本部

【終極】連動シナリオ

【終極】その1歩は誰が為に

秋雨

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/12/01 09:19

掲示板

オープニング

●H.O.P.E.の反撃準備
「お集まりいただき、ありがとうございます。今回皆さんに行って頂くのはボーデン島──カナダ北部にある島です」
 四月一日 志恵(az0102)はプロジェクターで真白の壁に世界地図を映し出し、小さな島をさした。
 北極点に愚神の『王』が降り立ち、世界は徐々に浸食されつつある。主に浸食を受けたのは北極点の氷海上だが、人の住まう大陸の方へも当然ながら侵攻は進んでいた。
「規模としては神奈川県より少し広い程度でしょうか。島は既に異界化しており、踏み入ると特殊な状況下に置かれるようです」
 具体的に言えば、距離感がおかしくなるのだ。
 当たるはずの攻撃が掠るにとどまる。回避できるはずだったのに攻撃を受けてしまう。そのような可能性が十分有り得ると志恵は説明する。
「愚神や従魔も多く潜んでいることが確認されています。……いえ、最早潜んではいませんね。このまま放置しておけば南下してくると思われます」
 ボーデン島はカナダの領土であり、すぐ傍が北アメリカ大陸だ。
 海を渡られる前に──なにより作戦を無事決行するために。リンカー達はボーデン島に潜む愚神と従魔に立ち向かわなければならない。
「幸い、敵はまだ海を渡ってきていません。リンカーは船でボーデン島に向かい、上陸。愚神を倒し、従魔も可能な限り数を減らしながらある程度のタイミングで撤退。……従魔は非常に多く観測されていますが、できるかぎり粘って数減らしをしてください」
 続いて敵の画像を出す志恵。
 白くなった空は地球のものとは思えない。果たして撮られた時刻は昼なのか、夜なのか。
 その空の下、地上にひしめくのは虫の大群だった。
 アリだ、と誰かが呟く。志恵はその言葉に頷いた。
「ええ、アリです。……大きさは子犬程ですが。正確な数は計れませんが、3桁は下らないでしょうね。その他に黒い芋虫と、真っ白な蛾も。1カ所に留まっているわけではなく、分散しているようです」
 画像をズームすると、小さく白いモノが飛んでいるように見えた。いや、小さいのではなく遠いのだろう。
 実際には人ほど、あるいはそれより大きいと志恵は告げる。
「これだけ島に敵がひしめいているとなると、着岸したままでは退路が断たれかねません。なので、リンカーが降りたら船は一旦島を離れます。こちらからの連絡で再度着岸する手はずです。……今回は、私も同行します」
 志恵の一言にリンカーの視線が集まった。
 彼らが知る『四月一日 志恵』はオペレーターだ。英雄はいるが、戦う姿を見たことのある者はいないだろう。
「負傷する前は皆さん同様、任務を受けていた身です。負傷した足も機械化されていますから、動きに支障はありませんよ」

 ──くすくす、くすくす。

 不意に、志恵の足元から小さな笑い声が聞こえた。
「シエ、きっと戦えることはみんなわかってるのよ。シェルもいるし、戦えなかったらすぐ死んでしまうもの」
 シェラザード(az0102hero001)は机の影からひょこりと出てきて、その場のリンカー達に笑いかけた。
「シェルもたくさんがんばるの。シエがたたかいたい、って言ってくれたのもみんなのおか──むぐ」
 志恵が一瞬ぎょっとした表情を浮かべ、素早くシェラザードの口を押さえる。だが、リンカーの耳は『皆のおかげだもの』と最後まで拾った。それを志恵は一同の表情から察したのだろう。
「……皆のおかげ、なんて言われても不思議にしか思われないでしょうね。完全に私の事情ですから。失礼致しました」
 シェラザードが不満げな視線を送るものの、志恵は慣れたものと見事にスルーしてみせる。
「私は皆さんに近づく従魔を妨害します。全てを排除することはできませんが、少しは力になれるでしょう。また、撤退の際は船との連絡役を担います。タイミングは皆さんに一任しますので、声をかけるなり合図を出すなりしてください」
 作戦に必要であれば、可能な限り動きはリンカーに合わせると言う志恵。それはこれまで敵と戦ってきた彼らへの──信頼、なのだろう。
「これまでずっと経験を積んできた皆さんには敵いません。ですが……少しでも皆さんの力になりたい。今回は、どうぞよろしくお願いします」

