本部

H.O.P.E.オンリーイベントへの誘い

絢月滴

形態
ショートEX
難易度
易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
15人 / 4~15人
英雄
15人 / 0~15人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2019/02/11 19:57

掲示板

オープニング

●ようこそ、希望の楽園へ
 君はH.O.P.E.が好きだ。
 その想いで、君は【H.O.P.E.】というジャンルを確立させ、色々な人を巻き込んだ。同人誌即売会の一角を形成するまでになった。

 しかし――。
 君はそれで満足しなかった。

 どうせなら。
 どうせなら、【H.O.P.E.】しかない同人誌即売会を――!!



 そしてその夢は。




 案外、すぐに叶った。



●……デジャヴ?
 去年の年末もこんなことしてたような気がする。あの時は休暇で日本に帰っていて――今回はそうだ仕事で来たんだ。けどその仕事はすぐに終わってしまって――そしたら。
 大勢の人が行きかう某会議場で、西原 純(az0122)は頭を抱えた。ときたま、知人に似た格好をした人が通り過ぎる。純の傍らでは、浮島かざね(ペンネーム。本名は秘密)が、ふふん、と鼻歌まじりで段ボールを開けていた。
「いやー今回も助かるよ純くん! あ、その鞄の中からテーブルクロス出して!」
「何で俺がこんなことを……。……これ、去年も言ったな」
 はあああああと純は長い溜息をついた。とりあえずかざねに言われるまま、テーブルクロスを取り出し、机の上に敷いた。あとはどうせ値札だせとか、お釣り用意しろとか言われるんだろ。純がそう思った次の瞬間、かざねが純くんお釣りーと言った。こんな予想は当たって欲しくないと、純はうなだれる。
「……それにしても」
 純は背後に積まれた段ボールの山を見た。
「今回は随分沢山作ったんだな。おっかけ記録」
 純の発言に、かざねが指を振る。
「今回はねー……本じゃないんだなぁ」
「は?」
「今回はこれを作りましたー!!」
 どん! と効果音が付きそうな勢いで、かざねは純の目の前に”それ”を突き出した。
「なんだこれ……『リンブレ+カレシ theゲーム』?」
「そう! ほら、純くんも知ってるでしょ? この前のイベントで大人気だったアンソロジー『リンブレ+カレシ』!」
「……あー……」
 純は頭を掻いた。
 リンブレ+カレシ。
 それは――読み手がヒロインになってエージェントと恋愛をする系のアンソロジー。
 この前の年末イベントでも、エージェント達の間で大分話題になって、皆大変楽しんだらしい。あれにお前も書いてたのかと、純はげんなりした。登場していたエージェントの中には知り合いも居る。知り合いについてのあれやこれやの妄想を幼馴染がしていたなんて……。
「それを今回はゲームにしましたーーーー!! えへへ」
「えへへじゃねえ!」
「ちなみに音楽はケイくんが作ってくれました!」
「お前、世界ツアーで忙しいあいつに何させてんだ!」
「えー? ”アルバム制作の息抜き丁度いい”ってケイくん言ってたよ?」
「あー確かにアルバム制作は”売れる”ってことを意識し……ってそういう問題じゃないだろ!」
 はーはー、と純は肩を上下させた。そんな純に、かざねはそれにね、と”いい笑顔”で言葉を重ねる。
「今回はおまけでね、こういった本も作ってみました!」
「あ?」
 純はその本のタイトルを、見た。




――”リンブレ+カノジョ”――。


解説

H.O.P.E.オンリーイベント(同人誌即売会)に参加しましょう。
注意事項は以下の通りです。


・可能なこと→サークル参加/一般参加(どちらもコスプレ可)
・サークル参加の場合、頒布できるものはカップリング本、日常をネタにしたギャグ本、エージェントをモチーフにしたゲーム。自分の写真集。自作の歌。などなど。今回はハンドメイド品(例えば、エージェントをモチーフにしたアクセサリーなど)もOKです。
・年齢指定の本も頒布は可能です。が、中身の描写はしません。
・プレイングに指定してくれれば、壁サークルになることも可能です。
・修羅場プレイング/打ち上げプレイングを提出していただければ、その描写も入ります。
・サークル参加/一般参加、どちらも10000G戴きます。
・『リンブレ+カレシ theゲーム』にご参加希望の方は、選択肢のご用意もお願いします。
(例:彼と何を作る? A:ハンバーグ B:肉じゃが)
・『リンブレ+カレシ theゲーム』プレイご希望の方は、「誰」の「どちらの選択肢を選ぶか」の明記をお願いいたします。
・「これはどうなの?」というものがあれば純が回答します。



※※※なお、自分以外をネタにする場合は、きちんと相手に許可をとって下さい※※※
※※※許可のやり取りはMSに見えるよう、掲示板でお願いします※※※
※※※今回NPC使用許可は頂いておりません。NPCをネタにするのはお止め下さい※※※

リプレイ

●設営
 すごい熱気だ、と東海林聖(aa0203)は思った。誰も彼もが明確な欲望を抱いていることが良く分かる。けれどその欲望はとても心地いい。ちなみに今居るのは今回サークルで参加する藤咲 仁菜(aa3237)のスペースだ。
「いやぁ、噂には知ってたけど。来てみるとスゲェモンだな」
『……お腹空いた』
 大人状態のLe..(aa0203hero001)が呟く。その視線の先には、キッチンカーがあった。午前中から夕方にかけてのイベントだ。空腹を満たすものがあるのは当然と言えば当然かもしれない。
「東海林さん、リオン!」
 仁菜は二人に頑張って作ったコスプレ用衣装を渡した。その出来栄えに、聖はおお、と感嘆の声を出し、リオン クロフォード(aa3237hero001)はその衣装と仁菜の顔を交互に見て。
『……ずっと戦場にいたのによく作れたね?』
 そんなリオンの言葉に仁菜は胸を張る。
「ふふふ、生命適正は生命力が豊富だから……! 私5徹まではいけるって分かったよ!」
 ぐ! と仁菜は笑顔で親指を立てた。いわゆる”いいね!”のジェスチャー。対照的にリオンは慌てる。
『趣味で命削らないでっ?』
「よーし着替えてこようぜ、リオン!」
『あ、ああ……』



「……あの~、稲荷姫様?」
 天城 初春(aa5268)は慎重に慎重を重ねつつ、口を開いた。今回はサークル”真月稲荷神社出張所”として参加し、お守りなどを頒布する――というのは聞いていたのだけれど――頑丈な重しに繋がれた鎖付き首輪で拘束される――なんていうのは効いていない。
「これはどういう事なんじゃろうか?」
 問いかける初春に辰宮 稲荷姫(aa5268hero002)は目を細めて答える。
『前回下らん企てをしたのは誰じゃったかの?』
 ぎく。初春の肩が震える。
『おとなしくサークル販売に精を出さんか』
「そんな! この催しの目的の8割が!」
 じたばた、と初春が暴れる。
『やっぱり企んどったか! お主は祖父のあの爺に影響されすぎじゃろ!』
「艶本~艶本~欲しいのじゃー!」
『齢を考えんか齢を!』



