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【相談】パスワード・クラック
最終発言2016/10/12 20:12:38 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2016/10/12 13:30:43
オープニング
●オープニング
「パスワードはイルミナートが守っているようだ」
イルミナートにより長くゲーム世界に囚われていたミュシャ・ラインハルト(az0004)だが、エージェントたちの活躍によって、現実世界へ戻ることができた。
しかし、彼女はそれからも情報を手に入れるためにイルミナートの世界にログインして調査を続けていた。
「イルミナートは前回訪れた『最果ての大穴』の火口に巨大な塔を建て、そこでパスワードを守っている。塔は窓も扉も無く、周囲は溶岩で満たされて近づくことができない」
そこで、ミュシャの視線を受けたオペレーターは静かに頷いた。
「イルミナートの世界ですが、そこも他のドロップゾーンと同じように元となったルールブックがあります。私たちは長くそれを探していたのですが、ようやく見つかりました。────お願いします」
声をかけられて、部屋の隅に座っていた何人かの男女が立ち上がった。
「このゲームを作った『ドルイド』です。あ、もちろん、ゲームを創る時に使うペンネームです」
黒髪の男が挨拶する。
「この世界は僕が個人的に制作し、ネット上でダウンロード販売しているゲーム『ダブル・パルス』のルールブックの世界です。安価で評判もいいので、初心者の方も興味本位でダウンロードしてくれているみたいですが」
「この方たちは、先日、『ダブル・パルス』の世界に囚われたユーザーの方たちです。この方たちが居た世界が」
話しかけたオペレーターを手で制して『ドルイド』が再び口を開く。
「えー。僕の創った『ダブル・パルス』なんですが、ざっくり言うとふたつの世界が表裏一体になっている世界観なんですよね。発展した世界<モノ>と、その世界の負担を受ける不安定な世界<マルティプル>。実はその世界のバランスが────」
「その辺りは、今回のミッションには必要無いので一旦省きますね。
とにかく、イルミナートの世界がこの世界観の元に作られていて、現在彼がいる火口にもルールブックに記載されているふたつの世界を繋ぐ次元の歪みがあるそうなんです」
「<ワンホール>です」
「とにかく、この世界にはたくさんのそういう別世界への穴────移動ポイントがあり、それを使って移動しているキャラクターが居ます。イルミナートです」
「あの《旅の扉》とか言うふざけたアイテムですね。僕はああいうのを許可した────」
「とにかく、前回イルミナートとの対戦で使われた《デスマーク》によりマルティプルへ移動したことがわかりました。言い辛いので、モノを《表世界》、マルティプルを《裏世界》とします」
不満そうな『ドルイド』を無視して、オペレーターの女性はホワイトボードに絵を描きだす。
「イルミナートが今まで主に出現していた《表世界》、そして、このゲームの《PL》さんたちが囚われていた《裏世界》。このふたつは《次元の歪み》と言える移動ポイントで繋がっています」
《表世界》にはNPCが切り盛りする街や国があり、そして、何人かの一般人が囚われている。
《裏世界》は常に不安定に歪んでおり、フィールドが時間ごとに変化する。囚われている一般人は居ない。
「前回の《デスマーク》の結果、そして、この《PL》さんたちと彼らを助けたエージェントの話を総合すると、《裏世界》にある以前の依頼でドラゴンが出現した洞窟から《火口の塔》へと繋がる《次元の歪み》があります。
イルミナートは《デスマーク》で追跡されたことに気付いていないので、私たちは《裏世界》から侵入することができます。 《裏世界》は『ドルイド』さんと《PL》さんたちが通信で案内してくださるので、最短時間で目的の洞窟へ行けるでしょう」
オペレーターの言葉に《PL》と呼ばれた人々は力強く頷いた。
「また、《火口の塔》は別の依頼で捕縛したイルミナートの部下ディアレットにより地図を作製、彼女を連れて行くことにより最上階のイルミナートの部屋の扉の封印を開けることができます」
ディアレットはゲーム内NPCであるため、この場には居ないが、ゲーム世界へログインした際には同行すると言う。
「時間がありません。パスワード構築の魔法陣が完成する前に破壊してください」
●ルール
目的:イルミナートの守るパスワードを最低10ターン、移動時スキル・プレイングボーナス有で11~14ターン以内に破壊しなくてはいけない
・全員の行動終了を1ターンと数える ※今回の特殊ルール
・ゲーム開始から18ターンでパスワード構築は完了(任務失敗)※正確なターン数についは後述
・パスワードは直径10m程度の魔方陣。イルミナートの居る部屋の奥に浮かんでおり、その前でイルミナートが守っている
・パスワードの前には簡単な結界が張ってあり、ある程度攻撃しないと壊せない
・パスワード自身はそこそこ耐久性はあるがリンカーがある程度ダメージ与えると破壊できる
〇ターン数について(パスワード構築完了までゲーム開始から18ターン)
・エージェント達は《裏世界》を2ターンで移動(-2ターン使用・確定)
・《火口の塔》最低6ターン~最高3ターンで移動(-0~-4ターン使用)
下記のスキル回数全消費で《火口の塔》移動に必要なターンを縮められる
プレイングにて『移動時スキル使用』宣言必須、何人でも短縮ターン数は同じ(分散不可)
《罠師》全消費宣言→-2ターン
《怒涛乱舞》全消費宣言→-1ターン
またその他のプレイングによって最大-1ターン縮めることができる
〇敵情報:モンスターを盾に従魔二人、その後ろにイルミナート、更に後ろにパスワードがある。
・イルミナート(愚神ケントゥリオ級相当)
物攻B 物防B 魔攻B 魔防B 命中C 回避C 移動B 生命A 抵抗B INT B
今回、下記の能力アイテムの所持が判明しています。
《運命の輪》『確定ロール』を行う(ダイスロール判定時、内容を強制変更)
《影払い》重傷以上のリンカーの共鳴を強制的に解除するらしい
《旅の扉》本のアイテム。その場から《裏世界》のどこかへ退却
※『全体攻撃をするアイテム』『回復アイテム』『全体の命中を下げる幻影アイテム』『魔法を1ラウンド封じるアイテム(対個人)』をそれぞれ2つずつ持っている
・従魔(デクリオ級):顔の無い人形型従魔、主なステータスは二体共同じ
知能:人 物攻F 物防C 魔攻B 魔防B 命中C 回避C 移動F 生命C 抵抗D INT C
従魔<魔物使い>スライム・角ウサギ・ゾンビ・ドラゴンを大量召喚
従魔<魔導士>強力な全体攻撃をする
・モンスター:<魔物使い>が召還
ドアが開いた時点でスライム5体、他のモンスターが2体ずつ
●Ready?
