本部

Explorer

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/09/28 22:50

掲示板

オープニング

●これまでのあらすじ
 ビッグベンド国立公園内に突如発生した複雑な洞窟。内部エコー調査により、その洞窟は内部総延長が100kmにも及ぶ可能性がある広大な物であることが判明した。サンクトゥス洞窟システムと名付けられたその洞窟は、非常に高密度なライヴスが滞留し、一般人はおろか、共鳴していなければリンカーさえもまともに立ち入る事の出来ない空間と化していた。
 そのため、つい先日8名の勇敢なエージェントが派遣された。彼らは怪我も恐れずに探索を敢行、洞窟内に発生するライヴスを吸収し、探査用のエネルギーへと変換する特製の探査プローブを打ち込む事に成功した。

 これは、それからおよそ一週間ほど経った後の出来事である。

●問題発生
 君達は、ニューヨーク支部からの招集を受けてブリーフィングルームにやってきた。サンクトゥス洞窟システムのさらなる探索を行うため、テキサス州まで向かう事になったのである。そんな君達を、オペレーターは真面目くさった顔で出迎えた。スクリーンにプローブから送られてきた地形情報を映し、早速説明を始める。
「プローブ設置以降、サンクトゥス洞窟システム内部のライヴス反応は安定状態となりました。高濃度のライヴスによってダメージを受ける事無く探検する事が可能となりました。……前回は危険で探索出来なかった地点についても探索を行うのが、今回の皆さんの任務です」
 地形情報に矢印が書き込まれ、探索すべき場所が記される。 
「その上で最も優先されなければならない仕事が、洞窟に侵入した従魔の討伐です」
 地底湖を通り抜けた先にある空間に紅い丸印が刻まれた。
「不安定なライヴスを安定化させることで安全な調査が可能となりましたが、従魔が潜伏場所として利用しやすい環境となってしまった事も否めません。これについては、現在早急に対応策を練っているところですが……」
 オペレーターは周囲を見渡す。
「また、前回の探査によって、オーパーツとは言えないものの、内部から遺物が発見されています。可能ならばこれも回収してください。宜しくお願いします」

●再び洞窟へ
 そんなわけで、君達はライトで洞窟を照らしながら洞窟内部へと足を踏み入れた。前回の調査データで確認したような、青いライヴスの光は既に無く、ただの静かな鍾乳洞となっていた。
 しかし、耳を澄ますと地の底から唸るような声が聞こえてくる。少々厄介な従魔に侵入されてしまったようだ。

 君達は頷き合うと、洞窟の奥地を目指して歩き出した。

解説

メイン サンクトゥス洞窟システムに侵入した従魔を排除する
サブ 洞窟内部に存在する遺物を回収する

ENEMY(PL情報)
☆ドラゴン型従魔
 腹が黄金に覆われた巨大なドラゴンの姿を形どった従魔。内部の霊石を採掘吸収したためか、急速に脅威度を増しつつある。
●脅威度 ケントゥリオ級
●ステータス 魔攻、生命力高め
●スキル
・黄金の鎧
 黄金色に結晶化した腹部の鎧は、刃も通さず魔法も跳ね返す。しかし、未だ成長途中なのか穴がある。
[腹部への部位攻撃による最終ダメージは9割減少する。ただし、プレイングにより無効化可能]
・白の焔
 この洞窟に漂うライヴスを圧縮して放つ火炎ブレス。
[正面範囲4。防御、回避に失敗した時、減退(2)を受ける]

FIELD
●白の地底湖
 元は高すぎるライヴス濃度により手練れのリンカーすらも脅かす驚異の湖となっていた。しかし、プローブの設置により、リンカーならば無理なく進入可能となった。……従魔もだが。
[水底に潜ることで、いくつかの分岐路を発見する事が出来る。]
●青の鉱脈
 脇道に逸れると、青色の霊石の鉱脈が発見できる。一般的な物より純度が高い様子。持っていると力がみなぎってくるような気もする。回収してみよう。
[所有していると生命力が毎ターン1回復する。ただし多く持ちすぎるとダメージになる。]
●巨大な穴
 暗くて底が見えないほど深い穴。落ちても怪我はしないだろうが、登ってくるのは大変かもしれない。
[底には大理石の彫像が、腕や脚、頭が欠損した状態で落ちている。]
●竜の間
 ドラゴン型の従魔が侵入した洞窟の奥地。広さは半径10sqほどのドーム型。巨大なドラゴンが待ち構えているため、非常に窮屈。
[ドラゴン型従魔に遭遇する。]

