本部

壜の中のメッセージ

花梨 七菜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/09/12 19:20

掲示板

オープニング

●砂浜にて
 朝早く、少年は砂浜を歩いていた。
 一人で電車を乗り継いで祖父母の家に泊まりにきてから、一週間がたった。
 おいしいご飯とおやつを食べて、寝て、ゴロゴロして、天国のような日々も明日で終わり。
 夏休みも、もうすぐ終わりだ。
 でも、夏休みの宿題が終わっていない。ドリルは終わったのだが、自由研究という大物がまだ残っている。
 昨日、母親に電話した時に、おそるおそるそのことを伝えると、「なにやってんの!」と怒られた。
「せっかく田舎に行ったんだから、昆虫採集でもアサガオの観察でも、いろいろやることあるでしょう」
「だって、虫、怖いし! アサガオの観察は去年やったし!」
 少年が大声で言いかえすと、「海岸で貝殻でも拾ったらどう?」と言われた。
 そういうわけで、少年は貝殻を探しながら砂浜を歩いていた。
 10分くらい歩いていたら、いくつか貝殻を見つけた。
 更に歩いていると、波打ち際に光るものがあった。少年は近寄ってみた。細長い透明な壜が波に洗われていた。壜の中には、折り畳まれた紙が入っていた。少年はコルクの蓋を開けて、紙をひっぱりだした。

●囚われの身
 ガチャリと鍵がしまり、マリは薄暗い地下室に取り残された。マリはラキルリとの共鳴を解き、古いベッドに倒れこんだ。
 ラキルリは、マリの首筋にできた傷に布をあてて言った。
『もうこんなこと我慢できない。あたし達の誓約を破棄しよう』
「そんなことしたら、ラキルリは消滅しちゃうし、わたしもすぐに殺されちゃうよ」
『わかってる。わかってるけど……こんな苦しみをずっと味わい続けるくらいなら……』
「大丈夫。誰かが手紙を見つけて助けに来てくれるよ。それまで頑張ろう」
 ラキルリは、地下室の壁の上のほうにある格子窓を見上げた。窓から投げた壜は、ちゃんと海に届いたのだろうか。海まで届いたとしても、誰かがそれを拾ってくれるだろうか。
 助けが来る可能性はとてつもなく低いとラキルリは思ったが、マリを悲しませたくなかったので、『……そうだね』と言った。
「疲れちゃったから、もう寝るね。お休み」
 夕暮れの光が斜めにさしこんで、マリの笑顔を照らした。
 二人の誓約。それは、どんなに辛いことがあっても笑顔を忘れないこと。
『お休み』
 ラキルリはマリに笑顔を返して、マリの隣に横たわった。

●愚神の独白
 彼女と出会ったのは、運命だった。
 あの時、信号が赤になり、彼は車を停めた。目の前の横断歩道を足早に渡っていく少女の姿に、彼の目は釘づけになった。
(美しい。生命力にあふれている)
 彼は、人通りが少なくなるまで彼女を車で尾行した。そして、誰にも見られていないことを確認してから、彼女を追い越して車を停め、車の横を通る彼女を車内に引きずり込んだ。
 彼女を屋敷に連れてきてからは、毎日、少しずつ彼女のライヴスをすすっている。彼女を殺してしまわないように気をつけながら……。
 少女がリンカーであることを知った時は驚いたが、彼女の戦闘能力はないに等しく、彼女の攻撃など蚊に刺されるようなものだった。
(できるだけ長く楽しませてもらいたいものだ)

●ブリーフィングルームにて
 H.O.P.E.の職員はブリーフィングルームで説明を始めた。
「砂浜で壜に入った手紙が発見されました。手紙に書かれていた文章は、『助けて。崖の上のお屋敷に閉じ込められている。藤崎マリ』です。調査の結果、同じ名前の中学一年生の少女が、一週間前に行方不明になっていることがわかりました。マリさんは、両親を幼い時に亡くし孤児院で暮らしていました。マリさんはバスケットボール部の部活動を終えて中学校から孤児院に帰る途中で、何者かにさらわれたようです。“崖の上のお屋敷”を探したところ、孤児院から20キロメートルほど離れた場所に該当する建物が見つかりました」
 ホログラムに、地図と豪奢な屋敷が映し出された。
「屋敷の所有者は、遠方で暮らしていて、現在、その屋敷には誰も住んでいない筈なのですが、近所の人が屋敷に出入りする車を目撃しています。マリさんは、その屋敷に監禁されていると思われます。至急、マリさんの救出をお願いします」