「ルールは理解したか?」
ミュシャがエージェントたちを見渡した。
「時間が無い────行くぞ!」
エージェントたちはイルミナートが待つ、歪んだファンタジーの世界へとダイブした。
解説
目的:パスワード構築の阻止
ステージ:《表世界》火口の塔の扉が開いた後、イルミナート戦がメインのリプレイになります。
主に三班に別れての行動をお願い致します。
【従魔】対応班
【イルミナート】対応班:イルミナートの気を逸らす、パスワード防衛を妨害するなど
【パスワード】破壊班:パスワード破壊に専念
通信機器はH.O.P.E.から貸与。
●登場キャラクター
〇味方
・『ドルイド』と《PL》:シナリオ『【卓戯】PLよ、剣を持て!』で捕らえられていた一般人。《裏世界》のマップに詳しい。
・ミュシャ&エルナー:作戦に参加するH.O.P.E.エージェント
〇敵
・イルミナート:敵NPC。外見は勇者のようだが性格は強欲・独善・利己的。金と経験値に目がない。アイテムをたくさん所持。
・ディアレット:イルミナートに従うエルフ戦士。前回、エージェントによって捕縛され、イルミナートに見捨てられた。この世界依存の攻撃・回復魔法が使えるらしい。今回は扉の封印を解くために同行(確定)。それ以外の協力行動はしない。
・モンスター
スライム・角ウサギ・ゾンビ:直接攻撃のみ
ドラゴン:ミーレス級ではあるが弱く、直接攻撃のみ
PL情報
・ガネスとレイリィによりイルミナートは《運命の輪》を5回使えるようにパワーアップしてもらっている
・ディアレットはイルミナートの部屋の中まで必ず同行する。イルミナートの部屋の封印を解く以外の行動はしない。
イルミナートのピンチに必ずエージェントたちを裏切って一度、対イルミナートへ回復魔法を使う。
・パスワードの構築を停止すると、イルミナートが塔を破壊します。大急ぎで脱出してください。
リプレイ
●裏世界<マルティプル>
テーブルトークRPG『ダブル・パルス』の裏世界<マルティプル>。
そこへパスワードを破壊するために、二十人ものエージェントが降り立った。
彼らは、洞窟を突破して、火口に立った塔の<ガーディアン>イルミナートと戦わねばならない。
だが────、降り立ったエージェントたちは周りを見回す。
そこはどこまでも続く砂漠だった。
「洞窟はどっちだ」
同じく共鳴した月影 飛翔(aa0224)の問いに、<PL>からの通信が入る。
『この世界はすでに解析された。時間が無いのはわかってるけど、これが一番早い。どうせ僕の言うことなんて聞いてくれないんだろうけど……』
割り込むように別の<PL>の声が入った。
『カウントダウン入りますぞwww』
『あと十秒だ、数えるぞ────五、四、三、二、一』
『メーゼンッ!』
その瞬間、世界が歪んだ。次の瞬間、砂の海は岩場にゴツゴツとした変わった。
『ハルちゃん、急がねばならないみたいだよ』
天狼(aa3499hero001)が土御門 晴明(aa3499)に声をかけた。
「あぁ、分かってる。急ぐぞ」
『うむ、行くぞ!』
眠る気配の無いパートナーの様子を見ながら、彼らは<PL>の指示に従って先に進む。
『ああ、行って来るといいさ……怪我なんかしないようにな』
最初の<PL>からエージェントたちへのぼそぼそとした応援に、晴明は微かに笑った。
『ちょっとややこしいけど、ちゃんとわかった?』
「うん」
先へと歩みを勧めながら、百薬(aa0843hero001)にの発言に餅 望月(aa0843)厳かに頷く。
────とりあえず、ルールはわかったことにして先に進もう。
時間が無い、イルミナートの守るパスワードをぶっ壊す、それだけわかっていれば充分だ。先へ進むためにふたりは静かに額を合わせて共鳴する。
<PL>のナビゲーションに従って、エージェントたちは一つの洞窟へと導かれた。
かびたような空気、いかにもなステージである。
「待って!」
ハーメル(aa0958)が先に歩き、入り口のスキル《罠師》を使う。
「この洞窟、この辺りには落とし穴があるようです、もしかすると他にも────」
「以前来た時はそんなものは無かったけどな」
皆月 若葉(aa0778)と麻生 遊夜(aa0452)、晴明が顔を見合わせる。
「<裏世界>の歪みか────イルミナートが仕掛けたのかもしれません」
月鏡 由利菜(aa0873)が固い表情で暗い洞窟の中を見つめた。
その言葉にシキ(aa0890hero001)は不満げに毒づく。
『こっちは時間がないのに、時間稼ぎってわけ。ヤラシイ』
青みがかった灰色の宝石のキーホルダーを手に取ると、シキは素早く十影夕(aa0890)と共鳴して、スナイパーライフルを抱いた。
「さすがね、ありがとう」
すべての罠を発見し解除したハーメルに。望月が笑顔で喝采を送った。
以前この世界を冒険したことのある皆月が率先して露払いとして全力で洞窟を駆ける。その後を追う、零月 蕾菜(aa0058)、紫 征四郎(aa0076)、木霊・C・リュカ(aa0068)。
「あっ!」
落とし穴に落ちかけた征四郎を慌てて他の三人が掴む。
「すみません。まだ罠はあるからこれ以上駆けるのは無理そうですね────」
悔しそうな顔でそう言った征四郎に皆月が「シッ」と唇に指を当てた。
「ドラゴンだ」
四人は素早く岩陰に身を滑り込ませる。少し開けたそこに寝そべるドラゴンたちの姿が見えた。
『この数ならなんとかなるかな?
