本部

エルスウェア連動

モンロー・ハウスの子どもたち

はなみずき・頼

形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
22人 / 無制限
英雄
18人 / 無制限
報酬
普通
相談期間
17日
完成日
2015/12/17 18:02

掲示板

オープニング

 それはオーストラリア、シドニーから北へシティレールで約2時間ほどの街ニューカッスルの郊外にある。
 遠目に見ると大きなお屋敷と言う雰囲気のある、高い壁の建物なのだが……近くに寄るにつれ、その高い壁に差別的なラクガキや焦げた煤の跡が見える。
「モンロー・ハウス」
 その屋敷は持ち主の名になぞらえて、いつのまにかそう呼ばれている。

 ニューカッスルの大通りを蜂蜜のように輝くブロンドの、少し派手な女性(?)があれこれと買い物をしながら歩いて行く。
「モンローさん“いつもの時間”が済んだ頃に届けに行くけど、なんか商品の追加とかあるかい?」
 雑貨屋の主人が声をかける。
「そうネ。いつもの色のペンキを2缶お願いできるかしら?」
 答える声は予想以上にハスキー……と、いうか低い。身長は雑貨屋の主人を見下ろすほどで、肉体労働をしている主人より肩幅が広い。
 しかし、その憂いを帯びたような眉、艶やかな瞳、ほどよく厚みのあるルージュで彩られた唇、頬にあるホクロがなまめかしい。
「オーケイ! じゃ後で」
「よろしくネ」
 流れるような動きで立ち去るモンローを見て、雑貨屋の主人マックス・ウッディ[-・-]は軽くため息をつく。
「あれで男だってんだから、もったいねぇ話だよなぁ」
「本当にねぇ。孤児の子や《ライヴスリンカー》の子供を引き取って育ててくれてるし。
 おかげで「N・P・S」の連中の攻撃を一手に引き受けてくれてるしねぇ」
 奥から出てきた雑貨屋のオカミのサラ・ウッディ[-・-]が配達用の古びたピックアップトラックに荷物を乗せる。
「なーにが「Natural・People・Society」(以下「N・P・S」)だ。弱いものイジメしてイキがりやがってよ」
「およしよ、お前さん。あの連中、どこにいるかわかりゃしないんだから」
 雑貨屋の主人は肩をすくめて無言で仕事を続けた。

 モンロー・ハウスはそもそもニューカッスルの僻地をモンローが買い叩き、家を建て、増築と改築を繰り返して、身を守るために壁を築き、道路環境を整備して、いつの間にか強固に便利になっていた。
「ゴメンなさいネ~! 遅くなっちゃった。子どもたちは帰ってる?」
 帰宅をしたら初老の執事エリック・アーディン[-・-]に状況を確認するのがモンローのクセになっていた。
「ハイスクールのバスはまだでございます。ススムくんも戻っておりませんが、彼がいつも帰るのはまだ先の時刻ですので。社会人の皆さんも戻られるのはまだ先でございます」
 モンローのストールを受け取りながら、事前に提出されている予定表を見ながら報告を続ける。
「そうネ、そうだったわ。子どもたちの安全面にはくれぐれも気をつけてあげてちょうだいネ。後!!」
「は?」
「今日の《ランナーズ》の録画を忘れずにお願いネ!!」
 夕方を少し過ぎた頃……会社や役所なんかがそろそろ終わったくらいの時間、モンロー・ハウスの周辺は突如として騒がしくなる。
 窓を全て濃いスモークガラスにして、ナンバープレートを隠した数台のワゴンがどこからともなく現れ、覆面をした人々がプラカードや武器になりそうな物を手にして降りてくる。
「《ライヴスリンカー》は街から出ていけー!」
「《ライヴスリンカー》は隔離されて常に監視されろー!」
「ドロップゾーンが出来てるのはお前たちのせいだー!」
「《ライヴスリンカー》に自由を与えるなー!!」
「《ヴィラン》をかくまうなー!」
 自分勝手な言い分や、謂れ無き疑いをかけられているがモンローたちは窓を閉ざし、じっと耐えているだけだ。
「なんだよ! なんにもできねーただの人間のクセに!!」
 こちらからは何もしてはならない。と、モンローからきつく教えられている子どもたちは、正論である悪態をつくしかない。
 頻繁に聞こえてくる石が投げ込まれてシャッターに当たる音、植木鉢の割れる音。小さな子どもらはモンローにしがみついたり、ハウスメイドのローラ・グラム[-・-]のエプロンをかたく握りしめて怯え、震えている。
「大丈夫ヨ、アタシが守ってあげるからネ。
 あなたたち《ライヴスリンカー》はたくさん制限があるワ。でもネ、それは力を持っていない人たちが怖がってるからなのヨ。
 あなたたちは強いの、だから我慢する強さも持ってちょうだい。
 弱い人を守って、あなたたちが自由になった時に胸をはっていられるように、力を暴走させずに……今は我慢して」
 本来は《ライヴスリンカー》でもなんでもないモンローが、荒ぶりそうになる子どもたちを固く抱きしめる。
フットマンのウェイ・チャン[-・-]はコンソールを操作して閉め忘れたシャッターやスプリンクラーの水量を確認しながら、HOPEへの緊急通報ボタンを押す。
 そんな中でも投げ込まれる火炎瓶は多くが高い壁に阻まれるが、それは壁のペンキを焼いて揮発性の気持ち悪い臭いを撒き散らす。まれに庭に落ちて芝生を焼いたり、運悪く取り込み忘れた洗濯物を焼いたりもするが、それはスプリンクラーによってすぐに消火される。
「あ! 《従魔》だ!!」
 覗き窓から見ていた能力者の子どもたちが声を上げる。
 彼らは持ち前の正義感や、もしくは義務感からモンローが止める声を振り切り外に飛び出していく。
「《従魔》だけしか攻撃しねーから大丈夫だよ!」
「それにリンクさえしちゃえば普通の人間は私たちに傷つけられないもの!」
  そこへちょうど街の雑貨屋の主人マックスがやってくる。
「しまった! いつもより早ぇじゃねーか!! ええっと……」
 彼は慌てて胸のポケットから携帯電話を取り出して、特定の番号をプッシュした。
「あー、もしもしHOPEかい? モンロー・ハウスが「N・P・S」に襲われてんだ!! 《従魔》も出てきてるっぽい! 早くなんとかしてくれ!!」
 慌てる雑貨屋の主人に対して、HOPEのオペレーターはあくまでも冷静に対応する。
「場所はいつものモンロー・ハウスですね? 《従魔》の数は分かりますか? 至急、対応しますのであなたは安全な場所で待機するか、戦闘区域から十分な距離を取って退避してください。
 ご通報、ありがとうございました。」
 そう言われても商品を届けるのが彼の本来の役目なので、少々ガタがきているピックアップトラックのカギを閉め、ライトを消してじっと息を殺して見守る。
「おりゃ~人間不信になっちまうよ……」
 雑貨屋の主人はそうつぶやいて、ハンドルに顔をうずめた。
 ――その頃。
「お前らがコイツら《従魔》を操ってるんだろう!!」
「んなわきゃねぇよ! あぶねーから下がってろって!」
 「N・P・S」のメンバーをかき分けながら、モンロー・ハウスの子どもたちは自らの《英雄》とリンクし目の前にいる《従魔》と対峙する。
「ん、にゃろっ!」
 《従魔》に拳を叩き込みながら、「N・P・S」のメンバーの引っ掻いてくる爪を避ける。多くの「N・P・S」メンバーが簡単な覆面とだいたい黒のジャージの上下か黒いTシャツにジーンズであるのに、ふと見た真紅の爪の持ち主は目の部分を少しだけ開けた長いローブを着て体のほとんどを隠している。
「油断すると……こうなる!!」
 少しひずんだような声が聞こえて、モンロー・ハウスの少年の頬に傷が走る。
「なっ……!!」
 慌ててバックステップで避けたが、その爪の持ち主はすでに「N・P・S」のメンバーの中に紛れてしまっていた。
「どーゆー事だよ……これ……」
 しかしこの騒ぎはそう長時間は続かない。そのうち不思議な脱力感に襲われて「N・P・S」のメンバーが短時間ではあるが意識を失うからだ。この現象を「N・P・S」はモンロー・ハウスの中にライブスを吸い取るヤツがいるからだと主張しているが、防衛のために外に出た子どもたちや偶然巻き込まれた一般人も同様の症状を訴えている。
 ――そんな消耗戦にも似た諍いがモンロー・ハウス周辺では毎日のようにくりかえされていた。
 モンロー・ハウスのHOPE所属員以外、この引き際に間に合った者は何故か少ない。

