本部

プール行こうぜ!七月だし

ガンマ

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
25人 / 0~25人
報酬
無し
相談期間
4日
完成日
2018/08/05 19:46

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掲示板

オープニング

●七月だし

「プール行こうぜ!」

 ある夏の日、H.O.P.E.支部での出来事だった。
 H.O.P.E.会長ジャスティン・バートレットの第二英雄、ヴィルヘルムが君達に一枚の紙を渡す。そこには、某所のレジャープールを貸し切ってゆっくり過ごしませんか――といった内容が記されていた。
 なんでも、レジャープールの経営者から直々にH.O.P.E.へ招待が来たという。日頃の活動の感謝、【狂宴】に関しての慰労、【界逼】に関しての激励が込められていた。つまり無料でいらっしゃいませ、ということだ。施設内に併設されている飲食コーナーについても自由という、至れり尽くせりである。
 ここのところ、【狂宴】【界逼】とエージェントは大忙しだ。それにこの猛暑。エージェントや英雄とて人である。たまには息抜きをしていないとやってられない。
「な! 最高だろ! 行こうぜお前ら! プールが俺様達を待っているッ!」
 ヴィルヘルムはワクワクに目をキラキラさせている。

 今日の気温も無事に三〇度を超えた。まことにファッキンホットである。
 支部の中はクーラーという無敵の守護で守られているが、一歩でも外を出れば地獄の業火に焼かれてしまう。
 こんな暑い日は――そう、プールで水遊びをして心も体もリフレッシュすべきではないのか? 否、すべきなのだ。何故なら七月はプールだからだ。プールに行こう。プールに行け。プールに行くのだ。

「ほら……プール行きたくなってきたんじゃない? プールはいいぞぉ……冷たいし、楽しいし、水着ギャルで眼福だからな! でっけえ水でダバダバできるってマジ最高じゃね? だろ? そう思うだろ? 決まりだな! よし!! プール行こうぜ!!!」

 オメーの水着姿、待ってるぜ。ヴィルヘルムは親指を立てた。

解説

●目標
 プールで遊ぼう。

●状況
 とあるレジャープール。貸切。
 善意で招待された状況なので、「バイトである」などのプレイングはNGです。
 時間帯はお昼~夕方ぐらいまで。

▼施設
▽流れるプール
 メインプール。大きくて広い!
 ウォータースライダーも併設。

▽子供用の浅いプール
 チビっこやカナヅチはこちら。
 噴水もあって楽しいぞ!

▽二五メートルプール
 ガチで泳ぎたい方はこちら。深め。

▽ジャグジープール
 疲労回復したい方はこちら。

▽飲食コーナー
 座席併設。一休みしたい時はこちら。
 ソフトドリンク、かき氷、ホットドッグ、タコヤキ、ヤキソバ、焼き鳥などなど……
 色々あります。善意の招待であるため、無料で使えます。

▼その他
▽水着
 このシナリオにおいて限定的に「ギャラリー参照」を許可します。
 浮き輪や水鉄砲、ビーチボールなどの持ち込みOKです。

▽NPC
・ジャスティンと英雄二人、
 会長とアマデウスはシンプルなハーフパンツ型水着。会長はアロハ着てます。基本的にプールサイドのベンチでまったりしてます。
 ヴィルヘルムはフリルとリボンの可愛らしい白ビキニ。流れるプール最高。

・綾羽瑠歌
 シンプルでレディなモノキニ水着。浮き輪に掴まって流れるプールでまったりしてます。

 絡みはご自由に!


※注意※
 「他の人と絡む」という一文のみ、名前だけを記載して「この人と絡む」という一文のみのプレイングは採用困難です。
『具体的』に『誰とどう絡むか』を『お互いに』描写して下さいますようお願い申し上げます。
 相互の描写に矛盾などがあった場合はマスタリング対象となります。(事前打ち合わせしておくことをオススメします)
 リプレイの文字数の都合上、やることや絡む人を増やして登場シーンを増やしても描写文字数は増えません。
 一つのシーン・特定の相手に行動を絞ったプレイングですと、描写の濃度が上がります。ショットガンよりもスナイパーライフル。

リプレイ

●プールの夏01
「ラシル、ヴィルヘルムさんからプールへ招待されました。ラシルは最近ずっと学園のお仕事が忙しかったでしょうし、気分転換しませんか?」
 月鏡 由利菜(aa0873)はリーヴスラシル(aa0873hero001)に一枚の紙を手渡す。ふむ、と蒼き騎士は文字を辿ると、顔を上げた。
「会長の第二英雄か……分かった。それにユリナの誘いでもあるしな」

 一方で、バルタサール・デル・レイ(aa4199)と紫苑(aa4199hero001)のやりとりは由利菜達とは対極的だった。
「毎日あっついよねー……あ、この依頼に申し込んどいたから、そろそろ出かけるよ。ささ、用意して」
 毎度ながら強引すら生温い紫苑のやり口。また勝手に、とバルタサールは溜息を吐くもそれに従う。貸切プールならタトゥーがあっても問題ないし、去年のビニールプールよりはマシか。

 というわけで七月某日。交通費も向こう持ち。希望者には送迎バス。状況は貸切。

「七月にプール」
「はい」
 到着したプールを一望。木霊・C・リュカ(aa0068)の隣で凛道(aa0068hero002)が頷く。
「……普通だね?」
「はい」

 そう、この溶けるような猛暑。
 涼みたいと思っちゃう七月。
 プールは当たり前のことである。

「プール? ホントに? ビニールプールじゃなくて?」
 実物を前にしても若杉 英斗(aa4897hero001)は懐疑的であった。「はぁ?」と六道 夜宵(aa4897)は片眉を上げる。
「なにが悲しくてビニールプールになるのよ」
「いや、俺にもよくわからんが、なにかこう、身体の奥底から訴えかけてくるというか……」
「ほら、馬鹿なことを言ってないで、早く行くわよ!」

 さてはて気もそぞろ、エージェント達は更衣室へ向かい――念願のプールへ。

「うわぁ、おっきいんだよ!」
 ピピ・ストレッロ(aa0778hero002)は目を輝かせた。ボーダー柄のセパレート水着に、可愛らしい水玉模様の三段フリルが愛らしい。隣にいるサーフパンツ姿の皆月 若葉(aa0778)もわくわくとした様子で頷いた。
「これを貸し切りなんて、すごいね」
「何から遊ぼう♪」
 二人はいそいそとパーカータイプのラッシュガードを脱いで、プールへ向かう。

「わーいプールだ、貸し切りだー!」
「楽しそうで何よりですね、お嬢様」
 はしゃぐプリンセス☆エデン(aa4913)に、Ezra(aa4913hero001)が笑む。エデンはアイドルチックなフリルたっぷりの可愛らしいビキニ姿。エズラはエデンが「エズラが自分で選んだら地味~になりそうだし!」という訳で選んでくれた、白と青のボーダーのマリンなサーフパンツだ。
「流れるプールいこ!」
 早速エデンがエズラの手を引く。「かしこまりました」と。エズラはワガママな妹の世話を焼く兄の心境で微笑んだ。

「ほほうここがプールでござるか! 楽しそうでござるな!」
 忍者である小鉄(aa0213)も今日ばかりは水遊び仕様――とはいえ覆面に黒いスポーツタイプの水着と、忍者らしさは残っているが。
「はしゃぎすぎて人様に迷惑だけはかけないようにね?」
 浮き立つ小鉄に稲穂(aa0213hero001)が言う。彼女の水着は、フリルたっぷりの可愛らしい赤ビキニだ。
「……コテツのそれはプールようかね?」
 そんな二人を見、フリル全力のタンキニを着たシキ(aa0890hero001)が問う。
「拙者は褌があると言ったのでござるが……」
「良いわけないでしょ、二人もそう思うわよね!? あ、ちゃんとプール用よ」
 相棒の言葉に稲穂は肩を竦める。うん、と頷いたのは十影夕(aa0890)だ。
「覆面に褌はやばみが増すと思う。どうやばいか説明できないけど」
 でも小鉄さんカッコイイね、と続けた。そんな夕の水着は、カラー切り返しの小洒落たサーフパンツ。去年の水着まだ着れるのに――という夕の意見そっちのけで英雄達が買って来たのだ。

 さあ、ちゃんと準備体操をしたら、楽しい時間の始まりだ!


