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ペンギンキンキン
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タマらんど救助相談板
最終発言2017/08/14 09:21:39 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/08/14 17:23:13
オープニング
「あ〜〜〜! あっつーい!」
もともと露出度の高い衣服を着ているにもかかわらず、沙羅はうんざりとした調子で叫んだ。
「……」
沙羅の隣を歩く、いかにも暑そうな出で立ちのヴィクターは無言のままだ。
「あ〜〜〜! ダメ! もう我慢できない!!」
そもそも我慢などいつしたのか、ずっと愚痴を言いながら歩いていた沙羅が進むべき道から外れて商店街へと入った。
「……おい! 沙羅、H.O.P.E.はそっちじゃないぞ!」
沙羅は通い慣れた道を進み、猫カッフェの扉を開ける。
「タマ子ちゃん、なんか冷たいものちょうだーーーい!」
沙羅の言葉に、タマ子はお店の奥のキッチンから飛び出してきた。
「ちょうどいいところに来たわ! かき氷器を止めて!!」
「かき氷?」
「みーちゃんのところからちょっと拝借してきたかき氷器の動きが止まらなくて大変なのよ!」
キッチンを覗いた沙羅とヴィクターは、床が細かな氷で埋め尽くされていることに驚いた。氷は、やけにでかいペンギン型のかき氷器から溢れ出ている。
「……九条のとこから持ってきたということは、あれはただのかき氷器じゃないだろう?」
ヴィクターの視線から、タマ子はすいっと逃げるようにその目をそらした。
「……」
ヴィクターはため息をひとつ吐くと、九条に電話した。
『なんだ? いま、開発中のかき氷器が行方不明で、ちょっと忙しいのだが……』
「それなら、猫カフェにある」
『またタマ子か!!!』
「氷が床を埋め尽くしているんだが……これはどうやったら止まるんだ?」
『原料の水がなくなれば止まるはずだが、近くに水道など、原料になるものがあれば、自分で水を補給してしまう……床が氷で埋め尽くされているということは、すでに水道からの自動給水をしているんじゃないか?」
ヴィクターが可愛らしい見た目のかき氷器に視線を向けると、水道の蛇口に短いホースがつき、ペンギン姿のかき氷に水が供給されていた。
『自動給水をしてしまっているなら、まずは原料である水を止めてくれ』
九条は『それから』と言葉を続けた。
『その氷、生物の体内でのみ溶ける特殊構造だから……ま、頑張れよ』
解説
●目標
・かき氷器の動作を止めてください。
・作られてしまったかき氷の片付けをしてください。
●登場
・ペンギン型かき氷器
高さ1メートル 幅50センチ
・猫崎タマ子 トラブルメーカー
●場所と時間
場所:猫カフェ タマらんど
時間帯:日中
●状況
・猫カフェ タマらんどの店主:猫崎タマ子はいとこの九条光(くじょう みつる)が開発中の自動かき氷生成マシーン(かき氷器)を無断拝借した。
・その結果、猫カフェのキッチンの床がかき氷で埋め尽くされています。
・かき氷器は原料である水を補給できるものがあれば、自動的に給水動作を行います。
・現在は水道の蛇口にホースを自動でつなぎ、全力給水中。
・猫たちはこんな騒動が起きていることなど知らずに、のんびりしています。
・猫カフェ常連のPCは、猫カフェを訪れたところでタマ子に助けを求められます。
・猫カフェに来たことのないPCは、H.O.P.E.にて、九条の相棒のフィリップからタマ子を助けるように頼まれ、猫カフェを訪れます。
●PL情報
・かき氷用のシロップは猫カフェにいろいろと用意されています。
・猫ちゃんが食べれるシロップ(?)を考案してあげると、猫&タマ子が喜びます。
リプレイ
●タマらんど集合
