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救助相談場所
最終発言2018/04/21 21:06:18 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/04/19 22:28:05
オープニング
●
ハワード政権打倒を掲げたレジスタンスは瓦解した。
レジスタンスに提供された新型AGWは従魔が憑いたものであった事が判明し、ヘイシズの介入を以てレジスタンスの活動は終息に向かった。
旗揚げからの中心人物は国外追放が決まり、まだ反抗の意思が強いメンバーも同様だ。
燃え上がった炎は見る影もなく、火種が燻るのみ。
そして今夜、この火種も無残に踏み消される事になるだろう。
「もっと撃ちまくれ!」
「一人でも多く逃がすんだ!」
暗闇の荒野を激しい銃火が照らし、そこかしこで横転した車から流れるガソリンと血の臭いが漂っている。
「仲間が命と引き換えに残してくれた物だ。絶対に渡すな!」
「誰か一人でもいい、仲間の意思を継ぐんだ!」
戦っているのは国外追放から運良く逃れたレジスタンスである。
組織としては瓦解してしまったが、残った彼等は仲間の意思を繋ぐべく国外脱出を図った。
リオ・ベルデの活動はもはや叶うまい。しかし、リオ・ベルデの影響下にない国で世論を動かす事ができたならと散り散りになった仲間を集め国外を目指したのだ。
「よかった、間に合ったわね」
そんな彼等の前に現れたのは若草色の髪とドレスの少女と、黒いコートにガスマスクの大男。
彼等が乗ってきたバンからは大男よりは小柄だが武装した六人が降りて来た。
「もう一つの方は半分が素材には不向きだったし、あなた達がいてくれてよかったわ」
少女は鈴を転がすような声で絶望を紡ぐ。
「ペットの餌にはなったけど、私と彼が欲しいのは素材なのよ」
餌? 一体何を言っているんだ。
呆然としていた彼等の頭が少女の言葉を理解した瞬間、誰かが叫んだ。
そして始まったのは激しい銃撃戦だ。
レジスタンスに提供された新型AGWは回収され、ここにあるのは危険を承知で持ち出されたごく一部。他は一般的な銃火器だ。
大男二人は流れ弾から少女を守るだけ。攻撃をしてくる四人もその場から一歩も動いていないと言うのに、仲間は一人また一人と減っていく。
頬を掠めた光弾は外れたのではなく、逃げている仲間の背中を撃ち抜くための物だった。
「うーん……もうちょっと数が欲しいわね」
少女は一つ二つと増えて行く死体を数えていたが、ふとその死体の傍に転がっていた物を見付けて何かを思い出したらしい。
「忘れるところだったわ。持ち物も壊すか持って帰れって言われてたのよね。あなた達、拾ってきてちょうだい」
少女の足元からずるりと何かが這い出て来た。
緑色の体は遠目から見れば大きな芋虫。しかしその芋虫には足の代わりに人の手が突き出ており、人の顔を持っていた。
おぞましい生き物は地面に転がった物を手当たり次第に飲み込んで行く。
「畜生、畜生……こんな奴等に……!」
レジスタンスの最後の希望を繋ぐはずだった全てが消えて行く。
●
「愚神が現れました」
ブリーフィングルームには妙な空気が漂っている。
緊張感や戸惑いと言ったそれはブリーフィングの進行役であるタオ・リーツェンが原因であった。
胡散臭い笑みを浮かべた八の字眉と糸目がトレードマークの彼は今、やつれ青ざめそれでいて糸目はぎらりと開いてうっすら赤く光っていると言う有様である。
「愚神の名はディー・ディー。ラグナロクの人体実験に関わっていたと思われる愚神。加えて元ギアナ支部職員であり今はリオ・ベルデにいると思われる『D.D.』との関わりも予想されます」
若草色の髪と同色のドレスを纏った少女の姿をした愚神。名はディー・ディー。
「すでに解体されたレジスタンスですが、国外追放を逃れた生き残りがディー・ディーに襲撃されます」