解説

●目標
 少女の救出

*以下はPL情報です。

●登場
 ・デクリオ級愚神「アブダクター」
  通常時は、ごく普通の男性の姿をしている。
  戦闘時、鋭い歯で噛みついて吸血する。両手の爪が長く伸び、その爪で攻撃する。

 ・藤崎マリ
  中学一年生の能力者。ショートボブ。明朗活発。でも、寂しがり屋。
  最近、英雄と出会って誓約を交わした。誓約を交わしたことを他の人には秘密にしている。

 ・ラキルリ
  マリのパートナーである英雄の少女。外見年齢はマリと同い年。金髪でロングヘア。バトルメディック。

●状況
 時刻は午前11時頃。
 マリとラキルリは、二階建ての屋敷にある地下室に閉じ込められている。
 地下室には外から鍵がかかっており、鍵は愚神が持っている。
 愚神は、屋敷の一階か二階にいる。

リプレイ

●少女救出作戦、開始
「いたいけな少女をひどい目に合わせるなんて許せないわね」
 風代 美津香(aa5145)は呟いた。
『はい、必ず助けましょう!』
 英雄のアルティラ レイデン(aa5145hero001)は、強く頷いた。

『行方不明になってから一週間。ライヴス目的なら日数的に不味い頃ね……』
 メリッサ インガルズ(aa1049hero001)は、眉をひそめた。
「何らかの理由で生かされてるか、彼女がオレ達のような能力者なら……。ん……生きてると信じよう」
 荒木 拓海(aa1049)はそう言って、準備を始めた。
『そうね』
 メリッサは、逞しくなった拓海の姿を見て、笑みを浮かべた。

「ん、タクミパパと、一緒にお遊びする、簡単なお仕事……」
 エミル・ハイドレンジア(aa0425)は、いつもの無表情で呟いた。
『遊ぶのは、演技だ。油断するなよ』
 ギール・ガングリフ(aa0425hero001)は忠告した。

「人命第一だ。判っているとも」
 狐杜(aa4909)は、笑みを浮かべたまま言った。
『私情は捨てろ』
 蒼(aa4909hero001)は、素っ気なく言った。今回の依頼は、狐杜に過去を思い出させるのではないかと蒼は案じていた。

「JC1年生誘拐だと……許せん、ソイツはメチャ許せんお弟者……ッ!」
 阪須賀 槇(aa4862)は、ガチで切れていた。槇にとって、JCは守備範囲なのである。
「フザけやがって! 行くぞ弟者! 不届き者を成敗してくれる!」
『……OK、兄者』
 阪須賀 誄(aa4862hero001)は、短い沈黙のあとで言った。
(時に、兄者もその後に始末した方が良さそうだな)

『誘拐事件? 管轄違いではないか?』
 キリル ブラックモア(aa1048hero001)は言った。
「従魔や愚神が絡んどるかもなんちゃいまっか?」
 関西弁でそう言ったのは、弥刀 一二三(aa1048)。見た目はチャラいが、目つきは鋭い。
『しかし……一般人なら手加減せねばだろう? 面倒く……』
「キリル! ええ所気付きましたな! さっすがうちとは脳みそちゃいますわ~!」
 一二三は、キリルをおだてて、ご機嫌を取った。
『ふふん! 今頃気付くか』
 キリルは満足気である。キリルのやる気がないと、共鳴後の姿が少女剣士になってしまうのだが、今回は大丈夫そうや、と一二三はほっと胸をなでおろした。