解説

●目標
メイン:ケントゥリオ級愚神の討伐
サブ:可能な限り従魔を討伐

●敵情報
・ケントゥリオ級愚神『ファルター』×6
 蛾の姿をした愚神。大きさは2mほど。全身が白く、前足が鎌のようになっている。
 回避・イニシアチブが優れており、反して物理防御力はさほど高くない。
 前足で斬りかかる他、以下のスキルを持つ。

鎌鼬:自らを始点に直線3の物理攻撃。
鎌舞:自らを始点に範囲2の物理攻撃。


・デクリオ級従魔『ラオペ』×30
 芋虫の姿をした従魔。大きさは人の子供ほど、全身が黒。前面にギザ歯のついた大きな口がついている。
 物理攻撃力・魔法防御力に優れるが、移動力は劣る。
 のしかかり、噛みつき等の近接物理攻撃を行う他、以下のスキルを持つ。

残影:1ラウンド前の移動箇所に影を残し、PCがその上を通過した場合特殊抵抗判定によってBS【拘束】を付与。

・ミーレス級従魔『マイゼ』×200前後
 アリの姿をした従魔。子犬程度の大きさ。
 攻撃方法は噛みつき(近接物理)のみ。特筆する強さはなく、攻撃を1発当てれば死ぬ。

●状況
 カナダ最北部、ボーデン島。異界化しているものの元々無人島であり、目に見えた被害はない。
 昼もなく夜もなく、ただ空は白く。生き物はリンカーや敵以外存在していない。
 この地域は寒くもなく暑くもなく、島へ足を踏み入れると他者(敵味方含める)との距離感が正常でなくなる。

