本部

【神月】連動シナリオ

【神月】救出行 ―GRAVEYARD―

星くもゆき

形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2016/08/16 19:41

掲示板

オープニング

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 このシナリオは難易度が極めて高く設定されています。
 キャラクターロスト、アイテムロストなどの危険性があり、シナリオ参加時はこのことを踏まえ、十分にご注意の上で参加ください。
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●救出作戦

 『あなた』たちは一所に招集され、卓を囲んで座っている。卓上の装置を見つめているのは、直にそこからホログラムの映像が映し出されるはずだからだ。
 そう待たされることもなく、装置はジジッとノイズのような音を立てて、1人の男をその場に投影した。
 すらりと端麗な、片眼鏡の男。H.O.P.E.のロンドン支部長であるキュリス・F・アルトリルゼイン
(az0056)だということはすぐにわかった。
 彼は『あなた』たちに、急な招集に応じてくれたことへの感謝を述べると、間を置かずに状況の説明に入った。どことなく忙しげな様子に感じられ、何かしら切迫した事態であることは想像がつく。
「先の戦闘中に、門の向こうへ偵察に入ったエージェントが1名、現在連絡が取れない状態にあります。詳細は判明していませんが、私たちは、彼がレガトゥス級愚神『エレン・シュキガル』に接触した可能性が高いと考えました」
 異世界へと消え、今なお消息を掴めないエージェントの名は、GーYA(aa2289)。負傷者の中にも彼の姿は確認されていなかった。
 その事実を告げるキュリスの口調は淡々としていたが、ホログラムに映る表情は余裕がなく、ジーヤの身を案じているのだろうということはひしひしと伝わってくる。
「あなたがたに頼みたいのは、もちろんジーヤ君の救出です。人類の守護者たるH.O.P.E.として、見捨てるなどあってはならないことですから。それに、これは異世界について知るチャンスでもあるのです」
 キュリスの言葉に、わずかに熱がこもった。それは研究者としての性分の表れだったのだろう。異世界との接触は南極での世界蝕以来の大事件であり、異世界に関するデータ収集の好機であるとはH.O.P.E.としても認識していたのだ。
「更に、彼を救えれば、我々は『エレン・シュキガル』の情報を得られるかもしれない。いずれ戦わねばならないだろう大敵の情報を事前に知ることができたなら、事を有利に運ぶことができるでしょう」
 たとえ遺跡の戦いで愚神どもを退けられたとしても、門の向こうの存在が消え去るわけではない。いつか現世界へと姿を見せることは避けられないだろう。接触したと思われるジーヤを連れ帰ることができれば、彼からその情報を得られる。
 しかし、この依頼のリスクは計り知れない。何せ言うまでもなく、門の向こうは人類未踏の領域なのだ。往くことはできても帰れるかはわからない。しかもそこは愚神の制圧下にあり、いわば敵地の真っ只中。しかも次元崩壊が迫るというおまけつきだった。H.O.P.E.からの万全のバックアップは確約されたが、救出はおろか生還すら危ういかもしれないのだ。
 『あなた』たちの不安を察したキュリスは、付け加えるように言った。
「こればかりは、あなたがたの意思を尊重するつもりです。実験台になれ、と言うのにも等しいことですからね……。ですが今、頼れるのはあなたがただけなのです」
 沈痛な面持ちで深く頭を下げるキュリスのホログラムを見て、『あなた』たちは決意する。

●万の墓場

 『あなた』たちは遺跡群を走っていた。戦場の混沌を切り開き、異界への階段へたどり着き、上っていく。
 飾り気も何もない扁平な段を、空間の揺らぎで縁取られた不気味な大口へとひたすらに進んだ。
 やがてその異界との境界は目の前へと迫り、意を決して一線を越える。

 空気が変わった。鉄錆と血の臭いが嗅覚を刺激して、吹きすさぶ風がびゅうびゅうとうるさく『あなた』たちを撫でて過ぎていく。それまでと異質な空間に投げ出されたことを肌で感じた。
 そして目の前に広がる光景にあったのは、荒野に武器、磔のための巨大な十字架、それのみだった。果てのない地平に、また果てもなく何万という武器――剣に槍、斧などあらゆるもの――が突き立てられ、その合間に背の高い十字架が無造作に並ぶ。大気は彩度なく、頭上にはセピア色の空と雲があるのみだ。虚ろで、苛烈で、何もかも崩れ去ったような世界だった。
 血と武器とが広がるその一帯から、かつて起きただろう凄まじい闘争を想像するのは容易い。整然と並べられた武器と十字架は、死を示す墓標のように見えた。
 まさしく墓場と呼ぶにふさわしいその場所を『あなた』たちは当て所なく歩く。門を越えて侵入したはいいものの、肝心のGーYAの所在は皆目見当がつかない。
 しかし、歩を進めていった中で、行き当たった。
 墓標の間に倒れている人影。
 紛れもなく、ジーヤその人だった。門を越えてすぐに『エレン・シュキガル』に接触して気絶したのが幸いして、彼は未だ門の周辺に位置していたのだった――が、『あなた』たちはそれを知る由もない。

