本部

【愚神狂宴】連動シナリオ

【狂宴】Vocation

影絵 企我

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/07/28 08:01

掲示板

オープニング

●イザングラン
「……宰相の予測が正しければ、これで問題ないはずだ」
 砂浜の上に描かれた幾何学模様。月の光を浴び、淡く輝いている。生き残った狼とハイエナは、満身創痍の体でそれを見下ろしていた。
「俺達にもう少し力があったら、もっと上手くやれるんだろうけどなぁ」
 ハイエナは懐から革製の本を取り出すと、紋様の前に開いて放り出す。
「宰相亡き今、我々が存在している意味もあるまい。後の事は、我らが“閣下”にお任せしよう」
「そうだな。……さぁて」
 狼とハイエナは短剣を取り出すと、首筋に刃先を当てる。
「ヘイシズとライネケはこの世界にとっての悪魔になった」
「なら……ヴォルク閣下。貴方はどうなさる?」
 刹那、二人は同時に首を引き裂いた。ライヴスに満ちた鮮血が、紋様の中に撒き散らされる。青白い光と赤黒い血が混ざり合い、紋様はいよいよその光を強めていった。

●誇りの為に
 CGW作戦もあってさらに注目を集めるようになったH.O.P.E.芸能課。ロックとアイドルパフォーマンスの融合で売り込みをかけてきた異色のグループ、デュアルハーツもその恩恵に与かっていた。ハワイでのライブイベントに名を連ねる事が出来たのである。
「君は行っちまったけど それでも見ててくれよ 俺はまだ泳ぐ 人混みの海を」
 紅と蒼の装いに身を包んだ中学生くらいの少女が壇上で力強く歌っている。紅のハスキーな歌声と蒼の少女らしい歌声が交ざり合い、独特の世界を作り上げている。男ばかりだけでなく、女たちの黄色い歓声もそれに応えていた。
 真江行弘は舞台袖に立ち、神妙な顔でそれを見守っていた。英雄の方は変わりがないが、能力者は声変わりのおかげか、すっかり声が低くなってしまった。
 その声を聴いていると、行弘はどうしても失った恋人の事を思い出してしまう。最近は、彼女や他の仲間と組んでいたバンドで歌う予定だった歌を掘り起こして彼女達に歌わせているくらいだ。
「ったく。さらりと歌いこなしやがって」
 マネージャー兼楽曲提供者として、これほど嬉しい事は無い。しかし、彼女達に恋人の代わりをさせているようで罪悪感に襲われてしまう。

「……随分と憂いのある顔をしているな。青年」
 不意に声を掛けられ、思わず行弘は飛び上がる。振り向くと、朧げな姿の白い人狼がアウトドアチェアに座っていた。その姿は、初めて出会った時の恋人にそっくりだ。
「英雄……か?」
「どうだろうか。今のところは迷っている。どうやら、宰相は私に二つの選択肢を与えられたようだからな」
「宰相……ヘイシズの事か」
 行弘が尋ねると、人狼は頷く。
「ああ。彼は私の盟友だった。共に、国の為、民の為に戦っていた。……彼がこの世界に遺していた手記によると、それも徒労に終わっていたらしいが。……確かに、それならこの喪失感にも説明がつく」
 人狼は行弘を見上げる。
「君も似たようなものか?」
 行弘は溜め息を吐くと、舞台袖に腰を下ろす。
「国を失ったとか、そんな大層なもんじゃないんだけどさ」
 眼を閉じると、いまだに想い人の笑顔が蘇ってくる。ハスキーな歌声が聞こえてくる。
「今でも思うんだ。……俺がもっとしっかりしてれば、あいつは消えずに済んだんじゃないかって」
「そうか。私も似たようなものだ。一騎当千と呼ばれていたのに、結局私は何も出来なかった」
 俄かに舞台の方が騒がしくなる。黄色い悲鳴というにはあまりにも声が尖っている。どちらかといえば、恐怖の悲鳴だ。行弘は咄嗟に立ち上がった。
「安心してください! 皆さんには手出しさせません!」
 デュアルハーツが壇上から呼びかけている。いざという時は、彼女達も共鳴して戦えるよう鍛錬を積んでいるのだ。
「ヴィランか。それとも……」
「愚神か従魔の類だろうな」
 人狼はおもむろに立ち上がると、行弘の隣に並ぶ。
「覚悟はあるか?」
「何?」
「自分の大切な者の為に、もう一度戦う覚悟はあるか?」
 行弘は眼を見開いた。言われた途端に、恋人と過ごした日々の記憶が去来する。希望と絶望。二つの感情が絡み合う。拳を固めた彼は小さく頷いた。
「……ああ、当然だ」

