本部

【森蝕】連動シナリオ

【森蝕】うねる大河の幽霊船

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/11/03 08:38

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掲示板

オープニング

 豹変したヴァルキュリア達を伴い、幽霊船は空を進む。甲板にはラグナロクがナンバー2、トールが胡座をかいていた。アマゾンの地図を広げ、その上にチェスの駒を広げてにやにやと笑みを浮かべている。
「やるもんだなぁ、ギアナの鸚鵡野郎も。それくらいしてくれないとこっちも潰し甲斐が無いってもんだ」
一体の怪人鳥が彼の側に舞い降りる。全身を硬質の羽毛に包んでいたそれは、次の瞬間には艶かしい肢体を持つ美女、レスクヴァに変わっていた。トールは彼女を見上げると、低い声で尋ねる。
「リンカーの数」
「10人」
「行軍速度」
「時速30km」
 トールに尋ねられたレスクヴァは、機械か何かのように答える。頷きながらその返答を聞いていたトールは、ニヤリと笑って黒のポーンを河の上に置く。
「なら一時間もあればここに来るか」
 トールは振り向くと、背後に佇むシアルヴィを指差す。
「シアルヴィ!」
「はい」
「タングリスニとタングニョーストをアマゾン川まで連れて行け! そこでH.O.P.E.の奴らとぶつかる!」
「承知しました」
 シアルヴィはその姿を猛々しい巨鳥に変えると、翼を広げて幽霊船から飛び出す。その姿を見送ると、トールは甲板を拳で叩いてさらに叫ぶ。
「宜候! 目標アマゾン川流域!」
 その命令を聞くなり、幽霊船はボロボロの帆を開いて空を滑るように走り始める。トールは立ち上がると、身を切るような風を浴びながら濃緑の海を見下ろす。
「ただ本丸に向かうってのも味気ねぇよなぁ。……ここは一つ、お前らに挑戦状を叩きつけてやる」



 君達はインカ支部へと急いでいた。目前には熱帯雨林を支える大河、アマゾン川が見える。波のない海。そう喩えられる川は、あまりに広い。リンカーの身体能力をもってしても対岸へ飛び移れそうにはない。
 君達はとっくに気付いていた。この場を襲われれば苦戦は必至になる事を。そして、それをかの男はきっと見逃さないだろうことも。
「よう! H.O.P.E.のリンカーども!」
 予想通りだ。上空から朗々たる声が響き渡り、二隻の幽霊船が川向こうから滑るようにやってくる。そのうちの一隻は、半ば突っ込むようにして目の前の川に着水する。舷側から次々に錆びた砲門が飛び出すと、君達に向かって狙いを定める。君達は仲間と頷き合い、一気に飛び出し武器を構える。同時に放たれる砲弾。君達は武器を振るって砲弾を撃ち落とした。巻き上がる土埃。その中に紛れて二人の仲間がALブーツを起動し、一気に水上を駆け抜けた。君達も後へ続こうとするが、四方八方を取り囲む血霧にその行く手を阻まれる。
「無視しようってのは酷いじゃねえか。お前達の実力をちょいと試してやろうってのになぁ」
 水面に浮かぶ幽霊船の上に、二人のウールヴヘジンが立っている。二体とも山羊の角を一対伸ばし、巨大な斧を一振り構えていた。
「一つゲームをしようぜ。そいつらは俺の下僕、タングリスニにタングニョースト。そいつらをぶっ飛ばして船を奪ってみろ。……それぐらいは出来るよな」
 どの道、戦わなければインカ支部には辿り着けない。君達は武器を構えなおし、戦いへと挑むのだった。



フィールド
□□□□□□□□□
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
◇◇◇★★★◇◇◇
◇▲◇◇▲◇◇▲◇
□□□□□□□□□
(一マス5×5sq)
□…密林。長大な木がある。
◇…川。濁っている。
▲…従魔5体。
★…カレウチェ

解説

メイン アマゾン川に浮かぶカレウチェを制圧する
サブ トールの作戦を看破する

BOSS
デクリオ級従魔タングリスニ&タングニョースト
 トール直属の配下。狼のくせに山羊の角を持っている。
●ステータス
 詳細不明。物理偏重、魔法に弱い。
●スキル
・ボルトアクス
 トールから受け取ったライヴスを斧に纏わせて攻撃する。[防御した相手に[BS衝撃]を付与する]

