本部

夜町、迷路イズム

鳴海

形態
ショートEX
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
12人 / 4~12人
英雄
12人 / 0~12人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/04/13 21:00

掲示板

オープニング

● 微睡、揺蕩う、思考のはざまに。

 まどろみは森を歩いていた。 
 その体は愚神と呼ぶには華奢で、それでも足取りは確か。
 険しい坂道、けもの道を一心不乱に上っていく。
 やがて苔の生えた石畳、ひび割れたアスファルトが見えるようになり。 
 脇に朽ち果てた民家が並ぶようになった。
 折れた電柱。割れたガラスの民家。
 そして、見あげるほどに長く続く神社の、石階段。
 まどろみはそれを駆け上がり振り返る。
 朽ち果てた村が、そこには逢った。閉ざされ今は、誰も立ち入ることのできない町。
 そのまどろみの背後で何かが唸る。森の向こうに邪悪なものが息づいていた。

● 夜の街、夜で待ち

 ここは十波町。世界の九割が水で支配された中にぽつりと浮かぶ田舎町。
 今日はこの町でもめでたい日だった。
 選ばれたもの達が宇宙へ旅立つ輝かしい日。
 まるで星々も皆を祝福するかのように明るく、色とりどりに輝いていた。 
 誰かが言った、この世界の端の端から、闇の軍勢が攻めてくる。
 彼らの進行が本格化する前に、星々の連合から人を出して大きな防衛部隊を作り上げる必要があるのだと。
 だから君の大切な人は空に向かうことを決意した。 
 この世界を守るために、あなたを守るために。
 けれど、星の海へ旅だったら、次にいつ会えるか分からない
 もしかしたらもう二度と会えないかもしれない。
 
 君はその事実に思い悩むだろう。
 もしかしたら今も悩んでいるかもしれない。
 だってもし、行かないで。そう言って彼がここに残った場合、世界が滅ぶかもしれないんだ。
 そうまでして隣にいてもらっていいのか。
 そんな風に思い悩むことは沢山あるのだろう。
 けれど君は気付く。まだ思いを伝えていないことに。この胸の想いを伝えていないことに。
 伝えないと。そう君は走り出した。窓から飛び出して、裸足でコンクリートをかけよう。
 道しるべは星々の輝き。
 これは大切な人に大切な言葉を伝えに行くための物語。
  
 だけど、どんな物語にも主人公を阻む憎いやつというのはいる者なんだ。
 君たちの目の前に、フードの本を抱えた男、まどろみが現れる。
「君たちの想いを試そう」
 そう短く告げると、まどろみはこの世界を作り変えていく。
 迷宮に。
 壁がせり上がり、家が大きくなり。空は遠くなり、あの人の声が遠くなる。
「世界は彼らを望んでいる。世界の糧に、英雄に慣れる彼等、彼女らを君のためだけに消費するというのならば、それだけの想いを見せて見たまえ」
 
● また、まどろみ
 今回の舞台もまた、架空の町『十波町』です。
 そろそろまどろみの存在も有名になってきたのでPL情報ではありません。
 そしてここは架空の都市です。
 山の方には神社と学校。海と隣接していて、小さな港があり。繁華街にはカラオケやコンビニといった最低限の施設がそろっています。
 そしてここはケントュリオ級愚神まどろみの作ったドロップゾーンで。
 今回は明るい夜の街です。今回記憶の封じ込めはありませんが、謎の記憶が挿しこまれています。
 これには双パターンあります。

パターン1(攻略組)
 それは今夜、あなたの大切な人がほしの船に乗って宇宙へ旅立たなければならないという事実。
 この大切な人とは、能力者にとっての英雄かもしれませんし。英雄にとっての能力者かもしれません。
 もしかしたら恋する別のリンカーかもしれません。
 さらにはもうこの世界に存在しない、記憶の中だけのあの人という可能性もあります。
 それは自身で選択してください。

 パターン2(待機組)
 あなた自身が星の海に旅立たなければならないという記憶です。
 この宇宙の向こうにはあなたの大切な世界を壊そうとする暗黒の軍勢がいて、それを倒すために宇宙に向かわねばなりません。
 ただ、あなたを追ってくる誰かの存在も感じており、その誰かに対して迷宮を操作しアプローチをかけることができます


 ちなみに、このシナリオにおいて、宇宙に旅立つと邪英化するので気を付けてください、難易度は高くないので、ないとは思いますが。



● 迷宮について
 この迷宮、普通に走っていても出口にはたどり着けません。
 なのでその思い出道を切り開く必要があります。
 攻略側は迷宮に対して、下記のアプローチをとれます。

*攻略組が可能なアプローチ。

・扉
 ワープ可能な扉を生成します、扉をくぐるとあの日の思い出が再生されます。
 あなたと、空にいかせたくない対象者との何らかの記憶です。
 あなたとその人を結びつける確かな記憶が、あなたをあの人の元に導きます。
 その記憶再生後。先ほどよりあの人に近い場所に飛ばされていることでしょう、さらに迷宮攻略を続けてください。

・壁を壊す
 あなたの純粋な感情が壁を壊します、あの人へひた隠しにしていた思いだとか、まだ言い足りないこと。わがままな思い、懺悔。
 なんでもいいです、あの人に対して思いの詰まった言葉なら、迷宮を容易く破壊し、先に進めることでしょう。

・道しるべ
 あなたがあの人を思う気持ちで迷宮に道しるべができます、星が導くかもしれないですし、光の道かもしれませんし。あの人の声が聞こえるかもしれません。
 これはあなたのあの人に対する思いが強ければ強いほど、導きは増します。
 具体的にはなぜあの人のことが大切なのか、なぜあの人のことを宇宙へいかせたくないのか。その思いを強く復唱することです。自分の中で確認することです。

この三つの方法を重ね合わせていけばきっと船が出発する前にあの人の元へたどり着けるでしょう。


*待機組のアプローチ。
 待機組は基本的に、上記攻略組のアプローチを補助することができます。
 攻略組の呼びかけに応じて自分も呼びかけて見たり。回想シーンを挟むことによってより強くこちら側にまねくことができると同時に。
 拒絶することもできます。
 待機組は攻略組に対して念話を送ることができます。
 その念話で自分の想いを伝えてあげてください。
 そしてもし、あの人の想いに答えてあげて、自分もあの人に逢いたくなったのなら。自分も迷宮の中に飛び込むことが可能です。
 そうなればあなたも攻略組、上記のシステムを使って、迷宮の中でうまく出会ってください。



解説

目標 誰も船に乗らない。

● まどろみについて
 今回はわりかし直接干渉してくるようですが、自分の夢のルールは破れないようです。
 ちなみに、NPCが船に乗ってしまった場合、その思い出を土台とした愚神が作成されることになると思います。もし戦うことになったら精神的にきついと思うので頑張って阻止してみてください。

 そして今回恋愛を想定してはいますが。一応どんな愛の形でも対応できると思います。
 友愛、親愛、純愛。家族愛。大切な人が遠くに行くのは辛いですよね。
 絶対に離れ離れになりたくない、という思いを込めてプレイイングを作成するとよいかと思います。
 また、英雄と能力者で分かれることも可能ですが。
 1PCを三人のPCで目指すなんて言うのも面白いかと思います。
 今回は自由度が高いので難しいと思いますがよろしくお願いします。

