本部

【異界逼迫】連動シナリオ

【界逼】aspiration

絢月滴

形態
ショートEX
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~15人
英雄
4人 / 0~15人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/12/11 21:45

掲示板

オープニング

●全ては、リヴィア様の為に
 アルビヌス・オングストレーム(az0125)はセラエノの本拠地に居た。
(リヴィア様……リヴィア様、リヴィア様、リヴィア様、リヴィア様、リヴィア様、リヴィア様、リヴィア様、リヴィア様、リヴィア様……!)
 H.O.P.E.ロンドン支部を襲撃した日を、アルビヌスは思い出す。リヴィアの命を受け、うまく支部内に侵入し、ワープゲートをリヴィアの為に起動させた。上手くいく、と確信した。
 ……だが何をどう間違ったのか。
 リヴィアは捕らえられてしまった。
 アルビヌスはなんとか逃げ出し――そして考え始めた。どうやってリヴィアを救おうか、と。
(待っていて下さいリヴィア様……必ず、必ずお助けします……!)



●――と諦め
 キュリス・F・アルトリルゼイン(az0056)とヴォルフガング・ファウスト(az0056hero001)は真正面で、ずっと車窓の外を見ている彼女――リヴィア・ナイを注視していた。後続の車にはリンカー達が乗っている。
 今、彼らはバースへと向かっていた。リヴィアを捕縛したことにより、セラエノが自然解体する可能性が高いだろう。……だが、不安要素もある。あの日、リヴィアを支部に招き入れた男を――彼女に心底”惚れている”であろう男――逃したのだから。それにセラエノの本拠地にはこれまでに奪われたオーパーツがある。それも回収しておかなくては。万が一マガツヒの手に渡ったりしたら――。
 キュリスはリヴィアからセラエノの本拠地への行き方を尋ね――そして教えてもらった通りに、車を走らせている。
 キュリスは不思議に思っていた。
 何故リヴィアは答えてくれたのだろう――。
(あの写真で、少しは心動いてくれたのでしょうか)
「キュリスちゃん、見えてきたわ」
 ファウストの声にキュリスは顔を上げる。リヴィアが言っていた、黒い屋根の教会。人が居るのか、それとも廃墟なのか分からないその建物の下、車が余裕で通れるトンネルへ。ファウストが目を細めた。
「異様な空気。あの先が異次元なのね、リヴィアちゃん」
 ファウストの問いに、リヴィアは答えない。車が止まる。どうやらここで行き止まりのようだ。岩に向かって、リヴィアが手を翳す。口の中で何かを呟いた。
 岩が動く。
 その先は黒い空間が広がっていた。ただ、時折星のように銀色の光が見える。
「……行きましょう」



●進め、夜霧に惑わされずに
 トンネルを抜けると、辺りは霧に覆われていた。車を降りて、キュリスは目を凝らす。そこは煉瓦街だった。暗い。灯りはぽつりぽつりとあるものの、遠くは完全に黒に塗りつぶされていて、原始的な恐怖がそこにあった。
「……ここから先は、迷路になっています。……こっちへ」
 歩き出したリヴィアにキュリスとファウストは続く。



 少し離れた、建物の影。
 アルビヌスが、リヴィアを見つめ――そして仲間達に連絡をする。
「リヴィア様が戻られた。……救出作戦を、開始する!」

解説

セラエノの本拠地の制圧(残党の捕縛、オーパーツの回収)が今回の目的です。
以下の情報について、目的を達成して下さい


◆異次元について
 19世紀の英国ロンドンに似た、暗く永遠の夜霧が漂う煉瓦街です。セラエノの本拠地である屋敷までの道が迷路になっています。そこに至る道はリヴィアが知っており、彼女の道案内で進むことになります。
 街には”ゾンビのような徘徊者”が居ます。こちらに気づくと襲ってきます。倒してしまって構いません。

◆リヴィアについて
 抵抗する/逃げる様子はありません。また、彼女は嘘をつきません。

◆その他
 何かあれば、回答できる範囲で西原純(az0122)が答えます。


以下、PL情報

◆アルビヌス率いるセラエノの残党
 リヴィアを取り戻そうと、迷路に罠を仕掛けています。
 PCたちを罠にかけて、混乱に乗じてリヴィアを取り戻そうという計画です。
 上記計画がうまくいかなければ、彼らは武力行動に移ります。