彼等はリオ・ベルデの影響下にない国で世論を動かそうと狙ったらしい。
二手に分かれたようだが、プリセンサーが察知したのは荒野を移動中に襲撃される方だけだ。もう一方はディー・ディーの口ぶりからすると荒野に向かう前に襲撃され、すでに全滅している。
「助けられる可能性があるのは荒野を移動中のグループだけです。出来る限り多く彼等を救助して下さい」
以前エージェントがディー・ディーと接触した時にいたのはRGWを装備した大男が二人だけだったが、今回はそれに加えRGWと思われる小銃や剣で武装した兵士らしき存在が六。こちらは戦力かどうかは不明だが人の手と顔を持つ芋虫のような、おそらく改造従魔であろうものが四。
「愚神は戦闘に参加する様子がないようですが、警戒は必要でしょう」
ディー・ディーの目的は『素材の確保』らしいが、散らばったレジスタンスの武器や荷物も手当たり次第に回収している。
ある程度の人数が確保できれば向こうから戦線離脱するだろうが、その頃には荷物も全て回収また破壊されているだろう。
「気にはなりますが人命救助が最優先です。残念ながら全員救う事はできませんが、やれるだけの事はやってみましょう」
ふとエージェント達が彼も同行するのだろうかと別人のようになった顔を見ると、やつれた顔が笑みらしき形に歪んだ。
「今回も私は後方支援です。皆さんが確保した救助者は私が保護します。皆さんに危険な前線を任せっきりになるのは心苦しいですが、何が何でも前線に出るなと言われましてね……」
どうか、よろしくお願いします。
そう言って頭を下げたタオの表情がどうなっているかは誰からも見えなかった。
解説
●目的
・可能な限りの人命救助
●状況
・荒野/夜23時頃/晴れ
荒野の真っただ中で元レジスタンスと愚神側戦力の戦闘中に介入する事になる。
遮蔽物は介入地点から500m離れた所にある廃モーテルのみ。
愚神側は暗闇でも周囲を把握できる。リンカーの接近に気付けば遊びを止めて即座に用を済ませようとする。
廃モーテルまで運べばNPCが保護してくれる。
・『レジスタンス』×30
十代後半~四十代の男女混成。乗ってきたワゴンやジープは全て大破。
回収されないよう隠していた新型AGWの銃や盾はあるが、殆どが一般的な銃しか持っていない。
時間の経過と共に生き残りの数は減って行く。
●敵
・『大男』×2
一方は盾型RGWを装備し高い防御力とカバーリング性能を持ち、もう一方は両腕に大型の銃器を装備した高火力。
基本的に愚神の側を離れず、愚神への攻撃はまず通さない。
・『小男』×6
区別のため小男と付けたが身長は180cmくらいはある。
小回りが利き武器も器用に扱う。メインは小銃、接近時には大振りなナイフや剣を使う。
大男と違って必要なら逃亡者の追跡など自由に動く。
・『改造従魔』×4
戦闘力の有無や等級は不明。地面に転がった遺体や物品を飲み込んで回収する。
・『愚神ディー・ディー』
戦闘には参加せず指示を行っている。遺体や物品の回収具合を見て撤退を判断する。
●NPC
タオ・リーツェン
色々と荒んで来て形相がもはや別人。前線に出るのを禁止され後方支援を担当。
かなり攻撃的になっているので前線に呼ぶのは禁止。
リプレイ
●荒野の銃火
どこまでも広がるかのような荒野。本来ならば月明りの僅かな光しかないはず夜を激しい銃火が照らす。
いくつも転がる車の残骸からは黒煙が上がり、ガソリンと残骸の中で焼ける死体の異臭が漂ってくる。
「もっと盾あげろ!」
「何でもいい、とにかくブッ放せ!」
若い物は十代後半、年嵩の者でもせいぜい四十台と言った男女が銃火器や盾を手に戦っている。
一人二人と倒れ零れ落ちた武器を近くにいた者が拾い上げようとして撃たれ、盾を掲げた者の後ろを走っていた者の背に大穴が空き倒れた。劣勢と言うのも烏滸がましい有様だ。
