本部

海行こうぜ!二月だし

ガンマ

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
25人 / 0~25人
報酬
無し
相談期間
4日
完成日
2019/02/21 19:05

掲示板

オープニング

●レジャーシーズン

「海に! 行きたい!!」

 H.O.P.E.東京海上支部、ジャスティン会長の事務手伝いをしていた第二英雄ヴィルヘルムが、突然そんなことを言った。
「海……? 海釣りでも?」
 秘書として会長のスケジュールを確認していた第一英雄アマデウスが片眉を上げる。「ちがう!」とヴィルヘルムはイーッと歯を見せた。
「海水浴したいの! 水着ギャルに癒されたいの! ダバダバ泳いでこの有り余るパワーを発散してーの!」
「あのなヴィルヘルム、二月だぞ。夏ならばともかくな……」
「海いぃぃいいぃいいん!!! 大規模作戦も終わったしさぁあ! レジャーしようよおおん!!」
 きっと皆も遊びたがってるもん! とヴィルヘルムは駄々をこねる。アマデウスは溜息を吐いた。
「そこまでお前が海に行きたいのならば……良いのではないか?」
「えっ!!? マジで!!?」
「ああ、慰安用のレクリエーションとしてエージェントの参加を募るといいだろう」
「ほんとにー!? ほんとにーー!!?」
「手続き方法はもう知っているだろう?」
「知ってるッッ!!! あ、ジャスティンのスケジュールどうかな!? 行けそう!?」
「ああ、その辺りは上手く図ろう。尤も、人数が集まってレクリエーションが成立すればの話だがな」
 そう、アマデウスはこう思っていたのだ。

 ――二月の海に好き好んで海水浴に来るような変わり者など居るまいて。
 ので、きっと誰も参加応募なんてする訳ないだろう。
 人数が集まらなければヴィルヘルムに「残念だったな友よ、海は夏に行くべきということが分かったじゃないか」と言ってやればよろしいのだ。

「よっしゃ! ちょっと申請してくる!! アマ公、水着の用意して待ってろよッッ」
 そんなアマデウスの思惑など露知らず。ヴィルヘルムは、ダッと執務室から飛び出して行ってしまった。
 アマデウスは「ふっ」と肩を竦める。
「二月に海? そんなもの、参加したがる者がいる訳ないだろう……二月に海だぞ? ありえん……絶対にありえん話だ……普通に考えておかしいじゃあないか、気温一桁の海辺に水着一枚で過ごすなど……ましてや冷たい海で泳ぐなど……ゆえに、ヴィルヘルムには可哀想だが、このレクリエーション、おそらく参加者は奴を覗いてゼロ人だろうな。大規模作戦で疲れ切ったエージェントが、そんな疲れた体に鞭打つような……絶対にありえんな……フッ、もしも成立しようものなら、このアマデウスも潔く水着姿になってやろうではないか。アロハシャツなどで布地を稼ぐことなく、だ。まあ、そんなこと、絶対にありえんだろうが……な」

 ――人はこれを、フラグと呼ぶ。
 

解説

●目標
 海をエンジョイしよう。

●状況
 日本某所、夏場は大盛況の海水浴場。
 二月なので当然ですがガラッガラです。貸し切りです。PC達以外いません。海の家とかもやってません。そらそうだ。
 天気は冬晴れ。時間帯はお昼~夕暮れぐらいまで。気温一桁。風が冷たい。
 PC全員、必ず水着を着用すること。

▼できること
 海水浴、砂遊び、貝殻拾い、浅瀬で海の生き物探し、釣り、スイカ割り、ビーチバレー、バーベキュー、ナンパ、などなど、海で遊べることは一通り。

▼その他
▽水着
 このシナリオにおいて限定的に「ギャラリー参照」を許可します。
 浮き輪や水鉄砲、ビーチボールなどの持ち込みOKです。

▽NPC
・ジャスティン会長と英雄二人
 会長とアマデウスはシンプルなハーフパンツ型水着。会長はアロハ着てます。ヴィルヘルムはフリルとリボンの可愛らしい白ビキニ。
 自棄になったアマデウスはヴィルヘルムと波打ち際で平和に(?)水鉄砲バトルをしています。
 会長はビーチチェアで優雅に日光浴しつつトロピカルなドリンクを飲んでいます。寒くてガタガタしながら。

・綾羽瑠歌
「なんで二月に海なんですか!!?」「拷問ですか!?」
 ヴィルヘルムに引っ張られて来ちゃった。
 シンプルでレディなモノキニ水着。……の上にカイロ貼りまくった厚手のパーカー羽織ってます。寒くてガタガタしてます。カイロちょうだいって言ったら新しいカイロをくれます。

 絡みはご自由に!

リプレイ

●海だ! 01
「まぁ、普通は誰もおらんわな」
「……ん、普通は……ね」
 麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)は潮騒しか聞こえない砂浜を見渡していた。遊夜はハーフパンツにパーカー、ユフォアリーヤは黒ビキニにパーカーで、つまりは水着だ。
「海だー! 貸し切りだー!」
 琥烏堂 晴久(aa5425)の言葉通り、海水浴場はH.O.P.E.エージェントだけの貸し切り状態だった。なぜならば、
「……寒いんだよ!!」
「当たり前だ。二月だぞ」
 琥烏堂 為久(aa5425hero001)の言う通り。晴久は震えながら彼へ振り向く。
「兄様。共鳴しよう。泳ぐよ!」
「断る」
「!?」

 ――二〇一九年二月某日、某所、海水浴場、気温一桁、やや風強し。

「さむぅーい!」
 叫ぶ藤咲 仁菜(aa3237)の冬毛で覆われたウサギ耳は、冷たい風にひっくり返ってしまっていた。
「二月だしなー。正気の沙汰じゃないよなー」
 リオン クロフォード(aa3237hero001)は仁菜の耳の裏側を見ながらそう呟く。
「ねぇ!? 寒くない!? 寒いんだけど!??」
「だから止めただろう……」
 振澤 望華(aa3689)と唐棣(aa3689hero001)もそう言う。極寒を前に人は同じ反応になる。
「え、普通に寒い!!!」
 ルカ マーシュ(aa5713)の絶叫が響く。
「二月に海、何か意味があるのかと思ってたのに、まさか普通に遊ぶだなんて……」
「……くそが……」
 ヴィリジアン 橙(aa5713hero001)は持てる知識を総動員して毒吐いてやろうと思ったが、寒さのせいでロクに言葉も発せられない。二人ともハーフパンツ水着姿だ。ヴィリジアンは厚手の上着を羽織っているが。
(こんなことならウェットスーツ買えばよかった。ルカの金で……)
 歯をガチガチさせながら、ヴィリジアンは思った。

 どっこい、ウェットスーツでも寒いものは寒い。
「海で遊ぶ依頼? たのしそー! 南半球とかリゾートに旅行するんでしょ? 参加申請しよーっと! ……えっちょっと嘘、日本の海なの? 頭おかしいの?」
 という経緯で、Lady-X(aa4199hero002)が依頼文をロクに読まずに申し込んだおかげで。
 強引に連れてこられたバルタサール・デル・レイ(aa4199)も、レディXも、サーフボードを抱えたまま死んだ目をして佇んでいた。
『待ってください。狂ってますよね? なんで参加申請出したんですかグラさん?』
 英雄が強引に……という点では時鳥 蛍(aa1371)も同様だ。目を白黒させながらタブレットを見せる蛍に対し、グラナータ(aa1371hero001)は意気揚々と海へ歩き出すではないか。
「海で泳ぎたいからッス。さーて泳ぐぞー」
 言い終わりに打ち寄せた波が足首にザバーン。
「ぐえーー!!!」
 寒すぎて叫んだ。

「この世界へ来て数年たったが、知らなかった。こんな季節に海水浴する文化がるとはな」
「私も二〇年以上この世界で生活しているけど、知らなかったわよ……」
 感心しているニクノイーサ(aa0476hero001)の一方、大宮 朝霞(aa0476)は震えが止まらない。
「二月といえば海らしいわよ?」
「海水浴、ってうーわー……マジか~」
 振り返るまほらま(aa2289hero001)に、GーYA(aa2289)は遠い目をした。

