本部

澪河神社例大祭

影絵 企我

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
24人 / 0~25人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/07/03 15:05

掲示板

オープニング

「改めて青藍。お前は何という事をしてくれたのだ!」
「だ・か・ら・ぁ、仕方ないじゃん! 生きるか死ぬかだったんだから!」
 神社の祭壇の上に置かれた天津風を前に澪河将臣と澪河青藍は言い争いを繰り広げる。それも当然、澪河神社に祀られていた御神刀、天津風の刃がバラバラに砕けている。先の戦いで青藍がこの刃の秘められたる力を発揮した結果、刃がぶっ飛んでしまったのだ。狗頭の男――将臣の英雄は溜め息をつく。
『だが不幸中の幸いだったな。こんなになってもこの刀は直るのか』
「うん。こっちで調査したけど、少しずつ破片を吸収して元の形に戻ろうとしてるみたいよ。完全に直るまでは年単位で時間かかるだろうけどね……」
 悪戯っぽい笑みを浮かべ、仁科恭佳は姉貴分である青藍を見遣る。この前もアメリカの大地で二人の少女の頭のネジを飛ばし、少女二人を全裸にした罪で青藍からは拳骨一発貰っていた。いつもお仕置きされっぱなしなだけに、姉貴が怒られているのを見るのは気分が良い。
「全く! もうすぐ例大祭があるというのに! これでは神事がままならん!」
「はい、その点については返す言葉もございません」
 速やかに青藍は正座し頭を垂れる。彼女とて神主の娘、胸が痛い。
「反省しているならな、今年の例大祭もお前は最前線で働くんだぞ」
「わかりました。今年については精一杯やらせていただきます」
『仕事とは……要するに看板娘という事ですか』
 ウォルターは苦笑する。将臣は深々と頷く。
「そうだ。中身こそ小姑のようだが、黙っていれば清楚な美少女。こいつの顔を一目見ようとわざわざよそからやってくる男も多いのだ」
「いつか神様怒るからな畜生……」
「神が怒る事はないだろう。何故ならお前は彼氏がいた例がないからな」
「セクハラだからなそれ……はいはい。わかりましたよ……」
 ぎりぎり歯を鳴らして睨みつけるが、刀という負い目がある以上反駁は出来ない。青藍は肩を落とし、小さく頷くのだった。

――数日後――

 祭りの始まりを前にして、神社の参道に屋台が並んでいる。地元の人々(+青藍目当ての客)が集まるだけの小さな祭り、その規模はこじんまりしている。――今回はそれに加えてH.O.P.Eの本部にも宣伝ポスターを張ってきたため、エージェント達も少し来るはずだったが。巫女服姿の青藍は屋台の進む準備を見つめて仁王立ちしていた。
「……よし。今年も戦いが始まる。頬っぺたが攣るぞ青藍。覚悟しとけよ」
 ぼそぼそと青藍は呟く。クール(フール?)と言えば聞こえはいいが、基本オタク気質で表情に乏しい彼女は愛想を振りまくだけでも大変なのだ。目を閉じて深呼吸する彼女。そんな彼女の胸に、いきなり手のひらが当てられる。恭佳だ。
「何してんだてめぇ」
「いやぁ。相変わらず巫女服着ると誤魔化し利かないなぁって」
「おう40秒で支度しな。殺してやるから」
 恭佳の額を掴み、青藍はにっこりと笑う。既に微笑みを絶やさぬ戦いは始まっているのだ。
「相変わらずコンプレックスなんだから。貧乳はステータスと認めたまえよ。楽になれるぞ」
「酒注文して毎回年齢確認される身になってみろ。嫌でもわかるぞ」
『そうやって妹と張り合ってばかりなのも子供扱いされる原因だね。淑女なら淑女らしい余裕を持たないと』
 白衣をエプロンに変えたウォルターがやってくる。青藍は頬を膨らせ、ウォルターにジト目を向ける。
「へいへい。言われるまでもありゃしませんよ。ウォルターさんこそ準備は大丈夫なんですか」
『ああ。ちょっと記憶が曖昧だったけど……やはりこの手の事は体が覚えているものだね』
 しみじみと呟くウォルターにも青藍は容赦ない。屋台の前に並べられたスコーンを見遣って彼女は呟く。
「言っときますけどジンジャー味は売れないですからね」
『うむむ……美味しいんですけどね……』
「味覚が違うの! ……それから恭佳。くじはちゃんとお遊び程度にしてるんだろうな」
「してるって。(賞品はグロリア社から貰ったジャンクだけど……)」
「何か言った?」
「言ってない!」
『お疲れ様です、青藍さん。素敵なお召し物ですね』
 澪河ファミリーの癒し、ヴィヴィアンがやってきた。今日の彼女のファッションは森ガール風味、ゆったりとしたフリル付きのワンピースが似合っている。ようやく飛んできたまともな誉め言葉に、青藍はにんまりする。
「えへへ。そいつはどうも。お店の準備は出来ましたか?」
『はい。もう本棚には収まらないので、全部捌ければいいのですが……』
「売れますよ。私が保証します。(うちの売り上げが減るかも……)」
『どうしましたか? 顔色がよろしくないようですけど』
「いいえ。……じゃあ、もうすぐ例大祭が始まるぞ。一日立ちっぱなしだ。リンカー達もおもてなししなければならない。覚悟はいいな」
 青藍は頬を引き締め三人を見渡す。三人は力強く頷いた。

「行くぞ! ファイト!」

解説

メイン 澪河神社の例大祭を楽しむ

出来る事……()内はPL情報

御神籤or御守り受領……青藍
 社務所で巫女服姿の青藍が番をしている。エージェントの為の戦勝祈願御守りと御神籤を用意している。普通の御守りもある。(全部500G。御神籤の内容はプレイングで指定可能)

スコーン屋……ウォルター
 楽しそうにスコーンを売っているウォルター。お菓子作りの腕前は確かな様子。だが味付けはエゲレス人向けのため……?(300G。シュガー、チョコ味は美味。ただしジンジャー味は日本人にとって最悪)

三角くじ屋……恭佳
 含みのある顔でくじを売っている恭佳。青藍が目を光らせているためどうしようもないアイテムしか用意していないのだが。(1000G。貰えるアイテムはEランク内で指定出来る)

古本屋……ヴィヴィアン
 古本を売っているヴィヴィアン。人間観察の方便らしく、あんまり売り上げは気にしていない様子。(500G。岩〇になっているような本が買える)

その他食べ物屋
 焼きそばなりラムネなりかき氷なりその他もろもろ。(値段は適当に決めます。食べたいもの書いてください)

遊び屋
 射的、輪投げ、ヨーヨー釣り、金魚すくいの四種類。(値段は適当にry。ただし種類は左で固定)

自分で出店
 10000Gを払うと自分が店を出せる。ちびっこにも安心な出し物じゃないと青藍が怒るので注意。(何を出してもOK。焼きそば屋を出すと焼きそば屋に行くプレイングを出したPCと絡んだりする。その辺は相互で相談してください。収益は1D20×1~30(値段設定により上下)×値段。要するに最大で600人程度来る。)

Tips
 あまり沢山回っても描写しきれません。最大でも二つくらいに的を絞っておくと描写が良くもらえる可能性が高いです。
 過去に青藍が登場した依頼に参加していた場合、社務所に行くと反応する。(恭佳も一応反応する。)

リプレイ

『ねぇ! 見てくださいよ! これなんて辺是さんに似合うんじゃないですか?』
 呉服店の中、不知火あけび(aa4519hero001)は一着の浴衣を取って構築の魔女(aa0281hero001)の前に差し出す。襟元から裾まで念入りに見つめ、魔女は深々と頷く。
『なるほど。確かに似合いそうです。それなら、仙寿さんにはこちらなんてどうでしょう?』
『あーっ! 良さそう! 仙寿様の着てる姿が想像できますもん』


「ふゎ、きれい! そんなにたくさん、どこから出したのですか?」
 紫 征四郎(aa0076)はユエリャン・李(aa0076hero002)の取り出してきた浴衣や飾り物を見つめ、目をきらきらとさせる。ユエリャンは得意げな笑みを浮かべる。
『簪に帯留め……まぁ任せておくがいい。こういう場では相応に美しくするのが、レディの嗜みであるぞ』


