本部

セラエノからの手紙

一 一

形態
ショートEX
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/06/21 18:54

掲示板

オープニング

●思いもよらぬ情報提供
「……はぁ」
 大英図書館、H.O.P.E.ロンドン支部。
 眉間にしわを寄せ、重苦しいため息を吐き出したキュリス・F・アルトリルゼイン(az0056)は瞑目し、己の思考に没入する。
(寝耳に水とは、まさに今の私たちのことを言うのでしょうね……)
 キュリスが座す机の上には数枚の便せんと、封蝋が砕かれ開封された封筒が1枚。
 数日前、様々な検査機器にかけられた上で届けられた手紙は、肉体的な危険こそなかったものの精神的に多大なダメージをもたらした。それは内容を精査するため関係各所へ連絡と確認を行って一層、重い心労となってキュリスを苛んでいる。
 手紙の送り主は『セラエノ』のリーダー、『リヴィア・ナイ』。
 内容は、先日本部のプリセンサーが予知したエジプトのカイロとスエズ運河で発生したテロが、実はどちらも『マガツヒ』が関与していたとする内容だった。
(愚神への対抗作戦に集中すべきこの時期に、まさかこのような連絡をしてくるとは……)
 キュリスは頭の中で並べた手紙の詳細な記述にリヴィア特有の筆跡を重ね、無意識に左肩へ手を添える。
 ただでさえ『CGW作戦』で手が足りない状況で、本部も被害規模を過小評価していたテロへの言及。調査段階のためマガツヒとの関連も不明だったが、わざわざH.O.P.E.にも不穏な動きを知らせた狙いは何か?
(彼女の意図は測りかねますが、悠長に構えている時間はないでしょう。マガツヒに対する情報収集においてセラエノに劣っている私たちに、危険を冒してまで接触を図るだけの理由があるはずですから)
 わずかに表情をゆがませつつ、キュリスは今以上に後手へ回ることだけは避けねばならないと直感する。
 すでにプリセンサーの部署にマガツヒ対策の強化を指示しているが、おそらくそれだけでは足りない。
 何より、この手紙の内容だけがリヴィア(セラエノ)の持つ情報のすべてとは限らなかった。
「……こちらも、相応のリスクを負う必要がありそうですね」
 しばらく思索にふけったキュリスは閉じた目を開いた代わりに唇を引き結び、ペンを取った。

●コロッセオの極秘会談
 数日後、イタリアはローマに残る円形闘技場・コロッセオにて。
「お久しぶりです――リヴィア殿」
「……ええ、そうね」
 薄く微笑んで出迎えたキュリスと、気だるげな表情を浮かべるリヴィア。
 遺跡の中央部分にいる2人は、H.O.P.E.とセラエノによる極秘会談の代表として相対している。ただし周囲も含めれば2人きりではなく、H.O.P.E.もセラエノもそれぞれ護衛と警備をかねた精鋭部隊を展開していた。
 会談場所にコロッセオを選んだのはロンドン支部。第三者の目を極力排除できる構造的な利便性の他に、純粋に話し合いを望んでいるというセラエノへの意思表示になると判断されたためだ。
 敵対する組織である以上、どちらも武力衝突が悪手となる状況でもない限り、相手への疑心暗鬼からまともな話し合いなどできるはずもない。その点コロッセオなら社会的な正義であるH.O.P.E.はもちろん、セラエノにとっても研究対象として重要な施設では無茶ができないはずで、会談場所の条件として申し分ない。
 実際、キュリスの指定した時間と場所に現れたリヴィアに、攻撃の意思は感じられなかった。
「そういえば、ペンタを覚えていますか? 昔あなたとよく散歩に出かけた、ウェルシュコーギーペンブロークです。今、私は彼の曾孫にあたる雄の仔犬と暮らしているんですよ。ヘキサ、といいます」
「――キュリス。私は世間話をするためにここへきたわけじゃないわ」
 幼少期を共有した相手との再会に目を細めたキュリスの追憶に、リヴィアはいっさい取り合わない。会話の糸口として無難な話題を選んだつもりだったキュリスだが、むしろ本筋と関係ない話を持ち出したことでリヴィアから不機嫌そうな視線を向けられた。
「わかりました……まず、マガツヒがヨーロッパの都市部を標的にテロを画策しているのは確かですか?」
「ええ、間違いないわ。目的はまだわからないけれど、あの男が理由なく組織を動かすとは考えづらいわね」
 小さく嘆息したキュリスが本題を切り出すと、リヴィアは事務的で淡々とした口調で頷く。
 なお、リヴィアが触れた『あの男』とはマガツヒの首領『比良坂清十郎』のこと。
 あまり公に知られていないが、清十郎は過去にリヴィアの父であるナイ博士の探索隊に医師として同行した過去があり、あの世界蝕にも居合わせていた。ナイ博士と一緒に当時南極にいたリヴィアと同じく3名しかいない生存者の1人であり、キュリスにとっても父親がナイ博士の友人だったため因縁が強い人物だ。
「たとえ彼に深い思惑がなかったとしても、我々は人々を危険にさらすテロを許すつもりはありません」
「それは私も同じよ。遺跡の価値を知らず、わかろうともしない連中に勝手をさせるつもりはないわ」
 今後もテロが発生するだろう場所は、キュリスとリヴィアにとっても主な活動領域――いわば縄張りだ。優先して守るべきものは違えど、マガツヒの横暴を見過ごせないという意見は一致している。
「かといって、私たちが敵対関係であることもまた事実。簡単に互いの手を取れるはずもありません」
「道理ね。こちらもあなたたちと馴れ合うつもりはないけど、必要以上に潰し合うつもりもないもの」
 一拍の間を置いて、キュリスとリヴィアの視線が交差する。
「――ひとまず、利害は一致しているようね。後は、落としどころでも探しましょうか?」
「異論はありません。では、具体的な条件についてですが……?」
 お互いの距離が縮まらないまま、リヴィアの提案に頷いたキュリスの言葉は背後から響いた靴音で途切れ、2人の視線が同じ方向へ交わった――。

