本部

ガチキモ!! パート2

gene

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/06/08 17:30

掲示板

オープニング

●Gと男の子
 青柳沙羅は知りたいことを思い浮かべながらタロットカードを手の中でよく混ぜ、そして一枚めくった。
 カードをめくると、小アルカナ、正位置のワンド6のカードが現れた。
 移動と勝利のカード……行動することによって、勝利を得ることができることを表している
「……」
 沙羅はもう二十分程、何度もめくっているそのカードを、ため息をついてやり過ごすと、次のカードへ手を伸ばす。
 どんなカードが現れるのか、沙羅には予想ができていた。

塔 正位置

 大アルカナのそのカードはワンド6のカードが示す方向ではない方向へ向かった場合……つまり、行動を起こさなかった場合……危機的な状況が待っていることを表している。
 しかし、沙羅は何度もカードをめくり直しては、行動すること以外の違う展開が示されるのを待っていた。
 なぜならば、彼女はできるだけ行動する……現在の問題に立ち向かうという選択肢を選びたくはないからである。
「なんでよりによって……Gなのよ……」
 口にするのもおぞましい名前をイニシャルで誤魔化す。
「モスラとかなら全然行けたのに!」
 立ち向かわねばならないものが、黒くてテカっているGでなければ、なんの問題もないというのに……しかも、それは体長が六十センチ程もあるのだ。
 沙羅が隠れている電信柱からそっと覗くと、巨大Gが五匹、ゴミ捨て場をうろちょろしている。
 電信柱の影で沙羅は頭を抱えた。
「こんな時に限って、スマホは家に忘れてきちゃったし……」
 ヴィクターやH.O.P.E.に連絡を取ろうにも、その手段がない。
 もうすぐ日が沈む。
 夕闇の中、Gの影が長く伸びる。
「あ~! もう! 誰でもいいから早く助けてよ!!」
 また最初からカードをめくり直すと、今度はワンドの6ではなく、8が現れた。
「ワンド8……」
 沙羅がカードの意味を読み取ろうとしていたその時、近くで「あ……」という声が聞こえた。声の方を見ると、一人の男の子がGを冷静な眼差しで見つめていた。
 沙羅は一瞬息を飲み、次の瞬間には無意識に駆け出していた。

ワンド8 正位置

 そのカードは、事態の急変を表していた。

解説

●目標
巨大Gを退治する

●登場
・GOKIBURI 体長六十センチ 五匹
・動きがかなり素早いです。
・高いところから滑空します。
・滑空した場合、Gは人の顔(頭)へ着地しようとします。(着地された場合、精神的ダメージにより減退付与)
・刃を単純に振り下ろしてGにあてても、Gの体の特性により滑り、切れません。

●場所と時間
・土手
・夕方

●状況
・沙羅が帰宅途中に巨大Gの従魔を発見
・四歳の男の子(勇馬)を抱えて逃走中
・リプレイは沙羅が勇馬を抱えて土手を走りながら(G五匹に追われている)、一般人に注意喚起&能力者に助けを求めているシーンから始まります。

※関連NPCにヴィクターが表示されますが、ヴィクターは登場しません。ヴィクターの英雄である沙羅にささやかな指示を出すことは可能です。

リプレイ


「きゃ〜〜〜!」
 沙羅は悲鳴をあげながら走っていた。背後には迫り来る五匹の従魔『G』(正式名称:GOKIBURI)!
「誰でもいいから……ああ、ダメだわ!! リンカーいないの!? エージェント! 助けて!!!」
 沙羅は少年……勇馬を抱えて持てる限りの力で土手を全力疾走していた。半ばパニックになりながら走っていたが、途中、散歩中の老人や帰宅途中の人々を見つけるたびに注意喚起をするのは忘れない。
「おじぃさん! 悠長に散歩なんてしてないで、さっさと逃げて!! せめて隠れてて!! あ! そこの青年! そこの妊婦さんを安全な場所に誘導して!! ちょっと! そこの野球少年!! 今すぐ回れ右して、全力ダッシュ!!」
「早くしてよ!」と、沙羅は誰にともなく叫んだ。
「早く、助けてよ!!」
 
「……今っ……?」
 鬼灯 佐千子(aa2526)とリタ(aa2526hero001)は風吹く川の上流を同時に振り返った。
「助けて、と聞こえたな」
 リタの言葉に佐千子はうなづく。
「行くわよ!」