デクリオ級従魔カレウチェ
 巨大な幽霊船。戦闘力自体は張りぼてのようだが、その輸送力は脅威。
●ステータス
 詳細不明。防御寄り。飛行可能。
●スキル
・一斉射撃
 砲台十門から一斉に砲弾を叩き込む。[扇形の範囲攻撃] 

ENEMY
ミーレス級従魔ネーベルガイスト×15
 霧や煙のような瘴気を纏った従魔。ライヴスから作られた吸血効果のある霧で相手を包む。
●ステータス
 飛行。他に特筆すべきものは無し。
●スキル
・吸血霧
 [自身の周囲10sqに霧を放つ。この中にいる限り、PCはBS減退(1)を受ける]
・霧衣
 本体となる深紅の結晶体が霧の中に紛れている。[回避+400]

特殊状況
・ポロロッカ
 潮の満ち引きによっておこる大海嘯。本来この戦場にまでは届かないが、異常現象の影響により、この地にもおよそ5~6メートルに及ぶ大波が押し寄せる可能性が示唆されている。
(事前に情報を得たという形でPC情報に出来る)

Tips
・カレウチェは基本的にその場から動かない。
・重体の危険もあるが無視して離脱してしまうことも可能。
・トールは高みの見物を決め込んでいる。一部の遠距離武器なら撃てない事もないが、特に利益はない。
・下手に泳ぐといい的になるため注意。

リプレイ

●Flying Dutchman
――私、フレイって子を追ってるんだけど、最近ちっとも会えなくってさ、寂しかったんだ。
 墓場鳥(aa4840hero001)と共鳴したナイチンゲール(aa4840)は、ジークレフを抜き放って上空を悠々と飛び回る幽霊船を見据える。
――だから“慰めて”よ、色男。