ただいま、猫カフェ タマらんどの店内はトラブルメーカーの店長のせいで絶賛事件発生中。そんなこととは知らずにカフェを訪れたのは、木霊・C・リュカ(aa0068)、紫 征四郎(aa0076)、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)、ガルー・A・A(aa0076hero001)の常連一行だ。
「タマ子さん、あなたを輝かす一屑の星、ガルーが来ましたよ〜!」
陽気にカフェの扉を開いたガルーは、カフェのなかがいつもよりもひんやりとしていることに気がついた。
「いらっしゃい! ちょうどいいところに来てくれたわ!」
店の奥のキッチンからタマ子が急いで出てくると、タマ子はリュカと征四郎の手を取り、ぐいぐいと中へと引きずった。
「……冷やっこい、な」
キッチンの中に入ったオリヴィエは眉間にしわを寄せる。
「いやぁ、まさに南極みたいだねぇ」
目が見えないからこそ、リュカの肌は敏感にその場の異常さを感じ取った。
「ペンギンなのです!! かき氷なのです!!」
征四郎の言葉に「ペンギン? かき氷?」と首をかしげるリュカに、ガルーが端的に説明する。
「でっけーペンギン型のかき氷器がかき氷を作り続けてて、かき氷がキッチンの床を覆い尽くしてるな」
「ヴィクター! ご無事ですか!?」という征四郎の言葉に、リュカはその場にヴィクターがいることを知る。
「ヴィクターくんも来てたんだ」
「ああ……かき氷器を止めたいんだが、かき氷で床が滑ってなかなか近づけないんだ」
ヴィクターの話を聞いて、ガルーは気合いを入れる。
「沙羅さん! タマ子さん! ここはひとつスパッと俺が解決してみせましょう!!」
営業スマイルを作ったタマ子は、「それじゃ、よろしくね!」と、接客のために猫たちがいる部屋へ向かった。
猫部屋では、九重 陸(aa0422)が猫たちを猫じゃらしで遊ばせていた。
「エリック」と、オペラ(aa0422hero001)は猫たちの姿に頬を緩めている陸の顔を覗き込む。
「……お、俺じゃないっすよ、この子たちがジャレてくるから仕方なく……っ!」
そう言いながら、陸は右手で猫じゃらしを振り、左手で猫の顎の下を撫でるのをやめない。
(ツンデレ可愛いなぁ〜)と、オペラは陸を愛でる。
皆月 若葉(aa0778)もまた、猫たちと一緒に遊んでいた。
「猫が沢山……かわいい!」
「猫と遊ぶのもいいが、まずは氷の処理だろ? なんで、先にこっちの部屋に入っちゃったんだ?」
そんなラドシアス(aa0778hero001)の言葉を聞きつけたタマ子が、「もしかして、エージェント?」と聞いた。
「あ、そうです! H.O.P.E.でフィリップさんって人に声かけられて来ました」
ビシッと答えながらも、若葉も猫を撫でる手を止めない。
「猫たちとは後で遊んでくれていいから、キッチンのほう、お願いできるかしら?」
「俺たちも、エージェントです」と陸が名乗り、タマ子は彼らをキッチンへと案内した。
そこに、再びカフェの扉が開き、荒木 拓海(aa1049)とメリッサ インガルズ(aa1049hero001)、狒村 緋十郎(aa3678)とレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)が入ってきた。
「タマ子さん初めまして~! フィリップさんから……」
拓海の挨拶を最後まで聞かずに、「こっちこっち!」とタマ子は手招きしてキッチンへ案内する。
「九条さんの所から持って来ちゃうなんて、タマ子さん、やりますね〜!」
巨大ペンギンを見て、メリッサが言う。
「みーちゃんの代わりに私が活用してあげてるのよ♪ 使ってみて初めてわかることもあるじゃない?」
「なるほどなるほど。拓海、タマ子さんの意を無駄にしないためにも、ファイト♪」
レミアはどんどん溢れ出てくる細かな氷の粒に呆れた視線を送った。
「偶然にお店の前を通りかかって、懐かしさから入ってみたら、大変なことになってたわね……」
レミアの言葉に緋十郎も頷く。
「ここは落ち着いている時ってあるのか?」