 槇は、屋敷の住所と目撃された車の車種、ナンバーをネットでザッと調査した。
「お、裏サイトにて情報ハケーン」
 屋敷に出入りしている車は、小中学校の通学路を頻繁にうろうろしていたらしい。獲物となる人間を探していたのだろうか。
『さて、交渉だな……兄者チェンジ』
 誄は、民間への協力依頼の為の公文書をH.O.P.E.本部に依頼してから、警察に電話し、車のナンバーから所有者を割り出してもらった。その結果、車は盗難車であることがわかった。
 更に、屋敷の管理会社へ公文書をFAXし、『もし死人が出たら……』と圧力をかけて、屋敷の所有者を確認し見取り図を入手した。
 一二三は、手紙の入った壜を拾った少年の詳細や拾った場所、屋敷の所有者の詳細の調査をH.O.P.E.に依頼した。
 少年が壜を拾った場所と海流を考慮すると、壜は屋敷から流されたものと考えて間違いないことがわかった。
 役所で屋敷所有者の人物像、履歴を調べてもらったところ、屋敷の前の所有者が一年前に亡くなって屋敷を相続したものの、現在の所有者は遠方に住んでいるため、誰も住む人はおらず放置されているということだった。屋敷の所有者と犯人は、無関係のようだった。更に、屋敷に出入りする者や、藤崎マリとマリ周辺の怪しい者の聞込み、経歴等詳細も調査してもらったが有力な情報はなかった。
「屋敷の所有者に、屋敷への立ち入りと戦闘の許可をもらいました。鍵は所有者しか持っていないそうです」
 H.O.P.E.職員との通話を終えると、一二三は入手した情報を仲間に伝えた。
「これが藤崎マリはんどす」
 一二三は、入手したマリの写真を仲間に見せた。
「うおっ! マジか!」
 槇は、目を輝かせて写真に見入った。
『……兄者、写真はもういいから』
 誄は、槇を屋敷の見取り図の前に引き戻した。
『さて兄者、何処と見る?』
「うむ、地下室1択だな」
『……何故?』
「漏れだったら絶対、地下室に入れる」
『……』
 まぁ、そこが一番隠し易いか、と誄は思った。
「運動神経ええらしいし、地下やないと逃げれそやな。マリはんは地下にいると仮定して、犯人はどこやろ?」
 一二三は、見取り図を見ながら言った。
「オレが犯人なら全体を見渡せるか、監禁場近くに陣取るだろうな」
 拓海は、見取り図に描かれている部屋を指差しながら言った。
『壜を流せる=海側の部屋かしら』
 メリッサは首をかしげた。
 一二三は、屋敷への侵入のために、応急修理セット、シーフツールセット、万一に備えてライヴスゴーグルを準備した。
 拓海は、マリのために救命救急バッグ、毛布、ヒールアンプル、経口補水液を入れた水筒をそろえた。
 エージェント達は、スマートフォンやライヴス通信機等の連絡先を交換した。
「屋敷内でスマホやなんやかやが使えん時は、指笛で連絡するんでよろしゅう」
 一二三は、指笛を吹いてみせてから皆に言った。

●囮班、始動
 閑静な住宅街を抜ける坂道をのぼっていくと、立派なお屋敷が現れた。
 だが、近づいて見てみると、高い塀にはひび割れが目立ち、屋敷の壁のあちこちに蔦がはっていた。
「……ん、タクミパパ、遅い」
 悪魔を象ったぬいぐるみを抱きしめて、門から中をのぞいていたエミルは、少し遅れてきた拓海を見上げて言った。
 拓海は、屋敷に着くまでの道すがら近隣に聞き込みをしていたのだった。屋敷を出入りする車に乗っていたのは、いつも男性一人であるということがわかった。男性がマリのための食糧を購入しているかどうかは、わからなかった。
 拓海は入手した情報を仲間に伝えると、「さあ、行こうか」と言って重そうな門扉に手を伸ばした。
 ギギーと音をたてて、門が開いた。

 拓海とエミルは、屋敷の正面に立って屋敷を見上げた。拓海の英雄であるメリッサは、すぐに共鳴出来るよう幻想蝶で待機している。エミルの英雄であるギールも、同じく幻想蝶の中にいる。
「囮作戦、開始するよ」
 拓海は、屋敷の周囲の捜索を行っている仲間に連絡した。
 エミルは、屋敷の2階の窓にボールを投げた。ガチャンと音がして窓が割れた。
 少し待ったが、誰も出てこなかったので、拓海は「すみませーん」と大声で呼びかけた。
 エミルと拓海は一般人を装って、演技を続けた。
 玄関のドアがゆっくりと内側に開いた。特に特徴のない30代くらいの男性が立っていた。
「子供とボールで遊んでいたら、ボールがお宅の窓に当たってしまったんです。つい夢中で……ご迷惑を掛け申し訳ない」
 拓海は男性に頭を下げた。
「……ごめんなさい」
 エミルは、男性をじっと見つめて、あざとい感じで謝った。男性は、無言で拓海とエミルの顔を見比べた。
「……おじさんも、一緒に、ボール遊びする?」
 エミルはそう言ったが、男性は「……いや、私は……」と言ってドアを閉めるようなそぶりを見せた。
「あ、窓ガラスは弁償するので」
 拓海は、男性を引きとめた。
「……別に弁償してもらわなくても結構です」
 男性はそう言って、ドアを閉めようとした。エミルは飛び出して、男性にしがみつき、「……おじさん、遊ぼう」と言った。

