本部

飛んで飛んで飛んで飛んで

アトリエL

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2016/06/20 19:24

掲示板

オープニング

 天高く、うっすらと筋状に伸びる雲が二つ並んで空に円を描いていた。
 都市の一部を飲み込んだその空間は先日別の場所で確認されたドロップゾーンとほぼ同一の性質を有していた。
「うわ、なんだこれ?!」
「私……飛んでるの?」
 それは生き物が空を飛ぶという性質。だが、都市に突如発生したドロップゾーンの中には当然のように一般人が取り残される。
 不幸中の幸いなのは彼等が状況を理解できず、パニックが広がっていないことだろうか。
「これ、夢だよな」
 空を飛ぶということが夢の中以外であり得ないと常識が訴えかけ、誰かが呟いた言葉はそのまま伝染していく。
「そっか、夢なら飛べるよな」
 それは徐々に吸われているライヴスが彼等の中から失われ続けていく結果に他ならない。
 空に浮かぶ雲の間で巨大な咢が白い雲を吐きながら不気味な笑みを浮かべていた。

「空を自由に飛ぶ……それは人々の夢なのかもしれません」
 HOPEに届いたその情報は可及的速やかに処理すべき案件として扱われた。
「現在とある地方都市で複数のビル群を飲み込むドロップゾーンが観測されました。不幸中の幸いなのが発生した時間が早朝でビルの内部に出勤している人の数がそれほど多くはなかったことでしょうか」
 日の出と同時に発生したと思われるそのドロップゾーンの中にいるのはオフィスに泊まり込みで作業していたり、早朝出勤した会社員やビルの警備を担当していた警備員など十数名。近くを犬の散歩コースにしていたお年寄りなどを含めても数十名程度と見積もられている。
「類似したドロップゾーンの調査報告書からこの空間の上空に原因と思われる従魔が存在する可能性が高いのですが、同一条件であった場合、討伐直後に飛行能力を失えば飛行している取り込まれた人達がどうなるかは想像に難くありません」
 目標は従魔の討伐によるドロップゾーンの消去だが、その前に救助活動を終える必要があるということだ。
「ドロップゾーンに後から入った人は気味悪がってすぐに脱出。その連絡を受けた直後に周辺の封鎖は完了しています」
 つまり、内部に残って浮遊している人達を回収できれば、それ以上被害が広がることはない。
「飛行には自身のライヴスを半強制的に使われていることもあり、迅速な救助活動が求められます。速やかに現場に向かってください」

解説

 空を自由に飛ぶことができるようになるドロップゾーンでの救助活動と従魔の討伐任務です。
 敵は従魔ですが、内部に取り残された人々の救助活動は必須です。
 最低でも建物の外を漂っている人達を保護しなければ人命が失われます。
 飛んでいる人達は普通に意識があるので声をかければそれなりに指示には従ってくれますが、伝達方法によってはパニックを起こして空高く舞い上がるかもしれません。

