本部

【白刃】連動シナリオ

【白刃】レッド・オールレッド

ガンマ

形態
イベントEX
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
11人 / 0~25人
報酬
多め
相談期間
7日
完成日
2016/01/14 18:30

みんなの思い出もっと見る

-
かずち

掲示板

オープニング

●マッド・野望

 暮れなずむ。

「チッ、クソ共がァ――!」
 トリブヌス級愚神ヴォジャッグは忌々しげに舌打ちした。
 自慢のバイクを全力で噴かせ、猛スピードで駆けてゆく。
 ミラーでちらと確認した後方、そこには、ヴォジャッグを追うエージェント達の姿が遠く。

 ヴォジャッグは行方をくらませるつもりだった。
 H.O.P.E.に想定以上の苦戦を強いられ、一度は大敗も喫して。
 理解する。己はこのままではH.O.P.E.には勝てないと。
 であるからライヴスを蓄積し自らを強化せんともくろんだのだが。
 ――しかし。
 エージェントはまたもや、ヴォジャッグの想像を超えた。

 見つかったのだ。
 追ってきたのだ。
 想像よりも、うんと早く。

「クソッ、クソ以下のクソ人間共がぁあああぁあああ……!」
 愚神はただただ、ままならぬ苛立ちに悪態を吐き続けていた。


●譲れぬものがある
『――それでは皆様、よろしいですか?』
 明石海峡大橋。
 構築されたバリケードを背後にしたエージェントへ、H.O.P.E.オペレーター綾羽 瑠歌が通信機によって語りかけた。今一度、作戦概要の確認を行う。

 ヴォジャッグ追撃作戦。

 先の大規模作戦にて行方をくらませたヴォジャッグ。
 その狙いは「自己強化」だ。そして愚神の自己強化が何を示すのか、エージェントならば嫌というほど分かるだろう。
 罪のない命が奪われ、大地が不毛の土地と化す。

 ――ヴォジャッグを放置すれば、必ず被害が発生する。
 誰かの大切な人が奪われる。誰かの大切な場所が壊される。
 誰かの日常が。幸福が。無慈悲なまでに踏み躙られるのだ。

『そんなこと……、我々H.O.P.E.が、許しません』
 であるからこそ、H.O.P.E.は総力を挙げてヴォジャッグの捕捉を成功させた。
 かくしてプリセンサーは未来を掴む。

 今日、ヴォジャッグが、明石海峡大橋を通過する。

 ヴォジャッグは今、大規模作戦によって消耗しきっており、配下である従魔も数少ない状況下におかれている。分かりやすく言えば「千載一遇のチャンス」だ。
 だが、大規模作戦で消耗しているのはH.O.P.E.側とて同じこと。ゆえにH.O.P.E.は少数精鋭によるヴォジャッグ掃討作戦を始動――「君達」が、ここに集められた。
『本作戦は二部隊に分けて行われます。片方はヴォジャッグ追跡及び手勢掃討。そしてもう片方――皆様には、ヴォジャッグとの戦闘を行って頂きます』
 味方部隊からの連絡が更新される。

 ヴォジャッグは従魔を囮・あるいは時間稼ぎとしてこちらに差し向け、『そちら』に向かった模様。
 作戦通りだ。
 こちらは任せて。
 ――武運を祈る。

 バイクのエンジン音が聞こえてきた。

 寸の間。冬の凍てつく風が、吹き抜ける。
『ターゲット接近を確認。接触までのカウントダウンを開始――』
 瑠歌の声が届く中。エージェント達は次々と身構えてゆく。
 暴虐の音が迫り来る。
 真っ赤な夕日を受けた海がキラキラと輝いていた。
 斜陽が照らすは、エージェント達の凛とした横顔。

「ヒャッハァアアーーーーーーッッ!! そこをどけぇ家畜共がああああああああああ」

 ヴォジャッグの怒鳴り声が大きく響いて。
 カウントダウンはゼロになった。

 ――暮れなずむ。

解説

●目標
 ヴォジャッグへ追撃戦をしかける。

●登場
愚神『ヴォジャッグ』
 筋骨隆々の大男。武器は斧。モヒカンヘッドが自慢。
 物理特化のパワーファイター型。
 ライヴスを吹き込み魔改造したバイクに乗っており、凄まじい機動力を有する。
 バイクが破壊された場合、1~2ターン消費してバイクを復活させる。
・ロードキラー
 パッシブ。
 バイクによる暴走移動。ヴォジャッグが移動するスクエア上の対象に攻撃判定が発生すると共に、命中した対象を1d4スクエア後退させる。
・クリメイトダート
 アクティブ。
 広範囲への火炎攻撃。命中対象へ減退(2)付与。
・アックスキッス
 アクティブ。
 スクエアを貫通する直線攻撃。攻撃判定を二度行う。
・グラップルボム
 パッシブ。
「クリメイトダート」以外の攻撃・スキルが命中時、命中した対象を中心とした範囲(1)内の対象(ヴォジャッグ以外)へ2d6ダメージ。また、回避を行う対象に回避時ペナルティを付与。

・朧族×10
 ホバー飛行タイプの改造バイクに首のない骸骨が乗っているような風貌。(バイクと骸骨で一体)
 バイクに銃砲めいたパーツが存在している。
 デクリオ級前後相当。
 飛行高度は最大2m。
 INIと回避の高い高機動型。能力としては物理型寄り。
・スライサーフロー
 パッシブ。
 移動するスクエア上の対象に攻撃判定が発生すると共に、一定確立で【減退(1)】を付与する。
 
※昇竜MSのシナリオ結果によって、増援が出現する可能性があります。

●場所
 明石海峡大橋。その終点(四国側)地点。
 周辺は封鎖されており、一般人(船など)はこない。
 時間帯は夕方。

●状況
 OPの状況からリプレイスタートです。
 橋の終点、PCの背後にはバリケードが構築されています。
 迎撃という状況であるため、戦闘開始前にスキルやアイテムの使用が可能です。
 ハンズフリー通信機支給済み。

リプレイ

●ALL RED 01

 夕暮れ――

 時間は『衝突』の寸前まで遡る。


「……逃がしません、討ち取ります」
 夕日に、艶消しされたスナイパーライフルが沈黙する。手にした狙撃銃より視線を上げた邦衛 八宏(aa0046)の言葉に、稍乃 チカ(aa0046hero001)がニカッと笑った。
「おうおう、やる気満々じゃねーか! そうこなくちゃぁな!」
 覚悟は瞳に。
 ここから先へは通さない。
 確実に倒す――志賀谷 京子(aa0150)は凛と前を見澄ましていた。
「だってまた、あのトサカが暴れるのを見るのは嫌じゃない?」
「ええ、京子。愚神に相応しき最期を贈るとしましょう」
 答えたのはアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)だ。京子は自らの英雄へ、微笑みかける。
「アリッサ、よろしくね」
 返事は「勿論」。共鳴すればその姿はアリッサと近しいものへ、長い髪を夕紅に煌かせる。
「愚神『ヴォジャッグ』を討てる千載一遇のチャンスを逃す訳にはいかない。――行くぞ、ミスティ……!」
「はいよ、りょーかい」
 言葉を交わしたカールレオン グリューン(aa0510)とミスティ レイ(aa0510hero001)も共鳴を行う。銀髪金眼の神々しい姿が、そこに現れる。
「負けないよ。ここで、絶対に倒す……!」
「えぇ。皆で、止めましょう」
 何が何でも止めてみせる。頷き合ったのは御代 つくし(aa0657)とメグル(aa0657hero001)。絶対に死守すべきバリケードを背に、共鳴。つくしの目が、髪が、メグルの澄んだ色素のそれになる。大きなローブと銀の髪が、潮の風にはためいた。
「あの、佐倉さん!」
 その姿で、つくしは佐倉 樹(aa0340)へと駆け寄った。
「ん?」
 振り返る樹は魔女のような姿。そしてその瞳の半分が、彼女の英雄であるシルミルテ(aa0340hero001)のものとなっている。何か話があるのか、と眼差しに促されるまま、つくしは
「えっと……これが終わったら、お話があるんだけど……!」
「話って?」
「お、終わってからで……!」
「……?」
 樹はなんのことやらと首を傾げている。
『死亡フラグ?』
 樹の魂の内ではシルミルテも、樹と同じく首を傾げていた。