   ◆     ◆     ◆

 日課を終えた「N・P・S」のメンバーの多くは三々五々と散っていくが、一部の人々はこっそりとニューカッスル某所の集会所に再び集まる。
 ピッタリとカーテンを閉ざし、互いの顔が認識する事が難しいような明るさしかない部屋で、彼らを待つ人物がいた。
「Mr.スペンサー[ミスター・-]今日もお運びいただきまして、ありがとうございます」
 集団の中で年長者だと思われる声が、うやうやしく挨拶をする。
「君たちの日々の努力には感服している。これからも頑張って欲しい」
 パチンと指を鳴らすと、奥に控えていたSPがジュラルミンケースにぎっしりと入ったオーストラリアドルをテーブルに差し出す。
「いつもありがとうございます」
 どうやら何度か繰り返されている光景のようだが、年長の男性はまだその金額の大きさに慣れる事がないようで、わずかに声がうわずる。
「今後も期待している。君たちは正しい事をしていると言う事を忘れないで欲しい」
 そう言って立ち上がったMr.スペンサーと呼ばれた男性はSPに囲まれて部屋を出る。ドアが閉まる音を聞いて、メンバーたちは安堵にも似た大きなため息をついた。

 濃いスモークガラスの英国高級車は尾行する者に警戒しながら夜道を進む。。
「もう少し派手にライブスを集めたいわ」
 白蛇のような妖艶さを持つ銀髪の美女が禍々しく笑う。
「そう焦るなシェリー[-]彼らはまだ市民から受け入れられているわけではない。
 理論的ではない、野蛮な手段を使ってきた報いだが……まずはそれを洗練させなくてはならん」
「しょせんは流刑地の民ですもの。仕方ないわ」
 スペンサーは軽く頭を振り、その言葉に承服しかねる事を表現する。
「面白い事件も起きている、金も使っているが仕掛けも上手く動いている、楽しませてくれそうな火種を持っているヤツも出てきた。そろそろ機も熟してくるだろう。だが、今ではない」
 シェリーは笑みを浮かべたままシャンパンを口に運ぶ。
「押したら引け。引いたら次は倍の力で押せ! 油断をさせてやれ、しかし釘を刺す事を忘れるな。
 肥え太らせ、服従させて屈服させろ。
 真に選ばれた者以外は家畜でありエサにすぎん」
 選民思想を事もなげに口にして、誰もが自分の言葉に従う事を信じて疑わない響きをまとわせる。
「御意に」
 シェリーは満足そうに紅い唇を歪ませた。

解説

■注意事項
 ・シナリオは全3回です。
 ・他のオーストラリアシナリオとがっちりリンクしてるので他のシナリオもちゃんと読んでみてください。
 ・これらのシナリオには、やや謎解き要素が含まれてます。
 ・どの謎が1回目で解かれるかはプレイング次第です。
 ・2回目以降もストーリーが進めば、新しい謎が出てくる可能性があります。
 ・「何をしたらいいかわからない=何をしてもいい」ともいえますが、採用されるかどうかはプレイング次第です。

■解説
 シドニーの北に位置するニューカッスルにある、能力者や孤児など迫害を受ける人々を保護し、共同生活をしている「モンロー・ハウス」が中心になります。
 「モンロー・ハウス」は「Natural・People・Society」と呼ばれる団体によって攻撃を受けています。
 ニューカッスルにはいくつかのドロップゾーンが形成されており、それらを生み出した《愚神》や《従魔》が存在しているはずですが、目撃例はごく少数で具体的なものではありません。
 しかしこれ以上ドロップゾーンを増やしたり、大きくなる事を防がなくてはなりません。
 「NPS」は基本的にライブス全体を憎んでおり、特にライブラの子供を保護しているモンローと、モンローハウスに住む子どもたちを現在の一番の攻撃目標にしています。バックになにやらスポンサーはいるようです。
 中立派は街の多くの人々がしめており「NPS」は怖いけれど正体が分からないので、基本的にモンローハウスの子どもたちにも普通に接しようとしています。
 ストーリー的にはモンロー派穏健派)、中立派、NPS派(過激派)の3つに分かれていると思っていただければ簡単です。
 どの勢力に加担して、自分の中にあるどんな「謎」や「敵」を解決していくかがカギになります。 「5H1W]を基本にしていただければ幸いです。

■選択肢
選択肢1・「モンロー・ハウス」を守る
・解説
 「Natural・People・Society」から攻撃を受ける「モンロー・ハウス」を守るために、防衛をします。積極的に攻撃をすると市民から反感をかう可能性があります。
 基本的に被害は建物を汚す、小さな火炎瓶ですぐに消せる程度のボヤくらいですが、建物の外にいる場合はダメージを受ける可能性があります。
「モンローハウス」内外の人から情報を得る事ができる場合もありますので、疑問や質問があればいずれかのNPCに問いかけてみるのも手です。

選択肢2・ダメージの原因を探る
・解説
 リンク状態の能力者が、能力者でないはずの「Natural・People・Society」から攻撃を受けて被害を受けるのは何故なのか、原因を探る事も可能です。
 しかし「N・P・S」は秘密結社なので、決定的な情報を得るのは難しいかもしれません。
 襲撃の際にどうにかして「N・P・S」のメンバーを捕える手段を試みるのも良いですが、難易度はやや高くなるので何人かで協力してみると効率が良いかもしれません。

選択肢3・「N・P・S」を探る
 まずは誰がメンバーで、主なアジトを調べる事が必要になりますが、非常に難しいです。
 街の人は基本的に「モンロー・ハウス」にも「N・P・S」にも関わりたくないからです。「モンローハウス」の人々のように「N・P・S」から迫害されていた人や、親切な人、ウワサ好きな人に出会えれば少しは捜査がラクになるかもしれません。

■NPC情報
 モンロー(-)おそらく30代後半~40代前半 性別不明
 オーストラリア・ニューカッスル郊外でモンロー・ハウスと呼ばれる孤児や孤立した能力者や迫害を受けた性的マイノリティーを保護している人物。
 独自の生き方をしているが、モンロー・ハウスの子どもたちにとっては良き母のような存在である。

 マックス・ウッディ(-・-)50代 男
 ニューカッスルにある雑貨屋の主人。
 立場的には中立よりややモンロー側より。

 サラ・ウッディ(-・-)50代 女
 マックス・ウッディの妻。実際に雑貨屋を切り盛りしてるのは彼女。
 立場は厄介事に巻き込まれたくないので、完全中立としているが、モンロー・ハウスの子どもたちを気の毒に思っている。

 エリック・アーディン(-・-)50代後半 男
 モンロー・ハウスの執事。イギリス時代からモンローについてきている。

 ウェイ・チャン(-・-)20代 男
 モンロー・ハウスのフットマン。オーストラリアでモンローが初めて保護したチャイニーズ。
 寡黙だが、面倒見が良く、それなりに頭も切れる。

 ローラ・グラム(-・-)20代 女
 モンロー・ハウスのハウスメイド。チャンの次にモンローが保護した。国籍など不明。
 優しくて、料理の腕は一流。掃除や洗い物や洗濯はモンロー・ハウスの子どもたちも手伝っているが、やはちローラにはかなわない。

 Mr.スペンサー(ミスター・-)年齢不明 男
 異能者弾圧団体「Natural・People・Society」のリーダー的存在であり、主要スポンサー。
 常にSPや秘書を同行させており、その素顔を知る物は極めてわずかな人数しかいない。
 表向きは一般人を装っているが、《愚神》と契約しており、あらゆる手段をもって暗躍している。

