本部

雪が降る植物園2017

紅玉

形態
イベントEX
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
14人 / 1~25人
英雄
14人 / 0~25人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/12/31 21:33

掲示板

オープニング

●オーパーツ『スィニエーク』の実用へ
 昨年、とある村で見付かったオーパーツはH.O.P.E.ロンドン支部に保管されていたのを、ティリア・マーティスと英雄のトリス・ファタ・モルガナの二人が提案した使用法として、普段は温かい植物園内に冬期限定イベントとして雪を降らせるという内容だ。
 オーパーツから作られる雪、害等があるかもしれないという理由からエージェントに試しに楽しんでもらうことにした。
 参加したエージェント達の報告と、ロンドン支部のオーパーツの研究しているチームの報告から『安全』と判断され、一般公開しても大丈夫だと結果が出た。
 一般公開前に、先行公開としてH.O.P.E.のエージェント達に楽しんでもらうことにした。
「やりましたわ!」
 満面の笑みを浮かべながらティリアは、歓喜の声を上げた。
『ええ、エージェントの皆に協力してもらった甲斐があったようね』
 トリスはそんなティリアを眺めながら嬉しそうに頷く。
「今年は“かまくら”というモノとか、雪のツリーとか特別に作ってもらえるそうですわ」
『ええ、日本から職人を呼んだそうで』
 子供の様にはしゃぐティリアに、トリスは書類を片手に淡々と説明をする。
「去年とは、限定商品やクリスマスらしい食べ物が増えてるって聞きましたわ」
『そうね。去年と同じじゃ、味気がないかと思って色々と案は用意しました』
「早く、皆様に、この植物園を楽しんで欲しいですわ」
 しんしんと雪が降る植物園を見上げながらティリアは、エージェント達の喜ぶ姿を想像をして思わず笑みをこぼした。

解説

【目標】
『雪が降る植物園』を楽しむ!

【NPC】
お誘い頂ければ同行します。

【場所】
『植物園』(昼)
クリスマスの装飾やらで彩られています。
植物の他に、鳥、虫もいます。
飲食の持ち込みは可。
お店は、売店(限定商品有り)とカフェ(クリスマス仕様)があります。
広場に大きなかまくら、大きな雪のツリー(勝手に装飾しても可)があります。

【オーパーツ】
形状:半透明な雪の結晶
名前:スィニエーク
能力:オーパーツを中心に3km内に雪を約3ヶ月間降らせる。
発動条件:その土地が冬になったら。
雪:人体に影響はありません。
冷たくはなく、固めたり丸めたりする事が可能です。

リプレイ

●手を取り、足並み揃えば
『ん、じゃあリーヴィ、ちょっと借りて行くな』
 と、ガルー・A・A(aa0076hero001)は木霊・C・リュカ( aa0068 )にそう言うと、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)の手を取って植物園へと足を向けた。
「どうします? ガルー、追いかけますか?」
 残された紫 征四郎(aa0076)はリュカを見上げた。
「どうしようか。探偵リュカと征四郎になってもいいけど……カフェのクリスマスケーキも気にならない?」
 気にならないワケではないが、二人の間に首を突っ込む様な事はしたくないリュカは、トリス・ファタ・モルガナが説明していた『クリスマス限定カフェのケーキ』を思い出した。
「それも良いですね。それに、植物園なんですから珍しい花を見たり、触れたりする事が可能な良い機会です」
「それじゃ、行こうか」
 征四郎はリュカの手を取り、植物園にゆっくりとした足取りで向かう。

『別に、リュカ達と一緒でもいいんじゃ』
 ガルーの手をぎゅっと握り返し、オリヴィエは笑顔で見送る能力者達に一瞬だけ視線を向けた。
 別にガルーと一緒がイヤというワケではなく、嬉しいのは嬉しいがリュカの目では植物園を楽しめないのが少し気になった。
『俺様が誘ったのはリーヴィだ』
 ガルーはオリヴィエの問いに答えながら歩く。
 そういえば最近同じ依頼に行かなかった、と思いながらオリヴィエはガルーの背を見上げた。
 植物園の出入り口でパンフレットを貰ったガルーは、ふと『2人で出歩くのは、少し久しぶりか』と思うと繋いだ手を見た。
『不思議だ』
 オリヴィエは目を見開くと呟いた。
 外は晴天、植物園の中に入ると白銀の世界だ。
 色とりどりの鳥、蝶が雪が降る中を飛び回り、暑い土地で見掛ける花や植物に雪が積もっていた。
 体を震わせる程の寒さは無く、むしろコートは不要だと感じる。
 オリヴィエは駆け出すと、ガルーも同じ速度で駆け出し広場へと向かい設置されている箱から袋を取り出す。
『リーヴィ、それは?』
『エサ』
 ピッと袋の封を切ると、オリヴィエは掌に鳥用のエサを溢さぬように乗せると、小さな羽を羽ばたかせながら色鮮やかな小鳥達が集まってきた。
『スマホの写真、どうやるかわかる?』
 ガルーはポケットからスマホを取り出すものの、画面に指先を当てたまま首を傾げた。
『……あんた、まだスマホの写真使えないのか……?』
 オリヴィエは目を丸くする。
『ああ、そうだな。薬になるかの知識はあるんだが。でも、花はいつか枯れるだろ?』
 と、スマホを片手にガルーは肩を竦めた。
『ああ、いや、……珍しいなと思っただけだ。言うほど、花とか興味は無いと思ってた』
 オリヴィエがガルーに写真機能の使い方を教えながら言う。
 近場にあった花を試しに撮りしていると、ガルーの視界に鳥達と戯れるオリヴィエが映る。
 良い絵だ、と思いスマホをかざしてオリヴィエを撮ろうとするガルー。
『……こっそり撮る位なら堂々と撮れ』
 レンズ越しにオリヴィエはガルーに視線を向けながら言った。
『ああ、それもそうか』
 と、頷くとガルーはオリヴィエに隣で肩が当たる位に寄る。
『ほら、今だ、シャッターチャンスと言う奴だぞ。インカメラにしないと写らないぞ』
 と、鳥に囲まれたオリヴィエが言う。
『いんかめら? なんだそれは』
 ガルーが首を傾げてると、オリヴィエが横から操作をするとスマホの画面に自分達が映る。
 雪で作られたツリーが入るように調整をし、スマホの小さな画面に収まるように撮る。
 しかし、エサに引き寄せられる色とりどりの鳥まみれであった。

