本部

【異界逼迫】連動シナリオ

【界逼】三つ巴のレプティス・マグナ

一 一

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/07/13 20:41

掲示板

オープニング

●共通OP
 大英図書館の館長室において、キュリス・F・アルトリルゼイン(az0056)は表の仕事をこなしていた。
(古墳から発見された地図ですか。希少性からいって仕方ない金額ですね)
 机に向かい、各部署からあげられた申請書に目を通して可否を決めていく。
 英雄のヴォルフガング・ファウスト(az0056hero001)は来客者用のソファで菓子を摘まみながら、ファッション雑誌の記事に目を輝かせている。
 もうすぐ昼食の時間といったところで、机の片隅にある固定電話が鳴り響いた。表向きの秘書を介さないH.O.P.E.ロンドン支部との直通回線だ。
「詳細はそちらに出向いてから。それでは」
 話し終わって受話器を置いたキュリスに、ファウストが「大急ぎで、どうかしましたの? 世界が滅びそうだったりするのかしら?」と訊ねる。
「そうでなければよいのですが」
 キュリスの返答に、からかった風のファウストは真顔になっていた。
 キュリスが書架の本を一部入れ替えると、奥に引っ込んでいく。さらに横移動し、エレベータの出入口が現れる。
 H.O.P.E.ロンドン支部は大英図書館の地下深くに存在していた。降りたキュリスとファウストは、執務室へ向かわずにブリーフィングルームへ。中央にあるテーブル上にはホログラムイメージが浮かぶ。地中海周辺の地図である。
「早速、本題に入らせて頂きます。ご存じの通り、地中海周辺でテロが起こるというプリセンサーの報告が相次いでいます。これまで曖昧だったのですが、ここ二、三時間ほどで確定的なものに変わっていまして――」
 職員の一人が状況を説明した。
「確度の高い前兆ですね。警戒態勢を引きあげましょう。本部にも連絡を……、いや私がしたほうがよさそうですね」
 キュリスはテレビ電話を通じて、自ら本部とやり取りする。終わったあとで、職員が戸惑いながら口を開いた。
「あの、支部長。マガツヒの首領『比良坂清十郎』は、本当に『過去機知』が使えるのでしょうか。私もプリセンサーの端くれなのですが、どうしても信じられません」
 職員が語った『過去機知』とは非常に稀なプリセンサー能力だ。過去に起こった事実をつぶさに知ることができるといったものである。
「私も完全に信じたわけではありませんが、その想定で動くつもりです。そうでなければ説明しづらい行動が、マガツヒにはありますので」
 キュリスはそう答えて廊下を歩きだす。
「キュリスちゃん、そんな恐い顔をしていると、お肌に皺が増えてしまいますの」
「それでこの事態を収束できるのであれば、安いものです」
 執務室の扉を閉じたとき、キュリスはファウストに軽く肩を叩かれた。
(やはり比良坂清十郎の真の目的は、古代遺跡の破壊にあるのでしょうか)
 テロの発生が疑われる地域の多くには、古代遺跡が存在している。キュリスは共闘することとなったセラエノのリーダー、リヴィアの言葉を思いだしていた。

●レプティス・マグナを守れ
「セラエノからの情報で、マガツヒがテロを起こす遺跡の1カ所が判明しました」
 碓氷 静香(az0081)が地中海周辺の地図から示したのは、リビアの都市にある『レプティス・マグナ』という遺跡だった。
「1000年以上もの間ずっと砂の中に埋まっていたため保存状態がよく、古代都市の雰囲気がよくわかる遺跡なのですが、どうやらマガツヒは爆破テロを画策しているようです」
 プロジェクターには細かい装飾まで残す古代ローマ都市の建築物の写真がいくつも表示され、文化遺産として保護されるのも頷ける美しさを保っている。
「あちらのプリセンサーが予知したところによると、マガツヒは5人2組――つまり10人で行動しているようです。クラスの内訳は資料にまとめましたので、後で確認をお願いします」
 事件発生までさほど時間がなく、これから現場に向かってもらうことになると説明した後、静香は別の懸念を口にした。
「それと、これはテロとの直接的な関係はないと考えられていますが、先日レプティス・マグナにほど近い隣国チュニジアの遺跡付近でも戦闘が起こりました。主導はステラ・マリスと名乗った愚神で、従魔を指揮し地中海と隣接した国の都市を襲撃しています」
 前回はたまたまカルタゴ遺跡の付近で衝突したが、ステラ・マリス(az0123)の目的は人が多い都市や観光地の可能性が高い。直接遺跡を狙うとは思えないが、注意するに越したことはない。
「先の戦闘地点と位置的に近いため、遭遇する危険性がないとはいえません。くれぐれも注意してください」
 声音も表情も変わらず、されどぬぐえない心配を口にした静香はエージェントたちを送り出した。



