本部

【森蝕】連動シナリオ

【森蝕】急募、ドロップゾーン破壊の護衛

雪虫

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
15人 / 4~15人
英雄
15人 / 0~15人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/03/05 20:41

掲示板

オープニング

●アグレッシブといっしょ
 ドロップゾーンを破壊するので護衛任務を頼みたい……そのような内容でエージェント達が召集を受けたのは、【森蝕】と名付けられた一連の事件に決着がついた、それからしばらくしての事だった。
 決着がついたと言っても、あくまで『ラグナロク』というヴィランズ組織を壊滅しただけであり、やる事はまだ残っている。近隣集落の復興支援、崩壊したインカ支部の立て直し、アマゾンに未だ出没する従魔討伐にしてもそうだし、ウールヴへジン達に刻まれていたナンバリング、RGW、ラグナロク本拠地やパンドラの言っていた研究所の調査等……。
 ドロップゾーンの破壊についても「やる事」の一つであった。不完全なゾーンであり、アウタナ撃破後すぐに消滅が始まった、とは言え、放置しておいていい事など何もない。高位の愚神が入り込み、破れかけたゾーンを利用してくる場合もある。故に、ゾーンブレーカーを中心地へ派遣し、結界破りの術式を施してもらう必要がある。
 ……というのは、流れとしては全く問題ないのだが、エージェント達は眉間に皺寄せきょろきょろ視線をさ迷わせていた。もちろん全員がそうではなく、中には落ち着いた態度の者もいるのだが、胸の内は同じだった。
 ジェーン・フローエ嬢がいない。
 H.O.P.E.きってのゾーンブレーカーにして、眼帯が素敵なミステリアス・クールビューティー。彼女との任務と考えて、今回の召集に応じた者もいるかもしれない。
 が、彼女の姿は何処にもない。出発予定時間は十分を切っている。エージェントの一人がフローエ嬢はどこですかと、尋ねようとした、その時、何故か今この場にいるM・Aが口を開いた。
「おっと言い忘れていた。ゾーンブレーカーはこの私だ」
 ……は?
「M・Aはギアナ・インカ支部長にして、ゾーンブレーカーでもあるのだ。皆、護衛任務、よろしく頼む!」
 同行する戸丸音弥が、M・Aの言葉を引き継いだ。
 エージェント達は改めて、M・Aの姿をまじまじと見た。鮮やかなオウムマスクに鮮やかなオウムカラーの胸毛。褐色のマッスルボディー。腰に巻いた蔓一本にそこから覗くブーメランパンツ。あまりまじまじ見たくない類の人種がそこにいる。
 見た目だけで既に属性過多なのに、その上ギアナ・インカ支部長で、獣少女が英雄で、さらにゾーンブレーカー? 属性付け過ぎである。だが、そんなエージェント達の内心などつゆ知らず、M・A――『ミスター・アグレッシブ』と呼ばれる男はアグレッシブに親指を立てた。
「何、心配する事はない! 護衛と言っても強力な従魔が出る可能性は極めて低いし、有能な君達には難しい任務ではないだろう。とは言え、油断は禁物だが、どちらかと言うと念のためだ! ピクニックに行くような気軽さで臨んでくれたまえ!」
 いや沈黙の理由はそこじゃない。と、エージェント達が口に出さず心の中で突っ込むと、どちらかと言うと、とM・Aは痛まし気に声を落とした。
「もちろん、ドロップゾーンの破壊が一番の目的だが、アウタナの跡をこの目で見ておきたくてね……地域住民にも仲間にも、敵にも、多くの犠牲を出してしまった……追悼などと偉そうな事を言える義理ではないのだが、せめて謝罪をしたいのだ。私は、『二度』も悲劇を防ぐ事が出来なかった……」
 オウムマスクに隠れその表情は分からなかったが、M・Aは低くそう零した。のは一瞬で、次の瞬間にはガバッと大きく両手を広げてみせる。
「と、いかんいかん。出発前に湿っぽい空気を醸すべきではなかったな。忘れてくれ! そうそう、お近づきの印として、こんなものを用意してみた!」
 M・Aはそう言って立ち位置からズレた。横に。そのマッスルボディーの後ろにセットされていたのは……大量の蔓とブーメランパンツが入っている箱ひとつ。
 エージェント達は蔓とパンツの入った箱を見、それから改めてM・Aを見た。M・Aはにかっと歯を見せた。白い歯が、とても眩しい。

解説

●任務内容
 M・Aの護衛をする

●状況説明
・インカ支部から出発し、アウタナ跡地までアマゾンの中を徒歩行軍
・アウタナに侵蝕されたらしく、アウタナ跡地には草の芽一本生えていない。植物が生えるまで今しばらくかかるだろう
・天候:晴れ
・暑い(共鳴しても暑い)
・従魔が出てくる場合もあるが、動植物にイマーゴ/ミーレス級が取り憑いた程度なので、ほぼワンパンで倒せる

●NPC
 M・A/エルエル
 ミスター・アグレッシブ/『ブラックボックス』と呼称される獣人型英雄。M・Aにはラグナロク以外にも過去に何かあったようだが…… 

 戸丸音弥&セプス・ベルベッド
 ギアナ支部の衛生兵。緊急時の回復係として同行する

●その他
・食べ物や飲み物など、行軍に必要と思われるものがあれば持参可。ただし入手困難なものはマスタリングで却下される場合がある
・NPCの描写は、要望がなければ必要最低限orなし
・あくまで「ドロップゾーン破壊に伴う護衛任務」なので、M・Aから長距離離れての単独行動は許可出来ない
・M・Aの用意した蔓とブーメランパンツは、希望があれば身に着けて構わない(丁重にお断りしても構わない)。使用出来るのはこのシナリオだけで、アイテムとしては配布しない。女性には腰ミノと布一枚(大きめ)が追加される
・M・Aには悪気も下心もない
・アマゾンの動植物は大事にしてくれるととても嬉しい(持ち出し禁止)

