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リンカー冬の強化合宿
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冬季強化合宿である!
最終発言2017/12/12 05:33:15 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/12/12 01:15:27
オープニング
● これは実戦ではない、訓練である。
とある国際空港、東京の窓口となっている巨大なこの空港に三百人という大隊単位でのリンカーが集められていた。
移動は一日がかり、飛行機は貸切。この大移動を傍から見ている一般人は思うだろう。さぞや大事なミッションがこれから執り行われるのだと。
だが、実際にはそんなことはない。
リンカーたちの表情は先の大規模作戦の時のように引き締まってはいない。
皆穏やかで雑談に興じている。
それもそのはず、今からリンカーたちが向かうのは北の大地の温泉街。
そこで行われるのは、座学、実習含めたリンカーたちの技術研修。
つまり修学旅行であるためだ。
これから一日八時間×5日分のみっちりした研修と、美味しい食事と温泉が待っている。
何を目当てとしてこの修学旅行に参加したのかは各々に寄ってくるかと思うが、きっと楽しい五日間になるだろう。
参加できなかったリンカーたちの分も楽しんで、実力をあげてこようと皆が誓うのだった。
● 教育側
参加人数は百組から百五十組のリンカーたち。北のとある大地でその技術を伸ばすための強化合宿をしていただきます。
強化合宿の内容は多岐に渡り希望する訓練を希望者だけが受ける形になります。
なのでひょっとすると五日間遊んですごす人もいるかも?
今回参加するリンカーはみなさんたちだけではありません。むしろみなさんたちより実力の劣る新米たちの方が多くなるでしょう。
なので皆さんの中から教導員役も募集したいと思っています。
皆さんの培ってきた実践的技術を後輩に教えてあげてください。
求められる要素は三つ
1 実際の任務の経験を踏まえたアドバイス。
皆さんが実際に任務をこなす時、気を使っている点、実際に役立った記述、立ち回り、作戦などを教えてあげてください。
2 各クラスに推奨される立ち回り。
ソフィスビショップ、シャドウルーカーとしての役割、戦い方、装備構成。推奨されるスキル構成、運用など、クラスにクローズアップした内容を教えてあげてください。
3 作戦の立て方。
作戦には相談が必要不可欠です、なので作戦立案の段階から気を使っている部分。効果的な作戦の立て方など教えてあげてください。
この観点から皆さんの技術を後輩に伝えてあげてください。
もしかすると、誰かの技術がみなさんの役に立つ可能性もありますので。
● 実践側
北の広大な大地での実戦演習です。
ここでは戦闘訓練をしていただきます。
フィールドは四種類。
1 山、川
実際の山の中で戦います、木々が生い茂り見通しも悪く、足場も滑りやすいです。
2 広場
障害物がなにもない戦闘です、純粋な実力勝負に向きます。
3 雪原
ロシアでの教訓を生かした雪上戦闘を想定しています。
4 廃墟
朽ち果てたコンクリートの建物を利用した戦闘訓練を想定しています。五階建ての建物で立体的戦闘ができることでしょう。
ここで行っていただく予定の演習は二種類。
1 タイマン戦闘。
特定の相手との一対一の戦闘です。たまに力比べもいいのではないでしょうか。
2 新米教導
新米リンカーと皆さんでチーム戦です。相手取る新米リンカーの人数とクラスは皆さんが決められます。
皆さんがなにを伝えたいかによって人数を変えるといいでしょう。
● レクリエーションいろいろ
さらに今回は充実した遊興施設、食事が皆さんを癒します、普段の疲れを残さないこともリンカーの務めなのです。
大人数、あるいは個人でレクリエーションを体験してみてはいかがでしょうか。
・ 海鮮フルコース
カニ、いくら、うに、鍋。等々極上の食事が皆さんをもてなします。
お酒もありです。宴会芸などは皆さんで用意していただけるとみんな楽しめるのではないでしょうか。
・ ウィンタースポーツ
少し雪の厚みが足りないかもしれませんが、北の大地の雪は上質です。スノーボードやスキー、そり、雪合戦など、仕事の合間に遊んでみてはいかがですか?
さらに湖も凍り始めたのでスケートも楽しめます。ただし、あまり氷が厚くないので無理はしないでください、落ちるかもです。
・ 温泉
みんなで大きなお風呂はいかがですか? 源泉かけ流しですよ。
・ 室内でのんびり。
温泉施設は建物全体が貸切です、なので部屋割りはかなり融通が利きます。
大部屋で団体にてわいわい。小部屋で二人きりなど可能なのでお知らせください。
・ 花火
最終日はみんなで買って持ち寄った花火でもしようかと思います。
冬でも花火は綺麗なものですよ、ちょっと寒いかもしれませんが。
解説
目標 五日にわたる合宿を楽しむ
今回は皆さんに合宿をしていただきます。
内容が多岐に渡るので、プレイングは絞って書いていただいた方がよいでしょう。
今回は本格的に忙しくなってくる年末の前の、早めの忘年会という意味もありますのでぜひぜひご参加いただければと思います。
リプレイ
プロローグ
「これ全部H.O.P.E.のエージェントなのか。うわ、TVで見た事ある有名リンカーも!スッゲエ!」
『タギ( aa4848 )』は空港に集まるリンカーたちを目の当たりにしてそう声をあげた。
『シェイラ(aa4848hero001 )』はその人と盛り上がりを感じてくるくる回っている。
「お友だちつくるなの〜♪」
そう今日は待ちに待ったリンカー強化合宿の日。
リンカーとしての気を引き締め直し、技術を広めあい、少し羽を伸ばし、来年もまた頑張ろうと決意するための規格であるが。
もはや全員のノリが修学旅行である。
「修学旅行、ね……」
『アリス( aa1651 )』はそう口にだすと『Alice(aa1651hero001 )』が小首をかしげた。
「懐かしい?」
「どうかなAlice、あんまり記憶にないからね」
そうアリスはおぼろげな記憶を引き出しにかかる。
アリスは思った。
そういえば修学旅行は初等部の時に行ったきりだっけ。
中等部はそれどころではなかったし。高等部は…………そもそもそそんな年齢だったのかもあやふやである。
ただ、同じ様に周囲が楽しそうにしていた事は覚えている。
そんなアリスは先導されるままに飛行機に乗り込む。
その飛行機の大きさ。そして二台も使って移動するという豪華さから『神塚 まもり(aa5534)』がこんな一言を漏らした。
「合宿……いくら? いくらかかるの? これ」