相手は淡々と、殆どその場から動いていないと言うのに彼等は、リオ・ベルデから脱出したレジスタンスの生き残りは死んで行く。
揃いの黒いコートに装備品。どこぞの軍隊のような兵士風が六人。
兵士風と似たような出で立ちだが、威容すら感じる大男二人。これに比べれば先の六人など小男である。
その後ろでのんびりと指示を出す若草色の髪と同色のドレスを纏った少女が一人。
「てめえ! そいつに触るんじゃねえ!」
怒りと共に銃を手にした若者が勢い余って仲間の盾から飛び出した。
その先でまだ少女の面影を残した女性の遺体を飲み込むのは、人の顔と手を持つ不気味な芋虫。
「馬鹿戻れ!」
盾を構えていた仲間が呼び止めるがすでに遅く、頭を吹き飛ばされた若者は女性の後に芋虫に飲み込まれた。
「順調に集まってるわね。……あら、どうしたの?」
目の前で繰り広げられる惨状を平然と眺めていた少女が、大男の内一人が明後日の方向を向いた事に気付く。
その視線の先を確かめようとした少女の目に、何かが光るのが見えた。
光は一瞬の後小男の一人に直撃する。
「あら」
少女の呑気な一言を掻き消して、小男に次々と攻撃が襲い掛かる。
「助けに来たよ! いい、まだ諦めるの早いからね。生きて、全力で抵抗して!」
銃火を恐れず声を張り上げたのは長い金髪を靡かせた青い瞳の女性。アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)と共鳴し、高い機動力を惜しみなく発揮して駆け付けた志賀谷 京子(aa0150)。
「ヒーロー登場! さぁ大船に乗ったつもりでまかせなさーい!」
明るく、それでいて力強い少女の声。金と青の髪と青い翼に幸運を齎す鳥を思い浮かべたレジスタンスの前に、燐(aa4783hero001)と共鳴した雨宮 葵(aa4783)が飛び込んで来る。
「動ける方はこちらへ! 救助が来ています!」
レジスタンスの目からしたら突然現れた、赤い色彩で纏められた構築の魔女(aa0281hero001)。共鳴した辺是 落児(aa0281)の名残か一筋の黒が流れる赤い髪はいくら暗闇でも目立ちそうなものだが、イメージプロジェクターを利用した簡易迷彩は戦闘に集中していた者達の目を誤魔化すには十分だった。
救助と聞いて絶望に狂いそうだったレジスタンスがはっとする。
しかしその間にも敵からの銃火は止まず、また一人仲間が倒れる。
「振り返らなくていい。背は撃たせないし追わせない」
行くか留まるか迷ったレジスタンスは十影夕(aa0890)とシキ(aa0890hero001)、両方の色を引き継いだ金と黒のオッドアイを見る。
髪もまた黒と白のツートンカラーと言った特徴的な出で立ちに閉鎖的な場所で中年を迎えたレジスタンスがきょとんとしていると、背中をとんと軽く押される。
「仲間を連れ、身を低くし、向かってくれ」
絵本から出てきた騎士のような姿をした荒木 拓海(aa1049)が、レジスタンスに使えとばかりにスマートホンを渡す。何をすればいいのかと戸惑う彼の横からまだ二十前後らしい若者が手を伸ばしてバックライトを地面に向けた。
そのやりとりを見てメリッサ インガルズ(aa1049hero001)と同じ白に変わった頭を少しかき、拓海はそれでいいと頷く。
しかしスマートフォンは一つ。他の仲間を案じて若者が一瞬迷うと、任せろと請け負った声の主が走って行った。
「あの白髪の……騎士っぽいのの所へ集まってくれ!」
白髪と言った所でセラフィナ(aa0032hero001)と共鳴した自分も今は白髪だったと、表現を変えて誘導する真壁 久朗(aa0032)が暗闇を見通すライヴスを纏っている。
そのライヴスは周囲のレジスタンスの視界も確保し、逃亡を助けていた。
しかし移動を開始すればここぞとばかりに小男の攻撃が集中する。
無論それを黙って見逃すエージェント達ではない。銃弾から庇い、反撃し、レジスタンスを守るべく奮戦する。