 だが安心できる状況ではなかった。

 ジーヤは多くの影に囲まれていた。2人は黒いローブをまとった巨体、他はそれぞれ武器を携えた何者か。前者は正体不明だが愚神と考えていいだろう、後者はこちらの世界の英雄もとい邪英とするのが妥当だ。
 現状確認できるのはそれらだけだが、ここは敵の勢力圏。向こうの増援は当然あるはずだった。
 しかし、この機を逃せばジーヤを救うチャンスは二度と訪れないかもしれないのだ。

 墓標立ち並ぶ戦野にて、『あなた』たちの戦いが始まる。

解説

■概要&クリア目標
 エージェントたちは、愚神勢力との戦闘の最中に門に侵入して消息を絶ったGーYA(aa2289)の救出を依頼される。
 異世界の門を踏み越えた先に待っていたのは、荒廃した世界だった。
 ジーヤを救出することが今依頼の目標だが、エージェントたちの発見した彼は多くの敵に囲まれていた。
 引き際を誤れば全滅の憂き目に遭う可能性もある。退くべき時は退くべき、ということは頭に入れておくべきだろう。

■敵
・ケントゥリオ級愚神『審問官』×2
 2mほどの巨体を黒ローブで頭からすっぽり覆った人型愚神。声は発さず、また誰の声も聞かない。
 磔のためのライヴスの杭を射出して攻撃してくる。長射程。命中した対象にBS【拘束】を付与する。
 物理攻撃タイプ。物理防御が高い上に、同勢力のカオティックブレイドの攻撃を受けない。
 GーYAの傍を離れず、撤退するPCは追撃しないようだ。

・デクリオ級邪英『カオティックブレイド』×10(戦闘開始以降、3ラウンド経過毎に2体ずつ新たに出現)
 門の向こうの世界にいた英雄たち。傀儡のようにエージェントたちを攻撃してくる。
 範囲3の無差別物理攻撃を行う。

・ケントゥリオ級従魔『レガリス・エニア』×0(戦闘開始から7ラウンド経過毎に1体ずつ出現)

 すべての敵は『エレン・シュキガル』が定める厳格な秩序の下に動いているため、精神系BSの一切が無効。

■状況
・異世界探査用の小さな金属ボール型端末を1人1個所持している。センサー類が備わっており、情報をライヴスを介して送信することが可能と考えられている代物。単純な調査目的で作られていたものだが、発信器代わりにすることもできるかもしれない。
・次元崩壊が迫っているため、帰還せず異世界に残ろうとした場合は間違いなく取り残される。
・PC一組につき、運搬できるのはPC一組。
・ジーヤは愚神たちにどこかに運ばれようとしている。(PL情報)

リプレイ

●決死の任務

 乾いた風が吹く。生命の躍動感というものは、そこにない。
 エージェントたちが侵入した世界には雑音の一切すらもなく、異様な静けさは彼らの心に重たい圧迫感をもたらしている。レガトゥス級の直轄地域というだけはあり、一行も共鳴していなければまともな精神状態は保てないかもしれない。
「やっぱり、まだ震えは止まらないや……」
 敵に気取られぬよう声をひそめ、桜木 黒絵(aa0722)はかすかに震える自分の手を握った。純粋に戦地に赴くのが怖かった。
 異世界へGーYA救出に発つ前、シウ ベルアート(aa0722hero001)は『With Class』という煙草で一服していた。それもマッチで火をつけて。その煙草はシウがここぞという時にしか吸わない物だったし、マッチで火をつけるという所作も同様だった。シウも覚悟を決めて臨んでいるということが、黒絵にもわかった。だからこそ怖かったのだ。
 懐から1枚のカードを取り出す。単なるゲーム用のカードでしかないが、黒絵にとっての宝物だった。それには『血威』と記されている。異世界でシウが使用した魔法の名前だった。
「……いい加減覚悟を決めなくっちゃ。怯えてなんか、いられないっ!」
 “決意”を込めた両の手で、包むように頬をはたく。
 黒絵が己を鼓舞する様子を見ていた防人 正護(aa2336)は、彼女を含めた皆に、改めて無事に生還するように言った。
「GーYAを救えたとしても、他の誰かが取り残されれば意味がないんだ……《同じ人数》で帰ってくるのではない。《一人多く》なけりゃ……」
 誰ひとり悲しまない結果を掴み取る。それが自分たちの仕事だ。正護が仲間たちを見据えて告げた言葉は、“ライダー”として己に立てる誓いでもある。
「もちろん。目標は全員生還! ってね?」
 古賀 佐助(aa2087)と共鳴済みであるリア=サイレンス(aa2087hero001)が明るい調子で答えた。何も恐れていないわけではなかったが、それでも最後には全員揃って帰ることになると信じていた。
「必ずジーヤさんを助けて、全員無事で……。大丈夫! 皆で力を合わせれば、出来ないことなんて無いんだから!」
 世良 杏奈(aa3447)も努めて朗らかに応答。皆がいれば不可能はない。それは門をくぐる前にルナ(aa3447hero001)にも伝えた言葉だった。珍しく外見相応の幼子のように不安がっていた娘はそれを聞くと、安心していつものように元気な返事をくれた。
 またいつもの日常に戻るんだ。左手の薬指をなぞり、杏奈もまた誓いを立てる。