ふふーふ、前進あるのみ! 突撃なのだ!』
前を示すリュカに、共鳴の主導権を握る凛道(aa0068hero002)は頷く。
「イエス、マスター。露払いと行きましょう」
「ライナはできるだけスキルを温存してください」
「わかりました」
征四郎の言葉に蕾菜が頷き、そっと岩陰を移動しながら距離を詰める。
「時間が無い、行くよ!」
皆月が合図と共に九陽神弓を引き絞り、矢を放った。
即座にグリムリーパーを下げた凛道が、大剣を持った征四郎が、ドラゴンたちの元へと飛び込む。
『蕾菜!』
「わかりました!」
共鳴した十三月 風架(aa0058hero001)がパートナーの名を呼ぶ。応えた蕾菜は地面にバアル・ゼブブの戦旗を突き刺した。加護の力が周囲に広がる。
突然の襲撃に気付けなかったドラゴンたちに征四郎の強い一撃、続くエージェントたちの攻撃に反撃することもできず、容易く次々と倒れた。そのまま、岩に隠れながら次々奇襲のように素早く倒して先へと進む。
「……っ、まずい……!」
『若葉、<表世界>への歪みはこの辺のはずだが、ドラゴンの数が多い。後続を待った方が良いだろう』
ラドシアス(aa0778hero001)の助言に従い、皆月は全員に岩陰に隠れるように指示した。
はやる気持ちを押さえながら、待つことしばし。微かな靴音に、蕾菜は敵から目を離さず素早く言葉を交わす。
「個体差はあるかもしれませんが、あまり強くは無いです」
「了解。────今回もよろしく頼むぜ」
『任せとけ! しっかりサポートするよ。<ワンホール>はこのドラゴンたちの足元だ』
「流入口に溜まってるってわけか」
<PL>へ語り掛ける遊夜に彼とペアを組んだことのある<PL>が応えた。
『……ん、先行する』
「ああ、行くぞ」
「1点突破で中枢を叩く、時間との勝負だな」
ユフォアリーヤ(aa0452hero001)の言葉に遊夜が乗る。
それから、後ろに続いた飛翔が魔剣「カラミティエンド」を抜き放った。
即座に猟犬の名を持つ遊夜の銃が、正確に一頭のドラゴンの頭を撃ち抜き仕留める。次いで飛翔ら近接戦闘を得意とするエージェントたちが飛び込む。
飛翔の足が遊夜たちが狙撃したドラゴンの躯を越え地面を蹴って更に前へと飛び込む。そして、ドラゴンへと斬りかかり、そのまま激しく鋭いは周囲にたむろするドラゴンの首を《怒涛乱舞》で次々と跳ね飛ばす。
『先へ────!』
飛翔と共鳴したルビナス フローリア(aa0224hero001)が叫ぶ。同時に飛翔の剣が立ち塞がる最後のドラゴンの身体を貫いた。
「先へ!」
飛翔の合図に、エージェントたちは倒れたドラゴンたちの間を抜けて、次々と<歪み>へと飛び込んだ。
●表世界<モノ>火口の塔
<歪み>は火口の塔の一階の床へと繋がっていた。
エージェントたちは穴へと飛び込んだ勢いで<歪み>から次々に飛び出した。
「仲間の後ろに控えに居るのも気が気じゃねェが……迷惑掛けるのはお門違いだしな」
東海林聖(aa0203)は軽やかに石貼りの床に着地すると、次のエージェントのために即座にその場から離れる。そして、ホールへと先行した。
だが、すぐに目の前に鎮座する巨大な階段に、聖はにやりと笑った。
「取りあえず、敵の好きにはさせやしねェ! 根底的にブッ飛ばしてやるぜッ!!」
ライトグリーンの光輝を纏う聖の”紅榴”が階段裏から這い出したゾンビをなぎ倒した。
『……隠密行動、じゃないんだっけ……ヒジリーには無理か……ま、結果オーライならいいかな』
少し呆れたようにLe..(aa0203hero001)が呟く。
『何だか敵が多くない?』
と、聖に追いついた望月と共鳴する百薬が疑問を口にする。
「正念場ってことよ」
表情を引き締めて階段を見上げる望月に努々 キミカ(aa0002)が頷く。
「ここからは、誰も入ったことの無い領域です。<PL>さんたちの案内とダンジョンマップを参考に進みます。
……脱出も、この順路でいいでしょうか」
事前にゲーム制作者の『ドルイド』から提供された地図広げると、それを頭に叩き込みながら経路を確認する。
「火口の塔がルールブックに乗っているダンジョンで良かったです」
『正確にはサプリメントですが』
ミュシャの言葉に『ドルイド』らしい通信が割り込むが、エージェントたちはそれを気にする暇は無かった。
ハーメルに変わって今度は谷崎 祐二(aa1192)が《罠師》を使う。エンカウントするモンスターは近接戦闘のリンカーに任せて、次々に進行を阻む罠を見破って一行を先導していく。
「無限回廊も落とし穴も、一度見てしまえば心構えが出来てるから結構見破れるものだな?」
時間に追われ気が急くのに耐えながら、谷崎は”先”を見据える。
『にゃ!』
「……そうだな、糧にはなっているな」
前回落とし穴に落ちかけた谷崎は相棒のプロセルピナ ゲイシャ(aa1192hero001)の言葉に丁寧に返し、廊下の先のそれを目線で示した。
「ほら、予定通りのスピードで最上階だ」
大きな扉には互いの尾を喰らう金と銀の蛇の彫刻があった。
『あの鼻持ちならぬ勇者気取りに一泡吹かせてやろうぞ、キミカ!』
ネイク・ベイオウーフ(aa0002hero001)の声に、キミカは深く頷く。
「ええ、彼に大きい顔はさせてやりません。やってやりましょう!」
勇者を名乗るイルミナートの有りようはキミカとネイクの信条に相容れないものである。《リンクコントロール》で絆を強めたふたりは士気を上げて武器を手に持つ。
扉の前で、一旦、由利菜と共鳴を解いていたリーヴスラシル(aa0873hero001)が慎重に周囲を確かめる。
「やはり、この扉をしかないようだな」
「最優先はパスワードの破壊ですね……!」
少し考えてから、リーヴスラシルがディアレットへ警告する。
「……元仲間だからと、仏心を出すなよ。あいつは愚神の手先なんだ」
「…………ディアレットさん、お願いします」