◆セラエノの本拠地
 外見は貴族の屋敷(郊外のカントリーハウス)です。
 中の構造は以下のようになっています。
 
 
 二階……リヴィアの研究施設

 一階……玄関ホール、広間、画廊、食堂、厨房、図書室、遊戯室

 地下……トレーニングルーム、ミーティングルーム、研究施設、コンピュータールーム

 ※以下の場所に行くにはセキュリティの解除が必要です。
  ・二階
  ・地下の研究施設

リプレイ

●何処か、似たような、霧の街
 空気が冷えている、とナイチンゲール(aa4840)は思った。既に墓場鳥(aa4840hero001)とは共鳴を終え、今リヴィアのやや後ろを歩いていた。そしてリヴィアの――彼女の表情や視線をじ――と見つめていた。コロッセオで会った時、そしてH.O.P.E.ロンドン支部で対峙した時――その時と変わっているような気がして。ふと、リヴィアがナイチンゲールを見る。何か、との声。こっちが聞きたいよ、とだけ返した。そのやりとりをきっとキュリスととファウストは見ていただろう。だが、二人は何も言わない。
(今更殴るつもりはない。愛想よくもしないけど――邪険にも扱わない)
 黄昏クロ(aa4287)はリヴィアの――いや、誰よりも先を歩いていた。霧で良く見えないこの場所。エマージェンシーで感覚を鋭くする。こういう場所では罠が仕掛けられているかもしれない。正直、自分はあまり戦いは得意ではない。だから、先を往く者としての責務を果たさなければ。
(……注意、しなきゃ……)
 GーYA(aa2289)はまほらま(aa2289hero001)と共鳴して、リヴィアの斜め後方を歩いていた。
(最初の世界蝕のこと……そしてこれからどうしたいのか、聞きたい)
 ――この任務が終わったら、聞けるかもしれないわぁ。
 GーYAにとって、リヴィアは【神月】で門をくぐり異世界へ行くきっかけにもなった興味深き女性だった。そしてキュリスは異世界に取り残された自分の救出依頼を出してくれた命の恩人。
(俺たちと一緒には見つけられないものなのかな)
 メリッサ インガルズ(aa1049hero001)と共鳴し、荒木 拓海(aa1049)もまた、リヴィアの様子を伺っていた。用意してきたウェポンライトは霧に閉ざされる道を照らしてくれる。暗視装備も隠れて装着したから、ライトを狙われても大丈夫。そして道順を出来るだけ記憶し、記録する。曲がった、まっすぐ、まっすぐ、また曲がって――。
(……リヴィア)
 誰にも聞こえぬよう、拓海はその名前を小さく響かせた。
 彼女と顔を合わせるのはこれで三回目。
 目的の為に手段は択ばず、弱みも見せず、常に不敵だった、彼女。
 今目の前に居る彼女とは様子が――違う。
(一体何を見たんだ? 父親の像が崩れる何かか?)
 ――でも父に拘りはないと言い切っていたわ。
(求め探究した真理が願う姿ではなかった?)
 ――もっと親しい何かが崩れた、とか……。
(とりあえず……だまし逃げる機会を伺っている様子ではなさそうだな)
 ――おんなにはたくさんの顔があるのよ……どの面が出ているのか分からないけど……気は抜かないでね。
 木霊・C・リュカ(aa0068)と凛道(aa0068hero002)はリヴィアからそんなに離れていない位置でふらふらと歩いていた。もちろんただふらふらしているわけではない。GーYAと同じように、モスケールとオートマッピングシートを利用して、万が一リヴィアから離れてもここから脱出できるように。そして、周りの煉瓦や街灯を破壊できるかどうかを試みた。凛道の攻撃に煉瓦はがらがらと崩れ、街灯の根元はぽきりと折れた。
「逃げ道は作れそうだね」
『はい、マスター』