 心の準備はすべて済ませた。
 課せられた任務はひとつ。全員で帰ること。
 GーYAたちも含めた“全員”で、無事に元の世界へと。

 剣を取り、月鏡 由利菜(aa0873)はただ、そのための力とならんとする。
「ラシル……G-YAさんとまほらまさんを救出する為、力を貸して下さい!」
(「勿論だ。全員で生還する為にもな」)
 それこそが騎士の務め。リーヴスラシル(aa0873hero001)もいっそう強い覚悟と誇りで、由利菜に応じた。

●激戦

 単騎、白いコートがはためく。
 先陣を切って邪英たちに向けて駆けていくのは、真壁 久朗(aa0032)だ。敵の目を引きつけ、仲間が動きやすくするためにあえて彼は先行した。
(「此処が異世界ですか……! ちょっと緊張しますね」)
 どことなく楽しそうな感じも含むセラフィナ(aa0032hero001)の声が久朗の中に聞こえた。
「だな。……でも何処へ行こうと俺達のやることは変わらないさ」
(「ええ。まだまだやりたい事たくさんありますからね。此処で終わりだなんてことにならないよう頑張らなきゃです!」)
 邪英たちが久朗を向いた。次いでローブ姿の巨体――審問官も、異物が侵入したことを悟り、大きなライヴスの杭を射出しようとする。
 だがその前に、1本の矢が風を切る。
 まっすぐ審問官の胸の中央に突き刺さる。
「先手は貰うよ、さぁ相手になって貰おうか!」
 高らかに開戦宣言をするのはリアだ。ユルルングルの射程を活かし、ファストショットで先制の一矢を撃ちこんだ。大したダメージにならないことはわかっている。妨害として機能すればそれでいいのだ。
 立て続けに黒絵がサンダーランスを放った。リアの弓撃では怯みもしなかった審問官だが、黒絵の雷撃を喰らうと明らかにダメージを負ったように見えた。動きが鈍くなっている。
「ビリビリ1発! やったね……って!?」
 拳を握った黒絵は、しかし審問官の挙動を見て目を剥いた。敵は標的を黒絵に変えて腕を構えていた。
 即座に杭が撃ちだされる。黒絵は避けるために身をよじったが、その前に杭は久朗の盾に阻まれた。
「た、助かった……!」
「いや、まだだ」
 もう片方の審問官が、片割れが攻防する間にじっと黒絵に狙いを定めていた。久朗はすでに庇える体勢ではない。
 ライヴスが収束し、杭の形を成す。
 黒絵を穿つ弾と化して解き放たれる。
 瞬間、一筋の弾道が審問官の腕をかすめた。辺是 落児(aa0281)と共鳴した構築の魔女(aa0281hero001)が機を計って狙い撃ったものだ。敵の攻撃を止めることはできなかったが、杭はその方向を大きくずらして彼方へと飛んでいく。
「またまた助かったぁ……」
「これを受けて向こうはどう動くか……相手の敵対者への対応の優先順位……連携の有無や仕方が分かれば」
 構築の魔女は敵の動きを注視。敵の行動傾向が読めれば、GーYA救出にあたってエージェントたちは効率良く事を進められるはずだと考えていた。
 審問官はあくまでGーYAの傍を離れない。邪英たちは遠距離からの攻撃にも気を払うようになっていたが、即座に構築の魔女らに刃を向けることはなかった。敵軍は陣形を崩さずにまず最前線の久朗を排除しに動いた。
 邪英たちは数十という刃を久朗に投じる。
 かわしきれない。
 久朗は両腕で顔を守り、全身に力を込めて降りかかる斬撃に耐えぬく。並のリンカーならひとたまりもないだろう。防御に長じた久朗ならではの防衛策と言える。
 攻撃がやむと、久朗は邪英たちを散らすようにフラメアを薙いで突貫した。敵は一旦身を引くが、すぐに態勢を立て直して久朗を包囲する。
「不気味な連中だな……。自分の意思があるように見えないが」
 自分を取り囲む邪英たちの抜け殻のような表情を見て、久朗は眉をひそめた。
「包囲のために固まってくれるなんて、ラッキーね!」
 歓喜の声とともに、一帯を轟炎が包みこむ。杏奈のブルームフレアだ。
 火炎は邪英たちの肉体を侵し、その版図を徐々に拡げていく。
 そこへ、由利菜と御門 鈴音(aa0175)が斬りこんで来た。邪英たちの包囲陣を喰い破り、外側から突き崩して久朗と合流する。
 3人、背を合わせるようにして一瞬、構えた。
「……助かる」
「久朗さん、あまり無茶はしないで下さいね……?」
「月鏡もな」
「あの、あんまり話している余裕はないと思いますけど」
 鈴音の一声を合図とするように、3方向に散開。カオティックブレイドを相手取るなら、一所に固まっては危ない。
 敵味方入り乱れての戦い、距離を保ちつつの乱戦に発展する。


