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最終発言2016/04/05 20:35:35 -
相談用
最終発言2016/04/09 07:06:04
オープニング
●疾走の先
『あなた』達は、すぐさまH.O.P.E.が手配した輸送機に乗り込んだ。
広州市で発生する愚神、従魔襲撃は散発的断続的でありながらも恐ろしく的確なタイミングで行われている。
こうした件を受け、H.O.P.E.も広州市でも人が集まる場所へエージェントを派遣、警戒していた。
人々の顔を見れば、愚神、従魔が襲撃してくるかもしれないとピリピリしており、必要がない外出などはしないでいるようだ。
用事があって外出しているであろう人々がそのことに神経を尖らせるのも無理はなく、『あなた』達もそのことに配慮し、そうと悟られないよう警戒を続けていた矢先──支部より連絡が入ったのだ。
広州市、地元テレビ局でドロップゾーン発生。
急ぎ回された輸送機よりテレビ局へ到達、ゾーンルーラーを討伐……それが、任務だ。
「テレビ局……随分手が込んでるな」
蒼 星狼(az0052)が、大きく舌を打つ。
「連中、これを垂れ流すんじゃねぇだろうな」
「てれびは情報伝達が早い手段であったじゃろ。なら、やるじゃろうな。でーぶいでーとやらにも保存するじゃろ」
デイ・ブレイク(az0052hero001)が、当たり前だと言いたげに星狼を見る。
でーぶいでー……やっぱり中身はジジイなので、Dの発音はまだまだらしい。
「ジジイ、あんま聞きたくんねぇ話すんじゃねぇ」
「最悪の可能性は想定しておくものじゃぞ、ひよっこ」
言われなくとも理解はしていたらしく、星狼が輸送機内に響き渡る盛大な舌打ちをした。
ドロップゾーン展開直前、辛うじて逃げおおせた者は、口々に言っている。
ケントゥリオ級愚神凶祝(シィオンヂュ)と名乗ったそれが、従魔従えて襲ってきた、と。
ドロップゾーンはまだ展開されたばかり、今なら、今ならテレビ局に取り残された者を救うことが出来る。
彼らをドロップゾーンごと打ち砕き、人々を救出しなければ。
嘲笑と共に揺さぶってくる愚神のゲームへ、負けてやる必要などないのだから。
●視聴者は
「あいつらそろそろ来そうだよねー。来たら、手配ヨロシク」
ベッドに寝そべり、足をばたつかせるその愚神はパソコンを開いたまま、テレビの電源を入れた。
その傍らに立つのは、手配を命じられた存在だ。
「幻月様の仰せのままに」
その言葉に気を良くしつつ、幻月はベッドの上でごろごろする。
「畜生どももたまには面白いもの作ってくれるよねー。こういうのは皆で楽しまないと。あぁ、でも──」
幻月は言葉を止め、その部屋の本来の主を見る。
人としての尊厳もかなぐり捨て、ただひたすらに助けを求め、従魔から逃れようとあがく男。
テロニモクッシナイトクシカ、だったっけ?
どうでもいいけど。
「ショーは最後までやってこそ意味があるんだよアハハハハ!!!!!」
笑い声が響く中、愚神達を世界から追いやるには人々が団結すべきとテロも恐れず声を張り上げ続けた地元企業の会長は最後助かりたいというそれだけの思考で塗り潰されながら、自分が食われる音を聞いた。
食われるのを待つだけの餌共。
今まで築き上げたものかなぐり捨てて、生存本能丸出しのまま、食われろよ。
その程度は出来るよね?
