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依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/04/02 12:07:59
オープニング
●某日
鎮魂の意味合いも含め、フラワーカーペットを作る。
そのような話が持ち上がってから、約一年が経過していた。
その間にも世界は目まぐるしく変化し、今。
「楽しそうなイベントなのです?」
H.O.P.E.内、にこりと微笑む愚神の姿があった。
●茶会
フラワーカーペットの図案に基づいた花の手配やその他もろもろ。
長い準備期間を経た祭りが開催された当日、会場内の一部には何故か茶の席が用意されていた。
野点と呼ばれるそれを模しているが、用意されたお茶はペットボトルから注がれる冷たいお茶である。
茶菓子だけでなく駄菓子や洋菓子も用意されており、和洋混合された奇妙な空間が出来上がっていた。
しかし一番奇妙なのは。
「ふふ、ようこそ。いらっしゃいませなのですよ」
赤いドレスを身に纏った愚神、いめが茶席の主人のようにその場に座っていることだろう。
事の発端は数日前。
フラワーカーペット作成というイベントが開催されることを知ったいめが、折角ならお茶会もしたいと言い出した。
愚神が何をという言葉を胸の奥に押し込めたエージェント達を知ってか知らずか、いめは続ける。
「人々は愚神に興味を示しているです。いめ達は、もっと知ってほしいのですよ」
互いに理解するにはまだ会話が足りないと愚神は言う。
だからこそ、同じ飲み物を飲み、美味しいお菓子を食べながら談笑したい。
「きっと素敵なお茶会になるですよ」
そう言う愚神を前にエージェント達は苦虫を嚙み潰したような顔をし。
そして――いくつかの約束が為された上で、現在に至る。
「何がいいです? お茶菓子もクッキーもあるですよ」
言いながらペットボトルのキャップを開け、茶碗にお茶を注ぎ。
「たくさんお話が出来ると、いめは嬉しいのですよ」
そう言って、愚神は楽しそうに微笑んだ。
解説
●目標
茶会に参加する
●為された約束
・茶会のスペースから外に出ない事。
・茶会のスペース内で戦闘を行なわない事。
・従魔を喚ばない事。
他いくつか細かな約束事。
要約すると『エージェントや一般人に危害を加えない事』が約束された様子。
●登場
・推定デクリオ級愚神『いめ』
白髪に赤眼、外見年齢は7歳ほど。真っ赤なドレスを着た少女の外見をしている。
今回、使役している従魔『鳴魔』は不参加。
・名執芙蓉
H.O.P.E.エージェント。
とある件でいめと面識があり、イベント中はずっと茶会に居る様子。
・二条夢
芙蓉の英雄。
いめとよく似た姿かたちをしている為、普段は幻想蝶内に居る事が多い。
が、今回はお菓子につられて外に出てきている様子。
●茶会場所
茶会のスペースは広めに取られており、座敷仕様。
真っ赤な絨毯が敷かれ野点傘も設置されている為、風情はある。
しかし、それをぶち壊すように大き目の冷蔵庫が置かれている。
靴を脱いで一段高く作られた座敷に上がれば、大量に用意された座布団が差し出される。
人目を避けるように会場の端に設けられており、話し声は外に漏れないようになっている。
たまに興味津々な一般人が訪れたりするかもしれない。
リプレイ
●茶会前
心地よい春風の吹く、晴れた日。
風に乗って花の香りが舞い込むイベント会場は一般人やエージェントで賑わっていて、最大の見どころであるフラワーカーペットをカメラに収めている者も大勢いた。
茶会に参加するプリンセス☆エデン(aa4913)もその一人で、キレイだねー!とはしゃいではEzra(aa4913hero001)にカメラを持たせ、きりっとポーズを決めている。慣れているのかEzraも動じることなく、いつものことだとばかりに彼女を撮っていく。
魔女っ娘アイドル・エージェントを目指す彼女は今日も明るく、一通り会場を眺めて楽しんでから英雄と共に茶会会場へと向かった。
圧巻、圧倒するほどの花に囲まれつつ、百目木 亮(aa1195)とシロガネ(aa1195hero002)もフラワーカーペットを眺め。
「……ま、今回は茶会だ」
『オヤジはん、意外と乗り気です?』
首を傾げ、自分より幾分か下にある表情を覗き込もうとするシロガネに、
「乗り気とはちょいと違うがなあ」
そんな言葉を返しつつ、二人は茶会会場へ足を向ける。
同じく、茶会に参加するリリィ(aa4924)やカノン(aa4924hero001)、アクチュエル(aa4966)とアヴニール(aa4966hero001)もフラワーカーペットを見てから会場へと向かっていた。