(「この世界はレガトゥス級の勢力下だろう。セラエノの妨害による次元崩壊も近い……限られた時間で、あの少年と英雄を救う必要がある」)
「ええ、急がないと」
 ラシルと話しつつも、由利菜はシュヴェルトライテで邪英の1体を斬り伏せる。攻撃面には一定の脅威を誇るカオティックブレイドだったが、反面防御はもろい。被るダメージも軽くないが、由利菜なら倒すのに手間取る相手ではなかった。
 しかし、ここは敵陣なのだ。
 新たに側面から乱入してくる影が2つ。
 虚ろな表情。邪英だ。早くも敵の援軍が到着した。
(「予想通り敵戦力は潤沢か……頭数が増えれば、救出どころではなくなる!」)
「救出の邪魔をしないで下さい……!!」
 由利菜は守るべき誓いを発動させ、近辺にいた3体を己に惹きつける。同時にミラージュシールドに換装。
 中空に剣が煌く。光を跳ね返す鋭利な剣が、雨のように由利菜に襲いかかる。
 邪英の攻撃は一般的な英雄のものよりはるかに重い。ゆえに盾を構えた由利菜にも相当な負傷が見えたが、近距離で攻撃しあったことで邪英たちは互いに刃を撃ちあう形になっていた。
 より重い傷を負ったのは、邪英たちのほうだ。
 敵が弱った隙を逃さず、味方の援護。構築の魔女とリア、杏奈の攻撃がほぼ同時に飛んできて、邪英の命を奪い去る。
「ありがとうございます」
「援護ならまかせてね!」
 由利菜の礼にリアが揚々と応じた。遠方からの射撃に徹している分、連携攻撃には対応しやすい。
 更に邪英の数を減らすべく、由利菜は戦場の渦中へと向かった。構築の魔女はその背を見送り、周囲の邪英へ牽制を仕掛けながら、敵への思案に埋没していく。
(G-YAさんは相手にとって無力化した未知の敵対者……殺さず拘束し情報等引き出す可能性がありますか? それとも、負傷兵を囮に釣り上げられているのでしょうか? ひとまずはばら撒いた無線機に異常がなくても警戒ですね)
 構築の魔女はちらりと受信機を見た。異状なし。
 彼女は、出発時に異界内でも動作するような発信器をH.O.P.E.から貰い受け、道中の周辺に散らばらせていた。彼女らは必ず来た道を引き返さなければならず、退路の確保は最優先事項だった。後方の状況を完全に把握できるわけではなかったが、異状がなければまずは大丈夫と言えるだろう。
 そして警戒しなければならないのは後方だけではない。
(エレン・シュキガルはどこにいったのでしょうか? 近くにいるならなりふりかまっていられないのですけれど……)
 そう、GーYAが接触したはずのレガトゥス級愚神だ。あれが付近にいたとしたら一刻も早く離脱しなければ無事では済まない。今のところ気配はないが、用心のためにも救出は急ぐに越したことはなかった。
「なら、まずは邪英たちをどうにかしなければ」
 フライクーゲルの銃声。狙いすましたトリオが邪英たちをしっかりと捉えていた。


