本部

春霞のような

花梨 七菜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/04/25 20:17

掲示板

オープニング

●お花見
 満開の桜の下を缶ビール片手に後藤は歩いていた。道の両脇では、花見客がレジャーシートの上で宴会をしている。
 桜はきれいだし昼間からビールが飲めるし、最高だな、と後藤は思った。
 屋台で焼き鳥を買って食べたり、桜の写真を撮ったりしながら、一時間くらいうろうろしていると、さすがに疲れてきた。後藤は、人の少ない場所で休憩しようと桜並木を離れて細い道に入った。
 どこかでカラスがカーカーと騒いでいるのが聞こえた。静かな場所で休もうと思っているのに……。引き返そうかどうしようかと迷いながら進むと、道の真ん中に女性が立っていた。
「すみません。助けてください」
 女性は、おずおずと言った。
「はい?」
「動けないんです。桜をバックに自撮りをしようとしたら、動けなくなってしまって……」
 女性は、両手をだらんと垂らした姿勢で立っていて、女性の爪先から少し離れたところにスマートフォンが落ちていた。
 後藤は女性に数歩近づき、異常に気づいた。
 女性の足、手、頭……体中に白い糸がくっついており、背後の桜の木へとつながっていた。その桜の木からは更に多くの糸が、周囲の木へとのびていた。桜の花は白い糸に覆われて、ぼんやりと霞んでいた。
 カラスのけたたましい鳴き声が、ふいにやんだ。
「あの、自分が今、どういう状況かわかっています?」
「わかっているような、わかっていないような。頭が理解することを拒否しているような」
 女性の返答を聞いて、「まあ、そのほうがいいんだろうな」と後藤は思った。女性が自分の直面している状況を認識してしまったら、パニックになるだろう。女性の斜め上、4メートルくらい離れたところで、巨大な蜘蛛が巣にかかったカラスに糸を巻き付けているのだから。
 今のところ蜘蛛はカラスを襲うのに夢中だが、女性の存在に気づくのは時間の問題だろう。
「今、助けを呼びますから」
 後藤はそう言ってスマートフォンを取り出したが、女性の目の前で蜘蛛という言葉を口にするのはためらわれた。
「……ちょっと電波が悪いみたいなので、向こうでかけてきます」
「待って。一人にしないでください……」
「すぐに戻りますから。動かないで、じっとしていてください」
「動きたくても動けないんですよ」
「あっ、そうでしたね。ともかく静かにしていてください。5分で戻ります」
 後藤は、小走りにその場を離れた。

●巨大蜘蛛を倒せ!
 H.O.P.E.敷地内のブリーフィングルームで、職員が説明を始めた。
「桜の名所として有名な公園に従魔が出現しました。巨大な蜘蛛の姿をした従魔です。従魔は公園の片隅に巣を張っています。その巣に女性一名がかかってしまい、現在動けない状態だそうです。従魔は巣にかかったカラスを捕食中ですが、それが終わったら次に狙われるのは、その女性ですね……。従魔が出現した場所は桜並木から少し離れた場所なので、他の花見客に気づかれずに従魔を討伐できると思います。女性の救出と従魔の討伐、よろしくお願いします」

解説

●目標
 女性の救出、従魔の討伐

●登場
 ミーレス級従魔。
 蜘蛛型の従魔。
 体長約1メートル。
 腹部から糸を出して、BS「拘束」を付与する。
 糸は細いが強度が高く、AGWを使用しなければ切断できない。
 噛みついて毒を注入し、BS「減退(1)」を付与する。

●状況
 晴天。午後1時頃。
 桜の名所として有名な公園。
 従魔は、桜並木から少し離れた場所に巣をはっている。
 巣の大きさは、縦5メートル×横5メートル×高さ4メートル。
 女性は、巣に背中がくっついて動けなくなっている。
 従魔はカラスを捕食中。
 女性がパニックに陥って騒いだり暴れたりすると、従魔は女性に襲いかかる。