 《愚神》シェリー・スカベンジャー(-・-)推定30代 女
 Mr.スペンサーと契約している《愚神》クラス:ソフィスビショップ
 白に近い銀髪をゆるく、ヘビのように流した妖艶な美女。98・59・88
 真っ赤なスーツを身にまとい、表向きはMr.スペンサーの秘書として側にいるが、本当は直接、攻撃される能力者の苦悶の声や悲鳴を聞いたり「N・P・S」のメンバーたちが行う行為を見る事で自分の中の加虐性を満たすためにいる。

●組織・集団
 「モンロー・ハウス」
 モンローが管理・運営している非営利であり、なんの権力も持たない集団生活共同体。
 迫害され、かつ自立して生活する事が難しい能力者(年齢不問)や一般人の孤児、迫害された性的マイノリティーがモンローの元で集団生活をしている。
 しかし、それ故に能力者などを敵視する人々から攻撃を受けている。

 「Natural・People・Society」(ナチュラル・ピープル・ソサエティ)略「N・P・S」
 元々は非白人や性的マイノリティーなどを、匿名・覆面で迫害する「Natural・People」と呼ばれていた小さな集団であったが、Mr.スペンサーの支援を受けて人員や資金面で大きな集団となり「Natural・People・Society」へと名前を変えた。
 匿名・覆面は基本で、メンバー同士でも互いの本名や素顔を知る事はあまりない。
 提供された資金によって武装化が進んでいる。
 実態はMr.スペンサーの私軍のような状態で、最近では毎日定時にモンロー・ハウスへの嫌がらせが行われている

リプレイ

●モンローハウスのbefore noon
 オーストラリアの東側、シドニーの北にニューカッスルと呼ばれる街がある。その中心部からさらに内陸部へ行った所に「モンローハウス」は建てられている。
 やや不便な立地で、主要幹線道路からも遠く、周囲には民家も商店もなく、街に出るには自家用車か本数の少ないバスを使うしかない。
そんな埃っぽい場所へと乗り合いバスを降りた何人かの姿があった。
「すごいわね。こんなに離れてるのに建物がけっこう大きく見えるわ」
 土埃の始末が大変そうな黒ゴスのアンジェリカ・カノーヴァ( aa0121 )と、その契約者のマルコ・マカーリオ(aa0121hero001 )だ。
『見ろ、次のバスは1時間後だ。おまけに16時から18時は1本もないときた!
 その上最終が19時30分!?』
 マルコはややおおげさめに肩をすくめて天を見上げた。
 同じバスに乗っていた十影夕(aa0890)とシキ(aa0890hero001)のコンビもチラリと時刻表を見て、少し怪訝な顔をした。
「消した……跡がある?」
 十影は指先でそっと時刻表をなぞってみる。
『どんな感じで消えてるんだい?』
 《英雄》のシキがその様子を見上げてたずねてくる。
「16時から18時までの間も1時間に1本くらいあったみたいだけど……白いペンキでキレイに塗りつぶしてある。夜も最終は20時すぎにあったみたいだ」
『ウワサの「N・P・S」とやらのイタズラかな?』
 しばらく考えたような素振りを見せた十影は一つの結論を出した。
「分からない。イタズラにしちゃキレイに消してあるし……どのみちモンローハウスの人に聞けばいいさ」
 ほぼ似たり寄ったりなタイミングで、木陰 黎夜( aa0061 )とやや女性的な顔立ちをしたアーテル・∨・ノクス(aa0061hero001 )も砂まみれの道を歩いていく。
「眼帯の中にまで砂が入る」
 やや不機嫌な声で木陰が頭を振って砂を払う。
『ほんとよねぇ~! 雨が少ないとは聞いてたけど、こんなに乾燥してたらお肌が荒れちゃうわぁ~~!!』
 木陰のパートナーのアーテルもなかなかクセのある口調の使い手のようだ。
 しかし木陰は足を止める事もなく歩いて行く。
『んもぉ~~待ってよねぇ!!』
 バス停から歩いてくる一団のその先に、ピックアップトラックからヒョイと飛び降りる虎噛 千颯(aa0123)と白虎丸(aa0123hero001)の姿があった。
「ありがとね、おっちゃん!」
『助かり申した、かたじけない』
 トラックの主に礼を言うと、辺りをキョロキョロ見回す。
「そっちじゃねぇよ。あっちだ。見えるだろう? あのデッカイ家がモンローさんトコだよ」
「うひゃ! マジでデケーな!! じゃあ、行くよ~」
 虎噛と白虎丸は手を振って別れを告げ、モンローハウスへと向かう。
 その横を1台のタクシーが通り過ぎる。
「簡単な英語でなんとかなってよかったわ」
 タクシーの後部座席でシエル(aa1582)は安堵の溜息をついた。
『もっと勉強をしておくべきだったな』
 契約者のアダム(aa1582hero001)は思い出し笑いをこらえながら、眼前に見えてきたモンローハウスに注意を払う。
『屋敷と言うべきか、要塞と言うべきか……なるほど有名なのも分かる』
「モンローさんってお金持ちなのね」
 運転手はモンローハウスを指差して早口で話しているが、シエルにはさっぱり分からないので、曖昧に微笑んで視線をそらす。
『あ……あい、うぉんとゴーとぅーモンローハウス! オーケイ? って……ククッ……もはや中学生レベルでもない……フ……フフフ……』
 堪えられなくなったアダムが笑い出した頃、タクシーが停まりモンローハウスの門前でドアが開けられた。
「今日はずいぶんとたくさんのお客様がいらっしゃるのネ」
 庭の手入れをしていたらしい金髪のやたらセクシーな人物が門扉越しに声をかけてくる。しかし、その声は女性にしてはハスキーすぎたし、身長もヒールのせいか180センチ近くはありそうで、大きく肩が開いたドルマンスリーブのサマーセーターから見える肩幅は……たくましいとまでは言わないが、頼りがいがありそうだ。
 なんとかここまでやって来た彼らは、自分たちがH.O.P.E.から派遣されてきた事や名前を名乗り、協力を申し出た。
「承知しましたワ。アタクシがここの主のモンロー[-]です。遠いところをようこそ。
 さぁ、お入りになって」
 モンローは門扉横の装置を操作して、彼らを招き入れる。
「人を疑わないのか? よっぽどのお人好しなのか?」
 木陰がボソリとアーテルに耳打ちする。
『もし「N・P・S」が噂通りの集団なら、これだけの能力者と《英雄》が堂々と来るわけないと思うわ』
「ふむ……」
 広く美しい花壇の道を抜けると、洒落た車寄せがあり、古風な燕尾服に身を包んだ初老の執事、フットマンとメイドが各1人ドアを開けて待っている。
「こちらが執事のエリック[-・アーディン]フットマンのウェイ[-・チャン]メイドのローラ[-・グラム]ですワ。
 御用があれば無理がない程度に申し付けてよろしくてヨ」
 寡黙そうな執事、東洋人のフットマン、愛嬌のあるメイドがそれぞれに頭を下げる。
「あの……ここの子どもたちはどこに?」
 少し圧倒されながらも虎噛が尋ねる。
「いやですワ、今日は平日ですもの子どもたちは学校へいってましてヨ。
 今の時間にここに居るのはアタクシたちと、SOHOで仕事をしている何名かがいるだけですワ」
「あ……!」
「学校!」
 誰ともなくつぶやいて、しばし沈黙の時間が流れる。
 まず、学校の存在を忘れていた事。そして、ここの子どもたちは学校にも通えないほど迫害されていると思い込んでいた部分もあったのだ。
 少しばかり固まってしまった彼らに、モンローは優しく声をかけ、広い食堂へと案内してくれた。そこにはすでに紅茶と簡単な焼き菓子が用意され、日当たりの良い清潔な雰囲気もあって緊張が緩む。
「ここで生活している人々は、普段はいたって普通の生活をしておりますのヨ。
 能力者であればH.O.P.E.のエージェントとして登録して、依頼や指示によって出動する事もありますし、非能力者も学校へ行ったり、仕事をしたり」
「じゃあ、なんでこんな事に?」
 普通の無防備な孤児院や、学校にも行けず怯えて暮らす子どもたちが肩を寄せあっていると思っていた何名かが思わず同時に声を上げる。
「アタクシがオーストラリアへ来た時にはすでに「N・P」……(正式名称)「Natural・People」と呼ばれる集団がいて、アタクシの知人のゲイの人々が多少の嫌がらせをされていたりしておりましたの。
 そうしてアチラコチラを見ておりましたらネ、万来不動産やH.O.P.E.の支援があっても独りで暮らすのが苦手な子や、精神的にやさぐれてしまいそうな子がいる事が見えてまいりましたの。非能力者の子は特に……」
 自分にも思い当たる所がある者はそっと目を伏せて聞いている。
「幸い私財とゲイコミュニティなどのコネがございましたから、アタクシは行動を起こす事にしましたのヨ。最初は普通の屋敷でしたけど「N・P」が「N・P・S」(正式名称「Natural・People・Society」)へと組織を拡大していくのに、ついムキになってしまって……今ではこんな有様ですワ」
 肩幅はともかく、モンローが笑うと頬のホクロも相まって、なんとも艶っぽく、なぜか心がほぐれるような気分になる。
「人が集まるのも分かる気がする」
 十影が聞こえるか聞こえないかくらいの声で感想を漏らす。が、すぐに我にかえる。
「モンローさん、ヤツラ……「N・P・S」に対抗するために屋敷の周囲を見せてもらってもいいですか? できれば証拠写真が撮れるようにスマホとか仕掛けさせてください」
モンローはそのキュートな唇に指を当て、しばらく考えてからこう切り出した。
「それは“急がなくていいから”先にお昼にしましょう。
 ローラの作るオレンジのサラダとローストビーフのサンドイッチは絶品ヨ」
 明るい茶色の髪をおさげにしたローラは微笑みを絶やす事なく食事をサーブし、黒髪を短く切りそろえたウェイは寡黙に飲み物の減り具合に気を配っている。

