本部

これは人でなしの恋か?

江戸崎竜胆

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~8人
英雄
5人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2018/05/01 21:23

掲示板

オープニング

●人形の少女
 完璧な美があるとすれば、その少女人形に凝縮しているであろう。
 すべらかな白く洗練された陶器のような肌は、それでも触れれば温かみを持って弾力を返す。
 円らな瞳はやや釣り気味だが黒眼がちで、印象は柔らかく慈しみ深い。
 顔立ち全体は幼いようでありながらも、母性を感じさせる膨らみを持って、危うく刹那の時期の面影。
 四肢は伸びやかで、何処までも遠く裸足で駆けていく駿馬のよう。
 髪は漆黒。艶やかな天使の輪を光らせた健康的でしなやかさが胸の辺りまで伸びている。
 人形は完璧。
 そして、人格が無いからこそ、完璧でもあった。

●青年はピュグマリオンか?
「愛しの恋人が、消えてしまったのです」
 沈鬱な表情で訥々と語るのはソファーに座る青年だった。
 美貌と言って良い。肉は薄いながらも、骨格が確りしていて、身長が高いのが座っている所を見ても分かる。すっと伸びた背筋が育ちの良さを感じさせる。
 視線が助けを求める様に彷徨う。
「僕の恋人……を、探して下さい……完璧な、あの、愛する少女を」
 覇気の無い声で、弱弱しく青年が頭を垂れた。
「大人しく、僕の言う事を聞く、なんでも話せる、そんな少女でした……もう一度、あの頃に戻りたい……戻れないのだろうか……」
 青年は迷いと決意を含んだ眼差しを一瞬光らせて、震える目蓋を静かに閉じて沈黙した。

●少女達の行方
 二人の少女が街中を歩いている。
 少女達の容貌は完璧。
 道を歩く誰もが振り返る。
 よく似た少女達は白いワンピースの裾を翻し、赤い靴でかつかつと音をたてて歩き続ける。
 目的地は何処か。少女は知らない。
 少女は愛してくれた青年から逃げられるのならば何処でも良い。
「あの人が愛したのは、私の外見。私自身では無いのだわ」
 少女が、風に乗せて囁く。
「自意識を持った私を、あの人は必要としないのよ」
 空虚な目で少女が呟くのを、もう一人の少女の形をしたものが聞いている。
 少女が小さく囁き続ける。
「あの人には、もう私は必要ないのだわ」
 少女の囁き声を、作り物の少女は黙ったまま聞き、かつかつと道を歩き続けた。
 誰もが振り返る。
 少女と少女人形は完璧。

●人間か人形か
「双子の様にそっくりな美しい少女二人が歩いていたと言う、奇妙な目撃情報が相次いでいます」
 困った様子でオペレーターが告げる。
「見た目は全く同じ少女です。ただ、一人は人間。一人は精密に作られた少女人形です。恐らく、人形のモデルになった少女を、少女人形に憑りついた従魔が周囲の人間ごと少女を魅了しているのだと思われます。このままでは少女人形は少女を含めた周囲の人間のライヴスを奪っていって、少女も死んでしまう事でしょう」
 同じ見た目の少女。自己を持つ人間と自我を持たない人形。変わるものと変わらないもの。
 果たして、青年が愛したのはどちらか――

解説

●目標
「青年と『青年が愛する恋人』を会わせてあげる」
 これが大前提です。

●状況
・少女と少女人形は凄く目立ちますので、目撃証言を辿れば簡単に見つかります。
・少女人形には魅了の能力を持つ従魔が憑りついていますが、ある程度近くに寄らないと魅了出来ません。
・少女人形から一定の距離を取った人は魅了された効果が切れます。
・少女は少女人形に魅了されているため、何を言ってもぼんやりとしています。
・少女人形は青年の居場所を教えると、青年を魅了しに行こうとします。
・青年は少女と少女人形の居場所を教えると、会いに行こうとします。
・少女人形の従魔は魅了の能力以外は無いので、倒す事と、その後の少女人形の破壊は簡単です。
・青年は少女人形を倒そうとすると反対します。破壊する事にも同様に反対します。
・青年は『恋人』を愛しています。
・少女は青年を愛しています。ですが、今の自分は青年に必要ないと感じています。

