本部

【ドミネーター】明日を作る者共

玲瓏

形態
シリーズ(続編)
難易度
難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
能力者
15人 / 4~15人
英雄
14人 / 0~15人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2017/05/30 21:40

掲示板

オープニング


 フランメスは一人の親友と一人の恩師に囲まれて地下水路を歩いていた。ちょうどバグダン・ハウスの真下の位置まで来たところで立ち止まった。
「三人でここに戻ってくるなんて、本当に久しぶりだよリチャード、ペーチャ。さあ序章が始まるよ。僕のために盛大に、最高に破壊してきてほしい」
 二人は同時に飛び上がって地上と地下を阻む壁を壊して進んだ。怪物が二匹がその街に放たれたのだ。フランメスがどうしても最初に殺したかった街に。
 彼は高笑いが抑えきれなかった。まだあの時に生きていた人間もいるだろう。"フランメス"もまだ生きているだろう。奴は、世界で最も残酷に殺してやる。
「あんたがそこまで堕ちるとは思わなかった。シルヴァーニ」
 フランメスの背中から声が鳴った。そこには一人の女性が立っていて、彼女は低い声でフランメスを罵った。
「おいおい何を言っている。シルヴァーニは死んだ。僕はフランメスだ。僕が殺した」
「憎い過去があって、復讐したい気持ちがあるのは分かる。私だってこの街を許せなかったさ。だけど、もう変わった。リンカーは認められた。それの何が不満なんだ」
 彼女の腹部に強烈な衝撃が走り、地面に倒された。
「黙って僕の指示に従え。言ったろ、これは序章なんだ。復讐が目的じゃない。手段にすぎない。僕の目標は人間の抹殺だよ。知ってるだろ? 人間の醜さを。チャールズ、せっかく君をドミネーターの長に置いているというのに何が不満なんだろうなあ」
「形式だけだ。皆はあんたの事をリーダーだと思っている」
 フランメスはチャールズの言葉を退けてこう言った。
「バグダン・ハウスの連中には君が死んだように言ってあるが、君を守るためだったと理解してほしいね。まあいい。君は恵まれているよ。それを理解して、今日の任務を遂行してほしい」
「事件を片付けにくるリンカーに親しげに接して情報を得る……。私にそのような卑劣な真似は――」
「もし、奴らにちょっとでも加担するような事があれば僕は遠慮なく君を殺す。地獄の底まで追いかけて、屈辱的な死を迎えさせてやる。これは命令だよ、リーダー」
「逆らったらどうなる」
「君を監禁する。地下に閉じ込めて実験台になってもらおう。あのリチャードと、ペーチャのように」
 フランメスを見上げていたチャールズはなんとか起き上がって、彼から逃げるように離れた。
「期待してるよリーダー」
 背中側から気が狂ったシルヴァーニの笑い声が聞こえる。延々と追いかけてくる。リチャードは早く逃げたかった。その声を聞くだけで胸が苦しくなった。


 街の中はパニック状態に陥っていた。二匹の怪物が街をメチャクチャに破壊している。猛獣のようだった。人間を見つけては両手に持って地面に叩きつける。家を見つけては玄関を吹き飛ばして、噛み砕く。
 しかも彼らは平等だ。どんな家でも人間でも平等に壊す。
「お姉ちゃん待って! 置いてかないで!」
 逃げ遅れた子供、車椅子の患者。そのどれもが猛獣の犠牲になっている。その現場の状況をモニターで見ていた坂山は、急いでリンカーを招集した。
 既に大半の家が犠牲になっている。
 この街はスチャースの故郷でもあった。
「始まったわ……。皆、わかってると思うけれど……。今回はこの前よりも厳しい戦いになることが予想されるわ。だから絶対に生きて帰ってくることを優先して」
 坂山は頑張って、としか言えなかった。
「僕も皆さんに」
 クォーターが身を乗り出して着いていこうとしたが、坂山は止めた。
「今回ばかりは駄目。あなたはまだ実戦経験が浅いのにこんな危険な任務に出せないわ」
「……確かに、足手まといになるかも。すみません、前回全く役に立たなかったので、今回こそはと……」
「それじゃあヘリコプターを出動させるから、それに乗って映像をモニターに映しといてもらえるかしら。今見てるのは監視カメラの映像でしかないわ。もっと広くみたい……。そして、その映像をリンカー達を共用する。いいわね」
「了解。それならちょっとは役に立ちそうです」
「じゃあ皆散開。お願いだから、お願いだから帰ってきて」
 一同を見送って、部屋には彼女以外にスチャースとノボルが残った。
 最悪と最悪が融合して坂山は今や恐怖を覚えていた。罪なき町民を脅かす憤りもあるが、恐怖が勝っている。最初は憤りだけでリベレーターを建てたが、今では不安になっていた。
 既にフランメスのする行いは理解の範疇を超えている。ただの先生の成り上がりが、そんな強大な組織に対抗できるのだろうか?
 できるなら……もう、死んでしまいたいとさえ考える。いつか、明日が来ない日が来るのではないかと思うと――。

解説

●目的
 生存し、できれば敵の撃破。

●敵
 変異したリチャード、変異したペーチャが街中を縦横無尽に暴れまわっている。その他にブラックディラー、リユーゼ、クノウがエージェントを出迎える。

●変異したリチャード
 人間の原型は全くない。クノウの引き連れていた憑依型の従魔を死体のリチャードに憑かせて、フランメスの滅茶苦茶な改造実験により再生された。二つの足と四本の腕で襲いかかる。
 二メートルはある躯体で、身の回りの物全てを武器にして襲いかかる他に、毒ガスを周囲に撒き散らしながら接近してくる。接近攻撃の範囲内にいる間は徐々に体力が削られる。

●変異したペーチャ
 リチャード同様に原型がなく、同じように造られた。
 尻尾が生えていて四足歩行で動く。一番の特徴は尻尾に生えた棘による遠距離攻撃で、その棘には痺れ薬が塗られている。行動力が低下する他、その効果は重複するので複数回くらえば立ち上がることすら困難になる。