せいぜい、愉しませてよ。
それが、ボクのゲームなんだからさ。
アハハハハハハハハハハハハハ
解説
●目的
・敵の全撃破
・人々を救出し、希望は希望と知らしめること
●スタート地点
・TV局駐車場
※輸送機はエージェント達を下ろした後は安全の為、一時離脱します。
●敵情報(【】内情報は戦闘開始時点PC達は知りえません)
・ケントゥリオ級愚神凶祝(シィオンヂュ)
中年の筋骨隆々の男の容姿をした愚神。ゾーンルーラー。1番大きなスタジオにいます。
【物理攻撃・命中・生命高。回避がやや低いが、その他は平均】
【溜(リィウ) 力を溜め、次の物理攻撃の威力を格段に上昇させる】
【強(ジィァン) 5ターン、物理攻撃力上昇】
【墜(ヂュイ) 物理攻撃命中時追加で魔法威力攻撃。攻撃を受けた部位から凍結し、魔法防御判定勝利でBS拘束付与】
【全ての能力重複可能】
・【デクリオ級従魔薄(バオ)x4】
【手の平サイズの蜘蛛型従魔】
【自身の戦闘能力は全くないが、「3分、半径15m範囲(球形)内の従魔・愚神の物理攻撃・防御上昇」という不可視の支援結界を張る能力を持っています】
【スタジオ内に紛れており、見つけるには特殊抵抗判定に勝利する必要があります】
・ミーレス級従魔焔(イェン)x16
真っ赤な小鳥型従魔。高くは飛べないものの飛行能力があり、移動力が高い。
燃(ラン) 射程1~7。単体攻撃。火の玉による魔法攻撃(発火・延焼能力はなし)
●NPC情報
・蒼 星狼、デイ・ブレイク
指示がなければ従魔焔対応。
・一般人
ドロップゾーンの内部にかなりの数の方が取り残されています。全員意識不明。
救助しながらの討伐は現実的ではありませんが、挙動は見られていると覚悟した方がいいでしょう。
●注意・補足事項
・警護中からの急行です。当初の警護に必要な範囲であれば、H.O.P.E.への申請品、現地用意といったアイテム装備にない物の準備は可能ですが、判定対象である為絶対準備出来るとは言えません。
・ドロップゾーン突入時に共鳴します。
・TV局内部は到着時には判明済です。
リプレイ
●速やかに
「予想通り監視カメラは生きておるの」
カグヤ・アトラクア(aa0535)は警備室のドアを施錠し、にやりと笑った。
(『どういうこと』)
「輸送機でも話題になったTV中継じゃ。中継するならカメラは多い方がいいじゃろう?」
(『襲撃を警戒して皆は家に閉じ篭ってるから、テレビを通じて人々に絶望を与えようとする性格の悪い敵だよね』)
「それもあるじゃろうが」
カグヤは自身の内のクー・ナンナ(aa0535hero001)へその先を続けた。
「一連の事件の首謀者はTV等の通信技術を理解しておるのじゃろう。機械を通じてこちらを見ているとわざわざ明かし、人を馬鹿にしておるのじゃ。ネットワークカメラが主流になりつつある今じゃから出来るのじゃろうがな。ま、大型商業施設やセキュリティが厳しい会社に展開される独立したネットワークやアナログのものに関しては拝借可能かどうかは解らんが」
(『出来るの?』)
クーとしてはカグヤの説明が俄かに信じ難い。
防犯カメラの類は設置されたら、この警備室で見られるだけではないのだろうか。
「こうした場所は警備会社に警備を一任しておる。オンラインで遠隔監視も行える。それを覗き見、TV中継とそれによる騒動勃発、己の力の誇示……わらわの見立ては一応このようなものじゃ」
(『そこまで見立てられるカグヤも相当性格が悪いことは解った』)
先進国、大都市、経済状況……条件はあるにせよ、警備は現場だけで行ってはいない。
クーにどう言われようとカグヤは構わず、建物内の状況を素早く把握、指示を振り分けていく。