リプレイ

●蜘蛛の巣にかかった女性を助けてください
『美しい女性の危機とあれば、救出に行かねばならないな!』
「……『美しい』とは情報になかったけど? 英斗」
 気合いの入っている若杉 英斗(aa4897hero001)に、六道 夜宵(aa4897)はツッコミを入れた。夜宵は六道家の跡取りで、一見おとなしそうにみえるが活発な少女である。英雄の英斗は、夜宵に振り回され気味の青年である。
『いいんだよ。その方がやる気が出るだろう?』
「アンタねぇ。真面目にやんなさいよ」
『俺は大真面目だぞ』
 英斗は、きりっと引き締まった顔をしてみせた。ふちなし眼鏡がきらりと光る。
 夜宵は、やれやれと肩をすくめた。まあ、英斗がやる気を出してくれるのは良いことではある。とにかく人質となっている女性の安全が最優先だ。
 夜宵は英斗と共鳴して黒のジャケットにショートパンツ姿の戦闘服になると、現場に全力移動で急行した。

「巣を張る蜘蛛って気持ち悪いですよね」
 国塚 深散(aa4139)は呟いた。深散は、ヴィランの襲撃により両脚と家族を失い、アイアンパンクとなった少女である。
『巣を張らないやつは?』
 英雄の九郎(aa4139hero001)は尋ねた。九郎の素性は謎に包まれている。
「ずんぐりむっくりしてて可愛いです」
 深散の返答に、九郎は首をかしげた。
『可愛い、かな?』
 深散は、少し変わった感性の持ち主であった。深散は可愛いもの好きだがストライクゾーンがとても広く、他人が首を傾げてしまうようなものを愛でていることがあるのだ。
「さあ、行きましょう」
 深散は九郎と共鳴した。深散の黒髪には鈴付きの組紐が具現化し、結われた一房が銀色に染まった。深散の機械化した両脚は指行性動物のようなフォルムになり、足先も鉤爪状に変化した。深散の服は墨を吸ったように黒く染まり、鳥の嘴を模したお面を装着した姿となった。

「アオイ、救出の仕事だ。この景色に無粋だからね」
 狐杜(aa4909)は、英雄の蒼(aa4909hero001)に言った。狐杜は、色の薄いサングラスをかけた中性的な容姿の少年である。ヴィランと愚神によって最愛の妹をうしなった傷は、狐杜の心と体にはっきりと刻まれており、狐杜は「り」という言葉が発音できない。蒼は無愛想な赤鬼である。狐杜が全てを諦めた時に出会ったのが、蒼であった。
『さっさと終わらせるぞ』
 蒼は言い放った。
 狐杜は蒼と共鳴した。狐杜に狐耳が生え、狩衣に近い和装姿となった。

「相手はクモ、か」
 ステップ・サーバル(aa4986)は呟いた。サーバルは、サーバルキャットのワイルドブラッドなので、動物についての知識はあった。
 蜘蛛にはいろいろな種類がある。地面にアリ塚のような網を張るタイプ、高い場所に網を張るタイプ、地面にもぐっているタイプ……。蜘蛛はそこそこ目がいいし、巣の振動の大きさで「小さすぎて食べられない、大きすぎて自分が危険、ちょうど食べられる」の判断をしているだろうし、余計なゴミを巣にひっかけるとあわてて捨てに来ることもある……などと思い出していると、英雄のスナネコ(aa4986hero002)が、サーバルの手を引っ張って言った。
『早くやっつけるニャ!』
 獰猛で攻撃的なスナネコは、戦闘を前にして血が騒いでいた。
 サーバルはスナネコと共鳴した。

「きれいな桜ですね」
 エレオノール・ベルマン(aa4712)は言った。エレオノールはスウェーデン人の羊飼いであり、その手には古式ゆかしい羊飼いの杖を握っている。
『桜の下に大勢の人が集まるとは、面白い風習だな』
 英雄のトール(aa4712hero002)は言った。北欧神話においての雷神であるトールは、豪快で気のいいおじさんだ。
 エレオノールはトールと共鳴した。エレオノールの髪が赤色に染まり、全身にパリパリと雷光、電撃をまとった。更に、エレオノールの体の要所要所にルーン文字が浮かび上がった。性格はトールに近くなり、言葉づかいも変化した。