●『海の星』は笑う、魔女のように
「……やはり理解に苦しみます。何故人は、朽ちた遺物に集まるのでしょうか?」
 リビアのフムス市、レプティス・マグナが遠い彼方に見える海の上にて、ステラは笑みを浮かべたまま小首を傾げていた。傍らにはスディレが数体、不規則な光を発しながら浮遊している。
「あちらにいらっしゃる方々は、私(わたくし)と相対した『希望』を掲げる方々とは異なる活動をされているようですが、一体何をしていらっしゃるのでしょうか?」
 まるで実際に見えているかのように、ステラはスディレの光から状況を把握していた。
 遺跡に仕掛けを施そうと動き回っている、マガツヒ構成員の姿を。
「蒙昧(もうまい)な私では、答えを導き出せないようですね。ならば――彼の方々に教えを請いましょう」
 そして、ステラが笑みを深めた直後にスディレが色を変えた発光を点滅させる。
 穏やかな声音と微笑であるはずなのに、海に立つ少女の顔はどこか暗く歪んでいた。


解説

●目標
 マガツヒ・従魔の撃退
 遺跡保護

●登場
 マガツヒ構成員×10…遺跡破壊を目的に現れたが、従魔の襲撃で若干混乱状態。内訳はブレイブナイト4人・ソフィスビショップ4人・バトルメディック2人で、2組に分かれて行動。

 チェルボ×4…デクリオ級従魔。体高約1.5m、全長約2.5mの鹿。通常よりやや大きく異様に発達した角が特徴で、積極的に人間を襲うが奇襲が主で行動は慎重。

 能力…攻撃・移動↑↑、回避・イニシアチブ↑、防御・生命力↓

 スキル
・コルヌ…射程1~2、単体物理、物攻+30、命中+10、刃のような角による斬撃/刺突、命中→対抗判定(物攻vs物防)勝利→BS減退(1)付与
・リープ…単体魔法、回避+60、ライヴスで空中に足場を作り立体機動が可能、5R持続

 スディレ×8…ミーレス級従魔。岩のような表皮を持つ1mほどのヒトデ。黄白色の肉体はライヴスで発光し、ステラの指示を伝達する指揮能力を保有。海中行動の他、飛行能力も持つ。

 能力…防御↑↑、回避・移動↑、攻撃↓↓

 スキル
・クディジデ…カバーリング、移動+2、表皮を硬くし味方をガード、被ダメージ1D10減少

 ステラ・マリス…地中海沿岸の国へ攻撃を仕掛ける少女の姿をした高位愚神。

●場所
 リビアの都市・フムスにある遺跡レプティス・マグナ
 かつてローマ皇帝の出身地となりアフリカ第三の大都市までになった
 遺跡の保存状態がよく、劇場やバシリカなど当時の建造物も多く残る
 天気は快晴、気温は高く高湿でかなり蒸し暑い

●状況
 セラエノの情報提供によりマガツヒの遺跡破壊テロが発覚
 PCが遺跡保護のために現場へ訪れたと同時に従魔が出現
 テロは従魔に攻撃されて中断するも、マガツヒに撤退する様子はない