「警備室が施錠されていないことは不幸中の幸いだったか」
(『警備員が施錠せず逃げてH.O.P.E.への通報を優先させたのは、己を弁えてのことだろうね』)
無月(aa1531)は共鳴したジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)と共にカグヤの指示を受けて動き始めていた。
人が集まり易い食堂には人がいるだろうと見越して移動中にカグヤからそれを裏付ける連絡が来たばかり。
「人の命を遊戯の駒としか考えぬその思い上がり、見逃す訳にはいかん」
通報した警備員は見捨てて逃げたことを自責しているという。
が、良心の呵責はあろうとその判断は正しかった。
(『そうして託してくれたんだから、皆を助けてその傲慢な鼻をへし折らなきゃ、ね』)
ジェネッサへ頷き、無月は無心で食堂へ急行する。
到着した食堂は規模が思ったより大きく、人々が意識を失って倒れていた。
頬を軽く叩いて見るが、意識が回復する様子はなく、無月がカグヤへ確認を取ると、非能力者はドロップゾーンではブレイブナイトのリンクバリアでもない限りはまともに行動を取ることは難しく意識を失っているのならライヴスの消耗が考えられるとのこと。
(『急行していても時間が全く経っていない訳じゃないからね……』)
「手遅れではないが、長時間は危険だ」
ジェネッサへ重々しく返す無月。
「来たか」
無月がカグヤの連絡を受けて立ち上がる。
他の場所にいる一般人を守りに行っているエージェントが駆けつけるにはまだ遠い。自分が対処せねばなるまい。
(『食堂だから入り口さえ守れば中は入れないよね』)
「命に代えてもここを通す訳にはいかない」
ジェネッサに応じた無月は2体の真っ赤な小鳥の従魔、後の識別名『焔(イェン)』を射抜くように見つめた。
●最短を狙え
愚神に対応する者は従魔がいないルート指示を受けながら走っていた。
「下手な言動はてめえの首を絞めることになるってか」
「全くだな」
五々六(aa1568hero001)へ応じたのは雁間 恭一(aa1168)だ。
獅子ヶ谷 七海(aa1568)と共鳴している五々六は荒事に向いていない彼女より身体の主導権を得ているが、姿形自体は七海である。
(『別に愚神、従魔を斬り倒せば良いだけであろう?』)
(馬鹿。外から見てるだけの連中、それも地位がある連中のお気楽さを甘く見るなよ)
マリオン(aa1168hero001)は、いつもと何が違うのかとばかりに恭一の内で声を上げる。
「まず行動。ああすれば被害が減った、あんな所で戦うから避難が遅れたとか、グラス片手に批評会が始まるだろうな」
(『どうでも良いな』)
マリオンからすれば何を気にしているのかといった所なのだろう。
H.O.P.E.だけが寄る辺ではない。
居辛くなれば、ヴィランズなりどこかの企業なり寄るべき湊を探せば良いだけ。
(それすら叶わないかもしれないと言ったら?)
五々六は、下手な言動についても首が絞まるので注意すべきと輸送機の中で言った。
それで恭一も気づいたのだ。
(広州は陽動であると言われている。下手な言動をすれば、香港九龍支部の職員総出でクレーム対応、戦いどころじゃなくなる)
香港の戦いは広域だ。
エージェント達が戦えるように職員もバックアップしてくれている。彼らにとっても戦い。──恐らく、真の狙いはそこだ。
残虐な光景を見せる為だけにTV中継をするのではない、やはり能力者も危険な隣人であるという意識を植えつけ、H.O.P.E.そのものを揺さぶってきている。
「面倒なことを」
五々六の吐き捨てとマリオンの言葉は偶然か一致し、恭一が鼻に皺を寄せる。
