本部

紅葉の君

紅玉

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/12/15 19:20

掲示板

オープニング

●出会い
 紅葉の季節が終わり、山は木の枝で出来た巨大な剣山の様になっていた。
「本格的に寒くなる前に、資料用の写真を撮りに行くか」
 一眼レフが付いているカメラを大切そうに持って男は、紅葉シーズンでは賑わっていたであろう長野にある並木道へと向かった。
「うん、いい景色だ」
 山へ沈む夕日が枯れ木の間から光が差す。
 ふと、男は並木道に目をやるとそこには……未だに鮮やかな赤い色をした紅葉の木を見つけた。
 美しい、と男は心の底から思った。
「素晴らしい」
 その紅葉に魅入られた男は、木に近づき優しく触れた。
 さらり
 男は驚いた、何故ならば木の表面は絹のように滑らかな肌触りだからだ。
「誰?」
 鈴の音が転がるような少女の声がした。
「……っ!」
 男は息を呑んだ。
 少女は紅葉のように赤い目と髪に、病気的に白い肌に紅葉柄の着物を着ていた。
「私に何か?」
 小さく首を傾げる紅葉の少女に魅入られた男は、頬に手を当ててゆっくりと撫でた。
「あぁ、美しい……君が、君が、欲しい!」
 焦点の合ってない目で男は少女を見つめる。
「ならば、ずっといましょ?そうしたら、私はアナタのもの……」
 少女は男の耳元で囁いた。
「いる!あぁ!ずっといるとも!」
 男は嬉々とした声で答えた。
「嬉しいわ……二人の世界へ……」
 少女とは思えない力で男を抱きしめ、赤々と光る紅葉の木の中へと沈んでいった。

●H.O.P.E.会議室
「皆さん、揃いましたね」
 事務の女性はアナタ達を見つめた。
「今回の任務は、行方不明になったカメラマンの男性です」
 アナタ達に男性の写真付きの資料が手渡された。
「昨日から『少し、写真を撮りにいってくる』と言って出て行ったが、3日間も連絡が取れない状態だそうです」
 女性は別の資料を配った。
「その男性が向かった山で最近、奇妙な遺体が見つかっているのよ。紅葉の木の下にミイラ化した男性の遺体がね」
 女性はため息をついた。
「もしかしたら、彼も同じ目にあっている可能性があるわ。生きているかは不明だけれども、行方不明の男性を探してミイラ化事件の犯人を見つけ次第倒してね。期待しているわよ」

解説

●人物
事務の女性:【ティリア・マーティス】29歳独身

行方不明の男性:【鈴木 勇】35歳既婚

●目標
 行方不明の男の捜索。デクリオ級『紅葉』と従魔の討伐

●登場
デクリオ級『紅葉』
 蝋のように白い肌をした少女。爪が唯一の武器。
 落ち着いて人と会話が可能。
 魔法撃力が高め。接近戦は苦手。
・魅了の眼差し
 近距離で見つめられると3分間魅了状態になる。
・吸生
 魅了した相手の体力を徐々に奪う。
・紅葉の舞い
 紅葉の葉を飛ばして攻撃する。(3~5mしか飛ばせない)

ミーレス級従魔『エント』1体
 紅葉の指揮下にある従魔。開始時は紅葉の付近にいる。
 身体が木。4mほどの大きさがある。
 やや凶暴。知性は蟲並み。
 物理攻撃力とスピードは優れるが、火に弱い。
 木の枝で捕縛やムチにして攻撃する。