「ヴィルヘルムもなかなか良い企画を考えたな」
 マルコ・マカーリオ(aa0121hero001)はフンドシ一丁でウンウン頷いている。
「恨むよヴィルヘルムさん」
 その隣では、ビキニより雀の涙程度に布の多いスクール水着のアンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)が、寒すぎる外気温に声を濁らせていた。
「お前も世界に羽ばたく歌姫になる為、厳寒の海でしっかり精神を鍛えんとな」
 マルコが爽やかに微笑む。聖職者として厳しい修業を積んだ彼はこの寒さが平気らしく、容赦なくアンジェリカの手をガッシと掴んだ。「た~す~け~て~」と叫ぶ少女を、「ハッハッハッハッハ」と笑いながら海へと連行する。

「泳ぐ特訓する……。……寒い海で何言ってるのか、自分でもよくわからねーけど、うん……」
「お手伝いしますの、つきさま!」
 木陰 黎夜(aa0061)も真昼・O・ノッテ(aa0061hero002)も泳ぎに来た。
 黎夜はカナヅチで、今までは英雄の力で水辺での戦闘はどうにかしていたが、このままでは良くないだろう。泳げるようになりたいと黎夜は決意した。二月の海でなくてもよかったんじゃないかと思ったがきっと気のせいだ。
「“サーフィンの練習をするなら冬の海だ”って、聞いてな」
 ウェットスーツを着た東海林聖(aa0203)も、海をエンジョイしに来た者の一人だ。折角の海なのだと、いそいそ準備体操をしている。
「しゃあ! 遊ぶぞー!」
 そんな仲間達を走って抜かしていったのは、メルト(aa0941hero001)と共鳴した彩咲 姫乃(aa0941)だ。まとう炎こそ霊力の揺らぎなれど、その体は火のように温かい。焔色の髪をなびかせて、素肌に眩しいビキニをつけて、色々と吹っ切れて心から笑顔を浮かべるその姿はとてもホットだ。不正はなかった。ここだけ真夏。
「ふっふっふ、俺ちゃんは二月だろうが八月だろうが年中無休でフルオープンパージなのさ! この程度で俺ちゃんのフルオープンパージを止められると思うなよ!!」
 虎噛 千颯(aa0123)もそれに続かんとする、が、
「パパ、そういうのいいからちゃんとして」
「あ、はい」
 烏兎姫(aa0123hero002)に釘を刺されては、スンと大人しくなるのだった。

 そんなエージェント達を見守るのは、ジャスティン会長だ。見た目だけならすごく南国の……。
「……会長、無理しない方がいいですよ」
「こんなことで体調を崩されては元も子もありませんわ」
 声をかけたのは赤城 龍哉(aa0090)とヴァルトラウテ(aa0090hero001)だ。
「どうせバカンスを洒落込むなら、幻島に行けば快適だったでしょうね」
 魔法瓶に入れたはちみつ生姜湯を差し出しつつ、ヴァルトラウテは苦笑を浮かべた。
「まあ……こういうのもオツなものじゃないかね? そうでもないかな……」
 礼と共にはちみつ生姜湯を受け取りつつ、会長は肩を竦めた。



●海だ! 02
「……終わったね」
「ああ──終わったな」
 木霊・C・リュカ(aa0068)とオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)の視界に広がっていたのは平和な海、その平穏はH.O.P.E.が護り抜いた明日の一つだ。目を細める二人はサーフパンツ姿のまま鳥肌を立てていた。二月だから。
「もぅマジむり、年齢的にきつぃ」
 もこもこパーカーのチャックを限界まで上げ、瑠歌からもらったカイロを抱きしめ、リュカはガタガタしていた。
「精神を強くもてば、氷水もまた温泉なのです!」
 一方の紫 征四郎(aa0076)は意気揚々と、女児らしいフリフリの水着を身に着け浮き輪を持って、反対側の手は蛍と繋いで、海へと駆け出した。
「修行、なら……わたし、もっ」
 二月の海。蛍は正気を疑いたくなるが、友の鍛錬の為ならと覚悟を決める。
「ががががががんばりましょうホタル!」
 征四郎の声は震え、顔は青ざめている。「これは武者震いです!」と聞いていないのに早口で言う。蛍は色々察していたが、寒さで思考が止まっていたのでとりあえず頷いた。

 そして、海にドボーン。

「ぴゃあああやっぱり冷たいのです!!」
「――!!」
 叫ぶ征四郎、言葉を失う蛍。
「ピああああああああああ」
 叫び続ける征四郎。今すぐ脱出したいが、親友の手前さっさと出られない。
「……!!!」
 蛍は唇を上も下も噛み締めている。少女は心身を鍛えたかった。王との戦いこそ終わったが、いつでも英雄と共にいる状況であるとは限らない。一人でも困難を乗り越えられる強さが欲しかった。
 なにより親友も一緒なら、何でもできそうな気がするのだ。いや、できる!

「子供パネェ……」
 リュカはそんな子供達を見守っていた。弱視ゆえにボンヤリとしか分からないが、聞こえてくる悲鳴に大体を察している。あとから見返せるようにとその手にはカメラモードを起動したスマホ。ぱしゃぱしゃとシャッターを切る。
「うん、水着は冬でもやっぱり良いものだね!」
 寒いけど。
 ……寒いけど!

「いやもうこれは医学的にもイかれてるって」
 ガルー・A・A(aa0076hero001)は顔をしかめていた。じゃあなんでこんな場所に来たのかというと、恋人であるオリヴィエの水着を見るためである。
「あいつらやべえな……」
 泳ぐ女児らに対して呟けば、傍らで体育座りで四肢を収めているオリヴィエがズビと鼻をすすった。
「子供は風の子というが……俺はもう子供じゃないから、ああいう風にはしゃげないな」
「そお? テンション上げてこ? 上げないと凍死しそうってゆーか」
「……脱いだら、ガルーのテンションは上がるのか?」
「はい?」
 思わずガルーが振り返れば、オリヴィエはすっくと立ち上がってパーカーを脱ぎ始めた。現れる小麦色の素肌に、ガルーは不覚にもドキリとしたものを心に感じる。
(いやいや一応まだ子供だからね。何考えてんだ俺様……)
 心臓を落ちつけつつ、それでも今更、露骨に顔を逸らすのもアレなので。
 一方のオリヴィエは「仕方ないな! 恋人の頼みならな!」と恥ずかしさを脳内声で抑え込みつつ、ガルーが持ってきた浮き輪を彼に押し付けた。
「……泳げない。引っ張ってくれ」
「はーーーしょうがねえなぁ」
 ちょっと頭冷やしてくるか。そう心の中で付け加えては、ガルーはオリヴィエと海へ向かった。
 浮き輪につかまったオリヴィエを、ガルーがゆったり泳いで引っ張ってゆく。正直、発狂しそうなほど冷たいが、まあ。
(……そうか、続くのか)
 極寒の海、オリヴィエはふと、前を行くガルーの広い背中を眺めて物思う。
(あんたのいる世界は、まだ続いてくれるんだな……)
 ようやっと現実感が湧いてきて、それが連れてきた存在の喜びを噛み締める。
「――来年も再来年も一緒だ。恋人らしいこともたくさんできる」
 そんな時だった。オリヴィエの心を見透かしたのか、はたまた偶然か。ガルーはそんなことを言うや、身を翻して少年を両腕一杯に抱きしめた。
「俺様達が掴んだ明日だ」
 互いの体温を熱いほどに感じるのは寒いからか、それとも。素肌同士で鼓動を感じながら、オリヴィエははにかみつつも確かに頷いた。

「うっうっ……夏と同じ感覚じゃダメだったッス……」
 グラナータはパーカーのフードまで被って少しでも暖を取れる状態で三角座りし、仲間達が焼いてくれた餅を寒さで泣きながら頬張っていた。ついでに持ち込んだ肉を串焼きにしたものもモグモグしていた。
「ぐすっ……食材の温かみが身に染みる…… あれっ? 蛍が……泳いでる……?」
 温かい食事で少し気力が戻って来て。見やる先では、征四郎と水遊びしている蛍の姿。見ているだけで凄く寒い……。