ずっと無言で後を着いて来ていたディアレットは黙って由利菜の前を通り過ぎると、手首に巻いていた腕輪を掲げた。
そんなディアレットの様子を見ながら、龍哉は胸騒ぎを感じた。
「ミュシャの情報でエセ勇者のネタも結構割れて来てるが」
『さすがに手の内全部とはいかないようですわね』
龍哉と共に考える、英雄のヴァルトラウテ(aa0090hero001)。
「奴自身だけに収まる話ならまだいいんだが……」
────ディアレットのように、一度は配下に収めた相手を強制的に操る、とか普通にありそうで油断ならん。
「《運命の輪は永遠の勇者に与えらえた女王の力、扉切り拓くたまさかの力》────」
抑揚のない声でディアレットがうたいあげた呪文に反応して扉が軋んだ。
エージェントたちはそれぞれ戦闘態勢を取った。
『開きます────がんばって』
<PL>からの通信。重い扉がゆっくりと動き出し、薄暗い回廊に白い光が差し込んだ。
●火口の塔の決戦
「いくよ……! 三……ニ……一…………響け……鈴鳴!!」
『GOじゃ!!』
共鳴した奈良 ハル(aa0573hero001)の合図に合わせ、扉が完全に開いた瞬間を狙って今宮 真琴(aa0573)が《フラッシュバン》を放つ。強烈な閃光弾は部屋の真ん中で炸裂した。
引き絞った皆月の弓が鋭い一矢で魔道士の肩を貫く。続いて、麻生の《ダンシングバレット》により生き物のように敵を追う跳弾が、夕の《トリオ》が、敵を襲う。
「処刑台への道は一本、逃げ道も隠れる場所もあってはいけませんよ」
凛道の《ライヴスキャスター》により召還された多数の水晶体が魔法や銃弾を嵐のように放ってパスワードまでの道を強引にこじ開けた。
室内に入る前に予め《潜伏》を使い気配を消したハーメルと谷崎が、リュカたちが作った道をパスワードを目指して前進した。
「っしゃ!! 行くぜッ!! 全力でぶっ飛ばす!!」
真琴のフラッシュバンと凛道のライヴスキャスターをやり過ごした聖は室内へと駆け込み、目を焼かれ尻尾を振り回してのたうち回っていた無傷のドラゴン一体斬り捨てた。
『……ヒジリー、私達……パスワード破壊でしょ……? ココは飛ばす場所じゃないよ……?』
ルゥの言葉に聖は少し考えたが、すぐに頭を振った。
────……そうだったぜ……! だけどよ、アタッカーとしては。
「降り掛かる火の粉程度は、この剣で払い切るッ!!」
『……それは賛成……』
ルゥの返事を聞きつつ、聖はパスワードまでの間でまだ立ち塞がるモンスターをなぎ倒すべく駆け出した。
『イルミナートの背後にはガネス達がいる。強化を施されてもおかしくはない』
ラシルの忠告に由利菜は”シュヴェルトライテ”を握る手に力を込めた。
それは、部屋に入る前、ディアレットが扉を開いている時に他の仲間たちとも話し合ったことでもあった。
「それでも、負けるわけにはいきません!」
イルミナートへ向かう由利菜の後をGーYA(aa2289)が続く。
「────イルミナートの思い通りになる世界なんて作らせるもんか!」
『うふふっ、”じしょうまおう”が相手よぉ』
そんなG-YAの中で、共鳴したまほらま(aa2289hero001)も胸を張る。
「これ以上、好き勝手にさせられねェよな。前への道は俺達が護る」
晴明の言葉に天狼が頷く。そうして、晴明が放った《烈風波》が起き上がったゾンビを跳ね飛ばした。
「感謝だ! このまま敵陣を突っ切り、パスワードを撃砕する!」
晴明の横を盾を構えたキミカが走り抜けた。
のそのそと、顔の無い従魔、魔導士と魔物使いがそれぞれの得物を構えた。
「また会ったな、チート大好きエセ勇者」
赤城 龍哉(aa0090)の声にイルミナートがはっとする。
「お前らは────また勇者の邪魔をしようと言うのか!」
顔を歪めたイルミナートを見て龍哉はそれを笑い飛ばす。その龍哉の隣に、彼と同じくらい精悍な顔立ちの鍛えられた男が立った。
「さぁて、相棒。やりあう準備は……って聞くまでもないな。んじゃ、勇者狩りを始めるとしますか」
リィェン・ユー(aa0208)の言葉を聞いて、今度こそイルミナートが怒りに顔を赤く染めた。
「お前らのような集団で襲い掛かる俗物が、私のような勇者を倒そうだと? そんなゲームが許されるものか。ふざけるな!」
そんなイルミナートの反応に、リィェンが僅かに動きを止めた。
「…………なんつうか中二病をこじらせるとあんな感じになるんだろうか」
『まったく悪趣味な格好なのじゃ。良いかリィェン。まちがってもあんなふうになってはいかんぞ』
「いや、あんなの目指したくはねえよ」
英雄のイン・シェン(aa0208hero001)と軽口を叩きながら、リィェンはぐっと身体を沈める。
────リィェンと龍哉とは長く組んで戦ってきた相棒だ。互いの思考やタイミングは目を合わせずとも分かる。
「俺らを相手に余所見出来ると思うなよ。いや、しても構わんが、その代わりバッサリ行かせて貰うぜ。遠慮なくな」
龍哉とリィェンは床を蹴って、仲間が開いた道をイルミナート目指して距離を詰めた。
「ふん、暴漢どもは倒さねばならないからな」
イルミナートはエージェントたちを見回すと、派手な剣を抜いた。
ミラクルスタッフを構えた少女、木陰 黎夜(aa0061)が共鳴した英雄に語り掛ける。
「行こう、アーテル……」
『行きましょう、黎夜』
アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)が彼女の言葉に応える。
すると、細い身体の少年のような黎夜に膨大なライヴスが膨れ上がった。
放たれたソフィスビショップのスキル、《ゴーストウィンド》。
不浄なライヴスを含んだ風や霧が巻き起こり、その場に残ったモンスターを、魔物使いを巻き込む。
「────!」
暴風が止んだ後に、魔道士の杖が光り、お返しとばかりに無数の光球がエージェント達を襲う。
傷ついた魔物使いも体勢を立て直し、なにかを唱えると、石貼りの床からうぞうぞと数体のゾンビが現れる。