一般人
 オフシーズンなのでほとんどいません。

●状況
 山沿いの並木道。やや狭い。
 時間帯は夕方。晴れ。

リプレイ

●事件
「あら? またあの女性事務員の管理なのね」
 前の依頼で話をした事があるエステル バルヴィノヴァ(aa1165)はティリアを青い瞳で見つめた。
「今回の内容にはおかしな所は無いですね……個人的には要観察ですが」
 泥眼(aa1165hero001)は桃色の髪を揺らし紫色の瞳でティリアを見た。
「行方不明とは情けない」
 坂野 上太(aa0398)は黒い瞳の視線を下に向けて小さくため息を吐いた。
 行方不明になった男性の帰りを待っている家族のために見つけ出したい、と上太は思った。
「何らかの事件に巻き込まれた、か。十中八九従魔絡みなのだろうが……」
 テリィアから話を聞いた真壁 久朗(aa0032)は呟いた。
「お腹を空かせてしまっているのではないでしょうか……早く見つけないとですね!」
 銀色の三つ網の髪を揺らしながらセラフィナ(aa0032hero001)は力強く言った。
「ティリア」
「はい、何でしょうか?真壁様」
「詳しい事件の内容を聞きたいんだ」
「はい、少々お待ち下さいませ。え、えーと……」
 ティリアは分厚いファイルを開いた。
「最初の犠牲者は登山客のカップルですね。丁度オフシーズンなので遺体の発見は遅かったそうですわ」
「見つかったミイラが発見されたのはどの辺りかの?」
 ファイルを見つめているティリアに酉島 野乃(aa1163hero001)は狐の様な青い耳を動かしながら問う。
「えっと、全て山沿いにある並木道で発見されたようですわ」
 ティリアは遺体が見つかった場所が記されている地図を見せた。
「遺体が見つかった場所を通れば会えそうだよな」
 三ッ也 槻右(aa1163)は黒い瞳で地図を見ながら呟いた。
「あ、マーティスさん、メモに書いてあるモノは貸出をお願いします」
 槻右はティリアにメモを渡した。
「分かりましたわ」
 ティリアは笑顔で頷くと直ぐに携帯で電話をした。

「ティリア、言われたモノを用意したよ」
 数分後、男性の事務員が小さめのダンボール箱を持って会議室に入ってきた。
「ありがとうございますわ。三ッ也様どうぞ」
 ティリアは槻右に小さめのダンボール箱を渡した。
「ありがとうございます」
 槻右は他の5人にイヤホンと懐中電灯を配った。 
 準備は整った6人のエージェントは会議室から出て行く中、エステルは振り向きティリアの元へ駆け寄った。
「マーティスさん、前の依頼で疑ってすみませんでした」
 エステルはティリアに頭を下げ、ケーキの入った小さな箱を渡す。
「まぁ、ありがとうございます。気にしなくて良いのに……人は失敗する生き物ですわ。でも、エステル様の気持ちはありがたく頂きますわね」
 エステルを見てティリアは微笑んだ。
「それと、どうしたら男性は助けられると思いますか?」
「現場確認しに行った方曰く『数日以内であれば助けれる見込みはある』とおっしゃっていましたわ」
「分かりました。必ず男性を連れて帰ってみせます」
 不安そうな表情のティリアにエステルは笑顔で言って会議室から出て行った。
「私は何も出来ませんが、皆さんの無事を本部で祈っておりますわ……」
 会議室で一人になったティリアは小さく呟きながら心の中で祈った。

●紅葉の孤独
 遺体が発見された並木道を槻右はピンマイクを付けて一人で歩いていた。
 山々は夕日に照らされて赤く染まってまるで紅葉しているようだった。
 相手は愚神かもしれないので、エージェントとは気付かれないようにリンクはせず英雄の野乃は幻想蝶の中で待機させた。
 携帯で山の地図を表示し、GPSで自分の位置と遺体が発見された位置を思い出しながら並木道を見回しながら進む。
 他のエージェントは、槻右の後ろから慎重に尾行をしている。
「人の生死が掛かった状況な手前……ふざけてばかりもいられねぇな。救える命がそこにあるなら、救う。……仮に、救えない命がそこにあったのなら、せめて弔う。医者の卵なりの、譲れねー矜持だ」
 藤堂 恭一(aa2165)は、槻右の背中に視線を向けたままそっと拳を握り締めた。
「我は、ただ一振りの剣。故に、戦うことに意味は求めん。……障害となるならば、討つだけだ」
 淡々とダーインスレイヴ(aa2165hero001)は言った。