 エージェント達は、現場に到着した。蜘蛛の巣にかかってしまった女性の近くで待っていた後藤が、エージェント達に気づいて、小走りに駆け寄ってきた。
「あー、来てくれてよかった」
「通報してくれて、あいがとう」
 狐杜は後藤に礼を言ってから、誰かが来ないか離れたところでよいので見張ってくれるように依頼した。
「すまないが、もしもの事を考えてだ。長引かせるつもいはないが、彼女の耳にあれの名を入れたくはないのだよ」
 狐杜は、“蜘蛛”という言葉を口にしないように注意していた。人質になっている女性の為でもあり、通報者である後藤の配慮の為でもあった。
「わかりました」
「エレオノールも、一緒に行くぞ」
 エレオノールは、簡単な看板を細い道の出入口のところに置いて人が近づかないようにした。後藤には、その看板の傍で見張りをしてもらうことにした。それから、エレオノールは、周囲をめぐって人払いをしながら、蜘蛛の巣に投げつけるためのカラーコーンや、大きな虫を手に入れた。エレオノールは羊飼いなので、虫を捕まえるのは得意だった。

 海神 藍(aa2518)は、英雄の禮(aa2518hero001)と共鳴し、海軍の礼装風の黒っぽい衣装で頭に小さな冠を載せた女性の姿となった。元の世界では人魚であった禮が、成長したような外見である。
 藍は、ぼんやりと霞んで見える桜を見上げて心中で呟いた。
「(桜に、春霞。ある種風情があるね)」
『(たしかにあのクモがいなければ絵になりますね……そんなこと言ってる場合じゃなさそうですが)』
「(さて、仕事だ。リハビリにはちょうどいい)」
 もちろん女性の救出が第一だが、藍は絶零での重体のリハビリも兼ねて今回の依頼に参加していた。
 藍は、支配者の言葉を使用して好感度を上げてから、女性に話しかけた。
「大丈夫ですか? どこか痛いところは? あと少しの辛抱です。必ず助けますから、わたし達を信じてください」
「ありがとうございます。あの、あなた達は?」
 夜宵は、女性が安心できるように元気に答えた。
「H.O.P.E.のエージェントです。通報を受けて救助に来ました。もう大丈夫ですよ。いまからちょっと騒々しくなるかもしれませんけど、気にしないでくださいね。大丈夫ですから」
 狐杜は、女性のスマートフォンを拾って、女性の右手に持たせてやり、優しく声を掛けた。
「大丈夫なのだよ。必ずきみを助けよう。不安なら、頭の中で素数でも数えているとよい」
「みなさんに大丈夫って言ってもらったら、大丈夫な気がしてきました」
 女性はにこりと微笑んだ。
 サーバル本人も猫科なので振動や足音はほとんどないが、シャドウルーカ―のスナネコと共鳴したことで、更に小柄に静かになったサーバルは、女性が襲われそうになったらかばえる位置まで素早く接近した。
「誰か囮になってくれる人いるか?」
 サーバルは仲間に尋ねた。
「私が行きます」
 深散はそう言うと、鷹の目を使用して、ライヴスで鷹を作り出した。そして、鷹を蜘蛛の巣より高く飛び上がらせると、蜘蛛を挟んで女性の逆側、蜘蛛の巣の上端付近に突入させた。蜘蛛を視界の真正面に捉えられるように突入する方向には注意してあった。鷹が突入した後は、わざと暴れて糸を絡ませ、身動きのとれない獲物と蜘蛛に錯覚させ、蜘蛛の油断を誘うことにした。鷹の無力さをアピールして、女性を救うための時間稼ぎである。
 カラスの捕食をあらかた終えた蜘蛛は、鷹の存在に気づいた。蜘蛛は鷹のほうへと移動を始めた。
「これから糸を切断します。塵が目に入ると危険なので、しばらく目を閉じていてくださいね」
 藍は女性にそう告げると、トリアイナを使用して高所の糸を切っていった。藍のトリアイナは、黒い鱗のような柄に改造してあり、禮により【黒鱗】と銘打たれた一品である。
(黒鱗も高枝切みたいに使われるとは思ってなかったでしょうね)
 禮は楽しそうに呟いた。
「うわ……、ホントに蜘蛛だよ。デカイわね」
 動き出した蜘蛛を見て、夜宵はひそひそ声で言った。女性に聞こえないように声の大きさには注意していた。
(気をつけろよ夜宵。この巣を作った糸を吐き出す能力があると予想できる)
 英斗の忠告に頷いてから、夜宵は七人の小人で蜘蛛を攻撃した。
「さぁ、みんな! やっちゃって!」
 刀や槍、薙刀で武装した七体の式神が、蜘蛛に向かって飛んでいく。蜘蛛の腹部の糸の射出口を潰したいところだったが、式神の攻撃は腹部に命中したものの、射出口までは届かなかった。蜘蛛はいったん動きを止めたが、また鷹に向かって動き出した。
