本部

【白花】連動シナリオ

【白花】マリンブルーとホワイトデー

ガンマ

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
24人 / 0~25人
報酬
寸志
相談期間
4日
完成日
2017/03/26 15:45

掲示板

オープニング

●海は広いなマジそれな

 海。

 ……そう、青い海だ。
 緩やかな水平線、打ち寄せる波々、太陽に砂浜はきらめき、波の音が静かに響く。
 悠久なる光景。平和なる光景。吹き抜ける潮風は柔らかい――。

『さて、エージェントの皆々様』

 通信機越しにオペレーター綾羽 瑠歌の声が聞こえたのはそんな時だった。
 そう、つまりは任務。今、エージェント達は任務のために『ここ』にいる。

『件の白い花が世界各地に舞い散った事件については、すでにご存知でしょうか?
 ええ、異界から現れた不思議な花のことですね。今回の皆様のミッションは、その花の回収となります』

 見えますでしょうか? と瑠歌。ああ、全く以て彼女の言葉通りだった。
 海――本来は青いハズの海が、一面の白。白い花で覆われている。砂浜にもだ。波と共に打ち寄せられて、全てが白い。その光景は非日常的で、まるで詩の一幕のように幻想的ですらある。

『このままですと、近隣の養殖場や漁業に影響が出る可能性が。水面が花で覆われて日光が遮られては、海中の生態系にも影響が出かねませんし……』

 見た目としては、綺麗なんですけれどもね。オペレーターの困った声。
 と、その時だ。ビュウ――一段と強い風が吹きぬける。それは三月とは思えぬ寒波を乗せて、エージェント達を容赦なく凍えさせた。「千切れそうな冷たさ」という形容がまさに。簡潔に言うのなら、そう、ズバリ……

 クッソ寒い<ファッキンコールド>。

『夏でしたら、海遊びをしつつ、なんて余裕もあったんですけれどもね……。
 三月とはいえ、今日は一段と寒いそうです。……その。風邪をひかれないように、あったかくして、気を付けて下さいね……!
 ……まさかだとは思いますけど、こんな三月の凄まじい寒さの海で、水着で来られている――なんて猛者はおられませんよね、おられませんよね……?』

解説

●目標
 白い花の回収

●登場
白い花
 砂浜、水面、あちこちにどっちゃり。水面に浮かんでいたり海中にあったり。

従魔
 白い花に憑依した小型の従魔。
 見た目は花が寄り集まって動物のような姿をしている。稀に出現。
(戦闘に関しては、プレイングで戦闘を希望する方にのみ発生します。強力な固体は出現しません)

●状況
 現場は郊外の砂浜。海である。
 夏場は海水浴で賑わっているが、今はシーズンオフなのでエージェント以外には誰もいない。人除けや交通整理の必要性はない。
 作戦時間帯は日中~夕方まで。
 三月だがトテモ寒い。すんごい寒い。風も強い。つらい。クソ寒い。
 網、小型カヌーなどある程度は貸出可能。
 水着に関しては「ギャラリー参照」OK。水着で来てもいいのよ。

※注意※
 「他の人と絡む」という一文のみ、名前だけを記載して「この人と絡む」という一文のみのプレイングは採用困難です。『具体的』に『誰とどう絡むか』を『お互いに』描写して下さいますようお願い申し上げます。相互の描写に矛盾などがあった場合はマスタリング対象となります。(事前打ち合わせしておくことをオススメします)
 リプレイの文字数の都合上、やることや絡む人を増やして登場シーンを増やしても描写文字数は増えません。一つのシーン・特定の相手に行動を絞ったプレイングですと、描写の濃度が上がります。ショットガンよりもスナイパーライフル。

リプレイ

●三月だから海

「わあ……現実離れした光景ですね。とても美しいですけれど」
「海が見事に花まみれだな。それにそこそこ冷える」

 状況はまさに、アトリア(aa0032hero002)と真壁 久朗(aa0032)が交わした言葉の通りだった。白い花に染まる海。咲き誇る水面。吹く風は冷たく、肌を凍てつかせる。尤も、久朗のありのまますぎる感想には「全く風情のない男ですね」とアトリアが肩を竦めたが。
「お花の海ー」
 そんな非日常的な風景に、フィアナ(aa4210)がころころ無垢に笑いながら駆け出した。
「転ばないようにねー?」
 くすくす、微笑ましげにルー(aa4210hero001)がその後をノンビリ歩いてついていく。
「うわー真っ白だよ……ちょっと量、多すぎない?」
「どこの世界の花だか知らんが……まったくもって迷惑な話だ」
 見た目こそは綺麗だけれど。皆月 若葉(aa0778)とラドシアス(aa0778hero001)はそろって白い息を吐く。
「まだ、寒い、な……」
「寒いの苦手だものね。さ、頑張りましょう?」
 モコモコ防寒具に顔を埋める木陰 黎夜(aa0061)に、アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)がニコリと微笑んだ。この白い花たちを集めるのが、今回のエージェントのお仕事。
「この季節は能力者でも水着は寒すぎますので自重して下さい」
「わかったよ、哭涼。普通に行く」
 それは、任務前に交わされた哭涼(aa3892hero001)とエリヤ・ソーン(aa3892)の会話。海といえば水着、でもまだ寒い三月、なので冬相応のいでたちで二人は現場に立っていた。いやあ、オペレーターもああ言ってたし、まさか水着で来てる猛者なんて――

「どんなものかは知っている。でも初めて見たのだ。広いな、海は!」

 ユエリャン・李(aa0076hero002)の感動の声がビーチに響いた。その姿はサーフパンツ、つまりバリバリの水着だった。
「……」
 その隣では、可愛らしいフリル水着にパーカーをはおり、足を包帯で隠した紫 征四郎(aa0076)が寒さでガタガタ震えている。「まぁなんとかなるでしょう、春ですし」とか思っていた時代がありました。でも「寒い」と言わない――言えないのは、ユエリャンがあんまりにも人生初の海を楽しみにしていたからだ。どれぐらいユエリャンが楽しみにしていたかというと、前日にソワソワしすぎて寝付けなかったレベル。

「YO! SAY! 冬が、肌を刺激する!」
「……なんで、水着にさせられてるの、かな!?」
「鳥肌魅惑のマーメイド!」
「COLD LIMITだよ!?」

 ここにもまた猛者が。ストゥルトゥス(aa1428hero001)とニウェウス・アーラ(aa1428)はお揃いの白ビキニだった。ホワイトデーだもんね、ってバカ☆ というクソノリツッコミがはかどるやつである。冬、限界ッス。MAXコールドにニウェウスはシバリング(身震い等による体温調整を行う生理現象)が止まらない。

「ふっ……海と言えばこのフルオープンパージャーの俺ちゃん出番だぜ! いくぜ! ふるおーぷ……」
「パパ、そういうの良いから水着きてね?」
「あ……はい……」
 虎噛 千颯(aa0123)は烏兎姫(aa0123hero002)にたしなめられ、仕方なしに水着だけを残して他の服を脱いだ。なお水着は白虎柄である。本当は全部脱ぎたかった。