解説

●目標
 キュリスの護衛

●登場
・キュリス・F・アルトリルゼイン
 H.O.P.E.ロンドン支部長であり大英図書館館長
 先日発生したテロの情報提供をリヴィアから受け、密かに会談をセッティングした
 その際、PCにのみ経緯を伝えて自身の護衛を依頼し、会談が目視できる範囲に配備させている

・リヴィア・ナイ
 セラエノのリーダー
 先日発生したテロをマガツヒと断定し、キュリスへ手紙を送りつけた
 その後、キュリスから極秘会談の申し出を受け、セラエノ精鋭部隊を護衛に引き連れ現れた

●状況
 場所はイタリアの首都・ローマのコロッセオ
 対外的には愚神出現の予知を理由に、コロッセオの周辺は一般の立ち入りを禁止している
 キュリスとリヴィアが接触したのは14:00ごろ
 PCはキュリスの護衛として、セラエノはリヴィアの護衛としてコロッセオ内部に展開
 直接的な戦闘が始まる気配はまだないが、互いににらみ合う状況が続いている

※以下、PL情報
 話し合いの途中、リヴィアが護衛PCへ意見を求める場面がある
 内容は主に以下の2点

・H.O.P.E.とセラエノの共闘についてどう思うか?

・マガツヒについてどう思っているか?

