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素敵なパーティしましょ☆
最終発言2015/12/15 00:30:29 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2015/12/14 14:09:30
オープニング
●聖なる夜のラブ任務
「みなさま、聖なる夜にようこそお越しくださいました」
ホテルの大広間のような空間に招かれた人々は、室内の前方、この屋敷の主人が話しているほうへと目を向けた。
「ささやかなパーティーではありますが、一流のシェフがつくりあげた料理に舌鼓を打ち、そして一流の演奏家が奏でる美しい音楽を、愛する人と楽しんでいただければと思います」
パーティーの主催者の挨拶に、会場中から盛大な拍手が送られた。
十二月二十四日のこの日、大富豪として名高い有馬克也の屋敷ではパーティーが開かれていた。
有馬は経済界だけでなく、政界や医療、教育、芸能界などにも広く顔が知られた人物だった。
●一週間前
「は? 覆面警備のご依頼ですか?」
有馬の屋敷に呼ばれたH.O.P.E.の職員 沼津は顔をしかめた。
「ええ」と、紳士の空気をまとわせた初老の男は品のある笑みを浮かべる。
「クリスマスにこの屋敷でちょっとしたパーティーを行うんですがね。様々な業界の人間が集うので、よからぬ輩が忍び込むこともあるかと思いまして」
よく言うよ…… と思いながら、沼津は「はぁ」と相づちを打つ。
有馬は笑みを崩さすに話を続ける。
「特に、赤いトカゲのアクセサリーをつけた人間が最近悪さをしているという噂がありまして。そのような怪しい人間を見つけ、他のお客様に悪影響のないように捕まえてほしいのです」
「それは、おたくの精鋭ぞろいのSPで十分じゃないですか?」
「確かに」と有馬は頷く。
「うちのSPは優秀です。しかし、お客様の数は多いですし、もしその人物がヴィランであった場合、対応しきれませんので、こうしてプロのあなた方に依頼しているわけです」
「……なるほど」
なんとも白々しい…… と、沼津は引きつった笑みで返す。
沼津は、有馬克也という男を数年前からマークしている。
有馬はヨーロッパを拠点にビジネスを展開しながら、暴力団 桐生組へ莫大な資金援助をし、組織との関わりが深いという疑いがあるためだ。十中八九、それは事実であるが、証拠が出てこないため、追求できずにいる。
本当は、お前の腹が一番黒いのではないか? そう言ってやりたくとも、そんなことを言う訳にもいかず、沼津は「わかりました」とぎこちない笑顔を無理矢理深める。
「それでですね」と、有馬は言葉を続ける。
「まだなにか?」
「お客様にはペアでのご参加を条件にしていますので、その辺の配慮もお願いします」
「……ペア?」
「ええ。クリスマスですからね。ご夫婦や恋人と参加していただけるようにしたのです」
「はぁ……」
「お客様には心から楽しんでいただきたいので、怪しい人物がいるかもしれないなんて心配はしていただきたくありませんし、能力者が覆面警備をしているなんて知られるわけにはいきませんから。怪しまれないために、能力者の方々にもその条件にそった状態でのご参加をお願いしたいのです」
「はぁ……」
「あ、もちろん。男性同士、女性同士の方々も歓迎いたしますので、異性でなければいけないというルールはありません」
「……では、仲間同士でも構わないということですね」
沼津がそれなら人選もそう難しくはないかとコーヒーをひと口飲もうとした時、「そのかわり」と、有馬はにこにこと実に楽しげに微笑んだ。
「恋人同士のフリはしてくださいね」
●H.O.P.E.会議室にて
「と、これが有馬克也からの依頼だ」
ビデオカメラの映像をスクリーンに映し、沼津は言った。
「この映像、盗撮じゃないですよね?」
真っ正面から有馬を映した映像は鮮明なものだった。
「よく撮らせてくれましたね」
エージェントの言葉に、沼津は「ああ」と相槌をうつ。
「後ろめたいことなんてなにもないというアピールなのか……単に注目されていることが好きなのか。まぁ、後者だろうけどな」
「さて、ここで本題だが」と、沼津は話を続ける。