リプレイ

プロローグ
「すぐに終わらせて帰る……それまで、ガキ共の事は頼んだぞ」
『麻生 遊夜(aa0452)』はそう静かに告げた。
「……ダメ、やだ……やだぁ! 一緒だって、ずっと一緒だって言ったのに!」
『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』はその腕にすがりつく。
 別れの日、決別の日。大切な人たちは宇宙に向かうという。  
 大切な人、君を守るよ。そうつぶやいて……いつ戻れるかも、生きて戻れるかもわからない世界へ羽ばたこうとしている。
「一度助けられた命ですから」
『紫 征四郎(aa0076)』は『ガルー・A・A(aa0076hero001)』の手を離す。
 ためらいがちに指をからめて、その温もりを、名残を忘れない、そう言いたげにその手は長く長く繋がれていて。
 でも少女は一度離れてしまえば小走りの速度で遠のいていった。
 小さな体、人類の未来を背負い込むにはあまりに小さい。
 そんな背中を見つめても『木霊・C・リュカ(aa0068)』は彼女にへ、そして『オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)』にも、何の声もかけられなかった。
「ただ幾ばくかの犠牲で世界という単位が救えるとすれば。それを選ばないのは……身勝手なんだろうな、きっと」
 何か言いたかった、オリヴィエの言葉に反論したかった、けれどリュカは何も、何も言えない。
「征四郎に出来ることは、征四郎がやらなくては」
 そう振り返る少女の髪がふわりと舞った。極彩色の星の煌き。その光を受けて色とりどりに輝く少女が瞼の裏に浮かぶようで。
 それはとても勇ましく綺麗なんだと唐突に思った。
「遠足じゃ無いからお菓子とか持って行くなよ」
「わかっていますよ! オリヴィエは征四郎を何だと思っているのですか!」
 そう、何気なく散歩にでも行くような軽い足取りの二人を。
 ガルーは結局見送った。
「待ってください、御屋形様!! 恋人たる私を置いてどうして!」
 当然この状況を受け入れられないものもいる『藤林 栞(aa4548)』がその一人。
 自身がお館様と呼んで慕う彼も、宇宙船に乗ろうとしているのだ。
「やっと結ばれたのに」
「え、いや栞は恋人じゃあないけど」
 ん~? っと首をひねる栞。『藤林みほ(aa4548hero001)』は額に手を当ててため息をつく。
「そうですよ! 何いってるんですか!?」
 お館様と常に寄り添う彼の英雄。その人がお館様の腕に手をからめて身を寄せていた。
「えっ……」
 混乱の淵に叩き落とされる栞。頭を抱えてお館様に背を向けて、そしてぶつぶつと、自分自身に相談事を持ちかける。
「え? どういう状況だろう。マズイ、これはマズいよ。甘々な夢がかなうと思ったのに、さっそく現実を突き付けられたよ」
現実は非情である。
「いやこれ、私が止める理由が薄い。これハードモードじゃないの!?」
 というか正妻の前で恋人とか言ってしまった、さらにその上冷静に恋人ではないと否定される始末。
 痛い。これは痛い。
「用は済んだのか? じゃあ。俺達行くから」
 そう見せつけるようにラブラブしながらお館様御一行は船へと向かう。
「ちょ! まだお話は終わってな……」
「世界が滅ぶかもしれないからといって、私が向かう理由は分からないけど……兎に角行かないといけないみたい」
『アリス(aa1651)』は鏡合わせの相棒へそう告げて、踵を返す。ぼんやりと坂を上り始める。その姿に英雄となるべきもの達は続く。