「今日はサービスだ、ありったけくれてやる」
俄かに避難が行われている場所から離れた所で、銀髪にコサック風の軍服を着た女性が銃を構えていた。
共鳴したクレア・マクミラン(aa1631)とアルラヤ・ミーヤナークス(aa1631hero002)が狙うは小男達。
『砲兵師団が如く、雨あられのごとく砲火を降らせてみせよう』
「今回は弾薬費は度外視だ」
アルラヤとクレアの宣言と同時に対愚神用に作られたAGCメルカバの銃口が火を吹いた。
「レジスタンスは狙わせない!」
白い外套、いやあれは何かの装束だろうか。肩に羽織ったそれと好対照の黒を基調にした出で立ちに赤みがった髪が翻る。
ナイチンゲール(aa4840)と墓場鳥(aa4840hero001)。同じ響きの名を持った二人は共鳴し、レジスタンス達を庇うべく守るべき誓いで敵の意識を自分に誘導する。
思わぬ助けを得たレジスタンスの目に明かりが見えた。
距離にして500m。長いとは言えなくとも短いともこの銃火の中向かうにはけして短くない距離だったが、廃モーテルの前でエージェント達の要請を受けタオ・リーツェン(az0092)が灯した明かりは絶望の中にいたレジスタンスにとってまさしく希望の光だった。
「困ったわね。またあなた達なの?」
少女―――愚神ディー・ディーはエージェント達を見回して溜息を吐いた。
その溜息の直後、逃げるレジスタンスの背に追いすがった小男の刃が一人の心臓を刺し貫く。
●消える命、託される物
背後から貫かれたレジスタンスはまだ息があったが、小男は構わず不気味な芋虫型の従魔に向かって放り投げ恐怖に固まった他の獲物に刃を向ける。大振りなナイフは人間の肺や心臓を貫くには十分な刃渡りと鋭さがあった。
フォローが間に合わなかった事に臍を噛みながら、京子は二丁拳銃で小男に相対する。
小男は銃撃を受けながらも致命傷を割け、あろう事か反応が鈍いレジスタンスを遮蔽物にしようとした。
「させないよ!」
ナイチンゲールが躍り出てレーヴァテインとナイフが火花を散らす。
「ここは私に任せて!」
「分かった、お願い!」
ナイチンゲールに小男を任せ、京子は周囲で倒れ蹲っている負傷者や彼等が心配で動くに動けない盾持ちのレジスタンスの方に向かった。
レジスタンスに剣で襲い掛かっていた小男に、京子は強気に笑う。
「近づいてからがこっちの本領、地獄まで付き合ってもらおうかな」
その間にも隊列を組んでのまとまった銃撃から遊撃へと移行した小男達の襲撃は続く。
構築の魔女の、クレアの、夕の、援護射撃と言うには激しい攻撃に対抗するべく、遊撃に切り替えた小男達からも反撃が来る。飛び交うライヴスを纏った銃撃はレジスタンス達のそれより激しく荒野を照らす。
『消えるべきでない命を繋げるのは、今ここにいる僕達だけです』
セラフィナは体があれば拳を握っていただろう。減ったとは言え今も二十人以上いるレジスタンスを八人で守り切るのは難しい。エージェント達が来る前の絶望的な状況よりは遥かにマシだが、守り切れなかった者は出る。
また一人、久朗の視線の先でレジスタンスが胸を撃ち抜かれた。
彼女は穴が開いた自分の体よりも腰に括りつけた包みの無事を確認し、目が合った久朗に向けて差し出そうとした所で力尽きる。
「ああ、消させはしない。……手掛かりも見付ける、必ず」
剣を手に飛び掛かって来た小男を盾で殴り飛ばし、地面を転がる包みを自分の懐に押し込む。
動ける者は大半が廃モーテルへと向かい、ここに残っている数が減っただけ一人に対して襲い掛かってくる小男の数は増えていた。
『この現状……これでも上の方々にお話ししたい事は無いの?』
メリッサの棘のある物言いに、置き去られたレジスタンスの盾型AGWの影で救命救急バッグを広げた拓海は倒れたレジスタンスの傷を確認しながら答える。
「オレ達の範疇では計れない事があるんだろう」
重傷ではあるが応急処置をして病院に運べば十分間に合う。