「俺は、これは有馬が仕掛けてきた遊びだと思ってる」
「遊び、ですか?」
「実際には赤いトカゲのアクセサリーをつけた人物なんていないだろう。いたとしても、それはフェイクだ」
自信満々に沼津は言う。
「なんのためにそんなことを……」
「H.O.P.E.を……エージェントを手のひらで転がして遊ぶためだ!」
「それなら、こんな依頼、受けなければいいじゃないですか」
「受けなければ、受けないで、その事実を使ってH.O.P.E.の信頼を落としめようとするだろう。有馬は表向きはお人好しな起業家で通っているからな。ヤツの言葉を信じる人間は多い」
「本当に、有馬が言う赤いトカゲのアクセサリーをつけた危険人物がいる可能性は全くないんですか?」
そう念を押して確認したのは、沼津の後輩にあたる職員だった。
それまで自信ありげに話していた沼津は、いつも冷静な後輩の視線から逃げるように目を動かした。
「……ハーフハーフとでも言っておこう」
なぜここで氷上の妖精の名台詞を使ったのかは謎だが、沼津が勢いで自分の推測を話しただけだとわかり、その場に集まっていた人々は改めて気を引き締めた。
解説
●目標
・赤いトカゲのアクセサリーをつけた人物が実在するのか調査&実在した場合、身柄の捕獲
・周囲に不安や不信感を与えないため、恋人同士(のフリ)でパーティーを楽しむ
●登場
・有馬克也……H.O.P.E.をからかうのが趣味のひとつ
・赤いトカゲのアクセサリーをつけた人物……有馬が作り上げた虚像の可能性あり(沼津 談)
●場所と時間
・有馬の別荘の大広間(ホテル並み)
・テラスや広い中庭(花園)あり
・パーティーは十九時開始
●状況
・会場ではクリスマスパーティーが開かれ、お金持ちがドレスアップして参加しています。
・会場には美しい音楽が流れ、華やかで美味しいお料理が並んでいます。
・そんななかには、お金持ち達を狙った危険実物も潜んでいます。(招待客のフリをしているだけでなく、あらゆる方法で潜入しています。)
●PL情報
・沼津の推測は正しいです。
・会場で起こるのは、有馬仕掛ける些細な悪戯です。
・誰かが怪我をしたり、死亡したりすることはありません。
・演奏する人々、料理人、お客さんは仕掛人ではありません。
・警備の気持ちを忘れずに、パーティーと有馬仕掛ける悪戯を楽しんでください。
・有馬は超成金なので、報酬は多めです。
リプレイ
●
「なんでまた、こんな依頼を取って来たんだ……」
パーティー会場である有馬の別荘に向かう途中、冬月 晶(aa1770)が機嫌良く先を進むアウローラ(aa1770hero001)に聞くと、すこし前を歩いていた彼女はくるっと振り返り、「はい!」と輝く瞳で説明をした。
「なんかおいしい物がいっぱい食べられるそうなんで!!」
「ああ」と、晶は納得する。
「色気より食い気か……って、おいおい」
そんなことで俺の貴重な趣味の時間を奪ったのか……と、晶は沈み込む。
「ところで、恋人ってなんですか?」
恋人がどういうものかもわからずに依頼を受けたアウローラに呆れながらも晶は説明した。
「つがいになる前の男女で……」
「つがい?」
「あー……ものすごく仲のいい男女のことだ。うん」
「そうなんですか! じゃあ、私とアキラさんは恋人同士だったんですね!!」
満面の笑顔を見せて、再び先を歩きだしたアウローラの背に晶は呟く。
「……いかんぞ、この勘違い」
「よりにもよって、なんであいつなんだ……」
有馬がエージェント達のために別棟に用意した控え室にて、黒いスーツに着替えた真壁 久朗(aa0032)は愚痴をこぼしていた。
「クロさん、ちゃんと樹さんとラブラブしなきゃダメですよ!」
ベストとローファーでフォーマルな装いを整えたセラフィナ(aa0032hero001)が注意する。
久朗はため息をつきながらも、セラフィナの指示には大人しく従い、ヘアスタイルをオールバックに整える。
機械化した片目に眼帯をつけると、そのヘアスタイルとスーツと相まって、どこぞの組の若頭のようになる。
「……なんか、むしろ、クロさんがヤクザっぽいね!」
「お前がこの格好にさせたんだろう……」