●モンローハウスのNoonish
 そんな食事の間にも呼び鈴が鳴り響く。門扉の前には能力者11名と《英雄》(だと思われる)9名。
「今日はパーティの予定はなかったはずでございますが……
 ようこそおいでくださいました。主人を呼んでまいりますので応接室でお待ちくださいませ」
 執事に先導され、顔に大きな傷のある小さな少女 紫 征四郎( aa0076 )とガタイの良い契約者 ガルー・A・A(aa0076hero001 )。
 一見無愛想に見える 八朔 カゲリ( aa0098 )と着物姿の可愛い契約者 ナラカ(aa0098hero001 )。
 ツインテールが特徴的な幼い イリス・レイバルド( aa0124 )とおそらく契約者兼保護者であろう アイリス(aa0124hero001 )。
 顔に傷があるが赤い髪とコックコートが似合う 鶏冠井 玉子( aa0798 )となんか胡散臭気な契約者 オーロックス(aa0798hero001 )。
 サングラスをかけた一見サラリーマン風の 石井 菊次郎( aa0866 )と今では香水が有名なブランドの最初期あたりのデザインの7桁万円風スーツをまとった美人上司っぽい契約者 テミス(aa0866hero001 )。
 小太りではあるが抜け目なくあちこちを観察している マック・ウィンドロイド( aa0942 )としぐさが可愛い契約者 灯永 礼(aa0942hero001 )。
 不機嫌と無表情の境目のような表情をしている 雁間 恭一( aa1168 )とまるで妖精か天使のようにほんわかした雰囲気の契約者 マリオン(aa1168hero001 )、。
 ゴーグルとカメラバックが特徴的な 風見 春香( aa1191 )どうやら契約者は姿を現していないようだ。
 身だしなみが苦手そうで、かつ無害そうな雰囲気の 柳 瑛一郎( aa1488 )こちらも今は契約者が姿を見せていない。
 何故か自信満々そうで、なんとなく高飛車な雰囲気をまとわせている 橘 由香里(aa1855)と日本神話の絵巻物に出てきそうな契約者 飯綱比売命(aa1855hero001)。
 耳の辺りに機械化の様子がある大人しげな幼女(っぽい?) 夜帳 ホタル( aa1911 )と男装の麗人と呼ぶにふさわしい凛々しさを醸し出す契約者 ウィルミナ オルブライト(aa1911hero001 )。
 管理と接客のプロフェッショナルであるエリックですら、この状況をどう対処しようか少し考えたほどである。
(さて、ティーカップは足りますかな?)
 モンローは応接室に入ったとたん少し首をかしげて、後ろに控えるエリックに尋ねた。
「アタシ、今日パーティやるって言ったかしら?」
「いえ。どなたにも案内状をお送りしておりません」
 ひとまず互いに自己紹介をしてから、モンローとの質疑応答へ移ったのだが、朝から訪れていた一団と同じ勘違いや誤解をしており、モンローが「うちの子どもたちって……可哀想なのかしら?」と逆に心配してしまうほどだった。
「世の中に出回る映像や噂だけを見聞きなさいますと、「N・P・S」に虐げられる無力な子ども。と、言う側面しか見えないのかもしれません」
 柳がすかさずフォローを入れる。
「我々が見聞きするに、ここの子どもたち……と、言いますか、ここで暮らす能力者が反撃したりしているような感じがしなかったものですから……」
 石井が正直な感想を伝える。
「だって能力者が《ライヴスリンカー》の力を使って一般人に害を及ぼしたら、理由はどうあれ罪に問われてしまいますワ。アタクシはそんな理不尽な事にはしたくありませんのヨ。
 襲撃されてる時間は10分か20分ほどですから、しっかりと備えを固めて屋敷に立てこもるのが1番安全ですのヨ」
 モンローはあくまでも穏やかに話しかける。
「だが相手側にも能力者、それも《愚神》っぽい姿があったり《従魔》が出たりしてるぜ? それはどーすんだ?」
 雁間の質問にもモンローは穏やかである。
「そうですわネ。アタクシは《愚神》や《従魔》らしき存在は「N・P・S」のメンバーの逃走を補助したり、ドロップゾーンやドロップエリアを形成する下見、もしくはアタクシどもやH.O.P.E.への威嚇に近いものだと考えております」
 一行からは考えこむような唸り声が上がる。
「坊ちゃま…………いえ、モンロー様。食堂が片付きまして、お茶のご用意も整いましてございます」
 考え事でもしていたのか、エリックがうっかり口を滑らせる。
「ホホホ……そうネ、先にいらしてるお客様にもご紹介しなくちゃいけないし、部屋を移っていただきましょう」
 勝手に想像していた「孤児院」とはかけ離れた豪奢な内装と、さりげなく見える防犯装置やスプリンクラー、装飾に見せかけて補強されている柱や壁が、ここがただの屋敷ではなくほぼ要塞である事をうかがわせる。
(これは……なかなか面白そうですね)
 マックはスマホでこっそり、隠しカメラの位置を撮影しようとした所、そっとレンズの前に手がかざされた。気配など感じなかったのに、横に黒服の男が立っていた。
「ここはモンロー様のお屋敷デス。撮影などは主であるモンロー様に御許可をいただいてからにしてくださいマセ」
 ただの使用人だと思われたが、フットマンのウェイ……腕に覚えがありそうだ。
「秘密にしておきますノデ、後で必ずモンロー様におっしゃってくださいマセ。
 きっと、もっと面白い物見られマス」
 ――ちなみに、一般的には執事もフットマンも燕尾服である事が多いが、モンローの好みとウェイ独自の作業のため、ウェイの上着はスペンサー丈にされている。