それに気づかない五々六は七海の呟きに応じていた。
(『……どうせ、猫かぶりは得意なくせに。ね、トラ。それとも、かぶってるのは羊の皮かな』)
(見世物にされるってんだ。むしろパンダだよ)
その呟きに関する七海の感想はさておくとして、スタジオが近づいてくる。
真壁 久朗(aa0032)の顔が一段と引き締まった。
通報の為に逃げた警備員とは違い、近寄ってしまった為にその命を散らした局内スタッフの死体が転がっているからだ。
自分達が到着する前に起こってしまった犠牲とは言え、それらを許容する程真壁久朗という男は割り切りのいい性格ではない。
(『……一撃です』)
セラフィナ(aa0032hero001)がぽつりと言葉を漏らした。
かなり高い攻撃力を持っているのか、その死体は無残の一言に尽きる。
「俺達もこうするということ。……俺達ごと見世物にしようってことか」
呟いた言葉は押さえられているが、静の声には激しい動を伴う響きがあった。
(『レミアさんも言っていましたけど、クロさん、格好悪い所を見せられませんよ?』)
「ああ。解っている」
セラフィナへ久朗は応じた。
「俺達が何者であるのかを観せてやる時だ」
だから、俺は諦めない。
スタジオへ飛び込むと、血と死の臭いがスタジオに漂っていた。
既に手遅れとなっているスタッフもいるが、人質として生き残っている者もいる。
(『何て、ことを……』)
ナハト・ロストハート(aa0473hero001)の声が怒りに震える。
この光景は、ショッピングモールでの襲撃と似て非なるものだ。
「バージョンアップという主張か?」
ヴィント・ロストハート(aa0473)が感情のない声で呟く。
ナハトは逆にこれを危険だと判断した。
(『やり過ぎないように注意して。それも狙われてる』)
凶祝と名乗ったという愚神の情報は警備員から寄せられている。
輸送機で久朗が愚神の外見、言動、どこを目指して歩いていこうとしたかを確認している為、間違いないだろう。
「これでは興醒めだ……。ショーにせよゲームにせよ、見る者を惹きつけなければ、それはただの自己満足でしかない」
「さてな、小僧」
ヴィントの注意を引く為の軽口にも等しい挑発は受け流された。
と、五々六が前へ進み出た。
「我が名は灰獅子。矜持なき野良犬でなくば、御身も名乗られよ」
(『……えっ、なにそのキャラ』)
(やめろ。俺も恥ずかしいの我慢してんだ)
外見と言動が一致していない。
それを誰よりも実感したような言葉だ。
が、かつて、その世界で『そう』在った男は表面上取り繕う必要性と有用性は不本意でも心得ており、それ故にそう振舞う。
愚神は乗ったのか乗っていないのかは不明だが、寄せられた情報と一致する名を口の端に乗せた。
「凶祝、とでも名乗っておこうか」
「わざわざ待ち構えていたということは何か目的があってのことか?」
久朗が、問いかけてみる。
目的自体は既に推察が出ているが、TV中継であるなら、その目的を喋らせることで足元の火を阻むことが出来るのではないか。
愚神の罠を逆手に取ればいい。素直に飲み込む必要などない。
そう言ったのはカグヤだったが、久朗にも頷けるものだった。
「祝いに来た、とでも言おうか」
「祝いに」
「貴様らの凶事を!」
その言葉と同時に、凶事が襲い掛かってきた!
機材の合間、恭一と主導権を交替したマリオンは愚神以外にも何かいないか見回す。
「スタジオ天井付近に赤い鳥がいるな。なら、他も疑った方がいいだろう」
恭一は視線の動きで天井付近の照明の陰にいる焔へ注意を促した後、遮蔽物の合間から流星の如き光弾を射出する。
攻撃動作に入っていた凶祝の側面に当たると、それに合わせて焔が4体、急降下してきた!