この二組はフラワーカーペットのデザインに関わっており、特に思い入れもあるのだろう。
しかし。
『……気が進まぬか?』
アヴニールからの言葉に、アクチュエルはゆるりと首を横に振って。
「……否。これがまた一歩となり得る事も有ろうぞ」
そう、もしかしたら。あの日、愚神との戦火の中失ってしまった兄の手がかりがあるかもしれない。
愚神と手を取る事には躊躇いがある。それでも何か知れるのならと、アクチュエルはこの茶会に参加を決めた。
茶会は茶会で楽しみでもあるから、心中はより複雑なものとなっている。
『共存の道……平坦ではないの』
アヴニールはアクチュエルの心中を全て見通した上で茶会への参加を後押しした。無理に連れてきてしまったかもしれないと思う部分もあるが、踏み込んで始まるものもあると信じて。
それにアヴニール自身も茶会はかなり楽しみなのだ。日本文化に疎い面があるからこそ、どんな催しなのか気になって仕方が無い。
「……我には分からぬ……」
会場への歩みを進めながら、アクチュエルはぽつりと呟いた。
二人からそう離れず、リリィやカノンも歩きながら思いを巡らせる。
『……俄かに信じろと言われても、ね』
善性愚神と言われても信じがたいと言うカノンに、リリィは「それでも!」と口を開く。
「仲良くなれるなら……それに越したことは無いのですわ」
『……今まで何をして来たとしても?』
愚神は、愚神だ。仲良くなれるならばその為に動きたいと思うリリィとは対照的に、カノンは慎重で懐疑的である。
答えはまだ、出ないまま。
他のエージェントによって守られている、会場への扉をくぐる。
まほらま(aa2289hero001)とGーYA(aa2289)も、イベント会場をぐるりと回ってから茶会会場へと赴く。
鎮魂の為と言われるフラワーカーペット。会場に訪れている人の中には、愚神に大切な誰かを殺された者もいるのかもしれない。
その者たちから見れば、善性愚神はどう映るのか。
「俺は家族を愚神に殺されたわけじゃないから復讐って感情は解らない」
独白のような声を聞くのは、英雄ただ一人。
「でもそういう人を見て知れば気持ちに寄り添うことはできる。だから人を殺しまくる愚神は倒すし目の前の命が刈られそうなら抵抗もするさ」
愚神側の生態が理解できなくても、『そういうもの』だと知る事が出来れば何か変わるかもしれない。そんな期待は、ある。
「ただ何を定義として善性と呼ぶのか不確かで混乱を招いた存在って感じかな」
誰にとっての善か。誰にとっての悪か。
不透明なまま共闘は続けられ、世間では広く受け入れられるようになっている。
それを平和と呼ぶのか、まだ分からないけれど。
ともあれ、まずは目の前のお茶会だと少年と少女は歩みを進める。
●茶会
茶会会場に足を踏み入れたアクチュエルとアヴニールの眼前に広がるのは真っ赤な絨毯。
イベント会場からはボードで仕切られ、外の様子を窺い知ることは出来ないものの、空間を上手く利用しているからか閉塞感はさほど感じない。
雰囲気作りの為か野点傘も用意されており、傘の下では真っ赤なドレスを身に纏った主催者――愚神『いめ』がにっこりと微笑んで座っていた。
「ようこそお茶会へ、なのですよ」
『コレが茶会というモノか! 真っ赤な絨毯に大きな傘が面白いのう』
「見掛けだけは完璧じゃな」
外見年齢にそぐわず、はしゃぐアヴニールの言葉に頷くアクチュエル。これは楽しみだ、茶と茶請けでゆっくりするのもまた一興だと言葉を揃え、いめに促されて靴を脱ぎ座敷へと上がる。
二人に続き、Alice(aa1651hero001)と共に茶会にやってきていたアリス(aa1651)は、ゆっくりと周囲を観察していた。
万が一に備えて杖は用意しているし、そうなる可能性は低いだろうが何かあれば対処するつもりもある。
ただ、まぁ。
今回は討伐の依頼でも無いし、戦う理由は現状存在しない。
招かれ、持て成される客人という立ち位置でもあるし。
『やぁ、』
「久しぶりだね」
話をしながらお茶会を楽しもうかと声を揃え、いめと、既に場に着いていた名執芙蓉、二条夢にも挨拶を。
その流れで、遅れずやってきた面々も挨拶を交わす。
『いめ、お茶会に招待してくれてありがとう』
「何回かお茶会ってのに参加したことあるけど、コレは……」
微笑むまほらまと、複雑な心情のジーヤ。既にいめと何度か顔を合わせているものの、こんな形で会話をするのは初めてのことだ。
今まではぐらかされていた話も出来るかもしれない、と思いつつ。
『我はアヴニールじゃ』
「我はアクチュエルじゃ」
座布団の上に座り、改めて。
