本部

【白刃】踊れ生者よ、朽ち果てるまで

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/11/13 23:15

掲示板

オープニング

●白き刃へ抗う為に
「総員、準備はよろしいですか?」
 映像で、音声で、出撃し往くエージェント達にオペレーター綾羽璃歌が声をかける。
「H.O.P.E.東京海上支部としては初の大規模作戦。それに伴い、今回皆様には別働隊として動いて頂きます」

 展開されたドロップゾーン。
 そこから溢れ出す従魔、呼び寄せられる愚神。
 別働隊はそれらを叩き、これ以上のゾーン拡大を防がねばならない。

「大規模作戦の成功……アンゼルム撃破の為にも、皆様の任務遂行が必須となります。
 ——どうか皆様、御武運を!」

●朽ち晒せ、その浅ましき屍を
 怒号、悲鳴、絶叫。叫び声と名の付くものが、その空間を支配していた。
「増援はまだか?!」
「まだです!! もう暫く持ち堪えてください!!」
「クソがっ!!」
 戦線を守る戦士達が叫ぶ。叫ぶ男も、喚く女も皆血塗れだ。自らの血なのか、切り捨てた従魔の血なのか、庇った仲間の血なのか、それすらももうわからない。
 足掻く人間を嘲笑うかのように従魔は湧き出す。揺らぐ空間の向こう側には、只人の手には負えぬ異界———ドロップゾーンが広がっている。残念ながら未だその中に押し入る事すらできていない。後手後手に回る人間ができる事はと言えば、これ以上従魔の被害が増えぬよう、湧き出す従魔を狩る事だけだ。
『———朽ち晒せ』
「あん? 何か言ったか?」
「いえ、何も」
「そうかよっ!」
 湧き出す従魔に決まった姿は見られない。ただ不思議と、羽を持つモノも空を飛びはしなかった。上空からの攻撃がないのは不幸中の幸いであっただろう。
「クソッ、キリがねぇ!! いつまで続くんだよこれは!!」
「ドロップゾーンが消滅するまでですよっ!」
「マジレスは要らなかったかな!」
 妙に統率の取れた従魔達の相手をするのは、言葉通り骨が折れた。だが、頭を潰そうにも指揮官の姿が見えない。誘き出す為に何体もの従魔を切り捨てた戦士達は限界に近かった。
 その時。異界に繋がる空間がゆらりと揺らいだ。
『———朽ち晒せ』
 嗄れた音がする。現界を苛む異界の音が。
『———朽ち晒せ』
 声にも成らない音がする。それは、朽ち果てた髑髏(されこうべ)が謳う呪い唄。
『朽ち晒せ、その浅ましき屍を』
 飛べもしない翼を広げ、口のない頭で歪に嗤う。
 異界の果てより現れしそれは、この世を呪いし現界の鬼、それに取り憑いた浅ましき獣。
「っ、愚神かっ!?」
「違う、愚神はヒト型だ! あれは、あの化け物は、従魔だ!」
「チィッ、なんつープレッシャーだ。だが、あれが指揮官か。やっと引きずり出せたぜ……!!」
 現れた新手の姿に、満身創痍の戦士達が意気込む。だが、味方の負傷具合と反比例するように、従魔達の士気は上がっているようですらあった。
 戦線が押される。このままでは徒らに死傷者が増えるのみ。
 一旦引いてこの場を放棄するか。エージェント達の脳裏に「撤退」の2文字が飛来する。
「———増援です!! 味方の、味方の増援が来ました!!」
 その時、戦場に似つかわしくない明るい声が響いた。その報せを聞いた戦士達の瞳に気力が戻る。
「今まで戦っていた方々は退いてください! 後方で治療します! 動けない方はいませんか!? 救援に向かいます!」
 鬨が上がる。押されていた戦線が持ち返す。まだやれる、まだ戦える。負傷していない者などいない、疲れていない者などいない、尽きかけた気力を振り絞って、それでもまだ戦場に立っている。ここが破られれば背後は市街だ。避難勧告が出ているため住民はいないだろうが、それでも、市街に従魔を放つ訳にはいかない。
 退けぬ戦いがある。それが今だ。
『———朽ち晒せ』
「てめえがなっ!!」
「あいつさえ倒せば!!」
「はいはい、それは後続に任せましょうね」
 腕が、足が、使えぬままに武器を振るっていた戦士の襟首を掴んで無理矢理前線から遠ざけているのは、同じく今まで前線を守ってきた者達だ。彼らは増援———『あなた』達を一瞥し、勝利を確信し煌めく瞳で言葉なきエールを送る。『あとは頼んだ』と、唇だけで言葉を紡ぐ。
 そうしてぽっかりと穴が空いた場所に殺到する従魔を捩じ伏せて、『あなた』達は最前線に飛び込んだ。
「この世界は、俺達のもんだ! てめぇらなんざに渡さねえ!!」
 引きずられていく戦士の発した、鬨の声を背に受けて。

