本部

墓場に彷徨うは灰の巨人

弐号

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2016/12/09 00:30

掲示板

オープニング

●死霊術
 日本の妖怪に動く死体、いわゆるゾンビがいないのは主に火葬だから、と考える人は多い。
 しかし、それはあまり正確ではない。日本で火葬が主な埋葬方法として一般的になったのは明治時代からであり、それ以前の主流は他の国と同じように土葬であった。
 にもかかわらず死体が動く逸話は日本には少ない。それは埋葬方法の問題ではなく、日本人の死生観が肉体ではなく、魂という不確かな存在によっているからだろうか。
「この国は我にとっては過ごしにくい国であるな……」
 墓場の片隅に佇む人影がボソリと呟く。その姿は馴染みのある言葉で例えるとするのなら『死神』というのが最も分かりやすいだろう。
 ぼろ布の如き黒衣に全身を包み、唯一露出しているフードの奥からは白骨と化したしゃれこうべが顔を覗かせていた。
 一般的にイメージされる死神と違う点を述べるとすれば手に持つ物が鎌ではなく、木で作られた杖であるという点であろうか。
「先日のような大掛かりな仕掛けも早々気軽に起こせるものでもあるまいしな」
 見た目の不気味さとは裏腹に独り言の多い性格らしい。のそりのそりと墓場を練り歩きながら思考を巡らせる『死神』。
「我の求める環境を求め、新天地へ赴くのも手ではあるが……。やはりその地に合わせ新たな技術を開発してこそ魔術師の本懐というもの」
 そう呟くと杖を掲げ、空中に文字を描くようにゆっくりと振り、その先が淡く発光する。
「ふむふむ……なるほどなるほど。燃やしたうえで死体を灰として保存しているのだな。これであれば……」
 杖から発せられた光が墓石に向かい、その中の骨壺の中へと入り込んでいく。
「塵も積もれば山となる。灰も集えば骨となろう」
 いくつかの墓石が中から飛び出した灰によって押し倒され地面に落ちる。
 灰の塊が『死神』の上に集まり一つの形を成していく。
「我が死霊術にて蘇るが良い。フフ、ハハハ……」
 集う灰を見上げ、死神が不気味な笑い声を墓場へ響かせた。

●墓荒らしの謎
「酷い有り様だな……」
 墓荒らしにあったかのように、墓石がひっくり返され荒れ果てた墓場を、少し離れた丘から見渡しながら奥山 俊夫(az0048)が呟く。
「今朝方掃除に来たらこの有り様でして、それでまず警察に連絡したのですが……」
「ええ、伺っています」
 この墓場を管理している住職の言葉に頷く。
 奥山がここを訪れたのはその通報を受けた警察からの要請があったからである。捜査開始の前の愚神や従魔の関与の調査が彼の仕事だ。
 ――いや、彼等か。
「俊夫ー、これは当たりだわ」
 スコープのようなものを覗き込みながら、近くにいたリリイ レイドール(az0048hero001)が奥山に話しかける。
「何か見えたか?」
「見えたというか……全体に薄くライヴスが漂ってる感じだね」
 ライヴスを可視化するゴーグルを通して墓場を見渡しながら状況を解説する。
「墓場全体にか?」
「うん、全体のライヴスを集めると多分デクリオ級一体分くらいにはなりそうだね」
「……嫌な予感しかしないな。今の内に晴らす事は出来んのか」
「難しいんじゃないかなぁ。そもそもこんな量のライヴスが一ところに集まってること自体が異常事態だしね。何か特殊な手段使ってるんだと思うよ」
「あ、あのつまりどういう事なんでしょう?」
 目の前で結論が見えない会話をされ、住職が戸惑った様子で話に割り込む。
「愚神の介入があったと思わしき痕跡を発見しました。この事件、我々H.O.P.E.が預かります」
 住職にそう告げると、奥山は携帯を取り出し連絡をくれた警察の担当者へと電話を掛けるのであった。