●街の状況
 広い面積の中に学校、住宅街、文化施設等様々な建物が散りばめられている。住宅街が広く面積を持っている。
 住民達の安全な避難はまだ済んでおらず、バラバラな場所に人々が避難している。家で立てこもってる家族もちらほら見受けられて、良い状況とはいえない。
 市長は学校に避難している。

●フランメス
 街の破壊されゆく様子を見るために徘徊している。

●チャールズ
 今回で明らかになるドミネーターの長となる存在。バグダン・ハウスの住人だった者でシルヴァーニに想いを寄せていた。
 シルヴァーニが復讐の鬼となりフランメスになった事を知って同情の気持ちでドミネーターに入るも、長にさせられて全ての責任を背負うことになる。
 彼女には英雄がいたがフランメスは逆らわせないために英雄を殺害している。
 一般人を装ってリンカーに近づき、様々な情報を不自然な程に尋ねてフランメスの指示を守るが、リンカー側に寝返る可能性もある。

リプレイ

 けたたましく鳴る通信機を手にとった坂山は、ゆっくりと耳に近づけた。
「良いサプライズだろう」
 聞き慣れ過ぎて吐き気を覚える声音だ。緑色の声が耳の中に侵入してくるようだった。
「フランメス……。もうお願い、こんな事はやめて」
 通信室は乾いた空気に満ちあふれていた。ノボルとスチャースが心配そうに坂山を見上げている。
「いつもと違って弱音だなあ。一チームのリーダーが情けない」
「もう懲り懲りなの! 罪なき人達を、どうして苦しめる必要があるのよ!」
「人は生まれながらにして罪だ。存在自体が――」
「あんたの持論なんて聞いてないのよ。あんたが殺した人にもね、深い人生があったの。夢があった!」
 被害者の中には子供もいた。輝く将来に向かうための羽根を切り落とされて、無残に散った鳥のような子供達が何人も。
「正直お前には飽きていたんだよね。調べてみたら以前の職業はただの公務員。僕はてっきり、凄腕の特殊部隊員か何かだと思ってて、そんな強い女を屈服させる楽しみがあったんだ」
 屈辱で何も言えなくなった。
「一回目、二回目にお前を襲撃した時はまだ興味があったから殺さなかった」
「何?」
「今起きている出来事は前座に過ぎないことを、言っておいた方がいいかな?」
 最悪な余韻を残したまま通信は切れた。
 まさか。坂山の直感が震え始めた。実態無き死が近づいている前兆を感じた。


 シエロ レミプリク(aa0575)が街に着いた時真っ先に目についたのは崩れた家屋だった。二階建て一軒家の壁が抉れて中身が丸見えになっている。大きな化物が強引に引き剥がしたように乱暴な壊され方をしている。
 ターゲットは既に目の前にいた。クォーターがヘリコプターから指示を出して、化物の位置を知らせていたのだ。
「ああ……随分派手にやってくれてるじゃん!」
 目の前の惨状は醜いものだった。化物が破壊衝動だけで物と人を壊している。赤城 龍哉(aa0090)はシエロの横に立って惨状をしっかり目に焼き付けていた。背けずに直視した。
「滅茶苦茶に暴れやがって。事ここに至っては見過ごせねぇ。やるぞ、ヴァル!」
「これ以上の被害、絶対出させませんわ!」
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)と共鳴した赤城は、人が避難しているトラックに向かって豪腕を叩きつけようとしていた化物の方へ駆け出した。
「手ェ出すんじゃねえ!」
 走る赤城に気づいた化物は四本の腕でトラックを掴むと横に振り回して接近を許さなかった。何度も振り回した後には我武者羅にトラックで地面を殴って亀裂を発生させ爆発した。
 燃え上がる炎が橘 由香里(aa1855)の瞳に映っていた。
「あのトラックには人が乗ってたのよ……! それをまるで、玩具のように」
「まだ人としての自我が残っているのなら良かったんじゃがのう。奴はリチャードかペーチャ、どちらかなのじゃろう」
 日記に書かれていた言葉に嘘がなければ飯綱比売命(aa1855hero001)の話は正しい。目の前で残酷な仕打ちをした化物は、元々は善良なリンカーだった。
 手に震えが宿った。表情に変化はなかったが、考えたくもない事実が胸を襲った。
「蛍丸がしっかり救助をしておる。お主がここでヘバっていては事態は悪化するのみじゃ」
「……そうよね。これ以上被害を拡大しない為にも、ここであの化物の足を止めなきゃ!」
 化物は爆発して吹き飛ばされたがゆっくりと起き上がった。ビリビリに破けた服に炎が纏わりついていて、大きく咆哮すると赤城に急接近した。歩幅が広く、七メートルは離れていたがすぐに目の前に現れるのだ。
「喰らえッ!」
 赤城は先行してブレイブザンバーを振るった。敵はそれを二本の腕で掴んで弾いた。下二本生えた両腕で瞬時に赤城を掴むと、上から強烈な拳が即座に降りて赤城の頭部に衝撃が轟いた。石ブロックの床の感触を顔面で感じた。
 化物は更に足で踏みつけようとしていたが、橘は起き上がる赤城の前でしゃがんでミラージュシールド両手で構えた。盾を力強く蹴られてもう少しで吹き飛ばされる所を必死に押さえていた。
「こっちにもいるぞおらァ!」
 16式60mm携行型速射砲を構えて何度も何度も弾を射出した。幾度となく激戦を繰り広げてきたシエロは全ての弾を外さない。化物の狙いはシエロに向かった。橘を押しのけて猛スピードでシエロへと駆け出す。
 氷鏡 六花(aa4969)はシエロが狙いを引いてくれている間に、急いで橘と赤城の所へ向かった。
「赤城さん、橘さん大丈夫ですか!」
「私は大丈夫よ。でも、あれだけの攻撃を食らって赤城さんが無事かどうか……」
 氷鏡は不安が満ちる顔で赤城を見つめたが、彼は腕を上に上げると親指を上に立てた。
「ちょっと頭が揺れるけど、問題ねえぜ。これくらいでやられるほどヤワじゃねえんでな」
「良かった……」
 赤城はゆっくり立ち上がった。一筋の血が額を流れている。
「この分は返してやらねえとな。いくぜ、二人とも!」
 シエロの弾を身体に受けながらも化物は確実に寄ってきていた。ついに豪腕がシエロに届く距離にまで詰められると武器をバンカーメイスに持ち替えて乱暴な腕を食い止めた。
「効・か・ね・えええええ!」
 ――主様、次来ますッ
 ジスプ トゥルーパー(aa0575hero002)の宣告は的中していた。化物はシエロのメイスに噛み付いて身体ごと一回転させた。シエロは途中で手を離して閉じたクロスグレイヴ・シールドを腕から構えた。
 武器を取り上げて調子に乗った怪物は盾ごとシエロを抱きしめるように四つの腕の中に閉じ込めて高く空へと舞った。しがみついたまま怪物は、全身から紫色のガスを放出した。
「ゲホッ! なんだよこれ!」
 猛獣のような雄叫びが聞こえてシエロは空の風を感じながら地面へと落ちていく。嫌なガスを吸い込んで何度も咳き込み、やがて衝撃が体中を苛む。
 爆風だった。地面に強く身体を打ち付けられた時、シエロは爆風を感じた。
 氷鏡は終焉之書絶零断章の書を紐解いた。
「これ以上仲間を傷つけるのはやめてよ……! 私を怒らせると怖いんだからさ」
 氷鏡の背後に氷柱が立ち、魔法陣が空間に描かれる。冷気が彼女の周囲に纏わりついて、シエロに馬乗りになる化物に――放たれる。
 結晶が化物を包む。
「今だよ、アシュラ!」
 どこからともなく、アシュラ(aa0535hero002)の高笑いが響いた。
「よくやった六花! 後はアシュラに任してよ!」
 しかしどこから聞こえてくるのだろうか。周りを見渡してもアシュラの姿はない。左右、前後。どこかに隠れているようには思えない。
 化物は上を向いた。
「ふはははぁ~いっくよー!」
 ビルの屋上から鉄の塊が落ちてきている。それは引っ越し車両に使うほど大きなトラックだった。何トンあるのか、それを知るのはいつになるだろう。アシュラは屋上からトラックを発進させて、動けない化物に向かって急降下している。
 運転席に座ったアシュラは楽しげだ。
 トラックは空中で半回転して重苦しいコンテナを化物に叩きつけた。
「シエロ、撃っちゃって!」
「あいあいさッ。いっくぜぇぇッ!」
 激しい衝撃音の後、トラックは大爆発を見せた。黒煙が空へと導かれていく。
 ――やったか?
 暫くして激しい化物の咆哮が聞こえて、黒焦げのトラックが吹き飛ばされた。まだ奴は生きているのだ。