●罠、徘徊者、戦闘
「……あ」
 クロが立ち止まった。それに応じるように、キュリスと拓海がリヴィアを止める。
「……罠。多分……爆弾、みたいな。解除、する」
 クロは罠の解除を試みる。仕掛けられている罠の数は四つ。まずは一つ、二つ、慎重に、慎重に……。
「わ……!」
 クロの手元で爆発が起こった。それに連鎖してもう一個の爆弾を爆発する。後ろに居たGーYAがその爆発の影響を受け、飛ばされる。ナイチンゲールはリヴィアに刃を突きつけた。何が起こるか分からない。抑止の為だ。キュリスはファウストと共鳴し、同じようにリヴィアの側につく。
「リヴィア様! 今、お助けいたします!」
 爆発の煙の向こう、響いた声にリュカは聞き覚えがあった。その方向に顔を向けて、言う。
「やあ、アルビヌス君! 恋の炎! 熱いねぇ!」
『笑いごとじゃありません、マスター!』
 瞬時に凛道はリュカと共鳴する。向かってきた人数は三人。一人は銃を構えたところを見るとジャックポットか。残りは近距離。ウコンバサラを構え、拓海は二人へと突撃する。体勢を立て直したGーYAもまた、戦線に加わった。武器と武器がぶつかり合い、激しい音を立てる。クロは周りの警戒を怠らなかった。敵のジャックポットの放った弾が凛道の頬を掠める。凛道は敵との距離を詰めた。その鎌で大きく切り込む。拓海は敵がバランスを崩したところを見計らって、ウコンバサラを振るった。GーYAはツヴァイハンダー・アスガルを振るう。相手にはそれなりにダメージが入った。戦闘不能状態まであと一歩――。
「っ、退却! 退却ぅー!」
 何処からともなくアルビヌスの声が響く。三人のセラエノの能力者たちは、霧の向こうへと姿を消した。その気配が完全に消えてからナイチンゲールはリヴィアにつきつけていた刃を降ろす。
「……こちらへ」
 襲撃などなかったかのように、リヴィアが歩き出す。拓海は彼女に話しかけた。
「この迷路、何か目印になるようなものはあるんですか?」
「……ない」
「それならセラエノの皆さんは道順を覚えなければいけないんですね」
 大変だ、と拓海は苦笑する。だがリヴィアの表情は変わらない。拓海は次の話題を探した。
 一行は暫く歩き続けた。
 ふと、曲がり角の向こうから、ヴァ……ヴァ……とおかしな声が聞こえる。まずクロが罠がないことを確認してから、拓海は曲がり角の先の様子を確認する。そこには三つの人影があった。
 ――あれを”人”と呼んでいいものかしら。
「ゾンビっていうのがぴったりかな」
『では、さっと狩りとりましょう』
 凛道が鎌を手に、前へと進む。その少し後ろに拓海が続いた。ゾンビたちが凛道に気づく。先程聞いた濁った声を上げ、こちらに襲いかかってきた。その声を聞きつけたのか、GーYAが守る後方に四体。
 ――流石に手が必要だ。
「そうだね」
 ナイチンゲールはリヴィアから少し離れた――がリヴィアの監視は怠らない。
「もうちょっと引きつけてから戦闘の方がやりやすそうですね」
「うん、そうしてくれると助かる」
 GーYAの気遣いに、ナイチンゲールはありがと、と礼を言った。四体のゾンビが二人に向かってくる。彼らの攻撃方法は実に単純だった。両手を上げ、こちらへと突進してくる。それを避けて、攻撃する。その繰り返しだ。
 ――統率っていう単語は彼らには無縁みたいだね。
 ライヴスの中、そう囁くリュカに凛道は同意した。目論見通り、すぐにゾンビ達は動きを止めた。シュー……と音を立てて、その場から消えていく。ナイチンゲールは再びリヴィアの側に付いた。
「リヴィア殿、今のは一体何者……いえ、何なのですか?」
 キュリスの問いに、リヴィアは何も言わない。その様子に拓海は悲しい、と素直に思った。
 これまでの事を考えたら、この、今のリヴィアの状態を喜ぶ者も多いのだろうが――。
 ――やっぱり悲しいわね。
(うん)
 リヴィアの案内で、一行は再び同じような風景が続く煉瓦街を進んでいく。時折現れるゾンビのような徘徊者には武器で対処し、曲がり角や細かい路地にも皆が気を配った。索敵でこちらがより有利になるかと、クロは鷹の目を発動させる。発動することは出来た。が、霧が阻む。それでも何か、例えばリヴィアが連れ去られてしまうような事があったら有効だろう。
 それぞれがそれぞれの想いを抱き、行動する。
 そのかいもあってか今のところ、大きな混乱も予測不能の事態にも陥っていない。と、リヴィアが足を止めた。その視線の先をナイチンゲールは追いかける。煉瓦街の向こう。周りの建物よりも少しだけ大きな屋敷――セラエノの本拠地だ。