第一章 その背中を追う。

 流れ星が一つ光った。これから残された君たちは、星が一つ瞬くたびに思うのだろう。
 大切の命が、消えたかもしれないのだと。
「死んでも良いと思うのはこれで二度目だな」
 そう告げて師匠と慕うその人は旅立った、結果自分とあの人の間には三途の川より深く、大きく。
 人を惑わす迷宮が広がり、二度とその手を取れない。
 師匠……。そう『不知火あけび(aa4519hero001)』はつぶやいてそびえたつ壁を見据える。
「いいのか?」
『日暮仙寿(aa4519)』はそうあけびに問いかけた。しかし彼女は拳を握りしめるだけで何も言わない。
 いいのか。
 本当にいいのか。
 全員の胸の内に何度もその言葉が湧いて消える。
 何度も、何度も、何度も。
「本当の言葉なんて。いつもは自分で囓って消化しちゃってるからねぇ」
 伝えられなかった言葉が今になって、胸の中に沢山湧いてくる。
 いつも隣にいたはずの温もりと。少女の笑い声。
 それが今は遠い。
 失ってしまった、そんな消失感だけが胸にあった。
 けれど。
「まだだ! まだ終わってなーい!!」
 半ばやけになって栞が叫んだ。
「まだ船は出発してない、このまま終われない!!」
 栞は思う。もしこのまま目覚めたとしても本人と顔合わせできないと、とりあえず別の結末を用意しなければ。
 そしてウォーミングアップを始める栞。
「……ん、そう、だね」
 次いで顔を上げたのはユフォアリーヤ。
「……絶対に一人にしない、一人にならない……あの時、そう言った! ユーヤがいないと意味ない! ……いないと、ボクは……ボクは!」
 涙で晴れた瞼をもう一度こすって告げる。
「誰かの都合なんて関係ない!!」
 そしてユフォアリーヤは憂いを払うようにそう声を上げる。
 その言葉を受けて、全員の胸にわき上がる感情があった。
「……ん、絶対許さない。お別れなんて絶対に、約束したのに。ずっと一緒にいるって約束したのに」
 指輪に手を当てて恨むようにそう告げる。
「……だいたい、最初にユーヤを必要としたのはボク……だよ なのにあとから出てきて取っていくなんてずるい!」
 その言葉を聞いて吹きだしたのはあけび。
「そうだね。大切ならしまっておかないとね」
 あけびはひとしきり笑い終えると日暮へ振り返り、そして告げた。
「私が、絶対守る。だから力を貸してほしい」
 日暮はその言葉に頷いた。
「遙華さん、あなたに伝えなければいけないことがあるんです」
『黒金 蛍丸(aa2951)』も顔を上げる。
「応援します蛍丸様」
『詩乃(aa2951hero001)』もそう拳を握って彼を応援した。
「折角想い結ばれたというのに、あの人は私以外を見ているのね」
 そう『橘 由香里(aa1855)』は蛍丸に聞こえないようにぽつりとつぶやく。
 その言葉に耳を震わせたのは『飯綱比売命(aa1855hero001)』
「わらわ達は何故ここにいるのかのう。恋人が他の女に懸命な姿を眺める為か? 酔狂な話じゃ」
 由香里はじっとりとした視線を蛍丸へと向けた、だが蛍丸は気が付かない。
 その視線はいつだって、輝かしい道の向こうに注がれていて、自分を見てくれたことなど、一度も。
「……私と付き合ったからって、遥華への友情は変わらないというのは分かる話よ」
「ま、二股なんぞという器用な真似ができる男でないのは知っておるがのう」
「だから私は彼に力を貸す、それは、やぶさかではないの。ただ……」
「ただ?」
「……」
 うらやましいと、思ってしまうのはどうしようもない。
 その言葉だけは飯綱比売命にさえも、言うことができなかった。
「みんな、やっぱり操られてるんだね」
 そう、『イリス・レイバルド(aa0124)』と『アイリス(aa0124hero001)』は盛り上がる一同を見ながら石塀の上に佇んでいた。
 遙華にお別れの挨拶と渡された棒つきキャンディーを削り食らう勢いでガジガジとかじり、イリスは怒りと怨念で淀みきった視線を丘へと向ける。
「あのときはボクの記憶から家族の虚像を作り出し呪詛を吐かせ」
「そして今度は私達と、英雄譚の登場人物に仕立て上げる」
「ボクら人の記憶をおもちゃにしているのか」
「それとも私たちに対する、切実な問いかけなのか」
「そんなことはボク達は知らないし知ったことではないよ」
 ただ、そうイリスはキャンディーをかみ砕き。棒は包み紙にくるんでポケットにいれる。
「いい加減、人の領域に土足で踏み込む代償ってのを教えてやらないとね」
「ああ、じゃあ、やっぱりここはまどろみの世界なのねぇ」
 そう告げるとイリスは塀の上に立つ。
「何て言っているが足は星の船の方向を向いているね」
「しょうがないよ、ほかに手がかりがないんだから」
 たとえ虚像だとしても、家族の姿がいいように利用されているのはどうしようもなく不快。
 であれば迎えに行くのがイリスという少女である。
 虚像だとしても家族の姿を傷つけることができないのがイリスという少女である。
 そんな彼女を見あげ佇む女性がいた。
 塀に背中を預けて『榊原・沙耶(aa1188)』が平常運転、ほのぼのと告げる。
「さっきから言ってるじゃない」
 対して『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』は、イリスたちを真似して塀をよじ登り告げる。
「また、夢……。まどろみなのね……」
 つまり幻、脳内劇場。実際に取り込まれたリンカーは知らないが、ここに存在しない人間がたとえこの世界に現れてもそれは偽物。
 どうなったところで問題はない。
 それが死んでいる人間ならなおさらである。
 だが。
「でも、夢であっても、夢だとしても助けなくちゃいけない時もあるの」
 沙羅は見た。その背中、自分とそっくりの背中。
 いや違うか。自分が彼女にそっくりなのだ。
「あの子が、あなたの『源』なのねぇ」
 その言葉に沙羅は頷く。そして
「沙耶。今回は私の我が儘に付き合って貰うわね」
 その言葉に沙耶は高くつくわよ、と答えた。
 そして沙羅は共鳴、まどろみによって展開された迷宮の入り口まで歩み寄る。
 ここから先は何が待つかわからぬ伏魔殿。
 それに二人で無く一人で挑むのはどれほど勇気のいることだろうか。
『Alice(aa1651hero001)』はそれでも臆することなく、門をくぐる。
「……まどろみ。先日の貴方のした事、私はそれなりに感謝してる」
 Aliceは思い出す、かつてまどろみの世界を訪れた時のアリスの笑い声。
 あんなふうに笑うのかと驚いて、同時に微笑ましくも思った、年相応の彼女を愛おしくも思った。
「例え束の間の夢だとしても、あの子がああも朗らかに笑うのを見たのは随分と久しぶりだったから」
 けれど。
「……でも、あの子は貴方や世界にはあげられない。――今は、まだ」
 Aliceは迷宮に足を踏み入れる。
 その時だ。
 無数の声が迷宮内に反響した。
 自分たちの声ではない。
 これは。
「アリスの声?」
 それはかつて聞いたことのある声。思い出がこの迷宮では再生されるらしい。
 残響を耳に受け、心地よいノスタルジィに浸る一行。
 その過去に強く惹かれるのは『辺是 落児(aa0281)』
 目の前に突如現れた引き戸は茜色に染まって見えて。
「ロローー」
 思わず落児はその戸を引いた。
 そこには自分がいた。五年程度昔の自分。
 学生で、そしてそんなに昔から自分は彼女と一緒にいたのだと再認識する。
 幸福だった頃の時がそこにあった。
「大丈夫だと思ったんだが、水が染み出していくとは……」
「あははっ、男子は大失敗ね。先生にも謝っておかないと」
 落児は少女に歩み寄る。学校祭に向けて一人作業をする自分、そんな自分を手伝うことも無く、机に座って足をぶらつかせ、ただただ自分をからかっていた。
「あぁ、下の階に楽器が置いてあったのがさらに運が悪かった」
 重苦しいため息をつく落児。だがそんな落児を見ると彼女は笑った。
 からからと小気味よく。その声が放課後の学校に響いて。落児は思わず微笑んだ。
 幼い時の自分と今の自分の表情が重なる。
「私としては珍しい表情が見れてよかったけどね?」
「……それはそうとそっちは無事終わったのか?」
「秘密! 楽しみにしておいて」
 そんな彼女の笑顔が夕陽の光に溶けて、消えた。

「私のいるところまでたどり着ける?」

 彼女からメッセージが飛ぶ。
 直接頭の中に。
 落児はそれに頷いた。
 手の届く場所に君がいるなら、絶対にたどり着いて見せる。
 そう落児は胸に誓う。

 第二章 迷わせる者


「ねぇちょっと! もっと早く走れないの!?」
 リュカはガルーの背に負ぶわれつつ、背筋をピシッと伸ばして、まるで馬に乗った機種のように彼方を指さした。
「リュカちゃん重い! まぁ壁伝いに行くよりは早いだろうけどさぁ」
 共鳴しなければリュカの瞳は光をうつせない。その状態で迷宮踏破など夢のまた夢だろう。
 だからおぶるという選択肢をガルーは取った。
 後悔はしていない。
 むしろ二人でないとたどり着けないだろう。
 自分たちは最初、四人で一纏めだった。……であればだれか一人でも欠けてはだめなのだ。
 二人増えて六人になった。
 そのままずっと歩み続けるのだ。
 そう思うとガルーの体に不思議と力が溢れてきて。
「はい行くよごーごごー!」
「暴れんじゃねぇ!」
 よろめきながら迷宮を高速で進んでいく。
「うわー、みんなすごいですね」
『エレオノール・ベルマン(aa4712)』は先輩リンカーたちの気合を目の当たりにして歩みを止める。
 十字路に差し掛かった。どちらにいけばいいのだろう。
「トールはどう思います?」
『トール(aa4712hero002)』はその言葉でわずかに考えると、ゆっくりと右を指さす。
 その先には。
「え? ラヴィエル?」
 最近会ってない恋人が迷宮を駆け抜けていった。 
 一瞬しか視界に映らなかったが、自分が彼を見間違えるはずがない。
「待ってください!!」
 そうエレオノールは駆けだした。目の前に扉が出現する。

   *   *


 日暮はその光景を見つめていた。
 幼い姿のあけび。あどけなく。純粋で、ぽけーっとしているように見える。
「当時11歳、忍の一族の跡取りの私だよ」
 そうあけびは日暮に自分を紹介した。
「使徒として有望だと天使……お師匠様に教育されてた」
 過去を語るあけびの口は重たい。
 楽しい思い出もたくさんあったろうに、だから師匠の事が大切で。
 でも、思い出すと胸が痛むから、大切だった分だけ泣きたくなるから。
 だからあけびは思い出さないようにしていたんだろう。
 話さないようにしていたんだろう。
 だが、目の前で繰り広げられるそれは、隠しようがなかった。
 あけびは淡々とかたる。
 その光景を。
「でも異種族に対抗する力に覚醒した私は手に余る存在になって……」

