本部

秋、都に憩う。

若草幸路

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
25人 / 0~25人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2016/11/30 22:09

掲示板

オープニング

●これまでの話
 厳しい戦いだった。突然の招集に対応できたこのわずかな人員で、京都の各所に突発的に現れた従魔たちを無事に討ち果たせたのは僥倖というほかない。しかして掃討作戦は多くの時間を費やし、完了する頃にはもはや夜半を回って久しかった。夜風にまぎれ、ぽたぽたと水滴が服や肌に落ちてくる。
「お疲れ様でした。今日の宿と、明日の移動の手配は整っています。どうぞ、休息を」
 同じく突然に駆り出されたオペレーターの青年が、手元の端末に映し出した地図を指差す。
 ――斯(か)くしてエージェント達は、それぞれに振り分けられた宿へと散っていき、傷を癒やせよと囁くかのような優しい雨音を聞きながら、眠りにつく。

●これからの話
 目覚め。雨は夜のうちに止んだらしく、美しい蒼と光線が室内からでも感じ取れる。通信が入った。
「あー、起きていてもいなくても、みなさんに改めてお伝えいたします。集合はメールで添付した場所に18時きっかり。待ちませんので、くれぐれも時間には余裕をみてください」
 オペレーターの青年は昨日とさして変わらない、しかし少し嬉しげな口ぶりで告げた。彼もおそらく、空いた時間を楽しむのだろう。
 ――斯(か)くしてエージェント達は、傷を癒やせよと囁くかのような優しい陽射しと紅葉に見守られ、憩う。

解説

●今回の任務(のあとのこと)
 あなたたちは京都に現れた従魔を見事討ち果たしました。
 ……ということで、戦い終わって日が暮れて、泊まって一夜明けまして。物見遊山をしましょう。
 ※報酬はありません。(物見遊山の費用と相殺されているイメージです)

●スケジュール
 ・OP時点で時刻は9:00前後。PCたちは京都某所、市街地からそう離れていない宿にいます。ここから自由行動となり、京都を散策します。
 ・帰りはOP文にある通り、18:00に集合です。(PCは具体的な場所を認識しているので、間に合う間に合わないをプレイングに書くだけでOKです)
 なお、交通機関の都合上、遅れた場合はその後の帰宅費用は自弁です。気をつけましょう。(クレジットはマイナスされませんが、そのような描写がなされます)

●ワンポイント
 ・同行者がいる場合、ID(aa○○○○、aa○○○○hero○○○)に加えて相手をどう呼んでいるかや関係性などを明記しておくと、描写の違和感が少なくなるかと思います。よろしくお願いいたします。
 ・同行者が複数の場合、【】で囲んだ班タグを使うとよいでしょう。この場合、字数に余裕のある方がIDを明記したメンバーリストを記載しておくと、それ以外のメンバーの字数が節約できます。

リプレイ

●輝く紅葉
 伏見。
 朝露にも似た雨の名残が、稲荷山の緑と紅、そして社殿の朱を色濃く印象づけていた。

 千本鳥居で名高いその山を登るのは、零月 蕾菜(aa0058)と十三月 風架(aa0058hero001)だ。参道や境内を楽しみながら、のんびりとやってきた稲荷山。おもかる石に手を伸ばす。願いが叶うなら軽く、そうでないならば重く感じるというその石を、蕾菜は黙して合掌したのち、そっと持ち上げた。
「ううーん……」
「どうでした?」
「思ってたくらいの重さというか……微妙?」
 願う強さが足りないのか、はたまた自分次第ということか。首をかしげる蕾菜に、風架も同じく首をかしげ、問う。
「なにをお願いしたんです?」
 その問いに対する返答は、いくらかの逡巡と、
「……秘密です」
 黙秘権。風架はさらに、首をかしげることになったのだった。
「? まぁ、いいですけど」


 そこから少し下で、今まさに鳥居をくぐって進む三人がいる。
「いいねいいね、秋の京都! 贅沢だよ!」
「あれだけ疲れてた、のに、げんきんだな……」
 木霊・C・リュカ(aa0068)とオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が、のどかな会話を交わしながら山の土を踏む。
「ほらほら、あれがお稲荷さまですよ、リュカ! とってもきれいなのです!」
 紫 征四郎(aa0076)が、年相応にはじけるような声ではしゃいだ。片手はリュカの手を引き、もう片手はバッグからいつでもインスタントカメラを取り出せるように構えている。
「鳥居いっぱいなのです! キレイですねぇ!」
 ぱしゃり、とカメラが閃光を発した。スイッチを切り替え、共に歩むリュカの何気ない微笑みも、雰囲気にちょっとだけ呑まれているオリヴィエの戸惑いも、逃さず写し取る。その姿はさながら、昔の歌に歌われたカメラマンのようだ。違うのは、いまどきのインスタントカメラは誰でも間違いなくしっかり撮ることができることだろうか。
「どんなふうにいっぱい?」
「果てが見えないぐらい、ずらーっと並んでいるのです! あ、足元気をつけてくださいね?」
 懸命に自分の目になろうとしてくれている征四郎に、リュカの頬はほころぶ。

 さて、参道が整備されているとはいえ、伏見の稲荷山は修験道の山でもある。その幽谷は深く、アップダウンなどもそれなりに険しい。エージェントといえど、それなりの時間をかけて登り、下りることになる。拝殿で三人が改めて参拝を行う頃には、太陽は中天にさしかかる手前になっていた。拝殿に向かって真剣に何事かを祈るリュカを、征四郎は複雑な面持ちで見つめる。陽射しに照らされるその横顔が眩しい――この素敵な人は、いつか誰かと恋をするのだろうか?
「(それはとても幸せなことなのです。でも……)」
 寂しさと嫉妬未満のもやもやが混ざった、言い出しようのない感情に悩む征四郎。と、その頬に固めの感触が触れた。そちらのほうを振り向くと、リュカがにこやかに陶器でできたキツネの人形を持っている。裏参道で見かけた、口入れ人形だ。
「ふっふっふー、うばっちゃった♪ これね、良縁祈願のお守りなんだよ!」
「良縁?」
「そう! 試験の合格とか就職とか、いろんな縁を結んでくれるんだって」
 他意のない、純粋に誰かの幸せを願っている笑顔。つられて、征四郎もくすりと笑みをこぼした。もやのような感情はすでになく、暖かな想いがあふれる。こんな人と出会えたことが、つまり。
「縁というのは、恋愛とはかぎらないんですね」
 友人との縁、英雄との縁、そしてリュカとの縁。かつての自分から今の自分になれた、素敵なえにし。
 今後も良いものに恵まれますように、と、征四郎は改めて手を合わせた。

「リーヴィも、折角だから祈っといたら?」
 拝殿で一通りの参拝を済ませ、山には登らずに――不敬をいたすわけではないが、神を信じているわけでもないので――手持無沙汰に待っていたガルー・A・A(aa0076hero001)は、祈る二人を眺めるオリヴィエにそう言った。オリヴィエが、怪訝な顔をする。
「あんたは願わないのか」
「あ?」
「良い縁とやら、を」
「そういうお前は、願ったのか? イ・イ・コ・ト♪」
 にやつきながら囃し立てるガルーに、オリヴィエは無言で腹に拳を喰らわせた。参拝客の多い中なので手加減はしているが、それでも眼前の男は背を丸めて衝撃をこらえ、うらめしげな視線を投げかける。
「……絶対教えない」
 ふい、と複雑な感情を悟られまいと顔をそむけてしまったオリヴィエに、その機微を知ってか知らずか、ガルーは暢気に声を掛ける。
「そうそう、祈願終わったらちょっと付き合ってくれ。いくら綺麗な紅葉でも、一人で見てちゃ味気ねえ」
 いい眺めの店を見つけたからな――そんな言葉に、オリヴィエが振り向く。こくり、と、首が縦に動いた。