解説

ドロップゾーンから湧き出る有象無象の従魔を押し留めてほしい。
指揮するモノ———『朽ち果てた髑髏』を撃破すれば、従魔は統率を失って簡単に追い込めるだろう。

●情報
・従魔『有象無象の従魔軍』
様々な種類が入り乱れた従魔軍。イマーゴ級からミーレス級まで幅広く存在する。
姿に一定の法則は見られないが、アンデット系が多い。正確な数は不明。
頭を潰さないといつまでも襲いかかってくるようだ。体高は最大でも2メートル程度で、攻撃が届かない等の心配はない。
「組み付き」
エージェントに組み付いて行動を阻害してくる。殺傷力は無いが、食らうと拘束状態になる。
「噛みつき、切り裂き」
体の一部を用いて攻撃してダメージを与えてくる。

・従魔『朽ち果てた髑髏』
推定ケントゥリオ級従魔。ケントゥリオ級でも上位の強さを持っていると思われる。
朽ちた人骨に角が生え、山伏装束に似た服を纏い、歪に曲がった羽を持つ異形の鬼。その姿からアンデット系の従魔であると推察される。
周辺の従魔を掌握し、命令を出している様子。言葉のようなものを発しているが、言語を理解している様子はなく、意思疎通は不可能である。
体高は3メートル弱。従魔軍の中にいると頭幾つか飛び抜けておりかなり目立つ。武器だろう薙刀は持ち手より大きく無骨であるが、朽ちてボロボロなので斬撃よりも打撃力の方が高そうである。
「薙ぎ払い」
薙刀による薙ぎ払い。周囲の前衛を無差別に1D6人巻き込んで吹き飛ばす。
吹き飛ばされると自動的に戦線から離脱する。復帰する為に1ラウンド消費する。
「乱れ突き」
薙刀による多段突き攻撃。周囲のエージェントに1D6回攻撃を与える。

・戦場
生駒山の山裾にある扇状地。市街地まではそれなりに距離があるが、そう遠くはない。
戦場は開けているが左右は鬱蒼とした竹藪となっており、見通しも足場も悪く戦場にはならない。