 どちらか一方、もしくは両方の質問に対する意見をプレに記載すること

リプレイ

●マガツヒという存在
「ひとついい?」
 キュリスとリヴィアが認めたのは、遺跡の影でやり取りを見守っていたナイチンゲール(aa4840)。墓場鳥(aa4840hero001)との共鳴により、強い意志を見せる瞳で2人の視線を受け止め歩み寄る。
「たとえば今日、この会談を台無しにする為に『どこかの組織』がH.O.P.E.やセラエノを騙って襲撃して来ることもあると思うの。そして、事実がどうであれこの場で潔白を証明することは難しい。『だから』私達は……少なくとも私は、あなた達2人を守るつもりでいる。何が起きてもね」
 ナイチンゲールが示したのは、この危うい会談に対する自身の決意。
 敵対組織の代表同士による非公式な顔合わせなど、考えだしたらキリがないほどの『敵』が予想され、実際にこの場へ現れてもおかしくない。
 故に、ナイチンゲールはキュリスとリヴィアのほぼ中間――とっさの状況でも双方を守れる位置へ進み出て、状況を悪化させないために両者を護衛すると言い切った。
「あら、何とも頼もしい護衛さんね」
「……感謝します」
 ただ、2人の反応は対照的。
 皮肉っぽい笑みのリヴィアは声音に明確なからかいを乗せ、キュリスはリヴィアをも守ると断言したナイチンゲールの思いに感謝の念を目礼に乗せた。
『(こうもはっきり言ってくれるのはありがたいな)』
(そうですね。最優先の護衛対象はキュリス殿ですが、このまま話が進み協力関係を結ぶのであれば、こちらもリヴィア殿を無視できませんから)
 キュリスの背後に控えていたVincent Knox(aa5157)と共鳴するAlbert Gardner(aa5157hero001)は、口を開かず頭の中で会話を交わす。
 今回の護衛依頼はあくまで『キュリス』を守るものであり、『リヴィア』への対応は各々の判断に一任されている。つまり自分に攻撃する意思はなくとも、護衛仲間も同じとは限らないのだ。
 その中で、アルバートの行動指針はヴィンセントの意向もあってナイチンゲールに近い。コロッセオの構造を事前に確認し、今も第三者の介入を含め戦闘になればリヴィアも守れるよう警戒している。仲間にも注意を向けざるを得ない状況での申し出には、アルバートも多少の安堵を抱いていた。
『(極秘の依頼なのは……やっぱり内通者を危惧してるのかしら)』
(人が増えると漏洩の危険も増すし、今のH.O.P.E.も一枚岩と言い難い。不手際すら相手の罠? と疑い出す可能性もある。用心し過ぎ位で良いだろう)
『(そうね、結果への評価って考え方一つで逆転しちゃうし。今日の事を良い意味で繋げ、後悔させない為に守りましょう)』
 また、かつて闘技場を支えていた壁の上(位置はキュリスの斜め後ろ)からそのやり取りを見守っていたメリッサ インガルズ(aa1049hero001)と共鳴した荒木 拓海(aa1049)も、思考で無言の会話を行う。彼らもまた、リヴィアも護衛対象として動くつもりでいた。
 拓海もあらかじめコロッセオの内部構造を把握し、爆発物などによる外部からの陽動も考慮した避難ルートをいくつか見繕っている。死角が多いこの場所での会談において、極秘にもかかわらず計画的な奇襲を受ける危険性を拭えないのは『前例』があるからだ。
(先にあった運河での事件をみるに、H.O.P.E.に内通者がいる可能性もあります。お互い切羽詰まっている状態だからこそ警戒を厳にし、可能な限りセラエノとの戦闘も避ける方向が望ましいですね)
『(……ロロ)』
 その懸念を会談前に拓海たちへ進言していた構築の魔女(aa0281hero001)は、キュリスたちの後方に広がる観客席の中段だった場所でSVL-16を抱え、共鳴した辺是 落児(aa0281)と頷き合う。
 構築の魔女が言及した『前例』とは、香港協定の前に設けられた古龍幇との会合後に発生した要人暗殺事件を指す。この一件でどれほど気を配っていても情報漏洩のリスクは存在し、会談が行われた事実を利用されれば経緯などいくらでも捏造できるのだと痛感した者も多い。
 たとえばこの瞬間の写真を撮られるだけでも、悪意あるやり方で公表されれば『善性愚神』の一件で情勢が厳しいH.O.P.E.の信頼は地に落ちるだろう。警戒が過剰となるには当然だった。
『考えるべき事が多いね……実り得る為にも、オレは警護に集中するよ』
(――ひとまず直接の防衛は拓海さんたちに任せ、私は不審な動きを見逃さないように、ですね)
 提言時に交わした拓海たちを言葉を思い出しつつ、構築の魔女は持参した布をかぶってライヴスによる燐光を隠しつつモスケールを起動。同時にスコープでの目視で高所や通路、セラエノ側の客席などを見回して注意深く索敵を続ける。
「さーて、このタイミングでこの要請……前みてえに只の言いがかりじゃなきゃいいんですけどな」
 現在レーダーに映るライヴス反応はほとんど動かないのだが、唯一コロッセオ内部をぶらぶらと移動している反応がある……英雄と共鳴したフィー(aa4205)だ。
「コロッセウム――あるいはコロッセオ。本来の名はまた別にあるにせよ、この2つの名の方が通りはいいでしょーな?」
 建物やその歴史に興味があるフィーはハウンドドッグを肩に担ぎ、侵入者がいないかのパトロールを兼ねた遺跡見学をしていた。見回りの方がついでらしく、時折すれ違うセラエノも警戒こそすれど手は出さない。
『(善性、の次はセラエノですか……)』
(あっちよりは、まだ信用できると思います。――以前は停戦中に戦うことになりましたが)
 緊張感が続く中、共鳴した十三月 風架(aa0058hero001)に心中で答える零月 蕾菜(aa0058)。キュリスやアルバートよりも後方からリヴィアの立ち姿を視界に収めつつ、頻繁に通信機から届く連絡に耳を傾ける。攻撃の意思はないと示すため非武装状態だが、武器はすぐに展開できるように待機していた。
(【神月】の時はキュリスさんに助けられたから、今日は俺が守らないとな)
『(今のところ、あたしたち以外の侵入者はいないみたいねぇ)』
 蕾菜とほぼ同じ位置には、後に認識の齟齬が生じないよう動画用カメラで会談の内容を記録するGーYA(aa2289)が、主にリヴィアを護衛するセラエノを警戒している。間近に控えているのは3人だが、他のメンバーもコロッセオ内部にはいるため油断はできない。
 一方、共鳴したまほらま(aa2289hero001)は周囲へ広く意識を向けつつ、通信機の報告と一緒に随時ジーヤへ伝えていた。
「ついでに、あなたたちの意見も聞いてみようかしら? キュリスとばかり話すのも味気ないし、ね?」
 すると、会話の矛先を変えたリヴィアがキュリスを囲む護衛エージェントたちへ視線を這わせた。
「まずは――私たち共通の敵と見ている『マガツヒ』についての意見を聞こうかしら?」
「――その名前を出されたなら、はっきりと答えておこうか」
 面白がる猫、あるいは睨みつける蛇のように目を細めたリヴィアの問いへ真っ先に口を開いたのはクレア・マクミラン(aa1631)だった。