ITEM
●ミミズク二号
 仁科恭佳の作った地形探査装置。洞窟内部の地形や現在地を簡易的に示す。
[地理情報は予めPC情報となる。]

リプレイ

●ライスナー・ノルドシュトルム
 地の底から響く叫び声。薄く発光する水面を見つめ、彩咲 姫乃(aa0941)は憂鬱そうな顔をする。先日の嫌な予感が当たってしまった。
「おい、本当に悪い黒幕が入り込んでんじゃねえか」
『ご主人、言霊って知ってますかニャ?』
 朱璃(aa0941hero002)は屈んで姫乃を見上げ、ニヤリと笑う。姫乃は眉間に皺を寄せると、朱璃の両頬を掴んで引っ張り回した。
「俺は悪くねえ!」
『うにゃにゃにゃ……あたらニャいでください』
 二人がそんな事をしている間にも、地の底の従魔は再び吼える。その度に、水面がさらさらと波を立てた。湖を覗き込んでいた世良 霧人(aa3803)は、曖昧に顔を顰める。
「……何か厄介なのが棲みついちゃったみたいだね」
『先にどうにかしておいた方が、安心して探索できるでしょうか』
 クロードは霧人と顔を見合わせる。
「ああ。中に従魔の類がいるなら、まずはそれを排除した方が良い。探索に専念できる状態を作った方がいいだろう」
 迫間 央(aa1445)は霧人達の呟きに応えると、南瓜をくり抜いたようなランタンに火を灯す。手を離すと、ランタンは彼の目の前でふらふらと漂い始めた。先日よりもさらに浸食が進んだ洞窟を見渡しながら、央は通信機を手に取る。
『どうやら、無事に使えそうね』
 耳元に当てると、ノイズは少ない。マイヤ サーア(aa1445hero001)はほっと呟いた。
「天然の洞穴に見えるが……異常なライヴス濃度といい、この環境自体が何者かに作られたものである可能性はあるだろうか?」
「確かに前回は人工物が見つかっているんですよね……」
 ナイチンゲール(aa4840)は首を傾げる。石で出来た額縁状の物体。調査によれば、特にオーパーツであるとかいった要素は無かったが、こんな洞窟の水底に沈んでいた理由は皆目見当がつかないとの事だった。墓場鳥(aa4840hero001)はナイチンゲールの口を借りて呟く。
『いずれにせよ、この空間についてはあらゆる可能性を考えておく必要があるだろう』
「うーん……」
 荒木 拓海(aa1049)は耳を澄ませる。黒板を引っ掻いたような嫌な音も聞こえてくる。
「洞窟と言えばドラゴン……っていうのはファンタジーの相場だよな」
『実際に対面したら厄介この上ないわよ。今から何だかいい気がしないもの』
 わくわくするような、はらはらするような口調の拓海に対して、メリッサ インガルズ(aa1049hero001)は厭そうに零した。
「そうだな。気を付けておかないと」
 拓海達が気を引き締める横で、君島 耿太郎(aa4682)とアークトゥルス(aa4682hero001)は神妙な顔をして湖面を見つめていた。見るからに毒々しい輝きは今や薄れ、岩肌を僅かに照らす程度の光しかない。
「前に見たのって多分ものすごく大事っすよね。もう一回確認できればいいんっすが……」
 アークは水辺に跪き、そっと水面に手を差し入れる。人肌よりやや冷たい。ライヴスも僅かに感じられるが、前回の身を脅かされる程の力はない。
『環境が大きく変化しているからな……だが、色々と試してみるとしよう』
 そんな二人の下へ、イーヴァン(aa4591hero002)と伴 日々輝(aa4591)が歩み寄っていた。
『どうなさった、叔父上?』
 イーヴァンがアークに尋ねる。アークはおもむろに立ち上がると、湖を指し示す。
『出立前に話したことについて、少し考えていた』
『なるほど……ですが、まずはこの依頼の完遂を求めようではありませんか。その方が、落ち着いて探索が出来るというものです』
「そうっすね。……てるてるも、よろしくお願いするっす」
「うん」
 二組は共鳴すると、素早く湖へと飛び込む。澄んだ水は、相変わらず彼方まで良く見える。
『(……こうしてみると、幾つも道があるようだな)』
 落ち着いて見渡すと、奥に幾つも闇が口を開いているのが良く見えた。