 そんな蛍だったが、まもなくすれば征四郎と共にガタガタふらふらヨロヨロしながら海から上がって来る。
(死ぬかと思った……死ぬかと思った……)
 蛍も、そして征四郎も寒すぎてゼェハァしていて無言である。そのままゾンビのような足取りで砂浜に戻ると、グラナータが心配しつつ「……いるっすか?」と焼きたての餅と串焼き肉を差し出した。
 温かい食事は、胃袋から体を温めてくれる……。
 グラナータと串焼き肉を半分こしながら、蛍は季節外れに賑やかな風景を眺めている。
 征四郎がリュカの為に砂をかけているのもそんな風景の一コマだ。なんでも「寒すぎるから砂風呂をしたい」とリュカが言ったらしい。
「はい、あーん」
 砂風呂をすれば両手が塞がる。つまりものを食べられない。なので征四郎が、アツアツのお餅を彼の口元へ運んであげていた。もちろん火傷しないようにふうふうしてあげたやつだ。
「うっ……せーちゃんが神様っぽく感じる……」
 温かい餅に包まれたい気持ちを覚えつつ、リュカは征四郎の献身に涙する。リュカにそう言われると、なんだかくすぐったい征四郎である。
「リュカ、無理したらダメですよ。このあいだ、お風邪ひいてたの知ってるのですから!」
 照れ隠しのようにそう言って、火照る顔をリュカから隠すように、征四郎は蛍へ向くと手を大きく振った。
「よーし、あったかいものを食べたら二回戦なのです! ホタル、いきましょう!」
「……うん、っ……」
 蛍はコクンと頷くと、砂の上に足跡を残しながら、友達の方へと走って行った。グラナータは餅をゆっくり噛みながら、相棒の背に手を振った。



●海だ! 03
「むりむりむりむりまじでむり」
 神塚 まもり(aa5534)は全力で首を横に振った。「二月だから海に行こう」と高森 なつき(aa5534hero001)に言われ、理解不能のまま連れて来られてしまったのだ。なお、まもりは黒の、なつきは青のサーフパンツである。
「大丈夫、運動したらあたたかくなるよ~さあまずは準備運動だよ~」
 にこにこ言うなつきの言葉に、まもりは英雄を二度見する。
「……まさか泳ぐとか言わないよな?」
「え? 泳ぐに決まってるじゃないか~」
「やめてくださいしんでしまいます」
「オレが消えてしまうかもって思ったときにきみ言ってたじゃない~、オレから学べるものを全部、学びたいって~。そしたら二月の海は外せないよ~?」
「一体どんな世界だったんだ……」
 など言いつつも、準備体操が終わる。終わってしまう。「あと三時間ぐらい準備体操してないか」とまもりが言いかけたところで、笑顔のなつきが彼の肩にポンと手を置いた。
「よ~し、じゃあそろそろ海に入ろうか~。まもちゃんを一人前の強い男に育てるって約束したからね~、びしばしいきますよ~まずはあそこまで競争だ~」
 なつきがクイッと親指で示すのは、結構遠い位置にある岩場である。まもりは絶望に満ちた目をして呟いた。
「生きて帰れますように……」

 ――この後めちゃくちゃ泳いだ。

「……生きてる、俺、生きてる……」
 まるで数日間漂流していた者のように、まもりはぐすぐすメソメソしながら、半ば砂浜に打ち上げられる形で帰還を果たした。
「いやあ、何セット目かでまもちゃんが力尽きた時はどうなることかと~」
 なつきはまるで他人事めいた笑顔と口調でそう言って、なんてことない風のまま砂浜に上がっている。まもりは大の字に倒れたまま、はあ……と長い息を吐いた。
「なんかもう寒さもどうでもよくなってきたな……水鉄砲、楽しそうだし混ぜて貰うか」
「いいね~」
「ただし共鳴してだ」
 スッと取り出したるは、ほぼヒモめいた真っ赤なビキニだ。途端に、寒さで動じなかったなつきの顔が青くなる。声を体を震わせる。
「やめてくださいしんでしまいます」
 この非モテ、女性の肌に耐性がないのであった。

 さて、まもり達が言っていた水鉄砲のことだが。
 ヴィルヘルムとアマデウスが、正に水鉄砲を手に睨み合っている。

「寒中水泳はアイドルの必須科目……!」
 と、そこへだ。ちょっとレトロなことを言いながら現れたのはプリンセス☆エデン(aa4913)である。可愛らしいフリルの青いビキニ姿である。寒くてもガタガタしないのがアイドルである。
「そこのあなた、勝負よ!」
 指を突き付けた先にはヴィルヘルム。エデンは彼のことを女子と思い込んでいるし、どこぞの芸能エージェントに登録しているアイドルだと思い込んでいるし、運命の好敵手(らいばる)だと勝手に決めつけているし、ジャスティンの英雄であることは都合よく知らないし、共鳴中の彼については“彼女”の生き別れの兄かなんかだと思い込んでいる。
「勝負? いいぜ!」
 ヴィルヘルムはニッと笑って水鉄砲を向けた。「ちょっ」とエデンは掌を向ける。
「アイドルといえばビーチバレーとカラオケ対決でしょ!?」
「俺は剣闘士だ!」
「それなんていうアイドル!?」
 とエデンが言ったところで水鉄砲から冷水バシャー。この気温で水をぶっかけられるのは冗談抜きでえげつない。「ぐえー!」とエデンの口から乙女ならざる悲鳴が出る。ヴィルヘルムがカラカラ笑う。
「ちべたいだろ~! はっはっはっはっは!」
「くっ……やる(可愛い)わね……“ちべたい”とかあざといし……でも負けない……!」
 エデンもどこからともなく水鉄砲を取り出した。そのままアマデウスへ振り向く。
「そこのあなたは審判役ね!」
「何を判定するんだ……」
「可愛さ!」
「???」

「たまに呼び出されたら、これ(寒中海)だよ……」
 エデンを遠目に眺めつつ、ハーフパンツにアロハ着用のBradley(aa4913hero002)は、傍の焚火に手を翳していた。傍らには土の壁。火も壁も、ブラックボックスの力で生み出したものである。なおスキルは共鳴しないと使えないので、さくっと共鳴してさくっと共鳴解除したのである。
 そんなブラッドリーの傍らには釣り竿。釣れた魚はその場でさばいて焚火で焼くのだ。瑠歌からもらったカイロでも温まりつつ、水着で水をかけあうエデン達の姿――そして二月の海ではしゃぐエージェントらの姿を、信じられないものを見る目つきで見やっていた。記念すべき(?)二回目の依頼参加がこんなことになるなんて。
 するとほどなくして、エデンの二回目の「ぐえー!」という悲鳴が聞こえてきて。……ブラッドリーは温かい飲み物を片手に、重い腰を上げて彼女を迎えに行くのであった。

「――我々は二月の海で何をやっているんだろうか」
 水鉄砲で戦い合うヴィルヘルムとエデンを見守るアマデウスが呟いた。
「はぁ? 二月に海は頭がおかしいだー?」
 その隣には姫乃が、同様に水鉄砲対決を見守っている。
「王のあのドロドロ経験した後だったら、この冷たさも心地いいと思うぞ、めっちゃ清涼感」
「まあ……そうではあるがな」
「そんなことより隙ありーー!!」
 言うや、アマデウスに対して水鉄砲で奇襲。バシャー。
「……」
 沈黙のアマデウス。前髪が濡れて垂れ下がって顔が見えない。
 するとだ。ポン……と姫乃の肩にアマデウスの手を置かれて。
 そのまま担がれて、姫乃は海に投げられた。プールでお父さんが良くしてるアレである。グワー。

 青い空に、水飛沫が煌く――。

「海……!? ふざけるな、今は二月だぞ……!?」
 そんな光景に、海神 藍(aa2518)は目を見開く。ついでに歯もガチガチ鳴らす。
 すると、だ。波打ち際へいそいそ向かっている禮(aa2518hero001)が振り返り。
「え? 海に季節とかなくないですか?」
「え?」
「え?」
 不思議そうな顔で見つめあう二人。
 どんなに共鳴を重ねても、どんなに絆を深めても、理解できないものはある。
 そう、例えばカルチャーショックとか。
「海です! 兄さん!」
 フィンスイミング用のモノフィンを抱えて、禮は本っ……当に嬉しそうに表情を華やがせている。二月の海水浴でこんなに喜んでいる者は、おそらく世界を見渡してもなかなか、いやかなり、珍しいのではなかろうか……。
「……ああ、海だね。禮……寒くない?」
 そのはしゃぎようと屈託のない笑顔に気圧されつつ、藍は尋ねる。すると禮は「え? なにが?」と言いたげな顔で振り返り、首を傾げるのだ。もちろんその服は水着である。見ているだけで寒いのである。藍はいろいろと諦めた。
「……うん、流石にヒトの身にはきついから焚火を焚いて待ってるよ、存分に泳いでくると良い」
「そうですか? それじゃあ、ちょっと泳いできます!」
「楽しんでおいでー」
 うきうきと砂浜に足跡を残して駆けていく後ろ姿を、藍は手を振って見送った。その姿が海に消えれば、藍は寒い風にぶるるっと身震いをすると、早急な手付きで焚火の準備を始めるのであった。


