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【時空戦】王妃暗殺計画
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1772年1月1日
最終発言2018/07/13 06:17:30 -
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最終発言2018/07/12 15:11:44
オープニング
●――の情景
華やかな宮殿。大勢の人。先代王の愛妾との対立。止めなさい、との母の忠告。
1772年。1月。1日。
『本日のヴェルサイユは大層な人出ですこと』
●次の時空戦を始めよう
『やあやあ良く来てくれたね。どちらの予知者も非常に優秀だ。ボクが褒めてたって伝えておいてよ』
黄色のタイムジュエリーの時間案内人、ノーリは笑いながらエージェント達とアルビヌス・オングストレーム(az0125)が率いるセラエノ一同に話しかけた。アルビヌスはこめかみに青筋を浮かべている。さっさとこいつをリヴィア様のところに持っていきたいのに、とぶつぶつぶつぶつ言っている。
夜更けも過ぎた、静かな時間。
ここはヴェルサイユ宮殿、戦争の間。
壁に埋め込まれた大理石に刻み込まれているのは、馬に乗ったルイ14世がその足元に敵を置いて、踏み敷く姿。
天井にあるのは、フランスの勝利の女神。
『さて、次のゲームを始めようか』
ノーリは楽しそうな口調で語り始める。
『今回はマリア・アントーニア……いや、もう嫁いだからマリー・アントワネットか。彼女は嫁いでからというもの、舅であるルイ15世の愛妾、デュ・バリー夫人と対立していた。その対立には、ルイ15世の娘であるアデライード王女も関わっていたと言われている。まあ言うなれば、マリーとアデライード対デュ・バリー夫人、かな』
黒と見間違えそうな青の瞳を細め、ノーリは話を続ける。
『しかしその対立は、1772年1月1日にマリー・アントワネットがデュ・バリー夫人に声をかけることで終了した。さて、面白くないのがアデライード王女だ。……ここまで言えば、何が起こりそうか予測がつくよね?』
ノーリがエージェント達に目を向ける。
『君たちは王妃の暗殺を防ぐこと』
次いで、アルビヌス達の方を見て。
『君たちは王妃の暗殺を成功させること』
「つまり最終的にはマリー・アントワネットが絶命すれば良い、と。……今度は勝たせてもらうぞ、H.O.P.E.!」
アルビヌスはエージェント達に宣言する。
ノーリは翼から腕を出した。ぱちん、と指を盛大に鳴らす。
『さあ、過去に行っておいでよ!』
タイムジュエリーが輝き、そこに居る全員を包み込んだ。
解説
エージェントとセラエノの一同はタイムジュエリーによって過去のヴェルサイユ宮殿に跳ばされました。
そこでノーリに言われた役目を果たして下さい。
もちろん、セラエノ側も役目を果たそうとします。
◆跳ばされた過去の日付
1772年1月26日
◆跳ばされた先で何が起きている?
ルイ15世の娘、アデライード王女がマリー・アントワネットの暗殺を企てています。
暗殺決行日は1772年2月1日です。
(つまり、マリー・アントワネットが生きて2月2日を迎えれば、エージェントの勝利となります)
◆注意点は?