 氷鏡 六花(aa4969)はじっと水面を見つめていた。やがてアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)の手をそっと引き、湖へと足を踏み入れる。
「……行こ、アルヴィナ。さっきから唸り声……耳障りだから。さっさと、殺しちゃおう。従魔が洞窟の外に出て、誰かが……被害に遭う前に」
 水底が見える程澄んだ湖を前にしても、少女の眼はくすんでいる。アルヴィナは物憂げに六花の横顔を見つめた。ふと、六花は頬に笑みを作って振り返る。
「……ん。大丈夫……だよ。“人を守りたい”のは……六花も、ニューヨークの支部長さんも、一緒……だから。誰も、悲しませない。そのために……殺すの」
『ええ……わかったわ』
 二人は共鳴する。一気に湖に飛び降りると、ペンギンのように素早く泳ぎ、一際大きな水底の穴を突き進む。石筍の狭間を抜けると、岩肌に跳ね返る金色の光が見えた。

●カー
 狭く、険しくなった洞穴の果ては、荒々しく削られた峻厳な空間になっていた。深紅の鱗を持つ竜が、空間の奥に陣取り紅く輝く岩肌に牙を突き立てている。大量の霊石をその身に押し込め続けているのだ。イーヴァンは槍を取り、振り回して空を切りながらからからと笑う。
『やあやあ、何だかこいつ見覚えがあるぞ! ある城の地下に二匹くらいいたっけなあ』
「これだから中世騎士は」
 小山のような体躯の怪物を前に呑気に構えるイーヴァン。日々輝は呆れて呟く。食事に夢中だった竜も、エージェント達の存在に気が付いたらしい。岩肌から離れて牙を剥き出す。
 ファフニール。伝説の竜の逸話がナイチンゲールの脳裏を過ぎった。
「まさか、元はドワーフだった、なんてことは無いと思うけど……」
 ここは北アメリカ大陸だ。北欧の伝説など関係ないだろう。しかしその姿は、どこかで読んだ物語の中に出てきたような気もする。
「黄金をお腹に抱く竜……まるで」
 あれこれ考えていると、不意に墓場鳥が意識の表層まで顔を出してきた。
『私が出る』
「え? ちょっと……」
 墓場鳥が鞘からレーヴァテインを解き放つ。溢れたライヴスに反応し、竜は洞穴の奥から一気に這い出して来た。それを合図に、神速で姫乃が動き出した。
「先手必勝ってな!」
 背中に炎の輪を浮かび上がらせ、姫乃は洞窟の壁の凹凸を蹴って器用に駆け登る。竜は羽虫でも見るような眼で姫乃を追いかけるが、頭が天井を擦り、それ以上首を回せずにいる。攪乱戦法は効果覿面だった。
『瓶の口よりも大きなものが瓶の中に入っている事がありますニャ。林檎だったり船の模型だったり。林檎は小さい時に入れて成長させ、模型は部品を一つ一つ中で組み立てたりしますニャ』
 天井の結晶に掴まって竜の頭上を取ったところで、朱璃はぽつぽつと話し始める。
「いきなり何の話だよ」
『この蜥蜴は果たしてどれでしょうね?』
「そういうのは頭のいい学者様とかに任せる。――俺がやるのはぶっ倒す事だけだ!」
 竜は姫乃の追跡を諦めたのか、視線を地上へ戻して口蓋を開いた。口元に輝きが満ちていく。刹那、姫乃は結晶を手放し竜の脳天に降り立つ。
「はい、針殺のお時間ですよー。和服のナースが注射に来ましたよっと」
『ますたぁ、それ感じ違いますニャ』
「ノリに深く突っ込むな――」
 二指に挟んだライヴスの針を射ち込もうとするが、強靭な鱗は針を弾いて何処かへ飛ばしてしまった。姫乃は口を尖らせるしかない。
『流石に針一本じゃ殺せねーデスニャ』
「ならこの女郎網でなぁ……!」