 食堂にはテーブルと椅子が追加され、紅茶と焼き菓子が用意されている。お客様の前では紅茶と焼き菓子を絶やさないのがモットーらしい。
 再会を喜び合う者や、即座に情報の交換が始まったりと、なかなかに騒がしい。
「モンローさん、我々としては襲撃者がやってくる前に、屋敷の内外に録画装置やカメラなどを仕掛けたいのですが、よろしいですか」
 ウェイに言われた通り、マックが堂々とモンローに申し出る。
「そーゆー方は他にもいらっしゃる?」
 モンローの問いに数名が手を上げる。
「仕方ないわネ。ウェイ、セキュリティはこちらでやるから、皆さんをご案内して差し上げて。もし必要な情報があるのなら提供して差し上げても構わないわ」
 また一部の人々は、屋敷の内外のチェックを申し出る。
「個人の部屋以外は許可しましてヨ。ただし、カギがかかっている所には入らない事、物を持ち出さない事。よろしくて?」
 それを合図に皆が一斉に動き出す。
「あらあら。さてと……そろそろ子どもたちが帰ってくる頃ネ。
 ローラ、洗い物手伝うわエプロンどこやったかしら?」
 屋敷の主にもかかわらず、モンローとローラはごく普通にエプロンをつけて食器を運び、シンクへと運ぶ。
 普段使いの食器なら食器洗い機にまかせるのだが、今回使われたティーカップはどれも名の知れた名工の一品物ばかりだ。専用の木のボウルと厚手の布で優しく手洗いしなくてはならない。
「あ……あのっ……モンローさん! ミス・ローラ! ぜひとも僕にもお手伝いを!!」
 さきほど鶏冠井 玉子と名乗った人物が申し出る。
「皆さんに僕の作った独自のオーストラリアンミートパイをふるまいたく思います」
「わぁ~助かりますぅ~♪ 子どもたちのオヤツを何にしようか考えていた所なの」
 ローラは嬉しそうに玉子の手を取って喜んでいる。
「じゃあアタシが洗い物をするから、貴女たちでパイを作ってちょうだい。
 子どもたちが帰ってくるまで、そんなに時間はないわヨ!」
 テキパキと洗い物をするモンローを見て、玉子は不思議そうな顔をする。
「モンローさんはここのご主人なのでしょう? なのに洗い物を?」
「えぇマダムは洗い物もお料理もお掃除もお洗濯も、皆と同じようになさるんですよ~。
 他のお屋敷のご主人みたいに、偉そうになさったり、ぶったりなさらないんですぅ~」
 玉子はローラもまた辛い過去があるのだと、そっと悟った。

●ニューカッスル市街地のNoonish
 お昼ごろのニューカッスルの街中で情報収集をする能力者たちもいた。
「ちゃーっす!」
 胸ポケットに録音状態にしたスマホを忍ばせて氷斬 雹( aa0842 )が警察署の受付にドン! とヒジをつく。
「モンローハウスの事で聞きてぇ事があんだけど……話分かるヤツいる?」
 受付の警官はあからさまに不機嫌な顔をしたが、慣れているのか氷斬の方から視線を外し後ろにいた同僚に声をかける。
「おーいジョー[-]! またモンローハウスのお客さんだぜー」
 呼ばれた警官は恰幅のいい中年の黒人だった。
「来な。オレは今からメシなんだよ」
 目の前に無造作に置かれたのは、使い捨ての紙コップに入ったすっかり煮詰まったぬるいコーヒーだった。ジョーの目の前にはホットドックとフライドチキンが山盛りになっている。
「おい! 俺様は話を聞きにきてやったんだぜ! なんでサツの食堂なんぞに通されなきゃいけねーんだよ!!」
「オレはメシだと言ったろ? モンローハウスの苦情なんざ聞き飽きてんだ、訊きたい事があんならサッサとしゃべんな」
 ガーデニングバケツみたいな大きさのコーラをガブガブやりながら、ジョーは不機嫌そうにホットドックを流し込む。
「おう、単刀直入に訊くけどよ。なんでモンローハウスが襲われてんのに警察は動いてねーんだ? アレか? サツのエライさんが噛んでるとかって話じゃねーのか?」
 そのとたん、ジョーの目つきが憎悪にも似た凄みをはらむ。
「お前さんが俺様だか何様だから知らねぇが、アイツら「N・P・S」は能力者だけじゃねぇ、アイツらの選民思想の枠に当てはまらねぇヤツも迫害しようとしてやがるんだ! お前さんは人間ができてるかもしんねーがオレはそんなアイツらを許そうとは思わねぇ!」
 ドン! と叩かれたテーブルの振動でコーヒーが少しこぼれる。
「いいか。ここ(警察署)からどんなにパトカーぶっ飛ばしてもモンローハウスまでは20分以上はかかる。到着する頃にはアイツらはひと騒ぎして、もう撤収してるってぇすんぽーよ。
 待ち伏せもしてみたが、なんせあの辺りは隠れる所がねぇ。何度か尻尾を捕まえようとしたが三々五々に逃げやがるから手も足りなけりゃ、オレたち普通の警官じゃ《従魔》が出たらお手上げだ。ここには能力者の警官は少ねぇんだ」
「んじゃあ、おたくらは何回もトライしてるってこったな?」
「―ったりめぇだ! 上もさっさとどうにかしろってカンカンさ。それこそエライさんがアイツらとツルんでるなんてぇのが耳に入ってみろ、蜂の巣にされっぞ。
 観光や住みやすさより、「N・P・S」なんてぇ物騒なシロモンが有名な街になってやがんだからな」
 予想していた事とは反対の反応に、氷斬はしばし考える。
「オッサン、「N・P・S」のメンバーのリストとか車体ナンバーとかはねーのかよ?」
「そんなもんあったら、警察から感謝状と金一封出してやるぜ」
 氷斬は椅子に体を投げ出して天を仰いだ。
「つっかえねぇー!!」
「うるせぇ! だがな……絶対になんかの権力と金が動いてるはずだ。
 複数の逃走車両か隠れ家がなけりゃ、オレたちから簡単に逃げられるはずがねぇ」
 そのジョーの読みが当たっているか外れているかはともかく、氷斬は席を立った。
「分かったよ。今日んトコはオッサンの言う事を聞いといてやる。
 今度来たら、もっと旨いコーヒー出せよ。……んじゃな」

 木霊・C・リュカ(aa0068)とオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は、街から少し離れた住宅地近くのカフェへ入る。
 落ち着いた雰囲気でご近所の常連っぽい客でそこそこに賑わっている。
「マスター、コーヒーを2つ」
 カウンターに腰を下ろし、店の主人と話しやすそうな場所に陣取る。
「おや……お客さん、この辺りの人じゃないね? 旅行かい?」
 サイフォンの湯が沸く音と、新鮮なコーヒーの香りが辺りを包む。
「えぇ、まぁ……「N・P・S」の事を調べにきました」
 とたん、店内が静まり返る。
『この「N・P・S」ってのはアレだろ? 弱い者イジメしかできないヤツらなんだろ? なんでそんなのがのさばってんのか調べに来たんだよ』
 マスターは黙ってサイフォンを見つめている。
「あれ? この店は「N・P・S」の集会所かなにかですか?」
「失礼にもほどがあるぞ!! アイツらと我々を一緒にするなら出てってくれ!!」
 店のマスターはカップにもかまわずカウンターテーブルを拳で叩く。
「あなた、本当にこの街は初めてなのねぇ……。この街であの人たちを好いている人なんかいやしないわ」
 テーブル席に座っていた老婦人が木霊に声をかける。
「でも、もう何年ものさばってるんでしょう? 好きじゃないなら追い出せばいいじゃないですか」
 木霊は少し高圧的に言ってみる。血の気の多い「N・P・S」のメンバーがいれば乗ってくるかもしれない。
「そうね……それが出来ないから、皆とても困っているの。
 本当に誰がメンバーで、どこにいるのかも分からない。うかつに味方をすれば雑貨屋のウッディ[マックス・-]さんの所みたいに火をつけられるかもしれないから、私たちのような能力者じゃない人間は怖いのよ」
 顔を見合わせる木霊とオリヴィエの前にコーヒーカップが置かれる。
「飲んだら出てってくれ金はいらん。「N・P・S」を悪く言って回ってるのが店に出入りしてるって噂が広まったら、うちが狙われる」
 他の常連らしき人々もめいめいにカウンターに金を置いて出て行く。
「にーちゃん、アンタは能力者だからダメージを受けないかもしれないが、普通の人間は巻き込まれたらケガもするし、迷惑もかかるってのを覚えときなよ」
 急にガランとした店の中はマスターが食器を下げる音だけが響いていた。
「予想外でした……」
『一般人にもそれなりに被害が出てるんだな』
木霊とオリヴィエはそっとコーヒー代を置いて店を出た。