リプレイ

●群れる屍に抗う生者
 酷く不快な音が辺り一帯を支配していた。何かを引き摺っているような地響き、地の底から這い上がってくるような呻き声、この世のモノとは思えない奇怪な悲鳴らしきモノ。それら全てが、この地を覆い尽くさんばかりにひしめいている、この世ならざる異界より湧き出でた従魔達の発する音だ。
「……」
 その殆どを虚ろな屍で構成された従魔軍を険しい表情で見つめているのは、未だ幼い相貌の少女、紫 征四郎(aa0076)。そんな紫に揶揄うような、案じているような声音で言葉を投げて、彼女の英雄ガルー・A・A(aa0076hero001)は彼なりに優しげな表情を浮かべている。
「怖ぇか?」
 相棒の言葉に、未だ険しい表情のまま、紫は痛々しい傷の付いた顔を横に振った。
「なら構えろ、行くぜ。ここで足を止めたら――」
「――救えるものなどなにもない。大丈夫です、征四郎に退く選択肢はありません!」
 力強く発せられた言葉を肯定するように、紫の身体を霊力の光が包み込む。光が収まったそこに現れるのは、幼かった体躯がぐっと成長し、桃色の目を戦意に煌めかせた青年の姿。
「朽ち晒せ、だって」
「屍の誘いか」
 いっそ楽しげな様子でほっそりと白い喉を震わせる木霊・C・リュカ(aa0068)に、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)は面白くなさそうな顔をして鼻を鳴らした。そんなオリヴィエの様子は見えていない筈だが、木霊はサングラスの奥に隠された紅玉と薄い唇でゆるりと緩やかな弧を描く。
「仲間にでもされちゃうのかな」
「……その前に、骨を全て撃ち砕けばいい。杯にすらならない骨なら、土に還すべきだろう」
 オリヴィエらしい回答に、木霊は肯定の代わりにとひとつ笑って共鳴を開始した。木霊の白く透けるようだった肌が、日の光に透けていた髪が、紅玉のような瞳が、オリウィエの色へと変化していく。
「……泣く程恐いならお家に帰りますか、ヲトヤ?」
 労わるように、奮い立たせるように、ミラグロス=カロン(aa0101hero001)は涙に滲んだ視界で震えながら、けれど湧き上がるような闘志を持って従魔を睨みつける鳳 響哉(aa0101)の顔を覗き込んだ。
「ざッけんなよカロン。……絶対引いてやるもんか……!」
 強く握った拳で涙を拭い、それでも滲む視界で敵を見据える。そう、過去のままの自分ではないのだ。伸ばした右腕がギチリと鈍い金属の音を響かせる。さあ、戦いの刻だ。右手を力強く胸元に引き寄せた鳳の姿は、もうあの頃の泣き虫なだけだった男の子ではないのだから。
「数が多いな……面倒だな……」
 いかにもやる気のなさそうな口調で溜息を吐き出した鋼野 明斗(aa0553)に、相棒のドロシー ジャスティス(aa0553hero001)が憤慨した様子で『シャキッと!』と大きな字で書かれたスケッチブックを押し付けている。鋼野は気怠げな表情にほんの少しだけ笑みを浮かべて、自分の英雄の頭に軽く手を置いた。
「はいはい、じゃ、やろうか」
 いつも通りの「お約束」を済ませて、鋼野はドロシーの色彩を身に纏う。
「……よぉ、ツラナミ、また会ったなぁ? 今回はでけぇヤマみてぇだからテキトーにがんばろーぜー」
「……あーあーどうも。ハイハイよろしく」
 へらりと片手を振る鯆(aa0027hero001)にちらりと視線をやって、ツラナミ(aa1426)が返すのは至極機械的な返答。往年の友人とまではいかないが、それなりに知己の間柄である者に対する振る舞いとしては些か相応しくないその反応に、鯆は一寸片眉を跳ね上げる。が、それもごく僅かの間だけ。若干諦め混じりの苦笑を浮かべて、鯆は己の相棒に視線をやった。
「……うげ、何あのでかいの〜……やだなぁ」