「危ない!」
混沌とした戦場で、呆然とそれを見守るディアレット。その背後に現れたゾンビを征四郎の刃が叩き切った。
「────お前は」
問うような視線に征四郎は穏やかに笑った。
「少なくとも今は、私たちの味方をしてくださるのでしょう?」
そして、共鳴して青年の姿になった征四郎は身を翻し、従魔たちの方へ向き直る。
目の前には魔物使いと魔導士、そして召喚されたドラゴンやゾンビ、角ウサギがいる。
彼らをこのままにしていたら、時間内にパスワード破壊をこなすことができないだろう。
「紫征四郎、参ります!」
きっと前を見据える征四郎。
『面白ぇ。派手にやろうぜ、征四郎』
「ええ、ここで足を止めるわけには参りませんから!」
ガルー・A・A(aa0076hero001)に力強く答えて、青年の姿をした少女────征四郎は混戦模様の戦場へと飛び込んでいった。
…………ディアレットはそれをぼんやりと見送る。
虎噛 千颯(aa0123)はそんなディアレットを注意深く観察し、イルミナートとの距離が近づき過ぎないよう気を付けていた。
────何をするかわからないからな……お互いに。
とは言え、ここは戦場である。
また増えたモンスターたちの相手をしながら、同時に千颯は仲間の行動が妨害されないよう、気を付けて立ち回っていた。
千颯はこの場に居るエージェントの中でも指折りの鍛錬を積んだリンカーだ。
更に生命力に特化したバトルメディックである己の特性を生かして、自身が傷つくのも構わずにカスタマイズした魔槍イフリートを振るい、周囲を護りながらイルミナートへの距離を詰めた。
厳しい目でイルミナートを見定めるキミカが、スナイパーライフルを構える。
《ライヴスブロー》をかけた銃でパスワードを狙撃した。だが、それは避けられてしまった。
「腐っても<ガーディアン>か」
悔しそうに狙撃先を切り替えるキミカ。
僅かに敵の数が減り、パスワードまでの道が開いたことを確認した飛翔は、全長七十センチメートル程のスラッシュブーメランに持ち替え、中空に浮かぶ魔法陣────パスワード目がけて振りかぶった。
ガン! 飛翔の手を離れたそれは空で何かに激しくぶつかった音と、虹色の小さな火花を散らした。
『パスワード前に防御結界のようです』
「なら結界破壊後に全員での全力一斉攻撃だな」
ルビナスの言葉に沈着に答えた飛翔は、弧を描いて戻って来たブーメランを掴む。
その言葉は、通信機を通して全員へと伝わった。
●欺瞞の勇者
意味なく一段高いそこでイルミナートの剣が唸った。
エージェントたちを薙ぎ倒そうとし一歩踏み出そうとした瞬間。あり得ない方角から飛んできた矢がイルミナートへと刺さった。
「なにっ!?」
深く刺さった矢を慌てて引き抜くと、足を止めたイルミナートはそれと周囲を見渡したが矢の撃ち込まれた方向にはまだ誰の姿も無かった。
狼狽えたイルミナートの前に輝く光が舞い降りる。
「私は盾であり剣。……覚悟を決めて貰いましょうか!」
美しい光の鎧を纏ってイルミナートの前に現れたのは由利菜だった。《守るべき誓い》でイルミナートの注意を引きながら盾を掲げる。
「覚悟など! あさましき女戦士よ!!」
イルミナートの重い一撃が由利菜に叩き込まれる。光翼の盾を掲げた小さく呻きつつ、その攻撃を耐える。
「エセ勇者、当たると痛ぇぞ」
由利菜の後方から龍哉がブレイジングソウルの照準をイルミナートへと合わせる。二対一組の青色の銃を見て、イルミナートの眉が跳ね上がる。
「そんなもの!」
マントを翻し、由利菜から距離を取って銃弾を避けようととしたイルミナートだったが、ギリギリでそれはイルミナートを撃ち抜いた。即座にリィェンがシャープエッジを放り投げるが、そちらは剣で叩き落す。
「勇者ってのは勇気ある者で、お前みたいな傲慢な者の事じゃないんだぜ!」
そう言いつつも千颯は警戒を強めた。
────ミュシャちゃんみたいに共鳴を無理矢理解かれるような目には合わせないようにしなきゃな。
辺りの様子に気を配りながら、千颯もまたイフリートを振るう。その槍をイルミナートは己の剣で受け止める。
次いで、GーYAの《ヘヴィアタック》が畳みかけるように仕掛けられた。透き通るようなヴァルキュリアの銀色の刃を叩きつけられて、ダメージを受けきれなかったイルミナートが後退する。
「う……ぐっ!」
「とりあえず、私たちの相手をしていただきましょうか」
そう言って聖杖”ミリオンゲート”を構えた蕾菜をイルミナートがせせら笑う。
「魔法使いが、私と接近戦────? 侮られたようだな! 一撃で撤退させてやろう!」
杖を構えるだけで何もしてこない蕾菜へイルミナートが剣を叩き込む。すると、宙を浮遊する《プロテクタ》の装甲がその攻撃を和らげる。
「蕾菜さん!」
「大丈夫、このくらいで倒れるようじゃ先代に顔向けできませんからね」
由利菜の声に、蕾菜は敵から目を反らさず言い放つ。
「────そういう絡繰りか」
冷然と呟いたイルミナート。
息つく間も無く、皆月が正面から彼を狙って弓を引き絞る姿に気付く。
「『転移の魔法』から逃げられる?」
青年の言葉に、イルミナートの脳裏に最初の一矢が思い浮かぶ。
「魔法の弓か────?」
皆月の弓弦から放たれた矢がふっと消えた。
「まやかしよ、消えよ!」
慌ててイルミナートがカードを掲げたが、《テレポートショット》で放たれた矢はもう一度、イルミナートへと突き刺さる。
「なんだと────!」
「残念、これ魔法じゃないんだ」
驚く欺瞞の勇者を真っ直ぐに見据えながら皆月は次の矢を番える。
<ガーディアン>に生じた隙を見逃さず、盾から剣に持ち替えた由利菜が《ライヴスブロー》を狙って駆け寄る。
それに気付いたイルミナートが慌てて踏み込稀る前にその手を翳した。
「《蛮族の剣は私に届かず、勇者の光の前に目が眩むだろう!》」
由利菜の鋭い一撃が不意に曲がって床を叩く。
──── 一回!