『高森 なつき(aa5534hero001)』が客室乗務員からコンソメスープを受け取りながら答える。
「さぁ?」
まもりは本日なつきに引きずられるように連れてこられた。じっさいまもりの腕に縄の後があるところを見ると縛られていたのかもしれないが。
「飛行機で行く……だと……。こんな鉄の塊飛ぶわけねーだろぉっ。俺は行かないからなあぁぁ」
「オレ達は新米なのだから。こういうのに参加して鍛錬するのは必要だと思うのだよ~。と言う訳で離陸してしまえばもう降りれないよね~」
なつきがそう唱えると、シートベルトを着用してくださいとランプが点灯する。体にかかるG、旋回する機体。
「いやだ~!」
「楽しみだね~」
十人十色の想いを抱いて、飛行機は彼の地へと飛び立った。
● 広大なフィールドでの訓練
リンカーたちは到着するなり施設の説明をされた。基本自由行動だが、授業や講座に関しては時間指定があるとのこと。
「で、何すんデスニャ?」
「戦闘も我流、座学は駄目、人に教える要素が無い」
そんなカリキュラムには目もくれず『彩咲 姫乃( aa0941 ) 』は屋外グラウンドにいた。
『朱璃(aa0941hero002 )』が隣で体操服を披露している。やめてほしいと思う姫乃である。
「参加しておいてなんだがこういう学校行事みたいのはな」
何の為に学校とリンカーの顔を使い分けているのかと疑問を抱く姫乃。
「むしろりんかぁ稼業を内緒にして五日も休み取れたほうがびっくりデスニャ」
二人は適当に準備体操を澄ませるといきなり全速力で走り始めた。
「つうわけで秘密特訓だ」
まずは走りやすい、土で固められたグラウンド次が雪原。その次が廃墟ととりあえず全部回ってみるつもりだった。
ただ朱璃の首にカメラがぶら下がっているのが気になるが、それはきっと。
「肖像権に全力で喧嘩売ってますが、あたしららしい訓練だと思いますデスニャ」
やはりリンカーたちの写真を撮るつもりである。写真を撮りつつ各施設を回るというそんな試み。
「お前がスタミナ付けろってうるさいしな」
「ご主人は最高速を維持したまま駆ける事が出来るようになれば速さの次元を一つ突破できる可能性があるんデスニャ」
そんな姫乃たちを外周に眺めながら他のリンカーたちも続々と訓練を始める。
たとえば『ニウェウス・アーラ( aa1428 )』と『ストゥルトゥス(aa1428hero001 )』。
「私達は、どうする?」
「力比べはパスかな。それよりも、新米の指導をしておきたい」
「ん。ラグナロクとの、大きな戦い…………あるかもだし、ね」
「新米がそれに出るかは分からんけども。やれるだけの事はやっておこう。うん」
そう新人たちを引き連れて最初に向かったのは山である。
山で潜みながらとあるグループの動向を観察する。
「まず、偵察によって得た情報は迅速に伝達して共有し、戦況を把握する事」
ストゥルトゥスが息をひそめて告げた。
「情報を制する者は戦場を制するって言うしねぇ?」
「情報で、負けたら…………いいように、やられるだけ」
「次に、連携を重視する事。孤立は厳禁。互いに支援しあえる距離を保つ事」
具体的な孤立状態の説明、森の中ではお互いの位置が簡単に分からなくなるため気を張らないといけないと告げた。
「常に多対一による各個撃破を行うべし」
「実力の差は…………数で、補う。うん、大事な事」
「実力が付いても大事だけどねー。いやマジで」
最後に、そうニウェウスが息を吸って告げる。
「深追いはするな。危ないと思ったら、すぐに後退しろ…………」
「まずは生き残るべし。その為にも、危険な行為は控える事」
「深追いは…………孤立に、繋がる。ダメ、絶対」
「新米だろうと大事な戦力。減っていいもんじゃ無いからネ?」
次に廃墟にいる新人たちに声をかけて同じ内容を教えようと、二人はフィールドを変えた。
ちなみに観察していたのは『イリス・レイバルド( aa0124 )』のグループである。彼女らも場所を雪原に移して本格的指導に入って行った。
雪原ではすでに『アイリス(aa0124hero001 )』が待機していた。
そんなアイリスとイリスがそろったことで新米たちがざわざわしだす。
それに首をかしげたイリスは直ちに共鳴。共鳴するとその盾を振りかざす。粉雪が周囲に吹き飛び、非常に寒い光景が繰り広げられた。
「盾役の人を何人か以外はおまかせしたよね」
「そうだね」
頷くアイリス。
「クラスに関係なく盾を使いたい人のためにって」
「そうだね」
またも頷くアイリス。
「ボクたちも経験積みたいから雪原にしたりね」
「そうだね」
「雰囲気が……ゆるいよ……」
「イリスはトップアイドルだからねぇ」
ざわざわはすぐにまた復活してしまった。諦めて指導に入るしかないのだろう。
――いいかい、君たち、そんなことではすぐに死ぬよ。
「常在戦場!」
アイリスが声を張り上げると、イリスも盾を振り上げた。
――悪環境に慣れろ、痛みや恐怖に慣れろ、最終的には体力と技術と気合と根性と機転さ。仲間を生きて帰したければ自分が生きて帰る実力を身に付けろ。
そのまま盾を地面に叩きつけると、雪崩のように周囲に雪が吹き飛んだ。
そのまま新米たちに襲い掛かるイリス。
「ゆるさが一転、地獄絵図だよ」
――イリスを構いたいだけだった勢には厳しかったようだね。
特訓が甘いわけがない。
途中で泣きだしてしまったイリスファンには優しく、友人の座学を案内してあげたイリスだったが。
他のメンバーには身も心も冷たくなれるほどのスパルタ教育を施すのであった。
● 座学も大切。
さむーい、外の実戦訓練から逃れたインテリジェンシーがいる。それが『橘 由香里( aa1855 )』。
温かい紅茶を飲みながら雪原方面の阿鼻叫喚を眺めている『飯綱比売命(aa1855hero001 )』が体をのばしあくびを一つ。
「実戦訓練の方は盛り上がってるわね……。まあ座学は人気ないのわかるけれど」
「地味じゃからな。ひたすら地味じゃからな!」
その時、橘さんじかんです~とH.O.P.E.職員が呼びに来た。講義室があいたのだ。その講義室に続く廊下でスーツをただし。メガネをかけて、髪をアップに整える由香里。
最後に手持ちの鏡で自分を確認して、そして教室の扉を開いた。
静寂と視線が由香里に突き刺さる。
けれど、あまりあわてることはなかった。連日のお仕事でだいぶ肝も据わったようである。
「さて、戦闘に関するコツは非常にシンプルです。敵の弱点を突き、味方の長所を生かす。これにつきます」
ゆったりと話し始める由香里。
その声は凛っと講堂に響く。
「後は数。敵の弱点に、有効な味方の攻撃を、複数で叩き込めば普通に勝てます。
基本だからといって軽視しない。自分の得意分野でゴリ押ししたり、弱点を突く事に拘って無理をして失敗するケースはよくありますから」
