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パスワード再構築 破壊相談所
最終発言2016/10/12 12:41:45 -
質問卓
最終発言2016/10/11 14:11:28 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/10/12 11:33:12
オープニング
●赤き鉄の巨人メタリオ
クラックバーグ。
街の中心部から放射状に延びる五本の大通りが、まるで衝撃で出来たヒビのように見えた事からそう名付けられた街は、かつて軍事兵器の生産で一時代を築いた街だった。
街の八割を占める軍事兵器生産工場。そこから伸びたパイプはまるで蔦のように建物を、そして街そのものを覆いつくし、不気味ともいえる街の様相を作り出す。
しかし、長きに渡った戦争が終わり、需要から突き放されたこの街は、『ひび割れた街』と化していた。急な閉鎖で撤去すらされず放置された軍事兵器を求め、ならず者が集まり、治安は急激に悪化。そして、いつしかならず者たちは力をつけ金を集め、工場を一部再稼働させるまでに至った。
最悪にして最高級のスラム街。それがここ、クラックバーグ。
「YEEEEEEAAAAAAHHH!」
その街を赤い機械が疾走していく。
前後に一対のタイヤを配し、真夜中の道路を疾走する赤い風。形状から言えばバイクであろう。
しかし素直にバイク、と呼ぶには少々抵抗がある。
まず第一にその大きさ。高さにしておおよそ2mほどもあり、全長に至っては3m以上ある。これほど巨大なバイクはまず見かけることなどあるまい。
そして、第二に無人である事。乗るべきシートとハンドルは一応付いているものの、そこにこの車体を操縦する人物の姿はない。乗せる者のいないままそのバイクは疾走していた。
「HYUUUUUUU!!」
高速で疾走するバイクからは機械を通した人の声の様なものが常に発せられていた。
「WOOOOOOOooooooo……」
音を置き去りにして走るそのバイクが町の中心部へとたどり着く。
そこにあるのは一棟の高層ビル。
「Get to!」
バイクの前輪が上がりウィリーの態勢になり、そのままビルの玄関に突っ込む赤色。
ガラスの砕け散る音が響き渡り、破片や粉塵が飛び散る。
しばしの間。
「……行き過ぎたな」
粉塵の中から現れる3m近くある赤い人影。
突っ込んだはずのバイクの姿はない。それもそのはず、今現れた巨人こそが今このビルに突撃したバイクそのものなのである。
この赤い鉄の巨人の名前はメタリオ。バイク形態と人型形態で変形するロボット型愚神。ガネスとレイリィがパスワード構築の為の時間稼ぎとして派遣されたガーディアンの一人である。
「ハンドルを握ると興奮して人が変わってしまう……。俺の悪い癖だ」
ハンドルは握ってないだろ、とツッコむ人間はここには誰もいない。
「先日も手駒の調達に行ったのに思わず現地を通り過ぎてしまったからな。気を付けなくては」
機械らしからぬ独り言を呟きながらビルの外へと歩いていく。
「さて……なるほど、これが例の魔法陣とやらか。これを守れと言うわけだな」
振り返り上を見上げる。
視線の先にはビルの外壁。そのおおよそ20mほどの高さのところに、直径10mほどの魔法陣が光り輝いている。
これがドロップゾーンへのエージェント達の侵入を阻むために編まれているパスワードを構築するための魔法陣だ。
「高くて助かった。低いところに作られていたら自分で破壊するところだったな」
なお、高い位置に配置されたのはガネスとレイリィが「まさかと思うけど突っ込むかもしれないから」と懸念したからである。備えあれば憂いなし。
「……来たか。H.O.P.E.のエージェント」
何かを感知したのか空を見上げて呟くメタリオ。
そして、それと同時に周りの建物のシャッターが開き中から様々な形の機械が姿を現す。
「与えられたコマンドは必ずランする。それは機械としての俺のプライドだ」
言うと同時にメタリオの腕が脚が体が素早く変形し、瞬く間に再びバイクへと姿を変えた。
「Get on!」
その上に何体かの機械が乗り込む。
「Go! YAAAAAHAAAAAAaaaaaa!!!」
先ほどの反省はどこかへ吹き飛んだらしく、ハイテンションな叫び声を響かせながらメタリオが再び道路を高速で疾走する。
深夜の街に赤い風が吹き荒ぶ。
ここはクラックバーク。
最悪にして最高級のスラム街。
●作戦概要
「作戦を再確認するぞ。パスワード構築陣があるのは街の中心部だ」
クラックバーグの設定資料を広げながら奥山 俊夫(az0048)が集まったエージェント達へ告げる。
「街の外側からこの中心部へ向かってこれを破壊してもらう事になる。主要道路は全部で五本。どれも外周から中心部まで真っすぐ伸びている。その距離は2km。主要道路と主要道路を結ぶ小道は存在するが、中心部へ繋がっているのはその主要道路だけだ。そうだな……蜘蛛の巣を想像してもらうと分かりやすい。制限時間はおおよそ10分ほど」
エージェント達の間に緊張が広がる。
「そこら中に従魔がいる。それに……どうやらバイク型の愚神が大きめの従魔を運搬しているようだな」
地図と自身のPCのモニターを見比べながら俊夫が告げる。
「簡単なミッションではないが、パスワードを張られてしまっては今後の戦いが非常に不利になる。すまんが、頼むぞ」
奥山の言葉にエージェント達は力強く頷いた。
解説
●目的
20ラウンド以内にパスワード構築陣を破壊する。
●敵
・ケントゥリオ級愚神×1
「メタリオ」
バイク形態と人型形態の存在するロボット型愚神。バイク形態の速度は凄まじく速く、また鋼鉄の体はかなりの強度を誇る。
バイク形態時と人型形態で大分性格が違う。パスワード構築陣が破壊された時点で撤退する。
バイク形態でデクリオ級従魔を運搬しており、中心部から外周までを1ラウンドで走破する。
人型形態時は鉄の体による接近戦と、腹部のビーム砲による遠距離戦の両方をこなす。ロックオンする能力《デス・ビーコン》で狙いを定め、体当たりの《ルート13》や掴みからのタイヤを使った攻撃《ホイール・オブ・フォーチュン》などで攻撃してくる。
・デクリオ級従魔×? ※中心部の工場で生産されている。
「ピルバグ」
球体の装甲を纏い転がりながら移動し、戦闘時には球が開き中から多数のアームと歩行用の四脚が出てきて攻撃する機械。
「キリングマシーン」
手に盾と鉄球を装備した人型ロボット。頭部はセンサーになっている。
・ミーレス級従魔×? ※街中の至る所で徘徊している。
「ガンドローン」
宙に浮かび索敵し、マシンガンで攻撃してくる。最後は爆発する。
「ワーム」
地中を進み、敵を感知すると頭を出して噛み付いてくる。