・移動できるのはヴェルサイユ宮殿内部と、その周辺のみです。
ただし宮殿内部でも以下の場所にはマリー・アントワネット
またはルイ16世の信頼を得ない限り、入ることが出来ません。
これはセラエノ側にも適用されます。
・王の寝室
・王妃の寝室
・王妃の衛兵の間
・浴室
・暗殺が起きるのは一度だけとは限りません。
・暗殺の方法も一つだけとは限りません。
・アデライード王女との接触は出来ません。
・共鳴はできません。英雄は個人のパートナーとして存在します。
・アイテムの持ち込みは可能ですが、ライヴス技術を用いたものは使用できません。
リプレイ
●1772年1月26日
ユエリャン・李(aa0076hero002)はヴェルサイユ宮殿から外に出て、町の中を歩いていた。店が立ち並ぶ通りに入り、このまま行けば町の外というところで、唐突に見えない壁に阻まれる。行き交う人々はその壁をすり抜けた。何をどうしても、そこから先には行けそうにない。
『ふむ』
ユエリャンは見えない壁に沿って歩いた。どうやらそれはぐるりとヴェルサイユ宮殿を囲んでいるらしい。
『あくまでこの中で、役割を果たせということか。……おや』
パン屋の影にアルビヌスの姿を見つけ、ユエリャンは身を隠す。どうやら彼らは商人として宮殿内に入ろうとしているらしい。しかし、全てが商人という訳ではないようだ。ここに跳ばされる前に居た人数よりも明らかに少ない。
ユエリャンは監視を続けることにした。
●1772年1月27日
「王妃様! 王妃様、大変でございます! 宮殿の壁にこのようなものが!」
慌てた様子のメイドがお茶を楽しんでいるマリーの元へ一枚の紙を差し出した。その様子を彼女から少し離れた場所で海神 藍(aa2518)とサーフィ アズリエル(aa2518hero002)は見ていた。自分が書いた文章がどのように受け取られるかと、藍は若干の不安を抱える。マリーが紙に目を落とした。
「”我々は本日より1週間の間にマリーアントワネット王妃のお命を頂戴しに参上する”……まあ、なんと恐ろしい!」
マリーが読み上げた内容にその場に居る貴族や商人達がざわつく。その中には、柳生 鉄治(aa5176)とマリアンヌ(aa5176hero002)の姿もあった。藍は人々の中から一歩、マリーへと近づく。
「穏やかではありませんね。……うちのサフィを護衛としてお貸ししましょうか」
「この女の子を護衛に?」
「ああそう思われるのも無理はない。このサーフィはこう見えて中東のアサシンに教えを受けた戦士なのです。きっと王妃様のお役に立ちましょう」
マリーはじっくりとサーフィを見た。
「どう思います、マルトノ?」
マリーが近くに居る衛兵に尋ねる。その衛兵――マルトノはちらりとサーフィを見て。
(あの人、セラエノです)
(もう敵は王妃の近くに居るってことか)
「では、お願いしましょう」
「ありがたき幸せです」
『あの、旦那様。サーフィはその間御給金をどなたから頂けば…?』
「む……やむなしか、その期間は五割増しで私から払う。王妃様に何かあれば商機を逃すことになる」
『分かりました』
サーフィはマリーに、深くお辞儀をした。藍は内心、胸を撫で下ろす。
『あら怖い。私も見張りを強化させないと』
扇で顔を隠し、マリアンヌはその場から去る。途中、黒髪の貴族とすれ違った。分かる。あれはセラエノだ。
『鉄治。あんたの出番よ。不審者の類がいたら、絶対捕まえなさい。実は動物だったオチでもいいわ。旦那かマリーに勇敢で忠実な手下がいるとかいって気に入ってもらえたらしめたものよ。マリーに近づいて、襲撃をどうにか防いでやるわ』
「へいへい。……そういや、ここが本当に過去だとして、暗殺が成功しちまったらどうなるんだ?」