●イベント開始
「今回、は……リオン達が、サークルで出てる、んだよね……」
 サークルマップを確認する木陰 黎夜(aa0061)に対して、アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)は頷いた。
「あとで差し入れに、行く……でもその前に……」
 黎夜は年齢制限の本を避けて、アーテルの本を購入した。自分とアーテルが表紙を飾る本はなんとなく、恥ずかしい。アーテルは”リンブレ+カノジョ”を手に取った。ぱらぱらと中を見る。
(黎夜が出ている。……買おう)
「アーテル」
『どうした?』
「あれ……この前の”リンブレ+カレシ”がゲームに、なってる……」
 黎夜はパッケージを手にした。描かれているイラストを見て、アーテルが出ていることに気づく。
『買っていくか?』
「うん。……でも」
 黎夜は顔をしかめた。
「プレイは……受験、終わってから……」
(本気で悔しがってるな)



『さぁ、マスター。戦争ですよ』
 キラリ、眼鏡を光らせて凛道(aa0068hero002)が言う。その気合の入れように木霊・C・リュカ(aa0068)は己の相棒の恰好がなんとなく想像できた。戦利品を入れるキャリーカート。すぐにお金及び年齢が確認できるものを取り出すことができようにとがま口のポーチ(もちろんショルダー形式)。差し入れを恙なく渡せるようにトートバックもおそらく右肩か左肩に。
「……誰も本人だと気づかないくらいに擬態できてるんだろうね」
『では、マスター。行きましょう』
 凛道はリュカをシャッター前壁サークルへと導いた。既に、長い行列ができている。ん? と若干戸惑っているリュカに凛道はメモとお金と差し入れを渡す。
『ここのサークルに並んで居たら、他が売り切れてしまうかもしれませんので。いえ、大丈夫です。欲しいものはそのメモに書いてありますから。はい、売り子さんに渡していただくだけで大丈夫です』
「凛道?」
『ではマスター、後程!』
 しゅたっ、と凛道は素早くその場を離れる。大手サークルの本も欲しいが、もちろんお誕生日席のサークルも、島中のサークルの本だって欲しい。サークルマップを手に、凛道は己の”夢”に向かって走る。
『いつも●●たんの萌える同人誌をありがとうございます!』
「ありがとうございますー! あ、作家今買い物中なんで、伝えておきますね!」
『はい、お願いします。これ差し入れです』
 戦利品を大事に抱え、次のサークルへ。新刊二冊、華麗にゲット。
『読むたび生きる元気が生まれます』
「あ……ありがとうござい、ます」
『差し入れです。これからも応援しています!』



 紫 征四郎(aa0076)は時鳥 蛍(aa1371)、シルフィード=キサナドゥ(aa1371hero002)と共に、イベント会場に居た。今回ももちろん、準備万端だ。小銭は5千円ほど。大きめの鞄でいざ出陣!
「さあ、行きますよお!」
《すごい熱気……なんだかわくわくしてきましたわ!》
「そのわくわくはとても大切なものなのです! 期待の作品はすぐ売り切れてしまいますよ!」
 征四郎にひきずられたのか目を輝かせているシルフィードを見て、蛍は強いですね……と感想を抱く。一方で少し戸惑っていた。年末に参加したイベントに比べれば規模は縮小されているはず……なのに。
(……これは濃縮されている?)
「蛍、行きましょう!」
『あ……は、はい』
 三人は足を進める。お目当てのサークルを見つけ、征四郎が早速新刊を購入する。売り子さんが征四郎ちゃんだーと頬を緩ませた。どういった内容なのか、征四郎の手元をシルフィードが覗き込む。
《綺麗ですわね》
「そうなのです! このサークルさんは絵もストーリーも大変綺麗でおすすめです! あ、これ差し入れです!」
 征四郎はチロルチョコを差し出した。好奇心を更に刺激されたのか、シルフィードが辺りを見渡す。自分や蛍が表紙を飾っている日常本を見つけて、思わず手に取った。蛍もその本を手に取る。自分がこんなに可愛らしく描かれていて、照れてしまう。
《あら、あれは何ですの?》
 シルフィードの視線を蛍は追う。そこにあったのは肌色が多めのシルフィードと自分――。
 蛍はシルフィードのスカートを掴んだ。
《蛍? どうしましたの?》
「征四郎が、征四郎が向こうの、アクセサリーエリアに行くみたいだから」
《あら、そうですの》



 H.O.P.E.のオンリーイベントがある、と聞いてマイヤ サーア(aa1445hero001)は
『前回どういう催しなのか理解したわ』
 と言って笑い、そんな彼女に対して迫間 央(aa1445)が
「凄い行く気になってる……」
 と呟いたのが二日ほど前のこと。
 ちょうど依頼もないし……と二人、特にコスプレもせずに会場に足を踏み入れた。この前判明した”シャドルカ組エリア”には行かず、他のエージェントの本やアクセサリーを見て回る。と、一冊の本に央が気づいた。タイトルは”リンブレ+カノジョ”――。マイヤもその本に気づいた。二人、そのサークルの前に行き恐る恐る手を取る。中を見た。
「……結構知ってる人出てるな……」
『あら、これあけびちゃんかしら? 違う視点から見るとこんな感じなのかしらね』
 ほう、とマイヤは息を吐きだす。一冊下さい、と購入した。
『他のエージェント達の事情を見れるようで面白いわ。活動頑張ってね』
「は、はい……ありがとうございます!」
 別のところに行きましょう、と央とマイヤはその場を去った。二人が立ち去った後、にわかにその近辺がざわつく。
「ねぇ、今の、今の! 本物の! 本物の迫間央とマイヤ・サーアだったよね! ね!」
「うわあああああ眼福ぅぅぅぅ今日参加して良かったあああああああっ」
「マイヤさんの情報少なすぎて書けなかったんだよぉぉぉぉ! すごい美人だった!」
「次はマイヤさん本出す!」
 その騒ぎがもちろん当人たちに届くことはなく。
 央とマイヤは少し離れたところでこんなことをお互いに考えていた。
(マイヤが出てなくてよかった)
(私が出てなくて、良かった)
 央以外に、靡く姿なんて、見せたくないもの。



 リボンとレース大盛りのきゃわいい衣装。そう今日のあたしは、にじゅっさーい♪ きらりん、と効果音を脳内でつけながら風深 櫻子(aa1704)はコスプレエリアで撮影に応じていた。写真を撮られるのは気分がいい。それ、あのアイドルゲームの衣装ですよね! すごいクオリティです! と褒められて更に胸を張る。
(さて、写真もいいけど――やっぱり本も買わなきゃね♪)
 即売会エリアに櫻子は足を踏み入れる。チェックしていたサークル――いや、櫻子の場合はエリアと言った方がいいのか――へと突撃する。これ下さーい♪ ああ! これ、このカップリング、待ってました! いつも読んでまーす、新刊一冊くださーい! そうして一通り回った櫻子のトートバックはパンパンに膨れていた。
「お姉様に手ほどきされる美少女……尊い……。あ、あの本も良さそう!」
 再び櫻子は買い物を始める。
 その頃、櫻子の相棒たるシンシア リリエンソール(aa1704hero001)は会場の入り口に居た。
『H.O.P.E.の仕事だと言って家を出ていったかと思ったら……』
 愚神や従魔が居る気配は皆無。サクラめ、遊び呆けているのだな……!
『許さん。連れ戻して成敗してくれる』
 眉間に皺を寄せながら、シンシアは会場へ突入する。そんな彼女の目に飛び込んできたのはきわどい恰好をした絵が表紙の本、本、本――。
『な、なんだここは……何故あんな破廉恥な絵が売られている?』
 訳が分からず、シンシアは本をなるべく見ないようにして櫻子を探した。知らずの内にコスプレエリアへと入ってしまう。当然そこに居る人達はシンシアをコスプレイヤーと思って。
「すいません、写真とらせて下さい!」
「あ、あのこっちにも目線! お願いしまーす!」
 わらわらと近寄ってくる人達にシンシアはただただ困惑する。
『お、お前たち……何故私にカメラを向ける……? ま、待て、お前っ』
 ローアングルで撮影しようとしている女性をシンシアは制止する。恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしすぎる。
『やめろ、そんなところを写すな……! くっ、殺せっ!』

