本部

【終極】連動シナリオ

【終極/機抗】希望の終焉

茶茸

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~8人
英雄
5人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2019/01/21 15:07

掲示板

オープニング


 世界の混沌化によって再び異常が起きたアマゾンだったが、不気味なほど静まり返っている場所があった。
 地球上にはありえない、美しい水晶のような植物が繁茂し、そこには虫の一匹すら生存できない。
 この場所での生存を許されるのは水晶でできたような樹に実った無数の宝玉と、それを愛しむ愚神ただ一人。
 若草色の長い髪に金色の髪飾り。若草色の瞳と優し気な顔。
 少女の姿から妙齢の女性の姿を得た愚神ディー・ディーは愛し気に宝玉を撫でる。
「あなたたちは王の軍勢になるのよ。立派になってね」
 一見美しい宝玉の中では何かが蠢く。
 それはディー・ディーが喰らったものを胎の中で合成して作り上げた『卵』だった。
 彼女が異界との一時的な接触により出会った科学者D.D.と契約に至ったのは偶然ではあるが、それ以降の行動はすべてここに至るためにあったと言っていい。
 美しく幻想的な氷の園で、エスペランツァの体を得て少女から妙齢の女性となった愚神ディー・ディーは我が子に囲まれ微笑む。


 複数のプリセンサーと調査隊の活動によって密林内部にドロップゾーンの発生が報告された。
 ゾーンルーラーはエスペランツァ・ディー・ディー。略称E.D.。
「ゾーン内部には【森蝕】で見られた『アウタナ』の小型版と言うべき水晶の樹木が生えています。周囲のライヴスを吸収し、枝に実った『卵』に送っているようです」
 中身は従魔だ。密林で再び活動を始めた改造従魔を喰らい尽くしたE.D.はその芳醇なライヴスを利用して『卵』を産んだ。RGWの技術の粋を集めた『エスペランツァ』と愚神ディー・ディーの力により生み出された従魔の卵だ。
「中央に向かって螺旋状に道が伸びており、道沿いに水晶の樹が生えています。正確な数はわかりませんが十や二十ではきかないでしょう。樹には十個以上の『卵』があり、外縁の『卵』が最も孵化が早く、中央に近いほど孵化が遅いようです」
 孵化した従魔は水晶の園を飛び立ち行きがけの駄賃として周囲を喰らいながら『王』の下へ向かうだろう。
 あるプリセンサーは喰い尽くされ無残に滅びたとある町の光景を見たと言う。
 それを防ぐためには孵化した従魔を倒し、まだ孵化していない卵を、何より生みの親であるE.D.を滅ぼさねばならない。
『対E.D.用の特殊兵装と状況は私がモニタリングする』
 ブリーフィングルームにはD.D.が監視されている部屋と繋げられたディスプレイが設置されており、そこに映るD.D.は特殊兵装について勝手に話し始める。
『使用するのは【弾丸型】と【装着型】の二つ。【結果型】はテストの結果E.D.との直接対決には不向きとされたので中央班ではなく外縁班に使わせる事になった』
 対E.D.特殊兵装の開発には『エスペランツァ』を作り出した一人であるD.D.が協力していた。
 H.O.P.E.に捕縛され本来ならすでに然るべき場所に幽閉されている身だが、対E.D.に条件付きで協力する事で未だギアナ支部内に留まっている。
『貴様らがE.D.からエスペランツァを引き剥がす事に成功すれば、残った奴はただの愚神。これまでに多くを葬って来た貴様等なら殺せるだろう。必ず『彼女』を奴から取り戻せ』
 自分が犯した罪も自分の立場も理解しているだろうに傲慢に言い切るD.D.に周囲の視線が鋭くなるが、騒ぎになる前にと職員がディスプレイの前に立って遮った。
「本作戦はE.D.を目指す中央班とと外縁で敵を引き付ける外縁班に分かれます」
 水晶の樹木には10~20程の『卵』が実っている。
 全てを地道に相手にしていては奥の従魔も孵化してしまい、中央への道が閉ざされてしまうだろう。
「外縁班が従魔の対処をしている間に中央班が潜入。中央にいるE.D.を倒します」
 水晶の園は一種のドロップゾーンになっている。その主たるE.D.を倒せば水晶の園も枯れ果てるだろう。
「時間をかければかけるほど『卵』が孵化して状況は悪くなります。中央班は外縁班がもちこたえてる間にE.D.を撃破してください」
 RGWにまつわる一連の事件の首謀者、D.D.は確保した。
 残るもう一人の首謀者であるE.D.―――愚神ディー・ディーを倒せばこの事件も一旦区切りがつく。
「この場に立てなかったタオ氏と、事件の犠牲となった人々の無念、どうか晴らしてください」
 一連の事件にエージェントと共に関って来たタオ・リーツェンは現在意識不明の状態で治療を受けている。
 彼の義肢・義眼は当時アルター社で秘密裏に活動していたD.D.が初期のRGWの前進技術を組み込んで作り出した物。含まれたディー・ディー細胞に少しずつ浸食され、図らずもスパイとして利用されていた。
 挙句世界の混沌化により活性化したディー・ディー細胞により、RGWを利用し続ける者がいつかそうなるように浸食されて従魔化し、対E.D.兵装の実験テストに自ら実験台として臨んだのだ。
 その事を知っている者達の表情が曇ったのを見て職員は慌てる。
「彼は治療中ではありますが、従魔化は阻止する事ができました。戦えない事は心残りでしょうが、きっと皆様の勝利を信じています」
 ですから、と職員は深々と頭を下げた。
「どうか皆様、無事に戻ってきてください」