「だから師匠は私を殺さなければと私を外に連れ出した」

 今でも覚えている。普段見慣れない町は活気づいていて、信じられなくらいに人がいて。
 いろんな場所に連れて行ってもらった。
 公園や出店の立ち並ぶ大通り。本屋。
「沢山の事を師匠は教えてくれた」
 その日あけびはたくさん笑った。
 そして珈琲味のソフトクリームを買ってもらい、彼の隣を歩いて町のはずれまで行く。
 とっておきの場所がある。そう暗い森の中を進んだ。
「なあ、あけび。俺はお前にとってどんな存在だ?」
 そんな中、しばらく黙っていた師匠が、あけびに声をかける。
 するとあけびは元気いっぱいに答えた。
「私のヒーローでお師匠様だよ! 仙寿さまみたいな立派な侍になるんだ!」
 そうか、そうつぶやいた師匠の表情は見えなかった。
 笑っていたのか、悲しんでいたのか。
 あけびはじっと師匠を凝視する、記憶の中の彼の顔はやはり、見えない。
「姫叔父は私のお姫様で兄貴分なの。侍としてはまだ未熟だけど、姫を格好良く守るんだ。それに……仙寿さまも私が守るよ!」
「……あけび。お前はずっと……笑っていろ」
 突然師匠はそう告げた。
 振り返り、まだ幼かった彼女を抱きかかえるように。離したくないとでも言うように強く
「え……? どうしたの師匠?」
「…………」
「痛いよ? 師匠どうしたの?」
「……」
「どこか痛い? 疲れたの? なんで……」

 そんなにつらそうなの?

 幼いあけびと、日暮の隣にいるあけびが、同じ言葉を吐いた。
 違うトーンで、違う意味を伴って。
 次いで師匠は一言、すまないと告げた。
 そしてあけびの意識は途絶えることになる。
 彼はあけびを抱きしめ、そして、記憶を消した。 
 師匠たる、彼に関しての記憶だけ。
 そして、その上で死ぬつもりでいたのだと。後になって姫叔父から聞いたのだった。

「本当に、あけびの事を考えてくれていたんだな」
 日暮はそうあけびを振り返って告げた。
 溶けて消える光景。
 真っ黒に塗りつぶされる風景。
 扉が生成された。そこを潜ればまた、師匠に近づけるのだろう。
「行こう」
 あけびは日暮の手を引いた。その手が少し震えていることに日暮は気が付いた。

    *    *

 この迷宮は不思議だ。
 人によっては導くように扉が出現したり、壁が壊れたりする。
 導く光が現れたり。
 その結果リンカーたちはあっという間にバラバラになってしまった。
 それでも由香里は蛍丸と一緒にいる。
 なぜなら由香里の目的は蛍丸の望みがかなうことだからだ。
(ああ、私。知ってる)
 由香里は迷宮をかけながら思う。
(私はこの光景を見たことがある)
「由香里さん。分かれ道です。どうしましょう」
 蛍丸は振り返らずにそう言った。
「迷路の基本は、右手を壁につけながら歩くこと、だそうね。もしくは絶対に右に曲がると言った法則性を作ること」
「そうなんですか、さすが由香里さんです」
 これは幼いころから見ていた風景。
 両親の背中と、蛍丸、詩乃の背中が重なった。
 遠くて、手を伸ばした程度じゃ届かない。
 走ってももっと早く遠くに行く。
 努力に努力を重ねても、追いつけないのは、自分がダメダメだから?
 由香里は潤んだ視界を拭い去るように瞼をこする。すると夜空の星が綺麗に見えた。
 現実の世界とは違う、紫や黄色や赤に輝く星々。
 けれどその光でさえ、数年、数十年昔の光で、今は滅びているのかもしれない。
 やっぱり追いつけない。
 自分は誰にも、追いつけない。
 由香里は、歯を食いしばってだんまりを決め込むしかなかった。
 由香里にもわかっていたから、彼の後悔。
 遙華を振ってしまったこと。
 それがどうしようもない選択。模範解答だということもわかっている。
 遙華は住む場所が違う、そう思った時もあった。
 グロリア社の令嬢で、彼女の周りにはたくさんの人がいる。
 蛍丸が前に愚痴をこぼしていた。
 彼女を独り占めにすることはきっと悪いことだ。
 そう暗い表情で言っていた彼に……。
(私は、そんなことはないって、言うべきだったのに言えなかった)
 その時である。遙華の声が迷宮に反響して聞こえた。
 彼女の笑い声と、壁にうっすら映るのは彼女の表情。
 横顔、真面目な顔。怒った顔。心配そうな顔。落ち込んだ時の顔。
 これらすべて。蛍丸がもつ記憶の中の遙華なのだろう。
「遙華さん!」
 その声に導かれるように蛍丸は走った。
 張り裂けそうな思い、その心臓に打ち付けられた楔を手繰り寄せられるかのように、蛍丸は走った。
 彼女の笑顔が忘れられなかったこと。平気そうな顔して実は繊細で傷つきやすいこと。
「遙華さん、僕は……」
 まだ何も伝えられていない。何が好きで、どこが嫌いか。もっと一緒に過ごしたい時間があったこと。
 すれ違ったままさよならするなんて絶対に嫌だ。
 そう蛍丸の心拍が上がっていく。脅迫されているかのように心臓は早鐘を打ち。しかし体はどんどん軽くなっていく。
「遙華さん、遙華さん」

 ただ、これ以上傷つけたくなかったんです。

 それは言い訳になるだろうか。けれど本当の想いであったことは間違いない。
 距離をおこうと思ったことがだめだったのか。
 いつの間にか彼女は手の届かない存在になっていた。
 そして、そのまま遠ざかって宇宙まで行こうとしている。
 そうなれば自分の腕でも届かない。
 そうなる前に、そうなる前に。
「僕はあの時、あの場所で本当のことを伝えるべきだったかもしれない」
(本当の言葉ってなに?)
 蛍丸の言葉が聞こえてきたとき、由香里の速度が明らかに落ちた。
 力が抜けた、寸前のところで頑張っていた心がぽっきりと折れてしまった。
(ねぇ、わざわざこうして、走ってまで伝えないといけない想いってなに?)
 謝罪? 再開の約束? 決別の言葉?
 それとも。
 告白?
 身の毛がよだつ感覚を由香里は味わった。
 嫉妬だ、目の前がくらくらと歪むほどの嫉妬。
 やがて由香里の感情が自分の器の許容量を超えた。
 由香里は壁にもたれかかって、うめき声を上げる。
「おうおう、なれぬ全力ダッシュをこれほど長時間続ければ、そうなるかのう」
 飯綱比売命は共鳴を解いて、その背をさする。
 由香里はその手を払いのけようと腕を振るが二つ、地面に雫が落ちて、動きを止めた。
 こぼれていく。自分の中から感情が。
 いい子にしていようと思ったのに、できると思ったのに。
 そうでないと、自分は。ああやっぱりかと、言われてしまうのに。
「あの坊やも青いのう。人は全てを抱え込めるようには出来てないのじゃがな」
 飯綱比売命は甘い声で由香里の背中をさすり続ける。
 そして由香里に対しては何も、言わない。飯綱比売命だけは何も言わない。「……私も」
 潤んだ声を咳払いで整えて、由香里は顔を上げる。
「彼が遥華とギクシャクしているのは本意ではないわ」
「それで彼女との仲を再構築したいという望みを聞いて手伝う羽目になったのか? アホじゃのう」
 そう、あほだ。数時間前の自分を怒鳴りつけてやりたくなる。
 だが同時に、今の自分が数時間前に戻ったとして、それ以外に選択肢など無かった。そうも思う。
「酷い言い草ね」
「わらわが心配しておるのは、おぬしが両親との関係をなぞっているのではという事じゃ」
 意外な言葉を聞いた。
 由香里は弾かれたように背筋を伸ばした真っ向から飯綱比売命を見つめる。
 驚きで涙も引っ込んだ両目で飯綱比売命を睨みつける由香里。
「……そんなことない」
「相手に好かれたい、愛されたい。だから不安や不満を全部飲み込んで好きになって欲しい人に良い顔をする」
「……違うわ。私は本当に」
「面倒くさいと思われぬために、自分の都合は抑え込む。相手に必要とされたいがために、相手の都合に合わせる」
「……違う」
「泣き声も上げずに泣いていた者が何を言う? そして両親に依存して負った時もそうだったのではないかの?」
 飯綱比売命は案に告げる。
 暗がりで。
 部屋の隅っこで。
 お前は泣いていたのではないかと。
 誰にも聞こえないように。
 息を殺して。
 涙もこらえて。 
 身を固くして。
 ただただ、悲しみが去るのを待つ。
 痛みが去るのを待つ。ただそれだけ。
「違うわ! 私は!!」
「何も違わぬわ。お主は心の寂しさを埋める為に相手に依存しておるが、それは健全な愛ではないぞ?」
 由香里の瞳から感情が、消えた。
 途端に、道も途絶えた。
 迷宮は形を変え。行く手を阻み、由香里を迷わせる。
 ああ、目指す者を失った少女はいったい何をめがて走ればいいのだろうか。