解説

・目的
墓荒らしの正体を暴き、駆除せよ。

・敵(PL情報)
デクリオ級従魔「灰の骨巨人」 1体
 遺灰を集結して作られた骨の巨人。身長は3mほどあり、墓石と灰で作られた巨大なこん棒を持っている。
 見た目は人間の骨の形であるが、実際には灰の集まりであるため、折れたり砕けたりはしない。破損した箇所はすぐさま修復される。
 ただし、その度に墓場の蓄積されたライヴスを消費しており、これが一定量以下になると徐々に体が縮んでいき、最後には霧散して消滅する。
 何故か昼には姿を見せず夜にしか現れない。何も手を出さなければ墓場を徘徊しそこから出ようとはしないようである。

・状況(PC情報)
 荒れ果てた墓場。至る所に墓石が倒れており、あまり良い足場とは言えない。

リプレイ

●荒れ果てた墓地
「酷い……」
 荒れ果てた墓場の様子を見て大宮 朝霞(aa0476)が顔をしかめる。
「ふむ、これがこの国の墓か。こういうのは文化が出るな」
 彼女の後ろで腕組みをしながら興味深げに眺めるのはニクノイーサ(aa0476hero001)。朝霞の契約英雄である。
「普段はこうじゃないのよ? もっと厳かで、静かで……!」
「そんな事は分かっている。死者の寝床としては見た目が騒がしすぎるからな」
 そう言って、ニクノイーサが持っていたライヴスゴーグルを顔に当て、墓場を見渡す。
「どう、ニック? ライヴス見える?」
「情報通りだ。何者かが何らかの手段でライヴスを集めているという奥山達の推測に、俺も同感だな」
「異常ライヴス、か。どういう意味があるんだろうな……」
 ニックの報告に迫間 央(aa1445)が独り言のように呟く。それに荒木 拓海(aa1049)が自身の集めた情報を書き留めたメモに視線を落としながら続く。
「一応、住職さんに今まで似たような事が無かったか聞いてみたけど、無いって。土地柄ライヴスが集まりやすいとかそういう事じゃなさそう」
「まあ、そんな変な土地ならH.O.P.E.の探知にとっくに引っ掛かってるわよね……」
 そのメモを少し背伸びしてメリッサ インガルズ(aa1049hero001)覗き込む。
「奥山さんに聞いてみたけど、発見から今までの間にライヴスに特段動きは無いってさ」
 三ッ也 槻右(aa1163)がスマホをポケットにしまい込みながら言う。
「昨日の夕方までは問題なかったのであろう? であれば、やはり夜に何かが起こったと考えるのが自然であろうな」
 その後ろから酉島 野乃(aa1163hero001)が思案顔で着いてくる。
「となると、しばらくは準備かな? いろいろやる事は多そうだね」
「マスター、足元にはお気をつけください。共鳴しましょうか?」
 トントンと白杖で地面を確かめながら歩く木霊・C・リュカ(aa0068)に契約英雄の凛道(aa0068hero002)が問いかける。
「いや、大丈夫。とりあえず戦いになるまでは俺も自分の体で手伝うよ」
「分かりました。どうか無理はなさらず」
「とりあえず、墓石を片付けましょうか。何時までも放っておくのは忍びないわ」
 軽くため息を吐きながらマイヤ サーア(aa1445hero001)が墓地に向かって歩き出す。
「とはいえ、完全に元に戻すのは後にした方がいいかもな。ここで戦いになるかもしれん」
「今ハンパに戻しても、余計に被害出るかもしれないもんな」