『折角の機会じゃ、何時道が違うか知らぬが、今日は楽しみにしてきたのじゃ』
「……いめに興味もあるし……の」
笑顔で名乗るものの、胸の内ではまだ燻る何かがある。
興味ではない、のかも知れない。自身にも上手く解けない感情を抱えながら、アクチュエルは座布団に座り直す。
「お誘い、有難う御座いますの。リリィ、と申しますわ」
『良い日になるといいわね』
リリィとカノンは二人で手作りしたお茶請けを持参したのだと、桜クッキーや一口フルーツ寒天ゼリーを取り出した。
桜クッキ―は名の通り桜型、食紅でうっすら色が付けられており、ほんのり桜の香りもする。
ゼリーの方は透明な寒天ゼリーの中に一口大のフルーツが入っていて、色鮮やかで目にも楽しい一品だ。
中身の種類は苺、キウイ、ピンクグレープフルーツ、白桃、蜜柑。
『皆のお口に合うと良いのだけれど……』
微笑むカノンが言い終わる頃、そういえばとアリスも手土産のマカロンを取り出し、エデンは待ってましたとばかりにEzraに執事役を言いつけた。
慣れているEzraもはいはいわかりましたよと二つ返事で頷き、いめに皿やコップの場所を確認して早速てきぱきと動き出す。
その合間に、百目木は御守り袋の中に入っていた幻想蝶を取り出した。
「戦闘しないってことだから一応な。右手のは外せないからこのままで勘弁してくれ」
「ふふ、分かったですよ」
薄桃色の宝石は全員が視認できる場所へ、無くなることはないだろうけれどと言われながらもお盆の上に乗せられる事となった。
そして、それぞれに飲み物やお茶請けが行き渡り、自己紹介をした所で。
「今日は参加してもらえて嬉しいのですよ。ゆっくり寛いでいってほしいのです」
愚神である少女がそう言って、和やかで不可思議なお茶会は始まった。
●談笑
誘われたことのお返しにと、リリィがヴァイオリン、カノンが歌を披露する。
どこか憂いを帯びた、それでいて優しい歌と曲。
春と鎮魂を意識したそれはこのイベントにとても良く似合っていて、透明感のあるカノンの歌声はヴァイオリンの音を伴って天高く響き渡る。
演奏を終えればどこからともなく拍手が送られ、歌声につられた一般人がちらちらと茶会を覗きにやってきていた。中にはカメラを向けてくる者もいる。
愚神がここに居ると知ってか、知らずか。
善性愚神を好意的に捉える一般人が多いのも、ワイドショーの件もあるし。
(まぁ、どちらでも構わない)
いめに近付けさせたくはない、とアリスが扉付近に移動する中。
「とても素敵だったのです」
一般人へ照れながらも手を振るリリィ、微笑み軽く一礼するカノンへ拍手を送るいめ。
そんないめの近くに二人は腰を下ろし持参したカメラで記念撮影と称して写真を撮っていく。
情報入手の為の鍵になればと思い、動画や写真は積極的に使用するつもりだ。いめが嫌がればそうもいかなくなっただろうが、今の所愚神にその様子は無い。
「いめさまはお花も……この場所もお好きでしょうか」
ぽつり。
三人で話せる今の内にという思いなのか、リリィは静かに口を開く。
「リリィ達がこのフラワーカーペットの一部をデザインしたのですわ。鎮魂と美しさを込めて……」
用意されたのは三つのフラワーカーペット。
それぞれに意味が込められた花の絨毯を、人々が集まったこの場所が好きかと、問う声にいめはゆっくりと微笑む。
「いめも、好きなのですよ。賑やかで、明るくて、人々が活き活きしているところ。とても素敵と思うです」
『ねぇ、いめ。何故今まで敵対してきたの?』
表情は微笑のまま。しかしじっといめを見つめてカノンが問いかける。
『善性愚神の存在意義は、何だと思う?』
その言葉は、見極めようとするように。
『桜は散るのが定めなように……冬は春に移り変わるように……貴女のしたいこと、為すべきことは、何?』
「……これはあくまでいめの考えだというのを踏まえて、聞いてほしいですよ」
人にも色々な考えの人がいる。
自分の考えが善性愚神の総意ではないのだと付け加えて、答える。
「いめは、敵対してきたわけではないのですよ」
愚神は悪である。H.O.P.E.は正義である。それは世界の理、ルールだった。常識と言い換えてもいい。ならばその世界に「愚神だけど仲良くしてほしい」なんて言い出したらどうなるか。
「存在意義は、難しいのです。でもいめは、人と愚神が仲良くなるための架け橋だと思うですよ」
愚神ではなく、『善性』愚神として。人と仲良くなるための愚神として存在したいのだといめは言う。
「いめの為すべきことは、誓いを護ることなのです。それは、したいことと同一なのですよ」
リリィやカノンといめが話している一方、アクチュエルとアヴニールはEzraから茶を注がれていた。