第三章 重なる手

 落児はその光景を眺めていた。かつての自分。
 幸福だったころの自分。
 こうやって殺伐とした空気に身を置かず。彼女の恵みを光を潤いを享受していた自分。
「フォークダンス楽しかったわね」
 少女は教室の窓際で佇んでいた。気だるげに窓のさんに頬を当てて、繊細な髪の毛が大きく広がり、窓の向こうには日が見えた。
 グラウンドのキャンプファイアー。
 後夜祭。学校祭は大成功に終わり、感動した彼女に抱きしめられしばらく動けなかったのはいい思い出である。
 そして恒例のフォークダンス。教室のみんなと、そして彼女と。
「楽しかったもなにも一瞬で通り過ぎるだろう……?」
「誰も落児と踊れてなんていってないわよ?」
「…………」
 あからさまにショックを受けたのか、過去の自分は暗い表情を見せる。
「ふふっ、冗談だってば。そういってくれて嬉しかったし……ね?」
 そう顔を上げて微笑んで見せる彼女。そんな少女に落児は歩み寄る。
「…………」

 そして。季節が移り替わる。
 同じく教室、けれど闇は深く、お互いに制服を冬変えていた。
 そして二人が纏う雰囲気が違う。
「外れてたら恥ずかしいけど、ここまできたらこういうのって卒業式とかでしない?」
 落児は苦笑いを浮かべる。察しが良すぎるのも考え物だ。
 だが聡明なところも彼女の一部。そしてそれらすべてが落児は。
「当日は忙しいと思ったし……進路が違うとはっきり決まったからいい機会と思ってな」
 そして落児は手を取る。
「……俺と付き合ってもらえないだろうか?」
 そう告げると彼女は、視線を回し、下ろし。落児のてをこすってみて。
 そして再度落児の目を見つめた。
「…………、…………?」
「…………あ、うん、はい。こちらこそっ……!」
「どうしたんだ? 夢うつつと言った調子だが?」
「こんなに、告白の言葉が短いとは思ってなかったのよっ!」
「……すまない」
「もっとこう、君の声が好きだとか! どこが好きだとか! 離れたくないとか! あるでしょう!?」
「それはあるが、言葉にすると伝えきれない気がして……な」
「……っ! あぁ、もう、いいんだけどね。……もう」
 そして暗転。次いで広がるのはこ汚い部屋。
「…………」
 その部屋で落児はパソコンのキーボードを叩いていた。
 そんな彼の小脇には幾分か成長したあの少女が横たわっている。
「どうかした?」
 落児はキーを叩く手を止めて女性を見つめる。
「いや、君がおしかけてきてからそろそろ半年かとおもってな」
「人聞きが悪いわね、ちゃんと公認じゃない」
「……まぁ、そうだな」
 そう落児は周囲を見渡した、気が付けば彼女の荷物のほうがおおいしまつ。
「不満でも?」
「いや、あたらめてこれからもよろしく」
「…………っ!!」
 すると女性は落児の首に飛びつくと大きな音を立てて二人とも倒れ込んだ。
 幸福だった、そしてこの幸せはずっと続くものだと。
 

   *   *


 共通の思い出、あの子が憶えている事は少ないだろう。
 そうAliceは考える。
 だから思い出すのは始まりの日。一面炎と血の赤に染まった日。
炎を纏った獣の王に、家族を殺され共に逃げた黒髪の少女の頭もあの子の目の前で潰された。
 その光景をAliceは俯瞰で見つめていた。
 その直後に現れた私を見て、続きはまた今度とゲームでもするかのように獣の王は笑って消えた……あの日の事。
復讐心を鍵に取り戻すしか、今は出来ないから。
「ねぇ、誓約を交わした日を憶えている?」
 Aliceは空に向けてそう告げる。
「憶えている。全部じゃないけど。ゲームの勝利を望んだ、あの日だね」
 するとアリスがそう言葉を返した。
 振り返る、そこには迷宮の壁。
「まだ、行くには早いわよ」
 まだ言ってない事がある、教えてない事もある。
 教えてない事は墓まで持って逝くと決めたから、伝えられる事はひとつしかないけれど。
「……私は、あいつとのゲームが終わったら、叶えたいことがある」
 そうAliceは壁をなぞる、すると切り裂かれるようにして壁が崩れた。
「貴女の未来を、再び築き上げる事。無くしたものは取り戻せない。だから新しく、貴女が笑う未来を作る事」
 その先に光が見える、彼女が呼んでる。

 宇宙も、地球も、他の人間も。どうでもいい。
 まどろみ、不特定多数。世界が望むというならば、それこそあの子はあげられない。
 何故ならば、私の世界とはあの子そのものなのだから。


   *   *


 そしてイリスは扉の前に立っていた。
「この扉……そういえば家の扉がこんなのだったっけ」
 それはイリスの兄の部屋の扉。
 その扉の向こうから兄の声と、そして自分の笑い声が聞こえた。
「見せてくれないか、君の過去を」
 そうアイリスが代わりに扉を押し開く。
 すると、兄のコレクションでお人形ごっこをして遊ぶ少女がいた。
 ただ、その手に持っているお人形がロボットだったり、ヒーローの人形だったりした。
イリスは巨大ロボでかっこよく大活躍に目を輝かせる少女だったのだ。
「そういえば、ねだってプラモデルとか買ってもらったっけ……組み立て含めてやってもらって」
 その姿を無感情に見下ろすイリス。
「お兄さんは君の遊びに付き合ってくれていたんだね」
「何か声をかけてくれるわけじゃなかったけど。ボクの事離れた場所からずっと見ててくれた記憶があるよ」
「幸せそうな顔をしている、イリスが楽しそうにしているのが本当に好きだったんだね」
「うん、そういえばメリーとクリューの時も一緒にいてくれたなぁ」
 直後暗転、二人の頬を風が伝う。場所は草原、そして遠くには森。
 メリーと散歩してクリューと仲良くなるために追っかけまわして。
 そして。
「イリス!」
 遠くから駆け寄ってくるのはイリスの姉。
 その手にはタオルと飲み物。
「お姉ちゃん!!」
 あの日の自分が姉の胸に飛びこんだ。
 自分はもう絶対にできないこと。
「泥だらけで怒られて……お風呂できれいにしてもらったら暖まって眠くなって」