リプレイ


 美咲 喜久子(aa4759)は色を失くしていた。すまさずとも耳にジーと虫の鳴き声が。
(アマゾン……虫……虫が必ず居る筈の、虫が! 出る! 依頼に! 私は何故っ!!)
『きっこさーん! 張り切って行こうね!』
 アキト(aa4759hero001)の声に「そ、そうね……」と喜久子は答えたが、瞬で気付き「いや、そうだな……」と言い直した。クールに振る舞う努力は継続の方向らしい。
『ん? あそこに見えるはレイさんとカールさんじゃん!』
 とアキトが最初に気付き『おーい』と元気に手を振った。カール シェーンハイド(aa0632hero001)も二人に気付き
『アッレ? きっこサン達じゃーん!』
と手をぶんぶん振る。
「……珍しい所で会うな」
「久方振りだな。変わりは……」
『今日のきっこサンも美人さんだね~』
「……あからさまだな」
 レイ(aa0632)に返そうとした所でカールからハートを飛ばされ、喜久子は思わず眉を下げた。その様に微笑を浮かべレイは自慢の声を続ける。
「……久し振り、な気がするのは気の所為ではない、か……幸先の良い偶然、だな」
『あ! どーせなら一緒に行けたら嬉しいかもー!』
「……ふむ、邪魔でなければ……どうだ?」
 断る理由は微塵もなく、そのまま一緒に待つ事にした。のはいいが流石アマゾン、中なのにじんわり暑い。
「それにしても暑い、な。当たり前だが……」
『ん? そいや、暑いカモ! え、暑いとか思ったら余計に暑く……』
『暑い暑いって言ってると余計に暑さが増すから不思議だよねー』
「心頭滅却すれば火も亦た涼し。という事だな」
 レイとアキトの物言いにカールの体感温度が上昇。心頭滅却の詳細を喜久子におねだりし、早速試みた。が。
『だぁぁっ! 暑い暑い暑い暑……』
「煩い、そのふざけた格好だけで暑さは十分だ……黙ってろ」
 手刀を響かせ叫ぶカールにレイは目を瞑って告げた。数分後に訪れる展開を、この時の彼らは知らない。


『ここがパラダイスだと聞いて……!!』
 結羅織(aa0890hero002)は眼前の素敵な光景をガン見した。手に構えるものを見て十影夕(aa0890)は肩を落とす。
「スマホしまえ。パラダイスとかじゃなくてM・A……」
『は! そうでした! M・A様のかわいいマスクにセクシーボディーのコントラスト……目に焼き付けておきましょうねお兄様!』
「ちがう」
 と、結羅織が視線を移動し「ああ!」と声を張り上げた。そして視線の先にいる日暮仙寿(aa4519)へ突撃する。
『せ、仙寿様!! 服着てるじゃないですか!! 今日はグッドルッキングガイズのワイルドパーリーなんですよ!?』
「誰があんなパンツ履くか! 断固拒否だ!」
 鬼気迫る結羅織に仙寿は心もち仰け反った。M・Aへの筋肉賞賛姿に既に若干引き気味だが、標的が自分に迫り中。ここで引かずいつ引けと。恥ずかしいから変な事はしないで欲しいと願う夕は、イケメンの裸が見たい結羅織の無体を即行詫びる。
「ほんとごめん……もー、ユエは黙ってて!」
「お互い英雄で苦労するな……あれが女子力ってやつか?」
 仙寿の親近感滲む呟きは英雄達には届かなかった。不知火あけび(aa4519hero001)は箱を眺め、ふうと小さく息を吐く。
『涼しそうではあるけどね……あ、でも仙寿様って細身なのに腹筋凄いよ! 道場で稽古してる時に見たから保証する!』
 結羅織の目が光った。夕と仙寿が青ざめた。結羅織は俄然やる気を出し、欲望を原動力にパンツへとダッシュをかける。
『わたくし、代わりに取ってきますわ!』
「はい共鳴! 護衛だから!」
 夕は手早く共鳴し見事相棒を黙らせた。仙寿はブーメランから逃れた事にほっと胸を撫で下ろす。
「すまない。助かった」
「情熱は止められないんだから困っちゃうよね。俺ちょっと話したい人もいるから、じゃーね仙寿」
 気なしに近付いた仙寿の腹をさらっとくすぐり夕は去った。夕は結羅織と共鳴すると、性格や思考が引っ張られてしまうのだ。後に夕がどんな反応をするかここでは割愛する事にする。

『どう、ねぇ、どう? オレの恰好! ホントはM・Aのマスクとか羽根とか欲しーケド、仕方ないよねー』 
 ドヤ顔でブーメラン満喫中のカールに反し、レイは熱帯ジャングル仕様プラスラッシュガードで渋面していた。
「……良いから黙れ。鳥はお前のアタマだけで十分だ」
「服は普通……否、アマゾンで安全に行動出来る服装が好ましい。肌の露出は危険だ」
『そう考えるのも一理あるねー俺もアマゾン仕様の普通服で……って、カールさん張り切り過ぎー!!』
 レイと共に断った喜久子は疲れた顔を見せ、アキトはドヤ顔を決めまくるカールがツボに入ったらしい。ポーズまで決めるカールの姿に喜久子はわずかに遠い目をした。
「見ているこっちが何と言うか……本人が良ければ、良いのだろう。うん。多分」

 虎噛 千颯(aa0123)はターザンになっていた。ターザンスタイルターザンごっこのターザンになっていた。
「いやー、これがインカ支部の制服なら仕方ないんだぜ~郷に入れば郷に従えっていうんだぜ~」
 仕方ないと嘯きつつ誇らしげに胸を張る。その姿に仕方なさなどこれっぽっちも感じない。
 そう、千颯は率先してターザンになっていた。何故ターザンになるのか。そこに服があるからさ。
「そう……これは公然とフルオープンパージしてもいいという事なんだぜ!」
『たんざんというものが制服ならばそれは多めに見るでござるが何故全部脱ごうとするでござる!』
 白虎丸(aa0123hero001)のツッコミに千颯は指を数回振った。今まさにパンツも蔓もフルパージ寸前で。
「M・Aちゃんは護衛しますよ? うん。でも大自然は時に人を開放的にするんだぜ……これは逆らえない自然の摂理。いつフルオープンパージするの? 今でしょ!! というわけであーあぁあー!!」
 ターザンは森へと飛んだ。彼の名は虎噛千颯。隙あらばパージを試みるのは使命にして宿命である。
  