『……拓海って従順よね』
「オレは馬鹿だ、見える事しか判らない……けど、それでも目前の誰かを助けるよ」
倒れているレジスタンス達に可能な限りの処置を施して行く拓海に、メリッサはそれ以上文句を言うのを止めた。
『ほんと馬鹿……でも、それで良いわ』
拓海がこの場で出来る事はここまでだと手を止めた時、葵が盾型AGWの裏に滑り込んで来た。
「拓海さん、怪我人の処置は?!」
先程まで小男を凌ぎながらレジスタンスを誘導していた彼女だが、動けない怪我人の対応に来たらしい。
「応急処置は済みましたが、自力で逃げる余力はないようです」
「分かった。それじゃちょっと乱暴だけど一気に連れてくよ」
どうするのかと拓海が思っていると、葵は倒れている怪我人を抱え上げまだ意識がある者にはしっかりしがみくよう注意している。
葵の意図を悟った拓海と意識のあるレジスタンスは破れた服やバンダナで即席の紐を作って意識のない者を括り付けた。
「それじゃ、怪我人を連れて行くね」
「頼みます!」
拓海は葵から敵の注意を逸らすためにこちらに気付いた小男へと向かって行く。
RGWの銃撃を何発か受けながらも接近し、手にしたウコンバサラの連続攻撃で小男を抑え込む。
「待ってて。すぐに終わらせる」
走ってきたレジスタンス達が残った仲間を気にして振り返る度に夕はそう言って彼等を促す。
手にした狙撃銃は的確に小男を撃ち抜いているが、数発撃ち込んだ程度では止まらない。
『大男と愚神の方は動かないようだな』
戦闘音に混じり通信機からクレアの声が聞こえて来る。
『あの従魔は構わず動き回っていますね』
構築の魔女は地面を這っている不気味な芋虫のような従魔を観察する。
従魔は飛び交う攻撃など意にも介さず地面に落ちている物を手当たり次第に飲み込んでいた。
『レジスタンスの遺体を回収するのは何故でしょうか?』
『素材がどうのって話だったよね……って、そこどいて!』
構築の魔女の疑問に、小男を撃ちながら京子が通信に加わった。
『話は後ね。魔女さん、今そっちにマーカーいくから!』
『マーカー?』
構築の魔女は京子の言葉を繰り返し、引き金を引く手は止めずに周囲を見回す。
ふと、自分の体にポインターのような物が当たっている事に気付く。
『久朗さん、夕さん、拓海さんと協力して小男の注意を無理にでも逸らして下さい! クレアさんは葵さんと構築の魔女さんの援護射撃を厚めに!」
切迫したナイチンゲールの声の直後、葵の声が通信機から聞こえて来た。
『ごめん! 受け止めよろしくね!』
そのマーカーがジャングルランナーの物だと思い至った構築の魔女が身構えると、負傷者を背負った葵が勢いよく飛び込んで来た。
いくらリンカーと言っても成人した男女を数人と共に突撃されればかなりの衝撃である。
吹っ飛ばされはしなかったものの流石に構築の魔女も面食らった。
『急げ、連中最後の生き残りとばかりに突っ込んで来るぞ!』
クレアの警告に葵と構築の魔女ははっと身を起こしそれぞれの役割を果たすべく動く。
●執着と無関心
「持って行かれちゃったわね。あなた達、もうちょっと頑張ってちょうだい」
それまで高みの見物をしていたディー・ディーが口を開く。
小男はその指示とも言えない指示に攻撃の手を強めるが、盾となり壁となり守っていたレジスタンスが交戦地帯から離れつつある今、エージェント達は自由に動けるようになっていた。
「今回も諦めて、というのは虫が良すぎるか。でも、今回こそこっちも譲れないからさ」
京子はそう言いながら、ちらりと視線を動かす。
「ところであの改造従魔はあなたの趣味? 人の趣味をどうこういう気はないけど……」
「悪趣味だな」
京子があえて言わなかった事を久朗がきっぱりと言って地面にべたりと潰れた従魔を指す。
従魔の体液がこびりついた石斧を手に、従魔を仕留めた拓海が鋭い目線を向けている。