「スラッシャー」
空飛ぶ円盤。チェンソーのように外側を高速回転させながら生物をサーチして突っ込んでくる使い捨て兵器。
●特殊ルール
このシナリオのみ「1ラウンド=30秒」と設定し、移動力も同時に3倍になります。
●特別支給品
・ジェットスケート
ライブスを照射し推進力へと変えるローラースケート。起動時、移動力+15、命中半減。起動のオンオフはサブアクション。
※移動力の追加は移動の基礎値になります。よって例えば移動力が元々5のPCは
{(5+15)×3=60}で最終的な1ラウンドの移動距離は「60」となります。
リプレイ
●弾丸急行
この地に降り立ったエージェント達を迎えたのは鉄パイプの森だった。
これ見よがしに壁から生える多数の鉄パイプ。そして、そこかしこから洩れて噴き出す蒸気の立てる音がひっきりなしに鳴っている。
「ここがクラックバーグ……」
『油臭い……』
街の外周に降り立ち、目前の厳つい建物の並ぶ街並みを見てエリカ・トリフォリウム(aa4365)が呟いた。その隣では彼の契約英雄ダレン・クローバー(aa4365hero001)がスマートフォンにこの街の率直な感想を打ち込んで表示していた。
「のんびり構えてる暇なんざ、一切ねぇ! 突っ込むぜ!」
契約エージェントである獅子ヶ谷 七海(aa1568)をむんずと掴み、五々六(aa1568hero001)が早々に共鳴すると共にジェットスケートのスイッチをオンにする。ヴォォンっという起動音が鳴り、ジェットスケートに薄く光が灯る。
「わっと……! ちょっと待って、五々六さん! オレも行く!」
いち早く走り出した五々六を追い、荒木 拓海(aa1049)もスケートをオンにして駆け出す。
「私もお付き合いします」
そこにさらに国塚 深散(aa4139)も加わって三人一組の小隊が出来上がる。
「五々六さん、愚神狙いだろ。俺もあいつにちょっと興味ある」
「ふん、遅れんなよ。一切止まらねぇからな」
「大丈夫です。走る速度で後れは取りません」
言いながら、右腕にライヴスで作り出した鷹を生み出し、その脚にスマホを括り付け飛ばす。
『全力で目標に接近して本命と見せかけて陽動。単純だけど効果的な作戦だ』
「その為にも、まずは敵の位置を把握が重要……」
相棒の九郎(aa4139hero001)の言葉に答えるように、深散がライヴスの鷹を高高度まで飛ばし、はるか上空からクラックバーグを見下ろす。
遠すぎてなかなか細かいところまでは判別しにくいが、かといって高度を下げてしまうと空を飛ぶ従魔達の餌食になってしまう。今はこの精度の情報で我慢すべきだ。
「とりあえず、この道に現在主要な敵はいません。雑魚ばかりです」
「よし、突き進むぞ!」
足に着けたブーツに一層ライヴスを込め、背後に噴射し加速しながら五々六が叫んだ。三人は大通りの真ん中を真っすぐ突き進み進軍していく。
「うわぁ、速いですね。あっという間にあんなに離されちゃいましたよ」
「あの三人は俺達の中でも特に足の速い奴らだからな。無理に付いていってもそれこそ足を引っ張ってしまう。俺達は俺達のペースで行くぞ」
三人のスピードに圧倒される君建 布津(aa4611)に飛岡 豪(aa4056)が答える。
「そうですね。でも、こんな早く動けるのも中々ないですよ。いやぁ、貴重な体験ですね」
『君建さん、敵が来ていますよ』
少年のようにはしゃぐ布津に英雄の切裂 棄棄(aa4611hero001)が話しかける。
侵入者の存在に気付いたのか、辺りの廃工場の割れた窓などから、わらわらと機械型の従魔達が湧いて出てくる。
「大丈夫ですよ、分かっています。さあ、棄棄さん。あれ……なんでしたっけ? あのブワァーってする奴お願いしますよ」
『ストームエッジですわ』
布津の曖昧な指示に従い棄棄がライヴスを集中させると、中空に無数の鎖を出現させる。
「さて、お掃除お掃除」
こちら側に向かう動きを見せていた一団にその鎖を回転させながら叩きつける。数体の機械がその鉄の嵐に巻き込まれてグシャグシャになって地面に叩きつけられた。
しかし、無論すべての敵を巻き込めたわけではない。その布津の攻撃から逃れ、数体の円盤状の従魔が高速回転しながらエージェント達に迫っていた。
「うるさい」
その甲高い回転音に文句をつける等にダレンが銃撃でそれらを落としていく。
『ダレン、使い心地はどうだい? 楽しいかな?』
「だまれ、集中できない」
エリカの楽し気な声を切って捨てながら迫る従魔を次々打ち落としていく。
『豪、離れていく敵がいるぞ!』
「拓海達を追う気か! させん!」
ガイ・フィールグッド(aa4056hero001)の指摘を聞いて飛岡が一団を抜けて前方へ走り出す。
「唸れ! 爆炎竜砲ドラゴンハウル!」
そして、敵を射程に捕らえたところで足を止め、竜の口を模した砲口を敵に向け、ライヴスの塊を敵に放つ。
「キュィィィィ」
空中で炸裂したそれは数体の敵を巻き込み吹き飛ばす。
「それなりに減りましたが……増える数も多いですね。これではいたちごっこです」
騒ぎを聞きつけ続々と従魔達が集まりつつあるのを感じ布津が呟く。
「ああ、俺達の役目は他の連中が愚神や構築陣に集中する為の露払いだ。先陣にあまり離され過ぎるわけにもいかん。ある程度削ったら移動しよう」
それに豪も同意し、再びジェットスケートの機能をオンにする。
「行くぞ! 加速装置、オン!」
再び疾風のようになり、一団は大通りを走り始めた。
●開口
「先行班は出たみたい。私達も行きましょう」
ライヴス通信機に注意深く耳を傾けながら、フィアナ(aa4210)がジェットスケートのスイッチをオンにする。
「承知! 全力で駆けるでござるよ!」
『従魔にぶつかってこけないでねぇ?』
それ答え飛び出す小鉄(aa0213)に麦秋(aa0213hero002)が間延びした声をかける。
「殺伐とした戦場にラビットシーカー颯爽参上! さーて、気合入れていくよ!」
『兎の罠に狐がかかるようにお祈りしておきますわ♪』
小鉄の後ろに東雲 マコト(aa2412)とエリザ ビアンキ(aa2412hero002)が共鳴した姿、ヒーロー『ラビットシーカー』が付いていく。
「小鉄さん、私と轍は途中で抜けますから、お願いします」
「うむ、分かっているでござる。そちらも頼むでござるよ」
「……ありがとうございます」
並走しながら話しかけてくるクレア・マクミラン(aa1631)に小鉄が力強い頷きを返す。
「というわけで、頼んだぞ、轍」
「……はいよ。場所は付いてくから適当に先導頼む」
『旅行に行くときの追走車じゃないですから、もうちょっとやる気出してくださいよ』
クレアの問いかけにやる気なさげな口調で返す不知火 轍(aa1641)に英雄の雪道 イザード(aa1641hero001)が苦言を呈する。