 飛岡 豪(aa4056)とガイ・フィールグッド(aa4056hero001)が同じく墓地に足を踏み入れながら話す。
「そうですね。じゃあ、征四郎は戦いやすそうな場所を探すのです」
「ま、ここじゃ足場も悪そうだしな」
 顎に手を当て考えるポーズをとる紫 征四郎(aa0076)の頭にポンと手を置きながらガルー・A・A(aa0076hero001)が言う。
「僕も行くよ。できればここを戦場にはしたくないからね」
 槻右が征四郎の意見に同意し、野乃と一緒に付近の探索に赴く。
「では、俺は墓石を整理しよう。力仕事だからな」
 いつもの服を腕まくりして狒村 緋十郎(aa3678)が近場の石を持ちあげる。
「あ、それじゃあ、住職から墓石の場所の地図を貰ってこようか。片付けるならどこに誰の墓があるのか分からないと不便そうだからね」
「お付き合いします、マスター」
 ニッコリ笑ってリュカと凛道が管理者である住職のいる寺の方へ向かっていく。
「じゃあ、オレは明りを設置しようかな。いくつか用意しておいたんだ。長丁場になりそうだったからね」
「や、やっぱり、夜も調査しますよね……?」
 照明用具を取り出した拓海に恐る恐る朝霞が尋ねる。
「当然だ。俺達の目的はこの異常事態の解消だからな」
 それに答えたのはニクノイーサだった。
「だって……ここはお墓だよ?」
「……なんだ朝霞、もしかして怖いのか?」
 顔を青ざめながら話す朝霞の様子にピンと来て尋ねる。
「こここ恐くなんてないもん!」
 分かりやすいくらい慌てて手を振って否定する朝霞。誰が見ても明らかだ。怖がっている。
「アサカ」
「ひゃああああ!」
 後ろから首筋に冷たい物を押し付けられ、朝霞が素っ頓狂な叫びをあげる。
「しっかりしなさい。今からビビッてどうするのよ」
「レミアさん……?」
 その冷たい何かの正体はレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)の手だった。
「驚かさないで下さいよ。……でも随分手が冷たいんですね、レミアさん」
「当たり前よ、わたしは吸血鬼。死霊の頂点に立つ不死者の女王よ。わたしは死んでからもう何年も経っているんだもの」
「そうか……。そうですよね」
 今まで意識していなかったが、英雄たちはこの世界の人間とは全く異なるつくりの者も多い。中にはそういう既に『死んで』いるものもいるのだ。
「アサカはわたしも怖いかしら」
「いえ、レミアさんは大丈夫です。吸血鬼、ですから。でも、それは別として夜のお墓は恐いんですよぉ!」
「今一つ分かりかねるわね……」
 吸血鬼であるレミアにとってはむしろ夜こそがホームグラウンドである。朝霞が何を怖がっているのが全く理解できず呆れ顔で呟く。
「よし、オレが朝霞に良い事を教えてやるぜ!」
「ほ、本当ですか?」
 やり取りを聞いていたガイが握り拳と共に大きな声で告げる。
「ほ、本当ですか……?」
「ああ、実は正義の心には幽霊は寄ってこないんだ! 特に今回は被害者の方々だからな! きっと俺達に協力してくれるさ!」
 無茶苦茶な論理を振りかざすガイ。レミアには正直一から十まで理解できない熱血言語だ。
「なるほど……やっぱり正義の心って凄い!」
 しかし、幸いにも朝霞は熱血言語の通じる人種だった。
「まあ、そういう奴であろうよ、お前は」
 慣れた様子でニクノイーサが肩をすくめて呟いた。