「わかんないけど、とりあえず、あの氷の粒の山に緋十郎を頭から突っ込んであげたいわね」
「……」
「大丈夫よ。私が重石代わりに乗ってあげるから、そうそう簡単には抜けられないわ」
緋十郎の頬が興奮から染まる。
●ぺんぎんとぺんぎんとねこねこねこ
でかいペンギンがひたすらにかき氷を作り続けている光景を見て、陸は言った。
「機械なんだから最悪解体(バラ)せば止まりますよ。だから駄目そうなら俺が解体して……」
そう言いながら陸の目が涙目になっていく。
「……この愛らしいペンギンさんを……解体……」
「エリックったら……」
オペラが陸の頭を撫でる。
「だ、だ大丈夫! 俺は任務のためなら非情になれる男っす!」
オペラを心配させまいと気丈に、力強くそう言ったけれど、その目にはたっぷりと涙が浮かんでいる。
若葉は床に積もった氷に注目していた。
「これはまた……見事に氷だらけ、だね」
「まずは、止めないとな。電源はないのか……」
ラドシアスがペンギンに近づこうと、氷の山に足を踏み入れたが、その瞬間、滑って危うくこけそうになった。異常に滑りやすい状況に、誰もペンギンに近づけていない事情がすぐにわかった。
「スイッチを切るか、蛇口を閉めればいい……という、簡単な話じゃなさそうだな」
神妙な表情になったラドシアスに、若葉も「だね……」と頷く。
「なかなか難しい状況みたいね……」
レミアも珍しく神妙な顔をしながら、「こんな時はあれよ……」と、緋十郎の背中に両手を添えた。
「気力で頑張るのよ!」
なんの計画もないままに、レミアは緋十郎の背中を目一杯押した。そのまま緋十郎はバランスを崩して、顔面から氷の山に突っ込んだ。
「……痛いぞ。レミア」
振り返った緋十郎の顔は、氷の粒の硬さと冷たさにより真っ赤になっていたが、嬉しそうだ。
「……相変わらずの変態っぷりね」
メリッサが生暖かい眼差しで見守る後ろで、陸と若葉は初めてみるナマ変態に引き気味だ。
「ペンギンにはペンギンを! さあ、ガルー!! これを着て止めに行くのです!」
「えっ! それ、俺様に拒否権無いの……!?」
征四郎がガルーにペンギンドライブを無理やり着せている隣で、リュカとヴィクターは地道に清潔な部分の氷の回収を始めた。
「とりあえず、猫たちのいる部屋じゃなくてよかったよね。ここに猫毛が入ったら大変だもんね〜」
なんて言っているリュカの後ろで、オリヴィエが言った。
「お前らはうっかり者になっちゃ、駄目だぞ」
オリヴィエの言葉に、答える可愛い鳴き声。
「……オリヴィエ、どうして猫たちを連れてきちゃったのかな?」
「身軽なこいつらのほうが役に立つかと思って」
オリヴィエの真面目な答えに、リュカは「あー……」と答えを漏らし、それから満面の笑顔を見せた。
「うん! すっごくいいアイデアだと思うよ!」
「リュカ、さっきと言っていたことが……」と、突っ込むヴィクターの口をリュカは氷で冷えたその手で塞ぐ。親バカならぬ、相棒バカである。
「発射よーい!」
ガルーにペンギンの着ぐるみ……もとい、ペンギンドライブを着せた征四郎の声がその場に響く。
「ゴー!」と、ラドシアスとヴィクターの力を借りて、ガルーの体を氷の上を滑らせる。
ガルーの体は氷の上をすーっと、本物のペンギンのごとく進む。
それゆえに……ブッチー、虎之助、グゥのやんちゃ三匹、大興奮! ちなみにオリはオリヴィエの頭の上で高みの見物である。
「あーもう! ブッチー虎之助、今のはグゥか! まとわりつくなって!!」
猫たちに気を取られて、ペンギンかき氷器の前を通り過ぎるガルー。
「ガルー! なにやってるんですか!」
征四郎は頬を膨らませてガルーを注意したが、彼の近未来の悲劇が予想でき、「あ……」とつぶやいた。
次の瞬間、ガルーは壁に激突し、強制停止。
その場の全員が微妙な空気になった時、キッチンの灯りが消えた。
「停電ですか?」
オペラのつぶやきに、いつの間にかキッチンから離れていた拓海が戻ってきて説明した。
「ブレイカー落としてみたんだけど、どうかな?」
「ペンギン、止まってるっす!」