 姫乃は両手で綾取りするようにライヴスの網を創り出す。正式名称女郎蜘蛛。名前すら呼べない主に、朱璃は溜め息を吐くのだった。
『そんなに蜘蛛って言いたくないデスか?』
 擲った網は、竜の口を包み込む。口が塞がれ、細い炎がふらふらと口元から溢れた。竜は唸り、強引に口蓋を開いてワイヤーを引き千切る。その剛力を下から眺め、リサは息を呑む。
『前回はいなかったんだとしたら、一週間でここまで大きくなった、って事になるわよね。……このペースで育ち続けたら地上には出られないんじゃないかしら』
「地球を食い潰すか、異界へ通じる穴をここに開ける気なのかもな」
 拓海は手斧を手の内でくるりと回す。両の刃が三日月のように輝きを放った。
「正面からは行かないで、攪乱を意識しよう……」
 素早く飛び出すと、竜の首筋目掛けてライヴスの衝撃波を放つ。竜は眼を剥き、首だけを蛇のようにくねらせ拓海を追いかけた。拓海は腹側へ潜り込み、そのまま竜の後足を蹴って背中へと回り込む。翼を広げて振り落とそうとするが、拓海は耐えて首を駆け登っていく。
『蚊のイメージかしら? 近くを飛び回られると鬱陶しいわよね』
「人を世界一殺してる生物は蚊さ。侮れたもんじゃない」
 再び拓海は斧を振り回し、衝撃波で竜の頭を弾き飛ばした。竜は素早く首を戻すと、拓海目掛けて鋭くブレスを吐き出す。盾を構えたクロードは素早く割って入り、白い炎の奔流を受け止めた。盾が白熱していく。クロードは勢いよく盾を振るい、炎を一息で振り払う。
『危ないところですが、凌ぐ事は出来そうですね』
「でも、こんなに炎をばら撒かれたら僕達は動き回れないよ」
『一気に攻め込めると良いのですが……』
 クロードは首を擡げた竜を見上げる。腹には金色の結晶が生え揃い、鱗のように折り重なって腹部を守っている。
『腹の部分が金色の鎧を着ているかのようになっています。簡単に攻撃は通らないかもしれませんね』
「んー……」
 霧人は目を凝らす。ぎらぎらした輝きに、一つだけ隙間が見える。結晶が生え揃わず、白く柔らかい皮膚が剥き出しになっていた。
「所々穴もあるみたいだよ。でも、爪の近くに身を晒すリスクを考えたら、わざわざそこを狙わなくても良いかな……?」
『……いや』
 アークは星の模様が刻まれた剣を抜き放ち、その刃にライヴスを込め始める。竜の堅牢さと狡猾さはよくよく理解していた。竜を仕留めるには、その僅かな隙を突くより他にない。
『弱いからこそ守る。つまり狙うべくはそこだ』
 竜は半ば這いずるようにしてエージェント達へ距離を詰めてくる。腹の結晶は刃のように尖っていた。
『とはいえ、あの刺々しい鎧では近づく事もままならないな』
 イーヴァンは盾を構えて駆け出す。リフレックスを起動し、ライヴスの光で盾を鏡面のように仕立てた彼は、洞穴の壁を背にして竜を見上げた。
『その有様じゃ、これは結構お気に召してくれるんじゃあないか?』
 盾には竜の黄金の鎧が映る。輝く光に気付いた竜は、牙を剥き出しにして突っ込んできた。イーヴァンは身を翻すと、開かれた上顎に盾を叩きつけ、敵の力も利用しながら竜の牙を弾き返す。
『本物の竜はもっと狡猾に仕掛けて来るぞ? それでは馬鹿な野犬のようだ』
「身を預けてる方はひやひやするけどな」
 竜が吼える。岩肌から生えた結晶が共鳴して震え、次々に割れていく。央は天井から生えた結晶の狭間に飛び込み、洞窟全体を睨みつける。
『この調子だと、岩盤まで砕かれてしまいそうね』
「早めに仕留めるか。探索に支障が出るようなダメージを洞窟に与える訳にもいかない」