 刹那。
 空気が、止まった。
 ――そして、歓声。

「うおおおおおおおお、こ、これほどに真に迫った”くっ殺”……!」
「も、もう一回お願い、します! あの動画で、動画で、ください!」
『いい加減離れろ……!』



『今日も女装すれば良かったのにねぇ』
「今日は、しない!」
『もったいないわぁ』
 フードを目深に被ったGーYA(aa2289)と”ゴスロリ戦隊ブルーローズ”のフリフリ衣装(黒)を纏ったまほらま(aa2289hero001)は会場内を歩いていた。前回のことがあったから、今回は絶対に身バレしない、とGーYAは思っていた。が、GーYA関連の本を出している人からすれば、バレバレなのであった。今日もまた、前みたいなハプニング起きないかしら……そんなひそひそ話がまほらまの耳に入ってくる。それにちょっとだけ笑いつつ、まほらまは”教科書代わり”となる本を探していた。最近、まほらまはGーYAに”甘えて”いた。甘え方が分からないからと、前回買った本を参考にしつつ、絶賛実行中。けれどそろそろネタぎれ――。
『あらぁ、これは……?』
 目に光がなく、恍惚の表情でGーYAを見つめる自分が描かれた本をまほらまは手にする。



---
『ねぇ、GーYA……あたし、気づいたの……』
 くすり、まほらまは笑う。……否、嗤う。その表情にGーYAは寒気を感じた。
「ま……まほらま?」
『GーYAをずっと……ずぅっとあたしのものにするにはどうしたらいいのかしらって……ずっと考えてたの……でもね、とっても簡単な事だったの……』
 まほらまはGーYAの首に手をかけた。ぐ、と力を込める。GーYAが咳き込む。どくん、どくんと、薄い皮膚の下。脈打つ頸動脈。ああ、これを今感じているのはあたしだけ――GーYAの茶色の瞳にあたししか映っていない――ああ、全部、あたしのもの――ねえ、GーYA――。
---



『ストップ!』
 まほらまの手から、誰かが本を取り上げた。え、と声を上げてまほらまは顔を上げる。そこに居たのは不知火あけび(aa4519hero001)だった。日暮仙寿(aa4519)も近くに居る。
『……あけび』
『駄目だよヤンデレ本なんか読んじゃ! ……あ、でも私は好きなので、はい、この本下さい』
『ヤンデレ……?』
「あけび、専門用語をまほらまに教えるのは止めろ」
 仙寿は肩をすくめた。仙寿とあけびの姿を見た人々が口を開く。シャドルカ組だ……いや、仙寿×あけびだ……よし次の新刊は決まった……!
「あの……日暮さん」
 GーYAが仙寿に話かけた。
「どうした」
「最近、まほらまが変で……耳元で囁いてきたり、膝枕してくれたり、上目遣いにおねだりしてきたり……もう心臓が止まりそうで。どうしたらいいのか分からなくなって、そっけない態度をとってしまって……」
「……なるほど、分かる。分かるぞ、ジーヤ」
「でも、どうしてまほらまがそういう態度を取るのかが分からないとなんかこう、地雷も踏みそうで……」
 GーYAが溜息をつく。これは後であけびを交えつつ、話を聞いてやらなければと仙寿は思った。
 せっかくだから、と四人は一緒に見て回ることにした。
『GーYA』
「何?」
『またヒグラシとの本があるわよぉ』
『ほんとだ。……ってあれ? 仙寿様が二人? ……共鳴前と共鳴後だ! それにジーヤが女の子になってる!』
「はぁ?」

---
 俺は泣きながら走っていた。どうしよう、とんでもなく酷いことを言ってしまった。心にもないことを言ってしまった。どうしよう、どうしよう。ひたすら自分に問いかけた。と、誰かにぶつかってしまう。ごめんなさい、と言って顔を上げた。そこには――。
「っ……日暮、さん」
《どうした、GーYA。何を泣いて……誰かに酷いことでもされたのか?》
 そう言って、日暮さんは俺の目元を拭ってくれた。
「……日暮、さんは……もし、俺が一緒に居てって言った、ら」
 ああ、俺は何を言ってるんだろう。困らせるだけじゃないか。一瞬の間。それでも日暮さんは笑って――。
《お前が望むのであれば、それは俺の望みでもある》
 ふわり、包まれる感覚。一番男女の体格差が分かる瞬間。GーYA、と名前を呼ばれる。優しい。優しい。でも、これじゃあ――俺の我儘を、押し付けてる、みたい。
「ごめん、なさ、い」
 とぎれとぎれに言って、俺は日暮さんの胸を押した。たった今来た道を走る。どう思われたんだろう。どう……。
「ジーヤ!」
 唐突に手首を掴まれた。振り返る。――仙寿くん。さっき、喧嘩した、のに。
「ジーヤ」
 また、名前を呼ばれた。掴まれた手首。少し力が籠められる。
「……悪かった」
「仙寿、くん」
「お前の事を考えると、どうしても自制がきかない。……なあ、ジーヤ。あいつじゃなくて、俺を見ろよ」
 引き寄せられる。
 抱きしめられる。
 近い。
 心臓が痛い。

 俺は……俺は、どっちを……。
---

「……なんか他にも色々とあるな。俺とあけびに……耿太郎との本も……一粒で二度おいしいって感じか……?」
「日暮さん納得しないで下さい!」
『一冊下さい!』
『あけび、読み終わったら貸してねぇ』
『はい♪』
「まほらまー!!」



 世良 霧人(aa3803)とクロード(aa3803hero001)は会場を包むすさまじい熱気に少々面食らっていた。
「……ジャンルがH.O.P.,Eだけって事は、いつも一緒に戦ったりしてる皆の同人誌だらけなのかここ」
『全部が全部その……、薄い本という物ではないのでしょう。ゲーム等もあるそうですので、そちらなら旦那様でも楽しめるかと』
 ゆらゆらとクロードは尻尾を揺らす。まあそうか……と霧人は納得した。が、ふと疑問が湧いた。
「クロード」
『はい、旦那様』
「……僕が登場する薄い本を発見したらどうする?」
 クロードは無言で視線を逸らした。直後、さあ行きましょうと歩き出す。その後ろに霧人は続いた。ちらりちらりと周りを見渡す。あ、あの人の。あ、あの二人の。知り合いが描かれている表紙を見つける度に、霧人は変に緊張してしまった。買う勇気は、ない。
『旦那様。ゲームがあるようです。買っていきましょう』
「……まあゲームならね……ん? ”リンブレ+カレシ the ゲーム?” ――クロード、君が出てるみたいだけど」
『な、なんですとっ?』