やはり雰囲気を意識したのかコップは使われず、二人の手の中の茶碗には緑茶が入っている。
『おぉ! 緑の茶とは珍しいの!』
「これが緑茶なのじゃ。ぐりーんてぃーじゃな」
実はアクチュエルは猫舌の為、普段通り抹茶が点てられていればもしかしたらすぐに飲めなかったかもしれない。
だが茶碗の中の緑茶はほどよく冷たくなっており、二人揃って一口。
『おぉ! 少し苦いの。でも癖になりそうな味なのじゃ』
微笑みあう二人にEzraも(現在執事の為か)どことなく満足しつつ、さてエデンの様子はと視線を向けた。
彼女はどうやら、落ち着かない様子の芙蓉に何やら話しかけたりしているようだ。
芙蓉の隣ではいめによく似た少女が一心不乱にお茶請けを食べている。目も輝いている。表情は無表情のままだが。……そろそろお茶と菓子を足した方がいいかもしれない。少女の前の皿にはさきほど山盛りの菓子があったはずなのに今は数個しか残っていない。
Ezraが立ち上がるのと同時にリリィやカノンもいめと話し終えたのか元の二人の場所へと戻ってきた。入れ違いで、まるで空気を読んだように今度はアクチュエルとアヴニールの二人がいめの元へ。
それぞれ、誰かに聞かれたくない話もあるだろうと察して。
『いめ、フラワーカーペットは如何じゃ?』
「我らの考えも含まれておっての。愚神から見たこういう風景はどう映るのじゃ?」
『綺麗や楽しい気持ちは、愚神と人とは相容れぬとも思うのじゃが』
いめを挟むように座る二人へ、いめは微笑みを浮かべたまま首を横に振った。
「そんなことは無いのですよ。相容れるところもきっとあると思うです」
それに。
「何が美しいか、何が楽しいか、違うのは人と人も同じなのですよ」
人と愚神だけでなく人と人ですら相容れない部分もある、と愚神自ら話を向ける。
普段ならば、愚神を憎く思う者が聞けば、この愚神は何を言っているのだろうかと目を剥きそうな言葉ではあるが……今は茶会の場だ。
「少なくともいめは、フラワーカーペットが綺麗だと、この場が楽しいと、今思っているのですよ」
嘘偽りは無いような微笑みに、アヴニールはそれなら良いと立ち上がる。
しかしアクチュエルは、立ち上がり元の席へ戻る英雄を見送って、言葉を重ねる。
「我は……未だ汝らと共に歩む道が見えん」
世間は歓迎している。エージェントの中にも歓迎する者もいる。しかし個人に立ち返れば、まだ不透明なまま。
「いめは如何なのじゃ? この状況、状態は、楽しいかえ?」
(……我は……何を求めているのじゃろう……。兄上は今、何処に……)
自問自答の言葉は、愚神には届かない。
代わりにアクチュエルに差し出されたのは、桜色をしたクッキーだ。
「いめは難しいことは分からないのですよ。でもこれを食べて美味しいと感じる心に、愚神だ人だという差なんて無いと、信じているです」
受け売りの言葉ですけれど、と微笑する少女。
クッキーを一口齧れば、桜のほのかな香りと柔らかい甘さが口の中に広がっていく。
「……あぁ、美味しいのじゃ」
アクチュエルの言葉に、いめはとても嬉しそうに微笑んだ。
●歓談
「久しぶりだな」
「元気そうで良かったよ」
芙蓉の隣に腰を下ろし、茶碗を片手に百目木やジーヤが話しかければ、芙蓉からは思いのほか驚いた様子で「あっはい、この通り元気です」と他人行儀な挨拶が返される。実際他人ではあるのだが、妙に畏まられているような。……気のせいだろうか。
(……差、あんまり無いな)
正座での差だ、直立になればまた違うのかもしれない。
だが芙蓉は十四歳、比べて悩むジーヤは十七歳である。
歳の違いの割に目線が近いのではと焦りを感じるジーヤの心を知らずか、彼の唯一無二の英雄は二条に『このお菓子もおいしいわよぉ』と声を掛けている。二条も目を輝かせているようだ。能力者の心英雄知らず。無情である。
「そういえば、貴方達も見てきたです?」
ここから見る事は叶わないフラワーカーペット。綺麗に敷き詰められた花の絨毯を、と言われ、百目木は頷く。
「あぁ。話には聞いていたが、見事なもんだよなあ。どんな風に花を置くとか考えて作られるんだろ?」
花の絨毯の模様はエージェント達が決めたものであるし、図案決定にはアクチュエルやアヴニール、カノンやリリィも関わっているのは多少聞こえてしまったいめとの会話で把握している。
だがしかし、どの花を選ぶか、どこに並べるか決めるのは簡単なことではないだろう。
おっさんはまず案が浮かんでこねえからなあ……と呟いて。
「嬢ちゃんは気になる花はあるかい?」
「カミツレはとても好きなのですよ」