●希望の為に
 君達はライブ会場に押し寄せた大量の従魔と対峙していた。たまたまライブ会場のガードマン役として呼ばれていたのである。しかし、デュアルハーツを足しても広い会場の観客を守り抜くには人手が足りない。
「危ない!」
 誰かがデュアルハーツに向かって叫ぶ。空を飛ぶ従魔が彼女の背中を狙って急降下してきたのだ。

『For The Glory!』

 刹那、咆哮のような叫びと共に、会場裏から人影が風のように突っ込む。その手から放った雷を刃のような形へ変えると、大上段から打ち下ろした。
雷が弾け、舞台の照明がちかちかと明滅する。全身を焦げ付かせた従魔は、力なくその場に崩れ落ちた。
 そこに立っていたのは白狼の仮面で顔を覆い隠した一人の男。黒いレザーのロングコートが、南国の空に似合わぬ重々しい光沢を放っている。
「あ、あつそー……」
 デュアルハーツが思わず呟く。狼は振り返ると、何も分かってないと言わんばかりに首を振った。
「Tシャツに短パンなんて姿じゃあ、格好悪くて戦ってられないからな」
 その声には聞き覚えがある。アイドルは思わず目を丸くした。
「え、さな……」
 駆け寄った男は、人差し指で彼女の口を塞ぐ。
『今の私はイザングラン。よいかな?』
「あっ……はい」
 狼男は振り返ると、従魔を静かに睨め付ける。
『しっかり距離を取って戦え。わざわざ近づいて雷を浴びせる事も無かろうに』
「残念。俺は……霧江と一緒に、ずっとこう戦って来たんだ」

「さあ、さっさと片付けてライブの続きをするぞ」

 狼は二振りの刀を抜き放つと、炎を静かに纏わせた。

解説

メイン ライブ会場を襲った従魔を撃破する
サブ イザングランが戦闘不能にならない

☆ミーレス級愚神ファイアバード×30
 燃え盛る肉体を持つ鳥の群れ。
・ステータス
 物攻やや高め、飛行(最高10sq)
・スキル
 急降下
 空高くから急降下して攻撃する。

☆イザングラン(真江行弘&ヴォルク)
 大切なものを失った者同士、ロッカーと傭兵が手を組んだ。一線は引いていたものの、戦いの勘まで衰えたわけではない。
・クラス
 攻撃ブラックボックス(55/20)
・スキル
 黄の爪、赤の声、森羅の寵児
・性向
 格闘志向
 真江は元ドレッドノート。戦い方も自然とそちらに寄っていく。

☆デュアルハーツ
 歌って踊ってついでに戦うアイドル。最近声変わりした様子。
・クラス
 攻撃ブレイブナイト(40/20)