 深散は、鷹が蜘蛛の気を引いているうちに、刀で慎重に女性の周囲の糸を切っていった。
(粘着性のある横糸を、縦糸から分離するように切り解いていくんだ。縦糸は巣の基礎部分だし、足場にもなっているから、触ったらきっと家主にバレちゃう)
 九郎が冷静に呟いた。
「そうですね」
 深散はそう言って、糸の切断を続けた。その間も鷹の目を通して、蜘蛛の行動を監視していた。
 狐杜は、蜘蛛に攻撃をする振りをしつつ、女性に繋がる巣の糸を切っていった。狐杜は、蜘蛛に女性の存在を悟られないように注意していた。
 蜘蛛は鷹のところに到着すると、素早く鷹に糸を巻き付けて噛みついた。
 鷹の姿がふっと消えた。
 蜘蛛は何もない空間に何度か噛みついた後、くるりと向きを変えた。
「気付かれました!」
 深散は仲間達にそう告げると、猫騙を使った。
 藍は、深散の猫騙に合わせてリーサルダークを使用した。呪力の闇に覆われた蜘蛛は気絶した。
 狐杜は、蜘蛛が気絶している間に急ピッチで糸の切断を進めた。
 蜘蛛が気絶から回復した。
 周辺の人払いを終えて仲間のところに戻ってきたエレオノールが、蜘蛛の巣にカラーコーンや大きな虫を投げて、蜘蛛の気を散らせた。
 サーバルは、サーバル主体の共鳴に変えた。ジャンプに適したサーバルの体になり、蜘蛛の本体めがけて飛び掛かって攻撃をしようとしたのである。だが、ジャンプ力が不足していたため、サーバルは蜘蛛まで届かずに蜘蛛の巣にひっかかってしまった。
「おーい、こっちだ!」
 サーバルは大声で叫び、囮役として蜘蛛の注意をひきつけることにした。こうなる可能性は考慮しており、事前に皆に説明してあったので、仲間達は焦ることなく女性の救出作業を続けた。
 蜘蛛は、サーバルに向かって糸を放った。サーバルの両手に糸がぐるぐると巻きついた。
「今、助けるよ!」
 夜宵はサーバルに声をかけると、七人の小人を使ってサーバルに絡みついた糸を切断した。
 サーバルは蜘蛛の巣から離れて、くるっと一回転して地面に着地した。
 エレオノールは、蜘蛛の巣に攻撃すれば、その振動のところに蜘蛛が寄ってくるだろうと考えた。
「エレオノールは、後ろにまわるぞ」
 エレオノールは仲間に声をかけてから、巣の後方にまわって、全員の配置を気にしながら雷書「グロム」を使用した。女性から蜘蛛の気をそらすのが目的である。仲間のほうに蜘蛛がダッシュしないように気を付けながらの攻撃だった。
 蜘蛛はエレオノールの攻撃に誘われて、女性から離れる方向へと移動した。
 エレオノールは、蜘蛛の脚を狙って魔法攻撃を撃った。雷は蜘蛛の脚に当たったが、大きなダメージは与えられなかった。
 突然、巣に大きな振動が走った。
 深散が女性の背中に絡みついていた糸を切り落とした時に、女性がよろけたのだ。女性は、長時間立ち続けているのに疲れて、無意識に蜘蛛の巣に体重を預けていたらしい。深散が女性の体重を支えていた糸を切ったために、女性の足がふらついてしまったのだ。
 蜘蛛は方向転換して、女性に向かって走り出した。
 深散はターゲットドロウを使用して、蜘蛛の注意をひきつけると、蜘蛛の攻撃を回避した。
 夜宵、サーバル、エレオノールは、蜘蛛を攻撃した。
 蜘蛛は続けて女性を狙った。
 いつでも女性の盾になれる位置取りを心掛けていた夜宵は、ハイカバーリングを使用して身を挺して女性を庇った。
 深散は、再びターゲットドロウ、夜宵は守るべき誓いを使用して、女性の身を守ることに専念した。
「これが最後の糸だ」
 藍はそう言って、女性の頭にくっついている糸を切った。
「みんな、待たせたね。糸を全て切り終わったよ」
 狐杜は、倒れそうになる女性の体を受け止めて仲間達に報告した。
「脱走の時間だ。ここから離れるよ。目はまだ閉じたままでお願いするよ」
 女性にそう囁くと、狐杜は女性を抱えて安全地帯まで移動した。
「よく頑張ったね、きみ。さ、絡むものを取ってあげよう」
 狐杜は女性を地面に下ろし、女性に絡まった糸を取ってあげた。女性は疲れ切った様子で、ぼうっとしている。
「きゃっ!」
 女性は、狐杜が手にした苦無を見て、小さく悲鳴を上げた。
「すまない、取れないから切ってみようと思う。きみを傷つけはしないさ、心配ご無用なのだよ」
 狐杜は女性を安心させてから、女性の髪にからみついて取れない糸を苦無で慎重に切った。
 全ての糸を取り除くと、狐杜は微笑みを浮かべて女性にポーレイ茶を渡した。
「これを飲みたまえ。気持ちが落ち着く」
 女性は熱いポーレイ茶をすすって、「ありがとうございます」と礼を言った。
 女性の救出は無事完了した。