●プールの夏02

「ホタル! エクトル! 流れるプールで遊びましょう!」

 きゃあと年齢相応にはしゃぎ、紫 征四郎(aa0076)は流れるプールを指差した。ワンピース水着にラッシュパーカー、浮き輪も持って準備万端。
 こくこく、と頷いたのは浮き立つ心地にちょっと頬を染めた時鳥 蛍(aa1371)だ。母親に好評なガーリーなホルターネックビキニであるが、肌を出し過ぎるのは恥ずかしいので半透明のラッシュパーカーを羽織っている。
 短パン型の水着姿のエクトル(aa4625hero001)も、浮き輪を持って友人達に続こうとする、が。コッソリそこから離れると……
「あのね、泳ぎ方教えて欲しいんだ……皆にはナイショで」
 ガルー・A・A(aa0076hero001)の手を引き、そう呟く。
「なんだ、エクトル坊は浮き輪なしじゃ泳げねぇのか」
 征四郎に聞けば教えると言い出しそうだが、とガルーが目を瞬かせれば、エクトルは恥ずかし気に顔を赤らめた。
「僕だけ泳げないのカッコ悪いもん……」
「あー。レディの前でそんなこと言えねぇよな。よしよし、泳ぎは教えてやる」
 などなど、歩き出す銘々。リュカは手をヒラリと振る。
「うんうん、番はしとくから荷物は気にせず遊んでおいで」
 リュカは太陽の光が体質的に駄目だ。ゆえにプールサイドのパラソルの下、でもちゃんと水着にラッシュガード、トロピカルな花飾りまでつけてプール気分は満喫だ。「ナンパされそうな愛され★カラフルコーデじゃない?」と本人はルンルンである。でもここだけの話、リュカはカナヅチである。とことんプールに愛されないサダメを背負っている。でもプール来たかったんだモン。
 一方、リュカの傍らでは凛道……と思しき成人男性がいた。ブーメランビキニにスイムキャップにゴーグル。個人の特徴が見えなくなっているが、キマっている。
「一番これがスピードがでます」
 スピードが出ると言ったが泳ぐとは言っていない。今日の凛道は子供達の笑顔を見守る正義のナイスガイだ。あまりジロジロ見ては子供達も遊びに集中できまいと、ベール型に広がる噴水の水の内側に身を潜める。イエス児童ノータッチ。子供達が溺れたりしたら大変だ。大丈夫、お兄さんがちゃんとここで見てあげてるからね。
「水しぶきがきらきら輝いて、まさに天使といった様子ですね……」
 ゴーグルが煌いているのは夏の仕業。
 この後、本当の警備員さんに不審者と思われて連行された。諸行無常。

 一方、夜城 黒塚(aa4625)は二五メートルプールで一心不乱に泳いでいた。「ガキとプールなんざ面倒だが、クソ暑いから一緒に行ってやる。クソ暑いからな!」とキツイ人相を更にキツくしてついて来た彼だったが、まあ口調からなんとなく察せる通り本人としてはノリノリである。
 水の中は無心になれる。黒地に青いサイドラインが爽やかなサーフパンツを身に着けている黒塚は、ストレス発散目的でひたすらひたすら、全力で泳ぎ続けていた。

 対照的に、シルフィード=キサナドゥ(aa1371hero002)は浮き輪に掴まり流れるプール、ゆったりまったり優雅なものだ。フリルで女の子らしさたっぷりのモノキニ姿で、白金の髪はタチアオイを象ったシュシュでポニーテールにしている。なお、手元には蛍から預けられた“会話用”のタブレットがあった。もちろんファスナー付きのプラスチックバッグに収納して防水している。
「たーのしーですわー!」
 故郷アーカリオン皇国に斯様なものはなかった。こうして延々と水に流され続けるだけで心が解れていく……一方で、蛍の方をちらと見ては、少し心配事があった。蛍と第一英雄の間で起きたトラブル。そのことについてシルフィードは知ってはいるが、言及できないでいた。
 しかし蛍は、そんなことを思わせないような表情で、征四郎と共に流れるプールを逆走せんと試みてキャッキャとハシャいでいる。
「よし! 次はながれにのって、きょうそうです!」
 征四郎がそう提案すれば、蛍はコクッと頷いて同意を示す。と、そんな時だ。征四郎はふと視線を感じてそちらを見やる。プールサイドで三角座りしている凛道が、(理由は知らないが)穏やかな表情でじっとこちらを見つめている。
「リンドウは見てるだけ、です? 泳がないのですか?」
「ええ……大丈夫……皆さんが溺れないように見守っているだけですので……」
 物凄い紳士的な笑みである。児童が浸かった水に自分が浸かるのは最早ギルティでは? とすら思い始めている凛道である。
「そういえばエクトルはどこでしょう……?」
 そうでしたか、と凛道に返した征四郎は友人の姿を探して視線を巡らせた。

「なんだ、結構筋がいいな。これならすぐ泳げそうだぜ」
 エクトルはガルーと共に泳ぎの練習の真っ只中である。水中にてガルーに手を握ってもらい、上手く浮力で泳ぐ練習。お陰様で、もう浮き輪からは卒業できそうだ。
「そうですか? もう大丈夫ですか?」
 褒められてエッヘンと得意気なエクトル。「ではいってきます!」と敬礼をして、征四郎と蛍のもとへ向かって行った。
「ん、」
 プールサイドを行くエクトルの姿を、ちょうどプールから上がった黒塚が目に留める。「なんだエクトル、浮き輪じゃねえのか」――と言いかけたところで諸々を察し、言葉をしまい込んだ。
 ではと黒塚は、エクトルが持ってきていた(めっちゃプリティなプリントの)浮き輪を使い、まったりと流れるプールに流されることにする。もちろん、チビ共を見守るのも忘れない。貸切なので変な輩に絡まれることがないとはいえ、迷子になったり溺れられたりすると面倒だからな。しょうがなくだ、しょうがなく!

「ん、ガキ共は大丈夫そう、だな」
 楽しそうにしているチビっ子たちを見やりつつ、ガルーはホッコリした表情だ。黒塚と共にチビ達を見守っているが、二人とも顔が怖い。威圧感が凄い。多分貸切プールじゃなかったら「児童誘拐犯かな?」と思われて監視員に声をかけられているレベル。
 とまあそんな自覚はつゆもなく、ガルーはホッコリ(顔は怖い)している。
「リュカちゃんも泳ぎ覚える?」
 そしてプールサイドで見学中のリュカへニヤリと振り返った。
「えっ…… お願いします」
 存外に乗り気なリュカだった。頬を赤らめて立ち上がる。そして繰り広げられるイイ歳した成人男性がイイ歳した成人男性の手を掴んで泳ぎを教えてあげる図。

『黒塚さんと並ぶと……遠目から見ても威圧感ありますね』
 一方、見守られている側の蛍はタブレットでそんな文字を打ち込んで、征四郎にコッソリ見せた。ガルーのことを話している。
「だいじょうぶです。かんだりはしません!」
 征四郎は堂々と言う。そんな犬みたいな……と傍らのシルフィードは密かに思った。とまあ、征四郎の相棒なのだ。悪人ではなかろう。
「おまたせしましたーっ」
 と、そこへエクトルが合流する。
「あら……どちらへ参られておられましたの?」
 しばらく見えなかった姿について、シルフィードが心配も込めて疑問を投げかける。「えっと、その」とエクトルはちょっと顔を赤くしつつも視線を惑わせると、
「ちょっとだけ遠回りしていまして!」
 コッソリと泳ぎの練習をしていたことに対する口実である。広義ではある意味、遠回りっちゃ遠回りであるため、嘘じゃない……多分。騎士は嘘つかない。
 しかしながらだ、ガルーに泳ぎの基本を教えてもらった甲斐あって、エクトルはバッチリ泳げるようになっていた。
「エクトル、泳ぎとっても上手なのですね」
 征四郎にそう褒められて、エクトルは得意気に「ありがとうございます!」と笑みを浮かべるのであった。
 さてそんな感じにアクティブに泳いでいる途中。蛍がタブレットを皆に見せる。『ウォータースライダー』と文字が打ち込まれている。行きませんか、とのお誘いだ。もちろんだと子供達は表情を輝かせる。

 貸切のいいところは、並ばずにウォータースライダーを遊べちゃうところ。
 曲がりくねったチューブに冷たい水が流れている。そこから、「きゃーーー」と楽しげな子供達の声が響く。

「おー、滑ってるねえ」
 見えないけれど、歓声から状況を察したリュカが顔を上げた。プールサイドでは、満面の笑顔で「凛道お兄ちゃーん!」と手を振るエクトルに、「お兄ちゃんですー」と凛道が幸せそうな笑みで手を振り返している。
 黒塚もはしゃぐチビ達を眺めていた。ウォータースライダー終わりの着水の衝撃で鼻に水が入ったシルフィードが盛大に噎せている。だがそれも、彼女達にとっては夏の素敵な思い出になることなのだろう。
 そして思うのだ。あれだけハシャいで……これ帰りはチビ共全員電池切れになるんだろうなぁと。そうなったら抱っこやおんぶをして連れて帰るのは大人の役割なのである……帰宅してから水着の洗濯も待っているのである……。
(体力温存しとこ……)
 そう決意するガルーと黒塚であった。