 行きかう人の波をファラン・ステラ(aa4220hero001)は不思議そうに眺めた。往来だったら分かる。が、ここは屋内だ。
『何だここは』
「自費出版本の即売会だ」
 波月 ラルフ(aa4220)は穏便な表現を使って答える。
「専務が美味い寿司奢るから買い物頼むと言うんで、お使い」
『何故専務は自分で買いに来ない。逆せくはらやぱわはらじゃないのか』
「専務もHELLコミの原稿で忙しいらしい。ま、寿司って報酬もあるんだから社会見学のつもりでいろ」
『よく分からんが納得しておく』
 少しだけ表情を柔らかくしたファランに、ラルフは表に出ないように安堵した。
(専務は同人に足突っ込んで40年、じゅねで絶賛活動中の現役貴腐人とか俺が説明に困る)
 とりあえず頼まれた本を買おう、とラルフはふぁらんを促す。書店委託していないサークルの全年齢のノーマル系を中心に買っていく。手際よく買っていくラルフを見て、ファランは口を開いた。
『行動に無駄がない。前にカノジョとでも来たのか』
「いや、専務に熱弁揮われた」
『そうか』
 ファランの目が、ほんの少しだけ輝く。
 それを見て、ラルフは可愛い、と思った。



「ここが……あの噂のイベントっすか……!」
 おお、と君島 耿太郎(aa4682)は感嘆の声を出した。このようなイベントについての存在は知っていたが、【H.O.P.E.オンリー】ということで興味を持った。もちろんマナーやルールは下調べ済み。
『郷に入りては郷に従え。素敵なものが見つかるといいな』
 アークトゥルス(aa4682hero001)が微笑む。何事も経験、と二人は会場へ足を踏み入れた。とりあえず自分たちを扱うエリアへと行ってみた。自分が描かれた本にアークトゥルスは嬉しくなる。
「王さん、楽しそうっすね。……なんか王さんがすっごい恰好してる絵もあるっすけど……」
『高名な騎士や王が肖像画や彫刻のモチーフになるようなものだろう?』
「……俺あんまり詳しくないっすけど……なんか微妙に違ってる気が……」
『そうか? それは難しいな……』
 そんな会話をしつつ、アークトゥルスは興味がわいた本を手に取る。普段に比べればカジュアルな恰好をしてきたから、本人だとばれないと若干自信があったのだけれど、どうやらそれは違ったらしい。ほ、本物……サイン下さいっ……! と求められ、アークトゥルスはもちろん応じた。ふと、視界の端に肌色多めの自分と耿太郎が描かれた本が入る。耿太郎も見てしまったのか、慌ててそっぽを向いた。アークトゥルスはこういうことを考える者もいるのだな、と思う。人はそれぞれ違うのだ、と。
「……あ」
 耿太郎は少し離れた場所のサークルに近づいた。そこは漫画というよりか、イラスト集を扱うサークルのようだった。
「この王さん、かっこいいっすね! 一冊下さいっす! あ! こっちも!」
 気に入った絵柄のイラスト集を耿太郎はどんどん買っていく。予算内に収まればいいな、とアークトゥルスは呟いた。



 わぁ、と仁菜は声を上げた。東海林とリオンが着替えて戻ってきたのだ。
「東海林さん似合います! かっこいいです!! まさに王道主人公!」
 5徹したかいがあった! と仁菜はガッツポーズ。一方のリオンはちょっとだけふてくされていた。
(……なんで東海林さんばかり……俺だって)
「ねえ見て、聖くんとリオンくん!」
 不意に辺りがざわつく。好奇の視線にさらされていることに、東海林とリオンは気づいた。
「まさに……まさに、聖×リオンっ……!」
「ああ! もっとくっついて欲しい!」
「いやそこは押し倒して!」
 どことなく荒い息遣いが聞こえる――が、リオンは聞こえなかった事にした。そんなリオンに対し、聖は彼の手首を掴んで。
「よーし、コスプレエリアに行こうぜ! こういう時の楽しみ方、色々教えてやるよ!」
『え、ちょ、待ってくれ、東海林さん……!』
 二人がスペースから離れていく。何人かが、その後を追いかける。
「よーし、じゃあ私ちょっとお買い物してこようかな。ルゥさん、売り子お願いします!」
『はい』
 先程キッチンカーで買ったケバブを食べつつ、Le..は返事をする。さて、と仁菜は一直線に例の”シャドルカ組”のエリアへと向かった。美麗な表紙に轢かれ、手に取ろうとする。が。
「それは仁菜ちゃんには見せられないよぉ!!」
 売り子のお姉さんに全力で止められた。表紙の【年齢指定】マークにあ、そうですねと納得した。
「えっと、どれなら買えますか?」
「これなら大丈夫。ほのぼの日常系だよ?」
「じゃあそれを一冊、お願いします!」



 お守りを購入した相手に、稲荷姫は深々とお辞儀をした。
『ありがとうの。これからもそなた等の進む道が幸多きものであらんことを』
 ふぅ、と稲荷姫は息を吐きだした。さっきから初春が大分静かだ。まだいじけているのだろうか。
『いい加減機嫌を直せ』
 そう言いつつ、稲荷姫は振り返った。
『後で甘酒買ってやるか……ら……』
 稲荷姫は動きを止めた。初春が居ない。代わりに居たのは段ボールとビニールを組み合わせた作られたダミー人形。もちろん初春につけたはずの鎖付き首輪も移植されている。
 ぶるぶるぶる――と稲荷姫は肩を震わせる。
『あんの馬鹿たれどこにいきおったーーーーーー!!!!!』
 ばきぃ! と稲荷姫はダミー人形を破壊する。
 その怒号を初春は離れた場所で聞いていた。愛用の扇子で口元を隠し、くくく、と笑う。
「あの程度で妾が諦めるわけがないでしょうに……甘いですの♪」
 では! と初春はトイレに駆け込んだ。イメージプロジェクターを起動。赤髪、金目に軍服コスプレの少女に変装。これならなんとか成人に見える。
「さて、艶本を集めに行くかの! まずはあの”シャドルカ組”の本からじゃな!」
 サークルマップを片手に初春は戦場へと繰り出す。宅配の手配もしなければいけないのだから素早く、確実に。……でないと。
「稲荷姫様に横槍を入れられてしまう。……お焚き上げされかねん!」



●ハンドメイドエリア
「わぁ、これ綺麗ですね」
 自分の幻想蝶であるアオイチモンジをモチーフに作られたイヤリングを征四郎は手に取った。まるでステンドグラスのようにキラキラと輝いている。それ、マニキュアとワイヤーで作ったんです。征四郎さんにそう言ってもらえてうれしいです、と作家さんが言う。彼女に微笑み返すと、また別のアクセサリーに目が留まる。白いレース糸で作られた大輪の花。その周りに赤と紫の小さな花が添えられたブローチ。
「あの、これは」
「それは時鳥蛍さんをイメージしました」
「ホタルを……。あの二つとも下さいです」
「はい、ありがとうございます」
 丁寧にラッピングされた二つのアクセサリーを受け取り、征四郎はハーバリウムを見ている蛍とシルフィードに近づいた。
「ホタル。……もしよかったら受け取って下さい」
 征四郎が差し出したのはアオイチモンジをモチーフにしたイヤリング。蛍はアクセサリーと征四郎を何度も見た。
「最初はこっちの……ホタルのをプレゼントしようと思ったのですが。ホタルには私のものを持っていて欲しいのです」
『……征四郎』
 震える手で蛍は征四郎からアクセサリーを受け取った。タブレットに文字を打ち込もうとして――止める。精一杯、口を開いた。
「あ……あり、が、とう。せいし、ろう」
「はい!」
《良かったですわね、蛍! ……あら?》
 シルフィードは彼らに――四つ葉のクローバーをモチーフに作られたブレスレットを購入している霧人とクロードに近づいた。いや、もっと正確に言えば、クロードに。シルフィードの視線に気づいたのか、クロードが顔を上げる。
『な……何でございましょうか?』
《……モフりたいですわ!》
『はい?』
 今何をおっしゃいました? とクロードはシルフィードに問おうとした。が、それよりも早く霧人に背中を押される。
「どうぞどうぞご自由に」
『だっ旦那様ーっ?』
《では、遠慮なく!》
「あ、征四郎も!」
『わ、私も……』
『皆様、ちょ、ちょっと、くすぐった、旦那様、お助けを……!』
 大声を出したせいか、スタッフが彼らに注意をする。その様子を離れたところでラルフは見ていた。
(まあ、気持ちは分かる……)
 頭を掻いて、ラルフはこっそりとファランの様子を伺った。彼女は物珍しそうに色々と見ている。その隙をついて、ラルフは蝶のアンクレットをペアで購入した。羽根の色は淡い紫、見方によってはピンク。そうマリアオーラを思わせる色。
「ファラン」
『何だ。……これは、アンクレット?』
「それなら目立たねぇだろ。たまの休日に突き合わせてんだから、このくらい受け取れよ」
『ま、まぁ、受け取ってやろう』
「ああそうだ。左足につけろよ?」
 そう言いつつ、ラルフは作家に目配せした。それで察してくれたのか、はい、と彼が笑う。
『左足? 何故だ?』
「利き足でない方が有事の際に良さそうだからな」
『そんなものか』
 ふむ、とファランが一つ頷く。そんな彼女を見ながら、にラルフは心の中だけで呟く。
(左足につける意味、ペアの意味。絶対教えてやらねぇ。……もし知ったら固まるだろうな)