『鉄治の分際でそこに気が付いたの? ……そもそも、本当にこの前から続く未来なのかしら』
あの宝石――タイムジュエリーはそこまでの力を持っているのだろうか。
『ということで、あの時と同じドレスで来てみたんだけど。気づくでしょ。私だし』
「……だから、俺はまた日傘たとヴァイオリン持たされてるのか」
『ここがシェーンブルクなら……あの曲をまた弾いてもいいんだけどね』
●1772年1月28日
月に一度ある国王への謁見日。その待ち行列の中に月鏡 由利菜(aa0873)とリーヴスラシル(aa0873hero001)が居た。少し後方には、木霊・C・リュカ(aa0068)、最後尾に獅堂 一刀斎(aa5698)と比佐理(aa5698hero001)も並んで居る。
「また過去の箱庭で私達を試す気ですか、ノーリ…!」
自分たちをここに跳ばした時間案内人に対し、由利菜は怒りをあらわにする。
『アデライード王女はセラエノと近い位置にいるはずだ……接触は現実的ではない。マリー王妃と国王の信頼を得る方が確実だ』
「はい、分かっています」
深呼吸をして、由利菜は顔を上げた。ちょうど自分たちの順番が来たのか目の前でドアが開かれる。敷かれた真っ赤な絨毯。均等に並ぶ柱。十分すぎる広さ。玉座の近くにはセラエノの衛兵が立っている。入口側では、凛道(aa0068hero002)が警備をしていた。うまく兵士の中に潜り込めたらしい。
広間の中、由利菜はゆっくりとルイ十六世とマリーの前に歩み出た。優雅にお辞儀をする。リーヴスラシルもまた同じように礼を尽くした。
『お久しぶりです、マリー王女……いえ、マリー王妃。我が主、ユリナのことを覚えておられるでしょうか』
リーヴスラシルのその問いかけにマリーは首をかしげながら、由利菜を見る。少し間を置いて、あら! と彼女は声を上げた。
「子供の時、綺麗なドレスを見せて頂いた方! ……あの時とは、全く変わっていらっしゃらないのね」
「いえいえ、マリー王妃」
マリーが自分達のことを覚えていたことに驚きつつ、由利菜は言葉を続ける。
「マリー王妃。あなたの夫は……陛下は、長引く戦乱で疲弊したこの国と国民を、懸命に救おうとしているのでしょう。あなたも、同じ考えであることに違いはないはずです」
「はい、もちろん。オーストリアから嫁いだ身ですが、私も陛下と同じくフランスのことを考えております」
マリーの言葉にルイ十六世が照れたような表情を浮かべた。微笑ましい、とリーヴスラシルは口元を綻ばせる。
「マリー王妃。こちらを受け取っていただけますか」
由利菜はプレミアムショコラを差し出した。
「バレンタインが近いですし」
その意味が分かったのか、マリーが目元を薄く染まる。ルイ十六世は何なのか分かっていないようだった。感謝します、とマリーは言う。
「貴女とは後でゆっくりお話しを」
「光栄です、マリー王妃。では」
『参りましょう、お嬢様』
もう一度二人にお辞儀をして、由利菜とリーヴスラシルは退出する。入れ替わるようにリュカが広間に通された。
「これはこれは陛下、王妃様。私はLucas Clairと申します。様々なものを扱う商売をしておりまして、これを機に懇意にさせて頂きたく」
まずお目にかけますのは、とリュカは持っていたトランクを開けた。と、そこでじ……と見られていることに気づく。
「貴方、目が不自由ですの?」
この声はマリー王妃だ。
「はい、王妃様」
「……十年前に迷路で私と会ったことが?」
「おお!」
大げさにリュカは驚いてみせる。
「覚えて頂けてましたか。はい。確かに私はあの日、王妃様と迷路で遊びお茶会を共にいたしました大道芸人でございます。あれから商人となりました」
光栄です、とリュカは頭を下げる。そしてトランクの中からシーフツールセットとヒーリングコロンを取り出した。