陸はペンギンを破壊する必要がなくなったことに心からホッとする。
●にゃんこシロップ
止まったペンギンを回収するにも、まずはかき氷をなんとかしないことには近づくことができない。
リュカはオリヴィエと共鳴し、床についておらず、さらにガルーが走行もしていない綺麗な部分のかき氷を大きなお皿に掬っていく。
「床についてしまっている部分は魚屋さんとかで利用してもらってもいいかもしれないね」
リュカの提案に、タマ子が「それいいわね♪」と手を叩いた。
「ご近所に恩を売っておくのも大事よね〜♪」
「いや、そういう意味で言ったんじゃないんだけど……」
タマ子は都合のいいことしか聞いていない。床についてしまった氷を集めると、早々に魚屋さんへ運んで行った。
「ああ、無事止まってホント良かったっす……」
陸も清潔なかき氷を集める。
「うふふ、エリックは優しいですね」
オペラは陸の頭を撫でる。
「もう、子供扱いはやめて下さいって! ……ところで、この氷どうします?」
「いただきましょう。エリックならこれくらいの量、ペロリでしょう?」
「そりゃ胃袋は余裕っすけど、頭痛がなぁ……」
「頭痛?」と、オペラが小首を傾げる。
「にゃんこにもかき氷作ろう!」
若葉の提案に、魚屋さんから戻ってきたタマ子は喜ぶ。
若葉は猫用ミルクを加熱してホットミルクにし、そこにすりおろした林檎を少量加えた。
「かき氷の冷たさで猫の胃腸に負担がかかると悪いから温めてみたけど……すこし冷ましてからがいいかな?」
「与えすぎには注意、だな」とラドシアス。
「拓海が美味しい氷を作ってくれるわよ〜」と、メリッサは腕に抱えた猫をもふもふと撫でていた。
「こら~! 先に仕事ー!」と言いつつも、拓海もメリッサの腕のなかの猫を撫でる。
メリッサはタマ子に猫を預けると、腕をまくった。
「オーソドックスだけど鰹節出汁が定番の母の味と思うのよ」
メリッサは鰹節の出汁を取り、かき氷にかけると、その上に再び鰹節を少量ふりかけた。
「メリッサさんが作ったシロップ、猫たちすごく喜びそうだね!」
若葉の言葉にメリッサは微笑んだ。
「ありがとう。若葉のも、美味しそうね」
「リュカのはいい香りだな」
ラドシアスがリュカの手元を覗く。
「バニラエッセンス入れたんだ〜♪」
「オリヴィエくんはなにを入れてるんっすか?」
陸が見ると、オリヴィエはミキサーでなにやら怪しい色の液体を作っていた。
「これはオリ用だ」
そう言いながら、オリヴィエがミキサーの蓋をあけると、オリがオリヴィエの前に座り、かき氷待ちをする。
猫用ミルクと猫草を混ぜてミキサーにかけ、そこに氷をすこしだけ混ぜて、猫草を刻んだものをトッピングした。
「ほら、できたぞ」
オリの前に置くと、オリはさっそくかき氷入りの猫草入り特製ミルクを舐め始めた。
オリがすごく美味しそうに舐めているのを見て、ミキサーに残っているものをオリヴィエは指で取り、舐めてみる。それはまるで青汁のような味だった。
「健康には……良さそうだな……」
ガルーは氷の上に1センチ角に切った桃を飾って、スイカで甘みをつけた豆乳のシロップをかけた。
「できた! 猫用かき氷パフェ!」
やんちゃ三匹がすぐに飛びつく。
「美味しそうな匂いだね! お兄さんも食べたいな〜」
リュカがかき氷パフェに顔を寄せると、ブッチーがリュカの頬をペチッと肉球で叩いた。
「みんなのはこれから作るから、ちょっと待ってて」
ガルーの言葉に、ラドシアスが驚く。
「……人用も準備したのか、手が込んでいるな」
オペラは陸がおたまでかき回している寸胴鍋のなかを覗いた。
「エリックはお鍋で何を作っているのです? なにやら良い匂いがしますけど……」
「鶏ガラと野菜からブイヨンを煮出してるところっす。冷ましてかき氷にかけて、ボイルした野菜を載せて冷静スープみたいにいただこうかと思って。こうして作った自家製のスープなら人も猫も同じものが食べられるかなって」
もちろん、猫に有害な野菜は入っていない。
「それにしてもあっつい……こんな真夏に鍋かき回すなんて我ながら正気の沙汰じゃないっす!」