「今度こそ、逃がさず倒しきらなきゃですね」
「他の地に被害を出さないよう、確実に処置しましょう」
 唐沢 九繰(aa1379)はエミナ・トライアルフォー(aa1379hero001)と眼差しを重ねる。かれこれ、ヴォジャッグと戦うのは何度目だろうか。
 今度こそ――そう、今度こそ。
「ヴォジャッグ……逃がしません……!」
 月鏡 由利菜(aa0873)が心に灯す想いも、皆と同じ。
「白刃作戦の総仕上げですね……逃げ続けるヴォジャッグを滅する為に、ラシルの力を貸して下さい……!」
「勿論だ、ユリナ。暴虐の徒に手加減など不要、ここで葬り去ってやる……!」
 誓約者の決意にリーヴスラシル(aa0873hero001)が力強く答える。共鳴、一人になる二人は壮麗なる姫騎士の姿へと。
「ひゃっはー!」
 エージェントの誰もが目に目に決意を宿す一方で、百薬(aa0843hero001)のテンションはアッパーだった。
(ここまで危険な雰囲気の戦闘は初めてかもね)
 彼女が任せられたのはグリムローゼ戦の時よりも難しい役割。そう言えばトリヌブス級をぶっ飛ばせるチャンスでもあるわけか――そう思うと、彼女はこう思った訳だ。
「ついにあたし達もこっち側のグループに数えられるのかってと思うと、テンション上がってきたね!」
 振り返る先には相棒能力者の餅 望月(aa0843)が。対照的に望月の表情には幾ばくかの緊張がある。そんな望月の緊張と不安を払うかのように、百薬は彼女と額を合わせた。―共鳴。

 同様に、互いを鼓舞しあう者がいる。
「オレは縁に出会い助けられここまで来れた。戦の心構え・考え方・この世界の事……全てを一人で学んでいたら、今とは全然違う自分になっていたと思う」
 言葉と共に、荒木 拓海(aa1049)は榛名 縁(aa1575)へと振り返った。
「だから見てて欲しい、今日、オレがどう戦うかを」
 そんな拓海の言葉。縁は、彼にまるでアメジストのような瞳の視線を静かに向ける。傍らでは彼の英雄であるウィンクルム(aa1575hero001)が、騎士然と控えていた。
「僕はウィンと……そして拓海さんと出会って、支えあうこと補いあうことの力を知った。それは弱者からの搾取で得た様な紛い物の力なんかより、強く尊い力だから……その力で倒しに行こう」
 それから、と縁は拓海に微笑みかけた。
「見てるだけじゃなく、支えさせてね?」
 柔らかい緑の言葉、拓海はつられる様に口角を綻ばせ返事をしようとして――真横、自身の英雄であるメリッサ インガルズ(aa1049hero001)のジッと見る眼差しに気づいては、彼女の方に顔を向けた。
「縁さんはウィンクルムさんにコメントしてたけど……拓海は自分の英雄にノーコメ?」
「あっ いやその スマン……」
「まぁいいけどね」
 それでは、気を取り直して。
「行くぞ、縁!」
 メリッサと共鳴しつつ拓海が放つ力強い声。縁もそれに頷きを返し、ウィンクルムと共鳴を。
「ここで、終わらせる」
 じっと、橋の彼方を見据え不知火 轍(aa1641)が呟いた。その姿は、『忍』。雪道 イザード(aa1641hero001)と共鳴している証拠である。
 ふと轍の赤い瞳は、傍らのクレア・マクミラン(aa1631)へ。彼女もまた轍同様、英雄のリリアン・レッドフォード(aa1631hero001)と共鳴を済ませた姿だ。
「警戒は、僕に任せて、クレアさんは仕事に専念して大丈夫……重体の辛さは、よく知って居るからね、任せたよドクター」
「任せておけ。殺すよりも、生きて帰すのが仕事でね」
 心強い仲間の言葉、轍は返事代わりに視線を前へ戻す。面倒臭がりだからこそ、これ以上の面倒が起きないように。集中力を研ぎ澄ませる。
「前回戦った時は、バイクに攻撃集中しすぎてヴォジャッグ本体への攻撃が足りなかったのよね」
 大宮 朝霞(aa0476)は顎に手を沿えそう述べる。ふむ、と反応したのは彼女の英雄ニクノイーサ(aa0476hero001)だ。
「それじゃ今回は、ヴォジャッグ本体狙いか?」
「やっぱりまずはバイクを叩いて機動力を奪わないと話にならないと思う。バイクを壊して、ヴォジャッグもやっつける。これよ!」
 閃いたと顔を上げた朝霞は意気揚々と英雄へ振り返る。
「さぁ、ニック、変身よ!」
「ここでか? こんなに人がいるトコロでか?」
「そうよ! 時間ないんだから! 変身! マジカル☆トランスフォーム!!」
 ビシィッと朝霞がポーズを決めたその瞬間。

「聖霊紫帝闘士ウラワンダー! 華麗に登場よ!!」

 バーン。
 説明しよう、聖霊紫帝闘士ウラワンダーとは、ヒーローに憧れる朝霞が己の理想を具現化させたヒロインなのである。白とピンクを貴重とした豪奢な衣装、そして目を隠すバイザーとマントが最高にヒロイックだ。
「大規模作戦で朧族の対応は覚えたよ。ホバー飛行になっても負けないんだから!」
 桜木 黒絵(aa0722)も朝霞と同様、これまで何度もヴォジャッグと渡り合ってきた。既に共鳴も済ませ臨戦態勢、ゆらゆらと猫尻尾も気合に揺れる。
『増援の可能性も頭の隅に置いておかないとか……。でも、あっちの皆も上手くやってくれてるはず。まずは目の前の敵を確実に仕留めよう』
 そんな黒絵の魂の内、声をかけたのは英雄のシウ ベルアート(aa0722hero001)だ。返事は「勿論!」勝利のために、全力を。