笑うセラフィナに怒りたいが、自分でもちょっと思ってしまったことなので、強くは言えず、久朗はため息をついた。
隣室には女性用の控え室があった。
「有馬サンのお願イっテ、要は『他のお客サンへノ見世物お願イネ』っテ聞こえるヨー」
子供用のイブニングドレスに着替えながらシルミルテ(aa0340hero001)は言う。
「沼津さんも裏をかいているつもりで、そのまんま通り受け取っちゃうから有馬さんに揶揄われ続けてるんだろうね」
佐倉 樹(aa0340)は黒いホルターネックのドレスのジッパーを上まで上げる。
「ヴィランや従魔が現れる可能性もゼロではないし、見世物になりながら一応警備もしますか」
結い上げた髪の毛が乱れていないことを鏡で確認し、樹は今夜のパートナーの顔を思い浮かべる。
「……ついでに、くろーとヨネさん『で』遊ぼ」
『と』じゃないところが重要ポイントである。
「さあ、パーティーを楽しもう!」
シャルティと共鳴した豊浜 捺美(aa1098)はピンクのティアードドレスにレースのボレロを着て、パートナーのディフェクティオ(aa1997)に笑顔を向けた。
ディフェクティオが着こなすフリルとリボンで飾られた黒いゴシック系の衣装は、アイアンバンクの華奢な彼の体にフィットして、彼を美しい人形のように見せる。
招待状を携えてパーティー会場を訪れる人々を見つめ、ディフェクティオは不安になる。
「……ひト……たくさん……」
盾代わりに蘇芳を連れてくればよかったと、相棒を家に置いて来たことをすこし後悔する。
しかし、横でパーティーを楽しみにしている捺美の姿を見て、覚悟を決めた。
「……」
すっと、ディフェクティオが手を差し出すと、捺美は迷いもなくその手を取った。
「エスコート、よろしくね!」
捺美の笑顔にディフェクティオはしっかりと頷く。
白いモーニングコートを着て、サングラスをかけた木霊・C・リュカ(aa0068)は、入り口付近でオリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)と一緒に今夜のパートナーを待っていた。
「……結婚式でもあるのかしら?」
「花婿さん……?」
目が不自由であっても……いや、だからこそ、リュカは周囲の視線やその場に流れる空気に敏感だった。
自分を遠巻きに見ているような微妙な視線とひそひそ話から、リュカは徐々に状況を察してきた。
「オリヴィエ……」
「なんだ?」
「モーニングコートを借りてきてほしいってお願いしたけど……もしかして、これ、白?」
「白だが、何か問題でも?」
やはりそうかと、リュカは苦笑する。
「問題はないんだけど……お店の人は、黒をすすめてくれなかった?」
「すすめられたが、白のほうが似合うだろ」
オリヴィエの返答にリュカは驚く。
「え……わざわざ選んでくれたの? 俺が似合う色を考えて?」
「黒も悪くないが、白のほうが似合うだろ」
花婿が迷い込んだ感じになっているのは恥ずかしかったが、オリヴィエが自分のために選んでくれことを知って、リュカは感動した。
リュカが感動を噛み締めていると、紫 征四郎(aa0076)とガルー・A・A(aa0076hero001)が来た。
「僭越ながら、エスコートさせていただくのです!」
パープルのロングチュールドレスを着た征四郎がリュカの手に触れると、リュカはその場に膝をついて、征四郎の手の甲に優しくキスをした。
「マダム・征四郎、美しいお嬢さん。私と一夜の恋人になってくださり、ありがとうございます」
虚をつかれ、ぽかんと口を開けた征四郎だったが、はたと我に返ると、見る間に顔を赤くした。
「ふあああああ」と叫びそうになった自分の口を慌てておさえる。
征四郎は動揺する心を落ち着かせるためと、自分自身を鼓舞するために頬をぺちぺちと叩いた。
「さぁ、参りましょう! ムシュー・リュカ!」
リュカのために自分にできる限りの最高のレディを演じようと覚悟を決めた征四郎はきりっと眉を上げて、しっかりとリュカの手を握る。
その意気込みは、まるで姫を守る王子のようでもあったが……世の女性の強さを思えば、これこそがレディの本質のようにも見えた。
征四郎とリュカが受付に招待状を見せて無事に会場へ入ったのを確認すると、ガルーはオリヴィエに手を差し出した。