 ――感覚的には、あとちょっとに見えるわぁ。
「でも用心しないとね」
 息を吸って、吐いて。GーYAは気持ちをリセットする。と、クロがまた罠を発見した。
「……えと、落とし穴……? 一個……解除、してみるよ……」
 クロは落とし穴の解除を試みた。先程の爆弾よりは、解除がしやすかった。
「うん、これでだいじょーぶ……」
『では、行きましょう』
 そう言って凛道が先を進む。何歩か歩いた、その時。
『っ!』
 ――うわ、落っこちる!
 凛道の姿が突然消えた。
「わ、わ、ごめんなさい、それ、気づかなかったっ……」
 クロが慌てる。そこに、またアルビヌスの声が重なった。
「リヴィア様!」
 物陰からセラエノのリンカー達が飛び出してくる。数は四人。
 ――リヴィアに恋する……アルビヌス、と言いましたねぇ。
 まほらまの言葉にGーYAはあることを思いつく。
「俺はリヴィアさんとお茶した事があるんだよ、砂漠でのひと時はスリリングだったよね」
「何ぃ? リヴィア様とだとぉぉぉぉぉ!」
 木箱の影から、小柄で軍服姿の男――アルビヌスが現れる。GーYAは更に言葉を重ねた。リヴィアを見て、少し悪戯っぽく笑って――。
「この任務が終わったら――またお茶しようよ、リヴィアさん」
「っ……させるかあぁぁぁぁぁぁっ!!」
 アルビヌスが叫ぶ。その声に応じ――たのか分からないが、セラエノのリンカー達も吠えた。真っすぐに向かってくるセラエノに対し、ナイチンゲールはすかさずリヴィアを抑止する――彼女が何もできないように。迫る四人のセラエノのリンカー達に拓海とGーYAが向かう。二人の近くを、一人のセラエノが駆け抜けていった。しまった、とGーYAは思う。が、セラエノが伸ばした手はファウストと共鳴したキュリスによって弾かれた。戦闘音が夜霧の街に響く。一進一退の攻防が続いた。落とし穴から凛道が復帰し、同数による戦いへ。徐々にGーYA達の方が有利になっていく。
 ――先のH.O.P.E.ロンドン支部の襲撃……そこにセラエノの精鋭たちが集まっていると話だったわぁ。
(言っちゃ悪いけど……それほどでもないってことかな!)
 GーYAの一撃が相手に深い傷を負わせる。戦闘不能になった相手を、GーYAはすかさず捕縛した。あと二人も、拓海と凛道の攻撃に、武器を落とす。
「体勢を立て直す! ――リヴィア様! 必ず、お救いします!」
 残った一人と共に、アルビヌスが再び去っていく。
「キュリスさん。こいつらどうしましょう」
「そうですね。ここで待っていてもらいましょう」
「念のためにもう一縛りしましょう。……悪いな」
 持っていた野戦用ザイルで、拓海はセラエノ達を街灯にくくりつける。リヴィア様! とその中の一人が悲痛な声を上げた。それにリヴィアは答えない。ただちらりと彼を見て――再び歩き出した。
(ちょっと冷たすぎるんじゃない)
 ナイチンゲールの心の声に墓場鳥が答える。
 ――それほどまでに、もうセラエノはどうでもいい、と思っているのだろう。
(そうなのかな。……ここまで大きな組織に育て上げたのに?)
 ほんとに分からないな――とナイチンゲールは呟く。
 クロと拓海を先頭に、一行は街を進んでいく。途中、徘徊者に何度か襲われたが、誰も重傷を負うことなく退けることが出来た。
「……罠、無いね……」
 警戒に警戒を重ねながら、クロは先を進む。
『あれで終わりとは考えられません』
 ――そうだねぇ、アルビヌス君のことだからもう少し、何か……。
「皆、見てくれ」
 拓海が示した先には、大きな橋がかかっていた。その向こうに、先程見えたセラエノの本拠地がある。
「気を付けて、行こう」
「ああ」
 クロと拓海を先頭に、一行は橋を渡り始める。その後にリヴィア、キュリス、ナイチンゲール、GーYA、凛道と続いた。
「あ、待って」
 クロが皆を止める。また罠を発見した。今日は何だか勘がよく働く……と思う。良かった。
「えっと……ライヴスが噴き出す壁?」
『私達を分断しようという魂胆でしょうね』
 凛道が眼鏡のブリッジを押し上げる。GーYAとナイチンゲールは後方に注力した。が、奇襲がある気配はない。それは前方を護衛している拓海も同じだった。
 ――この罠が作動すれば、一気に来るつもりかしら。
「だと思う。クロさん、解除できそうですか?」
「やって、みる」
 クロは罠本体の配線を調べた。比較的単純な構造だ。こことここの配線を切れば、作動しない。クロの目論見通り、罠が沈黙する。警戒を解かないまま、一行は橋を渡り切った。