「ほらドクター、仕事だ。とりあえずその飯盒持っておいてくれ。ライヴスを少し流しておいてくれるだけでいい」
 クレア・マクミラン(aa1631)から自衛隊四型飯盒を渡されリリアン・レッドフォード(aa1631hero001)は首を傾げた。ライヴスを流すと調理も出来る優れもの。
『何入ってるの、これ?』
「大切な昼食だ。期待してくれていい」
 
「アマゾン……ッ! 世界最大の熱帯雨林! 独特の生態系! 一度ゆっくり来たかったんだ~、どんな生き物に会えるかな」
 八角 日和(aa5378)は尻尾をふりふりアマゾンを見渡した。憧れの土地を歩けると聞きうきうきで参加した。ただしパンツは遠慮した。
「この目で見られるなんて夢みたいだよ……! カメラもばっちり充電したし、生き物いっぱい撮れたらいいな!」
『……暑い』
 一方ウォセ(aa5378hero001)は舌を出しぐったりと歩いていた。暑くて仕方ないし、早く帰りたいが、一応任務だし日和はやる気満々だ。
「共鳴してれば噛まれたりしても平気だもんね、タランチュラでもヤドクガエルでもオオアナコンダでも大歓迎! いや普通に可愛い生き物でも全然いいんだけど。
 と、皆と離れないよう気を付けないと。あっ、でもあそこの木に珍しい鳥が……!」
 勿論触ったりはせず、近くで見たり動画や写真を撮るだけだが、それでもやりたい事は目白押し。そわそわする日和の傍で、ウォセは違うどこかをちらちらと眺めていた。
 
「……極彩色、と言うヤツはまさにコレ、だな」
『こっちのはでっけー! なぁ、アキト……コレ凄くない?』
 レイはクールに、カールは興味津々にアマゾン探索を楽しんでいた。沢山の種類、見た事も無い植物に動物、そして艶やかな色の虫。片手程もある蝶にアキトと共に視線を合わせる。
『あ、見て見てきっこさん! あの虫、凄い綺麗な色してるよっ!』
「ん? 綺麗な色か。見て見た……くないわよー! 虫よ! アキちゃんそれ、虫だからー!!」
 喜久子は絶叫と共にレイの後ろに避難した。蝶が飛び、自分の方に向かってきたので喜久子は再び悲鳴を上げる。
「虫は駄目よ! だって虫だもの! こ、こっち来ないでー!!!!」
『あ、飛んでっちゃったー。綺麗だったのにねー』
「何言ってるのアキちゃん! あれは虫よ! 虫! 虫って言うのはね、こう、何と言うか、何だか分からないモノだものっ!」
『きっこさんは相変わらず虫が駄目なんだねー綺麗なのも居るのに』
「駄目なものは駄目なのー! って、えと……駄目なモノは駄目だ」
『って、きっこサン……ひょっとして虫、ダメなの?』
 滝汗姿で繕う喜久子にカールは目を瞬かせた。レイは喜久子を庇いつつ変わらぬクールさで呟く。
「虫がダメだと何かあるのか……? 人には色々在るだろう。トラウマとか……生理的に受け付けないとか」
『ンでもさー、何もレイに隠れなくてもーきっこサン、オレじゃダメなの?』
「……ま、当然だろうな」
『あ。この花、毒々しくてかっこいいー!』
「……って、聞いてないし」
 しょぼーんとしたのは一瞬で、カールの興味は即座に花々へと移った。アキトも目を惹かれたようでカールと並び観賞する。
『綺麗な植物もいっぱいだねー。カールさんはどれが気に入ったー?』
「図鑑では見るが、本物だとやはり違うモノだな」
 喜久子も花を覗き込むが、虫が怖いのかレイの背から出てこない。レイは近くで見れるようにと少し歩を進めてやった。

『アマゾンの自然って豊かだね。ずっとここで育ったの?』
 会話に励む紫苑(aa4199hero001)を見つつ「緊張感のない依頼だ……」とバルタサール・デル・レイ(aa4199)は思った。バルタサールはシャツ一枚、紫苑は浴衣を着用している。M・A用意の諸々は
『森林の中って虫が多いしさ。枝とか引っ掛けたりしそうだし。長袖の方がいいかなと思って。でも心遣いをありがとう』
と紫苑が丁重に断った。
「出身は別だが、アマゾンに魅せられて腰を落ち着ける事にしたのだ」
『ゾーンブレーカーも出来ちゃうなんて一人で何役こなせるの? インカ支部の能力者って少ないんだっけ?』
「私役しかこなせんぞ! 能力者は多くない。来てくれるなら大歓迎だ!」
『エルエルってM・Aにとっては第二英雄なんだっけ? 第一英雄は?』
「今は全身タイツのはずだ」
 紫苑はM・Aに興味があるらしく、他愛ない会話の中に適宜質問を挟んでいる。バルタサールは紫苑に『警戒よろしく』と言われたので、警戒を行いつつM・Aの表情を観察してみたりしていたが、紫苑を見て
「よくしゃべるな……」
と思ったり、
「紫苑が沼にはまったら楽しそうだが、後で万倍になって復讐が返ってくるな……」
等、どうでもよい事を考えたりしていた。
 紫苑からの質問にM・Aは快活に答えていたが
『敵の犠牲も悼むなんて、優しい心の持ち主なんだね、きみって。きみの夢とか目標、よかったら知りたいな』
という言葉には一瞬沈黙した。だがすぐに言葉を返す。
「私の夢はこの大自然を守る事だ!」
 その返答に紫苑は軽く笑んで返すに留め、別の問いに移行した。
『オウムってオーストラリアの鳥なんじゃなかったっけ。どうしてその被り物を選んだの?』
「これはだな]
「それ、オウムじゃなくてインコだよね!」
 M・Aが答えようとした瞬間、雨宮 葵(aa4783)が切り込んだ。葵はM・Aを見上げ興奮に目を輝かせる。
「きゃー! 憧れのM・A支部長ー!」
『憧れ……?』
 葵の言葉に燐(aa4783hero001)はドン引きした顔を見せた。燐は変態とはなるべく関わりたくないのだが、視線の先には腰ミノと布一枚装備の葵。