「寒いですね……ゼストスオーブ、持ってきて良かったです……」
 月鏡 由利菜(aa0873)は吹き抜ける寒風に豊かな金の髪を靡かせる。琥珀色に輝く幻想蝶、その中のゼストスオーブのおかげで、大胆な白水着でも彼女は寒さを感じない。
「ほ、H.O.P.E.芸能科から『今度HPのエージェント活動写真に水着の私やラシルを使いたいので、今回の依頼の時にお願いします。お二人なら大丈夫でしょう』と言われて……」
 三月の海に水着で来たのは酔狂な理由ゆえではないことを、必死に由利菜は弁明する。その隣で、リーヴスラシル(aa0873hero001)が溜息を吐いた。
「私達は芸能科所属でもなければ、グラビアアイドルでもないぞ……ユリナもお人好しが過ぎる」
 なんて言うリーヴスラシルも、サファイアブルーが美しいセクシーなビキニなので、ほぼ説得力はない。まあ……仕方ない。列記とした理由があるんだから、仕方ない!
「うわ……元気だなぁ」
「……気が知れんな。見てるだけで……寒くなる」
 まあ、水着組は全員、若葉とラドシアスにマジレスされるんですけどね。
「うみといえばみずぎであろう! ちとさむいがさまつなことである」
 だが泉興京 桜子(aa0936)は水着姿でドヤ顔だ。対照的にベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)は「こんな寒いのによくやるわよね~」と半ば呆れている。もちろん、防寒防水完璧姿。水かけんじゃないわよ!


「どこも寒中水泳が流行ってるの……?」
 早くも賑やかな様子に木霊・C・リュカ(aa0068)が呟いた。寒いし日焼けが怖いので、長袖長ズボン状態の彼はパラソルの下、砂風呂の要領で埋もれている。
「本当に、一面花びら、だな。……光景は綺麗だ、が」
 真反対にオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)はサーフパンツ一丁、一面の白を見渡した。ちなみに二人とも泳げないのである。


「さ……っぶい! マジで風邪ひくって!! まほらまぁ~」
 水着面子が結構いるので錯覚しかけるが、季節はほぼ冬、体感気温は一桁、身を刺す様な寒さにGーYA(aa2289)はまほらま(aa2289hero001)へ泣きついた。「仕方ないわねぇ」と英雄は肩を竦める。
「共鳴すれば寒さもシャットダウンできるから沈んでるぅ?」
「そうするそうさせて!」
 言葉終わりには共鳴を。意識潜らせるの久しぶりだな――そう思いつつジーヤは英雄に自らのライヴスを重ねた。かくして、鮮やかな水色の髪を二つに結わえた戦士の姿が顕現する。
「うふっ……うふふふ」
 共鳴を果たし、意識主体であるまほらまが妖艶に笑い、顔を上げる。
「花より従魔! いるわよねぇ?」
 そして意気揚々、戦乙女の名を冠した銀の大剣を手に、まほらまは強く地を蹴った――。


「……白い花、ねぇ……これさ、この上で寝ると死ぬってこと、ないよね……?」
「ん? まぁ一応無害だっつー話ですしな」
 白い海。楪 アルト(aa4349)の言葉にフィー(aa4205)が答える。
「あ、そうそうこれ巻いときなせーな」
 最中、おもむろにフィーがアルトにダーフィーマフラーを巻いてやる。モフリ。途端にアルトの顔が赤くなったのは、マフラーで温まった所為ではない。
「さて、私たちも行きましょーかね?」
 アルトからなにか言葉が来る前に、フィーはアルトの手を取って。引く先には手漕ぎボートがあった。


「海いこうぜー! 三月だし」
 不知火あけび(aa4519hero001)の楽しげな声に、しかし日暮仙寿(aa4519)は「突然なんだよ?」といぶかしげな顔をした。
「いやー……元の世界で入りたかった依頼を思い出して」
 二月、海、……朧な記憶。あけびはほぼ冬の景色を見やった。
(友達は二月にアロハシャツ着てたけど流石にそんな猛者は――)

 いるわ。水着の猛者がいっぱいいるわ。

「……三月に海。何だろう、そんな馬鹿なと思いつつ、なぜかしっくりくるこの感じ」
 奇しくもあけびと同じような感覚に襲われている者がここにも。「ウッ頭が」と若杉 英斗(aa4897hero001)が頭を抱える。
「冬に泳ぐって、英斗の元いた世界って、一体どんなトコよ? 寒中水泳が盛んだったの?」
 信じらんない、と六道 夜宵(aa4897)は不思議そうな様子だ。「わからない」と顔を上げた英斗が、海を見やる。
「だが、泳げば何かわかるかもしれない! いくぞ、夜宵!」
「え!? ちょっと、私もなの?」

 これは無くした記憶を取り戻すための軌跡―― になるのかな?



●花集め01
「神秘的なようで不思議……だけど、迷惑かけたら駄目だよね?」
 一面の景色に清原凪子(aa0088)は苦笑をこぼした。真っ白いワンピースが海風になびく。白詰草(aa0088hero002)とお揃いの格好だ。
「さむいもふ……」
 白詰草が震えるのも無理もない。ノースリーブのロングフレアワンピースゆえに。「水着は寒いけどこれも海っぽいよね?」とは凪子の談。風邪をひかないようにとカイロは仕込んであるものの。スカートをふわりと揺らす風の温度は一桁なのだ……。
「流石にさむいな……?」
 多々良 灯(aa0054)も海らしい格好、すなわち水着。鳥肌でガタガタ。当然の帰結。
(はっ……! 心頭滅却すれば火もまた涼しということは、逆もまた然りではないだろうか)
 寒いと思うから寒いのだな。そう一人納得しては、灯は気合を入れ直す。
「よし、燃えてきたぜ燃えてきたぜ燃えてきたぜだめださむい」
 無理でした。一方で傍らのむすび(aa0054hero002)は楽しげに、「白いお花がいっぱいもふー」と花の景色を見渡している。
「リーフのお姉ちゃんが髪飾りにしてる感じのお花もふね。じゅうま消えてるやつ集めてお土産にするもふ~! 相棒、がんばるもふ~!」
「おう!」
 というわけで二人は共鳴――むすびの加護により、もふもふの白くて丸い犬のきぐるみに包まれる灯。あったかいぞ!
「よし! お掃除頑張るぞ!」
 もう少し暖かくなったら、マイエンジェルこと愛犬のおまんじゅうちゃんたちも連れて、海で遊ぶのだ。楽しみだな!――そんな期待を燃料に、灯は白い花を集めてゆく。


「……寒い」
「帰りたい……」
 赤と黒の少女、アリス(aa1651)とAlice(aa1651hero001)は暖を取るように寄り添いあって浜辺に座っていた。タスヒーンシールドで温まってはいるものの、寒いものは寒い。こんなに寒いのだから、海に出るなどごめんこうむる。
 ので、二人のアリスは鏡合わせの動作で網を放り、引き寄せて、花を回収して、また網を放り……という動作を「寒い」「帰りたい」という言葉も一緒に繰り返していた。
 回収した花は一箇所にまとめてH.O.P.E.に提出するとして。問題は、せっせと仕事をして周囲の花がなくなったときだ。
「花のあるところに移動しなきゃ、Alice」
「ええ~……動きたくない、アリス」
「わたしだって同じ気持ちよ……」