「さぁて、見せてくれやお前らの力!」
 トールが上空から大声で煽ってくる。日暮仙寿(aa4519)は子供を見るような視線を上空へ送ると、爆導索を肩に掛けながら不知火あけび(aa4519hero001)と共に幽霊船を見据える。
『(会見の外でやってたっていう戦略議論に少し状況が似てるような?)』
《トールが自軍の犠牲を厭わないなら、この局面はどうなるか……》
 四方八方から深紅の霧が迫り、エージェントを包み込む。月影 飛翔(aa0224)は身を転じると、近くの小振りな樹に向かって跳び上がる。その幹を蹴りつけると、さらに傍の樹の幹へと飛び移り、軽々と上空へと昇っていく。
『あの言い方、何か裏がありそうです』
「ああ。まるで船に誘い込んでるみたいだ。と言って、無視するわけにもいかない」
『敢えて飛び込んで突破、ですね』
 ルビナス フローリア(aa0224hero001)と軽いやり取りを交わすと、取り出したロケット砲を担ぎ、霧に向かって撃ち込んだ。派手な爆風が巻き起こり、霧を押し退けていく。
「さてりっちゃん。まずは一緒に霧を払いましょうか」
「うん! 支部に行く前に……敵の戦力は削っておきたいよねっ」
 下では氷鏡 六花(aa4969)と水瀬 雨月(aa0801)がちらりと目配せし、共に絶零の魔導書を開く。六花はオーロラの翼、雨月は白雪のローブを纏い、一斉に魔力を解き放つ。二人のライヴスは織り交ざって広がり、霧ごと従魔を凍りつかせる。刹那、彼方から轟音が響き、砲弾が凍った霧を突き破りながら襲い掛かる。
 ナイチンゲールは咄嗟に反応し、六花の前へと駆け込む。
「させないよ」
 ト音記号の形をした剣を振り抜き、錆びた砲弾を事も無げに打ち砕く。凛と立つ頼もしい後姿に、六花は顔を綻ばせる。
「ありがと、ナイチンゲールさん」
「うん。友達の事はちゃんと守れなきゃ、ね」
 ナイチンゲールは微笑み返すと、川に浮かぶ船を見据える。
『(どう見る)』
「(制圧した途端、私達を船もろともドカン! ……とか)」
『(そして一網打尽にした事実を喧伝)』
「(ついでに面白半分で人質にしてみたり?)」
『(何れにせよ、さぞ効果的に活用するのだろうな)』
「(ふうん……嬉しくって涙が出ちゃうね)」
 新しい霧が両翼から押し寄せてくる。アリス(aa1651)は溜め息をつくと、深紅の魔導書をぱらりとめくる。
『ゲームは好きだよ。でも今の最優先はオーダークリア』
 Alice(aa1651hero001)は独り言のように、もう一人の自分に語り掛けるように呟く。
「……邪魔だな。無理矢理先に進むことも出来るだろうけど、それを許すならわざわざここで待ち受けたりしない」
『面倒だけど、無視するわけにはいかないか』
 アリスは身を翻すと、右翼から迫る霧に向かって火炎を放つ。激しいライヴスの熱が、ライヴスの霧をすぐさま掻き消していった。一方、カグヤ・アトラクア(aa0535)は黒い眼で物欲しそうに幽霊船を見つめていた。
「あの空飛ぶ船欲しいのぅ。力で屈服させて支配権を奪取し、燃料はリンカーのライヴスでどうにかならないかの」
『インカ支部に行けば謎のオーパーツでもあるだろうから、今回は我慢して急ぎなよー』
 クー・ナンナ(aa0535hero001)がすかさずツッコミを入れる。肩を竦めると、カグヤはライヴスジェットブーツを起動するテトラ(aa4344hero001)に振り返る。
「仕方ない。ここは任せて先に行くのじゃ」
『(言いたいだけだよね、それ)』
『ああ。お前も早く来ないと全て私が壊してしまうぞ』
 テトラは得意げに笑うと、一気に幽霊船へと向かって飛んでいく。それを見送ると、カグヤは無数の玻璃を霧の中に滑り込ませていった。
「霧払う光の雨じゃ。無用な霧は押し流されよ」
 光が奔流のように溢れだす。血のように赤い霧は振り払われ、河の中に浮かぶ幽霊船の姿がはっきりと現れる。
 ジェットブーツで宙を舞いながら、テトラは空の幽霊船を見上げて叫ぶ。
『トールよ喜べ! 暇神がまた来てやったぞ!』
「くだらない事言ってないで、さっさと行くよ!」
 杏子(aa4344)が素早くそんな彼女を諫める。同じくブーツを吹かし、白い翼を広げる仙寿がそばを通り過ぎていく。
《俺がまず仕掛ける。大海嘯が来る前にとっとと仕留めるぞ》
『ああ、トールの目ん玉ひん剥いてやろうじゃないか』
 仙寿は右腕を構えてワイヤーを打ち出す。大斧を手に取った山羊角の狼は揃って身構え、仙寿を真っ直ぐに睨みつけた。
『狼なのに山羊の角?』
《タングリスニにタングニョースト。トールの所有する山羊だ。文字通りのこじつけだな》
 仙寿は船首へと降り立つと、いきなり爆導索を弾けさせる。甲板は猛火に黒く煤けていくが、狼二頭は悠々と仁王立ちしている。
《物理的な攻撃は効きにくいか……それなら》
 仙寿は素早く白刃を抜き放つと、船首から甲板へと飛び降りる。トールは船端から身を乗り出し、人差し指をタングリスニへと向ける。
「良いねえ良いねえ。いきなり本丸に乗り込んで来たな。……じゃあこんなアクセントを加えてやろうじゃねえか」
 瞬間、雷光が爆ぜてタングリスニの構える斧に炸裂する。蒼い燐光を帯びた刃を振るい、タングリスニは仙寿に向かって大きく一歩を踏み出した。仙寿は影のように捉えがたい身のこなしでこれを躱す。船尾の方へと降り立ったテトラは、そんな狼の一撃を見て目を細める。
「今のは……トールがかましてくれた必殺技によく似ているね」
『そっちからも見えているか? こいつら、トールと同種の力を使ってくるぞ』
『(なるほど……ものすごく力任せなライヴスブロー、だったかしら)』
 テトラの通信を聞き、アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は悩ましげに呟く。六花は頷くと、今度は一本の氷槍を作り出す。
「仙寿さんに杏子さんなら大丈夫だと思うけど……それでも早くに片付けないとね!」
 六花は氷の鏡と共に槍を擲つ。鏡に映った槍もまた形を取って飛び出し、砲台に向かって次々に突き刺さる。
「敵の武器が何であっても、打ち砕くのは変わらない」
『ポロロッカまであまり時間がありません。一気に乗り込んでしまいましょう』
 飛翔もまたロケット弾を砲台に向かって一発打ち込む。激しい爆発に巻き込まれ、砲台は吹き飛び河の底へと沈んでいく。今度はアンカーを取り出すと、クローを撃ち出し船縁に引っ掛けた。
「巻き取り機能でも搭載してくれればいいんだが……」
 飛翔はアンカーの砲身を川辺に突き立て、鎖を伝って一気に船へと渡る。その間にロケット砲を構え、マストを狙って一発打ち込む。爆風が巻き起こり、煙が狼を覆いつくした。
『(戦車を牽く山羊の名を冠しているのです。力任せの突進は脅威となるかもしれません)』
「(食べても復活するんだったな。再生能力もありそうだ)」
 煙を片方の狼が切り裂き、もう一頭が蒼光を帯びた斧を振り上げ飛翔へと突っ込んでくる。飛翔は大剣を抜き放つと、振り下ろされた斧を素早く切り払った。
『(物凄く視線を感じますよ。空から)』
「一気に叩くぞ。ここに留まるのは拙そうだ」