「……別に。撃つのはクレアだ。あいつは選択を、間違ったりしない。無駄に口出ししても、お互い疲れるだけだ」
『それは……まあ、そうかもしれませんけど』
適当とも思えるそれは一種の信頼の証だ。彼女ならばベストな選択をするはずだという確信が轍の中にはある。
『ふむ、ここまで言われては気合を入れ直さねばならんな』
轍のその言葉にクレアの契約英雄であるアルラヤ・ミーヤナークス(aa1631hero002)がポツリと喋る。
「……頼むぞ、アルラヤ。私も狙撃はまだ不慣れだ。頼りにしているぞ」
『無論。任せておけ、サニタールカ。我々は我々であるがゆえに。無限の経験が必ずや貴殿を助けるであろう』
その言葉にクレアも満足そうに頷く。
「さあ、今回は時間との勝負。少し急ぐわよ」
言ってフィアナが速度を上げる。追走するのは小鉄と唐沢 九繰(aa1379)。別ルートの先行班と負けず劣らずの速度である。
『ピッタリの世界なのに不満そうですね』
走る九繰にエミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)が不思議そうに話しかける。
このロボばかりの世界はロボ研部長にしてロボマニアの九繰にとっては垂涎物の世界のはずである。いつもの九繰であればもっとテンションが高くていいはずだが、しかし今日の彼女はどこか表情が優れない。
「前に来た時に解体してみたんですけど、中身ハリボテで……」
眉をひそめながら九繰が答える。
「召喚した愚神が悪いのか、それともこのシステムを作ったグロリア社か、あるいはテーブルトークRPGの制作元が悪いのか……。設定のされてない部分はごまかされるみたいなんです。手抜きですよ、まったく」
はぁ、とため息混じりに続ける。
「そのハリボテってのはアレの事か?」
九繰の言葉に横にいた御童 紗希(aa0339)が相棒のカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero00)に似た荒い口調で尋ねる。
その言葉に九繰が視線を前の方へ伸ばすと、前方の方に以前見かけた事があるキリングマシーンが立っていた。その傍らには丸い胴体から銃を生やしたロボットが2体待ち構えている。こちらは初見だ。
「ええそうです。あれですね。小鉄さん! あれの相手は私でしますから先に!」
「うむ、任せたでござる!」
「私も行きます」
小鉄を中心に九繰とフィアナがそれぞれ左右に展開し従魔達へ迫る。
「――目標確認。交戦開始」
「ビーガガ――」
二対のピルバグが銃を3人に向かって銃を乱射する。
「甘い!」
それを大通りの端の方へ移動して回避しながら九繰が敵の横側に迫る。
「――対象の進軍妨害を優先。攻撃開始」
キリングマシーンがその九繰の進路を阻むように鉄球を振り下ろす。
「引っかかりましたね!」
それを見て急停止し、ジェットスケートのスイッチを切る。この靴は速度を出す分にはいいが、攻撃する際はバランスが取りづらい。
「道を拓きますよ!」
そして、進路を前方からキリングマシーンの方へと変え、斧を振りかぶり突撃する。
「どっせい!」
「――緊急防御」
気合一閃。九繰が横薙ぎに振りかぶった斧が、キリングマシーンが咄嗟に突き出した盾に激突し、その巨体をグラリと揺れさせる。
「押し通るでござる!」
その一瞬の隙を突いて、小鉄がキリングマシーンの頭上を側宙で体の上下を逆さまに飛び越えていく。
「ピピー」
慌ててマシンガンの標準を小鉄に合わせて上に向けるピルバグ。
「……道を空けてくれるかしら」
そこへ突っ込んだフィアナのウロボロスがピルバグに叩きつけられる。
『上を見上げると足元を掬われる。今も昔も変わらない教えだよ』
ルー(aa4210hero001)の声と共にその姿の通り、道を転がり跳ねるピルバグ。
「ガッガッ……ピー」
くるくると回転しながら再び足を生やし、地面に体を固定するピルバグ。どうやら重大なダメージには至っていないらしい。
「通るぞ」
「サンキュな!」
しかし、一体が吹き飛ばされたことで敵の前線には穴が開いた。その隙間を後続の四人が駆け抜けていく。
「――前線構築失敗、通過済み対象を追跡します」
「させない! あなた達の相手は……」
キリングマシーンの言葉にフィアナが全身からライヴスを放出し、従魔達の注意を引く。
「私です!」
「ピピーガガガガ……」
クレア達の背中を狙っていたピルバグ達の標準がフィアナへと移る。
「全ては“兄さん”の為に……」
そう言ってフィアナは来たる攻撃に備えて、ウロボロスを構えた。
●赤き風のメタリオ
『先行班は今のところ問題なく移動中。作戦は順調よ。そちらもそのまま進んでいいわ』
「わかりました。愚神の現在地はわかりますか?」
宇津木 明珠(aa0086)からの通信に構築の魔女(aa0281hero001)が問い返す。
『今のところはまだ姿を現していませんね。国塚さんからの映像にもまだ……』
明珠からの返事が返ってくる。そもそも深散の送信している映像は町全体を移してはいるが、その代わり細かい部分を分析できるほど鮮明ではない。おおよその道は把握できるが、敵の動きは分からない。
「こちらも今のところミーレス級しか現れていませんわ。……そこ!」
狙撃銃でガンドローンの一体を撃ち落としながらレイシー・カニングマン(aa4281)が告げる。
「数だけはやたら多いけどな……」
同じくスラッシャーを撃墜しキトラ=ルズ=ヴァーミリオン(aa4386)がぼやく。
「他の班が接触してないなら、その分ボク達が当たりくじの可能性は高いって事だね」
若干興味なさげに煙草を燻らしながらArcard Flawless(aa1024)が呟く。
『私達は四班に分かれていますから、単純に言って4分の1のくじですね』
それに英雄の木目 隼(aa1024hero002)が続く。
「来たらぶっ飛ばしてやるわよ」
アークェイドの言葉にレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)がニヤリと笑い答える。
「フン、同感だ。こちらに来るようならスクラップにしてやるだけだ」
レミアに黛香月(aa0790)が同調する。
『そういう事言ってると実際に来るもんだ小名、不思議とさ』
「あはは、そんなまさか……」
場にそぐわずどこか楽し気に言うルフェ(aa1461hero001)に想詞 結(aa1461)が少し不安げに窘める。
『ロロ――』
「え?」
突如、発せられた辺是 落児(aa0281)の警告の声に構築の魔女が耳を澄ませる。
「hoooo……」
その耳に微かにサイレンのような音が届く。
「……来ます!」
構築の魔女がそう叫ぶのとほぼ同時に道の向こうに赤く巨大な影が姿を現す。
(あれが、構築陣を守る愚神!)