 人民救助に乗り出していた伏野 杏(aa1659)はクォーターからの指示を仰いで逃げ遅れていた市民が入ればすぐに向かった。避難場所は学校になっていて、ペーチャとリチャードを対処している二班が接近を許さない。
「伏野さん、そこから五キロ離れた所にある緑道付近の公園で親子が避難している。急いで向かってほしい!」
「親子連れですか……! 分かりました、急いで向かいます」
 学校で指示を待っていた伏野は羽土(aa1659hero001)と一緒に外に飛び出して、救助用の車両を使って臨場した。
 途中の道で若い男二人を連れていた黒金 蛍丸(aa2951)と詩乃(aa2951hero001)も合流して四人で救助に向かうことになる。
「すみません、アランさん。公園の親子の救助に少し、付き合っていただいても大丈夫でしょうか。その間お二人は車の中にいてください」
「ここから近いのか?」
 伏野が答えた。
「もう後十分もせずに到着します!」
「……分かったぜ。確かにエージェントが助けに来てくれた時俺は泣くほど嬉しかったし、カッコイイとも思った。その親子連れ、助けにいけよ! 俺たちは車の中で隠れてるからさ。いいだろ、ヒューゲル」
 アランとヒューゲル、それが二人の名前らしい。
「勿論勿論! 僕たちの事は気にせず、救助に向かってください!」
 二人の了承を得た黒金はありがとうとお礼を言って車に乗り込んだ。
 公園は他の破壊されていた住宅街と比べればまだ平和を保っていた。まだここまでドミネーターの手が回ってきていないのだろうか。詩乃と羽土が車に残って一般人達を保護する。
「……違和感がないか」
 運転席に座っていた羽土が詩乃に言った。
「違和感ですか……? いえ、私は特に何も」
「ちょっと待って――もしもし、クォーター君」
 羽土は違和感を確かめるべくクォーターに通信を繋げた。
「どうかしましたか? もしかして公園にいなかったとか……」
「今公園に到着したところだが、どうして親子連れがいると分かったんだろう」
「公園の砂場にH.E.L.Pのローマ字が確認できて、その傍らに家族という文字があったんです。親子が避難しているものだとばかり思って」
「なるほど……」
 違和感はまだ拭えずにいた。いや、ここまで来れば予兆とも呼べるだろうか。魚釣りのような……。ここは平和だが、HELPと書く暇はあるのだろうか?
「罠かもしれない。詩乃、急いで二人の所にいこう」
「は、はい」
 詩乃はよく羽土の言葉が掴めず、二人の男に待っててと伝えると車から外に出た。
 丁度だった。ジャストタイミングだった。足が公園の土を踏んだ時、公衆便所から破裂音が聞こえた。羽土は急いで便所へと向かった。
 親子連れがいたのは本当らしい。三人家族なのだろうか、父と母とまだ小学生くらいの子供が天井から足を吊るされていて逆さ向きになっている。そのどれもの遺体には共通点があった。総じて、首から上がなかった。
 黒金と伏野は地面に倒れていた。
「杏!」「蛍丸様!」二人の英雄は同時に叫んだ。
「羽土さん……」
「何があったんだ?」
 伏野も黒金も意識があったが、黒金は重症を負っていた。
「家族が吊るされてて……私達は必死に、下ろそうとしました。でも……その時、黒金さんが遺体の口にガムテープが貼られてる事に気づいて……最初は気づかなかったのですが……中から、時計の針のような音が聞こえてきて」
 罠だと知った時はもう遅かったと言う。伏野は絶望的な目で突っ伏した。
「こんなの、あんまりです……」
 泣き出しそうになるのを伏野は堪えた。泣きたいのはこの親子達だろう。こんな残酷な仕打ちをされて。でも伏野は目から雫がこぼれた。地面の血に落ちた。
「蛍丸様、大丈夫ですか!」
「僕は大丈夫だ……。伏野さんは?」
「伏野様は大丈夫です。蛍丸様、今は自分の怪我を最優先してください、怪我が一番ひどいのは蛍丸様なんですから」
 黒金は詩乃に向かって微笑もうとしたが、視界に入り込んだ最悪の物体のせいでそれができなかった。引きつった顔で、慄いた顔でそれを見つめた。
「こんにちは」
 そこには愉快そうに笑うフランメスが立っていた。勝ち誇った顔をして。