 戦闘開始は昼頃
 主戦場はレプティス・マグナ遺跡の内部で、従魔・マガツヒの行動により損傷の危険が高い
 スディレの存在からステラ介入の可能性あり

リプレイ

●偉大なレプティス
「こうしてセラエノからの情報で動いて、協力関係に成ったと実感するよ。お陰で遺跡を守れる」
『お互いに、なら良い事ね』
 リビアに到着した荒木 拓海(aa1049)はすぐにメリッサ インガルズ(aa1049hero001)と共鳴し、仲間とともに臨戦態勢を整えながらレプティス・マグナへ向かった。
「マガツヒは相変わらず遺跡を狙ったテロか。まったく目的が読めんな」
『古代の力でも眠ってるのかな? 壊して開放とか?』
 道中、御神 恭也(aa0127)は標的を絞って活動を活発化させたマガツヒに疑問を覚え、共鳴した伊邪那美(aa0127hero001)がとりあえず思いつきの予想を並べるも確証はない。
「景色と相まって神秘的な美しさだ」
 しばらくして、海を背景にした遺跡の姿が目に映り拓海が感嘆の声を上げた。
『そういえば、ステラは海から長く離れられないのかしら? 毎回海に近い場所に現れるけど』
「地中海付近に何かしら意味があった結果と思うが、意識はするね」
 ふと、メリッサが前回邂逅し今回も出会う可能性がある愚神・ステラについて思考する。今までの経緯や言動から活動区域が地中海なのは明白だが、拓海も明確な答えは出せない。
「皆さん! 敵はもう遺跡にいるっす!」
『――あ』
 すると、モスケールでライヴス反応を確認していた久兼 征人(aa1690)が敵の存在を伝えた直後、2カ所から騒音と粉塵が広がり共鳴したミーシャ(aa1690hero001)から吐息が漏れた。
「捕捉範囲は円形劇場だけっすけど、反応は11――これはまた、随分な人気スポットみたいっすね!」
『半分はマガツヒで、残り6つは従魔と考えてよさそうね』
 征人が索敵結果を伝える間も音は鳴り止まず、ミーシャが事前情報と照らし合わせて推測をこぼす。
「状況的に、ちょっと複雑な感じかな」
『そうでもない。敵の敵は、結局敵でしかないからな』
「まぁ、両方倒すのは決まってるし、お互いに攻撃しあってくれるだけマシかな……遺跡を巻き込んでないといいけど」
『それは難しい相談だろう。急ぐぞ』
 すでに戦闘が始まったと結論づけた九字原 昂(aa0919)は、共鳴したベルフ(aa0919hero001)と短く言葉を交わすと姿勢を低くし『全力移動』。より現在位置から遠いもう1つの戦場へ急行する。
「マガツヒと従魔から遺跡を守りながらの三つ巴か。慎重かつ一気に行く必要があるな」
『あちらは私たちに気づいていないでしょうから、身を隠しながら接近すれば先手を取れます』
 月影 飛翔(aa0224)も昂に追随し、共鳴したルビナス フローリア(aa0224hero001)の助言からイメージプロジェクターを用い、遺跡の保護色で全身を覆った。さらに恭也と拓海も続き、自然と2組に分かれた。
「従魔とマガツヒが勝手に争ってくれるなら、遠距離からちょっかいかけるという手もあるわよね」
 征人を先頭に劇場跡へ向かうフィアナ(aa4210)は、キングシースに収めたウルスラグナの柄に触れつつ、幻想蝶にある物理的衝撃がほとんど生じない魔導銃を思い出した。
『状況次第だろうね。遺跡との位置関係はもちろん、意識されすぎるのもよくないよ。あちらが僕たちの排除を優先して共闘することもありえるからね』
「わかってるわ、兄さん」
 小さな呟きは共鳴したルー(aa4210hero001)に拾われ、穏やかな忠告にフィアナが頷く。
 敵の無力化に加え遺跡にも気を配る分、エージェントの負担はやや大きい。ならば常の冷静さを崩さず視野を広く保ち、臨機応変に動けばいいと納得して、フィアナは『全力移動』で地を駆けた。
「遺跡を守る……こちらの人数は少ないですが、やるしかありません」
『愚神や従魔との結びつきが強いマガツヒとはいえ、実際に協力関係を結んだ勢力は限定される。どうやら今回は違うようだが、油断はできんな』
 同じように考えた月鏡 由利菜(aa0873)と共鳴したリーヴスラシル(aa0873hero001)も気を引き締める。特に遺跡の保護を最優先と定め、由利菜は征人とフィアナの背を追った。
「従魔はマガツヒ――つまり人間を狙っている……前回遺跡近くに現れたのは、やはり偶然だったのでしょうか? 遺跡の破壊が目的なら、彼らと交戦する意義は薄いはず」
『……』
「そもそもなぜ、遺跡を壊そうとするのでしょうね? 疑念は尽きませんが、今は最善を尽くしましょうか」
『――ロ』
 最後尾には従魔とマガツヒについて考察を重ねていた構築の魔女(aa0281hero001)が、共鳴した辺是 落児(aa0281)の一言で思考の海から急浮上。赤い髪をたなびかせ、迫る脅威に目をすがめた。