「王さん……」
『どうした』
「予算が……」
 耿太郎の肩にはずっしりと中身が詰まったトートバッグがかけられていた。右はアークトゥルス関連の本。左は自分達含む、アクセサリーや雑貨。
「本当は、あのサークルも、このサークルも欲しいっす……このイベントがまさかこんなに購買意欲を刺激されるものだったとは……」
『同感だ』
 アークトゥルスは耿太郎のトートバッグの中から本を一冊取り出した。
『この装丁は素晴らしい。もちろん雑貨も。出来るだけ多く欲しくなる気持ちはよく分かる。……しかし前々から思っていたが、この国の民はやはり職人気質だな……』
「うう……でももう一周するっす……!」
『ああ、付き合おう』



●イベントも半ば
「ルゥ……東海林、は……?」
『ん、なんかコスプレエリアに……行った……』
 たこ焼きを食べつつ、Le..は黎夜に言った。黎夜は残念そうに眉根を寄せる。
『行ってみるか』
「うん……あ、これ差し入れ……よかったら……」
『……ありがとう。伝えて、おく』
「あ、木陰さんだ!」
 仁菜がスペースに戻ってきた。
「……あ、仁菜」
「来てくれたんですね、ありがとうございます! これ、木陰さんとアーテルさんをイメージして作ってみたんですよ。どうですか?」
 仁菜は頒布物であるゆるきゃら風ぬいぐるみを黎夜に示した。特徴が捉えられている作りに黎夜はもちろん、アーテルも嬉しくなった。即購入。黎夜とアーテルと入れ替わるように耿太郎とアークトゥルスがやってくる。
「仁菜ちゃん」
「君島さん、アークトゥルスさんも! 二人のぬいぐるみも作ったんですよ」
「うわー凄い可愛いっすね! 王さんはぬいぐるみでもかっこいいっす!」
『見事だ、仁菜嬢』
「そう言われると照れます」
 えへ、と仁菜は笑った。そこにまた別の声が響く。
『耿太郎!』
「あけびさん、仙寿さんも!」
『ねえ、見た? 仙寿様とジーヤ、耿太郎の高校生組でアイドルパロの本とかあったよ!』
「え、本当っすか?」
『買いに行くか。あけび嬢、そのサークルは何処だ?』
「王さんっ?」
 あけびに場所を聞き、そこに向かうアークトゥルスを耿太郎は追いかける。二人を見送りつつ、仙寿は口を開いた。
「仁菜達も来ていたのか。色々衝撃的案事もあると思うが楽しんで行けよ。そのぬいぐるみ、可愛いな」
「ありがとうございます! 徹夜したかいがありました!」
「……イベント終わったら、休めよ?」
「はい。あの、仙寿さんも迫間さんも、大人気なんですね」
「ん?」
「ほら、これ!」
 キラキラした笑顔で、仁菜は先程買った”シャドルカ組”の本を仙寿に示す。な……と仙寿は固まった。対照的にあけびは興味津々、と言った表情をした。



「あった……!」
 央はその本を手にした。自分と仙寿の本が多いなか、やっと見つけた”央×マイヤ”の本。本人を目の前にして驚いているのか、作家が硬直している。彼女が何かを言う前に央は本を開いた。

---
 マイヤ、と央の優しい声が聞こえる。私は幻想蝶の中から外に出た。目の前に央が居る。彼は窓の外を見ていた。その視線を追えば、教会が見える。聞こえてくるのは鐘の音。――誰かの結婚式かしら。そんなことを考えていると、ふとあることを思い出す。央、と名前を呼んだ。
『私、雑誌で見たの』
「何を?」
『最近の結婚式って、花婿が花嫁を横抱き(いわゆるお姫様だっこ)して、入場するんですって』
「それほんと?」
『ほんとう』
 小さく、私は笑う。央の目を真っすぐ見つめて。
『だから、練習しましょう?』
「マイヤっ?」
 央の首に私は勢いよく抱きつく。体重の全てを彼に預ければ、もちろん受け止めてくれる。戸惑いがちに、膝裏に回される手。顔と顔の距離はもはや零。微笑みあって、そして――。
---

『――――っ!!』
 音にならない声を上げて、マイヤは幻想蝶に戻った。その中でスペシャルズ・ペンギンドライヴを着込んだ。そしてすぐに外に出て、作家に対してひたすらペコペコし、スペースの中に入り込んでぎゅううううっと彼女をハグした。
「え、あ、あ、あの?」
 戸惑う作家に央が笑顔で言う。
「嬉しくてテンパってるみたいです」



●コスプレエリア
『すいませーん、ここで可愛いポーズをお願いしてもいいですかーっ?』
「はい、いいですよ!」
 凛道はコスプレイヤーの皆様に最大限の敬意を払いながら、カメラのシャッターを押しまくっていた。”萌え”の補給。素晴らしい。これでまだ戦える。そんなことを思っていると、視界にとある人物が入る。パーカー、ジーンズ。深くかぶった帽子、結んだ髪、マスクに眼鏡――あの人は、まさか。
『ユエさん』
 思い切って凛道はその人に声をかける。
『――何だ。貴様も来ておったのか、竜胆』
 眼鏡を少しだけずらし、ユエリャン・李(aa0076hero002)が笑う。
『はい、萌えを補給しに』
『そうなのか。……というか君、よく我輩だって分かったであるな……?』
 できれば誰にもバレたくなかった――とユエリャンは息を吐きだす。
『ユエさんは何を目的に?』
『兵器研究サークルがこのイベントに合わせ、急遽発行した”最新AGW個人研究論文”だ。あと』
 引いていたキャリカートを開け、ユエリャンは戦利品を凛道に示す。リンカーアニマルをメインにした分厚い漫画本。おお、と凛道は声を上げた。
『そっちの紙袋には何が?』
『ああ、フィギュアだ。気になったものは手に入れないと、な』
 ふ、とユエリャンは笑う。それは完全にこの場所に慣れた者の表情。
(マスターは何も言っていませんでしたが、もしかして年末のイベントにも来て居たんでしょうか? ……まあ、気にすることではないですね)
『ユエさん、荷物持ちますよ』
『そうか? 感謝する』