「クリスマスローズに寒椿、寒い冬に頑張って咲く花も多いですよ」
 と、植物園のパンフレットを征四郎は得意げに読み上げた。
「やぁ、流石植物園。冬でも咲いてる花はあるもんだね」
 リュカは感嘆の声を上げた。
「広場はクリスマスの装飾で鮮やか!」
 征四郎が広場を指す。
「うん、眩しいね」
 サングラス越しに光る装飾を見てリュカは目を眩しそうに細めた。
「ハイビスカス、ヒマワリ……夏や南国の花が雪の中で咲いているのは、見慣れないからでしょうか? ちょっと違和感を感じますね」
 征四郎はリュカの手を引いて、植物園に咲く花を1つ、1つを手にして匂いを感じさせたりする。
 あまり見えないリュカの為に、征四郎はスマホに花の姿を収める。
「リュカ、どうしたのですか?」
 植物園を歩いていると、征四郎はリュカの歩き方に違和感を感じると振り向いた。
「雪の上を歩く感覚が楽しくてね」
 リュカは柔らかい雪を踏む感覚を楽しんでいるのだろう、笑みを浮かべながら答えた。
 冷たければ普通は足の感覚が麻痺して、雪を踏む感覚なんて楽しめないだろう。
 雪の結晶の塊が足で軽い音を立てながら潰される。
 他にも来ている仲間が踏んだ跡もあるだろうが、リュカ自身はそれが足の感覚だけで“見える”のだ。
 小さい足、大きな足、軽い人が踏んだヶ所、重い人が踏んだヶ所、それぞれ違い、沢山の誰かと歩いている気分になる。
「オリヴィエ、最近少し大人っぽくなりました、ね」
 と、言うと征四郎は少し遠くを見る。
 自分の恋とオリヴィエの恋は、見ているものや見えてる世界が違うのだろうか? と思う。
 すると、征四郎の思いとは裏腹に体は正直なのだろうか?
 空の胃からかん高い虫の鳴き声が響いた。
「ところでお嬢さん、何やらお腹の虫がくーくー鳴いているみたいだけれど」
 その音を聞いたリュカは、思わず笑い声を漏らしながら言う。
「暖かいココアにシュガーパウダーの雪がかかった苺のケーキ、食べに行こ?」
「! ココアとケーキ! お供いたします! ぜひ!」
 ぴょんと征四郎は跳ねるとこくりと頷いた。
 今はまだ分からない、彼女はまだ若い。
 歩き出した1歩が小さく感じる程に、これからの長い道のりを歩きいずれ知るだろう。
 征四郎自身の恋の視界が。

●二人で歩む世界(保護者付き)
「植物園は初めてなのですが……広いです。リゾートに来たみたい」
 卸 蘿蔔(aa0405)が声を上げながら植物園内を見回す。
「俺は……子供の頃以来かな。植物園には何度か両親と妹で……小学校に入る前の話だけどな」
 と、目を細めながら八朔 カゲリ(aa0098)は言う。
「そうなのですか、でもコッチの植物園は全然違う」
「これ位の気がしたけどな……」
 蘿蔔が首を振ると、カゲリはしんしんと雪が降る天井を見上げた。
 それは、カゲリ自身が小さかったからこそ感じたのであろう、と夜刀神 久遠(aa0098hero002)は思いながら2人を後ろから見る。
 察したレオンハルト(aa0405hero001)は久遠に向かって頷いた。
「アフリカの植物って凄い個性的です」
 知っていても“バオバブ”だが、アフリカバオバブは普通の木なのだが枝からぶらーんと身がぶら下がっている。
 ラフレシアの様な模様の花、どーんと太い木、触って良いと言われても触り難い植物などが植えられていた。
「食中植物に、蝶?」
 カゲリの目の前をひらひらと飛ぶ蝶“ルリモンフタオ”は、青い炎の様な模様が美しい。
「アゲハチョウ! アフリカのアゲハチョウは日本のとは全然違います!」
 パンフレットを片手に蘿蔔は声を上げた。
 アゲハチョウの仲間だが、頭の中に浮かべる姿は色鮮やかで大きな羽をはばたかせている姿だ。
 しかし、パンフレットに載っているのは細長い羽に擬態する為だろうか、色は落ち着いており他の蝶と見分けがつかない。
 楽しんでいる2人の後ろで、レオンハルトは久遠に声を掛けていた。
「狭まってるから、段差に気を付けて」
「ええ、ありがとうございます」
 と、微笑みながら言うと久遠はゆっくりと足を進める。
「本当にこの雪冷たくない……食べても大丈夫なのかな? カゲリさんどうですか? 今ならあーんしてあげますよ」
 蘿蔔は園内に積もっている雪を手にすると、カゲリに向かって小さく首を傾げた。
「……雪を食べると腹を壊すと聞くが」
 と、彼女の冗談を真面目に答えるカゲリ。
「じょ、冗談ですよ!」
 予想外の反応に蘿蔔は慌てて声を上げた。
「そうか、確かここの雪は無害だから大丈夫かもな」
 カゲリは何処かに書かれていた注意書を思い出す。
 そんな彼の隣で蘿蔔が、落ち着かない様子できょろきょろと辺りを見回す。
 もちろん、英雄のレオンハルトは蘿蔔の考えが分かったかの様に、久遠に耳打ちすると植物の影に身を隠す。
『ふふ、恥ずかしがらずに堂々としていれば良いのですのに』
 と、微笑む久遠は楽しそうに言った。
『あの様子では……』
 蘿蔔は年頃の少女だ、恋人と手を繋ぐだけでも恥じらうほどに。
 人目気にせずに繋げ! と、思いながらもレオンハルトはその様子をただ見るだけ。
 その後ろで久遠は、妹を思う兄が心配だからと言って着いてきた様にしか見えず、思わず笑みをこぼした。
「あ、あのっ。その……良かったら。手、繋いでも良い、ですか?」
 先に歩くカゲリのコートに手を伸ばし、蘿蔔はぎゅっと握り締めると俯きながら言った。
「別に確認しなくても、そうしたいならそうすれば良いだろうに」
 カゲリは蘿蔔の手を握る。
「あの……そう、ですね」
 握られた手から伝わる温もり、思ったより温かい手は蘿蔔の頬も熱くする程。
 ただ、単に恥ずかしくて顔が赤くなっているのは保護者である英雄達は微笑ましく見守る。