「俺様達も行くか」
ディレクターズスーツを着こなしているガルーの姿をじっと見つめ、オリヴィエは眉間に皺を寄せた。
ブラックスーツに身を包んだオリヴィエの姿を改めて確認したガルーは、プッと吹き出すように笑う。
「七」
「五三みたいだな」と言おうとしたが、悪口を感知したオリヴィエが即座にパンチを繰り出した。
「っ!」
しかし、オリヴィエの渾身の一撃はガルーの掌に止められた。
「おらおら、行動開始だ。行くぞー!」
指と指の間にガルーの指を入れられ、世間で言うところの恋人つなぎでオリヴィエはずるずると引きずられていくが、そんな名称を知らないオリヴィエは新しい捕獲の技だと認識し、いつかやり返してやると心に決める。
「バルトさん、わたしのこと子供だと思ってるでしょ? 今夜はちゃんとれでぃーとしてエスコートしてくださいね!」
パートナーのバルトロメイ(aa1695hero001)に、セレティア・ピグマリオン(aa1695)は頬を膨らませている。
控え室で綺麗な黄色のロングドレスに着替えたセレティアは、会場の入り口にたどり着くまでの間、ドレスを汚さないように細心の注意を払っていた。
そのことがバルトロメイにもわかったため、バルトロメイも協力するつもりで、セレティアがよろめいたり、転びそうになる度に首根っこを掴んで支えていたのだが、どうやらそれを怒っているらしい。
「エスコートなんて俺に期待するな……それに、レディーもなにもないだろう……」
灰色の、着慣れないフォーマルスーツの着心地の悪さにげんなりしながら、バルトロメイは改めてセレティアを見る。
「なんですか?」と、セレティアの頬がさらに膨れる。
「馬子にも衣装と言いたげですね」
「いや……」と、バルトロメイはセレティアの推測を訂正する。
「小せぇなと思ってな」
バルトロメイの言葉にセレティアはさらに頬を膨らませて、頬袋ぱんぱんのリスみたいになる。
「だからふわふわのドレスがいいって言ったのに、ロングドレスにすれって言ったのはバルトさんじゃないですかー!」
セレティアの露出を極力抑えようと思った結果、華奢な体の華奢らしさを強調することとなった。
「真壁さん、佐倉さん、よろしくお願いするッスよ!」
シャドウストライプの入った紺のスーツを着た齶田 米衛門(aa1482)は、入り口前で久朗と樹を発見すると大きく手を振った。
「おー! シルミルテ、セラフィナ!」
ワインレッドのドレスを着たスノー ヴェイツ(aa1482hero001)も英雄仲間の二人を見つけて、ぶんぶんと手を振る。
「飴食え、飴! 今日はイチゴミルク味持ってきたぜ!」
スノーはセラフィナと大きなうさ耳の生えたシルクハット型のドレスハットをかぶったシルミルテの口に飴を放り込んだ。
「恋人のフリをしなきゃいけないとはいえ、本来の俺達の仕事は会場の警備だからな……何かあったら、頼むぞ。ヨネ」
久朗の言葉に米衛門はニカリと笑う。
「周辺警備、怠らないようにするッス!」
そして、「ところで……」と疑問を口にした。
「恋人のフリって何スかね?」
●
古賀 佐助(aa2087)とリア=サイレンス(aa2087hero001)は、覆面警備に入る前に前準備としてすでにひと仕事を終えてきていた。正当な入り口以外からの潜入を防ぐために窓や通気口、避難口等に罠を張ってきていたのだ。
「……恋人のフリ……どうするの?」
白い髪に純白のパーティードレスを着て、これまた純白のファーボレロを纏ったリアは、まるで天使のように純粋な眼差しを佐助に向けた。
「ま、とりあえずべったりくっついときゃいんじゃね?」
フォーマルスーツを着ていた佐助は、パーティー会場に入るとさっそくネクタイを緩めた。
「後は周囲の男女の真似とか」
佐助はH.O.P.E.から提供されたスマートフォンをいじると、控え室で無料チャットアプリのIDを交換したエージェント達でグループを作る。
佐助の言葉に「ん……わかった」と頷き、リアは佐助の腕に自分の華奢な腕を絡めて、その腕に頭を寄せた。
「!?」
リアの行動に思わず佐助はスマートフォンを落としそうになる。
動揺をもろに表に出してしまった佐助に、リアが「?」と視線を向ける。