 防人 正護(aa2336)のバイクがエンジンを蒸して市内を一周している。背中にはキャルディアナ・ランドグリーズ(aa5037)が乗っていた。
「振り落とされるなよ。しっかり捕まっておけ」
「私が簡単に落ちてたまるかよ。おっと、来るぜッ!」
 キャルディアナの後ろにはもう一体の化物がバイクを追っていた。キャルディアナはその化物の正体がペーチャだとすぐに分かった。化物が自ら名乗ったのだ。
 リボルバーワルムバールHM-3が咆哮をあげて鉛玉をペーチャに放つが、素早い速度で左右にステップを踏んで安々と避けられる。代わりにペーチャは尻尾から棘を飛ばす。キャルディアナの弾丸が棘を弾く。
「もっとスピード出せるか?!」
「これ以上は出せんッ。ガソリンだって無限じゃないんだ」
「このままじゃ追いつかれちまう!」
「――曲がるぞ、捕まってろ!」
 交差点が見えて、防人はスピードを落とさず火花を散らしながら足をストッパー代わりにして車体を左に曲げた。ペーチャは建物を伝ってバイクに飛びかかったが大袈裟に転んだ。
 キャルディアナは再び銃を構え直して連射する。何発かはペーチャに当たるも、その足は止まらなかった。棘は何度もバイクに降りかかるが、防人はバイクを軌道から逸して回避している。
 道に止まった車を華麗に避けていた防人だが、数百メートル先に電車が落ちてきた。
 危険だ! ツヴァイ・アルクス(aa5037hero001)がキャルディアナの意識に呼びかけた。彼女は咄嗟に前を向いた。バイクは、急には、止まれない!
 落ちてくる電車を晴海 嘉久也(aa0780)は屋上から見ていた。防人の乗ったバイクはこのまま行けば確実に衝突し、大きな事故に繋がるだろう。電車は横転していた車に凭れるように倒れている。
 16式60mm携行型速射砲を構えた晴海は、横転していた車のエンジンに瞬発的に照準を合わせて発射した。
 車は激しく爆発し、電車を微弱ながら宙へと舞い上げる。
「絶対手ェ離すなよ!」
 防人はバイクを大きく傾けた。旋回しながら前へと進み、電車が持ち上がった時に生じた僅かな隙間を通り抜けた。
 ペーチャは電車をどこかへ弾き飛ばして未だバイクの追跡を続けていた。防人はストリートを走り続けた――その時、目の前に人影が現れる。紛れもなく迫間 央(aa1445)の姿であった。
「任せたぞ」
 横を通り過ぎる防人、キャルディアナと手を叩くと迫間は天叢雲剣を両手に構えて走り出した。迫間という人間と、ペーチャという怪物が衝突する。
 ペーチャの頭を二つの叢雲が押さえた。勢いに任せて迫間は後ろへと足が下がっていくが、決して剣は折れなかった。
「ここから先は、俺たちを倒してから行くんだな……!」
 獣の唸りだけが聞こえていた迫間の耳に、別の声が混ざった。しっかりとした声だったのだ。ただの音ではない。
 ――ゴメンナサイ。声はそう言っていた。
 晴海は屋上を伝って別の地点へと移動していた。ペーチャに見つからないように身をしっかり潜めて、そこから迫間と衝突しあっているペーチャの尻尾に狙いを定めて、発射した。弾丸は尻尾を正直に貫いた。
 同時に尻尾から弾丸のようなスピードで棘が飛ばされた。棘は晴海の足に当たった。
「自動的なカウンターですか……ッ、思いもよりませんでした」
 足が痺れて地面に座り込んだ。慣れるまで時間がかかるだろう、通信機を防人達と繋げた。
「すみません、敵の攻撃を食らってしばらく戦力になりそうにありません。暫く身を潜めます」
「分かった。治るまでの間は俺たちが食い止めるから休んでいるといい」
 尻尾を攻撃されたペーチャは迫間から距離を取って苦しそうに喘いだ。弱点なのだろうか。バイクから降りた防人とキャルディアナが合流して三人足を揃えた。
「奴は、まだ意識があるのかもしれない。ペーチャという意識が」
 迫間は信じ難い気持ちを堪えて言った。
「何だって?! マジかよ。じゃあこいつ、もしかして……」
 街を破壊したくないのに、破壊させられているのだろうか。平和を愛していたはずなのに。
 ――お爺上様、どうにかしてあげれないものなのでしょうか。
 Rudy・S・B,phon(aa2336hero002)がそう言った。
「……悪いな、暫く仕事ばかりで上手い事加減が出来そうにない」
 迫間は剣を構えたままペーチャに聞こえるように宣言した。
「俺たちが悲劇を終わらせてやる。……シルヴァーニも止める。今ここで、お前も止める。もう悲しむ必要はない!」
 迫間は分身を作って三人で突撃した。迫間は正面から二人は左右から。