「えっ何あれ?」
 ルナ(aa3447hero001)は自分の見ているものが信じられなかった……というか、信じたくなかった。
「……大きな、Gね」
 河川敷から土手を走る沙羅とGを見上げながら、世良 杏奈(aa3447)はやけに冷静だった。
「五匹いるわ」
「!? あんなの、倒せるの?」
「大丈夫よルナ」と、杏奈は微笑む。
「安心して……全部、ぶち殺すから」
 その笑顔には覚悟と、そして深い殺意が滲み出ていた。

「……最近の犬は平べったい犬種がいるんだなぁ」
 目を細め、遠くを見つめるような眼差しで向かってくるものを九字原 昂(aa0919)は見た。
「現実逃避するのもいいが、何もしなくても奴らはここに向かってくるぞ」
「……どうしてもやらなきゃダメかな?」
「どうしてもやらなきゃダメだな」
 どこか面白がっている風にニッと口門を上げてベルフ(aa0919hero001)は答えた。

「猫が得意なこと……その一、虫取り!」
 だからきっと自分にもできるはず! と、ナガル・クロッソニア(aa3796)は自分に言い聞かせる。
「という割には尻尾が膨れておりますがマスター」
 緊張感からか尻尾がフッサフッサになっているナガルに心配そうに視線を向ける千冬(aa3796hero001)。
「じっ、Gが怖いとか! そういうんじゃないんだからね!」
 そんな強がりを千冬は「わかっています」と受け止める。

「普段は基本ホイホイ内の音だけだから改めて見るとちょっときつい物あるね」
 助けを呼ぶ声を聞いて歩道から土手へ登ってきた木霊・C・リュカ(aa0068)とオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)、そして紫 征四郎(aa0076)とガルー・A・A(aa0076hero001)はGたちの後方からその光景を見つめる。
「みぃ……あまり近づきたくない光景なのです……」
 すでに半泣きの状態で征四郎はそれでも後ずさるのをなんとかこらえていた。
「よく友達(猫)が持ってくる」
 嫌な予感を抱いて、「……それ、どうしてるの?」と聞いたリュカからオリヴィエは目をそらした。
「オリヴィエ! これから夏だよ!」
「……次から気を付ける……」
 リュカたちの後ろから会津 灯影(aa0273)と楓(aa0273hero001)も土手にやってきた。
「あ……俺虫とか本当駄目無理むり」
 買い物袋を持っていた灯影はそれをぎゅっと握りしめて、じりりと後ずさった。
「ほう、随分とでかい害虫よな。肥えたか」
 冷静にそう言って、楓は一升瓶を桜の木に立てかけた。
「ほれ灯影。子犬のように我の背で震えるのも良いが」
「誰がだっつーの!」
「ではさっさと共鳴せよ」
 楓は余裕の笑みを浮かべて灯影の手を握った。
「折角の酒が温くなる」
 Gの前を走る沙羅の姿にすこしテンションが上がっているのはガルーだ。
「虫である前に従魔だからな。俺様達が前に出なくて誰が出るんだよ!」
 そう言うなり、ガルーは征四郎の手を握って走り出す。
 走りながら共鳴するガルーに抵抗することもできず、征四郎は涙を一雫風に奪われた。
「一番良いのは熱湯かけるのなんだけど」
 そう言いながら、リュカとオリヴィエも共鳴する。
「これは?」と、イグニスを取り出したオリヴィエにリュカは「それは最終手段!」と答えた。
 沙羅とGの間に割って入った征四郎はなんとか強がりだけでも見せようとした。
「ふ、征四郎は相手がGだろうが、決して恐れ……恐れませ……」
 しかし、勢いよく言い切ることはできなかった。
「ん……ぴゃああやっぱり!!! 嫌なものは嫌ぁぁああああ!!!」
 そう叫びながらも逃げるのではなく、果敢にインサニアを構えて突進してしまうあたり、征四郎の生真面目さを表している。
 千冬と共鳴したナガルも沙羅とGの間に入り込むと目の前に迫るG二匹の足の関節を狙って縫止を放った。
「これ以上は行かせないんだから!」
 ライヴスの針は一匹のGをその場に縫い止める。しかし、もう一匹はナガルの横を通り過ぎていった。
 その一匹の前に立ちはだかり、杏奈は沙羅に視線を送らずに言った。
「その男の子の安全と、一般市民の誘導をお願いします!」
 ルナと共鳴した杏奈の背に、沙羅は約束する。
「わかったわ」
 再び走り出した沙羅は、昴とすれ違う。
「さて、特別にGホイホイの体験をさせてあげるよ」
「まぁ、その体験は今後に生かせないわけなんだがな」と、ベルフ。
 昴が女郎蜘蛛を使うと、ライヴスから紡がれた白い糸が網となり、Gの直上で広がりながら落ちる。
 エージェントたちの姿が見えなくなる前にもう一度、沙羅が後ろを振り返ると、五匹のGがエージェントたちに囲まれているのが見えた。
「……結構いるもんね。リンカーって」
 沙羅はしっかりと勇馬を抱えなおすと、緩めていた速度を上げた。
 勇馬は巨大なGに能天気に手を振った。