『だ……れ?』
 ややノイズが混ざっているが、イヤホンから鈴の音を転がした様な幼い少女の声が聞こえた。
 エステルは素早く周囲を見回すと、枯れ木が並ぶ並木道に一本だけ鮮やかな紅葉した木を見つけた。
 その紅葉した木の下には紅葉柄の着物を着た少女が立っていた。
「君……こんな所でひとり?」
 槻右は少女に問う。
「いいえ、カエデの木が一緒……」
 少女は首を横に振り、紅葉しているカエデの木にそっと手を置いた。
「そうなんだ、君の名前は?」
 少し頬を赤らめた槻右は少女から視線を反らした。
「紅葉……」
 紅葉は囁くように名前を言った。
「尊敬している先輩が、ここで行方不明になって……探しに来たんだ」
「セン、パイ……?」
 紅葉は首を傾げた。
「でも驚いたな……君みたいな綺麗な子が一人だと危ないよ? ここら辺物騒だし」
「平気、この子が居るから」
 紅葉がそう言うと地響きがしたかと思えば、目の前のカエデの木が立ち上がった。
「私の可愛いペット」
 全長4mもあるであろうカエデの木に紅葉は抱きついた。
「あ、あの!君のことが……好きだ。でも、先輩を見つけるまで帰れない……」
 紅葉の小さな手を取って槻右はため息を吐いた。
「そうだ、先輩をここらへんで見なかった? 心当たりでいいん 何か知らない?」
 槻右は鈴木の写真を紅葉に見せた。
「奪う、の?」
 紅葉は声を震わせながら言った。
「先輩を知っているのですか?」
「その人を……私から奪うの?」
 紅葉の瞳から光が無くなる。
「返してくれるなら、俺が代わりにいてあげます」
 槻右は、先ほどとは雰囲気が変わった紅葉を抱きしめて言った。
「ほんと?」
「うん、本当」
 紅葉がその言葉にほほ笑んだ。
 緋色の瞳が怪しく光り、槻右は「あぁ、なんて奇麗な瞳なんだろう」と食い入るように紅葉の瞳を見つめた。
「私、の」
 紅葉は、魅入られていく槻右の体に細い腕を回した。
 後ろでカエデの木は不満そうに葉を揺らした。
「ウォォォォォン」
 木、いやエントは咆哮を山に響かせた。
「古いの、捨てて」
 紅葉の言葉を聞いてエントは木の中から男性を出し、崖の方へ放り投げた。
(くそっ!)
 崖へ放り投げだされた男性を見て恭一は走り出した。
 男性を掴もうと伸ばした手は空を掴み、男性は崖の下へ落ちていった。
 恭一に気が付いたエントは咆哮を響かせながら走ってきた。

 紅葉が去った後、幻想蝶から出た野乃は派手な打音を響かせた。
「はっ!」
 頬の痛みで槻右の目に光が戻った。
「やばいの、笑えるのっ! おぬしが女性を口説く? 喜劇じゃ!」
 お腹を抱えながら笑う野乃。
「う…煩いな」
 殴られた部分を抑えながら槻右は小声で言った。
「あ、鈴木さんは!?」
 はっとした表情で槻右は周囲を見渡す。
「崖に落とされたの。じゃが、直ぐに他の者が手当をしているようじゃ」
 崖の下ではエステルが鈴木に手当てをしていた。
「大丈夫ですか?」
 エステルは鈴木の頬を軽く叩いた。
「う、うぅ……ん」
 鈴木は小さく呻き声を上げた。
「枯葉がクッションになって軽い打撲を受けた程度ですね。木の枝で傷がある……治しましょう」
 エステルはケアレイで鈴木の傷を癒した。
「あとは、皆さんに連絡をした方が良いわよね」
 おっとりとした口調で泥眼はエステルに言った。
「うん」
 エステルは頷き、行方不明の男性が無事だという事を他のエージェント達に連絡した。