「髪、手入れしてもらうのが気持ちよかったっけ」

 姉にしきりに今日の出来事を話すイリス。
 その今日の冒険活劇を家族みんなが聞いてくれていた。

    *   *

「仙寿様、私は生粋の忍なんだよ。人を殺す事も本当は躊躇無く出来る」
 あけびは迷宮の真ん中で日暮に告げる。今見た光景の説明をするように。
 今見た光景を噛みしめるように。
「私の人の心は姫叔父と『仙寿さま』が持っていたんだ。あの人に笑っていろって言われたから……だから私は人らしくありたい。あの人がいないと私は侍でいられない」
 そう刀をなぞるあけび、その姿を日暮は見つめていた。
(あけびは俺と師匠を同一視してる。それだけ師匠が大事なんだろう……なら、俺は?)
 そしてあけびの手を日暮は取った。
「だったら、行くぞ」
 それに従うあけび。
「のんびりしてる暇はないはずだ」
 そして日暮はあけびの持つ刀を引き抜く。そして。
(ただ一つ言えるのは、あいつが旅立ったらあけびが泣くって事だけだ」
 壁を切り倒す日暮。自分ではない自分。
 それが告げるのだ。彼女の心を救えと。
(あけびは最初から俺をお前と……自分のヒーローと重ねてた)
 日暮は多くを語らない、だがあけびは彼を信頼してその導きに従う。
(悔しかった。俺だってヒーローになりたい、誇れる自分が欲しいって思ってた)
 そこに至るため。ただそれだけを目指した。
(なのに相棒の筈のあけびが俺を見ていない)

(その上ムカつくことに、話を聞く内に俺の理想のヒーロー像もお前になった。
 お前を越えて対等な相棒として見て欲しいって思ってんのに理想がお前。
 こんな馬鹿な話があるか)

    *   *

 迷宮は着実に攻略されていく、その光景を遊夜は見下ろしていた。
「ガキ共と……あいつの為だ、負けやしねぇさ」
 風が強い高台で、眼前に広がる無限の迷宮。それを眺めて一人ごちる。
「しっかしこれから大事な戦いだってのに……まったく、我が相方は」
 遊夜には見えていた。
 彼女が自分の名前を叫び、扉を潜り着々とこちらに近づいてくるのを。
「おかーさんなんだろう? しっかりしないとガキ共が安心出来ねぇぞ?」
「……おかーさんだから! 家庭を、家族を守るんだよ!」
 ユフォアリーヤの声が遊夜の元まで響く。その言葉に遊夜は小さく微笑んだ。
「おとーさんが。いなくならないように。家族が一人でも欠けないように」
 遊夜は目を瞑り押し黙った。

「ボクは出会った時から、最初から本気だったよ?」
 謎の愚神に負い立てられて迷い込んだ見知らぬ世界、そこで自分を待っていたのは、死にかけの目をした一人の人間で。

「分かってたさ、愛しい娘だからな……まぁ気付いたのは途中からだったが、鈍感ですまんね」
 何せ彼女と真っ向から向き合うには、記憶という大きすぎるパーツが欠けていた。
 一度死んだ自分と今の自分、そのはざまに彼女がいて、彼女の手をどちらに引いたらいいか分からなかった。
「惚れ薬や睡眠薬を仕込んでみた時、知ってて飲んでくれてたことは……分かってた」
 そう小さく微笑むユフォアリーヤ。駆ける速度が速すぎて壁に激突、床に転がる。
「だけどなぁ……薬まで行ったのはちょっと……うん、駄目かなって」
 たじたじとした遊夜の声。
 その時光が目の前で散った。ユフォアリーヤの耳がせわしなく動く、彼の声が聞こえる、この光から、この光の先から。
「効いた振りしてボクに合わせてくれたことも、無かったことにしてくれたことも」
「さりげなく止めたのにまた作ってたろ、アレ」
「婚姻届けも、この指輪も、あの言葉も……全部本気だったのに!」
「婚姻届けも、指輪も……一緒にいるって誓いも本気だぜ?」
「ボクへは家族と同じ、娘のままなの? こんなに、愛してるのに!」
 ユフォアリーヤは壁を駆け上がる。そのまま大きく飛んだ。その瞳は高台の遊夜を捉える。
 遊夜もまたその鷹の目でユフォアリーヤを捉えた。
 思いがけない再会、二人は目を見開いて。
 けれど微笑んだ。
 同じ思いが胸にある、だから安心できたか。
「絶対に、絶対に、絶対に……貴方の、ユーヤの傍にいるの!」

「その為ならどんな壁でも超えていく、ボクはこの程度じゃ止まらないんだから」

 だから。

「だから、それを守りに行く予定だったんだが……ね」

「やれやれ、止まってくれそうにないな……まったく、うちのお姫様には敵わんね」

 だからだから。

「待ってろよそこで。今迎えに行く」

「リーヤを」
「ユーヤを」

「「もう二度と一人にしないから」」

 ユフォアリーヤは大地を踏みしめる、四つん這いになって迷宮の奥深くを睨んだ。
 そのままの姿勢でユフォアリーヤは駆けた。なぜだろう、この体制の方が速く走れる気がして……」
「ユーヤは、忘れてる……ボクは、寂しがりやな狼なんだよ?」
「……絶対に、逃がさないから」
「分かった分かった、依頼は取りやめだ」
「あの地獄から連れ出してくれたのは貴方、ボクの幸せは何時だってユーヤだった」
「……これで良いんだろう?」
「だから……ボクがこうして触れるのは、一生ユーヤだけがいい」
「今から迎えに行く。今からな!」
 そして遊夜も走り出す、二人を阻む迷宮の中へ、しかしひも解かれつつある迷宮の中へ。



第四章 救出

 沙羅は扉からはじき出されるとぬかるんだ地面の上を転がった。
 汚い体。それは泥まみれの衣服をさしてではなく、溶けだした容姿の事をさしても言っている。
 元も姿が暴かれようとしている。
 誰にも見られたくないこの姿、けれど。
「今回ばかりは、なりふり構っていられないわ」
 思い出す、たった数日だけど満たされていた日々。
 たった数日だけど、心通わせた日々。
 たった数日だけど、自分は一人じゃないんだって思えた日々。
「私はあの日。あの時、あなたの声も、容姿も名前も、立場も奪ってしまってけど! けど!」
 沙羅はスピードを上げる、邪魔な壁は溶かして破る。
「本当はあなたに名前を付けてほしかった」
 彼女の暖かな笑み、自分の手の中で溶けて消えてしまったか弱い生命体。
 だけど、自分よりも何倍も強くて優しかったと、沙羅は思っている。
 その強さや優しさは受け継げていない気がする。
「あなたにつけてもらった名前で呼び合いたかった」
 もうあの悲劇は繰り返させない、指をくわえて見ているだけであの子を救えないなんて、もう嫌だった。
「伝えなきゃいけない言葉があるのよ」
 こんな私と友達になってくれてありがとう。と。
「名前もだけど、誕生日も貴女の命日にしちゃった。寄生虫みたいね。人生を乗っ取ってるみたい。私って酷い化け物」