●プールの夏03
「もう、せっかく文菜さんの為に買ってきたのにどうして着ないかな」
「アンジェリカはん、うちを晒し者にしたいんか?」
 プールに入る前の準備体操をしつつ。口を尖らせるアンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)に、八十島 文菜(aa0121hero002)は呆れた溜息をこぼした。アンジェリカの手にあるのは赤いヒモ――ではなくマイクロビキニだ。ほぼヒモだ。
 もちろんそれを文菜が着るはずもなく。彼女はシックな黒いタンキニで、アンジェリカは可愛いフラワービキニだ。ちなみに第一英雄は事案の発生源になりかねないのでお留守番である。

 さて準備体操も済めば流れるプールへ。アンジェリカはバナナ、文菜はイルカの浮き輪に掴まって、のんびりとヒンヤリ心地いい水に流されている。
 そんな風に身も心もリラックスしていると……ふと、視界に入ったのはヴィルヘルムだ。「こんにちは♪」と挨拶すれば、彼も「おう!」と手を上げてくれる。
「ねえ、ヴィルヘルムさん。これ……」
 そのままアンジェリカは、スッと赤いヒモ――ではなくマイクロビキニを取り出すではないか。
「よかったら着てみない?」
「へ? それ服なの? ヒモじゃね?」
「服だよ! これで男の人を悩殺だよ! 強いよ!」
「マジで?」
 脳筋だから、強いという言葉に弱いヴィルヘルム。だがヒモ(マイクロビキニ)は、文菜がパッとアンジェリカから取り上げてしまう。
「こらあ! 何アホなことゆうてるの!」
「えー、だって文菜さん着てくれないし……」
 頬を膨らませつつ、アンジェリカはふと文菜の胸に目を留める。ヴィルヘルムと文菜、どちらが大きいのだろう? アンジェリカは真剣に思案し始める。
(文菜さんの方が大きいとヴィルヘルムさんポロリしちゃうし……)
「その顔、またいらんこと考えてはるやろ! せやから人様に着さそうとしたらあきまへん!」
 まるでアンジェリカの心を見透かしたかのように、文菜が更に雷を落とす。
「ほんまにもう……。すまへんなぁヴィルヘルムはん」
 文菜はヴィルヘルムにそう謝って頭をさげると、アンジェリカの耳をキュッとつまんだ。
「ほらアンジェリカはん、行きますえ!」
「あいたたたたたた! 引っ張らないでよ~!」
 など抗議しつつも。うーん、でもやっぱりちょっと見てみたいなぁ。アンジェリカはマイクロビキニと文菜を見比べるのであった。

「わぁーーい♪」
 貸切という訳で、エデンはプール用の小さめなゴムボートでハシャいでいた。流れるプールで流れ続けるのが心地いい。
「はしゃぎすぎては危ないですよ~」
 まったり泳いでついて行くエズラが声をかける。誰かにぶつかっては……と思った矢先だ。
「あっ! 危なっ――」
 エデンのそんな声が奔って、直後にヴィルヘルムと衝突してしまう。
「きゃーー」
 ゴムボート転覆。どぼんと落ちたエデンを、「大丈夫か?」とヴィルヘルムが引っ張り上げてくれる。
「わーん、ごめんなさ……」
 ハッ。顔を拭ってしげしげ見やれば、目の前の女(実際は男)はナイスバディでガーリーな白ビキニ。こやつ……できる……! なお真面目な顔で黙り込むエデンに、ヴィルヘルムは「おーい、大丈夫かー?」と瞬きをしている。
「名前と所属事務所は……!?」
「お嬢様、H.O.P.E.かと」
 真面目そのものの声で問うたエデンに、追いついたエズラがキッチリとツッコミをする。それからヴィルヘルムに「申し訳ございませんでした」と頭を下げると、エデンの手を引きその場から離れようとする――というのも彼の苦労人センサーが、ヴィルヘルムに対して警戒音を発していたからだ。
 が、対照的にエデンはヴィルヘルムへ不敵な笑みを浮かべると。
「あたしはエデン……今後ともよろしく! フフ……次に会う時はステージかしら!」
(今後ともよろしくしたくないですお嬢様)
「……ついに見つけた、あたしのライバル――!」
(それ勝手な脳内認定ですよねお嬢様)
「アイドルはライバルがいてこそ、さらに輝くの……!!」
(あのひと面倒そうなので関わりたくないですお嬢様ッ)
 親の心子知らずならぬ、エズラの心エデン知らず。

「ぷかぷか~♪」
「水が冷たくて気持ちいいね」
 ピピと若葉は流れるプールでのんびりしていた。ピピは泳げないけれど、こうして浮き輪に掴まってちゃぷちゃぷするのは好きだ。若葉が浮き輪をゆっくり押して泳いでくれるのも心地いい。何より、もし水に落ちても若葉が助けてくれるという安心感がピピを心からはしゃがせてくれていた。
 と、目に留まるのは二五メートルプールで一心に泳いでいる仲間達の姿。ピピは目を丸くする。
「うわぁ……すごい! ボクもあんな風に泳げるようになるかな?」
「なら、少し練習してみる?」
「がんばる!」
 というわけで、二五メートルプールの方に移動して。
「ばたあし! ばたあし!」
「そうそう、うまいうまい」
 若葉の指導の下、ピピは一生懸命泳ぎの練習をし始めた。若葉に手を繋いでもらい、まずは水に浮く練習と、バタ足の練習。
「げほげほげほ! おみずのんだ~!」
「大丈夫? 息継ぎは落ち着いてゆっくりね」
「うん……!」
 若葉の丁寧で優しいコーチングと、本人の努力の甲斐あってか――最初は浮かぶことが精一杯だったピピは、最終的にはなんと十メートル程度なら泳げるようになったのである!
「ぷはあ! ワカバ、見てた! 泳げたよ!!」
「うん、やったね」
 目をキラキラさせて喜ぶピピと、若葉先生のハイタッチ。

「ちょっと!」
 一方。ウォータースライダー前にて、夜宵の激おこボイスが響いた。
「……私の水着がスクール水着になってたんですけど!」
 凛々しい眉を吊り上げて、恥ずかしそうに手で体を隠して、夜宵は顔を真っ赤に英斗へ言った。その水着姿は言葉通り、「やよい」とゼッケンがつけられたスクール水着である。健康的なワガママボディである。
「あぁ、出発前に俺が入れ替えておいたからっ! JKなんだから当然だろ?」
 一方の英斗はドヤ顔である。「んなッ」と夜宵は肩を戦慄かせた。
「せっかくおNEWの水着を用意してたのにっ! 信じらんないっ!」
「いやぁ、よく似合ってるよ、夜宵!」
「サイテー!」
 とまあ、水着は水着だ。マイクロビキニとかやべえやつじゃないわけだし。ていうかやべえやつにすり替えられてたらその場で情け無用の戦争が起きていた。というわけで準備運動もそこそこに、ウォータースライダーへの階段を上る。
「せっかくだし一緒に滑るか。この機会にリンクレートを上げるきっかけを作っておきたいしな……」
 英斗――ちなみに彼の水着はシンプルなサーフパンツだ――の提案に、夜宵は「そうねぇ」と頷く。
「あんたがブレイブナイトな割にはリンクレートが低い気するからね、私達……」
「吊り橋効果って奴でなんとか上げていこう。……しかし、滑ってる最中で不測の事態が起こらないともかぎらないな」
「どさくさまぎれにへんなトコさわったら、あとで殺すわよ」
「あ……ハイ」
 そんなこんなで階段の天辺。英斗が夜宵を後ろから抱える体勢で、レッツゴー。
「わ゛あ゛ーーー」
「ウワア゛アアアア゛ア゛」
 高速で流され、ちょっとキャッキャウフフからは遠い反応をしつつ。ギャースカしている内に、どばーんと着水だ。
「……」
 二人して放心状態。じゃぶじゃぶと夜宵はビショ濡れのまま着水点から離れつつ。
「……レート、一ぐらい上がったかな?」
 ひと夏の思い出になったのは事実。