解説

●目的
・E.D.(愚神ディー・ディー)の撃破
・ディー・ディーに合成されたエスペランツァの確保

●氷の園
 巨大な水晶の柱の周りに螺旋状に道が伸び、水晶の樹木が林立するドロップゾーン
 E.D.がいる中央は外縁から順に道を辿らなければ開かない。最も外縁にある『卵』は孵化している
 シナリオ参加者は中央班。外縁はエージェントNPC達が協力する

●特殊兵装
【弾丸型】
 銃火器や弓など矢弾や魔法を射出する武器で使用
・「マラティベレーノ」:E.D.に『癌』状態を付与。一定数を命中させると更に被ダメージ↑

【装着型】
 剣や槍などの近接武器で使用。ON/OFF切り替え可能
・「デメリット」:ON状態のみリンクレート上昇不可
・「合成剥離」:命中させるとE.D.の『合成』状態を減退させ更に回避↓

●敵
・『E.D.』/トリブヌス級
 生命、防御が非常に高く『合成』状態をある程度下げなければ与ダメージが更に減少してしまう
特殊スキル
・「アクアマンティード」/一回の使用につき一つの効果
 攻撃↑・防御↓
 命中↑・回避↓
 範囲300mの敵に毒(減退)
・「再生」/特殊兵装の効果3割分を除去
・「合成」/常態スキル。被ダメージ↓。特殊兵装により下げる事ができる

・『卵』
 水晶の樹木に実っている。この状態では何の害もないが時間経過で孵化する

・『ベッリーナ』/従魔
 等級はミーレス級からそれ以上と外縁から中央に近いほど強くなって行く
・『タイプA』
 剣、槍型。物理攻撃力が高い
特殊スキル
・「ガッビヤーネ」/敵一体をスタン(拘束)

・『タイプB』
 杖、銃型。魔法タイプと物理タイプがいる
特殊スキル
・「ガッビヤーネ」/敵一体をスタン(拘束)
・「イルミナレ」/味方単体の命中↑

・『タイプC』
 盾型。対物・対魔能力と生命力が高くカバーリング性能に優れる
特殊スキル
・「エスカヴェランテ」/1ラウンド中防御大アップ、移動不可。味方ダメージを肩代わりする

リプレイ

●若草の御座へ

 澄んだ水晶の木々が並ぶ。たわわに実を付けたそれは、御伽噺上の秘宝たる蓬莱の玉の枝を思わせる。
 幻想的で、神秘的な空間だ――なれどそこは今、熾烈なる激戦地と化していた。