 PCは船で島まで送られ、船は攻撃を受けないように海上へ一旦退避する。撤退の際は再び接岸するが、連絡を受けてから接岸まで6~9ラウンドかかる。

●NPC
四月一日 志恵&シェラザード
スキル:威嚇射撃/妨害射撃/射手の矜持
武器:アサルトライフル

 基本的には後衛でPCを狙いとする従魔への妨害を行い、撤退の際は船と連絡を取る。
 PCから指示がある場合、無理の無い範囲で従う。撤退タイミングはPCに一存する。

リプレイ

●真白の空

 波間を進む船。ひゅうと風が顔を撫でて、シェラザード(az0102hero001)は思わず目を瞑る。
「さむいわ、シエ」
「……そうね」
 寒いけれど、蝕まれていない自分達の世界だ。
 空を見上げていた四月一日 志恵(az0102)は、近付いてくる2人に気付いて視線を向けた。
「志恵さん、今回はよろしくっす!」
「……一緒に頑張りましょう」
 久兼 征人(aa1690)に続いてミーシャ(aa1690hero001)も口を開く。その姿に征人はそっと視線をミーシャへ落とした。
 自分から声をかけるのは随分と珍しい。彼女は人見知りの気がある。
 初対面の志恵はそれを知る由もない。しかしミーシャの言葉から何か──仲間に応えたい気持ちだとか──を感じ取ったか、確りと頷いた。
「はい。私も頑張りますので、どうぞよろしくお願いします」
 魂置 薙(aa1688)はその姿を遠目に眺めながら、小さく目を細める。
 彼女のことは良く知らない。初対面だからその人となりも知らないし、能力者でありながらオペレーターとして働いていた理由も当然知らない。
(けど、『皆のおかげ』っていうのは、少しは、わかるよ)
 自分もそうだから。皆のおかげで薙も今、ここに立てている。
 視線を前に向けた薙は、見えてきた光景に思わず息を呑んだ。
「放っておけば広がる。今のうちに対処せねばの」
 同じようにその光景を見るエル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)の表情もどことなく険しい。
 近くで同じように進路の先を見た皆月 若葉(aa0778)とラドシアス(aa0778hero001)も目を瞠る。
「これが異界化……」
「……時が止まったようだな」
 あまりにも現実味のない光景。異界化の下に入ってしまえば寒さも感じず、時間の経過も感じられない。
「もうすぐ島に上陸します。皆さん、準備をお願いします」
 志恵の言葉にリンカー達が頷く。その中で「志恵さん」と三ッ也 槻右(aa1163)は声をかけた。
「お願いがあるんだけど……全体を見て、もし引き時だと思ったら教えて欲しいんだ」
「私が……ですか」
 窺うような瞳を向ける志恵に槻右は頷いた。
 趨勢を見る目はおそらく自分達以上だ、と槻右は思っている。
 戦場を見てきた経験はブランクがあったとしても消えるものではない。各々が力配分を考えてはいるが、志恵の客観的な視点から見るものは異なることだってあるだろう。
「勿論、ファルターの全滅は目指すよ。頼りになる人たちばかりだし、背中は心配しなくてよさそうだ。ね?」
「ああ。皆、1度は同じ任務に当たったことがある」
 同意を求められた荒木 拓海(aa1049)は力強く頷いた。
 顔見知りで集まったのは果たして偶然か、必然か。けれど──。
「敵も多いから安心、とまでは言えないかもしれないけれど。心強いことに変わりはないわ」
 メリッサ インガルズ(aa1049hero001)が拓海から言葉を引き継ぐ。志恵はそんな彼らを順に見て首肯した。
「わかりました。では、もし私から全体が危険だと感じることがあればお伝えしますね」