「……はあ? ……はあっ!? 何あれ……!」
 買い物袋の中のものをあまり揺らさないように抱えて走ってきた佐千子とリタは土手の上まで来て、一旦足を止めた。
「識別不明。従魔と推定される。暫定的に『G』と呼称」
 リタの言葉に佐千子は思わずツッコミを入れる。
「いや、Gって……アンタ、アレが何か分かって言ってるでしょ」
「否定する。あいにくと私は、あんな巨大なGなど知らん」
「知ってんじゃないの……」

 ジョギング中だった国塚 深散(aa4139)と九郎(aa4139hero001)の二人は、G五匹を囲むエージェントたちの光景にそれぞれ違う感覚を抱いていた。
「憎悪さえ込もっていそうな苛烈な攻撃ばかり。火力的には手助けの必要なさそうだね」
 火力以外のところで手助けが必要かと思案しながら九郎がそう言うと、深散はさっと踵を返してそこから走り去ろうとした。
「つまり私たちの出る幕はなし、と。帰りましょう」
「待て待て、目の前に従魔がいるっていうのに、何も手を打たず帰るつもりかい?」
「Gは、Gだけは、ご容赦を。お願いします……」
 涙目で嫌がる深散の様子に、これは楽しくなりそうだと、九郎は黒い笑顔を浮かべる。
「まずいのは仕留め切れなかったGを取り逃がすことだよ。逃げたメスGはお腹の卵を……」
 まるで怪談でも話すような怪しい声に、深散は両耳を塞ぎ、「やめて〜」と懇願した。

 征四郎が対峙した一匹のGに向かってインサニアを振るうも、表面が滑り、うまく攻撃することができない。
 すぐに頭への突き攻撃に変更したが、素早く動くGの頭を狙うのは簡単なことではない。
「ぴゃぁ〜! なかなかうまくいかないのですー!」
 そうこうしているうちにGは土手を下り、河川敷へ移動しようとする。
 オリヴィエが弱点看破を使用すると、Gの体が透けて見え、お腹のあたりが赤く点滅しているように見えた。
「……腹か」
「お腹!?」とリュカが頭の中で叫ぶ。
「Gのお腹なんて見たくないよー!」
 そんなリュカの声を無視して、オリヴィエは征四郎に視線を向ける。
「征四郎、あいつは俺が追う」

 ナガルは縫止で抑えていたGに近づく。
「うっ……出来れば近寄りたくない……けど、確か頭を潰せばなんとかなるって聞いたような……!」
 ジェミニストライクのスキルを使って分身を作り出すと、両手に握った朱里双釵を振るって頭を集中的に攻撃する。
 しかし、ツルツルと滑る表面に跳ね返されるように、力が分散されて重い一撃を加えることができない。
 一旦、飛び退いてGから離れたナガルは武器を天雄星林冲に持ち替えた。毒刃のスキルを使い、再びGへの接近を試みる。
「この隙間に毒刃をねじ込めば……」
 そうしてGの胴と頭のつなぎ目あたりに刃を通し、その感触にナガルはゾワッと身の毛がよだつのを感じた。
 思わず矛からその手を離そうとして、千冬がそれを止める。
「害虫風情がマスターを怖がらせようなどと、いい度胸をしているではありませんか……」
 千冬の声がナガルの頭の中に響く。
  ナガルの手は、千冬の意思によりしっかりと矛を握り、Gに深く刃をつきたてた。
「嫌であれば目を逸らしていてくださいマスター。私がやります」
 ナガルは目を瞑りかけ、しかし、それをなんとか堪えた。
「わ、私も見届けます! ……私たちの戦いを」
 千冬がGにさらに深く刃をつきたてると、Gはその羽をバタバタと動かした。
 その羽がナガルの腕にあたり、矛から手が外れる。