 そんな相方の視線を知ってか知らずか、ウサギのパペット「タナカ」をぱくぱくと動かして紅葉 楓(aa0027)が眉をひそめる。視線の先にいるのは、先達が引き摺り出した異形の鬼。
「まぁ、オレたちが倒せば問題ねぇよ!」
 まるで応えるかのようにクマのパペット「サトウ」を操って、紅葉は鯆へと向き直る。そう、己だけではない。ここには、頼りになる仲間がこんなにいるのだから。浮かび上がるのは陽の加減で艶やかな青を纏う黒い蝶に似た霊力の光。さあ、変わろうか。蛹から羽化する蝶の如く。
「にしてもなんなんだこの数は。死ぬほど面倒くせぇ……ハァ」
「……よくわからないお仕事より、マシ」
 苦りきった表情で溜息を漏らすツラナミに、38(aa1426hero001)が淡々とした表情でコクリと頷いて見せている。ツラナミはもうひとつ溜息を吐き出すと、ゆっくりと瞬いた。
「……そーね。ま、なんだ……手早く済ませるか」
「……うん」
 そうして開かれた瞼の下から、感情を削ぎ落とした紅い瞳が現れる。
「わしらが来たからにはもう大丈夫である! この程度の敵なぞすぐに倒してくれよう!」
 押し寄せる従魔軍に怯む事なく、泉興京 桜子(aa0936)は胸を張る。その幼気な瞳は勝利を確信してきらきらと眩しい程に輝いていた。
「そうね、桜子ちゃん。こんな無粋な奴らには、オシオキしてあげなきゃね☆」
 人ならざる耳と尾をゆるりと流して、ベルベット・ボア・ジィ(aa0936hero001)は口調に似合わずギラついた眼差しで眼前に迫る大軍を眼下に収めている。
 さあ、思い上がった有象無象に鉄槌を下そう。狐火を思わせる霊力の光をその身に纏い、泉興京は人ならざる耳と尾を閃かせて勝ち気に笑って見せた。
「……」
「おっ、今日は久し振りに真剣モード?」
 静かな表情で従魔軍を見据えていたアストリア(aa0055hero001)を、帯刀 刑次(aa0055)は気怠げな表情で見遣る。隠しもせず「めんどくさい」と口にする帯刀だが、アストリアは慣れているので気にしない。
「おなかがすくからはやく帰ろう!」
「なんだあ、珍しくやる気ねえな」
「正義とは、お腹のすくはなしはんだよー」
「ワケわかんねえよ……ま、お小遣いが待ってるからよお」
 口ではそんな事を言いながら、けれど満更でもなさそうな顔をして笑う。
「しょうがねえから。死人とひと踊りってなあ」
「ダンスっちまいな!」
 踊れ踊れ、その命が尽きるまで。
「うふふ、ねえクルオ、あれを見た?」
 幼い容姿に似合わない、けれど妙に板についた婀娜っぽい仕草でわらう天戸 みずく(aa0834hero001)。
「な、なに?」
 それに応えるのは、常人より立派な体躯を小さく丸めた黄泉坂クルオ(aa0834)。
「期待に満ちた、あの子たちの目よ!」
 どこか芝居がかった大仰な仕草で天戸が示すのは、傷付き倒れようとも闘志を消さない戦士たちの姿。
「……うん」
「滅茶苦茶にしたいわぁ……私達が失敗したら、どんな顔をするのかしら?」
「……」
 大きな仕草でうっとりと目を細める天戸の言葉に、その場面を想像したのか黄泉坂は苦しげに目を細める。
「なら、負けられないね、みずく」
「――そうよね。あなたらしくて反吐が出るわ」
 面白くなさそうに、けれどどこかホッとしたように、天戸は黄泉坂の手を重ねた。
「ライカ……絶対僕のそば、離れないでね……?」
 隠せない震えを抑えようとしてか、葛原 武継(aa0008)はЛайка(aa0008hero001)の分厚い軍服の裾を掴んで表情の乏しい顔を見上げている。
「無論だ」
 怯える葛原を安心させるためか、はたまた生来からの彼の気質か、厳格な軍人であるライカは自分より随分下にある相棒の目をまっすぐ見つめて大きく頷いた。