 歩き疲れ、少しお昼が過ぎた頃にカフェのテーブルに座る。
 賑やかなカフェ、近くの広場では誰が雪のツリーに装飾を施していた。
「綺麗でしたねぇ、雪がない時も見てみたいです」
 蘿蔔はしんしんと雪が降ってくる天井に視線を向けた。
「そうだな。来年にまた来て見るのも良いかも知れないな」
 雪が無い植物園、それはカゲリが幼い時に見た光景と同じモノを蘿蔔も共有出来る。
 家族ではなく、蘿蔔とカゲリの2人の思い出として。
 軽食をとりながら、2人は学校の事や美味しいお店を見つけた等の他愛もない話をする。
『結構、楽しんでいるようで良かったです』
 久遠は温かい葡萄ジュースを口にする。
『頬に食べカスが付いているから拭いて』
 隣の席からレオンハルトが蘿蔔にウェットティッシュを差し出す。
『(甘すぎるのも問題ですね)』
 その様子を見た久遠は小さくため息を吐いた。
「カゲリさんと一緒に来れて嬉しかったです……ありがとう」
 蘿蔔は笑顔でお礼を言う。
「……とは言え、今回は保護者もいるから……残念だが、な」
 と、言ってカゲリは久遠とレオンハルトに視線を向ける。
「でも、まだ帰りたくない、なぁ……なんて」
 ちょっとだけ舌を出しながら蘿蔔が言うと。
「後、デートの終わりにまだ帰りたくないとか一般的には割と軽率な言葉だと思う。……勘違いしても知らないからな」
 カゲリは保護者の威圧を感じながら言う。
「えっ、そうなの!?」
『まだ、まだ早いからな』
 蘿蔔の肩に手を置くと、レオンハルトは真顔で首を振った。
 まだ、若い2人は1歩踏み出したばかりなのだから。
 自分達は良くても、保護者は“まだ”と言って止めるかもしれない。

●言いたい言葉
 雪の量をどうやって感知しているのかほ不明だが、オーパーツは積雪が減った位置に雪を降らせる。
 カフェのテラスで御童 紗希(aa0339)はカプチーノを、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)はブラックコーヒーを飲んでいた。
「雪が降ってるのに熱帯植物とか生えてるのってすごい不思議だね」
『実際は雪じゃないからな……』
 紗希がシダ植物に積もる雪に視線を向けると、カイはこくりと頷き雨や太陽の熱い日射しを思い浮かべた。
「うん……寒くないし……雪も冷たくない……」
 足元を雪をぎゅっと踏み締める紗希は、冷たくない雪を不思議そうに見つめた。
「でもこんなに雪が積もってる風景ってあんまり見ないよね」
『まーそーだな』
 雪が降らない場所で住んでいるし、紗希の地元も降らないので物珍しく感じた。
「雪が降ってて……でも寒くなくて……色んな国の植物が生えてて……色鮮やかな鳥が飛んでる……パラダイスってこんな所の事言うのかな……?」
 色鮮やかな鳥が宙を舞い、花の香りに誘われた艶やかな蝶がひらひらと花壇を飛び回る。
 見慣れぬ光景は紗希にとっては別次元で、“パラダイス”というフワッとした表現しか出来ない。
『なあマリ……』
 カイが口を開くと。
「ねえ、今年の反省点って何だった?」
 紗希の声がカイの言葉を丁度被さる。
『ちょ……このタイミングで振るネタかよ……?』
 凄く良い雰囲気とまでは言い難いが、カイは紗希の言葉に寒くないのに氷の様に固まってる。
 そんな英雄の気持ちは知らず、紗希はきぼうさのプリントが施されたマカロンを頬張る。
「今年は色々あったよね。でも至らなかったなーって思うところも多々あるんだよ、あたしなりに」
 甘酸っぱい苺の味が紗希の口に広がる。
「エージェント活動もそうだし学校もそうだし、うちの学校はエージェント活動を理由に成績が落ちることは認めてもらえないし……」
 最後の1つを口に入れると、紗希は大きなため息を吐いた。
「どう?」
 紗希は小さく首を傾げた
『……そやな』
 と、答えるしかないカイ。
「コレ下さい! カプチーノおかわり!」
 メニューを片手に紗希は笑顔で言う。
(言えなかった……)
 口元を吊り上げて微笑みながらカイは紗希を眺める。
 今はこのまま楽しもう、言う機会はまだ沢山あるのだから。
 カイは英雄、マリは能力者。
 切っても切れない縁の2人は、何時気持ちを言葉にするのだろう?
 それは2人の勇気次第。