 キュリスの斜め前で黙したまま、セラエノの動きや周囲の状況を注視していたクレアは、アルラヤ・ミーヤナークス(aa1631hero002)との共鳴状態でも相手が手を出さない限り武器へのライヴス供給はしない。が、護衛としての警戒は緩めず、何かあればすぐに臨戦態勢に入れるよう睨み返しながら煙草に火をつけた。
「たとえ世界がマガツヒから手を引くことがこの先あろうとも、私は奴らと戦うことを止めない。奴らの主義思想はたとえ那由多の彼方までいきつこうとも、私と相容れることはないだろう
 私とアルラヤとドクターが、我々がいかに傷つこうとも、戦う力なき者を守る。我々は海岸でも戦うだろう。我々は水際でも戦うだろう。我々は野で、街頭で、丘で戦うだろう。我々は決して諦めない」
 紫煙を吐き出したクレアは誓約した2人の英雄も含めた自分たちの意志とともに、リヴィアへ毅然と言い放つ。共鳴により強まった理性をも突き破り、真っ向から敵対する主義思想を持つ組織への明確な敵意をにじませて、許されざる『敵』だと切り捨てた。
「……ん。マガツヒは……愚神十三騎のシャングリラもいて、破壊や殺戮そのものを、目的にしてるように見える。共闘も和解も……不可能だと思う。だから六花は、人命も叡智も脅かされないよう、一緒にマガツヒや愚神に対処したい……です」
 クレアと近い位置でキュリスを護衛していた氷鏡 六花(aa4969)も、続けて口を開いた。共鳴したオールギン・マルケス(aa4969hero002)は口を挟むつもりがないらしく、黙って成り行きを見守っている。
『んー、ぶっちゃけ組織としてのマガツヒって、あんま詳しく知らねえんですよなー。あんま興味もなかったですしな』
 次に通信機越しで話に加わったフィーは、声音通りどうでもよさそうに持論を展開した。
『構成員もエネミーとやらとしかまともに会った事はねーですがー、個人的には機会がありゃまた遊びに行きてえ程度には面白え奴、って感じですかな』
「……つまり、間延びした声のあなたは必ずしもマガツヒを否定しない、ということ?」
 ともすればマガツヒに友好的ともとれるフィーの語り口調がそのまま伝えられ、リヴィアは声の温度を下げて質問を重ねた。
『別に敵だからって、必ずしも嫌う訳じゃねーでしょーよ。敵でも面白い奴は面白い、それだけの事でしょー。その程度の事も理解してねえんですかいね?』
「――そう。いいんじゃないかしら? 思想は人それぞれだもの」
 フィーはそれにも平然と答え、結局リヴィアも呆れながら肩をすくめるにとどめた。フィーの主張は組織というよりも所属する個人に対する評価であり、どこかリヴィアを馬鹿にしたり煽ったりするように聞こえても、裏のないただの事実として口にしただけだと気づいたのだろう。
「主の言葉を私の口から語ること、ご容赦ください」
 少し微妙な空気になった後、進み出たのはアルバートだった。
『(マガツヒか……やってることはもはや愚神だな。命の軽さはセラエノと通じるところがあるが、より性質が悪い。ただ、もし比良坂清十郎に会えるなら、世界蝕の日に南極で何を見たのかは聞いてみたいものだ)』
「――マガツヒは人類にとっての脅威です。比良坂清十郎の動機が愚神と同じかはわかりませんが、目的は近いのではないかと思っています。つまり、彼らの活動は愚神にとってもプラスになるのではないかと」
 他者には聞こえないヴィンセントの台詞を、必要な情報だけ抽出してアルバートが伝える。清十郎に触れる部分は、ヴィンセント個人の興味だと判断して口にはしなかった。
「私はむしろ、愚神だけの勢力よりも遥かに危険な――本当の人類の敵だと思ってるよ」
「確かに、マガツヒは今までも愚神と共闘して沢山の命を奪ってる。たとえマガツヒに何らかの正義があるのだとしても、俺は認めたくない」
『オレもだ。マガツヒには、嫌悪しか抱かない』
 そこへナイチンゲールが補足するように言葉を重ね、続くジーヤも組織の行動思想を嫌うよう否定し、拓海もまた通信機から言葉を発して同意した。
『お答えする前に……1つお尋ねしたい事がございますの。よろしいかしら?』
 あらかたの意見が出たところで、CERISIER 白花(aa1660)の声が通信機から発せられた。戦闘時はプルミエ クルール(aa1660hero001)に共鳴の主導権があるものの、まだ切迫した状況ではないと判断して一時的に意識を浮上させたようだ。
 ちなみに、白花の配置はリヴィアたちの側面――ナイチンゲールの背中を見下ろせる観客席の下段部分に座し、主に奇襲を警戒してA.R.E.S-SG550で空や周囲の監視を担当している。
「さて、内容にもよるかしら?」
『比良坂清十郎についてです。世界触当時『彼』の歳は? 見た目からのおおよそでも構いません』
 先を促したリヴィアだが、白花の質問を聞いても一向に答える様子はない。知らないのではなく、答える必要性を感じないといった態度だ。
『……キュリス支部長。【東嵐】作戦時、比良坂と接触したエージェントが居たはずです。香港支部への記録の確認と、記録が足りなければ該当エージェントへの確認をお願いできますか?』
「わかりました……ただ、なぜ彼の年齢を気にされたのか、お伺いしても?」
 白花も無回答が答えだと察し、代わりにキュリスへ清十郎の年齢確認を依頼する。キュリスは二つ返事で了承した後、白花へ質問の意図を尋ねた。
『世界触から20数年――『人間』でしたら、どう足掻いても多少は加齢しますわね。まぁ、マガツヒの構成具合を見ていると、どうであれとうに『人間』を辞めていそうですが』
 対する白花の答えは、暗に清十郎を『愚神』として見ていると言っているようなもの。穏やかな声音から出た厳しい意見に驚く者もいれば、同意し頷く者もいた。
『さて、マガツヒへの見解ですが、喩えるならば――煙、でしょうか』
 さらに、白花はリヴィアへ向けた返答を通信機で飛ばす。
『掴めない処が多すぎますわ。【東嵐】作戦開始前と後、そこから今迄……まるで幾度も組織改編、もしくは中身を入れ替えたかの様に組織としての姿勢、気配が変質しすぎておりますね。不明箇所が明らかになったから、ではないでしょう。少なくとも【東嵐】作戦開始前とはかなり別物になっているのではないでしょうか』
『なるほど、煙とは言い得て妙ですね』
 すると、白花の意見に関心を示すように構築の魔女の声が通信機を通った。
『ヴィランを擁した愚神組織の可能性もささやかれながら、核となる思想が判然としない不気味さを有しつつ組織としてのあり方を堅持している……危険と同時に不思議な存在とも言えるでしょう』
「あなたもいたとは気づかなかったわ、愚者さん」
『えぇ、その節はお世話になりました』
 興味と不審と警戒……いろいろと含みを持たせた構築の魔女に笑みを深め、リヴィアはどこか空虚な挨拶を交える。
『ついでにもう1つ。マガツヒにとっては、今が最も利益が得られる瞬間ですよね? キュリス殿にはすでに話しましたが、もし襲撃があった場合、安全地帯までは行動を共にしたいと考えているのですが――いかがです?』
「私たちはまだ利害の一致を確認しただけよ。足並みをどう揃えるかは……これから話し合いましょうか」
 あくまで安全上の理由による構築の魔女の提案に、しかしリヴィアは明言を避けた。
 会談の本筋である対マガツヒへ向けた条件は、どちらも触れていないと告げて。