全員が同時にそれを認識し身構える。
「YEEEEAAAAAHHHH!!!」
その赤い愚神は遥か道の向こうから瞬く間にエージェント達に接近する。
「散ってください!」
大通りのど真ん中を我が物顔で疾走するその愚神を左右に散って避けるエージェント達。
「Hyu~」
愚神は全く減速することなくその場を通り過ぎ、そして数十m進んだところでブレーキをかき反転した。
「通り過ぎちまったが、お届け物だ! 歓迎するぜ、H.O.P.E.!」
愚神の横に積み荷のようにぶら下がっていた丸い球がゴロンと地面に落ちる。
「俺の名はメタリオ! それじゃまたな!」
積み荷をすべて落下させ、愚神が――メタリオが前輪を跳ね上げ急加速する。
『レミア! 逃げる気だぞ!』
「分かってるわよ!」
共鳴状態の内部で告げられた狒村 緋十郎(aa3678)の指摘に短く答え、レミアがメタリオに向かって剣を構え突撃する。タイミングを見計らい、側面からタイヤを狙って大剣を振るう。
「逃がさない!」
「Bad!」
タイヤに大剣が届こうかというところで前輪を着地させたメタリオがそのままの勢いで横にスピンする。
「くっ!」
スピンしたタイヤに剣を弾かれ、レミアの小柄な体がふっ飛ばされる。
「Catch me if you can!」
ほとんど減速することなくメタリオが再び前を向き加速する。
来た時と同様にあっという間に視界内から消えるメタリオ。
急に現れそのまま消えるその様はまさしく突風の如く。メタリオがいた痕跡はこの場から消え失せていた。
――いや、それは違う。
たった一つメタリオのいた痕跡が残っている。それは……
「ビビーガガッ……」
「ガッガガッ……ピー」
電子音と何かを演算するモーター音を鳴らしながらメタリオの落としていった球がから足と腕が伸び、エージェント達の方へ銃を向ける。
「あれに構っている暇はありません! 先を急ぎましょう!」
放たれた銃弾を防御しながら構築の魔女が味方に叫ぶ。
「あの愚神が走り去った今がチャンスです、一気に距離を縮めます!」
ジェットスケートを起動し、構築の魔女が敵に背を向ける。
「ピーガガ――」
「了解ですわ! あれらは私が承りました!」
『ええい、邪魔をすルでないワ! コノぽんこつドモメ! ワガハイ達の邪魔はサセんゾ!』
コル・レオニス(aa4281hero001)の雑言と共に、構築の魔女の背中に銃弾を放とうとしたピルバグにレイシーがRPGをぶっ放す。
「すみません、お願いします!」
結や他の面々も次々に前方へと駆けていく。
「足止めが目的だ。無理に突っかからんようにな」
「……はい!」
香月がレイシーの横で銃を放ちながら呼び掛ける。倒す必要はない。あの従魔達を近づけさせないことが二人の役割だった。
「少しばかり相手をしてもらおうか、雑種ども」
鉛の弾が高速で飛び交うなか、香月は薄くそう笑った。
●正義に退路無し
「ほらほら、銃の乱射魔が通りマすヨっと」
碌に狙いも定めず、あえて言うなら適当な空中に狙いを定めて無茶苦茶に銃を乱射しながら軽い口調で氷斬 雹(aa0842)が大声を上げる。
「おっと、来たネ。バキューン★」
その騒ぎを聞きつけ集まってきた従魔の一体を狙撃する。少し前とはうって変わって正確で間違いのない射撃だ。
「大分集マッて来たかナ?」
後ろをちらりと振り向きつつぼそりと呟く。
銃を矢鱈と撃っていたのは攻撃が目的ではない。少しでも多くの注目を集め、従魔達を引き付ける囮となる為である。
「ギュィィィィ!」
「おわっと! そうイや、いたネ。お前も」
地面から急に顔に向かって突き出してきたワームの爪を寸でのところで躱し、代わりに鉛玉を叩き込む。
「しかし、ちょっと集マり過ぎテるカナ?」
先ほどよりも少し距離が詰まった従魔群を見て氷河呟く。
ジェットスケートで全力走っている分にはなかなか追いつかれないが、戦闘の為に減速する度に徐々に近づいてくる。
あの数の敵に囲まれるというのもなかなかぞっとしない想像だった。
「ま、何とカなるでショ」
持ち前の軽さを発揮しそう呟いた瞬間、前方から走ってくる人影が見えた。
「正義推参!」
高らかに笑いながら走ってきたユーガ・アストレア(aa4363)がフリーガーファウストを構え、敵軍の中に撃ち込む。
「キュィィィ!」
多くの敵を巻き込みライヴス弾頭が爆発する。
「イイネ! ほらほら、追加ダ!」
ユーガの作り出した隙に乗じて雹も振り返り、弾丸を撃ちこんでいく。
『ご主人様、一旦距離を取るのが得策かと』
「そうだね、ちょっとしたピンチも正義の為には時に必要だ!」
それでもすべては仕留めきれなかったのを見て出されたカルカ(aa4363hero001)の進言を素直に聞き入れ、身を反転させ中心部に向かって再び走り始める。
「ほれ、回復じゃ。受け取れ」
「おお、アンガトね」
細かく傷を負っていた雹にカグヤ・アトラクア(aa0535)がケアレイを飛ばす。
「しかし、雑魚どもばかりで大物が引っかからんの」
後ろの従魔群を眺めながらカグヤがポツリと呟く。
「戦いが終わったら工場の生産技術を奪おうかと思っておったが、どうやら聞くところによると中身はハリボテのようだしの。そのうえ、ここの敵と巡り合えぬようでは興が削がれる」
『そういう嘆きはまだ早いでしょ。敵排除出来てからやってね』
はぁと妙に色っぽくため息を吐くカグヤにクー・ナンナ(aa0535hero001)がツッコミを入れる。
『それに……来たっぽいよ』
「ふふ、そのようじゃの」
クーの言葉にカグヤの口の端がわずかに上がる。
「YAAAAA!」
ドップラー効果を引き連れ駆け抜ける赤い風。
「AAAaaaa……」
メタリオは疾風のように3人の間をすり抜け、後方へと走り去っていく。
ただし、置き土産付きだ。
「――敵複数確認、排除開始」
メタリオに乗っていた2体のキリングマシーンが着地する。
「さあ、ここからが本番だね」
ユーガが立ちふさがったキリングマシーンを見上げ足を止める。
「二人とも、先に行っていて。ここはボクが……止める!」
「……あいヨー、んジャ任せタ」
ただならぬ雰囲気に何かを感じ取って雹が言われたとおりに敵を迂回して先へ進む。
「――敵迂回阻――」
「ほれ、どっちを見ておるか。戦いを前に余所見なぞ以ての外じゃぞ」
雹の行く手を阻もうとした従魔にカグヤが矢を放ち妨害する。
「カグヤさん?」
「お主が何をしようとしておるのかは大体分かる。その後をフォローする者が必要じゃろう?」
その場を離れようとしないカグヤにユーガが問いかける。
「安心せい、多少の傷でどうこうなる柔な体ではないことは知っておろう」
まあ、確かに。殺しても死なないような人であることは付き合いから知っている。
「分かったよ、それじゃ遠慮なく……」
ユーガの体内で急速にライヴスが上昇していく。
「行くぞ! バーストモード、発動!」
そう叫ぶと同時にユーガが身に着けていたライヴスソウルの宝石が砕け散る。そして、ユーガの残留ライヴス量が一気に跳ね上がった。
危険と表裏一体のパワーアップ手段、『リンクバースト』だ。
「ハァァァ! 正義の力でどんな相手だろと倒すよ!」
『機械の塊だろうと、私達の刃は貫きます』
「さあ、正義執行だ!」
ユーガが高々と手を上へ掲げると、その数m上空にいくつもの槍が浮かび上がった。
「降り注げ、グングニル!」
そして、手を振り下ろすと同時に無数の槍が全て地面に向かって降り注ぐ。
「やれやれ、雨が降っても槍が降ってもとはよく言うが、実際に降っているのに当たったのは初めてじゃの」
巨大な盾をまるで傘のように扱いながらカグヤがぼやく。しかし、彼女の凄まじい防御力と生命力は槍の雨の中でもなお問題なく彼女を戦場に立たせた。
「――ガガ――損傷増大。ダメージチェック――行動可能と判断。脅威を排除します」
立っていたのはカグヤだけではない。さすがに先ほど集まっていたミーレス級はほとんどが槍に貫かれ全滅に近い状態だが、行く手を塞ぐキリングマシーンは体のあらゆるところから槍を生やしながらもまだ動いていた。
「正義はそんなに甘くない! もう一回だ! ウェポンズレイン!」
しかし、正義に慈悲はない。
彼等が動き出すよりも早く、再び降り注いだ槍の雨が二体を蹂躙した。
「――ビガ――そん、傷……増……」
さすがに二連発には耐えられなかったのかキリングマシーン達が沈黙する。
「ストームエッジ!」
しかし、それで止まることなくユーガは続けて槍を召喚し、何故か何もいない地面に向かって放つ。
(あいつが中心部に戻る為にはまたここを通らなければいけない……!)