●少女を探せ
 一二三、槇、狐杜、美津香は、各自の英雄と共鳴を果たした。
 一二三は、長い赤髪に銀髪が混ざった姿となった。
 槇は、髪の先端やネコ耳から赤い炎のような気を放ち、体の随所に緑に光る幾何学模様が浮かび上がった姿となった。瞳はレティクルの模様となった。
 狐杜は、狐耳が生えて狩衣に近い和装姿となった。
 美津香は、共鳴後もそのままの姿であった。
 四人は、屋敷の周囲を調べ始めた。
 美津香は、屋敷の外観や規模などから内部の様子を大雑把に推測し、窓ごしに誰かの姿が見えないか調べた。壜を海まで流せる場所が何処かも推測し、仲間に意見を伝えた。それから、槇と手分けして、屋敷に侵入するのに都合のよい場所を探し始めた。
 一二三は、なるべくライヴスを出さないようにしながら、屋敷外周囲から壜が出せそうな場所をライヴスゴーグルも使って捜索した。
 狐杜は、マリの監禁場所を海側にある部屋と仮定した。さらに、手紙で救助要請という状況から、脚を繋がれているか身体が通れないような窓のある部屋に閉じ込められていると推測した。狐杜はかつて自身が地下に監禁された経験があるので、足下にも注目した。
 屋敷の正面が街に面しているのだから、海があるのは屋敷の背後だろう。
 それぞれ屋敷の周囲を回っていた一二三と狐杜は、屋敷の背後で合流した。
 屋敷の裏側の塀はあちこち崩れており、塀の向こうは崖になっていた。
「あの部屋ではないかな」
 狐杜は、屋敷の下の方にある格子窓を指差した。
 二人は格子窓に駆け寄り、小声でマリの名前を呼んだ。応答はなかった。
「眠ってはるんやろか。それとも、意識がない状態やろか。心配やな」
 一二三は格子窓を調べたが、窓の幅が狭いため、格子を焼き切ったとしても、そこからマリを救出するのは難しそうであった。
 一二三は、マリの監禁場所らしき部屋を見つけたことを仲間に報告した。
「こっちは、侵入場所ハケーン。屋敷の東側、1階のキッチンの窓を割って侵入する」
 槇は、侵入場所を見つけたことを仲間に伝えた。
 美津香は、槇のところに急行した。
 槇と美津香は、音がしないように窓に粘着テープを貼った。
(良い子は真似しちゃだめだ……ぞっと!)
 誄が呟き、槇はひじ打ちで窓を割った。
 屋敷の玄関のほうから聞こえてくる拓海の声に合わせて窓を割ったので、犯人にはその音は聞こえていないはずだ。
 槇は、割れた箇所から手を入れてノブを回して窓を開けた。
 一二三と狐杜も駆けつけ、四人は静かに屋敷に侵入した。
「外から見て1階にも2階にも人影はなかったから、無視していいわ。地下室へ急いだほうがいいわね」
 美津香の言葉に他のメンバーは頷き、一二三と狐杜が先程見つけた地下室へと急いだ。
 一二三は歩きながら、屋敷内でもスマートフォンが使えることを確認した。
 槇は、足元にセンサー等が無いか注意しながら、急な階段を駆け下りた。
 階段を下りると廊下があり、ドアが四つ並んでいた。
「右側の奥の部屋や」
 一二三が言った。
「OK、待っててくれお~……漏れが華麗に……ッ!」
 槇は、メルトリッパーでデッドボルトを焼き切り、ドアを開けた。
 ベッドに腰掛けていた二人の少女が、ハッと顔を上げた。
 美人を前にすると挙動不審になる槇は、その場で立ちつくした。
 狐杜は、槇の脇をすりぬけるようにして部屋に入り、ショートボブの少女にエージェント登録証を見せて言った。
「きみが藤崎でよいだろうか? H.O.P.E.だ。助けにきたのだよ」
 美津香はいったん共鳴を解き、少女達に話しかけた。
「マリちゃんとそのお友達ね。君達を助けにきたわ。お姉さん達が来たからもう大丈夫よ」
『大変でしたね。もう少しの辛抱ですよ』
 アルティラも、マリ達を安心させようと笑みを浮かべて言った。
 マリは、パッと輝くような笑顔を浮かべて、隣に座っている少女に抱きついた。
「ラキルリ! 助けが来たよ!」