 戦国の世も終わらんとする頃、霧に化けて村人を喰う貉が現れた。志那都彦神が下りてこれを討ち、穢れを封じるためこの神社を造営した。その旨が仰々しく刻まれた由緒書を読み終えた氷鏡 六花(aa4969)は、アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)と並んで参道を進む。
『神にとって人の祈りこそ力の源よ。心を込めてしっかり参拝しましょうね』
「ん……境内を使わせて貰う挨拶も、ですね」
 今日という日に意気込む六花は、既にペンギンの着ぐるみに包まっていた。そんな彼女達の姿を、三角巾で頭を包んだユフォアリーヤ(aa0452hero001)がじっと見つめる。
『ん……六花、元気そうで何より……』
「ああ、だが今日はライバルだ。折角の稼ぎ時、負けるつもりはない」
 孤児院ではいつでも腹ペコな家族がたくさん待っている。その食い扶持を稼ぐために、麻生 遊夜(aa0452)は僅かなチャンスも見逃さない。鉢巻を締めて袖をまくる。それをちらりと見て、リーヤはほんの少し不満げに呟く。
『……ボクは、串焼きが良かった……』
 最近のリーヤはお肉欠乏症であった。口を尖らせ、耳をぺたんと垂らしている。遊夜はちらりと目を逸らす。リーヤが味見と称して焼いたそばからぱくりとやりかねないと、彼はまさにその串焼きを選択肢から外していたのだ。遊夜は苦笑いし、リーヤの頭をぽんぽん撫でる。
「わかった。後で買ってやるから、一緒に食おうな」
『……ん!』
 リーヤはあどけない顔にぱっと笑みを浮かべ、遊夜にしがみつく。それが可愛くて仕方ない。優しくその頭を撫でると、そっと彼女を離してその手に刷毛を握った。
「じゃあ準備に取り掛かるぞ。気合を入れろリーヤ!」
『……おー』
 尻尾をふりふり、リーヤも小さく拳を上げる。女性大好きウィンター ニックス(aa1482hero002)、彼女のぴこぴこする犬耳に釘付けだ。唐黍を焼き始めた齶田 米衛門(aa1482)はそんな相棒に気付かない。
「ッし! いっぺ食ってもらえっと良いッスな……へば、頼んだで兄さん。兄さん?」
『む? ……うむ、女性から話しかけて頂けるとは、中々に新鮮だからな!』
 誤魔化すようにニックスは米衛門と拳を突き合わせる。唐黍の皮を剥きながら、真壁 久朗(aa0032)は呆れ気味に釘を刺した。
「ウィンター、ちゃんと皆に声掛けするんだぞ」
『わかっているさ。お姉様からお嬢さんまで某は逃さんとも』
「そういう事じゃないんだが」
『いいじゃないですか。久々のお祭りですよ! 夏を先取りした感じで今からわくわくします!』
 セラフィナ(aa0032hero001)はにこにこの笑みを久朗に向ける。彼もまたうっすら微笑むと、相棒の頭をそっと撫でた。
「たまには、こういうのもな」


 かくして着々と時は進み、祭りは始まりの時を迎えた。貉退治の儀式を模した子供達の行列が、住宅街を練り歩く。手に持つ杖の鈴が、しゃらりしゃらりと音を立てる。風景に融ける地味な出で立ちの月鏡 由利菜(aa0873)は、遠巻きにそんな行列を見つめていた。浜松まつりの規模とは比べ物にならないが、感傷を惹起するには十分だ。
「(静岡、私の故郷。もう二度と来ることはないと思っていましたが……)」

「ご自由に選んでください」
青藍は御神籤の詰まった箱をウィリディス(aa0873hero002)に差し出す。箱に手を突っ込みながら、リディスは青藍に向かって微笑んだ。
『セイランさんだよね? 前からお話ししたかったんだ』
「月鏡さんには妹が迷惑をおかけしました。……と、そういえば月鏡さんは?」
『ユリナはお祭りに来れないって。スマホも繋がんない……』
 リディスの言葉に、青藍は表情を曇らせる。
「どうしたんでしょう?」
『後で探してみるよ……よし、これにする』
 ようやくリディスは一枚抜き取った。表に刻まれた“御神籤”の三文字を、彼女はまじまじと見つめる。
『静岡の神社って、何だか懐かしい気分』
 その呟きに青藍は首を傾げる。リディスはくるりと背を向けて、空を見上げながら続けた。
『ユリナの死んだお友達が、あたしに似てるらしくて……彼女も社の出身だったんだって』
「社の……?」
 青藍はふと真顔になり、リディスの背中をじっと見つめるのだった。

 鳥居の前に立ち、木霊・C・リュカ(aa0068)と凛道(aa0068hero002)は屋台の列を見上げた。既に母親や幼い子供達が集まり、人だかりが出来始めている。
『成程、外国の祭りとはまた違う趣がありますね』
「独特だと思うねえ。神社によっても様々だし」
「リュカ! リンドウ!」
 征四郎は声を張り上げ、袖を揺らして駆け寄っていく。リュカの前に立って、彼女はくるりと一回転。蝶が紅の中でひらりと舞った。屈んだリュカは袖を目元に引き寄せ、朗らかに微笑む。
「うん。今日は一段と鮮やかなお召し物だね」
「ユエリャンがきれいにしてくれました!」
『ユエさん、凄い派手ですね! 何があってもはぐれなさそうで安心します』
 凛道よ、それは誉め言葉なのか。しかしユエリャンはご満悦、凛道に手を差し伸べた。
『エスコートは頼んだであるぞ』
 繋がれる二人の手。征四郎はリュカをじっと見上げる。
「リュカ、征四郎も手を繋いで良いですか?」
「もちろん」

 四人が連れ立って参道を登っていく中、鳥居の前には新たに二つの集まりが出来る。
『こんばんは、仙寿さんにあけびさん』
『わぁ、やっぱり似合ってますね! 魔女さんには薔薇のイメージがあったんですよ!』
 薔薇の模様が美しい浴衣を着た魔女を眺め、あけびは頬を綻ばせる。
『そうかしら? ちょっと照れますけどありがとうね。仙寿さん、その浴衣どうでした?』
 日暮仙寿(aa4519)は魔女に笑みを見せた。その浴衣の裾には繊月と雲が浮かんでいる。
「ああ。裾の模様が気に入ったよ。落児の浴衣も様になってるな」
『ああいうのを粋って言うんだよ!』
「選んだ自分が言うなよ」
 はしゃぐあけびに仙寿は意地悪な目を向ける。しかし辺是 落児(aa0281)は嬉しそうだ。
「……ロー」
『ありがとう、との事ですよ』
『良かった! ねぇ仙寿様、私はどうかな? 似合う?』
 あけびは大きな向日葵と小さな星に彩られた浴衣を仙寿に見せつける。誰から見ても似合っているが、仙寿は素直にそう言えず口ごもった。普段とは違う雰囲気に、思わず心が浮ついてしまう。
 それを悟られたくなくて、ついごまかす。
「……魔女のセンスがいいからな」
『なに、それー!』
 あけびが抗議する横で、とあるスサノオを囲む三人のハーレムが出来上がった。
「央!」
『ひさし』
「うわわっ」
 氷月(aa3661)とジーヴル(aa3661hero002)は迫間 央(aa1445)に会うなりべったりと纏わりついた。氷月は央の右腕に、ジーヴルは背中に。二人の抱きつき攻撃は、数多の一撃を躱しまくった央にも躱す事が出来ない。
「元気そうで良かったよ、氷月、ジーヴル」
「夏、食べ物、央……楽しみたいな」
 単語の羅列がどこかおかしい。とにかく氷月達は央とのデートにうきうきのようだ。
『……こんにちは』
 幻想蝶から、まるで古典古代の踊り子のような出で立ちをしたマイヤ サーア(aa1445hero001)が現れる。当然、彼女は央の左腕に陣取った。両手に花どころか背中にもくっつけて、央はどうしようもなく苦笑する。
「うーん……ちょっと歩きにくいな……」
 しかしそんなの知った事ではない。涼やかな色香を放つマイヤを見遣り、氷月達はただ首を傾げるだけだ。
「新衣装が必要かな……?」
『かな……?』
「……ちょっと、暑いな。ああ、氷鏡さんのかき氷屋台に行くにはぴったりだ」
 ラノベの主人公も泣いて羨む状態の央。冷静に己の体温を分析しつつ、三人を連れて鳥居をくぐるのだった。

「わぁ、どうしましょう……お祭りって、何すればいいのですかね」
 密度を増していく人込みの中で、卸 蘿蔔(aa0405)は途方に暮れていた。その隣でレオンハルト(aa0405hero001)は呆れたように肩を竦める。
『楽しめばいいんじゃない?』
「楽しむですか。小さい頃はお祭りに行く人たちを遠巻きに見て、私も行きたいとか、皆幸せそうだなと思いを馳せていました。リンカーになってからは出店する側ばかりでしたし、いざお客さんとして参加するとなるとどう楽しめばいいか」
 早口で不安をまくしたてる蘿蔔。
『わ、わかったわかった。大丈夫だから一緒に楽しもう……ほら、あそこに理夢琉さんのお店があるよ』
 レオンハルトは斉加 理夢琉(aa0783)の雑貨屋を指差し、軽く蘿蔔を引っ張っていく。
「いらっしゃいませ、卸さん! 浴衣に合う髪飾りやカチューシャなんていかがですか?」
『いろいろ揃えてあるぞ』
 アリュー(aa0783hero001)は店前に並べた雑貨の数々を二人へ見せる。人込みに惑っておどおどしていた蘿蔔も、手の込んだ飾り物の数々を見ていきなり目を丸くする。
「あ、これ可愛い」
『この浴衣にはこっちの方が似合うんじゃないかな』
 髪飾りを一つ取って呟く蘿蔔に、レオンハルトは別の髪飾りを差し出す。スズシロは手鏡を取り出すと、レオンハルトの取った髪飾りを頭に乗せてみる。
「確かに……どうしましょう。両方買ってもいい?」