 九字原 昂(aa0919)は言った。
「やはり、いましたか」
 クノウ、ブラックディラー、リユーゼ。九字原は一人一人にしっかり目を合わせた。
「君はこの前の! ハハハ、我々に慄いて来ないものかと思っていたが。良い度胸の持ち主だね」
「むしろ逆ですね。あなた達が来ないかと思いました。我々エージェントはあなた達の懐に忍びこんだというのに、誰一人として致命傷を負うことはありませんでした。あの日は、あなた達に大きなメリットがあったはずですね」
「おいおい、あまり調子に乗られると困るなあ。ウチのリユーゼはもう理性を失ってんだよね。君の死体、すごいことになるよ」
「それはどうでしょう」
 九字原の言葉を耳にしたディラーは持っていた重火器を地面に捨てた。
「もう我慢ならないな。こいつは僕自らが殴り倒してやりたくなった。クノウ、リユーゼを見張っててほしい。こいつは僕がやる」
「時間をかけすぎるな。暇つぶしでここにいるんじゃない」
 ディラーは重厚な足取りで九字原に寄ってくる。殺意に満ち溢れている。
 ――気をつけろよ、奴は感情的になっている。感情的な相手には論理は中々通用しにくい。
 ベルフ(aa0919hero001)はそう助言して、九字原は頷いた。
 ――撃破が目標じゃないことを忘れるなよ。
 ディラーは九字原の前まで来ると何も言わずに、出し抜けに足を振り上げて踵で攻撃してきた。隙の大きい動作で九字原は簡単に後方に避けた。踵が当たった地面には罅が入り沈んだ。
 攻撃力は尋常ではないだろう。一度でも喰らえば致命傷になりかねない。
「来いよ。ビビってんのか」
 ディラーは次から次へと攻撃を続けた。反撃のチャンスはいくらでも見えていたが、重要なのは時間稼ぎだ。他のメンバーの場所にこの三体が行かないようにしなければ。
「つまんねえぞこのチキン野郎!」
 しかし興醒めしてもらっては困る。あまりにも防御に徹するとディラーが興味を失い、立ち去られる可能性だってあった。九字原は右ストレートをしゃがんで避けると、ノーシ「ウヴィーツァ」でディラーの腹部を貫いた。
 激しい衝撃が響くはずだが、ディラーは全く怯まなかった。突き刺さった剣を両手で掴み、更に腹を貫くように手前に引いているではないか。
「ハハァッ! 気持ちいいぜ。どんどん入ってくるよ……」
 ――こいつ、イカれてやがるな。
 剣が引かれる度、九字原はディラーへと接近しなければならない。途中で柄から手を離して距離を取った。剣はディラーに刺さったままだ。ディラーは剣を抜こうとせず次の攻撃を繰り出そうとしてきた。


 リチャードの右腕と赤城の左腕がぶつかり合い轟いた。その隙を捕らえたシエロと橘が同じ腕に剣とメイスを打ち付ける。
「ヴァアアアアア!!」
 腕から激しく血が吹いた。
「ダメージを与え続けてきたから腕が弱ってるのよ! このまま破壊しましょう、邪魔だったのよねその腕!」
 抵抗が増して、血が吹き出る腕を振り回されると血飛沫があらゆる所に舞った。橘とシエロは一度腕から降りて距離を取るがエージェントの攻撃は終わらない。アシュラはチェーンソーを高鳴らせて真正面から腕に刃を押し付けた。
 エンジン音が空に羽ばたく。もう少しで、もう少しで腕が落ちるだろう……! アシュラはしかし、別の腕で身体を掴まれた。
「もう少しだったのに!」
 シエロは銃を構えて腕の根本に狙いを定めたが、あまりにも激しく動かれたおかげで弾は外れた。
「ち……! アシュラちゃん、すぐ助けるから待ってて!」
「わああ~~! ぶん回すなぁ!」
 まるで遊園地のアトラクションのようにアシュラは振り回されていた。赤城は胴体に蹴りをいれるが、止まる気配がない。
「コイツ、暴走してるぜ。余裕がなくなってきたってことか」
「それならもう少しね。ただこのまま攻撃してもアシュラさんに当たる可能性があるわ。それに……」
 それに。橘は小声になっていた。ペーチャ班の通信を聞いてリチャードにも意識が残っている可能性が高いと知った。無慈悲な痛みを彼は食らっているのだ。何か奇跡的な出来事が起きて、変異がとけて人間の姿に戻ってくれないだろうか。
「ここは私の出番ね。任せて、上手くやるわ」
 橘はミラージュシールドを掴んだ。その盾を空に平行にして、横向きに上に投げた。シールドはリチャードの頭上で勢いを止めた。
 すると橘の両手に赤黒いメスが顕現する。指と指の間に挟んで、盾に向かって性格に投擲した。投擲された複数のメスは盾に当って雨のように襲いかかった。
 最後に盾はリチャードの頭に落下する。あらゆる所から血が吹き出して、開いた手からアシュラは解放された。
 氷鏡はどんよりとした黒いライヴスを手で形成して、動きの鈍ったリチャードに向けて放った。
「今だ、腕を切り落とすぜ!」
 赤城はブレイブザンバーで右腕を。アシュラはチェーンソーでもう一つの右腕を。シエロはバンカーメイスで左腕を。橘はセイリオスでもう一つの左腕を。
 四人の力が同時に集中した。
 色々な音が鳴って腕は順繰りに崩壊した。獣の鋭い咆哮が木々を揺らした。
 鬼神の腕に武具を持ち替えた赤城はリチャードの前に立った。
「借りを返すぜリチャード。今楽にしてやる……! ぜってぇ、動くんじゃねえぜ!」
 強烈な右腕がリチャードに迫る。赤城の言いつけ通り、動かなかった。ただ死を待つだけだった。
 燃え盛る程に灼熱な赤城の拳が腹部に激突する。リチャードは吹き飛ばされて、ビルに当って、息が止まった。
 共鳴を解いたカグヤ・アトラクア(aa0535)は親のように「よしよし」とアシュラの顔を撫でていた。
「よく頑張ったのう。褒美は良い物を用意しなくちゃならないのじゃ」
「当たり前の結果よね。ところで一つ気になったんだけど、アシュラが壊したトラックって借り物なんだよね。壊してよかったの?」
「大丈夫じゃ、わらわ達にお金が請求される事はないのじゃ」
 赤城とシエロが周囲の安全確認をしている間、氷鏡と橘はリチャードの遺体の前で手を合わせていた。近くで大人しく見ると、人間の面影は表情に残されていた。決して人間の顔ではないが……面影は見えたのだ。
「愚神を倒すのと、愚神に操られたヒトを倒す。どちらも倒さねばならない相手には違いない。……人を殺した事だけに自己嫌悪を覚えるのは欺瞞なのかしらね」
 橘の言葉に、飯綱比売命はこう返した。
「戦場で迷うと死ぬぞえ。誰かを助けられたなら、それで良しとせぬか」
「……そうよね。でも今だけは彼に憐れみを寄せたいわ」
 氷鏡はリチャードを楽な姿勢に倒してあげて、見開いた目を瞑らせた。彼女は立ち上がって振り返ろうとした時、道路で倒れている女性を見つけた。
「あ……! 皆さん、人が倒れています。急いで近くの安全な建物の中に避難させるので、皆さんは先に体育館に向かっててください!」
 急いで女性の元へ駆け寄って息があるかを確認した。目立った傷はないが、服が濡れていて風邪を引くかもしれない。