 船に飛翔が乗り込んだのを見たアルヴィナは、六花にそっと囁く。
『(私達も向かうわ。大波が来る前に全て片をつけてしまいましょう)』
「こんなところで足止めされているわけに、いかないもんね」
 六花は素早く魔導書を開くと、凍気をうろうろする血霧に叩きつける。絶零の力の断片は霧ごと従魔を凍らせ、霙の塊と変えて河に浮かべる。白い羽衣を靡かせながら、六花はひょいひょいと塊の上を渡っていく。後を追うように塊は次々崩れ、白い瞬きを残した。最後には一歩大きく跳び上がり、彼女は甲板に着地する。
「あの子、随分すごい事してるわね」
『(……随分とあの娘を買っているな)』
 岸から様子を見つめて、雨月は感心したように呟く。アムブロシア(aa0801hero001)が雨月に尋ねると、彼女は虎の子の魔導書を取り出して呟く。
「あの子を見てたら、私も負けてられない気になってしまうのよね」
 呪文を素早く唱えた瞬間、水底から数多の触手が現れる。数多の船乗りを恐れさせたクラーケンのように触手は幽霊船を這い登り、二頭の狼へと襲い掛かる。狼は雷を纏った斧を振るって触手を切り払っていくが、その隙に上空から深紅と漆黒に包まれた少女が襲い掛かる。
『さて、丸ごと焼き尽くしてやろうか』
「狼は溺れるか煮られるかが相場だからね」
 アリスが手を翳した瞬間、炎を纏った幽霊や烏の幻影が次々に飛び出し狼へと襲い掛かる。堪らず狼は飛び退き、マストにその身を隠してやり過ごそうとする。

「ふむ? 纏めて首でも切られにきたかの?」

 チェーンソーを構えたカグヤがにやりと笑う。既に唸りを上げた鋸刃は、幽霊船のメインマストに押し当てられている。それを見て目を見開いた狼は、慌ただしくその場から飛び退いた。
『無駄だと思うよー』
「やってみなければわからんじゃろ。ほれ、そなたの上にいるウールヴヘジンが敗北すれば、この船を守る者がいなくなるのぅ。その時はどちらにつくのがよいかちゃんと考えるんじゃぞ?」
 メインマストの頂上にはためく海賊旗を見上げてカグヤは幽霊船に語り掛ける。しかし幽霊船が応えるはずもない。ああ言えばああする、こう言えばこうするだけの存在、ミジンコ並みの知能も無いのだ。トールも上空から煽ってくる。
「船に向かって何言ってんだよ、お前! そいつの舵は俺が握ってんだ。何ともなるわけないだろ!」
「むむむ。……便利な輸送船が手に入ると思ったんじゃがのう。ならば仕方ない」
 カグヤはチェーンソーを握る手に再び力を籠め、メインマストを折りにかかった。激しく回る鋸刃は朽ちた柱を簡単に削いでいく。仲間にならないというのなら、容赦する気もない。