●巨大蜘蛛との戦い
「よし、これで思いっきりやれるわね!」
 狐杜が女性を安全な場所まで送り届けたのを見て、夜宵は言った。
(一気に決めてやろうぜ!)
 英斗も意気軒昂である。
 夜宵は、七人の小人で蜘蛛を攻撃した。
 蜘蛛は、夜宵に向かって糸を発射した。夜宵は、左右に身をかわして蜘蛛の糸を回避した。
(あれが蜘蛛ならさほど体は硬くないはずです)
「そうだね、確実に当てていこう」
 藍は、禮の言葉に頷くと、トリアイナを使って夜宵の攻撃を援護した。
「さあ、行くぞ」
 エレオノールはそう言って、離れた場所から銀の魔弾を放った。
 女性の救出作業を終えて戦闘場所に戻っていた狐杜は、射手の矜持を使用し、和弓「賀正」に矢をつがえた。
「アオイ、ここから、当てられるかな?」
(……貴様の腕次第だ。“当てろ”)
「言ってくれるね。……では、“当てよう”」
 狐杜は、弓を引き絞りロングショットを使用した。放たれた矢は、蜘蛛の腹部に命中した。
 蜘蛛は激しく動き回り、藍に糸を発射した。糸は、藍の足に絡みついた。
(糸で拘束したら、次はとびかかって噛みつき、でしょうね。警戒を)
 禮の忠告に従って、藍はノーシ「ウヴィーツァ」の刃で絡みついた糸を裂き、飛び掛かってくるであろう蜘蛛に備えた。
 蜘蛛は、禮の予想通り、藍に飛び掛かってきた。トリアイナに換装した藍は、蜘蛛の勢いを利用して、トリアイナを蜘蛛に突き刺した。
「いい手だけど……ワンパターンに過ぎる。命取りだ」
 藍の目の前で、蜘蛛の顎から毒液が滴り落ちた。蜘蛛は、巣の上の方まで後退した。
「巣が邪魔ですね。破壊します」
 深散はそう言うと、蜘蛛の巣の糸を巻き込むように爆導索を放ち、ワイヤーに纏わり付いた糸ごと爆破した。
 蜘蛛が地面に落下した。
 蜘蛛は落下の衝撃からすぐに立ち直ると、漆黒のパレオをまとったエレオノールに体当たりした。
「ウォー!!」
 サーバルは猛獣のように吠えると、サーベラスクローで蜘蛛の頭を切り裂いた。
 深散は、巣が無くなっても油断は禁物だと自分に言い聞かせた。何よりも優先すべきは一般人の安全であり、蜘蛛をここから逃がすわけにはいかない。深散は、機動力の低下を優先して、蜘蛛の脚の関節部分を狙って刀で攻撃した。深散の刀が一閃し、蜘蛛の脚が一本、斬り飛ばされた。
 エレオノールは、銀の魔弾を蜘蛛に放った。
 狐杜は、ストライクを使用し、蜘蛛に矢を放った。
 蜘蛛は、夜宵に飛び掛かった。
 夜宵は、クロスガードを使用し、両腕でガードを固めて防御した。
「咲き誇れ、焔の華」
 藍はブルームフレアを使用した。ライヴスの火炎が蜘蛛の周囲で炸裂した。
 ひるんだ蜘蛛に深散は刀を振るい、更に蜘蛛の脚を斬り落とした。この攻撃によって、蜘蛛の機動力はだいぶ低下した。
 蜘蛛は、藍に向かって糸を発射した。
「うっとうしい糸だな」
 藍は糸を避けながら、言った。
「海神さん、一緒に攻撃して糸を止めよう!」
 夜宵は、藍に声をかけた。
「そうだね。そうしよう」
 藍は賛同した。
 夜宵と藍は息を合わせて、蜘蛛の糸の射出口を狙った。夜宵の放った七人の小人と、藍のトリアイナが射出口を破壊し、蜘蛛は糸を出すことができなくなった。
 蜘蛛は、うろうろと辺りを動き回った。
「背中がガラ空きだぞ!」
 サーバルはそう叫ぶと、蜘蛛の背後に回り鋭い鉤爪で蜘蛛の腹部を切り裂いた。
 エレオノールは、銀の魔弾を蜘蛛に放った。
 狐杜は、ストライクを使用した。美しい光を纏った矢が蜘蛛の頭に突き刺さった。
 蜘蛛は、息絶えて動かなくなった。
 藍は、残っていた蜘蛛の巣をブルームフレアで焼き尽くした。他の人や動物が引っかからないようにという配慮だった。