 つまり、少女人形と青年が会う、青年が少女と少女人形に会いに行く、のは簡単です。
 少女人形を倒し、その後破壊する事も、少女人形の魅了の効果を避ければ容易でしょう。
 問題は青年が、少女と少女人形、どちらを選ぶか、です。
 青年に人間として正しいと思う愛情を教えてあげて下さい。
 人間とはなにか、愛とはなにか、自分達の思う事を青年に伝えてみて下さい。
 少女の想いを聞き出して、青年に伝えるのも良いでしょう。
 青年も心の何処かで本当に愛しているのはどちらか、分かっている筈です。

リプレイ

●少女達の捜索
 木霊・C・リュカ(aa0068)とオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)はスマートフォンと通信機器を使って仲間と連携を取っていた。弱視で移動に手間取る木霊をオリヴィエがカバーしつつ、上空を舞う鷹を確認していた。
 上空の鷹は紫 征四郎(aa0076)とユエリャン・李(aa0076hero002)の能力、鷹の目。鷹で街を俯瞰していた。青年の方に集まっている仲間に情報共有をするためだ。
 他にも、荒木 拓海(aa1049)とメリッサ インガルズ(aa1049hero001)もスマートフォンと通信機器で情報共有が行われている。
 征四郎は鷹を通じて少女達を探して位置情報を共有している。上空の鷹が視界に昼間の公園に向かう少女達を捉えた。それを荒木に伝えると、そっと小声で伝えた。
「まだ青年には伝えないで下さいますでしょうか?」
 荒木は小さく頷いて、木霊に位置情報と、更に少女達の監視を続けるように連絡を入れる。青年の説得に時間を使いたかったからだ。
 木霊がオリヴィエと少女達を追いかけながら、肩を竦めてみせる。
「成程、中々にあれだね、彼はまさに人でなし! だ」
「人形より人でなし、とは、皮肉な物言いだな」
 情、と言うものを理解し始めているオリヴィエが不愛想に答える。人間の感情は不可解だと。