リプレイ


●見えざる意思
「空を飛ぶ……? 正しくヒーロー……!」
「……愚神の力やし、いつ落ちるか分かりまへんえ?
 真顔でそう呟く中二病真っ盛りなキリル ブラックモア(aa1048hero001)に弥刀 一二三(aa1048)が突っ込む。
「む、むう! 然し正義の使者としてはやはり空を飛べる事も……」
「……正義が敵の力で飛んでどないするんどす?」
「そ、それは確かに。やはりヒーローは自力で空を飛んでこそ……だが世の中にはダークヒーローという正義の味方も……」
 悶え苦しむキリルに一二三は突っ込みを放棄し、葛藤を見守った。放置したとも言う。
「今回は随分と積極的に仕掛けて来たな」
「同じ系統の能力で異なる仕掛け。誰の差し金かが気になる所ですわ」
 流れる雲を見上げる赤城 龍哉(aa0090)にヴァルトラウテ(aa0090hero001)は何らかの思惑に思案顔を浮かべた。
「奴ら空まで制覇するつもりか? 空にライヴスは無いだろ」
「私達では自由に動けないのがポイントかもね」
 荒木 拓海(aa1049)の疑問にメリッサ インガルズ(aa1049hero001)はそう返す。
「……随分と奇妙な状況だな?」
「ええ、居残っている数十人が状況を掴めていないらしくてね。ライブズの状況を考えると素早く地上に誘導しなきゃなんないんだけど……」
「パニックが起きた時の事を考えておかなくてはならないな。慌てて上空でDPの外に飛び込まれるのが一番恐ろしい」
「朝一番の出来事だったからね。下手すれば夢の中の出来事と勘違いしてる人も多いかもしれないわ」
 上空を見上げ首を傾げたアイザック メイフィールド(aa1384hero001)に蝶埜 月世(aa1384)は状況を説明する。本来ありえないような状況は先日HOPEで確認された他の地域での一件でデータだけはすぐに集まっていた。
「狙ってなけりゃこう立て続けには来ないか。俺たちは従魔退治に専念するぞ」
「一般人の救助活動が終わるまで退治してはいけませんよ。重力が元通りになるわけですから……」
「……怖っ!! 想像しちまったじゃねぇか!! こりゃ下手に手出しはできないな……」
「えぇ。随時連絡をとりあって、慎重に行動しましょう」
 それを知る龍哉は警戒心を強め急ぎ上へと向かうが、ヴァルトラウテの手から零れ落ちたトマトが地面に赤いシミを作り出すのを見て止まる。しかし、相手がいることだけはわかってる状況でそれを放置するわけにもいかない。
「人命救助を最優先します。それまで従魔のことは任せましたよ」
 九字原 昂(aa0919)の言葉に頷き、各々が要対処案件へと向かう。即ち救助と従魔の警戒だ。同じような状況であっても全く同じとは限らない。従魔がおとなしくしていてくれるとも限らない以上警戒は必須だろう。
「空に浮いた人々の救助と、その原因となってる従魔の退治、か。どうしたもんかな」
「聞いた聞いた!? 今回のお仕事!! 自由に空を飛べるんだって!? 楽しそうだよね!!」
 思案顔の尾形・花道(aa1000hero001)の隣で片桐・良咲(aa1000)の能天気な声が響く。
「遊びに行くんじゃないんだぞ。あくまで仕事だ。それに人命がかかってる」
「えー!? でもなんだか楽しそうじゃない? テーマパークみたいでさー」
「テーマパーク? ……その発想、利用できるかもしれんな」
 浮かれた様子の良咲に花道は必要な物資の調達を始めた。
「夢を壊さないようにするならさ。避難する間だけでも飛ぶ事を楽しんでもらおう」
「それはつまり。夢の中の出来事と思い込んでいる人には無理に説明しないってことでいいのかしら?」
「うん。鬼ごっこみたいな感じで誘導してさ。安全な場所に避難させてあげるってわけ」
「名案ね。大人はともかく、子供は説明してもわかってもらえないかもしれないしね」
 GーYA(aa2289)とまほらま(aa2289hero001)もその案に沿う形で行動方針を決めた。
「上空のほうは人手が足りているようですね。それじゃあ僕は建物周辺の人を誘導しますよ」
 昴は建物周辺の飛ぶことに抵抗を感じているであろう人達に対処することを決める。
「また飛べるんだって」
「やったー、あ、いえ、ワタシはいつでも飛べるのよ」
 餅 望月(aa0843)の言葉に思わず喜んだ百薬(aa0843hero001)は取り繕うようにすまし顔。
「とりあえず上の人員は足りてるみたいだからさ。あたし達は下で待機してよ」
「えー!! ワタシもお空とびたーい!! クライマックスしたーい!!」
「言ってることはよくわかんないけど。運ばれてきた人の手当てとかも大事でしょ」
「ぶー。それじゃあ後で何かおごってねー」
 その顔も望月の一言ですぐに膨れ、百薬はその取引の受諾と共に破顔した。百薬の百面相である。
「……久しぶりの空中戦ってトコだな……『あの時』ともちっと勝手は違いそうだが……やってやるぜ!」
「飛べるって面白いもんね……落ちるのは遠慮したいけど」
「にしても……意外と飛んでやがるな……負けられねェな!」
「……あと、ヒジリー……そこ張り合う所じゃない……」
 やる気満々の東海林聖(aa0203)にLe..(aa0203hero001)は呟き、
「一般人があの空間を飛べるドロップゾーンに巻き込まれるなんて……。救出する為、あらゆる手を尽くします!」
「恐らく以前の依頼と同系統の従魔だろうが……今度は明確な『狩る者』の殺意が感じられる。……急ぐぞ!」
 月鏡 由利菜(aa0873)とリーヴスラシル(aa0873hero001)の言葉に頷き、各所に散っていく。
「せやけど……従魔がドロップゾーンて作れるん? ……従う魔やから従魔やろ?」
「影に愚神が居るって事? ……その事も用心し飛ぼう」
「念のため他のみんなにも話は通しておくね。協力してもらわないと」
 そんな一二三の疑問を受けて、拓海とメリッサは通信で警戒を呼び掛けた。