 そんな昼前の紅葉の中、九龍 蓮(aa3949)は菓子を食う。
「……好吃(ハオチー)」
 それに首肯するのは、聖陽(aa3949hero002)。
「あァ、うまいねェ」
 喉を潤すのは伏見の酒をはじめ、京都の名だたる銘酒たちだ。酒蔵の店主に教えられたマル秘スポットのベンチで、のんびりと紅葉で目を楽しませ、菓子と酒で舌を楽しませる。とても贅沢な五感の満たしかただ。
「ふふ、聚楽第、英勲、伊根満開!」
「こりゃ、紅葉狩りというよりも酒狩りだねェ」
「紅葉だけ、足りない。飲めない、つまらない!」
「まァ、そうなんだけどねェ」
 マル秘と言うだけあってあいにく、菓子を振る舞う相手が居ないというのは寂しいところだが、紅葉の賑やかな色彩はそれを補ってくれていた。
 そしてときおり、蓮は聖陽に問う。
「ヤン、時間、どう?」
「安心しろ、まだ大丈夫だぜ」
「ん、なら、飲む」
 蓮と聖陽が身を置く裏社会で、時間の約束は絶対だ。時間を守れぬ者に、他の約定が守れようはずがない。それが信頼を保つための、絶対的な論理であった。そんな風に確認をしながら、酒を飲む。
「好喝(ハオフー)、好喝」
「ああ、絶品だねェ。これで帰ってあいつの小言がなけりゃ、最高だなァ」
「……ヤン」
 酒がまずくなる、と蓮は聖陽に鋭く目線をやる。脳裏に浮かぶあの御仁は蓮の教育にうるさく、聖陽とは少しばかり反りが合わない。せっかく鬼の居ぬ間に洗濯をしているのだ、余計なことを思い出すものではないという無言の抗議に、聖陽は頭をかいた。
「……わりィ」
「帰ったら、一緒に、飲も」
「(――あァ、こりゃ、間違いなく殺されるやつだねィ)」


 鬼の居ぬ間に洗濯をするのは、なにも一組だけではない。
「うう、こんなにゆっくり出来るなんて……あいつの時には考えられなかった……」
 じんわりとこみ上げる幸福感をかみしめているのは、狼谷・優牙(aa0131)だ。普段は心身共に引きずり回されることが多いだけに、ゆったりと過ぎるこのひとときが、あまりにも尊く感じられる。
「京都、初めてだしちょうどよかったっ」
「ええ、今の時期に見て回れるなんてちょうどいいですね~」
 小野寺・愛(aa0131hero002)がのんびりまったりとした雰囲気で、優牙の手を取りながら共に歩む。さて、これからどうしようか、と優牙は思案し始めた。
「京都といったら……お寺を見ないと? って、何か修学旅行での定番ルートみたいだね、これだと」
「あら、でも初めての京都ですし定番を見て回るのが一番ですよ~♪」
 穏やかな愛の微笑みに、優牙は改めてわき上がる幸福感を噛みしめながら、微笑み返して頷いた。――そう、定番は重要である。
「おおー、金です!」
「金色ですね~♪ 紅葉と合わさって、とっても豪華です~」
 たとえば、黄金に輝く舎利殿だとか。定番定番とナメられてはいるが、素晴らしいからこそ定番となるのだ。それを身をもって実感した優牙が、ふと思い付く。
「そうだ、今日は一日あるんだし、思い切って定番を巡っていこうか?」
「ええ、夜のライトアップも各所であるそうですし、楽しみましょう♪」
 愛の発言に、優牙の心はいやがおうにも浮き立つ。
「夜の紅葉かあ……♪」
 しかし。
「いや待って、今日の集合は18時だよね?」
「あ、そういえばそうでした~」
「……危なかった……」
 そう、この無慈悲な時間制限があるため、ライトアップは見送らねばならない。優牙は自分の記憶に感謝すると共に、愛にタイムキーパーを任せるのは危険だということを、たった今学んだ。
「うーん、夜は残念だけど、定番巡りは始まったばかり! 行こう、愛さん」
 スマートフォンで時刻を確認し、優牙は歩を進める。まだ幼い自分の足でどれだけ回れるかわからないが、やってみる価値はある。なにせ、せっかくのゆっくりできる休日なのだから。


「紅葉、美味しいかな」
「それは大阪のほうだね」
 優牙たちと入れ替わるようにして、だいぶ地理的に離れた感じの漫才をしながらそこにやってきたのは、百薬(aa0843hero001)と餅 望月(aa0843)だ。出発地点のホテルから、数ある神社仏閣を巡り、登れるところには登って高所から色づいた町並みを楽しんでいる。そして、
「おだんごー、おもちー」
「隙あらば食べるよね。もちろんあたしもだけど」
 食べていた。いま百薬の手の中にあるのは、行きがけに買った甘酒と、つい先ほど買った麩せんべいだ。
「甘酒ー」
「アルコールなくても雰囲気あるね」
 多少風情は落ちるが持ち運びに便利なカップとストローで、くぴくぴと飲む。酒粕を使った酒精のあるものではなく、お子様でも大丈夫な米麹の甘酒が、晴れといえども少し冷えるこの時期の体に染み渡る。
「みんなどこにいるかなー」
 昨日の戦友たちを探す百薬の目に、なにやらやたらと黒い塊と、その隣にいる桃色の髪をした少女が飛び込んできた。
「おぉ、これがかの有名な金の寺! なんでもここで修行を積めば金に輝くことも出来ると聞いたでござる……!」
「それ絶対間違ってる情報よね!?」
 もう一組の漫才コンビのごときペアがそこにいた。小鉄(aa0213)と稲穂(aa0213hero001)だ。忍ぶ気のないニンジャスタイルで変な伝聞に感動している小鉄に、稲穂があきれている。はたから見てあきらかに目立ちまくっている二人に、望月たちは軽く声を掛けに行った。
「よっ、ここで会うとはね」
「あ、望月ちゃん、百薬ちゃん!」
「ぐうぜんー」
「昨日は小鉄くんたちの強烈な一撃のおかげで勝てたようなもんだよ、ありがとう」
「いやいやそんな、餅殿も流石でござった」
 昨夜の激戦をお互いにねぎらいながら、望月はさっと、せんべいを一枚差し出す。
「お礼におひとつどうぞ」
「おお、これはこれは!」
 小鉄は手刀を切って望月に礼を言い、さっそくそれを口にした。正しくは、覆面を外した様子もないのに確かにせんべいが歯形を付けられ減っていく、という光景が正しいのだが。
「うむ、あまじょっぱくて旨いでござる」
「おー、すごいすごい、覆面越しにおせんべが消えてゆくー」
「すごいねー!」
 百薬と望月のいい感じのリアクションを見て、小鉄はちょっと上機嫌に、稲穂は若干複雑な感情を抱えることになったのだった。
「(……こーちゃん、こんなところだけニンジャよね……)」