●H.O.P.E.とセラエノとの共闘
『話し合う、とは言いますが一度破られた停戦協定の再締結はほぼ不可能でしょうし、不可侵同盟も厳しいのでは?』
 そのままH.O.P.E.とセラエノの共闘について話が移るも、続けて話す構築の魔女の声音は固い。
『あくまで『共闘』という手段を取るなら、期間や条件の擦り合わせは必要です。私ならば――強奪した『短剣』の返却、共闘中の犯罪行為の禁止、締結条件侵害時の厳罰の制定――これらを要望します。まぁ、最終的な結論は共に沈むか関わり合わないか、そのどちらかになるかとは思いますが』
 私見を述べた構築の魔女だったが、こちらの立場も決して強くはないとわかっている。提示した内容をどう妥協しあったかで、関係性のバランスが決まるだろうと考えていた。
「改めまして、お久し振りですね。リヴィア・ナイ。話をする前に、一応確認をしていいでしょうか?」
 次に、告げられた言葉を吟味するようなリヴィアへ進み出たのは蕾菜。
「共闘関係を結んだ場合、H.O.P.E.かセラエノのどちらか、もしくは双方が被害を受けることであなたたちが知りたいことが観測できるとしたら、そちらはどうするつもりですか? ……少なくとも黙って決行――いえ、また『連絡を忘れる』ってことはないですよね?」
 蕾菜もまた、かつてリヴィアが次元崩壊を画策したためにセラエノと戦った者の1人だ。迂遠な言い回しでも当時の状況と重ねているのは明白で、刃を交えた構成員・デメトリオの言葉も用いて問いつめる。
「この段階で明言はできないけれど、内容次第かしら? それにあの時は『不幸な行き違い』があっただけで、こちらの本意ではなかったわ。必要ならば、謝罪もしましょう」
 が、リヴィアは逆に嘘くさいほど清々しい笑みを浮かべ、非を認めつつも答えを曖昧に濁した。
「……私としては、少なくとも黙っていろいろされるのでなければ、共闘関係に異論はありませんよ」
 蕾菜も信用したわけではないが、ひとまず飲み込んでそう述べるにとどめる。
「ずっと立ちっぱなしだし、腰を据えて話さない?」
 続けてジーヤが、いつかリヴィアと行った短剣の譲渡交渉を再現するように、高級ティーセットを取り出してお茶会会談を提案した。
『懸念払拭に必要なら、茶葉の封切と毒味はそちらにお願いするわぁ』
「前に俺が誘った時も応じてくれたから、リヴィアさんは気にしないだろうけどさ」
「あいにくだけど、あの時はあなたたちを見定めるための時間が必要と判断したから応じただけよ」
 前回は共にテーブルを囲んだためまほらまとジーヤが勧めるも、リヴィアは首を横に振った。
「そうか……じゃあ俺の意見を言うと、共闘には賛成。俺達はもっと知らなきゃいけないんだ。世界蝕、『王』、世界の真実を。世界蝕以前にも異世界からの接触があった可能性を【屍国】で見た。オーパーツ研究はその為かな。『希望』と『探究心』――二つが一緒になれば見えてくる未来もあるかもしれないだろ」
 すげなく断られて少し肩を落としながら、気を取り直したジーヤは自分の考えをしっかり述べた。
『【神月】のような壊しても調べようって姿勢を考え直してもらえるなら、セラエノと共闘したいですね。……世界が壊れたら研究を続けられないのでは? とは思うけど、熱意には惹かれてます。愚神を知り世界を守る為に次元崩壊はオレも知りたいから、共同での調査研究も含め考えてもらえたら嬉しいです』
 近い考えを抱いていた拓海も追随し、通信機越しに正直な気持ちを吐き出す。
「……ん。六花も、GーYAさんや荒木さんと同じ……です」
 肯定を重ねた六花はさらに踏み込み、セラエノに合法組織への移行を視野に入れた共闘を望んでいた。
「真理の追究が目的なら……H.O.P.E.が掲げる平和とも、折り合いの余地は……きっとあります。世界蝕の真実の解明は、H.O.P.E.も目指す所の一つです。グロリア社の技術力や研究成果……セラエノに提供できるものは、きっとたくさんあります。過去の犯罪への批難や、賠償の問題も……古龍幣の時のように、H.O.P.E.が支援できるかもしれません」
 シーカもラグナロクも壊滅し、愚神の『王』の顕現も近いとされる現状、古龍幣との協定に近い共闘関係が実現すれば……そうした思いで六花は言葉を尽くす。
「貴女が今後、目的の為に人の命が失われるような手段を取らないと……約束してくれるなら、H.O.P.E.はあらゆる協力を惜しまないでしょう。それに、今や世間からヴィランと見做されてるセラエノ単独よりも……合法組織へと移行しH.O.P.E.と手を結んだ方が……きっと――」
「――何か勘違いをしているようだけど」
 熱心に訴え続けた六花だったが、リヴィアの冷たい声に遮られて口をつぐむ。
「私とキュリスが唱える『共闘』とは論旨がズレているわ。二度も同じことを言わせないで」
 ――馴れ合うつもりはない。
 リヴィアが初めて示した明確な態度は……拒絶。
 動揺する六花はキュリスへ振り返るも、硬い表情で小さく首を振られてしまう。
『……わたくしとしては、わざわざ手を取り合い共闘する利益より、不利益の方が多く思えますわ。理想を求めて幻想へ墜ちるよりも、理想に辿り着く為に現実に立ち続ける方がいいですわ……生き残る為にも』
 舌が重くなる空気の中、通信機から発言したのはプルミエだった。
『いぎりすは妖精の国とお伺いしておりますわ。妖精との付き合い方の作法があるのではございませんか? それと似たような形でよろしいかと思いますわ。話し合うのは互いの指針から譲歩できる範囲とその条件……後はマガツヒにより双方が不利益を受けることが判明した場合、どこまで情報開示すれば助力可能かの範囲とその条件の明示だけで宜しいかと存じます』
 両者の関係に必要なのは、適度な距離感と最低限のルール確認だけで十分だとプルミエは言い放つ。
『どの道、相容れないのでしょう? なら、妥協点や条件付きの落としどころを探った方がずぅーっと建設的ですわ!』
 お互い深入りしすぎても害にしかならないと断じたプルミエにより、会談の空気はリセットされた。
『(人間の命を軽く扱うセラエノと組む事は、こちらにとってはリスクだ。マガツヒの情報を提供されても裏の取りようがないが、明確に利害が一致してる状況であれば信憑性は上がる……本音を言えば望ましくはないが、相互協力が前提ならば条件を限定するのは賛成だ)』
「――主もまた、条件次第では良いと考えています。遺跡など、マガツヒから守る対象が互いに合致した時のみ共闘する、等ですね」
 そこへ、共闘に否定的だったヴィンセントがやや前向きに変化したところでアルバートが代弁した。
『んー、そんなんで別に構わねえと思いますけどな? 古龍幇の前例もある訳ですからして、今んとこ利害が一致してんなら構わねーでしょーよ。事が終わってからどうするかは、決めといた方が無難ですけどな』
 次にフィーの声が通信機から響くが、明らかに投げやりだとわかる。
 本当に興味がないらしい――裏切れば叩き潰せばいいだけだろう、と思うが故に。
「個人的にはエクセレント……ただ、ミズ・ナイや他の方も仰るように、両者の関係を踏まえるなら対マガツヒにおける共闘を半ば義務化するくらいじゃないと、どんな口約束をしたところで何の意味もないでしょうね」