☆フィールド
・広さ20sq×40sq。開始地点は自由
・1000人単位の人々がおり、現在避難誘導中。真っ直ぐ移動するのは困難

☆TIPS
・観客にはなるべく怪我をさせないように。
・NPCに指示を出すとそのように動く。
・ヴォルクはヘイシズについての話を持ち掛けたら反応する。

リプレイ

●未知の力
『一応、のはずだったのにねえ』
「まさか本当に来るなんて」
 まほらま(aa2289hero001)とGーYA(aa2289)は揃って空を見上げる。炎を纏った鳥が、巨大な翼を広げてこちらへ近づいてくる。二人は共鳴すると、すぐさま動き出した。
「すみません、観客をホテルまで誘導してください」
 まずは避難口でおろおろしている警備員の前に駆けつけ、彼の手に救急キットを押し付ける。そのまま大剣を抜き放つと、中央へ群れ集まる従魔へ向かって飛び出した。人々に向かって突っ込んでくる従魔の前に立ちはだかり、大剣を盾のように構える。
 鈍い衝撃と甲高い金属音。ジーヤは刃の腹で受け止めた従魔を弾き飛ばす。
 一般人にとって、抵抗の余地がない従魔は脅威そのもの。しかし、それに打ち勝つジーヤ達もまた恐るべき存在には違いないのだ。
「(少しでも、それを薄められるようにしないと)」
 ジーヤは振り返る。まさに人の心を和らげる戦いを実践すべく、一人の少女が動いていた。
「アイドルさんとして、成長した姿を、真江さんに、見てもらいたいの」
 ステージの脇からライブの様子を見守っていた泉 杏樹(aa0045)は、意気込んで駆ける。共鳴したクローソー(aa0045hero002)は、早くも眠たげな声を発した。
『戦いは杏樹に任せて、クロトは寝ながら見守ろう……』
 どう見守るというのだ。とはいえ杏樹は気にも留めず、観客席の中央で赤と青の二丁拳銃を構えたアイドルへ向かって走り出す。ライヴスジェットブーツを起動すると、全身に竜巻を纏わせ、高速でスピンする。放たれた太刀風は、周囲を飛び交う火の鳥の群れを切り裂いていく。
「皆に、癒しをお届け、天使のアイドル、あんじゅーです」
 黄金に輝く手を地に向けると、突如地面が盛り上がって即席のお立ち台を作り上げる。纏った竜巻の残滓を羽のように広げると、杏樹はお立ち台の上に舞い降りる。
「杏樹も、デュアルハーツさんと一緒に、共演なの」
 マイクをオンにすると、杏樹は周囲を見渡して叫ぶ。
「杏樹達が、皆さんを、守る、です。落ち着いて、行動してください、なの」
 そのまま杏樹はふっと息を吸い込むと、会場全体に響き渡る、透き通った声で歌い始めた。

 黄昏の時、戦歌を歌え
 君に誓う
 一心不乱にお助け致します
 戦乙女、白き肌、紅に濡れ
 御旗を掲げ我が道を往く

 暁の時、戦火の定め
 貴方に誓う
 身命をとしお救い致します
 戦巫女、白き衣、朱に染め
 御旗を掲げ道切り開く

 ライヴスの籠った歌声は、パニックを起こしかけていた観客達にも届く。御童 紗希(aa0339)と共鳴したカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は、メガホン片手に呼びかける。
『いいぞー、落ち着けー。落ち着いてスタッフや警備員の指示に従え。柵を倒して出ようとかするなよー』
 ミニガンを脇に置き、カイは出入口に来るよう観客達を手招きする。うるさい鳥は銃弾の乱射で牽制だ。紗希は宙を飛び回る鳥を見つめて呟く。
「何でこんなとこに急に従魔が出たんだろ?」
『どこにでも出るだろ! 今までもそうだっただろうが。ライブに関係してる面子を狙ってるんだとしたら別だけどな』
 カイはちらりと狼面の男を見る。彼は刀に炎を纏わせ、迷いなく敵を切り裂いていた。
「それにしても、あのプロデューサーさんリンカーだったんだね」
『イザングランとか名乗ってたな……どういうことだ?』
「イザングラン……」
 その名は二人の脳裏に様々な物を去来させた。

「こっちだよ! こっちから出たらホテルに向かってくれ!」
 カナメ(aa4344hero002)と共鳴した杏子(aa4344)は、メガホン片手に出入り口に人々を手招きしていた。杏樹の歌が効いているのか、人の顔は青ざめているが混乱自体は起きていない。
『アイツ……』
 しかし、人を誘導する間にもその眼は会場の中央へと向いていた。コート姿の男が刀に炎を纏わせ振るっている。
「気になるかい?」
『当然だ。……気にならない訳がない』
 甲高い鳴き声と共に、一羽の鳥が降ってくる。球状の盾を飛ばして頭を打ち抜くと、カナメは再び目を彼へと戻す。
『イザングラン、か』
 その名を聞くと、二人はどうしても“彼”の事を思い出してしまうのだった。

 一方、グワルウェン(aa4591hero001)もまたコートの狼が気になって仕方がない。伴 日々輝(aa4591)は彼の意識の奥からそっと耳打ちした。
「あの狼男が気になる?」
『初対面なんだけどなぁ……あと、すげー暑そう』
 柵を一つ力づくで外しながら、グワルウェンはべっと舌を出す。しかし彼も彼で、分厚い革鎧を纏い、毛皮を緑色に染めた外套を着込んでいる。ついでに尻尾やらなにやらついている。意識の奥の日々輝すら、うだるような熱気を感じずにはいられなかった。
「言っとくけど、暑苦しさならお前も負けてないからな」
『格好つけなきゃ戦いってのは始まんねーだろ。行くぜ』
 グワルウェンは一足飛びでステージに跳び上がり、大剣を抜いて空を見渡す。狙いは、翼を広げて旋回する一羽の火の鳥。
『まずはこいつでも……喰らえ!』
 一気に刃を振り抜く。放たれた衝撃波が、鳥の纏う炎を掻き消し、地面に叩き落とした。