 そんな定番中の定番コースのひとつ、世界遺産でもある古刹を、白銀の肌と髪を持つ二人が歩く。赤や黄の色彩に点としてある白は、一足先にやってきた冬のようだ。やがて、二人は自分たちと似た色彩の庭に足を止める。
「……ここは?」
「枯山水、だ」
 首をかしげる葵(aa4688hero001)に、アリス(aa4688)が語った。この世界に詳しくはない葵を自分の一存で連れて行くならば、と、ここを選んだのだ。
「……?」
「簡単に言えば、庭だな」
 それはたぶん、説明としてはざっくりしすぎているのでは? と疑問符を増やした葵に、アリスが説明を継ぎ足す。
「まあ、見ればわかると思うが、山水と言いつつもここには水がない」
 水を用いず、水やそれに付随する情景を石や砂等で表す庭園様式。禅の境地をあらわす、静の空間。
「見えないが其処に在るモノ、其処に在る筈のモノが見える。それは自身の心かもしれない。……そういう庭だ。私は嫌いではない」
 庭を見つめて語っていたアリスはそこで言葉を切り、葵に向き直って問う。
「アオには、この庭は如何見える」
「……如何見えるか、ですか……」
 今度は葵が、庭を見つめる番だった。そこにあるのは――島のような石、流れるはせせらぎの無い清水。静かに留まり、しかし死んではいないその空気――やがて、視線を動かさないまま、葵はぽつりと答えた。
「……アリス様のような……感じがします」
「……変な感想だな」
 だが、悪くはない。アリスはそう感じながら、葵の横顔から再び庭に視線を移す。その静けさは、やはり一足先にやってきた冬のようだった。


 そして、そこから伸びる道にも、秋が煌びやかに踊っている。
「凄いのです! 全部綺麗に染まっているのです!」
「偶然とはいえ、いい時期に来られたな」
 桜小路 國光(aa4046)が、メテオバイザー(aa4046hero001)の喜びに相槌を打つ。桜の名所で知られたその道は、秋には紅葉の名所となるのだ。はしゃぐメテオバイザーが、とりとめもないことを語り続ける。
 ――その中に紛れて、記憶の欠片がこぼれた。
「赤い葉は見たことないのです。葉は青と緑と黄色が、ずっと木についてました」
「へ~……え?!」
 驚く國光に、メテオバイザーはきょとんとした表情を見せる。おそらく、無意識の発言だったのだろう。誓約を行って以来、初めて國光の前に現れた、メテオバイザーの記憶の欠片。英雄の記憶に関しては個人差が大きいけれど、と國光は思考に沈む。
「(……メテオの、本当に残っている記憶ってどのくらいあるんだろう……)」
 しかしその沈思黙考は、通りすがる人々にぶつかりそうになって消えた。はぐれないように、メテオバイザーを常に視界に入れながら歩く。美しい紅葉と同じぐらい、狭い道に人が多くなってきた。


「おい、ぜってぇはぐれんなよ。探すの面倒くせぇ」
「うんっ」
 その途切れぬ人波に顔をしかめながら手を差し出すドール(aa4210hero002)と、その手をしっかりと取るフィアナ(aa4210)。思い切って着物を借りたので、紅葉を堪能しながらこの道を通って次の目的地へ行くつもりだったのだが、これでは人を見ているようだ。不機嫌さを隠そうとしないドールと対照的に、フィアナはにこにこと、繋いでいない片手に持ったトラベル情報誌の写真と紅葉を交互に眺めていた。振袖のたもとが、かわいらしく揺れる。
「ドールっ、私ね、抹茶のパフェが食べたい、なー」
「あーはいはい」
 気のない返事に、一瞬の気の緩みが重なった。繋いだ手が、するりと離れる。
「しまっ、「きゃ、っ!?」」
 慌ててドールが振り返ると、人波に押されて転びそうになったのだろう、体勢を崩したフィアナと、それを支える桃色と白の乙女がいた。そして隣には、グリーンアイズの中肉中背の青年。
「メテオバイザー! ……さん!」
「ふふ、昨日の今日でこんにちはなのですよ~、お二人とも」
「さすがに秋の京都の人出だ、オレたちも気をつけないとね。ほら、立てるかい?」
「はい、ありがとうございます! ほらドールもお礼!」
「……どうも」
 これも何かの縁とばかりにメテオバイザーとフィアナの提案で、四人連れ立ってフィアナたちの目的地であった見返り如来と水琴窟を美しい風景の中に保つ名刹へと向かう。ひきずられる格好になったドールは先よりもずっとむっつりとしており、内心はどうあれ更に無口になったのだが、例外がひとつだけ。
「ドール! 近くにカレーうどんがおいしいところがあるんだって! 抹茶スイーツの前に食べたい!」
 拝観直後のこのフィアナの発言に対する、
「着物借りてるんだからカレーうどんだけはやめろ!」
 この返答である。実に、この日唯一のドールの大声であった。よく通るいい声だったと、國光は後に述懐する。


 そんなドタバタも生まれるような喧騒を避け、優雅に楽しむ者もいる。
「ほう、これは絶景!」
「でしょう?」
 橘 由香里(aa1855)と飯綱比売命(aa1855hero001)が、料亭で悠々と秋を満喫していた。懐石に舌鼓を打ち、個室の借景で紅葉を楽しむ。普通の高校生ならば到底手の届かないプランであるが、エージェントの仕事で得た収入で潤沢な予算を組むことができた。
「(それでも、今月のお小遣いは吹っ飛んじゃうんだけど)」
 だが目の前にいる の満足そうな横顔を見ると、いい買い物だったと心から思える。優しく微笑みながら、由香里が言葉をこぼした。
「たまには、こんな風に二人でのんびりするのも悪くないね」
 箸を美しく使いながら料理を楽しんでいた飯綱比売命が、その言葉に手を止めて首をかしげた。
「おかしな事を言うの? 家に帰ればいつも二人でのんべんだらりとしておるだけではないか」
「……私は家事してるでしょ、貴女と違って」
 ぎくり、と飯綱比売命が固まった。視線を紅葉に向け、余裕たっぷりのつもりで笑ってみせる。
「わ、わらわはお主のめんたるけあ担当じゃからな! ほ、ほほほ!」
 いいつつも、そのあたりに思うところがないわけではないらしく、耳と尻尾がにょっきり生えたその横顔には冷や汗がたらりと流れている。焦るぐらいなら手伝えばいいのに、と
「……まったく」
 表面でとる呆れたような態度とは裏腹に、由香里の心にあるのは感謝だ。――飯綱がいなければ、きっと私はこんなに優しい気持ちは持てなかった――そんな言葉を飲み込むようにして口にした焼き魚は、とてもまろやかな味がした。


 そして、未だ旅の途上である者もいる。
「京都♪ 京都♪」
「楽しみですね」
 匂坂 紙姫(aa3593hero001)とキース=ロロッカ(aa3593)が、浮き立った表情でバスに揺られている。行きたいところがある、という嬉しげなキースの言葉に、どんなところだろうかと紙姫の期待は膨らむばかりだ。ほどなくしてキースが降車ボタンを押し、二人は降車して少し歩く。
「着きましたよ」
「……?」
 紙姫の頭に疑問符が浮かんだ。なるほど、モダンと歴史が調和した、穏やかな場所だ。だが、観光スポットと言うにはどこか、堅い。その雰囲気に疑問を抱いた紙姫が周囲を見渡すと、掲示物からあることに気づき、キースに問う。
「大学? 何でここに?」
「これですよ」
 と、キースはひらりと一枚の紙を見せた。そこには、「憲法学公開講座 ~違憲審査権について~」と書かれている。
「……まさか」
「いや~運がいい! 今回の教授はこの分野の権威でしてね、一度講義を聴きたかったんですよ。五時までなのでバスにも間に合いますしそれに、痛っ!?」
 紙姫の全力キックが、キースにクリーンヒットした。期待していた分だけ怒りが大きく、顔を怒りに赤くし、息を吸い込んで紙姫は叫ぶ。
「この、この、法学バカあっ!!!」
 とたん、紙姫の姿が消える。幻想蝶へ引っ込んでしまったのだ。呼びかけても一顧だにしないところをみると……
「……怒っちゃった」
 当然の結果なのだが、キースの表情はどこか軽い。後悔がないのだ。英雄のヘソを曲げさせてでも、自分には聴きたい講義がある。とはいえ、完全に引け目がないわけでもない。
 あとで生八つ橋を買っておこう。――それが、講義への決意へと完全に集中する直前に考えた、キースなりの詫びだった。