「会長はわからんよな、――年だし肉体的には堪えていると思うんだが」
 一方。びしょ濡れでも元気いっぱいな姫乃は、ジャスティン会長へちらと目をやった。
「気持ち的にはどうなんだろうな。あの堅物がバカやってるのは結構楽しかったりするのかね?」
「いつまでも青春したいよねぇ……それは、私の英雄達にとっても同じ想いさ」
 ジャスティンが英雄達を見守る目は優しい。大事な人には、楽しい時間を過ごして欲しい。その眼差しはそう語っていた。そしてもちろん、その想いは他のエージェントに対しても同じなのだろう。

「これは僕らの鍛え方が足りないからじゃね!? 会長さんだって優雅にジュース飲んでるし! 英雄さん達は遊んでるしっ」
 そんなジャスティンを、そして彼の英雄達を示し、ルカが歯の根の合わない口でそう言った。エージェントになって一年未満。恐れ多くて会長の側には行けないため、彼が震えているなど露知らず。
 そんなルカに、隣で同じぐらいガタガタしているヴィリジアンが呟く。
「幻想……蝶……」
「入れないよ!? 共鳴もしないかんね! 僕一人で寒いとか嫌だ!」
「……×××」
 とても汚い言葉である。その放送禁止用語っぷりにはルカも二度見である。
「っていうか英雄だろ!? 寒いとかあんの? 風邪とか引くの?」
「……××……」
 そう毒吐いたヴィリジアンには、英雄の自覚はまだないのだ。それよりも寒い上にクソ寒いのだ。放送禁止用語をまといながらヴィリジアンはくるりと踵を返す。ルカを置いて向かった先は、オペレーター瑠歌のところだ。カイロを貰いに行く為だ。
「あっ ちょっとぉ~~……」
 おいてけぼりのリュカ。付いて行くとまたヴィリジアンに口汚く罵られそうで二の足を踏む。しばしその場に佇んで……波が押し寄せる海へと振り返った。青い空、青い海……気温一桁。
「……」
 ごく、と緊張の唾を飲んで、意を決したルカは海へと歩き始める。そして、散々躊躇って考えて覚悟と決意を何回か繰り返してから、つま先をチョン……とだけ海に触れた。
「ヒィ~~~!!」
 大量の針にブッ刺されるような冷たさに、情けない悲鳴が迸った。そのまま全力ダッシュで撤退。あったかい餅を求めて、仲間達のもとを目指した。

「綾羽さん大丈夫ですか……俺にもカイロください」
 ジーヤは青のハーフパンツ水着に、オレンジ色のフード付きラッシュパーカーだ。「どうぞ」と渡されたカイロを握り締めつつ、ジーヤはタスヒーンシールド……と思ったが、AGWは共鳴しなければ効果を発揮しない。残念ながら風よけにしかならない。やむなし、と肩を竦めた。
(あのオペレーターの人、顔とかは知ってるんだが直接話したこととかはないよな)
 ふとそう思っては、姫乃は瑠歌の隣に「よっ」と挨拶しながらしゃがみ込む。
「大丈夫か? 寒いならカイロ代わりにはなれるぜ?」
「……いいんですか?」
「いいんですぜ?」
「おねがいじます……」
 ズビ、と鼻をすする一般人。「しょーがね~な~」と、姫乃はニッと笑いながらも、その肩に手を回してやった。とってもポカポカ。共鳴時の効果はあるが、姫乃が動き回っていることもある。
「あったかい……」
「そうだろ~そうだろ~」

「会長? 失礼を承知で言いますけど……何やってるんですか」
 ジャスティンへ直球の言葉を投げかけたのはまほらまだ。「年齢と立場を考えて欲しいわぁ」と脳内で呟く当の本人は、サマーな雰囲気に髪を一つにまとめ、青のビキニに青い薔薇のパレオ姿なんだが……。
「……バカンス!」
 会長はちょっと自棄気味にそう答えた。そんな彼に、合流したジーヤは「バカンスですかぁ」と苦笑をこぼし……ふと、言う。
「……俺達リンカーは力を持ってる。ヘイシズの世界のようになるかもしれないし、王のようになってしまうかもしれない危険を孕んでる」
「ああ、そうだね。だからこそ、悲劇を繰り返さない為にH.O.P.E.がいるのさ」


●海だ! 04
「海なのね! 遊ぶのね~!」
 破魔鬼(aa4756hero002)は女児ボディにワンピースタイプの水着をつけ、楽しそうに海へと駆け出した。
「ちょっと待っ……寒い!!」
 小宮 雅春(aa4756)は破魔鬼の入水を阻止しようとしたものの、凍える寒さに震えあがる。ラッシュパーカーのチャックを限界まで上げる。
「この寒さを何とかしたい」と思う雅春とは対照的に、破魔鬼は海が初めてゆえに真冬の海水浴に疑念を抱かない。
(出会ってから破魔鬼さんが厚着をしていたことがあったろうか……おかしい……)
 そんな雅春を追い抜いて、破魔鬼と並走するのは春月(aa4200)だ。へそ出しフリルタンキニは夏の日差しの下なら映えたことだろう。実は最初はビキニのつもりだったのだが、英雄にタンクトップを着せられたのだ。
「よーし、遊ぶぞ!」
 破魔鬼と手を繋いで、ジャンプして海へドボーン。すると肌を突き刺す異常な冷たさ。
「んぎゃっ!」
 春月の口から濁った悲鳴が出る。テンションのままに海へダイブなぞやるんじゃなかった。春月は一瞬で思考がそう切り替わると、破魔鬼を抱き上げ抱きしめ暖を取りつつ砂浜へダッシュUターン。
「おー、これが海遊びなのね? はるはる、ひんやりなのね」
 抱っこされたまま、盛大な勘違いをする破魔鬼。「寒中水泳する人はすごいなあ……」と呟く春月。その傍らではレイオン(aa4200hero001)が、それ見たことかと溜息を吐きながらタオルを渡していた。なおレイオンは去年の夏に購入した、無難な水着にラッシュパーカー姿である。
「やあ、楽しんでるかい?」
 と、雅春が震えながらやって来る。「レイオンさんの親心がちょっぴり分かった気がする……」と続いた言葉にレイオンは何とも形容し難い表情を浮かべるも、スッと温かい飲み物を渡した。もう海に来ちゃったならしょうがないのだ……。
「雅春も……あまり振り回されないようにね」
「まあ……うん」

 さて海に入るのは厳しいが、浜辺で体を動かす遊びをすれば温まるのではないか。話題はそんな風に流れて行った。雅春は最初からそのつもりで、スイカ割り用のスイカも用意していたのだ。この時期のスイカは高かった。
「スイカ! 高級だねっ」
 季節外れの縞模様に目を輝かせつつ、春月は目隠し布をつける。この寒さではこのわずかな布でもありがたい気がする。
 女子二人が交互にスイカ割りチャレンジするのを、横から見守る保護者二人が右だ左だと指示をする。結果的に割ったのは春月だった。当たり所が悪く、かなり不均等な割れ方をしたが!
 スイカは皆で分けて食べることになった。この季節にスイカを食べることになるとは……レイオンと雅春はそう思いながらも、ビーチフラッグに全力で興じる春月と破魔鬼を眺めている。
 ちなみにビーチフラッグはさっき四人同時でやったが、破魔鬼が圧倒的速度で優勝をした。優勝賞品はよく冷えたメロンソーダと、温かいコーンポタージュ。前者は破魔鬼、後者は雅春が用意したものだった。なんという地産地消。
 が、今は破魔鬼がその賞品をかけて春月と終わりのないビーチフラッグ対決をし続けている。おそらく破魔鬼が飽きるまで。
「メロンソーダ……雅春さんのコンポタを……狙う!」
 もう何回も付き合わされて、春月は全身砂まみれでゼェハァしている。破魔鬼が何回目かの「もう一回なのね!」と言葉を口にしつつ、無邪気に(あるいは残酷に?)笑った。
「頑張るなぁ……」
 とはいえ遊びたくて仕方がない破魔鬼の面倒を見てくれるのはありがたい。レイオンがコンロで沸かしてくれたお湯で足湯をしながら、雅春は呟いた。