 グワルウェン(aa4591hero001)のマッピングは確実な成果を出している。伴 日々輝(aa4591)はその地図を参考に人々を安全な区域へと避難させていた。リチャードの撃破報告が聞けると、更に避難範囲は広がるのだ。
 クォーターから全ての敵の情報を集めて、その場所へと行かないように仲間や人々を上手に誘った。
 伴は市長の事を確認したく、坂山と通信を繋いだ。
「俺だ。忙しいか?」
「いえ……大丈夫よ」
 坂山の声には覇気がなかった。
「この街の市長について聞いておきたい。分かることを言ってくれればいい」
「市長……テスさんの事ね。私も、さっきから調べてたの。プライバシーに関わることは分からなかったけれど、十年前からずっと市長をやり続けていることで市民達からの信頼は厚いみたい」
「そうか。助かった――疲れているのか?」
「え?」
「声が萎れている。何かあったのか」
「ううん。なんでもないの。私のことはいいから、避難を優先させて」
 坂山との通信で得られた情報を伴は薫 秦乎(aa4612)と君島 耿太郎(aa4682)に通信機越しに伝達した。
 市長の居場所を薫と君島はもう分かっていた。市長は学校に避難していたのだった。ドミネーターが真っ先に狙ったのは市長の家だったという。命からがら逃げ出して学校にいるが、擦り傷が出来ていた。
 薫と君島は市長の情報が分かると、二人して市長のいる教室へと向かった。市長だけ市民から離れていたのだ。
「失礼する」
 薫はドアを開けて唸るように言った。
「エージェント達か……。今日は来てくれてありがとう、本当に助かったよ」
「少し質問がある。正直に答えろよ」
 薫は手前の机に腰掛けて一息つくと、口を開いた。君島とアークトゥルス(aa4682hero001)は静かに会話に耳を傾けている。
「バグダン・ハウスについて知っているか」
「知っているとも。あれは……暗い過去があるね」
 テスは目を伏せた。
「何故殺した、愚神にどう言い包められた」
 薫は慈悲を感じさせない声音で、真っ直ぐにそう訊ねた。
「な、何を」
「俺達はあの施設に起きた悲劇を知ってる。全て理解した。施設に入っていた人間の日記に、てめえら人間の醜い姿がしっかり書かれてた」
「違う、誤解だ!」
「何が誤解か言ってみろ! リンカーを騙して愚神と手を組んで皆殺しにした。もう一度聞く、何故殺した?」
 テスは潤った目で薫や君島を交互に真摯に視線を合わせて弁明した。
「この街の主導権は、マフィアが握ってるような物なんだよ……! 私なんて見かけだけの市長にすぎない。私は、いつ命が無くなってもおかしくないような状況だった! それで……マフィアに、命令されたんだよ!」
「保身のために、殺したんだな」
「君はリンカーだから分からないだろう?! 死がどれほど怖いか。私にとって、死がどれほど怖いか」
「……保護する代わりに、後で愚神の特徴や姿を教えろ」
 薫は君島を連れて教室を出て、体育館へ戻った。体育館にはエージェントが必要だった。もしも離れている間にドミネーターがここを襲ったら……。
 三人は廊下で伴とグワルウェンの二人と合流した。
「テスは何か話したか」
「市長さんの意志でリンカー達を死なせちゃった訳じゃないみたいっす。マフィアが関係してるようで、この街はマフィアが牛耳ってるとか」
「この街の事件には黒幕がいたってことか」
 伴の通信機に九字原から連絡が入った。伴はすぐに耳に端末を当てた。
「こちら九字原、すみませんクノウの姿を見失いました。もしかすると学校の方に、向かっているかもしれません……!」
「クノウが? 他二人はどうなっている」
「リユーゼとブラックディラーは私が押さえています。先ほど赤城さん達を呼びましたので、こちらは心配しないでください」
「分かった、警戒する」
 九字原の予想が正しいことはすぐに判明する。君島がアークトゥルスの肩を叩き窓を指す。窓からは校庭が見渡せて、校庭の中央にクノウが立っていた。


 エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)の掛け声で晴海は瞼を開いた。
 ――いつでもいけます!
 痺れが直った晴海は空から落下しながら狙撃銃を放ち、ペーチャの胴体に当てた。
「復活したか、案外はええじゃねえか!」
「皆さんの戦う姿を見ていたら、そう安々と休んでられません」
 最初と比べると明らかにペーチャは疲労が溜まっていて、一つ一つの攻撃の隙が長い。息は切れていて、もう長くないのだろう。
「次の攻撃で息の根を止めるぞ。長く苦しむ必要はない、行くぞ!」
 先頭を走る迫間は、敵の範囲に入る前にステップを踏んで横に飛んだ。
 ――その時綺麗な薔薇が舞った。ペーチャは、その花弁に意識を奪われて攻撃の手が止まった。綺麗すぎるのだ。
「キャルディアナ、今度は足じゃなく心臓を狙って撃て!」
「おう、任せろ!」
 キャルディアナは全速力で走って、ペーチャの前足攻撃が来る前に身体を後ろにゆっくりと倒して滑らせると、両腕に持った銃を構えて下から胸を狙いトリガーを何発も引いた。血が跳ねて、顔に降り掛かった。
 ペーチャの背後にいた晴海は「NAGATO」を手にして息もつかせぬ程のスピードで胴体を切り刻んだ。切っ先を胴体に突き刺した後尻尾を掴むと、何回転もして上空にペーチャを飛ばした。
 空には防人がいた。
「防人流……雷堕脚」
 足には剣が付属している。マントが風に揺れて、剣に絡まった。ペーチャは最後の抵抗をすべく、口を大きく開いて防人に噛みつきかかる。
「騎士槍の型」
 誓いの剣がペーチャを貫いて、全ての音が止まった。赤い薔薇が降り注いだ。
 ゴメンナサイ。迫間はもう一度、ペーチャがそう言ったような気がしてならなかった。
「ルディさん、これを」
 エスティアはペーチャの残骸を綺麗に拭き取りルディに差し出した。
「どうも、ありがとうございます。……お疲れ様でした、皆さん」
 ペーチャはもう動かなくなっていた。あれだけ元気に走り回っていたが、もう動かないだろう。


 羽土は盾を構えて、伏野を守っていた。
「杏や、仲間たちにその手で触れるな……!」
「安心したまえ。僕は取引にきたんだ、殺しにきた訳じゃない」
 クォーターはヘリコプターから公園の様子を窺っていた。フランメスの姿が見えると、急いで他の隊員全員に伝えた。
「大変です! フランメスが……!」
 橘は九字原の援護に向かっていたが、赤城とアシュラに任せて、シエロと公園に急いだ。
「フランメス……!」
 ――主様が、本気でお怒りになられている。
 迫間は道端で見つけた市民を他の隊員に任せて、マイヤ サーア(aa1445hero001)と公園に急いだ。
「マイヤ、付き合ってくれ」
「……気持ちは私も同じ」
 エージェントが公園まで駆けつけた時、現場に残されていたのは血に濡れた通信機だった。
「取引をしよう」
 橘は足を引きずって歩く黒金を見つけて、彼に肩を貸した。黒金は大丈夫だと言うが。
「僕はいつでも君達のリーダー、坂山を殺すことができる。誘拐した訳じゃない、これから誘拐して殺すんだ」
 迫間とマイアは近くに鉄の塊がある事に気づいて、ソレが元々トラックだったと知る。溶けたタイヤが見えたから。
「それが嫌なら、この任務に乗り込んだエージェントの内一人だけでいい。そいつの全ての情報を僕に寄越せ。なんでもいい。過去や大切な人、その一人を壊すために必要な情報を。六月の二十日まで。皆で相談して決めるといいよ。誰が生贄になるか」
 羽土は怪我で動けなくなった伏野を担いでいた。詩乃は通信機から放たれる言葉に、しっかり耳を傾けていた。
「そうすればあんたらのリーダーは死なずに済む」
「社会を守る立場として、社会の被害者であったお前達が望むなら詫びもしよう」
 通信が途切れる前に、迫間が言った。
「だが、宮本とヒラナの件にしても、目の前の2人にしてもお前のやった事は許されない。次に会った時それが、お前の……最後だ」
 フランメスは短く笑って、通信は終わった。
 マイアは通信機を拾う。シルヴァーニと拙い字ながら、律儀に書かれている。
「自分で否定していながら、自分自身をシルヴァーニだと認めている証拠よね」
 空を見上げた。そこには柔らかな雲が浮かんでいる。この晴れた青空は、シルヴァーニにはどう見えているのだろうか。