特に考える間も無く、少女はさらりと答えて見せる。見た目通りの少女ならば花に興味ぐらいあるのだろうか、と考えていれば、いつの間にか百目木の隣に座っていたエデンが。
「ねえねえ、なんで自分からエージェントにきたの? 自分からエージェントに連絡とってきてたのはなんで?」
「そうした方が手っ取り早いからなのですよ。プリセンサーも全てにおいて万能なわけではない……昔からそうだったですし」
嫌な顔一つせず、いめは質問に答える。昔から、と。
いめが目撃されるようになったのはそう前からではないのに、まるで知っているように彼女は話す。
百目木やジーヤが、もしかしたらと考えていたのを裏付けるように。
「それに、いめは仲良くなりたいのですよ」
純粋な言葉だ、裏表の無い本心のように聞こえた。少なくとも、エデンにとっては。
「人のことが好き? 人と仲良くなりたいの? いいよ、友達になってあげる!」
嬉しそうに顔を綻ばせ、エデンは手を差し出す。
「そのかわり、色々とあなたのことも教えてね? あたしはアイドル(仮)だよっ! 聞きたいことがあったら、なんでも聞いてね!」
「ふふ。よろしくお願いするですよ」
差し出された手を握り返す力は見目同様少女のもの。軽く振った手を離して再び談笑に戻る彼女達を、少し離れた位置に座るアリスとAliceは見つめていた。
元よりアリス達にとって、誰が愚神であるか否かはさした問題ではない。
重視すべきは討伐依頼が出ているか否か、或いは――自分達が討伐したいか否か。
どちらも否なら他の人達への接し方と何ら変わらず、いつも通り。
あぁ、そうだ。そういえば。
ふわりと、思いついたというか、思い出したというか、片隅に残っていた記憶を引っ張り出してきて、アリスは近くに居た芙蓉へ話しかける。
「調子はどう?」
「えっ、あ、うん、元気、です」
何かに注意を向けていたのか、芙蓉の反応は一瞬遅れで曖昧だ。アリスの言葉を脳内で噛み砕いて、ようやく口に出したような驚きようだった。
何に注意していたのかと芙蓉が見ていた先をアリスも見れば、そこには背筋を伸ばして正座しつつ目の前の茶請けにそわそわしている二条の姿がある。
どうやら二条が茶請けを食べ過ぎないよう監視しているらしい。さっきは芙蓉の隣に居たはずなのに、いつの間に。
「そういえば、」
今度は口に出して、二条は英雄風邪にかかっていたみたいだけどと言葉を紡ごうと……したものの、英雄風邪は現実の出来事ではなかったかと思い直す。
とはいえ言ってしまった「そういえば」を引っ込めるのも座りが悪い。
「エージェントになったんだって?」
夢の中の出来事ではあったが、あの時は聞きそびれたことだ。アリスに聞かれれば、当時――おままごとのような家族ごっこをしていたあの夜が恥ずかしいのか、芙蓉は視線を逸らして頷いた。
「……そう。じゃあ、頑張って」
彼は一般人ではなくなった。無自覚な能力者でもない。組織に属するエージェントとなった。それによってアリス達が思うところも変わってくるものの、芙蓉から見れば然して差異は無いのかもしれない。
「はい。頑張ります」
お手本のような返答を寄越す少年へ、先輩エージェントは一つの御守りを手渡した。手に乗せられたそれに首を傾げる芙蓉に、一言。
「……それ、あげる」
もしかしたらいつか役に立つかもしれないと思ってのことだ。渡した理由を強いて挙げるのなら、エージェントになったから。仕事をしていくのなら、使う日が来るかもしれないから。
「ありがとうございます。……大切にします」
使う時が来ないのが一番なのかもしれないけど。
御守りの効果を思いつつも、アリスはもう一人の己へ視線を向ける。
Aliceはアリスの隣でただじっと、二条を見つめていた。見目こそいめにそっくりではあるが、その言動も行動もまるで似つかない。……いや。
『(……?)』
いめも二条も特定のお菓子しか食べていないように見える。リリィとカノンが持参したゼリーも、食べているのは白桃の入ったゼリーのみ。そのせいで二条の前に置かれた皿からは白桃入りゼリーが消えてしまっていた。
ただの偶然か。好みの一致かもしれない。
「(二条夢。成程確かに似てるけど)」
『(現状性格は違い過ぎるかな)』
そっとアリスに目配せするAliceだが、今の所はという結論に落ち着いてお茶を一口。
まだ、結論を急ぐべきではない。
●問答
「聞いたよいめ、エージェントと共闘したんだって?」
茶会の様子を楽し気に眺めている愚神へ、真紅の能力者は淡々と言葉を投げる。
『それは善性愚神だから? それとも、いめ。貴女の誓いとやらに関係しているのかな』
守りたい誓いがある。この愚神は確かにそう言ったと報告書にはあった。
ならばその真意は一体何だ?