「こちらは、危険です。あちらへ、逃げてください」
 少々たどたどしい言葉遣いで、警備員に扮したヴァイオレット メタボリック(aa0584)は観客を誘導していた。
「押さない、駆けない、喋らない、でお願いします」
 どうにも話し方が不自然だ。ちょっと気を抜くと、コックニー訛り、インディッシュ訛り、オージー訛り、もうどこの生まれかも分からないごった煮のような訛りが炸裂するから仕方ないのだが。
『それにしても、アレから一年くらいしか経ってないのに、随分と大人びちまったもんだな』
 ノエル メタボリック(aa0584hero001)はぽつりと呟く。会場の中央に立つデュアルハーツは、衣装を振り乱しながらも剣を振るって可憐に戦い続けていた。その隣では、コートを着込んだ狼が稲妻やら焔やらを振るっている。
『ミラルタなんて愚神もいたけんど、そんな能力が使える奴が仲間になってくれるならありがてぇだ』
 しみじみとして呟いているノエルだったが、ヴィオは首を振る。
「姉様、今は避難誘導に集中するっぺよ」
『そうじゃな。けがの手当てもせんば』
 人々を手招きすると、ずんずんとヴィオはホテルへと導いていった。

『よし、往くとするか』
「随分と乗り気だな」
 ナラカ(aa0098hero001)と共鳴した八朔 カゲリ(aa0098)は、潮風に銀の髪を靡かせ、会場を駆ける。
『当然。今日は良いものが見られそうだからな。ほら、ステージの上に立つが良い』
 言われるがまま、影俐はステージに飛び乗った。振り返ってみれば、狼の面を付けたコートの男が刀を振るっていた。
『……見えるな。輝きが。この場にいる誰にも劣らぬ強い輝きが。それに比べて……』
 影俐は鞘を抜いて剣を一度納めると、一気に居合抜きを放つ。同時に放たれた鋭い光は、矢のように飛んで一羽の火の鳥に突き刺さった。喉を鳴らして仰け反り、鳥は地へと墜落していく。
『燃える鳥とは、いかにも鬱陶しい。せめてもう少し実力を伴ってからその姿を象ってもらいたいものだな』
 ナラカは文句を零す。自身が当に火の鳥であるだけに、彼らの存在を認めてやるわけにはいかなかった。祓うが如く滅するのみである。

「いやぁ? ガードマンは忙しいねえ」
『敵自体は数だけか。どうとでもなるだろう』
 逢見仙也(aa4472)はディオハルク(aa4472hero001)と共鳴し、悠々と動き出す。ファーストアタックは仲間に任せつつ、彼は会場でうろうろしている女へと近づいていく。
「どうしたんだ? さっさと避難しといた方がいいぞ?」
「友達とはぐれて……」
 周囲の流れに逆らいながら、女はきょろきょろと周囲を見渡していた。仙也は首を傾げると、その背中を強引に押す。
「友達と? そんなの後でいいだろ。オレ達がちゃーんと全員無事で帰してやるから。まずは流れを邪魔しないでホテルまで避難してくれ」
「え……ちょっと」
 一度動かされると、もう止まれない。女は流れの中へと消えていった。そのそばを通りかかった男は、仙也に尋ねる。
「なあ、この後俺達どうなるんだ?」
「どうなるって? 終わったらまた準備して、ライブの続きするんじゃね? 幕間のヒーローショーだと思って楽しんどきな。ほら行けって」
 半ば強引に男の背中を押していく。個人のやり取りに一々かかずらっていてもしょうがない。仙也はとにかく迅速な避難を優先していた。

●希望の御旗を掲げて
 大体の避難を終わらせた仙也は、大剣担いで戦場に舞い戻った。隊列組んで一斉に突っ込んできた火の鳥の群れを、大量に呼び出した大剣を盾代わりにして弾き返す。
『所詮はミーレス級か。趣向を凝らすまでも無い』
「ま、とっととやっつけられるし良いんじゃね?」
 仙也は武器を構えると、今度は炎の幻影揺らめく刃を無数の刃を喚び出し、敵へと向かって飛ばす。貫かれた鳥は、力無くふらつき高度を下げていく。
『席を壊さないように気を付けておけよ』
「分かってるって。続きやるって言っちゃったし」
 中央で戦う狼男。ちらりとその様子を見たが、特に気にする事も無い。