「いらっしゃいませ~♪ おいしいトウモロコシがありますよー♪」
 笹山平介(aa0342)はにこやかな表情で参道を行く人々に呼び込みをかける。屈託の無い笑みのお陰か、客が次々に引き寄せられてくる。
「良く冷えたきゅうりもあります♪ いかがでしょうか♪」
「笹山さん、ヨネさん! 焼きトウモロコシ二つくださいッ!」
 御代 つくし(aa0657)がカスカ(aa0657hero002)と共に駆け込んでくる。
「ありがとうございます♪」
「おし、今焼きたてが出来っからな。ちょっと待っとけぇ」
 平介は微笑み、米衛門は金網に乗る唐黍に刷毛で醤油を軽く塗りつける。その隣で久朗は黙々と茄子を焼いている。その手並みをつくしはじっと見つめた。
「真壁さんも焼いてるんですね……!」
『僕も焼いてるんですよ!』
 セラフィナがつくしに向かって手を振るその横で、ウィンターはカウンターに手をついてカスカの方へ軽く身を乗り出す。
『カスカ殿。今日も見目麗しゅう御姿で。逢えて光栄にございます。焼きナスはいかがだろうか? その美しさに貢献できると太鼓判を押せる程には美味いのですが』
『あぅ……そ、その! 皆さんに……差し入れ、だよ』
 大仰な御挨拶に若干たじたじとなりながら、カスカは両手に抱えていたラムネをウィンターに差し出す。
『ああ、感謝いたします。丁度喉が渇いてきたところでして』
「ワシの分も取っといてくれな?」
 つくしがやってきて店が賑やかになった。店の隅に椅子を構えてどっかりと座り、ゼム ロバート(aa0342hero002)はそんな光景をじっと見つめる。いつも通りの仏頂面を見かね、久朗は軽く口を尖らせた。
「おい。お前ももう少しにこやかにしたらどうだ」
『お前が言うな。……ガラじゃないんだよ』
 盛り上がる彼らの空気につられたのか、無音 冬(aa3984)と春(aa3984hero002)まで集まりの中に吸い寄せられてくる。
「……にぎやかだね」
『トウモロコシ、買います……!』
「あ、冬くん! こんにちは!」
「こんにちは……」
 相変わらず無表情な冬だが、纏う雰囲気は少し柔らかい。春が唐黍に食いつく横で、つくしと二、三言葉も交わしていた。平介はそんな様子をしばし見つめていたが、やがてそっとその場を外れる。
「すみません、少しばかり外しますね」
「笹山さん、僕も行く……」
『ちょっと待って! わ、私も行く!』
 冬と春も平介に従おうとする。二人の目的は社務所。ちょっとしたサプライズの為に。……だが。
「どこか行くの? 私達もついて行っていい?」
 つくしの言葉に、二人は顔を見合わせる。これではサプライズの意味が無い。だがここで無碍に追い返しては本末転倒だ。冬はつくしに向き直ると、小さく頷いた。
「うん……いいよ」

「まいどありー。あ、そこの方! ちょっとうちの店見ていきませんか!」
 蘿蔔達を見送りつつ、今度は目の前を通り過ぎた少年少女に声を掛ける。GーYA(aa2289)はその声を聞いて足を止め、まほらま(aa2289hero001)の袖を引く。
「ちょっと見ていかない?」
『ええ。そうしましょうか』
 まほらまは二つ返事、連れ立って店頭に並ぶシュシュやネックレスを見つめる。フリマの女王と言われるだけあって、その手並みはプロにも引けを取らない。
「手作りなんですよ?」
『へぇ……きれいねぇ』
 まほらまはシュシュを一つ手に取る。空色に向日葵模様のシュシュ。これからの夏を思わせる明るい柄が気に入ったのか、中々手放そうとしない。それを横から眺めていたジーヤは、財布を取り出しシュシュを指差す。
「これください」
『あら。いいの?』
「お目が高いですねぇ。それは特に気合を入れて作ったんですよ。あ、もしかして彼女さんだったりするんですか?」
 理夢琉に尋ねられ、ジーヤは一瞬口をつぐむ。頭を掻いたりして少し迷っている。だが、アリューから小さな紙袋を受け取ると、彼ははっきり答えた。
「それよりも大事な存在だよ」
『(あら。……今の間は何かしら)』

 あ、ジーヤにまほらま! 日暮さんに不知火さんじゃないですか、来てたんですね。まあな。ねえ日暮さん、たまには不知火さんにプレゼントなんて買わないんですか? な、何だよ、藪から棒に……

 通りかかった仙寿がその場のノリに押されてアクセサリーを選ばされている。和気藹々とした風景を眺めながら、まほらまは心の中であけびにふと尋ねていた。
『(あけび。前に相談した時、『気にかかるのは大切な人だから』って言ったわね。……大事な存在って、“何”なのかしら。大切な人って)』
 初めて出会った時より、ずっと頼もしくなった横顔。まほらまは無意識のうちに、記憶の奥底にある誰かの横顔と重ね合わせてしまうのだった。
『(元の世界に、私にも大切な人はいたのかしら……)』

 ジーヤ達の一団を見送ると、店は一段落した。アリューは扇子を取り出しながら理夢琉に尋ねる。
『せっかくの祭りなんだから、店なんてやらなくても良かっただろう?』
「ううん! ネットショップの宣伝も兼ねてるんだから頑張らないと! という事でちょっと行ってくるから、偵察!」
 理夢琉はポーチに財布を押し込むと、さっさと店の脇から飛び出してしまう。アリューが止める暇もない。彼は軽く口を尖らせて、店番名人としての仕事に臨むのだった。
『……だから店なんかやらなくてもって言ったんだ』

 その頃、アリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)は澪河神社の前を通りかかっていた。丁度別な依頼で静岡に来ていたのである。
『どうする……アリス?』
「……ちょっと寄って行こうか、Alice」
 時計を見れば、これからの予定までにまだ少しの余裕はある。二人は頷き合うと、早足で参道を駆け登っていった。

「小さいなんて……後ろの森も含めたらかなり大きくないか?」
『平日のお昼なのにいっぱい人がいるのです……』
 アリス達に追い抜かれながら、桜小路 國光(aa4046)はメテオバイザー(aa4046hero001)と共に神社を見渡していた。今日の目的はひとまず一つ。青藍の晴れ姿を見る事だ。しかし人だかりが出来ていてよく見えない。國光は社務所に目を凝らす。
「(本当に巫女さんなんだな、澪河さんは)」
 國光は戦場に立つ青藍の横顔ばかり見てきた。勇ましいがどこか抜けている人、と彼女を見てきた。それがどうだ。社務所の向こうに立ち、巫女服に身を包んだ青藍は清楚さと純真さに溢れた魅力を振りまいている。思わず國光は彼女をじっと見つめてしまう。
「(いや。澪河さんはあんなじゃない。あの子はきっと双子の妹か何か……)」

「キミが澪河青藍さん?」
「直接対面するのは初めてですね。妹から活躍は伺ってます」
青藍は荒木 拓海(aa1049)に向かって静々と頭を下げる。恭佳の言う口喧しい姉貴系には全く見えなかった。むしろ真面目で優しい妹系としか見えない。
「知人からスーツの似合う人と聞いてましたけど、こんな可愛らしい巫女さんだったとは。妹みたいに可愛い巫女さんの知り合いが一人いるんですけど、澪河さんも――」
『ちょっと、拓海』
「いてててて」
慌ててメリッサ インガルズ(aa1049hero001)は拓海の頬をつねる。
『澪河さんって大人よね? それはないわよ……』
リサが耳打ちし、拓海がバツの悪い顔をした時にはもう遅い。青藍の目が若干澱んでいた。
「アー、ソウデスカァ。トリアエズ、用ハ何デスカ……?」
『お、御神籤を……』

「うん、本物だ」
 國光は下唇を噛んで震える。晴れ着姿でも結局青藍は青藍。それを確かめた國光は少しでも目を奪われたのが馬鹿らしくて噴き出しかける。メテオは國光の横顔をじっと窺った。
『どうしたのです?』
「あ、いや……向こうに行くのは後にしよう。今行ったら確実に怒られる……」
 國光がそんな事になっている一方、狒村 緋十郎(aa3678)は一人青藍に対面していた。
「実は今日、俺達の結婚記念日でな。これも何かの縁のような気がする」
「直接会うのは恭佳がクリスマスに馬鹿やった時以来でしたっけ……末永くお幸せに過ごされる事をお祈りいたします」
「かたじけない」
 微笑む青藍を前に、緋十郎は折り目正しく礼をした。本殿前でもきっちり二礼二拍手一礼、ただの変態ではなく信心深い変態なのである。
「そういえば、レミアさんは?」
「ああ――」