 小湊 健吾( aa0211 )は改めて地図を見て、バスの時刻表を見て、ボリボリと頭をかいた。横ではラロ マスキアラン(aa0211hero001 )がそんな事は気にせずジャグリングのマネ事をして遊んでいる。
「モンローハウスって……荒れ地のど真ん中じゃねーか。どこだよご近所さん!?」
 もう1度頭をかくと小湊はラロを置いて、目についた少し古そうな不動産屋へ入って行く。
「ちょっといいですかね? この辺の事を取材してるモンなんですけど、お話伺えますか?」
 ソファに座って新聞を読んでいた老人がチョイと老眼鏡を上げる。
「どうせヒマをしておった、ワシのしゃべりたい事だけ話してやろう」
 何も収穫がないよりマシだと思い、小湊はしめしめと老人の対面に腰掛ける。
「単刀直入に伺いますが、この街で住んでらっしゃる方としてモンローハウスと「N・P・S」の事はどう思ってらっしゃる?」
「迷惑極まりない。ただモンローさんには少なからず感謝しとるよ。あの人があの家を作ってくれたおかげで、この街にいたホームレスまがいの子どもや、どう相手ををすればいいか分からなかった能力者に居場所が出来て、無闇に能力者を怖がる人間はかなり減ったもんさ」
 老人は冷えたミネラルウォーターを小湊の前に置いてくれる。
「では「N・P・S」は?」
「アレが目下の恐怖の対象だな。どこにいるのか、誰がメンバーなのかも分からん。
 あんたがメンバーかもしれん。そんな疑心暗鬼の中で生活してるようなもんさ」
「そんな話をしちゃマズいんじゃないんですか?」
 老人は高らかに笑う。
「襲いに来るなら来ればいい。ワシはあんな連中に媚びて、怯えてまで長生きしたかないよ」
(ふむ……このじぃさんは「N・P・S」のメンバーじゃなさそうだな。これでメンバーだったら、とんだタヌキだが)
「そうじゃ! 若いの知っとるか?
 今、オーストラリアで有名なのが、リチャード・ジョルジュ・カッパー公じゃ! イギリスとオーストラリアを行き来してオーストラリアの再開発を計画してる人だ。
 その人がシドニーに来てて、ニューカッスルにも来るそうじゃ。
 この間までは今、噂のノーザンテリトリーのアリススプリングとかを回ってたらしい」
 老人は興奮気味に新聞の社交欄を見せてくる。
「そんなスゴイ人なんで?」
「オーストラリアの水不足と緑化に力を入れて、カジノと自然公園くらいしかない(と、ゆーわけでもないけど)この辺りを新たな観光地として再開発してくれるそうじゃ」
「なるほど(さて、そろそろ切り上げるかな)いやいや、ありがとうございました。バスの時間がありますんで失礼します」
 老人は軽く手を振り、新聞に目をもどした。
「さってと、雑貨屋に行って話ついでに菓子でも買うかな」
 と、マックス・ウッディの雑貨屋へ入るとそこには先客がいた。
「あの、自分は天城 稜(aa0314)と言うH.O.P.E.のエージェントです。こちらは《英雄》のリリア フォーゲル(aa0314hero001)。
 ぜひ、モンローハウスや「N・P・S」の事を教えていただきたいんです!」
 学生風の少年と、シスター姿の女性がマックスに頭を下げている。
「おっと、俺は小湊 健吾同じくエージェントってやつさ。俺にも話を教えついでに……ちょっとモンローハウスまで送ってくんねぇかな? バスが無くなっちまったんだよ」
 マックスは苦虫を噛み潰したような顔で肩をすくめる。
「図々しいヤツラだな。ちょーど届け物があるからいいけどよ。
 なんか買ってけよ!」
 小湊はありったけのカラフルなお菓子を買い求め、急いでラロを呼び戻す。天城はリリアのためにバニラアイスを買ってあげる。
「アンタ、ちょーど良かったよ。モンローさんトコから追加の注文が山ほどきたよ!」
 その注文票を見て、マックスは口をあんぐりと開けた。
「倉庫がカラになっちまわぁ」
「おーいマックスー! うちの肉もモンローさんトコに届けてくれや~」
「うちの野菜もお願いできないかねぇ」
「こないだのポーカーの負けチャラにしてやっから、うちの魚も頼むぜ!」
 近所の肉屋主人と八百屋のおばあちゃんと魚屋の幼なじみまでもが大きな箱をいくつも運んでくる。
「パーティかなんかがあるのか!?」
 なんとかかんとか荷物を積み込んだはいいが、予想以上に時間がかかってしまった。
「やべぇな……襲撃の時間に重なったら、お前さんたち車の中で大人しくしててくれよ」
 無理矢理乗り込んだピックアップトラックの運転席でマックスは、「N・P」が出来た頃は選民主義者に選ばれなかった人々は無差別に攻撃されていた事や、警察や自警団も必死になって「N・P」をどうにかしようとしていた時期の苦労を語ってくれた。
 しかし4年と少し前にモンローハウスが出来てからは、街から孤児やバックパッカーもどきの人々がモンローに受け入れられ、そう言う意味では治安が良くなった事。3年前からはモンローハウスばかり集中的に襲われるようになり、名前も「N・P・S」へと変わって襲撃現場をテレビ放映して、自分たちの一方的な主義主張をがなりたてるようになった事。しかし秘密主義的な色合いはよりいっそう強くなって、「N・P」の頃のように追いかけてどうにかなるような状態でもなくなってしまった事などを教えてくれた。

●某所某日某時刻
 とりあえず洗濯したシャツに、何度も締め直して型がついたネクタイを締め、手入れの悪い既成品の安いスーツをドレスコードをなんとかギリギリでクリアするように着た貧相な男が、重厚な執務室の隅で小さくペコペコと頭をさげている。
「Mr.スペンサー[ミスター・-]、こちらの男がジャーナリストのダニエル・ロメロ[-・-]。
 能力者の存在に危機感を持っている1人で、私どもが手薄になりがちな場所の情報を集めてくれますわ」
 秘書的立場にある銀髪の肉感的な美女シェリー・スカベンジャー[-・-]が、それなりの扱いで紹介する。
「どこの三流記者かは知らんが、まぁいい。能力者だの《英雄》だのはせいぜいゴシップネタの大道芸人程度に貶めてやれ」
 アイロンのかかった上質なリネンのシャツに、1本だけでロメロの服を2~3着は買えるであろうネクタイを締め、ロメロのアパートの2年分の家賃ほどのオーダーメイドのスーツを着た金髪の紳士が蔑みをはらんだ声で言い放つ。
「必要なのは金か? コネか?」
 威圧されてしまい口ごもるロメロに、シェリーが返事を催促するように靴を鳴らす。
「では、少々の金と……バンドができるスペンサー様の配下の「N・P・S」のメンバーをお借りしたく」
「変わった要求だ。だが私も必要なものを聞いた以上は用意しよう。
 シェリー、適当に見繕って渡してやれ。私は忙しい。去れ」
 ロメロは深く頭を下げたまま、後ろに下がりそのまま部屋を出た。
「本当に使えるのか?」
 怪訝な顔でシェリーに尋ねる。
「目をつけている人物がいるそうですわ。今はアレでも面白く使えるようにいたしましてよ」
 ニヤリと紅い唇の端を上げて、シェリーはロメロの後を追って部屋を出た。
「釣り上げる魚の大きさのためとは言え……エサを撒くのは手間のかかる事だ」
 仄暗い執務室の中でスペンサーはゆっくりと椅子に身を沈めた。