「郷に入っては郷に従えっていうしね! 涼しい!」
『……』
「燐も着たら? その黒い服見てるだけで暑いよ?』
「……暑くても、絶対脱がない』

『葵は、変態が好みなの……?』
 先のやり取りも思い出し燐は「うわぁ」って顔をした。対し葵は「え!?」って顔で首を振る。
「違うよ!? インコとしての憧れだよ!? 私はセキセイインコのワイルドブラッドの雨宮葵、そっちの黒いのが英雄の燐! ところでM・A支部長ってベニコンゴウインコだよね!?」
 葵は拳を握り再度M・Aに問い掛けた。インコとしての矜持なのか拳と熱弁を同時に振る。
「鳥の事を分かってない人は小さいとインコ、大きいとオウム、みたいに言うけど、そもそもインコとオウムの違いは冠羽がついてるかどうかだし、むご」
『話長い。うるさい』
「ぷはっ今いいとこなのに! あ、あとその胸毛は地毛? 染めてるの? それとも私みたいにワイルドブラッド? もふもふしてもいい!?」
 きらきらする葵に燐は深く息を吐いたが、次の瞬間、葵の頭がM・Aの胸毛に埋もれていた。ドン引き二度目の燐をよそに、M・Aは言った。
「よくぞ気付いた!」
 要約するとこうである。
 これまで逢った子供達が皆「オウム」と呼んでくるので、アグレッシブも流石に勝てずオウムで通す事にした。なお胸毛は地毛でありワイルドブラッド成分でもある。
 葵は胸毛から顔を上げ、そこでM・Aと話したそうな面々に気が付いた。もしかしたら聞かれたくない話があるのかもしれない。
 葵は紫苑と目配せし「敵を蹴散らしておくね」と傍を離れる事にした。支部長に隠し事があるのは感じているし、仲間が真面目な話をする時は邪魔が入らないようにしたい。皆色んな事があったと思う。仲間が納得出来る答えが得られるよう協力したい。
 そうしてさりげなく場を譲り、まずは仙寿とあけびが立った。あけびはエルエルに抱き着いてもふもふを堪能する。
『無事で良かったよー! 元気だった?』
「はい! あけびさんもお元気そうで」
 仙寿はアマゾン流仲直りを思い出しさりげなく距離を取った。その上でM・Aへ質問を投げ掛ける。
「……トールは『数年前、あの鸚鵡野郎共に負けた』って言ってた。その時あいつは愚神に、部下は望んで従魔になった。
 さっきお前が言った『二度』も悲劇を防ぐ事が出来なかったってのは、数年前のラグナロクとの戦争か? それとも違う戦いか? 一体何があった?」
 雷神の過去も『最初の』悲劇も知りたいと仙寿は打って出た。M・Aは声を低め、心から済まなそうに言う。
「ラグナロクの詳細は残念だが私も知らない。『二度』の意味は違う件だ。以前ギアナ支部で事故が起こった事がある」
「事故?」
「長くなるのでその話はまたでいいかな? 折角聞いてくれたのに申し訳ない限りだが」
 約束してくれるならと仙寿は下がる事にした。次の質問者はGーYA(aa2289)とまほらま(aa2289hero001)。以前携わった蛙依頼を思い出す。
「以前支部に依頼で来た事があるんですよ、あの時もう森の異常が始まっていたんですね。
 ラグナロクが愚神に侵された経緯をどう推察しますか。終わった……んですよね、アウタナは破壊されバルドル達も……でも、何かこう、釈然としない不安が残ってて。アウタナは従魔達のみならず、リンカーの血も吸収して成長していた様です。この根、地下深くで生きてるとか、休眠してるとかの可能性はありませんよね」
「君の懸念はもっともだ。アウタナのデータを使って探索機を作成し、万一があれば早急に駆除しよう。
 だが私も釈然としないものはある。戦いは完全に終わったとは言えぬだろうな」
「すいませんがもう少しだけ。東嵐にて小泉さんに成り代わった愚神が倒された時、呆気なさを感じました。その時裏に居た暗躍者は愚神商人。今回は多数の愚神が協力者として表に出ていますが、その意味はなんでしょうか。 
 それと英雄の真実について、H.O.P.E.は正式な発表はしないのでしょうか。確認が取れない等で濁すなら、エージェントや一般人の不安を煽る原因にもなる」
 何故この時期に知らせて来たかという疑問やH.O.P.E.の今後の推察を、ダメ元でぶつけてみる。自分を見上げる若者にM・Aは首を振った。
「君の疑問は私も疑問だ。だがH.O.P.E.は、ジャスティンはこの世界を守る事を考えている。それは信じてくれると嬉しい」
 納得した訳ではないが、「言いたい事は理解した」という意味でジーヤは頷いた。まほらまが後を続ける。
『お茶会でジーヤが保留にしたのはねぇ、行方不明というフラグは敵に拉致された可能性があると考えたからよぉ』
(まぁバルドルに興味を持ったのも事実だろうけれどぉ。世界を変える力、ライヴスに)
「……そうか」
 M・Aはそう返し、ジーヤとまほらまは御代 つくし(aa0657)へ場を譲った。つくしは質問する前にまずは深く頭を下げる。
「この前は、質問に答えて下さりありがとうございました」
「少しは役に立てていたら嬉しいな」
「それで、また質問ですけど……愚神と人は、共存できると思いますか?」
 敵にも被害。M・Aの言葉の真意を知りたいと思った。「二度」の意味は仙寿に告げたものだとして、敵にも被害を出してしまったとも取れる言葉はそのままの意味なのか。
 M・Aは沈黙した。迂闊には答えられないという空気が漂っており、つくしは申し訳なさそうに零す。
「すいません」
「謝るのは私の方だ。力になってやりたいが、すまない」
 つくしは軽くかぶりを振ってM・Aから離れていった。今回ばかりはM・Aも見守る事しか出来なかった。