 さあ、鬨をあげろ。最後に立つのはいずくから来たとも知れぬ有象無象にあらず。
「この世界は、俺達のもんだ! てめぇらなんざに渡さねえ!!」
 引きずられていく戦士の声を背に受けて、エージェントは従魔の群れに飛び込むのだ。

●進め戦士よ、倒れ伏すまで
「吹っ飛べオラァ!!」
 真っ先に獣魔の群れに飛び込んだのは、赤い髪を雄々しく靡かせた紅葉だ。おぞましく蠢く屍の群れに怯む素振りなど見せず、横薙ぎの一撃を放って渦中に身を踊らせる。
「予定通り二手に分かれんぞ! あのデカブツに一発かましてやる奴はこの楓についてこい!」
 切っ先で、横っ腹で、時には柄で、力任せに大剣を薙いで従魔を跳ね飛ばしながら道を切り開く。目指すのは、虚ろな眼窩をエージェント達に向け、怨嗟の唸りを上げる異形の鬼。
 快進する紅葉に続くのは、成長した体躯を余す事なく用いて長い長い槍を携えた紫と、身の丈より大きな大剣を提げ意図的に共鳴度を引き上げている泉興京。
 数の多さに圧倒され、気がつけば足が震えている。それでも足を止めるわけにはいかないのだ。
『行けるか? 行けるな、聞くまでもねぇか』
「ええ、ええ! あなたに出会ったその日から、征四郎に怖いものなどありません! ここを通しはしません! 絶対に! 私の命が燃え尽きるまで!」
 己を奮い立たせる為。弱さを認め、乗り越える為。紫は声を張り上げる。
「そっちいっちゃだめです、よ!」
「邪魔」
 ひたすらに髑髏の鬼へと進む背中、それに追い縋ろうと顎を開く獣魔達。その横っ面に叩きつけられたのは、葛原とツラナミの放った強烈な一撃。
「では俺も始めさせてもらおう」
 ひしめく従魔の群れから少し離れた場所からは、木霊がスナイパーライフルを構えてスコープを覗き込む。狙うは、司令塔。だがその前に、ひた走る仲間の為に露払いを。離れた仲間と通信する為貸し与えられたインカムからは、耳が痛い程に戦場の熱気が伝わってきていた。
『醜い姿ね、クルオ。あれなら貴方の方がマシかもしれないわ』
「……かもしれない、かな。僕は強そうだしカッコいいって思うけど……」
 その巨体故に飛び抜けて開けた視界の先には、黄泉坂と同じように――否、それよりも尚巨大な鬼が、表情のない顔で戦場を見下している。それを「醜い」と称する天戸に、黄泉坂は同意しつつも首を傾げた。かっこいい、強そう、恐ろしい。聳え立つようなその従魔を言い表す言葉は無数にあった。
 だが、まあ、何にせよ「敵」だ。どれだけ恐ろしげな様相をしていようとも、やることは変わらない。
「打つよ、避けてね!」
 インカムは通信状態だったが、黄泉坂はあえて声を張り上げた。
 黄泉坂の掲げた炎のような杖頭から、ゾッとするような霊力を孕んだ風が吹き荒れる。ひしめく従魔を蹴散らしながら、可視化された幽霊を思わせるゴーストウィンドが髑髏の鬼を取り巻いた。
 が。
「あっ……!」
 一閃。その一振りで、髑髏の鬼は霊力の暴風を切り裂いた。
 表情など浮かぶ筈もない相貌に、どこか嘲りを含んだ色が乗る。
「あんなの食らったらひとたまりも……っ!?」
「確かにそうかもしれませんが、余所見とは余裕ですね、鳳くん」
 その巨体に見合った剛力を見せつけられて鳳が顔を青くする鳳に、それを隙と見た従魔が迫る。寸前まで迫った顎は、間に滑り込んだ鋼野がサーベルで受け止めた。
「あ、りがとう」
「いえ、次は間に合うかわかりませんので気を付けて」
 反射的に礼を言う鳳。軽い所作でサーベルの血振りをする鋼野に含むものは見られない。次の瞬間にはもう獲物へと刃を向ける鋼野が動いたタイミングに、鳳は気付けなかった。掴み所のない鋼野に束の間目を奪われたが、聞こえてきた剣戟の音にハッと我に返って得物を構え直す。
『負けてられませんね、ヲトヤ?』
「ああ」
 発破をかけるミラグロスの声に勇気を貰って、己の霊力を練り上げる。狙うは、一塊になって迫り来るおぞましき屍の一角。くっきりと浮き上がる兆しに気付く事なく進軍する従魔は、いっそ呆気なく炎にまかれて活動を停止した。
「ヒュゥ! やるねえ坊主」
 かなりの数の従魔を戦闘不能にまで追い込んだ鳳の手腕に、髑髏の鬼へと進む者達の背を狙う従魔を蹴散らしていた帯刀が口笛を吹く。インカム越しに聞こえた、照れ臭そうな誇らしそうな囁きに薄い笑みを浮かべて、躍りかかる有象無象を蹴散らす腕に力を込め直す。
『ダンスってなーい!』
「んな真正面からばっかりやってられっかよ」
 倒す為ではなく戦線を維持する為に行動する帯刀の動き方は、アストリアには不満なようであったが。
「なんか来るぞ気を付けろ!」
 後続に注意を投げかけられる紅葉の鋭い声。視界の先には、巨大な薙刀を腰だめに構えた髑髏の従魔の姿がある。まだ幾許かの猶予が見られる距離だったが、大事をとって進行速度を大幅に下げた。
 直後、先行していた紅葉の目の前スレスレを、肉厚な切っ先が掠める。
「――っ!!」
 思わず身を引いた紅葉の目端を掠めた、飛んでいく何か。その正体を、紅葉は一気に開けた視界で知る。
「なんという馬鹿力!」
「当たったらひとたまりもなさそうですね」
 己に向かって弾丸のように飛んできた従魔の体を避けて、若干引きつった笑みを浮かべる泉興京と紫。無理もない、それなりに巨体を持っている筈の従魔が塵芥のように吹き飛ばされたのだから。
「……派手にぶっぱなしてんな」
「ありゃあ近付くのも大変そうだ」
 飛んできた従魔という流れ弾を躱したツラナミと帯刀が露骨に顔を顰めている。
「あ、あんなに大きな従魔が……!」
 巨体が舞い上がる一部始終をバッチリ見てしまい、顔を青褪めさせる葛原。だが従魔を牽制する手は止めていない。小柄な体躯を生かして戦場を縦横無尽に駆け回る様は独楽鼠を彷彿とさせた。