そして、距離とあの速度からしてそれはもうすぐのはず。
「ヒュゥゥゥ!」
予想通りそれは来た。カオティックブレイドの複製した武器は一定時間で消えてしまうが、今ならまだ残っている。メタリオが早すぎるが故の弊害だ。
「スピード違反の暴走バイクは悪! よって正義が成敗するよ!」
そして、ユーガ自身も武器を構えてメタリオに突撃していく。
「Standby!」
メタリオの前面に付いたフロントライトからレーザーサイトのようなものがユーガに向かって伸びる。
「――!」
「Go to hell!!」
掛け声と共にメタリオの速度がさらに上昇する。
今までの速度とは比較にならない超々高速の突進。
避けるどころか身動き一つ取る暇なくユーガの胴体に前輪が激突する。
「Craaaaash!!」
「あ、ぐっ!」
しかし、ユーガもただで転ぶような柔な性格ではない。前輪が自身に激突した瞬間に、自身の周りに展開したグングニルを両側から挟み込むようにして叩きつける。
「Good!」
しかし、回転する車輪を破壊するには至らない。メタリオは地面に突き刺さった武器を蹴散らし、そのまま走り去っていく。
「……っ!」
一方、吹き飛ばされたユーガが空中で回転し、着地する。
「ほう、無事か?」
「うん、内側から力が湧いてくる。これならまだ……」
そういってメタリオを追おうとしてガクッと膝から崩れ落ちる。
「あれ?」
「リンクレート切れじゃな。つまり、バーストしてなければ一撃で重傷だったという事じゃ」
カグヤが倒れ込むユーガの首根っこを掴み持ち上げる。
「運が良かったとは言わぬ。退路を断つお主の覚悟がお主を救ったという事じゃ」
既に気を失いだらんと手足を伸ばすユーガを肩に担ぐ。
「ま、一先ずはようやったと言っておこう」
そう言って、カグヤは中心部へ走る。
ユーガを安全圏に連れて行きたいのやまやまだが、この街に今安全地帯など存在しない。
一刻も早くこの戦いを収束させる事がユーガの為であった。
●積載量増加
「地面から、敵が来るよ! 気を付けて!」
マコトの警告にエージェント達の走る注意が地面へ向く。
「キィィィ!」
「邪魔!」
来ることさえ分かっていればなんて事はない。紗希が足元から出てきたワームを一息に両断する。
「アリガトな、マコト」
「どういたしまして」
紗希の感謝の言葉に軽く手をあげて答える。
(空中を飛ぶ従魔の数が大分減った……今ならチャンスかな……?)
「頼んだよ、鷹ちゃん!」
上空の状態を確認し、ライヴスで生み出した鷹を腕から上空へ放つ。
(とりあえず今のところ順調。ミーレス級の従魔の数も減ってきてる……その先に目的地のビル……)
そこまで確認していて急に眩暈に襲われる。
「あっ……!」
「大丈夫でござるか、東雲殿」
小鉄に腕を掴まれて何とか倒れずに済んだ。
「え、あ、大丈夫大丈夫」
その間に持ち直し、立ち上がる。
(ちょっと無理しすぎてるかな……)
自身の持つ武器や使用してるスキルを鑑みて反省する。AGWやスキルは使い続ける限りライヴスを消費する。あまりに過剰に使い過ぎるとただ立っているだけでも体力が削られて状態に陥ってしまうのだ。
(でも、今は少しは無理をしないと)
再び鷹の目とのリンクを取り戻し、道の先を見る。走る先に見える中心部のビル。
その前に赤い塊が姿を現した。
「――! メタリオ! こっちに来る!」
急いで通信機に向かって叫ぶ。
「こちらを先に狙ってきたでござるか!」
「いっぱい従魔が乗ってる! また落としていくつもりかも!」
メタリオの速度ならばほどなくここへ到着するであろう。
「面白れぇ、いくらでも来てみろや!」
紗希が愛用の大剣を構えて、迎撃態勢を取る。
「HUUUUU!」
相変わらず大通りの真ん中を我が物顔で走り抜けるメタリオ。
「来たか!」
思わず身構えるが、メタリオは3人を前に止まる事も載せている従魔を下ろすこともしなかった。
「……何だ?」
ただ通り過ぎただけのメタリオを振り返る。
『後続を狙っているのかもしれないわ。完全に陣への攻撃から脱落させるために』
通信機越しに明珠がボソリと言う。
『九繰とフィアナは最初の従魔達を片付けて移動中。二人の所をあの数に狙われると中々厄介ね。場合によっては救援が必要になるかも』
淡々と状況を報告する明珠。先ほどのメタリオが乗せていたのはギリングマシーンとピルバグが3体ずつ。
デクリオ級6体は流石に二人では手に余る数だ。特に二人は既に一戦終えて傷も疲労もそれなりに蓄積しているはずだ。
「面倒くせー奴!」
紗希が率直な感想を漏らす。
『せめて、二人が別の道に逃げる時間が稼げれば……』
『ここは私に任せてもらおう』
明珠に答えたのは一団から離れ行動していたクレアの声だった。
●過積載禁止
「というわけだ、轍。行けるな」
「……いいぜ」
轍からの返事を確認してからクレアはアンチマテリアルライフルのスコープに目を通す。
「アルラヤ」
『任せろ。細かい誤差修正は我が行う。貴殿は的確なタイミングでトリガーを引けばよい』
「……風力、なし。湿度0%。彼我距離250m。射程外。射程到達まで3秒。2、1……」
轍からの報告を聞きながら徐々に集中力を高めていく。相手は高速で走行するバイクだ。タイミングよくトリガーを引くと言えば簡単だが、難易度は計り知れなかった。
「……0」
轍がそう告げると同時にスコープの中に赤い鉄の塊が映る。アドレナリンが噴出する。
スコープのサイトがメタリオの車輪を捉える寸前にトリガーを引く。
『お見事』
アルラヤがそう言って初めて命中を知る。
クレアは既に次弾の準備に取り掛かっていた為、着弾を確認する余裕はない。
(次は上)
メタリオに乗っているキリングマシーンを狙い、標準を定める。前輪に弾丸が当たった影響かメタリオの速度が緩んでいる。これならば狙いやすい。
『これも命中だ』
(最後は球)
メタリオの後部にくっついているビルバグを狙いもう一発。
『素晴らしい、全弾命中である』