――そんなことないよ

 その言葉に沙羅は振り返るとなぜかそこに迷宮の出口が広がっていた。


   *   *

「なぜ?」
 リュカはガルーにしがみついて声高らかに問いかける。
「そりゃ、世界を救うなんて大役子供達だけに押しつけなんてできないし?わざわざ敵の方へ行って疲弊しなくても、なんて作戦不備も感じるし……」
 違う、そう言う理屈っぽいことを言いたいのではない。
 そうリュカは首を振る。
「……いや、その、本当の所は……」

「凄く、凄く凄く、寂しいから、行かないで」
 
 その言葉に征四郎もオリヴィエも振り返った。
 征四郎の頬を涙が伝う。
「あれ? おかしいですね。世界を救える名誉ある旅なのに、嬉しいはずなのに」
「ここで守ればいい、地を踏みしめて。皆で戦えばいい、その方がずっと強いんだから!」
 みんな、その言葉に顔をあげる征四郎。
 虚空に手をかざし、そしてそのみんなを思い浮かべる。
「リュカ……」
 その手にオリヴィエが自分の手を重ねる。
 するとリュカの前に扉が出現した。
「最初、お兄さんと。せーちゃんは病室で出会ったよね」
 定期的に響く心電図の音。そしてはっきり覚えているのは少女の不安と安堵の入り混じった顔。
「あの時から、もう気に入ってたんだよね」
 何も見えず、見る気力も無く、俯いていた自身に慌てるように飛び込んできた声が。
 今でも最初の光だったのだと。
「この子と一緒にいられたらきっと、楽しそうだなって」
 ガルーはリュカに背を預け別の光景を見つめていた。
 草花咲き乱れる裏庭。こじんまりとしているが、自然とここに皆が集まるくらいに大好きな空間。
 春には花が咲き。夏には涼みに来て、秋には椛を眺めてため息をつく。
 そして、冬。
「リーヴィ……」
 ガルーは突如変わった光景に息を飲む、輝くイルミネーション。クリスマスが近いのだろう。
 その輝きは白く純連でそして鮮やかで。
「こんな何気ない日々の積み重ねが」
 リュカがしんみりとつぶやいた。
「なくなるくらいなら」
 ガルーはにやりと笑みを浮かべる。
「「世界などしったことか」」
 直後ひび割れる世界。
「俺は知ってる、君たちがとても強い子だってこと」
 いや、悪意というなら最初からだ、自分たちを別つ者は全て悪だ。それがたとえ運命と呼べる絶対的なものでも。
「人の為ならと、それが最善ならと、自分の恐怖も何のそのの、正しい方を選べる強さだ」
 リュカは高らかに宣言する。
 壁に亀裂が走った。
「お前は助けられた命だと言うが。俺様は本当にお前を助けられたんだろうか」
「でも駄目だよ、だってそこにはお兄さんいけないんでしょ? せーちゃんが本当に泣きたい時、頭をなでてあげられない」
 ビシリ。
「まだ出来ていない。理不尽だったお前の未来を、変えられていない。俺様はお前に、一度『明日』を貰ったのにだ」
 ガルーの声でまた一つ亀裂が走る。
「オリヴィエがいないと、金木犀の香りできっと毎年悲しくなる。だから、駄目」
 そして壁が崩れた、その先には二人がいて。
「せーちゃん!」
「いまさらどうしてここに!?」
 征四郎は驚きの声を上げる。
「連れ戻しに来た」
「だめです!」
 征四郎が鋭く叫ぶ。
「征四郎たちは世界を……」
「聞こえてたんでしょ?」
 リュカが告げ、そしてガルーが言葉を継ぐ。 
「抱え込むな。俺様達が二分する作戦なんざ、上手くいくはずねぇんだ。もう一度考えよう。お前らが諦めたなら、俺様が何とかしてやる」
「そんなの……」
「出来るはずだろ? 4人ならよ」
 その言葉を受けオリヴィエは見た、隣で肩を震わせる少女を。
 涙を我慢しているのだろう。
 それを見せてしまえばきっと、自分が折れることを知ってる。
「戻ったほうがきっと幸せだぞ?」
 オリヴィエが征四郎に告げる。だが。
「そ、そんなのわかってるのですオリヴィエ! 征四郎は真面目なのです!」
 震える手で自分を抑える、走り出したい衝動を。
 心細い自分を。
 きっとここで駆けよれば二人は自分を慰めてくれるだろう。
 けれど、それでいいのか。
「この世界が好き、皆が好き。だけど、だから、行かなくちゃ」
「四人って言ったけど、御家で待ってる留守番組の事も忘れてあげないでね」
 リュカが告げる。
「きっと二人も、せーちゃんがいなくなったら悲しむよ、いなくならないためならきっと、神様でも殺せるくらいに力を貸してくれるよ」
 オリヴィエが征四郎にそう告げると、ガルーはオリヴィエに視線をうつす。
「おいで、リーヴィ。世界もお前も、俺は手放すつもりはない」
 その言葉に一瞬目を見開くと。オリヴィエはそっぽを向く。
「身勝手も何のその、か。やはり惜しいと思ってしまうではないか」
「オリヴィエ?」
 首をかしげる征四郎。
「なら、仕方ないな」
 そう歩みを進めるオリヴィエ。開いた片方の手で少女の手を掴む。
 いくらオリヴィエとて。人のためだろうが、相棒が寂しいの言葉と隣の少女が泣き顔とに勝てるはずが無いのだ。
「…………くさい台詞、だな」
 そうオリヴィエは二人に笑いかけると、リュカとガルーは征四郎の返答を待った。
「聞こえてました、全部」
 征四郎はゆっくりリュカへと歩み寄る。
 そして。その手を伸ばした、リュカの足にしがみついた。
「だから征四郎も、リュカの寂しいを埋めていたい、です」
 リュカは自分に居場所をくれた。
 だからその恩を返すまでは、世界よりもリュカが優先でいいかもしれない。
 今だけはそう、思えたのだ。

    *   *

「ボクの家族は優しかったよ……でも普通の優しさだった」
 イリスは振り返る、気が付けばイリスは丘の上に立っていた。見上げたことのない星空を背に、家族が立っていた。
 あの日別れた、もう二度と戻らない。
 家族。
「英雄でも聖人君子でもなかった……」 
 普段見あげる星空と全く違う極彩色の光景。
 そんなわけのわからない光景に、家族が吸い込まれていくと想像すると。 
 いてもたってもいられなかった。
「傍にいる。そんな当たり前の幸せがわかる人たちだった」
 守るなんて言い訳を残して宇宙のどこかへ行くなんてできない人たちだった。
 ごくごく普通の家族で、幸せな家庭だった。
「もういない家族の! 思い出の! 領域を! 踏み荒らさせてなるものか!」
 その叫びを家族はじっと聞き入っていた。
 広げるのはあの日の笑顔。
――イリス……。
 アイリスは言葉を飲み込む、泥まみれになりながら走ってきた少女の誰にも見せたくない涙を、アイリスは見て見ぬふりをしたのだ。
「イリス、あの時私は。伝言を受け取っているんだ」
 別に、伝えてほしいと言われたわけではない。
 けれどアイリスは、イリスにとってその言葉が必要だと。思ったのだ。
 だから、願った。その記憶が彼女に伝わるように。
 その時だ。
 姉が口を開く。
 小さく微笑んで、その頬に銀色の雫が伝って。そして。
「私たちが幸せにしてあげたかった」
 イリスは振り返る。そして歯を食いしばってイリスは坂の下を見下ろす、そこには。
「だから取り戻す! たとえ姿だけの偽者でもな! まどろみぃぃぃぃ!!」
 その目の前にはリュカたちを見送ったまま佇むまどろみがいた。
 そのまどろみはゆったりとイリスを見つめると、イリスの飛び蹴りを腹部に受ける。
 こぱぁっとまどろみが無言の悲鳴を上げて倒れる。
 その後イリスはまどろみの胸ぐらをつかみあげると耳元で叫ぶ。
「宇宙だの、闇の軍勢だの、防衛部隊だの、またふざけた記憶を捏造して植えつけていきやがって!!」
「ははは、お気に召さなかったかね」
「当たり前だ!!」
「だが、まだその時ではない、まだ少し直接対決には早すぎる」
 その瞬間まどろみがイリスの目の前から消えた。
 笑い声だけを残して。
 