 島まで、もう少し。


●交戦

 着岸しやすく、敵が丁度いない岸へ船をつける──が。
 ガン、と何かが当たる音と共に船体が揺れる。乗船していた一同はたたらを踏み、ある者は何かに捕まったりして凌いだ。
 どうやら例の『距離感の誤差』によって船体が岸へぶつかったらしい。
 征人は船からの目視とモスケールの索敵を見て小さく眉を寄せた。
「これはめんどいっすね」
 一同は速やかに船を降り、英雄と共鳴して各々が索敵と距離感のズレを調べ始める。
『不本意だが、虫型の敵と縁があるらしいの』
 エルの不機嫌そうな声に、薙はライヴスゴーグルの反応を見てもらうよう頼む。
 予め内容として聞いてはいたものの、やはり多い。
 苦手な虫を見なくて済むようにというエルへの対策だったが、目視でも分かる程だ。
『普段より1m……いや、そこまでの差でもないか』
「うん、だからいつもより気持ち強めに……」
 若葉はラドシアスと会話しながら試行を繰り返す。しかしズレの規則性は見出せず、2人は試行を諦めた。
 規則性がないのなら体を慣らすことはできない。モスケールで距離と方角を確認しながらの戦いになりそうだ。
「距離感がおかしくなる、ね」
「……ん、ボク達への……挑戦状、だね」
 単体で向かってきたマイゼを見る麻生 遊夜(aa0452)の内で、ユフォアリーヤ(aa0452hero001)はくすくすとどこか楽し気だ。
 アサルトライフルを構えて試し撃ちしてみれば──。
「……む」
 眉間を狙ったはずなのに、足元へ弾丸が当たる。弱い従魔故にこの程度でも倒せるが、他の従魔や愚神はそうもいかないだろう。
『……んー、慣れればいける……かな?』
 ユフォアリーヤもむむ、と小さく唸る。その声を聞きながら、遊夜はモスケールを起動した。
 目視だと正しい距離感で戦えない。しかし、機器ならばどうだろうか。
 ゴーグルに反映される敵位置を確認しながら標準を調整する。放った弾は吸い込まれるようにマイゼの眉間へ。
『……ん、上手くいった……ね』
「ああ。機械は正常みたいだな」
 小さく息をついた遊夜は、モスケールが正常に起動することを仲間に伝えた。
『モスケールを使うのは初めてねぇ、どう?』
「うん、ズレ自体は人1人分もなさそうだよ」
 まほらま(aa2289hero001)の問いに応えながらGーYA(aa2289)はモスケールと目視で交互に確認する。
 しかし残念なのは法則性が見られない事だろうか。カメラのピントが合わないような輪郭のぶれ方をするため、はっきりと位置を特定するためには遊夜が確認したように機器での確認が1番だろう。
 拓海は目視で島の端から端を計り、小さく唸る。
「一定間隔で横並びになっても、どこかで敵に抜けられるか……? いや、」
 ボーデン島のことを事前に調べたが、異界化で変わっていなければここから暫く地形は変わらない。そこまで背後を取られなければ幾らか安心だろう。
「拓海さん、手を出して、もらえる?」
「ん? こうかな」
 不意にかけられた薙からの言葉に手を差し出すと、薙は拓海の手へ自らのそれを重ねようとする。しかし実際は拓海の指先を掠め、宙を掴んだ。
「遠近だけじゃなくて、方向も若干……違う?」
「みたいだね。でも指先は当たったから、皆の言ってるように大きくズレているわけじゃなさそうだ」
 何度目かで手を重ねることができたが、必ずしも同じようにズレているわけではないことを実感する。
 唐突に、空気がざわりと騒めいた気がした。
 はっと拓海がモスケールを確認する。
「──20sq先に中小マーカー多数。来たみたいだよ」
 リンカー達とそのライヴスに反応したか、マーカーはこちらへと真っすぐ進んでいる。少し大きなマーカーは小さなマーカーに抜かされているので、恐らくラオペだろう。多量の小さなマーカーはマイゼか。
 敵の向かってくる方向を見てニノマエ(aa4381)──否、ミツルギ サヤ(aa4381hero001)は笑みを浮かべてみせる。
「さあてお立合い、あたしの三味線を披露しようじゃァないか」
 その姿、そして主人格共に珍しくサヤのもの。和洋折衷というのか──様々な要素の混じった着物を着こなしたサヤは、三味線を大きく1度鳴らす。
『戦闘なんだから、なるべくノリの良い曲を頼むぜ?』
 サヤは内から聞こえるニノマエの言葉に「あいよ!」と返事を返し、にたりと従魔たちの群れを見遣る。
「愚神も従魔も、さァおいで!」
 かき鳴らされる三味線の音に、ぞわりと敵が動き始めた。