――神域は苦手なのよね……吸血鬼の気で穢しても申し訳ないわ。本殿参拝は緋十郎、あなただけで、わたしの分までしっかり参拝してきなさい。

「――との事だ」
『なるほど……どうぞ。夫婦和合の御守です』
「有難く頂戴する」
 
「んと……いらっしゃいませ、です。南極かき氷、みぞれが六花のおすすめ、です」
 氷鏡 六花(aa4969)とアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)の営むかき氷屋は大盛況だった。長い列が出来て、六花はペンギンのフリッパーで器用にかき氷器の取っ手を掴み、ぐるぐると回し続けている。作っても作っても、客の列が途切れない。
『どうぞ。抹茶よ。融けないうちにね』
「……美味しい! うちのお店でも宣伝しますね!」
「どぞ、苺です」
「ありがとうございまーす!」
 理夢琉がかき氷のカップを二つ手に乗せ参道の列に消える。入れ替わるようにやってきた央一行はその行列に思わず息を呑んだ。背伸びしてペンギン六花の活躍を見つめ、マイヤはぽつりと呟く。
『まるでペンギンの行列みたいね……ワタシもペンギン着ればよかったかしら』
「それを見るこっちが暑いよ」
「これじゃかき氷食べられないー……」
『ないー……』
 氷月はリンゴ飴を舐めながら残念そうに呟いた。ジーヴルも央におぶさるようにしながらぼそぼそ言っている。
「よっ! デートか、相変わらず仲良いな」
 そんなところに、拓海とリサがやってくる。二人の手の平にはブルーハワイと練乳苺のかき氷が乗っていた。
「まあね……とりあえず結婚前にもう一度デートしようと思って」
『けっこん?』
 リサは単語の意味を取りかねて鸚鵡返しにする。央は照れ臭そうに、軽く俯いて続ける。
「……実は婚約したんだ。何時とか、届けとかまだ考えてないし、気持ちの面でケジメをつけたぐらいなものだけど」
 央の言葉を聞いて、拓海は目を真ん丸にした。かき氷のカップを思わず取り落としそうになりながら、拓海は興奮した調子で尋ねる。
「ついに決めたか! おめでとう! ……ん? で、どの子と?」
「ははは、実は……三人全員なのだよ」
 不敵に笑い、央は得意げに答えた。マイヤはどこか大胆な笑みを浮かべ、腕にかける手の力を強める。
『その分、央に楽はさせてあげられないけれど』
「ねー」『ねー』
「はへー……」
 氷月もジーヴルもべたべたに央を抱きしめている。お前はアラブの石油王か。……と拓海は思わない。朗らかに笑い、素直に彼を祝福する。
「やるなぁ。羨ましい」
『拓海にそんな甲斐性ないでしょ? おめでとうございます』
「ありがとうございます……」
 拓海にぴしゃりと言いつつ、リサはにこやかに央達へ頭を下げた。氷月は頬を赤らめ、ぺこりと頭を下げる。
「確定なら、祝辞は一人でも多い方が良いよな――」

「……んん、何だこれは。生姜が強過ぎて舌がひりつく……」
『緋十郎には馴染みの無い味付けかもねえ。でもわたしには何だか懐かしいわ……』
 レミアは自分の知るロンドンの景色をおぼろげに思い浮かべながらスコーンをかじる。しかしスコーンと言えばお茶請けだ。それだけ食べていると口が乾く。喉も渇く。
『少し首を貸しなさい』
「む? ……ふはぁっ」
 不意にレミアは緋十郎の首筋に手を伸ばし、ぷっつりとその牙を突き立てる。突然の事に、緋十郎は思わず変な声を上げてぶるりと震える。
「おっと、お熱いところ悪い!」
 そこへ拓海が駆け寄ってきた。口についた血を拭いながら、レミアはくるりと向き直る。
『あら……どうしたのかしら』
「央さんが婚約したんだってさ! すぐそこに居るから狒村も先輩として何か祝いの言葉を掛けてあげてくれないか?」
「迫間が婚約……なるほど。すぐに向かおう」
 二人は拓海の後についていく。そんな彼らとニクノイーサ(aa0476hero001)はすれ違い、ニクノイーサは彼らの姿を目で追いながら呟く。
『拓海に緋十郎……さっきは理夢琉もいたか? 随分エージェントが来てるんだな』
「まあ私達も支部のポスター見て来たしね。聞いた話だけど、巫女さんの一人がH.O.P.E.のエージェントなんだって」
『なるほど。それで東京支部にポスターがあったのか』
「美人だーって噂だったよ」
『へえ……お、リュカに征四郎までいるみたいだな』

「わ、わ! クジ引きしていきたいのです!」
 リュカの袖を引き、征四郎は筒の中でごうごうと風に巻かれている籤を指差し声を弾ませる。百戦錬磨の戦士も、日常に帰ればまだまだ幼い女の子である。リュカもにっと笑い、早速籤屋の前に立つ。
「よし! お兄さんも引こう! 輝かんばかりの運をご覧あれ!」
『グロリア社の懸賞でいつも悔しい思いをしている人の台詞とは思えませんね……?』
「いや、今日こそはいいものが手に入る気がするんだ!」
 えいや、とリュカは籤を筒の中から一枚引き抜く。しかし結果は……
「はーい。ベジミトミンでーす」
「え?」
 パック入りのゼリーを受け取り、リュカは何とも言えない顔になる。
『だから言ったんですよ……』
「せめてにこごりをみならったようなあじつけならば食べられるのですが……ならば! こんどは征四郎が行くのです! ユエリャンも一枚引くのですよ!」
『うむ。そこの色男よりはいいモノを引いて見せよう』
 結果は――
「はーい。レターセットと桜のかんざしでーす。これはいいものですなぁ……」
 恭佳は相変わらず何を考えているのかわからない笑みを浮かべ、征四郎とユエリャンにそれぞれレターセットと簪を差し出す。便箋と簪を彩る桜に、征四郎は目を丸くする。
「おお! きれいなものが当たったのです!」
『うむ。少し付け替えてみるかね?』
「はい!」
 かくして木霊・紫ファミリーがわいわいやっている横に、蘿蔔がやってきた。
「征四郎ちゃん、その簪可愛いのです。似合ってますねぇ」
「スズシロさん! ありがとうなのです。さっきこのクジ屋で当たったものなのですよ!」
「クジ屋……」
 蘿蔔は振り返る。そこには大量の箱を背にし、曰くありげな顔で籤の機械にもたれる恭佳がいた。
「先日はどうも。ちょっとやってきませんか」
『その言い方なんなんだい……?』
「こちらこそお世話になりました。……お誘いに乗りまして、一つ引かせていただきます」
 結果は――
「はい、あつあつおでんです」
「……景品は普通、なのですねぇ」
 加熱剤付きのおでん缶を受け取った蘿蔔は、如何にも残念そうな澱んだ目をそれに向ける。軽く頭を抱え、レオンハルトはぼそりとツッコミを入れる。
『普通かなぁ、それ』
「もっと引きましょう。そしたらきっと変なのが……」
 惜しげも無くクレジットを恭佳に突き出し、筒の中に手を突っ込む。甚平を着込んで悠々と歩く偉丈夫ライガ(aa4573)、そんな蘿蔔の姿を見つけてずかずか近寄ってくる。
「籤か。いいモン当たりそうか?」
『当たらないと思うね……』
「いいえ。私にとってのいいもんってのは違いますから……!」
 卵!
 肩パット!
 メイド服!
ド派手なモヒカン!
「……何ですかコレ……普通じゃないけど面白くない……!」
「ははははは!」
 みょうちきりんなものを腕一杯に抱え込み、蘿蔔は濁りに濁った眼をして呟く。ライガはそんな彼女の様子に爆笑を禁じ得ない。その肩を遠慮なくバシバシと叩き、何度も頷いて見せた。
「ま、しゃーねえしゃーねえ。世の中大体そんなモンだって。当てようと思ったら当たらねえんだよ。物欲センサーつったっけ? ソレだ」
「むむむむ――」
「へぇ。クジ屋か。一回やっていこうかね」
 杏子(aa4344)とテトラ(aa4344hero001)が其処に通りかかった。恭佳にクレジットを渡し、何の気なしに籤を抜き取る。そこに記されていた数字を見た恭佳は、いきなり傍のハンドベルを鳴らしだす。
「大当たりぃっ! どうぞ、この青藍饅頭クッションをお受け取り下さい!」
 恭佳はいきなり大盛り上がりで、段ボールの中からいきなりデフォルメされた青藍の顔が刺繍されたビーズクッションを杏子に差し出す。
「へぇ? これって……向こうにいる子かい?」
「はい。是非とも会っていってくださいよ」
「ふむ……そうしようかねえ」
「……あああっ! そんな! あんなものがあっただなんて……」
 蘿蔔は思わず素っ頓狂な声を上げた。この饅頭クッションこそ蘿蔔が求めていたこの世の異物。ライガは相変わらずへらへらと笑って蘿蔔が肩を落とす様子を眺めていた。
「ま、こういう事もある」
 杏子は手を伸ばし、クッションを受け取ろうとする。しかし刹那、空から真っ逆さまに降ってきた一本の蟇目矢でそのクッションはいきなりぶち抜かれてしまった。ビーズが飛び散り、いつも鷹揚な杏子もさすがに飛び上がる。
「おわぁっ! な、何だいきなり!」
『む……何が起きた……?』
 辺りはちょっとした騒ぎになったが、次が飛んでこないと分かると人々は再び落ち着きを取り戻し始める。突然の事に固まってしまっている蘿蔔の横で、ライガは肩を竦めて落ちを付けるのだった。
「でもってこういう事もな」