一体、誰を真似てこうした行動に出たのかと周囲を見渡せば、パーティー客の誰も彼もがこうして寄り添いあっていた。
「……なにか違った?」
そう聞いたリアに、佐助は首を横に振る。
「いや。合ってるよ。大正解だ」
「礼服なんぞ来たのは久しぶりだな」
有馬の別荘に着いた晶は控え室で早々に着替え、サテン素材の青いドレスに着替えたアウローラを連れ立って会場へ入る。
「みなさま、聖なる夜にようこそお越しくださいました」
有馬の挨拶が始まる。
それを聞き流しながら、晶は会場内を見渡す。
「このドレスっていう服、可愛いんですけど、ちょっと動きにくいですねー」
アウローラはドレスのスカートをつまむと、ヒラヒラとした生地を見つめる。
晶は恰幅のいい男の派手な服に目を奪われる。
「おいおい、あっちのおっさん、どこの服だよ……えらく高そうだな」
「靴も踵が高くて、走り難そうですし」
今度は足元を見つめてアウローラはぼやいた。
「うーん、俺、浮いてないか……」
「なにより困るのは、このドレスのお腹周りの細さです……これじゃ、お腹いっぱい食べれません!」
「……お前は、いつも通り無邪気だな」
周囲と自分との格差が不安になった晶だったが、一番身近な存在が一番身近なままであることにほっとする。
有馬による乾杯の合図と共に会場中が沸き立った瞬間、飲み物を受け取ることができずにその場にへたり込んだのはセレティアだ。
「うう……乾杯……」
「……お前はいったい、何をやっているんだ」
壁際で仁王立ちをして会場全体を見渡していたバルトロメイだったが、会場全体を見渡しているからこそ、自分のパートナーの鈍臭さがよく目に止まり、いたたまれなくなってセレティアを回収しにきた。
「うう……バルトさん……」
涙目のセレティアに、バルトロメイはメンズコンパニオンからもらってきたジュースをセレティアに差し出した。
「っ!」
そして、ウーロン茶が入った自身のグラスを近づける。
「ほらよ……」
バルトロメイの優しさにセレティアは笑顔を取り戻し、グラスを合わせた。
「カンパイっ!」
やる気を取り戻したセレティアはすっくと立ち上がる。
「私はお料理を取ってきますね!」
「満腹になると判断が鈍る。俺は何も食わん」
「沼津さんが仰っていたことを忘れたんですか? あんまり構えてるとからかわれた時、ダメージ大きいですよ?」
セレティアの指摘に、バルトロメイはむむっと眉間に皺を寄せる。
「用心に越したことはねェ」
バルトロメイの言葉にも一理あるのだが、すでに料理の並ぶテーブルに向かって突進しているセレティアには聞こえていない。
「デザートを中心に攻めますよっ! 今日はお仕事なんですから、お菓子を食べたペナルティの腹筋はなしですよ!」
珍しく強気に出ているセレティアの背に、バルトロメイは呟いた。
「あいつ……菓子食うために昼飯抜いてたのか?」
「女の子がケーキバイキングとかのためにご飯を抜くなんて、よくあることよ」
いつの間にか横に来ていた捺美がそう口を挟んだ。
「そうなのか?」
「いつもの代わり映えしないご飯よりも、あま〜いお菓子達を食べたほうが幸せになれるに決まっているもの!」
力説しながら、捺美はチョコレートケーキをほおばる。
その捺美の隣で、ローストビーフをひと口食べたディフェクティオはバイザーに驚きから喜びに変わる顔文字を表示させる。
「こレ……おいしい」
「本当? ひと口ちょーだい!」
無邪気にあーんっと口を開いた捺美の口のなかに、ディフェクティオは一口大のローストビーフを入れる。
ローストビーフが口に入った途端、「ん〜〜〜!!」と、捺美は歓喜の声をあげた。
「おいし〜!」
「……そんなにか?」
バルトロメイの問いに、捺美は思いっきり頷いた。
そして、捺美はセレティアへ指を指す。
「セレティアちゃん助けるついでに、取ってきたら?」
あれだけ勢いよく、かつ強気に飛び出したセレティアだったが、招待客の波に押されて、まったく料理を取ることができていない。
「あいつ……」
バルトロメイはセレティアに呆れ、仕方ない態で料理の並んだテーブルへ向かう。
「あっちゃうめそうなものあったッス! くべさ!」
訳:あちらに美味しそうなものありましたよ! 食べましょう!