●救助活動
「やっぱ戦いにおいて相手の上空をとるのは必須だろ!! 先手をとられないようにするためにも……」
「そうじゃなくて。すぐに倒すのはダメ。救助が先」
 先走って高度を上げる聖にルゥは釘を刺す。
「……そっか!! 人命救助が先だな!!」
 状況を理解し、聖はルゥとリンクし、牽制のために鯨のいる空域へと高度を上げた。
「この位置なら皆の状況を把握しやすいですね」
「そっちの人が流されかけてる!! すぐに向かってやってくれ!!」
 上空に昇り、空に浮かぶ雲の監視をしつつ、ヴァルトラウテと龍哉はナビを務める。空を無秩序に飛ぶ人達の行動は読み切れない。しかし、ライヴスゴーグルを併用しその流れを辿ればその動きを把握することはできる。通信機で仲間に情報を伝え、イメージプロジェクターで方向誘導することで高範囲をカバーしていた。
「すごいスピードね。速度抑えないと逝っちゃうかも」
「夢で死ねるなら幸せじゃない?」
 まほらまにGーYAはそう答えながら浮かんでいた犬を直接ゾーンの外へと連れ出す。人と違い交渉の余地がないため、大急ぎで運んでいるわけだが、状況が呑み込めていない犬の方はじたばたと暴れていた。
「こんにちは、楽しいですね~飛行時間制限有るみたいですよ~切れる前に降りませんか? 一緒に降りよう」
 リンクした拓海は敵対心を抱かせぬように近づくと穏やかな表情でそう告げる。
「気を抜くと浮いたり、急に従魔に襲われるかも? ビル内に避難してください。……死にたいかな?」
 最後の一言の時だけ鋭い目をしつつ、表情は終始笑顔のまま。これほど怖い存在はそうそうない。
「うまく飛べるようになってきたな。次はあそこの人を助けるぞ」
 拓海のそんな温和な脅迫作戦は順調に効果を発揮していた。

●早朝の贈り物
「というわけで、カセットコンロを借りてきて焼きおにぎりを焼くよー」
「どこが、というわけなの?」
 当社比120%のポケポケ感を漂わせる望月に百薬が突っ込む。
 そんなことはお構いなく望月は、焼き網の上に岩塩プレートを並べて行く。
 無臭だと事故に繋がるという理由で臭いを着けてあるガスでは直火に翳すと臭いが染みつく。それにガスの組成である水素が燃える時、化学反応で水に変わるから炭火と比べれば湿気る。そうした細やかな配慮の結果は香ばしい匂いとなって還元されていた。
「ほら、この匂いに釣られてみんなが降りてこないかなー、なんて。ほら、百薬もウチワで仰いで」
「ワタシも上で天使の役とかやりたいです。あっちのお姉ちゃん、かっこいいです」
 刷毛で醤油を塗り、パタパタとうちわで扇ぐ望月の隣で百薬は両手でハートマークを作り羨ましがっていた。
「まあまあ、あっちはあっちで前衛も兼ねてるわけだから、適材適所よ。おにぎり焼けたら百薬も食べていいからね。後降りてきた人にもわけてあげてね」
「やったぁ♪ はい、おにぎりどうぞー!!」
 望月の提案に百薬は自分の分を増やすために量産体制を整える。自分も食べられるとなっては自然、定価0円のスマイルも出ようもの。焼きおにぎりを香ばしい醤油の香りが流れて行く。
 可愛い女の子が、一つ一つ手塩に掛けて握るおにぎり。それを秘伝の合わせ醤油のタレでパリっと焼き上げたものだから、不味い訳がない。早朝出勤で朝食抜きの人も多く、おにぎりを食べに来る人々が続々と降りて来るのは道理だった。