●今は全力で
「デビューにしては微妙よねぇ」
「あら、わたしは好機だと思っているのよ」
志賀谷 京子(aa0150)の呟きに薄く笑ったのはレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)だ
人数が多いが場所的に守り易い食堂を担当した無月とは異なり、彼女達は局内部に点在する人々の安全確保とカグヤより伝え聞く従魔の討伐に動いている。
「緋十郎もここに来るまでの人間達の表情を、何かに怯えている、心安らかとは言い難い表情ばかりだった……そう言っていたわ」
でも、とレミアは口の端を上げた。
「相手はわたし達の挙動を世間に流し、足元に火をつけようと目論んでいる……相手に合わせてダンスを踊ってあげる必要などないわ。わたしたちという『ヒーロー』の存在を知らしめてやればいい。何故なら、わたしたちがやるべきことは何があっても変わらないからよ」
「そうじゃの。わしらが揺さぶられるのを愉しみにしておるなら、尚のこと揺らいでおられん」
「……この前も思ったんだけど、似合わないわよ」
蒼 星狼(az0052)がレミアへ同意すると、レミアがその顔を見る。
「仕方ないじゃろ。この内にはジジイがおるって……ジジイはうるさいのぅ」
共鳴すると、彼は自身の英雄デイ・ブレイク(az0052hero001)の影響が出てしまい、口調が彼のようになってしまうらしい。
容姿の変化こそ瞳の色がデイと同じになる程度だが、韓国の従魔討伐任務でも一緒だったレミアは気になっていたようだ。
「……星狼さんは共鳴してなくても顔と中身あまり一致してないから大丈夫だよ」
(『からかってる場合じゃありませんよ。来ました!』)
京子の響きにからかいを感じたアリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)は、前方から飛来する赤き影に気づいていた。
「相手の思惑に乗るのは面白くないものね?」
(『ええ。つまらないと思わせる位でいきますよ!』)
悪趣味なダンスのパートナーになってやる必要などない。
「3体……無月さんが2体交戦中、カグヤさんの話によれば、8体局内で確認、だったね」
京子は呟き、トリオを発動させた。
接近されるのに猶予があると15式自動歩槍「小龍」 へ変更していた為、焔へは攻撃される前に先制することに成功。
レミアに続き、星狼が倒れてはいないがだいぶ弱ったと言っていい焔へ向かっていく。
その瞬間、焔の目が不気味に煌くと、レミアと星狼それぞれに火の玉が襲い掛かった。
「……へぇ、いい度胸しているわね。ねぇ、緋十郎?」
(『発火してないなら、燃え移る訳じゃないが』)
レミアの呼びかけに応じたのは、共鳴して主導権を彼女に渡している狒村 緋十郎(aa3678)だ。
疲労感や痛みは9割緋十郎が引き受けているのだが、緋十郎は別のことを気にした。
(『服が燃えたらどうするんだ』)
「あら、緋十郎にしては中々いい心掛けよ」
緋十郎が何故そう言うかについては理解はしていないが、彼女なりに良い心掛けと受け取り、直情的な彼の影響を受けて好戦的な笑みを口に浮かべた。
「誰に歯向かっているか教えてあげるわッ!」
レミアは更に接近し、漆黒の瘴気が腕にまで及んだ緋色の付け爪で空気ごと自分を攻撃した焔を引き裂く。
その側面では星狼の叩き潰す目的であろう大剣が攻撃を繰り出して仕留め、最後の1体は京子が追撃を許さないとばかりに仕留める。
「3体討伐よ」
レミアが連絡を入れている間に京子と星狼が監視カメラがないトイレを覗き、救助者を発見、近くの楽屋に放り込んでドアを閉めた。
「男性トイレは覗き難いから、助かるよね」
(『別行動にしなかったのはそういうことだったなんて……』)
「躊躇している場合じゃないし」
アリッサに応じながら、京子は別の楽屋を覗き込み、人がいることを確認してドアを閉める。
この後のフォローは無月に任せることになるだろうが、意識がない者は焔に見つからないよう隠し、寝かせておく。そうして討伐を急ぐことで本当の安全を確保するのだ。
心苦しいが、時間を掛けたら全てを護り切れない。
自分が何をすればいいのか冷静に考えなければならない。
京子は愚神を食い止めるべく先行した仲間へすぐに追いつくという言葉を守る為、今は自分がすべきことを考える。
それが欲張りな本気というもの。
(『すまない。今は』)
(今はその時じゃないわよ)
レミアが緋十郎へ強く言い放つ。
(わたしは敵が気に入らない。緋十郎は人々を護りたい。その為に為すべきことを為しましょう。行くわよ!)