 どぱーん。
 次いでウォータースライダーの着水点に上がった水柱は、大和 那智(aa3503hero002)とヴィルヘルムのものだ。
「すっげーなこれ! プール最高ー!」
 サーフパンツ水着の那智はキャッキャとハシャいでいる。隣ではヴィルヘルムが「だな!」と濡れた髪を掻き上げていた。
 ヴィルヘルムを「久し振りだな、一緒に泳ごうぜ」と誘ったのは那智だ。ふと那智は隣の彼を見る。
(こいつ……本当に男なのか?)
 素直に可愛い。周りにいる水着ギャルもじっくり眼福させて頂いたが、ヴィルヘルムもなかなか。元の世界では男で、中身は完全に男とはいえ……。
「那智! 流れるプール行こうぜ!」
「んっ、おう!」
 と、ヴィルヘルムに手を引っ張られる。当たり前だがヴィルヘルムの仕草は完全に男だ。

「元気だな……」
 東江 刀護(aa3503)はプールサイドで相棒が遊んでいる様子を眺めていた。「プールに行きたい!」と那智がせがむものだから仕方なく付き合うことにしたが、まあ……満喫しているならば何よりだ。
 しかしながら女性が大の苦手である刀護にとって、水着ギャルだらけのこの空間は苦行状態である。できるだけ濃い黒のサングラスを着け、できるだけ下を見て、眩しい四肢が視界に入らぬよう苦心している。当然ながら泳ぎはしゃぐリソースなど残っていない。一応サーフパンツの水着姿だが、水着ギャルだらけのプールに入るなど無理である。気苦労にバテ気味ですらあった。
 ゆえに、会長らの近くにてプールサイドのベンチにじっと腰を下ろしていた。
「毎日暑いですね、会長。暑さで体調を崩してはいませんか?」
 沈黙もなんだ。刀護は気遣いの言葉と共に会長を見やる。
「お陰様でね。いやぁ、今年は本当に暑いねぇ」
 冷えたラムネを飲みつつ会長は苦笑する。「全くです」と刀護も肩を竦める。
「ヴィルヘルムとは相変わらずなのか?」
 次いで刀護はアマデウスへ視線をやる。「ああ」と騎士英雄はヴィルヘルムを見守りつつ頷いた。
「ほどほどにな。そちらは?」
「こっちも似たようなものさ。互いにフリーダムな相棒だと気苦労が絶えんな」
 刀護は溜息を吐いた。那智のことだ。時間になっても「まだ帰りたくねー!」とゴネるだろうなぁ。
 なお刀護の予感は的中し、ゴネる那智を「十分楽しんだだろ!」と強制連行することとなるのだが、それはまだ先のお話。

「こんにちは。いろいろあって大変だったね」
 と、会長のところへ顔を出したのは夕だ。
「一件落着とはあまり言い切れないからねぇ……」
「ん。迷わないでほしいっていうのは変わらないよ。それに、信じてもらえるようになりたいって思ってる」
 まあ頑張るから。そう言って、夕は「泳いできます」とプールへ向かった。

「アマデウスさんにジャスティン会長……こちらに居られましたか」
 入れ違いに構築の魔女(aa0281hero001)がやって来る。ホルタークロスのビキニに、ショートパンツ型のラッシュガード、上には白衣型のラッシュパーカーを羽織り、大人の女性らしい水着姿だ。傍らには辺是 落児(aa0281)がいる。シンプルなサーフパンツにラッシュパーカー姿だ。
「お隣よろしいですか?」
 構築の魔女達の手にはトレイがある。ソフトドリンクとたこ焼き、フライドポテトが乗っていた。「勿論だよ」と会長が答えたので、構築の魔女と落児は言葉通りに腰を下ろす。
「善性愚神事件はひとまず収束なのでしょうか? 熾火のように何か残っている感じもするのですけど……」
 よろしければどうぞ、と軽食を勧めつつ。フライドポテトを頬張る魔女に対し、会長はこう答えた。
「“ひとまずは”だけれど、そうだね……何か残っていると言うべきか、まだ続いているというべきか。だけでなく、ヴィラン達も活発化しているしねぇ」
「ええ。……ヴィランズ問題といえば。古代遺跡が地脈の上にあるのは興味深いですよね。いったいどうやって地脈があることを調査したのか……遺失技術だったりするのでしょうか?」
 あまりこう言うのも不謹慎かもしれませんが、と断りつつも構築の魔女は「観測されるまで過去も可能性の塊というのはなかなかに面白いですよね」と浪漫を語った。ジャスティンは冷ましたたこ焼きを嚥下する。
「マガツヒの比良坂清十郎は底が知れない。奇妙な能力を持つようだしねぇ……」
「ああ――過去を見る能力というのは気になりますよね。時間や場所を指定できるのなら、機密や情報戦もあったものではないですし……」
 とても人間が成し得るものと思えない。「彼が人であることを祈るよ」とジャスティンは肩を竦めた。
「愚神問題の調査続行に、マガツヒ・セラエノ問題。どちらも疎かにはできないからね、引き続き頑張っていこう」
「ですね。今を生きるにやるべきこと、ですから」
 そして、英気を養うこともまた次の為だ。「というわけで」と構築の魔女は明るく笑んだ。
「お食事の追加はいかがでしょうか?」
「それじゃあ焼き鳥をお願いしようかな」
「承りました」


●プールの夏04
「今日は、楽しむ日……浮き輪の用意、よし……」
「楽しんでいきましょうね、つきさま」
 木陰 黎夜(aa0061)と真昼・O・ノッテ(aa0061hero002)も他のエージェントの例に漏れず、水着姿であった。黎夜の水着は青と黒が基調のドレッシーなタンキニで、眼帯を外した左瞼は閉ざしている。浮き輪を持ってるのはカナヅチがゆえだ。隣の真昼は黎夜の水着をワンピースタイプにしたもので、ちょっとしたお揃いコーデというやつだ。
 二人の傍らには、黎夜達と今日一緒に遊ぶ約束をしたアル(aa1730)がいる。夏に輝く爽やかな白ビキニ姿だ。アルは今、「あとでお話しようね!」と他の知り合いに手を振っている。向けられるカメラに対しても「こんにちは、アルです! 皆良い夏を過ごしてねっ」とウインクで対応だ。
 そんなアルを側でじっと見ているのは、英雄の白江(aa1730hero002)だ。相棒と同じ白色のサーフパンツに、上には白いラッシュパーカーを着用している。
 白江にとっては、この世界に来て二度目の夏だ。最初の夏はあっという間に過ぎてしまったから、今年は目一杯楽しみたい。
「浅い方か流れる方か、どっちにしようかなあ……」
 さて、知人に粗方挨拶をしたアルはプールを見渡した。
「……流れる方、行く?」
 黎夜が答える。「OK!」とアルは眩しく微笑んだ。

 ぷかぷか。
 水の冷たさは心地よく、ゆるゆる流されると心が癒される。

「今年は宿題早く終わらせて、キャンプとか行きたいね~」
 黎夜の浮き輪をゆっくり押して泳ぎながら、アルが言う。
「キャンプ……山とか海とか川の周りとか、場所は結構いろいろあるから、どこに行くかも、迷っちゃいそう……」
 カナヅチゆえに浮き輪にしっかり掴まって、黎夜は水の流れに身を委ねている。「そうだねぇ」とアルは頷き、言葉を続けた。
「来週の花火大会どうする?」
「ん~……浴衣を着ていきたい、な……」
「いいね! 浴衣の着付けは任せてよ!」
 ちゃっかり約束を取り付けるアルである。「ありがと」と黎夜は薄らと笑んで答えた。
「あ、そういえば……」
 アルが瞬きをする。
「黎夜ちゃん、今年高校受験なんだっけ」
「うん、……この時期は模擬試験とかいっぱいあって、大変……」
「夏休みの宿題と受験勉強のダブルパンチか~……夏バテしない範囲で頑張ってね」
「ん。その為にも、今日は全力で息抜き……」
「だね! ちょっと早く泳いでみよっか?」
「おっけー、任せた」
「よーしっ!」
 言うや、アルは目一杯バタ足をしてザバザバ水飛沫を上げながら黎夜の浮き輪を押し始める。水流に乗って、スイスイ心地いいスピードだ――。