「思ったよりも視界がいいですね」
 隠鬼 千(aa1163hero002)はきょろきょろと辺りを見渡す。
「思ったよりもいっぱいだよね」
 槻右はモスケールで反応を確認。
「蟻に、芋虫に、蛾」
 目視でも確認できるそれらの群れに、千は思わず遠い目をして。
「害虫駆除に──」
「──遠慮はいりませんねっ!」
 共鳴した槻右は機械化された足で地を力強く蹴る。精一杯手を伸ばし、最良を掴み取る為の──1歩。
『私たちは前へ切り開くのみですね、武器が喜びそうです!』
「ああ、兎に角切り進もう」
 駆けながらモスケールの情報と目視の差を通信機で共有する。そのまま敵の中へと突っ込んだ槻右は口を開いた。
「魂置さん!」
 近くにいた薙がその声にはっと槻右の方を向き、咄嗟に横へ跳ぶ。
 次の瞬間、槻右の周囲へ剣の雨が降り注いだ!
「すごい……」
 その様を見た薙はすぐに他の敵群へ狙いを定める。
 自分も立ち止まっていられない。少しでも従魔を掃討し、道を──拓く!
「貫け!」
 溜めていたライヴスによって大剣の刀身が伸び、幾体かの敵を巻き込んで攻撃する。
 遊夜は素早い連射で3体仕留め、次に近い敵を見定める。
「さほど強くないのが救いだな」
『……ん、この状態……この量で、強いと悲惨』
 内でユフォアリーヤがこくりと頷いた。
 モスケールの反応を元に、更にこれまで磨いてきた狙撃技術でもって敵を殲滅していく遊夜。近くにいた敵をあらかた倒すと、射程内に敵を入れるべく動き出した。
 通信機で仲間のいない前線へ立った若葉は幻想蝶へ手をかざす。従魔が集まってくる中溢れる群青色の光、そして白夜のような輝き。
 若葉の周囲に展開された瑠璃の破片はキィィィ──と共鳴を起こしながら、周囲の従魔を撃ち抜いていく。
(無人島でよかったけれど)
「……ここで、止めないとね」
 自分や、共に戦っている仲間。それらを含めた『誰か』の日常を守る為、若葉はここで武器を振るう。
(守って、その上で皆で戻るんだ)
 前衛の退路を確保しておくべく従魔掃討に向かう若葉。射程内に入ったラオペを、近付かれる前に弓で倒す。時折先にマイゼが倒れるのは後衛から狙撃に当たっている志恵だろう。
 再び移動しながらモスケールをチェックすると、若葉より少し離れた場所でこちらとは別の方向に向かう群れが1つ。それを率いているのは──サヤだろう。
『ミツルギさん、もう十分に距離取れてるよ』
 離れすぎないよう気をつけて、と若葉からの通信を聞いたサヤは三味線を1度強く弾いた。音が鎌鼬の如く手近な場所へ跳んでいき、近くにいたと思われたマイゼが体を切り裂かれて倒れる。
(……いるようだねェ)
 耳を澄ませばザワザワと──まるで人がざわめくかのような音。少しずつ、サヤは囲まれている。
 サヤは曲調を変え、更に敵の注目を集める。その音によるものか、それを載せたライヴスによるものか、敵群はサヤに向かって襲い掛かり、喰らい付こうと口を開ける。
 その上空に、影。
「──物悲しい曲なのは勘弁しておくれね」
 どうしてもこの三味線は、悲しい音になってしまうから。
 一際大きく奏でられた音と共に、従魔へ剣の雨が降り注いだ。

 ライヴスの砲弾が着弾地点辺りにいた従魔たちを蹴散らしていく。
 司会の隅に白を認めた拓海は咄嗟に半身を捻り、鎌の前足を避けた。ファルターと対峙してみれば、その先からはマイゼとラオペもこちらへ向かってきている状況。
(3種同時か……!)
「ファルターと接触! 誰か応援頼む!」
『わかった、なるべく早く向かうよ』
 若葉の言葉に続いて何人かから応答。彼らが合流するまで耐え、そしてなるべく数を減らさなければ。
 敵が向かってくるのと反対側に駆けだした拓海はくるりと振り返り、先にマイゼへ向けてロケット砲を放った。
 拓海のところへ向かおうとしながらも、途中道を遮ってくるマイゼをサブマシンガンで次々と撃ち抜くGーYA。その視線が後方へ向かおうとするラオペを捉える。
「待て……っ、なんだ!?」
 突然の、足を掴まれたような感覚。反射的に足元を見ると黒い影がまとわりつき、地に足を縫い付けている。それはGーYAの足元だけでなく、ラオペのいる場所まで点々と足跡をつけるかのように残されていて。
「っ皆、ラオペの移動痕に気をつけて!」
『ジーヤ、来るわ!』
 はっと前を向くと従魔の群れ。咄嗟に腕で庇い、影を払って立ち上がる。再び向かってこようとする従魔の群れに、しかし戦闘の1匹が後方からの銃弾で倒れ込んだ。
「左手に見える岩から──」
 征人はモスケールで得られる位置情報を志恵へ伝えると、彼女の1撃が敵の1体を屠る。
 その岩の裏にレーダーが敵を察知し、征人は通信機へ声をかけた。
「岩の裏、敵が潜んでる」
『わかった』
 薙の声がして暫し、レーダーからぽつぽつと反応が消え始める。だがそれと同時に別方向から抜けてきた反応を見て、征人は双槍を手に取った。
 前衛が必死に道を切り開いているものの、やはり敵の数が多い。ファルターとの接触もあるようだし、そちらの対応に追われれば必然的に抜けてくる敵は多くなる。
 こちらへ近づかれる前に倒さなければ、更に戦線が押されていくだろう。
「こちらはお任せください」
 補助の無い状態では致命傷を与えにくいが、それでもダメージを与えることはできる。
 遠くへは行かない、と一言残して征人は黒白の槍を手に駆けだした。