●戻ってモンローハウスの地下
 中央にゆうは100インチはありそうなモニターを配し、壁一面にあらゆる場所に仕掛けられた防犯カメラの映像が流れ込んで来ている。
 門扉や屋敷の内外の壁、柱の装飾に見えていた物は全てカメラをカモフラージュし、かつ攻撃から保護するための物だったようだ。
 屋敷周囲の木々にもカメラは仕掛けられており、一体どこからのカメラかは見当がつかないがメインモニターには正面の屋敷が一望できた。
「なるほど……“急がなくていい”ってこの事か」
「持ってきた機材の大半は無駄ですね」
 コンソールを操作するウェイにマックが話しかける。
「データはいつまでさかのぼれる? ズームしてヤツラの車種や覆面を取る場面とかは追えないのか?」
「ヤツラは想像以上に慎重なのデス。空からラジコンヘリで追跡した事もありましたが、住宅地や工場地帯に入られるともう無理ナノデス」
 バス停にもカメラは仕掛けられているようで、モンローがすんなりと招き入れてくれた事もなんとなく分かった。
「そうだ! どうしてバス停の時刻表が消されてる時間帯があるんです?」
「その時間帯は襲撃が多い時間帯ナノデ、一般の観光客やスクールバスに乗りそこねた子どもたちが巻き込まれないようにしているのデス」
 どれもこれも聞いてみれば簡単な話だった。
「ここはメインセキュリティも兼ねているノデ、普段は立ち入り禁止デス。
 そろそろ子どもたちも帰ってくるノデ、そろそろ上に戻りまショウ」

●襲撃のお時間
 スクールバスから降りてくる子どもたちは、幼稚園児くらいから大学生くらいまでと様々で30人程度だろうか。
 その1人1人をモンローは優しく出迎える。
 子どもたちは突然のたくさんの来客と、思わぬおみやげなどに喜び、歓声をあげている。
「ねぇ、紅い爪のヤツに襲われた子っている?」
 木陰がそれとなく声をかける。
「あ、それ俺」
 中学生くらいの男の子が手を上げて木陰の前に立つ。
「傷は?」
「もうなんともないよ。俺だって避けたし、深くなかったからさ」
 試しにやられたと言う顔を触らせてもらうが、それらしき跡は白い筋程度になっていてほとんど消えている。
「あの爪のヤツは女よ」
 少し派手な感じのする高校生くらいの女の子が横から口をはさむ。
「どうして分かるの? 爪が長くて紅いから?」
 女子高生はチッチッと指を振る。
「匂いよ。アイツからは高い香水のトップノートの香りがしたわ。
 コロンなんかじゃなくて、本物の、アルデハイド系のパルファムのトップノートだったわ。アイツ、出てくる直前に化粧直ししてからローブをかぶったのよ」
 周囲の男性陣は少し首をひねる。
「悪いが……男にも分かるように説明してくれないか?」
 実は女性陣の中にも理解しかねている者もいたが黙っていた。
「香水はパルファン、オーデ・パルファン、オード・トワレ、オーデコロンって濃度の違いや香りの持続時間で名前が変わるの。
 トップノートはつけた直後から10分くらい、ミドルノートは10分から30分、ラストノートが30分から消えるまでの匂い。
 アルデハイドは主に自然素材のオイルじゃなくて合成香料で作られた物で、独特の香りをしてるのが多いわ」
 モンローが女子高生を優しく頭を撫でる。
「この子は鼻がいいの。将来は調合師になりたいのよネ♪」
「ええ、そう。私、モンローさんに出会わなかったらエージェントになるしか道は無いと思ってたけど、こうして夢が出来て今、幸せなの」
 小さな子どもは「N・P・S」に対して恐怖感を持っているが、それ以上になるとモンローの言う“我慢”の意味や「N・P・S」のやっている事は“無意味”である事を理解している。
「でもススム……帰ってこねーな」
「帰ってこない子がいるの!?」
 聞きつけた紫が首をつっこむ。
「あいつ、一人じゃ戦えないんだよ」
「なんか自然公園だかなんかの事件に巻き込まれたみたいなんだけど……」
「最近気になる子がいるみたいで、その子の事ばっかり話してたんだぜ」
「助けに行ってやりたいけど、あっちはもう入れないかもしれないらしいしなー」
「え? 入れないのかよ? ちぇー」
 ちょっとマセた感じの男の子たちは勝手に盛り上がって笑っている。
「あ、今日のランナーズに翔一兄ちゃん出るのかな?」
「カーッコイイよなートップランカーなんてさー!!」
 そんな話をしている最中に、モンロー宛に電話がかかり、子どもたちの好き勝手な世間話は続いていた。
「商工会議所の会長から? なにかしら?」
 エリックから電話を受け取ったモンローは少し驚いた顔をしたが、すぐに冷静に返答をしている。
 その後、すぐに窓などにシャッターが降りてきて、ウェイが地下へ降りていく。
「来るんだ……」
 マックは自分のパソコンで独自のソフトを使い、ニューカッスル周辺のネット上での「N・P・S」の動きを監視する。
「ごめんなさいネ。まだアノ人たちが来る時間じゃないのだけど、アタシ出かけなくちゃいけなくなってしまったの。だから早いめにセキュリティを動かしておくわネ」
 さきほどまでのラフな服と違って、体が男性である事を忘れるほどエレガントで美しいモンローが慌てて支度している。
「いい? 皆も、お客様であるあなたたちも無茶をしちゃダメですからネ!
 遅くなるかもしれないけど、帰ってくるから。皆さんにもお部屋を用意してありますから泊まってらしてネ。
 じゃあ、いってきます」
 モンローは迎えの車に乗り込み、急いで出かけて行った。

 シャッターは降りたものの、覗き穴もあれば、監視カメラからの情報も入るので隔離された感覚はない。
「来まシタ! 外に出たい方は左側のドアから出られマス。戻る時もそちらカラ!」
 黒いワゴンが3台、いつもに比べるとやや少ない。
 拡声器での罵詈雑言、投石や火炎瓶の他にペンキのような物が入ったボールも投げられてくる。
「止めなさい! こんな事をしても無意味でしょう!!」
「能力者の力はあなたたちではなく、《愚神》や《従魔》から守るためにあるのよ!」
 そんな訴えかけは、拡声器による罵倒にかき消されてしまう。
「だったらヴィランの存在は何だー!」
 ――「あ~~~……遅かったか~~~」
 マックスは少し茂みになっている場所にトラックを駐めて、様子を伺う。
「突っ込めませんか?」
 大人しそうな顔をして天城はけっこう無茶を言う。
「ふ・ざ・け・ん・な!」
「まぁまぁ、こっからだと全体がよく見える。マックスさん、いつもと比べてなんか変化はありますか?」
 小湊は《愚神》や《従魔》の気配に気を配る。
「いつもより少ねぇなぁ……黒服・覆面ばっかだ」
『ドロップゾーンの気配もしないね』
 天城はスマホのGPSをONにしている。
「どうにか近づいて車にGPSを取り付けてきます!」
 と、飛び出そうとする天城の首根っこをマックスがひっ掴む。
「バッキャロー!! 昔からそれをやろうとして何人もケガ人が出てんだ! そんな無茶させたとあっちゃー、オレがモンローさんに怒られちまわぁ!」
「おい! そんなの後だ! なんか様子がおかしいぞ!」