「目覚めに吉報を持って帰ってやらんとな」
『……ん、実験テストは……無駄にはしない、大丈夫』
 秘薬によって繋がりを深めた麻生 遊夜(aa0452)とユフォアリーヤ(aa0452hero001)は、ライヴスアサルトライフル「ピースメイカー」の引き金を引いた。射程をそのまま先駆として、その弾丸は恐るべき精度を以て従魔の手足を傷付け、最低限の効率で無力化させてゆく。
「無難な編成だな、厄介過ぎる……時間をかけるだけ不利になるな、これは」
『……ん、かなりの数……ある程度は、破壊したいところ』
 続けて響く三重の銃声は、従魔の卵も諸共撃ち抜いた。この状況、時間をかけるほど不利になるだろう。ジリ貧になる前にも、短期決着を目指したいところだ。
 遊夜が点の突破ならば、氷鏡 六花(aa4969)は面の制圧。アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)と共鳴したことで得た凍れる力を絶対零度の槍に変え、氷鏡による乱反射を用いて氷の雨を降らせてみせる。それは従魔はもちろん、木々に成る従魔の卵をも打ち砕く。引き結ばれた唇は何も語らず、その足はただ先を目指すのみ。
 それでもなお襲いかかってくる従魔は、墓場鳥(aa4840hero001)と共鳴したナイチンゲール(aa4840)が、鎖鞘レーギャルンより抜き放つ鋭剣レーヴァテインの霊力余波で斬り捨てる。
「……進もう」
 攻勢の合間にリンクコントロールで共鳴を深めつつ。ここで消耗する訳にはいかない。一同の目指す先はこのドロップゾーンの深奥、愚神の撃破なのだから。
 一同に同行している外縁班らが、従魔の侵攻を押し留める。あるいは切り開く。「今の内に」と彼らの言葉に従って、藤咲 仁菜(aa3237)は先を急ぐ。
「……、」
 その表情は思案気だ。実際、いくつもの疑問が彼女の頭を渦巻いている。
『分からないことは直接E.D.――いや、本当の名前は“ディース”なのかな? あいつに聞いてみればいいよ』
 リオン クロフォード(aa3237hero001)がライヴスを通じて仁菜に言う。「E.D.が素直に教えてくれるとも思えないけど……」と仁菜は呟きつつも、星剣「コルレオニス」で一体でも多くの従魔を切り払う。

 ――間もなく見えてきたのはこの水晶世界の中央だ。

 仁菜は彼方を見、深呼吸を一つ。
(私達の運命を定められたくない。私達の道は私達で決めて進む)
 だから――
「ここでE.D.を倒そう」
 そして終わらせよう。【森蝕】を。アセビやオルリアの悲しみを。もう誰かが、あんな思いをしなくて済むように。
 と、その時だ。足を止めたのはマイヤ サーア(aa1445hero001)と共鳴した迫間 央(aa1445)だった。
「ここは任せて先を急げ。なに、適当に片付けたらすぐに追い付くさ」
 映画だときっと死んでしまうような台詞。けれど央の目には確かな自身があった。それは自己犠牲でも自棄でもない。外縁班を信頼していないという意味ではないが、E.D.との決戦の場に従魔がゾロゾロと襲来して削り切られると明らかにまずい。足止めが、時間稼ぎが、必要だった。
「……よろしく頼みます」
 六花は央にそう声をかけると、最後に氷炎の華を一帯に咲き乱れさせる。少しでも央らの負担が減るようにと、絨毯爆撃めいて従魔と卵を凍らせる。
『王との戦い、懸念事項は確実に潰す』
「……これから先もお前と共に在るために。行くぞ」
 央は愛するマイヤとそう交わし。中央へ一気に駆けていく仲間達を護るように従魔らへ立ち塞がると、天叢雲剣を構えた。