「はやい……」
 プールサイドのベンチに座って、白江は相棒達を眺めていた。
「すいすい早くて、お魚さんみたいですの」
 隣には真昼が座って、同じく能力者達を目で追っていた。二人の手の中にはかき氷がある。真昼はレモン味、白江はみぞれ味だ。
 白江はかき氷に視線を落とす。甘ぁいみぞれ味を一口。幽霊の舌の温度でも氷は溶けてくれるようだ。しゃくしゃくと細かい氷を噛む。と、視界の端に映るのは真昼が食べている黄色いシロップのかき氷だ。
「……まひるさん、それ、何味ですか?」
「レモン味ですの。色がまひるの髪と、少し似ているでしょうか」
「……綺麗な色」
 白江がそう呟くと、真昼はなんだか自分の髪を褒められたような心地を覚えてはにかんだ。それから火照る頬を冷ますようにかき氷を一口。
「きよえさまのみぞれ味と、一口ずつ交換しませんか?」
 そう真昼から提案されれば、白江はコクンと頷いた。お互いに、はいあーん。
「みぞれ味というのは、ふしぎな感覚がしますの。けずられた氷と同じ色で、けれど口に入れると甘い味が広がりますから」
「……レモン味も、レモンだけど酸っぱくはなくて、不思議……」
 もぐもぐ、しゃくしゃく。英雄達はかき氷を食べ進める。……そうしていたら、同じタイミングで頭がキーンとなったのであった。
「ううん……頭がキーンとするのは、どのかき氷も共通ですの」
「……不思議」
 他のかき氷も試してみようか、でも「あんまり冷たいものばっかり食べるのはお腹壊すからダメ」と能力者から聴いているし。それはそうと頭がキーンとしているので、二人して頭を抱えてうずくまっているのであった。能力者達に「どうしたの!?」と心配された。


●プールの夏05
「一緒に浮き輪つかまる?」
 さっきから延々と流れるプールを泳ぎ続けている小鉄へ、夕は大きな浮き輪を差し出した。
「む、かたじけない。いやぁ数週してきたでござるが変わったぷーるでござるな、楽しいでござる!」
 いやはや良い修行でござる、と小鉄は浮き輪に掴まり水流の中で体を休める。「忍者って大変そうだね……」と同じくぷかぷか流される夕が呟いた。
「たしかに修業は大変なもの多いでござるが……忍びは耐え忍んでこそでござる」
「そっかぁ、忍ぶって字になってるもんね」
「うむうむ。然様でござる。しかしながら貸し切りとは、H.O.P.E.も粋でござるなぁ!」
 忍者覆面だが表情豊かに笑う小鉄。ほどなくして「では失礼!」と休憩もそこそこに再び泳ぎ始めるのであった。
 いってらっしゃーい、と夕が小鉄を見送れば、入れ違いに視界に映ったのは、浮き輪に掴まりのんびりプールに流されているオペレーター瑠歌の姿だ。
「あ、どうも。綾羽さん制服じゃないの初めて見たかも」
「十影様、こんにちは。……あはは、ちょっと奮発して買っちゃいました」
「なんかオシャレだね。女優さんみたい。……芸能人ぜんぜん知らないけど」
「そ、そうですか? ありがとうございますね」

「――あれ見てシキちゃん、夕ちゃんがナンパしてる」
 一方のフードコート。ピーチトロピカルフロートジュースをハートのストローで飲む稲穂が言った。
「おや、ほんとうだ。すみにおけないおとこだね」
 さっきまで流れるプールを満喫していたシキは、ハートのストローを挿したメロンソーダを持ってきて稲穂の向かいに座る。
「イナホも、いつもわそうだが、こういうのもよくにあっているね」
「あらありがとう、似合うかちょっと心配だったのよー。シキちゃんもかわいいわよぉ」
 水着を褒められ、フフッと微笑む稲穂。シキも笑み返すと、スマートホンを取り出した。どうやらメロンソーダの写真を撮るらしい。SNS映えというやつだ。
「写真? いいわね、一緒に撮る?」
 稲穂がそう提案する。
「よし、かわいさにばいだ」
「OK! はいちーずっ!」
「うむ、カワイイぞ!」
 というわけで撮れた写真を確認する。……後ろの方に小鉄が映り込んでいる。圧倒的存在感。
「やはりこういう場では焼きそばでござるよ!」
 ニコニコしながら小鉄が持ってきたのは言葉通り焼きそばだ。ちゃんと全員分ある。
「きがきくね。よしよし、これもおたべ」
 礼を述べたシキは、小鉄のところにフランクフルトやイカ焼きやたこ焼きやあれやこれやをスススッと寄せる。もとい、食べきれない分を押し付ける。
「たくさんたべて、おおきくおなり」
「む、拙者もう充分大きいのでござるが……」
 などと言いつつも、ちゃんと「いただきますでござる」と手を合わせて全部食べる小鉄であった。
「男子の胃袋ってほんと無尽蔵ね……」
 呟きつつ、稲穂はスプーンでピーチジュースに浮かぶアイスを頬張った。

「ヴィルヘルムさん、以前お会いした時より成長されましたか?」
 流れるプール、浮き輪に掴まってゆっくり流されながら。アメジストカラーのパレオ付きビキニ姿の由利菜は、隣のヴィルヘルムに問いかけた。
「俺様? そりゃ~も~年がら年中成長期よ」
 そっちの緑のお嬢さんは? と今度はヴィルヘルムが問いを返してくる。
「あの子も、初めて来た時より随分と心身共に成長して……。今では、ライヴスリロードを使えるまでになりました。これも、ラシルの指導のおかげですね」
 ね、と由利菜は浮き輪をゆっくりと後ろから押して泳いでくれているリーヴスラシルへ振り返った。サファイアブルーのクロスホルタービキニは、蒼き彼女の艶めく四肢を際立たせている。
「ブラックボックスが来たことで、今まで第二英雄の召喚を様子見していた者も続々と第二英雄を得ている。先達である我々は、良き模範でありたいものだ」
 そしてもちろん、自らの研鑽を欠かすつもりもないとリーヴスラシルは生真面目な声音で言う。
「多くの第二英雄が文字通りの“英雄”として名を上げてゆくことだろう。しかし、私も第一英雄としての自負がある。まだまだこれからだ」
「おー、一緒に頑張ろーぜ!」
 ヴィルヘルムが拳を差し出す。リーヴスラシルはその意図を汲み取ると、彼の拳に自らの拳をコツンと合わせるのであった。
「しっかし強くて美人でさ、俺様、オメーらのこと好きだぜ。由利菜ちゃんもダイタンな水着がキュートだし」
 眼福眼福、とヴィルヘルムが笑う。由利菜は頬を赤く染めた。
「……だ、だって……服のサイズを大きくしたら、太っているって思われそうですし……それに……ラシルが大胆な衣装を美しく着こなせているのに、私にそれができないなんて……」
 もじもじと俯く由利菜。リーヴスラシルがスッとフォローに入る。
「ヴィルヘルム殿、ユリナはこう見えても女としてのプライドは高いのだ……」
「恥じらいは女の武器だぜ、俺様的には大賛成」
 ヴィルヘルムに親指をピッと立てられ、「もう……」と由利菜は更に赤くなるのだった。

「……ふむ、まぁ眼福ではあるか」
 サーフパンツ姿の麻生 遊夜(aa0452)は周囲を見渡し、水着ギャルと戯れるヴィルヘルムにふと目を留めた。瞬間である。
「むー! ……ユーヤはボクだけ、見てればいいの!」
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)の両手が遊夜の頬を挟み、首がゴキる勢いで視線を戻された。女性的な体躯を彩る、ホルターネックビキニにラッシュパーカー。愛妻のそんな姿が至近距離で視界に入って、「ごめんて」と彼は頬を緩ませながらも肩を竦めた。
 二人がいるのは流れるプールだ。浮き輪に乗って流されれば、のんびりゆっくりまったりできる。
「泳ぐのはそこまで得意でもねぇしな」
「……ん、何もしなくても……どんぶらこ、どんぶらこ」
 ぐっと伸びをする遊夜の隣で、ユフォアリーヤが濡れて細くなった尻尾を揺らめかせた。仰げば夏の空。水面を煌かせる太陽に、二人は目を細める。
「あー、こうしてるとこの気温も天気も悪くねぇなぁ……」
「……ん、出るまでは天国……出たら、また入りたくなる……ね」
「ほんとだぁ……いっそプールに住もうかね?」
 冗談めかして遊夜が言う。ユフォアリーヤはくすくすと微笑んだ。
「……ん。ユーヤ、ジャグジープールっていうのが、あるんだって」
「ほー。行ってみるか」
 このまま延々と流されるのも悪くないが、折角だから色々やらねば損である。
 さてジャグジープール。水流と泡が、日頃の疲れを癒してくれる。「あ゛~~」と二人の至福の声が重なった。全身がマッサージされて、心も体も解きほぐれる……。
「これは良いな……あー、このまま寝ちまいそうだ」
「……んー、気持ちはわかるけど……危ないから、ダメー」
 うつらうつらする夫に、ユフォアリーヤは水鉄砲を顔にお見舞いした。
 ではと眠気覚ましもかねてフードコートへ。
「無料と言われては見過ごせないな」
「……ん、おかーさんとして……節約は、できる時に……するの」
 フンスと意気込む二人。目指すは全種制覇。ハンディカメラで記録もON。テーブルの上には豪華絢爛満漢全席。
「頼んだからには」
「食べきります」
「お残しは」
「許しません」
 頂きます。声を揃えて食に対する誓いを立てた二人は手を合わせた――。