『熱帯の世界でも』
「辺り一面冬にしちゃうよっ」
 テトラ、六花が一斉に氷の魔法を放つ。アリスの放った炎に巻かれていた船が、今度は白く凍り付いた。巻き込まれた狼も、全身の毛を逆立て震えている。
「仙寿さん!」
《ああ。俺もここは氷の刃で乗らせてもらうさ》
 仙寿は雪村を構え、一頭へ一気に間合いを詰めた。
『この人達は、もう助からない……』
《分かっている。俺は元々刺客だ。四国でゾンビになった感染者の首も斬り落とした。俺達に出来る事は、出来得る限り安らかな死を与えてやる事だけだ》
 刹那の間にやり取りを交わし、仙寿は狼へ袈裟懸けに斬りかかる。寒さに鈍ったその身体では、仙寿の鋭い一撃は受け止めきれない。肩から腰へと深い創を作り、鮮血を溢れさせながらよろめく。更に大きく踏み込んだ仙寿は、そのまま横薙ぎで首を刎ねにかかった。

「……甘い。甘いよなぁ」

 しかし、咄嗟に狼は斧を構え直し、首へと迫った刃を受け止める。狼は目を見開き、鼻面に皺を作って仙寿を睨んでいた。
――俺達を哀れむな。
そう言わんばかりに。そのまま狼は両手で斧を握り直し、仙寿に一撃見舞おうとする。仙寿は神妙な顔をすると、斧の切っ先を刃の上で滑らせ受け流し、そのまま身を翻して狼へ斬り上げを見舞った。狼はその一撃でよろめき、船縁を越えて大河の中へ落ちていく。仙寿は刀を構えたまま、素早く船の下を覗き込む。しかし狼は上がってこない。
『(あの目……)』
《戦いを知ってる奴の眼だな。まるで、望んでああなったとでも言いたげだった》

 飛翔がブレイブザンバーに秘薬を差し込んだ瞬間、刃は稲光を纏う。その光に反応し、狼は高らかに吼えて斧を振るった。飛翔は素早く身を躱し、全身にライヴスを纏わせ大剣を一息に振り抜く。狼は斧を構えてその一撃を受けようとするが、斧の柄はへし折れ、腕の骨も砕かれだらりと垂れさがる。
「一気に決めてやる」
 打ち下ろした大剣をさらに振り上げ、跳躍と共に狼の脇腹を切りつける。みしり、と音がして刃が肉へと深々めり込む。狼は身を翻して刃を剥がすが、滴る血で船についた霜が真っ赤に染まっている。
「これで止め……!」
 そのまま大剣を頭上高くに振り上げ、落下の重みを乗せて狼へと叩きつける。狼は咄嗟に斧の刃を振るって刃を逸らしたが、それでも勢いは殺し切れずに船の外へと吹っ飛んだ。
『今の感触ですと……差し切れなかった可能性が濃厚ですね』
「だが、また登ってきたりはしないだろう。……一応、これで制圧は完了だ」