●初めての冷たくない雪!
『……ん、冷たくない……でも雪』
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)が黒い耳を立てて、お尻から生えている尻尾を揺らす。
「なるほど、これは確かに普通は見られない幻想的な光景だな」
 雪で白銀の世界と化した植物園を見た麻生 遊夜(aa0452)は感嘆の声を上げた。
 ユフォアリーヤは積もった雪を両手で掬うと、ばっと宙に撒きガラス越しに太陽の日差しを受けてキラキラと光る。
 冷たくない、寒くない、そんな園内で色鮮やかな鳥が、蝶が舞う。
 遊夜は“なかなか乙な物だ”と思いながら、雪化粧を施された南国の植物や花を見回す。
『……ん、出来た!』
 ユフォアリーヤが頭の上に雪うさぎを乗せて遊夜に見せる。
「お、良い出来栄えだな」
 遊夜は笑顔で言うとユフォアリーヤの頭を撫でる。
『……ん、ふふ』
 微笑みながらユフォアリーヤは、嬉しそうに尻尾をぶんぶんと横に振る。
 カフェから美味しそうな匂いが漂って来て、2人の鼻に届くと自然と足はそちらへと進む。
「うむ、クリスマスと言ったらやはりこれだな」
 テーブルにはローストビーフ、ローストチキンにターキー等のクリスマスでは定番の肉料理が並んでいる。
 お値段? お財布の中身が心配? 大丈夫、日頃頑張っているエージェント達にH.O.P.E.からのクリスマスプレゼントだ。
『……ん、美味しい……でも家の味と、ちょっと違う』
 美味しそうに肉料理を頬張るユフォアリーヤは、自分が作るのとは違って美味しい部分を得ようとする。
 もちろん、可愛い子供達の母親だから!
 あまりにも美味しそうに食べるから、ティリア・マーティスがホット葡萄ジュースを差し入れしてくれた。
 もちろん、遊夜とユフォアリーヤの家庭を考慮して子供達の分も。
「ありがとう」
『……ん、ありがとう』
 と、2人が言うとティリアは笑顔で手を振った。
 食べ終えたら次は、28人も居る子供達の為のお土産を売店で選ぶ。
「ふむ、これなんていいんじゃないか?」
 遊夜が沢山ある限定品の1つを手にする。
『……んー、こっちの方が……あの子達は、好きよ?』
 と、別の限定品を指すユフォアリーヤ。
 H.O.P.E.ロンドン支部が近くにある、という事で限定品の半分は“きぼうさ”メインだ。
 ぬいぐるみ、ポーチ、ハンカチ、スノードームなどなど……。
「28人分、か」
『……ん、大変だけど、楽しい』
 大荷物になるかもしれないが、幻想蝶に入れられるだけ入れれば大丈夫だろう。
 お土産を渡した時の笑顔を見るために、おとーさんとおかーさんは頑張るのです!
『……ん、喜ぶ』
 お土産を買い終えたユフォアリーヤは、かまくらからに向かって駆け出す。
「だな。かまくらからで何をするんだ?」
 遊夜は、かまくらからの中にいるユフォアリーヤに視線を向けた。
『……ん、お茶飲んで、ゆっくりしよ?』
 ユフォアリーヤは隣をてしてしと手で叩く。
 座った遊夜が出入り口を見ると、丁度雪のクリスマスツリーが見えた。
 おでんや自家製チャルケセットを小さなテーブルに並べた。
「着々と飾り付けが増えてるな……」
 誰でも装飾可能な雪のクリスマスツリーは、他のエージェントが楽しげに装飾を施していた。
『……ん、楽しそうだねぇ』
 ユフォアリーヤは小さな背なのに、頑張って飾り付けしている少女を優しい瞳で見つめた。
 子供達を連れて来れたら、きっとあの子達はそれぞれの色と感性でツリーを飾るだろう。
 一般公開されたら連れて来たい、と思いながら温かい飲み物を口にする。
「お、これ美味いな……っと、これでどうだ?」
 遊夜はクッキーを摘まみながら、ボードゲームの“ダイヤモンドゲーム”のコマを動かす。
『……ん、自信作……んー、ならこう……かな?』
 自身ありげに言いながらユフォアリーヤも、ボードゲームのコマを動かす。
 依頼で忙しい日々、それを忘れて夫婦水入らずで今を楽しむ。
 傷付き、傷つけられ、心配させる事も多々起こるかもしれない。
 けれど、今まで健康でこうして大切な人と笑顔で過ごせているのは、守らなければならない世界がある。
 仲間の笑い声と自然の音をBGMに2人は笑顔で互いの顔を見た。

●約束
「雪の装置、楽しみだね。本場のサンタさんも来るかもね」
 餅 望月(aa0843)がアメシストの様な瞳を大きく開き、幼い少女の様に瞳を輝かせながら言う。
『サンタクロースの本場は北海の向こう側だよ』
 と、きょとんとした表情で百薬(aa0843hero001)は答えた。
「ぐぬぬ、正論」
 拳を握り締める望月は、悔しそうな声を上げた。

「かまくらやってみたかったよね」
 複数作られているかまくらの1つに入る。
「鍋物がしたいけど、さすがに大げさなのはダメかな」
 掌に乗る程の携帯コンロに小さなヤカンを置いて、水を沸かす望月。
 2つのカップにコーンスープの粉末を入れて、お湯を注ぎスプーンでかき混ぜると百薬に1つ渡す。
『いつもより美味しい気がするね』
 百薬は、こくりとコップのスープを飲むと笑顔で言った。
「いつもこれでいいなら安上がりなんだけど」
 と、小さくため息を吐く望月。
「こーんにちは」
 と、かまくらの出入り口から圓 冥人が顔を覗かせる。
「圓くんも一杯やっていきなよ」
 望月がカップを掲げた。
「お邪魔するね。まぁ、スープだけだと味気ないから差し入れね」
 冥人は、フライドチキンとポテトフライが入った紙袋を差し出す。
「元気になったなら良かったよ、これからもよろしくね」
 百薬が紙袋を受け取り、望月は笑顔で手を差し出した。
「皆のおかげで、ね?」
 と、肩を竦めながら冥人は差し出された手を取る。
「やっぱりこのあたりの任務は圓くんが先導してくれるとやりやすいよ」
「そう? ただ、単にヨーロッパとアフリカに仕事で行ってた、ってダケだからティリア姐には敵わないよ」
 望月の言葉に冥人は笑いながら答える。
『あーんなにぽやーとしているのに?』
「ああ見えて、一般人時代からロンドン支部に居るから、何ヵ国かは喋れるからね」
 百薬は貰ったポテトフライを食べながら問うと、冥人は望月から貰ったスープを口にしつつ答える。
『圓君は?』
「そうだね、共通語位は学んだよ」
 冥人は百薬の問いに答える。
「そういえば、普通に喋っているのを見た気が……」
 一緒に行った依頼での事を思い出す望月。
『ペラペラだったよね』
 紙袋の中から消えたポテトフライを探す百薬。
「俺が喋れなかったら現地の案内とかしてないよ?」
「それもそっか、ほらとても日本人! って見た目だからちょっと似合わない!」
 冥人の言葉に望月は頷くと、顔を指しながら笑う。
『ね! 割烹着を着て和食作ってるイメージ』
 紙袋から消えたポテトフライを探すのを止めて、ちょっとスパイシーなフライドチキンを百薬は頬張る。
「そこまで言うなら、お菓子は不用の様だね?」
 にっこりと微笑む冥人の手には、ケーキの小さな箱が!
『冗談、冗談、貰ったフライドチキンとポテトフライは食べたよ』
 と、空になった紙袋を逆さまにし、百薬はカサカサと音を立てながら振る。
「……迷惑料ね。約束を守れなかった俺からの」
 と、言って小さな箱を置くと、冥人はかまくらから出ていく。
「そんなこ……もう、居ない……」
 望月が声を掛けようと、かまくらから飛び出すがもう姿は無かった。
『忍者だったりしてね』
 忽然と消えた事に対し百薬は、ケーキが入ってる小さな箱を空けながら言った。
「まさかー」
 望月は振り向くと笑い声を上げた。

