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冒険

英国産、華麗なる幽霊屋敷

有原明来

形態
ショート
難易度
普通
参加費
1,000
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/12/04 07:30
完成予定
2015/12/13 07:30

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オープニング


 目の前でバン、と乱暴にドアが開いた。
「なんだね、君たちは?」
 出てきたのは、小太りな男だ。身なりはいいが、睨む視線に品はない。男は、おお、といかにも小馬鹿にした声をあげ、能力者たちを指差した。
「君たちさてはリンカー、とかいう連中だな? 当家に一体何の用かね。化け物と戦うしか能のない非生産的な連中に、用などないぞ!」
 一方的にまくしたてると、男は割り込むようにして強引に外にでた。家の前に止めてあった高級車に向かう。
「じゃあね、モリー! 閉館の準備を進めておくんだよ!」
 男が振り返ってそう叫んだことで、能力者たちは家の中に少女が立っていることに気づいた。
 シンプルな青いワンピース。ゆるく波打つ金の髪、緑の瞳。
 少女は呆気にとられたように能力者たちを見つめ、それから
「ようこそ」
 と、労りと喜びにあふれる声で言った。


 少女は、モリー・シェパードと名乗った。
 爵位をもつ、本物の英国貴族。現当主は彼女の祖母であり、能力者たちが訪れた家とは別に、目の前に聳える巨大な屋敷を所有しているという。
「過去には、シェパード家の家人が多くの使用人とともに住んでいました」
 映画や小説に登場する、「屋敷」そのものだった。
 噴水がある前庭。青空に映える緑の芝生に石畳の道が伸び、白亜の外壁をもつ巨大な屋敷へ続いている。
 楽しげな観光客や、憩いを求めてきた近所の家族連れがいなければ、時間が数世紀前で止まっていると勘違いしまいそうだ。
「かつて英国の貴族が建築した、カントリー・ハウスと呼ばれる建物です。現在は、観光用に開放しています。皆さま、どうぞ中へ」
 内部は、華麗の一言に尽きた。
 広い玄関ホール。奥に、階段が円を描いて二階へ伸びている。天井には豪奢なシャンデリア。
「屋敷は3階建てです。来賓用の空間である、1階から案内しますね」
 ホールを抜けると、舞踏会にふさわしい広間が現れた。その続きに、100人同時に食事がとれそうな豪奢な食堂。
「厨房はこちらに。使用人の空間は、来賓の目に触れないよう分けられていたのです。出入り口も分かりにくくしていたそうですわ」
 ドアの先は、いかにも裏方という空間だった。華やかさは無く薄暗いが、どの部屋もいかにも機能的だった。数百人の食事を同時に作れそうな厨房、銀器を保管する食器室、奥に洗濯室とアイロン部屋。地下には、食料保管庫とワインセラー。
「2階は、家族の私室と生活空間です。こちらの食堂室で、普段の家族の食事を。くつろぎは居間で。3時のお茶は、ティールームでとることが多かったようです」
 部屋には、それぞれ家族の誰が使っていたのかがわかるような工夫が施されていた。子供部屋にはおもちゃ、年頃の娘の部屋にはドレスが展示され、夫人の部屋には化粧品が並んでいる。
 書斎だけが、異様だった。床も壁も冷たい石造りで、本でいっぱいの本棚も、書類が山と置かれたデスクも、無骨で簡素だ。壁に、顎髭の男性の肖像画。
「19世紀後半の当主、スティーヴ・シェパードの肖像画です。厳しい性格ですが、貧者に慈悲深く、とても敬愛されたそうです。この書斎も、貧しい人々に少しでも気持ちを近づけるために造られたとか」
 モリーは、一同を展示スペースも兼ねた廊下に案内した。肖像画の一つに、先ほどの男性が描かれている。家族に囲まれ、表情は柔らかい。
「一番右端、末に生まれたマリーは、8歳で肺炎のため天に召されました。スティーヴはおおいに悲しみ、土地の子どもたちに援助を行うようになったのです。ああ、丁度始まりましたわ」
 裏の庭園で、子供たちによるコーラスが始まっていた。観光客が集まり、歌声に聞きほれている。
「当家が援助している孤児院の子供たちです。イベントを行ってくれたり、清掃のボランティアに来てくれたりと助けられています。でも……」
 モリーは、切なげに外を見つめた。風景式庭園のあちこちで、多くの人が寛いでいる。
「援助は、もうできなくなりました。この屋敷も、閉園しなくてはならないのです」
 能力者たちは、驚いてモリーに理由を問うた。
「祖母がHOPEに出した依頼に、そのことが繋がっているのです。でも、実は」
 重い空気が、予期せぬ悪いことが起きたのだと知らせていた。