●テロを防げ
 アウグストゥス帝の円形劇場――自然の勾配を利用した階段状の客席は約5000人も収容でき、舞台の背後には神殿に使われた柱が並び建って、さらに先には地中海が広がっている。
「――クソ! 何でここに従魔が!?」
 多くの柱に紛れて長剣を握るブレイブナイトは、流血(『減退』)を押さえ悪態を吐いた。マガツヒ構成員が遺跡に到着し、破壊工作の準備を始めた直後に鹿型従魔――チェルボの襲撃にあい、狙われたソフィスビショップをかばって負傷したのだ。
「(牛の次は鹿か。角付きにこだわりでもあるのか?)」
『強そうだからじゃない?』
 舞台近くの柱に隠れて戦闘の様子をうかがう征人は、小声でミーシャと会話しつつライヴス反応と実際の敵数を確認する。そこで、2体いるチェルボの周囲を飛ぶ4体のスディレを見つけ、明らかに顔をしかめた。
『嫌そうね?』
「(ろくな思い出がないからな)」
 ミーシャの微笑混じりな声を受け、征人はミーレス級とは思えない堅さのヒトデを恨めしそうに睨む。
「(ステラ・マリス……)」
 フィアナもまた、発見したスディレに目を細めてかの愚神を思い出す。奇襲で混乱気味のマガツヒはともかく、ステラ指揮下の従魔は思い通りに動かないと想定して行動すべきと通信機で意見を共有した。
「(全体の方針ではありますが……ラシル、従魔をマガツヒとの戦いに利用することは、あなたの前世の記憶的に気が乗らないのでは――?)」
 ただし、由利菜は祖国を愚神に滅ぼされたらしい従者に気遣いの声を向ける。
『どちらも敵である以上、最終的に両方斬ることに変わりはない。それまで奴ら同士で争い合うのは勝手だ』
 リーヴスラシルのの返答は実に泰然自若とし、さらにこう付け加えた。
『それに、ユリナも【東嵐】の戦いで知っているだろう。マガツヒの連中は話して分かるような教育はされていない上、衝動のまま暴虐を振りまく集団だ。無論、組織の支配下から解き放つことができた者はいたが、極めて特殊な事情でしかない。遺跡も守護対象に含まれる現状、奴らの方が脅威だ』
 この場において優先討伐対象はマガツヒだと明言されて、由利菜は無言で頷いた。
『久兼さん。マガツヒの内訳はわかりますか?』
 そこへ通信機から構築の魔女の声が届き、征人は装備やスキルから推測したクラスと人数を伝える。
「(どうするっすか?)」
『遺跡内で戦われるのは迷惑ですから、舞台の方へ出てきてもらいましょう。敵が浮き足立てば、誘導をお願いします』
 次いで疑問を投げた征人を含む仲間の通信機に笑みを残した後、構築の魔女は客席の上からメルカバを構えて引き金を引いた。
「――ぐあっ!?」
 直後、防御を優先し密集していたマガツヒたちの中心にいたバトルメディックが、転移してきた『テレポートショット』に反応できず倒れ込む。
「なっ!? まだ敵が――」
「――いないと思ったか?」
 混乱が加速し長剣ナイトが周囲を見渡すと、側面から回った征人が肉薄。炎の幻影が尾を引く薙刀が振り下ろされた。
「ちっ! テメェら、H.O.P.E.か!!」
 長剣ナイトはギリギリ回避し、反撃に放った『ライヴスリッパー』も空を切る。そこから征人との斬り結びへと発展し、徐々にその場から移動していった。
「あなた達の戦意が完全に喪失するまで、徹底的にやらせて貰います!」
 さらに海側へ回り込んだ由利菜が、『守るべき誓い』とともにマガツヒを一喝してニヴルヘイムを抜いた。
「っ、ヴァルヴァラの負念が……!」
 瞬間、荒々しい黒紅の闇が同色の刃から噴出し、由利菜の額から冷や汗が流れる。異様な気配に身構えたのはマガツヒだけでなく、チェルボも空中に作った足場――『リープ』を渡って距離を取った。