 紅葉の頬を何かが掠める。
 白い頬に血が頬を伝う。
「なるほど、綺麗な顔してやる事はやってるって訳か……。少女の姿をしてるとはいえ、やはり愚神だな……。とはいえ……俺個人にとっても、こいつは格好の獲物だ」
 ヴィント・ロストハート(aa0473)は抑えていた殺意と破壊衝動を紅葉に向けた。
「ぁー……ヴィントはまた例のアレが発症したみたいですね……。まぁ、相手が相手ですから仕方ないといえば仕方ないですが……。しかしながら、彼女をこれ以上放っておくのは危険ですね。落ちた方の安否もきになりますし……」
 美しい白の髪を風に靡かせるナハト・ロストハート(aa0473hero001)は、小さくため息を吐き赤い瞳でヴィントを横目で見た。
「人の子にも……いや、人の子だからこそ……そんな殺意と破壊衝動を出せる」
 紅葉はヴィントを見て微笑んだ。
「それに、綺麗なものは散り際が一番輝くって言うしな……。だから……華々しく散り落ちてもらうぞ“子猫ちゃん”」
 口元を吊り上げヴィントは獲物である紅葉を見た。
「私、子猫じゃない」
 紅葉は小さく首を横に振った。
「俺を魅せたければ、己の命を散らす事で魅せてみろ……。その為に十全の殺意と愛情を以って……完膚なきまでに壊してやろう」
「……とりあえず、近付かせない」
 いつの間にか紅葉の頬の傷が治っており、彼女の周囲には赤、黄などの色鮮やかな葉が舞う。
「良い声で鳴いてくれよな!」
 ライオンハートを握りしめたヴィントは叫んだ。
「狂え、人の子」
 紅葉は槻右をその場に置き、ヴィントに向かって走り出した。
 目を見たら魅了されるのは囮役の槻右を見て分かったが、目を合わせないように久朗は視線を泳がせる。
(どこを見ろと……)
 「顔以外を見る」と、なると久朗は自然と紅葉の体に視線が向く。
(クロさん女性の体をまじまじと見たら失礼ですよ……!)
 そんなセラフィナは久朗に言った。
(そ、そんな話は後にするぞ)
 久朗は首を横に振り、ライオットシールドを握りしめた。
「一人、増えても同じね」
 紅葉の周りで舞う葉が勢いを増した。
 ヴィントは近付きライオンハートを横に振るうが、斬った感触がしなかった。
 木の葉で守られている紅葉に傷一つ付けられない。
「近接が無理そうなら遠距離だな」
 久朗がコンパウンドクロスボウの先を紅葉に向ける。
「少女の姿で惑わす敵はたくさんいた……それに女性からの誘惑に乗った事はない!」
「なんだか凄い誤解を招きそうな気がします!」
 久朗の言葉にセラフィナは声を上げた。
 久朗はコンパウンドクロスボウの引き金を引き、紅葉に向かって矢が発射された。
「きゃっ!」
 矢は紅葉の脚に刺さった。
 その隙にヴィントはオーガドライブを発動し、矢を抜こうとしている紅葉に向かって横一閃で両足を切断した。
「……くっ!」
 脚を無くしバランスを崩した紅葉は後ろに倒れた。
 紅葉の周りには先ほどまで舞っていた木の葉が
「これで逃げれないな……“子猫ちゃん”」
 口元を吊り上げてヴィントは倒れた紅葉を見下ろした。
 ヴィントは紅葉を抱き寄せた。
「逃がさない」
 ヴィントは紅葉と目が合ってしまった。
 紅葉が痛みで気絶したフリをしていたのを気付かずに、ヴィントは抱き寄せてしまったのだ。
「なかなかの趣味の持ち主ね」
(これが目的だったか……!)
 ヴィントが気付いた時には魅了されていた。
 しかし、紅葉の胸はライオンハートで深々と突き刺された。
「な、ぜ……?」
 口の端から血を流しながら紅葉は目を見開いた。
「俺を忘れてもらってもな」
 魅了されたヴィントにクリアレイで解いた久朗は不満げに鼻を鳴らした。
 紅葉は遠くを見つめた瞬間、体は赤い紅葉を散らして消えた。
 久朗は、行方不明の男性が見つかった連絡を受けてそっちへと向かった。