 そんなアリスたちとは全くの対照的に。

 氷鏡 六花(aa4969)とアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は寒いからこそ上機嫌だった。それもそのハズ、六花はペンギンのワイルドブラッド、アルヴィナは氷雪の女神、寒さはむしろ大歓迎なほど好きなのだ。
「……ん。見て、アルヴィナ……こんなに、とったよ……」
 波打ち際、六花は両手いっぱいに花を抱えて楽しげだ。黒と白のペンギンイメージなフリル付ワンピースという可愛らしい水着姿である。
「ふふ。私も、ほら」
 傍らのアルヴィナは普段着――透き通った羽衣一枚という妖艶な姿。羽衣を籠代わりに、こんもりと白い花を集めている。
 花交じりの水をかけ合ったり、「どっちが多く花を集められるか」と競って遊んだり――凍てつく風に吹かれる、白く幻想的な風景の中、ころころと笑いあう二人の姿はまるで氷の妖精が戯れあっているかのよう。
 けれど、これは一応は仕事なので。ひとしきり遊んで満足したら、そろそろ本気モード――共鳴だ。その目にオーロラの輝きを宿し、アルヴィナのライヴスを纏った六花の姿はさながら雪精。
「よーし、いくよっ!」
 嬉々と無邪気に表情をほころばせ、六花は海へダイブする。海中、羽衣を靡かせ、ペンギンのように自在に泳ぐその姿は踊りのように優雅である。彼女はそのまま軽やかに、手にした大網を広げ文字通りの一網打尽、海底まで見逃さずに白い花を集め始めた――。


「……どうしたんです、京子? どんなにふざけていても仕事自体はきっちりこなすのが京子でしょうに」
 胴付長靴姿のアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)は、花を集める作業の手は止めぬまま顔を上げた。そこには同じく胴付長靴姿の志賀谷 京子(aa0150)が、浜辺にて神妙な面持ちでうつむいていた。
「なんでわたしここにいるんだろう……。というかアリッサ寒くないの?」
 モコモコに着膨れた京子は、未知の生物を見るかのような眼差しで比較的軽装のアリッサを見やった。眉根を寄せた英雄と目が合えば、彼女は不思議そうに首を傾げる。
「そんなに寒いですか? 鍛え方が足りないのでは?」
「鍛え方が足りないって言われてもさ、わたしありきたりなごく普通の女の子だし……」
「どの口でそれを言いますか」
 バッサリ即答である。ぐう、言いよどむ京子。アリッサは溜息を吐いた。
「帰ったら温かいシチューを作りますから、頑張りましょうね」
「!!」
 パッと、京子がネコのように目を輝かせて顔を上げた。
「――おかあさん! アリッサはマジおかあさん!」
「やめなさい本気ではったおしますよぶんなぐられたいんですか?」
 対するアリッサは物凄く嫌そうな顔で怒涛の拒否である。
「なぐられたくないけど、シチューは食べたい!」
「分かりましたよ……じゃあシチューを目指して手を動かして下さいね」
「でも、指がもう凄く冷たくて……感覚がなくて……」
「死にはしません」
 にべもない。「はーい」と京子は半ばふてくされて返事をし、作業を続ける。
「でも面倒なことには変わりないよ……もういっそ全花弁合体大怪獣従魔とかにならないかな。それで陸に上がってきてくれたら楽だよね」
「余計大惨事になるだけじゃないですが」
「倒したら光になって消えるの!」
 ぱーっと! きらきらーっと! 手振り付きで解説する京子だが、一秒でも冷たい海に手を突っ込みたくないがゆえの苦肉の策である。
「はいはい、妄想はその辺で手を動かしましょうね」
 まあ、お見通しのアリッサには切り捨てられるのだが。
 そんなこんな、二人はせっせと地道にザルで花をすくい続けるのだった。京子もなんやかんや、ぐだぐだしつつも頑張ったのであった。


「お花集めがんばろー! おー!」
「お、おー……?」
 元気良く手を突き上げる御代 つくし(aa0657)。彼女の隣、カスカ(aa0657hero002)もつられるようにソロッと片手を上げていた。
 というわけで、二人は砂浜に打ち上げられた白い花を中心に集めていた。寒くて鼻をズビッとすすりつつも、つくしは元気一直線。楽しそうにしながらその手いっぱいに花を集めている。最初こそ「寒い!」と厚着に身を包んでぷるぷるしていたものの、花を集めているうちに温かくなってきたようである。
 そんなつくしのすぐ傍でカスカも同じく花を拾う。最中、横目につくしを見やる。
(ぼくがまだ、一回も戦闘に出たことがないから、こういうお仕事ばかりなのかな……。つくしに気を、遣われているのかな……?)
 これでも英雄だ。戦える力はある――ハズ。戦闘に出たくないワケでもない。けれど戦闘に出る意味を見つけられずにいて、どうすれば「共に戦いたいこと」を伝えられるのか……カスカはこみ上げてきた溜息を飲み込んだ。
 しかし、カスカは知らない。つくしが無意識の内に、「カスカとの依頼は、危なくないものを」と行動してしまっていることを。
 そして顔を上げたつくしとカスカの目が合ったのはまもなく。太陽のように微笑むつくしが、英雄へ手を差し出して。
「カスカ、次あっち行ってみよー!」
「ぅ、う、んと、あんまり走ると危なかったり、したり……っ」



●花集め02

「フナムシや、カニがいるはずだよ」

 と。シキ(aa0890hero001)は砂浜の花を拾い集めつつ、手近な岩をひっくり返したり浅瀬を覗き込んだりと生物観察に勤しんでいた。
「さむさで、うごきはかんまんである、と」
 見つけた生き物はスマホで撮影したり、メモ帳に記録したり。
「まじハンパない」
 十影夕(aa0890)はそんな英雄の姿を遠目に見つつ――虫は苦手なのだ――あまりの寒さに仏頂面が加速していた。寒すぎるので近くにいたベルベットに冷え切った手をピトリ。
「ぎゃああ!? 何よ冷たいじゃない!」
 バッと振り返るベルベット。それから盛大に溜息を吐くと、「触るならこっちにしてちょうだい!」と自慢の尻尾をかわりにモフリ。
「ありがとベルベットさん好き」
 モフリモフリ。すると「私も!」とルーシャン(aa0784)が、ベルベットの尻尾にモフーッと抱きついた。
「ふわふわあったかーい♪」
「仕方ないわねちょっとだけよ!」
 なんのかんので優しいベルベットである。
「お花でいっぱいの海って綺麗ね! 従魔が発生しなければ、だけど……」
 ひとしきりベルベットの尻尾で暖を取りつつ。ルーシャンは白い海へと視線をやった。あの花を集めるのがお仕事、だけれど。
「せっかく海に来たんだから海遊びもしよ♪」
「うむ! いっしょにあそぶのであるぞ!」
 ルーシャンの言葉にうきうきと頷く桜子。意気投合する二人。
(海遊びはまた適切な時期にお連れするから、その時に……と申し上げたのだけど)
 アルセイド(aa0784hero001)は、桜子と共にきゃっきゃと駆け出したルーシャンを穏やかに見守っていた。我が女王のご意向は尊重せねば。
 というわけで。冬の残滓を色濃く残した海はとにかく冷える。アルセイドは用意した燃料入り灯油缶を使って焚き火を作り、簡易テントを設営していた。ふかふかのバスタオルも完備。
「まあ、救護所のようなものですね……いつでもいらして下さいね」