 そんな仲間達を眼下に見下ろすのは、橋のワイヤー上にて待機している木霊・C・リュカ(aa0068)だった。
『呑み込むような夜が来る。その前に、手負いの狼はここで』
 リュカの姿は『色』を得た身体であった。そしてその『色』を与えた存在、彼の英雄オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)が心の内でリュカに語りかける。
「ふふ、勿論。後ろは任せてよ!」
 快活に。鼓舞するように。リュカは英雄に、そして仲間へと言い放った。
 その声を近くで聞きつつ――彼と同じく、ワイヤー上。ガルー・A・A(aa0076hero001)は共鳴状態である相棒、紫 征四郎(aa0076)へ声をかける。
『“此方を知った上で油断しない敵は負けない”……今迄とは違う、甘く見るなよ征四郎』
「皆でここまで繋いだのです。――ここで必ず」
 答えた征四郎の姿は幼い少女ではない、凛然とした青年。それは「もし征四郎が男に生まれていたら」というイフの姿であり、共鳴として顕現する現実の姿でもある。
「こいつは此処で倒さねぇといけねぇ……そうだろ白虎丸!」
「無論だ! 死力を尽くすぞ」
 互いに士気を高めあうのは、虎噛 千颯(aa0123)とその英雄である白虎丸(aa0123hero001)。視線を重ね、ライヴスを合わせれば――共鳴、千颯の姿は白虎の耳と尾を持った金眼の武芸者となる。
「リュカ……背中任せたぜ。征四郎も、そっちは頼んだぜ」
『大宮殿無理はなさらずにでござる。今宮殿無事戻れれば駄菓子送るでござるよ』
 神経を研ぎ澄ませながら、声をかけるは友人達へと。
 そんな三人――奇襲班を見やり、同じく奇襲班であるリィェン・ユー(aa0208)は深呼吸を一つ。その瞳は黄金色となり、まるで獣を思わせるような鋭い瞳孔となっている。
「ようやく、捉えたぞ……ヴォジャック」
 まさかケリをつける前に離脱されるとは――だからこそイマイチすっきりできずに年越しちまうかと思ったが、捨てたもんじゃねぇな。
 そう思う彼に対し、共鳴中のイン・シェン(aa0208hero001)が澄んだ声で語りかける。
『じゃが、今のあやつ、いわば追い詰められた鼠じゃ、心してかかるのじゃぞ』
 窮鼠猫を噛む。インに油断はない。
(いまのあやつは今回の大規模前とはきっと違うのじゃ。リィェンの悪い癖が出なければよいのじゃが……)

 この戦い、どうなることか――
 されど「負ける」気だけは微塵もない。

「レイヴン最後の大舞台、だな。いつも通り、そしていつも以上に。共に駆け抜けよう」
「その後はこたつでゆっくりしましょうね!」
 振り返り、仲間達を見渡したのは真壁 久朗(aa0032)と、その英雄セラフィナ(aa0032hero001)だった。
 二人が目に映す、一人ひとり――小隊レイヴンの面々。誰も、彼も、頼もしい、かけがえのない、仲間達。
「ふむ、」
 同様に、ナラカ(aa0098hero001)が見渡していたのもエージェント達だ。
(奇襲の方はエストレーラがいるから良いかな。後衛にも京子がおるしのう。そして前衛で共に戦うは九朗と由利菜と……)
 うむ。思いと共に、浮かべたのは悠然とした笑み。この戦力、不足ない。
「皆、頼りにさせて貰うぞ。なあ、覚者よ?」
「……まあ、宛にはさせて貰うさ」
 常通りの淡々とした物言いで、ナラカの相棒である八朔 カゲリ(aa0098)が返事をする。「それよりもまずは目の前の敵だ」、そんな彼の言葉と共に、共鳴。
「レイヴンの最後ば、しっかど見届げれ!」
『応、大仕事だ気張って行こうぜ』
 魂の内で、齶田 米衛門(aa1482)とスノー ヴェイツ(aa1482hero001)は言葉を交わす。その姿は赤髪獣瞳の丈夫だった。夕焼けの中、淡く金に光る機械の拳を握り締める。
(……最後の悪あがき……)
 迫る、戦いの予感。今宮 真琴(aa0573)はスナイパーライフルをぎゅっと握り締める。
「鴉最後の戦いかの」
 その傍ら、声をかけたのは彼女の英雄である奈良 ハル(aa0573hero001)だ。真琴はハルの言葉にふるりと首を振る。
「違う……まだみんなといるの!」
 真っ直ぐ、上げる顔。眼差しを英雄へ。
「いくよ……ハルちゃん……! 憑霊、紅狐!!」
 重ねる掌、共鳴――舞い散る紙吹雪。それが散り終えた後、そこには白狐の耳と尾を携えた、赤い髪をした真琴の姿が。

 夕風が吹く。

「いい景色ね……」
 橋を、海を。潮風に揺らぐ髪を手で払いつつ、言峰 estrela(aa0526)は眺める。
 けれどその風は徐々に騒がしさを帯びていった。
 綺麗な夕暮れに相応しくない爆音、下品な声。
 夕日にゆらゆらと照らされる悪趣味なモヒカン。
 エストレーラは目を細める。とんだ『客』が来たものだ。
「……景観条例違反ね。 あと騒音とスピード違反もかしら」
 言下に英雄キュベレー(aa0526hero001)と共鳴。銀髪赤眼、黒い角を生やした異形の少女が降臨した。

 かくして。
 彼方より、トリブヌス級愚神ヴォジャッグが迫り来る。
 いっそ聞き慣れてきたバイクのエンジン音と、下卑た罵声を響かせて。

「ヒャッハァアアーーーーーーッッ!! そこをどけぇ家畜共がああああああああああ」

 幾度目か。
 H.O.P.E.エージェントと愚神ヴォジャッグとの戦いが――幕を開ける。


●ALL RED 02

 迫り来る。

 ヴォジャッグが掲げた斧を振り下ろせば、ホバー飛行する従魔共、十体の朧族が一気に加速しエージェント達へ突っ込んできた。
 そしてそれらを狙うのは、
「最初ですから……ここで勢いを付けていきたいところですね」
 卸 蘿蔔(aa0405)をはじめとした、後衛班が構える射撃武器。
(だな。速い割には当てやすそうだけど……さて)
 蘿蔔の魂の内で、彼女の英雄レオンハルト(aa0405hero001)が言う。共鳴した二人は金髪金目の銃士隊少女の姿、重ねるライヴスを研ぎ澄ませて構えているのは16式60mm携行型速射砲。
「……リンカーってすごいわよね。こんなの軍人でも一人じゃなかなか使いこなせないわよ?」
 同じ武器を構え、エストレーラがくつりと含み笑った。その可憐な薔薇めいた微笑のまま、通信機を介して呟くのは仰角修正。エストレーラの目は、今、彼女の頭上を旋回するライヴスの鷹と共有されている。
「距離良し、角度良し――」
 通信機より流れるエストレーラの声を聞きながら――真琴はプレミアムチョコバーを口に咥え、スナイパーライフルのスコープを覗き込んだ。
「これで大規模も生き残った……ジンクスは大事……」
『ジンクス云々前にいつもの事じゃろう』
 そんなハルの突っ込みに「もう」と言いながらも、集中は乱さない。纏う和装は紫紺色、スナイプモード。
 スコープの先。従魔が迫る、迫る迫る迫る――

「――撃ッ!」

 鋭く響いた声は、辺是 落児(aa0281)と共鳴した構築の魔女(aa0281hero001)のものだった。
 刹那である。

 轟――同時に響いた銃声が、砲声が、空気を重く震わせて。

「さぁ、ウラワンダー☆アローをお見舞いしちゃうわ!」
 朝霞が引き絞った無駄無しの弓フェイルノートの一矢が。
「……当てるっ」
「私から、逃げられると思わないでください、ね!」
 言葉と共に引き金を押し込んだ真琴と、蘿蔔の速射砲によるロングショットが。
「いっせいしゃげきーっ!」
「纏めて、薙ぐ!」
 望月のスナイパーライフルが。カールレオンが振るう大鎌より放たれたライヴスの弾丸が。
「必中させてやるさ」
 リュカのライフルより放たれる、死角へと転移する脅威の魔弾が。

 降り注ぐ。
 愚かの神と、それに従う魔物共へ。

 そこへ更にエージェント側の砲撃が加わった。エストレーラと構築の魔女による速射砲による火力砲撃だ。
「最高火力で……いくよっ!」
 魔女達の二連砲撃に合わせて炸裂するのは火炎の華、黒絵の攻勢魔術ブルームフレア。
 三人は罠作製を画策していたのだが、その大前提として必要な水などはAGWで作り出すことは出来ない。AGWが纏う炎や水はあくまでもライヴスによって再現されたものであり、本物の炎や水ではないのだ。故に、致し方ないがこの作戦は一時流すこととしたのである。