イルミナートの前で刃を並べるエージェントたちが心の中でカウントする。
「俺らを相手に余所見出来ると思うなよ。いや、しても構わんが、その代わりバッサリ行かせて貰うぜ────遠慮なくな!」
龍哉とリィェンの拘束を狙った《ネビロスの繰糸》が放たれたが、イルミナートが即座に身を屈め、剣で振り払ったため拘束することはできなかった。
「面白いアイテムだ。ドロップするのが楽しみだぞ!」
「残念だが、エセ勇者には俺らは倒せないぜ!」
臆せず豪快に立ち回る龍哉たちを見て、イルミナートもさすがに不利を感じた。
相手は自分ほどでは無いが、この場に居るエージェントたちの中でも攻守に長けた者ばかりだ。
苛立つ気持ちを抑え、休まずに撃ち込まれる攻撃をいなし、また削り切れなかったダメージを受けながら、自分を援護するはずの魔導士の様子をちらりと見る。
「…………役立たずめ」
エージェントに囲まれてイルミナートを援護するどころではない魔導士の様子に小さく舌打ちする。そう言えば、モンスターの数も一向に増える気配がない。魔物使いの方も押されているのだろう。
「従魔では駄目だな────」
そう呟いた
<ガーディアン>である彼を産み出した愚神と同じように、イルミナート自身もエージェントたちを侮っていたことに今さらながらに気付くのだった。
そして、先程からイルミナートを挑発するような皆月の攻撃も癇に障る。
再び弦を弾いた皆月だったが、その矢はイルミナートを越えて飛んでいく。
「当たらない? そうだね……狙ってないし」
口を開いた皆月の言葉に、イルミナートははっとして振り返って気づいた。
●魔法陣を壊せ
《潜伏》を使い、密かに魔法陣の傍まで忍び寄った谷崎とハーメルは、魔法陣の前に張られた結界に阻まれた。
谷崎はイルミナートの背後になる位置へ周ると、《毒刃》を放った。
「魔道士、だ……」
墓守(aa0958hero001)の声。ハーメルはその場を避ける。すると瞬時に先程までハーメルが居た場所へ魔力の光球が叩き込まれる。
「移動しつつ……しかし、なるべく早く……」
己の攻撃力を嘆きながら、ハーメルは敵から離れた場所で結界の攻撃を開始する。
そこへ、嵐のように飛び込んで来た男がいた。
「行くぜッ! 千照流……鳳瓦ッ! 飛閃!!」
紅榴の遠距離攻撃で結界を壊そうと試みようとする聖。
「っと……!」
のそのそと突っ込んで来たゾンビをひらりと避け、一撃叩き込む。振り返ると、魔物使いが聖に目鼻の無い顔を向けていた。
「そう簡単には行かせない、か!」
「危ない!」
キミカの警告を無視して、谷崎は毒刃を纏ったグリムリーバーを振るう。《潜伏》が解けた彼の背中が角ウサギに刺されて赤く汚れる。
一瞬、痛みに唇を噛みしめた谷崎だったが、モンスターを無視してなおも結界へグリムリバーを打ち付ける。
『にゃぁあ!』
プロセルピナの声は谷崎を心配したものなのか、それとも彼の信念を応援するものなのか。
もう一度、谷崎の背に尖った角を叩き込もうとしたモンスターは飛んできた銃弾に貫かれて霧散した。
だが、モンスターは次から次へと現れる。
「谷崎さん!」
剣を構えたミュシャが谷崎の周りに集まりつつあったモンスターを打ち払う。
従魔とモンスターを掃討するジャックポットの中で、真琴は唯一パスワードを狙うって弓を引き絞る。
「結界までちょっとあるね」
『まぁワタシらには意味ないがな』
「ここから狙うよ!」
『当然じゃ!』
真琴の弓、フェイルノートが撃ち出した矢が結界を揺らし放電のような光を放つ。
「……」
『ハルちゃん?』
びりびりと震える結界を見上げ、動きを止めた晴明の名を天狼が呼ぶ。晴明は軽く頭を振った。
「いや一番、新人だから、足手まといにならねェようにって思ってな」
『これから強くなればいい。ボクもリクもいるから』
「そうだな」
ハウンドドッグを構え直すと、晴明は再び召還始めた魔物使いとモンスターへと向き直る。
「罪には罰を、強欲には抵抗を」
唯一のカオティックブレイドである凛道の広範囲の無差別攻撃が敵の自由を奪う。《ストームエッジ》を放ち、魔導士や魔物使いのイルミナートへの援護を妨害する。
その隙に征四郎が負傷者に《ケアレイ》で傷ついたエージェントたちを治癒した。
「すまんな、そこも射程内だぜ?」
『……ん、隠れても……逃げられない、よ?』
敵を正確に撃ち抜く遊夜の声に重ねるようにユフォアリーヤがクスクスと笑う。
「俺のライフルは焦らされるのキライなの────はやく、はやく、撃ちたいのオマエじゃないよ」
遊夜の射線を追うように夕のスナイパーライフルが火を噴く。二人の弾丸は道を開き、時に先回りして敵の動きを止める。
「あれが一番撃ちやすい」
夕がドラゴンを示す。連続で額を撃ち抜いていく。
ドラゴンが少なくなると、夕はその照準を魔導士へと移した。
弾を弾く音。
「魔法使いなら物理に弱い、でしょ? どうかな、効いた?」
しかし、まだ生きていた魔導士はスタッフを掲げ、ドラゴンのファイヤーブレスのような炎を吹き付けて来た。
「あーヤダ、ついでにパスワードも全部ふっとばせばいいのに」
焼かれた夕が毒づきながら、慣れた手つきで銃弾を込めて再び魔導士の額を狙う。
『黎夜、早く倒してしまいましょうか』
「うん……召喚してるの、あいつか……」
一方、黎夜は魔物使いをターゲットに定めた。
「範囲、いくよ……」
黎夜の声にジャックポットは敵を狙ったまま、一歩下がる。
凛道の無差別攻撃に止んだ瞬間に、《ブルームフレア》が燃え上がり、モンスターたちは燃え上がった。
「…………!」
面の無い魔物使いが再びモンスターを呼び出す。
だが、その直後、従魔の背面を遊夜の弾丸が撃ち抜く。
「最優先目標はパスワードの破壊……テメェは邪魔だ」
────くっそ、あと……。
振り下ろした谷崎のグリムリーパーの手ごたえが消えた。
と言っても、武器を失ったわけではない。
谷崎の刃が結界に打ち付けられると、ガラスの割れるような音がしてスパークするように光が飛び散った。
ガン! 下ろした刃が床に当たって硬質な音を立てる。
────よっし!
小さくぐっと手を握る谷崎。
だが、突然、背中の傷の激しく痛み出し、顔を歪めて冷たい床に倒れ込んだ。
「なんだと────!」
結界の破壊に気付いたイルミナートが振り返って驚愕の声を上げる。
くらくらする意識の中、無理矢理、半身を起した谷崎はイルミナートの方を見上げて、くっと唇の端を上げた。
「強化してもらったのに残念だったな。また逃げるなら今度は跡付けられるなよ!」
そこまで言って倒れかけた谷崎を、慌てて近くに居たハーメルが駆け寄って支える。
「だいじょうぶですか!」
火之迦具鎚を片手に持ったキミカは、一瞬、谷崎を見たが賢者の欠片を取り出したのを確認すると、彼が破った結界の先へと足を踏み出した。
キミカにを追って助走をつけた飛翔が大剣をポール代わりにし棒高跳びのように跳ねた。
「一気に叩き込む!」
ふわりと浮いた飛翔の身体。重力に身を任せて、彼はそのまま《へヴィアタック》を魔法陣へと叩き込む。
その瞬間、壁を叩かれた水槽のように、部屋の空気全体が揺れた。
『まだパスワードは健在です』
ルビナスの警告。
即座に後を追ったキミカが飛び上がる。
────パスワード完成まであと何分だ……!?
キミカの槌が魔法陣の中心へと叩き込まれる────。
「小さなゲームの中で盗賊風情が勇者と称し、独尊の王として振る舞うなどと! 実に滑稽だな、イルミナート!
