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調査

恋は劇薬

高庭ぺん銀

形態
ショートEX
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2017/05/29 15:00
完成予定
2017/06/07 15:00

掲示板

オープニング

●許されぬ恋
「おにいちゃん、好き! わたし、おにいちゃんのことを愛してるの!」
 少女は長い髪を振り乱し、激情をぶつける。踏みしめた河原の砂利が、驚くほど大きな音を立てた。
「落ち着け。お前と俺は血の繋がった兄妹だぞ」
 少年は冷静な声音でいう。彼女の想いに薄々感づいていたのだろう。気づかないフリをしていたのは、彼女を家族として愛したかったからか。だから冷静とは言っても、少年の声は決して冷たいものではなかった。
「俺は今の話、忘れることにするよ」
「どうして!? やっと勇気を出して伝えられたのに!」
 彼女は兄のことがずっと好きだったのだ。幼稚園の頃は「おにいちゃんのおよめさんになる」と言えば、誰もが祝福してくれた。「きょうだい同士では結婚できない」などという『イジワルな』男子たちもいたというが、彼女の気持ちは変わらなかった。
「それとも好きな人がいるの? わたしじゃおにいちゃんには釣り合わない?」
 鳶色の瞳に水の膜が張り、直ぐに決壊する。涙を吸った黒髪が白い肌に張り付く。兄は髪を払ってやると、妹の頭を撫でた。
(子供の頃に戻ったみたいだ……)
 もし戻れたならば彼は、妹にこんな思いを抱かせないよう振る舞えただろうか。いや、きっと無理だろう。彼もまた彼女を愛していたから。
「すぐに思いを消せとは言わない。そんなのはきっと無理だ。けど、いつかお前にもわかる日がくるから」
 そのときまで妹の感情を見て見ぬ振りし、あくまで兄として居続ける。それが彼なりの誠意であり、愛だった。
「嫌! ……そんなの嫌だよ!」
 妹は膝を折る。兄がセーラー服の肩に手を伸ばす。彼と同じ高校の制服。成績優秀な彼女が今の高校を選んだのも、兄と一緒に居たいがためだろう。
 嗚呼、ほんの数分前までは『兄離れできない妹』を可愛がる兄でいられたのに。彼は彼女の瞳の真剣さに、切実さに、そして自分の思いに気づいてしまった。
「諦めるくらいなら、死んだ方がマシだよ!」
「馬鹿なこと言うな!」
 叫んだ彼は、異変に気付き短く息を吸う。胸に飛び込んできた妹。腹部に深々と突き刺さる刃物。彼は自分よりも細い体に体重を預ける他ない。
「おにいちゃん、愛してる」
 悲劇の幕が下りる。美しい幕切れに、僕は思わずため息をついた。
 ……と。おや、ジュリエットにはまだ息がある。苦しいね。すぐに楽にしてあげる。

●連続『心中』殺人事件
「無理心中じゃない、だと?」
 刑事は不審そうに目を細めた。
「ええ、捜査は終わりです」
 整った顔立ちの若い刑事が答える。
「少年の腹部にはカッターナイフによる刺し傷。んで女の子の首は、ありゃ自分でやった傷だ。本当に事件性はないのか?」
「ありますよ」
 先輩刑事は狐につままれたような顔をした。
「西村さん、忘れていませんか。事件は事件でもこれは僕たちのヤマじゃない」
「H.O.P.E.か……。この状況で奴らの名前が思いつくかよ。ってことは、少年の死因も失血死じゃねぇな?」
「2名とも根こそぎライヴスを奪われて居ました。まったく、仕事のしにくい時代ですね」
「そりゃこっちのセリフだ。小野寺の坊ちゃんはクリエイティブイヤー後のお勤めだろうがよ」
 生意気な後輩は薄く笑うだけだった。
「という訳で、僕は海の上の秘密基地へ行ってきます」
「たまにゃあ可愛げあること言うじゃねぇか。秘密基地は男のロマンってな」
 もう一度わずかに口の端をあげ、彼は去っていく。西村の軽口に珍しく乗ってくれたのは、己の手で事件を解決できない悔しさを紛らわすためかもしれない。そう思うと、少しばかり親近感が湧いた。
「あの坊ちゃんがね。今日は雪でも降るかな?」
 若く聡明な小野寺刑事が死んだのは、H.O.P.E.への報告を終え、直帰する最中のことであった。彼の傍らにもまた、女の死体が転がっていた。

●認められぬ恋
「悪いが、僕は君のことを愛してはいない! こんなことは迷惑だ!」
「そんな、だってあんなに私のことを守ってくれたじゃない!」
 大丈夫、彼は照れているだけだ。運命的に出会った二人が結ばれないなんてあり得ないだろう! じれったいな。少しばかり、手を貸そう。
「うっ……」
 小野寺はめまいを感じたのか、地面に手をつく。四つん這いになった彼の状態を巻き髪の女性――百合が起こし、ぎゅっと抱きしめた。
「これでずっと一緒」
 突然訪れたキスは彼の心を別段揺さぶらなかったと見えた。――否、そんなことはない。頭がぼんやりしているのか、体に力が入らないのか、どちらかだろう。
 百合に覆いかぶさるようにして、小野寺は倒れこむ。頬に、耳に、冷たいコンクリートが触れる。もう片方の耳元には百合の吐息だけが届いて居るはずだ。その音は段々と弱々しくなり、やがて聞こえなくなる。それは彼が先に死んだからか、彼女が先に死んだからか、彼には分からないだろうけれど。
 また一つ、恋の物語に幕が下りた。
 しかし難儀なものだね。以前のようには満腹にはならない。僕の目も肥えてきたのかな? 次はもっと食べごたえのあるキャストを見つけるとしよう。