●その名は希望
 ゾーンルーラーは若草色の髪を揺蕩わせながら、エージェントへと振り返った。
 美貌に湛えるは冷たき敵意。その眼差しは、ただただ殺気を宿していた。

「よく来たわね?」

 その微笑みは、ゾッと空気を凍らせる。トリブヌス級愚神、エスペランツァ=ディー・ディー。
 彼女は“我が子”らを蹂躙しここまで土足で上がり込んできた彼らに、決して慈悲をかけぬだろう。愚神が翅を広げた瞬間、その背からズルリと現れるのは蟷螂の前肢に似た腕だ。さながら蟲の女王か――そんな感想をエージェントが抱いた瞬間、それが勢い良く振り下ろされる。
「――っ」
 破壊音。大振りだが当たれば痛打になるだろう。ナイチンゲールは跳び下がると、水晶から鎌を引き抜いた愚神を見澄ました。
「……あなたがしてることって、何の意味もないよね」
「なに……?」
 E.D.が不愉快げに眉を動かす。
「今更、王の取り巻きが多少増えたくらいでどうなるの。精々、奇特なエージェントの手間がひとつ増えるだけでしょ。――満足? それとも……少しは悔しかったりするのかな」
 ナイチンゲールは淡々と告げた。E.D.はわざとらしく溜息を吐く。
「全ては王の為に。私は朽ちても王と共に。だけど……私の“子供”に酷いことをした貴方達は、私情に基づいて残虐に殺すわ」
「そう」
 乙女の相槌は無味。返答など何でも良かった。無表情のまま、ナイチンゲールはこう完結する。
「私は、もう貴女には何も感じない。ただ――こんな虚しいことの為にたくさんの命が消費された。そのことが、哀しいよ。だから終わりにしよう。貴女は先に王の下へ還りなさい」
「ああ、ついでにさ、私からも」
 言葉を続けたのは仁菜だ。
「改めまして、こんにちはディー・ディー。そろそろ本当の名前を教えてくれない?」
『もう王との最終決戦間近! 今更、隠す必要もないだろ? ……なあ、ディース』
 リオンがそう口にした瞬間、E.D.は驚いたように目を見張った。返答はなかったが――それが何よりの回答、なのだろう。
『ディースはオーディンに仕える、人と神々の生死を定める女神の名だ』
「愚神商人……オーディンはたくさんの従魔兵を従えていたけど、どれも大した力のない泥人形。ねえ、この世界の肉体を持つ兵士が必要なの?」
 かねての疑問をE.D.に問う。愚神は鼻で笑った。
「愚神商人が言ってたでしょう、アイツはもともと、何もかも、人間がギリギリ勝てるか勝てないかのラインを攻めてたって」
 それは人間と英雄を逆境に追い込むことでライヴスを活性化させる為だと、愚神商人は言っていた。「一理あるかもしれないけどまどろっこしい」とE.D.は呆れたように肩を竦める。その間にも、その眼には獲物を狙う殺気があった。それに億すことなく、仁菜は続けた。
「じゃあ……どうして“アウタナ”なんだろう。北欧神話ならユグドラシルじゃないの?」
「……こんな話を知ってる? “欲深い人間が生命の樹を切り倒すと、天が怒り洪水が人々を飲み込んだ”って」
 愚神の“死骸”は王が為の土壌となる。そして君臨した王は、泥の海を引きつれて世界を飲み込まんとしている――そのことを示唆するような言葉を、E.D.は笑んだ唇で語った。