カグヤの通信を受け、彼らは局内の焔を討ち、人々を護る為に走る。
●討伐せよ
「局内は順調な討伐じゃ。わらわはひとつ気づいたことがある」
焔討伐と人々の安寧確保が順調であるのを確認するカグヤがひとつ呟いた。
「奴らには手がないのじゃ!」
(『見れば判るよ、そんな……そっか。鳥なら引き戸はともかく、開き戸は開けられないね』)
「敵の姿形によるじゃろうが、あの鳥は飛べる分そうしたマイナス点がある。そこにいると判明しなければ、凌げるということじゃ」
カグヤはにたりと笑い、スタジオでの戦いに早く合流出来るよう画面を見やった。
五々六が喉に詰まる息を吐き出し、凶祝を見る。
久朗と交替で敵を引きつけ、時間を稼ぎつつ、現在ヴィントとマリオンが焔の討伐に動いているが、こちらは凶祝の足を止めねばならない。
(思った以上に攻撃力が高い)
ケントゥリオ級の中でも物理攻撃に長けるタイプであるのだろう。
が、時間を稼いでいると見越され、相手もこちらとの会話中に準備していたのか、初手の攻撃が異様に重く、また、攻撃の受けに使用したディフェンダーから氷が五々六へ一気に走り、その身を拘束しようとしたのを受け、久朗とすぐに交替して対応に時間を割いた。
まともに喰らったら、物理防御力が低い者はひとたまりもない。
(『クロさん、スタジオの隅に何かいます』)
(ああ。それと、俺のちょうど真横の陰にもいる)
凶祝の攻撃を次に受ける久朗も単に攻撃を受けるだけの為に前へ出ている訳ではない。
相手を知る為に前へ出ている。
その合間もセラフィナが周囲を見、恭一がいる遮蔽物とは対の方向に何かがいることに気づいたのだ。
鳥のようなものではなく、蜘蛛にしては大きい蜘蛛……1体だけではない。
が、久朗自身は凶祝の対応を優先しなければ、仲間の到着までに状況を整えることが出来ない。
余所見をしていられる程物理攻撃力が侮れる相手ではなく、全力で阻む必要がある。
(『クロさん、そろそろ』)
(ああ)
久朗はダメージの嵩みを感じ、五々六と交替。
リジェネーションを発動させ、治癒しながらも蜘蛛の従魔、後の識別名『薄(バオ)』を見つけ出すべく視線を走らせた。
「高く飛べないが移動力は高いか」
マリオンは分析しながら攻撃続行。
焔は天井、正確に言えばそこに設置されてある照明から降下後、再度同じ高さにまで上昇していない。
が、高度は取らないにせよ、人質付近を旋回するように飛び、攻撃をしてくる側にプレッシャーを与えてくるかのようだ。
(『慎重に。引き離して攻撃する位で』)
「ああ、解っている。奴らに自我はない。それを利用すればいい」
ヴィントがマリオンの攻撃を回避しようとした焔へ狙いを定め、叩き落とす。
距離のある攻撃手段を持っている為、攻撃を喰らって負傷しているが、強さ自体はミーレス級といった所か。
脅威かどうかで言えば、移動力がある、遠距離攻撃手段があるという点では面倒だが、それだけだ。
「全部で4体。蜘蛛の従魔が凶祝を囲むようにしている」
「……その配置からして支援系だろう」
久朗の声を聞き、マリオンが焔の対応を一旦ヴィントに任せる形で久朗が弾き出した位置へ飛び出した。
1回で、決める。
凶祝の目の鼻の先であるが、マリオンは守るべき誓いを発動させた。
「囮となる術を持っているか」
凶祝が言葉を発した時には薄対処にヴィントが地を蹴っている。
目指すは最寄りの薄。
戦況が動く為、久朗と五々六が凶祝を好きにさせまいと攻撃に備えた。
今までの戦闘において遠距離攻撃も範囲攻撃も見せていない。恐らく近接の物理攻撃のみだろうと思うが、断定は命取りであるし、その近接の物理攻撃の重さが問題だった。