 戦闘が激化していく中、シールス ブリザード(aa0199)は後方からの狙撃に終始していた。15式自動歩槍『小龍』で着実に敵の体力を削ってはいたが、あくまで援護どまりの攻撃だ。
 だがそれで良かった。むしろそうでなくてはならなかった。
 シールス、及びツラナミ(aa1426)と正護が担うのはGーYAを敵の手から奪い去る“救出”の役目だ。他の仲間が“囮”として敵を受け持っている間に彼らがGーYAを奪還する。下手なことをして目立っては作戦に支障をきたす。
「敵を預ける、というのもつらいな……」
「なに……必要なことなんだから、割り切るだけだ」
 落ち着かない様子で呟いた正護に対して、ツラナミは顔色ひとつ変えずに応えた。
 シールスは後方から敵を観察し、位置や状況を味方に伝えて大きな不利が生じないように努めていた。その甲斐あって、最初に久朗が包囲されて以降は、敵軍に囲まれるような事態は起こっていない。
 邪英の増援がやってくる。シールスはそれを確認。
(「どうやら、敵はあそこから来るようだな」)
 99(aa0199hero001)の声に頷き、シールスは増援の現れた方角を仲間たちに伝達。再び同じように現れる可能性を考慮して、備えられるようにしておく。
 そしてツラナミと正護に、行動開始の合図を送った。
「行くなら今ですね。上手くいってくれよ」
 邪英たちが囮の味方に充分誘引されたタイミングで、シールスたちはGーYAに向かって駆ける。
 仲間たちが乱戦する逆方向から、回りこむように全速。
「さて、と……まあ報酬分は働こうかね」
 正護の背後に位置して身を隠しながら、ツラナミはじっと敵軍へ観察の目を向けた。
 同時に、救出班の動きを敏感に察知した審問官2体が振り向いた。見た目に反して、感覚は鋭いらしい。
 ライヴス杭が射出される。
「へぇ……ここまでとどくの。そりゃあ動く必要もないわな」
 正護とツラナミは二手に分かれるようにして杭を回避。正護はそのまま最短で進み、ツラナミは潜伏を発動させて別方向へ潜行した。
 更にもう片方の審問官が杭を飛ばそうとしてきたが、タイミング良くリアの威嚇射撃が飛びこんできた。
「邪魔はさせないよ、大人しくしててね!」
 狙いのそれた杭を易々とかわして、2人はGーYAを目指す。
 倒れているGーYAに近づくシールスと正護。傍らには審問官2体のみ。
「魔法は効くようだったな……!」
 ぬっと立ち尽くし、ローブに隠れた顔を向けてくる審問官に、正護は挨拶代わりのサンダーランスを繰り出した。
 槍の雷撃が走り、審問官を穿つ。ダメージは確実に入ったが審問官の攻撃は止まらない。
 敵の腕が正護に向くが、拒絶の風のおかげで機動性の増した彼に反撃は当たらなかった。
 その間にシールスはひっそりとGーYAに接近を試みるが、フリーになっている審問官がそれを抑える。
「ぴったりくっついて離れないか……! 邪魔だな……」
 銃撃を喰らわせても、巨体はびくともしない。
 ならばと正護はブルームフレアを放つ。突き立つ墓標ごと炎に包み、惜しみない魔力で攻める。
 燃え盛る炎に審問官は苦悶していたが、やがて、焼かれた墓標の剣を手に取って正護らに振り下ろす。
 刃が触れる寸前。
 横合いから、突っこんできた何かが審問官を吹き飛ばした。
「……剣?」
「ご無事ですか?」
 呆気にとられたシールスの前にひょこっと顔を出したのは、鈴音だった。長大な大剣『鬼帝の剣』を構えて力いっぱいに踏みこんできたのだ。
(「……毎度毎度人助けとはお主も人がええのぉ……。自分と他人……どっちが大事なのじゃ?」)
「……もちろん、どっちも」
 大剣を担ぎ上げながら、鈴音は胸中の輝夜(aa0175hero001)の問いに応じる。
 相棒の気のない「ほぉ」という返事を聞きながら、鈴音は異界の風景を見ながらふと尋ねてみた。
「異世界……輝夜もそこから来たんだよね……」
(「そうじゃ……じゃが気をつけよ。引き込まれたら戻る術はない。そんな危険を冒して人助けする時点でお主はかなりの愚か者じゃ」)
(……そう言いつつ手伝ってくれるってことは輝夜も本当は助けたいのでしょ……信じてるわよ)
 物言いは冷たくとも、輝夜も自分と同じ想いを抱いている。その繋がりに命を預けて、鈴音は2体目の審問官に斬りかかった。
 救出に向けて1体は葬る。その覚悟で、鈴音はトップギアを発動。
 距離を詰める。一気呵成。
 振りぬく大剣が審問官の脇腹を捉え、倒す。さながら乱暴な横殴り。
 追撃。真上に掲げた刀身を、腹部に突き下ろす。
「……!」
 頑強なはずの愚神がうめいた。敵の防御に、鈴音の図抜けた攻撃力が打ち破っている。
「私も力を貸すよ! 鈴ちゃん!」
 心強い言葉とともに、黒絵のブルームフレアが愚神らを一飲みにする。
 加勢を得たシールスたちは一気にGーYAを確保しようと動いた。
 だが、2体の邪英が妨害に割りこんできた。
「これは……!」
 こちらに数が流れるということは、囮の誰かが倒れたのかもしれない。
 そう思ったシールスは、邪英と交戦中の仲間たちを見た。

 誰も倒れてはいなかった。無事だ。
 邪英が来たのは、単純に敵が増えたからだ。
 見れば、レガリス・エニアの姿がある。
 厄介な増援を受け、囮を担う仲間たちの戦況も苦しくなっていたのだ。

●想いは力

 不気味な文言が、乾いた戦地に響く。
 舞い降りたレガリス・エニアは、空中から一切の慈悲もなく魔導光線を放出してきた。
 看過するには危険と判断し、構築の魔女は真っ先に射撃を撃ちこみ、次いで由利菜は魔導書『プリエール』を開いた。
 構築の魔女を狙い飛行する敵の姿に照準を合わせ、押し潰すような重力波を生成。眼光鋭く、レガリス・エニアを睨みつける。
「高みの見物は許さない……! 圧縮する!」
 空に押し留めるイメージ。由利菜は強く拳を握り締めていた。その荒々しさは普段の彼女にはないものだ。手元の魔導書がそうさせていることを知るラシルは、影響を緩和しようと努める。
(「プリエール! ユリナの闘争心を励起するな……!」)
 由利菜と構築の魔女、2人が攻撃することでレガリス・エニアは救出班からは遠ざかった。
 だが、囮を務める仲間たちの負担は大きくなる。
 邪英が繰り出す剣の嵐は猛威を振るい、敵が同士討ちする以上に、エージェントたちの損耗が激しくなっていく。回復アイテムを使用しても、治癒が追いつく気配はない。
 特に黒絵や由利菜は一撃の重さから敵に危険視され、攻撃が集中していた。
 守るべき誓いを利用して由利菜は邪英を多く葬っていたがその分負傷も大きく、自前の回復手段も尽きようとしていたし、黒絵は久朗のカバーや回復により戦えていると言って過言でなかった。
 だが、数的不利の綻びは避けられない。
 援護射撃に徹していたリアのもとに1体の邪英が迫る。
「……これはまずい……っ!」
 できる限り被弾しないように戦線から離れていた分、カバーリングに集中していた久朗からも遠かった。
 無数の凶刃が中空に発生。切っ先が向く。
 息を呑むリア。
 回避は、間に合わない。
 肩から腰にかけて、亀裂が走った。
 リアの視界。鮮血がゆっくり舞っていた。
 そのまま、意識は闇に落ちかけた。