 そんなことがしばらくもあれば、流石に春月も破魔鬼を抱っこした状態でヨロヨロフラフラ戻って来る。
「あー、もう駄目だ、冷え切ったよ! 皆で銭湯行ってから帰ろうよ……」
 髪をマフラーのように巻き付けるほどに、春月の体は冷え切っていた。
「銭湯! いいね!」
 雅春が食い気味に頷く。レイオンも頷き、破魔鬼も元気よく「みんなと遊ぶのね!」と言った。
 ならばと雅春が近所に銭湯がないかスマートホンで検索し始める。ちょっと早めに切り上げて温泉に寄るのもいいだろう。



●海だ! 05
 準備体操もしたし、ゴーグルも着けた。真昼に手も繋いでもらった。覚悟を決めて立ち入った海は半端なく冷たいけれど、黎夜は唇を引き結ぶ。
「……ま、まずは、水温に、か、体を、慣らしししし……」
「慣れる、のですの?」
「……慣れない、気がするるるる……」
 ガタガタしつつも、黎夜は泳ぎの練習に来たのだ。まずは水に顔を着けてバタ足をするところから。
「つきさま、その調子! ですの!」
 真昼は彼女の手をしっかり握り、頑張る黎夜を応援する。二月の海は冷たいってもんじゃなく、足先から全身を針でブッ刺されているような、最早痛みに近い。泳ぐのがメインなのか、寒さに耐えるのがメインなのか、だんだん分からなくなってくる。
 それでもほどなく、そして一生懸命に練習していれば、なんだかちょっとだけ……泳ぐのが上手くなったかもしれない。
「でも、寒くて冷たいから……二月の海で泳ぎの特訓、向いてない……」
「早いですけれど、切り上げましょうか、つきさま」
 二人とも寒くて意識が止まり始めている。「さむ……さむ……」と語彙まで凍らせながら、砂浜に上がってタオルで体を拭いて、皆が用意してくれた火の傍へ。
 それから、家から持ってきた餅とバナナを良い具合に焼こう。餅は香ばしい焼き目をつけたら、醤油をつけて海苔で巻いて磯辺焼きに。バナナも火を通せばいっそう甘くなる。
「ん……おいふぃ」
 はふはふと餅を頬張りながら、黎夜は温かさを噛み締める。運動の後のしょっぱいものは体に染み入るような美味しさだ。火にあたり、温かいものを食べて行けば、体がポカポカ温まってくる。


 バルタサールも、レディXも、サーフィン経験がある。前者は故郷メキシコで、後者は数多の旅先で。
 だが。
「こんな冷たい海でなんかサーフィンしないわよ」
 レディXが珍しく(?)正論を吐いた。珍しくバルタサールも完全同意だった。
「で、バルちゃん、寒い海で何して遊べばいいの!?」
(そんなこと言われてもな……)
 バルタサールだって極寒海水浴なんて想定の範囲外すぎた。答えあぐねていると、レディXはツンとそっぽを向いてしまう。
「もう、バルちゃんの役立たず!」
(勝手なもんだ……)

 対照的に――

「っし、行ってみるか!」
 聖はサーフィンに挑戦していた。持ち前の身体能力で、少し練習すればかなり上達する。理論上は体を動かしていれば温かいはず……だったが。
「……べっくしっ! ……う、やっぱ寒いな……」
 二月の海は寒かった。自然ってすごい、聖はそう思った。
 一通り海遊びを楽しんだ彼は海から上がり、濡れた髪をタオルでガシガシと拭いていた。そういえば仲間が餅を焼くとか言っていたな……と見やれば、そこにはチャッカリとLe..(aa0203hero001)がいる。
「……」
 もぐもぐ。ガタガタ。マフラーでもこもこになりながら、ルゥは寒さに耐えつつ無心にお汁粉を食べている。
 その姿に、聖は目を見開いた。
「……ルゥが自重してる……だと」
 そう、ルゥは「みんなが食べる分を考慮して慎ましくしなきゃ」と、微大盛にしかしていないのだ。凄いことである! 本当に凄いことである!
(熱でもあるんじゃ……)
 聖はおそるおそるルゥの額に掌を当ててみた。「邪魔」と呟かれたので、「あっはい」とそっと手を引っ込めた。
 そう、餅は集中して食べなければならないことをルゥは知っているのだ。油断してはいけないのだ。
(……何年か前……アノヒトも殺られかけてた……)
 警戒しつつ、ちょっとずつかじって食べる。かきこみたい衝動を抑える。餅以外にもマシュマロやらがあったのだが、目の前の餅に集中していることが幸いして(?)、ルゥの魔の手というか魔の口がそちらに向くことはなかった。
 聖はルゥの意識が餅以外に向かないことを祈りつつ……自分は磯部餅を貰うと、そっとルゥの視界を餅以外のものから遮るように腰を下ろして、それを頬張り始めた。
 ふと見やれば、向こうの方に友人の姿がある。
(そういえばリオン、告白したのかな?)
 めでたく結ばれたニュースも良く聴く昨今。そんなことを思った。


「じっとしてると余計寒いぞ。動け動け!」
 極寒の海、マルコは海中で腕を組み身じろぎもしない立ち泳ぎ姿勢。
「あうううう……」
 その傍では、最早マトモな言葉を紡ぐこともできなくなったアンジェリカが、涙目でダバダバ泳いでいる。
「ノウと戦った南極ほどじゃないだろう? 流石に俺もあそこでフンドシ一丁になれと言われれば厳しいが」
「ふぐぅぅぅぅぅ……」
 マルコの余裕の笑みが小憎たらしい。畜生め、とアンジェリカは心の中で毒吐いた。
(くそう、やってやる!)
 こうなればヤケだ。うおおおおおおお――と心の中で雄叫びを上げ、さっさと終わらせたい本音もありつつ、必死に水をかいて泳ぎ続ける……。

「よし、この鍛え上げた精神力が、あればお前の歌も格段にパワーアップしたハズだ」
 指定の時間を頑張って泳ぎ切って、漂流者めいた様子で砂浜に打ち上げられたアンジェリカに、マルコは爽やかに微笑んだ。手を差し伸ばして少女を引っ張り上げると、タオルとカイロ(瑠歌から貰ったやつ)を彼女に手渡す。
「ええ……本当かなぁ……」
 むしろ寒さで風邪ひきそうなんですけど、とアンジェリカは震えながらタオルに包まる。一方のマルコは相変わらず、寒いのサの字も口にしない。
(……こう見えて、やっぱり修行を積んだ聖職者なんだなぁ)
 と、アンジェリカはちょっとだけ感心するのであった。


「ふふふ……皆が寒い寒いというこの海すら俺ちゃんは平気に泳ぎきるんだぜ!」
 その言葉通り、千颯は意気揚々と二月の海を泳いでいた。水着は娘に厳しく言われたので、大人しめのトランクスタイプだ。普段から露出もといフルオープンパージしているので寒さについては割と平気である。
「イエーーイ! 烏兎ちゃん見てるーーー!?」
 砂浜の方へ振り返れば、烏兎姫の方へと眩しい笑顔で手を振った。ほーら、パパ、こんな寒い中でも颯爽と泳いじゃってるぞカッコイイぞ。そんなアピールであるのだが、遠くの烏兎姫は無反応だ。
「烏兎ちゃん……そうか、そうだよなっ! もっとカッコイイ所を見せてくれないと……って意味なんだな!」
 超解釈&超空回り。「うおおおおおおおおおお」とバタフライでダバダバ泳ぎ始める千颯。大きな戦いが終わり平和になったからこそ、これからは娘達と一緒に楽しみたいと思ってはいるのだが……。