●うららかな春の日に桜が舞う
 エージェント達は共鳴を解いた。
 藍、夜宵、狐杜は、救出した女性の周りに集まった。
「どこか痛むトコロはありますか?」
 夜宵が女性に声をかけると、女性は手首をさすりながら答えた。
「ここを擦りむいてしまって……そんなにひどくはないですけど」
 女性の手首には、蜘蛛の糸がからみついていた跡が赤く腫れて残っていた。
 夜宵と狐杜は、救命救急バッグと救急医療キットを使って女性の手当をした。
「病院には行かなくて大丈夫かい?」
 狐杜が尋ねると、女性は「大丈夫です」と答えた。
「少し休んでから帰ったほうがいいですね」
 藍が言うと、女性はエージェント達に頭を下げた。
「はい、そうします。本当にどうもありがとうございました。でも、帰る前に私を見つけてくれた男の人にもお礼を言いたいんですが……」
 狐杜と女性は、細い道の出入口で見張りをしていた後藤のところに歩いていった。
「よかった。無事に終わったんですね」
 後藤は安堵の表情を見せた。
「どうもありがとうございました」
 女性は後藤に笑顔でお礼を言った。
「きみが見つけなかったら彼女は食われていたかもしれない。本当に、あいがとう」
 狐杜も後藤に謝意を伝えた。
「いえ、僕はたまたま通りかかっただけですから。でも、びっくりしましたよ。あんな大きなク……」
 後藤は、蜘蛛と言いかけて途中でやめた。
「蜘蛛ですよね。わかっていましたよ。そんなに大きかったんですか?」
 女性は、笑顔で言った。
「……い、いや、それほどでも……」
「本当ですか?」
 何やら楽しそうに話し始めた女性と後藤を残して、狐杜はその場を去った。
「アオイ、ついでだから、お花見をしようか」
 狐杜は、隣を歩く蒼に話しかけた。
『興味がない』
 蒼は淡々と言った。
「そんなこと言って本当は好きなのだろう、桜が」
 狐杜は、笑みを浮かべて蒼を見上げた。
 蒼は、風に舞う花びらを眺めて目を細めた。
(桜は散り際が美しい)
 だが、蒼はそれをわざわざ狐杜に言う気はなかった。