 爆煙、硝煙、衝撃波。

 されどエージェント達は確信している。たった一撃で終わるほど、この戦いは容易ではないと。
 そしてその通りだ。煙を突っ切り、朧族が現れる。そのバイクと形容すべきパーツ、取り付けられた銃砲がお返しと言わんばかりに火を吐いた。まるで束ねられた散弾銃が一斉に引き金を引かれたような。そんな、弾丸の雨が、嵐が、エージェント達に襲い掛かる。 範囲の広い攻撃、それに加え、従魔に取り付けられた刃状パーツが、すれ違うエージェント達の身体を無差別に切り裂く。
 ――当然だが、たった一人で全員を守ることなどできない。
 それでも。手の届く範囲は。守れる存在は。
(護ってみせる……!)
 最前線。久朗はライオットシールドを構え、文字通り仲間達の盾となる。パワードーピングによってその防御を高め、持てる技術を全て防御に注ぎ込んで。
「傷は俺が負う。躊躇らわず攻めることだけを考えろ」
 背後の仲間へ語る、言葉。共に戦場を駆けた仲間。彼らがいるから、久朗は躊躇いも恐れもなく盾になれる。
 無様に膝を突くことは出来ない――半機の瞳で愚直に正面を睨め付ける。その眼差しは、語る。

 決して倒れず、決して退かず。

『……支えますよ。どんな状況になっても』
 セラフィナが凛と言う。ライヴスという直接的な手段を以て。心という精神的な手段を以て。

 かくして切り込んできた朧族。
 それらを迎撃するのは、対朧族班のエージェントだ。
「眷属は俺達が引き受けた。ヴォジャッグの討伐は任せたぞ……!」
 手にした禍々しい鎌とは対照的に、神々しい様相のカールレオンが躍り出る。
『おい、レオン! どうせなら、俺もあっちのモヒカン野郎の相手がしたかったぞ?』
「“将を射んと欲すれば先ず馬を射よ”だよ、ミスティ」
『あぁ、なんだってぇ? ――ま、仕方ねぇか! 雑魚の相手は任せな!!』
 英雄との心話。繋ぐ絆は、リンクコントロールによって更に強く高められ。
 二人である一人は、構える刃に絆の力を刻み込んだ。

「さあ、舞踏会の始まりだ。お前達の相手は俺達が務めよう」

 狙うは、先ほどの一斉射撃を喰らい被弾が多い朧族。
 円舞。振るうグリムリーパー。黒い三日月。朧族の身体を、その生命力ごと削り取る。
「負けないよ――!」
 魔術師としての能力を術式で高めた黒絵もそれに続く。ライヴスガンセイバーで射撃攻撃を繰り出しながら、隙あらば複数体へとブルームフレアを発動する。
 夕紅の中に咲き誇る、それよりも赤い焔の華――傍を通り抜けた従魔の刃が少女の頬を掠める。傷から垂れた色もまた、赤。
『黒絵、接近戦に切り替えるよ』
「オッケー、シウお兄さん!」
 黒絵はガンセイバーを握り直した。シウのクラスはソフィスビショップ、つまりは魔術師なのであるが――それは「前衛で戦闘できない」とはイコールではない。
(運動神経なら、ちょっとは自信が……!)
 寸の間整える呼吸、黒絵の動きはまるでしなやかな猫の如く。すれ違い様、鋭く降りぬくのはライヴスの刃。
「支援します。……確実に、一体ずつ斃しましょう」
 黒絵が切り裂いた朧族へは、構築の魔女が速射砲を素早く向けた。自身の身体を『操作』することにより高められた命中精度、撃ち放てばさながら必中。衝撃波と爆風に、魔女の緋色の髪が優雅に靡いた。
「さくさくやっつけていきましょ」
 立て続けの波状攻撃、エストレーラもまた速射砲を発射する。構築の魔女が戦艦の主砲ならば、エストレーラは副砲。敵――あるいは的に、息を吐く間など与えない。
 また響く火砲の音。その中で、エストレーラは唇を休めない。無線機を介し、鷹の目を利用し、常に砲撃指示し着弾観測射撃を心がける。味方には当たらず敵にはドンピシャ、そんな理想の弾道を探り当てる。仲間達と撃ち続ける。固定砲台の如く。
『爽快だな』
 圧倒的砲撃に敵が薙がれてゆくのは。心の内でのキュベレーの呟き。同感だと、エストレーラは白雪の唇を笑みに吊った。

「できるだけ粘らないとね、ねばーぎぶあっぷ!」
 朧族を片っ端からスナイパーライフルで射撃していたのは望月だ。共鳴によって得た飛べない翼が、彼女の戦意を表すかのようにパタパタしている。
「っわ、」
 半ば転ぶような回避、すぐ傍を通り抜けていった朧族。こりゃ近接モードに切り替えないとね――というわけで彼女が手にしたのはクリスマスケーキだ。おりゃー。投げる。残念ながら外れた。ケーキが道路にぐしゃり。
『あー、ケーキ~』
 勿体無い、と百薬。「さすが百薬」と望月。
「でもあれは食べられないよ」
 言いながら、今度は望月は朧族の捕縛を試みる。しかしながら、相手は如何せん回避が高い高機動型。思ったようにはいかないか。怒りでも何でも動転してくれたら儲けもの――とも思ったが、従魔にはそもそも動転するような感情がない。
 うん、真面目に戦おう……望月はスナイパーライフルから、海神槍トリアイナへと武器を持ち替えた。構える。眼前、迫る従魔。浴びせられる射撃攻撃は踏みとどまって、そして。そこだ。
「天使の槍の一刺」
 鋭く、突き立てる、一撃。
 貫かれた朧族が崩れ落ちる。


●ALL RED 03
 愚神も動き始めていた。
 エージェントは罠を考案したが、如何せん、AGWが纏う炎などは『それっぽく再現したもの』であり、実際に着火などは行えない。
 つまりは小細工抜きで戦うこととなったのだが――それでも策が尽きたというわけではない。まだ、戦略はごまんとあるのだから。

「退かねぇなら挽き肉だァ~~~~~~ッッ!!」

 数体の朧族を引き連れ、それらの射撃と共にヴォジャッグが斧を投げた。アックスキッス。戦場を駆け回る凶器は、爆発を引き起こしまくりながらエージェント達を傷つける。
「――これしき!」
 暴虐の爆風、由利菜はそれを焔剣レーヴァテインの一振るいで斬り払う。もう何度も見た技だ。密集しない、直線状に並ばないと被害を減らすための対策はとってある。

「参ります。……対愚神前衛班、総員突撃ッ!!」

 最前線。愚神にトドメを刺す為に。
 対愚神班、前衛面子が一斉に地を蹴った。
「ヴォジャッグ……逃がしません……!」
「相変わらずかっこ悪い髪型にへなちょこバイクですね!」
 由利菜と共に吶喊し、機械の足音を奏でる九繰が挑発の文句を放つ。となれば面白いぐらいに挑発に引っかかるのがヴォジャッグだ。
「てめぇコルァアアア! おい! こら! お前覚えてるぞ! ちょくちょく俺様の前に現れては邪魔ばっかりしやがってぇええええ」
「へぇ? スッカラカンのあなたの脳味噌にそんな記憶力があっただなんて感嘆を通り越して感涙ものですね!」
「んがあああああああああああああああ」
 癇癪声を上げるヴォジャッグの狙いは九繰へと。
『ターゲット接近』
 エミナの声。九繰は斧槍ザグナルの槍部を正面に向け愚神を迎え撃つ。ぐっと姿勢は低く、後衛の斜線を塞がないように。衝撃に備える。からくりの両腕で武器をしっかと握り締め。
「なんとしてでも――」
『はい、止めましょう』