●睨み合い
「よくやった! よーくやった! 中々じゃねえか。そうでなくちゃ、わざわざ足を止めた意味がねえわなぁ」
 トールは空中の幽霊船の舷側に立ち、高らかに手を叩いて傲慢にエージェント達を労う。エージェント達は武器を構えたまま空を見上げる。トールはにやにやと笑ってエージェントを見渡し、声を張り上げる。
「まあだが、ちょーっと遅かったかもなぁ? アマゾン河がお怒りだぜ?」
 ぺらぺらと喋りながら下流を指差す。テトラが船尾まで駆け上がってみると、既に巨大な波が近くまで押し寄せていた。
『ま、予想通りってとこか』
「この船ごと私らを流しちまおうってんだね」
 テトラはくるりと振り向くと、仲間達に向かって手を振る。
『さっさと行こう! これ以上トールに構ってるほどは暇じゃないからな!』
 トールはそれを聞くと、船端を何度も叩いて叫ぶ。
「おおっと、そんなわけにいくか! そんな簡単に通すわけねえだろ!」
 一帯に響き渡る音と共に、翼を広げた怪鳥が幽霊船から何羽も飛び出す。その手に爆弾の括りつけられた銛を握りしめ、次々とエージェント達の乗る船に向かって放り投げてきた。アリスは炎を放って爆弾を撃ち落としながら、空の幽霊船に向かって眉を顰める。
『何かしてくると思ったけど……』
「安直かな。舐められてるね」
 ついに舷側から飛び降りると、トールは巨大な錨を掴んで降りてくる。片手で担いだ大槌を振り上げ、白光を宿らせる。
「こいつはサービスだ! ありがたく思え!」
 振り下ろした瞬間、巨大な稲妻の塊が船へ向かって堕ちてきた。雷光が弾け、飛び退いた仙寿や飛翔を強引に捉える。仙寿は袖や裾を焦がしながら甲板を転がり受け身を取った。
『い、今のって……!』
《……ライヴスショットか?》
 飛翔は袖の煤を手で払い、錨にぶら下がって嗤っているトールを睨んだ。
『随分と余裕綽々ですね。撃ち落としてしまいましょうか?』
「いや……そんな暇はないだろうな」
『でしょうね』
 稲妻に撃たれた仙寿を目の当たりにし、思わず六花は息を呑んでしまう。
「仙寿さん!」
『(六花、上!)』
 アルヴィナがすかさず叫ぶ。見上げると、ヴァルキュリアが一羽、六花に向かって爆弾銛を投げようとしていた。六花は眼を見開くと、素早く魔導書を取り出し応戦しようとする。
「六花は傷つけさせない……!」
 刹那、ナイチンゲールが水に浮かべた丸太から甲板へと飛び移ってきた。一足飛びで六花の下へ辿り着くと、彼女は素早く六花を抱え上げる。
「わわっ」
「仙寿、パス!」
 六花を仙寿の方へと放り投げると、自分はトールへ向かって“あっかんべー”をしながらライヴスのバリアを張る。銛はバリアに弾かれ、そのまま河へと落ちていく。トールはにやにやと笑ってナイチンゲールへ目を向けた。
「何だ? 挑発のつもりか?」
『また無茶を……』
 その時、めきめきと音がしてカレウチェのメインマストが倒れる。チェーンソーに付きまとうおがくずを振り払い、カグヤは黒い義眼と黒い刃をぎらつかせた。
「ふうむ。とりあえずこいつでろくに動けんじゃろ。さっさと行くかの」
『(味方に出来ないと分かった時の切り替えっぷりはさすがだねぇ……)』
 カグヤは火薬が爆ぜる甲板の上から真っ先に飛び降りる。仙寿もその後を追うように、六花を横抱きにして飛び出した。
《行くぞ。落ちないでくれよ》
「う、うん……じゃなくて。仙寿さん、幽霊船の方に振り向いてもらっても、いい?」
 嬉しい気持ちはとりあえず脇に置いて、六花はその姿勢のまま魔導書を開いた。
「トール、雷はあなたの専売特許じゃないよっ」
 仙寿はくるりと身を翻し、船の方へと向き直る。六花が右手を差し出すと、粉雪が竜巻のようにうねり、蒼く輝く雷槍を生み出した。
『(従魔とはいえ船の形を取っているなら、弱点も船に準ずる……はずよ)』
「(それなら、狙うは船の底……!)」
 六花は船の底、竜骨に向かって雷槍を擲つ。右舷から突き刺さった一撃は、そのまま船室を打ち砕きながら竜骨を抉った。船が軋み、捩れる。幽霊船が悲鳴を上げていた。未だに船の上に居残っていたテトラは、その叫びを聞いて愉悦の笑みを浮かべる。その周囲には無数の刃が浮かんでいた。
『あの娘、中々やるようじゃないか……』
 テトラは怪物の装飾が施された双剣を一息に振り下ろす。その瞬間、カレウチェを上から下へと貫かんとばかりに刃が突き刺さった。脆くなった船底に次々穴が開き、めきめきと音を立てて巨大な亀裂が幾つも生まれる。テトラは満足げに頷くと、ブーツを起動して対岸へと渡っていった。
『邪魔だてしておいて、ただで終わりなんて訳にはいかないからな?』