●屋敷攻防戦
 凛道はモスケールを使って、屋敷の中の反応を伺った。玄関ホールに幾つか反応が見られる。ライヴスが比較的弱い反応――これはおそらくアルビヌスだろう。屋敷の裏手、窓。そこに敵が潜んでいる様子はない。ここは正面から行っても問題はないだろう。
 セラエノの屋敷の玄関扉を、凛道は開けた。広い広い玄関ホールが視界に入る。まさに”貴族の屋敷”と形容するにふさわしい作り。大階段が二階へと続き、左右には扉が一つずつ。完全に線対称になるように作られているのだろう。音を聞きつけたのか、それとも罠が破られたことに、もうこれが最後だと思っているのか――どちらかは分からないが、階段の上にアルビヌスが立っていた。そしてその周りには、三人のセラエノのリンカー達。彼らだけではい。階段下、左右の扉の前――総勢十人の敵。特に誰が合図したという訳ではない。十人は一斉に拓海達へと向かってくる。ナイチンゲールはリヴィアの手首を掴んだ。数的優位は明らかに向こう。万が一に備える。クロもリヴィアの側に控えた。自分にはあまり戦う力はない。が、リヴィアを引き留めること、もしもの時の防御くらいなら、は出来る。
 凛道は鎌の柄を持つ手に力を込めた。
『ええ、ええ。申し訳ありません。今回は貴方が勇者で彼の君が姫君なのかもしれませんが容易く会えるとは思わないことですね』
 ――ふふーふ、ひのきの棒より良い装備は持ったかな?
「蹴散らそう!」
 ――うふふっ、あまり屋敷を壊さないよう。
 凛道とGーYAが敵に向かっていく。