●犯人の正体
 男性は、玄関のドアを手荒に閉めた。
 拓海は、男性の後姿をライヴスゴーグルで確認するチャンスがなかったことを少し残念に思いながらも、充分に時間稼ぎはできただろうと判断した。
 拓海とエミルは、帰ると犯人に思わせるためにいったん門を出た。
 拓海は仲間に連絡を取り、マリが見つかったことを知ると、犯人が地下室に向かうかもしれないので注意するように伝えた。
 拓海は英雄と共鳴した。拓海の髪が銀色になり少し伸びた。
 拓海とエミルは、塀を乗り越えて、槇が開けたドアから屋敷内に侵入した。
 2階で物音がした。
 拓海は、口の前に人差し指を一本立てて、「静かに」とエミルに合図した。
「スパイごっこだね……!!」
 エミルは、小声で言って頷いた。
『……嬉しそうだな』
 エミルの抱えているぬいぐるみの中から、ギールがぼそりと呟いた。
 拓海とエミルは、吹き抜けになっている玄関ホールから階段を上って音の聞こえた部屋へと向かい、ドアの隙間から部屋の中の様子をうかがった。
 そこは、エミルがボールを投げて窓ガラスを割った部屋だった。男性は、バリバリとガラスの破片を踏みながら部屋の中をうろうろしていたが、ソファの後ろで立ち止まってボールを拾い上げた。
 男性は、ボールを上に投げた。バンッと破裂する音がして、細切れになったボールの破片がバラバラと落ちた。男性の爪が瞬時に伸び、ボールを切り裂いたのである。
 拓海は勢いよくドアを開けた。
「ん、ピンときた……、人間じゃない、ね……?」
 エミルはそう呟くと、即座に共鳴した。エミルの頭にギールのものと酷似した角が生えた。エミルは電光石火を使用し、目にもとまらぬ速さで男性に斬りつけた。
「今日は、パパとオフの筈だったのに、残念……。どうやら、お仕事の時間……?」
 エミルは、かくりと首を傾け、マリ救出を悟られないように、あくまでも偶発的な遭遇を匂わせることを言った。
 拓海は、ロケットアンカー砲を放った。クローは男性の右腕に絡みついた。
 男性は舌打ちして、姿を変えた。男性の歯は鋭い牙に変わり、両手の爪が長く伸びた。
 人ならざる姿をあらわにした愚神は、鋭い爪で一撃してクローを破壊した。
「ん、一緒に遊ぼう……。ワタシは、遊び相手を、所望する……」
 エミルは、相手を挑発しながら、逃げられないように位置取りをして攻撃を行った。
 拓海は、機動性を重視して金槌に持ち替え、メーレーブロウを発動した。掠るような攻撃をあえてもらい、愚神の防御力を下げた。
 愚神がドアに向かおうとした。エミルは愚神の前に回り込み、電光石火で愚神の行動を阻害した。マリが救出されるまでは、愚神を取り逃がすわけにはいかない。
「知らなかった……? 大魔王(ワタシ)からは、逃げられない……」
 エミルは、呟いた。