自分もかつてしてしまったミスだ。体験談を交えながら由香里は語る。
「ぶっちゃけた話、敵の装甲を抜けるダメージを出せるなら銃でも剣でも構わないですし、結界を破れる術があるなら、それが魔法でもアイテムでも構わないのです」
それは自分の個性を引き立てる為のエフェクトに過ぎないと告げると、少し会場がざわめいた。
「後は……そうですね。今言ったような状況にない時はどうするか。これもシンプル。相手の長所を殺して味方の有利な体制に持っていく。早い相手なら足を潰す。瓦礫の下敷きにしたり、小回りの効かない袋小路に追い詰めるなど……」
そう具体的な戦略の話しになれば背後のホワイトボードに文字を書きながら教え始める。
長々と考察、戦術、メリット、デメリットなど話していると、生徒席に湯割っていた飯綱比売命が
「飽きたわ!」
と叫ぶ。直後チャイムが鳴った。
「そうよね、さぁ勉強が終わったら休みましょう。のんびり温泉にでも」
そう機材を片付けて由香里は教室を後にする。
熱心な生徒はそれを待っていて、由香里の話を聞きたがったが、ふと由香里は別の教室に興味を持って足を止めた。
そこは円状に机が並べられており、複数のリンカーで戦術を談義する場所であるようだ。
そんな教室に引きずり込まれていく『鐘田 将太郎( aa5148 )』。
「リンカーの技術研修ねえ……。こういうのがあってもいいんじゃね?ってカンジ。俺も新人レベルみたいなモンなんで、参加しようかね」
最初はそう言っていた将太郎。しかし『嬢(aa5148hero001 )』が告げた一言で彼の表情は一変する。
「何を言ってるの? 教師側で登録しちゃったけど?」
「……な、新人の指導? 俺も新人レベルだぞ!」
「兄貴の本業どおりにやればいいんじゃない?」
「カウンセリングと指導は別モンだ」
最終的に頼まれたからにはやらねば、と渋々引き受けた将太郎。
席に着いたリンカーたちの言葉を、それを囲った新米たちがじっと待っている。
「どれっどのぉとは力は十分。しかし、守りや身のこなしには不安を抱える。特に魔法はな」
『御剣 華鈴( aa5018 )』が告げると『フェニヤ(aa5018hero001 )』は足を組み直したフェニヤは何も語るつもりはないようだった。
「仲間に補って貰えるならば、それが最も良いが……それが期待できない状況で戦わねばならぬこともある」
華鈴の言葉が重く響く。
「単騎で一撃必殺を試みられる状況であれば、力と精度と瞬発力を研ぎ澄ませよ。不可ならば、守りも怠るなかれ、障害物や地の利を活かすもまた肝要なり」
そんな言葉を受けて新米のひとりが手を挙げた。質問内容は「そもそも依頼で何をやったらいいかわかりません」だった。
それに対しては将太郎が答える。
「任務は、自分はこれができそうだ、というものをすることを勧める。
実戦経験ゼロでも、ベテランリンカーがサポートしてくれることもある。
が!」
そこで言葉尻強く、一拍おく将太郎。
「最終的には自力で判断し、どう行動すべきか考えることだ。
いつでも仲間が手助けしてくれるワケじゃねぇからな。
自分の得意分野の任務につくのもいいぞ。戦闘だけでなく、イベントの手伝いやボランティアもある。
じっくり考えて行動することだ。俺からは以上!」
「イベントという事であれば、リンカーのほかに別の肩書。アイドル、であったり、それこそ鐘田様のようにカウンセラーなどあれば立ち回り安いですよ」
『クラリス・ミカ(aa0010hero001 )』は体験談交じりに告げた。
「少し堀深めて任務の立ち回りについてお話ししましょう。それは作戦の立て方というお話になってきますが」
クラリス曰く、戦いは始まる前に八割決まっているそうな。
「戦いに至るまで、何ができるか? を突き詰めてください」
クラリスはいくつか具体例を挙げる。
『例えば防犯カメラを使った敵の情報収集』『警察や自衛隊、自治体への協力要請』『仲間の通信手段の確保。備品のH.O.P.E.への申請』
「使えるものが多ければ立ち回りの幅広さに繋がります」
実際クラリスは今回授業をするにあたってH.O.P.E.にかけあって、自身がかつて参加した任務の内容と自分たちの立ち回り、その立ち回りがどの様に戦況に影響したかの資料を作成してきていた。
「こちら、欲しい方にはお配りします」
ざわめく会場。資料が欲しいと手をあげる者もいる。
そんな様子を見ながらアリスとAliceはあっけにとられていた。
「……私達が教えられる事なんて特に無いんだけどね、アリス」
「本当にねアリス」
というのも彼女達は正しく『獅子の子落とし』であったためである。
ただ、何も話さないわけにはいかないのでアリスはこの会の締めをまかされた。
「それでも、結局は自分が何を望むかだから。
ソフィスにも攻撃手や盾役など様々いるし。
色んな人に教わって、自分の望む姿と合わせて進めばいい」
ただ、やはり座学は性に合わないようで。
「望むなら手合わせするけど、どうする?」
実践あるのみな、言葉でそう締めくくった。
● もっと専門的に
講義室から自室に帰る途中、せっかくなのでクラリスは相棒の『蔵李・澄香( aa0010 ) 』があてがわれた教室に寄ってみた。
彼女はリンカーの基本、というよりはその活動に+αできる方法を教えている。
そう、彼女の専門である、リンカーアイドルになるためには……という授業である。
見れば『卸 蘿蔔( aa0405 )』が大きな絵を掲げており『レオンハルト(aa0405hero001 )』は蘿蔔の中だろう。いや……。
「あれはレオですわね」
「今日は集まってくれてありがとう」
そう微笑みかける笑顔は少女として可憐、あまりに完璧。
(抜け目ないっちゃ)
蘿蔔は窓ガラスに移った自分の姿を見てそう思った。まぁ、今は動かしているのがレオンハルトなため自分の体というと違和感があるのだが。
「まず基本から、普段のボイストレーニング」
腹式呼吸や発声練習等、基礎を主にしつつ、音程の改善など一人一人に施していく。
先ずは歌を謳うため、アイドルとして基本的な技術の講習だ。
とはいえ優先は歌う楽しさを伝えることである、上手に歌える喜び等を知ってもらうための授業である。
レオンハルトのやり方は丁寧だった。よいところを認識させてあげるために褒め。悪いところは直し方を含めて教える。
――…………レオ、なんか優しいね? 私の時普通に怖かったです…………一音外しただけでやり直しとか。
そう誰にも聞こえない声で蘿蔔はレオンハルトに告げる。
「いやぁ、だってあの子たちと違って明智はやる気なかったし」
――誰が明智じゃ。
明智はがーでぃあんずの裏切者だからと付いたあだ名である。
そんな明智さんが定位置に戻ると澄香が今度はアイドルリンカーとは何かという題材でお話を始めた。