●絆と縁
「ラシル、ティリアさん達から植物園のお誘いです」
 月鏡 由利菜(aa0873)は笑顔で言う。
『楽しみだが……スィニエークを悪用しようとする愚神やヴィラン等がこの機に紛れ込まないとも限らん。念の為、警備の準備もするからな』
 と、真面目にリーヴスラシル(aa0873hero001)が言った。
「……今回は大丈夫だと思いますよ」
 由利菜はリーヴスラシルの言葉に苦笑する。
「それと、ティリアさんと圓さんをカフェに誘っているので早く行きましょう」
『待たせるのは失礼だからな』
 由利菜の言葉にリーヴスラシルは頷いた。

「待たせてすみません」
 植物園のカフェに着いていたティリアと冥人を見て、由利菜はぺこりと頭を下げた。
「いいえ、私はトリスに急かされて早朝から来ていただけですわ」
『それでも、待たせた事には違いがないからな』
 ティリアの言葉にリーヴスラシルが首を横に振る。
『素直じゃない子ね。でも、母はそんな我が子も好きよ』
 と、言いながらリーヴスラシルの肩に手を置いてアラル・ファタ・モルガナは微笑んだ。
「立ち話してると、他の皆が通れないから早く座ろうね」
 冥人は、由利菜とリーヴスラシルの背中をポンと押す。
「そうです。ラシル、早く座りましょう」
『それもそうだな』
 由利菜とリーヴスラシルは椅子に座り、手渡されたメニューを2人で見る。
「オススメはホットレモンジンジャーですわ」
 と、嬉しそうにティリアが言う。
「それでは、それにしましょう。良いですか? ラシル」
『ああ』
 注文したホットレモンジンジャーを片手に話は先日の話になった。
「私達にとっては、ティリアさんや圓さん達と普段通り話せることも、とても大切なことです」
 由利菜が笑顔で言う。
『そうだな……機会が失われて、初めて気づく痛みもある』
 リーヴスラシルは胸に手を当てた。
 仲間が、知った顔の人が、傷付き破壊された倉庫だった場所に倒れる光景は、悪くも鮮明に思い出す。
 身体に走る激痛、身体の中から血が全て抜けていくような感覚、それよりも自分達がした事で奪われようとした命をただ見る事しか出来ない絶望の方が重い。
「これも何かの縁だよ。でも、君達が抗った結果……俺は此処に居るよね」
「ええ、でも……やはり2度と目覚めないかもしれない、と思いました」
 冥人は明るく言うが、由利菜は今にも泣きそうな表情で答える。
『だから、とても痛いと分かった』
「はい、俺はこうして居られるのは由利菜とリーヴスラシルのおかげだよ? でも、彼女を逃がしてたらどーなる事だったか……」
 冥人が由利菜とリーヴスラシルの手を握る。
 じんわりと、人の温もりが掌に伝わる。
『まて、逃がしてたらという事は……最悪の事態を想定はしていたのか?』
「勿論。でも、それは“今”話すべきじゃないよ」
 リーヴスラシルの反応に、冥人は周りに視線を向けながら言った。
「そうですね」
「しんみりしたので、ガレット・デ・ロワでも食べますわよ」
 由利菜が再び笑みを浮かべると、ティリアがちゃっかり頼んだガレット・デ・ロワが運ばれてきた。
 ガレット・デ・ロワの上には紙で作られた王冠が乗っており、ウェイトレスが去り際に「来年のロワに祝福と幸運を」と言った。
『ロワ?』
 リーヴスラシルは首を傾げた。
「“王たち”という意味ですわ。本来でしたら1月6日に食べるのですが、あくまで形式ですので今食べてしまいましょう」
 紙の王冠を取ると、ティリアは切り分けられたガレット・デ・ロワを指す。
「これ、由利菜とリーヴスラシルはどれが良い?」
『どれも同じだろう?』
 冥人の言葉を聞いてリーヴスラシルは問う。
「何だろう? 簡単に言えば、切り分けられたどれかが当たりなんだよ」
「ロシアンルーレットの逆版みたいな感じでしょうか?」
 由利菜は均等に切られたガレット・デ・ロワを凝視する。
「そ、当たった人には王冠を被せて、1年間は祝福を受けて、幸運になるというね」
『ならば、私はコレだ』
 冥人の説明を聞いたリーヴスラシルは、由利菜に一瞬だけ視線を向けながら選ぶ。
「それでは私は、これを」
 由利菜もまた、リーヴスラシルの事を考えながら選んだ。
「では、一口でいただきますわ~」
 何故か甘いモノを前にして生き生きしているティリアは、ガレット・デ・ロワを一口で口に入れる。
「あら」
 由利菜の食べ口からポトリと蝶の形をした小さな陶器が落ちた。
「おめでとうございますわ!」
 ティリアが由利菜の頭に紙の王冠を乗せる。
『ユリナ、おめでとう』
 祝福と幸運はユリナが受けるべきだ、と心の中で思いながらリーヴスラシルは祝福する。
「……私の周囲の人達も、変わっていっています」
 紙の王冠を手にして、由利菜は園内に居るエージェント達を見回した。
『そうだな。友人、恋人、夫婦……様々な形の繋がりが生まれている』
 と、言うとリーヴスラシルは頷いた。
(私とラシルの関係は……今まで通りでいいのでしょうか?)
 由利菜は手にしている紙の王冠を見つめた。
『どうした、ユリナ?』
「……いえ、何でもないです」
 微動だしない由利菜を見て、リーヴスラシルは顔を覗くと彼女は小さく首を振った。
「……ふふっ、ラシルが側にいるとやっぱり安心できますね。それに……」
『それに……?』
「とっても『暖かい』ですから」
 隣に居るリーヴスラシルに体を傾け、由利菜はそこにある温もりを感じながら笑顔で言った。