●白き愚神

 従魔の群れが押し寄せ、まるで飲みこもうとでも言わんばかりにリンカー達へ襲い掛かる。数を減らせどまだ、終わりは見えない。
 大剣を振るう薙の耳に、エルのふっと小さく笑む声が入る。
『これだけの数を前に、随分落ち着いているな』
「うん。頼もしい人達ばっかりだからかな」
 誰もが怪我をしており、攻撃が躱されることもある。けれど──それ以上に、戦場を共にしてきた仲間達への信頼があるから、不安はない。
 不意に、目元へ影が落ちた。咄嗟に頭を庇い、ファルターの攻撃が止んだ隙に大剣を大きく振り回す。地上の乱戦へ引きずり込まれたファルターは、その原因となった薙を標的に定めたようだ。
(それでいい)
「こっちだ」
 唐突に踵を返し、愚神との追いかけっこを始めた薙。通信機で愚神との接敵を仲間へ知らせる。
 ちら、と肩越しに後ろを振り返ると、ファルターを始めとして従魔達もつられるように薙を追いかけていた。ラオペはその速度に追い付けていないようだが──。
「──っ!」
 ファルターが鎌鼬を飛ばす。それは薙へ届くかと思われたが、その寸前に2枚1対の盾が飛んで来て薙を庇った。
「規佑さん!」
「間にあって良かった」
 そう告げる槻右の後ろから遊夜、少し遅れて拓海がやってくる。
「白くてデカい、良い的ではあるんだが……」
『……ん、動きが良い……』
 武器を換装していると、唐突にファルターがこれまでと違う動きを見せた。
 それはまるで──舞っているかのような。
 ファルターはそのまま遊夜たちの元へ突っ込んでくる。
「っく!」
 ぶん、と薙の振った大剣を掠めながらも、まだファルターは飛んでいる。そこへ遊夜は標準を合わせた。
 もちろん羽に穴を開けられるなら勿論良いが、何処に当たっても防御力は低そうだ。
(とにかく充てるのが我らの仕事だ!)
 精密な1撃がファルターの羽の一部を破壊する。虫ながら、まるで手負いの獣のように向かってきたファルターの攻撃を凌ぐと、槻右が声を上げた。
「拓海!」
 槻右の声と共に拓海の放ったロケットアンカー砲がふらふらと飛ぶファルターを捉え、その体が地面へ落下し始める。
「規佑っ!」
 その言葉に力強く地を蹴る槻右。その刀が真っすぐに振り上げられ──白い羽が地面へ落ちた。
 しかし、従魔は彼らに休む暇を与えない。それに負けじと槻右は声を張り上げた。
「きついね、でもまだ行けるっ!」