 機械少女の心が重なる。

 振り下ろされたヴォジャッグの斧。災禍の如く爆発が巻き起こる。
 九繰の肩口にこれでもかと突き刺さる。当たり所が悪ければ腕一本切断されていた危険性すらも。
「ぐぅッ――」
 奥歯を噛み締めた。だが、作戦成功。九繰が構えていたザグナルが、ヴォジャッグのバイクに突き刺さる。
「しゃらくせぇ!」
 愚神がエンジンを思いっきり吹かせた。勢いのまま九繰を両断してやろうかと言わんばかり。
 圧倒的質量に押され、九繰が押しやられる。けれど彼女は鋼鉄の脚で地面を強く踏みしめ、吹き飛ばされない。
「……ちょっと無茶しますよ、エミナ」
『了解。協力しましょう』
 ががががががががが。
 押された分、アスファルトを抉る鉄の脚。火花が散る。二本の焼け焦げた線とアスファルトの溶けるにおい。過負荷のかかった脚は装甲がひび割れ、パーツが零れてゆく。

 突撃を完全に止める、ということだけを取り上げるならばそれは能わなかった。
 しかし、だ。その勢いを殺すことならば――「大いに成功」。

『炎の剣よ……暴虐の徒を焼き尽くせ!!』

 リーヴスラシルが謳い上げる。
 その魂は今、姫騎士然とした由利菜のものと重なっている。
 九繰にばかり気をとられたヴォジャッグの背後。跳躍し、由利菜が振り上げた灼熱の刃。
「はァッ!!」
 一閃。
「ぐがっ!?」
 愚神の背中を赤く切り裂く。
 刹那、姫騎士の影が蠢いたような。
 真相、由利菜の影に潜み飛び出した黒装束の忍。
 間隙、回避など許さない。
「隙だらけだ」
 冷たく、轍が突き立てた刃には、死に至る毒。確かに、愚神に毒を流し込んだ。
「がだめいでかっちゃましねぐっでよいでねな……!」
 騒いで五月蠅くて嫌だな。横合い、米衛門が振り上げていたのは雷神の書を巻きつけた機械の拳。
『あーっと、殴りに行くか? 応! 行こうぜ!!』
 共鳴するスノーのライヴスが米衛門に力を与える。ありったけの力を込めた彼の機械腕がキリキリと鳴った。
「へば、がっちめがしてやる!!」
 では、殴る!!
 叩きつける一撃。文字通り『稲妻のような鉄拳』が、愚神へと突き刺さる。
「なめやがって!!」
 火を吐くと共に、愚神が振るう腕で前衛面子を力のままに弾き飛ばす。
 だが咄嗟に、久朗が。米衛門が。
「お前が何度逃げようと俺達は追い続ける。舐めるなよ、エージェントを」
「どんたげ傷付こうが……オレだづは屈しねぇで!!」
 盾となる。焔に焼かれ、それでも不敵に笑いながら。
『やはり強い、自分が主導権いただきますよ』
「チッ、しくるなよイザード」
 飛び退いた轍は、英雄イザードと「バトンタッチ」を。
 一方ではクレアが、傷を抑えて蹲る九繰を一旦安全圏まで引き下げていた。
『あらまぁ、腕がくっついてるのが奇跡ですね。クレア、早く治療を』
 クレアの目を通して患者を診るリリアンの言葉。分かっている、と心のうちで衛生兵は英雄に返事をする。
「流石にアレは無茶のし過ぎだ。戦闘衛生兵<バトルメディック>として忠告するが、二回目の『無事』は保障しないぞ」
「たはは~……気をつけます」
 ボロボロの姿で苦笑する九繰。クレアは冷静なまま「傷を見せろ」と治療のための掌を翳す。

 戦場は休むことなく動き続ける。脈打つ真っ赤な心臓の如く。
 その時である。橋の上ではリュカ、征四郎、千颯、リィェンが。橋の下では拓海と縁が。

「――奇襲班、突撃するぞ」

 リュカの声が、戦場の裏で密やかに響いた。
「3、」
 色と目を得た狙撃手はスコープを覗き込む。
「2、」
 征四郎はライヴスフィールドを展開し準備万端、千颯は今か今かとその時を待ち、リィェンはその身体のギアを最高値に引き上げて、
「1――」
 拓海もまたトップギア。傍らでは緑が、蛇弓・ユルルングルをそっと握り直していた。
「0」

 突撃開始。

 戦場を一番に貫いたのは、リュカのスナイパーライフルより放たれた超精密の弾丸。まるで当たることが予め決まっていたかの如く――朧族の頭部を打ち抜き、沈黙させる。
 それと同時である。橋のワイヤー上に待機していた征四郎、千颯、リィェンが降下を開始。重力。速度。
『ぬかるなよ征四郎』
「勿論です。――私を誰だと!」
 夕日に溶け込む朱色の装束を翻し。征四郎は霊弓雷上動を引き絞る。重力に引かれながら、従魔を滅ぼすべく撃ち放つ紫電の矢。
「お前にはいい加減此処らで退場して貰う!」
 千颯は最初からガチモードだ。一切の遊びなし。開いたラジエルの書より放つ、白き刃。
「外さない……!」
 それに合わせて地上から放たれたのは縁が放つ雷光の矢だ。
 白と金、二つの攻撃はヴォジャッグへ向かう――「奇襲される」など想定もしていないその横っ面にだ!

「ぐおあ!」

 ド命中。何が起こった!? 目を見開いたヴォジャッグが見やる――その頭上だ。
「さぁ……狩りを始めるとしますか」
 血色の大剣フルンティングを構えたリィェンが、落ちてくる。
 重力加速。降下の勢い。武器も乗った全体重。
 隕石の如く。鉄槌の如く。霹靂の如く。

 押し潰す。

 ぐしゃり。その一撃は、ヴォジャッグ――ではなく、そのバイクへ。
 流石に一発で破壊は困難か。それでも、ひしゃげさせた。半壊させた。
「そこだッ……!」
 直後。共鳴し銀の髪となった拓海は、橋の下から飛び出しヴォジャッグへ一直線。その横合い。聖魔剣アロンダイトを振りかぶり。一気呵成!
「!?」
 バイクが半壊しバランスを崩していたことも相俟って、ヴォジャッグが地面に放り出される。その隙を逃さず、拓海は勢いのままに刃を振るった。狙いは引き続きバイク――力のままに。バイクを彼方へ吹き飛ばした!