●学生は大変なのです!
『おお、みてごらん。ゆきげしきを、あざやかなチョウがまうのは、せかいでここだけだよ』
 と、シキ(aa0890hero001)が声を上げる。
(シキ博士の虫講座が始まってしまった)
 十影夕(aa0890)は小さくため息を吐いた。
『チョウにも、かれはにぎたいするなどして、ふゆをこすものがあるのだが……』
 と、明らかに虫が多いであろう熱帯ゾーンへと向かおうとするシキ。
「かわいい写真撮ったげるから、あっち行こ」
 夕はシキの肩に手を置くと、広場の方へとぐいぐいと押しながら誘導をする。
『うむ。ひろばで、ゆきあそびをしよう』
 雪は美しいが冷たいのいけないと思ってるシキは、ここの冷たくない雪ならば沢山の雪だるまが作れる、と意気揚々と広場へ向かう。

「受験勉強の息抜きに来たけど、寒くないのに雪が降るって不思議なー」
 桐ケ谷 参瑚(aa1516)は園内の天井を見上げた。
『雪を降らせるオーパーツってな、なかなかオツじゃあねぇか。雪見酒と洒落込みたくなるねェ』
 参瑚より一回り大きな男・巳勾(aa1516hero001)が笑い声を上げながら言った。
「つーか、巳勾は理由つけて酒飲みたいだけだろおー団子ならこれでも食らえーい」
 参瑚は雪を両手でぎゅっと丸めたのを、野球の投手の様に投げた。
『俺っちは花も愛でるが団子もこよなく愛するのさ♪』
 相変わらず笑い声を上げる巳勾は、参瑚が投げた雪玉を無駄ない動きで避ける。
「お、十影クンとシキっちじゃん~ちわちわ~」
 夕とシキを見付けた参瑚は手を振りながら声を掛ける。
『おうおう、夕坊ちゃんにシキかい、奇遇だぁね』
 巳勾は笑顔で声を掛けた。
「あ、桐ケ谷。デート?」
 きょとんとした表情で夕は、参瑚と巳勾の2人を交互に見る。
「でーと? ……俺おっさん趣味はねーっす」
 参瑚が不服そうに言う。
『デートならもちっと色気のある姉ちゃんがいいわな』
 巳勾は呵呵と笑いながら言った。
 ほら、そこにぼっきゅんぼーんのお姉さんがいますよ。
「冗談。俺、家だとあんまり勉強できないから、また教えて」
「ちょっと気分転換にね~おう、いつでも家来なよ~歓迎~十影クンの教え方分かりやすいしね、俺も助かってるんよ」
 夕と参瑚は楽しそうに話す。
『サンゴも、じゅけんべんきょうを、がんばっているのだね』
 シキが両手を上げながら言った。
 楽しく会話をしながら4人は売店へと向かう。
「売店にも色々あんねシキっち、なんか欲しいものある? 買ってあげよっか」
 (巳勾が)と語尾に心の中で付け加えながら参瑚は、シキに視線を向けた。
『モルフォチョウがほしい!』
 と、声を上げながらシキは、標本のコーナーに売られている青が美しい蝶を指す。
「モルフォ蝶綺麗よな~海みたいで。ほれ、お財布係巳勾~シキ様がご所望であるぞー」
 と、モルフォチョウの標本を参瑚は、流れる様な動作で巳勾に渡す。
『へいへい……ったく、貸しにしとくぜェ参瑚』
 標本を受けとると巳勾は、面倒くさそうに言いながらもお買い上げ。
「カフェでも行く?  ドーナツあるかはわかんないけど」
 夕が提案をする、と。
「カフェ行くーーードーナツあるといいな~♪」
 参瑚は“ドーナツ”の一声で嬉しそうに声を上げた。
『カフェ代くらいは出せよ』
 巳勾は参瑚に視線を向ける。
「はいはい、期間限定とかあるらしいから楽しみだな!」
「それが、ドーナツとかなら尚更?」
「勿論!」
 夕と参瑚は、どんなメニューなのか話し合いながらカフェへと向かった。

●冬の思い出と君
「オーパーツの雪とクリスマスに彩られた冬の植物園ね……」
 一人で行くには、ちょっと敷居が高いかな? と思った迫間 央(aa1445)は踵を返す。
 すると、幻想蝶から少し不服そうな声がする。
『……随分薄情じゃない。私は央にとって何だったかしら?』
 と、マイヤ サーア(aa1445hero001)が言った。
 マイヤは央の英雄で、央を守る為にいつも幻想蝶越しに側に居てくれる。
 そして、央の婚約者でもある。
「そっか。マイヤと一緒に見に行きたいな」
 央はマイヤに向かって微笑んだ。
『私が隣に居るのだもの。央に寂しい思いはさせないわ』
 幻想蝶から出たマイヤは央の腕に自分の腕を絡める。

「雪、寒さを気にせずのんびり眺められるってのはちょっと新鮮だ」
 植物園に降る雪を央は見つめた。
 ドレス姿のマイヤ。
 彼女はドレスの上に何かを羽織るのは無粋な感じがするらしく、常に肩や胸元が晒されている状態だ。
「これなら、マイヤに付き合って貰っても罪悪感を感じないで済むかな」
 ちょっと嬉しそうに言う央。
『……私が表に居る時は、隣に央が居るのだもの。恥はかかせられないし……いつだって暖かいわ』
 と、表情を1つも変えずに淡々とマイヤは思った事を口にする。
 敵わない、と央は心の中で思う。
「……恋人と一緒の時の雪は、なんだか特別な感じがして、俺も暖かく感じられる気がするよ」
 と、言いながら央は肩を寄せる。
 少し前にテレビで話題になったらしい言葉を口にした央は、気付いてない様だがマイヤは素直に嬉しく思った。