断面から溢れんばかりに出て来た遺体や武器の残骸、レジスタンスの持ち物も同様に従魔の体液に塗れていたが、やがて従魔の体が消滅すると同時に体液も消えて行った。
「折角回収していたのに。困ったわね」
ディー・ディーはそう言う割にはまったく気にしていないように見える。
大男二人も動く気配はない。
「誰かに言われてとかこれも仕事とか、やりたい事しかしない主義と言いつつ誰かに使われてるよな。お前が求める“報酬”はなんだ? 」
久朗は小男と戦いながらディー・ディーの様子を窺っていたが、顔がベールに隠されているから表情が分からない。などと言う以前に、この状況に何かを感じているようには思えなかった。
「お喋りは構わないけど、注意散漫になったら危ないわよ?」
自分の配下であろう小男と戦っている久朗に対してそんな事まで言ってくる。
「あなたも、一人で飛び込んでくるのはやりすぎじゃないかしら?」
「隙あらばと思ったんだけど」
大男の腕を覆う大盾に刃を食い込ませ、ナイチンゲールは奇襲の失敗に素早くそのから離れる。
「あのさ、素材って『商品』作る為に集めてるんだよね。こいつらもそうなの? マニー・マミーも?」
「商品? マニー・マミー? 何を言っているのか―――ああ、そうだったわね。」
ディー・ディーは不思議そうにしていたが、ぽんと両手を打ち合わせた。
「マニー・マミーと言うのかどうかしらないけど作った物のいくつかは商売に使ったはずよ。私は自分の作品は売り物にしたくない方なんだけど……仕方ないわよね」
はあ、とため息を吐く仕草にどことなく哀愁が含まれている。
久朗は探りを兼ねてそれに突っ込みを入れた。
「誰かに言われてとかこれも仕事とか、やりたい事しかしない主義と言いつつ誰かに使われてるよな。お前が求める“報酬”はなんだ? 」
久朗は以前にもディー・ディーと接触している。
その時にあの愚神はやりたい事しかしないと言っていたのだ。
「私と彼は共同研究者よ。開発は彼で私はデザインを主にしているわね。とは言っても、私と彼の美的センスと言うのかしら? ズレがあってなかなか採用してくれないのよね」
『彼』と、確かに言った。
しかもその『彼』とは共同研究者だと言う。
「あの兄弟も―――『豊穣神』もおたくの『共同研究』の結果? 洗いざらい話して貰うよ」
ナイチンゲールの目はベールに隠れて見えないディー・ディーの顔を睨みつけていた。
「まあ怖い。私は戦いは専門外なの。あなた達、お願いね」
ディー・ディーがそう言うと、大男ではなく近くにいた小男達が一斉にナイチンゲールへと向かう。
『一旦下がって!』
「仕方ないか……」
援護射撃をしていた三人からの警告と支援者撃に、ナイチンゲールは悔しそうにしながらも下がる。
それを取り囲もうとうする小男達に拓海と京子が駆けつけた。
再びエージェントと小男達が入り乱れる。
「小男の一体二体は捕獲したい所だが……」
『従魔が回収した物には無関心なようですが、小男は人手を割いても救助……いえ、これも回収ですね。私達に捕獲されては困る何かがあるのでしょう』
クレアと構築の魔女は今しがた倒した小男が別の小男に引きずられて行くのを見た。
ここぞとばかりに仕掛けた久朗と京子の攻撃には他の小男がすかさずカバーに入っている。
『雨宮殿の話を前提としたところではあるが、あの小男が控えている大男と同じものであるとしたら我等に渡したくはないのだろう』
アルラヤは従魔とあまりにも違う行動と扱いにならば猶の事捕獲をしたいものだが、と零す。
『なら従魔だけでもここで仕留めよう』
通信機から夕が標的を小男からまだ地面を這い回る従魔に変更する事を伝えて来る。
それならと先程従魔を一体仕留めた拓海がアドバイスを送って来た。
『手……足と言えばいいのでしょうか? あれを潰してもあまり動きは変わりませんでした。体をくねらせて移動する事もできるようです』