 そして時は過ぎ、太陽は夏よりもずっと早く、中天にかかる。

●着倒れ食い倒れ
 鴨川では川岸に等間隔にカップルが座っている、というのは有名な話だ。視界に隣のカップルが入らない距離が結果的にその等間隔を生むのだが、その鴨川で座らずにのんびり歩くカップル、いや夫婦が、一組。
「展望台から見下ろすのもいいけれど、こうやって歩くのも楽しいわね」
 レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)が、艶やかな赤と黒の振袖に身を包み、満足そうに言った。結い上げずに風に揺れる金髪が、空の青と肩回りの黒に挟まれて輝いている。
「ああ、懐かしい風景だ。多少変わっちゃいるがな」
 狒村 緋十郎(aa3678)も、レミアの手を取ってともに歩みながら若かりし頃を追憶し、感慨深げに答える。――これで、彼が愛する妻の艶姿に鼻の下を伸ばしまくっていなければバッチリキマっているのだが。
 そして鴨川散歩を終え、四条界隈の京うどんの店へと二人は吸い込まれていく。ふうふうと熱さと美味さに舌鼓
「もう少し向こうに行けば、舞妓さんというのがいるのよね」
「昼はそうそう会えないけどな。たいてい夜のお座敷に出るんだ」
 案内したかったんだが、と
「次は嵐山、でしょう?」
「ああ、この時期に来られて運が良かった」
 そう言って食事と会計を終わらせて店を出、二人は人波の死角に滑り込む。リンクしたその姿は、テンションが上がりきっているのか、緋十郎が主体だ。そのまま人の視線が切れる隙間を縫い、風の如く四条通を駆け抜ける。
 目指すは一路、嵐山。見るべきは紅葉の照り映える川にかかる渡月橋だ。


 さて、先に述べたように昼に出会う舞妓さんとは、舞妓衣装を体験している素人さんである場合が多い。そんな体験に、身を浸す者たちもいる。
「えと、変じゃない……かな?」
「大丈夫、よく似合ってるよ」
 マオ キムリック(aa3951)の自信なさげな語気に、レイルース(aa3951hero001)が笑顔で励ますように応える。確かに、よく似合っていた。白粉を塗って紅を引いたその表情は、普段の気弱さにも見えるおとなしさから、気丈ささえ覗くたおやかさを引き出している。その引き出された内面は、尻尾こそ着物で隠れてはいるが、結われた日本髪からにょっきりと生える耳も滑稽さはなく、どこか神秘性も感じられるものになっていた。そんなことを分かっているのかいないのか、マオはレイルースに向かって普段のようにひとなつっこく微笑む。
「レイくんも、似合ってるね」
「そう?」
 レイルースの装いは、古式ゆかしいサムライ姿。青い鳥を連れた金の髪を持つサムライは、道行く人々からの視線の的だ。マオも例に漏れず、物静かな侍と紅葉の取り合わせに目を奪われていた。
「きゃ、」
「おっと、大丈夫?」
「うん。舞妓さんってすごいんだね、こんな高い履き物で歩くなんて」
 おかげで、散策途中で慣れぬ衣装と相まって転びそうになるのを、レイルースが支えるアクシデントが何度かあったが、ほどなくしてスタジオに戻り、写真を撮って体験を終える。そして、宿で予め調べていた店に立ち寄り、湯豆腐と京都スイーツに舌鼓を打った。
「どれもみんな美味しいね」
「ふふ、マオは食べてる時が一番幸せそうだね」
 艶やかなのもいいけれど、普段が一番、かもしれないな。ゆらゆら喜びに揺れるマオの尻尾を見ながら、レイルースはそんなことを思うのだった。


 体験に身を浸す場所、京都にはその最大手の一角がある。
「マンガ……五万冊の漫画……」
「さっきも言ったけど却下。一日潰れるだろ」
 ここはかの有名な、撮影所兼テーマパーク。ヴァルトラウテ(aa0090hero001)の嘆きに、赤城 龍哉(aa0090)がにべもない反応を返した。がっくりとうなだれる白銀の乙女は、言ってる割にバッチリ町娘の格好をしている。ちなみに龍哉はちょっと張り込んで、股旅姿。二人の見目の良さも手伝い、新作時代劇の撮影かと尋ねてくる一般の方もいたが、それは余談である。
「それに、ここも漫画みたいなもんだろ。ほら」
「……ニンジャ! ニンジャですわ!」
 視線を上げたところに綱を渡る忍者を発見し、気を取り直したヴァルトラウテ。龍哉が心中で『昨日の戦いでは紛れもなくニンジャが仲間にいたんだけどな』などと冷静にツッコんでいると、通りの向こうで人が集まる気配を感じた。時刻を確認し、龍哉はヴァルトラウテの背を軽く叩く。
「あっちでショーが始まるみたいだ。行こう」
 熱血風来坊と白銀の町娘が、お江戸を駆ける。――彼らはまだ知らない。一通り散策を終えたらさっと切り上げ、歴史探訪とカフェを楽しむつもりが、
「手裏剣勝負か……いいだろう、いざ尋常に勝負だ、ヴァル!」
「手加減はしませんわ!」
 ちょっとのつもりで深みにはまり、
「ここでも京名物が食べられるのはラッキーだったな」
「湯葉がふわふわしていて美味しいのですわ」
 さらに泥沼どっぷりと、
「ヒーローショーが! 見たいの! ですわ!」
「いやほら、集合時間のこともあるし、な? 展示も見たしいいだろ?」
「見たい! ですわ!」
「……誤算だった……」
 結局一日まるごとを費やした結果、普通に移動したのでは集合時間に間に合わなくなり、共鳴しての全力疾走を併用してやっとギリギリセーフ――という顛末になることを、彼らはまだ知らない。