●愚神との戦闘
 狐杜は、金髪の少女のほうに首を傾けて、マリに尋ねた。
「彼女は?」
「ラキルリです。わたしの英雄です」
「……英雄ならば、一度彼女の幻想蝶に入ってもらう事は出来るだろうか? 犯人が脱走に気付く可能性を少しでも減らしたいのだ」
 狐杜は、犯人が愚神と判明した時は戦闘の流れ弾に当たる可能性を減らしたいことも合わせてマリに説明した。
「わかりました」
 ラキルリは、マリがペンダントとしてつけている幻想蝶の中に入った。
「もう安心や! 後は任してゆっくりしてや!」
 一二三はマリを励ましてから、犯人捜索のためにその場を後にした。一二三が1階に着いたところで、拓海から仲間に愚神との戦闘に入ったことを知らせる連絡があった。一二三は2階に急いだ。
 残された槇、狐杜、美津香は、拓海達が愚神と戦っている間にマリを外に連れ出すことにした。
 まず槇が先頭に立ち、安全を確認してから、後方に合図を送った。再び共鳴した美津香、マリ、狐杜の順番に階段を上って1階に着いた。最短ルートで外に出るために、エージェント達は警戒しながら、玄関ホールへ向かった。

 部屋の中では、拓海、エミルが愚神と戦っていた。
 一二三は、ドアのところからロケットアンカー砲を放った。愚神は右腕に絡みついたクローをグイッと引っ張って一二三を引き寄せると、その横を通りぬけ、部屋を飛び出し、吹き抜けになっている玄関ホールの2階から1階へと飛び降りた。飛び降りた先は、マリ達の目の前であった!
 狐杜は、味方に声をかけてフラッシュバンを使用した。愚神がひるむ。
「いたいけな少女を拐う変質者にはキツいお仕置きが必要ね!」
 美津香はそう言うと、リンクコントロールでリンクレートを上げてライヴスブローを使用した。
(これ以上この子達を怖い目に合わせる事は許しません)
 アルティラは決然と言った。
 愚神を追っていた一二三、拓海、エミルも、2階から1階に飛び降りた。
 一二三はクロスガードを使用し、剣で愚神を攻撃した。
 愚神は攻撃されながらも、マリの方に手を伸ばして歪んだ笑みを浮かべた。
 狐杜は、威嚇射撃を行って言った。
「彼女に触れるでないよ。欲にまみれたその手でね」
 愚神は苛立たしげに一声吠えると、マリに飛び掛かった。
 美津香は、ハイカバーリングを使用し、自らの体を盾とした。
「つっ……! 私がいる限り、この子達に手を出させないわ! レディに手をかけたからには覚悟は出来てるんでしょうね!」
 一二三は、守るべき誓いを発動した。愚神は、長い爪を振り回して一二三を攻撃した。一二三は、剣でその攻撃を受け流した。
「さ、急ぐべし」
 槇は、玄関のドアを開けて、マリを屋敷の外の安全な場所へ連れ出した。
 拓海は、愚神が一二三と戦っているところを狙って、疾風怒濤を使用した。
 狐杜は、後衛から弓で矢を放って愚神を攻撃した。
 美津香は、ライヴスブローを使用した。
 マリを避難させて戻ってきた槇は、射手の矜持を使用してから、フラッシュバンを使用した。
「これは急なお仕事に怒るワタシの分、これはパパの分、そしてこれは、失くしちゃったボールの分……!」
 エミルはそのチャンスを逃さず、疾風怒濤で容赦無く攻撃した。
 一二三は、ライヴスブローを使用して、剣で愚神に斬りつけた。
 愚神は、狐杜に襲いかかり、鋭い歯で噛みついた。
 狐杜は、わざと抵抗せずに大人しく血を吸われつつ、武器を苦無に持ち替え、愚神の首を狙ってストライクを使用した。
 愚神が慌てて飛び退る。
 槇は、シャープポジショニングを使用し、愚神の足に銃弾を撃ち込んだ。愚神は長い爪を振り回し、反撃した。
 一二三は、愚神の手と顔を狙って、剣で攻撃した。
 美津香は、三度ライヴスブローを使用した。
 エミルは、疾風怒濤を使用した。
 一二三は、愚神が口を開けた瞬間を見逃さず、愚神の口に右の拳をぶち込み、喉の奥を躙って、言った。
「機械オイルの味はどないや?」
 一二三は、左手に持った剣にライヴスブローでライヴスを纏わせると、剣で愚神を斬り下ろし、愚神を蹴り飛ばした。
 狐杜は、刀に持ち替えて、愚神に斬りつけた。
「ヒフミ!」
 拓海は、一二三に合図してから、ロケットアンカー砲を放った。クローは愚神の右腕に絡みついた。
 一二三も同じく、ロケットアンカー砲を放った。クローは愚神の左腕に絡みついた。
「犯人ゲット。テメーは許さんお」
(……兄者じゃないけど、逝ってよし)
 槇は、シャープポジショニングを使用し、身動きの取れなくなった愚神の心臓めがけて銃弾を発射した。
 愚神は息絶えた。