従魔は動きがあまり素早くないが、あの体はまるで衝撃吸収材のような機能を持っているらしく打撃や切断といった物が効きにくい。仕留めるなら一点に威力が集中する銃弾や刺突だろう。
「つまり、俺に向いた敵だよね」
夕はシンプルに纏めると、早速目に入った従魔を狙い撃つ。
狙撃銃の貫通力の高い弾丸はあっさりと従魔の体に潜り込み、まさに芋虫のようにじたばたと悶える。
「あらかわいい」
それを見たエージェント達は顔をしかめたが、ディー・ディーは自分の”ペット”が苦しんでいるにも関わらず楽し気だ。
「……これが可愛い、だと?」
人の顔には声を出す機能がないのか、悲鳴こそないものの苦悶の表情に歪み人の体には不可能な死のダンス。忌避と哀れを催す様を、ディー・ディーは可愛いと言うのだ。
「私は可愛いものが好きなの。可愛いものはいいわ。素晴らしいわ。可愛いものはどれだけあってもいいの」
何かのスイッチでも入ったのか、ディー・ディーは突然語り出した。
目の前では自分の指示に従った小男達や従魔がエージェント達に倒されていると言うのに。
「可愛いものこそ価値があるの。それ以外は無価値だわ。無価値なのはかわいそう。そう思わない?」
語りながらくるりくるりとドレスを翻すディー・ディー。
くるりくるりと斬られ撃たれて小男が回って倒れ伏し、残った小男や従魔に回収される。
「私は可愛いものが好き。可愛いものを作るのが好き。だから無価値なものを可愛くしてあげるの。素敵な事だと思わない?」
ぞくりと、エージェント達の背筋に悪寒が走る。
可愛くないものは無価値だと言い切ったディー・ディーにとって自分の配下であろうが敵であろうが可愛くないものは等しく無価値。何一つ気に掛ける必要のない物なのだ。
そして価値があるはずの「可愛いもの」ですら、ディー・ディーにとっては作品の一つ。
この愚神はラグナロクの幹部や改造従魔を作り出した事は憶えていても、その名前、バルドルやフレイ、フレイヤ、トールを一個人として認識していないのは彼等は『作品』であって『個人』ではないからだ。
「残念だったね! 可愛いものとか作る『素材』はもう手に入らないよ!」
固まっていたエージェント達の耳に、葵の声が飛び込んでくる。
荒野の向こう、廃モーテルの明かりには何人もの人影の他に緊急車両が集まっているのが見えた。
『レジスタンスは保護しました』
これまで沈黙していたタオからの報告に、エージェント達は俄かに活気づく。
対して、ディー・ディーはあらあらと肩を落として見せた。
「本当、困った人たち。材料が足りなくなったらあなた達のせいよ?」
そう言って身を翻したディー・ディーに大男が突き従い、生き残った小男が従魔を回収して後に続いた。
「逃がさない!」
「逃がしてもらわないと困るわ」
ディー・ディーが大男の方を見ると、一人が従魔の口に手を突っ込み中からずるりと一人の青年を引きずり出した。
血と従魔の体液に塗れているが僅かに胸が上下してまだ息があるのが分かる。
「この子、とっても力が強いの。私がやりなさいと言ったらどうなるかしら?」
大男は青年の頭をがっちりと掴み、その左右では小男が銃を構えている。
エージェント達がディー・ディーを逃がすまいと動けばその瞬間青年の頭は握りつぶされるだろう。
「分かってくれたみたいで嬉しいわ。それではごきげんよう」
ディー・ディーがカーテシーを送ると、その後ろに猛スピードで一台のバンが走って来た。
バンの扉は内側から開かれ、ディー・ディーは悠然と乗り込む。
「“みすぼらしくて汚くて哀れで惨め”……そんな風に死んでいった奴がいる」
ディー・ディーの背中に久朗とナイチンゲールが叩きつけるように言う。
「お前は少なからず加担してた筈。俺は追い続ける。お前と、“彼”とやらを」
「地の果てまで追い詰めてやるから、覚悟して」
二人の言葉と六人の視線を受けて、ディー・ディーは振り返ると優雅にカーテシーを送ってきた。
バンに小男と従魔が乗り込むと大男二人は青年をエージェントに向かって放り投げ、走り出したバンに飛びついて去って行く。