「……何やってんだか」
 賑やかな海でひときわ賑やかな父の姿に、砂浜の烏兎姫は肩を竦めた。その姿はもちろん水着……であるはずがない。常識的に考えて二月だ。烏兎姫は寒がりなのだ。モコモコに着込んで、仲間が用意してくれた焚火の傍に座っている。
「はぁ……パパって本当に子供みたい。ボクはこんな海じゃなくてパパとデートしたかったのに」
 独り言ち、唇を尖らせる。大きな戦いも終わって、パパも無事に帰って来て、久々のお出かけなのに、なんで冬の海? しかも海水浴? 意味不明すぎて、烏兎姫はご機嫌ナナメだった。正直、海で泳いでるパパとかどうでもいい。ていうか見てるだけで寒すぎるので直視したくない。
「ママはパパの何が良くて結婚したのかなー。はぁ……」


 心頭滅却すれば二月の海もまた温かし。
 というわけで、秋津 隼人(aa0034)はフンドシ一丁だった。
「流石に寒い、けど……今だからこそ、気を引き締める意味でも!」
「無理! じゃろ! 馬鹿か!!」
 食い気味に叫んだのは椋(aa0034hero001)だ。大きめのサーフパンツにラッシュパーカー姿の椋は、足先が海に触れた瞬間、かつてない速さで砂浜へと引っ込んだ。
「はい!! 隼人!! いってこい!!」
「あれ? 一緒に行くって……」
「いってこい!!! わしはほらアレ監視しといてやるから!!!」

 さて隼人は寒中水泳ソロプレイになったわけだが、見渡せば海を泳いでいる者はそれなりに見受けられる。その存在が隼人のモチベーションになった。皆も寒い中、頑張っているのだ。自分も頑張ろう。とりあえず沖にあるブイの所まで泳ごうかな。
 だがしかし。
「あれ……ブイがない……? いやまさかそんな……本当に?」
 だんだん冷静になって来た。よし戻ろう。

 一方、椋は瑠歌にカイロを貰えるだけ貰うと、焚火の傍でじっとしていた。
「ありがたい……おぬしも大変じゃの」
「まさか大規模作戦直後の休暇がこんなことになるなんて」
「うむ……」
 と、そこへほどなくして隼人が戻って来る。
「いやぁ、これはなかなか良い経験だったかもしれません」
 隼人は晴れ晴れとした笑顔を浮かべつつ、焚火の傍に座り込む。
「……寒くないんですか?」
 瑠歌はちょっと「この人ヤバイ」の目で隼人を見ている。気温一桁の海をフンドシ一丁で泳ぐとかヤバすぎる。「いや~流石にちょっと寒いかな~とは!」と隼人は相変わらずである。後日、風邪を発症しようとも後悔はないだろう、多分。
 と、ここで椋がスックと立ち上がる。焚火とカイロでかなり体が温かくなってきたので、遊びたい気分になってきたのである。掌クルーである。
「わし、ちょっとあすこの水鉄砲バトルに乱入してくる!」
 そう言うや、ヴィルヘルム達の方へと元気に走っていくのであった。



●海だ! 06
「ボク達も混ぜてほしいんだよ!」
 ヴィルヘルムとアマデウスの水鉄砲バトルに乱入したのは晴久だった。ヴィルヘルム側に立つ。
「訳あってこちらに付かせてもらいます」
 一方で為久はアマデウス側に、水着とタスヒーンシールドを構えて並んだ。共鳴していないので、盾の暖房機能は使えないけれども。
「どうしてなの兄様っ!」
「寒い。理由はそれで十分だろう! それに、泳ぎたいんじゃなくて目的は水着姿だろう?」
「くっ……! だってセクシーな美少女は見たいじゃん! あなたもそう思うでしょう!? アマデウスさん!」
 晴久がアマデウスを見やる。
「いや別に……」
 この騎士、清廉である! とかく晴久が勝てば共鳴し泳ぐ、為久が勝てばそれを阻止という構図ができあがってしまった。晴久と為久にとっては負けられない戦いだ。
「戦闘モード発動! 標的、ヴィル! 寒さに震えろ!!」
 と、そこへ更なるチャレンジャー乱入。カイロパーカーを脱ぎ捨てたジーヤだ。
「おっしゃ全員かかって来いやァ!!」
 ヴィルヘルムが両手に水鉄砲を構えた。

 ――かくして、戦いの火蓋は切って落とされた。

 最初こそ水鉄砲バトルだった。だが次第に、特にヴィルヘルムとジーヤは水鉄砲をかなぐり捨てての取っ組み合いのプロレス大会みたいになってきた。
 晴久、為久も真面目に水鉄砲をしていたのは序盤だけで、今はアマデウスと共に取っ組み合う二人をヤイヤイ応援している。
「オラー! ムーンサルトオラー!」
「なんのヴィル! 受けて立つ!」
 波打ち際でのぶつかり合いと、一際大きな波がダバーンしたのは直後。
「うぷ、大丈夫かヴィル……え……?」
 波が引けば、そこにはヴィルヘルムに馬乗り状態になったジーヤの姿。ジーヤは右手にふと柔らかいものを感じた。そういえばヴィルヘルム、男のつもりで接していたが、体は女の子なのである。
「……楽しそうですねぇ」
 まほらまの敬語(SSR)。突き刺さる冷たい視線と気温のダブルパンチにジーヤは生命力を削られて、震える声でこう言った。
「け……ケアレインプリーズ……」
 通りかかった仁菜がピキュールダーツをぶっ刺してくれました。

 水鉄砲バトルも一段落すれば、日暮仙寿(aa4519)と不知火あけび(aa4519hero001)が一同を手招いた。
 彼らはバーベキューセットでお餅を焼いては、皆に振舞っているのである。なお二月の海でも疑問を抱かずはしゃいでいるのは、あけびの影響とのことらしい。
「あけびさん仙寿さんありがとー!」
 晴久はありがたくお呼ばれされることにした。

「これ本当に美味いよな」
 仙寿のお気に入りは、以前アマデウスに教えて貰ったチーズ入りの砂糖醤油餅だ。それを頬張りつつも、会長と英雄達にも同じものを振舞う。
「ジャスティン、無理するなよ」
「ははは。でも楽しいからねぇ」
「ああ、そうそう――俺達、大学合格した。俺は法学部で、あけびは文学部」
 能力者や英雄に関する法整備は進んでないし、改善されつつあるものの差別もある。新たな脅威の発生や、別世界の来訪者と手を取り合う可能性もある。仙寿は、今の法を知り、少しでも世界を変える力が欲しかった。
 一方のあけびは、世界の思想や歴史、言語文化、行動科学を学ぶことで、そんな仙寿のサポートをしたいと思ったのだ。
 そう伝えられたジャスティンは、穏やかに目を細めて言葉を聴いていた。
「そうか、そうか。おめでとう仙寿君、あけび君。大学はゴールじゃないからね、ここからがスタートだ。応援しているよ」
「もちろん。……俺、いずれH.O.P.E.中枢で働きたいから」
 一族の暗殺業を止めさせ、表の名家剣術指南役の仕事と剣術道場のみ継ぎたい――そのことを仙寿はジャスティンに伝えた。それから、現当主である父親が「容易く逃げられはせんぞ」と託してくれたことも。
「……うちの中での反対は根強い。だけど、必ず成し遂げる」
「世界だって救えたんだ。君達ならきっとできるとも」
 餅を頬張って、ジャスティンは微笑んだ。
 と、そこへ晴久と為久が顔を出す。
「よかったらこっちのもどうぞなんだよ♪」
「会長もどうぞ。暖まりますよ」
 差し出したのは、持参した溶きこし餡に餅を入れたお汁粉だ。