「こちら、錠前作りが趣味の国王様に。こちらの香水は王妃様へ」
「待て」
リュカにマルトノが声をかける。
「その香水、よもや毒ではあるまいな?」
広間に緊張が走った。リュカは首を横に振る。
「何を言います。毒を王妃様に献上する訳がないでしょう。ほら、この通り」
香水を一滴、二滴とリュカは自分の肌に垂らす。もちろん炎症が起こる訳はない。
「国王様。然るに、暫くの滞在をお許し願いたいのですが」
「許可する」
「ありがとうございます」
杖を手にリュカは立ち上がる。もう一度深々とお辞儀をして、その場を後にした。それから何人かの貴族、商人、と続いて。最後、一刀斎と比佐理が広間へと入った。一刀斎はまず、ルイ十六世へと向かい。
「国王陛下、王妃様。お目にかかれて光栄でございます。私は一刀斎。こちらは妻の比佐理です。……畏れながら。陛下は嘗てはベリー公でいらっしゃったと伺っております。ベリー産のワインとチーズとサクランボをお持ちしました。もし宜しければ……お近づきの印に」
一刀斎の合図に比佐理が反応する。鞄の中から品物を取り出した。先程のリュカと同じように、マルトノが品物を検める。彼が怪しい動きをしないかどうか、一刀斎は警戒した。マルトノは全く気にせず、品物を持って行く。ひとまず安心して、一刀斎はマリーを見た。十年前のことを彼女は覚えているだろうか。
「……私の思い違いでしたらご容赦を。王妃様は十年前……噴水広間で異国の人形遣いに会われたことはございませんか?」
「まあ、やっぱり!」
一刀斎の言葉に、マリーが嬉しそうに反応する。
「何処かで見た、と思っていました。あの時の人形劇、今でも覚えています」
「ありがとうございます。こちらの比佐理は……その時にご紹介した人形でございます」
比佐理が淑やかに二人に向けて会釈をした。
「私のような歳になると十年経ってもさほど容貌は変わりませぬし……人形たる比佐理もご覧の通り、嘗てと寸分違わぬ姿のままで。……王妃様には、実にお美しくご成長なされましたが」
マリーは微笑む。
「これにて本日の謁見は終了となり」
「待って下さい!」
大臣が終了宣言をしようとした瞬間、広間に駆け込んできたのは紫 征四郎(aa0076)だった。
「何者だ!」
マルトノが征四郎の行く手を遮る。
「征四郎と言います。此度、王妃暗殺の話を聞き、王妃様をお守りしたく参りました!」
「その年で?」
ルイ十六世が目を丸くして征四郎を見る。
「征四郎を見かけ通りの年齢と思わないことです。出自は大道芸人なれど、腕は立つのです」
『そうですか、それなら』
凛道は前に進み出た。鎌を手に征四郎を見下ろす。その視線に込められた意味を征四郎は一瞬で理解した。
『この凛道が腕前を確かめましょう』
「――望むところなのです!」
征四郎もまた刀を構える。互いに見合い、そして武器を交える。凛道の攻撃を右へ左へと避け、征四郎は彼の懐に飛び込んだ。しかし凛道はうまく躱す。征四郎の背後に立って、鎌を振り下ろした。征四郎は刀でその攻撃をはじき返す。
『なかなか』
「貴方も」
ふ、と笑い合い、二人は再び激突する。ルイ十六世とマリーはその戦いを見守っていた。凛道が鎌を振り上げた。同じように征四郎は刀でガードする。が。
「っ!」
その体が勢いよくマリーの方向へと吹っ飛ばされる。このままでは征四郎がマリーに衝突する。一刀斎とマルトノは走り出した。二人、王妃の盾となる。
「……いやいや、よく分かった」
ルイ十六世がぱんぱん、と手を叩く。
「征四郎。暫くの滞在を許す。マリーを守ってやってくれ」
「はい国王様」
「それから凛道……と言ったか、この前衛兵となったばかりのお前がそんなに強いとは」
『恐れ入ります』
凛道は深くお辞儀をした。
「マルトノ。守ってくれて感謝します」