「ふふ。そのどちらでもあるのですよ?」
くすくすと微笑み、首を傾げる少女。
その様子にアリスは僅かに目を細め、肩を竦めて嘆息した。その口からは「……まぁいいや」と声が漏れる。
何をどこまで話すつもりなのか、そもそも話の内容すら真実かどうかか分からないのだから。
……あぁ。
「そうだ忘れていたよ、挨拶がまだだったね?」
そっくりな少女が二人、鏡合わせのように並びあって。
「アリス」
『Alice』
「『お見知り置きを』」
黒のアリスと赤のAlice。声も言葉も揃えた二人に、いめもにこりと微笑んだ。
「知ってほしい、って言いながら、なんでいつも、曖昧ないい方するの?」
アリスといめの会話の合間に、エデンはそっと素朴な疑問を挟み込む。
エデンに悪気などこれっぽっちも無いし、ただ純粋に感じたというのも分かるような言葉だ。
故にいめも少し考えて、「癖なのですよ」と答えている。
「知ってほしいのは、愚神全般的なこと? それとも、いめ自身のこと?」
話したくないことは話さなくてもいい。
けれど、隠さなくてもいいことは色々と知りたい。
趣味とか、好きなタイプとか。人であればありきたりな、将来の夢とか。
質問を並べるエデンの思いに応えるように。
「今は、善性愚神についてもっと知ってほしいのです」
「……お互いを知りたいってのは同じなんだな」
ぽつり、と。
黙って話を聞いていたジーヤは、続けて。
「前みたいに頭の中を見る事ができるなら、その能力使ってガンガン知ってけばいいんじゃないか?」
初めていめと出会った時のように。人質を取って、一方的に知っていけばいい。
「それをしないのは、映像と声だけで心の中までは見透かせないからそれを知りたいって事か」
「……いいえ。不公平だと思ったのですよ」
表情は笑んだまま。ただゆっくりと首を横に振って、いめは続ける。
「言葉を交わさずに一方的に得てしまうのは、不公平で、とても卑怯だと思ったのです」
善性として、心を入れ替えたのだと。
搾取するだけの力を使うのはやめたのだと。
嘘のような言葉を並べて、愚神は微笑む。
「嘘だと、思いますか?」
H.O.P.E.の一部が善性愚神にそうしているかのように、彼女もまたH.O.P.E.を試しているのかもしれないとジーヤは感じた。
だからこそ。
「……何がしたいんだ?」
言葉を、並べる。
いめがそうしたいと言った行動をしてみせて、その奥を探ろうとする。
またはぐらかされるだろうと思いながら。
夢の中で見せられた出来事は。あの少女の正体は。そして。
芙蓉のことや、村が襲われるのがなぜ分かったのか。
それを何故H.O.P.E.に知らせてくるのか。
答えを求める声に、いめは応える。
「夢は夢。幻。あれはなんでもない出来事なのですよ」
それから。
「愚神の間にもある程度の情報網、ネットワークがあるです。いめはそれを利用して知ったのですよ」
それから。
「貴方達に知らせたのは、見定めたかったからなのです。貴方達が本当に、希望なのか、どうか」
表情は笑んだまま。しかしじっとジーヤを見つめた視線は、ジーヤの内を知ろうとするかのように冷たく鋭い。
恐らく嘘は、無いのだろう。
「……名執さん達は、貴女が呼んだの?」
Ezraに注がれたお茶を飲みながら、アリスはいめから二条へ視線を移す。
芙蓉は話を向けられて困惑気味だが、二条はお菓子を頬張っている最中である。まだ食べてる。そろそろこの会場内のお菓子を食べつくすのではないかという勢いだ。まぁ、執事然とした英雄は淡々とお菓子を分けているが。
「えぇ。折角のお茶会なので。たくさんの人とお話をしたかったのですよ」
何故あえて名執を選んだのかについての答えは、無い。
アリスは再び嘆息して、茶菓子を一つ摘んで口へと放る。
『いめはんや夢はんは甘いものは好きなんです?』
いめはそれなりだが、二条がお菓子に釣られていることに気付いたシロガネがEzraから預かったお菓子を皿へ追加していく。
『自分はあんまり食べへんのですけど、クッキーとかチーズケーキとかが好きですよー』
言って、バタークッキーをひょいと一摘み。