 そんなどっぷり浸れる名スポットたち以外に、街そのものに魅力が宿るのも、京都だ。
「ナぁ……別行動にしようゼ」
「いいからついてこい。京はよう知っておる故、案内してやろう」
 ラフなジャケット姿と洒脱な着物のアンバランスさが目を引く二人連れが、その魅力に惹かれた人々でごったがえす街中を進む。長田・E・勇太(aa4684)と碑鏡御前(aa4684hero001)だ。気乗りしないのか文句が絶えない勇太に小言を言いながら、まるで昔からそこに暮らしていたかのように、碑鏡御前は周囲の景色を楽しみながら道を行く。
「ここも懐かしいものじゃ。今は誰の所領かの」
「誰の土地かなんて知らねーヨ」
 勇太が心底興味なさげに切り捨てた。不機嫌なのは連れ回されている以外にも、もう一点。碑鏡御前の格好だ。
「大体、そのカッコは何だ? ミーが買ったワンピースはどうしたヨ?」
「我は着物がしっくりくるのじゃ。主の言うわんぴーす? や、ろんぐすかーと? とやらはどうも好かぬ」
 悪びれる様子もなく言い切る目の前の憎たらしいババア、いやさ英雄に、勇太の眉間の皺が深くなる。そんな様子をわかっていながら、あえて碑鏡御前は言葉を重ねた。
「それより、もそっとしゃっきり出来んのか? 我の供としては、少々情けないぞ?」
 勇太はそれに何か言いかけようとして、やめた。口では勝てそうにない。ならば、今の喫緊の問題を告げる方が先だ。改めて、口を開く。
「それより何か食わせてクレ。もう限界ダゼ」
「やれやれ。それでも傭兵か? 情けな……」
 そのとき碑鏡御前の腹が、ぐうと鳴った。テンションが上がっていたせいで気づいていなかったが、自分も相当に空腹らしい。そんな恥ずべき事態を前に、彼女はあくまで"御前"らしい態度で勇太に向き直った。
「……どれ、昼餉にするか」


 その昼餉にて、大いなる楽しみにたどり着く者たちがいる。和モダンの内装に彩られた喫茶店では、八人の勇士が今まさに、甘味の渦に飛び込もうとしていた。
「お団子にわらび餅……お抹茶にぜんざいも良さそう、ですね」
「食べすぎたら怒られるぞ、程々にしておけよ?」
 メニューと悩ましげににらめっこする桜寺りりあ(aa0092)と、それをさりげなく諫める新津 藤吾(aa0092hero002)。
「んー、色々あって迷うな」
「我はこの抹茶ぱふぇが良い」
 一冊のメニューを覗き込む会津 灯影(aa0273)と、楓(aa0273hero001)。
「あんみつパフェをお願いするのです!」
「俺は茶団子を頼む」
「お兄さんはねー、抹茶と小豆のロールケーキにするー♪」
「……抹茶、の、パフェ……」
 そして、即断即決も鮮やかな征四郎、ガルー、リュカ、オリヴィエ。その注文を耳にし、りりあがおずおずとメニューから顔を上げる。
「ああ、それもおいしそう……あの、よ、良ければ分けっことかいかが……でしょう?」
「いいなそれ! じゃあ俺は皆と違うやつにしよ。ちょっとずつシェアすればいいよな」
「酒も美味そうだがな……今日はちびっ子に合わせて甘味三昧といこうか」
 灯影も、藤吾も、そして皆が同意した。こういう融通が、大人数でテーブルを囲む楽しみのひとつである。全員の配膳を待ち、そろっていただきます、と声が響く。
「そら」
「ん! ……白玉もちもちー♪ 家で作れないかな?」
 楓にスプーンで抹茶パフェの白玉を差し向けられた灯影が、犬の尻尾が見えそうなほどに喜んでそれを食べ、
「貴様のも寄越せ」
「あのっ楓さん、一口が多くない!?」
「誰が一口と言った?」
「自分は一口しかよこさなかったのに!」
 そしてミルクぜんざいの餅をたっぷりと食べられるという一幕がある。
「このわらび餅はいいな……わらび粉、だったか」
 藤吾が上等なわらび餅に触れ、その作り方をあれこれと思案する中で、
「……ん」
「あ、ありがとうオリヴィエさん! ……おいしい♪」
「こっちも」
「はい、ありがとうございます。……ふふ、全部食べられるかな?」
「おっと、食べられなくなったら食べてやるからな?」
「なら藤吾さん、ちょっとちょーうだい!」
「ああ、俺のを持っていけ」
「ならリュカちゃん、それもーらいっ」
「あ! こら!」
「ふふ、ガルーさんも私のをどうぞ?」
 食の細いりりあを中心に、リュカたちのあたたかな触れあいが生まれる。
「カエデの、美味しそうですね!」
「なら交換だ」
「せーちゃん、最初に小皿に盛って渡せよー。俺みたいにばくーっといかれたらたまんねえ」
「ふん、食べたいだけ食べるのが我ぞ」
 そんな楓たちの陽気なやりとりがある。
 賑やかで、穏やかな空気。テーブルに並ぶ和スイーツのような、爽やかで甘いひとときが流れていった。


 一方、スイーツを求めつつも、甘くないひとときを過ごす者もいる。
「コラ! 炉威! 時化た顔をしておるでない!」
 セラ(aa0996hero001)が炉威(aa0996)を叱咤する。
「お前さんと二人かと思うと、時化た顔にもなるさ」
「どういう意味じゃ!」
 そのままの意味だよ、と言いたいのをすんでのところで飲み込む。押しかけ英雄――距離感を持った人付き合い、というものがない眼下の食いしん坊――に振り回されるのは、どうにも疲れる。
「……何と言うか、文字通り色気より食い気だね、と」
「食い気についてはアタリじゃが、我にも色気もあるじゃろう!」
 和菓子を道々で頬張りながら色気うんぬんを語るな、と炉威は思う。観光がどうとかも言っていた気がするが、結局食べ歩きではないか。そう思いながらむっつりと閉じられていた炉威の口に、突如ふにゃりとした塊が押し込まれた。勢いで咀嚼すると、上品な甘さが口に広がる。練り切りだ。
「……この和菓子はイケるな」
「そうであろう!」
 セラは、まるで自分が作ったかのような勢いで胸を張った。
「"わがし"という食べ物は、見目も素晴らしく、良いモノじゃのう。……炉威、主は"わがし"は作れんのか?」
「どうだろうねぇ……挑戦はしてみたいが、流石に無理かもね」
 口に残るやわらかな甘さを分析しながら、炉威は呟いた。ネットで探せばレシピはある程度わかるだろうが、この芸術の域に達した上品さと、世に聞こえるような美しい見た目を作ることには自信がない。
「やるだけやってみるのじゃ! 何事も挑戦じゃぞ!」
「はいはい。……せめて、綺麗なおねーさんと一緒ならもっと大歓迎なんだがねぇ」
「ん? 何か言うたか?」
「いや、何も」
 ふむ、とセラはすぐに追求をやめた。そこをつつくより、もっと楽しいことが目の前に待っているからだ。
「次は何を食べようかのう♪」
 ふう、と炉威が今日何度目かの溜息をついた。だが、心底楽しそうなセラの姿を見ていると、呆れや疲れではない、別の実感が胸に去来する。
「……まあ、これはこれでありかも知れんね」


 甘さのない中に、甘さを求める者も、いる。
 38(aa1426hero001)は、かねてより密かにチェックしていた甘味処たちを巡っていた。祇園通りから商店街の中の小さなお店まで、京都を縦断して美味しいと評判の店を回る。もちろん、誓約の相手であるツラナミ(aa1426)と、養い子らへの土産を忘れることはない。気に入った中で持ち帰れるものを購入して回りながらの行脚である。
 至福の時間が、流れていた。
「ん、美味しい……」
 そして、昼頃に入った一店で食べた、ひとさじのクリームにシナプスが弾け、38はふっと、今朝のやりとりを思い出す。
『……仕事、明日はどっちもない……予定』
 視線をちらちらと向けた先にあった、感情を伺わせない横顔。
『あー、そうね……好きにすれば』
 返答と同じくけだるげな、ツラナミの背中。
 脳裏に浮かぶそれに、思考を寄せた。なんとなくの流れで別行動を取ってしまったが、今、どうしているだろうか。
「……ツラも来ればよかった、のに」