 ほらほら、ほらほら、匂うよ。おにぎり焼いている。
 パタパタ、パタパタ、扇ぐよ。お腹が空いて来る。

「しかし匂いで人々を誘導するのはいい考えかもしれんな。無理に連れ戻そうとするよりも……」
 その匂いに集まる人を見下ろしながら一二三はイメージプロジェクターを起動し、外見を天使風に偽装する。
「後はみんなに降りるよう誘導するだけやな。……お前ら大人しゅう下へ……」
「……関西弁の神格者では説得力がない。変われ」
「へ? そんなん出来……ますよ? 余裕でおます。任せてくんしゃいな」
 一二三は人の良い笑顔を浮かべるがキリルはそれとは方向性が違う笑顔でそれを否定した。
 リンク状態になり、
 それにしてもいい匂い。口の中に唾が湧いて来る香ばしい風に逆らうように、二人は上に残されている人々へと向かって行った。

●テーマパーク?
「準備はできたぞ!! 初めてくれ!!」
 リーヴスラシルは万一に備えて配備したクッションの具合を最終確認。
「は、はい!! ……私は皆さんをこの空間から救い出す為、遣わされました。この空間を抜けるのに必要なのは、地上へ戻ろうとする強い意志です。私が導きましょう」
 天使をイメージさせる衣装を纏った由利菜は、厳かに厳かに威儀を正し、人々に呼び掛けた。
「地上の有志の方が、皆さんの疲労を回復させる為の食料を用意しております。受け取りに向かって下さい」
 言い切ったタイミングで由利菜に後光が指す。
「なんだ、あの光は!? ……そうか、誰かが誘導してくれているのか。みなさん!! あちらに避難してください!!」
 昴は状況を察し、誘導補助を行う。
「立派だぞ。本物の天使のような輝きだ。人々が誘導されていく……」
 思わず顔が綻ぶリーヴスラシル。
「楽しい夢の国へようこそ! ボクといっしょに遊ぼうよ!」
 語り掛ける良咲の衣装はピーターパン。
「驚かせてしまってすまない!! 今日はみんなに特別な魔法をかけてあげたんだ」
 対する花道は半袖Tシャツ麦わら帽子の海賊が出て来る漫画のコックさんだ。金髪じゃなくて銀髪だけど。
「わーい!」
 当にそんな歓声を上げて集まって来る子供達。
「はい、どーぞ!! お菓子ですよ!! 遠くに行くと危ないから、このロープにつかまってね♪」
 良咲と花道の空中チャンバラショーが終わった直後、良咲はお菓子を配り始めた。
「うまくいったようだな。子供は無理に捕まえようとしても暴れてしまう。イベントと思わせるほうがいいだろう」
 子供心を傷つける事無く誘導に漕ぎ着けたことに安堵する花道。
「それじゃあみんなで次の駅に向かうよー!! しゅっぽーしゅっぽー♪」
 出発だ、出発だ。みんなみんな乗ったかな? 運転手良咲の電車ごっこ。
「おい、あんまり遠くに行くな。従魔の姿を見られるとまずい」
 花道が注意を促す。
「はーい!! 次は終点ー!! あのおじさんが駅長さんだよー♪」
 良咲はきっと良い保育士に成れると思う。
「調子にのって、全く……。従魔のほうは任せても大丈夫そうだな。こっちは保護者に説明を……」
 子供を良咲に任せた花道は、保護者諸氏に説明を開始する。
 幸いモンスターペアレンツは居ないらしく、まともに話が進んで行った。
「みんな、またねー!!」
 良咲は子供達に別れを告げる。そんな平和な姿を別な視線が見つめていた。
「子供の頃夢を話すボクに大人は困った顔で優しい嘘を吐くんだ」
「僕……ジーヤ?」
「嘘が嘘だとわかったら真実の優しさって鎖に絡めとられて自殺もできなかった」
「ちょっとジーヤ!?」
「くふ、同じような嘘ついて人命救助だってさ」
 GーYAの様子がおかしいことにまほらまが気付いて声をかけるが、返ってくる声はどこか歪んでいた。