 その一方、ルーシャンと桜子は大きなバケツを手に提げて、砂浜にしゃがみこんでいた。
「はなをあつめるついでにあそぶのである! いっせきにちょうであるぞ!」
「はーい♪」
 桜子の元気な声に答えつつ、ルーシャンは砂の上の白い花をバケツにぽいぽい入れていく。そうして花をどけていくと、砂上には貝殻、シーグラス。
「わ、綺麗……! この桜色の石は桜子ちゃんにあげる♪」
「む!! ほうせきのようだな!!」
 景色に透かせばキラキラ、世界が桜色。
 と、その向こう側に桜子はシキの姿を発見した。「おーい!」と手を振って呼びかける。
「なにをしておるのであるか? しきどのもいっしょにあそぼうであるぞ!」
「あそぶ? なにをして?」
 顔を上げたシキがやって来る。
「砂のお城作ったり、綺麗な貝殻やシーグラスを集めるの。どう?」
「かいがらか! わたしもほしいな。しーぐらす、というものもきになるぞ」
 ルーシャンが答えればシキは楽しげに瞬いて、二人と共に砂を覗き込み始めた。
「うちがわが、きらきらしているものがいい。らでんざいくが、できないものかな」
 何を作ろうかな、と夢いっぱい。最中にルーシャンはふと海を見やる。アリスが心配するから、と思いつつも……足首程度ならいいよね。そう思い、波打ち際に赴くが……。
「つ、冷た」
「我が女王。くれぐれも、無茶はなさいませんように」
 すぐさまアルセイドの声が飛んでくる。「何でしたら海水に浮かぶものは俺が回収作業に加わりますからね」と、彼はどこまでも主に甘いのだ。

 同刻。
「これ投げるの難しいのよね~ どっせーい!」
 ベルベットは投網を豪快に水面へ放り、大量の花を回収していた。さて、ここいらで一息つくか。桜子とその友人たちへ声をかけ、アルセイドが設営してくれたテントへと。
「桜子だけなら別にいいけど、るーしゃんちゃんとあるせいどちゃんもいるからねぇ」
 まだあそぶーとジタバタする桜子を俵担ぎに、一同へ毛布を渡すベルベット。
「サーモスにクラムチャウダーを作って参りましたので、どうぞ召し上がって下さい」
 一方でアルセイドはスープを差し出す。ルーシャンは早速、温かいをれを一口。表情をほころばせた。
「えへ、アリスの作ってくれたスープ美味しい……♪」

 さてさて、エージェントの花集めは続く。

「オリヴィエ! ああなんて可愛いのであろう!」
 やはり母親似以下略。ユエリャンがビデオカメラ二刀流で、ありとあらゆるアングルでオリヴィエを撮影している。
「ユエが盗撮してくる……」
 オリヴィエは渋い表情。ユエリャンが男物の水着であることにささやかな感動を覚えてはいる。
 と、そんなオリヴィエにだ。
「オリヴィエ! どっちがいっぱい花を集めるか勝負なのです!」
 びっし、と征四郎が指を突きつける。視線が合えばバトルなのだ。やれやれ、オリヴィエが肩を竦める。
「またお前は……勝負は、しない、……泳げないからとかじゃない、からな!」
「そうですか。征四郎は海中も行きますよ」
 負けは許されないのです。征四郎のその体(水着姿)はガタガタ震えていた。
「せーちゃん大丈夫? 寒い? 砂の中入る……?」
 砂風呂から顔だけ出た状態のリュカが心配げに声をかける。「武者震いなのです!」と征四郎は強気の姿勢だ。
「チビたち水着じゃん。まじなの」
 夕はそんな彼らのサマーないでたちに戦慄としている。
「なになに、若者がそんな根性じゃお兄さんが楽できないじゃない!」
 すぐさま楽しげに笑いかけたのは砂風呂リュカだった。

 とかく、まあ、覚悟を決めて仕事開始だ。

「あとで共鳴してから本気出すし……」
 寒さに歯を食い縛りつつ、夕は海へ網を投げては引き、投げては引き。靴を濡らしたくはないので海には入らないが、まぁできる限りは頑張る所存。
「オリヴィエまじめじゃん。遊んできたら?」
 声をかける先にはオリヴィエ、「網、広げるぞ」とカヌーで網を広げる手伝いを。英雄は夕の声に視線を送る。
「ちょっとな、勝負してる、から……夕は楽しそうだな」
 次いでオリヴィエが見やったのは、また生き物探しをしているシキの姿。その傍にはユエリャンもいる。
「これは一体なんであるか?」
 興味津々とシキの手元を覗き込むユエリャン。が。浅瀬の岩場という不安定な場所で前のめりになったのが運の尽き。足を滑らせたユエリャンは豪快に海に落ちる。奇しくもそこは征四郎の目の前、少女はいきなり上がった巨大水柱に「ぴゃあ!?」と悲鳴を上げた。
「ユエリャン!? なんで降ってきたのですか!!」
 もう! と言いつつも、漬物石より泳げないユエリャンを砂浜まで引っ張ってあげる優しい征四郎だった。

 そんな光景を眺めつつ。シキが夕のもとへと戻ってくる。
「なかなか、ゆういぎなじかんだった」
「おかえり。いっぱい虫いた?」
 迎える夕。彼の言葉に「みせてあげよう」とシキが自慢げにスマホを取り出すが、「や、写真はいいよ」と虫嫌いの夕は即答である。
「コンソメスープ持ってきたし、一緒に飲むか。寒すぎるし」
「めいあんだ」

 というわけで、夕とシキは並んでスープを飲んでいた。ふと視界に入るのは、パラソルの下で相変わらず砂に埋もれているリュカだ。寒くないのかなぁ。そう思っては夕は声をかける。
「リュカさん寒い? 砂かけようか?」
「優しく、丁寧に埋めてね……」
 フフッと微笑むリュカ。この後めちゃくちゃ砂盛られた。

「お花きれい、ねー」
 賑やかな様子、幻想的な風景、カヌーの上のフィアナは上機嫌に水面の花をせっせと集めている。
「埋もれているけれどね、君」
 同乗して舟を漕ぐルーはくすくす笑った。フィアナは白い花を集めて集めて、花まみれになっている。すると彼女は裁縫道具を取り出したではないか。
「せっかくいっぱいだ、から花冠作るの」
 ふんふん。鼻歌と共に。ちくちく、器用に花冠を作ってゆく。
(なんだか趣旨が逸れてる気がするけど……まぁ、楽しそうだから良いかな)
 花冠を作るフィアナの姿は、ルーにとっては見慣れた光景。穏やかに見守りつつ――ふと、過去に思いを馳せる。
(あの頃は草花を良く摘んできてたなぁ)
 故郷の森。懐かしい緑。まあ、花に覆われた海、なんていう状況は流石に初めてだけれどね。
 と、その時だ。もふ。ルーの頭に飾られる、真っ白い花冠。
「えへへ、兄さんにあげるっ」
 ルーの黄金の髪に白が映える。にこーっと微笑むフィアナに、ルーもつられるように微笑んだ。
「はい、ありがとう。自分の分も作るんだよ?」
「うんっお揃い、に、する」
 早速次の花を手にしつつ。フィアナはルーにもたれかかった。
「……兄さん太陽なの、であったかなの、よ」
「そうかい、ありがとう。……に、してもずいぶんたくさん作るんだね?」
「うんっ! あげ、たい人が、いるの」


「うう、やっぱり寒いのです……」
 ずび。征四郎も同じように、砂風呂リュカにくっついて暖を取っていた。三月は、水着を着るには早すぎた。そうしてガタガタしていると……もふ。視界が真っ白になる。
「あげるの!」
 それは、フィアナが被せた白い花冠。彼女は征四郎へ、リュカへ、その英雄たちへ、花冠を被せていく。
「綺麗なお花、だしホワイトデー、大好きの日と聞いたの、で」
 くるり。髪を靡かせ振り返り、フィアナははにかみ笑いを一同へ向けて。