満面の笑顔の米衛門に、スノーは苦笑する。
「あいつ、はしゃいでんなぁ……にしても、マジ美味そうだな」
スノーもシルミルテとセラフィナを誘い、料理を取りに行く。
腕を組んで恋人同士のフリをしながら周囲を警戒していた久朗と樹は、お互いにお互いを遠慮なく眺めた。
「……馬子にも衣装だな。そこに詰め物はしないのか?」
樹はにこりと微笑んで、久朗の機械化されていない右側の腕をつねった。
「痛っ……お前の平すぎる胸のほうが周囲に不安を与えると悪いと思って、忠告してやったというのに……ぐっ」
樹は笑顔をさらに深め、体を密着させた状態でさり気なくヒールの踵で久朗の足を踏む。
そうしている間に米衛門が両手に料理を盛り合わせた皿を持って戻ってきた。
「真壁さん、顔青いッスよ? 大丈夫ッスか?」
「ああ。大丈夫だ……ちょっと、人に酔ってな」
「真壁さんでもそんなことあるんッスか!?」
「ぱーてぃーってスゲェッスなぁ……」と、米衛門は改めて周囲を見渡す。
「あげた、いっぺな人見たの初めてかもしんねぇッス!」
訳:こんなにいっぱいの人を見たのはじめてかもしれないです!
久朗は米衛門が渡してくれたフォークを受け取り、料理を食べる。
「この料理美味いな」
ロブスターの香草焼きをひと口食べ、久朗の口許が緩む。
「食うか?」
久朗と樹に料理とフォークを持ってきたわりに、自分の分をすっかり忘れ、なおかつ、樹のお皿を持たされたまま大人しく立っている真面目すぎる米衛門に久朗が聞くと、米衛門の表情がぱーっと明るくなる。
「いいんッスか!?」
米衛門に柴犬の尻尾が生え、目一杯振られている幻が見える気がして、久朗は笑ってしまう。
「ヨネが持ってきてくれたんだから、いいに決まってるだろ?」
フォークを渡すと、米衛門は美味しそうにロブスターをほおばった。
今時、同性の恋人同士もそう珍しいことではない。しかし、まだまだ目をひいてしまう存在であるらしい。
有馬の教育が行き届いているのか、受付係はガルーとオリヴィエのペアにさして気を止めることもなく、招待状だけを確認してなかへ通してくれた。
しかし、一般の招待客達はソファーに座って寄り添う彼らが気になって仕方ないようだ。
「……俺達、なんかおかしいか?」
「いんや。おかしくねぇよ」
この状況を完全に面白がっているガルーは、周囲の視線があることがわかっていながら、見せつけるようにオリヴィエの肩を抱き寄せてその耳にキスをした。
「……それは、なんのまねだ?」
「そりゃもちろん、恋人のフリだよ」
無表情のまま尋ねるオリヴィエに、ガルーはその耳に口を寄せたまま答える。
リュカが動いたのに気付き、オリヴィエはソファーから立ち上がる。
「行くぞ」
颯爽と歩きだしたオリヴィエの後をガルーが追っていくと、彼らを見つめていた人々はひそひそと話しあった。
「小さい子が誑かされているのかと思ったけど……」
「どうやら、年長者の彼のほうがあの子にぞっこんみたいね」
誤解が広まったことをガルーやオリヴィエが知ることはなく、その誤解を解く術もない。
●
「この度は、お招きいただきまして、ありがとうございます」
一通りの挨拶を受け、控え室に引こうとしていた有馬は、聞き慣れない声に視線を向けた。
見慣れない若い青年と少女の姿に、有馬は脳内で膨大な知り合いのリストと照らし合わせる。しかし、二人の姿はリストには載っていない。
ゆえに、彼らの正体が容易にわかる。
「花婿と可愛い花嫁さんかな?」
「本日はご招待いただき、ありがとうございます」
征四郎がスカートをつまみ、可愛くお辞儀する。
「予想外に派手になってしまった装いはお許しください。相棒の愛情が深かったゆえ」
「相棒というのは、この可愛いお嬢さんではなく?」
「ええ」と、リュカは自分の後ろで隙なく会場を見渡すオリヴィエの気配をたどり、視線を送る。
「目がお悪いようだが、見えるのですか?」
「いえ。これも愛の為せるワザってやつですかね」
相棒の気配なら、どんなに離れていてもすぐにわかる。リュカの返答に有馬は機嫌良く笑う。
「君は、なかなか面白い男のようですね」
「沼津様から、貴方がたいそう『面白い物好き』だとお聞きしています」