 割れかかった水晶を蹴り、央は竜の眼前へと飛び込む。竜は牙を剥き出して央に喰らい付いた。しかし、牙がその身に突き刺さった瞬間、彼の身体は霞のように消え去る。
「そいつは幻だ」
 懐に降り立った央は、抜き放った叢雲の切っ先を竜の鎧に捻じ込んだ。てこの原理で剣を鎧に食い込ませ、強引に引っぺがしていく。ミシミシと音が鳴り、結晶が皮ごと剥がれて地面へ落ちた。苦悶に呻いた竜は、央へとブレスの狙いを定める。
『そこだ』
 アークが一気に竜の懐へと潜り込み、ライヴスを纏わせた刃を開かれた鎧の隙間に叩き込んだ。鋭さを増した刃は竜の白い腹を易々と切り裂く。肉が剥き出しとなり、金色の血が溢れた。竜は呻き、仰け反る。
『洞窟に竜……まるで御伽噺か英雄譚ね』
「……なら、六花は竜を殺す英雄なのかな」
 六花は冷たい瞳で竜を見上げ、断章を開く。オーロラの翼を広げ、霊力を放って氷の槍を創り出す。あらゆる憎しみを込められた槍は、切っ先が黒く澱む。
「六花も、同じ事が出来るかな」
 六花は目を閉じて念じる。周囲の霊力を、その身に溶かし込むようにイメージを思い描く。一瞬、無数の光を歪める虚無が彼女の視界を埋め尽くした。次の瞬間には、槍の全てが黒く染まる。六花は冷たい眼で敵を見据えると、槍を竜へ向かって投げつける。飛び散った氷の鏡が槍を分裂させ、次々に竜に突き刺さる。身体の一部が凍り付き、その動きが鈍った。拓海は六花に向かって叫ぶ。
「六花ちゃん。竜の口を狙ってくれ!」
「わかり……ました」
 竜は六花に向かってその口蓋を開く。白い輝きがその口を満たした。六花は素早く氷槍を投げつける。殺意に溢れた霊力は、竜の口蓋に突き刺さり、見る見るうちに凍り付かせていく。輝きは失せ、竜はその場で固まった。
「ついでにこいつも……喰らえ!」
 拓海は素早く反応すると、開きっぱなしとなった口蓋に向かって一気に飛び込む。魔剣を振り抜き、凍り付いた牙を砕き、舌を切り裂いた。飛び散った血飛沫で岩肌が黄金に染まる。
 その好機を見逃さず、動き回っての観察に徹していた墓場鳥が動き出す。
『生を望む若者よ。力を授けよう。お前に最も似つかわしくない、死を齎す為の力を』
「(そんな、急に改めて何を……)」
 戸惑うナイチンゲール。しかし墓場鳥は止まらない。
『研ぎ澄ませろ。我が一挙手一投足、筋の脈動、微かな呼気さえ見落とすな』
 無用かも知れないと思った。しかし、ナイチンゲールが王との対峙を望むなら、僅かにでも可能性は拡げなければならない。そう墓場鳥は決意していた。
『竜……我が本領を解き放つに余りある相手だ。往くぞ』
 竜は渾身の一撃を叩きつける。ステップを踏んで左右に避けると、竜の後足へと回り込む。墓場鳥を狙って竜が身を持ち上げた瞬間、墓場鳥は一気に全身のライヴスを解き放つ。後足に向けて刃を振り抜き、鱗に僅かな罅を入れる。
『……はぁっ』
 さらに墓場鳥は一息の内にさらに八つの刃を叩き込む。罅の入った鱗を砕き、皮膚を裂き、筋を断つ。更には骨さえ断ち切り、竜の巨体を横倒しにしてみせた。
『一分の隙も与えるな。揺るがぬ心を以て断ち切れ』
 墓場鳥は跳び上がると、剥き出しになった胸元の穴に向かって、柄も通れと刃を突き立てた。竜は断末魔の叫びも無く、ぐったりと崩れ落ちる。
『慈悲を与えんと願うなら、苦しみも無いうちに生を終えるのだ』
「……苦しみも、無いうちに」
 ナイチンゲールが墓場鳥の言葉を何度も反芻するうちに、竜の身体が消滅していく。後には腹に張り付いていた黄金の霊石だけが残されるのだった。