久朗はこれまでの交替の間にリジェネーションを使い切るレベルであったし、五々六もチョコレートに続き、久朗からケアレイを受けている。
ケントゥリオ級で物理攻撃が高く、恐らくそれを高める能力もあると推察出来るが、それ以上の仕掛けがあるとするなら、この蜘蛛の従魔の能力である可能性が高い。
「時間稼ぎをこれ以上許すつもりもない」
その言葉と共に五々六へ苛烈な攻撃が叩き込まれた。
溜め動作なしであった為かヴィントが薄を倒した為かは不明だが、多少被ダメージはマシになったようだ。それでも、高い攻撃力であることに変わりはなく、久朗は最後のケアレイを五々六へ発動させる。
その間にも戦場は動き、まだ待機していた焔4体が一斉降下、ヴィントへ集中砲火を浴びせた。
個々が大したことがなくとも纏めれば十分脅威、ヴィントの顔が歪んだその時だ。
「味方のピンチに颯爽と現れるヒーロー参上!」
カグヤの声と共にヴィントの傷が癒えた。
彼女がここにいるということは!
「状況は!?」
「従魔が見ての通りだ」
マリオンが飛び込んできた京子へ応じながら、薄へ叩き潰すような一撃を浴びせる。
そのマリオンへ凶祝が迫ろうとするのを、久朗が前へ出た。
「させるか」
「小賢しい」
フラメアを突き出す久朗を強烈な一撃で叩き伏せた凶祝の目が驚愕に見開かれる。
「させるかと、言った筈だ」
久朗のダメージの色濃いその声とほぼ同時にレミアのストレートブロウが凶祝へ吸い込まれていた。
レミアは敢えて見栄えのある登場が好ましいと考え、久朗へ自分の接近をその背で隠すよう依頼をしたのだ。
無月へのフォローへ最も背が高い星狼が回っており、次いでは久朗と恭一になる。位置的に久朗となり、確実な手として、久朗はレミアの策を守り抜いた。
「もう大丈夫よ。何故って? ……わたしが来たからに決まってるじゃない!」
レミアは吹っ飛ばした凶祝へ向けて笑って見せる。
局内の従魔との2度の戦闘でチョコレートは消費、カグヤからもケアレイを受けていたが、そのようなことは微塵も見せない。
凶祝が体勢を整えている間に京子が焔を確実に仕留め、無月へもケアレイをしていた為ヴィントへのケアレイが実は最後だったカグヤがケアレインを発動、その傷を癒していく。
「こちらも治癒完了だ」
久朗がカグヤへケアレイン発動を告げる。
負傷を残したまま戦うには物理攻撃力が高過ぎた。
「余の邪魔をするとは……」
(『おい! そこの機材の陰には人がいるぞ!』)
マリオンが凶祝へ一般人の人質も構わず攻撃しようとしたが、内の恭一が口煩く止めた。
実は先程から、一般人を巻き込みかねない攻撃については、恭一が止めに入り、断念していたりする。
が、それ自体が隙になり、凶祝から狙われるが、五々六が攻撃を仕掛け、反撃を受ける代わりに恭一から目を逸らさせる。
「どんなに強かったとしても無駄よ。わたしたちは負けないもの」
レミアが敢えて口に出し、そこから総力戦が始まった。
薄を全て倒しても、強力な攻撃手段を持っていることに変わりなく、能力を組み合わせて爆発的に高めており、これを喰らうとかなりのダメージになるのだ。
従魔の支援は確実だっただろう、一撃で膝をつくレベルではなくなったが、それでも脅威には変わりない。
最終的に恭一のライヴスシールドで攻撃を阻んでいる間に京子のテレポートショットで隙を作り、そこから一気に流れた。