●実食
エージェントたちが猫&人用のシロップを作っている間、彼らが見ないように気をつけていた存在がいる。
それは、レミアの指示により床に這いつくばって氷を食べている緋十郎である。
最初は四つん這いになって床を舐めるようにして食べていた緋十郎だったが、徐々に氷を食べるペースは落ち、四つん這いの体勢も辛くなってきたようだった。
レミアはしゃがみ、大きなスプーンで氷を掬って緋十郎の口元に持って行ったが、すでに氷の冷たさで唇の感覚を失っている緋十郎はうまく口を開くことができない。
「あら、せっかくご主人様が食べさせてあげるっていうのに……下僕の分際で、まさか要らないなんて言わないわよね?」
緋十郎の耳元にレミアは口を寄せる。
「ほら、緋十郎……口を開けなさい。開けないのなら、無理矢理捩じ込むわよ?」
そう言ってから、レミアは「ああ」と甘い声を出した。
「それとも、そういう風に乱暴にされる方が、嬉しいのかしら?」
レミアの声、四つん這いの自分に上から注がれる見えない視線に緋十郎は興奮し、冷え切っていたはずの体が熱を持つ。
宣言通りに、レミアは緋十郎の口にスプーンを押し込み、緋十郎の自虐心を満たす。
「そういえば、シロップを忘れてたわね……」
タマ子が用意していたイチゴシロップを緋十郎の目の前に滴らせ、レミアは「さぁ、おいしくなったわよ?」と、緋十郎の頭を踏みつけた。
レミアの容赦のない愛情の示し方に緋十郎は意欲を回復させ、シロップのかかった氷を舐め続ける。しかし、緋十郎のやる気に反して、体は素直に限界を伝える。頭は痛み、体は冷え、口の感覚はない。
「あら、やだ……もう限界なの? まだこんなにあるのに?」
レミアは両手で氷をすこし掬い、今度はまるで子猫にミルクをあげるような柔らかな微笑で緋十郎の口元にそれを持っていった。
真っ黒な羽をつけた天使のようなレミアの微笑に、緋十郎は理性を失い、レミアの細い指にしゃぶりついた。
「やぁね、汚らわしい豚みたいで……カワイイ」
恍惚とした表情でレミアの指をしゃぶり続ける緋十郎の姿に、レミアもうっとりとする。
「……オペラさん? どうしたんっすか?」
レミアと緋十郎が艶めかしい雰囲気になってきた時、オペラにその両目を塞がれた陸は首をかしげる。
「ガルー?」
「どうした? リュカ?」
こちらも、相棒に両目を塞がれている征四郎とオリヴィエ。
目の前でレミアと緋十郎が特殊な次元でいちゃついているが、子供達にはいちゃついている以外のなにかに見えるであろうため、強制目隠しである。
「みんな〜! 猫部屋でかき氷食べるわよ〜♪」
機転を利かせて、メリッサが平和な部屋へのガイドを買って出た。
猫たちに特製シロップをかけたかき氷を振る舞うと、猫たちは美味しそうにかき氷を舐めた。
「ヴィクターさんもオーバーヒート防止にどうぞ♪」
メリッサが渡してくれたかき氷を食べたヴィクターはその頬を緩める。
「沙羅さーーーん! 心を込めて作りました! 食べてください!」
ガルーが沙羅にかき氷パフェを差し出す。猫型白玉とフルーツが乗った可愛い仕上がりである。桃を煮詰めた甘いシロップは香りが高く、沙羅は素直に「美味しい!」と称賛した。
「リーヴィはこれな」と、ガルーはオリヴィエにかき氷パフェを渡す。
「その白玉、すこしオリに似てるだろ」
そう言われて、オリヴィエはオリと目を合わせる。
「どうした?」
「……いや、相変わらず、マメだな、と思っただけだ」
そう言ったオリヴィエは柔らかく笑う。
猫たちが冷たいかき氷を食べすぎないように気を配るリュカに征四郎が無邪気に抱きついた。
「リュカ、かき氷一緒に食べましょう! 宇治金時、好きですよね?」
征四郎はリュカのために抹茶シロップをかけ、あんこと猫型白玉が乗ったかき氷を持ってきた。自分用にはガルーのかき氷パフェである。
リュカがお礼を言って受け取ると、猫たちが足元に寄ってきた。
「食べ過ぎはダメなのですよ! 逆に夏バテするってガルーが言ってました!」