●無念
「あいつが仕事と恋愛を混同するやつとは思えんのだがな」
 小野寺のマンションの目の前。西村は屈み込むと、後輩の亡骸に手を合わせる。
(大先輩に頭を垂れさせるなんて、やっぱりお前は可愛くねえよ)
 死んだ小野寺の側に倒れていたのは、以前ストーカー被害にあっていた百合という女性だった。小野寺は事件の担当者であり、女性を殺そうと現れたストーカーを逮捕した張本人でもある。それをきっかけに交際が始まったとしても、何らおかしくはないのだが――。
「続けますね。死因は……」
 嫌な予感がした。女性刑事が報告するのを遮る。
「またライヴス、か?」
 彼女は頷く。小野寺と百合の死体には外傷や争った跡が見られなかった。まるで眠っているような死体だった。
「しっくりこねぇなぁ……」
 女刑事はその言葉をゴシップめいた意味に捉えたようだ。
「誰にでも秘密はあるものですよ。それよりこの『心中』の多さ、どう説明したら良いんでしょうか? 別に二人組を狙うメリットなんてないですよね?」
 訂正するのも面倒なので、話を進める。
「そうだな。愚神とやらには偏執的な奴も多いと聞く。だから……幸せへの嫉妬?」
「リア充爆発しろ、ですか? そんな馬鹿なこと……」
「わからねぇぜ? なんたって常識の通じない化け物だ」
 女性刑事は首を振る。
「やっぱり無理があります。『二人組の死者』の中には、兄妹や友人同士だっているんですから」
「何にせよ、俺たちの手からは離れた事件だ。俺たちは俺たちの仕事をするぞ」
 執念深い捜査で知られる西村らしくない言葉だった。どちらかといえば死んだ小野寺刑事の言動に近い。しかし、西村の強く握りしめられた拳に気づいてしまった女性刑事は何も言うことができなかった。

解説

【目標】
1愚神をおびき出す
2愚神の行動パターンや手口について調査する(愚神と会話する)

【補足情報】
1、二人組の死者が初めて出たのは1週間前。場所は浜辺。死因は溺死と判断された。身元調査の結果、駆け落ちした恋人たちであると判明。そのため無理心中、または自殺として捜査が進んでいた。
2、1の事件の後、二人組の焼死体が見つかった。死因は火災による窒息死。借金で首が回らなくなった夫婦であった。
3、ライヴス喪失による死者が出始めたのは3日前。1組目は兄妹。2名とも刺し傷があったが、直接の原因はライヴスを奪われたこと。
4、2日前、女子大学生2名が死亡。実家暮らしの学生が、一人暮らしをしている学生の家に遊びに来ていた。2名とも首にひもの跡があったが、直接の原因は3と同じ。
5、昨日(エージェントによる調査開始の前日)、小野寺がH.O.P.E.を訪問。その帰り、小野寺と百合が死亡した。死体は無傷で、争った後はなかった。小野寺は少数の友人に想い人の存在を打ち明けていたが、相手は百合ではない。


※以下、PL情報※

愚神:アポセカリー(Apothecary)
・少女趣味な衣服を纏った西洋人風の少女(外見13~14歳)。口調だけは少年のようで、かつ大げさ。
・イマーゴ級としてこの世界に現れ、現在はデクリオ級まで成長した。
・極端な恋愛至上主義。成就させるためなら手段は選ばない。
・共鳴さえしなければこちらに敵意は見せず、英雄との関係やお互いへの想いなどをしつこく聞く。彼女の周囲には自白剤のようなものが漂っており、想いを偽るのは困難。
 ※どんな答えを聞いても曲解し、能力者と英雄を恋愛関係だと思い込む。
・取り巻きの従魔はなし。魔法攻撃主体。ただし戦闘能力はごく低い。複数のリンカーで囲めば負けはない。

また『●許されぬ恋』『●認められぬ恋』はPL情報。PCに伝わっているのは被害者の身元と死因のみ

マスターより

高庭ぺん銀です。たまにはジメジメとしたお話を。
今回の調査においては、あえて愚神と会話し、質問攻めに耐える必要があります。パートナーとの会話や心情をたくさん書いて頂ければ幸いです。戦力差の関係上、戦闘についてはおまけ程度となります。
愚神の性格が性格(勝手に恋人認定)ですので、参加する英雄の選択にはご注意ください。

リプレイ公開中 納品日時 2017/06/06 20:29

参加者


  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 闇を裂く光輝
    レミ=ウィンズaa4314hero002
    英雄|16才|女性|ブレ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ

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