ナイチンゲール(aa4840)と墓場鳥(aa4840hero001)は共に本殿を目指していた。つかつかとそのスタイルに似合う大股歩きの墓場鳥に、ナイチンゲールは早足でどうにか追いつこうとしていた。
『まずはこの地の神に挨拶しておいてはどうだ』
「……そうだね。お祈り……“お参り”っていうのかな。あの鈴がついた太いロープを振るの?」
『らしいな。それから“二礼二拍手一礼”とか言う事をやるらしい』
「二礼二拍手一礼……ううん、考えただけでややこしそう。ねえ――」
 英雄の言葉を反復していたナイチンゲールだったが、ふと顔を上げるともう彼女の姿はどこにもない。それが余計距離を引き離すともわからず、ナイチンゲールは足を止めて周囲をきょろきょろと見渡す。
「あれ? 墓場鳥? あれ?」
 すっかり置き去りにされてしまった。
「そ、そんな……どこに行っちゃったの……?」
 泣き出しそうになりながら歩き出す。普通に本堂に行けばいいところを、彼女は澪河将臣が神事を執り行っている庭の方へと向かってしまっていた。

「(あの祭壇に、天津風が祀られているのか)」
 國光は賽銭を収めつつ、ちらりと祭壇の方を見る。何だかんだで青藍と背中合わせに戦う事の多かった彼は、この神社の御神刀に思い入れがある。AGWの影打にも、オーパーツの真打にも大切な場面で助けてもらってきたのだ。
 もしかしたらこれからも。國光は軽く思いを馳せながら、小さく手を合わせる。
「(ありがとうございました)」
『(……なのです)』
 メテオもその隣で、そそくさと真似をするのだった。

『ん……また迷子か。まぁ、この規模だ。滅多なことはあるまい』
 ナイチンゲールは人波のうねりに巻き込まれてしまったが、それにようやく気付いた墓場鳥は何食わぬ顔をしていた。箱に手を突っ込んで、一枚御神籤を引っ張り出す。
――失せ物 直ちに出ずべし
『これはどういう意味だ?』
 御神籤を開いた墓場鳥は、にこやかにしている青藍に差し出し尋ねる。
「失くしたものがすぐに出てくるだろうという意味です」
『そうか。ならば……気の赴くままに探すとしよう』
「はは。ちゃんと見つけてあげてくださいね」
 懐に御神籤を収めると、墓場鳥は再び悠々と歩き出した。入れ替わるように、杏子が社務所の前に乗り出してくる。青藍は再び笑みを浮かべて頭を下げる。
「雪合戦の時以来ですね。お久しぶりです」
「お久しぶりなのはいいんだけど、これについて何か心当たりはないかい?」
 そう言って杏子は真ん中に穴が開いた青藍クッションを突き出してくる。それを見た青藍はいよいよ笑顔が壊れる。
「な、何ですかそれ!」
『クジ屋で当たったのだ』
「ハァ!? あの――ゴホン。す、すみません。でもそれについては心当たりありません」
 本当の事だった。青藍は何もしていない。杏子は訝しむようにじっと彼女の事を見つめていたが、やがて諦め、空いた穴を見つめる。
「やれやれ。繕えばいいか。こいつと来たからちょっと良くない事が起こったのかねぇ? 娘が言うには“宇宙一性質の悪い邪神”とかなんとからしいけど」
『がおー』
 杏子がテトラを手で差すと、テトラは無表情のままふざける。その正体など悟りようもない青藍は、ひたすら苦笑するしかなかった。
「はっはっは……それしきの事では怒りませんよ。どうぞ。一枚お引きください」
「よし……ふむ。中吉か。確かに神様は怒っていないようだね。……じゃあ一体何が……」
 御守りも受け取り、杏子は相変わらず不思議そうな顔をして去っていく。青藍はほっと溜息をつき、ちらりと振り返る。
「狛犬兄さんでしょ。……そこまでしなくていいから」
『青藍に対する不埒な振舞いは許さん。それは私の使命だ』
「……はぁ。そうですかい」
 社務所の隅に佇む狗頭の彼はそう言って頷く。その背後には和弓が隠されていた。
「すいませーん、御守り頂けませんか? 私の知人にも送りたいので、多めに頂きたいんですが……」
「はい、幾つですか?」
 そこへ平介が冬やつくし達を引き連れやってくる。青藍は再び笑顔に戻ると、御守りを数え始めた。青藍色をベースにして、細かい装飾が施されている。綺麗な見た目に、つくしは目を丸くする。
「わぁ……何だか御利益ありそう。じゃあ私も――」
 つくしも財布を取り出すが、そこで平介はそっと冬の背を押す。はっとなった冬は、そっと手を伸ばし、それを制する。そのまま彼は一つの御守りを青藍から受け取ると、つくしに向かって差し出した。
「これは笹山さんと僕から……ってことで」
 つくしはまじまじと御守りを見つめる。冬は相変わらずぽやっとした顔だが、その思いは十分に伝わる。小さな手を伸ばしてそれを受け取ったつくしは、純真さに溢れた笑みで応えた。
「……ありがとうっ!」
『んーん……えっと……』
 それを見ていた春は御守りが欲しくなったが、どうにも気恥ずかしくて言い出せない。無表情とはいえ察しはいい冬、もう一つ欲しいと青藍に手で示す。
「……春にも、ね」
 春はそれを聞き、まるで春の桜のようにぱっと顔を輝かせるのだった。

『あつ……はふっ』
『だから言ったではないか。熱いまま食うと火傷をするからなと……』
 リュカ一行はその頃遊夜のたこ焼き屋の前で彼の焼くたこ焼きに舌鼓を打っていた。凛道は一気に一個口へと放り込んでしまったせいで、口の中でたこ焼きを転がすのが精一杯になっている。
「お祭り屋台の食べ物ってやたら美味しいよねー。ちょっとばかし子供の財布には痛い値段だけどさっ」
 リュカが何の気なしに呟いたその言葉。目ざとくそれを聞きつけた遊夜は、リーヤと共にたこ焼きをくるくると回し続けながら悪戯っぽく笑う。
「何だ? ウチの価格設定に文句あるのか? 見なしでカップル割引二組として適用してやったんだぜ。ありがたいと思えよ?」
「うんうん。ありがとうと思ってるよ。もちろん」
「カップルわり……」
 子どもとは言え、その言葉の意味を理解できないわけではない。何となく気恥ずかしくて征四郎はひたすらたこ焼きに集中するしかなかった。そんな征四郎の心中を知ってか知らずか、ユエリャンはたこ焼きにふっと息を吹きかけながら優雅に食べる。
『良い匂いであるな、征四郎。蛸の外見はあまり好かぬが、これは美味い』
「はい。そうですね……」
 頬を赤くしながらたこ焼きを食べ続ける征四郎。その横顔をそっと見守り、ユエリャンは肩を竦めるのだった。
『(この程度で気もそぞろとは……一人前のレディとなるにはまだまだ先が長いな……)』
「ほら、追加のたこ焼きだ」
『すまんな。留守番中のアイツにも少しは食わせてやらねばならんのだ。ほれ凛道、荷物持ちは頼んだ。我輩は箸より重いものを持てないのでな』
 受け取るなりユエリャンは凛道にたこ焼きを差し出す。嘘か真か分からないその物言いにも、凛道は文句一つ言わず応じる。
『了解です。お持ちいたしましょう』
 凛道がたこ焼きを受け取ると、彼らは再び別な店を目指して歩き出す。まだまだ人は多い。遊夜は満足げににやりと笑うのだった。
「よしよし、やっぱり王道を取って正解だったな……」