猫たちにそう語りかける征四郎に、「それはおまえさんも同じだぞ」とガルーは征四郎のかき氷を取り上げた。
「これ三杯目だろ? ちょっと休憩な」
「え〜」と征四郎が頬を膨らませると、「はい。せーちゃん」と、リュカが温かいお茶をくれた。
「リュカ、ありがとうなのです!」
「あんまり甘やかすなよ。リュカ」
若葉とラドシアスもかき氷を食べる猫たちを愛でていた。
「はは、旨いか? そうか! ふふ……お前、かわいいなぁ」
まるでお礼を言うように若葉の膝に頭を擦り付ける猫を若葉は撫でる。
ラドシアスは猫じゃらしを巧みに動かして猫たちを魅了する。
「二人もしっかり食べてね!」
メリッサが持ってきてくれたかき氷を口に入れると、口のなかですっと氷は溶けた。
「口に入れたら溶けた……不思議だね。でも、美味しいや♪」
「……原理が気になるな」と、ラドシアスはかき氷をまじまじと見つめる。
頭を押さえて辛そうなのはオペラだ。
「……」
「だーから言ったじゃないっすか! いっぺんに食べると頭痛するって……」
「だってだって、カキ氷が美味しいのがいけないのです!!」
「カキ氷でここまで興奮するなんて、安上がりな女神様だなー……」
しかし、そういうところがオペラのいいところでもあることは陸が一番知っている。
拓海は陸が作っていたスープのかき氷を食べる。
「サッパリしてて旨いな!」
その美味しさに二口、三口とかき氷を口に運んでいたが、その手を止め、額を押さえた。
「……キタキターっ!」
キーーーンと頭が痛んだが、これも美味しいものを食べるための試練のような気がした。
「……くぅ、キーンときた」と、こちらも頭を抑えた若葉。
「急いで食べるからだ。茶でも飲んどけ」
ラドシアスがお茶を渡す。
「ありがとう……美味しいけど、三杯目は無理かな……」
そう言いながら、若葉は自ずとまだ戦っているであろう緋十郎がいるキッチンの扉へ視線を向けた。
「緋十郎ちゃんには薬を用意しておこう……」と、ガルーもキッチンへ視線を向ける。
拓海の目前にずいっと真っ白なニャンコが差し出された。
「猫だるま、つくってみたよー☆」
かき氷を食べるのに飽きてきたリュカは創作を楽しんでいたようだ。
リュカが差し出した猫だるまをじっと見つめて、拓海はガラス製の食器に猫だるまを入れると、青いシロップを猫だるまの下の部分にかけた。
「これで、商店街のお客さんたちに配ったらどうかな?」
「すっっっごくかわいいですから、きっと皆さん喜ぶのです!」
征四郎はその目を輝かせた。
エージェントたちは猫だるまを大量生産するためにキッチンへ戻った。
「狒村、大丈夫かー?」
緋十郎はレミアの膝枕で休憩していた。
床を埋めつくていた氷はかなり減り、ペンギンにも近づけるようになっていた。
「これでスイッチが切れるな」
ガルーの言葉に「そうですね!」と征四郎はうなづき、ペンギンまで駆け寄ると後ろにあったスイッチをオフにした。
「それじゃ、余ってる清潔な氷で猫だるまを作ろう!」
拓海の声を合図に、エージェントたちは猫だるま製作に励む。ついでに、床にまだ残っていた氷は、拓海のアイデアにより袋に詰めて、小さな氷嚢にすることにした。
「よっし!」と、オリヴィエと共鳴していたリュカが満足げな声を上げた。
「看板できたよ!」
オリを片手で抱っこして、リュカは片手で画用紙を掲げてみせる。
『かき氷、ありマス』の字と、『氷』の点のところにはオリの足跡がついている。ついでに、リュカのほっぺにもオリの足跡がついていた。
「こっちも猫だるま、沢山できたのです!」
征四郎が言う。
「それじゃ、配りに行こう!」
客寄せのために拓海は着ぐるみを着て、ヴィクターはきぼうさヘアバンドをつけさせられ、メリッサから笑顔の指導を受けた。
商店街のお客さんたちに配られた『猫だるまかき氷』と氷嚢は評判を呼び、拓海の着ぐるみ姿とともにSNSに流された。
猫カフェ タマらんどには一時、人が殺到し、『猫だるまかき氷』は夏の看板メニューとなった。もちろん、かき氷は市販されている小さなペンギン型かき氷器で作られている。