「いつもなら叩き潰すんだけど、こんなに大きくちゃ出来ないわね」
 まるで丸めた新聞紙でも持っているかのように、杏奈はその腕を振り下ろした。
「とにかく……汚物は消毒だーーー!!」
 杏奈はブルームフレアを使い、昴の女郎蜘蛛に捕まっているGを焼く。
 その熱にGはたまらず速度を上げて逃げ出した。
「逃がすか!」
 昴が猫騙をするも、Gは素早い動きでそれをかわし、近くの桜の木に登ってしまう。そして、あっという間に木のてっぺんに登ったGは、そこから滑空した。
 その巨体の割には羽ばたきの音さえも立てず、まさに空を滑るように移動する。
 そして次なる着地点を探し…… 下から見えるその気持ち悪い腹に嫌悪を示す杏奈の顔にガシッとその足で抱きつくように張り付いた。
「ッッッッギャァアアアアア!!」
 杏奈は魔導銃50AEを取り出すと、それを目前にあるGの腹にしっかりと当てて連射した。
「何すんのよ!! この害虫野郎!!」
 Gは柔らかい腹に銃弾を受け、その身を粉砕されて灰となり消えた。それと同時に、杏奈もその場に崩れ落ちる。
「……杏奈さんの尊い犠牲の上に、やっと一匹目か」
 杏奈の体を慌てて支え、昴はGの灰を見つめて呟いた。

 矛が突き刺さったまま逃げるGをナガルが追う。
 徐々に毒が回ったGの動きは鈍くなり、そのGの前に立ち塞がった佐千子がイグニスの炎を放った。
 Gは炎を避けようと方向を変えようとしたが、Gを追ってきたナガルが再び縫止を使う。
「消毒消毒」と佐千子は念入りにGにイグニスの炎をあてる。
「前々から気になっていたのだが、その消毒とはどういうことだ。高温殺菌のことを言いたいのなら火炎放射器の性能上、燃料と言う一種の毒物に塗れて……」
 リタの疑問を、佐千子は「ああ、はいはい」と一旦流す。
「分かった分かった。後で説明してあげるから」
 Gが灰と化して消えたのを確認すると、佐千子はナガルの矛を拾う。
「ごめんなさい。逃がしてしまって……」
 耳と尻尾を垂れ下げて謝るナガルに、佐千子は矛を差し出した。
「あんたのおかげで動きが鈍かったのよ。油断しないで、耳、しっかり立てておいて」
 佐千子の言葉にナガルの表情は明るくなる。
「はい!」と、ピンっと耳が立ち、尻尾は左右に振られた。

 オリヴィエはGを追って土手の斜面を駆け下りながら、幻想蝶から15式自動歩槍を取り出す。
「……」
 他のエージェントたちからある程度離れたことを確認し、フラッシュバンでGの目を眩ませると、オリヴィエはGの足と足の間に15式自動歩槍の先を差し込み、胴を押し上げるようにしてGをひっくり返した。
「俺は見てない……俺は見てない……」と、リュカは自分に言い聞かせる。
 そのお腹に向かって銃弾を撃ち込もうとしたその時、「オリヴィエ! 頭を下げてください!」という征四郎の声がした。
 オリヴィエが征四郎の声の方を向くと、一匹のGが土手から下へ向かって滑空してきていた。
「くっ……」
 オリヴィエは頭を下げつつ銃を上に向け、Gの羽を狙って打つ。一発目、二発目は交わされたが、三発目が下羽に当たる。
 すると、Gはバランスを崩して河川敷に着地した。
 オリヴィエが上空のGに気を取られている間に、一度ひっくり返したGは自ら元の状態に戻ると、オリヴィエから逃げ始めた。
 15式自動歩槍を連射するも、Gは素早い動きでそれをかわして逃走する。
「足を千切り羽を燃やし藻掻く姿を愉しむのも一興だが……さて、どう遊んでやろうかの?」
 Gの前に、土手の上から華麗に飛び降りてきた楓が着地した。