 恭一は、素早くアサルトライフルを取り出しエントに向けて撃った。
「ウォォォ!」
 エントは撃たれて怯むどころか枝を恭一に向けて振った。
「こっちだぜ!」
 アサルトライフルで攻撃しながら恭一は後退する。
「木は木だが、薪には使えそうにねぇな」
 バイラヴァは、スナイパーライフルでエントに標準を合わせながら小さくため息を吐く。
 引き金を引く度に、エントの体から木片が飛び散る。
「……っ!」
 木片を避けるために恭一は後退するが、エントは恭一に向かって自身の枝を鞭のように振った。
 寸前のところでスナイパーライフルの弾で枝を折った。
「グォォォォ!」
 エントは咆哮を上げると激しく暴れた。
「さて……やっかいな枝ですね」
 暴れるエントを見て上太は呟いた。
「それに、近くに居る恭一が動けねぇようだな」
 バイラヴァは上着を脱ぎエントの近くにある木に掛けた。
「ウォォォン!」
 暴走しているエントは、木に掛けられている服を見て人がいると思いそっちへ向かった。
「木なだけにな! 気を反らす!」
「余計な事言ってないで、戦闘に集中ですよ!」
 ギャグを大声で言うバイラヴァに上太は突っ込みを入れる。
 紅葉を倒した知らせが全員に届くと、恭一はクレイモアを握り締めエントに向かって走った。
「砕けろ!」
 恭一はクレイモアでエントの背中にヘヴィアタックを叩きこむ。
「ウォォォ!」
 エントは咆哮を上げながら枝を振り、恭一の横腹に枝が当たり横に数メートル飛ばされた。
「ぐっ!」
「大丈夫ですか!?」
 エステルが素早くケアレイで恭一の傷を癒す。
「ありがとうな」
 恭一はゆっくりと立ち上がりエントを見た。
「あとはそこの木だけだ……よな……」
 バイラヴァは口元を吊り上げエントを見つめた。
「全力でいくぜ!」
 スナイパーライフルからアルマスブレイドに持ち直し、ブルームフレアでエントに火を付ける。
「あなたの散り際に華を添えてあげます。血の舞いを踊りなさい」
 エステルのブラッドオペレートでエントの体が切り刻まれていく。
 バイラヴァのゴーストウィンドでエントの紅葉が空を舞う、まるで木から鮮血が出ている様に……

「連絡取れず……その間飲まず食わずって事だよな」
 行方不明の男性「鈴木」は、エージェント達が持ってきた携帯食糧や飲み物を食べていた。
「まぁ、そんなに急いで食べなくてもまだ携帯食糧はあるからな」
 数日捕まってただけなのに鈴木は、写真に写っている時よりも痩せている、と久朗は思った。
「しっかし、起きた瞬間に腹が鳴ってお腹空いたはびっくりしたぜ」
 鈴木は水が入ったペットボトルを一気にあおり、満足げに頷く姿を恭一は見た。
「まぁ……男なら、そういう誘惑……分からないわけじゃないですが、しっかりしないと」
 今回の事を考えながら上太は小さく頷いた。
「英雄、色を好むっつーし、いいんじゃねぇ? 相変わらず、頭がかてーぜ、坂野のおっさんは」
 バイラヴァは後頭部をがしがしと手でかきながらため息を吐いた。
「はぁ、家族に会いたい……」
 鈴木の言葉を聞いてエージェント達は彼を見た。
 眼尻から涙が一つ頬を伝い流れた。
「帰りましょう」
 上太は鈴木にハンカチを渡し笑顔で言った。
「はい」
 ハンカチを受け取って涙を拭き鈴木は頷いた。
 日本の古来から紅葉に関して様々な伝承がある。
 それは樹の精霊であったりと話はあるが、特に長野では紅葉に関する話がある「鬼女紅葉」。
 ふと、闇色に染まりつつある空を槻右は見上げると紅葉が一枚舞っていた。
「えっ?」
 槻右は驚いて振り返るが、風が吹く度に木々から枯れ葉がゆらゆらと落ちていくだけだった。
(気のせいか……)
 槻右は首を横に振った。
「少しは楽しめたな……」
 ヴィントは手に持っている赤いカエデを見た。
 紅葉討伐後に出たモノだ。
(悪趣味……)
 ナハトはため息を吐きながらヴィントを見上げた。
 山々の間に風が通るたびに音が鳴る、まるで山自体が悲しんでいるかのように……
「悲しい音……」
 普段はおっとりな泥眼は顔を曇らせ呟いた。