「すみませーん、御守りくださーい。あと御神籤も一つ」
「どうぞ。御神籤はこの中からお好きなものを一つ引いてくださいね」
 青藍は朝霞に御守りを一つ差し出し、ついでに隣の箱を指し示す。手を突っ込んであれでもないこれでもないとごそごそやっている朝霞に、ニクノイーサはからかい雑じりに尋ねる。
『ヒーローが神頼みか? 朝霞』
「勝利を掴むためには、使えるモノは神様でも使うのよ!」
「ははは……どうぞ使ってくださいな」
 苦笑する青藍。朝霞はようやく一枚選んで引き抜いた。取り出してみると、そこには“中吉”の文字。ニクノイーサは首を傾げる。
『中吉……っていいのか?』
「うちの御神籤じゃ上から二番目ですね」
「だって! ざっとこんなものよ!」
 朝霞はガッツポーズして得意げにする。その笑顔は溌剌として眩しい。ニクノイーサは肩を竦め、さっさと歩き出そうとする。
『なら目的は達成だな。エージェントのやってる店もあるしちょっと行ってみるか』
「あ、ちょっと待ってよ! 御神籤結んでくるから!」
 朝霞はすたすたと駆けていく。青藍がそれを見送っていると、アリスとAliceがやってきた。青藍は目を丸くした。
「あ……マキナと戦った時の……。まさかいらっしゃるなんて」
 興味ないのか、憶えていないのか。その言葉にはさしたる反応を示さなかった。アリスが青藍にクレジットを渡し、御神籤の箱を指差す。
「わたしとAlice、一枚ずつ」
「良いですよ。この箱の中からお好きなものを」
 じっくりと吟味していた朝霞とは違い、二人のアリスは全く迷わず一番上の御神籤二枚をそれぞれ拾った。小袋の中から御神籤を取り出し、ぱらりと開く。小吉だの末吉だの書いていたが、その文字に興味はない。彼女達にとって御神籤もまた、ある種の賭けのようなものなのだ。
『争事……』
 Aliceは小さく、ぐっと拳を握る。彼女にとっての勝利は、御神籤に望む結果が書いてあること。アリスは首を傾げてAliceに尋ねる。
「どうしたの」
『賭けに、勝った』
 彼女達に神様を信じているかと尋ねるなら、きっと“どちらでも”と応えるだろう。
「何賭けてたの?」
 いるならいるでいいし、いないならいないで構わない。
『内緒』
 いようがいまいが、自分の事は自分でやる、それに変わりないのだし。
「ふうん?」
 アリスは小さく肩を竦めた。鏡合わせの二人でも、内緒の事は分からない。Aliceは財布に神の示した言葉をしまい込み、アリスに尋ねる。
『さて、どこから見て回る?』
「色々あるみたいだし……」
 アリスは御神籤の方角欄を見つめる。彼女は小さく頷き、射的屋を指差した。
「とりあえずあそこ」

「やあ、麻生さん、リーヤちゃん!」
 たこ焼き屋の前に新しい団体がやってくる。拓海達に引き連れられた迫間一行と狒村達だ。氷月にジーヴルにマイヤに……と相変わらずスタイル抜群な一行にぐいぐい絡まれている央に遊夜は何の気なしに声を掛ける。
「お、そこのモテモテな御仁、今なら安くしといてやるぜ。どうだい」
「ああ、特別に安くしてくれよ、麻生さん。央さんは婚約したんだ! ……この三人と!」
『……ん、おめでとう……それじゃ……、……3人?』
 ほのぼのとした笑みを浮かべていたリーヤだったが、言葉が飲み込めるとそのしっぽがぴんと跳ねる。遊夜は自分のものと信じて疑わない彼女にとって、その言葉は理解が及ばない。最近リーヤに陥落させられた遊夜も愕然として頬が固まる。
「そりゃまた……流石だな。これから大変そうだ」
「家族の多さは麻生さん程でもないですから!」
「うむ……」
 そんな問題じゃない。子どもをたくさん抱えるのと奥さんたくさん抱えるのとじゃ訳が違う。未来にどんな修羅場が待っている事か……遊夜は色々考えたが、とりあえず何も言わない事にした。四人が今幸せならとりあえずそれで良しとしておこう。リーヤに合図を送り、遊夜は大きめのパックにたこ焼きを詰められるだけ詰める。
「よしサービスだ。これで300にしてやる」
「ありがとうございます……」
 氷月は横にくっ付いたまま、爪楊枝でたこ焼きをひょいひょい口に放り込んでいく。フードファイターと呼ばれるだけの事はある。ジーヴルも背後から手を伸ばしてたこ焼きをつまんでいた。ひとまずは平穏な光景。緋十郎は腕を組み、いい笑顔をする。
「何度でも言うが、結婚は、良いぞ」
「ああ、そういえばもう1年経つんだな……おめでとう!」
『なるほど。結婚の先輩ってわけね』
 拓海は今日が何の日かに気付き、リサと共に祝福の言葉を投げかける。横で聞いていた央もその事実に気付き、祝いの言葉を返す。
「そういえばそうでしたね! おめでとうございます、1周年」
「祝いの言葉かたじけない。荒木に、迫間さん……!」
 深々と頭を下げる緋十郎。その隣で照れを隠したような小さな笑みで見つめていたレミアは、そのまま照れ隠しにその袖を引っ張る。
『そろそろ行くわよ、緋十郎。ヴィヴィアンのところにも寄るのでしょう?』
「む、そうだな。アレを返さねばならんし……すまん、一旦離脱するぞ」
 緋十郎は彼らに頭を下げ、レミアの後に従いそそくさと歩いていくのだった。

「ハッ、俺様の射的の腕、見せてやるぜ」
 ライガは射的台の前に立ち、自信満々に缶詰へ狙いを定める。放たれた一発はその缶の真ん中を見事に捉えるが、缶は少し揺らいだだけで、結局倒れる様子を見せない。
「おいおい! 後ろに重しとか付けてねえよなぁ?」
「おう、狼のあんちゃん言いがかりはよしてくんな。そんな事したらここの猫かぶりで跳ねっ返りな娘さんにどやされちまうぜ。そもそもが重いだろうよ、それ」
 スジ者じみた外見の男はゆっくりと首を振る。ライガは男の言葉に耳をひくつかせる。
「ん? その娘って社務所の巫女の事か?」
「そうだよ。普段は優しいのに怒ったらもうボコボコよ、ボコボコ」
「はぁ……やっぱ見かけによらねえんだな、女ってのは」
「よらねえよらねえ――」
 男二人が雑談を交わしているうちに、隣でアリスとAliceは二人同時に空気銃へコルク弾を詰める。ポンプを引き、しっかりと銃座を肩に当て、照星の先に高そうなモデルガンの箱を定める。
 次々に放たれるコルク弾。一発が箱を揺るがし、もう一発がそれを追いこみ撃ち落とす。鮮やかな手並みという他に無い。
「はぁ、嬢ちゃん達、それうちの目玉なんだよ……そう簡単に取らないでくれ……」
 アリス達は聞く耳持たず、渡された五発を使って次々に商品を撃ち落としていく。その鮮やかな手並みはプロも顔負けだ。ほとほと弱り果て、男はうなだれるのだった。
「はぁ……次からエージェントの奴は追い返すかな……」
「やれやれ。これじゃあもうどうしようもねえな。次はどこに行くか……」

「すっかりこっちの世界にも馴染めたようだな。何よりだ」
『元気そうね。あの泉から、連れて帰った甲斐があったわ』
『ええ……恭佳にも青藍さんにも良くしてもらっておりますので……』
 陽もすっかり沈もうかという頃、緋十郎とレミアはヴィヴィアンの古本屋を訪れていた。もとはと言えば卓戯のドロップゾーンと共に消えゆこうとしていた彼女を二人が拾い上げたお陰で今の彼女があるのだ。彼女は深々と頭を下げた。
「そういえばこの斧なんだが……」
 そんな彼女に、緋十郎は背負っていた鞄から一つのAGWを取り出す。ハンドアックス。今となっては駆け出しのエージェントも手に取らないようなジャンク品だ。
「やはり持ち主は見つからん。ウォルターさんのように、かつての世界の縁に絡まれる事もあるだろう。その時に何かの助けになるかもしれんし、ヴィヴィアンさん、あなたに返したいのだが……」
 ヴィヴィアンは斧を受け取り、しばらくじっと見つめる。しかし彼女は顔をぐっと顰め、いきなり緋十郎に斧を突き返した。
『すみません。やはり今しばらく預かって頂いて良いですか。然るべき時に受け取らせていただきますので……』
「そうか。仁科さんなら新たな武器に改造してくれるやもしれんとも思ったのだが……」
『だ、だから今はダメなのです。一応青藍さんに御目付を頼まれているので、これ以上数を増やしたら私まで青藍さんに怒られてしまいますから……!』
「ん……?」