 これがおそらく、セラエノとの最後の戦い。

 GーYAはストレートブロウを発動させた。後続の敵ごと吹き飛ばす。凛道は致命傷は受けぬよう注意しながら、多人数を相手にしていた。拓海が怒涛乱舞を発動する。まとまって拓海に向かってきた集団は、後退した。そこに追い打ちをかけるかのように、キュリスが動く。彼らの目の前で爆発が起こった。
「アルビヌス!」
 攻撃の手を緩めず、拓海は階段の上に居る彼に向かって叫ぶ。
「これは……この戦いは彼女の、リヴィアの望みか?」
「何を言っている!」
 アルビヌスは叫んだ。そしてぎゅ、と拳を握る。その姿はリンカーでない自分を責めているようにも――今の拓海の言葉を全力で否定しているようにも見えた。
「リヴィア様がお望みに決まっているだろう!」
「その気持ちは痛いほど判る……が」
 ナイチンゲールが敵の銃弾を喰らう。普段なら避けられた攻撃。だが今は、リヴィアから離れる訳には行かない。
「それ、独りよがりって言うんじゃない?」
「そんな訳……そんな訳ない! ですよね、リヴィア様! リヴィア様は自由を望み、そして再び我々を導いてくれる! そうですよね、リヴィア様……リヴィア様!」
 悲痛、という表現がここまで似合う叫びが今まであっただろうか。
 今にも泣きそうな表情と、切羽詰まった声でアルビヌスはリヴィアにすがる。当のリヴィアは――何も言わない。止めなさいとも、私を助けて、とも。
「……リヴィア様……」
 がく、とアルビヌスが崩れ落ちる。凛道は二人同時に敵を戦闘不能に追い込んだ。GーYAもまた、ドローミーチェーンと大剣をうまく使いわけ、自分に向かってきた敵の生命力を削った。拓海はウコンバサラで道を開き、一気に階段を登ってアルビヌスを捕縛する。彼は一切の抵抗をしなかった。
 全員の戦略を持って、セラエノのリンカー達は全員戦闘不能状態となった。
『キュリスさん。この人達、縛って、どこか空き部屋に放り込んでおきますか?』
「ええ、そうしましょう」



●崩壊
 戦闘員以外のセラエノ構成員も全員捕縛し、まとめて厨房へと閉じ込めてから一行は屋敷の探索を開始した。もちろんクロが先頭だ。もしかしたらまだ罠が残っていて、リヴィアを取り戻そうとしているかもしれないのだから。
「リヴィア殿。今まで収集したオーパーツは何処に」
 何処か緊張した顔えキュリスがリヴィアに問う。
「……地下と、二階。研究施設に」
「ではまず地下から」
 一行は地下に降りた。外見とは不釣り合いな近代的な施設が並ぶ。本格的な戦闘を予想して作られたであろうトレーニングルーム。パイプ椅子が並ぶミーティングルーム。ガラス越しに幾つかのディスプレイの光が見えるコンピュータールーム。その先の、鉄製の重そうな扉。リヴィアが取っ手を掴み、掌をその上のセンサーに押し付けた。いわゆる静脈認証。ピピッ、と軽い電子音がして扉が開く。室内は少し寒かった。視界に入ってくるのは、試験管に遠心分離機、試料を仕舞っておくための冷蔵庫。拓海は念のためと、開かれた扉を近くにあった箱で押さえた。また、ドアの外で見張りを始める。GーYAとクロはリヴィアが教えてくれるままに、オーパーツを回収した。どれも一つ一つが箱に入っている。机の上にはレポートも散乱していた。GーYAはその一つを手にとる。手書き。中々個性が強い字だ。かろうじて読み取れるのは単語だけ。柘榴――水晶――開く文字、閉じた文字――に命を。――を主従として――。
 ナイチンゲールはひっそりとリヴィアの表情を盗み見た。。
 彼女は、平然としている。
 集めたものが――自分が築き上げてきたものが、壊されている、というのに。
「……それでここにあるものは全てです」
 GーYAが手にとったオーパーツを見て、リヴィアが言う。後は二階です、と彼女は言って、踵を返した。その後に、全員が続く。階段を上がって、先程戦闘を行った玄関ホールを左手に、また階段を。毛足が長い絨毯は皆の足音を吸収して、呼吸音が目立ってしまうような。
 二階の壁は、呪文のような模様が金のインクで描かれていた。それが何を意味するのか誰も分からなかった。拓海がリヴィアに模様の意味を尋ねる。だが、彼女は無言で進む。木製の重厚な扉の前で立ち止まった。何処からか金色の鍵と銀色の鍵を取り出し、リヴィアは扉を解錠する。ここは電子的なものに頼っていないのねぇと、GーYAのライヴスの中、まほらまは呟いた。
 扉の向こうもまた、地下と同じような光景が広がっていた。ただ、違うのは、部屋の片隅に簡易ベッドと――クローゼットがあった。
 凛道は機械の主電源を切ってから、カバーを外した。その中に入っていたのは、銅像のようなもの。側にあるメモ。きっちりとした、リヴィアの性格を示すような文字。これも回収だ。色とりどりの羽根。大きな花弁を持つ百合の花。こんなオーパーツもあるのだと、GーYAは感心する。
 そんなに時間をかけず、全てのオーパーツの回収は完了した。