●京と己を巡る旅
 その彼、ツラナミは、38と分かれて道を往く。仕事のために駆けて往く。
「緊急というほどでもないが」
 どうせ、また来ることになる。ならば今のうちに片づけるのがいいと、音もなく往く。
 それは単純な仕事。誰かの家の"猫"が"何処かへ"ふらりと出かけて、帰ってこない。それを現実にすればいいだけの仕事。
「……ま、こんなもんだろ」
 存外、すぐにカタがついた。
「この程度の仕事なら、俺だけでも十分なんだがねぇ」
 ハァ、となんとも感情の形容しがたいため息が、秋空に消えた。そして一応ぶらついていたという言い訳を兼ね、養い子への土産くらいは買っておこうと、ツラナミはたまたま見かけた土産物屋へと吸い込まれる。そして今時海外からの旅行客ですら見過ごしそうな装飾過剰のドラゴンキーホルダーを手に取り、会計を済ませた。
 そのまま、ぶらりぶらりと歩みを再開する。ここは嵐山、適当にバスを捕まえても時間には余裕がある。


 そう、ここは嵐山。歴史と四季が鮮やかに薫る場所。
「なるほど、嵐山に来たのはこれが目的ですか」
「福は実力で勝ち取るもの……! アリッサ、こういうの好きでしょう?」
 志賀谷 京子(aa0150)とアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)がさる神社の境内で見据えているのは、ちょっと縁日の射的のようにも見える一角。備え付けの弓で矢を射り、樽の中にある的に当てる占いだ。京子が言うように、腕さえあれば確実に福をつかむことができるこの占いに、アリッサも目を輝かせた。
「ええ、面白そうですね!」
 すでに二人分の矢は受け取っている。キリ、と弓が鳴り、矢がつがえられる。――二人の表情は、本気と書いてマジであった。大人げなくも能力者、そして英雄の能力をフルに用いて、狙いを定める。
『……大吉!』
 弓道で言えば、皆中と言うべきだろうか。二人ともが大吉の授与品を持ち、にこにこと笑っている。
「ちょっとズルい気もしましたが
「実力、実力。実力も運のうち!」
 そんな嬉しさもそのままに参拝を終え、二人は嵐山で紅葉狩りを堪能する。
「これが京都の秋なのですね」
「ほんとにきれいだよね。……ねえ、アリッサ」
 京子がふっと、隣のパートナーを呼ぶ。――口にしたことこそないが、京子はアリッサを、自分という舟の『錨』だと思うときがある。錨があるからこそ、舟は流されずにいられるのだ。アリッサがいなかったら、自分はこの世界で、こんなに好き勝手な生き方はできなかっただろう。それを口にすべきか否かの逡巡の間に、アリッサが口を開いた。
「なんです、改まって」
 アリッサも、京子の言わんとすることをほんの少しだけ、共鳴の力を借りずとも感じ取れたような気がしたのだ。――アリッサにとっても、京子がかけがえのない存在なのは同じことだ。彼女がいない世界は、これほど色鮮やかに見えることがあるだろうか? そんな思いが、アリッサに口を開かせた。
「ん、……いやなんでもないよ」
「……そう、ですか」
 ふたりの思いは口に出されることなく、しかし、かすかに通じ合う。
 京子とアリッサは、またそのまま秋をみつめた。鮮やかで、しかし確実に冬へと向かうその景色が、不思議と二人をセンチメンタルな気分で包んでいた。


「お願いします! 人力車、牽かせてください!」
 そのセンチメントプレイス・嵐山で、緋十郎が車夫(しゃふ)に向かい、びしっと90度に頭を下げた。
「妻のたっての願いなんです! 俺が牽く人力車に乗りたいと! 妻が!」
 困惑されるのは重々承知と、頭を下げたまま力強く語る。しかし、「と言われても」と車夫が困り切った顔で言った。いかに能力者といえど、操作にコツのいる人力車を初見で牽くことは難しいし、土地勘もない。なにより人力車は軽車両扱いなのだ。万一のことを考えると、店側としては到底許可が出せるものではない。
「……やはり駄目ですか……」
 血涙が出そうな無念の表情で振り返り、主にして愛しの妻であるレミアを見た。
「じゃあ、牽いてる格好の写真だけ撮って、あとは普通に乗りましょう? お願いを叶えてくれようとした記念、ね」
 それなら、と車夫も快く了承してくれる。緋十郎は恭しくレミアを両手で抱え、人力車へそっと乗せる。その腕にかかる重みとも呼べない重みが、いとおしい。指示通りに人力車を引く構えだけを決めると、預けた自分の携帯のカメラが、シャッター音を幾度か鳴らした。後ろから、レミアの呼びかけが聞こえる。
「それじゃあ行きましょう、緋十郎。あなたの背を見ながらでないのが、少し残念だけど」
 二人で乗った人力車が、やがて動き出す。レミアの横顔越しに見える嵐山の風景に、緋十郎は少しの口惜しさと、愛しい者と重なる美しい色彩の感動を胸に抱くのだった。


「先輩が一緒に来てくれて、今日はいい日になりそうです!」
 酒又 織歌(aa4300)がペンギン皇帝(aa4300hero001)を連れて、にこにことそう言う。
「こちらこそ。一人でどうしようかと思っていたところだったから」
 国塚 深散(aa4139)が静かに微笑む。朝から九郎(aa4139hero001)に別行動したい、と告げられてしまい、困って知り合いに声を掛けた。が、外せない行き先のある者、既にカップルでの旅程を決め打ちしている者、カップルではないがなんとなく邪魔してはいけない雰囲気を感じた者、とことごとく撃沈し、まあ仕方のないことだと一人で神社仏閣を回ろうとしていたところに、織歌たちが声をかけてくれたのだ。その一人と一羽は、どこに行こうか、と相談を始めている。
「京都といえば?」
「ふむ、歴史ある土地柄ゆえ、歴史的建造ぶ……」
「食べ歩きです!」
「い、いや、趣深い寺だとか」
「食べ歩き! ですよっ! 赤岩親子バーガー、一銭洋食、賀茂なすの田楽、衣笠丼、京つけもの、京都おばんざい、京都ラーメン、京湯葉、総長カレー、ニシンそば、鱧料理、伏見稲荷寿司、味噌松風、やましろ筍バーガー、八橋、生八橋、京あめ、京ばうむ、阿闍梨餅……」
「昨日調べていたのはそれか……」
「私の口福(こうふく)のため、頑張りますよ!」
「……好きにするが良い」
 呆れたようにグァー、と鳴くペンギン皇帝を見て、深散がふむ、と思案する。
「両方楽しめるところが、あるのだけれど」
 その提案で、二人と一羽は三年坂を登り、かの有名な舞台のある寺への参道を進む。道々で織歌の舌を満足させる店が現れ、道中に彩りを添えた。そうしてたどり着いた先に、織歌は首を傾げる。
「お水?」
「そう。この音羽の滝は、昔から絶えることのない名水として知られているそうよ」
 パンフレットを広げながら、深散が目線を上げた。その先にはすでに人が多く並び、しかしなお清冽な空気が漂ってきている。
「水は大事だぞ、織歌。魚は言うに及ばず、美味なるものは美味なる水があってこそなのだ」
 できれば水浴び、いやさ滝行をしたかったものだと感慨深くペンギン皇帝が語り、グァ、と鳴く。その眼前には、三本の筧(かけい)から清水が流れ落ちていた。描く放物線こそ細いが、その勢いは緩むことがない。
「それぞれの筧で、もらえるご利益が違うそうよ」
「じゃあ、全部飲めばおいしい上に……」
「それをやるとご利益がなくなるらしい」
 パンフレットを覗き込み語るみちるとペンギン皇帝に、そっかあ、としょげる織歌。
「私はこれを」
 深散は迷いなく学問上達の滝に向かい、購入した椀で受け、飲む。やりきった顔で、一人と一羽に微笑みかけた。
「お仕事が忙しくて、学業が疎かになりがちですからね」
「あ、じゃあ私も!」
 織歌も学生の身である以上、学業は気になるところだ。ひしゃくでたっぷりと受け、手を樋代わりにしてひといきに流し込む。――参道で食べた様々な美食が、清められ、高められていくような、まろやかな味。
「……おいしい! ほら、陛下も!」
「ううーむ、余はクチバシゆえ、ここから飲むのは難しい。水を詰めた瓶を買ってもらえれば十分だ」