『問題ない、制御は私がやる。臆することなく剣を振るえ、ユリナ』
 そこへリーヴスラシルの声が響くと徐々に闇が収束し、吐息で弱気を追い出した由利菜は威圧を強めた。
「く、っ!?」
「残念、こっちは通行止めよ?」
 分が悪いと察したビショップの1人が逃げ道を探した先には、すでにフィアナが立ち塞がっている。
「一度退くぞ!」
「従魔は私が!」
 残る退路は舞台へと続く道しかない。
 瞬時に判断を下した男ビショップは女ビショップに指示し、同時に『ブルームフレア』と『ゴーストウィンド』を発動。由利菜とフィアナへ火炎を、従魔へ不浄の風をけしかけてマガツヒは一斉に駆けだした。
「よし! ここで体勢を――」
 ひとまず舞台上へ出た男ビショップだが、客席から飛来した砲撃を受けて吹き飛んだ。
「――整えさせませんよ?」
 マガツヒが驚愕で顔を上げれば、客席最上段でメルカバの発射口を向ける構築の魔女の姿があった。
「止まんな! さっさと動け!」
 そこへ、柱の隙間から舞台へ降り立った長剣ナイトが呆けたメンバーへ活を入れる。
「そういうあんたはせっかちだな!」
 続けて征人が長剣ナイトへ追いつき、切りかかって合流を阻んだ。
(従魔は人狙い……なら、マガツヒを先に倒す!)
 剣戟のさなか、征人は遺跡保護の観点から従魔を後回しに決め、ナイトへの手数を一層増やす。
「次は回復役にお休みいただきましょうか」
 動揺から脱したマガツヒ3人に構築の魔女は目を細め、追撃の照準をメディックに絞った。
「させねぇよ!」
 放たれた砲弾はしかし、『心眼』の防御に徹した盾ナイトにより弾かれる。
「くそ! さっきの不意打ちもアイツか!」
 一拍遅れて後退したメディックは自身を『ケアレイ』で治療し、長剣ナイトにも回復スキルを使用――
「背中が隙だらけなのよ?」
「っご、ぁ!?」
 ――する直前、従魔の攻撃を躱して現れたフィアナが『ライヴスブロー』でメディックを急襲。後退した距離を押し戻し、3人のマガツヒが固まった。
「この――っ!」
 すぐに女ビショップが魔導書を開き、魔法で迎撃しようと構える。
 刹那、一陣の風がフィアナを追い越し、姫冠と鎧が陽光を反射した。
『そちらのペースに付き合うつもりはない――コード・エクサクノシ(昇華)!』
「剣に宿りし雪姫の憎念――光の意思で導かん! ヴァルヴァラ・プテロン!」
 リーヴスラシルの声で【超過駆動】が起動し、活性化したライヴスが躍動。
 収束したライヴスがニヴルヘイムの刃を青白く染め、由利菜の眼前で『一閃』が走る。
 一瞬の剣線に遅れ、ふわりと舞った雪の羽根と同じように、3人のマガツヒが舞台へ崩れ落ちた。
「これで、魔法攻撃で遺跡が傷つく心配はなさそう――っ!」
 ビショップ2人の『戦闘不能』を見届け、ひとまず安堵したフィアナは即座に身をひねりウルスラグナで切り払い。背後から迫ったチェルボの角を防ぎ、由利菜と背中合わせの位置まで後退する。
「――っ、ざけんな!」
「ちっ、待て!」
 すると、1人になった長剣ナイトは征人の薙刀を弾くと狙いを由利菜に変えた。
「まとめて、ぶった斬る!」
 そして、ちょうど集まった由利菜・フィアナ・チェルボへ『一閃』を抜き放つ。
「……ごぇっ!?」
 が、マガツヒの刃は呆気なく空振り、跳躍した由利菜がレーギャルンから解放した赤い三日月の反撃により沈黙した。
「っし! 残りは従魔だけっすよ!」
 追いついた征人も肩を並べ、空中を駆け回るチェルボを見上げて武器を構えた。