「アイドルってね。実は依頼で役に立つんだ」
生徒は女性の割合が多かった。特に中学生くらいの年代の女性。
中にはいかつい男も混ざっていたが、そこには触れないで置いてあげよう。
「街中で突発的な戦闘が始まった時。劣勢の味方の救援に行った時、敵が印象操作を行っている時、色々状況はある」
そう澄香が蘿蔔の掲げているパネルをめくる。
「知名度があるということは、良くも悪くも声を聴いて貰いやすいということ……」
それはかつて、水の都で起こってしまった事件を題材にしたよんコマ漫画が描かれていた。
「パニックの防止、鼓舞による士気崩壊の阻止、印象操作にはメディアで真正面からノーを突きつけたね」
他には偽りの聖女の依頼。ディスペアとの戦い。情報収集からしてアイドルという立場を利用したという実体験を織り交ぜ奈ながら話を進めていく。
「じゃあ、アイドルを名乗るためにまずどうするべきか、実績を作ろう。ここにいい題材がある」
そう配ったのはルネの楽譜。
「これは公式に改変が許可されている楽譜なんだ。実際派生作品が沢山ある」
そのストーリーを語って聞かせる澄香、自分のルーツの一つであると告げる彼女の声に皆耳を傾けている。
そんな様子を見て、面白い授業だとクラリスは思った。
最近澄香はクラリスと別行動することが増えてきたが、それは自分に何ができるのか確かめているのかもしれない、そう思うクラリスである。
そんなクラリスだったが隣の教室から剣呑とした声を聴いてそちらを振り向いた。
見ればフェニヤがリーヴスラシルを見て指をさして何事かを告げている。
「貴様とは何度か会っているが……初めて会った時、既視感を感じた」
そう拳を握りしめ遠い視線を窓に向けるフェニヤ。
「……我は前世の過去などどうでもいいがな。魂の疼きの理由が分からぬのは」
「あの、すみません、皆さんの迷惑になるので座っていただけますか?」
『月鏡 由利菜( aa0873 )』がびしっと告げるとフェニアはしぶしぶ後ろの席に着いた。
『リーヴスラシル(aa0873hero001 )』はその由利菜の態度に何かを感じたのか頷いている。
というわけでこちらの教室ではブレイブナイトについての座学である。
「ブレイブナイトの強みは攻防共に優れた安定性と、一対一での。反面、気絶以外の絡め手に乏しく、範囲攻撃への対処に難があります」
「範囲攻撃に対しては、単騎で突出して仲間を下げ、守るべき誓いを立てる方法がある。集中攻撃にも耐えられるよう、守りや回避の準備は忘れずにな」
リーヴスラシルはなれた手つきでホワイトボードに文字を並べていく。
実際教師だ。教えるのは誰よりもなれていると言える。
「現在ブレイブナイトは防御寄りのクラスとして確立していますが、私は攻撃適性でして……」
「コンビネーションや一閃は習得が遅いが、攻撃力と精度を上げれば切り札になりうる」
スキル分析、それからの立ち回り、装備構成。
彼女の得た知識と技術は膨大だ。その一割でも身に着けることができたなら、飛躍的に生存率を伸ばせるだろう。
「また。今日は第二英雄のお話もしておきたいと思います」
由利菜が告げる。
「まずは第一英雄との絆を深めよ。それからでも遅くはない」
「ここにはいないのですが……私の第二従者はメディックです」
すかさず生徒の中から声が上がった。
「……どんな子か、ですか? 元気で明るい友達、と言えば伝わるでしょうか」
直後チャイムが鳴った。
本日の授業は終盤に近付いていたが、この教室で鳥を飾るのは『GーYA( aa2289 )』である。
由利菜は擦れ違うG-YAや『まほらま(aa2289hero001 )』と授業の所感を話してすぐに別れた。
G-YAが司るのもまた、英雄クラス。ドレッドノートについての授業。
「クラス特性熟知すれば、愚神戦闘がかなり楽になる」
特に、ドレッドノートが苦手とする、回避主体の愚神についての授業だ。
「スキルのせた攻撃も全て紙一重で避けられて当たらない」
G-YAはたとえにネビロスをあげた。
「通ったのはネビロスの操糸の浅い攻撃だけとして……。そこからの戦いの展開は……」
「ドレ適正武器以外も強化して使えるようにかしらぁ」
まほらまが問いかける。
「う〜ん……それは」
G-YAがそれに答えるというクエスチョン式で授業が進む。
「従魔を一体倒せても脇腹に槍を食らってちゃ長期戦は不利よねぇ」
スキルを繋げる具体的な方法などに話はうつり、今日の授業はおしまいとなる。
基本的には朝の九時から十七時までの合宿となり、それ以降は自由時間である。
施設内が一気に騒がしくなった。
● 一日目しゅ~りょ~
だが、時間内ではうまく伝えられないこともアル。
そのため『餅 望月( aa0843 )』と『百薬(aa0843hero001 )』は特別に時間をもらって厨房にて授業を行ってる。
「戦い方、というか大事なのは心構えだね。H.O.P.E.エージェントとして希望と勇気を忘れないこと」
望月が告げると、包丁を研ぎ終えた百薬が振り返って告げる。
「そして愛と食材への感謝だよ」
「そう、感謝、って、あれ?」
「近年は従魔取りついた生き物でも食材として活用できることが発覚して、空前のグルメ時代が幕を開けたの」
「いや、待って、でも確かに間違ってはいないんだけど」
しばし百薬の独壇場である。実際目の前にあるのは厳選された従魔食材、百薬のお気に入りもいくつか見える。
「ライヴスを吸って濃厚になった……気がする従魔は芳醇な珍味として名高いものもあってね、回収依頼もあるのよ」
周りが引いている反応を見て望月の声が一段階小さくなる。
「そして新鮮な一番美味しい状態でいただけくこともできるのよ」
そう醤油と刺身だけ入れた小皿を全員に差し出した。
それを食べるとリンカーたちの顔が輝きを帯びる。
まぁ、それが具体的にどんな従魔か知っている望月は知らぬが仏とだんまりを決め込むわけだが。
「というわけで、ここにあるなにかの肉で早速実践してみようか。」
「なにかはなにかだよ」
あくまでもそこは隠し通すつもりの二人。従魔クッキング講習が幕を開ける。
「実際は熊とかが従魔にとりつかれて捨てるわけにも、ということになった結果だけど」
望月が人知れず苦笑いを浮かべた。
「食材を傷つけないように倒し、鮮度を保って血抜き、皮剥ぎ、そして一番美味しくなる形で火を通す」
「何より感謝を忘れないのよ」
そして出来上がった料理は合宿参加者に振る舞われる、きっと彼らは普通の食材だと思っているだろうが、もーまんたいである。
「いっぱい、美味しく、頂きます…………ッ」
「マスター。目がめっちゃ輝いてるヨ?」
さっそくそれにニウェウスとストゥルトゥスが手を付けた。
カニやらブリやらと一緒にお腹に収まっていく。
「カニ、いくら、うに、鍋。酒もあるじゃねぇか!」