 ほど近くではあけびが、マシュマロを焼きながらヴィルヘルムへ。
「ヴィル、お守り役に立った?」
「おうさ、お互いお疲れ様ってヤツだ!」
 焼きたてのマシュマロを食べながら彼はそう言う。「熱いから気を付けろよ」と、奇しくも仙寿とアマデウスの声が重なった。
「デザートにマシュマロ、焼いて食べましょぉ」
 まほらまはジーヤと共に、お汁粉に舌鼓を打っている。
 仙寿達の周囲には、絆で繋がったたくさんの友達が賑やかに楽しい時間を過ごしている。
「わ、餅チーズ美味しい!」
「ワサビ醤油と海苔もいけるぞ」
 晴久は勧められた餅を幸せそうに頬張り、為久はお面をずらして器用に食べている。それから彼はヴィルヘルムへ、
「慰安の企画をありがとう。ハルにも良い気晴らしになったよ」
「おう! どういたしましてッ」
 ところで晴久と為久の水鉄砲バトルの結果はどうなったのか。
 結論から言うと、共鳴はしないが一緒に泳ぐ、という折衷案になったそうな。

 さてさて、とこへ。
 会長の英雄二人に声をかけたのは龍哉と朝霞達だ。
「せっかく海に来たんだ。水鉄砲も良いが、水泳で競争と行かねぇか!」
「二人とも! なにを甘っちょろいことしてるんですかっ! さぁ、泳ぎますよ!」
 アマデウスの肩を龍哉が、ヴィルヘルムの肩を朝霞が、それぞれガッシと掴むのだった。ヴィルヘルムは「泳ぐ~!」とノリノリだが、アマデウスの方は眉間に更にシワを寄せて沈黙するのであった。地獄からの誘いじゃないか……。

 コースとしては、遠方の岩場を目印に往復コース。共鳴ナシ。早く着いた方の勝ち。勝っても負けても恨みっこなし。
「よく心臓を慣らしておいた方がいいぞ。共鳴もしていないからな。ガチで止まるかもしれん」
 ニクノイーサがガタガタしている朝霞に言う。「わわわわかってるわよ!」と朝霞はそろっと海水を自分の体にかける。
「冷たい!!」
「そりゃそうだ」
「ウラワンダーは屈しない!」
「そうかー」
「ここまできたんだもの。半端な真似はできないわ! 正義のヒーローとしてね! いくわよニック! いざ出航!!」
「がんばれよー」
 勢いよく海へ飛び込んでいった朝霞を手を振って見送り、「さて焚火焚火」とニクノイーサは踵を返すのであった。
 奇しくもヴァルトラウテもまた、寒中水泳はせずに焚火の準備をしていた。折角なのでニクノイーサと共に準備をする。
「鍛えるのは良いですけれど、程度はあるべきと思いますわ」
 だって二月だ。なにをどう根性論を持ってきても気温は一桁だ。どうして夏まで待てなかったのか、せめて温かい場所に向かうとかあったんじゃないか――などなど思いつつ、火をおこしたら湯を沸かして、湯たんぽを作っておく。瑠歌からカイロは幾つか貰ったけれど、温まれる手段は多い方がいいだろう。
 ついでに紅茶も淹れて、ニクノイーサと共に優雅なティータイムを過ごしながら、相棒達の帰りを待つことにしよう――遠巻きの水面、龍哉と朝霞とヴィルヘルム、そして巻き込まれたアマデウスがせっせと泳いでいる姿が見える。

 朝霞は頑張って泳いだ。このクッソ寒い中、水着姿で頑張った。動けば温かくなると思っていた時代もありました。大自然は強かった。もう途中から“早く着いた方の勝ち”とかもどうでも良くなってきた。ヴィルヘルムは途中で黙々と泳ぐことに飽きてコースアウトして、水着ギャルに声を駆けに行った。自由かアイツ。アマデウスもこれ幸いとヴィルヘルムをとっ捕まえに行った。ズルイぞアイツ。
 そんなこんなありまして、真面目に泳ぎ切った朝霞は、ゾンビめいた足取りで砂浜に戻って来た。
「無理無理無理無理! 寒い……」
 震えが止まらなさすぎる。生命のヤバみを感じる。
「朝霞はよくがんばったさ。ほら、こっちにきて温まれ」
 ニクノイーサが焚火の傍で手招きする。朝霞は最後の力を振り絞って火の傍にしゃがんだ。英雄がタオルをかけてくれる。
「ほら、温かいコーヒーだ。温まるぞ」
「あああありがとう、ニック」
 朝霞は温かいマグカップを両手で包む。今はとにかく、体が温度を求めていた。

 一方で龍哉は先に泳ぎ切っていたようで、一足先にヴァルトラウテが淹れた紅茶を飲んでいた。
「おー、生き返る。さすがに寒かったぜ」
 苦笑した。ヴァルトラウテは「よくやりますね」と肩を竦めた。

 朝霞もある程度、暖を取って復活すれば、折角だしと用意していたバーベキュー用の材料を取り出した。
「まあ、楽しんでいきますか。寒いけど……お肉食べて帰ろう……」
「野菜も食べておけよ?」
 見やれば、他の面子もなにやら食べ物関連で盛り上がっているようだ。あっちに混ざると楽しそうだと、朝霞とニクノイーサは賑やかな声へと向かう。



●海だ! 07
 善知鳥(aa4840hero002)は仰向けに、水面を漂っていた。見えるのは青い空、気に病むのはナイチンゲール(aa4840)の目のことだ。本来ならば自分達が引き受けるモノだった。たとえナイチンゲール自身の業であったとしても。
(なのにあの子は……)
 いっそ嬉しそうなほどで。

「さむ」
 そんなナイチンゲールは、瑠歌の隣で震えていた。流石にヴィルヘルム達と水鉄砲遊びする気も起きない、というかそもそもよく見えないし。貰ったカイロを握り締めつつ――ふと。
「人に頼れるのって、なんて」
 素敵なことなんだろう。そう呟いた。瑠歌が顔を上げたので「なんでもないです」と微笑んだ。
「ありがとう。……ん、暖かいですね」
「体に障りますよ。せめて火など熾されては」
 と、そこへ合流したのは呆れ顔の善知鳥だ。そのまま相棒の手を取り共鳴すれば。三つ編みのツインテールにエスニックビキニの水着姿に。
 そのまま、流木を集めて未知なる掌によって火を着ける。「温まってね」と瑠歌を始め凍える者にそう告げると、彼女はそのまま波打ち際へ――その体は重力から解き放たれ、水面に浮き沈み、冷たい海のまにまに漂う。
(私は……)
 とても小さくて。無力で。独りじゃ何もできないけど。
 だから誰かを頼ることができる。
(私も、誰かを支えて、また支えられて生きていく……)
 王が大きすぎて出来なかったことを、出会った全ての絆と共に。
「――……」
 深呼吸をした。ゆっくりと目を閉じて、開く。青い空だ。ナイチンゲールは今、ここにいる。
「……ね、王様。きっとここが、私達が、あなたの理想の――」

 遠くから、賑やかな声が聞こえる。日常の証明、平和の謳歌、掴み取った明日。

「善知鳥」
『はい』
「ごめんなさい。でも、本当にありがとう。……これからも、三人で」
 幻想蝶をそっと握り締める。二人分の笑む声が聞こえた。
『もう。当たり前でしょう?』
 絆を介して聞こえる声。うん、と頷いた。それから浅瀬に向かい、共鳴を解除する――そうすればナイチンゲールの目はボヤけたものになってしまう。それでも確かに感じ取れるのだ。皆の笑顔が、魂の煌きが。友人達の楽し気な姿に、その声に、ナイチンゲールは眩し気に目を細めるのだ。


 さて極寒。温かい場所が必要だと考えたのは一人じゃなかった。ジーヤと遊夜と仁菜達である。
 幻想蝶対応済フィンランド式プレハブサウナに、キャンプ用テント。仁菜達は温かいお茶やタオルも用意した。遊夜達はサウナに水筒も完備した。
「サウナ後のクールダウンとして海に入る、という所もあるらしいぜ?」
「……ん、水風呂の……代わり」
 こういう場合は動かない方が寒いだろうと、遊夜とユフォアリーヤはそう頷いた。自分の為の逃げ道でもある。寒さでヤバそうな会長や瑠歌を誘う。
「せっかく設置したしな、存分に堪能してくれ」
「……ん、頑張ったの……一緒に入ろう?」
 もちろん他の者達への声かけも忘れない。暖を求めている者は自ずと集まって来るだろう。海遊びに来たんだか何しに来たんだか分からなくなってくるが、そもそも二月の海の時点でちょっと意味不明なので良しとする。ヨシ!
 とにかく遊夜は泳ぎたくなかった。泳がないことに命懸けと言ってもいい。いやこんな気温で海に入るのはガチで命とりなのであながち間違ってない。
 ので、二人はサウナの設置が終わるや、続いてバーベキューの準備を始める。一斉に作れるようにという名目でキャンプファイヤー焚火も設置する。コンロやらも持ってきた。
「うむ、海に入らず寒さを凌ぐ良い口実だな」
 せっせと動いていれば「泳ごう」だの誘われまいて。遊夜はお湯を沸かして湯たんぽを作ってあげながら小声で呟いた。が、ユフォアリーヤの耳にはバッチリ届いていたようで。
「……ん、我ながら良い案……ボクとしては、遊んでも良かったけど」
「ははは……冬場の水遊びは、温水プールで勘弁しておくれ……もしくは銭湯でも?」
「……ん、いいね……」