●シュヴァルツシルト
 地底湖に戻ったエージェント達は、そのまま周辺の探索へと移った。央と拓海、霧人がまず向かった道の先には、燐光を放つ霊石が叢生していた。央は素早く駆け寄ると、短剣の切っ先を鉱脈に叩きつけて砕く。手に持つと、霊石は俄かに熱を持つ。一瞬だけ力がつくような気がしたが、周囲の霊石までも反応を始め、大量のライヴスに当てられた央は少し頭がのぼせた。
『濃すぎるライヴスは命を脅かす事にもなるわ。自分の許容量を見誤らないで』
「一つ二つ程度なら有用そうだがな……あまり数を持つべきではないな。自身のコンディション優先だ」
 立ち上がった央は、一歩二歩と鉱脈から離れ、背後で様子を見守っていた拓海に霊石の欠片を一つ放る。
「取っとけ。あれにちょっともらっただろう」
「ありがとう。受け取っておくよ」
 拓海は青い霊石を握りしめる。全身を包み込むような充足感と共に、幾つも刻まれた傷が少しずつ塞がっていく。
『微々たるものだけど、確実に効果はありそうね』
「持久戦になればなるほど、効果が受けられそうだ」

 一方、姫乃は細い脇道に身を屈めて入り込んでいた。鍾乳石の隙間から、尖った霊石が幾つも顔を覗かせている。姫乃はリボルバー銃を手に取ると、根元に撃ち込み結晶を砕いた。
「さっき見つけた鉱脈以外にも、けっこう色んな所から霊石がはみ出てんだな」
 緑色に輝く霊石を手に取り、姫乃は掌で転がす。
『多少抑え込んでも、まだまだ量はすごそうデスニャ』
「で……これは?」
 姫乃は幻想蝶から別の結晶を取り出す。竜が斃れた時に残った金色の結晶だ。
『性質としては似てる気がしますニャ。竜の中で濃縮でもかけられたんデスかね』
「この洞窟の財宝をがっちり溜め込んでた、ってわけか……」

「これでどうだい? そう簡単には解けないと思うけど」
 拓海は仲間達のザイルやロープと合わせて結び上げ、イーヴァンへと手渡す。彼はそれを受け取ると、両手でぴんと張って確かめる。
『これだけの長さと強度があれば問題ないな。すぐに降りるとしようか』
 イーヴァンはロープの端を掴むと、一気に穴へと飛び出す。岩壁に何度か張り付きながら、穴の底まで降りていく。ライトアイで視界を確保すると、底に広がる光景が目に入ってきた。
『何だ? 古代文明の遺跡のようだな』
 そこには大理石の柱や陶器の破片が転がっていた。文明の及ばない洞窟の底とは思えない光景だ。底の中心には、腕や頭の欠けた大理石の像が無造作に横倒しになっていた。
「……ニケ?」
 降り立ったイーヴァンは、カメラを取り出して像や周囲の写真を撮っていく。
『ギリシアの彫刻や建造物は、かつては彩色されていたとも聞くが、どうだろうね』
「そんな感じの様子は見えないけどね」
 首を傾げていると、ロープを握った央が崖を駆け下りてきた。上でもう片方を握りしめた拓海が、日々輝達に向かって手を振っている。
「とりあえずそれで結び付けてくれ! 俺達が引っ張り上げる!」
『ああ分かった。任せてくれ』
 日々輝達が彫刻をロープで結んでいるのを横目に、央は素早く穴の周囲を見渡す。鰻の寝床のような穴が、幾つも空いているのが見えた。
「あの穴……まだ幾つか先があるようだな」
『といっても、犬か猫くらいじゃないと入れないわよ』
 マイヤの言う通り、人間では頭を突っ込むのがやっとに見えた。
「もしあの竜の原型がああいったところから湧いてきたんだとしたら、少し厄介だな」
 二人がやり取りしていると、樹氷の箒に跨った六花がすいっと頭上へやってくる。
「……見てきますね」
 ライヴスゴーグルを掛け、六花は傍まで近づいて穴の中を覗き込む。小さな穴の向こうにも、霊石の鉱脈が幾つも見えた。
『本当にここは霊石の鉱脈が豊富なようね』
「塞げないかな……ここが従魔や愚神の餌場になったら嫌だし……」
『そうね。確かに無防備のままにしておくのはマズいかもしれないわ』
 六花が見つめているうちに、青く輝く霊石は凍り付いて白霜に包まれていくのだった。