「何時もお熱いな」
 近くに居た遊夜達に声を掛ける。
『……ん、ふふ。そっちも、ね』
 ユフォアリーヤが楽しそうに笑みを浮かべる。
『こっちまで、温かくなる位に。私達もユフォアリーヤと遊夜に負けない位になりたいわ』
『……ん、なれるよ。補償、する』
 ユフォアリーヤはマイヤに笑みを向けた。
『ありがとう』
 すれ違う友人達と言葉を交わしながら、央とマイヤは園内をゆっくりと歩く。
 笑顔に溢れており、楽しい笑い声は幸せを呼び、オーパーツはただ雪を生成する。
 ゆっくりと天井から降る雪は、肩や頬に当たっても冷たさは無くてとても軽い花弁が乗ったかと錯覚する。
『この雪は、私の為に降っているのね』
 ドレスの裾を揺らし、マイヤは央と雪が積もった道を歩む。
「ドレス姿のマイヤの為に」
 普通ならば寒くて、冷たいので幻想蝶に籠ってしまうマイヤ。
 植物園という、植物や花に生きるモノ達の為に調整された環境の中で寒さに震えず、冷たさで手から血の気が無くならない。
 2人が歩いた跡を消すように、スィニエーク(ロシア語で“雪”)はその名の意味の通りにしんしんと雪を降らせる。
 冬の3ヶ月という短い期間だが、毎日降ったら飽きてしまうだろう。
 季節の風物詩を、これからは2人で共有して思い出として1つでも多く作りたい。
 ぎゅっと互いに手を握り締め、熱い位に感じる互いの温もりを絶対に離さぬ様に……。
 足跡は雪で消えても、思い出はスィニエークの欠片達が覚えている。

●滅多に見られないモノ
「もし、予定がないなら一緒に回りませんか」
 花邑 咲(aa2346)がじっとティリア達を見る。
『行こ? 冥人のせいで心配させた一人なんだから』
 真神 壱夜が冥人の腕を引っ張る。
「無理に、とは言いませんよー」
『ダメ、皆が許しても僕は許しません』
 咲の言葉に壱夜は、威嚇する犬のように牙を剥き出しにしながら言う。
「分かった、分かったから、その顔は皆に見せる様な表情じゃないよ」
 と、慌てた様子の冥人は壱夜の顔を手で覆う。
『若いの』
 サルヴァドール・ルナフィリア(aa2346hero002)が笑みを浮かべながら2人を見る。
「この植物園はサボ……気分転換によく来ているから、案内するよ」
 冥人は、笑顔で咲とサルヴァドールに言うと先頭を歩く。

『遥か遠き故郷を思わせる懐かしい匂いがするのぅ』
 植物園に入るとサルヴァドールは、くんくんと鼻を動かしながら言う。
『……時にお嬢や、このふわふわと柔いものはなにかの?』
 と、冷たくない雪を手にしたサルヴァドールが咲に問う。
「ふふっ、それは雪ですよ、ドール」
『……雪とな? ……しかし、冷たくないぞ?』
 咲は微笑みながら説明すると、サルヴァドールは深い森の様な色の瞳を見開く。
「昨年の冬、山奥の村で奉られていたオーパーツでね。あまりにも雪を降らすものだから、村が雪で潰れてしまう! っと村長がH.O.E.P.に駆け込んで来たんだよ」
「でも、そんなに降りませんね」
 咲は静かに降る雪を見つめた。
『オーパーツって不思議で、欠けてもその欠片にも力はあるのです。小さいですが』
「そうやって量を制御しているのですね」
 雪で化粧を施された植物や花達の写真を撮る咲。
『その、オーパーツとやらだから冷たくないのじゃな?』
「そ、本当に不思議な物体だよ」
 サルヴァドールの問いに冥人はこくりと頷いた。
 多分、どの世界にも未知のモノはあるだろう。
 だからこそ、どんな世界であれサルヴァドールが知らないモノを知るのは楽しい。
「皆さん、良い顔ですよね~」
 エージェントの皆をカメラに収める咲は、思わず笑顔になる程に嬉しそうに言う。
『そうじゃ、カフェで何か食べれるそうじゃな』
 サルヴァドールが無邪気な子供の楊な笑みで咲を見る。
「うん、それじゃ案内するよ」
 冥人は咲とサルヴァドールをカフェへと導く。

 咲は星のシュガーが浮かぶ紅茶と、ナッツが使われているお菓子を。
 サルヴァドールは、メニューを全て制覇するのではないだろうか? と思うほどに頼む。
「何か、ありがとうございます」
 苺の香りと味がする紅茶を口にし、咲は冥人達に向かって微笑んだ。
「いいよ。……迷惑掛けた分のお礼」
 壱夜の無言の圧力を感じながら冥人は、少し落ち着かない様子で言う。
「それは、わたしともう一人の英雄との契約ですから」
 と、言って咲は小さく笑い声を出す。
「まぁ、咲はちょっと……かなり頑張り過ぎてる程だよ」
 何時もなら適当にはぐらかすであろう冥人が、珍しく真面目な言葉を口にする。
「君の辛さは知らないし、分からない。だけど、無茶はダメだよ」
 と、消えそうな声で言うと冥人は、咲の頭に手を置いた。
「え……そんな事はないですよー」
『顔に書いています』
 笑顔ではぐらかそうとする咲の頬を、壱夜は両で摘まみながら言った。
『バレバレじゃったか』
 前菜を食べ終えたサルヴァドールが口元を拭きながら言う。
『分かりやすい。こう、オーラというかそういうモノで伝わります』
 壱夜はまだ頬を摘まんだまま。
 人を食った様な壱夜の言葉に、咲はどうして分かったのかは分からないが、彼は察しが良い英雄だと感じた。
 カフェでサルヴァドールのお腹が膨れたら、売店で限定品という言葉に弱い咲はついついそっちへと引き寄せられる。
「限定品って気になってしまうんですよね……」
 留守番している英雄にお土産と、同行してくれた冥人と壱夜に早いクリスマスプレゼントを選ぶ。
「……あ、これも素敵ですね」
 凝ったモノからシンプルで王道のモノまで沢山あって目移りする咲。
 英雄達と自分の3人、お揃いの小物や気になった限定商品が入った紙袋を手に、咲は思わず歌いそうになる。
「今日はありがとうございました。楽しかったですね」
 と、笑顔で冥人と壱夜を見上げた。
「少し早いですが、クリスマスのプレゼントです。貰ってくださいな」
 咲は、丁寧にラッピングされた小さな箱を差し出す。
『ありがとうございます、咲。不甲斐ない僕の能力者だけど、よろしくお願いします』
「わたしこそ、依頼でお世話になる事もこれからあるかもしれませんが」
『うん、僕は君を信じています』
 咲の言葉に壱夜は笑顔で答えた。