 バイクが破壊されたなら再び作り出せばいい。
 けれど破壊されないまま引き離されたのなら――取り戻すしかない、のだが、エージェントがそれを愚神に許す筈がなく。

「バイクに頼ってこの有様とは……みっともない! 戦士の誇りがあるのなら、足を地に付け最後まで戦ってみせなさい!!」
 剣の切っ先を突きつけ、由利菜が高らかに言う。
 そしてその背後から、だ。後衛面子の攻撃が間断なく降り注ぎ続ける!
 銃声。
 前衛面子の攻撃にあわせ、八宏は引き金を引き続ける。止まぬ銃声は連なり重なり歌となる。
 戦場に血が流れる度、八宏の意識は鋭さを増していた。濃くて甘美なる血の臭いが、本能を突き動かすのだ。
「……貪り返してやるまでだ」
 目の前の愚神が、自分達を餌だと言うのなら。
 どうぞ骨の髄まで。髄の髄まで。
 一喰らわれたら、百喰らうまで。

「ウラワンダー☆エスケープッ! とうっ!」
 朧族が繰り出す斉射。アスファルトを次々と抉ってゆくそれらを、朝霞は特撮ヒーローさながらのフォームで華麗に回避する。
『あー、』
 ニクノイーサは何か言おうとして――諦めた。うん。まぁ、回避できたしいいか。思いながらもライヴスという力を貸す。共鳴して増幅する霊力は、優しく灯る癒しの光。ケアレイ、リジェネーション、クリアレイ、持てる治癒魔法を全て、惜しげもなく、仲間へと。
「……くるよ!! 三時方向避け!」
 真琴も攻撃と同時に支援を忘れない。後衛という離れた位置だからこそ見渡せる戦場、常にヴォジャッグの動きを注視し、その動作から注意喚起を常に行う。
(さて――)
 がり、と噛んだチョコバー。甘い味で脳味噌を常に活性化させ、飲み込んで、生の実感。狙撃銃のスコープを覗き込む。
「ここで終わらせる!」
『いい加減沈め……!』
 真琴とハルの言葉が声が、重なった。
 繋がる想いは力に。引き金を押し込めば、一直線に弾丸が、穿つ。精密に、確実に、愚神の身体を。
 ヴォジャッグの呻き声――それを掻き消し飲み込んだのは、ヴォジャッグを中心に轟と渦を巻いた不浄の風、ゴーストウィンド。
 冥府の毒気を孕んだ竜巻は二重、つくしと樹が同時に放った攻勢魔術である。
「ん、タイミングばっちり」
『こノ風少し泣いテまーす!』
 樹が頷き、シルミルテがきゃっきゃと笑う。息を合わせた嵐はヴォジャッグ周囲の朧族をも巻き込んで、敵陣に大打撃を与えた。
 が、それに安堵している暇はない。戦いはまだ終わっていない。樹は油断することなく、仲間達へと意識を向ける。レイヴンの面々。まだ倒れた者はいない。何よりだ。この調子で。
 続けて詠唱――樹はシルミルテと共に魔力を練り上げる。
『次ハ焔?』
「うん、オイルかかってないけど、着火すれば燃えるでしょ」
『汚物は消毒!』
「ん、そだね」
 そんな仲間をすぐ隣に、つくしもまた次の攻撃のために魔力をリロードする。メグルの魔力を、魂に感じる。
『全てを終わらせて……幕を引きましょうか』
「頑張ろう! 終わらせなくちゃ!」
 開くのはレギウス写本。樹の攻撃に合わせ、放つ、魔法。

 奇襲を喰らい、そして立て続けに攻撃を浴びる愚神。
 その顔は怒り。吐き出すは罵倒。振るう斧と吹き出す火炎で、手当たり次第のエージェントへその暴虐さにそぐわぬ被害を叩き出す。

(然し――)
 ヴォジャッグか。『燼滅の王』の姿となり、愚神の攻撃をライオットシールドで受け止めたカゲリは思う。爆風の余熱がジリと肌を熱していた。
「は、今も逃げる為に必死とは、大規模から随分無様を晒しているな。……所で家畜と蔑む相手に追われるのはどんな気分だ? その足(バイク)も逃げる為の物なら、お前には似合いだが」
 なあ、教えてくれよ。言葉と共に、放ったのはライヴスショット。爆ぜる黒焔の霊力。リンクコントロールによって強められた共鳴、光をも呑み込み焼き祓う。
「……ンのクソ家畜共ァアアア!!!」
 怒鳴る愚神。バイクがあれば一直線に向かっていただろうが、今はもうそれもない。そして行く手は、エージェント達に阻まれる。
 ならばとヴォジャッグは従魔共を向かわせようとした、が。
「そっちのペースにはさせないからね!」
 京子が放つ弾丸が。
「邪魔はさせません!」
 蘿蔔が放つ砲撃が。
「汚物は消毒しなきゃね?」
 エストレーラが構えた火炎放射器より吹き出す炎が。

 従魔達を、砕く。

「ふう、ほぼスッキリね」
 にこにこ笑顔のエストレーラ。
「魔女さんと黒絵ちゃんともちもっち、ラストスパート頑張ってこ」
 そう言った、【対朧族班】のエストレーラの言葉通り。
 朧族はほとんど殲滅完了と呼んで差し支えない状況だった。
 残り、ほんの数体。その上、いずれも負傷している。
「チェックメイト、ですね」
「よぉし……!」
 構築の魔女と黒絵が身構える。
 望月もチョコレートを齧ってもうひと踏ん張り、気合を入れなおした。
「甘い物は最強の戦力ね」
 そして、朧族に撃たれ斬られた仲間達へは治癒の魔法を。まだまだ、まだまだ戦える。

「ぐっ……!」

 流石のヴォジャッグもうろたえた。
 バイクから隔絶され、包囲され、従魔達も残りわずか。
 相手はそこいらの人間ではない、あのH.O.P.E.の、精鋭エージェントだ。
 まずい――このままでは。
 どうする?
 数歩、愚神が後ずさる。

「おいおい、怖気づいてケツをくって逃げるなんてがっかりさせんなよ」
 刃を手に、後ずさられた分、リィェンが距離をつめた。前衛面子と挟撃の布陣、逃しはしない。
 彼は狙っている。虎視眈々と。ここできめる。ここで終わらせる。ここで仕留める――そう決意している。
『そなたの悪足掻きもここまでぞ』
「いい加減、終いにさせてもらうぜ……ヴォジャッグ!!!」
 リィェンがその身に纏う陽炎が戦気と共に噴き上がる。漲らせるは圧倒的に力。一気呵成に武人が攻め入る。鮮烈なまでに振りぬいた刃、それが、ヴォジャッグが防御に構えた斧とぶつかった。寸の間に散る火花。ギリギリと刃物同士が擦れ合う中、人間と愚神は睥睨をかち合わせる。

「「うおおおおぉおおおおおッ!!」」

 そこへ勇猛果敢に飛び込んだのは征四郎と千颯。紫の青年はブラッディランスを、白虎の武芸者は大鎌を構え。
「如何に吼えようと恐れはしない! その矜持に恥じぬよう、這ってでも此処で殺す!」
 征四郎は幼くか弱い少女ではない。一人のエージェント、一人の戦士なのだ!
 巡る、息を合わせた攻撃。また新たに負傷をしたヴォジャッグが露骨に舌打ちをしながら飛び退いた。それから、息を吸い込む――その動作が何を示すか、もう京子には分かっていた。
『京子!』
「分かってるわ、アリッサ。力を貸して!」
 すぐさま向けるスナイパーライフル。発射――ヴォジャッグのこめかみを掠める威嚇の弾丸。
「ぐっ……!」
 ほんの間隙だ。それでも、京子の弾丸がヴォジャッグが吐き出した火炎の狙いを確かに乱す。
「気持ちよく攻撃なんてさせないんだからね」
 硝煙。京子の視線の先で火柱。狙いは乱すことができた、それでもヴォジャッグは、そう、トリブヌス級。その一撃は掠るだけでも酷い傷となる。
 されど、その傷を治し続ける者達がいる。回復行為という、愚神への叛逆。愚神がもたらした破壊をなかったことにするという、明確なる戦闘行為。

「殺すよりも、生きて帰すのが仕事なので」

 クレアが掌を翳す。
 九繰が掌を翳す。
 緑が掌を翳す。
 久朗が掌を翳す。
 望月が掌を翳す。
 朝霞が掌を翳す。
「征四郎! 立て直すぞ! タイミングを合わせろ、俺に続け!」
『此処で負ける訳には行かないでござる!』
「了解です!」
 千颯が征四郎が、掌を翳す。

 慈雨の如く。

 夕焼けの中、幻想的に降り注ぐ、光。
 バトルメディック達による治癒魔法が、戦場中に降り注ぐ。戦士達に降り注ぐ。労うように。鼓舞するように。立ち上がらせる。何度でも。諦めさせない。一人じゃない。生きろ。生きて生きて生きて生きろ。生きて帰ろう。必ず皆で帰るのだ!