「えへへ、みんなみんな、大好きよっ」

 純白の花のように、無垢な笑み。
 見えずとも、花咲く笑顔は伝わってくる――リュカは砂から這い出して、礼を述べる。
「ふふーふ、女の子から素敵な贈り物を頂けるとはお兄さん冥利につきるねぇ」
 どう、似合うでしょ? 得意気な彼の隣ではオリヴィエが、「……ありが、とう」と小声ながらも礼を述べていた。
 同様に、ユエリャンも微笑ましげに目を細めて。
「なんだか天使のようであるな、フィア――」
 ぱたり。言葉の途中で、倒れるユエリャン。
 そう、ユエリャンはもう限界だったのだ――寒くて……。
「ふふ……こたつのまぼろしがみえる……よし ねよう……」
「ユエリャン! 寝たら死にますよ!」
 おきてください! と必死にユエリャンを揺さぶる征四郎であった。

 あ、そういえば……。最中、リュカはふと思う。お返しはどうしようか。
「何か美味しく調理できそうな従魔が都合よく海からあがってこないかな」
「そんな都合のいい話があるわけないだろう」
 溜息と共に海を見やるオリヴィエ。

 その視線の先、遠くの方では――従魔と戦闘を繰り広げているエージェントの姿が目に映った。



●従魔退治!

「狩りの時間……!」

 自由自在に海を行く共鳴中の六花は、花が集まった姿をした従魔へ狙いを定めた。呪符「氷牢」。砕けた符は氷杭となり、水泡の尾をひいて従魔へ次々と突き刺さった。凍てつく一撃に従魔が朽ちれば、憑依が解けた花がフワリと海中に広がる。

「……後は任せた」
 砂浜では二人のアリス――共鳴を果たし、血のように火のように赤くなった少女――が、黒猫「オヴィンニク」を召喚する。火纏の猫は毛を逆立て、白き従魔を睨めつけては炎を以て討ち倒してゆく。
「寒いのは嫌いなんだ……」
 ダーフィマフラーを巻きつつ、赤の少女は気だるい溜息。


「まず何をしようか」
「一応従魔がいるということですからそれを集めて皆さんの作業の邪魔にならないところに移しましょう」
「はーい」
 エリヤは哭涼の言葉に手を上げて返事をすると、共鳴――その瞳と髪の色に哭涼のものを宿す。
『花を集める仲間達のところに従魔達を近づけさせないように』
「そのつもりだよ、哭涼」
 幼い女の子から可憐な乙女へ成長を遂げたエリヤは、ライヴス内での英雄の声にそう答え。守るべき誓い。周囲の従魔をおびき寄せては、仲間達から遠ざける。
『対処できる数の内に』
「うん、まかせて」
 言いつつ、その手にフェアリーテイル。放つのは妖精が踊るかのような魔法弾。白い世界の中、妖精をまとうかのようなエリヤの姿は幻想的だった。


「花に船を明け渡したいレベル!」
 あけびの叫びが海に響いた。カヌーにて網で花集めをしているものの、瞬く間に船は花まみれ。
「着衣水泳はお断りだ」
 仙寿が溜息を吐く。するとあけびが彼を見るや、
「そうだ、オフィーリアごっこ出来るよ! 私がちゃんと撮影する!」
「俺が浮かぶ役かよ! 男がやったって笑い者になるだけだろ!
「似合いそうなのになー。クレイジーさが足りないよ」
「足りなくていい。というか自分は入る気ナシか」
 まぁそんなこんな。二人はコーヒーを飲んで休憩を挟みつつ、任務をこなしていたのだが。
「……!」
 視界の端。従魔の気配を捉えたあけびが顔を上げる。――斬る! 光纏、水上歩行。刹那の思考は、しかし、「どぼん」と海に落ちたことで全てが掻き消され。
「あけび!?」
 花まみれの海では上手く泳げず。混乱してばたつくあけびを、仙寿は慌てて船の上に引き上げた。
(もうできないんだった……!)
 あけびにはそれがちょっとショックで、幻想蝶に戻ろうとして――仙寿に手を引かれた。瞬間には、共鳴。二人は一人に。刹那の間に守護刀「小烏丸」が雷霆の如く閃いて、従魔を一太刀のもとに切り捨てる。

「……なに突然落ちてんだよ! 馬鹿か!」

 それは共鳴が解除された途端の仙寿の声だった。あけびは、気まずそうに視線を逸らす。
「ご、ごめん……水上歩行できると思って」
「地不知は俺達の実力じゃまだ無理だろ!」
 怒りつつも、持てるだけのタオルをあけびに被せてあげている。
「昔はできたんだよ……」
 寒いし、少し元の世界が懐かしい。俯くあけびに、仙寿が片眉を上げる。
「おい、大丈夫か?」
「変な人がいなさすぎる」
 元の世界の話を聞く限り、真面目に言ってんだろうな――仙寿は溜息を吐きつつ。
「……花、頭に乗ってるぞ。結構似合うじゃねーか。女子には花騒動も案外悪くないかもな」
 彼なりの慰めの言葉。あけびがふにゃりと微笑んだ。
「ありがと、仙寿様」

 ――その瞬間。

「久しぶりに暴れさせてもらうわぁ!」
 ざば。海中より現れたジーヤ――今はまほらまと呼ぶ方が正しいか――が大剣ヴァルキュリアを振り上げた。その狙いは当然、白花の従魔だ。『飛翔する斬撃』は一撃で従魔を切り捨てる。はらりはらり、ただの花に戻ったそれは、ちゃんとお片付け。綺麗だからと幻想蝶内へ。
「ごきげんよう」
 そして見知った顔に会釈を一つ。まほらまは再び、獲物を探して海を行く。まほらまはずっと戦闘欲求不満だった。ジーヤが戦う意志を見せ始め、サポートに回りがちだったことが原因だ。だから今、楽しい。思う存分に従魔共を薙ぎ払えるこの瞬間が。
 そんな光景を――ジーヤはライヴスの奥底より眺めている。依頼を受け始めた頃、まほらまは彼を強制的に意識下に置いて、ほぼ乗っ取るような形で共鳴していたっけ。
(英雄ってそういうものかと、あの時は不思議に思わなかったな)
 記憶を手繰る。それから、一撃で討てる従魔を使ったテレビ撮影では、ジーヤの意思で『表』に出られたのだ。
『今ならわかるよ、俺の精神状態を考えて、徐々に表に出してくれてたんだよな』
「そう思えるのなら少しは成長できてるんじゃない?」
 返答は、従魔を叩ききる剣の音と共に。


「これ、結局なんだろうね?」
 従魔退治もひと段落すれば、エリヤは共鳴を解除して花集めに専念していた。
「害はないそうですから、今は集めるだけ集めてみましょう」
 砂浜上の花をポリ袋に集めつつ。哭涼の言葉に、エリヤはふと、手にした花を空に透かす。
「春の前の淡雪……みたいなものでないといいけど」
 いずれ消え去ってしまうものではないか? なんて推測してみる。花は答えを語らない。けれども白い世界で白い花を集めるなんてロマンティックじゃないか。
(……今は集めるのを楽しもうっと!)
 そう結論付けては、エリヤはせっせと花を拾い続けるのであった。