『首肯。私も甘味が好物です。栄養分には成り得ませんが気分は満たしてくれる』
もごもごと口いっぱいにお菓子を詰めつつ、こくこくと頷く英雄の少女。その様子を見かねた能力者がずるずると会場の端へ引っ張っていくが、少女は引っ張られつつお菓子いっぱいの皿を確保するのは忘れない。
ちゃっかりしている。したたかである。
『……あれは苦労しそうやなぁ』
苦笑混じりに見送って振り返れば、いめの笑顔が微妙に引きつっている。
「いめとほとんど同じ姿かたちをしたものがあんな風だと、つらいものがあるですよ」
「親戚かなにかなの?」
実際に二条の姿を見たからだろう、目をぱちくりさせていめと見比べているエデンに対していめは首を横に振った。
「いいえ。そんなものではないですよ」
そもそも愚神と英雄、親戚であるわけがと言葉を繋げるいめに、百目木とまほらまがほぼ同時に口を開く。
「前に会った時、俺が聞いたことを覚えているか?」
『元から愚神だったってお茶会部屋で言ってたけど、いめは違う気がするわ。違ってたらごめんなさい、邪英からの愚神なのじゃない?』
百目木からは、今答えられるかと。個人的な興味だと付け加えて。
まほらまが気になっていたことは、ジーヤも気にかけていたことだ。
聞いてははぐらかされてきたことへの答えでもある。
こんな機会でなければ、もう二度と聞けないかもしれない問い。
返答は。
「……もう、隠すことも無いのです。大正解なのですよ」
愚神――いや。
「私は元々、英雄だったのですよ」
世界を護る側だった少女はそう言って、微笑んだ。
●回答
面白くもない話だ。少女はそう言った。
ありふれていて、何の変哲もない物語。
大規模な戦闘の最中、怪我を負い、仲間を逃がし、それでも立ち上がった少年と少年の英雄のお話。
「生きてくれと願われたのですよ。それから……『世界を護ってほしい』と」
ただ一つの守るべき誓いなのだと、少女は言う。
愚神となり、英雄であった頃の記憶は薄れている。それでも誓いだけは忘れていない。
けれど。
「けれど、愚神は英雄にはなれないのですよ。少なくともいめは、そう思っているのです」
『……何故?』
静かに、言葉を滑り込ませるようにまほらまが問いかける。
邪英化を止められなかった英雄も、いめのように善性愚神として……協力できる愚神になれるのではないか。
そんな可能性を抱いていた彼女へ微笑みかけて、柔らかな声音で愚神は答える。
「愚神は英雄とは違うのですよ。仕方なくならばまだしも、好き好んで選ぶ道ではないと思うです」
自身のことを棚に上げ、「横の繋がりとか、意外と面倒なのですよ?」と微笑んで見せる少女。
「あぁでも、従魔を使役できるのはいいことなのです。この会場には連れてこれてないですけど」
事前に決められた約束の通り。
普段なら一匹くらいは傍に置いているのだが、今日は仕方なくお留守番なのだそうだ。
「あれ触って見たかったんだよ、羽とか硬いの? 今度抱かせてもらえるかな」
冗談のような本気のようなジーヤの言葉に、
「ふふ、意外と柔らかいのです。でも抱き上げたらキーキー鳴くかもなのですよ」
『連絡用に1匹譲ってくれてもいいわよぉ』
さりげなくとんでもない要求を織り交ぜたまほらまには首を振って。
「このイベントももうすぐ終わりの時間なのです。そろそろお茶会もお開きの時間なのですよ」
「……最後にもう1つ。愚神十三騎の何人かが"王"って言葉を口にしているらしいが…嬢ちゃんも"王"については何か知っているのか?」
茶会の雰囲気を壊さないように、無粋だろうと逃していた疑問をここで。
百目木の視線を受け止めながらも、いめは首を横に振る。
「いめは詳しくないのです。もしかしたら等級が関係あるのかもしれないのですよ」
もっと上の等級になればと彼女は言うが、百目木が直接聞いた"王"の話は愚神商人からだ。降伏宣言をし和解したいと話を持ち掛けてきたヘイシズも"王"を意思であると示していたらしいが、かの愚神の等級はトリブヌス級。そして愚神商人の等級は未だ不明のまま。
愚神十三騎以外の愚神も知っているのかという興味と確認を兼ねた質問だったが、いめの発言から判断するのは難しそうだ。