「イザングランさん、杏樹と、同じ技を」
 杏樹は風をその身に纏いながら狼に振り返る。彼は困り顔で肩を竦めた。
「え、だけど……」
『私の用意は出来ているぞ』
 スキルを余分に二つ使えると知らなかった狼。咄嗟に腕を振るうと、宙へと向かって突風が吹き荒れた。呆気に取られて彼は呟く。
「……使えた」
「狼さん」
 自分の手をぼんやり見つめている狼の隣に、大剣を中段に構えたジーヤが並び立つ。
「ドレッドノートだったと聞きました。一緒に連携取ってみませんか?」
「わかった。やってみようか」
 丁度一匹が空から突っ込んでくる。狼は素早く腕を振るい、目の前に積み上がった砂の山を駆け登る。頂点から飛び上がると、右脚に風を纏わせ、鳥の頭にキックを叩き込む。下へと吹き下ろす突風に揉まれた鳥を、ジーヤは剣を真っ向から振り抜き真っ二つにした。
「どうだろう? ストレートブロウの要領だったんだが」
『へえ……かなり自由が利くようね……』
 狼とまほらまがやり取りしている横で、カイも砂山を足場代わりに宙へと跳び上がって、剣を鳥へと叩きつける。そのまま地面に着地したカイは、狼に尋ねた。
『おい! 真江と共鳴してるお前。何故“狼”を名乗ってる?』
『何故と言われてもな。……私が当にその“狼”であるからに他ならん』
 狼はただ肩を竦める。そんな彼の立ち振る舞いを、カナメは遠くから眺めていた。従魔と戦うその刀捌きには澱みが無い。
『杏子、アイツは英雄だよな?』
 杏子は一瞬黙り込む。新たな呪符を手に取り、杏子は狼に駆け寄っていく。狼へ迫る火の鳥を冷気の弾丸で撃ち落としながら、杏子は狼に尋ねた。
「イザングラン……もしかして君は、ヘイシズの知り合いなのかい?」
 単刀直入の質問。振り向いた狼は、動じるような気配も見せずに頷いた。
『ヘイシズは私の同志だった。それだけははっきり覚えている』
 ヘイシズの同志。その答えはカイや紗希の胸を突いた。カチューシャのミサイル攻撃で敵を纏めて吹き飛ばし、カイは再びヴォルクへと一歩詰め寄る。逸る思いが、彼の言葉を荒くした。
『何故ヘイシズと関係してる者がリンカーとして従魔と戦ってるんだ! お前何者だ!?』
『私はエクレシアの貧しき者達……通り名は白狼騎士団の長を務める者、ヴォルク』
 狼はさらりと応える。正十字のロザリオを握りしめると、突風を飛ばして迫る鳥を吹き飛ばす。
『君達に私が命を懸けるに値する意志を見た。故に私は助太刀する』
『そうか』
 ヴォルクの答えを聞いたグワルウェンは、神斬の衝撃波を飛ばしながら会場中央に駆けつける。隣に立った彼は、左手を狼に付き出す。
『そんならな、狼野郎! イヌ科同士仲良くしようぜ!』
「……その言い方は怒られても知らないよ、俺」
 日々輝はこわごわと呟く。狼も、仮面の奥で不承不承の声を発する。
『お前は……狐か。狐か……』
『何だよ。近づく奴はお前が斬って、遠い奴は俺が撃ち落とす。大体そんなつもりだが、まあお前の戦いたいようにしろよ。俺、こう見えてフォローの方が得意だから!』
 グワルウェンはガッツポーズをしてみせる。その勢いに若干押され、狼は小さく肩を竦めた。
『わかった、わかった。だが他の者と組んだ方が楽ではないのか?』
『いやいや。勘が、お前に付いてけって言うんだよ』
『そうか……』
 狼はその手に稲妻の刃を創り出すと、近づく従魔を叩き切る。その背後からグワルウェンは衝撃波を飛ばし、遠くの鳥を叩き落した。