●プールの夏06
「人見知りはとうに克服したのでは」
 墓場鳥(aa4840hero001)が溜息を吐いた。視線の先では麦わら帽子を深々と被ったナイチンゲール(aa4840)が、羽織ったラッシュパーカーをひしと掴んで離さない。
「それとこれとは話が違うの!」
 つまりは水着姿をさらすのが恥ずかしいのだ。ハイネックの黒ビキニ姿である墓場鳥は、サングラスの奥の目を呆れたように細める。
「周りを見てみろ。物怖じしているのはお前くらいのものだ」
「そ、そうだけど……」
 パーカーのジッパーを下ろすところまでは成功したが。俯いて三つ編みしたおさげの毛先をいじるナイチンゲールの肩に、ポンと墓場鳥が手を置いた。ついでにヴィルヘルムが反対側の肩に手を置いていた。
「へ、」
 一体何事、とナイチンゲールが顔を上げた時にはもう遅い。二人が「せーの」でパーカーを一気にずり下ろす!
「ちょッ」
 露わになるのは、花柄にレースのフレアトップビキニと、ちょっとでも体型を隠したいがゆえのハイウエストスカート。
「おっ マブいじゃん」
 ヒューッとヴィルヘルムが口笛を吹く。そういえばこの乙女を外見をした英雄、中身は男だ。真横で男子に水着を見られ――ナイチンゲールのひっくり返った声が木霊した。

 閑話休題。

「もう……」
 結局共鳴して流れるプールへ。三つ編みのツインテールに、エスニックビキニ。浮き輪に乗って口を尖らせる乙女に、「ごめんて」と後ろから浮き輪を押しているヴィルヘルムが苦笑した。
「普段と全く違う装いって、なかなか恥ずかしいですものね」
 慰めるように、並泳している瑠歌が言う。
「あと五分もしたらちゃんと泳げてたし……」
 言い訳をこぼしつつ、見かける友人に手を振ったりして――ふと、ナイチンゲールは瑠歌を見やる。大人の女性らしさを感じては、質問を投げかけた。
「……瑠歌ってさ、仕事忙しい?」
 遠回しな恋愛リサーチだ。「そうですねぇ」とオペレーターは肩を竦めた。【狂宴】に【界逼】、裏方の非戦闘員も受難の日々だ。そっかぁ、とナイチンゲールは水面に視線を移した。
「いや、世の男性はなんでこんな美人ほっとくんだろって。ね、ヴィル」
「前に瑠歌にちょっかいかけたらアマ公にしばかれたんだよな」
「あ、そうなんだ……」
 二人の話題に、瑠歌が苦笑している。すると話題を変えるように、「ナイチンゲール様は、いい人はおられるのですか?」と彼女が問うてきた。
「私? んー……」
 クスリと笑む。そもそも恋かどうかも分からないし――それについて思案したり思い出したりすると色々死にたくなるので、
「内緒」
 とだけ、今はケリをつけておく。

「夏休み入ってのでっかいプール! この炎天下でのプール!」
 この日の為に買った水着。花の装飾で盛られたビキニに、花のコサージュアクセサリーに、花をあしらった麦わら帽子と、スワロウ・テイル(aa0339hero002)は可愛らしさ抜群のいでたちだった。
「最高のシチュエーションじゃありませんか? ねえ姐さ――」
 ウキウキしながら御童 紗希(aa0339)へ振り返れば。
 ……長袖長裾の学校ジャージに女優サングラス、そして日傘。あまりに場違いな姿の紗希がいた。
「アンタ何てカッコしてるんスか!? 運動場の草むしりに来たんすか!?」
「だってあたし日焼けしたら赤くなるだけですぐ皮が剥けるし……皆スタイルいいし……恥ずかしいし……」
 ボソボソ言いながら紗希はプールサイドの隅っこに佇んでいる。
「……要するに水着になるのを躊躇しとるんやで……」
「じゃあ何でここに来たっスか!? この気温でそんなカッコしてたらガチ熱中症確実っスよ!?」
「大丈夫……気合だけで乗り切れるから……多分」
 などと言いつつ既に汗はダラッダラだ。「何でこういう時だけ根性論持ち出すんスか!?」とテイルは紗希の肩を揺する。
「せっかく兄さんを罠にはめて自分がプール同行権ゲッt……ゲフゲフゴフン……姐さんとプールに行くの楽しみにしてたんスから、泳ぎましょーよ! 姐さんも新しい水着買ったんしょ?」
「うん……」
「そのジャージの下には水着きてるんしょ?」
「うん……」
「泳ぐ気満々しょ!? 浮き輪も持ってきて膨らませたんしょ!?」
「……う……うん……」
「ならばそんな無粋な服は脱ぎ捨てるのです! ついでに己も脱ぎ捨てるのです!」
 声を張りながら、テイルは紗希のジャージのジッパーをジャッと引き下ろした。ぐいっとジャージズボンもはぎ取った。すると現れたのは、花柄模様が愛らしいワンピース水着じゃないか。ビキニじゃないところに奥ゆかしさを感じる。似合ってるじゃないっすか、とテイルは称賛した。
「じゃ、流れるプール行くっすよ!」
 ニカッと笑んでテイルが差し出す掌。紗希は「似合ってるかなぁ水着」と恥じらいつつも、その手を取った。
 さあ、レッツ夏満喫である。キラキラ輝くプールが、少女達を待っている。

「あれ、プールには入らないの?」
 濃紺のサーフパンツにラッシュパーカー。準備体操を済ませた迫間 央(aa1445)の視線の先は、プールサイドのパラソルの下。ラピスラズリブルーのクロスビキニを着たマイヤ サーア(aa1445hero001)。
「あまり日に焼けてしまってもね……」
 溜息を吐くマイヤは、ふと何気ない動作で日焼け止めを取り出した。
「……でも、央がコレを塗ってくれるなら、少し付き合ってあげてもいいわよ?」
「お、おぅ……一応、確認してからな」
 日陰の中の誘うような言葉。ボッと顔を赤くした央は、火照りを冷ます為にもプールスタッフへ確認を行う。問題はないようで、かくして央はパラソルの下へ――その手付きは「繊細な硝子細工に触れるかのよう」だったそうな。公衆の面前で彼の隣を独占できて、マイヤは大満足である。
 大満足、であるのだが、実を言うと――マイヤは“アクティブにハシャぐ”という行為のやり方がイマイチ分かっていない。
 央と手を繋いで流れるプールに来たまでは良い。ゆっくりと水の流れに身を委ねている央に引っ付いて、加減が分からないがゆえに彼だけ沈めてしまったり……。
 こういう場だからこそ、もっと明るく喋って盛り上げようと思うものの、いつものクールな態度が崩せなくて、結局会話はたいてい央がリードする形になっていたり……。
(楽しめてるのかな……?)
 手を繋いで一緒に流れるプールをゆったりと泳ぎながら、央は横目にマイヤを見やった。と、視線に気浮いたマイヤが振り返る。視線が合う。
「……なに?」
 それはマイヤの常通りの物言い、表情のようで――
(……なぁんだ)
 常通りではなかった。彼女も彼女なりに、いつもより大分とアクティブだ。そのことが分かって、央は安堵と共に嬉しくなる。控えめに握り直してきたマイヤの華奢な手を、央はしっかりと握り返す。すると彼女はほんの少しだけ頬を染めて視線を逸らし、しかしどこか嬉し気に睫毛を震わせるのだ。
「……ウォータースライダー行く?」
 マイヤは反対側の手で、濡れた青髪をそっと掻き上げる。その仕草、横顔、いや言動全てが愛くるしくて、央は初恋の只中にいる少年のような瑞々しい気持ちで「もちろん」と笑むのだった。