「ひとまず、奴の目論見通りになるのだけは防げたか」
 折れたメインマストを渡って対岸へと渡り終えた飛翔は、くるりと振り向いて幽霊船を見つめる。丁度押し寄せた大波に攫われようとしているところだった。ナイチンゲールも月影に続いて対岸へ降りると、ジークレフを収めて幻想蝶へと手を伸ばす。
 雨月は箒に横座りし、上空を悠々と漂いながら眼下の波を見つめる。
「確かに、これに飲まれたら私達でもしばらく身動き取れなさそうね……」
『(水に飲まれるのだけは御免蒙る)』
「……でしょうね。貴方水嫌いそうだし。何となくだけれど」
 そのそばを、箒に真っ直ぐ跨ったアリスが飛んでいく。深紅の結晶をその手の内で砕き、黒と赤のライヴスをその全身に纏った。
 ちらりと上を見る。錨の上に立つトールと僅かに目が合った。アリスは無表情のまま、トールはあくまで笑みを崩さない。アリスは再び船へ目を戻すと、魔導書を開いて燃え盛る紅い霧を放った。大波から離れ浮かび上がろうとしていた船の船首が炎に包まれ、やがてその全てが炎に包まれる。
 それでも上空へと飛ぼうとするが、六花の雷槍で砕かれていた竜骨は真っ二つに折れ、船はばらばらになって波立つ河へと墜落した。
「素晴らしい! 素晴らしいぜ! 認めよう。俺は少々お前達を見くびっていたらしいな! 雑魚なりに、戦士と名乗るに値する実力はあるみたいだな!」
 対岸へと渡り切った八人を見下ろし、錨にもたれかかったトールはパラパラと八人へ拍手を送る。ヴァルキュリアの軍勢もトールの周りに並び、トールと共に拍手を始めた。テトラと共に空を見上げていた杏子は、その異様な光景に不快感を露わにする。
「(お前らなんぞに認められたくはないな)」
『まぁそう言うな。今はたっぷり油断させといてやればいいのさ。……その“雑魚”とやらに負ける時の奴の顔には興味があるからなぁ』
 テトラが余裕綽々で笑う横で、ナイチンゲールは鎖付きの鞘を切り、突如神剣を抜き放った。聖火が煌々と放たれ、トールとナイチンゲールの顔を照らす。
「……こんなの、子供騙しじゃない」
「まあなぁ? この程度もこなせないんじゃ、いよいよお前らは救いようのねえ雑魚って事になるじゃねえか」
 六花をそっと隣に降ろして振り向くと、仙寿はトールに尋ねる。
《トール。俺は先日バルドルに会った。奴の思想も聞いた。……お前はバルドルの参謀役かと思っていたが、本当に戦にしか興味がないのか?》
「当たり前だ。戦い以外に興味を持てるものがあるか? こんな退屈でしみったれた世界の中に」
 トールは首を傾げて仙寿へ尋ね返してくる。その獣のような眼に、仙寿は見覚えがあった。彼の仲間にも、そんな眼をする者はいた。仙寿は神妙な顔をして、ただトールと目を合わせ続ける。
《少なくとも、俺はあると思っている。……どこのどいつだ? 人間を従魔にした奴は。どうやってバルドルはあんな力を得た?》
 トールは顎を撫で、ほんの一瞬難しい顔をする。しかしすぐに人を馬鹿にした笑みを取り戻し、手をひらひらとさせた。
「……悪いが、あんなんでも俺にとっちゃあ仲間なんだ。そう安売りするわけにはいかねえな。ま、後ろでわちゃわちゃやってんのはお前らの知らねえ奴じゃねえ、とだけは言っといてやるぜ」
「知らない奴ではない、か。色々と思い当たる節はあるの」
『(まあ、バックにエネミーもいるんだし、どうせ“アイツ”なんだろうけど)』
 カグヤとクーは既にその正体について思いを巡らせ始めていた。
「じゃあな! またインカ支部で会おうや!」
 一気に跳び上がると、甲板へと戻ってトールは宜候と叫ぶ。幽霊船は帆を広げ、ヴァルキュリアと共に空を滑り出した。エージェント達も、それを追うようにして走り始める。
「敵戦力を減らせたと考えるべきか、足止めを喰らったと見るべきか……」
 飛翔は不気味なくらいに何もしてこないトールの船を見上げながら、ぽつりと呟く。ルビナスも静かに考え込んでいた。
『戦好きに違いないとはいえ……トール、ただの脳筋というわけではなさそうですね』
「奴が戦場に姿を現した時は慎重になった方がいいかもしれないな。あまり焦ったら足元を掬われるかもしれない」
『今まで培ってきた経験が試されるところですよ』
「わかってる」
 銀色の髪が一房揺れる。飛翔は頷くと、地面をさらに力強く蹴るのだった。