 瞬間だ。
 空気を震わせたのは銃声である。

「……不躾ね」
 真っ直ぐ目を狙って放たれた弾丸を、E.D.はそのヴェールのような翅でガードした。愚神の視線の先には、銃口から煙を立ち上らせる遊夜がいる。
「狙えたから撃ったまでさね。さぁ、有言実行しに来たぜ」
『……ん、貴女を倒す……それで全部お終い、王の軍勢にはならないの』
 狙った場所への一撃はガードされたが、命中はした――そのことはつまり、弾頭に仕込まれた対E.D.兵装が起動し始めるということ。一見してE.D.の翅の防御は合成状態がゆえに鉄壁に見えるが、撃ち込み続ければそれを引き剥がすことができる。
 トリブヌス級愚神を相手に、たった四人――なれどここにいるのはH.O.P.E.の中でもトップの実力を持つ精鋭達だ。そしてこの愚神特攻の道具もある。雑兵を押し留めてくれている別動隊もいる。
「だったら……攻撃するだけ。死ぬまで、やるだけ」
 絶望的だと悲観する道理などなし。六花はその手に絶対零度の断片たる氷の槍を造り出すと、E.D.へと投げつける。特殊兵装を帯びた魔術は、しかし、かの愚神の翅に防がれ砕け散った。ベールのような薄い薄い翅に小さな傷が付く。
「嫌だわ、冷たいのは好きじゃないの」
 最早“隔絶”とも形容できる翅の堅盾。それに小さな傷が付いたことは、六花の攻撃力がそれだけ凄まじいことを物語る。
「あははっ。あと百回ぐらい頑張れば翅を壊せるんじゃないかしら?」
 E.D.は人間を嗤う。
「弱いって、哀しいわね?」
 その言葉に。「同感だわ」と皮肉のように心の中で呟いて――ナイチンゲールは鎖鞘より抜き放つ居合斬りを愚神へ繰り出す。ゼロ距離、火纏の刃が水晶の翅とぶつかり合う。
「やだ、それ本気?」
 薄翅を隔てた向こうで蟲が舌を出す。そのまま翅のひとふるいでナイチンゲールを弾き飛ばした。
「――」
 ナイチンゲールは何も答えない。そのまま難なく着地して、次手に備え剣を鞘に。
(まだ気付いていない……)
 入れ替わるように仁菜が前に出る。真正面、見やる愚神はまだ――特殊兵装のことに気付いていない。
(だったら、“慢心”してる間に一手でも多く――!)
 仁菜はアイギスの白銀盾を構え、体当たりの要領で叩き付ける。装着型特殊兵装の攻撃が積もれば、合成状態を弱めることができるはず。
「終わらせるんだ……! かかって来いっ!」
 愚神の気を惹く為にもと仁菜は声を張った。E.D.は余裕の仕草で髪を掻き上げると、一つ笑い。
「いいわ、終わらせてあげる」
 ズル。その背より今度はサソリの尾のような部位を生やすと――仁菜めがけて叩き落した。
「ッ!」
 火花が散った。トリブヌス級の一撃だ。あまりに重い。なれど、仁菜は膝を突くことなくそれを真っ向から受けて見せる。心砕けぬ限り輝くその盾は、煌々と夜を照らす月のように光を放っていた。直撃の瞬間に飛び散った毒の瘴気も、仁菜が体に巡らせるライヴスがたちまちに解毒を行う。
 そして、E.D.から見て仁菜の姿の陰より遊夜が狙撃姿勢を取るのだ。
「藤咲さん、そのまま動くなよーっと」
 言葉の終わりには弾丸が、仁菜の頬の数センチ横を通り過ぎて、E.D.の眉間を精確に狙う。
「余所見してると危ないぜ? 精々がんばって防御するこった」
『……ん、ふふ……鬼さんこちら、でもボク達ばかり……見てちゃダメよ?』
 遊夜とユフォアリーヤが言うように。
 六花の氷が、ナイチンゲールの剣が、E.D.へと降り注ぐ――。



●速く、鋭く、抜け目なく
 E.D.の場へと向かって行った仲間を見送って。
 央は別動隊らと共に一体でも多くをと従魔共を斬り捨てていた。彼らの活躍によって、中央の間に従魔が侵入することは防げている。
「こちらは大丈夫です、行って下さい!」
 別動隊の者が央に言った。央は今一度戦況を見渡して確認し――その者の言葉が合理性より放たれたものと確認すると、「分かった」と頷いた。
「……この場は任せた。武運を」
「必ず、かの愚神を討って下さいね」
「もちろん。皆でここまで来たんだからな」
 最後にもう一度、共に戦ってくれた者らを見渡して。『行きましょう』とマイアに促されながら、央は身を翻す。やれるだけのことはやった。後は敵将を討つのみだ。

「――そろそろだね」
 E.D.との激戦の只中、ナイチンゲールが呟いた。遊夜のダンシングバレットが愚神を強襲するのに合わせて、重心を低く愚神の側面へと一気に踏み込む。ヴェルカース鋼の薔薇飾りが幻想的な花弁を散らし、なびく赤い髪先と踊った。
 瞬間だ。抜刀されるレーヴァテインは膨大なまでの火を纏い、さながら大地の噴火が如く、ナイチンゲールと墓場鳥の“意志”の深さを示す連撃を愚神へと叩き込む。一太刀の度に、エスペランツァとディー・ディーを剥離させてゆく。
「……う、!?」
 並大抵の愚神ならば消し飛んでいるだろう連撃を受け切り――“受け”切ったがゆえに。E.D.は己が“剥がされる”感覚に、“異常が増殖する”感覚に、目を見開いた。蓄積された特殊兵装の特攻効果は、遂に、確かに、愚神を目に見えて蝕み始める。
「一体、私に何をッ、ううぅうううううう゛うッッ!!!」
 E.D.は顔を歪めて頭を抑えた。
 そして、その時にはもう。
「剣を摂れ……」
 戦場に飛び込んできた央が、ヌアザの銀腕による光を剣と成し、その手に構えていて。