 バシリカ――かつての古代都市では商取引場や裁判所の役割を有した公共施設で、商業活動の中心。高さ30mの建造物に残るレリーフや装飾彫刻は、当時の繁栄を示す荘厳さが見て取れた。
 それが今は、マガツヒと従魔の戦場になっている。
『従魔は遺跡ではなく、マガツヒが狙いのようですね』
「従魔に気を取られている隙に強襲し、混乱させるか。最初の攻撃で1~2人倒したいところだ」
 建物の陰に隠れ、2つの勢力を観察するルビナスに同意を示した飛翔は、ダーインスレイヴを握って『トップギア』を発動。なるべく時間をかけず、速攻で倒すつもりで隙をうかがう。
「……視認範囲に他のライヴス反応はない。ひとまず、伏兵はいないと判断していいだろう」
 少し離れた建物からは、ライヴスゴーグルをかけた恭也が顔を出す。奥にあるバシリカの壁を背にマガツヒが従魔と相対し、さらに従魔の背面をエージェントが眺める形だ。
「あれは――」
 と、同じく奇襲のタイミングをうかがっていた昂が壁際にいたメディックの動きに気づく。
「すみません、先行します!」
 次の瞬間、昂は仲間への声かけも短く一直線に走り出した。
「ベルフ、あれはやっぱり――」
『ああ、爆弾だ』
 従魔・マガツヒ・攻撃の余波をくぐり抜けつつ、メディックの手元に視線を固定する昂の予想をベルフが肯定。威力は不明だが、保存状態がよく立派な姿を残す遺跡の破壊に半端な代物を用意するはずがない。
「そこまでです」
「な……っが!?」
 故に、昂の指から放たれた『縫止』の針がメディックの腕に刺さり、起爆前に動きを止める。さらに昂は加速しメディックから爆弾を奪うと、チェルボや長剣ナイトの攻撃を躱しながら幻想蝶へ格納した。
「次から次へと!」
 すると、従魔に続き昂の介入で苛立ったビショップが『ブルームフレア』を発動。チェルボを中心に火炎が炸裂した。
「――ちっ!」
 しかし、チェルボは意に介さずビショップへ突進。すんでで盾ナイトがカバーしてみせる。
「荒木! 援護は任せた!」
 両者の動きが鈍ったところで恭也も乱入。チェルボの背へ迫るドラゴンスレイヤーはスディレの『クディジデ』に阻まれた。
「了解、任された!」
 魔法が巻き上げた砂塵が大剣の風圧で晴れ、建物の陰から身を乗り出した拓海がピースメイカーを発砲。銃弾は従魔の攻撃で体勢が崩れた盾ナイトを通り過ぎ、ビショップの体を撃ち抜き意識を刈り取る。
「ビショップの範囲攻撃も危険だが、そっちは任せよう――俺は回復を先に潰す!」
 さらに、戦場へと躍り出た飛翔が乱戦の中を突っ切りメディックへ肉薄、刃を豪快に振りかぶった。
「やらせね、っぐ!? ――ごぇ!?」
 何とか対応できた盾ナイトが『クロスガード』で身構えるが、スキルにより集積した力で暴れ回る『疾風怒濤』に耐えきれず、三撃目で吹き飛び体を弛緩させた。
「爆弾を返せ、ドロボー!」
 完全に乱戦となった中、もう1人のビショップが叫びながら『サンダーランス』を発動。矛先は、角を振り回すチェルボをいなしていた昂。
「っ、と! テロの実行犯に犯罪者と呼ばれる筋合いはありませんよ」
 昂はやや反応が遅れるも『零距離回避』でやり過ごし、『リープ』で躱したチェルボとも離れ体勢を立て直した。
『範囲魔法に状態異常、どのクラスも厄介ね。さっさと全員止めるわよ』
「言われなくとも、っ!」
 遺跡も構わず魔法を連発するマガツヒに歯噛みするメリッサへの返事代わりに、拓海は再度引き金を引く。
「ウゼェ!」
 が、今度は長剣ナイトがカバーに入り、苦痛で顔をしかめながらも耐えきった。
「そちらも、少し大人しくしてください!」
 長剣ナイトが顔を上げると、跳躍した昂が太陽を背に『女郎蜘蛛』を展開。範囲内のマガツヒ3人は逃れようとし、メディックは槍で切り払ったがナイトが『拘束』と『減退』に捕まった。
「消えろ!」
 ビショップはネットごと燃やすように『ブルームフレア』を放ち、ついでに反撃として利用する。
『これ以上遺跡を破壊させないためにも――彼らに従魔の相手をしてもらいましょう』
「妙案だ!」
 炎を飛び越えた昂の真下、地面スレスレを走る中で下されたルビナスの提案に口角を上げた飛翔は、勢いそのまま『ストレートブロウ』でブン殴る。
「うげぇ!?」
 大剣の腹は見事、身動きが取れない長剣ナイトをチェルボの方へかっ飛ばした。
「っ!? ――速い」
 しかし、チェルボは『リープ』であっさり飛び越え、一足飛びに飛翔へ接近。大振りの攻撃でとっさに避けられず、飛翔は刃のような角攻撃――『コルヌ』で切り裂かれた横腹の流血(『減退』)を押さえた。
『えげつないな~』
「有効な戦術だろう。隙があれば俺も――ふっ!」
 凄絶な人間大砲(不発)を見届けた伊邪那美はちょっと引き気味だったが、恭也が切り結んでいたもう1体のチェルボの横へ移動し、やや鈍い胴体への斬撃を見舞ったことでより口角がひきつった。
「悪いがそいつの相手をしてもらおうか」
「てめっ、押しつけんなコラァ!」
『……うわ~』
 恭也の攻撃をチェルボが前へ加速し回避した先には、残るマガツヒ2人。ビショップをかばって『コルヌ』で血を流すメディックの怒声を聞く伊邪那美の声は呆れていた。