「聖くんかっこいー! こっち向いてー!」
「リオンくんも目線頂戴ー!」
 先程から止むことのない要求の声に、リオンは辟易していた。一緒に来た聖と言えば、ノリノリで彼女達の声援に応えている。どうしたらいいか分からずに居ると、聖が耳元で囁いてくる。こういう構えとか、ポージングとかがあってな、と。それに対して、また歓声が上がる。
「二人とも、見つけた……」
「お、木陰」
『木陰さん』
「写真、いい……?」
 おずおずとスマートフォンを構える黎夜に聖はああ、と元気よく答える。
「よーし背中合わせでポージングするぞ、リオン!」
『あ、ああ』
 勢いに押され、リオンは聖に言われるがままにポーズを取る。黎夜はありがと……と言って、スマートフォンで撮影した。
 もちろん、彼女以外にもたくさんの人が写真を撮ったのは、言うまでもない。



 やっと見つけた……! とシンシアは写真撮影に応じている櫻子に突撃した。わあ、とカメラを向けていた人が驚いてその場を立ち去る。あーごめんなさいーと櫻子はその背中に向けて叫んだ。
『見つけたぞサクラっ……!』
「……やべっ、なんでいるし」
『お前のせいで、私は……あ、あんな……あんな破廉恥なッ……!』
「え、何々? 写真とられたの? いいじゃんいいじゃーん!」
『良くない! しかも白昼堂々と何だ、その妙な恰好はッ!』
 びし! とシンシアは櫻子に指を突きつける。櫻子はふふん、と笑いながら答えた。
「これー? あたしと同じサクラちゃんって子が着てるのー。可愛いでしょー?」
『そんなことは訊いてない……っ!』
「いやー、用意するの大変だったんだわー。ミニスカ、しかも生足。この時期寒いったら」
 あはは、と笑う櫻子。シンシアの怒りのボルテージはますます上がる。
『そもそもお前はこんなサバトに何しに来てるんだ!』
「サバトとは失礼な。……ほれ」
 周りに居る未成年者に配慮しながら、櫻子は購入した年齢指定の本(もちろんばっちりあれなページ)をシンシアに見せつけた。瞬間、シンシアの耳が真っ赤に染まる。
『んなっ……!』
「んー? なーにまじまじ見てるのかなー?」
『み、見てない!』
「綺麗なお姉さまとか、興味あるのかしらー?」
『……そ、そんなわけないだろうっ!』
「あ、あのーすいません」
 言い合う二人に、カメラを持った女性が声をかける。
「あの、写真いいですか? アイドルと女騎士って組み合わせ、なかなか見ないので」
「もっちろーん♪ いいよいいよーさ、シンシア、ポーズポーズ♪」
『っ、こ、こんな屈辱的な……! 帰ったら覚えてろサクラっ……!』



●帰路
 目的のものも買ったし、とラルフとファランは会場の出口に向かっていた。ある本が目に入り、ファランは横を歩く彼に尋ねる。
『ラルフ、あの本に書いてる言葉は何て意味だ』
「(Je te veux…)”お前が欲しい”……って意味」
『そう、か』
 ラルフに見えないよう、ファランはぎゅっと拳を作り、そして解いた。本のタイトルに何を動揺しているのだろう。
「ファランには刺激が強ぇだろうなぁ」
(表紙は普通の女性向けだが大人じゃねぇと買えねぇロゴついてるし)
『小娘扱いするな』
「世の中知らなくていいこともあるって」
 そんな会話をしつつ、ラルフはファランを比較的刺激が弱そうな場所――逆に言えば、刺激強そうな幻想蝶の擬人化や幻想蝶そのもの同士の大人じゃないと買えない界隈を避けつつ――歩いた。
「央に会ったら、挨拶しようと思ってたんだけどな」
『戦場ですればいい』
「こういうとこでするから、意味があんだよ」



 宅配業者のお兄さんに段ボールを渡し、初春はふっふっふ……と笑った。
「さて、頑張って手に入れた物も手配を終えた。あとはどうするか、のっ?」
 唐突に頭を掴まれ、初春は嫌な予感がした。ゆっくりと……ほんとうにゆっくりと……振り返る。予想通り、目が血走った稲荷姫が居る。
『ようやく見つけたぞ糞餓鬼!』
「エ、エ~ト、人違いでは? 私は欧」
『匂いが誤魔化せてはおらんわ、戯け!』
 稲荷姫が初春に鉄拳を下そうとする。まずい、と初春は周りに助けを求めた。その声が聞こえたのか、何人かの人が一瞬だけ足を止め……たが、またすぐに歩き出す。
「そんなぁぁぁぁ殺生なー!」
『因果応報じゃ!』



●リンブレ+カレシ the ゲーム
(ユエリャンがアーテルと凛道を攻略!)
『まずはアーテル殿から』

【ふぅ、なんとかなったわね】
”動物園に出現した愚神を私はなんとか倒すことが出来た。これもアーテルさんのお陰だ”
【さて、この後は自由行動ね。――ねぇ、良かったら一緒に回らない?】
”はい、是非! えっと、何処に行こう?”
A:爬虫類の館 B:ふれあい広場

『ふむ、ふれあい広場とやらにしよう』

【ふれあい広場? いいわね、ぜひ行きましょう】
”アーテルさんが笑う。ふわふわした動物、好きみたい。良かった!”

『これは好感度が上昇したであろう。……さて、次は竜胆を』


”凛道くんと帰り道一緒になった。明日はデートの約束をしているせいかな。何だかいつもより凛道くんの隣に居る、ということに緊張する。”
【あ、あの】
”な……何、凛道くん”
【明日の、デート……行きたい所、ありますか?】
A:地下アイドルライブ B:お家でDVD鑑賞会 C:いかない

『迷うところであるな。……Bを選ぶとしよう』

【DVD鑑賞! いいですね! ちょうど新作が入ったんです。一緒に見ましょう!】
”大喜びする凛道くん。私まで、楽しくなった”

『どうやら、正解だったようだ』





(凛道がユエリャンを攻略! 隣にはユエリャンが居ます)
『なるほど、ヒロインの自宅隣に越してきた女装趣味のお兄さんですか……ほうほう、デザイナーなんですね……おや来ましたね選択肢!』

”ユエさんの素顔を見ちゃった!”
【来るなら事前に伝えろとあれほど言ったであろうに……】
A:素顔もかっこいいですよ! B:普段厚化粧なんですね……

『ここは、もちろんAでしょう!』
 ユエリャンの微笑みのスチルをゲットした!
『凄い、このユエさんのスチルかっこいいですねー!』
『流石竜胆。我輩のことをよく理解している』





(征四郎がリュカを攻略!)
「お、おお……こ、これは照れます、ねっ……あ、あっ、そ、そうなるの、ですか……! あ、選択肢……っ」

”リュカさんと夜の散歩中。いきなり、リュカさんが振り返った”
【今日は月が綺麗だね、なんて。嘘ついてみても良い?】
A:はい、とても綺麗ですね B:(…曇りで、見えてないのになぁ) C:何言ってんだこいつ
「こ、こここここれは……え、えっとA、で!」

【ふふ。お兄さんと同じ。……嬉しいよ】
”リュカさんの手が私の手を掴む。……指が、絡む。”