●黄昏を迎えて
 凛道は一階の画廊を訪れていた。巨大な絵を見上げる。その絵の下方では、髑髏や鎌、黒と崩壊した建物が描かれ、人々が苦悶の表情を浮かべていた。一方、上方では虹がかかり、人々が金色のカップをいとおしそうに抱えて居る。辺りには羽根が生えた子供と、花びらが舞っていた。
 ――世界の始まりと終わりって感じ?
『もしくはいわゆる、最後の審判、でしょうか』
 ――これは幻想蝶には入らないねぇ。残念。
 自分以外誰も居ない画廊を凛道は歩く。飾られている絵はどれも”生と死”を強く感じさせるものが多かった。それに加え、背景に魔術的要素――例えばルーン文字やジオマンシー――が描かれているものも多い。あと特徴的な事と言えば、どの絵も”叫んでいる人”が描かれていることだろうか。
 比較的小さな絵を、凛道は幻想蝶の中へと仕舞う。もちろんリヴィアに話をつけての行為。次に、図書室へ。やはりというべきか一般的な本はほとんどなかった。ネクロマンシーに関する本、白魔術、黒魔術、神秘世界への誘い――。
 ――おや。
『どうしました、マスター』
 ――ちょっとその本取って。
 リュカに言われるまま、凛道はその本を手にした。表紙は赤。背は黒で、裏拍子は青。全体にちりばめられているのは銀の粉。タイトルは書かれていない。凛道は何の本か分からなかった。リュカが書名を口にする。その響きは凛道も知っているものだった。
 ――まさか本物を拝めるとはね、お兄さん感激。
『これも回収ですね』
 ――うん、もちろん。あ、でも、ねこば……。
『マスター!』
 ――冗談だって。