 さらに、ナイチンゲールがより強い効力がある条件に設定すべきだと進言した。
「だから、お互いに対して誠実であり続ける為には、裏切ることが即損害に繋がるリスクを双方が負うべきでしょう。たとえば、双方から親善大使――つまり『人質』を派遣するとかね。これなら仲良くする意識は薄れて、馴れ合い過ぎない為に機能する条件だと思う」
 お互いに大使を抱えることで信用の担保とする……それくらいしないと、間にある溝を埋めるどころか架け橋にすらならないとナイチンゲールは考える。
「こういうのってお偉いさん同士が望ましいんだけど、それで組織が回らなくなるようじゃ困っちゃうからさ……そこの検討込みで、2人とも今日のところは持ち帰ったら? ああ、私で良ければ大使くらい幾らでもやるけど」
「そういう話なら、俺も大使に立候補しておくよ」
 あくまで提案の形で締めくくったナイチンゲールの後、ジーヤが自ら手を挙げる。
(経歴からして研究材料に拉致られるかと思ったけど、接触無し。俺の情報漏れてるか、異世界に行った事あるんじゃない?)
 共闘のためならという覚悟はもちろんあるが、少しの私情もあっての自薦でもある。
 リヴィアはジーヤが知りたい情報を持ち得るだろう人物だ。愚神・英雄と邪英の謎、異世界への興味、今の世界の現状など、大使となれば得られるかもしれない知識に好奇心をくすぐられたのも事実だった。
「おおよそ意見は出たようだけど……あなたはどう思うの?」
 一通り聞いた後、リヴィアが水を向けたのはクレア。マガツヒへの敵意を覗かせた先ほどとは違い、ずっと黙って成り行きを見守るだけだったが、クレアは吸い殻を携帯灰皿へ入れると冷静に口を開いた。
「あいにくと、今はH.O.P.E.ではなくフリーランスの傭兵です。H.O.P.E.の動向に私が何かを言うつもりはありません。この組織が人々を傷つけない限りは」
『然り。我々は我々の意志で戦場に立ち、我々の守るべきもののために引き金を引く。たとえ守るべき者に蔑まれようと、誹られようと、それは決して変わらぬ』
「同盟とは利害の一致。いつかは綻ぶ……【神月】のときのあなた方のように。なればこそ、私達は第三者としてそれに備えるまでです」
 そうしてクレアとアルラヤがはっきりと語ったのは、自分たちの立場と信念。
 中立だからこそ口は出さず、こちらの意志に弓を引けば戦うと、両方の組織へ表明する。
(どう見る?)
『(向こうから来るのならば、なにか欲しいものがあるか、それとも無差別な欧州の破壊によって失うものがあるかであろうな)』
(遺跡の中にオーパーツか、それとも奴らの探究心を満たす碑文でもあるか……)
 だが、クレアとアルラヤの内心ではやはりセラエノへの警戒が強い。最優先を知の探求とし人命を考慮に入れない思想は、マガツヒほどではないが相容れないのも事実だからだ。
「なるほどね。ひとまず私から条件を出すなら、基本はお互いの情報提供のみで、マガツヒに関する事態に限り相手側の邪魔はせず、逼迫した事態でない限り共同作戦はしない――大筋はこんなところかしら。詳細はH.O.P.E.との相談で詰めればいいでしょう」
「わかりました……が、テロの目的は全くの不明なのですか? わずかな糸口もないと?」
「……あの男は非常に稀なプリセンサー能力である『過去機知』を使える。推測だけど、その力で何かを『視た』可能性はあるわ」
 そうして、リヴィアが設定した暫定的な内容にキュリスが頷くと、次いで語られた清十郎についての情報に眉をひそめた。
『過去機知』――文字通り、通常のプリセンサーが行う『未来予知』とは反対の『過去を知る力』。リヴィアがわざわざ懸念に挙げたことから、相当に強力な能力なのだとわかる。
「少しいいですか? 古きを伝える物として遺跡に価値があるのは私も同意するところですが、先日のテロでスフィンクスが破壊の標的となった理由に、『過去機知』も含めて何かご存知の事はありませんか?」
「答えられることはないわね」
 そこへ疑問を投げたのはアルバート。
 スフィンクスが他世界からの干渉を妨げるような役割のオーパーツではないかと推測していたが、『過去機知』にも何か関連があるのではないか? そうした疑問から、少しでもマガツヒの狙いが分かればと考えての質問だったが、リヴィアは首を横に振って回答を避けた。
「ならば、大量のライヴスを集める理由に思い当たることはありませんか? ライヴスを必要とすると考えると愚神絡みだとは思うのですが、何分詳しくありませんのでお知恵をお貸しいただけると助かります」
「用途なんていくらでも想像できるから、目的がわからない限り何も言えないわ」
 続けてアルバートはタンカー襲撃のテロについても触れたが、リヴィアの反応は変わらない。
「では私からも。セラエノは自分たちで観測することによって知識を得たいんですか? それとも、手段を選ぶことなくただ知識を求めているんですか? たとえば、愚神商人との取引で知りたいことが知れるとしたら、セラエノは取引に応じるのでしょうか?」
「答える必要がある?」
 さらに蕾菜がセラエノの行動指針についてリヴィアへ質問するが、共闘の話とは直接関係がないと判断されて躱される。
『貴女は愚神とどう関わって行く気なのかしら? ヘイシズとの接触はあったと思うのだけれど?』
 ジーヤの口を借りたまほらまがもう一度追求するも、リヴィアは接触の有無も含めて黙秘する。
「……リヴィアさん。六花はH.O.P.E.南極支部から、来ました。南極支部では今も……世界蝕以来の空間の歪みを、観測し続けています。貴女はあの世界蝕の時、南極にいたんですよね。お父さん……ナイ博士と一緒に。……教えてくれませんか? あの時南極で……何が起きたのか」
 ここで、再び意を決した表情で六花がリヴィアへ迫った。
「世界蝕は博士の研究が原因だなんて言っていた人達から、博士の名誉や貴女を守ってあげられなかったこと、南極支部の一員として、博士の研究の成果を受け継ぐ者の一人として、六花は謝りたい……です。ごめん……なさい」
 深く頭を下げても続く沈黙に、六花はそのまま本心をぶつける。
「世界蝕の本当の原因は……愚神たちが『王』と呼ぶ存在による侵略だと、六花は思ってます。世界蝕の真実を明らかにして、全世界の人達に伝えれば……博士の名誉を守れる筈です。お願いします。どうか六花達にも、お手伝いを……させてください」
「……もういいかしら?」
 本当の意味での共闘も決して不可能ではない――そう信じる六花の想いは、しかしリヴィアには届かなかった。悔しげに唇を引き結ぶ六花だが、顔を上げるとキュリスの柔らかな微笑と目があった。
「最後に1つ。不都合な情報操作がされても困るので、この件で決定した事実や行動指針などは早急に共有させてもらいますが、よろしいですか?」
「どうぞご自由に」
 ただし、キュリスはすぐに支部長の顔となり、憮然とした様子のリヴィアに構築の魔女から事前に受けた提言を伝える。
「ここでできる話はもうないでしょう」
「じゃあ、私は失礼させてもらうわ」
 こうして極秘会談は終わり、キュリスの言葉でリヴィアが背を向こうとした時。
『ライヴス反応多数接近――敵襲です』
 構築の魔女から不穏な報告が下された。