 当家の屋敷を、能力者の力を使い、幽霊屋敷に見せかけてほしい。それが、依頼の内容だった。
 家に戻り、紅茶で能力者たちをもてなしながら、モリーは理由を話し出した。
「先ほど出て行ったのは大叔父……祖母の弟です。昔あの屋敷で何か怖い目にあったそうで、幽霊の類が大の苦手なのです。祖母は、昔から能力者の方々の大ファンで、すごい力で幽霊のフリもできる、正義の味方だからきっと助けてくれると言って、今回の依頼を出しました。すべては、大叔父をあの屋敷に近付けないために」
 モリーの顔に、寂しげな笑みが浮かぶ。
「大叔父は、山師というのでしょうか。事業に手をだしては失敗して、少なくない借金を抱えているのです。一族が代々守ってきた財産も、残すはこの家と、先ほどの屋敷のみになりました」
 HOPEに依頼をだして、すぐ後。ほんの二日前に、モリーの祖母は卒中で倒れた。
「命は助かりましたが、意識がまだ戻らなくて。大叔父は、祖母がもう死んだみたいに、屋敷の経営は今後自分がする、と……。改装してカジノにしたほうが儲かると言いだしたのです。情のない方ではないのですが、お金のこととなると強引になって」
 話しているうちに、現実が重くのしかかってきたのだろう。両親は既に亡くし、育てられた祖母も倒れ、唯一の血縁者は強引な大叔父のみ。背後に控えた使用人が、気遣わしげな視線を送っている。
「私、気長に大叔父を説得してみるつもりです。孤児院への援助も、どうか続けて欲しいと」
 長話をしてしまいました、とモリーは気丈に微笑んだ。
「ご足労いただいたのに申し訳ありません。依頼主の祖母がいなくては依頼にならないのでしょう? HOPEには私から連絡を……え?」
 能力者たちの一人が告げる。
「でも」
 モリーの表情に、戸惑いが浮かんだ。
 もう一つ。続いて一つ。重ねるように、あたたかい言葉が、少女にかけられる。
 揺れる瞳から、ほろりと涙がこぼれ落ちた。
ずっと悲しみと寂しさで張り詰めていたのだろう。涙はあふれると、止めようがなかった。一通り涙を流してから、モリーは小さく「ごめんなさい」と言った。それから、「ありがとう」と。
「……本当は、諦めたくないのです。死んだ両親も、祖母も大切にしてきた屋敷ですから……。祖母の代わりに、私が依頼いたします。どうか、大叔父をあの屋敷を遠ざけていただけませんか。当家の屋敷を、」
 幽霊屋敷にして下さい。

解説

【目的】依頼主の親類を、一族が所有する屋敷が遠ざけること

【目的詳細】
依頼主モリーの大叔父は、自身の借金返済のために、一族が受け継いできた屋敷を強引に我が物にしようとしています。
強欲ですが悪人ではないため、モリーは大叔父を憎んではいません。
家族の間に遺恨を残さないよう、大嫌いな幽霊が屋敷にいるようにみせかけて、彼を屋敷から遠ざけて下さい。
【関係者】
●モリー
17歳。屋敷の所有者の孫娘。両親は既に他界。
●マリオン
66歳。モリーの祖母で現当主。能力者の熱狂的なファン。脳卒中で倒れ、現在意識不明。
●ダグラス
63歳。依頼のターゲット。モリーの大叔父。強引で金にがめついが、小心者で家族には愛情深い一面も。
過去に屋敷で怖い目にあった(※詳細は不明)経験があり、心霊系が大嫌い。長年屋敷に近付いていなかったが、一族の所有財産が残り少なくなり、とうとう屋敷に手を伸ばした。
【舞台】
●シェパード家の所有する屋敷
●1階は来賓のもてなし階、2階は家族の場所、3階は使用人の生活空間
●屋敷の「表」と「裏」…
上流階級のための表の空間と、使用人が生活する裏の空間は、ばっさり分けられています。双方を出入りする扉はあちこち目立たない場所にあり、今回の依頼では、驚かせたい相手に見つからないよう移動するのに最適です。
●水道・電気・ガスは、全て使用可能
【決行予定日】
オープニングから5日後の定期閉館日。
ダグラスが、業者(法律家・古美術商・内装業者の3名だが、いずれもダグラスを陰で操る悪徳業者であり、後々金を奪ってトンズラするつもり)を連れて屋敷内を見て回る日を狙って決行。
【協力体制】
事情を聞いたHOPEが、「要る物があるなら世界中から調達する」「経費で落とす。資金面心配なし」と太鼓判を押した。
人手が必要な場合は、シェパード家を慕う周囲の住人が喜び勇んで協力してくれる。

マスターより

読んでいただき、ありがとうございます。有原明来と申します。
ホラーネタは、驚くのもいいですが、驚かせるのもいいんじゃないかな?と思ってやってみました。
『注文の多い料理店』の注文する側になった気持ちで、ムシャムシャモグモグしてあげて下さい。
ちなみにこれを書いている奴めは、超ド級の怖がりです。
あまりに恐ろしいアイデアをいただくと、何も書けなくなる恐れがあります。
本当です。先日も夢の中で背中にムカデが……あっそれホラー関係なかった……。

リプレイ公開中 納品日時 2015/12/10 21:44

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 肉汁は爆発の策士
    立花=トルヴェールaa0189
    人間|20才|?|回避
  • エージェント
    ヤナギaa0189hero001
    英雄|22才|男性|ソフィ
  • エージェント
    二階堂 環aa0441
    人間|20才|男性|防御
  • エージェント
    リュシアン・クストーaa0441hero001
    英雄|12才|男性|バト
  • LinkBrave
    シエロ レミプリクaa0575
    機械|17才|女性|生命
  • きみをえらぶ
    ナト アマタaa0575hero001
    英雄|8才|?|ジャ
  • エージェント
    ポム・プリゾニエールaa0576
    人間|15才|男性|攻撃
  • エージェント
    リモンチェッロaa0576hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • シャーウッドのスナイパー
    ゼノビア オルコットaa0626
    人間|19才|女性|命中
  • 妙策の兵
    レティシア ブランシェaa0626hero001
    英雄|27才|男性|ジャ
  • 危険人物
    メイナードaa0655
    機械|46才|男性|防御
  • 筋肉好きだヨ!
    Alice:IDEAaa0655hero001
    英雄|9才|女性|ブレ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ

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