 二階のテラス、霧に閉ざされた街をリヴィアは見つめていた。
 空は灰色一色に閉ざされ、この世界は夜から動いていない。そこから光が差し込んだ事はあるのだろうか……とGーYAは思った。
 もうすぐ、キュリスの連絡を受け、H.O.P.E.から物品や捕縛したリンカーたちを連れ出すための応援が来る。それまで、リヴィアと話しても問題はないだろうと判断し、GーYAは彼女に話かけた。
「ねえ、リヴィアさん。まだ王に支配されていない人達の世界も沢山あるって愚神商人が言ってたんだ、こんな場所を本拠地にできるならそういう異世界に行く方法見つけてるんじゃない?」
 GーYAの問いに、リヴィアは答えない。当然と言えば当然か――と、GーYAは溜息をつく。では、とばかりにまほらまが一歩前に出た。
『オーパーツは誰が何のために作りこの世界にあるのかしらね。興味あるわぁ』
 その言葉に、リヴィアがほんの少しだけ動く。
「何のため――道具が作られるのは、生活の向上または好奇心――。この世界にあるのは、ただ”ある”だけのこと」
『それだけなの?』
「それだけだ」
『ふーん……』
 うふふ、とまほらまは笑う。
 もう一つ、とGーYAはリヴィアに質問をぶつけることにした。
「リヴィアさん。最初の世界蝕で何があったんですか?」
 リヴィアの肩がぴくりと反応する。鉛のような重い沈黙が流れ、リヴィアがそれを破る。
「父との別れであったことは間違いない。それ以外のことは、墓場まで持っていく。……私の大切な宝だから」
 これ以上は追及させない、という空気を纏うリヴィアにGーYAは再び問う。
「これからどうしたいんですか?」
「……決めていない」
 そっけない答え。
 これ以上、リヴィアから何かを聞きだすのは無理そうだ……とGーYAは思う。
 今度は拓海がリヴィアに問いかけた。
「リヴィア。セラエノは壊滅したも同然。……これからのことは決めていない、と言っていたけれど……これ以上、同じことは続けられないんじゃないか?」
 拓海の問いに、リヴィアは少し視線をさ迷わせた。手すりを握る手に微かに力が込められたのが分かる。拓海は言葉を重ねることにした。これまでリヴィアがしてきたことを赦せないという人は多いかもしれない。――それでも。
「オレは……貴女と仲間に戻りたいと思ってる」
『それはきっと、キュリスさん達も』
 メリッサの口から出た名に、その場の空気が微かに変化する。温度が上がった、とでも表現すればいいのだろうか。
「……このまま、H.O.P.E.に居て欲しい」
 リヴィアの唇は動かない。それに我慢できなくなり、ナイチンゲールは彼女との距離を詰めた。
「ねえ、貴女の言う”真理”って具体的に何? 悪いけど、なーんかセラエノの連中見てるとさ、言葉だけがひとり歩きしてるような印象しか受けないんだよね」
 真理を。真理を。真理を求めよ。
 ナイチンゲールがセラエノと戦う度に聞いていた言葉。熱が、想いがこもった言葉であるならば、それが示すものが何なのか、敵対する関係であっても、感じ取れるもののはず。
「――マジシャンは手の内を明かさない。もしばれたときは速やかに退場するもの。魔術師も同じ。……一つ言えることは、私が世界の覇者になろうとしたこと、それは些末で――余計なものに過ぎない。『理外の理』を知りたがるのは罪なのでしょうか」
 リヴィアの返答に、ナイチンゲールは眉をひそめた。誤魔化している。それが素直な感想だ。なんだ。結局中身がないのだ。
(……違う)
 中身がない訳ではない、気がする。セラエノに属するリンカーの内、誰一人としてリヴィアと”それ”を共有できなかったのではないだろうか。そしておそらく、”それ”を共有できるのは――。
 ナイチンゲールは少し離れた場所に居るキュリスの腕を掴んだ。ぐい、と強引に引っ張る。
「っ、何を」
「そろそろ言いたいこと、はっきりと言ったら?」
 ナイチンゲールはキュリスの腕を離す。少し足早に部屋の出口へと向かった。彼女が何を考えたのかを感じ取り、墓場鳥もその後に続く。ふふ、とファウストも小さく笑った。メリッサもナイチンゲールの真意をくみ取る。くい、と拓海を引っ張った。GーYAとまほらまもナイチンゲールに従う。
「あるんでしょ。――世間話なんかより、ずっと大事なこと」
 七人が部屋から去り、その場にはキュリスとリヴィアだけが残される。
「リヴィア……殿」
 自分の声が震えていることに、キュリスは気づいた。リヴィアはまだこちらを見ない。体が震える。恐怖に似た感情が湧き上がる。どうなってしまうのか。それでも――ああ今この時を逃せば、きっと永遠に言うことが出来ないだろう。
「私と……共にH.O.P.E.へ行きましょう」
 キュリスの言葉に、リヴィアは振り返らずに言う。
「それは、今世界に起こっていることに――二度目の世界蝕に対抗するため、ですか」

 そうです――とキュリスは言いかけて。
 
 その言葉を捨てた。
 
 捨てて――心の奥底に眠っていた本当の言葉を音にする。
 
 そう本当は。
 H.O.P.E.も、二度目の世界蝕も関係なしに。
 
「いいえ、リヴィア。……私は、私は、ただ、貴女と……っ!」



 屋敷の外で、クロは皆が出てくるのを待っていた。オーパーツの回収は終わったのだから、中に居る必要はないと考えていたからだ。まだ皆、中で色々とやっているのかな……そう思って空を見上げる。そこは、ここに来た時と変わらず霧がかかり、厚い雲が浮かんでいる。
 ――ふと、クロは小さな変化に気づいた。空の片隅。よくよく目を凝らさなければいけない変化。灰色を柔らかく漏れる白の色。あれは。



「……おひさま……?」



結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • エージェント
    黄昏クロaa4287
    獣人|16才|男性|回避



  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
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