●朧気な影
「よし、大体こんなものか」
「ああ、多少忍びないが、ここは戦場になるかもしれないから。仕方あるまい」
 豪と緋十郎が墓場全体に散らばっていた墓石を端の方に並べて積み上げる。
「お疲れ様。こっちも終わったよ」
「拓海か。そっちもご苦労だったな」
 現れたのは照明を設置していた拓海とメリッサ、
「まあ、重くもないし楽だったよ。まあ、急に用意できるものだからそこまで本格的なものでも無いしね」
「ま、それでも無いよりはマシよね」
 振り返って周りに取り付けてきた照明を見やる。バッテーリーに繋げるような強力なものではなく、基本的に電池式の証明である。
 一応の明かりにはなるが、墓場全体を照らすには少々心許ないだろう。
「しかし、改めて見るとやはり酷いな」
 自身が片付けた暮石を眺めて豪が呟く。暮石は倒れた時の衝撃で欠けてたり、折れてしまっている者も多い。中には完全に粉々になってしまっている物さえあった。
「墓っていうのは過去を忘れず、自分に決意や生きる目的を刻み込む場だと思う。だからこそ、許せない」
「野暮な事をするものよの」
「死んでまで、苦しめる必要なんて……どこに……」
「野乃さん、槻右さん」
「征四郎もいるのです。周辺は見てきましたが、周りはほとんど雑木林でした」
「まあ、一応平地だったし戦えるけどよ。あまり視界がよくねぇしお勧めはしねぇなぁ」
 丁度他の班の面々も作業を終えたらしく続々とこの場に集まってくる。
「それでも、もし戦うのなら出来れば征四郎はそちらに誘導したいのです」
「こっちの方が戦いやすそうではあるが。せっかく片付けたんだしよ」
「……もう!」
 ガルーの無神経な言葉に征四郎が肩を怒らせる。
「まあ、それも実際に敵が出てきたら、の話だがな。状況は不明瞭すぎる」
「……その点についてちょっとご相談があるんですが、いいですか?」
 ニクノイーサの言葉の後に央が軽く手を上げて口を挟む。
「……自分なりにこの墓場を調べてみて気付いたことがあります」
「ほう? いいだろう、言ってみろ」
「……最初は愚神が暴れて墓石が倒されたのかなと思ったのですが、それにしては墓石の倒れ方が一定過ぎるんです」
「一定過ぎるとは?」
「ふっ飛ばされたりした暮石は無くて、端の墓まで全部同様にパタンと倒れた感じ、と言いますか……」
「あ、それは僕も思いました。内側から押されたみたいだって」
 同意するのは槻右だ。
「ええ、それでこの墓地から無くなっている物に気付きました」
「……遺骨、だね」
「そうです。無くなっているというよりは墓場全体に満遍なく散らかってるという感じですが」
 リュカの言葉に深々と頷く。
「敵の目的は遺骨だったという訳なのです?」
「いい線行ってると思うわ。死霊を操る者が黒幕だと考えると、墓場に来るのは必然。でも、この国の埋葬は火葬だから……」
「代わりに遺骨を取り出して、結果墓石が倒れた、か。なるほどありそうだな」
 レミアと緋十郎が央の推論を補強する。
「愚神からすると実験みてぇなもんなのかもな。この国で自分の術が通用するかどうかの」
 ガルーが言う。そう考えればこの謎のライヴス溜まりも何となくしっくりくる。
「ええ、だとしたらその実験の結果をどこかで見ている可能性は高いと思うんです。犯人は現場に戻ると言いますし。だからもし敵が現れたら私は戦わずにそいつを探してみようかと。その分、皆さんに負担をかける事になってしまいますが……」
「構わん。隙にしろ。多少人が減った所で不覚を取るような俺達じゃない。集まってるライヴスの量もせいぜいデクリオ級だしな」
 ニクノイーサが代表のように許可をだすが、どの道央の意見に反対する者はいないようだった。
「あ、ついでと言ってはなんだけど、僕も最初の方は戦いから外れようかと」
 央の提案に乗っかるような形で槻右が告げる。
「いいけど……なんでだ?」
「うん、やっぱりこのライヴスの溜まり方は気になるから。墓場全体を見渡せる場所に待機して妙な動きがないか監視しようと思う」
「いいかもしれないわね。うまく行けば隠れている愚神の場所も分かるかも」
 槻右の提案に今度はマイヤが同意する。
「分かった。でも、細かく連絡入れろよー。俺が寂しいから」
 ニヤリと笑って拓海が親友の胸をドンと拳で叩く。
「分かった。夜の墓場じゃ怖いもんな」
 それを冗談で返してやはり槻右も笑うのであった。