その虚像の玉座を暴き、貴様を現実の世界へと引き戻してやる!」
それは、いつもより苛烈な一撃だった。
その一撃は、魔法陣を砕いた────それは、まるで冬の初めに薄く張る氷のように砕けた。
「時間は!」
悲鳴のような声を上げたキミカに<PL>が「だいじょうぶです! 任務成功です!」と答えた。
通信を共有したエージェント達の漏らした歓声が部屋に響いた。
●欺瞞にまつろう者
「くそ、後少しだったのに! 許さん!」
毒づく、イルミナートが無地のカードを一枚取り出す。
それを掲げてカードを破った瞬間、イルミナートの目の前に居たエージェント達の視界が歪んだ。
まるで度の合わないレンズを付けているかのようにイルミナートの、風景のすべてが幾つにも重なり、ぐるぐると回る。
────これが、ディアレットが言っていた『幻影のアイテム』────。
「影よ、真の姿と共に塵と化せ!」
由利菜は臆することなく、幻影ごと狙って斬る《一閃》を放った。しかし、それでもイルミナートを捕らえることは出来なかった。
そして、背後に膨らむ殺気。
「────ぐっ!」
熱い痛み。
────ここで倒れたら、皆様に迷惑をかけます……!
由利菜は自分を傷つけたその剣から無理やり身体を放すと、転がるように後退した。
『ここは確り抑えるでござるよ! この様な者は野放しにしてはならないでござる!』
幻影の中、白虎丸(aa0123hero001)の声に合わせて千颯は叫んだ。
「エセ勇者! そろそろ退場願おうか!」
千颯の槍が、そして、その槍を潜ったGーYAの一撃が。
息をつかせぬ龍哉とリィェンの連携が。
しかし、それらの攻撃は幻影によって当たることは無かった。
「魔法陣を壊したこと、お前たちには後悔してもらわねばならない!」
幻影の効果を確信したイルミナートは笑い声を漏らした。
イルミナートの周囲に居たモノの幻惑されなかった者も居た。
SHINGANN RODの効果に無事だったG-YAは、イルミナートの行動パターンを読み、幻想蝶からそれを取り出した。
────ウレタン噴射機。
「なん────だ、これは……!」
しかし、ウレタン噴射器に目を見張ったものの、イルミナートは吐き出されたウレタンはひらりと避ける。
そして。
戸惑った<ガーディアン>のその隙を待っているものがいた。
蕾菜は自分がイルミナートの意識の外に出たことを感じると、彼女は杖を輝かせ、イルミナートへ向かって《支配者の言葉》を放つ。
「《支配者の言葉》よ────、運命の輪を使用してのパスワードの破壊しなさい!」
不穏な言葉にぎょっとしたイルミナートが指先を蕾菜へと向ける。
「《不遜な言葉は神への冒涜、それは誰にも届かず!》」
『操れなくても使わせた、かな』
「でも、三回目、ですよね────」
風架の言葉に蕾菜は不安を漏らす。
────蕾菜と同じく、その瞬間をずっと狙うジャックポットが居た。
皆月である。
矢を番え、《トリオ》の動作を取る。イルミナートはそれに気付いたが、今は己のことで精一杯だった。そして、今度の《トリオ》は魔法陣を狙ってはいなかった。
「なっ!」
それらの矢は真っ直ぐにイルミナートを、しかも、突き出したその指先を狙っていた。
慌ててイルミナートが手を引くのと矢がイルミナートへと降り注ぐのはどちらが先だったか。
──── 一本の矢が破かれたカードを撃ち抜いた。
そして、狼狽したイルミナートが矢に射られた腕を抱えて床に膝をつく。袖が大きく裂けて、その下の血に濡れた肌が露になった。
その、裂けた袖口から、キラキラと輝く細い金と銀の蛇が絡まった腕輪が覗く。
…………それは、この部屋に入る時にディアレットが掲げたものとよく似ていた。
「ッ! 貴様! 《運命の輪》を────」
腕輪を抑えたイルミナートが思わず口走り、慌てて唇を引き結ぶ。
だが、それだけでその場に居たエージェントにはすべてが解った。
「────ぐっ、くそぉぉお!」
腕輪を押さえてイルミナートが吠える。
「多数で歯向かうお前らに正義があると思っているのか!」
そして、イルミナートは今まで気にも介さなかった部屋の一点を鋭く見つめた。
「ディアレット!」
武器を構えた千颯が素早くイルミナートとディアレットの視線の間に身を滑り込ませる。距離はあるが、警戒し過ぎることはない。
しかし、名前を呼ばれたエルフは一瞬、戸惑い、そして、征四郎と由利菜、エージェントたちの顔をおどおどと見渡した。
「ディアレット!!」
声を荒げて彼女の名前を呼ぶイルミナート。
視線に気付いたGーYAと征四郎が叫ぶ。
「仲間を見捨てておいてまだ勇者気取りかよ!」
「いやなことはいやだと言っていいのですよ! ディアレットはもう自由です!」
ふたりの言葉に勇気づけられたのか、ディアレットは胸の前で両手を固く握りしめると黙って後退りした。
「────ディアレット……。そうか、ならば」
イルミナートは歪んだ笑みを浮かべた。
「ならば、────全体攻撃、だ」
目を見開くディアレット。彼女が何かを言う前に、イルミナートは輝くオーブを取り出して天に掲げた。
「天空の神よ、空を劈く稲妻よ! 今、ここに満ちて弾けろ!!!」
その瞬間、その部屋は鼓膜を破るような轟音と視界を焼く激しい光に満ちた。
同時に、エージェントたちは床に叩きつけられた。びりびりと身体が弾け飛ぶかのような衝撃と痛みが襲う。
「う、あ────……」
あちこちで呻き声が上がる。それは…………イルミナートが指揮していたモンスターたちも例外では無かった。
部屋にひしめく、まだ生きていたモンスターたちはエージェント達から受けた傷もあって、そのままぐずりと崩れ落ちた。
ダメージを耐えきった幾人かのエージェント達が立ち上がる。
「……ぐっ、これくらいじゃオレたちは負けないぜ」
膝をついた千颯が槍を掴む。
「だって────あたしたちが、みんなを……支えているんだからね……!」
『まだまだこんなもんじゃねぇだろ。見せてやれ、人間の力ってのが、どれほどのものか!』
千颯と望月と、ガルーに鼓舞された征四郎が立ち上がり、互いの顔を見合わせた。そして、三人のリンカーを中心に、温かい雨のように優しい治癒の力を帯びたライヴスが周囲に降り注ぐ。