 その小柄さを生かして軽快に森を走りながら、アリスとAliceは互いにやり取りを交わす。
「トール、か。ま、縁があれば、だね」
『このままインカ支部に行けば、どうせ出くわすんだろうけど』
 空を滑り、エージェントとの距離を次第に引き離していく船を見上げる。
「そういえば、トールにしてもインカ支部へ急いでいたんじゃなかったのかな」
『わたし達がここで無駄にした時間と同じだけ、トールも時間を無駄にしてる』
 二人で一人のアリスは眼を凝らす。小さくなっていく船縁に、彼と思しき人影がちらりと見えた。
「それでもわたし達と戦いたかったって事かな」
『そういう事だね』
「……オーダークリアに優先してでも、ね……」
『そこまでゲームが好きなんだね。あの神とやらは』

 雪村を腰に差し、仙寿は小柄な六花と歩調を合わせて走る。
《体調は大丈夫か》
「うん。杏子さんや水瀬さん、仙寿さんが氷の魔法を使ってくれたから、ひんやりして、楽な気分で戦えたよっ」
《そうか。雪村を持ってきた甲斐があったな》
「暑くなったら言ってね。走りながらでも、りっちゃんを冷やしてあげるくらいなら出来ると思うし」
 雨月も六花に微笑んでみせた。尊敬する先輩と憧憬する先輩と並べて、六花は弾けるような笑みを浮かべる。
「一緒に氷を使って戦えて……お揃いみたいで、嬉しかった!」

 カグヤはエージェント達の先頭に立ち、メタリックなスーツを艶めかせながら走っていく。トールの挑戦などさしたる興味はない。既にインカ支部の溜め込んでいる技術へと興味は移っていた。
「さあさあインカ支部じゃ、インカ支部。救出に成功した暁には、たっぷりと抱え込んでいるその秘蔵の技術、全てわらわの前にさらけ出してもらわねばのう」
『(このまま攻め落とされるのと、カグヤに守られるの、どっちがインカ支部にとっては良いのかなぁ……?)』

『楽しみだな。今、インカ支部にはフレイもフレイヤも、バルドルもトールも、皆勢揃いで向かってるんだろ? 久しぶりに暇が景気良く潰せそうじゃないか』
「(緊張感が無い……と言いたいところだけれど、確かに派手な戦場にはなりそうだねえ)」
 走りながら、テトラは頬がにやけてくるのを抑えきれない。自分を絶対と思っている存在を打ち砕いてやるほど楽しい事はなかった。
『見てろよ雷神。この暇神の魔手から逃れられると思ったら大間違いだ』

――トール。私はね、多分あなたに一瞬でやられちゃうぐらい弱い。でも……その一瞬は、いい勝負になると思うよ。
 レーヴァテインを鞘へと納め、ナイチンゲールは仲間達を追って駆ける。強い戦意を宿した眼は、幽霊船を挑むように捉えていた。いつものおどおどとした姿はどこにもない。一人の戦士として彼女は今戦場にいた。

――だから、次はもっと本気を見せて。


To be continued…

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結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969

重体一覧

参加者

  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 果てなき欲望
    カグヤ・アトラクアaa0535
    機械|24才|女性|生命
  • おうちかえる
    クー・ナンナaa0535hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • Be the Hope
    杏子aa4344
    人間|64才|女性|生命
  • トラペゾヘドロン
    テトラaa4344hero001
    英雄|10才|?|カオ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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