 モスケールのレーダーに幾つもの反応が入り乱れる。ラオペのものと思しき罠も、これではどれか判断がつかないというもの。
 征人は志恵の近くまで戻り、イジェクション・ガンを持って仲間の回復へ切り替える。
『ジーヤ、そろそろヤバいわ』
 GーYAはまほろばの言葉に自分の状態をようやく確認し、ライヴスの結晶を口に含んだ。これでもう少し戦えるはずだ。
 一方のサヤはジャングルランナーを使い、敵の有無を確かめながら移動と攻撃を行っていた。
「っと、」
 マーカーが敵に当たらなかったのを見てサヤは止まる。通信機での情報だと、ラオペの移動痕は進んではいけないはずだ。
 次に当てるのは──とサヤの視界に白い羽が映る。
 す、と目を細めたサヤは重々しく、ゆっくりとした曲を奏で始めた。まるでそれは、敵に向ける葬送曲。
 その白き羽は雪のようにひらりと舞って捉えどころがない。しかし、執拗なサヤの攻撃がやがてファルターを捉え、その羽を千々に裂く。
 だが、従魔達は数をもってサヤを追いつめようとしていた。
「しまっ──」
 従魔達が攻撃体背に入るかと思われたその時──赤色がサヤの視界に映る。次いでぱき、と氷の割れるような音が響いて。
 敵にとっては脅威の弾幕。しかしサヤには救いの一手。
「大丈夫? 今のうちに体勢整えて」
 若葉は敵が再び集まってくる前に、とすぐ使用できる武器へ持ち替える。サヤは頷くと無針アンプルを肌へ当てた。
『殲滅するまで撤退なんてさせないわ。わかってるわよね、征人』
 ミーシャが戦場に赴くのはいつだって傷を癒し、再び戦場へ送る為。それは役目や任務といったものではなく──。
『──それが私の存在理由だもの』
「まぁそう気負うなって。こっちの世界じゃ助ける為に使うんだろ?」
 誰かを助ける為──それは、征人が戦場へ向かう理由。彼の元で使うミーシャの力は、戦わせるために癒す力ではない。生かすために癒す力だ。
 征人はイジェクション・ガンを空に向けて構えて撃ちだした。雨のようにライヴスが味方へ降り注ぎ、彼らを治癒していく。

 志恵の銃弾がGーYAを援護すべく──しかし誤射しない程度の距離を保ちながら──マイゼを少しずつ掃討していく。
 その中でファルターとサブマシンガンで交戦していたGーYAは、足元に覚えのある感触を味わった。
(これは、ラオペの……!)
 畳みかけるようにファルターが接近してくる。その鎌が鋭く煌めいて──。
「ジーヤさん!」
 咄嗟に拓海が滑り込んで攻撃を受け止める。1度離れたファルターは、唐突な死角からの攻撃にその体を揺らした。
 ばさばさと大きく飛び回り、調子を戻そうとするファルター。その隙にGーYAは黒い影を払う。同時に味方から大きく離れたファルターへ、刃の嵐が降り注いだ。
 刃の嵐は狙いのファルターこそ躱されてしまったが、その下や周辺にいたラオペやマイゼを多数倒していく。
「規佑、来るぞ!」
 拓海の声と共に再び向かってきたファルター。その攻撃を槻右は紙一重で回避した。
 ファルターはリンカー達の方へ戻ってきたことで銃や弓、ロケットアンカー砲の集中砲火を浴びる。形勢不利を感じたか、方向転換しようとするが──。
「……逃がさないよ」
 若葉の矢が羽を射抜く。
 飛ぼうとするものの飛べるだけの力がなく、段々降りて来たファルターへ拓海とGーYAは同時に連撃を浴びせかけた。

 通信機に様々な声が飛び交う。
『僕のいるあたり、大分、片付いたよ』
『あたしのところはもう少しだねェ』
『ファルター、最後の1匹倒した!』
『志恵さん、撤退する?』
『……いいえ、もう少し粘らせてください。援護はお任せを』
『あと少し、頑張ろう』
 とめどなく向かってくる従魔たち。各々のスキルも尽き、少しずつ回復アイテムもなくなる中戦って戦って戦って──。