「銀色の腕!」

 貫くように放たれる光。それは奇襲となって、“暗殺者”の名に相応しい致命的痛打を愚神へと叩き込む。
 E.D.は咄嗟に防御姿勢を取る、も、積み重ねられた剥離に翅の防御力は落ち切っていた。……片方の翅が、光に焼き切られて崩れ落ちる。
「待たせたな。反撃開始と行こうか」
『一気に攻め落としましょうか』
 愚神の殺気の目を浴びながら、央は戦場に降り立つ。
「迫間さん……!」
 仁菜は彼の姿を確認すると、手短にE.D.の消耗具合や戦法を伝えた。
「迫間さんなら、情報があれば最高の一撃を入れられるでしょう?」
「ああ。……最善を尽くす」

 ――後半戦だ。

 E.D.は全身の不調に唇を震わせながらも、残った翅を羽ばたかせた。猛毒の鱗粉が無差別に戦場一帯を埋め尽くす。肌に触れれば吸い込めば、たちまち猛毒が体を焼き冒す。
「それなら――!」
 仁菜は天に掌をかざした。清浄な霊力を込められた治癒の光雨が、邪悪な毒霧を祓ってゆく。
「どうした、随分動きにくそうだな?」
『……ん、貴女の為に、皆がんばったの……もっと喰らっても、いいのよ? ふふ……』
 忌々し気な愚神に対し、遊夜達がくつりと含み笑う。挑発の言葉は弾丸と共に。エージェントらの武装になにか“からくり”があることを察した愚神は回避姿勢を取るが、狼の牙はそれを逃さず喰らい付く。獲物を消耗させて追い詰めるその様は正に狩り。
「愚神は……殺す。ぜんぶ……殺すの」
 六花は冷たくそう告げると、自らのライヴスを限定的に超活性させた。血色の氷華をその手に現すと、それを握り込んで割り砕く――流れ出る血の氷河は一際巨大な凍れる槍に。それよりもなお冷たいのは六花の瞳。どこまでも殺意を純粋に、愚神の残った翅ごとその体を串刺し苛む。
「あァ゛ああッ!!」
 E.D.の悲鳴が水晶に木霊する。
 途端だ。その姿が二重にぶれて……

 エスペランツァとディー・ディーが、遂に分離する。

「やってくれたわね……!」
 癌が増殖しゆく顔を片手で抑えつつ、ディー・ディーは血走る目で人間を見澄ました。咄嗟にエスペランツァへ手を伸ばすも、それよりも早くナイチンゲールが彼女を抱き留め確保し、跳び下がる。
「みすみすやらせるか!」
 更に愚神の動きを制限するのは、央が放った縫止の針だ。
『悔しいかしら?』
 少女の姿に戻った愚神に、マイヤが冷たく告げる。
『……わかりやすいのよ、貴女は顔に出ているから』
「よくも……よくも!」
 しからばと愚神は背から生やした蟲の器官を躍らせる。鎌が、針が、遮二無二周囲を猛襲した。
 仁菜はそれを盾で受け、仲間達へ治療の光を施しながら状況を見渡す――エスペランツァと分離させることに成功こそしたが、相手はそれでも高位愚神。癌状態を付与しているとはいえ特に生命力に優れた個体だ。長引けば従魔らが戦場に現れる可能性もあり……なれどこちらは五人、突破力がなければ泥沼の戦いは必至。なにより、エスペランツァが危険な目に遭う可能性もある。