「……今は怪我人の治療を優先しましょう」
構築の魔女は通信機を通してタオにもう一人重傷者がいる事を伝えた。
●『彼』
「お疲れ様でした。後の事は……」
「いや、俺達もやるよ」
タオの言葉を遮り、エージェント達は再び戦闘を繰り広げた地点に戻った。
三十人ほどいたレジスタンスは三分の一が命を落とした。エージェント達が到着する前から徐々に数を減らしていた事を考えればよくそこまでで食い止めたと言うべきだろうが、エージェント達には慰めにならないだろう。
「生きてる限り嫌でも明日は来る。間違えても、失敗しても」
見開かれたままの男の瞼を閉じ、夕は呟く。
「他人の未来を変えられるなんて思い上がってたつもりはないけど、こんなところに繋げたかったわけじゃない……」
レジスタンスに参加した人々の想いは様々だろう。
しかし、ある日突然親しい人を喪った人々が、次は自分の親しい人の番かもしれないと怯える人々が、失わずにいられる未来を夢見て戦った事は間違っていただろうか。
思いを利用され踏みにじられ、こんな結末を迎えるようなものだっただろうか。
「彼らも自分の上の方々を信じてたのよね……」
メリッサも拓海と共に遺体と戦場に散らばった残骸の回収に当たっていた。
欠片の一つも見逃さないよう、丁寧に。
「オレも信じるよ」
拓海はメリッサを手伝いながらそう言った。
荒れ果てた戦場から全て回収し終わったのは、夜が明けてからだった。
集められた新型AGWや愚神側が使っていたRGWと思われる残骸やレジスタンスが持っていた荷物は全て解析に回される。
「結局、レジスタンスが狙われたのは彼等の体そのものが目的だったようですが……RGWを使用した人間の身体とかでしょうか? 」
帰路に着く車輛の中で構築の魔女がディー・ディーに『素材』として目を付けられた理由を考えるが、今の時点では推測に過ぎない。
「あの愚神からは研究がどんな物か、『彼』が何者なのかは聞けなかったけど……」
京子がそう言いながら車輛の隅に座っているタオに目を向ける。
エージェントの視線が集まった事に気付いたタオが顔を逸らすのを見たクレアがさりげなく移動して逃げ道を塞ぐ。
「タオさん、何が分かったの? もしかして、ディー・ディーの言ってた『彼』について……」
葵の問い掛けに口を噤むタオだったが、そんな事は予想済みである。
久朗とナイチンゲールもさりげなく逃げ道を塞ぎつつ近くに座った。
「……前回愚神の名を聴いて少なからず衝撃を受けてたよな? 元ギアナ支部職員……お前の知り合いか?」
「独りで抱え込む限りあなたはずっと苦しいままだよ。なのに隠すの?」
声に出さない面々からも無言で話すように求められ、タオは別人のように険しくなった顔を彷徨わせ、ややあって「別に隠してたわけではないんですよ」と言った。
「愚神ディー・ディーが口にした『彼』とは、まず間違いなく『D.D.』元ギアナ支部職員で、今はリオ・ベルデにいると思われる研究者の事でしょう」
D.D.―――本名デイモン・ダイアー。タオの父親とは同世代で、直接の面識はないと言う。
「私は彼が残した資料を見た事があるだけです」
素晴らしかった。自分がエージェントから研究者に転向したのは亡父と彼の残した研究資料に惹かれたからだったと語る言葉と声音が一致しない。
「私は知らなかった、気付かなかったんです。まったく……我ながらなんと言うか……」
口調だけは以前のようにうすら笑いを含んでいたが、床を見詰めるタオの目には憎悪が渦巻いていた。
「彼は、奴は……ギアナ支部で起きた『事故』を起こした張本人。私の父親は、その事故で死にました」
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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