●青年への問い
 征四郎は木霊とオリヴィエが少女達の方へ向かうのを、荒木を通じて確認すると、青年の部屋に向かった。
 リンカーと英雄、総勢八人、だろうか。かなりの人数が青年の話を聞きに部屋へと入る。それでもゆったりとした大きさの応接間に、人数分の紅茶が運ばれて来る。
「ええと、もしよろしければ。彼女はどんな方、でしたか?」
 征四郎が少女の事を聞き出そうとする。捜索に必要なのだと一言付け加えて。
 荒木が更に問い掛ける。
「少女の名前とか、写真とかないのかな? 探すのに必要なんだよ」
 青年が緩く頷くと、春の花の名前を口にして、ポケットの中に大事そうにしまっていたであろう写真を見せてくれた。写真には目撃情報より少し幼い少女の姿が映っている。
「可愛らしいでしょう。完璧な……」
 懐かしそうに目を細めて写真を撫でる青年に、征四郎はもっと詳しく聞きたそうに身を乗り出す。容姿や内面の事、出会いや、一緒にいて嬉しかった事、等。もっともっと聞きたい事があった。
 救いを出すかのように荒木が更に続ける。
「二人の馴れ初めを聞かせて欲しいな、初めから人形は居たの?」
「いいえ。僕が少女をモデルに少女人形を作りました」
 その青年の言葉を聞いて、ちら、と辺是 落児(aa0281)と構築の魔女(aa0281hero001)が顔を見合わせる。辺是は最初から少女人形を青年が手配したものと予測していていた。そして、作成の理由を確認したく思っていた。
「□□……」
「少女人形を手にしたときはどんな気持ちでした? と辺是は聞いています」
 青年は小さく沈黙してから、口を開いた。
「嬉しかったですよ。完璧な少女人形が手に入ったのですから」
 氷鏡 六花(aa4969)とアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は青年へ問い掛ける。主に六花を主軸にして、アルヴィナは後ろに立っている。
「……ん。お兄さんは……どうしてその少女をモデルに……人形、作ったんですか? 本物そっくりの人形を作るなんて……簡単にはできない……です、よね」
 青年が俯く。
「それは……」
「その人の事……大好きだったから……その人をモデルに、人形を……作ったんじゃない……ですか?」
 アルヴィナが苦笑いして後ろで六花の言葉を聞いている。
 アルヴィナは冬の女神。氷雪を司る神格化された存在。その姿も又、女神に相応しい神々しさ。冬を表現するような雪白の肌。柔らかくすべらかな髪は純白でさらりと背中を越して臀部辺りを覆っている。双眸は北の空に見えるオーロラの蒼。肢体はしなやかで、伝説上の舞姫が如くの美麗さ。
 アルヴィナはまさに、人間が理想と永遠を籠めて描いたものだった。
(まぁ、私の今のこの姿も……私を崇めて彫刻や絵画で冬の女神を表現してくれた人間たちのおかげだし。古来、神話の時代から……人形に恋心を抱く人間の事例は枚挙に暇がないわ。この青年もそうなのかしら)
 小さく溜息を吐くアルヴィナに、写真を見たメリッサが問い掛ける。
「素敵な子ね。出会いはどうだったの?」
 写真を眺めながら、最初の話に戻す。
「……彼女は学校が同じで。その頃からとても綺麗で。完璧な美貌過ぎて。それで、沢山の男性から言い寄られて、人間不信になっていました。……僕が好きになったのは、彼女の可愛い所、です。放っておけないと言うか。我儘で、可愛くって」
 その言葉に不自然さを覚える者が何人かいた。
(従順……完璧……と、青年は言っていた筈。いえ、思慕でしょうか? 何かが違う?)
 辺是は聞いていた話と違うと思考を巡らせ、メリッサは意地が悪そうに青年に話しかける。
「あら、少女を好きになったのは見た目だけじゃないの? 怪我をして容姿が変わったら興味失せちゃうのかと思ったわ。じゃあ、少女と少女人形の二人のどこが好きなの?」
 青年が言葉に詰まる。
「彼女は……従順に、なってくれました……完璧な、恋人に。だから、僕は永遠の彼女を……」
 辺是は過去に比べ青年が少女に望む事が多くなった事を理解し、小さく囁く。
「□□……? □□――」
 慣れない者には聞き取りにくい言葉を構築の魔女が通訳をする。
「辺是は、過去の少女と貴方自身も変わって行っている事を自覚しているかどうか、聞いています。形は残っていても手から零れ落ちたと感じるのですね?」
「□□?」
「幸せを失うと知らない過去の自分は羨ましいですか?」
 青年が絶句する。呻きに似た声をあげて、椅子に沈む。
 征四郎が青年に凛とした言葉を告げる。
「人は、完璧ではありません。貴方も彼女も、征四郎も、きっと皆そうです。だから理解ってあげられる。だから支え合える。……そういうものではないでしょうか?」
 六花が小さな声で言葉を紡ぐ。
「少女人形が完璧、って言う……お兄さん。大切なお人形さん、だけど……変わらないから好き……自分の言うこと何でも聞いてくれるから好き……なんて。そんなの……おかしいと……六花は……思うの」
 征四郎が六花を見て頷く。征四郎も少女人形の件についてはそう思ったからだ。
「だから、もし、貴方が彼女に完璧であり続ける事を求めるなら、貴方は彼女に会うべきではないと、征四郎は思います」
 そろそろ少女達が、辺是が事前に人払いを頼んでいた公園につくと、木霊とオリヴィエから連絡があったのを、荒木が皆に伝える。手を付ける事ない紅茶が冷めているのを放って、部屋を出る準備を始めた。
「□□?」
「少女達が見つかったみたいです……ご一緒いただけますか?」
 青年が立ち上がろうとするのに、ユエリャンが青年の肩を叩いて声をかける。
「あの人形は彼女を魅了している。即ち、いつ殺されてもおかしくはない状況である。貴様はそれを望むのかね?」
(そうであっても、我々は少女人形を倒さねばならんのだが)
「……僕は、少し後から行きます。心の準備が、少し……」
 皆の言葉は青年の心を動かしたのだろうか。