「ふん、複数回復スキルを持っているなんて、めんどくさい敵だな────だが、僕はここで勝たなくてもいいんだ」
醒めた顔で見つめるイルミナートの言葉に、千颯が眉を顰める。
「ここが一つの分水嶺かな?」
千颯の言葉に白虎丸が口を開いた。
『千颯……お前そんな難しい言葉を知っていたでござるか……』
「……白虎ちゃんは俺ちゃんを何だと思っているのかな?」
しかし、白虎丸とのやりとりで千颯の顔からは影が消え、またまっすぐに前を向いた。
倒れていたエージェントたちも次々にその身を起こし武器を構えた。
『気をつけるでござるよ千颯。例え姿は偽物でも力は本物でござる』
「ああ、わかってる!」
前へ、イルミナートへと武器を技を叩きつけるエージェントたち。
しかし、イルミナートは不敵な笑みを浮かべて、おおよその人たちがそうであろうと思っていた行動────雷鳴のオーブを取り出した。
「天空の神よ、空を劈く稲妻よ────!」
イルミナートの起こした魔法攻撃の傷を、バトルメディックたちが再び癒そうとしている中で、イルミナートの声が響いた。
「自分の力を人前で使うことになるなんて、まったくめんどくさいことだ……」
イルミナートの瞳が暗く輝き、胸の前でゆるく合わせた掌から白い光が生まれた。その光がイルミナートの掌に押しつぶされて消える………。
「ディアレット……?」
ディアレットへ駆け寄ろうとした征四郎の目の前で倒れていたディアレットがゆっくりと身体を起す。
そして、イルミナートの能力────《欺瞞の混惑》によって、立ち上がったディアレットはイルミナートへと向かって光の光球を放った。
「なっ────!?」
「────最期に役に立ってくれて、感謝するよ。ディアレット」
光球を受けたイルミナートの傷はすべてふさがっていた。
不敵に笑うイルミナートはエージェントたちを見回した。
「不快な盗賊どもめ、次会った時は勇者イルミナートがお前らを討伐するから覚悟するがいい」
そして、壊れた魔法陣を一瞥し、舌打ちすると《旅の扉》を使って姿を消した。
その影を、皆月の《テレポートショット》の矢がイルミナートの残像を撃ち抜いた。
「さすが逃げ足は早いな…………見事な噛ませ犬具合だ」
「次でケリだ。楽しみに待っていろ」
リィェンの言葉に龍哉はどこか悔しそうに呟いた。
●崩壊
谷崎は大きく息を吐き、深く負った傷を押さえる。随分、深い傷を負ってしまった。
「────だが、間に合って良かったな」
そんな谷崎の頭にカツンと小さな何かが落ちて来た。
『にゃっ!』
プロセルピナの声に天井を振り仰いだ谷崎の顔が強張る。
「なんか……嫌な予感……?」
その様子をたまたま見ていた真琴が同じく顔を強張らせる。
「このままじゃ危ない! 早く出るぞ!」
谷崎の声で、事態に気付いたエージェント達がぎょっとした顔で腰を下ろしかけたその場から跳ね起きる。
ドカン! 激しい音を立てて大きな天井の塊が落下する。
『テンプレじゃな……崩壊しそうじゃ』
ハルの冷静さに対して、真琴は慌てて傍らのミュシャの腕を引っ張った。
「…………いそげーーー!!」
真琴に負けない声で、望月が瓦礫が落ちて来る空間の中でドアへの道に仲間を導く。
「お約束すぎる、全力で逃げよー」
『にっげろー、みんなワタシにつづけー』
「なんでこんな時だけ出てくるのよ」
百薬に呆れながら、望月はエージェントたちとドアを開き、階下への道を確保した。
”Pride of fools”に持ち替えた皆月が二対一組の銃で崩れ落ちる瓦礫の欠片を弾き飛ばす。
「駄目だ……! 早く脱出しないと!」
他のエージェントたちに続いて部屋を出ようとしたGーYAは部屋の片隅ぼんやりと座り込んだ人影に気付いた。
『ちょっと……!』
まほらまがGーYAを引き留める。
「ディアレット……?」
崩れた天井が巻き上げる埃の向こうで征四郎の、他のエージェントたちがこのNPCを探す声が聞こえる。
「……行こう!」
GーYAは決心すると崩れる建物の中、ディアレットを無理矢理抱きかかえて階段を駆け下りた。
裏世界<マルティプル>に飛び出したエージェントたちは洞窟を抜けると、その場にへたり込んだ。
「ぎ、ギリギリ……」
「全員いるかの?」
疲労のあまりぐらぐらしながら、真琴が周囲を見回す。共鳴を解いたハルが人数を確認する。
「────あ、真琴さん、ありがとうございます……」
長い髪を汗で頬に張り付かせて、ミュシャが礼を言う。
どれくらい経っただろう────いつの間にか、ゴツゴツとした岩場は柔らかい風が吹き抜ける林へと変わっていた。
「なぜ────」
掠れた声が耳に入って、共鳴を解いたGーYAとまほらまが顔を上げた。
「ディアレット、俺の仲間にならないか? 一緒に冒険しよう!」
「ジーヤは”たびだちのゆうしゃ”称号を持つ勇者候補の一人よぉ?」
GーYAの隣でへたり込んでいたまほらまが明るく笑う。
「この世界を楽しもう」
GーYAが差し出した手。
それをしばらく眺めていたディアレットはおずおずと自分の手をそこへ乗せた。
ふっと、エージェントたちの間に柔らかい空気が流れる。
「あっ、そうだ────」
ふと思いついたGーYAが<PL>『ドルイド』へと尋ねる。
「ねえ、ディアレットはどういうNPCなの?」
『ディアレットというNPCなんて僕は────』
GーYAの声に怪訝そうな声を出した『ドルイド』だったが、なにかを思い当ったように「あ」と声を上げた。
「ディアレットというキャラクターはいないが、クラウディアというNPCならいる。まだイラスト発注してないんですが」
聞くとはなしにその通信を聞いていたエージェントたちがディアレットを見る。
『クラウディアは<マルティプル>の『運命を司る』エルフ王です────あ、女性ですけどね』
その瞬間、ディアレット────クラウディアは立ち上がると、腕に付けていた細い金属の腕輪を外し、手持ちの剣でそれを砕いた。
細い腕輪は彼女の剣に触れると、砂糖菓子のように容易く砕けた。
「────これで、イルミナートは、今、腕輪に封じられているあと二回分しかこのダブル・パルスの世界で《運命の輪》を使うことはできません」
”クラウディア”は淡々とそう言い放った。