 一方、つくしはつくしで思う所があるようなので、メグル(aa0657hero001)は折角だとセプスに話し掛けに行った。
『ご挨拶するのは初めてでしょうか。御代つくしの第一英雄のメグルと申します。僕が言える事でもありませんが……暑くありませんか? その恰好』 
『問題ない』
 とりあえず軽く話をと雑談を振ってみたが、返答は一切ない。嫌われたかと思った所でセプスが低く声を落とす。
『貴様の用件はそれなのか』
 雑談はいい、本題を話せ、言外にそう要求された。メグルは少し迷った末、本題を切り出した。
『怪我の多い能力者を止めたい場合、どう伝えるのが的確でしょうか。その……戸丸さんも怪我が多そうだと思いまして』
『好きにさせる。傷付くのはそいつの想い故、それを止めようとした所でどうにかなるものでもあるまい。あいつが何かを失わぬ限り、私は傍で見守るだけだ』
 あとは貴様の問題とばかりにセプスは以降口を閉ざした。メグルは頭を下げてその場を離れ、同じく話が終わったらしいつくしと無言で合流した。
「……色んな事があったよね」
 しばらくしてつくしが口を開いた。今までの事についてゆっくりと会話を始める。
「白刃、東嵐、神月、卓戯、森蝕。他にも、たくさん。大きな戦いだけじゃなくて、いっぱい戦ってきた」
 思い出すように滔々と。メグルの方を見ないまま。
「私ね、戦う度に、『なんでみんなが傷つかなきゃいけないんだろう』って思ってた。私が傷つくのはいいんだ。自分の痛みよりも誰かの痛みの方がつらかった。苦しかった。……その痛みが、私には分からないものだから」
(傷を受けたのは自分では無いから)
「だから……誰も傷つかない世界が欲しかった。誰も傷つかなくて、誰もいなくならなくて……誰も、私を置いていかない世界」
 吐露してようやくメグルを見る。いつも明るく輝く瞳が泣く寸前のように歪む。
「……メグル、私は……そんなに強くないよ。
 それでも、私が誰かの盾になれるならって……戦ってるだけだよ」
『……』
「……あー! 暗い話になっちゃったねー! はぐれちゃいそうだし、行こう、メグル!」
 つくしはいつものような笑顔でメグルへと背を向けた。メグルは黙したままだった。言葉が喉に貼り付いて、何も出てきてくれはしない。
 それでも隣を歩こうとメグルはつくしへ歩を進めた。告げる事は出来なくても、せめて彼女の隣には。

「ゾーンブレーカーも兼任してたとはなあ」
『てっきりジェーンはんが出てくる思うてましたから驚きですわ』
「で、だ。準備万端じゃねえか、シロガネ」
『やー、勧められたら乗らなあかん思いまして』
 百目木 亮(aa1195)の視線を受けシロガネ(aa1195hero002)はキリと顔をキメた。蔓とブーメランパンツ着用。着替えは幻想蝶にIN。
『オヤジはんは着ないんです?』
「着ねえよ」
『これ、共鳴の時どないなってるんでしょ』
「さてなあ……」
 水筒で水分補給しながら目的地へ移動する。亮は同じような以前の任務を思い出した。
「ロシアでも護衛任務についたが、一年近く経つのか。あっという間だねえ」
『あの時は寒い場所で、今度は暑い場所で。忙しいですわ』

『……考え事ですか?』
 セラフィナ(aa0032hero001)の問い掛けに真壁 久朗(aa0032)は顔を上げた。
「ああ。……あの兄妹の事を。世界の全てが否定と暴力ばかりではないと、せめてそれだけでも伝えたかった」
『貴方がそういう風に愚神へ思いを巡らせたのは、初めてですよね』
 言われてふと過去の戦いを思い起こす。長い沈黙を置いてから、今も鮮やかに思い出せるあの激闘を言葉に変える。
「……アンゼルムも幻月もヴァヌシュカも、今までの相手は倒すべき敵だった。そう確信できる相手だった。
 つくしの時もヨネの時も樹の時も。己の力が及ばず身近な存在が傷ついた時、……怖いと思った」
『……』
「それから……今ならわかるが……微かに……“殺してやる”とも。それを自覚した時初めてフレイヤの激情を理解出来たような気がした」
 ずっと抱えていた鬱屈した感情の答え。それに真正面から向き合う。
「だから……奪われたくなければ、殺されたくなければ。奪う覚悟を、殺す覚悟をしなければならない。……今更過ぎる話、かもしれないな。何も考えずに生きてこれた事は、ある意味とても恵まれていたんだろう」
『何もだなんて、そんな事は無いと思いますよ。貴方は貴方なりの蓄積があって此処にいるのですから』
 言われてふと周囲を見れば、見慣れ過ぎた顔ぶれがそこに在る。久朗は苦笑を交えながら相棒へと語り掛ける。
「俺は特別、成長が遅いらしいからな」
『あはは、育ち甲斐があると言えるのではないでしょうか』
「……もし。また倒すべき相手なのか迷う事があっても。見極める。その時は」