●静寂

「──ぁ」
 誰の声であっただろうか。いや、誰もが同時に発したかもしれない。
「……終わ、った?」
 呆然とした呟きに、何人かが弾かれるようにしてモスケールでの索敵を始める。
「俺の方は特に反応ないよ」
「こっちも大丈夫そうだ」
 モスケールの範囲外にいてはわからないが、少なくとも目視でも動くモノは見当たらないようだ。戦闘の終わりに誰からともなく深い息を吐く。
「まだいけるはもう危ない、と言うが……」
「……ん、至言だったね……つかれたー」
 共鳴を解いた遊夜とユフォアリーヤが言葉の通り、疲れた表情を浮かべて呟いた。
 本当に、あと少しでも敵が多かったら危なかった。
 戦闘による緊張が解れれば、思い出したかのように傷は痛み始めるもの。
「おっと、無理して動いちゃダメっすよ」
 呻き声に征人が駆けつけ、多めに準備していたアンプルや欠片を融通する。全員が全回復というわけにはいかないが、多少は良いはずだ。
「……どうにかなったか」
 非共鳴状態となったラドシアスは息を吐くと、徐に視線を動かした。間も無くして辿り着くのは紫の瞳。持ち主の表情が幾らか和らぎ、その唇がラドシアスを愛称で呼ぶ。
 ラドシアスもまた、エルの名を呼ぶとそちらへ足を踏み出した。
「皆、お疲れ様!」
「若葉も、お疲れ様」
 薙は親友の──若葉の元へ寄ると、軽く掌同士でタッチ。にっと笑い合えば、同時に安堵の思いも込み上げる。
(ああ、よかった)
 何の為にここにいるのか。何の為に戦いに赴くのか。薙にとってその答えは『みんなが笑って過ごせる日常の為』。
 誰かが欠けたら『みんな』ではなくなってしまうのだ。
「ふー……漸く人心地着いたね」
「ああ。規佑も無事でよかった」
 拓海は槻右から向けられた笑顔にほっと安堵の表情を見せる。だが、彼らの英雄たちは──。
「まだ鱗粉が粉粉してる気がしますっ! リサ姉早くお風呂入りたいです」
「そうね、早く綺麗にしたいわ」
 やや居心地悪そうな千とメリッサ。共鳴して意識は内にあったとはいえ、2人とも女性なのだから当然か。
 何度も目視で確認し、ようやく敵がいないことに安堵した志恵の元へGーYAが赴いて声をかける。
「腕、衰えてませんよ。助かりました、ありがとうございます」
「こちらこそ……とても頼もしかったです。私がいなくても、皆さんなら問題なく任務遂行できたかもしれない」
「そうかもしれないけどよぅ」
 志恵がそちらを向くと、三味線を持ったサヤがにっと笑った。
「あんたの1歩は、皆が踏み出す1歩に繋がるサ」
 1歩、2歩、3歩。
 歩み続ければ行進となり、輪となり、波となって広がっていく。些細かもしれないが、大事な1歩目だ。
 それにしても、とニノマエが小さく息をつく。
「ノリは良かったが、ミツルギの三味線は踊るにゃ少々辛気臭い」
「なに、この次は他の曲も聞かせてやるよぅ」
 な? とサヤが志恵へ視線をやれば、彼女は目を瞬かせた後に小さく笑みを浮かべて頷いた。


 一同は船に乗り、後ろを見遣る。
 白く、時の流れが止まってしまったような世界。愚神たちを倒したところで、異界化が解除されるわけではない。
 それでも──これは、世界を救うための確かな1歩だった。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 難局を覆す者
    久兼 征人aa1690

重体一覧

参加者

  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 分かち合う幸せ
    隠鬼 千aa1163hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • 共に歩みだす
    魂置 薙aa1688
    機械|18才|男性|生命
  • 温もりはそばに
    エル・ル・アヴィシニアaa1688hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • 難局を覆す者
    久兼 征人aa1690
    人間|25才|男性|回避
  • 癒すための手
    ミーシャaa1690hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 不撓不屈
    ニノマエaa4381
    機械|20才|男性|攻撃
  • 砂の明星
    ミツルギ サヤaa4381hero001
    英雄|20才|女性|カオ
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