『―――朽ち晒せ』
 罅割れた音が戦場を震わせる。意思持たぬ虚ろな屍が発する不快な音が。
『―――朽ち晒せ』
 分厚い刃が空を切る。轟と空気を震わせて、ボロボロに朽ちた薙刀が振るわれる。
『―――朽ち晒せ、その浅ましき屍を』
 表情のない鬼の顔が、壮絶な嗤みを浮かべた気がした。

●踊れ戦士よ、駆逐するまで
 遮蔽物の居なくなったその場所で、戦士と髑髏が対峙する。開けた場所にいる所為か、はたまた別の要因か、髑髏の鬼から感じるプレッシャーが増している気がした。
「……あの人達を、裏切らないためにも……みずく、力を貸して」
 実体を持たぬ暴風を容易く切り裂く異形。それに相対することに言いようもない恐怖が湧き上がる。だがここで退くことはできない。黄泉坂は己と共鳴している相棒に助力を乞う。
『失敗しても面白そうだし、今日はあんまり頑張らなくてもいいのよ?』
「まずは頑張るところから!」
『はいはい……』
 意地悪くクスクスと笑い、揺らがない黄泉坂に内側から手を貸す天戸。そうして放たれるのは、先程より数段キレの増したゴーストウィンド。一直線に飛び出したそれは、今度こそ髑髏の鬼の巨体を捉えた。
「かかった!」
「よし、もらった!」
 暴風に煽られ、鬼の巨体が揺らぐ。その不安定な身体に追い打ちをかけて、木霊の放った弾丸が吸い込まれるように着弾。衝撃にぐらりと傾ぐ巨体は、しかし倒れる直前で踏み留まった。
「……効いてる気がしないな」
「見た目相応に硬いようですね」
 インカムを通じて零された木霊の愚痴に、気合を入れ直す紫。
「……近くで見るとマジでデカいな」
『コツコツいこう!』
『いけ! そこだ! ぶっ潰せ!!』
 それだけで身の切れそうな風圧を生じさせる斬撃。それを掻い潜って持ち替えた槍を突き入れてはいるが、巨体に翻弄されて有効打が打てない。歯噛みする紅葉に、浮遊するパペット達が声援を送る。
「その通り、穿ち続ければいつかは倒れます。さあ、いつまで持ちますか!」
 叫ぶ紫の周囲に展開されたのは、霊力で形作られたメス。無数に存在するそれらは、猛威を振るう髑髏の鬼へと襲いかかり、その硬い外殻に突き刺さった。
 死者故に血は流れない。だが、異形の鬼に相応しい、どろりと濁った霊力が零れ落ちる。
「はっはっは! そのまま倒れ伏すがよい!」
 負傷に怯んだ髑髏の鬼、その足元に潜り込むようにして泉興京が斬撃を叩き込む。高められた共鳴を象徴するように霊力の光をまとった武器から繰り出されるのは、雑魚ならば問答無用で叩き伏せられる一撃。
 だがそれも、髑髏の鬼には片膝をつかせるに留まった。
『―――朽ち晒せ』
 ゆうらりと、鬼の巨体が薙刀を構える。不安定な体勢で繰り出されたそれは、それでも目を見張る程のエネルギーを内包している。
「っぐぅッ!?」
「カエデ!!」
 丁度、死角になる部分から振るわれた肉厚の刃が、紅葉の腑を抉った。
 不安定な体勢で繰り出されたとは思えない程に深々と突き刺さったそれは、無雑作に紅葉の腹から引き抜かれると、次なる獲物を求めて宙を彷徨う。ガタガタに刃毀れした薙刀は、紅葉の血に赤く濡れていた。
「カエデさん!!」
「楓くん!?」
「か、楓!!」
 紅葉と知己の間柄にあった面々が、悲鳴のような声音で紅葉の名を呼ぶ。声を張れないのか、インカムから掠れる声で「大丈夫だ」と返答があった。
 膝をついた紅葉に気を取られた紫と泉興京、だが隙を突いて繰り出された斬撃への対応に手一杯で気を回す余裕がない。
「回復します!」
 動いたのは鋼野だ。紅葉へと殺到しようとする従魔を牽制する片手間に、治癒の光を飛ばす。
『ツラナミ、あっち』
「……ああ」
 その様を見ていたツラナミは、背後から躍りかかる従魔を横殴りに切り付けて、インカムにも拾われない程小さな音で舌を打つ。
「カエデさん、大丈夫かな……」
「……あいつがあの程度でくたばるタマかよ」
「そう、だよね」
 治療を受ける紅葉に群がろうとする従魔を押しのけて、葛原と鳳は滲んだ視界を強引に袖口で拭った。
「っこの!」
 ぎり、と音が鳴る程奥歯を噛み締めた木霊が、振り上げられた髑髏の腕を狙って引き金を引く。真っ直ぐ放たれた弾丸は、横薙ぎの一閃を放とうとしていた薙刀をかすって地面を穿つ。虚ろな眼窩が木霊を見据えたが、距離が離れすぎている為手出しはできない。
「いってぇなくそったれが!!」
 紅葉が吠える。高まった闘志が霊力となって滲み出し、揺らぐ様がまるで陽炎のよう。
「よかった」
 その肉体を用いて従魔を抑えていた黄泉坂は、紅葉が立ち上がった事を確認すると、普段は柔和な光を湛えている瞳に闘志を灯した。それまでどこか控え目だった攻撃の手が、一気に過激さを増していく。
『―――朽ち晒せ』
 霊力の業火に焼かれながら、髑髏の鬼が薙刀を構える。突き出された切っ先は、けれどエージェントには一歩届かない。
「そう何度も当たりませんよ!」
「なんとも雑な太刀筋であるな!」
 ひらりひらりと舞うように、紫と泉興京は髑髏の鬼が繰り出す突きを躱していく。