『成程。ヘイシズと縁のある者であったか』
「……それが英雄としてこの世界に顕現しているとはな」
 中央からは距離を取り、はぐれた敵をレーギャルンの衝撃波で撃ち落とす。そんな殲滅作業を影俐が淡々と繰り返す中で、ナラカはイザングランを観察していた。
『実に良い。彼は諦めを踏破したのだ。悲嘆だけでは終わらず、喪失から奮起した。その強い意志が、あれを雄々しく美々しく輝かせているのだ』
 たかが一人を殺しても殺人者に過ぎないが、百万人を殺せば英雄となる。満足した豚よりも不満足な人間であり、満足した人間よりも不満足なソクラテス。善しかれ悪しかれ、強い意志こそが至上の輝きを示す。そうナラカは信じていた。
 彼女の善悪は、常人の物差しでは測れない。
 影俐は黙々と剣を振るう。誰をも否定しはしない。ただ、ナラカの思惑に乗って、遠巻きにH.O.P.E.のリンカーを俯瞰し続けるのみだ。
「……」
 影俐の放った衝撃波が、最後の一体を容赦なく切り裂く。花火のように鳥は弾け、深紅のライヴスは光の尾を曳き青空の中へと消えていった。

●裁きではなく賭け
「少し歪んでるかもしんないけど、まあ大丈夫でしょ」
 仙也は戻ってきた観客を席に通す。被害軽微で従魔襲撃を乗り切ったH.O.P.E.は、ライブの再開を決めたのだ。手持無沙汰な彼は、ひとまず会場の復帰の手伝いを買って出ていた。
『……それにしても、愚神が英雄を召喚する事があるとはな』
「フラッシュメモリやSDカードを途中で引き抜いたようなもんかね? それで色々情報が抜けて、記憶も王との繋がりも無い奴がこっちに来る、と」
『そんな簡単な話か』
 ディオハルクは幻想蝶の中から呟く。仙也はステージの脇で何やらやり取りしているヴォルクと真江に眼を向けた。狼の頭領に相応しい見た目だ。それを見て考える事はあったが、自分で動く気にまではならない。
「ま、いつもみたいに青さんとかその周りに調査は任せとけばいいんじゃないの? あの人気付いたらまた事件に巻き込まれてるみたいだし、言わなくても調べてくれるかもしれないし」
『気楽なもんだな。周りはあいつを見ておろおろしていたのに』
 仙也はへらりと笑う。気楽な傍観者のスタイルは、いつでも崩れる事は無い。
「別にヒーロームーブには興味ないし。まあ、仁科に任せた研究が進むってんなら少しは興味あるけど」

「お疲れ様です。今回はありがとうございました」
『ありがとうございました』
 デュアルハーツの二人が、ヴィオとノエルにぺこりと頭を下げる。余りに変わりすぎて、二人は一度会ってセッションまでしたとは気づいていないようだ。
「いんやいんや。ええんじゃ。若人の活躍を支えるのが老いたモンの楽しみだかんな」
『そろそろライブが始まるだな。おら達も応援してるから行ってくるだ』
「はい!」
 二人は頷くと、マイクを片手にステージへ向かって駆け出していく。それを見送った二人は、ネクタイを整えている真江に向き直った。
「おんし、またリンカーとして戦うようになっただな」
「ええ。まあ成り行き上ではありますが、ね。あそこで彼の手を取らないのは、ロックじゃないなと思いまして。……お二人も随分と変わられたようで」
「オラたちの事はええだよ。おんしはこれからどうするつもりぢゃ」
「どうする?」
『歌の雰囲気が変わったからのう。少し気になっただ』
「ああ。……あの子の声が、少し俺の知り合いに似てきたもんで、ちょっと歌わせてみたくなったんです。あの子が良いっていうなら、これからも歌ってもらおうと思いますよ。まだまだ彼女達には可能性があると思いますし、ね」
「ふむ……腹が決まってるなら、杞憂だっただな。勝手に早合点するところだっただよ」
 真江の柔和な笑みを見て、ヴィオはこくこくと頷いた。ノエルと顔を見合わせると、杖を突き突き歩き出す。
「さて、イルカと泳いでくっかな」
『おらは、フラダンス体験行くだ。お互い楽しむべ』
 真江は二人の老体を見送る。入れ替わるように、杏樹がステージの裏に駆け込んできた。
「お久しぶり、なの。杏樹、戦うアイドルさんに、なったです。今日の、ライブは、いかがでした?」
 杏樹は息せき切って尋ねる。真江にはレッスンを付けて貰った、師匠の一人だ。彼は微笑むと、静かに頷いた。
「ああ。歌もサポートも疎かになっていなかったし、良かったと思う」
『君が真江か。杏樹から話は聞いている。今後杏樹の作曲担当をするクロトだ。世話になると思うからよろしく頼む』
 杏樹を後ろから抱きしめながら、クロトは無表情のまま真江に挨拶する。気怠そうだが、その眼はじっと彼を観察していた。
「ああ。宜しく」