 クノウは校庭に降りてくる三人に向かって静かに言う。
「この前は決着を付けられなかった。それは私の中で、大きな失態だ。お前達の姿が見えて戦いを挑もうと思っていた」
「殊勝な心がけだ」
 アークトゥルス、ベネトナシュ(aa4612hero001)、グワルウェンは武器を向けた。三人の騎士と、一人の騎士が対峙した。
「あまり時間がない。すぐに勝負をつけてやろう。
 シュナイデンを掲げて一番最初に走ったのはグワルウェンだった。クノウの斧とシュナイデンが当たり、砂を巻き上げる。力はクノウが上回っていた。徒に力を与える二人がいない分、以前よりも力は強くなっているのだ。
 簡単にシュナイデンを弾き返したクノウはグワルウェンの頭に刃を下ろした。
 アークトゥルスのカラドボルグ、ベネトナシュのベグラーベンハルバード二つが頭を守った。グワルウェンはその隙に斧を構え直して大きく振るった。クノウの漆黒の鎧にあたるが、動じる様子がない。
「ならば……!」
 更に刃に力を入れた。クノウを真っ二つにするように、ライヴスはその効能を高めていく。
 初めてクノウが斧を手放した。
「煩わしい!」
 クノウは斧を捨てると、手でベネトナシュの腕を掴んで締め上げた。ハルバードが地面に落ちた時、重苦しい音が鳴った。アークトゥルスは武器ごとクノウに体を当てると、頭部に向かって剣を振り下ろした。それは手で防御されるが、ベネトナシュを解放するための攻撃だ。命中は視野に入れていない。
 手から逃れて、再びハルバートを拾って構える。クノウも地面に落ちた武器を拾った。
「一人一人殺してやろうかと思ったが、面倒な事に気づいた。三人とも纏めて屠ってやる」
 空に掲げられた斧の周囲に邪悪な稲妻が渦巻き始めた。
「何をする気だ……。危険だ、二人とも防御を整えろ――来るぞ!」
 三人は防御の姿勢を整えていた。しかし、クノウは途中で斧を下に下ろした。
「やあ三人とも、初めましてだね」
「貴様は……!」
「僕はフランメス、どうぞお見知りおきを」
「この事件の元凶が登場って訳か。なら話ははええな。こいつを始末するッ!」
 グワルウェンはシュナイデンを持って高く跳躍すると、フランメスの身体目掛けて斧を振り下ろした。
「僕は戦いに来た訳じゃない。挨拶回りさ」
 簡単に斧は弾き返された。フランメスは何をしたかといえば、手のひらで刃を受け止めた、それだけだった。グワルウェンは腹部に強烈な激痛を覚えた。見れば、腹につま先が突き刺さっていた。
 グワルウェンに続いて攻撃しようとするフランメスを、アークトゥルスとベネトナシュが止めるべく武器をフランメスに振るった。
 気付けば二人とも、地面に倒されているではないか。
「いいね、いい動きだ。だがクノウを倒せなかった君達が、僕を倒せる訳がない。いいかい? いつでも君達の命を奪えることは覚えて置いたほうがいい」
「減らず口を……!」
 ベネトナシュが起き上がろうとしたが、ナイフが仕込まれていた靴の踵で胸を突き刺された。
「クノウ、撤退だ。あの二人が倒された。これ以上の長居は禁物だ。リユーゼとディラーにも撤退を命じている」
「だろうな。興醒めだ」
「また次がある。その時にこの騎士達と戦えばいいじゃないか」
 クノウは三人を一瞥した後、後ろを向いて校庭から立ち去ろうとした。
「待て! くそ、身体が動かない……!」
 起き上がることができなかった。フランメスに攻撃された場所から毒が回ったかのようだった。
「また会う日まで。次はもっと、僕を楽しませてくれよ?」
 フランメスはそう言って、ベネトナシュの手を取って手の甲に口付けを交わした。
「ふざけるなッ」
 挨拶回りが終わったフランメスは優雅に笑いながらその場を立ち去った。
 まだ力が足りないと言うのか……? 三人で挑んでも、奴らには勝てないのか……! アークトゥルスは震える手で拳を作って、地面を叩いた。


 女性が目覚めて、氷鏡は顔を覗き込んだ。年代は二十代前半だろうか?
「あ、おはようございます。大丈夫ですか?」
「ああ……」
「大丈夫? 顔色悪いよ」
 アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は風邪を引いたのかと額に手を置いたが、熱はないようだった。
「エージェントなんだな」
 女性は、氷鏡がエージェントだという事が分かると色々と質問を投げかけてきた。アルヴィナと二人はどうして知り合ったのか、エージェントになった切っ掛けは。些細な雑談として受け止めて、二人は懐かしむように語った。
 懐かしい思い出。あの日の絆。青い空と綺麗な花。とても上手な鳥の囀り。
「今回の事件は、悲しい事ばかりです……。改造されてしまったリチャードさんとペーチャさんが、可哀想です。六花は……皆を護りたい……です誰一人、死なせたくない……の」
「優しいんだな……君は」
 女性は俯いて鼻をすすった。アルヴィナはやっぱり風邪なのかなと身を案じて隣に腰を下ろした。
 涙が一滴、彼女の太ももに落ちた。
「助けてほしい……。私はもう、こんな人生は懲り懲りだ」
 女性は全てを氷鏡に話した。自分がドミネーターのリーダーである事。チャールズである事。今回課せられた任務と、今の状況。
 シルヴァーニを愛していたからこそチャールズは苦しかった。
 氷鏡は彼女を抱きしめて、優しく背中を撫でた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • エージェント
    アシュラaa0535hero002
    英雄|14才|女性|ドレ
  • LinkBrave
    シエロ レミプリクaa0575
    機械|17才|女性|生命
  • 解放の日
    ジスプ トゥルーパーaa0575hero002
    英雄|13才|男性|バト
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • リベレーター
    伏野 杏aa1659
    人間|15才|女性|生命
  • リベレーター
    羽土aa1659hero001
    英雄|30才|男性|ブレ
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • リベレーター
    Rudy・S・B,phonaa2336hero002
    英雄|18才|男性|ブレ
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • Iris
    伴 日々輝aa4591
    人間|19才|男性|生命
  • Sun flower
    グワルウェンaa4591hero001
    英雄|25才|男性|ドレ
  • 気高き叛逆
    薫 秦乎aa4612
    獣人|42才|男性|攻撃



  • 希望の格率
    君島 耿太郎aa4682
    人間|17才|男性|防御
  • 革命の意志
    アークトゥルスaa4682hero001
    英雄|22才|男性|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • リベレーター
    キャルディアナ・ランドグリーズaa5037
    人間|23才|女性|命中
  • リベレーター
    ツヴァイ・アルクスaa5037hero001
    英雄|25才|男性|バト
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