テレポートショットで凶祝が狼狽している間にヴィントとレミアがトップギアでその力を高め、更にマリオンが守るべき誓いで注意を引き、そこを久朗とカグヤがわざと回避させる攻撃を繰り出した。更に京子のストライクで追い込んだ先でドレッドノート全員による疾風怒濤を叩き込むと、やっと凶祝は倒れた。
「これはダメージ残るか」
マリオンから主導権を交替した恭一が抵抗凄まじかった攻撃を思い出して嘆息。
久朗とカグヤの最後のケアレインは一般人への延命措置に使用されることより、残る治癒手段は五々六のガレット・デ・ロワ。
けれど、被害は最小限、面倒な介入はないだろうと恭一は天井を仰ぎ見た。
●揺さぶりの嘲笑
「どんなに不利な状況でも、敵に屈しず立ち向かうのが俺達だ」
(『抗いますよ、それがH.O.P.Eですから』)
呟くように言った久朗はすぐにスタジオ内の人々の負傷を確認し、焔によって痛めつけられているが死んでいない人々へカグヤと共にケアレインで癒して延命処置を取った。
京子が病院搬送の手配を整えており、それを見ていたレミアがカメラを見る。
「愚神よ、畏れ慄きなさい。広州の平和は吸血鬼の王女たるこのわたし、レミア・ヴォルクシュタインが護るわ!」
故に只人はもう何人たりとも手出しはさせない。
それを見ていた恭一はマリオンへぼそっと言った。
「ああいうのもくだらねぇ批評会回避には必要なんだよ」
「貴様の口煩さには慣れておった積りであるが、限度があるぞ」
「後にしてくれ」
変な放送されたくない。
自分の首が絞まる可能性を考慮している五々六は特に発言せず、ケアレインで治癒を終えたカグヤと共に局内の調査に乗り出しに出かけたようだ。
カグヤが言うにはTV中継を見るなら、介入の痕跡が考えられる、とのことで。
この決着の最後まで見ているならば、ということらしい。
「……痕跡はないようじゃな」
「そういう能力を自分が持っているか、配下が持っているかのどちらかだろう」
「じゃろうな」
調べ尽くしてそう結論づけたカグヤへ五々六がそう言うと、痕跡がないことが痕跡と結論づけ、その悪辣な真意に嗤う姿を泣き喚く姿にしてやると口の中で呟いた。
「人の命を弄びし愚神よ、その驕りある限り貴方達が人に勝つことは無い。いかに強大な力を持とうとも、魂の、想いの強さはその力を凌駕するからだ…!」
「心の痛みが解らないキミ達では、真の強さは理解出来ないってことだよ」
無月とジェネッサは今も見ているであろうその首謀者を睨み、
「さて……恐らくこれを見ているだろう愚神共。貴様等のくだらない遊びに付き合ってやるから、精々俺を愉しませて見せろ。俺に苦痛と死の恐怖を刻み付ける位の絶望を与えてみせろ。狩られる為に存在する獲物でも、その程度の事は出来るだろ?」
ヴィントは狂った笑いを向ける。
いつか狩られて糧にしてやるという布告でもあった。
その布告には、返礼があった。
香港九龍支部に戻ったエージェント達は、カメラに向けた言葉の一部が動画サイトに流されたことを知る。
ヴィントが愚神に向けた言葉、冒頭の一言を削除した、彼ら的には都合よく編集した言葉を言い放ち狂笑を浮かべる動画への問い合わせが来ているらしい。件数的には深刻な数でもなく、火と言うには及ばないらしいが。
「随分丁寧な返礼で」
生中継の放送よりも信憑性はなく、削除もされたが、いたちごっこになる確信を抱いた恭一はそう感想を漏らす。
レミアがアップロードされたというその動画の再生を見て、目をすぅっと細めた。
「わたしをそんなに怒らせたいのかしら」
その横顔は美しい憤怒であり、緋十郎が状況も忘れて見蕩れていたが、彼女は知らない。
何も知らぬ人はただ、揺さぶりの嘲笑に翻弄される。
それでも尚、希望は希望の名の下戦うのみである。