●鯨落
「飛べるのは此処までよ。明日ラッキーデイにしたかったら地上に降りなさい。ラッキーゾーンはあのトラックの荷台ね」
「この状況は従魔が原因でな……いや、夢なんかじゃないだ。寝ぼけているのか……?」
「はーい、お目覚めの時間よ? 夢から覚めたら出社出社! 立ち止まって周りを見回して? 何でサボってそんなとこ飛んでるのかしら? 職場に戻りなさい!」 空を飛んでいる人達は誘導する月世とアイザックに訝しげな視線を向けるが、命令すれば反応してしまうのが社畜の性である。
「っし、行くぜ! ルゥ……久しぶりの空の戦いだな!」
「……うん……あの時とは違うけど……コツは2分で掴むよ……」
「あっちに従魔がいるな。でもまだ避難も完了してないし。近づけるわけにはいかない!!」
「戦闘するのはよくない。みんなを巻き添えにしちゃうかも」
「……そうだ!! 何かに化けてこっちには近づけないようにしてやろうぜ!! ……しかし、いざとなると……どんな感じにしたらいいんだ?」
「……ルゥが前に見たバケモノにする……?」
「おぉ、マジか、じゃそれ頼む!! ……って、うぉぉ!? ルゥ! この姿はまずい!! まずい!! 俺が社会的に抹消される!!」
 ルゥの変貌した異形の姿に聖は慌ててリテイクを要請する。
「……仕方ないなぁ……。あ、でも離れてくよ。うまくいったみたい」
 だが、ルゥの見つめるその先には避難する人達が集まっていた。広範囲の救助活動であり、どちらに向かっても要救助者の集まる場所があるというのも問題である。
 高度を殆ど下げず移動するその目的はライヴスゴーグルで見れば簡単に理解できた。即ちライヴスの捕食である。口を開くと下方のライヴスの流れが変化し、より早く吸い込まれていた。
「そんなに涎を垂らすのは上品とは言えないな。口を閉じたらどうだ?」
 その動きに気付いたアイザックが鯨が咢を開いた隙を狙ってカラーボールをぶつける。破裂した液体が飛び散り、その外観の一部、前面が明らかになった。それは同時に飛んでいた人達に状況を把握させる結果にも繋がる。
「みなさん!! 長時間の飛行は危険です!! 近くの建物に一旦降りてください!!」
 直前に見えた恐怖を具現化した何かと空に浮かび続ける不気味な咢は昴の声に込められた思いを伝えるには十分。
 救助活動は加速的に進行し、瞬く間に空から人の姿が消えていった。
「よし、全員の救助を確認!! こっからは暴れさせてもらうぜ!!」
「上空にまで登ったのがあだとなったようですね。障害物がなければいくらでも狙い撃てます!!」
「それに、この重力のない空中戦にも慣れてきたぜ!! 好きにはやらせねぇよ!!」
 龍哉とヴァルトラウテはリンクし、砲戦を仕掛ける。弾幕を張ることで誘導し、見えざる敵の動きを遠距離から把握……制御する。
「避難も終わったみたいだ。これで思いっきりやれるぜ!! 行くぜ……! 千照流・我伝……飛燕!」
「……忘れてないと思うけど、上からの攻撃には気を付けてね」
 聖とルゥは攻撃による高度の減少を考慮した上で攻撃を仕掛けた。カラーボールによるマーキングもあり、その巨体を見失うこともない。体当たり以外の攻撃を仕掛けてこないこともあってその動きを把握するのは難しくはない。側面から急上昇し、頭上を取ることさえも。
「千照流――破斥・雷光!」
 鯨の上方を取った聖の一撃がライヴスを攻撃に傾けたことで生じた重力の加速を加え、鯨に叩き込まれる。鯨の口から洩れた白い雲がその全身を包んだ瞬間に鯨の巨体が地上目掛けて真っ逆さまに落ちていた。
 地上に落ちた鯨は周囲に向けて白い雲を吐き出す。その雲に触れた途端に聖の身体が重力を思い出したように下に引っ張られた。
「……ぇ?!」
