……悲しい、です』
「すまない、比佐理。ステラを止めきれなかった、俺の過失だ」
 それでも、敵とはいえ多くの遺体を前にした比佐理の声は悲しそうに沈み、直接相対して仕損じた一刀斎も表情を悔しそうにしかめる。
「まさか、この遺跡が『ライヴスの解放』に関係するのか?」
『あるいは、この結果こそがステラのいう『ライヴスの解放』なのかもしれません』
 飛翔はステラが介入してきた理由を遺跡に見いだしたが、ルビナスはマガツヒへの協力に関連を覚えた。
「つまり?」
『ステラは『殺人』を目的としており、『解放』とはその暗喩ではないか、と』
 予測の域を出ないが、それが事実ならばステラの行動理念はマガツヒと通じる危険な存在だといえる。
「何を企んでいようが関係ない。人を、命を弄(もてあそ)ぶような愚神は必ず見つけだして――殺す」
 重い空気が流れる中、ステラの痕跡を探すも空振りに終わった香月は静かに告げた。
 凄まじい愚神への敵意と憎悪を、冷たい瞳に宿したまま。



 東門の地下通路から通じる、スワナリア南門の地下エリアにて。
「……私としたことが、ライヴスを使いすぎましたね」
 分身の維持が困難なのか、透けた肉体に苦笑を浮かべたステラが海中を歩いていた。
「しかし、斯様な生物を現代まで存在させるとは、人の遺物も簡単に無視しはいけないようです」
 すると、ステラを餌と思ったのか海竜が大口を開けて眼前に迫った。
「あら残念……もう少し、しら、べ……」
 そのままステラは強靱な顎にかみつかれ、体を海に溶かして消えた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
  • 黒ネコ
    獅堂 一刀斎aa5698

重体一覧

参加者

  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 堕落せし者
    十三月 風架aa0058hero001
    英雄|19才|?|ソフィ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • 単眼の狙撃手
    灰堂 焦一郎aa0212
    機械|27才|男性|命中
  • 不射の射
    ストレイドaa0212hero001
    英雄|32才|?|ジャ
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 最脅の囮
    火乃元 篝aa0437
    人間|19才|女性|攻撃
  • エージェント
    ディオ=カマルaa0437hero001
    英雄|24才|男性|ドレ
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 偽りの救済を阻む者
    アウグストゥスaa0790hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 難局を覆す者
    久兼 征人aa1690
    人間|25才|男性|回避
  • 癒すための手
    ミーシャaa1690hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃



  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 難局を覆す者
    サーフィ アズリエルaa2518hero002
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • 御屋形様
    沖 一真aa3591
    人間|17才|男性|命中
  • 凪に映る光
    月夜aa3591hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 希望の格率
    君島 耿太郎aa4682
    人間|17才|男性|防御
  • 革命の意志
    アークトゥルスaa4682hero001
    英雄|22才|男性|ブレ
  • 護りの巫女
    三木 弥生aa4687
    人間|16才|女性|生命
  • 守護骸骨
    三木 龍澤山 禅昌aa4687hero001
    英雄|58才|男性|シャド
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 決意を胸に
    エスト レミプリクaa5116
    人間|14才|男性|回避
  • 『星』を追う者
    シーエ テルミドールaa5116hero001
    英雄|15才|女性|カオ
  • 鎮魂の巫女
    天城 初春aa5268
    獣人|6才|女性|回避
  • 天より降り立つ龍狐
    辰宮 稲荷姫aa5268hero002
    英雄|9才|女性|シャド
  • 黒ネコ
    獅堂 一刀斎aa5698
    獣人|38才|男性|攻撃
  • おねえちゃん
    比佐理aa5698hero001
    英雄|12才|女性|シャド
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