 藍と禮は、他にも同様の従魔が存在するかもしれない為、見回る……と言う名目で、公園内の散策を始めた。
「さ。しっかり見ていこうか」
 藍が言うと、禮はにっこりと笑顔を浮かべた。
『ええ、きれいですね! 兄さん』
 二人は、のんびりと遊歩道を歩いた。
『あ、お花見団子を売っていますよ。買いましょう!』
 禮にねだられて、藍は三色団子を買った。
 藍と禮は団子を食べながら、桜を眺めた。これぞお花見、であった。

「人の多いところは苦手です。帰りましょう」
 深散は、花見客が大勢いる桜並木を足早に通り抜けた。
『桜の神様は、桜の下で花見をして楽しんでいる人達を見ると、喜ぶ、と聞いたことがあるよ』
 九郎は、桜を見ようとしない深散をからかうように言った。
「そうなんですか。自分の花でたくさんの人が喜んでくれたら、神様も嬉しいでしょうね」
 深散は、しばし足を止め、桜を見上げてその美しさを愛でた。

『楽しそうだな。ビールをくれ』
 宴会好きのトールは、花見客のレジャーシートにどかっと座り込んだ。酔っぱらっているおじさん達は、大男の突然の乱入にも驚くことなく、トールにビールを渡してくれた。
「エレオノールもご馳走になっていいですか?」
 エレオノールは、トールの隣に座った。エレオノールの好きなスウェーデン料理はさすがにないが、おいしそうな唐揚げやフライドポテトがお皿にのっていた。
「『いただきます!』」

「さぁ、お花見しよっか!」
 夜宵は、元気よく言った。
「お花見と言ったら、桜を見ることはもちろん、美味しいものも食べなきゃね! 更に、舞い散る花びらを空中でキャッチすることで、敏捷性を鍛える訓練もできるわ!」
『戦闘が終わったばかりなんだぜ。少しはゆっくりしたらどうだ?』
 英斗は、呆れ顔で言った。
「時間がもったいないわ。行くわよ、英斗!」
 英斗は、夜宵にひきずられてどこかへ消えていった。

『平和だニャ』
 スナネコは、お花見をする人達を眺めて呟いた。
『皆、戦闘があったことに気づかなかったんだニャ。人間は耳が悪いニャ』
 スナネコはあきれたように肩をすくめた。
「エレオノールが、人が近づかないように人払いをしてくれたからだ。気づかれたら、大変なことになっていたぞ」
 サーバルは、スナネコをたしなめた。
『そうなったらそうなったで、思い切り暴れられて楽しそうだニャ』
 攻撃的なスナネコはそう言って、ペロッと舌を出した。
「思い切り暴れるのは、次の戦いまで我慢だ。次の依頼が待ち遠しいな」
 気性の荒さではスナネコに負けないサーバルは、早くも次の戦闘に思いを馳せていた。
 そんなサーバルの肩に、桜の花びらはひらひらと舞い降りた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
  • 今を歩み、進み出す
    狐杜aa4909

重体一覧

参加者

  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 喪失を知る『風』
    国塚 深散aa4139
    機械|17才|女性|回避
  • 風を支える『影』
    九郎aa4139hero001
    英雄|16才|?|シャド
  • エージェント
    エレオノール・ベルマンaa4712
    人間|23才|女性|生命
  • エージェント
    トールaa4712hero002
    英雄|46才|男性|ソフィ
  • スク水☆JK
    六道 夜宵aa4897
    人間|17才|女性|生命
  • エージェント
    若杉 英斗aa4897hero001
    英雄|25才|男性|ブレ
  • 今を歩み、進み出す
    狐杜aa4909
    人間|14才|?|回避
  • 過去から未来への変化
    aa4909hero001
    英雄|20才|男性|ジャ
  • エージェント
    ステップ・サーバルaa4986
    獣人|24才|女性|攻撃
  • エージェント
    スナネコaa4986hero002
    英雄|15才|女性|シャド
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