「お久しぶりです。大規模作戦のだいぶ前にお会いした以来ですね」
『今日はよろしくお願いしますね』
 クレアとリリアンに声を掛けられ音弥は表情を緩めたが
「……少し、顔つきが変わりましたか?」
というクレアの言葉に、再び影を戻してしまった。
 音弥にも色々あったとクレアは伝え聞いていた。彼が抱え込んできたものをここで下ろせれば、話してくれるならばそれを聞きたい。
 そしてまたもう一歩先に進める後押しになればと、携帯式製氷機の氷を口に放りつつ、自身の話も少しだけしてみる事にした。
「命を救うために奪った命もあった。手遅れで救えなかった命もあった。しかし、救えた命も多くあった。私は救えるかもしれない命のために現場で生きてきました。そして私を信じて、衛生兵と叫ぶ仲間達がいる。だからこそ私は、私達は例え何があろうと、一つの意思の元、迷わず生きていかねばならない」
『万民に平等な救いの手を。例え手遅れであっても、手遅れの方に施さねばならない処置があります。何より、医者は最後の砦ですからね』
「何を自身の掟とするか。これには近道もなく、教範もありません。貴方自身が、貴方自身の経験と向き合い、見つけ出すしかない。しかし焦る必要もない。必ず、然るべき時に見つかるものです。……さて、昼食にでもしましょうか」
 言ってクレアは飯盒を並べた。三層構造を利用して、一つ目の飯盒にはビーフシチュー、ゆで卵、ローストポテトの材料を。二つ目の飯盒には白米、残りの層には焼きリンゴの材料を。
 昼食の気配にジーヤとまほらまも寄ってきて、皆に涼をとかき氷入り大瓶を置いた上で、興味津々リフリジレイトで冷風を送り出す。(なお氷嚢は出来なかった)
「魔法を使う機会があまりないからこういう時こそ」
 葵も持参のスポーツドリンクとゼリーを仲間達へと配った。特に暑そうな仲間にはおでこに貼れる冷たいヤツを。

『いまの生活にはもう慣れた?』
『M・Aとは仲良くできてる? 優しくしてもらえてる?』
『ここの自然が好き?』
『今後もM・Aと一緒にアマゾンを守っていくの? 何かやってみたい事とかある?』
 紫苑はエルエルに対象を移し、適宜質問する形で会話を楽しんでいた。エルエルを気にするウォセに気付き、日和が顔を覗き込む。
「どしたのウォセ、あんまりじろじろ見たら失礼だよ」
『……日和、あの英雄は』
「エルエルさん?」
『もとは狼だったおれのように、元の世界では山猫か何かだったのだろうか』
「……多分違うんじゃないかな」
 日和はふむと首を傾げた。ウォセは話してみたそうだが、失礼をしないか心配で会話を勧める事が出来ない。

「久朗さん、暑くない? かき氷食べる? メロンだよ、俺が好きだから!」
 依頼での親しみや興味がそのまま距離感に出たらしく、夕は半ばぶつかるように久朗達へと話し掛けた。大規模で世話になった【鴉】にかき氷を振る舞いつつ、改めて久朗に視線を合わせる。
「心残りは、まだそこにいる? 俺はいつでも手伝うよ。だからいつでも呼んでね。つくし達も、また焼肉行こうね」
 そのように意を伝え、以前の依頼で印象深かったナイチンゲール(aa4840)へと赴いた。馴れ馴れしいと警戒されるかも、等という発想はない。
「こんにちは。元気だったんだね、よかった。そうだよね」
 ナイチンゲールは黙っていたが、夕は「彼女がここにいる事が一つの答え」と解釈した。満足気な笑みを浮かべ、明るくさらさら言葉を続ける。
「俺ね、きみの答えが知りたかった。助けたかった気持ちは俺にもきっとわかるよ。俺は助けなかったけど、きみは助けようとした。だから、その後どうするんだろうって」
 浮かんでいた絶望や復讐の言葉を消して、あるいは自分がそうありたい願望を告げる。
「生きて欲しかった世界は、いいところにしたいよね」
 その言葉に、ナイチンゲールは黙って耳を傾けていた。

 音弥が口を開いたのはしばらく経ってからだった。まっすぐな瞳がクレアを見つめる。
「クレア君、さっきはありがとう。僕も君のようにいつか掟を見つけてみせる」
「そうですか。それでは今日は任務に徹しましょうか。 怪我人が出なければそれが一番の戦果ですから」
 音弥が頷いたその時、「あーああー」という声と共に突如ターザンが降ってきた。呆然とする皆の前で白虎丸が声を上げる。
『千颯! 遊んでないでキチンと護衛の任務をするでござる』
「いいか白虎ちゃん。ここは態と遊んでる様に装って敵の油断を誘うというかなり知的な作戦を実行中なんだぜ?」
『なんと! お前が其処まで考えていたとは……してその効果はあったでござるか』
「あぁ……十分にな……めっちゃ楽しいんだぜ!」
『やはり遊んでるだけではござらぬか!』
 千颯はここぞとばかりに全力で遊んでいた。ターザンしながら飛盾に乗れるか実験した。落ちた。蓑からチラリした。存分に自然を満喫した。従魔が襲ってくれば護衛はするつもりだが、その前に野生の瞳が音弥へとロックオン。
「音弥ちゃん! ターザンスタイルはインカ支部の制服だろ! ちゃんと着ないと駄目じゃないか! M・Aちゃんという支部長が率先して着てるのに! さぁ! 早く着替えるんだ!」
 ある事ない事吹き込んでターザン犠牲者を増やすスタイル。そんなパージの申し子にM・Aは言う。
「うむ! いいアグレッシブだ!」
「いえーい! M・Aちゃん! パイアターック!」
 なんかやらないといけない気がして筋肉で挨拶を交わす。と、昼食である事にようやく気付き、野生児は腰蓑からクッキーを取り出した。
「あ、俺ちゃんクッキー持ってるんだぜ~食べる~?」