●少女達のこれから
 エージェント達は、共鳴を解いて、屋敷の外に避難していたマリ達のところへ向かった。
 マリとラキルリは、屋敷の塀にもたれて地面に座っていた。二人とも疲労の色が濃い。それでも、二人はエージェント達の姿に気づくと笑顔を見せて、礼を言った。
「よく頑張ったわね。偉いわ」
 美津香はマリ達にそう言うと、「頑張ったご褒美よ」とチョコレートを二人にあげた。悪い夢は少しでも忘れさせてあげたい、という美津香の優しい心配りであった。
「遅くなってすまなかった。よければこれを」
 狐杜もそう言って、マリ達にチョコレートを渡した。
「ありがとうございます! パンと水以外のものなんて、何日ぶりだろ」
 マリは、にこにこしながら、チョコレートを食べ始めた。
「それから、念のために回復薬を使いたいのだが、構わないかな?」
 狐杜はマリに聞いてから、念のためにヒールアンプルをマリに使用した。
「きみを助けられて、よかったのだよ」
 狐杜は、微笑みながら言った。
「無事で良かった……能力者なのが幸いしたね」
 拓海はマリに声をかけ、同じくヒールアンプルをマリに使用した。
 元気を取り戻したマリは、愚神にさらわれた時の様子や監禁されていた時の様子をエージェント達に話した。
 ラキルリが誓約を破棄しようとしたことを知ると、メリッサは真剣な表情になって言った。
『遊びで誓約したの?』
 ラキルリは首を横に振った。
『能力を持った以上マリちゃんのこれからはもっと厳しいわ……簡単に解除とか言わないで』
 メリッサは真摯に言った。これまで拓海と二人で幾多の戦いを経験してきたからこそ、少女達に伝えなければならない言葉だった。
「……リサ」
 拓海は、メリッサを止めて、マリとラキルリに言った。
「誰も代われない特別な繋がりが出来たんだ。互いに離すなよ」
 マリとラキルリは、顔を見合わせてしっかりと頷いた。
『……でも、これからどうすればいいの。今のままじゃ……』
 ラキルリは、目をうるませながら呟いた。
「そんな時は、H.O.P.E.にお任せ、やで。身が守れる方がええやろし」
 一二三は、H.O.P.E.へ連絡し、マリ達の保護と能力育成を提案した。
「わたし達も、みなさんみたいに強くなれるかなあ」
 マリは、いたずらっぽい微笑みを浮かべて言った。
「大丈夫。お互いを信じて日々精進すれば、きっと、なれるわ」
 美津香は、優しく言った。

『……重ねたか』
 蒼は、狐杜に言った。
「アオイ、わたしは決して重ねていないのだよ。妹と彼女を重ねる事など、断じてだ」
 狐杜は、いつもと変わらぬ笑みを浮かべながら、飄々と言った。
 
「……パパ、ボール、なくなっちゃった……」
 エミルは、拓海の袖をひっぱって言った。
「そうだね。ボール、買って帰ろうか、エミルちゃん」
 拓海は、エミルの頭を撫でながら言った。だいぶ父親役が板に付いてきたようだ。
『拓海パパ~♪』
 メリッサは、ふざけて拓海を呼んだ。
「からかわない」
 拓海は、微笑んだ。

『結局、兄者はJCと話せなかったな』
 誄は、ぽつりと言った。
「漏れの勇姿は、あの子の目に焼き付いている筈。まだチャンスは……あるッ!」
 槇は、拳を握りしめた。
 誄はあきれて肩をすくめた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 死を否定する者
    エミル・ハイドレンジアaa0425
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049

重体一覧

参加者

  • 死を否定する者
    エミル・ハイドレンジアaa0425
    人間|10才|女性|攻撃
  • 殿軍の雄
    ギール・ガングリフaa0425hero001
    英雄|48才|男性|ドレ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
  • 今を歩み、進み出す
    狐杜aa4909
    人間|14才|?|回避
  • 過去から未来への変化
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