「場所を変えるぞ」
「……あいよ」
狙撃を決めた感慨に浸る間もなく、すぐさま立ち上がり移動を開始する。
「見えない敵に警戒心を抱いた。その時点で、術中にはまっている」
『狙撃とは死を与えるのみに非ず』
クレアの呟きがクラックバーグの夜空に静かに溶けた。
●変形
「よし! ナイス!」
突然消えた積み荷の重さにバランスを崩し、転倒したメタリオを見て紗希がガッツポーズを作る。
とはいえ、その道はメタリオとデクリオ級6体の跋扈する危険地帯である。全力で中心部に向かって走りながらだが。
『メタリオの転倒を確認。九繰とフィアナは横道から別ルートに入るといい。小鉄達もだ。そのままだとメタリオと鉢合わせだからな。道案内は我が行う』
『分かりました、お願いします!』
九繰と明珠が交信しそう連絡を取ったのと同時に、メタリオが立ち上がる。ここにきて初めての人型形態である。
「……。いかんな」
何かの情報を受け取ったのか人間でいうこめかみの部分に指を当て考える。
「想像以上に好き勝手やられているな。今、構築陣に最も近い敵は……」
そこまで呟いたところで、カァンという甲高い音共にクラックバーグ全体が一瞬明るく照らされる。
「攻撃だと?」
これは構築陣が攻撃を受け、衝撃で光を増した事による光だ。何者かが構築陣に対して攻撃を開始している。
「想定より早過ぎる。先ほどの狙撃手か? ……いや、俺を狙撃した位置から構築陣を狙うのは不可能だ。……ふむ、仕方ない、少し急ぐか」
そう呟くと再びバイク形態へと姿を変え、エンジンをふかし始めた。
●分解の魔女
最も早く構築陣への攻撃を開始したのは構築の魔女の弾丸だった。
メタリオの最初に接触した時から敵の攻撃を避ける手間すら惜しみ常に全力で移動し突き進み、そして自身の持つ長距離武器の射程をライヴスでさらに伸ばし、それにより誰よりも早く構築陣を射程に捕らえた。
「もう一発!」
さらなる弾丸が構築陣に激突し、再び衝撃音と発光が発生する。
「とりあえず今できるのはここまでですね……」
スコープから目を離し、武器を構えなおす。スキルで射程を伸ばせるのは二発まで。まだ本格的破壊に至れる段階ではない。
しかし、例えたった二発でも先んじて当てた事には大きな意味がある。まず第一に敵を焦られることができる事。そして、もう一点。
「色が少し変わりましたでしょうか?」
白く光っていた構築陣の光が若干青みがかっている。ほんの少しの変化ではあるがあれがダメージの証拠なのだろう。
「どの程度の変化をすれば停止するかはまだ分かりませんが、二発の攻撃でも目に見えて変化がある……」
――これは壊せる。
確かな手応えを感じながら、構築の魔女は自分本来の射程に構築陣を捉えるため、再び走り出した。
●近未来カウボーイ
再びバイク形態に切り替わったメタリオは今度は中央部で従魔の積み込みは行わなかった。 構築陣への攻撃は始まってしまった以上、事は一刻を争う。まずは最も構築陣に接近している一団を止めるのが先決だ。中央部をドリフト走行でヘアピンのようにカーブし、来た道とは別の道に入る。
「ようやくおいでなすったかよ!」
その道にいたのは五々六、拓海、深散の三人。
『前方のレーザーに気を付けてね。ロックオン機能があるみたいだから』
「ハッ、先に攻撃対象を教えてくれるなんて親切だな、おい!」
明珠の報告にもむしろ好都合だとばかりに剣を構えて道のど真ん中に居座る五々六。
「Lock on!」
その五々六の気迫を警戒したのか、単純に目の前にいたからか、メタリオから五々六に向かってレーザーサイトが伸びる。
「来いよ、クソ愚神。だがな――お前のそのスピードが、お前を殺す」
五々六はそのレーザーサイトに対して避けようとはせず、むしろどっしりと腰を落とし大剣を構えた。迎撃の構えである。
「Go to hell!」
メタリオの宣言と同時に炸裂音と共にメタリオが急加速する。
「――ぐっ!」
激突するメタリオと五々六。
「五々六さん!」
「大丈夫だ、致命傷までは行ってねぇ……何とかな」
真横に吹っ飛び近くのビルに激突した五々六がゆっくり立ち上がった。口の中に仕込んでいた賢者の欠片をかみ砕き、ライヴスを回復させる。
(あいつは……)
とはいえ、すぐに易々と動けるほど軽い傷でもない。五々六は視線を動かし、メタリオの姿を探す。
結論から言うと、メタリオは健在だ。前輪には結構は衝撃が掛かったはずであるが、高速回転するその車輪に目視でダメージを確認することはできなかった。
いや、問題はそこではない。何かメタリオに引きずられている奴がいる。
「いててててて!」
『……やっぱり作戦が無謀だったよね』
「いや、まだここからだ!」
引きずられているのは拓海である。メリッサ インガルズ(aa1049hero001)の呆れ声にもめげず必死に自身の持つ釣り竿を握りしめている。
なるほど、五々六と激突した瞬間を狙って釣り竿を引っ掛けたというわけだ。しかし、その様子は五々六に、西部劇であんな処刑法見たなぁとぼんやり思わせるものだった。
「このぉ!」
「無茶過ぎます、あらっきーさん!」
その光景に見かねて深散がメタリオに女郎蜘蛛を投げつける。
メタリオの速度がグッと落ちる。
「ありがとう、深散さん!」
その隙に一気にリールを撒き姿勢を立て直す。
「よし、今だ!」
そのままジャンプして糸を手繰りメタリオの上に乗り込んだ。
「乗った!」
「MOOOOOO!!」
妙にノリのいい叫び声を上げながら無茶苦茶に跳ね回る。
「おわっ! この!」
暴れ牛に必死にしがみつくカウボーイのように振り回される拓海。
『拓海、しがみ付くのが目的じゃないでしょ!』
「そ、そうだった……!」
メリッサの言葉に目的を思い出し、武器を釣り竿から大剣へと持ち替える。
「そら!」
拓海はメタリオの座席部分を蹴り込み距離を離すと、大剣を思いっきり横から叩きつけた。
メタリオの車体がぐらりと揺れる。
(くっ、倒れ切らないか!)