●花集め03

「というわけで、水着です」

 男は黙って海パン一丁。眼鏡の代わりにゴーグルを装備した英斗。その傍らにはスクール水着の夜宵が、ガタガタと震えていた。
「ちょっと! バカじゃないの! この寒い中、海で泳ぐなんて!」
「冷静に考えろ。海に入らなければ、海上の白い花は回収できない。そして、海に入るのであれば、水着だ」
「……悔しいけど一理あるような」
「そして、女子高生の水着といえばスクール水着だ」
「そこは納得できないけど、どうせ反論しても無駄なんでしょ」
「冷静に考えろ。ビキニよりスクール水着の方が布面積が広い、つまり温かい! 冬に適した水着! 見えないからこそ、イイッ! そういう素朴な味わいを俺は大事にしていきたいと思いましたッ!」
「ちょっと何言ってるか分からないけど頭にケアレイしてもらった方がいい?」

 そんなこんなで。

 ざぶざぶ。二人は花に埋もれる海を泳ぎつつ、白い花をせっせと網に入れてゆく。せっせ、せっせ。ヨイショヨイショ。
「ちょっと、マジで寒いんだけど」
 もう手の感覚がない。夜宵はもはや生命の危険すら感じ始めていた。
「冬だからな。寒いと言うと余計に寒くなるから、いまから寒いは禁止な」
「狂ってる……」
 せめて二月じゃなくって良かった。そう思った夜宵なのであった。


「時期が時期であれば観光資源にもなったのでしょうが……」
 フィリア(aa4205hero002)は白い花が浮かぶ海をカヌーで行く。
「漁船の機関に詰まったり絡まったりすればそれだけで被害が出るでしょうし、仕方のないことではあるのでしょうが」
 言葉をこぼしつつ、フィリアは一人、海へ網を放り、花を集める。ふと見やる彼方の水面には小型の手漕ぎボート。そこにはフィリアの相方、フィーがいる――。

「……見た目だけならそこそこ綺麗なんですがなあ、クソ寒いせいで風情もクソもねーですな」
 ボートを漕ぎつつ、フィーは海面に網を投げて白い花を集めていく。集めた花は袋に詰めて、定期的にフィリアに渡すという作戦だ。……に、しても寒い。まあ寒いのは我慢すればどうとでもなるが――などと思いつつ、フィーは視線をアルトへと。彼女は黙々と、ダストスポットに水面の白花を詰めていた。
「……なぁに?」
 ふと、髪をかき上げるアルトとフィーの視線があった。小首を傾げるアルトに、「いーや?」とフィーは口角を薄くつる。見てただけ。それにアルトは口を噤んで、視線を逸らして……おもむろに。フィーへとしなだれかかる。
「……フィー、我慢できない……」
 そのまま緩やかにもたれかかれば、フィーは抵抗することなくアルトの体に押し倒された。ボートが少しだけ揺れる。フィーの視界には青い空と、それからアルトの薄紅に染まったかんばせと、潤んだ上目、切ない吐息。
「今だけは……私だけ見て」
 フィーを強く抱きしめる、アルトの細い腕。
「……ったく、仕方ねえですな」
 いじらしい体温に一つ微笑み。フィーは彼女を優しく抱き寄せる。求められるまま、唇を重ねた。

 白い花に包まれて。二人だけのボートが、波に優しくたゆたう――。

「よっし! 網でぱぱっと集めちゃ……お、ぉおっ!?」
「小舟で派手に動くな阿呆」
 若葉とラドシアスを乗せたボートがザブザブと揺れていた。勢い良く網を投げようとしたものの、バランスを崩した若葉にラドシアスは呆れ顔だ。そのまま落ちるんじゃないか? とラドシアスは「あぶななななな」と日本語も崩れている若葉を見守っていた、が。

 がしっ。若葉に、腕を掴まれて。
 アッ。と思った瞬間には、ドボンだった。

「……落ちるのは勝手だが……人を巻き込むな」
「はい、誠、申し訳ございません」
 海の中で説教をすることになるだなんて、流石のラドシアスも想像だにしなかった。心底いやっそーな顔である……が、英雄は何か閃いたようだ。
「だが、考えは悪くないか」
 というわけで、共鳴を。ALブーツの出番の出番だ。海の上から網を広げ、花を集め、船に積んでゆく……。


「アーテル……冷たくねーのか……?」
 カヌーの上、水面の花を集めている黎夜は英雄を見やった。泳ぎが得意な彼は次々と水中や水底から花を集めてくる。
「冷たいけれどこれくらい平気よ、黎夜」
 カナヅチである黎夜がカヌーから落ちないよう、船体を揺らさないように花を置きつつ。さてもう一仕事、とアーテルは身を翻す。――その背を、黎夜は見ていた。彼の背中にある、傷跡ごと。自分が原因であるその傷を。
「……キズ、痛くない……?」
「いいや?」
 消え入りそうな少女の声に。アーテルはそっと微笑み、素の口調。優しく伸ばした指先で黎夜のチョーカーに触れた。共鳴。
『水底のはあらかた片付いたから。水面の花をパーッと集めちゃいましょ!』
 ライヴスの中、アーテルは明るく笑う。つられるように黎夜も薄く微笑んだ。
「ALブーツの出番……いつぶりだろ……」
『香港以来かしら? 長く使ってなかったものね』
 身に着けるはスラリとしたブーツ。――白い海を、花の海を、幻想的な世界を、二人である一人が軽やかに駆ける。網を広げて、一気に花を集めながら。
「……きれい」
『ええ、そうね』
 吹き抜ける風に黒髪がたなびく。二つの瞳で、少女と男は世界を見る。


「「……」」
 波の音。久朗とアトリアの間には相変わらず沈黙。「寒いな」「そうですね」すらもない。というのも久朗は生まれてこのかた風邪を引いたことがないほど丈夫で、アトリアも全身機械なものでして。
 これでも一応、【卓戯】の頃よりは打ち解けてきてはいる。が。朴念仁&天邪鬼。両者のの隔たりは大きい。
「前から聴きたかったのですけど」
 最中だ。沈黙をようやっと破ったのは、アトリアの声。
「愚神と戦うことがワタシの唯一の役目なのに、なぜいつもワタシを雑用のような任務に連れて行くのです?」
「それは前の世界の話だろ?」
 応じる久朗の声はいつも通り淡々としていた。
「それにこっちの世界で暮らすなら、多くのものを見て慣れていく必要があるだろうし。何よりお前みたいなじゃじゃ馬女とうまく戦える気がしない」
「な! 馬鹿にしてるんですか!」
「事実だ」
 告げられた言葉。アトリアはぶすっとむくれてそっぽを向く。それを横目に、久朗は肩を竦めた。そうしてまた沈黙だ。二人が花を集める音と波の音だけ。
「……ワタシはもっと強くなりたい」
 静寂を破ったのは、再びアトリアだった。
「アナタがワタシを必要だと言うくらい。独りで留守番もいやですし。こちらの世界ではまだまだ実力不足であることは、以前の重傷で痛感しましたから」
 だから、雑用ぐらいなら我慢してやりましょう。そっぽを向いたままの、英雄の言葉。
「……俺もまだお前の力を把握出来ていないから……少しずつ焦らずにやっていけばいい」
 答えた久朗の言葉は、ほんの少しだけ柔らかかったような気がした。