将太郎が喜びの声を上げる。
「食いすぎ、飲みすぎには注意しろよ兄貴。カニ美味しい~♪」
嬢は器用にするりとカニを向いて極太なその身に口をつける。
まもりもなつきもそれに習っている。
「ここが楽園か……」
まもりが告げると、なつきが得意げに言った。
「ほら~来てよかったでしょ~」
「でもまだ余り食欲ないんだよなー……くそう」
「オレが来るまで食生活ひどかったみたいだし。栄養いっぱいとって帰ろうね~」
「……あっ湯豆腐美味しい」
そのとなりで店員にアルコールを注文する。
「ってさっきから飲みすぎじゃないか……?」
「はははやだなあこれ位で酔うわけないだろう?」
「酔うのは他人がいない時だけにしてくれよ」
* *
だがこの合宿の目玉は食事だけではない。
泉質もまた、よいのである。
続々と風呂場へ入場していくリンカーたち。
そんな中、団体となっていた澄香やイリスにタギが声をかけた。
「悪い、コイツも一緒に連れてってもらえないか」
そうシェイラを預けると澄香は快く頷いた。
タギは一人温泉に浸かって空を見上げる。
「イッテェ……でもなんか、スッキリした」
露天風呂にはまもりとなつきもいた。
「実に有意義な実戦演習であったね~」
「はじめは……座学がよかったなあ……」
「いつもの銭湯も良いけど温泉はまた格別だね~」
「温泉が沁みるぜ……」
「君はもう少し体力つけないとねぇ」
「これでも中高は陸上部だったんだけどな……」
「最近塩と水で生きすぎたかな……」
「帰ってからもトレーニングやろうか~」
「トレーニングはいいけど女装に影響ない範囲で……」
その時仕切りの向こうから黄色い歓声が上がった。
隣の女子風呂は意外と騒がしく気になりはしたが、ゆっくりできるせっかくの機械なので黙っていることにした。
「すごい人ねアリス」
「時間をずらせばよかったかな、アリス」
そう寒いのは嫌いだからと真っ先に温泉に向かったアリスたち。彼女は大量の女子たちの間にすっぽりと収まっていた。
そんな中、疲れた表情をみせながら姫乃が朱璃に体を洗われている。
「ご主人その熱い目線は何デス?」
「そりゃーなー」
「まーあたしくらいしか目のやり場が無い事は知ってますデスが」
「わかってんじゃねぇか」
告げると朱璃は髪の毛をかき上げて姫乃を手招きした。
「ご主人、髪洗ってほしいデスニャ」
自分だと猫耳にお湯が入るから……らしい。
「普通におねだりしてる分には可愛げもあんだがな」
「嬉しい事言ってくれるニャ……押し倒していいデス?」
「ふざけろエロ猫」
そんな朱璃の前をリーヴスラシルと由利菜が通過する。
「誓約術の記憶一部開放ができるようになってから……ラシルの肌は、今まで以上に艶が増した気がします」
「……私の維持に必要なユリナのライヴスも増していると感じる」
「眼福眼福ニャ~♪」
朱璃は告げた。
「同性の裸見て楽しいのか?」
「それを言うならご主人もでしょう」
「いや、俺は特殊……」
「そういう事にしときましょうか」
ちなみに、この温泉鉄分が豊富で少し赤っぽい色をしているのが特徴だったが今は金色である。
頭を洗ってもらってイリスが戻ろうとすると、月の光を眩く反射する黄金温泉が出来上がっていた。
「また黄金温泉になってる」
「多少記憶が戻って分かったのだがね」
アイリスは告げる。
それは黄金の祝福が溶け出した状態らしい。
「パワーこそ足りていないが不老不死すら可能にした紛れも無く本物だよ?」
「ああ、美容や健康に良いと言っていたのもその影響?」
イリスが首をかしげる。
「黄金(完全)へと至る力が(パワー不足だけど)本物だからさ。例えば。黄金の体形へと至る(=ダイエット)、黄金の胸囲とかでバストアップも夢じゃない」
その言葉に血相を変えて飛び込むリンカーたちがちらほら見えた。
「世にあるアンチエイジングを過去のものにできるね」
「そなんだー」
イリスにはピンとこない話であった。
「まぁ、パワー不足なので常飲でもしなければ世間への影響は薄いとは思うがね」
そんな騒がしい女子風呂とは離れた場所に、家族風呂というものがある。
主に恋人用ではあるが、G-YAはそこにいた。
本当は恥ずかしいので嫌だったのだが、まほらまがぐいぐい袖を引っ張るので着ざるおえなかったのだ。
「着替え終わった?」
水着に着替えた二人、そんなまほらまにG-YAは恐る恐るつげる。
「病人だった頃より身長も伸びたし体重も増えてる、どうよ俺の体」
「筋肉はついてきたみたいだけど、まだまだかしらぁ?」
「ちょっとは持ち上げてくれたってさぁ」
そんな雑談に花を咲かせながら二人は露天風呂へ。
星を見あげながらだと普段できない話がぽろぽろとできた。
「生きていてよかった? 戦いを強要するこの『世界』に」
「……夢の壊れる音だけの世界より今が楽しいよ」
「まほらまが隣に居てくれるから辛い事も耐えられるんだ」
「ありがとう」
その言葉を噛みしめるようにまほらまははにかんだ。
● タイマン勝負
次の日。
ああ、前日は穏やかな方だったんだなぁと思えるほどのカリキュラムが組まれているこの日。
メインはトップリンカーのタイマン戦闘である。
リンカーに置いて連携戦がほとんどであるが。仲間の立ち回りをしり、自分と同じクラスの立ち回りを知ることは有意義である。
それ故に、注目されているリンカーが何名かいる。
その筆頭が『木霊・C・リュカ( aa0068 )』と『紫 征四郎( aa0076 )』だろう。
ちなみにその戦いは飛行機に乗る前から始まっていた。
『凛道(aa0068hero002 )』がお守りにといつも持ち歩いている某アイドルのブロマイド。それが『ユエリャン・李(aa0076hero002 )』にとられてしまったのだ。
「君のことだ。どうせ本気で来ないであろうから今回は人質を取らせて貰う」
告げたユエリャンを機内で襲うこともできず。護れなかったふがいなさでまつ毛を湿らせる凛道。
「適当に負けるようなら破棄するからな首を斬りに来い、凛道」
「ARUたんのブロマイド」
「な、泣く程……」
リュカはあきれ果てていたが、腕試しには積極的なので、まぁいいかといった調子。
二人とも廃墟の一階で見合うと雰囲気を一変させて刃を構える。
「申し訳ありません、凛道。お詫びに戦いに巻けたならユエが年末のライブお供します」
――それは、我々の体力がもたないのではと、思うのだが。
直後、戦闘開始のゴングが鳴る。
「彼の人は罪人なりや?」
――否、罪人ならず。
先ず斬りかかったのはリュカである。
ユエリャンと共鳴した征四郎はルーカーだ。つまり障害物の多い廃墟ステージはあちらに限りなく有利。
潜伏・柱や壁、天井を利用した機動力・回避力を警戒。
姿を消されて奇襲をかけられることが何より恐ろしい。
そのため開始と同時に、周囲の壁そして天井を巻き込み武装を召喚し吹き飛ばし、部屋を脱出。