●ヴィラン来襲
『私の索敵範囲内だと敵影は推定30名強、地上を散開して遺跡中央へ移動中――きます!』
 弛緩しかけた空気が一気に張りつめ、構築の魔女の警告が飛んだ瞬間。
 キュリスやリヴィアたちに向かって、魔法や銃弾が飛来する。
「キュリスさん!」
「――くっ!」
「これはスキル――相手はヴィランです!」
 そこへ、陰陽玉を起動したアルバートが『ストームエッジ』を、ジーヤがツヴァイハンダー・アスガルの剣身で別方向からの『ストライク』を、蕾菜がパイルバンカーで『銀の魔弾』をそれぞれカバーリングで受け止めた。
「――ミズ・ナイ。怪我はない?」
「あなたも律儀ね」
 また、ナイチンゲールはリヴィアへ迫った『ストームエッジ』を『ウィオラファラーシャ』で防ぎきり、セラエノの護衛も防御したことで大した被害がないことを確認した後、意識を敵へ向ける。
「行くぞぉ!」
『おおぉぉっ!!』
 瞬間、野太い声が四方から上がり、ヴィランたちが一斉に押し寄せてきた。
『――ぎゃああっ!?』
 が、突入早々に数人のヴィランは悲鳴を上げて倒れ伏した。
「……セラエノも標的のようだな」
『では、乱入してきた方々のみ眠っていただくとしましょう!』
『実力はどうあれ、数が多そうです。手早く行きましょう』
 見れば、クレアのメルカバから吹き出た『トリオ』が遠距離攻撃をした3人のヴィランを同時に沈め、プルミエの『ロングショット』がソフィスビショップの足を狙撃し、構築の魔女の『テレポートショット』がジャックポットを不意打ちした。
「こいつら、やっぱりマガツヒか!?」
『捕まえてみればわかるんじゃない?』
 控えていた場所から飛び出し、キュリスとリヴィアをかばえる位置に降り立って攻撃をはじいた拓海は、浮かべた陰陽玉でまっすぐつっこんできたドレッドノートをぶん殴る。続けて向けられた『ブルームフレア』を手元へ戻した盾で防御し、メリッサの言葉に頷く。
「とにかく、数を減らそう! そっちは任せる!」
 攻撃を受けた限り実力はそこまで高くなく、仲間の防御は足りていると判断したジーヤは、キュリスたちを任せて前進。『烈風波』でカオティックブレイドを戦闘不能にし、素早く接近して後続も刃で沈ませる。
「……ん。怪我があれば、治すから!」
 別の方向へは、六花が『アイスリフレクトミラー』を展開し絶零断章の力を乱反射させて、数人をまとめて氷のライヴスに閉じこめた。
『む……六花、左からくるぞ』
「覚悟し――ろぉぅ!?」
 すると、今まで内側から見守ってきたオールギンから注意が発せられた瞬間、こちらへ銃を向けていたジャックポットが前のめりに倒れた。
「おっと、やっぱこっちきてよかったですかな? 1人じゃまたボコられそうですしなー」
 代わりに顔を出したのはハウンドドッグを構えたフィー。コロッセオ見学の最中に複数人から襲撃を受けたらしく、体には傷が目立った。
「大丈夫、ですか?」
「んー、何人かすばしっこいのを叩いてきたんで、被害としちゃトントンじゃねーでしょーか」
 そのまま駆け寄りながらヴィランへ銃撃を浴びせつつ合流したフィーへ、六花が『ケアレイ』で治療すると飄々とした返事をした。そしてまた、『毒刃』を振るおうとしたシャドウルーカーへ強力な銃弾を撃ち込み勢いを殺す。
「ちっ! 何だコイツら!? 強ぇぞ!?」
「……今さら怖じ気づいても、見逃したりはしないからね?」
 次々と突撃しては倒れていく様にひるむヴィランに違和感を覚えながら、ナイチンゲールは引き続きリヴィアの盾を維持しつつ『守るべき誓い』で周囲を牽制。合間に『リンクコントロール』も行いライヴスを高めてさらに威圧する。
「……っ、さほど強力でないとはいえ、こうも攻撃が途切れないと厳しいですね」
 また、キュリスを背にかばうアルバートはその場からほとんど動けていない。仲間やセラエノが徐々に数を減らしてはいるが、攻撃がなかなか途切れないのだ。
「範囲攻撃持ちがいるのが厄介ですね。オレも積極的に捕縛できたらよかったんですけ、ど!」
「うげっ!?」
 同じ状態の拓海がアルバートへ苦笑を返しつつ、時々見つけた攻撃の隙を縫って陰陽玉を操作しヴィランを気絶させる。目測で20人は倒しているはずだが、数的優位の余裕があるためかヴィランの勢いが落ちる様子はまだない。
「食らえーっ!」
「『共鳴を解除しなさい!』」
「――はっ! 俺は何を……うがっ!?」
「自殺されると困りますので、念のために気絶させますね」
 中にはエージェントやセラエノの攻撃を突破する者もいたが、蕾菜の『支配者の言葉』による『洗脳』で共鳴を自ら解除し、無防備になった瞬間すぐに捕縛された。ついでに、正体がマガツヒだった場合の自殺防止として蕾菜に一発殴られて意識も闇に捕まった。
「――構築の魔女殿。動いている敵数は?」
『およそ10と少し。もうひと踏ん張りでしょうね』
『了解ですわー!』
 また1人、砲弾でヴィランを倒したクレアの問いに、構築の魔女は終わりが見えたと微笑む。その言葉で声にやる気をみなぎらせたプルミエが『威嚇射撃』でヴィランのスキルを妨害すると、構築の魔女の『トリオ』がヴィランに降り注いで意識を刈り取った。
「……くっ、こっちはあと2人!」
 大剣を盾にマシンガンをくぐったジーヤは『一気呵成』でジャックポットを倒し、未だ立つヴィランを睨みつけた。敵へ進み出れば攻撃が集中するため、重なったダメージでふらつきながらも戦意を落とさない。
「……ん、GーYAさん……無茶は、だめです」
 すると、背中から暖かい光がじんわり広がり、振り返ると六花が心配そうな表情で『ケアレイ』を発動させた姿があった。
「助かった! ――はあっ!」
 短く礼を告げると、ジーヤは傷がふさがり軽くなった体に力を入れてさらに前進。『疾風怒濤』で1人を倒した後、もう1人を攻撃される前に『烈風波』を浴びせて昏倒させた。
「や、やべぇ! にげ――」
「おっと、逃がすわけねーでしょーよ」
「……これで終わりだな」
 最後まで残ったヴィランはあわてて逃げ出そうとしたが、フィーとクレアの射撃であっさり倒れた。
 そうして、闘技場跡地に総勢50人のヴィランが転がることになった。