●進撃のガシャドクロ
「だいぶ、日も暮れましたね、マスター」
「まあ、お兄さんにはこれくらいの方が目に痛くなくていいけど」
 サングラスを少しずらしながらリュカが言う。
 事前に設置した照明器具のおかげで真っ暗で何も見えないというほどではないが、戦うのには少し心許ない。
「ニック、絶対離れないでね……。絶対だからね……!」
「お前……正義の心とやらはどうした?」
 腰砕けになりながら縋りついてくる朝霞にあきれ果てながらニクノイーサが返す。
「べ、別に怖がってる訳じゃないもん! て、敵がでたらすぐに行動できるように……」
ガタン!
「はい、ごめんなさい! 怖いです、嘘吐きました!」
 急に暗がりから聞こえた物音に涙目になりながらしゃがみ込む朝霞。
「……今の音は誰だ?」
 付近を警戒し、仲間の位置を確認しながら豪が尋ねる。音のした方向に味方はいない。
 ガタガタガタ……
 何かが震えてぶつかる様な音が墓場全体に響き渡る。
『拓海、ライヴスが動き出した! 一か所に集中していく!』
「ああ、こっちでも動きがあった」
 槻右からの通信を受け、確信する。敵が来る。
「オオォォォ――」
 何かを嘆くような、恨むような低く震えるような声がエージェント達の皮膚を揺らす。
「オオオォォォォ――」
 そして、墓場のあらゆる場所から灰や遺骨の欠片が一か所に集まり、巨大なこん棒を持った人骨の姿を取る。3m近くある巨体だ。
「ガシャドクロって奴かね。これは悪趣味だな」
「最初から悪趣味なのです。行きますよ!」
 敵の出現にも慌てず、エージェント達が共鳴する。
「うわぁぁ! でででたぁ~!」
 一部出来てない者もいるが。
「落ち着け朝霞。アレは幽霊じゃない。従魔だ」
 ニクノイーサが逃げ出そうとする朝霞の襟首を掴み冷ややかに告げる。
「え、従魔?」
「そうだ! それに奴は遺骨の集合体! 死者を冒涜するなど……愚神であろうとなかろうと、許すわけにはいかん!」
 豪も駆け寄り朝霞を力強く励ます。
「そうか、従魔か。そうと分かれば怖くないわ! ニック、変身よ!」
「やれやれ……」
「墓荒らしめ、絶対ぶっ飛ばしてやるぜ! ファイヤー!」
 豪と朝霞とニクノイーサが並び立つ。
『変身!』
 そして同時に叫び、輝く光と共に共鳴する。
「ミラクル☆トランスフォーム!! 聖霊紫帝闘士ウラワンダー参上!」
「俺は闇夜を照らす赤色巨星! 爆炎竜装ゴーガイン! これ以上、死者の眠りを妨げる事は許さん!」
 思い思いのポーズを取り、派手な演出と共に現れるヒーロー二人。
「視界が……今のはライトアイだったのですね」
 ふと暗がりが見通せるようになったのに気付き竜胆が呟く。ポーズを取る際に朝霞からついでに飛ばされた物らしい。
「随分、墓場とはかけ離れた雰囲気ですが」
『辛気臭いのよりはいいんじゃないかな』
「……それはそうかもしれませんが」
 そう言ってから竜胆は現れた巨大な骨の従魔に向かい合う。
「神や仏の元に還った者達――。……死者への不敬・冒涜は、許しがたい」
『はてさてねぇ。焼かれてまで働かされるなんてお兄さん嫌だけど!』
「まずは小手調べです! 行きますよ!」
 凛道がガシャドクロに手をかざすと、その周囲にいくつもの大鎌が浮かび上がった。
「ストームエッジ!」
 激しく回転する大鎌にガシャドクロが切り裂かれる。
「オオォォ――」
「――!?」
 しかし、ガシャドクロは一切怯むことなく、のっしのっしと早足にこちらに向かってくる。
「効いてない?」
 止まらぬガシャドクロがエージェント達に迫る。
「させるか! 食らえ、爆炎逆鱗!」
 豪が持っている鎖鎌を振り回し、連続でガシャドクロに強烈な攻撃を加える。
 そして、それはあっさりガシャドクロのあばら骨を貫いた。
「なに?」
 意外な呆気なさに声が出る。しかし、次の瞬間にはそれは引っ込んだ。
 鎖鎌によって砕かれ、破壊されたあばらが、ほんの数秒で元の形に再生していく。
「……修復した!? 不死身だとでもいうのか!」
 再生が終わるのを待つことすらせず、ガシャドクロは進撃する。
「オオオオォォォォ――!」
 ひるまずよろけず、止まることなく愚直に突き進み、そして、こん棒を振るった。
「危ない!」
 散り散りになってそれを避けるエージェント達。
「――っつ、これは、破片……?」
 地面の石畳や墓の基盤や、こん棒に使われている墓石の破片が飛び散りエージェント達の肌を浅く裂く。