 とっさに取ろうとした行動は飛行しての回避。しかし、聖がいくら願おうと身体は浮き上がらなかった。
 鯨の巨体が聖を押し潰す。鯨の吐き出した白い雲はドロップゾーンで浮かぶ能力を奪うだけの効果しかなかったが、地上に落とされ攻撃に力を回せるようになった鯨の巨体を回避するには元の機動力では足りない。
「ボクは優しい嘘はいらない。壊れたって自由、夢の元凶壊しに行くぜぇ!」
 GーYAは真っ先に地上へとそれを追いかけた。
 巨体に見合わぬ速度で突進をする鯨のそれが本来の攻撃力だったのだろう。その咢が開き、近づいてくるGーYAに向かう。
「痛いのも苦しいのも慣れてるんだよ。壊れろ! 従魔!!」
 それを真っ正面から迎え撃ち、GーYAはありったけの弾を叩き込むが、その巨体を揺るがすことはなく、その身体は吸い込まれるように口の中へと消えていった。
「外は頑丈だといっても……中は防御できないだろ!? 吹き飛びな!!」
 だが、今のGーYAはその程度では怯まない。鯨の口の中で全力の一撃を叩き込んだ。
 ゼロ距離からの痛烈な一撃は鯨の咢を開かせるには十分。取り込まれた瞬間に急激に失われていったライヴスを思えばもう一度できる方法ではない。無理をしてもう一発叩き込んだところで口が塞がりそうになるが……。
「……ちっ。しゃあないな!!」
 それを目の当たりにした一二三とキリルはリンクして近接戦を挑む。一人では足止め程度しかできそうにないが……。
「抜歯をしよう、随分悪食のようだ」
 要救助者を外に連れ出してリンク状態で戻ってきたアイザックが閉じかけた口の中に飛び込んで大型のブーメランで口を開かせる。続く無数の砲撃が鯨の意思をそちらに向けさせた隙にもう一暴れして、脱出した。
「後ろにまで目がついてるわけでもないだろ。お前らの手は前回である程度見させて貰ったんでな。同じ手が通用すると思うなよ」
「確か十の太陽の内九を射落としたのだったかしら、その本領お目に掛けますわ!」
 上空から高度を下げながら龍哉とヴァルトラウテは後方から最大火力を叩き込む。地上に降り、大きな力を奮うようになっても鯨には背後を振り返るような俊敏さは持ち合わせがない。近接戦闘さえ仕掛けなければ被害は抑えられる。口内から脱出し、死角に回り込む形でリンカー達は暴れまわる鯨の対処を開始した。
「さて、そろそろ真打の登場といったところかなー?」
「天使ちゃんの出番ですよ!! 悪い奴は許さないです!!」
 望月や百薬も炊き出しの手を休めて合流する。リンクした二人の姿はいつもより天使していた。
「守護のルーンを刻み、子羊達を導かん! 従魔よ、ここから先は行かせん!! 貴様がいかに強くなろうと、私達は恐れぬ!」
 鯨の巨体の前に怯まず立ち塞がり、由利菜とリーヴスラシルが高らかに宣言する。
「従魔のほうは任せても大丈夫そうだな」
 相手は単体。地上に落とした当初こそ苦戦していたようだが、オフィス街の中では空色の鯨の姿は見失いようがない。花道は避難した人達の誘導を優先し、犠牲者を出さぬことに専念する。地上に降ろすことに成功はしたが、ここにいては危険な状況は変わらない。
 地上を這うようにして駆ける巨体がその存在に気付くと、失われた力を取り戻そうとしたのかそちらへと方向を変えた。
「世界は嫌いだけど人間は好きだ……やらせるかよ!」
 イグニスから放たれる火炎が鯨を怯ませ、その巨体が前に立っていたGーYAの意識を吹き飛ばす。
「生かしておけば契約は有効、心までは縛れないもの。どんな風に壊れていくのかしらぁ? うふふっ楽しみね」
 失われる意識の中、GーYAはそんな声を聞きながら切り替わった。
 自らの生存を優先していたライヴスの流れを攻撃に転換。直進してくる鯨の腹を銃弾が切り裂き、その怒りの矛先が凶戦士へと向かう。