 火炎瓶を投げる「N・P・S」のメンバーに対して雁間が催涙剤を散乱させ、風見が他のメンバーに向かってクロスボウでコショウを撒く。
「ぐあ!」
「ひっ……卑怯だぞ! 能力者!!」
「分が悪い! 撤退だ!!」
 ほうほうの体で車に乗り込もうとするうちの1人に、リンク状態のアンジェリカが果敢にタックルをする。
「つっ……捕まえた―――――!!!!!」
「えらいっ!!」
「誰か縛り上げろ!!」
 もう誰が誰なのか分からない状態になりながら、捕まえた1人をなるべく傷つけないように、しかしガッチリと捕獲する。
 他のメンバーは逃げてしまったが、この1人の確保には変えられない。
 捕まえた男を取り囲んで、暴れるのもかまわず覆面をはぎ取る。
「クソッ!!」
 虎噛が下を向く男の顔を無理矢理ひっ掴んで上を向かせる。
「ちょっ……副市長さん!?」
 出てきていた子どもたちがその顔を見て、悲鳴にも似た声を上げる。
 スマホを持っている連中はよりその男の顔に近づいて、あらゆる角度から映し、そのデータをネットやニュース番組へ流す。
「副市長さんが「N・P・S」のメンバーだなんて……」
「おい! お前、本当に副市長なんだな? 自分で名前と役職を言え!」
 胸ぐらを掴みスマホのカメラの方へ顔を向かせる。
「…………」
 男は黙秘を続け、目を閉じ、固く口を結んだ。
『とにかく家の中に入れましょう。取り返しに来られた時、家の中の方が安全だわ』
 イリスとリンクしたアイリスが冷静に判断する。
「ひゅ~♪ やったなぁ! ちょっと俺の思惑は外れたけど……」
 トラックの中から小湊が写真を撮りまくる。
「さてと……お前ら、送り賃の代わりに荷降ろし手伝ってもらうからな」
 あきらかにご機嫌になったマックスがトラックのアクセルを踏み込んだ。

 同時刻、撤収中の「N・P・S」のメンバーもそれぞれの車内で大騒ぎになっていた。
「誰かが捕まったのは確かだ!」
「しかし……誰なのかが分からん」
「あぁ、オレもお前が誰なのか分からんしな」
 皆同じような服を着て、覆面を被り、年齢も体格も同じような4人なので、誰がしゃべったのかも分かりにくい。ハッキリしているのは運転手が1人いる事くらいだ。
 基本的にメンバーは毎回参加しているわけでもなく、本当に1人になったのを確認してからでないと覆面を取ったり着替えたりはしない。
 そのために、あちこちに隠れ家や車庫・倉庫が用意されている。
「とりあえず集会場へ行こう。上の人に事情を説明しなきゃならんだろう」
「……いや……もう遅い」
「え?」
 1人の男(のような声がする覆面の人物)が、スマホのニュース画面に流れてくる副市長の顔を見せる。
「副市長が……メンバーだったのかよ!?」
 当事者である「N・P・S」のメンバーですら知らなかった事実が、こうして明るみに出たのである。
「で――この男、どうする?」

●ニューカッスル市街地early evening
 少し遅れてニューカッスル入りしたのはカトレヤ シェーン( aa0218 )。事前に仕入れた情報だと夕方を過ぎた辺りにはモンローハウスへの襲撃が終わっているらしいので、ご機嫌になった「N・P・S」のメンバーが酒場辺りで祝杯を上げてる可能性があると踏んだからだ。
「さ・て・と♪ 口の軽そうなのはいないかな~」
 カトレヤと同じく賑やかそうに呑んでる連中はいないもんかと酒場を覗いて回る御神 恭也( aa0127 )と伊邪那美(aa0127hero001 )の姿もある。
 木霊も白い杖をつきながら、人々の会話に耳をそばだてている。

「ねぇ、おじさん。いやにご機嫌じゃなぁい? あたしと飲まない?」
 カトレヤはまだ夕方だと言うのにすっかり出来上がってる男に声をかける。
「よーぅ美人のネーチャン! ご機嫌にもならぁ、見ろよこのマヌケ顔をよ!」
 パブの中では似たような笑いが起こっている。
「誰、これ?」
「コイツが悪名高き「N・P・S」のメンバーで、我がニューカッスル市の副市長様だよ」
「はぁぁぁぁ!?」
 男はカトレヤが水を向けずとも、過去の「N・P・S」の悪行や、モンローの行いをベラベラと喋ってくれた。

 カトレヤも御神も木霊もやや拍子抜けしながらも、同じ目的で動いているエージェントだと認め合い、情報交換をする。
 酒を飲みながらの情報収集のはずだったが、酔った気分にもなってない。
「じゃあ一般人が狙われるケースは本当は少ないって事ですか?」
 木霊は朝のカフェでの反応と照らし合わせると、いささか疑問だったが、一般人への被害が本当に少ないらしい情報が多い事は認めざるをえなかった。
「ああ、雑貨屋は特に親身にモンローハウスの味方をして「N・P・S」の悪口を言い回ったせいらしいな」
「以前の「N・P」だった頃は一般人のゲイとかも襲われた時があったみたいだけど、この2~3年はモンローハウスだけをターゲットにしてるみたいだぜ」
『5年前の怖さが今も残ってるって事?』
 伊邪那美が怪訝な顔で問いかける。
「ただの荒くれ集団だったのが急に組織的になって、秘密度が高くなったと言うか……内部の情報が漏れてこなくなった事も不気味さを煽ってるのかもしれませんね」
「だったら今後、メンバーに副市長がいたって事で「N・P・S」の動きも気になるが、街の人たちの動きも変化が出てくるかもしれんな」
 次の手をどう打ったものかと御神が考えこむ。
「今んトコは驚いてるばっかで、どいつも“信じられない”と“でも確かにこの顔は副市長だ”しか言ってねーんだよなー」
 カトレヤもまだ考えがまとまっらないらしい。
『市長を補佐する人格者って評判だった……ってさっき聞いたよ』
 オリヴィエもため息まじりに言う。
「しょせん、ウワサはウワサって事か~」
 そんなつぶやきは、暮れていくニューカッスルの空に消えていった。

●シドニーevening
 シドニー有数の高級レストランに現れたモンローは、やはり目立つ存在であった。
 深い紫のショールカラーのスリットの深いマーメードスーツに、ハイネックのラベンダー色のインナーを合わせ、本真珠のロングネックレスを三連に巻き、黒いレースのショートグローブを合わせている。
 シドニーなら肩幅も高身長も「モデルかな?」くらいで済まされる。
 しかし、モンローの表情は浮かないような、落ち着かない顔をしている。
「おお! Mr.カッパー、お待ちしておりました。こちらがニューカッスルの篤志家のMs.モンローです」
 諦めたように顔を上げたモンローは、少しぎこちない笑顔で右手を差し出す。
「ごきげんよう、リチャード。何年ぶりかしら?」
「Ms.モンロー…………ウィリアム!? ウィルなのか!?」
 いかにも英国の上流階級の紳士のお手本のような、Mr.カッパーこと英国人事業家リチャード・ジョルジュ・カッパーは驚いたような顔をしながらも、モンローの右手を両手でしっかりと握って離さない。
「座りましょうリディ。皆が驚いてしまってるワ」
 リチャード・ジョルジュ・カッパーとは、モンローの過去を知る数少ない人物だったのだ。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 影踏み
    小湊 健吾aa0211
    人間|32才|男性|回避

  • ラロ マスキアランaa0211hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • エンプレス・ルージュ
    カトレヤ シェーンaa0218
    機械|27才|女性|生命



  • 惑いの蒼
    天城 稜aa0314
    人間|20才|男性|防御
  • 癒やしの翠
    リリア フォーゲルaa0314hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • 炎の料理人
    鶏冠井 玉子aa0798
    人間|20才|女性|攻撃
  • 食の守護神
    オーロックスaa0798hero001
    英雄|36才|男性|ドレ
  • 冷血なる破綻者
    氷斬 雹aa0842
    機械|19才|男性|命中



  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    シキaa0890hero001
    英雄|7才|?|ジャ
  • 隠密エージェント
    マック・ウィンドロイドaa0942
    人間|26才|男性|命中
  • 新人アイドル
    灯永 礼aa0942hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • ヴィランズ・チェイサー
    雁間 恭一aa1168
    機械|32才|男性|生命
  • 桜の花弁に触れし者
    マリオンaa1168hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • エージェント
    風見 春香aa1191
    人間|20才|女性|命中



  • 保父さん
    柳 瑛一郎aa1488
    人間|32才|男性|防御



  • エージェント
    シエルaa1582
    人間|18才|女性|命中
  • エージェント
    アダムaa1582hero001
    英雄|24才|男性|ソフィ
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • エージェント
    夜帳 ホタルaa1911
    機械|16才|女性|攻撃
  • エージェント
    ウィルミナ オルブライトaa1911hero001
    英雄|21才|女性|ブレ
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