 ぷしゅううううう、と征四郎は顔から湯気が出そうな勢いで赤面した。





(シルフィードが全ルート制覇に挑戦中! 蛍、央、マイヤも隣に居ます)
《あら、央ルートですわね。選択肢は……》

”あーやっと仕事が終わった。疲れたから今日の夕食は外で食べよう。何処に食べに行こうかな”
A:高級イタリアン B:とんかつ専門店 C:牛丼屋

《これはどれを選べばよろしいのかしら? 多分、Aですわね! ……嘘、反応がよろしくないですわ!》
「シルフィ……」
 ぶるぶると震えているシルフィードを横目に、マイヤが央に尋ねる。
『オリジナルとしてはどれが正解かしら?』
「Aは気取りすぎて気疲れしそうだし、Cは落ち着いて食事とはいかないし……Bかなぁ」
『……とんかつ屋に着ていくドレスを見繕わないといけないかしら?』
「……マイヤ?」
 シルフィードが顔を上げる。
《……やりなおし! やりなおしですわ! スチル、でしたわよね。特別な絵のこと。コンプリートしなければ気がすみませんわ!》
「……攻略、手伝うね。シルフィ」
《蛍っ……感謝しますわっ》





(GーYAが仙寿とクロードを攻略! まほらまも隣に居ます)
「えーと、まずは日暮さん、と……」

”あ、仙寿さんの髪を結んでいた紐が……結い直すよ”
【悪いな】
A:丁寧に髪を梳かす B:金の結紐を褒める C:三つ編みにする
「C、かな」
『編みながら耳元に息吹きかけるのねぇ?』
「そんなことできないから!」

【……おい。何やってんだ? 人の髪で勝手に遊ぶなよ。全く……】
【ほら、気は済んだか? そろそろ行くぞ】

『あら、優しい。GーYA、今度実際にやってみたらどうかしらぁ?』
「絶対! やらない! あ、クロードさんだ」

”この愚神……なかなか手ごわいっ……まずい、攻撃だ! 私がそう思った次の瞬間、共鳴して人間の姿となったクロードさんがカバーリングしてくれていた”
【大丈夫ですか?】
”は、はい”
【敵の攻撃は私が受け止めますので、安心して戦って下さい】
”……はい!”
”そして私は愚神を倒すことが出来た。一息ついていると、共鳴を解除したクロードさんがやってきて”
【お疲れ様でございます、ジーヤ様。依頼が上手くいって一安心ですね】
”はい、クロードさんのお陰です”
【……後、つかぬことをお伺いするのですが……】
”はい?”
【……私には今の猫の姿と共鳴中の人間の姿があります。真の姿は人間の方なのですが、どちらの姿が皆様のイメージなのかと気になりまして……】
A:人間 B:猫 C:とりあえずモフらせて♪

「C一択!」
『きわどい所を攻めれたらいいのにねぇ』

【う、ちょ、く、くすぐったいでございますジーヤ様!】

「このスチル、気合が入ってる……」
『愛を感じるわねぇ。……ねぇGーYA。そろそろ帰りに買ったケーキ、食べたい』
 まほらまが上目遣いでGーYAを見る。その姿に、GーYAは彼女が”いちごのが食べたい、あとねチョコとマロンと”と言った事、その時彼女を”可愛い”と思った自分の感情も思い出して。
「う、うん。食べようか」





(仁菜が聖と仙寿を攻略! 隣にはリオンも居ます)
「まずは東海林さん。選択肢はっと」

”やっと今日、全部の授業が終わった。ルゥ先生からまた宿題が出た。量はないけど、それなりに大変なんだよね。テストも近いし……”
【なあ】
”なに、東海林くん”
【バスケしに行こうぜ!】
A:バスケに付き合う B:勉強しろ

「Aかなー」

【お前ならそう言ってくれると思ったぜ! 1:1な!】
”そうして、私は東海林くんとバスケを楽しんだ。いい汗かいた!”
【やっぱお前とのプレイは最高に楽しめるな!】
”東海林くんが笑う。その笑顔、素敵だな”

「いつもの東海林さんだー。いいなー。あ、次は仙寿さん! 髪がほどけちゃったのか……Cで! うわあ、優しい! これはあけびさんに向ける顔だね!」
『……なあ、仁菜』
「何?」
『俺のはやらないの? ……そりゃあ東海林さんとか仙寿さんとかの方がかっこいいけどさー』
 リオンが不満をありありと表に出す。そんな彼から視線を逸らし、仁菜は少々躊躇って――口を開いた。
「だって、これ皆がプレイするゲームでしょ? リオンが他の子に私だけの顔してたら……嫌だもん」
 リオンの優しい笑顔は私だけのもの、だから。
『っ……あ、ああ、そう、か』
 リオンも仁菜から目を逸らす。二人、互いに赤面した顔は見なかった。





(あけびが仙寿とアークトゥルスを攻略! 隣には仙寿も居ます)
『まずは仙寿だね! えーと、セーブしてからっと……A!』

【……な、何か照れるな。背後に立たれるなんて、エージェントになった頃なら、絶対嫌だった。……今でも他人なら警戒する。けど、お前なら……】

『うん、これは絶対好感度上がったね! よし、ロード!』
「あけび、全選択肢を見るつもりなのか……?」
『うん! 次はB!」

【この紐か? 姉貴分に誕生日祝いで貰ったんだ。今度お前にも買ってやるよ。シュシュとか、ヘアピンとか。……俺が贈ったものをお前が身に着けるのは悪くないと思ったんだ】

『これは……さっきよりは低いけど、好感度上がったかな』
「しかし再現率高いな」
『そうだね。最後はC……あーこれは、好感度変化ないね。でも口調優しい!』
「付き合ってる設定みたいだしな」
『次は……アークトゥルスさん!』

”買い物、楽しかったな。でもすっごく寒かった。一緒に帰ってきたはいいけど、まずは……”
A:暖かい飲み物を用意する B:もこもこのルームウェアを用意する

『もこもこのルームウェアを着るアークトゥルスさんも見たいけど……Aにしよう』

【……ああ、ありがとう。お前も冷えただろう? こっちに】
”そう言って、アークトゥルスさんは私を膝の上に乗せた。寄りかかっていいのかな、と思っているとアークトゥルスさんに抱きしめられる。……どうしよう、近い。絶対、心臓の音、聞かれてる。”

『うわーうわーこういうのいいよね!』
「……あけび」
『何、仙寿。……わっ』
  あけびを引き寄せて膝の上に乗せ、ぎゅっと、仙寿は後ろから彼女を抱きしめた。その腕の強さに”嫉妬”を感じて、あけびはゲームから手を離した。仙寿に全力で寄りかかった。目を閉じる。仙寿の鼓動が聞こえる。きっと、自分のも彼に聞こえてるだろう。



●リンブレ+カノジョ
 アーテルはページを開いて、黎夜が出ている作品を読んだ。


---
 俺は少しだけ、黎夜から離れて歩いていた。ちょっと前に比べれば黎夜は少し、俺に慣れてくれた。でもまだだ。まだ、あいつは怖がってる。
 今日は、料理の依頼で店にやってきた。試食してくれ、とシェフが差し出したオードブルを黎夜が口に運ぶ。……あれ、こいつ……こんな顔、するのか? とても、幸せそうな……。
「これ、おいしい……あなたもどう……?」
 とても柔らかい表情。俺もつられて笑う。オードブルに手を伸ばした――。
---


 アーテルは一つ息を吐いて、すぐそこに居る黎夜を見た。視線が合って、黎夜は首を少し傾けた。けれどすぐ、頬を緩ませた。リンブレ+カノジョの黎夜が浮かべているよりも、ずっと柔らかくて――。
『黎夜。……いや、呼んだだけだ』