「こんにちはっ!」

 そして再び静寂が戻る――前に。二人に声をかけたのは、カスカを連れたつくしだった。
「真壁さん達は砂浜で花集めですか? アトリアさんも一緒だったんですね!
「ぁ……う、……こんにちは、です……っ! お花……、困っちゃったりする、けど……でも、綺麗、だったり……!」
 いつも通りニコヤカなつくし、一生懸命言葉を放つカスカ。
「お花集めが終わったら、チョコマシュマロでも食べませんか?」
「ぇ、と……き、きっと、ノンビリできるかなって、思ったり……!」
 しばらく、久朗とアトリアの間に沈黙が流れることはなさそうだ。


「海が呼んでいる……俺ちゃんに脱げと囁いている」
 千颯は神妙な顔で大海原を眺めていた。
「寒い? 冷たい? ふっ……真のフルオープンパージャーにはそんなもの関係ない!! 脱ぐ機会がある! ならばいつ脱ぐか! 今でしょ! 今こそ解き放て! 俺ちゃんのふるおーぷ――」
「パパ、お外で脱ぐのはやめてっていつも言ってるよね?」
 ニコ。烏兎姫が笑顔一つで、千颯のキャストオフを制してみせる。しかし千颯は解せぬといった様子を口を尖らせて、
「……え? 駄目? でもあれだよ? フルオープンパージ道を極めた俺ちゃんの前では衣類を脱ぐなど息をするかの様に造作もないことだし0,5秒でキャフトオフでき――」
「パパ~?」
「あ、はい……」
 仕方なしにキャストオフは諦める千颯。烏兎姫はその実、『父親』の奇行には寛容であった。ただ、カッコイイパパの裸体を多くの人に見られるのが好きじゃないだけなのだ。つまりパパ大好きっこなのだ。「水着姿なら、まあ、いいよ!」とは伝えたものの、本当はウェットスーツがいいレベルだ。
 けれども、大好きなパパと素敵な海。烏兎姫は自然と表情をほころばせる。
「パパ見て! 一面白い花だよ! 幻想的だね!」
「うんうん、綺麗だな!」
 ニコヤカな烏兎姫の様子に、千颯もつられるように微笑んだ。彼は英雄を、実の子供のように可愛がっている。だから彼女の「嬉しい」は、千颯の「嬉しい」だ。
「格好良いパパがみたいな! 海一面の花を取ってきて!」
 まあ、天使の笑顔でとんでもない無茶ぶりをしてくるのだが。しかし千颯は笑顔で「オッケー!」と即答するほど、親馬鹿なのであった――。


「ほら、見てごらんマスター。一面に広がる白い花。まるで、粉雪の代わりに降りてきた氷の妖精みたいじゃないか」
「ごめん、ストゥル……二重の意味で、寒い、よ?」
 任務は続く。寒さは和らがない。ニウェウスの眼差しは既に虚ろだ。そんな中、ストゥルトゥスはゴソゴソととあるものを取り出した。
「ということで、漁師の方から網を借りてきたんだゼ☆」
「地引網……? まって、これ大きい……」
「ボク達の身体能力ならイケルイケルゥ。はい、端っこ持って」
 ゴソゴソずるりずるり。英雄に言われるがまま、網を握るニウェウス。
「何で、こんなこと……してるんだろ」
「ハイそれじゃー広げて広げて。――いざ! ファッキンフラワー撲滅運動!」
 瞬間だった。ストゥルトゥスが猛ダッシュして網(とニウェウス)を引き摺り始めたのは! 花を根こそぎノックアウトする作戦だ!
「ウヒェエアアア!!」
「さ、さむっ、さむぃぃぃぃっ!」
 走れば温かくなる、そう思っていた時代が二人にもありました。むしろ走ることで風が吹きぬけてファッキンコールド。だというのに。
「今から海にツッコミます☆」
「いぃゃぁああああ!?」
 でも止まらない勢い。花ハント暴走特急は海を超え砂浜を超えなんやかんや。ちなみに網に引っかかった従魔は銀杖ケリュケイオンでボコ殴り(魔法攻撃)しておきました。
「ふう、ケリュケイオンがなければどうなっていたことか……サンキューケリュケイオン!」
「ねえストゥル、どうしていつもケリュケイオンを殴打武器にしてるの……?
「それはケリュケイオンの射程が至近だからさ」
 今、二人は花を集め終え焚き火の前。灯りに照らされ、ストゥルトゥスが「ふっ」と笑む。
「手ごわい相手だったぜ……」
「私は、ストゥルが……悪魔に見えた、よ」
 ニウェウスのシバリングが治まる気配は一向にない。



●花集め04

『結局、泳ぐのか……』

 ライヴス内のラドシアスの声。今、共鳴中の若葉は泳ぎながらすごいむしとりあみで花を集めまくっていた。
「いや、でも……共鳴すれば寒くないしっ! 問題なし!!」
 その開き直りは、一回濡れたからもうどうにでもなーれ☆なアレなのか。

 エージェントたちの奮闘は続く。少しずつ、海が元通りになりつつある。
 とはいえ長期戦。休憩も必要だ。

「ちゃんとお弁当持ってきてるよ? みんなで作ったお重だから絶対おいしいよ!」
 凪子はお弁当を広げてゆく。「なんとなく海でサイダーってロマンチックかなーって!!」という理由から、ドリンクはホットティとサイダーを用意した。「なぎこ、なぎこ、ごはんたべたいもふー」と白詰草が待ちきれないと尻尾を振っている。
「シロちゃんの好物の唐揚げもちゃーんと準備してるから。灯ちゃんたち呼んできて!」
 というわけで。白詰草に呼ばれて、共鳴を解除した灯がやって来る。
「ふう、運動したら少しは暖かくなった……気が……するな」
「良い匂いはどこからもふ? おなかすいたもふー」
 さぁお待ちかねのお弁当タイム。灯も、第二英雄が腕によりをかけて作ってくれたお弁当を広げてゆく。
「……おお」
 灯は弁当箱を開けて感嘆の声を漏らした。――菜の花おむすびに、男爵芋のカニコロッケ、エビフライや卵たっぷりポテトサラダ、辛党の灯用にししとうチーズフライ。そして、温かいコーンポタージュもついている。どれも美味しそうだ。
「もふ~おべんとおいしいもふ~」
「うん、どれも美味しいなー」
 早速お弁当を食べ始めたむすびに続いて、灯も深く頷いた。
「シロちゃんとおべんと交換もするもふ~」
 英雄たちは楽しげだ。そんな様子を眺めつつ、凪子は集めた花で花冠を作っていた。
「こうしたらリサイクルにもなるでしょ、ナイスアイデア!」
 お土産にもなるから、皆の分も作っちゃおう。凪子は鼻歌交じりに花を編む。
(綺麗なのは、知り合いの犬カフェにも持っていこうっと♪)
 ついでにわんこのみんなの首飾りにしてもいい。なんて思っていると……つんつん、白詰草が凪子の手をつつく。
「なんだか、おいしそーなにおいがしてるもふよー!!」
「え? ……ほんとだ。バーベキューかな?」
 ふわり。どこかでエージェントがバーベキューをやっているらしい。
(いつもながらシロちゃん食いしんぼさんだな……)
 白詰草の鼻が良いだけか、食欲のなせる業か。


「バーベキュー」
「そう、バーベキュー」
 餅 望月(aa0843)と百薬(aa0843hero001)は神妙な顔で頷いた。
「季節柄です。みかんやいちご、それに玄米や生野菜も持ってきました」
 頼もしいメンバーとして由利菜も頷く。
「海岸だから魚鍋でもやるのかと思ったが……まあ、それはいい」
 リーヴスラシルは一同を見やり、呟くのだった。