「当然です、王妃様」
マルトノが笑みを浮かべる。その笑顔の裏に一刀斎が黒いものを感じていると、マリーは彼にも視線を向けて。
「一刀斎。貴方の人形劇をまた見せて下さい。生憎今日明日と都合がつきませんが……明後日まで、宮殿に居てくれますか?」
「はい、王妃様」
●1772年1月29日
開かれた舞踏会にマリアンヌと鉄治は居た。貴族らしい、意味があるようで意味がないゴシップや最新のドレスなどの話をしながら、マリアンヌは貴族を装うセラエノに近づいた。
『舞踏会は初めて? いえ、きょろきょろしていらっしゃるから。何処のお嬢さんかしら?』
「ゴルドシュミット伯爵の子女、グリューリア、と申します。マリアンヌ様」
『あら、私の事を知っているの?』
「はい」
セラエノ――グリューリアは笑った。それはとても冷たい笑み。負けじとマリアンヌは笑みを返す。それではまた後程、と去っていくグリューリアにマリアンヌは優雅に会釈してみせた。
『付け焼刃にしてはしっかりとマナーに則った挨拶ね。褒めてあげる』
「あんまり違いが分からなかったが……」
『もう少し審美眼を磨きなさい鉄治』
全くと、マリアンヌは扇を仰ぐ。何となく、窓の外を見た。そして気づく、庭に誰か居る。
『鉄治っ!』
「な、なんだ?」
『ほら怪しい奴よ、行きなさい!』
マリアンヌに押し出され、鉄治はテラスに――否、勢い余って庭へと落ちた。若干の痛みを感じつつ、鉄治は辺りを伺った。そしてすぐに、木陰でこそこそしている二人組を見つける。音を殺し、彼らに近づき、取り押さえる。
「っ、離せ!」
「セラエノか。何をして」
「ちっ!」
二人は鉄治を突き飛ばすと、闇の中へと駆け出した。騒ぎを聞きつけたのか、テラスに人が集まってくる。その中にはマリーの姿もあった。マリアンヌは優雅に笑いながら、マリーに近づく。
『王妃様。危ないところでしたわ。何者かが侵入していたようですわ、あの手紙の差出人かもしれません』
「まあ」
『しかしご安心を。私の侍従、鉄治が追い払いました』
「それは感謝しなくてはいけませんわね……あら、貴方……大道芸人の」
『お、王妃様……それ以上はおっしゃらないで戴けますこと』
マリアンヌは必死で体の震えを抑えた。その様子を見ていた由利菜はちょっとだけ笑ってしまう。と、彼女の背後にリーヴスラシルが近づいた。
「ユリナ。厨房を見てきた。新しく入ったコックは居なかったが……アルビヌスが商人として食材を卸している。アデライード王女の口利きでだ」
「なるほど。その食材は使わせないように……使われたとしても料理がマリー王妃の前に運ばれないように。……勿体無いですけれど」
『確かに』
リーヴスラシルは肩を竦めた。
『厨房は私とアイで見張る』
「分かりました」
その頃。リュカは宮殿の中を歩いていた。当然まだ、王や王妃の寝所には入れない。目立たぬように、辺りを散策する。
「ふふーふ、楽しいねぇ」
動画用ハンディカメラを使って、宮殿内部を撮影する。そして掌に適当な傷をつけた。この傷は持ち越すことが出来るだろうか。
「スマホは、と……。うん、やっぱり電話やメールは出来ないね。あとは献上品がどうなるか……」
●1772年1月30日
「いや素晴らしかったぞ。一刀斎」
「ほんとほんと、あの人形劇。感動したよ」
「光栄です」
一刀斎とリュカはルイ十六世に食事会に招かれていた。人形劇鑑賞の時はマリーも側に居たが彼女は今、ドレスを見るために別行動をしている。
「そうだLucas。そなたに貰った道具だが。あれは中々素晴らしい。私の錠前作りがますますはかどりそうだ」
「お気に召したようで何よりでございます」
にっこりと、リュカは笑った。そのやりとりを見ていた一刀斎が控えていた比佐理に合図をする。比佐理は一つ頷いて、寄せ木細工をテーブルの上に載せた。