「……先にいた方々は、『希望』を掲げる方々にほぼ無力化されましたね」
 その時、スディレを通して戦況を海上から把握していたステラは短く思案しひざまずく。
「では、私(わたくし)はここで祈りましょう――愚神(われわれ)の勝利のために」
 瞬間、ゆるりとした微笑から独り言をこぼしてライヴスを解放。
 ステラを中心に一気に波が荒ぶるが、それもわずかな間に収束。
 気づけば、少女の姿はどこにもなかった。



●忍び笑う『海の星』
「皆さん、警戒を! ステラの介入です!」
 直後、構築の魔女が従魔の観察に利用したモスケールがライヴスの増大を捉え、警告を発した。
『ロロ!』
「っ――あぐっ!?」
 落児からの注意喚起に目線を動かせば、遺跡から角を突き出すチェルボとスディレ2体。すぐさま『トリオ』で迎撃した構築の魔女だが従魔は止まらず、『コルヌ』で肉体を削られ冷や汗を流すまま行った追撃は捨て身のスディレに阻まれた。
「こんにちは。今も見ているんでしょう? 貴女、一体何してるの?」
 一方、ステラの存在を確信したフィアナはスディレへ切りつけつつ、軽い調子でにっこりと笑みを浮かべた。少しでも情報が得られればとスディレに問うも、返答は背後から斬りつけた『コルヌ』だった。
「フィアナさん!」
 瞬時に征人が『クリアレイ』で流血を止めるが、チェルボは返す刃でまたフィアナを狙う。
「させません!」
 角が届く寸前、横から由利菜が両者の間へ滑り込んだ。
『あと一撃が限界だ。一息で決めるぞ、ユリナ!』
「はあぁっ!!」
 リーヴスラシルが告げた【超過駆動】のリミットを理解し由利菜は咆哮。赤い鞘から解放した居合いの『一閃』がほとばしり、肉体が2つに割れたチェルボとスディレ2体は消滅した。
「すみません、援護を!」
 今度は上から声とともに舞台へ降りたった構築の魔女が上空へ砲撃。全員が見上げれば、盾の役目を終えたスディレを追い越してチェルボが飛来する。
「――ふっ!」
 それにフィアナが迎え撃ち、直剣を角へ叩きつけて突撃の勢いを殺いだ。着地したチェルボに待っていたのは、『シャープポジショニング』についた構築の魔女。消えた『テレポートショット』が死角から襲いかかり、従魔の消滅を見届けて口を開いた。
「助かりました。では、あちらの援護に参りましょうか」