倒れる寸前まで傾くが、そこから器用に車体をターンさせ転倒を防ぐメタリオ。しかし――
「貴様の疾走もこれまでだ! メタリオ!」
その横合いから跳び込んできた豪が最後のだめ押しとばかりにメタリオに大剣を振り下ろす。
「悪を滅する赤色巨星! 爆炎竜装ゴーガイン! 参上!」
完全に転倒しスピンしながら壁に激突するメタリオに向かい、直地して素早くポーズを取る豪。
「ええ、そんな感じで登場です」
『ポーズは取らなくていいんですか、君建さん?』
「それはやめておきます」
その後ろには頭を掻いて若干照れくさそうに歩いてくる布津と
「わたしは違うぞ」
『照れなくてもいいのに』
「うるさいだまれ」
不機嫌そうに眉根を寄せるダレンが付いてきていた。
「六人か。そこそこの人数が集まっているようだな」
瓦礫の中から姿を現すメタリオ。
「だが、俺を止めるには少々心許ない。応援を呼んだ方がいいぞ」
「そんないけずな事を言わずに、少し私達と遊んでいきませんか?」
「残念だな、俺はオイルと電気が通っていない女には興味がないんだ」
言ってから改めて深散を見る。アイアンパンクである深散の脚は機械化されている。メタリオは露骨に視線を下に落とした。
「足はいい線行ってる、なかなかセクシーだ。個人的にはもう少し角ばっていたほうが好みだな」
「……それはどうも」
挑発のつもりだったが、変に食いつかれて逆に毒気を抜かれる。
深散は確信する。変な奴だ。
「まあ、お前達が仲間を呼びたくないというのならそれも構わない」
キュィィィっと音を立ててメタリオの胴体に付いている車輪が回転する。
「呼びたくなるまで相手をしてやればいいんだろう、簡単な話だ」
●中心部到達
「ようやくたどり着いたでござるが、これは……」
「なかなかヘビーだな……」
ようやくメタリオのいた大通りを回避してようやく中心部へたどり着いたところで小鉄と紗希とマコトの三人は一度足を止めた。
理由は単純。そこでキリングマシーンとピルバグが5,6体ぐらいずつ待ち構えていたからである。
「考えてみればメタリオはここで従魔を補充してたんだもんね」
「にしても多いぜ……」
「しかし、ここでまごついていても仕方ないでござる!」
小鉄の言葉に二人も頷いて一斉に走り出す。
「とはいえ全部ぶっ壊してる時間はねぇ! 俺とマコトで守るから小鉄は陣への攻撃に集中してくれ! 後続が来たら改めて考えよう!」
「承知!」
簡単な作戦だけを確認する。構成陣の破壊が最優先事項。仮に敵を全滅させたとしてパスワードを構築されてしまっては何の意味もない。
「まずは、挨拶だ!」
一度足を止めて、大剣から持ち替えて構えた16式が弾丸を吐き出す。
「――敵接近、状況防衛戦。戦闘開始」
キリングマシーンの一体が前に出てその弾丸を盾で受け止める。
「戦争の始まりだ!」
そのまま銃を担ぎ、紗希は再び走り出した。
●戦線構築
『小鉄達先行破壊班が中心部到達。デクリオ級従魔の群れと戦闘を開始した。小鉄を砲撃主にして、残りの二人がそれを守る布陣だ』
明珠の報告を聞き、アークェイドが口を開いた。
「後ろはボクがやるよ、その方がいいだろ?」
「……そうですね、お願いします」
その言葉に構築の魔女が一瞬考えてから頷き、ライヴス通信機に声をかける。
「香月さん、レイシーさん。今からそちらにアークェイドさんが向かいます。持ち場を代わって前方へ来てください」
『……わかった』
『了解ですわ』
二人の返事を聞いてからアークェイドに目配せする。それに頷いてアークェイドは後方へと走っていた。
アークェイドはカオティックブレイドである。一人で戦わせた方がやりやすいはずだ。
これから中心部は乱戦になる。カオティックブレイドには戦いづらい戦場だ。であれば後方の敵を彼女に担当してもらって後顧の憂いを絶つ動きをしてもらった方が効率的だろう。
「結さん」
「は、はい!」
急に話しかけられ、少し緊張しながら結が返事を返す。
「中心部には先に着いた小鉄さん達がいるはずです。援護しますから、まずは彼らと合流してください」
「分かりました!」
決意を込めた口調で返して、結が中心部へと走り出す。
砲台は一か所に纏まっていた方が守りやすい。
ただひたすらに効率的に、すべてがうまく回るように。構築の魔女の『分解の為の構築』が回り始めていた。
●最前線
「お待たせしました、小鉄さん!」
「唐沢殿! フィアナ殿! 助かるでござる!」
構築陣に向かって火遁の術を放っていた小鉄が声に振り返るとそこには遠回りでこちらへ向かってきていた九繰とフィアナの姿があった。
「ありがてぇ……! 正直、結構ギリギリだぜ! おらぁ!」
紗希は大剣を振るいピルバグの一体を両断すると、一旦距離を離しヒールアンプルを腕に差し込む。
「ギリギリというか……ごめん、わたし限界、かも……」
援軍が来た事で気が抜けたのかマコトがその場に倒れ込む。限界を超える運用の末のライヴス切れである。
「マ、マコトさん!」
「待て待て。大丈夫、気を失っただけじゃ。無茶をする奴ばかりじゃのう」
先に合流していた結がマコトに走り寄ろうとするが、それをたった今中心部に駆け込んできたカグヤが制する。
「破壊役はそれが最優先じゃ。こやつはわらわに任せい。どうせもう一人おるしの。安全な所まで運んでいってやる」
肩に担いだままのユーガを見せながらカグヤが告げる。
「そうね、お願いするわ!」
キリングマシーンの鉄球を横から叩き、軌道を駆けながらフィアナが叫ぶ。
「うむ、願われた。その前に……ほうれ、ケアレイン、ケアレイン!」
楽し気に両手を広げ、回復のライヴスを周囲に降り注がせるカグヤ。
「こっちです、カグヤさん!」
「大儀である。それじゃあ、気張るのじゃぞ」
一つウィンクを残し、カグヤが九繰の開けた道を抜け、前線から離れていく。
「いやー、それにシテもこれ、いつマで続くのかネ」
いつの間にそこにいたのか雹がフィアナの背後に迫っていたスラッシャーを撃ち落としながら呟く。
最初白かった構築陣もだんだんと青みが増してきており、今や紫に近い色になってきている。
「手応え自体は感じるでござるが……何色で終わりでござるか!?」