 そして、滝と共に名高く聞こえる檜舞台を眺める者たちもいる。
「なるほど、ここから飛び降りて難を逃れた猛者がおったのか」
「言っとくが、やらないからな」
 それでなくても寝起きを襲撃じみた鍛錬で起こされたのに、とリィェン・ユー(aa0208)はイン・シェン(aa0208hero001)を睨む。日課とはいえ、旅先でぐらいゆっくり寝たいものだとぼやき、却下された今朝が記憶に新しい。
 舞台の見物を終え、先を立って歩くインの後ろをついていっていたリィェンは、ふと違和感に気づく。ここはまだ境内のはずだが、何かが違う。
「おい、イン」
「なんじゃ?」
「なんでこんなところに俺を連れてきた」
「おぬしの愛の成就を願うために決まっておるじゃろう」
 人波に沿って歩いていたはずが、うまく境内社に誘導されてしまったらしい。見ればあちこちに『良縁祈願』『縁結び』『恋愛成就』のキャッチコピーが躍っている。人々のはしゃぎ具合からすると、相当に有名なところだ。
「……おい」
「ほれほれ、早くそこの石から石へ、目をつぶって渡れ。一度でたどり着ければ叶うのも早いというぞ」
 しぶしぶと、だが重くない足取りでリィェンは石の間を渡る。鍛えられたその感覚でなら楽勝にも思われたその距離は、しかしてなぜか、あと一歩のところで歩みが逸れてしまう。口にこそ出さないが何気に落ち込む彼に、インがもう一度じゃ! と発破をかけた。
「……!」
 二度目は、まっすぐにたどり着いた。前途多難ではあるが、叶う日は訪れる。他愛ない占いではあるが、そんな風に告げられている気がして嬉しくもある。そんな感情をかみしめているリィェンのズボンのポケットに、インはさっと授与所から受けていたハート柄のお守りを忍ばせて、うむ、と頷いてから言葉を発した。
「よし、帰りはおいしそうなものを見て回るぞ。さすが観光名所、粒ぞろいじゃ」
「買っても持ちきれないんだから、試食だけにしておけよ」
「わかっておるわ。"試食"だけで済ますのじゃ」
 ――後日、リィェンの家に大量の京都の地酒が届き、
「酒は"試飲"と言うであろう? ……つまり、試食ではない! 購入無制限、じゃ!!」
 とドヤ顔で言い放ったインが、リィェンにその名に相応しい、凄まじい殺気で詰め寄られるのだが、それはまた別のお話。

●紅葉と落日
 やがて陽が傾いでいく。帰りの算段を始める者もいる中、車中の人となっている者がいる。
「これなら深散と一緒しても良かったかな」
 九郎は、道中で買い求めたよもぎ餅をかじりながら、そうひとりごちた。
「(確かに感じたんだ、俺は、"懐かしさ"を)」
 懐旧の情を誘う、この都の香気。かつての自分の世界とは違うけれど、きっと似ているこの場所。だから、直感が導くまま、あてもなく歩いてみたい。
 そんな思いが九郎を突き動かし、京都観光を置いてまで、滋賀の比叡山に向かわせたのだ。だが、
「そうじゃない、そうじゃなかったんだよなあ……」
 バスで楽々とたどり着き、ケーブルカーがぐんぐんと人々を運び、整備された道がそこかしこへいざなう山。九郎が求めていたそれとは様相を異にした風景に、さっさと退散してしまったのがつい先ほどだ。
「……ま、違う世界だもんな。当たり前、か」
 また餅をひとかじりして、九郎は整備された道をゆくバスで京都へと戻る。日は既に大きく傾ぎ、紅葉のように赤へと移り変わろうとしていた。


 そんな夕暮れへの途上にある街中で。
 観光を終え、土産を見て回っていた國光とメテオバイザーは、道の途中にあるつげ櫛のお店で足を止めた。鮮やかにディスプレイされた花簪(はなかんざし)を見て、彼らは日頃から花簪をつけている友人を思い浮かべる。入店した中には、看板娘に負けじとばかりに、色とりどりの簪が咲いていた。
「綺麗ですねー! ほら、えーっと? そう、このへん!」
「わ、こら、むやみに引っ張るなよ」
 メテオバイザーの危なっかしい手つきに冷や汗をかきながら、國光はその花簪を手に取った。なるほど、その色合いは、目の前にいる英雄の桃色の髪に良く映えそうだ。傍に掲示されている販促ポップで組み合わせて使われていたつげ櫛を一緒に手に取り、レジに目を向ける。
「うん、記念に買っていくか」
「ありがとうなのです、サクラコ!」
 会計時に、お試しで結ってみますか? と尋ねられ、メテオバイザーは大きく頷いた。買い求めた櫛が桃色の髪をくしけずり、ややウェービーな髪質に合った、日本髪と今時のアップスタイルが融合したシルエットがあらわになる。その初めての姿と、普段隠されているうなじの繊細なラインに、國光はふっと、目の前の妹のように思う存在が、年頃の少女であることを思い出した。
「(……一緒に戦ってると、近すぎて女の子だってこと、忘れちゃうんだよな)」
 その内心は、しかし口に上ることはない。女の子なこと忘れてました――なんてことを知られたら、拗ねてしまう。だから、國光はただ、にこやかに笑った。
「よく似合ってるね、メテオ」


 そして太陽が落ち切らんとする赤い夕暮れに染まる、東山の一角。
「ここね、会いたい人の顔をした千手観音像が必ず見つかるらしいわよ」
 寺社仏閣が居並び、そして博物館を向かいに眺める寺。志々 紅夏(aa4282)は居並ぶ千手観音たちを眺めやりながら、隣の黒ずくめの男に語った。
「何のつもりだ」
 保志 翼(aa4282hero001)は不快感を隠さない。道中、食事のお豆富にも土産にもほぼ反応を返さなかった(幻想蝶の中に引っ込まなかったのが不思議なぐらいの)彼が今日初めて感情をあらわにしたのを見て、やっと感情見せてくれた所悪いけど、と紅夏は言葉を継ぐ。
「私が見たかったのよ」
 紅夏は探す。昨年冬に亡くなった養母と、子供の頃自殺した両親の面影を。その横顔に翼は問うた。
「自殺?」
「愚神関係らしいけど、借金苦でね」
 その返答ににじむのは怒り。己と他者の幸福が一致するなどという甘い考えで自らの命を絶ったことに対しての怒り。その感情を虚無すら感じられる佇まいの男がどう受け止めたのかはわからない。だが、翼は更に問うた。
「何故後を追わなかった」
「引き取ってくれた養母(かあ)さんのおかげよ」
 縁としても遠く、血の繋がりもない。けれど家族だった。沈黙が流れる。
「…………」
「私は、会いたい人全部見つけたわよ」
「そうか」
 あなたは? と言いたげな紅夏の視線に、翼は応えない。
「……用は終わりか」
 とだけ、言った。その表情のかすかな揺らぎは、誰にも感じ取られることはない。紅夏にすらも。
「そうね、帰りましょ。バスの時間もあるしね」
 そう告げてきびすを返す音が、その証拠だった。