●少女人形は夢を見るか?
 木霊は青年の方へ向かった仲間達に連絡後、オリヴィエと少女と少女人形に会話による接触を試みていた。しかし、少女は魅了されていて声をかけてもぼんやりとした視線を木霊に投げかけるだけ。
 後から駆け付けた皆が揃う前に、少女と少女人形の距離を離そうと協力を求め、通信機で相談をしていた。荒木と共に、少女人形を破壊せず従魔を追い出せないか? と青年の方の仲間達と連携を取りつつ、公園にいる二人の少女を人気も障害物も無い昼過ぎの公園に誘導し、早速到着した組が連携を取る。
 ユエリャンが少女人形を憐れむように独り言ちる。
「君も難儀であるな。こんな事のために生まれたのではなかったろうに」
 共鳴した征四郎とユエリャンが影渡を利用して、少女を少女人形から離す。
 辺是と構築の魔女が共鳴すると、魔銃にて後方支援で武器の射程を利用して距離を引き離したまま、距離を置くように少女人形の足を止める。
 六花とアルヴィナが共鳴し終焉之書絶零断章で凍結させて少女人形の動きを鈍らせる。その姿は冬の女神らしい、艶やかな氷柱のような翼が後方に展開するものだった。
 荒木と木霊が少女を保護するように少女を少女人形から引き離すと、少女の目に力が宿った。
「あれ……? 私は一体どうしたの?」
 まだ状況を理解していない少女に、苦笑いしながら木霊が用意していたホットチョコレートを差し出す。
「少し、待っていてくれるかな。もうすぐ彼が来るから。落ち着いて」
 少女がぼんやりしながらもこくんと頷き、繰り返し囁く「彼に私は必要とされていないのに来るかしら」と言う言葉に、荒木が疑問に思って問う。
「それは彼に必要として欲しい、彼が好きだから出る台詞だね。君は彼を好きなんだろう?」
 少女は戸惑ったようにホットチョコレートに口をつけて、頬を染める。
 その合間も少女人形との戦闘は続く。
 征四郎はターゲットドロウで自身に攻撃を引き付けて少女や仲間を守りながら、出来る限り目に見える傷をつけないように、服に隠れる部位を狙って攻撃をするチャンスを伺っている。
 辺是は物理的な威力を持たない魔法の弾丸に変換する魔銃にて、少女人形に憑りついた従魔の撃破だけを狙っている。
 六花は従魔が弱った頃合いを見計らって、支配者の言葉を使うが、従魔に対して洗脳の効果が薄いと知れば、すぐさま幻影蝶を発動させる準備に取り掛かる。
 征四郎と辺是の連携で時間を稼げた六花は、ライヴスの蝶が舞う幻想的な光景の元、従魔だけに攻撃を与える事に成功し、少女人形には傷は無く、かたり、とその場に崩れ落ちた。
 少女がしっかりと正気を取り戻した頃、木霊が視線を合わせるように屈んで少女に告げる。
「あんな男、止めておいた方が良いよ、……って正論は、今更かな」
 お節介で余計な事とは自覚しつつ、その彼しか知らないから、少女は思い詰めているのだろうと推測してしまう。少女、と言える若い子の恋と言うのはそう言うものだと。
 続いてオリヴィエが少女に話しかける。
「……お前は、あの男の、何処に、恋をしたんだ?」
 控えめに問い掛けるオリヴィエに、少女は遠くを見つめるように視線を逸らす。
 オリヴィエは難しい話だ、と思いつつ少女が淡々と紡ぐ言葉を聞く。
 少女の外見だけで寄って来る男は沢山いた。でも、彼は少し違った。君は不愛想で可愛いね、と言われて平手打ちした。それでも笑って、やっぱり可愛いね、と言って彼は笑っていた。
「……ホットチョコレート、ご馳走様。やっぱり彼は来なかったわね」
 少女がマグカップを返そうとした、その時。
 青年がゆっくりと公園に現れた。