 鬼の操る従魔軍は、時には文字通り体当たりでぶつかりに行く仲間の働きによってほぼ完璧に封じられた。
『――その、浅ましき屍を』
 それに焦れたか。その身に受ける多少の刃を無視して、ぐっと腰を落として薙刀を構える髑髏の鬼。明らかに何かを仕掛ける気満々の構えに、前衛を担う面々が踏み込みを止めて回避行動をとる。
 轟音。それは髑髏の足元が陥没した異音。次いで暴風。振り抜かれた巨大な薙刀から生じる衝撃波。
 最後に衝撃。全身を襲う叩きつけられたようなインパクト。
 気が付いた時には、目の前に青空が見えた。
 疑問。即座に状況が把握できない。泉興京は全身に風を感じながら目を瞬かせた。誰かが自分を呼ぶ声がする。身の内を揺さぶられるような声だ。どこかで聞いた事がある。どこだったか。
『桜子!!』
「!!」
 目が覚めた。直後、眼前に地面が迫る。体制を整えようとするが間に合わない。泉興京は最低限の受身だけとって地面を転がった。何体かの従魔を巻き込んで、土煙を巻き起こしながら。
『桜子、大丈夫!?』
「うむ。すまぬ、心配をかけた。もう大丈夫なのである!」
 従魔にぶち当たった拍子に口の中が切れたらしく、かなり濃い血の味がする。幾ら盛大に地面を転がったとてダメージは受けないが、従魔はそうもいかないらしい。唾液と砂利の混じったそれをべっと吐き出して、泉興京は素早く戦場を見渡した。
 戦地が遠い。その所為で従魔の姿も少ない。身体が軽い為か、かなりの距離を吹き飛ばされたらしい。幸い骨折等の重大な損傷は受けていないが、戻るには一苦労しそうである。
「桜子、大事無いか」
「小指の先ほどもないわ!」
 インカム越しに聞こえた木霊の声に元気いっぱいの返答を寄越し、泉興京は戦場復帰すべく駆け出した。
「なん、て、威力ですか……!」
 真正面から衝撃を食らったのか、息をするたび鈍く痛む肺を抑えて紫が呻く。自分は確かに、あの髑髏が繰り出した薙ぎ払いから逃れるべくバックステップで距離を取った筈だった。事実、振るわれた刃は紫まで届いていない。紫は己の目でその事実を確認している。だと言うのに。
 地面に尾をひく一本の細い溝。数メートルに渡り続いているそれは、紫の足元――地面に突き刺さった自身の得物から生じている。……横凪の一閃から生じた衝撃波でこの威力だ。
『……直撃したら……とは、考えたくねぇな』
「ええ、本当に」
 表情こそ見えないが、ガルーの苦り切った声はぞっとしない結果を彷彿とさせる。
「……怖い顔、だなぁ、ほんと……っ!」
「近くで見るとマジでデカいな」
 前衛2人が吹き飛ばされた穴を埋める為、髑髏の攻撃から逃げ惑っているのは黄泉坂と紅葉だ。吹き飛ばされた紫と泉興京が戻るまで、髑髏の鬼の狙いが他所に行かないようヘイトを集めている。大振りの動作は、ツラナミが従魔掃除の片手間に縫止を放って阻止していた。だが、それも急場凌ぎに過ぎない。
 それでも。
「……負ける訳にはいかないんだ。この戦場を支えてくれた人達の為にも、これからの作戦のためにも!」
 慣れぬ前衛をこなしながら、身を切り裂かれる痛みに怯えながら、それでも黄泉坂は戦いをやめない。
「いやー、派手に飛んだねえっと」
 組みついてこようと腕を伸ばす屍の頭を弾き飛ばして、帯刀が軽い調子で口を開く。口調は軽いが、攻撃の手は緩めていない。
「こりゃあチイっとばかし分が悪いかね」
 既に紅葉は満身創痍と言っても過言ではない状況にある。鋼野が治療を施しているが、残念ながら追い付いていないのだ。黄泉坂も頑張ってはいるが、基本スペックが後衛であるが故に今一歩及ばない。
「……しょうがない、行くか」
 帯刀とて無傷ではない。従魔に組みつかれた際袋叩きに遭いかけたりもしている。だが、少なくとも全身真っ赤に染まったまま髑髏の鬼に突っ込んで行っている紅葉よりはマシだ。
「へいへい、困ったことに下がる場所がねえもんで、おたくにヘバられるとまずいんだよねえ」
「何だ!? えっ!? 刑次?! ……さん?」
 紅葉を狙っていた薙刀の横っ腹を跳ね飛ばす形で乱入してきた帯刀に、面食らう紅葉。その反応に気を良くした帯刀は、薄い唇に笑みすら浮かべて紅葉を背後に庇う。
「刑次でいい。まあちょっくら下がってな、悪いようにはしねえよ」
 帯刀が前衛に加わった事で、乱れていた戦線が持ち直す。
 見渡せば、皆大なり小なり傷を負っていた。だが、髑髏の鬼にも無数の傷が付いている。いつの間にか額の角は欠け、背中の羽は毟り取られ、その様相は崩れ落ちる寸前。だが、その傷の数に比例するように、攻撃の苛烈さは増してゆく。
『悲嘆の河は渡らせてあげないわ。ミラもヲトヤも仲間もみんな死ぬ時じゃないの、今日はねっ』
「あと少しだ、もう少し動け、闘えッ…!」
『さあ弱音ばっかり吐いてる場合じゃないのよ!ほらほら敵さんが沢山です』
 まるで津波の如き勢いで押し寄せる従魔達。それに立ち向かう、涙に視界をけぶらせた鳳。