 真っ先に脳裏に浮かぶ。古賀 菖蒲(旧姓:サキモリ(aa2336hero001)のこと。
 出発前の彼女の表情、声、会話。佐助の記憶だった。
『わたし……怖いよ……まだおねーちゃんにお別れ言ってないよ………行きたくないよ……まだ佐助と居たい……』
 アイリスはそう言って震えていた。その身に感じる死の恐怖に抗えずに、放っておけば泣き出してしまいそうなほどに。
 だから、佐助は言った。
『大丈夫、絶対生きて帰るんだから、な!』
 沈むアイリスの心を引っ張り上げるように、精一杯に笑って、頭を撫でてやった。
 ようやく表情が明るくなって、彼女は見慣れた笑顔を見せる。
 そして、常に持ち歩いているらしい佐助との婚姻届をぎゅっと握り締めた。
『……そうだよね、絶対、だもんね……絶対――』
 その先に彼女が続けた言葉が、声が、力強く、心の中に大きく響く。


『絶対――佐助は死なないって約束してね』


「……っ!?」
 夢から弾き出されるかのように、リアは目を見開いた。
 眼前。邪英がいる。再びの凶刃が迫っている。
 数センチの距離。
 切り裂かれる。
「――悪いけど! っ死ねないんだよね……!!」
 とっさにスナイパーライフルの銃身で防いだ。
 勢いは止めきれず、刃はリアの胴を深く抉る。だが命には届かない。
 ライフルを掌中で転がすように操り、銃口を向ける。邪英の胴の中央。
 引き金を引く。零距離射撃。10メートル以上は吹き飛ばして、窮地を逃れる。
 目覚められたのは、アイリスのおかげなのだろうか。
 ふと、出発前にシウが皆に向かって喋っていたことを思い出した。

『僕のいた世界では想いの強さが力となった……。この世界でも生きようという想いは最大の武器となるはず。皆それを忘れないで!』

 これが想いの力ってやつ? 思わずリアは笑った。

「約束は……守……るっ……」

 視線の先に、正護たち――アイリスたちを捉えて。
 リアはその場に倒れた。命は奪われずとも、邪英の一撃には彼女を止めるだけの威力はあった。
 共鳴状態を保っていられず、佐助とリアは意識を失ってその場に伏すだけとなってしまう。

 脱落者に気づいた邪英は、即座に佐助らに向けて直剣の束を投射した。直撃すれば2人の命は消える。最も近くにいた構築の魔女は仲間たちへの援護射撃を切り上げ、滑りこむようにして間一髪、佐助たちを救出した。
「状況が良くないですね……」
 邪英から逃げながら、構築の魔女は憂いを口にする。
 重傷者が出るということは、それだけ撤退の難度が増すということだ。戦力の偏りは、更に偏りを生むもの。
 2人、3人と倒れるにつれて、危険は加速度的に増していく。
「どこまで持つでしょうか……!」
 追いすがる邪英に双銃の銃口を向け、引き金。邪英の腕を貫き、手元の剣を落とす。
 すぐに邪英は手近の墓標を抜いたが、援護に来た杏奈が魔法を撃ち放って仕留めた。
「大丈夫でしたか!?」
「ええ、ありがとうございます」
 駆け寄った杏奈に構築の魔女は微笑を返したが、楽観視できる状況でないのは明らかだった。
 残された猶予はどのぐらいなのか、と構築の魔女は思った。

「やっぱり、ここを突破するしかないですね」
 鈴音が大剣の柄を握りなおす。悪化していく状況を打開するには、GーYAの確保が必要だ。そのためには眼前の審問官を1体でも減らすべきだと考えた。
 流入した邪英たちの攻撃もあって、鈴音やシールス、正護たちも負傷は重かった。
 しかし迷う時間すらも今はない。
 鈴音はただひたすらに斬りこんだ。
 苛烈に。鬼のように。
 荒々しく振られる大剣はまさに『鬼帝の剣』と呼ぶにふさわしく、深紅の刀身は強靭な愚神の体を深々と裂きこんでいく。審問官を庇いに入った邪英は一刀でなで斬りにされた。
 更に黒絵も魔導銃を撃ちまくった。正護も最後のブルームフレアを放ち、シールスもありったけの弾を撃ちこんだ。
 初めて、審問官がよろめいた。
 押し通す、と皆が思った時。