 デュアルハーツは再びステージに立ち、その歌声を観客達に披露している。その姿を横目に、エアーマットをベッド代わりに、ジーヤ達は手当てを続けていた。
『いたわよ。……あそこ』
 観客席を見渡していたまほらまは、ジーヤの袖を引く。
「うん」
 その視線の先には、白い毛並みの人狼が居た。

 ローブに身を包んだヴォルクは、腕組みして空を眺めていた。杏子とカナメは、彼を見つけるなり直ぐに近づいていく。ヴォルクは彼らに気付くと、仏頂面のままちらりと眼を向ける。
『君達は……』
「杏子と、カナメだ。……イザングラン、スキルを見るに君はブラックボックスなんだね」
『そうなのか。此方に来てまだ半日だ。まだそういったものはよく判らないが』
「ブラックボックスは、君のように自然を操る力を持つ英雄の事さ。私の娘も似たような力を持つ英雄を最近迎えたんだ」
『ふむ。……私はただ、嘗ての世界でそうしていたように力を行使していただけだが、そのようなことがあるのだな』
 杏子はヴォルクと他愛のないやり取りを続ける。表情や口調は無愛想だが、話自体には気さくに乗ってくるらしい。カナメは彼を横から見上げ、出し抜けに尋ねた。
『おい、ヘイシズを知っているなら……ルナールという狐の事は分かるか?』
『……ああ。その名はよくよく覚えている。私が付けた渾名だからな』
 ローブの懐から、ヴォルクは一冊の手帳を取り出す。
『白狼騎士団の長として、愚神とどんな戦いを繰り広げたのか、今やろくに思い出せなくなってしまった。だが、共に功を競った好敵手の事だけは覚えている』
「好敵手、か」
『“貴族気取りの間抜け”、“小狡い臆病者”、“偏屈な法学者”。まあ互いにそうやって罵り合っていたんだ。私とライネケ、そしてヘイシズは』
『ライネケ……それがあいつの、本当に本当の名前なのか』
 暫しの沈黙。その間を縫って、そっとジーヤは歩み寄る。狼は振り向く。二人の視線が、静かにぶつかる。
「貴方は英雄ですか、それとも……」
 毛並みは白いが、その容貌はヘイシズの部下とほぼ同じだ。ジーヤの疑念を汲み取ったのか、ヴォルクは懐に手を突っ込んで小さな正十字のロザリオを取り出す。
「案ずるな。私は間違いなくリライヴァーだ」
「……じゃあ、ヘイシズと、貴方の違いは何なんでしょうか」
『愚神は王の声を聞くらしいじゃない。貴方はどうなの』
 二人が問いかけると、ロザリオを手に握りしめ、ヴォルクは再び空を見上げる。
『聞いたような気もしたが、彼と誓約を結んだ時点で何を聞いたのかさっぱり分からないようになってしまったな』
 ジーヤはまほらまの横顔をちらりと見る。彼女もそうだったのだろうか。そんな事を考えているうちに、一つの問いが彼の口をついて出ていた。
「絆を繋ぐ事……貴方はどう思いますか」
『……私にとって絆とは、志を同じくする事だ。私は真江と、君達と志を同じくする事にした。これだけでは、答えにならないだろうか』
 再び訪れる沈黙。そこへ、さらにグワルウェンに日々輝もやってきた。
『兄さん……マジで狼だったんだな』
『いかにも。白狼騎士団の名は伊達ではない』
『ツラの割に冷静、状況把握も早い。そんで即席でもそれなりに合わせられるってこたぁ……傭兵か、あんた』
 尋ねられると、ヴォルクは手にしたロザリオをグワルウェンの眼前に差し出す。
『事実から言えばそうなるかもしれないな。私の雇い主は常に神であったが。……君は』
『俺? ただの王様の甥っ子さ。……別に、お前の事を疑ってるわけじゃねーけど、少し前、あんたと似た匂いの男と戦ったからな……妙に気になってな』
『ふむ……』
 思い当たるところが無いのか、ヴォルクは眼を瞬かせている。どうやらヴォルクは“彼”が自分と似ているとは思っていないらしい。グワルウェンはわしわし頭を掻くと、畳みかけるように尋ねた。
『なあなあ、ついでに聞いていいか。お前さんが知ってるとは思ってねえから、ただ見解を聞きたいだけなんだけどな』
『構わないが』
『……なんであんたはこっち側なんだ? それとも、元はこっちもあっちも同じモンなのか?』
 ヘイシズも、自分と同じ覚悟を持っている筈だった。しかし彼は愚神だった。その事がグワルウェンにはどうしても引っ掛かる。ヴォルクはロザリオを胸元に当てると、静かに応える。