●幕引き
「よし!! かっこよく決まったぜ!!」
 最も近くで鯨の猛威に触れていた聖はあちこち傷だらけだったがその奮闘もあって一般人への被害はゼロに収まっていた。
「動いているわね。そろそろ検査に行かせるべき?」
 まほろまの手から意識のないGーYAへライヴスが注がれる。
「あたしがあげた世界でどう生きるのかしら、ねぇジーヤ?」
「あ……俺?」
「依頼完了よ」
 まほらまの優しい声にGーYAは再び意識を手放した。
「……終わったみたいだね」
 徐々に消え始めた浮遊感にルゥが呟く。
「うん。人間、地に足がついている方がやっぱり落ち着きますね」
 昴は地上に降りるとその感触を確かめ、一息ついた。
「楽しかったね!」
「別に」
 すっきりとした表情の良咲に花道は疲れを吐き出すようにそう返す。
「お疲れさまです~!! みなさんもおにぎりどうぞー!!」
「美味しそうですね。いただきます」
「約束守ったよ。何おごってくれるの?」
 望月は腹を空かせた昴達に残りのおにぎりを提供する。そんな彼女に百薬は仔猫の様に、期待に満ちた瞳を輝かせた。
「え? ……あれ? 焼きおにぎりじゃ不満?」
「そんなの不満に決まってるー!! もういっぱい食べたー!!」
「ええと……。それじゃあドーナツでもどう? ……ほら、あれって天使の輪っかっぽいし」
「わーい!! さっそく買いに行くよー。ちゃんと穴空いてるやつだよ」
 小首を傾げる望月に百薬は女子力の源の補充を要求する。スイーツは別腹なのだ。
「それにしてもなぁ。強いライヴスを持ってれば上空高く上がって来るが、高く上がるほど制御と消耗が厳しくなるから従魔がそこを狙うってのは判るが」
「数撃てば当たる、的なやり方でしたわね。印象としては」
「ちょっとやり方が微妙に雑な気はするな」
「……そもそも、そのまま上空に連れていく従魔の目的とはなんなのでしょうか?単に捕食?それとも……」
「それはわからねぇけど……どっち道、奴らもこのままで終わらないだろうな」
「えぇ。おそらくまた似たような事件が起こるでしょうね……」
 龍哉の疑問にヴァルトラウテは頷く。
「またあの従魔きてくれないかなぁ……そうすればみんなと遊べるのに」
「おいおい。俺はもう2度とこんなことするのはごめんだぞ。思い付きとはいえ……」
 良咲の言葉に花道は否定を重ねようとして……気付いた。まだ空を飛ぶ力が完全には消えていないことに。
「背後に愚神がおるんちゃうんか? 誰や!」
「皆様の夢。願いを壊されたのは貴方方ですわね」
 未だ消えぬドロップゾーンの中で一二三の問いに答える声が響く。
「初めまして私はベル。七翼が一枚」
 鈴のなるような軽やかな声。見上げればそこには翼を持った少女が一人浮かんでいた。
「世界に人々の願いに夢を与える愚かな神の一柱ですわ」
 絶えず笑顔を浮かべたままの少女ははっきりとそう言うと、空を駆けて何処かへと消えていく。
「……ちょい待ち。お前は逃がさへんで!!」
 一二三がそう豪語するが、先ほどの戦闘における傷が痛む。その僅かな遅れは何処かへと消えたベルを見失うのに十分な時間だった。
「まぁ被害が大きくならなかっただけよしとしておこう。いずれまた対峙するかもしれん」
 キリルがそう呟くと徐々にドロップゾーンが消えていく。夢の時間は終わりということだろう。
「……まぁ、前にも似た事件があったらしいからな。2度あることは……と思いたくはないがな」
 そんな花道の言葉を否定できる者は誰もいなかった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避



  • 楽天家
    片桐・良咲aa1000
    人間|21才|女性|回避
  • ゴーストバスター
    尾形・花道aa1000hero001
    英雄|34才|男性|ジャ
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 正体不明の仮面ダンサー
    蝶埜 月世aa1384
    人間|28才|女性|攻撃
  • 王の導を追いし者
    アイザック メイフィールドaa1384hero001
    英雄|34才|男性|ドレ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
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