 アウタナ跡地に到着し、久朗は静かに黙祷を捧げた。あらゆる命に対しての敬意に。そうしてふと回想するように声を洩らす。
「フレイに……惹かれるものが、あったのかもしれない。たった一つのかけがえのない存在を守ろうとした、あいつに。大切なものを守ろうと足掻いていた姿は、どこまでも悲壮で……どこまでも見事な……最後だった」
 だからこそオルリアもいなくなって欲しくなかった。
 生きてあいつの想いを背負ってくれと。
「覚えておく事が苦しいとわかっていても、忘れたくない記憶はある。……そうして、己に課した戒めを足掛かりにして、這い上がるんだ」

 シルミルテ(aa0340hero001)は属性過多族としてM・Aに仄かな敵愾心を抱いていた。
 自分はうさ耳で魔女の子でかわいくて眼帯でソフィスビショップで……あれ? 属性の数負けてない? いやいや属性個々のレベルは負けてない……はず!
 支部長故に攻撃行動を取る訳にはいかないが、うさ耳が本能的行動でシャドウボクシングしゅっしゅっしゅ。
 が、ため息をついた佐倉 樹(aa0340)がうさ耳収穫し、無情にも共鳴までされた。樹はそのままM・Aに問う。
「エネミーは愚神パライソのことを『ブラックボックス』と称していました。ブラックボックスの名はどこから?」
「『未知』という意味だ。敵もそう称していたのはただの偶然だと思うが……」
 本当にそうだろうか。愚神商人と取引した樹だからよぎる疑問。だがそれを確かめる術は今はない。
「それでは今から術式を行う」
 言ってM・Aが身構えた、瞬間、わらわらとイマーゴ程度の従魔が寄り集まってきた。バルタサールが適当にワンパンするとあっさり失せたが、それなりに数は多い。
 葵は燐と共鳴するや、高移動力を活かし先陣へと躍り出た。勝利の高揚によって倒す程にパワーが上がる。
「テンション上がってきたよー! どんどんいこー!」
 囲まれたら怒涛乱舞、道を開くためストレートブロウ。あらゆる状況を想定しアイテムも多数用意している。亮もシロガネと共鳴し、周囲への被害に留意しつつM・Aのカバーに走った。飛盾で攻防同時に行い、群がる複数敵に向けライヴスショットを炸裂させる。
「重圧空間『行くヨー』
 周囲に一言告げてから樹が重圧空間を展開。M・Aは……まぁ平気だろう。皆ワンパンを駆使しまくり、あらかた討伐した所でM・Aの声が響いた。
「術式終わり! 皆、お疲れ様だ!」
 汗を拭いつつ顔を上げると、一点の曇りもない青空が広がっていた。亮は共鳴を解き、グリムローゼ戦死地を見やる。シロガネは亮と第一英雄が戦った場所を見る。
「俺がグリムローゼとやり合ったのは二度だけだ。シロガネ。不謹慎ってのは自覚してるんだが、もうちっとだけ、お前さんとの共鳴でグリムローゼとやり合いてえって気持ちもあった。……あの一撃、忘れねえよ、姉ちゃん」
 グリムローゼに討たれた者達の最後の戦場の方も向く。グリムローゼ討伐の旨を戦死者に報告するように呟き、黙祷を捧げる。
「仇はとった。……すまなかった」

「M・A……現地の歌……それも鎮魂や平和な歌が知りたい。良かったら教えてくれないか。俺達に」
 レイの言葉にアキトが気付き、二人の元へと寄ってきた。歌うのも聞くのも好きなアキトが興味深げに目を輝かせる。
『現地の歌かー。俺も知りたいな。ねぇ、レイさんは如何して歌が好きなの?』
「そうだな……全ての魂……その声、その鼓動、その情景、全てが一つになる瞬間を作る、からかも、な……。この場に相応しい歌を……今だからこそ、この地だからこそ……歌わないか、一緒に」
 断る理由は当然なく、覚えたばかりの歌を二人揃って響かせる。喜久子とカールは目を瞑る。
「二人の歌は心の何処かに良く響くな。不思議なモノだ」
『……そだね。何処までも、遠く』

 ジーヤはアウタナの欠片を探したが、全部消滅したらしく一欠片も見つからなかった。記録をつけ、バルドル達への追悼を捧げ、まほらまと共にエルエルへ話し掛ける。
『ジーヤはねぇ、ずっとエルエルに会いたがってたのよぉ』
「それはまほらまもだろ!?」
『エルエルはん、でいいです? エルエルはんは自然の力を操る英雄聞きましたけど、どないな事が出来るんでしょ? 今まで見た事ない力て聞いてわくわくしてるんですー』
 その輪にシロガネも加わって三人でエルエルを覗き込む。エルエルは少しはにかんで三人を見つめ返す。
「水や火等を操れます。それで戦う事も……いつかお役に立てたら、嬉しいです」
 先程紫苑にも語ったが、この自然を守っていく、それがエルエルの願い。「復興に協力する」とのジーヤの言葉に、エルエルは笑顔で頷いた。

「アウタナの跡地って何にもなくなっちゃってるんだね。ここにもまた植物が生えて、生き物が暮らすようになればいい……きっとなるよね」
 日和は地面を指で撫でて呟いた。仙寿は【理想郷】隊長のジーヤに「お疲れ様」と声を掛け、森蝕と名付けられた戦いに想いを馳せる。
 最初はフレイを気にしてアマゾン調査に行く小夜の、ナイチンゲールの手伝いだけのつもりだった。気付けば自分達にとっても大事な戦いになっていた。
 皆がいたから戦えた。
 “本物の光”と認められた。
 リンクバーストしたのはあの時が初めてで。
(あけびの師匠の姿じゃなくて……俺の姿だったな)
 リンク状態を限界まで引き上げると自分に戻るとその時知った。
 あけびとの絆が深まってる気がして内心嬉しかった。
 雷神の想いを背負い、これからも正義で在り続けなければならないとも思った。
『仙寿様がその気持ちを忘れなければ……“誰かを救う刃であれ”っていう私達の誓いを守るなら、ずっとそう在れるよ』
「……そうか。そうだな」
 守りたいものを守るのが俺達の正義。その事を胸に刻み、仙寿はナイチンゲールに近付いた。
 彼女の心情を考えると掛ける言葉に悩んでしまう。だが責任感が強すぎるのも問題だ。何時か彼女自身が押し潰されるかもしれない。
『小夜、色々考えちゃうのは分かるけど……あまり思いつめないで』
「気負い過ぎるなよ。俺達は俺達に出来る事を一つずつやっていくしか無いんだ」
 何か必要な事があれば協力すると、仙寿達は約束する。対しナイチンゲールは正面から二人を見つめた。
「……じゃあさ、お願いがあるの。この先あなた達と私は道を違えるかも知れない。
 だけど二人にはずっと“そのまま”でいて欲しいんだ」
 何があっても。
 その真っ直ぐな強さはこの戦いに不可欠だから。
 ナイチンゲールは思う。希望とはあらゆる可能性。幅が狭まり少ないほど絶望に近付く。私は希望を生かす為にこの身を捧ぐ。可能性の死、数多の絶望を背負って。