「動きは大したことないけど……。一切怯まないのがキツイな……」
 攻撃は最大の防御――とは言うが、それは攻撃で相手が怯んだり防御してくれることが前提である。
 避けようとしないどころか、少しの足止めもできないというのは意外と厄介だ。
『呆けてる暇はないわよ! ほら、来るわ!』
 ガシャドクロは休まない。ガシャドクロは再びこん棒を持ち上げこちらに向かってきていた。
 普段であれば攻撃の一つでもして牽制するところだが……。
「それが通用しないんだよな……面倒くさい奴」
 ぼやきつつも油断なく戦輪を構える。
「ここならどうだ!」
 そして、それをガシャドクロに向かって投擲する。狙うは武器を持つ右手首。
「よし!」
 狙い通り拓海の戦輪がガシャドクロの手首を両断し、こん棒が床に落ちる。
「オオォォ――」
 しかし、それでもガシャドクロは止まらなかった。自身の武器であるこん棒を拾う事すらせず、無手のまま向かってくる。
「マジで!」
 そして、歩きながら再生する。そして、後ろから追ってくる形で飛んできたこん棒、そして手首と改めて合体し、その勢いのまま横薙ぎに振り回す。
「このっ!」
 拓海はそれを何とかガードしつつ、後ろに跳んで勢いを殺す。
「アラキ! 大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫……。威力自体はやっぱりデクリオ級って感じだ。厄介なのは再生だな」
 この人数であれば本来あっさり倒せる敵だろう。だが、その特性が面倒だった。
「生命の理から外れた存在である不死者が再生するのは当然よ。でも、再生をもたらす魔力には、必ず限りが有る……そうよね」
 こん棒を振るったその隙を突いて漆黒の翼を展開したレミアが接近する。
「不死者の女王として、念入りに殺してあげるから……」
 レミアの深紅の爪と、その腕に纏わりつく瘴気と地獄炎がガシャドクロの喉笛を貫く。
 強力な一撃にガシャドクロの首どころか、顎や胸にかけてまで一気にはじけ飛んだ。
「オ――オォ――」
 再生しながらも、レミアを掴もうとするが流石に少し動きが鈍っていて容易く避けられる。
『――見えた。ライヴスが一気に動いてる! やっぱり再生にこの墓場のライヴスを使ってるんだ!』
 高所から墓場全体を見渡している槻右が叫ぶ。
「では、墓場のライヴスを全て消費すれば倒せる?」
『つうことは、こいつこの墓場から出ねぇぞ、多分』
「……仕方ありません。ならば少しでも早く敵を倒しちゃいましょう!」
 征四郎が大剣を構えガシャドクロへ吶喊する。
「紫 征四郎、参ります!」
 大剣でガシャドクロの胴体を真っ二つに両断する。
 どうせどこを狙っても、対して結果は変わらない。ならば愚直に真っすぐ斬りつけるのみ。
「オオォ――」
 案の定攻撃されながらもこん棒を振り上げるガシャドクロ。
「これ以上、お墓を破壊されるわけには行かないのです!」
 それをあえて避けようとはせず盾で受け止める。
『わざわざ攻撃食らってまでやる事かね?』
「ガルー! 煩いのです!」
「征四郎さん!」
 ガシャドクロの後ろから朝霞が異様に巨大なマジカルステッキで殴りつける。浮かび上がるハートマークと砕け散る頭蓋骨のコントラストがシュールな光景だった。
「大丈夫ですか?」
「ええ、このくらい大丈夫です」
「ニック、この敵、ちゃんとダメージ与えられてるのかな?」
 砕けた頭蓋骨もすぐさま再生していく様子を見て朝霞が不安そうに呟く。
『表情が読めないから分からないな』
 皮膚も肉もないガシャドクロの顔から感情は読み取れない。そもそも感情があるかどうかも怪しい敵だが。
『……いや待て。さっきより少し小さくなった気がするな』
「体が小さく? 本当に?」
 言われてガシャドクロを見上げるが今一つ実感が湧かない。
「……なるほど、確かに少しですが縮まっていますね」
 朝霞の呟きを拾って竜胆が同意する。
『ライヴスがほとんどなくなってる……。供給が尽きて自分のライヴスを食ってるのかも』
 槻右の情報もそれを裏付けるものだった。
「……よし、このまま攻撃を続ければ、難なく倒せるだろう。俺は央の方の援護に回るぞ」
『ボクが代わりにそっちに行くよ。観測はもう必要なさそうだしね』
「分かった。こっちはオレ達が引き受ける!」
 豪の提案に、あえて目立つ豪炎槍へ装備を切り替え拓海が答える。豪は無言で頷き戦場から抜け出していた。