屋上での戦闘を目指す。
屋上でならば機動戦と奇襲戦の可能性が減るだろう。
――なるほど、そうきたであるか。
そう小気味よさ気に喉をならしたユエリャン。征四郎は煙を払って敵を追跡する。
傘銃に装備を換装、足跡を頼りに打ち抜かんと弾丸をばらまく。
自身はその機動力を生かして、階段ではなく建物内の穴や通路をショートカット、敵に迫る。
「実戦訓練なんていつ振りでしょうね、リュカ!」
征四郎は壁を切り裂いて屋外へ、そのまま側面を走って上階の窓まで駆け上がる、フロアを突っ切ろうとしていたリュカと視線が合う。
征四郎のカチューシャのロックが外れ。そのフロア全体を爆炎が包んだ。
征四郎は傘を開いて衝撃を吸収。そのまま一階下のフロアに着地するとユエリャンに問いかけた。
「でもユエ、どうして」
このような戦いを……。そう言う意味での疑問点だった。
「あれは刃だ。そして友だ。故に我輩は見極めねばならぬ」
そのまま征四郎は壁に取りつき走りながら銃弾で敵を牽制する。
屋上への階段を粉砕して登れないように、その前に立ちはだかった。
驚きに足を止めるリュカ。
狭い室内ではシックルも振るえない、であれば。
そう黒猫を走らせるリュカ。
直後爆炎が征四郎を包む。
リュカは一階下のフロアに後退すると、さらに黒猫を放った。
だが何度も同じ手は受けない。そう剣に装備を変更した征四郎が爆炎を切り裂き突進してくる。
刃をシックルで受けるリュカ。
征四郎はその反動を利用すると天井に足をつく、お互いの視線が重なった時、ユエリャンが高らかに告げる。
――君が我輩の友であると言うなら。此処で、君は死なぬと誓うのだ!
――いいえ、誓えません。僕は貴方に嘘をつきたくない。
ユエリャンの苦い、苦い思いが征四郎に伝わって。征四郎は今にも泣き出しそうな、いや、忌々しげな。どっちつかずの表情を見せる。
――君は何もわかっていない。
ユエリャンは胸の内で叫ぶ。
君は大事になり過ぎた。だから、だから!
その声に対して彼は凛と言葉を返す。
――けれど、最大限努力はすると誓います。朽ちて錆びぬ様、間違えて使われぬ様。貴方が納得できる壊れ方をすると誓います。
――それで、吾輩が納得すると思うな!
――もちろん!
剣激は遠く。フロアを埋め尽くすひかりは刃のつばぜり合いにて起こる火花。
それは永久に続く剣舞。ああこれほどまでに幸せな時があろうか。
そう四人は無意識の上に微笑んでいた。
* *
その隣のビルでも第二試合目が開催されようとしている。
演目は『赤城 龍哉( aa0090 )』VS『麻生 遊夜( aa0452 )』。
お互いにそのクラスを代表するリンカーと言えるカードなだけに注目度も高かった。
「強化合宿か。腕が鳴るぜ」
――以前は実戦訓練でしたが、今回は勉強会に近い印象ですわね。
視線の多さに物怖じせず『ヴァルトラウテ(aa0090hero001 )』はそう答える。
「最近気が緩んでたし丁度いいか」
「……やーん、お肉ぅ……」
そう耳をしんなりさせる『ユフォアリーヤ(aa0452hero001 )』。
「お肉は頑張った後のご褒美です」
「……頑張る!」
遊夜の言葉に背筋をパリッとさせるユフォアリーヤである。
「改めて宜しく頼む、良い刺激になりそうだ」
そして遊夜は最初の握手を龍哉とかわす。
「……ん、よろしく……ね?」
先ずはスタート位置決めである。
初期位置は1階か5階。それはカードで決められる。遊夜がめくったのは一階。龍哉は五階からのスタートとなった。
スタート位置についたなら係員が開始のゴングを鳴らす。
それから三十秒。お互いは一切動かなかった。
施設内に設置されたカメラ。そして遊夜と龍哉がつけているカメラは、新人たちが集まる行動のモニターと接続されているが、そちらにも何の動きもなかった。
そして先に動いたのは遊夜。まさに狼のようにスルスルと上層へとフロアを上っていく。
龍哉は上に上がってくる際に見た地形を頭で思い描きながら敵が進んでくる経路を予測。
手鏡で曲がり角を覗きながら進む。
「俺の知る限り射撃を当てる事に掛けては他の追随を許さない相手だ」
――見つかってしまった時点で、接近などさせてくれそうにありませんわね。
ヴァルトラウテは告げる。
対して遊夜は。
「気を抜いたら命とりだな、無様を晒すわけにもいかん」
「……ん、全力で行く」
むしろ一撃でも受ければアウトだ。龍哉はそう言う人物である。
結局お互いの得意とするカードが強すぎるためいかに初動で優位をとるかのゲームになる。
だが最初に敵を発見したのは遊夜。
幸いなのは同時に龍哉も発見されたことに気が付けたこと。
反射的に龍哉は小石を投げつけると、また反射的に龍哉はその小石を打ち抜いた。
「ち!」
上層のぼる足音を頼りに追う遊夜。
その遊夜が耳をそばだたせ、壁越しに弾丸を放つと、その壁がバラバラに打ち砕かれて龍哉が飛び出してきた。
刃を構え直して渾身の一撃を叩きこもうとするが、遊夜は階段を転がるように落ちてそれを回避。
反撃の銃弾をばらまくも龍哉は。
「おら!」
廃墟の壁や天井を切り裂いて落下させることでその弾丸を遮った。
「これがトップクラスの対戦……凄い」
その映像を見ていたG-YAがため息をつく。
次いで龍哉が下階に降り立つとそのフロアに遊夜の姿はなく、代わりに風を切るような音を聞く。
スコープの反射光が龍哉の目に入った、次の瞬間弾丸がこれでもかと叩き込まれる。
遊夜はアンカー砲を利用して施設外に脱出。そのまま弾丸をみまったのだ。雑技団のような腕前である。
体中に弾丸を浴びる龍哉だが、一刀のもと外壁を粉砕。結果遊夜が撃ち込んでいたアンカーが外れ落下する。
これも決め手には至らなかった。
――……一筋縄じゃ、行かない。
ユフォアリーヤが口をとがらせる。
「良いな、やはりこうでなくては!」
しかしだ、遠距離攻撃ができるのは何も遊夜だけではない。
落下していく遊夜を血まみれで見送る龍哉、だがその体の主導権を持っているのはヴァルトラウテ。
「一撃必中とは参りませんが」
ヴァルトラウテは矢をつがえる。
「かすっただけでも、骨が砕けますわ」
その言葉の通り、放たれた矢はあまりの速度と威力に周囲の空気を巻き込んでドリルのように遊夜へと直進する。
まずい、そう次のアンカー砲を撃ちこんで体制を変えても本当にかすっただけで衣服がズタボロにされ、肌がヤスリにかけられたように血まみれに。
そのまま遊夜は地面に叩きつけられると、着弾した矢によって飛び散った瓦礫が、遊夜の体にバシバシとあたる。
「つか、本気でかわせねぇな。さすがと言うか何と言うか」
腕に開いた穴を一別して龍哉は階段を下りていく。
――開けた場所ならいい鴨ですわね。
ヴァルトラウテのその言葉を、遊夜は聞いていた。
それはどうかな?