小鉄の焦りの声がビルの谷間に響いた。
●より硬きもの
「死ね!」
五々六の放った剣を、メタリオは腕の装甲の堅い部分で受け止め、逆の腕で殴り返す。
「っく!」
「硬いな。お前本当に人間か」
五々六を殴った感触に疑問符を浮かべながらメタリオが呟く。
「波状攻撃を仕掛けましょう!」
「おう!」
「わかった!」
五々六への追撃態勢に入る前に深散、拓海、豪の三人でそれぞれ別の方向から迫る。
「まだ甘い」
胴体についていた前輪部分の中心に亀裂が入り、そこから砲身のようなものが突き出される。
「――!」
「レイシャワー!」
方針から全面180度をカバーするほどの広範囲に無数の光線が打ち出される。
「くっ!」
一本一本はそれほど威力の高いものではない。しかし、それが数十本、数百本と照射されれば話は別だ。光の奔流に飲み込まれ、防御するのが精一杯だ。
「まだ、仲間は呼ばないのか? そろそろ手遅れになっても俺は知らないぞ」
「そういう訳にもいかないのですよ!」
布津がメタリオの周りに誰もいないタイミングを見計らってストームエッジを放つ。
「ぬ」
多少ぐらつくが、それでも倒れはしない。
「まあいい。お前たちがどうしても呼ぶ気がないというのなら押し通らせてもらう」
メタリオの頭部からレーザーサイトが伸びる対象は拓海。
「うっ……!」
それが何なのか分かるが故に恐怖である。これは死の印。
「行くぞ」
メタリオの姿が人型からバイク形態へと変形してく。と、その瞬間
『そこだ』
銃声がクラックバーグに轟く。
変形する瞬間を狙って放たれたクレアの狙撃である。
「なに?」
「チャンス」
一瞬動きの止まったメタリオの隙を突いてダレンがここぞとばかりに弾丸を叩き込む。
「む」
メタリオがビデオの巻き戻しのように人型形態に戻る。
「その隙、逃しません!」
体勢を整える前に深散が一気に距離を詰め、渾身の力でメタリオの胸にジェミニストライクを叩き込む。
分身体との一人時間差攻撃。その忍刀が、メタリオの胸の車輪の中心部を捉えた。
激しい金属音。
「残念だったな。ホイールは俺のボディの中でも特に硬い……」
メタリオの言葉を遮って響くパキッという乾いた音。
「――馬鹿な」
メタリオのホイールにヒビが入っていた。
胸のホイールはバイク形態時の前輪。今日の戦いで何度も何度も、何人もの相手から攻撃を受けていた部分である。その成果がここに結実した。
「私達の結束の方が硬かったようですね」
メタリオが呆けている間にその攻撃範囲内から離れ、軽口を叩く。
「――」
メタリオが何かを言おうと顔を上げたところで、町全体が大きく振動した。
「……遅かったか」
離そうとした言葉を飲み込みメタリオがそっと呟く。
街の中心のビルが、そしてパスワード構築陣が崩壊していた。
●ひび割れた街に鉄槌を
「ち、駄目だ。埒が明かねぇ! ダメ元で行くぞ!」
いい加減増え続ける従魔の相手も限界を迎えつつあった紗希が大剣を構えなおし、構築陣を睨み付ける。
構築陣の今の色は濃い紫。どうやらダメージを追うごとに暗くなっていくらしい。ならばあともう一押しのはずだ。
「全力でぶん殴る! 皆、援護してくれ!」
「分かった。任せておけ」
紗希が次の一撃の為に体内のライヴスを集中させつつあるのを感じ取った香月が真っ先に頷く。
「はぁぁ!」
紗希の周囲を守るように香月や九繰が布陣し、周囲の敵を片付けていく。
「フィアナさん!」
「……ええ」
レイシーとフィアナが頷きあい、それぞれ正反対の方向へと駆け出し、そして同時に振り向いた。
「「守るべき誓い!」」
そしてやはり二人同時に守るべき誓いを発動する。
敵の密集地帯での守るべき誓いはかなり危険な行為である。周辺の敵の攻撃が全て自分の方へ向くのに耐えられるか否かという一種の賭けに近い。だが、それでもこの一瞬だけ、さらに二人で分担すれば……。
「よっしゃあ! 行くぜ!」
ライヴスを溜め切った紗希が構築陣へ向かって駆ける。
鬼気迫るその様子に危険を感じ取ったのか、複数のガンドローンが紗希の進路を遮るように現れる。
「邪魔だ!」
そう叫ぶが、せっかく溜めたライヴスをこんなところで無駄遣いするわけにもいかない。かといって避けて遠回りするような余裕もない。
一か八か突っ込むしかないか。そう考えた折、上空から多数の魔力弾が降り注ぎ、紗希の進路上をクリアにした。
「悪い遅れた!」
キトラの放ったストーンエッジである。
『せっかくのスケートなのに履かないから……』
「ギリギリ間に合ったからセーフだ!」
ルルト=マクスウェル(aa4386hero001)の指摘にも一切めげずグッと親指を突き出すキトラ。
「遅刻だが、いい仕事したから許してやる!」
ニヤリと笑って、紗希は全力で地面を蹴り、パスワード構築陣に大剣を振りかぶる。
「オラァ! 壊れちまえぇー! 構築陣!!」
紗希の大剣が構築陣に叩きつけられると共に、構築陣が一際強く光り輝き――
そして砕け散った。
●クラッシュバーグ
「いいだろう。今日の所は俺の負けという事だな」
特に悔しそうなそぶりも見せずそう告げると、メタリオは後ろに飛び退いた。
「また会うこともあるだろう。その時はこのボディの傷の代償を払ってもらう。俺のボディは保険が効かないんでな。じゃあな」
そう言い残して、バイク形態へと姿を変え、高速で走り去っていく。
「最後まで掴めない性格でしたね……」
「クソ愚神の言う事なんていちいち気にしてても仕方ねぇ。右から左に流しときゃいいんだよ」
若干困惑気味の深散に五々六が吐き捨てるように言う。
『ガ――ガガ――』
「?」
と、そこで近くの工場のスピーカーらしきものから声が聞こえる。
『そ――えば、言い忘――たんだが――』
そこから聞こえたのはノイズ混じりのメタリオの声。
『この街は構築陣の――ザザッ、崩壊と共に壊れるようになってるからな。今度こそ、じゃあな』
プツッと途切れる通信。
しばしの無言。その間も鳴り響き、そして徐々に大きくなる地鳴り。
「……走れ――!」
誰ともなく叫び、今度は来た道を全力で走り出す。
ここはクラッシュバーグ。
明日も知れぬ街。