 リュカは征四郎のページを開いた。どんなせーちゃんを見れるんだろう、そうわくわくしながら。


---
「お待たせしました!」
 そう言って、彼女は僕のクラスにやってきた。背負っているのは剣道着が入った袋。これから部活? と聞けば、はい、と征四郎が元気よく答える。もうすぐインターハイですから! と。
「それでですね……えーと」
 征四郎がもじもじ、と指を動かす。
「今日は夕飯にシチューを作りすぎてしまう予定なのですが……」
 ……作りすぎてしまう予定?
「ええと……食べに来ません、か?」
 あ……ああ、そういうこと、か。きっと今、僕の顔は真っ赤だ。
「う、うん。喜ん、で」
「良かった!」
 征四郎が笑う。その顔、好きだ。
「じゃあ腕によりをかけますからね!」
---


「よ……良かった……」
 リュカは胸を押さえた。
「解釈違いとか……あったら、どうしよう、かと……ああ、でもこの漫画のせーちゃん可愛い……作家さんに感想送ろう、うん」





「シルフィ、それも買ったのですか……」
《もちろんですわ! さあ、まずは蛍のページから!》


--
 戦闘依頼を受けて、俺は蛍と一緒にH.O.P.E.が用意してくれたヘリに乗り込んだ。今回は少し厳しい戦いになりそうだ。と、蛍と目が合う。……なんだ? 何か言いたそうだ。蛍が皺が出来るくらいに服を掴む。すぅ、はぁと呼吸の音が聞こえて。タブレットに何かを打ち込む。
『こんな弱くて、卑屈で、ずっと怖がって逃げていたわたしを好きでいてくれてありがとうございます』
 俺は笑った。蛍の機械音声が続く。
『だから……これだけは直接言わせて、ください』
 ……直接?
 戸惑う俺を蛍が真っすぐ見て。
「………………好、き」
---


「このくだりは、フィクション、です!」
《蛍、誰に言っていますの? さあ、わたくしのところを読みますわよ!》


---
 ある日突然。俺の家に異世界のちびっこ王女様がやってきた。いやいやありえないだろうと思っていたのも最初の数日で今や、彼女――シルフィードが居る生活が当たり前になっている。俺が彼女の居ないところで失敗すると、必ず彼女はふんぞりかえって。
「やっぱりわたくしが居ないとダメですわね」
 そう言って、この前床を泡だらけにしたのは誰?
「あ、あれは、その、ちょっぴり洗剤の量を間違えただけですわ!」
 分かってるよ。この間のお菓子作りは大成功だったからね。
「っ、そ、それは、貴方が頑張ったからですわ。わたくしだって、す、す……」
 す?
「……住まわせてくれてる人の役に立ちたいのですわー!」
---


《わたくし、こんなこと……言うかもしれませんわ》





「えーとまほらまのページはっと」
 GーYAは本を開いた。


---
 絶えず異世界から侵略されるこの世界。だからなのか、勇者候補にあげられる人間は毎年結構多い。――でもまさか、僕が選ばれるなんて。だって僕は周りの皆の中で一番の泣き虫で、何も取り得がなくて……。そんな僕のところにやってきたのがまほらま。……剣の師匠。厳しい鍛錬。……ごめんなさい、僕、弱いでしょう? ああ、また涙が。
「もう、仕方ないわねぇ」
 まほらまが頭を撫でてくれる。それにほっとしていれば、彼女の表情が変わる。
「安心したなら……死ぬ気でかかってきなさい」
 僕はもう一度剣を取った。続く鍛錬。気づけば夕暮れ。息も絶え絶え。……まほらま?
「がんばったわね」
 え、あ、今、ちゅ、って……。
---


「……俺もされた事ないのに」
『何か言ったかしら、GーYA』
「な、何でもないっ」





(あけびはどんな風に描かれているんだろうな)
 仙寿は本を開いた。


---
 自分がかちこちに緊張していることが分かる。依頼でとあるパーティに行くことになって、正装しなければいけなくなって。いつもはものすごいラフな格好だから、タキシードなんて。早く脱ぎたいなぁ、なんて思っていれば、向こうから不知火がやってきた。瞬間、俺は彼女に目を奪われる。鮮やかな紅のドレス。背中は大きく開いて、身に着けているジュエリーがキラリと輝く。俺の視線に気づいたのか、不知火は恥ずかしそうに笑う。
『いつも和服だから落ち着かないなぁ……ど、どう? 似合う?』
 あ、ああ……と、俺も上擦った声で答えた。すると不知火はまた笑って。今度は純粋な笑顔で。
『良かったー! ありがとう! 大人っぽいドレスに挑戦してみたんだ』
 不知火が近づく。化粧の力もあるのか――いつもよりも、可愛い、なんて思ってしまって。
『喜んでくれるかなって……大成功だね! じゃ、行こう!」
 不知火は俺の腕に自分の手を添えた。
---


 仙寿は本を閉じた。戦利品を読みふけっているあけびをちらりと見る。
(今度現実でもドレスを着てもらうか)





●戦利品
「……本当に買うとは思わなかったっす」
『これも見聞を広める為だ』
 アークトゥルスは購入したアイドル本を開いた。


---
 ステージから見る観客席は何時だって光であふれている。新曲を引っ提げて、俺たちは全国ツアーを行っていた。観客席から声援が聞こえる。その声援に応えるかのように隣で踊る仙寿さんがその方向に向かってウィンクした。きゃあああっと湧き上がる歓声。今度はGーYAさんが手を振っていた。曲に合わせたダンスはどんどん激しくなっていく。仙寿さんのソロパート。GーYAさんのソロパート。……よし、俺だって! 精一杯歌って、俺の団扇を振ってくれている子に投げキッスをする。ますます盛り上がる会場。感じるのは幸せと満足感。
 これだから、アイドルは止められない。
---


「……いやー凄いっすね」
『今度実際やってみたらどうだ』
「え、遠慮するっす」





『サクラ、その破廉恥な本をさっさとしまえ!』
「えーまだ読み途中ー」
 櫻子はページをめくった。
「おお! なんという素晴らしい展開っ……」
『サクラ!』
「ほらほら、シンシアも見てみなよ、泣けるから!」
『だ、騙されんぞ!』
「いいからほらー」
『や、やめろサクラっ……ん?』
 そこに書かれた台詞、そして状況にシンシアは不覚にも心動かされてしまった。その様子を見て、櫻子は笑う。
「よーしよし、これでサクラも仲間だね!」
『い、一緒にするな!』
「じゃあ、次はこれ!」
『サクラ!』




結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 【晶砕樹】
    雁屋 和aa0035
    人間|21才|女性|攻撃
  • お天道様が見守って
    ヴァン=デラーaa0035hero001
    英雄|47才|男性|ドレ
  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 薄明を共に歩いて
    アーテル・V・ノクスaa0061hero001
    英雄|23才|男性|ソフィ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • 暗夜の蛍火
    時鳥 蛍aa1371
    人間|13才|女性|生命
  • 優しき盾
    シルフィード=キサナドゥaa1371hero002
    英雄|13才|女性|カオ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • あたしがロリ少女だ!
    風深 櫻子aa1704
    人間|28才|女性|命中
  • メイド騎士
    シンシア リリエンソールaa1704hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803
    人間|30才|男性|防御
  • 献身のテンペランス
    クロードaa3803hero001
    英雄|6才|男性|ブレ
  • 密やかな意味を
    波月 ラルフaa4220
    人間|26才|男性|生命
  • 巡り合う者
    ファラン・ステラaa4220hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 希望の格率
    君島 耿太郎aa4682
    人間|17才|男性|防御
  • 革命の意志
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