 ならば――ナイチンゲールの判断は早かった。

 強烈なライヴスが水晶の間に奔る。
 何事かとディー・ディーが目を剥けば、そこにはリンクバーストを行使したナイチンゲールの姿があった。
 しからばどうすべきか。百戦錬磨のリンカー達は成すべきことを瞬時に理解する。
「すまんがこれで終わりだ」
『……ん、大人しく……お眠りなさい』
 遊夜の弾丸は今度こそ、回避も防御も掻い潜って愚神の右目に命中する。悲鳴と共にディー・ディーが顔を抑えたその瞬間、背後には央が、ぞぶりと愚神の胸に刃を突き立てていた。
「い、つの、間に――!」
「いつだろうな?」
 愚神の目からは瞬間移動のように見えたことだろう。先ほどの攻撃を央は“影を渡って”回避し、そのまま愚神の背後に現れたのだ。遊夜が目を狙ってくれたことも相まって、完全に隙を突けた――
『これが私達の切り札。……“神”をも殺す、私達の力』
 央とマイヤが繰り出したその刃は“必殺(キラー)”。別れの一刺し。
「ッ!」
 愚神がサソリの尾を揮う。だがそれは跳び退いた央を捉えられない。その尾も、六花の氷の槍に貫かれては、砕けて消える。
「……もう、おしまいなんだよ……惨めに、惨めに、惨めに……死ね!」
 そしてディー・ディーの正面。武装を破魔弓「焔摩」に持ち替えた仁菜が、真っ直ぐ愚神を狙って矢を引き絞っていた。
(終わらせるんだ……!)
 タオのかんばせが脳裏に過ぎる。彼の苦しみも終わらせよう。最初は一人で死のうとした彼が、自分達を信じて託してくれたのだから。
(私には……麻生さんみたいな射撃技術はないけど……!)
 兎の騎士の瞳は、凛と撃つべき敵を見澄ましていた。

「この距離なら――外さない!」

 不安を希望に。臆病を勇気に。
 光り輝く矢は活路のように。
「なっちゃん!」
「うん――行ってくる」
 仁菜とナイチンゲールは短く言葉を交わした。余計な言葉は不要。二人の間には絆がある。言わずとも、通じている。友人からの絆を刃に乗せて、乙女は愚神に肉迫した。
 仁菜の矢を始め、弾丸型兵装による癌の付与は多大に蓄積されている。合成状態も引き剥がされ、今ならディー・ディーに致命打を与えることができるだろう。
 つまりこれから成されることは、五人全員でもぎとった帰結である。

 ――言葉はない。

 ヒロイックなかけ声も。雄叫びも。伊達な台詞も。
 ただナイチンゲールは唇を引き結び、己の絆の数だけ刃をコンビネーションさせてゆくのみである。何が起ころうと手を休めず、ひたすらひたすら斬り刻む。切っ先が奏でるはタランテラ。燃え尽きんばかりの円舞曲。フィナーレは、愚神の胸を串刺し穿つ。

 言葉はない――

 ディー・ディーは事切れていた。
 弛緩した体は既に言葉を発することはなく。ざらざら、とライヴスの塵に変わって、消えてゆく……まるで呆気なく、しかし当然のように……。
 残ったのは、静寂だ。



●幕引き
 ディー・ディーは斃された。
 ゾーンルーラーを喪ったことで、水晶の世界に亀裂が入る。
 従魔は一通りの掃討は済んだとのことだ。卵についても、ドロップゾーンの消滅と共に消え始めている。
 エスペランツァが目覚めることはない。外縁班が箱のようなものを持って来る。曰く、エスペランツァ回収用の容器とのことだ。
 仁菜はそれを見届けると、死者のように物言わぬエスペランツァを丁寧に抱き上げて――まるで棺桶のよう、と思いながらも、その容器の中に彼女を横たわらせ。
「……約束、ですから」
 そう呟いて、蓋を閉じた。
 ナイチンゲールはその様子を遠巻きに見ていた。彼女を始め、中央班の者は外縁班のバトルメディックから治療を受けている。
(本当はね、少し話してみたいんだ)
 けど、今はいい。そして、この先その機会がなくても――それはそれで。消えていく愚神の庭を見上げながら、滅びが紡ぎ出す退廃の美をその目に焼き付けながら、ナイチンゲールは見届けていた。
「さよなら、ディー・ディー」

 そうして、ゾーンも完全に消滅して。
 南米の青空の下、六花は通信機でタオへと話しかけた。
「……ディー・ディーは……殺し、ました。直接、自分の手で殺したかったかもしれませんが……終わり、ましたよ」

 ――終わった。

「……」
 央は深呼吸を一つする。一つの決着がついた。なれど本当の決着が、この先に待っている。
 それは遊夜も同じことを思っていた。銃を手にしたまま、狩人は彼方を見やる。

 後は、“全て”の決着を見届けるのみ。



『了』

(代筆:ガンマ)

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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