有馬は笑顔を崩さない。
「能力者と英雄の間には、必ず守るべき誓約があることをご存知ですか? 俺と彼の誓約は、『世界の意味を、物語を見つけにいこう』というものです」
「ほお……」と関心を示した有馬は言葉を続ける。
「世界の意味とは……また、不確かで無意味なものに興味を持つとは、やはり君は面白いですね」
「無意味ですか?」
「実際に世界に意味があるかどうかなどということは私にはわかりません。けれど、意味があるのなら、それは堂々と万民の目に見えるべきだと思いませんか? 誰にも知られることのない意味など、ないも同じです」
「なるほど……」と相槌を打ちながら、リュカは「けれど」と言葉を続けた。
「その意味が見えないのが、貴方だけなら、どうしますか?」
予想外に真っ正面から喧嘩を売ったリュカに征四郎は驚いて、リュカの横顔を見る。
その場に緊張感が漂うことを覚悟したが、有馬はふっと笑った。
「気に入りました。君達、名前は?」
「リュカです。相棒の名前はオリヴィエ」
リュカに視線を向けられ、征四郎も名乗る。
「紫 征四郎。相棒はガルーです」
「すこし早いですが、お二人にお年玉を用意させましょう」
有馬が控え室に戻るのを征四郎とリュカは見送る。
「アンタ、すげーな! あの有馬克也に気に入られるなんて!」
リュカに話しかけてきた青年に目をやり、征四郎とオリヴィエ、ガルーは驚いた。
彼は赤いトカゲのチョーカーを首に巻いていた。
「バルトさん、今日は恋人同士なんですから、腕を組んでください」
セレティアとバルトロメイは、暖房と興奮でほてった体を外気で冷ますために中庭へ出てきた。
「すごく綺麗ですね」
冬の花園に花はないけれど、クリスマスパーティーのためにイルミネーションが施され、幻想的な世界を作り上げていた。
そのため、雪の降りそうな寒さにも関わらず、テラスやベンチで寄り添う招待客も多い。
セレティアとバルトロメイが恋人同士のように寄り添って歩いていると、久朗と米衛門に会った。
「お二人も涼みに来たのですか?」
「そうッス!」
米衛門は人懐っこい笑顔を見せた。
「あの気持ち悪い事件以来だな」
「そうですね」
久朗の言葉にセレティアは頷く。
「保育園の子供達は元気にしてるんだろうか」
「あの後も時々遊びに行っているんですが、とても元気ですよ」
「そうか……金色のゾウとかピンクのキリンとか、あそこの名物になるかもしれないな」
庭を歩きながら談笑していると、米衛門とバルトロメイが急に足を止めた。
「どうした? 二人とも」
「真壁さん、あの人……」
米衛門が指差したほうを見ると、庭の真ん中に作られた大きなクリスマスツリーを見上げる数人の招待客がいた。
そして、そのなかのひとり……女性の手首に、赤いトカゲのブレスレットを見つける。
「晶さん! あれもおいしそうですよー!!」
パーティーがはじまってからずっと食べ続けているアウローラは、新しい料理が提供される度に晶の腕に腕を絡めて引っ張る。
「おいおい、一応警備だってのを忘れるなよ」
「わかってますよー! 赤いトカゲですよね!」
本当にわかっているのか? という疑問もあるが……
「ま、色々きょろきょろして、目が四つある状態だから悪くないかもな」
晶の腕を引っ張ってアウローラが料理を取りに行くと、そこに佐助とリアがいた。
「リアちゃん、これとかも美味しいぜ? あーん」
佐助に言われるまま、リアは口を開く。
「……ん。美味しい」
まるで本物の恋人同士のように見える二人。
「……甘々な恋人っぷりだな」
「そちらも」と、佐助は微笑む。
そこに、パーティー開始時に晶が見ていた派手な服の男が皿を持ってやってきた。
無神経な男がリアとアウローラの間に割り込もうとしたため、佐助はリアの細い体を慌てて引き寄せる。
「リアちゃん、こっち……」
抱きしめるような形になり、気づけば、リアの顔がやけに近い。
「ごめん」と、佐助は体を離そうとしたが、それよりも先にリアが佐助の頬にキスをした。
「……」
予想外のことに呆然としてリアを見ると、リアは小首を傾げた。
「……他の人の真似」
リアは先ほどのように、佐助が「大正解」と言うのを待っている。