 第五章 到達

 空飛ぶ船は発射を今か今かと待っている。
「ラヴィエル君、私よりずっと弱いじゃない! 男の子は強くありたいんだろうけど、それなら……私が代わりに行く。あなたを行かせたくない!」
 その発射を待つ青年の背にエレオノールが抱き着いた。
 その後ろにはリンカーたちが続々と続く。
「遙華さん」
 たとえば蛍丸。
 その視線の先には遙華がいた。
「遙華さん、僕も遙華さんのこと、好きです。いなくならないでください。これからも遙華さんの笑顔が見たいです」
「蛍丸……」
 その言葉に遙華は微笑んで振り返る。
「たった一人で行くなんてしないでください……」
 その光景を詩乃が傍らで見守っている。
 蛍丸がその手を伸ばす。
 次の瞬間。遙華の顔が悪魔のように歪んだ。
「あなたのお姫様は一体どこへ行ったのかしらね?」
 蛍丸は振り返る、そこに由香里の姿はなかった。

   *   *

 Aliceは気が付くと、原っぱに横たわり風を受けていた。
 その頭を大事に抱きかかえるのはアリス。
 力の限り走ってきて、そしてたどり着くなり力尽きてしまったらしい。
「シャトルはどうしたの? アリス」
「乗らないことにしたよ、アリス」
「全部聞いていたの? アリス」
「そうよ、私のアリス」
 全て聞こえていたわ。そう黒いアリスは微笑むと、赤いAliceはその頬に手を伸ばした。
「聞きたいことがあったの」
「なにかしら?」
「…………貴女が世界の為に、英雄に?……正義の味方は、似合わないな」
 今はまだ、そんな含みを持たせたけれど、アリスにはたぶん伝わっていなくて。
 その言葉をアリスは静かに笑みを浮かべる。
「…………ふ、確かにそうだ」
 二人はそう、草原の上でくすくすと笑い合った。

   *   *

「サラ!!」
 沙羅はたどり着くなりそう叫ぶ、間一髪。彼女はシャトルの階段を上っている最中だった。
「すごい格好だね」
 サラと呼ばれた少女が振り返り見ると沙羅は人の姿を捨てていた。
 まるで紫色の粘土で新しい生命体を作ろうとしたかのような不定形。
 沙羅の持つ邪神の姿である。
 だがところどころ人間の時の面影を残している。
 それをさしてサラは告げた。
「それ、気に入ってくれてるんだね」
「当然でしょ! だってあなたの形見だもの」
 沙羅は告げる。
 そして沙羅は走り寄りサラを抱きしめる
「やっと、触れられた。やっと」
「おおげさだなぁ」
 そう微笑む少女の頬を涙が伝う。
「いかないで、空になんかいかないで、ここにいて。御願い」
 その首に回った腕をなぞって、サラは告げる。
「どこにもいかないよ、ずっと一緒、そうでしょ?」
「うん」
「あなたが笑って生きてくれることが私の一番の幸福なのよ」
「うん」
 その沙羅のかけてきた方向から落児も現れる、その訪れを察して一人の女性が振り返った。
「やっぱり来ちゃったかぁ」
 そう微笑む女性。すべてを察していたと言わんばかりに苦笑いを浮かべた。
「やはり、共に居てくれないだろうか?」
「それはもう、無理だって知ってるくせに」
 そうつぶやく女性。その言葉は落児には届かず。
「…………君の最期にたどり着くまで共にあろう」
 そう落児はその手を取った。
「まったく、律儀なのは全く変わらないのね」
 この夢の中だけでも明るい未来を、そう願って二人は瞼を閉じる。

   *   *

 栞もまたその場にたどり着いていた。
 宇宙戦に乗る寸前のお館様の肩に手をかける。
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと状況を整理しましょう! 私は御屋形様の部下ですよね!?」
「そうだけど。仕事上の」
 お館様はたじたじだ。
「お二人はお付き合いを!?」
「うん」
 お館様の英雄が告げる。
「宇宙に行く理由は!?」
「世界を俺が救うんだ……とかじゃないけど、ほら、ウチ名門だから。仕事の成果を適切にあげないと、顔がつぶれる。すでに受けている仕事だしな」
 その発言を聞いて栞はいけると確信した。
「そーっ思ってですね! 忍術は事前準備! 御屋形様と月夜様でないと一番不自然、能率が悪い、お二人がいないとクリアできない仕事を探しておきました!二番手の人がキャンセルせざるを得ないように工作もしておきました……」
 そう資料をどこからともなくパカパカだして告げる。
「お前何やってんの!?」
 お館様は若干引いていた。
「仕事に空いた穴は……宇宙には私が行きます! これ、見てください! でまかせじゃない証拠に……仕事のプランとマニュアルと基礎知識です!腕はかなり落ちますが、でたらめではありません!」
「くっ……ちょっと弱いが、まあどうしようもないか……?お前、できそうもないなら代役とか用意してからいけよ!」
 そう栞はお館様とバトンタッチして宇宙船に乗り込む。何かおかしくないかなぁ? と首をひねりながら。
 『構築の魔女(aa0281hero001)』は栞の背中を見送ると気負いなく船から降りると、落児を見送る
「誰かに守られる世界ではなく誰かと共に守る世界……であるべきですよね
 そしてスペースシャトルは放たれる。
 細く、雲をひいて。
 天高く、やがて宇宙まで。
 そんな宇宙船を眺めながらあけびは告げた。
「師匠……」
「やはりお前には笑顔が似合う」
 そう微笑んで師匠はあけびの頭をなでる。
「……何で俺まで撫でられてんだよ」
 そして日暮も一緒に。撫でられる始末
「この子を頼んだ」
 最後に。夜空に白いパラシュートが広がった。
 栞は寸前のところで船から脱出。
 地球へと降下を始めた。


 エピローグ

 私はずっとこうして生きてきた。他の愛し方なんて知らない  
 彼の気持ちを尊重したいのも本当。遥華ともいい関係でいて欲しいのも本当。でも、どうしていいのかわかったら、私はここで独りになったりしない。

 そう疲れ果てて壁に寄り掛かる由香里へ飯綱比売命が語りかける。
「彼氏ができた時はお役御免だと思ったのじゃが。まだ先は長そうじゃ。ま、わらわは何があろうと傍におるゆえな」
 その時だった由香里の耳に声が聞こえる。
「君の想いを全て叶える手段を提示しよう。夢の扉を求めなさい。そこにきっと私がいるだろう、次に会う時、全てを与えることを約束しよう」

 決して失わない、夢幻の力を。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • サバイバルの達人
    藤林 栞aa4548
    人間|16才|女性|回避
  • エージェント
    藤林みほaa4548hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • エージェント
    エレオノール・ベルマンaa4712
    人間|23才|女性|生命
  • エージェント
    トールaa4712hero002
    英雄|46才|男性|ソフィ
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