そう、装備を接近戦用に変更する、第二ラウンドはここからである。
結果、二人ともぼろぼろのままに戦闘は終了した。
どちらも今日から明日にかけては療養が申し付けられてしまう。
「……良い勝負だったな」
「……ん、勉強になった」
満足げに笑う麻生夫妻と。そして龍哉、ヴァルトラウテは少し早い宴会に興じるために施設へと戻った。
● そのころ実習組は
「新人教育ですか……久々な気がしますね」
『不破 雫(aa0127hero002 )』はそう『御神 恭也( aa0127 )』に言葉をかけた。目の前に集められたのは8組の新人リンカーたち。
「雫に任せたら不味い気がするんだが」
そういぶかしみながらも恭也は雫のお供をすることにする。
今回のないようとしては 恭也達が愚神役となり、山中に痕跡を残しているので新人達が捜索して討伐を行うというもの。
「確かに良くある依頼内容だが……食料の持ち込みを禁止する必要はあったのか?」
「最悪のケースを考えた方が良いかと思って、遭難中に敵との遭遇を想定してみました」
訓練内容としては、リンカーに愚神を追跡しているという想定で恭也を追わせ、恭也は追跡してくる新人リンカー達に散発的な攻撃を仕掛けたり、ワイヤートラップを仕掛けたりして相手を翻弄させて戦力を削いでいく。
終盤になったら新人を一人捕まえて拘束、周囲に罠を大量に仕掛けて放置して身を隠す。
「さて、どうします。見捨てれば連携は取れなくなりますが、助けに行けば被害が大きくなりますよ」
「……意地の悪い真似をする」
訓練終了後、雫は新人達の行動評価を厳しめに行いダメ出しを行った。
「まぁ、なんだ。俺も何度か依頼に出たが今回の様な事が起きた事は無い」
「雫の言を余り深く受け止めなくて良いぞ」
そんな恭也たちとは別に蘿蔔も教導として外に出ていた。
演目は戦闘中のパフォーマンスについて。
広告塔として人々とリンカーとを繋ぐこともある。戦闘能力はあるに越したことはないのだ。
ジャックポットを中心に銃や弓の練習、指導を行う。主にレオンハルトが。
「敵の動きをよく見てください」
一応蘿蔔も女の子について、敵の射方を教える、動きの先読みの仕方など。
そんな一同を眺めているのはタギである。
タギは、院長が老齢の為孤児院の手伝いをしつつ出来る仕事として戦闘依頼は受けない約束を院長と約束を交わしている。
そんな境遇ゆえに売られた喧嘩は買う主義だ。
リンカーになり普通の喧嘩ができず挑発に耐える事が多かったためにストレスが蓄積、力を使って暴れたいという危ない衝動が湧きつつある。
そんなタギは、自分を抑えエージェントとしての心構えをしっかり学ぼうと参加したのだが、相棒のシェイラはそんなタギのことなどなんのそのである。
「シェイラなの! ヨロシクなの〜♪」
友達を作って回るタギ。
「タギがケガしちゃうのはイヤだけどココロがバクハツしちゃうのはダメ、なの」
そんなタギとシェイらが行き着いたのは、とある戦闘実演である。
それは『弥刀 一二三( aa1048 )』と『真壁 久朗( aa0032 )』の実践演習である。
「今回はよろしくな」
真壁が告げると
「お久しぶりです! 一二三さん、キリルさん!」
『セラフィナ(aa0032hero001 )』が会釈する。
「絶対勝つ」
その一二三の言葉に頷く『キリル ブラックモア(aa1048hero001 )』。
――今回はどうします?
セラフィナが問いかけると真壁は一二三について分析を述べる。
能力性格共にアタッカー気質だが。
短期集中型だと思うし粘り強く戦えば相手の集中と気力を削げるかもしれない。
自身が回復手段を持つ事からも長期戦に持ち込む構えで臨む。
その分析時間はどうやら相手にとっても作戦を練る時間となりえたようで、話し終えると同タイミングで一二三が突っ込んできた。
真壁はそれを横目に見ながら森の奥へ移動。イメージプロジェクターで迷彩服を写し出し。気配を殺し樹上に潜伏した。
だが一二三はモスケールを装備している。
反応からすぐに見破り、潜んでいる木を切り倒す。
倒れる木の上から白鷺を投擲する真壁。
その一撃も一二三は盾ではじいた。
直後爆炎が二人の間に立ち込める。
瞬時に距離を詰めてきた一二三。
ライブスリッパーにて一撃加えるも。槍で受け止められてしまう。
強い衝撃で真壁が吹き飛ばされるもすぐに体制を立て直す。
二人の間に沈黙と緊張感が流れる。
ただ、すぐにその緊張感は解けることになった。
『三ッ也 槻右( aa1163 )』が手を叩きながら姿を現したためである。
「すごっ! 拓海、今の一二三の技どうやったかわかる?」
『荒木 拓海( aa1049 )』もそれにつられて姿を現した。
ここでひと段落だ、そう判断した一二三は真壁へと手を差だす。
「おおきに! やっぱ勉強成るわ!」
「こちらこそ」
そう真壁はその手を取った。
「また頼む」
キリルが満足そうに告げると今日も訓練終了の時刻となった。
* *
その後一二三らは『メリッサ インガルズ(aa1049hero001 )』や『酉島 野乃(aa1163hero001 )』も合流して一緒に食卓を囲んだ。
「カンパーイ!」
そう槻右が告げると拓海は運ばれてきた料理を眺めると告げる。
「槻右の好物だよな?」
「食べていいの? ありがと」
「ヒフミー! 蟹はダメだ」
一二三が伸ばした手をぴしゃりと叩くも一本持っていかれてしまう。
「くっ肉をやるから返せ」
代わりに槻右が拓海にカニを差し出す。
「北は食いもんが美味いんえ!」
一二三が告げる。
「乳製甘味も有名だな!」
キリルも満足そうであった。
● 実習いろいろ
そんな合宿も中盤につれて、だんだんとなれてきた雰囲気が全体に漂う。
そんな中G-YAは付近の雪山、その山頂付近から周囲を見下ろしていた。
人気のない雪山頂上付近で無いと実践できない技があるのだ。例えば最近取得のスキル臥謳など。
ただ、G-YAさんちの臥謳はまほらまが担当するようで。
心地よい高音が周囲に響き、山に反響して帰ってくる。
「衝撃で雪崩が!」
「人が巻き込まれてもリンカーだから大丈夫……よね?」