「レイナねーさま、水着、やっぱりとっても可愛いですの!」
「そ、そう? ま、まあ、あたしなら何でも似合うけど!!」
 クリスティン・エヴァンス(aa5558)に褒められて、砺波 レイナ(aa5558hero001)は照れながらも満更ではない笑みを浮かべた。胸がないから他を選べなかったのは内緒だ。そんなレイナの水着はホルターネックのフレアタイプバンドゥビキニ。紺色の花柄を散らした、淡い水彩を思わせる水色が涼しげだ。
 対するクリスティンの水着はワンピースタイプの水着。スカート風にフリルがあしらわれており、髪を結うリボンと同じ淑やかなワインレッドである。
「はいですの! レイナねーさまはなんでも似合うですのっ」
 そんな言葉と、笑顔と共に――奇襲めいてレイナへ放たれたのは水鉄砲だ。完全に油断していたレイナの顔にバシャーとかかる。
「わぶっ!? ちょっ! クリス、いきなり!?」
「隙あり! ですの♪」
 くすくすと楽し気に笑みを鈴鳴らせつつ、小さな体で大きな水鉄砲を抱えたクリスが間合いを取る。
「じゃあ、あたしも容赦なくいくわよっ!」
 レイナも二丁拳銃水鉄砲を構えてクリスティンに応える。
 きゃあきゃあ、と浅いプール、噴水を遮蔽物に、二人の少女の楽し気な声が響くのだ。

 そうして遊び続けてしばらく。

「クリス、少し休憩よ。何か飲みましょ」
「はいですの♪」
 ヘトヘトになるまで遊んで遊んで。ちょっと一休みだ。二人はフードコートに移動する。「あたしが飲み物とってくるわ」とレイナはクリスティンを席に座らせ、注文窓口へ向かった。
 最中――レイナの視界に映るのは、周りの楽し気なエージェント、特に男女ペアの者達。
(別にクリスと一緒が駄目とかつまらない訳じゃないのよ。むしろ楽しいし)
 なんだか見ているとモヤモヤするので、歩調を早めつつ。
(でも、彼氏と一緒だったら……とか……)
 ぐるぐるモヤモヤ、考えて――
「べ、別に彼氏とか欲しいとか思ってないんだからー!!!」
 思わず絶叫するレイナであった。

「レイナねーさま、あんなにハシャがれて……♪」
 大人しく待っているクリスティンは、何やら叫んでいるレイナを遠くから見守り、テンションが上がっているのだなぁとホッコリしていた。こんなに楽しいなら、兄も一緒だったらもっと楽しかったかもしれない。
(また、暇な時には誘ってみますですの♪)


●プールの夏07
「流れるプールに行く~? それとも子供用プールで非難囂々されに行く~?」
 紫苑とバルタサールは二人ともサーフパンツ水着姿だった。断っておくがお揃いではない。テスカトリポカのタトゥーを纏うバルタサールは、「なぜその二択なのか」とサングラスの奥から想いを視線に乗せて相棒を見やった。それから、黙ってジャグジープールを指で示す。
「えーじじくさー」
「まあ否定はできないな」
「仕方ない、老体を癒しに行きますか」

 というわけで。

「飽きない?」
 かれこれずっとジャグジープールにいるわけだが。「そろそろ痒くなってきた」と紫苑が隣の相棒を見やる。しかし「特には」とmバルタサールはもともと遊びに来たわけじゃないがゆえに即答する。紫苑が間髪入れずに言葉を続ける。
「ねえ流れるプール行かない?」
「一人で行ってこいよ」 意訳:若者達の喧騒に混じるのつらい
「一人で行ったってツマンナイ」 意訳:バルタサールが弄れないので
 思えばいい加減長い付き合い、意訳まで分かる仲。寸の間の沈黙。言葉を切り出したのは紫苑だった。
「じゃ、なんか食べに行かない? そろそろお腹もすいたでしょ」
「……」
 これにはバルタサールも賛成らしく。ではと向かった先はフードコートだ。「僕が取ってきてあげる、きみは座ってて」と――今から思えば、バルタサールは紫苑の思惑に気付くべきだったと後悔する。
 ソフトドリンク、かき氷、ホットドッグ、タコヤキ、ヤキソバ、焼き鳥、エトセトトラ。つまりメニューの端から端。
「おい、誰が食うんだよ」
 並び過ぎた食べ物達をバルタサールは二度見する。「きみだよ、他にいる?」と紫苑はあざとく小首を傾げる。
「おま……」
「かき氷とけちゃうから早く食べよ! もちろん善意の無料メニューなんだしお残し厳禁だよ」
「……お前も責任もって半分食えよ」
「しょうがないなぁ。あ、ヴィルヘルム、一緒に食べよ~」
(コイツ押し付ける気だ……)
 鬼である。鬼だったわ。

「皆、元気だな……」
 御神 恭也(aa0127)はジャグジープールでまったりしつつ、泡音の中で独り言ちた。水流による全身マッサージが、体に溜まった疲労と暑さからの倦怠感を解きほぐしてくれる。温泉では湯疲れの可能性があるが、プールならその心配はない。
「極楽、極楽……」
 無口仏頂面の恭也であるが、快適な心地に声音と頬がほんのり緩む。プールであるので黒いサーフパンツ水着であるが、彼は泳がずジャグジープールから離れる気配はない。まったりしながら眺めるのは、プールできゃっきゃと楽し気にしている友人や、英雄の伊邪那美(aa0127hero001)の姿だ。時々目が合って、手を振られれば、恭也も片手を上げてそれに応える。
 そんな風に過ごしていると、体がほぐれる心地よさも相まって、幸福感を伴う睡魔がやってきた。目蓋が重くなってくる。
(いかんな……この状態では、伊邪那美達から普段言われている若年寄りに対して反論ができなくなる)
 それにまあプールで寝ると溺れるかもしれないし。もしもここにヴィランや従魔が襲撃をかけてきたら。……そうは思っても、だ。
「不味い……かなり眠くなって来た……」
 五分、五分だけ……。

「海とは違った趣があって楽しい~」
 伊邪那美は濡れた髪を掻き上げた。セーラー服風のワンピース水着が愛らしい。さっきまでウォータースライダーを何回も何回も巡っていたが、いい加減に目が回る心地がしてきたので、今は浮き輪に掴まって流れるプールを堪能している。
「提案時は、なんであんなに興奮しているんだろうと思ってたけど……確かにここまで楽しいなら納得だね~」
 ぷかぷか、ヒンヤリした水の心地。友人と交わす談笑、彼らが着ているオシャレな水着、一休みで楽しむパフェやドリンク。平和なひと時だ。見やれば、恭也も幸せそう~にジャグジーを楽しんでいるし。
「次は何して遊ぼうかな?」
 今日という日はまだまだ長い。

「パパ、プールでは脱いだら駄目なんだよ?」
「烏兎ちゃん~パパ別に露出狂じゃないから、既に脱いでるなら脱がないよ~?」
「あと脱いでるも同然なヒモパンもアウトだからね?」
「はい……」
 ――というのは、プール前の烏兎姫(aa0123hero002)と虎噛 千颯(aa0123)のやり取りである。烏兎姫の厳重注意あってか、今回の千颯は比較的おとなしい。水着もトラ柄のトランクスタイプとマトモだ。
 ならば今日は憂いなく遊ぶだけだ。プールサイド、烏兎姫の楽し気な声が響く。
「パパ~はやくはやく~!」
「待ってろよ~あとちょっとだからな~」
 浮き輪を空気入れで膨らませるのはパパの役目。愛らしいウサギ柄ビキニ(夏の新作!)を着た烏兎姫は、父の広い背中にしがみついて浮き輪を膨らませる千颯を急かしていた。
「そーらできたぞー」
 千颯はバッチリ膨らんだ浮き輪を烏兎姫に渡す。早速彼女はそれを持つと、プールを指差した。
「流れるプールだって! パパ! 後ろから押して!」
「よーし! 烏兎ちゃんの為にパパ頑張っちゃうぞー!」
 というわけで、流れるプール。
 烏兎姫は千颯に全速力で浮き輪を押してもらったり、まったり流れたり。
「ウォータースライダーもあるって! パパ一緒にやろ!」――と、ウォータースライダーを満喫したり。
 しかしながらだ。千颯はどこか気もそぞろ。というのも水着姿の娘に変な虫が寄ってこないように……と、視線を感じては威圧感を放っているのだ。もしここが貸切ではなくて、デリカシーのないチャラ男がいようものならどうなっていたか。
「もう、パパ! そんな怖い顔するなら僕もう帰るんだよ!」
 流石に烏兎姫は眉を吊った。千颯は困った声を返す。
「烏兎ちゃん……パパは可愛い烏兎ちゃんが変な目で見られないかって心配なだけなんだぜ」
「パパはそんな目で僕を見てるの?」
「烏兎姫、冗談でもそれはお父さん本気で怒るぞ」
 ひとえに娘想いがゆえ、千颯は真剣な顔で烏兎姫の目を見据える。「ごめんなさい……」と烏兎姫は身を小さくした。
「でも、パパが僕を守ってくれるなら大丈夫でしょ?」
「当然!」
 そう笑んで、千颯は娘の頭を撫でた。
「何か食べに行こっか、お腹すいたろー? 烏兎ちゃん何食べたい?」
「んっとね、パフェ! イチゴ味でおっきいやつ!」
「オッケー!」