 忘れない
 彼の眼差しを
 忘れない
 彼女の温もりを
 忘れない
 彼らの絶望が齎した数多の死を

 “殺しすぎた”?
 そんなの死ぬ理由にはならないよ
 エージェントにだってそういう人は沢山いる
 人間はよくて愚神は駄目? それこそあなた達を虐げた、彼が憎んだこの世界と同じだよ
 ねえ、オルリア……


「楽しかった~! ……じゃなくて。またお手伝いできる事があったら呼んでほしいな。報酬はアマゾンツアーでいいよっ」
『おまえはそれが目的だろう……』
 日和の言にウォセが息を吐いた所で「あの」と声を掛けられた。目を見開くウォセに対し、エルエルは首を傾げる。
「もしかしたらお話したいのかなと思って……私、エルエルと申します。あなたのお名前は?」

 ナイチンゲールは墓場鳥(aa4840hero001)を連れM・Aへと赴いた。ゾーンブレーカーの力をこの目で見ておきたかった。エルエルとも会いたかった。仲間達の声に耳を傾け、そして出した結論を告げる。

 関連報告書と過去の大規模実績から類推するに、愚神の敗北はたぶん“王”の作為
 H.O.P.E.が戦いで負けるとは到底思えないから
 H.O.P.E.が愚神と戦い勝利するのは“王”に都合が良い
 ならば私達は愚神と戦わずに済む方法を今すぐ実行し、殺し合いを最小限に留める努力をするべきだ
 何かよくない事が起こる前に
 ゾーンブレーカーの力やリンクバリアなど愚神の能力を弱める、または破壊するスキルを増幅し、五大支部などから世界規模で展開する仕組みを作れないか
 同じ原理で局所的に愚神を捕らえる事も出来ないか
 香港や四国で結界が確認されてる
 H.O.P.E.にも魔術機関がある
 不可能ではない筈
 弱体化させ被害を減らすと共に殺さず捕縛、引いては保護が叶えば、対話に足る愚神達との無用な殺し合いを避けられる
 可能性が広がる

 人間同士でさえ“共存している”訳じゃない

「会長に伝えてくれない? 私じゃ中々会えないから」
「伝えておこう」
「……そうだ。フレイの本当の名前ってまだ分かってないの? どうしても知りたくて」
「アセビというそうだ。同じ名前の花がある。花言葉は君が調べてみるといい」
 M・Aの言葉にナイチンゲールは目を伏せた。


 樹は映像のコピーを提出し、解散後【鴉】面子を集めて言った。
「私の……自意識過剰だったら良いんだけど、この右目は全て納得尽くで対価としたの。対価の対象を受け取り既にそれを活用している。こちらから持ち掛けた取り引きは成立している。取り引きで得たモノを返せないし返さない。
 だから、私の右目を取り戻そうとはしないで。どうか私を強盗や卑怯者にさせないで」
 樹は仲間達に告げ、出発前に用意した水出し茶を取りに行った。シルミルテは樹を見送りつつ
『あノネ』
と切り出した。
『あノ時のワタシ達には強イ覚悟があッタ』
 自分しか知り得ないがあの時の樹は恐怖で少し震えてもいた。
 二人とも抉られた時に痛く無かった訳がない。
 “目”をとられるというのはそういう事。
『それデモ掴みタいモノがあッタ。覚悟モ恐怖も痛ミモ、そしテ掴み取ッタ結果得タ誇りも全部樹の中にあル。それダけは知ッテおいテ』
 それに、とシルミルテは眼帯に触れつつ思う。自分はきちんとこちらが提示した対価を得ていない。
 「魔女の子」の名を持って断じる、アレは決して呪い足り得ない。あとはまぁ、ワタシ達の努力次第さ。
『サ、お姉ちゃんお薦メノお茶葉ナンだヨ。ミンな一緒に飲モウ?』
 シルミルテはそう言って仲間達に笑顔を向けた。食べていなかったクッキーを、つくしは祈るように握り締めた。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • Sound Holic
    レイaa0632
    人間|20才|男性|回避
  • 本領発揮
    カール シェーンハイドaa0632hero001
    英雄|23才|男性|ジャ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    結羅織aa0890hero002
    英雄|15才|女性|バト
  • HOPE情報部所属
    百目木 亮aa1195
    機械|50才|男性|防御
  • Adjudicator
    シロガネaa1195hero002
    英雄|20才|男性|ブレ
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • ドクターノーブル
    リリアン・レッドフォードaa1631hero001
    英雄|29才|女性|バト
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • エージェント
    美咲 喜久子aa4759
    人間|22才|女性|生命
  • エージェント
    アキトaa4759hero001
    英雄|20才|男性|バト
  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 広い空へと羽ばたいて
    aa4783hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 切々と
    八角 日和aa5378
    獣人|13才|女性|回避
  • 懇々と
    ウォセaa5378hero001
    英雄|20才|男性|ドレ
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