しかし、佐助がなにか言う前に、「割り込んでしまって、ごめんなさいね」と、男性の後ろについてきていた婦人が謝ってくれた。
冷静さを取り戻した佐助が「いえ」と答えながら、婦人の手を見た瞬間、佐助と晶に緊張が走る。
婦人の指には、赤いトカゲの指輪が光っていた。
「あー!」と、指輪に気づいたアウローラが開けた大きな口を晶は慌てておさえる。
「……珍しいもん付けてますね」
佐助は平静を装って、にこりと微笑む。
「素敵でしょう?」
指輪に注目されたのが嬉しいのか、婦人は機嫌良く微笑んだ。
「ええ。とっても……それ、どこで買ったんすか?」
赤いトカゲのチョーカーの青年がリュカに話しかけた瞬間、オリヴィエは反射的にジャケットに隠してあるホルスターへ手を伸ばした。
そのオリヴィエの肩に触れ、ガルーはオリヴィエを止める。
「いいチョーカーしてんな」
ガルーがそう言うと、青年は自慢げに笑った。
「これ、手に入れんの結構大変だったんだよ」
「……どういう意味ですか?」
征四郎が聞く。
「俺達の間じゃ、いま、流行ってんだ。赤いトカゲを身につけてると、はやく事業が成功するって」
青年はべらべらとよく喋る。
「有馬克也がここまで大成したのも赤いトカゲのおかげだっていう噂で、話のネタにもなるかと思ってつけてきたんだ」
青年が身につける赤いトカゲが見えずとも、リュカは話の流れから状況を飲み込んだ。
「なるほど……沼津さんの推測は正解だったってことか」
赤いトカゲのアクセサリーをつけた人物を複数名発見。
彼らは有馬克也の成功にあやかろうと、赤いトカゲを身につけている。
おそらく、赤いトカゲが有馬克也を成功に導いたという噂を流したのも、有馬本人だろう。
赤いトカゲを見つけたエージェント達は無料チャットアプリで情報を共有すると、有馬に向けて、彼が満足できるであろう最高の演出を仕掛ける。
●
「音楽がかかっているんだから、踊らないなんてもったいないじゃない!」
捺美はディフェクティオとワルツを踊っていた。
決して上手い踊りではなかったけれど、楽しそうに踊る二人の様子は、周囲の人々も笑顔にしていた。
「捺美は踊りが上手なのですね!」
リュカと一緒にワルツを踊りはじめた征四郎が捺美に声をかけた。
「私も踊り詳しいわけじゃないけど、楽しんだ者勝ちだよ!」
捺美にそう言われ、征四郎も「そうですね」と頷く。
「みんなと一緒なら、きっと楽しくできるはずです」
「そうだね」
久朗と踊る樹も征四郎に頷く。
「ところで……二人のそれって……」
捺美は征四郎が首につけるチョーカーと、樹の手首につけられたブレスレットを見る。
「ちょっとね……綺麗なお姉さんから借りたの」
「征四郎は若い男性から借りたのです」
赤いトカゲが、エージェント達のワルツに合わせてゆらゆらと踊る。
会場に戻ってきた有馬は、楽しそうなトカゲとエージェント達を見て笑った。
「あれでは、どちらが掌で踊らされているのかわかりませんね」
征四郎達が踊っている間、ガルーはオリヴィエに料理を食べさせるという新たな楽しみを見つけていた。
「オリヴィエ、美味しいか?」
ガルーが一口大のローストターキーをオリヴィエの口許へ持っていくと、オリヴィエは大人しく口を開く。
お返しにローストターキーがオリヴィエからガルーの口へ入れられると、ガルーはオリヴィエの額にキスをした。
「愛してるぜ、俺のオリヴィエ……」なんて、甘い言葉を囁いてみても、オリヴィエは動じずに、黙々と恋人らしい作業を進める。
「……そろそろ、笑いを堪えるのも限界なんだけど」
オリヴィエが見せる無表情と、二人を遠巻きに見守る人間達の赤面とのギャップがおかしくて、ガルーは口許をおさえ、涙目になる。
「なにを泣いている?」
「いや、別に、泣いてるわけじゃ……」
次の瞬間、ガルーは驚くことになる。
オリヴィエがそっと、驚くほどに優しく、ガルーの瞼へキスをした。
「……へ?」
「?……なんか違ったか? 恋人のフリ」
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結果
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