「陛下。私も斯様な手先仕事は好きでございまして。このような仕掛け箱も手掛けております」
「おお、面白そうだ」
興味を持ったのか、ルイ十六世は寄せ木細工の箱を手にとり観察をする。そこに一刀斎は言葉を重ねた。
「陛下。暗殺予告の手紙が届いた事、伺いました。私は衛兵としてある程度腕に覚えがあります。……私も、我が妻も陛下と王妃様を何とかお守りしたい……斯様な思いで居ります。どうかお傍に置いて戴けないでしょうか」
「私もそうした方がよろしいと思います、陛下」
リュカが助け船を出した。
「以前この男、その妻とはある場所で共におりまして、その腕は確かでございます。……あと、凛道。あの男も」
「ふむ……」
ルイ十六世はしばし考えこんだ。言い過ぎたか、とリュカと一刀斎は緊張する。ルイ十六世は二人の顔を交互に見て、そして。
「……そうだな。お願いしよう。十年前、そなた達にマリーが世話になったようだしな」
ルイ十六世に四人に宮殿内を自由に歩ける権利を与えた。
●1772年1月31日
王妃の衛兵の間にて、凛道はとある衛兵を警戒していた。レハールと名乗ったその衛兵は、凛道と同じタイミングでここに入り込んだ。他の衛兵とは違う動きは、ここではない何処かで戦術を学んだことを示している。交代の時間になり、凛道は外に出た。一息つく。
『竜胆』
『ユエさん。町に出ていたのでは?』
商人の恰好をしたユエリャンは首を振った。
『どうやらセラエノ側は皆、宮殿内に入ったようだ。我輩は王妃と面識はないとは言え、こちらに居た方が良いだろう』
『そうですね。……明日、ですもんね』
窓の外に凛道は視線を移した。庭に作られた東屋。そこに今王妃が居る。当然、征四郎と比佐理が警護についている。彼女達は何を話しているのだろう。
『王妃には十年前の記憶がある。……この世界はなんなのだ?』
●1772年2月1日
「王妃様、おはようございます」
起きてきたマリーに対し、メイドたちが一斉に頭を下げる。サーフィもまた、丁寧にお辞儀をした。皆の情報からマリーの側の衛兵、貴族にセラエノが居ることは分かっている。しかし、お世話をする者の中に居るかどうかは分からなかった。
(なんとか浴室に入れるまでにはなりましたが……)
マリーの着替えを持ち、サーフィは他のメイド数人とマリーの湯浴みを手伝う。怪しい動きをしないかどうか、警戒する。今のところ、皆普通の動きをしていた。湯浴みは恙なく終わり、マリーは着替えの間に進む。メイド数人が彼女にドレスを着せていく。最後に髪結い師がマリーの背後に近づき、櫛を手にした。
(あれは……!)
サーフィは髪結い師の手を止めた。
「その櫛は汚れているようですので、こちらをお使い下さい」
有無を言わせずサーフィは櫛を取り換える。髪結い師は怒りがこもった視線をサーフィに向けたが、すぐに穏やかな表情になり、王妃の髪を整え始める。回収した櫛をサーフィは確認する。やはり毒が塗られていた。こんこん、と窓が小さく叩かれる音。窓から少しだけ藍が顔を覗かせた。誰にも気づかれず、サーフィはそこに近づく。
(にいさま)
(やっぱり毒物を使ってきたようだね。厨房はリーヴスラシルが見張っているし……私は屋根の警備を続けるよ)
昼のお茶会。
マリーの隣には由利菜。その逆隣にグリューリア。対面にはマリアンヌ。側には征四郎と比佐理、それにマルトノが控えている。
「今日は特別なケーキを作らせましたの」
メイドの一人がティースタンドを持ってくる。そこには新鮮なフルーツが贅沢に使われたケーキが載っていた。比佐理がそれぞれの皿にケーキを取り分ける。
「あら、そちらのケーキの果物は傷んでいますわね」