 ウェポンライトを投光器代わりに、霧人は穴の底を照らす。隣ではクロードが幻想蝶から釣竿を取り出し、底へと糸を垂らそうとしていた。
『こちらまで上がる時にはこれに――』
「いや、流石にそれじゃあ底までは届かないんじゃない?」
 クロードに苦笑しつつ、霧人は穴を見渡す。成長が早すぎる、という事以外は普通の鍾乳洞だった入り口周辺。それに比べると、この穴は何処か不自然だ。
「(……何だろう。何かで削り取られたみたいだ)」
 そこで霧人は気付く。ノミか何かで削りだしたように、開いた穴が綺麗なのだ。それを見ていた霧人は、やがて一つの可能性に気付く。
「ここってさ、異世界の場所がそのままこっちの世界に転移してきた場所だって事は無いかな。今まで無かった洞窟なのにどう見ても人工的なモノが落ちてるし、今はプローブを打って落ち着いてるけど、リンカーだって奥には立ち入れない程ライヴス濃度が凄い事になってた。鍾乳石だって、もう成長したものがそのまま来たと考えれば自然じゃない?」
「……異世界が転移してきた、ですか」
『確かに、ライヴスの濃い場所は異世界からの影響を受けやすいという事もあるか』
 ナイチンゲールと墓場鳥は穴を見下ろす。どこからともなく吹いた風が、彼女達の肌を妖しく撫でた。

 水路を通り、再び地底湖へと戻ってきたエージェント。クロードは改めて広い水面を見渡していた。
『そういえば、あのドラゴンは何処から来たのでしょうか? あの巨体、外から入って来たとは思えません』
「ここはライヴスで満たされてるし、湧いて出たのかな……?」
『他にもまだ居るかもしれませんね?』
 そんな事を言って、クロードは再び釣竿を取り出す。
「……釣り上げる気?」
 クロードと霧人がそんなやり取りを続けている間に、耿太郎とアークが段取りの確認を始めていた。
「なんで前回見れたかの確認も同時にする感じっすよね」
『そうだな。多量のライヴスが原因であれば今回は厳しいかもしれんが……』
「確かに、ここならまだライヴスの量がありそうっすね」
 アークと耿太郎の会話を横で聞いていたイーヴァンと日々輝は、共に顔を見合わせる。
『ライヴスを通わせる。……ふむ。ならば、だ』
「お前が何か思いついた顔する時って絶対ロクな事じゃないと思うんだけど」
 再び共鳴した二人は、幻想蝶を手に取り湖に足を踏み入れる。
『最も強く誰かを認識し、互いのライヴスの流れを意識する行動……つまりは、誓約さ』
「……そうか。良い機会かもね」
 二人は目を閉じると、静かに意識を集中させていく。互いに結ばれた絆を解き、改めて結び直していく。
『諦めること、抗わないこと、逃避することを許さない』
「より良い結果を追い求め続ける」
 その瞬間、少しずつ湖に波が立ち始めた。それを確かめたアークと耿太郎は、周囲の仲間達の顔を見渡す。
『出立前にお伝えした事をこれから実行する。お力添え頂きたい』
 湖を介したクロスリンクの構築。エージェント達は頷き合い、続々と湖の中へ足を踏み入れた。