●ノーライフキング
「ふむ、思ったよりも魔力の枯渇が早かったな……。こちらの戦士達もまた優秀だという訳か」
 墓場から少し離れた木の生い茂る丘に一人佇む黒い影があった。
 真っ黒なぼろ布の如きローブに身を包み、遠くから戦場を眺めている。それはガシャドクロを生み出した愚神に他ならなかった。
「以前の病院も苦労の割りに実入りが少なかった。もう少し工夫を凝らさねばならんか」
 ブツブツと独り言のように呟く愚神。
「さて……それで我に何が御用かな、人間よ?」
「……お前か。墓荒らしの犯人は」
 肩にライヴスで生成した鷹を乗せ、木の影から央が姿を現す。あわよくば背後から一撃と思ったがそこま で甘くないらしい。
「槻右がいた高台とは逆側の丘か。こんなところにいたとはな」
 さりげなく通信機の設定をオンにしながら話しかける。
「如何にも。我が行った実験である」
「随分素直に答えるな」
「隠す意味が何かあるか? 押し問答をしたかったのかね、時間稼ぎのために?」
「――」
 意図を読まれていた事を感じ、神経をより一層張り詰める。
「四国の事件もお前が起こしたのか?」
「……四国? この国の南方にある島国だな。ふむ、そちらで我と似た事をしている奴がいるという事か」
(知らない……?)
 無論演技の可能性もある。そこは見極めなければいけない。ただ、口調に違和感などは特に感じなかった。
「それでどうする? ここで仲間が来るまで我と戦ってみるかね」
 目の前の愚神の威圧感が急に膨れ上がる。
 肌がひりつくような雰囲気でわかる。強敵だ。
「央!」
 とそこへ墓場を抜け出して駆け付けた豪の鎖鎌が飛来する。
「主は少々気配が煩い。忍び寄るときはもう少し静かにせんか」
 しかし、それは愚神の持つ杖により弾き飛ばされた。
(今だ!)
 その隙に央が愚神に向かって突っ込む。
「ふむ」
 無論それは愚神も予想したものだったのだろう、向けた指先から黒い魔力塊が放たれる。
「舐めるなっ!」
 逆にその反撃も央の予測の内だ。スレスレで掠めるように魔力塊を避け、愚神に斬りかかる。
「ほう!」
 袈裟切りに切り裂かれる愚神。
 しかし、次の瞬間その姿は影絵のように真っ黒になり、そして砕け散った。
「――何っ!?」
「ふむ、大した速度だ。少々主を見くびっていた事を謝罪しよう」
 背後した声に振り返るとそこには先ほどの愚神の姿があった。
(幻覚……!? いや、手応えはあった。当たった後にいなくなった?)
 斬りかかった時の感触を思い出す。あれは幻覚や人形の類ではなかったように思う。
「大丈夫か、央」
「ええ、ありがとうございます、飛岡さん」
 追いついてきた豪と並び、愚神と向かい合う。
「ふむ、頃合いか」
 そう呟くと急速に姿が薄れていく愚神。
「――っ、待て!」
「無理はするな、央。二人では危険だ」
 駆け寄ろうとした央の肩を豪が掴む。
「賢明な判断だ」
「……今は見逃すが、死者を冒涜するお前を決して許さん。必ずツケは払ってもらうぞ」
「良かろう。我が名はレイドランド。不死者の王たるリッチである。また会える時を楽しみにしているぞ」
 不気味な哄笑と共に姿が消えていくレイドランド。
 後には央と豪の二人と、そして宵闇のほの暗さだけが残されたのだった。