●襲撃者と後始末
「――さて、これで全員かな?」
 汚れを落とすように手をはたいた拓海の前には、ヴィランたちが捕縛された状態で固められていた。
 戦闘後、キュリスたちを狙ったように集まってきた者たちの他、散開して警戒していたセラエノ精鋭部隊が交戦していたヴィランたちも回収され、コロッセオから引きずり出したのだ。結構な時間がたったがまだ目覚める様子がなく、特にセラエノが倒したヴィランは治療を施してなお傷が深い者が多い。
「それにしても、コロッセオへの被害がほとんどなくてよかったよ」
『爆発物も設置されてなかったのはいいけど、自殺用の仕掛けもなかったわね』
 途中、拓海たちは今回の襲撃もマガツヒのテロであることを懸念してコロッセオを見て回ったのだが、仕掛けなどは一切されていなかった。またメリッサの言うように口の中に毒がないか、また自爆用の爆弾などを隠し持っていないか調べたがそちらも出てこなかった。
「ならば、直接聞いてみましょう」
 すると、蕾菜が1人のヴィランに近づき揺すり起こした。襲撃者の中でほぼ唯一、『支配者の言葉』により無力化されたため軽傷で済んだヴィランは、目を覚ました瞬間エージェントとセラエノに囲まれた状態を悟って完全に萎縮していた。
「く、クソ! おかしいだろテメェら! 何で愚神とやり合ってたはずなのにそんなピンピンしてんだよ! それに、H.O.P.E.は何でセラエノと潰しあわねぇんだよ!」
「……何も知らないようですが、貴方たちはマガツヒの構成員ではないのですか?」
「はぁ!? あんなイカレ集団と一緒にしてんじゃねぇ!」
 それからも元気がよすぎるヴィランに蕾菜も話を聞くのに多少苦労したが、どうやら全員マガツヒとは無関係どころか、所属する組織さえ知らない者もいるという。
 彼らは特に有名でもない中小ヴィラン組織の集まりで、ほとんどがH.O.P.E.エージェントを倒して名を上げる! と息巻くようなゴロツキらしい。中には過去にエージェントやセラエノといざこざを起こして逆恨みしている者もいたそうだが、リヴィアたちはもちろん蕾菜たちの中にも身に覚えがある者はいない。
「つまり、コロッセオが愚神の出現で立ち入り禁止になったと聞いた貴方たちは時間がたつのを待ち、戦闘で弱っただろうエージェントを襲おうとした、ということね?」
「そうだ! 悪いか!」
 途中からどこか腰が引ける態度のヴィランに違和感を覚えていたナイチンゲールが確認すると、ヴィランは悪びれもせず胸を張った。縄でぐるぐる巻きのため、小物感がよけいに際だつ。
「……すみません、リヴィア殿。どうやらこちらの手落ちのようです」
「はぁ……遺跡への損害もなかったし、そちらで後始末をやるなら文句はないわ」
 責任の一端があるとキュリスは謝罪するが、リヴィアは心底どうでもいいという風にため息をついた。
「それじゃあ、頼んだわよ。いろいろと、ね」
 そしてリヴィアは協力関係についての念を押し、今度こそエージェントたちに背を向け去っていった。
(H.O.P.E.とセラエノと――マガツヒ。また多くの人や場所が戦火に包まれるかもしれないが、我々のすべきことは同じ。1人でも多くを守るために、戦うだけだ)
 どこの組織にも属さないフリーランスの傭兵として会談に参加したクレアは、すぐそこまで迫ってきている戦いの気配を感じて心中でつぶやく。災害のような悪意を世界に振りまくマガツヒへの敵意を静かに膨らませ、来るべき対決に備えておくべきだろうと目を細めた。
「……では、彼らを移送する手配をしてから、我々も帰還しましょうか」
 しばらくリヴィアを見送っていたキュリスは、エージェントたちに笑顔を向ける。
「彼らのように突然襲撃してくることもありますからね。ご自宅の玄関に入る迄、護衛させて下さい」
 どこか冗談めかした笑みで返す拓海だが、他のエージェントたちも含め気を緩めている様子はない。その後、ヴィランたちの監視と引き渡しを行うために数名がその場に残り、エージェントたちはキュリスを連れてその場を立ち去って、極秘会談は終了した。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 堕落せし者
    十三月 風架aa0058hero001
    英雄|19才|?|ソフィ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • 我等は信念
    アルラヤ・ミーヤナークスaa1631hero002
    英雄|30才|?|ジャ
  • 龍の算命士
    CERISIER 白花aa1660
    人間|47才|女性|回避

  • プルミエ クルールaa1660hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • Dirty
    フィーaa4205
    人間|20才|女性|攻撃



  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • 南氷洋の白鯨王
    オールギン・マルケスaa4969hero002
    英雄|72才|男性|バト
  • 希望の守り人
    Vincent Knoxaa5157
    人間|14才|男性|防御
  • 絶望を越えた絆
    Albert Gardneraa5157hero001
    英雄|24才|男性|ブレ
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