 この言葉の真意を緋十郎が知るには、“ロリポップバトラクス”が彼の下に届くのを待たなければならない。

『古本屋か……』
 そこへ墓場鳥が通りかかる。その手には遊夜の店で買ったたこ焼きが。一つ一つ頬張りながら、彼女はヴィヴィアンの前に進み出る。
『すまん、連れと逸れたんだが、眼鏡をかけたブリティッシュは見かけなかったか。茶髪で瞳は青だ。体格は中肉中背と言ったところなんだが』
『はぁ……見かけませんでしたねぇ。お名前は?』
『ナイチンゲールというんだが』
 ヴィヴィアンは小首を傾げると、緋十郎とレミアの方を見る。
『見ておりませんか?』
『いいえ……?』
 揃って二人は首を振る。墓場鳥は溜め息をつくと、棚に並べられていた一冊の古本を手に取った。アンデルセンの“小夜啼鳥”である。
『やれやれ。仕方のない奴だ……これくれないか』
『はい。お代として――』
「ん? アンタか、ナイチンゲールの英雄は。あいつが言ってたのと見た目が同じだ」
 そんな折、ライガがどこからかやってくる。墓場鳥は粗野な外見の彼を一瞥して尋ねる。
『ナイチンゲール? 彼女に会ったのか』
 ライガは頷くと、日も暮れてまさに行列の伸びるかき氷屋の方を親指で差した。
「お前もナイチンゲールって言うのかよ……ややこしいな。ああ、そうだ。かき氷屋でばくばくかき氷食ってるぜ。探させてたらまた迷いそうだったから、そこに留め置いて俺が探してやってるってわけだ。うん、俺って偉い」
『仕方ないな。……案内してもらえないだろうか』
「ああ、いいぜ」

『ほら、食べなきゃ体持たないわよぉ?』
「うん……ありが、あっつぃッ!」
 ジーヤはまほらまにアツアツのたこ焼きを口へ放り込まれる。当然熱い。シュシュを買ってもらったお礼がこれだ。熱くて涙が浮かぶ。そんな二人のやり取りを、魔女は微笑みながら見つめる。
『麻生さんのたこ焼きはいつまでも熱いようですね。その秘訣が気になるところです』
『あのお二人がアツアツだからですよきっと!』
「何言ってるんだよお前……」
 にこにこしながら言うあけびの冗談を、仙寿はつれなく突っ返す。内心ではそれなりに面白いと思っているのだが。つくづく素直になれない奴である。

「六花ちゃんは出す側だったんだね。せっかくだし、抹茶味をくださいな♪」
『……イチゴにするか』
「ん……了解、です……」
 杏子とテトラが六花に注文を掛ける。そんな繁盛した店の中で、墓場鳥はようやくナイチンゲールと再会していた。
「あいたったた……」
『何をしている』
 数杯目のかき氷を食べ、頭痛に苦しんでいるナイチンゲールに墓場鳥は呆れたような顔を向ける。置き去られた英雄、すぐさま何かを言い返そうとしたが、特に何も言えずに俯く。
「だって……」
『すまんな。面倒を見てもらって……あと私にもレモン味をくれ』
「……ん。どうぞ。えと、あなたは……」
 六花に顔色を窺われ、ライガは慌てて首を振る。
「俺ァいい。ちゃらちゃら甘いものは苦手だ」
 杏子達が去ると、今度は入れ替わるように辺是一行が現れる。魔女は相変わらず薄布一枚で野郎の目を集めているアルヴィナを見て、目を丸くした。
『あら……雪合戦の時の……? あの時はありがとね』
『いいえ。こちらこそお世話になったわ』
『やっほー六花、来たよー!』
「店は順調か、二人とも」
 信頼する友人である仙寿とあけびを見て、どこか緊張した雰囲気を残していた六花はぱっとその顔を輝かせる。
「……はい。順調、でした。いっぱい人が来て、少し、大変、でしたけど……皆さん、何を注文しますか?」
「ロー……」
『そうですね。私達はお勧めの物を貰えるかしら?』
「はい。……ん、なら、みぞれですね……」
 六花は微笑みながら透明なシロップを指差す。何の味付けも無い、純粋な砂糖のシロップだ。混ぜ物もないから、南極氷、万年に渡り作り上げられた氷の味が良くわかる。
「じゃあ、俺はブルーハワイで……」
『あたしは抹茶にしておこうかしらねぇ』
『私はイチゴ!』
「俺は……じゃあ最後の一つのレモンにしておくか」
「……ん、わかりました」
 こうして注文を聞いている間に、墓場鳥はかき氷をナイチンゲールと共に食べ終えた。それを見届けたライガは、颯爽と店の外に出る。
「じゃあな。俺はまた何か別なものを見て回るとするぜ」
『ああ。助かったぞ』
 墓場鳥は頷くと、ナイチンゲールと共に外へ出て、懐から多めにクレジットを取り出す。
『世話になったな。少し多めに払わせてもらう。チップのようなものだ』
「……ありがとう、ございます。迷子には、気を付けて、くださいね」
「うん。ありがとう、ございました」

 ナイチンゲールは微笑む。六花に助けられ、見た顔のエージェントも代わる代わるやってきて。お陰で彼女は心細くなかった。何だかんだ、彼女もこのお祭りを楽しんでいたのである。

「うん、美味しい」
『美味しいね』
 米衛門の店の傍で焼きナスを齧るアリス達。
「じゃあ、そろそろ時間だ。行こう、Alice」
『そうだね。行こう』
 二人は駆け出す。これから勝負に向かうのだろう。己の命さえも賭け金に持ち出す、乾坤一擲の大勝負へ。
 そんな彼女達とすれ違い、理夢琉とアリューは参道を歩いていた。持ち込んだ商品は全部捌け、早めにお店を閉めたのである。
「こうしてみると、浴衣似合うね、アリュー」
 長い髪を一つに縛り、赤色を基調にした少々派手な浴衣を着るアリュー。しかし美青年の彼には良く似合っている。いつもと違う雰囲気の彼は、微笑みを理夢琉に向ける。
『そうか? まぁ、お前の見繕った浴衣だしな……似合わないなんてことは無いだろ』
「ふふふー♪」
 急に理夢琉は笑いだす。アリューは首を傾げる。
『なんだ?』
「アクセサリーも、リンカーごっこぬいぐるみも全部売れたし、今日も頑張った御褒美、ほしいな~」
 アリューは理夢琉をじっと見つめる。可愛く浴衣を着こなした彼女。普段通りのはずの笑顔も、いつも以上に愛らしく見える。アリューは小さく頷くと、そっと理夢琉の頭に手を載せる。
『ああ。頑張った頑張った♪』
 撫でられた彼女は、満足げに微笑む。
 その隣では、同じく英雄に向かって満足そうな笑みを浮かべる朝霞が。
「こういうところで食べるのって、なんかおいしく感じるよねっ!」
『そうか。よくわからんが……雰囲気がそうさせるのだろう――』
「あぁーーっ!」
 ニクノイーサの言葉を吹っ飛ばし、朝霞がいきなり叫び出す。愚神か従魔かと、彼は目を剥き周囲を窺う。
『!? どうした朝霞、何かあったか?』
 しかし、朝霞は満面の笑みで彼に半分だけ食べたたこ焼きを見せつける。
「見てよニック! こんなに大きなタコが入ってるよ! ほらっ!」
『それは……良かったな』
 天真爛漫な彼女に苦笑するしかない英雄。朝霞は今日も今日を楽しんでいたのだった。
「うん、感激しちゃった!」

「サクラコさんじゃないですかぁ!」
 國光の顔を見て、青藍はいきなり破顔した。若干凝り固まった笑みを浮かべていた彼女の変わりように、思わず國光は苦笑する。
「ああ、うん。まさかそんなに大喜びされるなんて……御神籤を一つ受けてもいいかな」
「いやぁ、来てくれたら嬉しいなぁ、なんて思ってたんです。こちらから一つお好きなものを取ってください――」

 青藍と幾つかやり取りを交わして、國光はメテオと共に結び場へと向かう。
「御神籤を結ぶってことは、その神社の神様と縁を結ぶことを表すんだ」
『神社との縁? ……なら、私達、あの刀とも縁を結ぶことになるのでしょうか?』
「……そうかもしれないな」
 メテオの言葉を、曖昧に肯定する。あの刀と縁が結ばれるのは、ほんの少し複雑な気分だった。メテオは素直に喜んでいるが。
『心強いのです。澪河さん達と、これからも一緒にいられるのは嬉しいのです……』
「(つまり、またただの任務のつもりが大事に巻き込まれるってことですか、そうですか)」
 國光は心の奥で小さな溜め息をつく。だが、その御神籤は紐にしっかりと結び付ける。
「(まぁ……それでもいいか)」

「ッ……あたまイタイ」
『きれいねぇ……冷たくて美味しい』
 ジーヤ達は庭の隅に集まってかき氷を食べていた。あけびはイチゴ味のかき氷を食べようとするものの、不意に仙寿の手からレモン味をひったくる。
『ごめんなさい! 急にレモン味が食べたくなっちゃった! 交換しよ?』
「交換って! もう取ってるだろ……」
 渋々、といった調子であけびから仙寿はイチゴ味を受け取る。とはいえイチゴは好物。体を気にして注文できなかっただけである。期せずして手に入れたイチゴ味に、内心彼は嬉しくなる。
『……ふふ』
 魔女は表情を変えぬまま、ちらりとあけびに目配せを送る。あけびもウィンクで返す。そんな事には気づかず仙寿はすっかりイチゴ味のかき氷を堪能していた。