●大好きな雪
『雪が降る植物園かー……ロマンチックだね!』
 と、屈託のない笑顔で不知火あけび(aa4519hero001)は声を上げた。
「冷たくない雪ってのも不思議だな」
 日暮仙寿(aa4519)は琥珀の様な瞳を細める。
「……ん。鳥も……いる……なら……ペンギンも、いる……かな……?」
 と、脳内に銀世界で歩くペンギンを想像する氷鏡 六花(aa4969)は、小さく首を傾げた。
『ペンギンは……さすがにいないんじゃないかしら……』
 アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)が苦笑しながら答える。
 確かにペンギンの部類は鳥なのだが、動物園や水族館ではなく植物園なので流石に居ない。
『オーパーツ見たかったなぁ……』
 あけびは項垂れていた。
 オーパーツの効果内容の関係で、植物園に設置されている欠片の本体は置いてない、と職員の説明を聞いてショックだった様だ。
 その隣で、六花もしょんぼりとしていた。
 雪が好きだからこそ余計に、なのだろう。
 あけびは立ち上がり、六花の手を取って駆け出した。 
「はしゃいで転ぶなよ?」
『転ばないよー! 身のこなしには自信があるから!』
 仙寿が駆け出したあけびに言うと、彼女は手を頭上でひらひらと振りながら広場へ。
 雪は見慣れている六花は、あけびと一緒に広場の雪で雪だるまを作り始めた。
 ふと、六花の視界に雪のツリーが入る。
 アルヴィナを手招き、幻想蝶に触れると共鳴姿になる。
 終焉之書絶零断章の紐を解くと、六花の背中に氷柱のような翼を生やし、手の先の空間に魔方陣が浮かぶ。
 絶対零度のライヴスが放たれ、六花のライヴスによって雪のツリーを氷華で飾る。
『二人には本当に雪が似合うね!』
「そうだな。生き生きとしてる」
 あけびと仙寿は感嘆の声を上げながら、六花とアルヴィナに視線を向けた。
「……ん、カフェ、あるから、行こ?」
 六花は仙寿の服の裾を引っ張り、カフェを指す。
「ああ、行こう」
 仙寿は六花の手を取り、カフェへと向かった。
 椅子に座ると、六花は店員に聞くのは苺を使ったデザートの有無だ。
「ありがとうな」
「……ん、どう、いたしまし、て」
 六花の気遣いに仙寿はお礼の言葉を言う。
『苺好きな事、まだ照れてるの?』
 あけびが面白そうに仙寿を見る。
「ばらしても照れるもんは照れるんだよ」
 苺フレーバーの紅茶、苺のミルフィーユを口にしながら仙寿は、あけびに向かって言った。
『ふふ、選んだデザートを交換する?』
 アルヴィナのデザートを見つめるあけびに問う。
『だって、どれも美味しそうなんだよ!』
 嬉々とした表情であけびは声を上げた。
「……ん、クリスマスの……料理、も……食べたい」
『頼んじゃおう~』
 六花の言葉を聞いてあけびは直ぐに店員を呼ぶ。

 食事も終え、カフェから売店へと移動した一行。
「アルヴィナの幻想蝶、だったか?」
 ふと、六花の髪飾りを見て仙寿は問う。
 六花はこくりと小さく頷く。
『今年の頭に契約したから、2人で過ごすのは初めてのクリスマスね』
 アルヴィナと六花は顔を見合わせると、にこっと微笑みあった。
(俺も前よりは強くなった)
 去年の秋にあけびと出会った仙寿は、当時の自分を思い出していた。
 劣等感であけびに強く当たってたが、今はこうして一緒に売店の品物を見ることが出来る。
 いつかちゃんと相棒になれるだろうか? と、思いながら鞄に入ってるレジンで作ったキーホルダーを思い出す。
 すると、六花の大きな瞳から涙か溢れていた。
「どうした?」
 仙寿が優しい声色で声を掛ける。
「……ん。ごめんね。大丈夫……ちょっと、思い出しちゃった、だけ……だから。今は……アルヴィナが、いて、くれるし……今日は……仙寿さんも、あけびさんも、一緒、だから……もう……寂しく、ない……の」
 六花は涙をハンカチで拭うと、笑顔で仙寿とあけびを見上げた。
『またどこかに遊びに行こうよ!』
 あけびが六花の手を握り締める。
「……日頃愚神と戦ってるんだ。たまには息抜きしたって良いだろ」
 仙寿は大きな手で六花の小さな頭を撫でる。
「……うん、また一緒に、お出掛け、したい………です」
 2人の温かい言葉に六花はこくりと頷いた。
 アルヴィナはそんな光景を優しい光を宿した瞳で見つめる。

 冬は、春に芽吹く祝福の為にある。
 クリスマスが終わり、新しい年がもう目の前だ。
 新しい年よ、次来る春よ、おいで……。
 どんな事が起ころうとも、私達には良きパートナーと友人が居るのだから。
 メリークリスマス。
 アナタに祝福を。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 蛇の王
    夜刀神 久遠aa0098hero002
    英雄|24才|女性|カオ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中
  • エージェント
    シキaa0890hero001
    英雄|7才|?|ジャ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 助けるための“手”を
    桐ケ谷 参瑚aa1516
    機械|18才|男性|防御
  • 支える為の“手”を
    巳勾aa1516hero001
    英雄|43才|男性|バト
  • 幽霊花の想いを託され
    花邑 咲aa2346
    人間|20才|女性|命中
  • 想いは世界を超えても
    サルヴァドール・ルナフィリアaa2346hero002
    英雄|13才|?|ソフィ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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