●終幕
「では、ごきげんよう。またお誘い下されば光栄ですわ」
茶道に則り、正座のままリリィは一礼して立ち上がろうと、した。
だが数時間に及ぶ茶会、そのほとんどを正座で過ごしていたリリィの足は彼女の自覚が無いまま痺れに痺れており。
(……ぬ、足が変な感じなのじゃ……)
リリィのすぐ傍で同じく正座をしていたアヴニールの足もまた、異変を告げていた。
しかし今まで正座で長く過ごした事のない少女に取って痺れなど普段感じるものでもなく――まるで長靴を履いているかのような違和感を抱く前に、影が出来た。
ふと顔を上げて見ればそこには慌てた顔の。
(! リリィ今倒れると……)
足が思うように動かず、ふらりと傾いだ体そのままに、リリィは思い切りアヴニールへと倒れ込んだ。
『ぬわぁ……!』
「アヴニール様……っ! 大丈夫でしょうか……」
思わず声を上げるアヴニールを心配して起き上がろうとするリリィだが、それが今度はアヴニールに寄り掛かるような体勢へと変化する。
「あの……その……足が、足が勝手に……」
その体勢はアヴニールの足にとって、今はどんな攻撃よりも的確な攻撃であった。
『リリィ、今寄り掛ると足が、足がー! なのじゃー!』
びりびり。じわじわ。悶え転げたくなるような痺れに苦しむアヴニールをあわあわおろおろしながら見つめるリリィ。
そんな二人を、英雄のカノンは微笑ましく見つめている。
『……ふふ、2人共……頑張ってたのね』
二人はEzraによってどうにか助け起こされ、痺れが無くなり歩けるようになってからそれぞれの能力者・英雄と共に会場を後にした。
最後の最後、ハプニングに見舞われた彼女達であったが、これも一つの思い出として。
「余りもんで悪いんだが、よかったらもらってくれ」
百目木からいめへ、差し出されたのは未開封のキャンディポット。カラフルなキャンディが詰められていて、色ごとに味も違うのだとか。
「中身が空になれば別の何かを入れてもいいっつう触れ込みだが、邪魔になったら処分しても構わんよ」
受け取ってもそうでなくても構わないと思って取り出したそれを、いめは数度瞬きして受け取る。
「ありがとう、ございます」
『うちのおじいはんがいめはんにも餌付けしたがってましたから、機会があったら付き合うてくださいねー』
シロガネの言う『おじいはん』は百目木の第一英雄のことだろう。いめも知っているから、彼の言葉には頷いて応える。
「……そうだ」
軽く手を合わせ、いめは芙蓉へ――隣の二条へと近づく。
その機会を、この会場を訪れてからずっと観察していた鏡合わせの少女達は何も言わず見守った。
声は、聞こえた。
「貴方は、間違えてはいけないのですよ」
『……』
答えは無く、それを気にすることもなく。
「とても楽しい一日だったのですよ」
エージェントに連れられ、会場を去る間際にいめは深々と一礼する。
上げた顔には、満面の笑み。
「それでは――さようなら」
そう言って去り行く背を見送って、終始執事に徹していた英雄はようやく能力者の元へと戻ってきた。
『いかがでしたか、お嬢様』
聞きたいことは聞けたのかと問い掛ける青年には頷いて、エデンはいめにぶんぶん腕を振る。
その様子を見ながら、『いめの精神的年齢がどれほどか』の推測をしていたジーヤとまほらまも帰路に着く。
見かけで判断できないのが愚神と英雄だ。それでも何かの手がかりになればと思っての事だったが、話しぶりからして外見年齢そのままでは無いだろうというのが分かったぐらいだ。
ただ今回は、答えを得た。
それがどのように繋がっていくのかはまだ、分からないけれど。
●***
情報は拡散される。
人々の欲求に応じてそれは広がっていく。
彼女を知っていた者へ、彼女を忘れていた者へ。
名前と共に情報は流れ、彼女の姿は認知されていく。
火が起こるには充分すぎるほどに。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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