「オリヴィエ、こいつは我が相手をしよう」
 楓の言葉にオリヴィエはうなづき、もう一匹を追い始めた。
「キモいからさっさと倒しちゃって! お願い! マジで!」
 頭の中に響いた灯影の声に、楓は「風情がないなぁ貴様は」と笑う。
「虫に風情も何もないから。俺は加虐趣味も無いし!」
「惨たらしい蹂躙こそ華であろう? 魂遊びは愉しまねばな」
「だから、俺には加虐趣味はないんだってば! とにかく、近付いたり触ったりするなよ!!」
 共鳴しているからこそ、灯影がどれほど本気でその言葉を言っているのかが楓にはしっかりと伝わる。
「あいわかったわかった……夕餉抜きにでもされたら敵わん故、主の仰せの通りに」
「手始めに……」と、楓は美しく舞うような動きをして、幻影蝶を使った。
「徐々に苦しみ悶えるが良い……」
 幻影蝶により動きが急激に鈍くなり、ギギギっと奇妙にその黒光りする胴をそらし始めたGは前側の二本の足をばたつかせた。
 その姿に灯影は「ひっ」と短い悲鳴をあげたが、楓は残酷でありながらも美しい笑みを浮かべてその様相を見つめた。
「お前、本当にヒドイな!!」
 灯影に罵られながらも楓は余裕の笑みを浮かべて、今度はGをブルームフレアで焼いた。
「どの様な相手であろうと優雅に舞い華麗に屠ってこそ。傾国の妖狐と謳われるに値する我が狐火は終末の劫火、ぬるくはないぞ?」
 Gが灰になる様を楓はじっくりと楽しんだ。灯影の抗議をBGMとして聞きながら。

「もう大丈夫なのです」
 杏奈にクリアレイをかけ終わった征四郎が、土手の上に残っていた一匹のGを相手取っていた昴と佐千子の方へ視線を向けると、Gが二人の間をすり抜けて土手の下に逃げるのを見た。
「もう一匹、そっちに逃げたのです!」
 慌ててオリヴィエに知らせるのと同時に、征四郎は自分も土手を駆け下りる。
「もう一匹のGはどうしたのです?」
「楓が消毒中だ」
 オリヴィエと征四郎がG二匹を追っていると、深散がG二匹の前に仁王立となった。
 そして、深散は消火器を構えた。
「殺虫剤の代わりになればいいんですが……」
 そう言うと、深散は消火器を噴射した。
 消化器が噴き出す勢いと川からの風もあり、辺り一面は真っ白になる。
「お願い、これで死んで!!」と祈りを込めながら消火器を噴射していた深散だったが、真っ白な中から黒い影が飛び出してきたのに驚いた。
「え? どうして?」
 顔にあたる間一髪のところで避けた深散は不思議に思った。
「滑空できる高さなんてなかったと思うのに……」
 不思議に思っていると、再び白煙の中からGが飛び出してきた。
 それも深散は素早く避けたのだが、下羽が傷ついているためにふらふらと不安定な飛行をしていた二匹目のGは、川からの風が弱まった次の瞬間、急降下するように深散の頭の上に落ちてきた。
「ッッッッッッ!!!?」
 その上、深散の頭の上で動きまわり、パニックに陥りかけている深散の顔にGはその腹をべたりと張り付かせ、六本の足でしっかりとその頭にしがみついた。
 あまりのことに卒倒した深散からGは離れる。
 消火器の煙が風に流されて視界が開け、エージェントたちは倒れている深散の姿に気づく。そして、深散の身に何が起こったのかを察した。
「俺のせいで被害者が……」
 真っ白な視界の中、Gに足元から登られ、滑空のための土台にされたオリヴィエは申し訳なく思う。ちなみに、その間、リュカは心頭滅却を試みていた。
 そんなオリヴィエにクリアレイをかけていた征四郎は、すぐに深散に駆け寄ろうとした。
 そんな征四郎の腕をオリヴィエがつかむ。
「しゃがめ!」
 オリヴィエの言葉に征四郎が反射的に従うと、すぐ頭上を黒い影が通過した。最初に深散が避けたGがまだ風をつかんで飛んでいたのだ。
 Gが楓に近づくと、楓は扇を開いて警戒した。
「美丈夫たる我の顔に着地等不敬千万! 許すわけにはいかぬ」
 ゴーストウィンドで己に向かってくるGを弾き飛ばそうとしたが、風の使い手はGの方が上手のようで、するりと交わされ、楓に向かってくる。
 ちょうど河川敷に降りてきた昴に気づくと、楓はその後ろにさっと隠れた。
「うわっ人を盾にするなんて、超クズ。さいてー!」という灯影の抗議が頭の中に響いたが、楓はドヤ顔で答える。
「我は傾国の妖狐であり悪逆の化生だぞ? 屑で外道な畜生上等だ。そういう風に生きてきた! 兎に角顔だけは死守するぞ」