●後日談
 翌日、救出した男性とその家族が助けてくれたエージェント達の元に来た。
「他にも犠牲者は出ましたが、その悲しみよりも自分の夫が無事だった方が勝り喜びました」
 男性の妻は震えながら話す。
「助けれる命を助けただけだ」
 恭一は医者の卵。助けれる命を救う事は使命みたいなモノだ。
 失われた命は多くはないが、重い。天秤には掛けられないモノである。
「今度からは気を付けてください」
 上太は優しく言ったが、愚神は何時、何所で現れるかは分からないのは理解している。
 人が沢山いても、エージェント達がいても、奴らは現われる時は現れる。
「おねーさん、おにーさんありがとう!」
「どういたしまして」
 無邪気に笑う少女にエステルは笑顔で答える。
 今は、ただ目の前の笑顔を守れた事だけでも良かった、と思おう。
「そういえば、マーティスさんの姿が見えないですね」
 エステルはいつも居る事務の女性が居ない事に気が付く。
「きゃー!寝坊したわ!」
 遠くから聞きなれた声と物凄い音が響いた。
 エステルが様子を見に行くと、そこには髪の毛がぼさぼさのティリアが廊下に倒れていた。
「だ、大丈夫ですか?」
 慌ててエステルはティリアの傍に駆け寄った。
「だ、大丈夫ですわ……いたた」
 腰を擦りながらティリアは立ち上がり身なりを整えた。
「あぁ、もう来ていらしたのですね……はぁ」
 鈴木の家族を見てティリアは小さくため息を吐いた。
「寝坊したと聞こえましたが、夜更かしでもしたのですか?」
「え、えぇ、まぁそんなところですわ」
 エステルの言葉にティリアは頷いた。
「でも、今回の事は無事に終わって良かったですわ。皆さんも大きな怪我無くて安心しましたわ」
 エージェント達を見てテリィアは安堵のため息を吐いた。
「おぬしが心配するほどそれがしらは弱くないぞ」
 野乃がシアン系の淡い水色のポニーテールを揺らしながら言った。
「確かにな」
 久朗は野乃言葉に同意するかのように小さく頷いた。
「あ……改めて、エージェントの皆さんお疲れ様ですわ」
 ティリアは背筋を伸ばしエージェント達に奇麗な姿勢でお辞儀をした。
「改めて私も、夫を助けていただきありがとうございます」
 鈴木の妻もティリアの横でお辞儀をする。
「いいえ、これもエージェントの仕事です。当り前の事をしただけです」
 エステルは首を横に振り笑顔で言った。
「分かっていますわ。けど――……」
 ティリアはエージェント達の眼を見て言葉を詰まらせた。
 エージェントと愚神との戦いはまだまだ続くのだろう。
「そうですわね」
 皆にほほ笑みながらティリアは願う「エージェント達の中から死人がでませんように」と――……

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
  • エージェント
    藤堂 恭一aa2165

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 繋ぎし者
    坂野 上太aa0398
    人間|38才|男性|攻撃
  • 守護の決意
    バイラヴァaa0398hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 恐怖を刻む者
    ヴィント・ロストハートaa0473
    人間|18才|男性|命中
  • 願い叶えし者
    ナハト・ロストハートaa0473hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 拓海の嫁///
    三ッ也 槻右aa1163
    機械|22才|男性|回避
  • 大切な人を見守るために
    酉島 野乃aa1163hero001
    英雄|10才|男性|ドレ
  • 悠久を探究する会相談役
    エステル バルヴィノヴァaa1165
    機械|17才|女性|防御
  • 鉄壁のブロッカー
    泥眼aa1165hero001
    英雄|20才|女性|バト
  • エージェント
    藤堂 恭一aa2165
    人間|24才|男性|攻撃
  • エージェント
    ダーインスレイヴaa2165hero001
    英雄|28才|男性|ドレ
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