「従魔の動きが変わった、ステラか!」
 同時刻、後方支援をしていた拓海も従魔の動きの変化に気づく。
『どうするの?』
「鹿1体を引き離す! 恭也!」
 メリッサに答えるが早いか、拓海は姿をさらして近い距離のチェルボへ射撃。注意を引けたところで遺跡から離れるよう退避し、通信機で恭也に呼びかけた。
「拓海を援護する! そちらは任せた!」
 すぐに反転した恭也は飛翔と昂へ離脱を告げ、拓海を追うチェルボにつくスディレ1体を『疾風怒濤』で切り刻む。
「――うぐっ!?」
「恭也! ……ぐ、あっ!?」
 すると、『リープ』で身をひるがえしたチェルボが恭也を『コルヌ』で急襲。拓海は銃で反撃するが、盾となったスディレの討伐と引き替えに自身も『コルヌ』の刃で鮮血が散る(『減退』)。
「――仕掛ける!」
 時間はかけられないと判断した恭也。出血(『減退』)を無視して地面を蹴り砕き、チェルボへ強引に接近し『電光石火』で殴りつけた。
「これで!」
『狼狽』と『翻弄』で足を止めたチェルボに銃口を向け、拓海はとどめの弾丸を連続で射出。足や下腹部を貫いて機動力を奪い、最後は首を貫通して討伐を確認した。
「ナイス!」
「ああ、互いにな」
 親指を立てた拓海に薄い笑みで答え、恭也は距離が離れたバシリカへ振り返った。
「邪魔なんだよ、テメェらぁ!」
 そこでは、散々狙われてキレたビショップが『ゴーストウィンド』を放散。怒りで制御が甘い魔法は遺跡しか削らず、チェルボのカウンターを許してしまう。
「そこだ!」
「ごぉぇ!?」
 何とかメディックが従魔をしのいだが、続く飛翔の大剣にビショップは対処できない。濁った声を吐き出し、体を『く』の字に曲げて意識を失った。
「ちくしょう!」
「逃がしませんよ?」
 最後のメディックは戦意を失い、自身に『ケアレイ』と『クリアレイ』を施してきびすを返す。が、一瞬で距離を詰めた昂からの逃走はかなわず、白夜丸での居合い一刀に倒れ伏した。
「さて、残る従魔ですが」
「ああ、場所を移す」
 素早く『女郎蜘蛛』を展開した昂へ飛翔は頷き、すれ違いざまチェルボをかばったスディレを両断し遺跡から離脱した。
「大丈夫っすか!?」
 チェルボの追撃を受けながら走った先、昂と飛翔は征人の声と他の仲間の姿を確認した。
「待たせた! 一気にケリをつけよう!」
 そして拓海の宣言と銃弾が飛び、最後のスディレの消滅を皮切りにチェルボへ攻撃が集中した。
『どれだけ立体的な動きが可能でも――』
「――攻撃時は1方向だ!」
 それでも回避の間隙を縫って攻勢に出たチェルボを前に、動きを注視していたルビナスの声にあわせて飛翔が『疾風怒濤』で迎え撃つ。
「逃がさん!」
 さらに恭也も『疾風怒濤』で逃げ道を塞ぐと、チェルボは逃げ場を求めて上空へ跳躍した。
「終わりです」
 が、構築の魔女による狙い澄ました遠方からの砲撃がチェルボへ直撃。ライヴスを失い消滅していく姿を見送り、戦闘の終わりに誰ともなしに息を吐いた――
『っ!?』
 ――その時、響いた爆発音に全員がバシリカを振り返った。

「自爆、ね。こちらは私が見張ってたから大丈夫よ」
 その後、劇場でマガツヒを監視していたフィアナは合流した仲間から話を聞いていた。
 バシリカでの爆発は意識を取り戻したマガツヒが原因で、遺跡への影響は軽微だったが5人の遺体が確認された。どうやら遺跡破壊用とは別に、自爆用の爆弾も隠し持っていたらしい。
『しかしさぁ、此処って凄いよね。大昔の街が未だに綺麗な状態で残ってるって』
「ああ、オレもそう思ったよナミちゃん」
「確かにな。何かで読んだんだが、仮に人が滅んでもこういった遺跡は長く世界に残るらしいぞ」
 他に怪しい仕掛けがないか見回る中、感心した様子の伊邪那美と拓海のやりとりに恭也が補足した。
「遺跡は当時を知れる貴重な資料だ。たとえボロボロでも、俺らの知らない時代の人の暮らしが分かる。だから、惹かれる人がいるんじゃないっすかね?」
『へぇ~。なら、未来の人達もボク達が見たこの光景を同じように見て、凄いって思うのかな?』
「これから先も破壊されなければ、そうだろうな」
 遺跡の価値は認めつつ関心がない征人の台詞を聞いた伊邪那美の疑問に返事をし、恭也たちは遺跡の被害確認に戻る。結果、戦闘による損傷が見られたが大半は無事だった。
「ステラ・マリスもまた、オーパーツを必要としているのでしょうか?」
「この遺跡に何かあるのか、それとも本命を隠す為の陽動か……」
『いずれにせよ、ステラが今回の件で今後の動きが変わらなければいいのですが』
 調査後、由利菜や飛翔はステラの思惑について考察するも答えは出ない。
 連行するマガツヒとともに不穏な影を落とす愚神に、ルビナスは一抹の不安をこぼしていた。



「私はまだまだ浅慮でした。人、思想、戦い……至らぬ私は、もっと知らねばなりません」
 地中海の海底、リビアから離れて歩を進めるステラは自責で声を沈ませながら――
「そう、より多くの贄(にえ)を捧げるために」
 ――表情に愉悦を混じらせ、笑った。


結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 難局を覆す者
    久兼 征人aa1690
    人間|25才|男性|回避
  • 癒すための手
    ミーシャaa1690hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中
  • 翡翠
    ルーaa4210hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
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