マリーがグリューリアの前に置かれたケーキを見て言う。取り換えましょう、とマリーはメイドに合図した。お気遣いありがとうございます王妃様とグリューリアが頭を下げた。マリーの視線が下げられるケーキへと移る。グリューリアは笑った。袖の中に隠していた小瓶を取り出して、中身をマリーのティーカップの中へ――入れようとして、手を止めた。由利菜とマリアンヌ、比佐理がこちらをじ――と見ている。ち、とグリューリアは舌打ちした。これでは無理だ。
『あら、今何か妙な音が聞こえましたわ。そうまるで――』
「空耳ではありませんか、マリアンヌ様」
「私も聞こえました」
「由利菜様まで。お止め下さい」
グリューリアは笑顔を浮かべた。
ケーキを食べる時間は穏やかに終わった。
「お庭を案内します。マルトノ、馬車を」
「はい王妃様」
マルトノが馬車を引いてきた。さあ皆さま、とマリーは馬車に近づく。
次の瞬間。
「なっ?」
突然馬が暴れ出した。馬車をつけたまま走り出し、Uターンしてマリーへと一直線に突っ込んでいく。きゃあああとメイド達が悲鳴を上げた。
誰もがもうダメかと思ったその時、比佐理がマリーを抱えて飛んだ。
『大丈夫ですか』
「え、ええ大丈夫よ。ありがとう」
マリーに怪我がなかったことに征四郎は胸を撫で下ろす。
マルトノは苦々しげに比佐理を見ていた。
あと二時間で、二月一日が終わる。
セラエノの強襲に備え、サーフィと征四郎、比佐理はマリーの側に居た。その緊張した様子にマリーは少々面食らっているようだった。
「三人とも……そんな怖い顔をしなくても」
『いいえ王妃様。最後まで油断をしてはいけません』
『気にせず、お眠り下さい』
「ヒサリ。それは無理だと思うのです……」
征四郎がそう言った途端、天井から音がした。瞬間、天井板が外れる。そこから現れたのは。
『王妃様。こちらへ』
『来ましたね、セラエノ。さあ、お掃除の時間です!』
「マリーには指一本、触れさせません!」
覆面をした彼らを三人は迎え撃つ。
時計が進む。そして、午前零時が。
『ゲームオーバー。戻ってきなよ、君たち』
●帰還
『今回もこっちの勝ちか。全く見事だよ。ボクが想定する全ての――いや、それ以上のことを君たちは想定するんだもの』
ノーリがリュカ達を見る。アルビヌスはがんがん、と地団駄を踏んでいた。
「あああああリヴィア様!」
「落ち着いて下さいアルビヌス様」
「グリューリア! お前が毒をあそこで入れていれば! レハール! お前が屋根から王妃を射抜いていれば! マルトノ! 馬の調教は得意ではなかったのか! あああリヴィア様、申し訳ありません……!」
嘆くアルビヌスにノーリが軽蔑の目を向ける。
「ねえねえノーリ」
『何だい』
「ゲームはこれで終わり?」
『いや?』
「なら、次のゲームの場の予想をしてみたよ。……コンコルド広場! どう? 結構自信あるんだけど』
リュカの言葉にノーリは笑って首を振った。
『残念。大外れだよ』
「ノーリ」
次いで彼に話しかけたのは藍だ。
「前回に続いて今回もマリー王妃の絡む出来事だったが……君はマリー王妃に縁のあるものなのかい?」
『前も言ったと思うけど、それはご想像にお任せするよ。――さあ、もう解散解散。次のゲームが決まったら、また呼ぶからさ』
ゆっくりとノーリがタイムジュエリーの中に消えていく。
リュカは掌の傷とカメラの映像を確認した。傷は残っている。でも映像は消えている。ネットでマリーアントワネットのことを検索した。自分や一刀斎が渡したものについての記述は一切ない。
また多くの謎を残しながら。
二回目の時空戦は幕を閉じた。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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