 旅の終わりが近づいている。

●帰るまでが旅です
 秋の日はつるべ落とし、というが、まさしく暮れ始めてからは早かった。すでに空は深く藍に染まり、街灯が白く照り映えている。集合場所に向かう蕾菜と風架の横を、ライトアップされた紅葉を見に行く観光客の一団がすれ違っていった。
「そういえば、今日はよかったんですか?」
「何がです?」
 歩みを止めずに、問う。
「ここからなら、皆のところに行っても時間までに十分戻れたでしょうに」
「確かにそうですけど……」
 蕾菜の脳裏に、風架が自分の前に誓約していた能力者――"先代"、そしてかつて共に過ごしていた能力者たちの面影がよぎる。その面影を見つめるように遠くを見やりながら、自分に語りかけるように蕾菜は口を開いた。
「まだ、先代の代わりになれるほど強くなれていませんから。……だから皆さんに会うのは、ちゃんと先代に負けないくらいになってからです」
 今帰ったら、またずっと一緒に居たくなっちゃいますから。そう言って笑ってみせた蕾菜に、風架は穏やかに微笑み返した。

 そうして歩きながらほどなくしてたどり着いたのは、駅前のバスターミナルにほど近い一角。既に到着した仲間達は、大小様々な土産を抱えて談笑している。

 ちょっぴり残念そうな者がいる。
「よいこの遠足みたいな帰りだな。やっぱここから祇園で飲みたかった……」
「ふふ、また今度来ましょう?」

 とても満足げな者たちがいる。
「可愛い金平糖も買えたし、今日はとっても楽しかったね」
「うん、こんな風にまたのんびりできるといいね」

 お土産を語る者がいる。
「あのね、このお菓子は兄さんでね、こっちの簪がね……」
「自分のは?」
「ううん。楽しかったから、それでいいの」
「……ふぅん、なら良いけど」
「ドールは? 楽しくなかった?」
「……別に。悪くはなかった」
「ふふ、楽しかったんだね!」
「楽しいとは言ってねぇだろ」
「いたっ、……んもう、ドールったら」

 お土産をさっそく開封する者がいる。
「あ、なんでもうお土産の八つ橋が開いて、あー! 半分ない!」
「奴にやるには勿体無い。その高そうな抹茶だけで十分だ」

 合流する者たちがいる。
「あ、一人じゃなかったのか! よかったよかった!」
「ええ、おかげさまで」
「食べ歩きましたよ! 水とか!」
「誤解を招きかねん発言はよさんか」

 オペレーターに熱い感想を語る者がいる。
「――なるほど、実り多い講義だったんですね」
「ええ、統治行為論をあんな解釈で否定するとは斬新でした! ……次は改めて、紙姫やみんなと一緒に観光したいですね」
「そういえば、お姿見えませんね。別行動を?」
「……怒らせてしまって。今は幻想蝶の中です」
「ああ……」


 そうして、いくらか経って18:00。
「それでは出発しましょうか」
 青年はにこりと微笑んで、皆を先導し始めた。私を入れてちょうど47人、京都の四十七士ですねなどと語りながら。
 ――彼らを背後から追う、二つの影があった。おおいおおいと呼ぶ声も空しく、見知った一団は改札を通り抜けてしまう。
「……うむ、遅れたものは仕方ないでござる」
「ちゃんとこっちを見て言いなさい」
 小鉄たちの手には生八つ橋、そして二十人分ほどの土産がある。買い食いと土産の選定に気を取られすぎたのだ。稲穂がはぁ、とため息をつく。自弁することになった交通費を案じているのだろう。
「余分な出費が……」
「そこは大丈夫でござる!」
 小鉄がニッ、とサムズアップを決め、満面の笑みで言い放った。
「共鳴して半日も走れば帰れるでござるよ!」
「……幻聴かしら、旅の疲れが出たのかも」
「これも修行でござる」
 断言する小鉄に、稲穂は幻聴ではない、と諦念を新たにせざるを得ない。二度目のため息がこぼれた。

 なにはともあれ、皆の心に何かを残して、秋の都はエージェントたちを見送る。


 ……あるひと組を除いて。
「飯綱、飯綱ったら!」
「うぇ~、もう一杯じゃ~迎え酒じゃ~」
「んもう……」
 集合時間をとっくに過ぎた星降る夜、酔いつぶれた飯綱比売命を介抱しながら由香里が嘆いた。料亭のほうで気を利かせてくれて宿は確保できたが、ハイシーズンの京都、決して安くはない。
「予算は余裕を見ていたけれど、ううん……」
 由香里はかぶりをふって嘆く。だがうらはらに、その口角はほころんでいた。

 酒は飲んでも飲まれるな、そんな教訓も、秋の都はもたらしてくれるのだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 堕落せし者
    十三月 風架aa0058hero001
    英雄|19才|?|ソフィ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • エージェント
    桜寺りりあaa0092
    人間|17才|女性|生命
  • エージェント
    新津 藤吾aa0092hero002
    英雄|29才|男性|ブレ
  • ショタっぱい
    狼谷・優牙aa0131
    人間|10才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    小野寺・愛aa0131hero002
    英雄|20才|女性|カオ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • 極上もふもふ
    aa0273hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 解れた絆を断ち切る者
    炉威aa0996
    人間|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    セラaa0996hero001
    英雄|10才|女性|ソフィ
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 任侠の流儀
    九龍 蓮aa3949
    獣人|12才|?|防御
  • 首領の片銃
    聖陽aa3949hero002
    英雄|35才|男性|カオ
  • 希望の守り人
    マオ・キムリックaa3951
    獣人|17才|女性|回避
  • 絶望を越えた絆
    レイルースaa3951hero001
    英雄|21才|男性|シャド
  • きっと同じものを見て
    桜小路 國光aa4046
    人間|25才|男性|防御
  • サクラコの剣
    メテオバイザーaa4046hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • 風を支える『影』
    九郎aa4139hero001
    英雄|16才|?|シャド
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中
  • 裏切りを識る者
    ドールaa4210hero002
    英雄|18才|男性|カオ
  • 断罪乙女
    志々 紅夏aa4282
    人間|23才|女性|攻撃
  • エージェント
    志々 翼aa4282hero001
    英雄|27才|男性|ブレ
  • 悪気はない。
    酒又 織歌aa4300
    人間|16才|女性|生命
  • 愛しき国は彼方に
    ペンギン皇帝aa4300hero001
    英雄|7才|男性|バト
  • 喰らわれし者
    長田・E・勇太aa4684
    人間|15才|男性|攻撃
  • うら若き御前様
    碑鏡御前aa4684hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • クールビューティ
    アリスaa4688
    人間|18才|女性|攻撃
  • 運命の輪が重なって
    aa4688hero001
    英雄|19才|男性|ドレ
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