 湖に身を浸し、姫乃はそっと目を閉じる。星、月、太陽を模したネックレスを握りしめ、彼女は意識を湖のライヴスへと融かそうとする。
「銀河が見えたって言うなら、月の光くらい探せばあるか……?」
『なーんか変な感じがしますニャ』

「(雪娘……愚神達……奪われた命……)」
 湖に肩まで浸かり、拓海はこれまでの戦いに思いを馳せる。多くの人が犠牲になった。愚神達ももれなく死んでいく。共に居る英雄や、友人や、家族の姿を、拓海は強く心の奥に刻んだ。
「(これ以上、犠牲は増やしたくないし、大切な人は失いたくないな)」

『……』
 再び霧人と共鳴したクロードは、湖の中でライヴスを放っていた。大切な家族の事を想いつつ、世界そのものへと心を寄せる。
「(僕も、頑張らないと)」

 刹那、世界が暗転した。無限へと放り出されたような心地がして、八組は咄嗟に目を見開く。

「ブラックホール……」
 耿太郎は息を呑む。先日見えた銀河の姿は様変わりし、巨大な虚無がエージェント達に対峙していた。周囲に広がるガスだけが、辛うじて中心にある存在を知らしめている。
『周囲の恒星は……吸い寄せられているのか?』
 ブラックホールを中心に、星々が周囲を巡っている。アークは目を凝らした。この幻視には意味がある。そう信じていた。
 ナイチンゲールは素早くミミズク二号を取り出す。とはいえそれは恭佳が座興で作ったアイテム。この場の役には立たない。ナイチンゲールはミミズク二号を仕舞うと、ブラックホールへ近づこうと試みる。
「……何時まで経っても近づかない」
『近づけないのだ。我々の存在そのものが、かの地に近づく事を拒んでいるらしい』
「そんな……」
 ナイチンゲールは歯痒い思いで銀河を見つめる。答えが目の前にあるのに。そんな気がしてもどかしい。
「多くの銀河には、中心にブラックホールがあるそうだ」
 マイヤと共にライヴスを通わせていた央も、天から俯瞰するように小さな銀河を見つめていた。中心のブラックホールが星々を喰らいつくそうとする銀河を。
『本当なら、周りの星が吸い込まれたりはしないはずよね』
「ああ。ブラックホールが吸い込める位置に星は存在しないからな」
『ならどうして、この銀河は星が吸い込まれているのかしら……』

「何となく、分かったっす」
 やがて、耿太郎がぽつりと呟く。
「これは、“王”と、俺達の世界全てなんだと思うっす」

「王の意志が、地球のライヴスを介して露わになっているんすよ、ここ」



 クロスリンクの輪には加わらず、六花はアルヴィナと共に湖を泳ぎ回っていた。他にも探索すべき地点は無いかと、石筍の間にも泳ぎ入って確かめていく。
「……」
 ふと、六花は水面に立っている仲間達を見上げる。その脳裏に浮かぶのは、銀河を呑みつくすブラックホール。
「皆も、見てるのかな」

 To be continued…

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 疾風迅雷
    朱璃aa0941hero002
    英雄|11才|?|シャド
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803
    人間|30才|男性|防御
  • 献身のテンペランス
    クロードaa3803hero001
    英雄|6才|男性|ブレ
  • Iris
    伴 日々輝aa4591
    人間|19才|男性|生命
  • Star Gazer
    イーヴァンaa4591hero002
    英雄|21才|男性|バト
  • 希望の格率
    君島 耿太郎aa4682
    人間|17才|男性|防御
  • 革命の意志
    アークトゥルスaa4682hero001
    英雄|22才|男性|ブレ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
前に戻る
ページトップへ戻る