●死者の眠りに祈りを
 ガシャドクロも特に問題なく打ち倒し、全員で墓場の修繕に取り掛かっていた。
「わたしを差し置いて不死者の王を名乗るとはいい度胸だわ。次に会ったら亡者の列に加えてやるわよ」
 豪と央の二人から話を聞いたレミアが開口一番不機嫌そうに呟く。
「王と言うのは俺も気になるな。その名に相応しい奴か見極めてやる」
「二人とも意気込みはいいから働いてー!」
「大丈夫だ。レミアの分は俺が二倍働いておいたぞ」
 墓石を運びながら注意する朝霞の言葉に、文字通り二つ墓石を運びながら緋十郎がにこやかにほほ笑む。満足そうな表情である。
「寂しいの……あのように纏められてしまっては、もう誰の灰か分からんの……」
 野乃が集めた灰を掘った穴にそっと優しく降ろしながら呟く。
「うん……せめて、埋めよう。家族が会いに来られるように」
 この寺の住職と相談して集めた灰は埋める事にした。簡易的だが共同墓地のようにしていくらしい。それとは別に個人の墓も維持していくようだが。
「どうか安らかに……」
「この国の弔い方分かるかい? どうもお騒がせしました、ってね。こうやって手を合わせるんだよ」
「こうですか?」
 おおよその修繕が終わり、手を合わせる豪とガイの横でリュカが凛道に弔い方をレクチャーする。
「死んだ後の人間に騒がしいも何もねぇと思うけど」
「ガルー、煩いのです。こういうのは気持ちなのです」
 仕事を終えて煙草を燻らしながら茶々を入れるガルーに征四郎が反論する。
「最近、死者……ゾンビの報告を多く聞くよ。生きた人間を変えるだけじゃなく、死者も利用するのなら敵の数は無限だ」
「食べるだけじゃ飽き足らないのかしら」
「心を近づけられそうな愚神も居るんだと、感じていたのだけど……な」
 メリッサの言葉に拓海が寂し気に微笑む。
「お墓は残された人が喪失感を癒す場所……こうなってしまったのは残念だわ」
「仕方ない……というのも悔しいけど、起こってしまった事は覆らない。次を防ぐことを考えよう」
 自身の気持ちと重ね合わせて伏せるマイヤに央は告げる。
 とりあえず、今回愚神の尻尾は掴めた。次はきっと防ぐ。死者の眠る灰を眺めながら央はそう決意を刻んだのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 大切な人を見守るために
    酉島 野乃aa1163hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 夜を取り戻す太陽黒点
    飛岡 豪aa4056
    人間|28才|男性|命中
  • 正義を語る背中
    ガイ・フィールグッドaa4056hero001
    英雄|20才|男性|ドレ
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