 影、飛来。嫌な気配に一行は空を見た。
 レガリス・エニアの姿。
 今度は、1体目と別方向。救出班に近い。
 無情な魔法が天から降る。
 目標は鈴音だった。審問官をも苦しめた攻撃力が仇となり、優先的に狙われた。
 邪英の斬撃も数多くその身に受けていた鈴音は、強力な魔法に耐え切れず、体は限界を迎えた。
 意識を失ってその場にくず折れると、共鳴も解けて輝夜の体も隣に現れる。
「鈴ちゃん!!」
「鈴音を頼む。あれは俺が面倒を見る!」
 鈴音に駆け寄る黒絵。
 そして2人を庇うように正護が敢然と立つ。
 花札、セット。
 拒絶の風で砂煙を舞い上げ、転身、ツキミフォーム。
「誰かを救うのがライダーの使命って言うんなら、同じリンカーを救うのもまたライダーとしての、防人としての、……俺と言う人間としての使命だ!」
 挑発するようにレガリス・エニアを手招きすると、それが通じたかは不明だが、謎の文言とともに容赦なく攻撃魔法が降ってきた。正護は巧みな体捌きで回避する。
 更に、レガリス・エニアも含めた敵の群れの中に躍り出て、その注意を自身に集めた。
「さぁ、当ててみろ」
 2体の邪英が何本もの剣を差し向けるが、軌道は単調。
 敵軍の攻撃を正護は常人離れした俊敏性で凌ぎつづける。
 仲間がGーYAを救う時間を作るために。
 その目に強靭な意志の光を灯して。
 全員で生きて帰るという、想いの強さを力に変えて。

 そして想いは、訪れる一瞬に結実する。
 シールスが、鈴音を抱いた黒絵が、審問官を攻め立てる。
 拘束の杭が魔法を放とうとする黒絵を止めるが、瞬時にシールスがクリアレイを施す。
 杭から解かれた黒絵は、手を伸ばした。
 火が盛る。ブルームフレア。
 その火炎は審問官の巨体を飲みこんでいく。重ねた負傷と生命減退とで、弱りきった審問官の1体はとうとうライヴスの塵となって消滅した。

 救う好機が、来た。

 しかしもう1体の審問官が立ち塞がる。黒絵はすでに鈴音を抱えておりGーYAの運搬は不可能。敵としてはシールス1人に気をつければ良かった。
 シールスとて弱っており、打開の余力は残っていない。
 だがそれでも彼は『小龍』を構えた。
 反射的に審問官は杭を飛ばした。深くシールスの腹部を貫いた杭は、彼の体をその地に縫いつけて止める。
 救出を阻まれたシールスは、笑っていた。

「そんなローブを羽織ってるから、視野が狭くなっているんじゃないかな?」

 流星のように何かが駆け抜けた。愚神の背後から何かを掠め取っていった。

「お疲れさん。さぁ、帰るとしようや」

 ツラナミだった。GーYAを脇に抱えて、ツラナミが事も無げにそう提案していた。
 GーYAの救出に苦戦するシールスたちの様子を見て、ツラナミは一瞬に勝負をかけることを選択した。潜伏で敵の目を欺きながら確実に救出を成し遂げられるチャンスを待っていた。
 そして、訪れた好機にシールスたちへ合図を送り、敵の注意が逸れた隙に見事にGーYAを奪還してみせた。
 当然のように審問官の攻撃の手が伸びたが、ツラナミは飛びのいて三日月宗近でその手を打ち払い、全力で門への逃走を始めた。
「退きましょう……!」
 構築の魔女が即座に撤退を進言するまでもなく、皆は退きはじめている。
 大挙して押し寄せる敵軍。
 正護が惹きつけていたレガリス・エニアもツラナミを阻もうと地上に降りてくる。
「あ……邪魔しないでくれる?」
 GーYAを抱えながらもツラナミは器用にレガリス・エニアの剣を回避すると、すれ違いざまに縫止を繰り出して機動力を奪う。
(「……後ろ!」)
 心中に38(aa1426hero001)の声。ツラナミはちらと刀身を鏡代わりに後ろを確認。
 わずかに肌が粟立つ。
 審問官がツラナミに狙いを定め、腕を掲げていた。
 GーYAを奪われたら、すべて水泡に帰す。ツラナミはGーYAを誰かに預けようかと考えた。
 だが思考の最中、小柄な体が杭の射線を塞いだ。
 シールスだった。
「彼らに攻撃したければ僕を倒してみなよ。無理だと思うけど」
 挑発。絶対にツラナミには当てさせないという思いだった。
 杭は再度、シールスの腹部を穿った。2度目の被弾は、意識すらも刈り取る。
 肉体が光る。シールスの共鳴が解ける。敵の眼前での共鳴解除など、死に等しいものだ。
「……この力で誰かを守れるとしたら……、……きっと今のためにあるんだろうな。……誰かが助けてくれる事はない。だから俺達が、戦わなけりゃいけないんだ!」
 正護が懸命に手を伸ばし、2人に分離する前にシールスたちを引き寄せた。
 全員で帰れなければ、失敗だ。戦う前に言っていた誓いを守るために。
「後は全力で」
「走るだけだ!」
 ツラナミと正護は、仲間を抱えて並走する。途中で邪英の攻撃を受けようとも、抱える仲間を庇うように守り、ぐんぐんと危険地帯を抜けていく。
 審問官は次弾を撃ちこむ素振りを見せていたが、すかさず構築の魔女はフラッシュバンを仕掛けて狙いを外させた。閃光の影響を受け、ライヴスの杭は仲間の誰にも当たらずに荒涼の地へ落ちていった。
 追走する邪英。それを追い払うように、杏奈は1発だけ温存しておいたブルームフレアを投じる。
 炎の中央には人影。シウである。もし任務に失敗したら黒絵ではろくに撤退もできないだろうと、予め撤退時にはシウが主導するように決めていた。
「これで心置きなく帰れるな」
 一閃。炎を吹き飛ばす勢いでサンダーランスを解き放つ。
 一直線に追ってきていた邪英たちを一網打尽。串刺しになった敵はピタリと動かなくなり、追っ手を一気に減らすことに成功した。
 鈴音らを抱えなおし、仲間たちに1歩遅れて撤退するシウ。
 彼を守るように、最後尾には久朗が陣取っている。
(「あと少しです……!」)
「踏ん張りどころだな……」
 シウが仕留められなかった敵が、最後まで追いすがる。
 久朗は槍を荒々しく振るってそれをせき止める。その右目の輝きはいっそう強くなっていた。