まぁ、音で雪崩が発生するのは迷信ではあるが。G-YAの視界のすみっこに行軍してくる一団が目に入ったので少しあわてたのである。
その戦闘に立つのはどうやら拓海のようだった。
雪中行軍の途中らしい。
新人に踏破可で一見危険な山選択。昨日のうちに下見と罠設置などを済ませてある。
役割分担は槻右にまかせてある。彼らのお手製しおりにはこうあった。
ルーカーはルートの確認。
メディックは回復等気を配り。
ソフィスビショップは風を押返す内に。カオティックブレイドが足場に武器を埋め。
ジャックポットがロープを打込む。
ブレイブナイトが登り、盾構え風を受け。
ドレッドノートは仲間を引き上げる。
そうして山頂にたどり着いた一同は、連帯感が生まれ仲良くなっていた。
雪で一通り遊んだあとはスキーで帰ることになる。
* *
山のふもとでは『構築の魔女(aa0281hero001 )』が戦闘訓練中である『辺是 落児( aa0281 )』とはすでに共鳴済みだ。
新米リンカーを十名ほど集めるがクラスはなるべく被らないように選出した。
彼女が行う訓練は少し珍しい。
「これから皆さんには、如何にして距離を詰めるかを考えていただきます」
そう構築の魔女はメルカバを構えた。
「遠距離タイプの愚神はたくさんいます、場合によっては私達より長射程を持つ敵もいるでしょう、そんなとき、連携して対処できなければ、私達は敗北します」
構築の魔女は告げた。自分たちの特性を生かし策をもってして打ち破れと。
ただ、当然構築の魔女もその策に対応して動く。
新米リンカーが射撃戦を選んだ場合。カウンターを意識し防御と回避からの反撃を実施。
「自身から見えるなら相手にもみられていると思うこと!」
シビアな戦場を演出するために射程内に捕らえたリンカーでも、防御力に不安のあるクラスから砲撃した。
「次、連携を意識してしっかり作戦を練ること!」
その傷ついたリンカーが一人で撤退するならあえて追撃し、撤退支援に他メンバーを拘束させる。
その隙にとリンカーたちは包囲を狙って動いてきたが構築の魔女は其れも読んでいた。
わざと中央部を集中攻撃、足止めし左右を突出させる。足並みを乱させたのだ。
そんな風に場が硬直してくれば、しびれを切らす者も出てくるだろう。
「失敗にそなえて次善の策を考慮しておくこと!」
たとえば、回避職が強硬突破を図った場合引き付けたうえで撃破し。さらす。つまり友釣り戦術を実施。
「逃げて態勢を整えることも作戦ですよ?」
そう全員を床に転がすと構築の魔女は告げた。
「さぁ、反省会をしましょうか」
● 今年の終わりに向けて
それは訓練中に起こった出来事である。
『レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001 )』主体の共鳴で『狒村 緋十郎( aa3678 )』達は雪上訓練に臨んでいた。新人をまきこんだ模擬訓練。
しかし、その目もくらむような白い光景に緋十郎は感情をこらえきれなかった。
――ちょっと、緋十郎。
レミアが止めるにも関わらず、緋十郎はかの地に思いをはせる。
一面雪景色での戦闘に緋十郎は、雪娘を思い出し感情が溢れてしまったのだ。
その時共鳴に変化が見られた、レミア主体から緋十郎主体の共鳴に変化してしまったのだ。
体の主導権を奪い取った緋十郎は、ラーヴァグリーヴで雪原踏み締め、魔剣を担ぎ咆哮。
新米リンカーを巻き込んで暴れはじめてしまった。
その夜の夕食にて。
「気持ちは分からないでもないけれど……緋十郎、昼間はさすがにやり過ぎ……だわ」
レミアに怒られる緋十郎。
「メディックも居てくれたから、その後の治療で皆回復はできたけど……あくまで訓練なのだから。明日はちゃんと手加減しなさいよね」
「うむ……面目無い……」
罰としてレミアにカニを全て巻き上げられる緋十郎である。
レミアは意外としょぼくれる緋十郎に、わかったならいいと告げると気持ちを切替え海鮮フルコースを満喫した。
その後緋十郎も酒が進みビール大ジョッキで次々空け。地酒を熱燗で飲みながら海鮮を楽しんだ。
夜になれば温泉女湯入口近くで待つ緋十郎。
レミアを待たせまいと早めに上がったレミアが上がって出てくれば湯上りのレミア、その色香に悩殺され身をくねらせる。
そんな緋十郎をレミアは冷ややかな目で見下しつつも満更でない心境である。
「ちゃんと首筋も綺麗に洗ったでしょうね。部屋に帰ったらたっぷり吸血してあげるわ、嬉しいでしょう?」
そう二人は寝室に戻っていく。
本日は合宿も最後の日取りという事で。
夫婦はベランダで花火を楽しんだが、その窓から外を眺めるとリンカーたちが防寒具に身を包みながらも花火を振り回しているのが見える。
たとえばリュカの手にもつ花火に征四郎が火をうつしていたり。
そんな一行を眺めてユエリャンはけだるそうに告げた。
「只の火薬と変わらぬようで、然しどうして美しいであるな」
「ふふ、ただの火薬の組み合わせで華を作れるのが凄いんじゃ無い」
征四郎はそれを二刀流で振り回してみたり。
「空気が綺麗だから、とてもクリアに見えますね!」
凛道はそれを真似して二刀流を試してみたり。
そんな征四郎たちに混じって蘿蔔はなぜか線香花火に手を付けていた。
しゃがんだ姿勢で1年を振り返る。
「もう12月ですか…………早いなぁ。今年も色々ありましたね…………ええ本当、色々と」
「来年はもう少し大人しくしてくれ」
レオンハルト毎年恒例のセリフが飛び出たところで。
グラウンドの中心に作られたステージに光が灯った。
なんと澄香主催でアイドルライブである。
今回の合宿でアイドルデビューが決まったリンカーたちを集めて澄香がプロデュースしたのだ。そして曲をプレゼントした。
今からその発表会があるのである。
「参加して良かったぜ」
タギはそんな光景を眺めながらつぶやいた。
「なの〜♪」
相棒が楽しそうに肩を揺らしている様を見て、来年も来て見ようと思うのであった。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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