『殆ど同じだろう。諦めたか、諦めなかったか。それくらいの違いではないだろうか』
 ヴォルクとその囲みの中に、そろそろとした歩みで紗希も混じる。ちらりと周囲を見渡すと、恐る恐るで彼女は切り出した。
「あの……ヘイシズさんの事は……私は残念だと思っています。ですが、私達は常に前を向いていなければならない。何時までも後ろを向いている訳にはいかない。それが希望……H.O.P.E.の存在意義だと思っています」
『良い心がけだ。ヘイシズを唸らせただけの事はある』
 ヴォルクはぺらぺらと手記を捲りながら応えた。敢えて覗き込むような事はせず、ヴォルクの顔を真っ直ぐに見上げたまま、紗希はさらに尋ねる。
「最後に質問、いいですか?」
『構わんが』
「ヘイシズさんは人間を、この世界をどう思っていたと“貴方”は思いますか?」
 狼は眼を細くした。鼻面を軽く擦ると、明後日の方向を見つめる。
『分からんよ。彼は多く物を考え過ぎるから。……だが、私を完全な愚神として召喚せず、英雄として君達の側に付くという可能性を残した。それは、この世界、人類を守る事を選んだ君達の選択を否定はしないという彼の意志の現れではないのか?』
「そうですか……その答えが聞けただけで、私も前を向いていけると思います。ありがとうございました」
 紗希はぺこりと頭を下げる。狼は黙って彼女を眺めていたが、やがて静かに口を開く。
『そうか。……では、そんな君達を見込んで頼みたい事があるのだが』
 ヴォルクは真面目腐った顔でカナメ達の顔を見渡す。
『私は何時か来るであろう決戦の為、この地において白狼騎士団を再興させたいと考えている。ついては、君達をその一員として招聘したいのだが、いかがだろうか』
「え……?」
 突然の申し出にジーヤ達は顔を見合わせる。カイは深々と溜め息を吐いた。
『あいつらとは違う方面で面倒そうな奴が来たな……』
 四組が戸惑っていると、さらにナラカと影俐もやってくる。
『成程な。白い狼だから、白狼騎士団か』
『そうだ。私の率いた騎士団を皆がそう呼んでいた事はよく覚えている。国の意志には縛られず、ただ神の意志にのみ従い戦う軍勢だ。話を聞く限り、君達H.O.P.E.と似たようなものだな。……どうだろう。君も――』
 ヴォルクはナラカにも問いかけたが、彼女はすぐさま首を振った。
『それについては興味がないな。私は汝と群れるよりも、汝の率いる群れを見ている方がきっと心地よいだろう。他を当たってくれたまえ』
『そうか。……それは残念だ』
 ヴォルクは眼を瞬かせると、ちらりと影俐へと眼を向ける。彼はいつもの仏頂面で、肩を竦めただけだった。

 敬虔なる狼ヴォルク。彼の登場は、狐にも獅子にも劣らず、一騒ぎ起こしそうである。

 【狂宴】職業召命観 了

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
  • ハートを君に
    GーYAaa2289

重体一覧

参加者

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • 大切な人へ
    クローソーaa0045hero002
    英雄|29才|女性|ブラ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • Be the Hope
    杏子aa4344
    人間|64才|女性|生命
  • Be the Hope
    カナメaa4344hero002
    英雄|15才|女性|バト
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • 死の意味を問う者
    ディオハルクaa4472hero001
    英雄|18才|男性|カオ
  • Iris
    伴 日々輝aa4591
    人間|19才|男性|生命
  • Sun flower
    グワルウェンaa4591hero001
    英雄|25才|男性|ドレ
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