「……ロ」
『ですね。本当はこんなところに来ている場合では無かったのですが。すっかり楽しんでしまったようです』
 かき氷を食べ終わる頃、落児はふと眉間に皺を寄せる。魔女も無念を噛み締めた。空元気を出して誤魔化していたが、いざ祭りが終わるとなると、その無念を思い出す。仙寿は肩を竦めると、二人の前で手をひらひらさせる。
「終わってしまった事は仕方ないだろう。今度相まみえた時にどうするかだ」
『そうだよ! そして、まだ私達の希望が潰えたわけじゃないんだしね!』
「……そうだよ。今度こそ、勝つんだ」
『です、ね。ええ、必ず』
「ロロ」
 彼らは屍の国へ思いを馳せる。次こそは彼らに打ち勝つ。失われた命の為に彼岸の祀りを行う。そう決意を新たにするのだった。

『ふふ……変な関係なのに、祝福してくれる人が居てくれたのは央の人徳かしら? 何だかくすぐったかったわね』
「これからもよろしくね」
『よろー』
 祭りも終わりに差し掛かった頃、央達は神社を後にする。仲間達に掛けられた祝いの言葉は、四人の心にしっかりと残っていた。
「はい。責任をもって幸せにしてみせるよ。三人ともね」
 月を見上げて、央は力強い笑みを浮かべる。彼のハーレム奮闘記が、始まろうとしていた。



「お疲れ様でしたー。これ、差し入れです。あとさっきはすいませんでした……」
 夜も十時を回った頃、ようやく祭りは終わった。解放されてぼんやりしている青藍に、拓海は買い集めていた米衛門の唐黍や遊夜のたこ焼きを差し出す。青藍は力なく微笑み、首を振る。
「いえいえ。いつもの事ですし。ありがたく頂きます……」
『これからもよろしくね、澪河さん』
「ええ。こちらこそ」
 拓海とリサは顔を見合わせると、共に頷き合って踵を返した。
『色々な人や色々なものが、変わっていないようで少しずつ変わって行くわね』
 央達の幸せな表情を思い浮かべ、リサはそっと呟く。拓海はふっと頬を緩める。
「めでたい変化なら大歓迎さ」

「本当にしていいのか?」
「いいんですいいんです。うちの神様はそれくらいで怒ったりしないですよ。山中の霧全部吹っ飛ばすくらい派手な事が好きなんですから」
 久朗の問いに、青藍はたこ焼きを頬張りながら何度も頷く。セラフィナは顔を綻ばせ、花火を取り出す。
『では始めましょうか!』
「ちょっと待った! ソレならこいつも使ってください! ぶっちゃけ余ってんですよ!」
 恭佳がそこへ大量の花火セットを持って駆け込んでくる。文字通り山盛りである。それを見た米衛門は目を瞬かせる。
「おやや……こいつはちっと使いきれねえかもしれねえっスな」
『だが有難く受け取るとしよう。御嬢様からの贈り物なのだからな』
 ウィンターはそんな事を言って恭佳から恭しく花火を受け取る。それを見ていた冬はつくし達の方を見る。
「つくしちゃん、一緒にやろうか……?」
「……」
 “この人達と別れなければならないいつか”。彼女を無意識のうちに縛り付けるイメージ。本当は店を手伝いたかったのに、彼女の足を遠ざけた。
 けれど、冬の誘いがその鎖を僅かに緩めた。つくしはにっと白い歯を見せる。
「……はい!」
『ぁ、ぅ、その、好き、ですっ、ぇと、花火……!』
 カスカもつっかえながら必死にアピールする。そんな彼女の腕を、春がつっつく。
『イヴィアがね、カスカの事良く話してくれるけど……本当に良い子なのね~♪』
『良い子……!』
 イヴィアの名前を聞き、カスカの尻尾は無意識のうちにぱたぱたと動いていた。
「あ、その前に……皆さんにこれを」
 平介は懐から御守りの束を取り出す。仲間への思いが込められた、大切な御守りである。

「良いですね、皆さんの表情♪」「ああ……線香花火って、何だか哀しいよね……」「花火も去年以来だな」『ははっ、綺麗ですねー!』「うん、とっても綺麗!」『き、綺麗、です……』「小学生っくらいの頃を思い出すっスねぇ!」『花火に御嬢さんたち……うむ。どちらも美しい……!』『ちょっとゼム。貴方も来なさいよ!』『ガキはガキで楽しんでろ。俺はやらん』「ガキィ!? 誰がガキよ、来なさい!」『お、おい。待て……!』

「花火か……俺達も今度やるかな……」
 社務所の前の階段に座り、遊夜は春達が盛り上がる様子を遠巻きに見つめて呟く。その隣では、たくさんの串焼きを頬張りリーヤが耳をぴくぴくさせていた。
『……ん、美味しい。幸せ』
「そいつは何より」
 リーヤは遊夜にしなだれかかり、遊夜は愛する彼女の頭をそっと撫でる。
「はは……幸せそうで何より」
 モテない青藍、ほんの少しだけやっかみを混ぜつつぼそりと呟くのだった。

「……ん、これ、美味しいですね、ウォルターさん」
『氷鏡さんの作るかき氷も美味しいですよ。歴史の重みが違います』
 六花はスコーンを食べ、ウォルターはかき氷を食べ。三人は社務所の方へと歩いていく。青藍も六花も手が空かず、結局こんな夜中のタイミングになってしまったのである。
『値段とか、よくわからなかったけどたくさん売れて……ウォルターのお陰ね』
『いえいえ。お二人が頑張ったからに過ぎませんよ』
「おお、ウォルターさんに六花ちゃん、お疲れ様です」
 三人に気付いた青藍は、再び力なく微笑む。もう頬に力が入らないのだ。そんな彼女に、六花はみぞれ味のかき氷を差し出す。
「……ん、お疲れさま……です」
「六花ちゃぁん……あんた偉いよ、感動した!」
 青藍は早速かき氷を受け取ると、しゃくしゃくがっつき始める。そして頭痛に襲われる。頭をおさえる彼女を見て、アルヴィナは柔らかく微笑むのだった。
『ふふ……随分と疲れてるようね』
 そんな時、突然青藍の携帯に電話がかかってくる。その名前は――
「リディスさん?」
『うん。……ちょっと森まで来て!』
「ああ、はい。いいですよ……ごめんウォルターさん、大丈夫だろうけど、一応あの人達の事見ておいて」
『む……? ああ、わかったよ』


 澪河神社鎮守の森。その頂上にある小さな祠の前で由利菜は佇んでいた。その背後に近づく二つの影。気配を察した由利菜ははっと振り返る。
「えっ、リディス。……それに、澪河さん?」
『あたしが呼んで、来てもらったの』
「まさかこんなところにいるなんて。水臭いじゃないですか、来て下さればよかったのに」
 青藍は腰に手を当てながらそんな事を言う。由利菜は小さく俯くと、首を振る。
「いいえ。……私は第一従者との誓約以前に顔を合わせた人と、再び会う事が出来ないのです」
 青藍は目を見開く。しかし声は掛けない。由利菜の言葉を、黙って聞いていた。
「私と第一従者の成長により、誓約の影響範囲は狭められるかも知れないのですが……お祭りには間に合いませんでした」
「それでも、リディスさんには来させたんですね」
 うっすらと口元に笑みを浮かべ、青藍はそっと尋ねる。由利菜は肩を落としたまま応えた。
「リディスだけでもお祭りを楽しんで欲しくて。彼女には、私と第一従者の誓約は関係ありませんから」
「なるほど」
 青藍はつかつかと歩み取ると、その肩に手を載せ、由利菜の顔を覗き込む。
「また来年もやりますよ。その時には必ず来てくださいね」
『次にお祭りへ来るときは、ユリナも一緒に楽しもう!』
「……うん、そうね」



 かくして祭りの日は過ぎていった。英気を養った彼らは、再び己の任務へ邁進していくのである。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 分かち合う幸せ
    笹山平介aa0342
    人間|25才|男性|命中
  • どの世界にいようとも
    ゼム ロバートaa0342hero002
    英雄|26才|男性|カオ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 想いの蕾は、やがて咲き誇る
    カスカaa0657hero002
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • エージェント
    ウィンター ニックスaa1482hero002
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ

  • 氷月aa3661
    機械|18才|女性|攻撃
  • エージェント
    ジーヴルaa3661hero002
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 穏やかでゆるやかな日常
    無音 冬aa3984
    人間|16才|男性|回避
  • エージェント
    aa3984hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • Be the Hope
    杏子aa4344
    人間|64才|女性|生命
  • トラペゾヘドロン
    テトラaa4344hero001
    英雄|10才|?|カオ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 風穴開けて砕け散りな
    カナデaa4573
    獣人|14才|女性|命中



  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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