 これ以上、仲間を傷つけさせない。
 すでに3人も倒れている。4人目が倒れるところなど見たくはなかった。
 殿を務める久朗の目にもまた、想いの力が宿っている。
 眼光に気おされたように、邪英の足が一瞬止まった。
 その隙に久朗は門へ向きなおり、一心に駆けた。

 立ち並ぶ剣の墓標を抜け、死臭に満ちる大地を踏んで。

 門は輪郭が突入時よりも歪んでいた。不安に襲われる。
 由利菜が、正護が、門の手前で待っていた。久朗を追う敵を魔法で牽制しつづけていた。

 誰も失わず、全員で帰るために。

 身を投げるように久朗が門を通ると、2人もすぐに異世界を抜け出した。


●帰還

 視界に広がるのは、荒れた風景だった。
 しかし、異界ではない。
 アル=イスカンダリーヤ遺跡群の空気だ。愚神たちのせいですっかり戦場に変わり果てていても、異界に比べれば充分に生気に満ちていると感じられた。
 皆が顔を見合わせた。
 そして数えた。

 “全員”が、そこにいた。

 安堵の息が漏れる。
 しかし、生還したとはいえ、この場は一息つけるような安全な場所ではない。
 一行はすぐに戦域を離れることにした。

「あのボール端末……上手く機能してくれるでしょうか」
 構築の魔女が思い出したように呟いた。彼女は異界にばらまいた発信器と一緒にボールも置いてきていたのだ。
 それを聞いた久朗は、ふっと小さく笑って告げる。
「それはわからないが、俺も戦っている際に邪英の懐に一応忍ばせておいた。何か役立つ情報が得られるかもしれないな……」
「敵の中に……。それは面白いことになりそうですね」
 任務中はずっとマイナスのことばかりに思考が傾いていた構築の魔女が、ようやく楽しげに表情を緩ませた。

 倒れた仲間を抱えて、一行は従魔の海をかき分けて進んだ。
 彼らをゆっくり寝かせられる場所へと急ぐ。
 アイリスはすぐにでも佐助に寄り添ってあげたかったし、ルナはGーYAに「1人で危ない所に行っちゃダメ」だと何度も叱ってやりたかった。
 何より、声が聞きたかった。

 今はそれが叶わないけれど。
 すべてが終われば、また彼らの声を聞けるだろう。


 それが、“全員”で生還した彼らの、かけがえのない報酬なのだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 希望の守り人
    シールス ブリザードaa0199
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
  • エージェント
    ツラナミaa1426

重体一覧

  • 遊興の一時・
    御門 鈴音aa0175
  • 希望の守り人・
    シールス ブリザードaa0199
  • 厄払いヒーロー!・
    古賀 佐助aa2087

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 遊興の一時
    御門 鈴音aa0175
    人間|15才|女性|生命
  • 守護の決意
    輝夜aa0175hero001
    英雄|9才|女性|ドレ
  • 希望の守り人
    シールス ブリザードaa0199
    機械|15才|男性|命中
  • 暗所を照らす孤高の癒し
    99aa0199hero001
    英雄|20才|男性|バト
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 病院送りにしてやるぜ
    桜木 黒絵aa0722
    人間|18才|女性|攻撃
  • 魂のボケ
    シウ ベルアートaa0722hero001
    英雄|28才|男性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
  • 厄払いヒーロー!
    古賀 佐助aa2087
    人間|17才|男性|回避
  • エルクハンター
    リア=サイレンスaa2087hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • グロリア社名誉社員
    防人 正護aa2336
    人間|20才|男性|回避
  • 家を護る狐
    古賀 菖蒲(旧姓:サキモリaa2336hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
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