 バルタサールとレディXは、当然のようにそのサウナのお世話になっていた。
「フィンランド式プレハブサウナだって~、すごい準備いいのねえ。ちょっと拝借♪」
 しかもその両手にチャッカリと、「バーベキュー? 混ぜて混ぜて~!」と混ざって得た串焼き肉に缶ビール。なおバルタサールの分はない。
(相変わらず、虫のいいやつだな……)
 お汁粉をゆっくり食べながら溜息を吐くバルタサール。バーベキュ―の所へ行く時に、レディXが「変なおっさんもいるけど、ごめんね!」と言っていたことを忘れていない。
 そんなレディXは、今はサウナに入って来た他のエージェントと楽しそうに会話に興じている。かと思えば「熱くなってきた~!」と水風呂代わりに海に行ったり。とにかく自由だ。自由過ぎる。
 まあ好きにするといいさとバルタサールはサウナでお汁粉の餅をかじっていた。その時である。
「ちょっとバルちゃん、お餅のどに詰まらせないでよ!」
「……」
 にゅっと戻って来たレディXにいきなりそう言われて、本当に餅を詰まらせかけた。


「二月の海でよくまぁここまで……」
「最終決戦の反動かな?」
 リオンと仁菜は共鳴を解除し、焚火の傍で一休みをしていた。一応、皆がぶっ倒れたりしないようにと見回りをしていたのだ。今はサウナやらができたので、そこまで心配する必要はないようである。
 びゅう、と冷たい風に仁菜は肩をすくませる。それから改めて、賑やかで平和な風景を見渡した。皆、笑っている。
(……厳しい戦いを乗り越えた後だもの。色んな消化しきれない思いを、爆発させたいのかも)
 仁菜はそんなことを思った。
「たくさん失って、悔しい思いも苦しい思いもいっぱいして……終わったって言われても実感わかないよね。」
 だから皆、はしゃいでスッキリしたいのだろう。空はそんな思いを促すような、澄み切った青色だ。はしゃいた後のケアはメディックの仕事、皆がいっぱい楽しめますように。
(……皆、か)
 ふと視線を巡らせる。皆の中には親友もいる。波打ち際にその姿を認めた。親友の表情は穏やかで――良かった、と仁菜は思い、ジロジロ見るのも悪いだろうと視線を戻すのであった。
「んしょ、っと」
 それから、仁菜はゆっくりと立ち上がる。伸びを一つ。振り返った先には、仙寿達が餅を食べている姿がある。
「リオンもお餅食べに行こ!」
「ん……そうだな。行こうか」
 英雄は穏やかに笑んで立ち上がった。香ばしいにおいと、友の笑顔が二人を誘っている。
 振舞われたのは砂糖醤油餅だった。気の知れた友達と一緒に食べるごはんほど美味しくてあったかいものはない。「美味しいです!」と仁菜ははしゃぎながら――
(ああ、……やっと帰ってきたなぁ)
 胸に灯る温かさと、着地したような安堵感と。
 終わったんだ。永い戦いが。
 でも、始まりでもあるんだ。
 ここからは自由、どこにだって行ける、なんだってできる。
 明日は何が起きるのか。そんなワクワク感すらも、今は心から愛おしくて。


 さてさて。
 今日というエージェントの休日を、振澤 望華(aa3689)はハンディカメラで撮影していた。もちろん、ちゃんと事前に会長へ(水鉄砲を片手に)事情を説明して許可を得たし、撮影されることを良く思わない者については映さないようにもした。
 今回も“前回”同様、「フランクなセルフCGW作戦もどき」の為である。

「ハーイ! やっほー! ミンナ元気ー? 私は今、H.O.P.E.のおしごと☆ で海に来てるよー☆」
 自撮りアングルで、バンドゥビキニにパレオ姿の望華が微笑んだ。ちなみに言語は英語である。
「……いや、寒いわ! すっごく寒い!! なんと、二月の日本の海でーーす! ひゅう!」
 リポーターめいて温度計をカメラに映しつつ、望華の言葉は続く。「英雄とも一緒でーす☆」と、仲間から振舞われたお汁粉を食べるサーフパンツ姿の唐棣(aa3689hero001)の姿が映る。
「とりあえず! 脅威の親玉はいなくなったね! ミンナもありがとー! まだ残党はいるけれども、それをどうにかするのが私たちのお仕事! 引き続き協力よろしくね!
 協力といっても簡単! がんばってるエージェントを見かけたらがんばれーって心の中でもいいから応援してあげて。それだけで私たちはがんばれちゃうんだから!
 ぱちん、と乙女は愛らしくウインクして見せる。
「あ! ヴィルヘルム君! ねぇ! 寒いんだけど!!?」
 直後に声を震わせ、カメラを砂浜に置くと、望華は花火を発射しながらヴィルヘルムへと駆け出した。「どわー!?」というヴィルヘルムの声と、きゃっきゃと笑う望華の声は、フレーム外でも響いていた。
 そして定点カメラになった撮影機材に、唐棣が手を伸ばして――微笑んで、撮影終了。

「素敵な映像ですね」
 ノートパソコンに映る“完成品”を望華の傍から覗き込みつつ、瑠歌が言った。それから、
「あの、振澤さん一つよろしいですか?」
「綾羽ちゃんどったの」
「私のこと、風よけにしてません?」
「してるかしてないかでいうと……してる!」
「ちょっとぉ!」
「あはははは、ごめんごめん。じゃ、サウナ行こっか!」



『了』

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 挑む者
    秋津 隼人aa0034
    人間|20才|男性|防御
  • ブラッドアルティメイタム
    aa0034hero001
    英雄|11才|男性|バト
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 生満ちる朝日を臨む
    真昼・O・ノッテaa0061hero002
    英雄|10才|女性|カオ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • 雨に唄えば
    烏兎姫aa0123hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 胃袋は宇宙
    メルトaa0941hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 暗夜の蛍火
    時鳥 蛍aa1371
    人間|13才|女性|生命
  • 希望を胸に
    グラナータaa1371hero001
    英雄|19才|?|ドレ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • リンクブレイブ!
    振澤 望華aa3689
    人間|22才|女性|命中
  • リンクブレイブ!
    唐棣aa3689hero001
    英雄|42才|男性|ジャ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • エターナル・ニクヤキマス
    Lady-Xaa4199hero002
    英雄|24才|女性|カオ
  • そうだよ、楽しくやるよ!
    春月aa4200
    人間|19才|女性|生命
  • 変わらない保護者
    レイオンaa4200hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • やさしさの光
    小宮 雅春aa4756
    人間|24才|男性|生命
  • 魔を破る鬼
    破魔鬼aa4756hero002
    英雄|6才|女性|ドレ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 明日に希望を
    善知鳥aa4840hero002
    英雄|20才|女性|ブラ
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • エージェント
    Bradleyaa4913hero002
    英雄|62才|男性|ブラ
  • 奪還屋
    琥烏堂 晴久aa5425
    人間|15才|?|命中
  • 思いは一つ
    琥烏堂 為久aa5425hero001
    英雄|18才|男性|ソフィ
  • 二月なので海に行った
    神塚 まもりaa5534
    人間|21才|男性|回避
  • 二月なので海に行った
    高森 なつきaa5534hero001
    英雄|18才|男性|カオ
  • 魔法マニア
    ルカ マーシュaa5713
    人間|19才|男性|防御
  • 自己責任こそ大人の証
    ヴィリジアン 橙aa5713hero001
    英雄|25才|男性|カオ
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