●少女と青年
 青年は少女と少女人形の姿を見て安堵していたが、迷うようにどちらにも近付かず、少し遠目に少女達を見つめて来た。青年を睨み付ける少女と、動かない少女人形。距離を置いた青年。
 二人と一体にそれぞれが思い、感じた事を伝えようとばらけ始める。
 辺是が独特の発音で青年に告げる言葉を構築の魔女が通訳してくれる。
「彼女、人形、は変わりませんが……貴方は変わってしまいますよね……想いも含めて全て。それは貴方が望んだ愛といえるのでしょうか?」
 アルヴィナが少女人形を眺めながら、青年に話しかける。
「……別に貴方が、人間と人形と……どちらに恋慕を抱いていようと……私は否定はしない……けれど」
 小さく微笑んで、言葉を告げる。
「人の命は一つだけ……よ。後から悔やんでも……二度と取り返しはつかない。貴方にとって一番大切なものが何なのか……しっかり見極める事ね」
 メリッサが青年に今一度問いかけをする。
「……人事ながらに同情するわ……良いの? 少女人形は永遠だけれど、貴方の悲しいも、嬉しいも、受け止めてくれないわよ? 貴方が亡くなれば新しい持ち主へと行く。貴方の事は初めから意識に無い……だってモノだもの」
 じっと見詰めて、青年に意思を告げる。
「彼女の何が好きだったの? それを伝えてあげて。好きな人が、自分を見てくれているとわかると、温かい気持ちになって幸せだって思えるわ。……そんな気持ちにしてあげて。あの子には、貴方が必要だわ」
 ユエリャンが青年に肩を置く。
「そうさな。せめて人形の分も、きちんと彼女を幸せにしてやれ」
 征四郎が少女にそっと話しかける。
「征四郎は、貴方が完璧であり続ける事を求めるのなら、彼は貴方に会うべきではないと言いました。でも、彼は来てくれました」
 六花がぼそ、と、しかし熱意を籠めて少女に語りかける。
「どうして……あの人に、自分は必要ない……って思うの? あの人のこと…もう、嫌いになったの? もし、違うなら……ちゃんと気持ち……伝えてあげてほしい……の。お願い…あの人の目…覚まして…あげて?」
 木霊がくすりと笑って少女に声をかける。
「お嬢さん、男はね、女性より基本的に恋や愛に女々しい物なんだ。男の恋は別フォルダ、女性の恋は上書き保存、ってね。もしこれで彼が君を選ばなかったとしても、いつか君はその事も乗り越えられる。痛みは全部時間が浚う」
 オリヴィエが続いて少女に言葉を発する。
「……それでも、お前が、そう、まだあいつが、好きなのが止められない、なら。そうだ、な、心まで、愛して欲しい、と。……真っ直ぐ伝えてみるのも、悪く無い」
 少し困り顔で手を振りながら、こう、と。
「……それでダメなら、平手だ。思いっきり頬を叩いて、さよならと、笑ってしまえ」
 少女と青年の方を見ていて、動かない二人にじれったさを感じた荒木は、思い切って少女の方へと向かい、大声で呼びかける。
「ねえ、君、気に入ったよ。オレと付き合おう、な、な? あんな男、放っておいて、オレと幸せになろう?」
 少女が動く、前に、青年が駆け寄る。
「その子は僕の愛しい恋人……っ!」
 ぱぁん、と荒木の代わりに頬を平手打ちされた青年がこけそうになりながらも少女を抱き締めた。
「はは……そう言う、所が可愛いんだったね。君は」
「馬鹿! 馬鹿! 忘れたんでしょ! 私はずっと我慢してたのに! 貴方が好きだから、大人しく良い子になろうと、頑張って、たのに……! 愛してるからよ! でも、良い子になるのはもう嫌よ! 我儘だって言うわ! 貴方が私を愛してくれた頃の私に戻るの!」
「……もう、良いんだよ。愛しい人。思い出したから」
 青年が少女の髪を撫でながら、声をかけてくれた皆に頭を下げる。
「……ありがとうございます。僕は、彼女の見た目や姿を愛したのでは無かった。思い出した。この幸せが永遠に続けば良いと思って、想い出のために人形を作ったのに、何かが狂ってしまった。……もう、忘れません。変わらない事が美しいのでは無くて、変わる事もひっくるめたのが愛だと」
 少女が泣きながら、青年をぽかりと叩く。
「馬鹿! 今度忘れたら、平手打ちでさようなら、よ!」
「はいはい」
 青年は晴れやかな表情で笑っていた。ちらりと少女人形を見て、呟く。
「あの子にも、連れ合いを作ってあげよう。永遠を生きる少女人形に、永遠に生きる人形を作って、傍に置いてあげよう。……御免ね。僕の我儘の償いだよ」
 少女人形は転がりながらも、青年の言葉に嬉しそうに微笑んでいるように見えた。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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