 誰一人、重傷者はいない。戦闘不能者はいない。
 エージェントの士気はこれっぽっちも下がっていない。

 愚神は改めて、人間という存在の脅威を思い知る。
 だが、その時である――

「おい、皆!」

 普段は声を荒げない筈の轍が、通信機を介して大きく声を張った。
 それだけの事態だったからだ。

「――愚神共の援軍が接近中!」


●ALL RED 04
 鷹の目。
 轍同様にその術を発動していたエストレーラも、その光景をハッキリと見る。

 迫り来る愚神、ヨウケル。
 クロスボウを携えた従魔、朧族が三体。
 従魔牛グアンナ三体。

「! ……先制で怯ませる、接近前に削るぞ!」
 いち早く、リュカがスナイパーライフルを増援へと向けた。撃ち放つのは閃光弾、グアンナの眼前で炸裂したそれが、従魔の動きを強烈に怯ませる。

「増援対応の皆さん、往きますよ。――突撃!」

 槍を掲げ、外套を雄々しく翻し。
 征四郎が駆ける。皆で繋いだ今日のため。皆が望む明日のため。
『敵を殺すまで、此処で死ねると思うなよ』
 くつくつとガルーが含み笑った。
 そんな征四郎と共に駆けるのは千颯、望月、カールレオン、拓海。それぞれの力を、ライヴスを、腕に武器に漲らせ。
「来たね……でも、邪魔はさせないよ」
 駆け出した者達の背後には、弓を引き絞る縁。彼だけではない。京子、蘿蔔、構築の魔女、エストレーラ、黒絵が、射撃武器や魔法武器を構え。

「絶対に、ここで終わらせるんだ!」

 京子の声を合図に、一斉に、撃つ。弾幕。駆ける征四郎達には決して当たらず、彼らを一足先に飛び越えて――着弾。轟音。
「ぐうっ……!?」
 咄嗟に防御姿勢をとったヨウケル。だがその左腕は、風穴が開いていてないも同然。グアンナも一斉射撃の前にたちまち崩れ落ちる。それだけ増援の蓄積ダメージは凄まじかった。それはつまり――別働隊が、大奮闘してくれたということ。

「だったら尚更……別働隊の皆に、かっこわるいとこ見せられないな!」
『皆で紡いだ好機だ、決して無駄にしない!』
 千颯は白虎丸と力を合わせ、グリムリーパーを従魔へと振るった。切り裂いた。
 カールレオンもライヴスを刃に乗せて、仲間と共に従魔へ、愚神へ、挑みかかる。
「負けてたまるかっ……!」
 力いっぱい、拓海は剣を握り締める。どれだけ傷つこうとも、その魂が折れることはない。
「……っの、人間共めがァ!」
 怒鳴るヨウケルに余裕はない。それだけ負傷が激しいゆえだ。


「そろそろ、クライマックスだね」
 増援の方へ向かった仲間から、愚神へと視線を戻し。樹が言う。
 増援との戦闘はおそらく長引かないだろう。そうと確信できるほど増援は少なく、消耗している。増援班のあの面子ならば負けることなど絶対にない。そう信じられる。
「やれるだろ、俺達なら」
 久朗をはじめとしたレイヴンの面子が、身構える。
「ヨネ! 御代! 今宮! 貧乳! いくぞ!」
「貧乳言うなし……セラフィナあとでくろーに目潰ししといて」
 張り上げた久朗の声に樹が眉根を寄せた。そんな反応をしながらも、協力姿勢。
『こいつはつえーから、オレの指示に合わせろ』
「頼んだでスノー」
 特攻し、盾となり。英雄とやり取りを交わす米衛門は傷だらけだ。それでもまだ、戦える。
「いぐで、久朗!!」
 言いながら幻想蝶より取り出したのはワイヤーAGWノーブルレイ。それを、米衛門は自らと久朗の機械の腕に巻きつける。二人のライヴスに、AGWがその名の通り煌きを帯びた。
「おう、ヨネ!」
 突き出した機械の拳同士をゴツンと合わせ。
 地を、蹴る。
「リーダー、ヨネさん! 援護するよっ!」
「飛んで」『いッケー♪』
 その二人を援護するように、誰にも邪魔させないように、つくしと樹が再度、不浄なる風の嵐を巻き起こした。護るように。追い風になるように。
「……変衣:陰陽型!」
 それと同時、真琴は纏う衣を濡羽色へと転じさせた。紙吹雪。赤い髪が夕日に靡く。
「そのまま……響け! 鈴鳴!!」
 振るう手、放つ式神――それはライヴスの閃光弾。つくしと樹の風に寸の間怯んだヴォジャッグの足元、超新星が如く光で意識を塗り潰す。
「!!」
 視界を塗り潰され――それでも愚神が斧を投げた。
 斬撃、爆発、しかし、久朗と米衛門の突撃の勢いは弱まらない。
「どんたげ傷付こうが屈しんべ」
 生憎、屈している余裕などないのだ。流れる血をそのままに米衛門は言う。

「前さ進む、突き進むべ、死にてぐねぇ訳でね……ただ、討つ!!」
「おうともさ! 大鴉の矜持を身を以て知れ!」

 米衛門と久朗が左右に展開する。
 二人を繋ぐワイヤーが、夕焼けに煌く――
「なっ!?」
 ヴォジャッグにノーブルレイが絡まり、
「かっとべ!」
 米衛門のストレートブロウが、バランスを崩した愚神を強烈に押しやり、

 愚神を地面に引きずり倒す。

「我ら鴉の」『意地ヲ知れっ!』
『これが鴉の』「矜持だっ!」
 樹が、シルミルテが、メグルが、つくしが、声を張った。
 構えた掌。二重の魔方陣。
 そこからヴェールの如く空を覆い飛び立つのは、ライヴスの蝶の群れ。幻影の蝶。

「さぁ、今度こそ」『地に堕チろ!』

 樹の目が、シルミルテの目が、愚神を捉える。
 不退転。
 大事なモノがたくさん増えた。
 それらのためにも。
 負けない。
 譲らない。
 愛すべき日常のため。
 愛すべき仲間のため。

「ぐおぉおあああああああああ!!?」

 脅威の蝶が、愚神を苛む。
 それでもヴォジャッグは死んでいない。なんという、生命力か。
 だが最早、半ば愚神は戦意を喪失していた。
 逃走を――そうだバイクがまだ残っていたはず。

 しかし。

『悪りぃな、鶏冠頭』

 意地悪い声が響いた。
 ヴォジャッグの眼前。
 彼のバイクを、海へと投げ捨てた八宏。にや~っとした笑みはチカのそれ。
『ボッシュートだ』
「そういうわけなので、まぁ、死んでください」
 銃口。
 銃声。
「針の穴を通すが如く……です」
 精密なる弾丸。蘿蔔の一射が、愚神の目を狙って。突き刺さる。愚神の苦悶の声。
「今です、追い打ちお願いします」
「了解」
 それに答えたの轍だ。ヴォジャッグの身体を、霊力針で縫い止める。
「逃がさない。逃がすものか」
『そのまま動かないでくださいね』
 飛び退く黒い忍。
 その入れ違い。
 愚神は目を見開く。

「これで終わりだ」
『人の意志が示す力、その強さを。身を以て知るが良い、愚かの神よ』
 愚者の双銃を構えたカゲリが、ナラカが。
「貰うぞ、その首」
『刎ねてくれようぞ』
 オーガドライブ、防御を捨てたリィエンが、インが。
「いきますよ、ラシル……!」
『ああユリナ。私の力、全て使え……!』
 由利菜とリーヴスラシルは、二人分の力を剣に込め。
「最後の最後――頑張ります!」
『適切かつ確実に処置しましょう』
 九繰とエミナが、斧槍を振り上げて。

 降り注いだ。
 渾身の一撃。
 全力の攻撃。

「ごっ……の、俺様が……!」

 信じられない。全身に武器を受けた愚神が、よろめく。
「馬鹿な―― 人間共に 家畜共に、」
 よろり、よろり。

「やられてたまるかよクソがあああああああああああああああああ」

 最後の悪あがき。
 走り出す。
 邪魔をする者へは斧を振るい。
 逃げる。
 何処へ?