「Gが逃げるわ!」
 下羽に傷を負っているGが素早い動きでエージェントたちがいるところから逃げようとしている。
「Gは人類の敵だ!! 一匹たりとも逃がさないわよ!!!」
 Gが逃げるのを食い止めるために杏奈はGの前に回り込んで紅茶入りクッキーをばらまいた。すると、Gはそれに興味を持ち、足を止めて顔を近づける。
 しかし、クッキーからライヴスを感じ取ることができなかったためか、Gは再び動き始めた。
 その次の瞬間、Gが突然、弾き飛ばされた。
 見ると、ジェミニストライクで分身した深散が九鈎刀でGの足の関節へ切り込んでいた。
「動いて大丈夫なの!?」
 ショックのあまりに気を失っていた深散だったが、その意識は九郎により起こされ、九郎のアドバイスにより潜伏でGに近づいたのだった。
 心配する杏奈の声に、深散は答える。
「これは台所にいるあいつじゃなくて、従魔です。だから大丈夫です!」
 気丈にも、深散はそう自分に言い聞かせてGに立ち向かっていた。
「加勢する!」
 佐千子が射手の矜持のスキルを使って感覚を研ぎ澄ますと、深散が横に逸れた瞬間、Gめがけてイグニスを放つ。ライヴスの火炎は真っ直ぐにGに向かい、その身を焼いた。

 そう強くもない風に上手く乗り、まだ頭上をさまよっているGを見上げ、オリヴィエはGの羽にしっかりと狙いをつけて魔砲銃を撃とうとした。
 しかし、近くにいた楓が「ちょっと待て!」と声を上げる。
「我のこの美しい顔にでも落ちてきたらどうしてくれる? もうすこし離れるまで待っていろ」
 そう言うと、楓は昴の背中に張り付いたままじりじりと後ずさった。
「……」
 楓が離れたのを確認して、オリヴィエは改めて魔砲銃で狙いを定めた。
 羽を射抜かれたGはバランスを崩し、大きく旋回すると、深散を介抱していた佐千子の背中にくっついた。
「ひっ……気色悪ッ……!」
 後ろを振り返ると、すぐ間近にGの顔があり、佐千子は全身に鳥肌が立つのを感じる。
 体を揺すって振り払おうとしたが、さすがの大きさである。それくらいではビクともしない。
「く、このっ……とっとと離れなさい……!!」
 意外にも純朴そうなつぶらな瞳をしているが、GはGである……そんなつぶらな瞳をじっと見ることもできず、ひたすらに体を揺らす佐千子の動きを深散が冷静に止める。
 深散は毒刃のスキルを使った苦無をGの首に刺すと、佐千子の体から引き剥がすように押しやった。
 すると、Gは佐千子から離れて地面に逃げた。
「大丈夫ですか?」
「ああ……助かったよ」
 逃げたGの前には征四郎とオリヴィエが立ちはだかる。
「もう逃がさないのです!」
 征四郎がGの触覚を切り落とすと、Gの動きは急激に鈍くなった。
「……」
 動きが鈍くなったとはいえ、GはG。気持ち悪いことには変わりはなく、そいつに近づき、さらには武器を突きささなければいけないことにはやはり抵抗がある。
「最後は俺がやろうか?」と頭の中でガルーの声が聞こえた。
「……お願いします」
 征四郎と入れ替わったガルーがGの頭と胴体の間にインサニアを刺し、一思いに切り落とす。
「これで、終いだろ」
 そうガルーは思ったのだが……Gの生命力は高く、切り落とされても足はばたついて移動しようとし、頭の触覚はうねうねと動く。
「……」
 それを見て、さすがのガルーも後ずさった。
 ガルーに変わって前に出たオリヴィエがイグニスを構えた。
「最終兵器の出番か」
 業火に包まれて、Gはやっと動きを止めた。