 日暮仙寿(aa4519)と不知火あけび(aa4519hero001)は受験生だ。夏は模試に試験に勉強合宿と、まさに勉強シーズンだ。しかし今日は水着をまとい、プールにいた。遊んでないで勉強しなきゃ――という気持ちは今日は忘れよう。息抜きだって勉強だ、と自らに言い聞かせる。
「ふう」
 一通りプールを満喫して、仙寿はプールサイドに上がった。黒いサーフパンツの裾にはさりげなく菊模様、上にはラッシュパーカーを羽織っている。
「プール楽しいね~」
 一足先にプールサイドに上がっていたあけびが笑む。パレオ付きのホルターネックビキニだ。仙寿と視線が合う。お互いが選んだ水着姿は、何回見てもなんだか照れる。
「かき氷食べよっか」
 照れ隠しめいてあけびが言った。

 さて、座った場所はジャスティンの隣だ。挨拶もそこそこに、一緒にかき氷を食べる。ちなみに全員いちご味。甘くて冷たい。それをゆっくり食べながら――ぽつりぽつり、仙寿は会長へ暗殺者である出自を話した。
「H.O.P.E.内じゃ、別に珍しくもない出自かもしれないが……愚神も刺客も人を殺すという点では変わらない。今は人を守る“剣客”になると決めたとはいえ、……会長はどう思う?」
「非人道的行為を今後とも行う表明であれば、私にはH.O.P.E.会長としてそれを止めねばならない責務が発生したいたね。でも、君はそれを是とはせず、いわゆる“足を洗う”んだろう?」
 会長が仙寿を責めることはなかった。選択を後押しされた仙寿はかき氷に視線を落とす。
「ジャスティンはどういう理由で大学を選んだ? 何学部だった?」
「政治家を目指していたからねぇ、有利になれるような大学を。法学部さ」
「そうか、」
 相槌を打ちつつ、今自分に必要な学問について仙寿は自問する。あけびは思案する彼を見、心中を察してか声をかける。
「必要な学問も良いけど、好きな学問も良いんじゃない?」
「それも一つの考え方だが、将来役に立つ勉強が良い」
 “誰かを守る”にも色々ある。愚神から。一般人の差別から。ヴィランから。邪英化から。リンカーには敵が多い。
(だからヘイシズやその部下は絶望したんだろうか)
 仙寿は溜息を飲み込む。ジャスティンは穏やかに少年を見守っていた。
「まあ、学校というのは人生のゴールじゃないからね。こんなことを言うと無責任だと怒られてしまうかもしれないが、もし入学したところが納得いかないならば、スッパリ辞めて違う学校に再受験するのも選択肢の一つだと思うよ」
 応援してるよ、と会長は仙寿の背をポンとたたいた。


●プールの夏08
「おいしい♪」
 泳ぎ疲れて、プールサイドのフードコート。ピピは練乳をたっぷりかけたイチゴ味のかき氷に、幸せそうな笑みを浮かべた。
「パクパク食べると頭がキーンってなるから、ゆっくりねー」
 隣では若葉が焼きそばを食べている。運動後にソース味が染みわたる。若葉は爽やかなレモンスカッシュをぐっと喉に流し込んだ。
「ぷはー。今日は楽しかったね」
「うん! 次はもっと頑張るの♪」
 ニッコリと笑むピピであるが、傍目に見ても分かるぐらい眠そうだ。あらら。これは帰りは、手を繋いで……じゃなくておんぶになるかな?

「伊邪那美……」
 は、プールサイドで打ち上げられた魚のように轟沈していた。つまりは遊び尽くして体力が尽き果て、眠ってしまったのである。恭也は肩を竦めた。
「起きろ……せめて着替えてから寝落ちてくれ……」
 こちらの帰路もおんぶコースになりそうだ。

 さてさて。
 今日というエージェントの休日を、振澤 望華(aa3689)はハンディカメラで撮影していた。もちろん、ちゃんと事前に会長へ事情を説明して許可を得たし、撮影されることを良く思わない者については映さないようにもした。
 望華のこの行為の事情、というか理由か。「フランクなセルフCGW作戦もどき」と望華は言った。動画投稿サイトにアップロードする為である。プライバシーの配慮もバッチリだ。例えば、アルはアイドルなので顔をペンギンのスタンプで丁寧に隠した。他の者も顔にボカシを入れたり。

「ハーイ! やっほー! ミンナ元気ー? 私は今、H.O.P.E.のおしごと☆ でプールに来てるよー☆」
 自撮りアングルで、バンドゥビキニにパレオ姿の望華が微笑んだ。ちなみに言語は英語である。
「っていっても休んでねーってことだけどね」
 言葉と共にアングルが変わる――編集した皆の映像が流れる。「あ! ほらほら! ニンジャもいるの!」と覆面ゆえにちょっと雑な黒目線を入れた小鉄にズームアップ。
「英雄とも一緒でーす☆」
 その言葉と共に、ビーチチェアにてくつろぐサーフパンツ姿の唐棣(aa3689hero001)が片手を上げた。サンライゼス・グラスがキマっている。
「さて……」
 編集映像が終われば、再びカメラは望華を映した。真っ直ぐ、カメラの向こうにいる視聴者を見詰める。
「とはいえ、彼らもこの一時の休息が終わればまた過酷な戦場へ……ってね。その時、画面の前のキミがその場に居たら……キミの手を、せめて振り上げないでいてほしいな。そしたらきっと助けられるから」
 ぱちん、と乙女は愛らしくウインクして見せる。
「あ! ヴィルヘルム君!」
 直後に声を弾ませ、カメラを近くのプールサイドのテーブルに置いて。パッと駆け出した望華は、ヴィルヘルムへタックル。「どわー!?」というヴィルヘルムの声と、きゃっきゃと笑う望華の声は、まもなくの「どぼーん」という水音に掻き消えた。
 そして定点カメラになった撮影機材に、溜息を吐く唐棣が手を伸ばして――撮影終了。

「なかなか良いんじゃないか」
 ノートパソコンに映る“完成品”を望華の傍から覗き込みつつ、ビール片手に唐棣が言った。
「まあねー。……ふう。あとひと泳ぎしたら、着替えて帰りますか」
 望華はグッと伸びをして、編集作業で凝った肩をほぐすのであった。



『了』

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結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 薄明を共に歩いて
    木陰 黎夜aa0061
    人間|16才|?|回避
  • 生満ちる朝日を臨む
    真昼・O・ノッテaa0061hero002
    英雄|10才|女性|カオ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • ぼくの猟犬へ
    八十島 文菜aa0121hero002
    英雄|29才|女性|ジャ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • 雨に唄えば
    烏兎姫aa0123hero002
    英雄|15才|女性|カオ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 忍ばないNINJA
    小鉄aa0213
    機械|24才|男性|回避
  • サポートお姉さん
    稲穂aa0213hero001
    英雄|14才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • 赤い日の中で
    スワロウ・テイルaa0339hero002
    英雄|16才|女性|シャド
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    シキaa0890hero001
    英雄|7才|?|ジャ
  • 暗夜の蛍火
    時鳥 蛍aa1371
    人間|13才|女性|生命
  • 優しき盾
    シルフィード=キサナドゥaa1371hero002
    英雄|13才|女性|カオ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • 見つめ続ける童子
    白江aa1730hero002
    英雄|8才|?|ブレ
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 最強新成人・特攻服仕様
    大和 那智aa3503hero002
    英雄|21才|男性|カオ
  • リンクブレイブ!
    振澤 望華aa3689
    人間|22才|女性|命中
  • リンクブレイブ!
    唐棣aa3689hero001
    英雄|42才|男性|ジャ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • LinkBrave
    夜城 黒塚aa4625
    人間|26才|男性|攻撃
  • 感謝と笑顔を
    エクトルaa4625hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • スク水☆JK
    六道 夜宵aa4897
    人間|17才|女性|生命
  • エージェント
    若杉 英斗aa4897hero001
    英雄|25才|男性|ブレ
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
  • 春を喜ぶ無邪気な蝶
    クリスティン・エヴァンスaa5558
    人間|10才|女性|防御
  • 山瑠璃草
    砺波 レイナaa5558hero001
    英雄|16才|女性|バト
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