 ――海!
 橋の欄干に愚神が飛び乗る!

「……逃がさない……落ちろぉっ!」
『撃てぇ! 真琴っ!!』
 真琴のライフル。
『合わせるぞ』
「勿論。逃がしません」
 蘿蔔の速射砲。
 二つの銃口から長射程の弾丸が吐き出され。
「射程内よっ!」
『絶対に外すなよ、朝霞!』
 朝霞が。
「拓海さん」
「ああ、縁」
 縁と拓海が。
 放つ、弓矢。

 貫く。

 ヴォジャッグの動きが、固まる。

 ぐらり。

「―― ……!」

 傾く。
 愚神が。
 揺らいで。


 落ちる。


 水飛沫の音。


●ALL RED 05
 すぐさま、幾人かのエージェントが欄干に駆け寄り海を覗き込んだ。
 波音。夕焼けの水面。何も浮かんでこない。血だけが夥しく水面に広がっている。
 鷹の目の保有者が周囲一体を探ってもみた。それでも、何も見つからなかった。

 一方で――増援対応班もやってくる。彼らの増援勢力との戦いはエージェント優勢のまま、勝利に終わった。ヨウケルも、従魔も、残らず討ち取ったのである。

 明石海峡大橋に静寂が訪れた。

「白刃は貴様の首に落ちたな、ヴォジャッグ」
『これで憂いが一つ無くなったわね』
 クレアとリリアンは水面を見つめたまま呟いた。
「奴を仕留めきったか確認できなてないことだけが気がかりだが……」
 カゲリがわずかに眉根を寄せる。死体を確認できていない以上、撃破したかどうか絶対は言えないが……一方で、従魔や愚神は撃破されたら死体が残らないパターンもある。
「任務完了、ですね」
「お疲れ様だよ~」
 由利菜はほうと安堵の息を吐き、望月は快活に笑って皆に手を振る。
「負傷者の皆さんはこちらに! 治療しますよ」
「あ、私も手伝います!」
 九繰と朝霞は協力して負傷者の治療に当たる。クレアもそれに加わった。
「ひと段落……か」
「ああ、取り敢えずは、だな」
 カールレオンは武器を幻想蝶に収め、リィェンはぐっと伸びを一つ。
「……」
 黙ったまま、八宏は一段落の息を吐く。
「嗚呼、だから働きたくないんだ」
『皆様、お疲れ様でした』
 愚痴ったのは轍、対照的に、共鳴を解いたイザードが皆へと微笑みかけた。
「征四郎、お疲れ」
「千颯も、お疲れ様です」
 友人達は互いを労いあう。
「拓海さん。自分には……勝てた?」
 縁は傍らの拓海の顔を覗き込み――ぎょっとした。彼が泣いていたからだ。
「無事で、良かった……」
 安堵の涙。拓海は友人の肩を抱き、互いの無事を心から喜ぶ。
 一方、エストレーラが構築の魔女と黒絵と望月の手をちょいちょい突いた。
「せっかくこんなところまではるばるやってきたんだし? のんびり観光でもしてから帰りましょ?」
 三人が目を見合わせる。
「悪くないかもしれませんね」
 くすっと構築の魔女が笑う。
「その前に、シャワー浴びたいかも……」
 黒絵は「あはは」と笑う。全力で戦った分、土埃やら汗やらで酷い有様だ。
「……終わった……? これで終わり?」
『うむ、勝利じゃ!』
 真琴の呆然とした声に、ハルが満足げに頷く。
「やったぁーーーーーーーー!!!」
 年齢相応に喜んでみせる真琴。その喜びのまま、仲間達とハイタッチを。
「酒っこ飲むスベ! 祝勝会だ!」
 豪快に笑う米衛門が久朗の肩に腕を回しバスンバスン叩いて笑う。普段は仏頂面が目立つ久朗も、今ばかりは表情に笑みを見せた。「勿論だ」と。
「あ、の、佐倉さんっ」
 祝勝ムードの中、つくしが樹のもとにやってくる。
 そういえば、戦いが終わったら話があると――樹はつくしの言葉を思い返しては、「話って?」と促した。
「ん、その……」
 もじもじ。
「あの、ね、もし、佐倉さんさえ、嫌じゃなかったら、なんだけど……」
 顔が赤い。
「え…… な、なぁに? どしたの?」
 一体何なんだ、樹はそっと問いかける。
 するとつくしは逡巡の後、思い切ったように顔を上げて。

「樹ちゃんって呼んでもいいかな……っ!」

 ……。
「お、おう……」
 なんのことやらと思ったじゃないか。とりあえずその場の勢いで樹は頷いておいた。

 賑やかな下方。
 ワイヤーの上から、リュカは沈む夕焼けを見やる。
「見てごらん、オリヴィエ。綺麗だね」
『……そうだな、リュカ』

 穏やかな潮風。
 緩やかに、静かで平和な夜がやってくる……。



『了』

みんなの思い出もっと見る

-
かずち

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 常夜より徒人を希う
    邦衛 八宏aa0046
    人間|28才|男性|命中
  • 不夜の旅路の同伴者
    稍乃 チカaa0046hero001
    英雄|17才|男性|シャド
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • Knock out!
    カールレオン グリューンaa0510
    人間|18才|男性|攻撃
  • Knock out!
    ミスティ レイaa0510hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • エージェント
    言峰 estrelaaa0526
    人間|14才|女性|回避
  • 契約者
    キュベレーaa0526hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 撃ち貫くは二槍
    今宮 真琴aa0573
    人間|15才|女性|回避
  • あなたを守る一矢に
    奈良 ハルaa0573hero001
    英雄|23才|女性|ジャ
  • 花咲く想い
    御代 つくしaa0657
    人間|18才|女性|防御
  • 共に在る『誓い』を抱いて
    メグルaa0657hero001
    英雄|24才|?|ソフィ
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
    シウ ベルアートaa0722hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • Twinkle-twinkle-littlegear
    唐沢 九繰aa1379
    機械|18才|女性|生命
  • かにコレクター
    エミナ・トライアルフォーaa1379hero001
    英雄|14才|女性|バト
  • 我が身仲間の為に『有る』
    齶田 米衛門aa1482
    機械|21才|男性|防御
  • 飴のお姉さん
    スノー ヴェイツaa1482hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 水鏡
    榛名 縁aa1575
    人間|20才|男性|生命
  • エージェント
    ウィンクルムaa1575hero001
    英雄|28才|男性|バト
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • ドクターノーブル
    リリアン・レッドフォードaa1631hero001
    英雄|29才|女性|バト
  • その血は酒で出来ている
    不知火 轍aa1641
    人間|21才|男性|生命
  • Survivor
    雪道 イザードaa1641hero001
    英雄|26才|男性|シャド
前に戻る
ページトップへ戻る