「杏奈、完全に人が変わってたわよ?」
 共鳴を解いたルナが呆れたように杏奈を見る。
「うーん……アレが目に入るとどうしても、ね。殲滅しないと気が収まらないのよ」
 てへへと可愛く笑う杏奈からはすでに先ほどの殺伐とした空気は感じない。
(まあ、家でも結構ああだからね。見つけたら速攻潰してるし……)
 だから見慣れてはいるものの、やはり優しい杏奈の方がいいに決まっている。
(Gなんて、滅んじゃえばいいのに……)

「……テンション下がるわね、これ……」
 土手の上に戻った佐千子は置いておいた買い物袋を掴みつつ、深くため息をついた。
「過ぎたことを気にしても仕方があるまい。帰って風呂でも入って忘れることだ」
 リタも買い物袋を掴み、家路を……風呂までの道を急いだ。

「リュカ、オリヴィエ、終わったのです……やっと……」
 共鳴を解き、再び涙目になった征四郎はリュカにしがみついた。
「ここ暫くで一番怖かったのです……夢に見そう……」
 リュカは優しく征四郎の頭を撫でる。
「ふふ、よく頑張りました」
 征四郎にもう大丈夫だと告げながら、内心、リュカも「夢に見そう」だと思っていた。
(……家のG対策ももう少し強化しておこう)
 そう、そっと決意したところに、「おーい!」という声がした。
 声の方を見ると、沙羅が手を振って走ってきていた。
「勇馬を家に送ってたら戻ってくるのが遅くなっちゃった。任せっきりにしてごめん」
 そうリュカと征四郎、オリヴィエのほうを向いて両手を合わせた沙羅の前に、ガルーがひょこっと横から現れた。
「いえいえ、沙羅さんに怪我がないなら何よりですよ!」
 ガルーは満面の笑顔で両手を合わせていた沙羅の手を両手で包み込む。
「調子よいんですから」と、征四郎はガルーをジト目で見つめる。
「害虫駆除後は帰って夕餉に晩酌だ」
 桜の木に立てかけてあった一升瓶を抱きかかえて楓が足取り軽く合流した。
「沙羅もイケる口だと聞いたがどうか?」
「なになに? お酒? 気が利いてるじゃない!」
 ガルーの手から離れた沙羅は楓の肩をパタパタと軽く叩く。
「リュカにガルーも共に飲むか?」
「えっ、いや待ってどこで飲む気……?」
 灯影の言葉に楓は「当然家……」と答えかけてから「いや」と言った。
「沙羅は帰宅途中であったな。丁度いい。ヴィクターの様子見も兼ねて暇な者皆で行くとするか」
「急に迷惑じゃない!? ちょっと!」
「灯影が詫びに夕餉を用意する故問題なかろう」
 当然のように言う居候(英雄)と、「問題ない。問題ない」と笑うこちらも居候の沙羅。
「まぁ作るのは良いけど……何作ろうかなぁ」
 買ってきたもので足りるだろうかと灯影は買い物袋の中を覗く。
「狐、沙羅さんちで飲むのか? いやーなんか悪いですねぇこんな大所帯で!」
 すでにガルーは行く気満々である。
「ほんと調子よいんですから……!」
 征四郎は目尻が下がっている相棒に呆れ、頬を膨らませた。

 心身ともにどっと疲れたナガルはまだ河川敷でしゃがみこんでいた。
「マスター……立てますか?」
 差し出された千冬の手に手を置いて、ナガルは立ち上がる。
「従魔だから卵とかはないみたいだけど……」
 それでもまだあの生命力の強いGがどこかに潜んでいるんじゃないかと、ナガルはドキドキしながら周囲を見渡した。
「あれで全部……だよね?」
 きっともう大丈夫。自分が心配しすぎなのだと言い聞かせて歩き出そうとしたナガルの背後で、カサッという小さな音が聞こえた。
 その音にナガルは思わず千冬にしがみつく。
「……ほんとに、全部っ!?」
 ナガルもまた、夢に見てしまうかもしれない……黒くてツヤツヤしてカサカサ動くあいつのことを。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 美食を捧げし主夫
    会津 灯影aa0273
    人間|24才|男性|回避
  • 極上もふもふ
    aa0273hero001
    英雄|24才|?|ソフィ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • 跳び猫
    ナガル・クロッソニアaa3796
    獣人|17才|女性|回避
  • エージェント
    千冬aa3796hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • 風を支える『影』
    九郎aa4139hero001
    英雄|16才|?|シャド
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