 ――もちろん彼女たちはエージェントとして花集めを熱心に行ったことは、ここに記しておく。
 そして開催するバーベキューも、やるからにはガチのやつであることも記しておく。

「肌寒い海対策――望月の百八十秒クッキング三時間スペシャル」
 風除けつきバーベキューセット。火起こしも万全。「他の海水浴客なんているはずもないし少々盛大にやってもいいでしょ」と、用意した食材の調理開始。テンテケテケテケテンテンテン(あのBGM)
「お肉は基本の牛肉以外に、ホイル焼きとして鶏肉を調理します。百薬!」
「はい、ホイルしたのがこちら。鶏肉、バター、緑黄色野菜を包んでおります」
「こうやってしっかり火を通しましょう。汁気があるくらいのジューシーさと、配るのが遅くなっても冷めないのがポイントです」
 謎料理番組風に進む調理。本人達は楽しそうではある。
「ところで……百薬、デザートも欲しくないですか?」
「ええっ 望月先生、バーベキューでデザートなんて作れるんですか?」
「作れます。それがこちら、マシュマロ。季節柄ピッタリですね! こうやって長めの串に刺して、あぶって……火が通ったら溶けちゃう前にぱくってやるのがベストです」
「舌が火傷しそう」
「そのくらいがいいのよ」
 テンテケテケテケテンテンテン……さて、早くも料理番組風も飽きてきた。
「ずっと焼いてばっかりで大変じゃない?」
 焼きマシュマロを頬張りつつ、百薬が首を傾げた。
「こういう時は火のそばを確保した方がいいのよ。味見も一番乗りだしね」
「ワタシもお手伝い頑張る、寒いのイヤー」
「あ、暇だったら由利菜ちゃんたち手伝ってきたら? 水着撮影して欲しいんだって」
「撮影?」
 今度は反対側に首を傾げた百薬に、続きの説明を請け負ったのは由利菜本人だった。
「ええと……その、私とラシルのグラビア撮影、というか……」
「ああ、そういうわけで水着で参加していたんだ」
 頼めるか、とリーヴスラシルがカメラを差し出し。

 というわけでして。

「肉~♪」
 一仕事終えたまほらまが、上機嫌で肉を頬張っている――その近く。白い花という幻想的な風景を背景に、由利菜とリーヴスラシルの撮影会が始まった。
「顔が紅潮しているぞ、ユリナ」
 色っぽく指を絡めて近い距離、リーヴスラシルが由利菜を指摘する。白い水着で瑞々しいまでの肢体を飾った由利菜は未だ羞恥の紅潮がおさまらない。
「こ、こんな姿を広く公開するんですから、恥ずかしいのは当然でしょう!? ラシルはよく平気ですね……」
「……仮にも受けた仕事だ。きっちりやるのが当然だろう。ほら、次は共鳴状態で……そうだな、波打ち際の花の中に寝転ぶか」
「み、水に触れるのは寒くないですかね……!?」
「何を言っているんだユリナ、海に来ているのだから海を演出せねば意味がないだろう」
「うう~~……!」
 正論なんだけど、なんだけど、なんとも言えない由利菜なのであった。



●集め終わりました
 かくして。
 エージェントの奮闘の果て、一帯から白い花は姿を消して。日常的な風景が、その浜辺に戻ってきた。

「やっぱり、寒い……」
 タスヒーンシールドの暖房機能を展開した黎夜が縮こまる。夕暮れが近くて益々寒い。手をシールドにかざしつつ、少女は仲間達を見渡した。
「あの……もし、よかったら……入る……?」
 分かち合えば、きっともっと温かい。


「……準備して正解だったな」
「ほんと助かります」
 ラドシアスから投げ寄越されたタオルで髪をガシガシを拭きつつ、若葉は苦笑を浮かべた。おかげで風邪ひかずに済みました。


「ま、こんなもんでしょーかね? こんだけ取ってりゃそこまで被害も出ねえでしょーよ」
 海から戻り、ボートから降りたフィーは一仕事終えて伸びをした。
「……まぁ、その……良かったんじゃない……綺麗になって」
 彼女と共にボートから降りてきたアルトは顔を赤らめそっぽを向いている。その手を握るのは、「帰りましょうかい」と言うフィーだ。アルトは手を引かれて歩き出しつつ――もごもご。言いにくそうにしつつも、
「ま、また夏……絶対に行くんだからね。絶対だよ!!」
 そう、真っ赤な顔のまま声を張った。
「……ん、そーですな、機会がありゃまた来ますかいね」
 微笑むフィー。そして二人は帰路につく。


「……ん。今日は……冷たくて楽しい、任務……だったね、アルヴィナ」
「ふふ、そうね。また、次の冬が早く来ないかしら。名残惜しいわ……」
 夕暮れ、浜辺。六花とアルヴィナはソフトクリームを舐めつつ、名残惜しげに青に戻った海を眺めていた。その青も今、夕日の赤に染められている――。

 また来年、そう、また来年。

「で、記憶はどうなのよ。なにか思い出した?」
 同じく夕暮れの海を眺め、夜宵は英斗に問う。「いや」と彼は首を振り、「ただ」と言葉を続けて曰く。
「……ただ、何か懐かしい感じはした」
 また来年、そんな心地。

「もうすぐ暖かくなるかな、Alice」
「早く暖かくなってほしいね、アリス」
 二人のアリスは最初のようにひっついて暖を取りつつ、そう言葉を交わした。赤い夕日に、目を細め。


 そうして、太陽は沈んでいく……。



『了』

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 傍らに依り添う"羽"
    アトリアaa0032hero002
    英雄|18才|女性|ブレ
  • もふもふには抗えない
    多々良 灯aa0054
    人間|18才|男性|攻撃
  • もっふもふにしてあげる
    むすびaa0054hero002
    英雄|10才|?|バト
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • しっかり者のお姉ちゃん
    清原凪子aa0088
    人間|15才|女性|生命
  • 回れ回れカップ
    白詰草aa0088hero002
    英雄|8才|?|ブレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • 雨に唄えば
    烏兎姫aa0123hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 想いの蕾は、やがて咲き誇る
    カスカaa0657hero002
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 希望の守り人
    ルーシャンaa0784
    人間|7才|女性|生命
  • 絶望を越えた絆
    アルセイドaa0784hero001
    英雄|25才|男性|ブレ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    シキaa0890hero001
    英雄|7才|?|ジャ
  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936
    人間|7才|女性|攻撃
  • 美の匠
    ベルベット・ボア・ジィaa0936hero001
    英雄|26才|?|ブレ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • アステレオンレスキュー
    エリヤ・ソーンaa3892
    人間|13才|女性|防御
  • エージェント
    哭涼aa3892hero001
    英雄|18才|男性|ブレ
  • Dirty
    フィーaa4205
    人間|20才|女性|攻撃
  • ステイシス
    フィリアaa4205hero002
    英雄|10才|女性|シャド
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中
  • 翡翠
    ルーaa4210hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • 残照と安らぎの鎮魂歌
    楪 アルトaa4349
    機械|18才|女性|命中



  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • スク水☆JK
    六道 夜宵aa4897
    人間|17才|女性|生命
  • エージェント
    若杉 英斗aa4897hero001
    英雄|25才|男性|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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