 もう少し、あと少し。終わりの見えた戦況に、萎えかけた闘志を奮い立たせる。
「紫征四郎、ただいまより戦線復帰します!」
『おいカエデ、死ぬんじゃねぇぞ、こっからなんだからよ!』
 片腕を庇いながら槍を振るっていた紅葉を、紫が放った治癒の光が包み込む。全快まではしなかったが、目に見えて動きが良くなる紅葉。
「ワシ、到着! もう先程のようにはいかぬのである! 覚悟せい、髑髏め!」
 ようやっと最前線に戻ってきた泉興京も、負ったダメージを感じさせない構えを見せた。
「……さあ、終わりにしようか。虚ろな遺骸よ」
 静かな足取りで、木霊が髑髏の鬼へと足を進める。その褐色の手に形成されるのは、木霊の霊力より生じた閃光弾。1歩、2歩、足を進める。従魔の蠢くこの場所で、確実に鬼の目を封じられる場所まで。
「――朽ち晒せ。行くぞ! 目を閉じろ!」
 成型されたそれを、力一杯振り被る。直後、閃光がこの地一帯を白く染め上げた。
 この世ならざる叫び声が迸る。それは、異形の鬼が発する苦悶の叫び。
「ゲホッ。さっきはよくもやってくれたなぁ!! これは礼だ! 受け取れクソ野郎が!!」
 全身傷だらけで、けれどしっかりとした足取りで、目を眩ませた髑髏の鬼へと走る紅葉。
「テメェの頭にもう一本、角生やしてやるよ!」
 これで決める。その一心で、防御をかなぐり捨てた一撃を放つ!
 パキリ。妙に軽い音を立てて、髑髏の額が砕けた。ズズン、と重厚な音を轟かせ、鬼の巨体が地面に傾ぐ。だがまだ、終わってはいない。
「ぅあっ?!」
 倒れる最中、髑髏の鬼が力任せに振るった薙刀の柄が、紅葉の腹に直撃した。巻き起こった風圧が、紅葉以外のエージェント達まで巻き込んで猛威を振るう。
「くっ……! これ程までとは!」
 踏ん張りが効かずに弾き飛ばされて顔を歪める木霊。涙目の葛原。既に泣いている鳳。
「カエデ!? 大丈夫ですか、カエデ!!」
「紅葉くん! 意識があったら返事をして! 紅葉くん!!」
 吹き飛んだ紅葉は黄泉坂が受け止めていた。だが、深手を負った紅葉は意識が朦朧としているのか、紫が呼びかけても黄泉坂が狼狽えても呻き声しか漏らさない。
「っこのッ野郎!!」
 木霊が――いや、オリヴィエが、動かない紅葉を見てキレた。常にない激情を迸らせて、幻想蝶から取り出したオートマチックの引き金を引く。こんな時でも正確な射撃は、薙刀を杖に起き上がろうとしていた髑髏の鬼の手から得物を弾き飛ばして見せた。
「これで、仕舞いである!!」
 最高潮に達した共鳴深度が齎す目を焼かん限りの霊力の光。力強いそれを纏った大剣を、泉興京は差し出されるように傾いだ鬼の首へと叩き込む!
『――――――――――!!!!』
 視界が歪む。そう錯覚してしまう程の断末魔が、髑髏の口から溢れ出る。さらさら、さらさらと音を立て、異形の骨が朽ちてゆく。最期にカランと場違いに軽い音を立てて地に落ちた長槍だけが、朽ち果てた髑髏が確かに存在していた証となった。
「……か、は」
「カエデ!! 気が付きましたか!?」
 紫の悲鳴じみた声に応えるように、紅葉が背を弓形にして咳を重ねる。紫の治療の甲斐あってか、傷は深いが命に別条はない様子。手足の骨にも異常はなさそうだ。
「……に、……てんだ。じゅ、まは、まだ、いるんだぞ」
「ええ、…………ええ、そうですね。ですが、カエデをこのままにはしておけません」
「そうだよ。紅葉くん、死にかけたんだから安静にしてないと」
「ちょっ!? 自分で、歩け……っ!!」
 思ったよりも元気そうな紅葉の様子に安堵の表情を見せる紫と、今にも戦い出しそうな様子に狼狽を隠せない黄泉坂。実際に起き上がった紅葉の体を、黄泉坂がいとも簡単に抱き上げて自由を奪ってしまった。それ以外の面々は、紅葉の無事を確認した段階で、指揮官を失い混乱状態にある従魔の討伐に向かっている。
「……正に烏合の衆か。楽な仕事で大変結構」
 連携もクソもなくただ向かってくる屍を容易く切り捨てて、肩を竦めるツラナミ。零された言葉通り、あれ程苦戦していた従魔達が、簡単に駆逐されている。
『ツラナミ。あそこ、いっぱい、いる』
「……ハァ、わぁったよ」

●踊れ生者よ、朽ち果たすまで
 今までの苦戦が嘘のように、瞬く間に戦線を押し返す。ついには防衛開始地点と、そこにあった拠点を取り戻すまでに至った。
「喜べ、諸君! この場は我々の勝利だ!」
 この場を指揮する立場の者が発した言葉に、大地を揺るがす勝鬨が上がる。
「はぁ、やっと終わった」
 その喧騒から逃れるように、携帯を片手に持った鋼野が木の根元に腰を落ち着けた。近くに座ったドロシーの頭を撫でてやりながら、本部に救護班要請の連絡を入れる。ドロシーが『子供扱いするな』と書かれたスケッチブックを掲げているが、まるっと無視されている。
「大丈夫ですか? お化けになっちゃったり、しないですよね……?」
 どこか怯えた様子でそんな問いを口にしている葛原。
「うん? そうだなぁ、なっちまうかもしれんなぁ」
「ええ!?」
「はっはっは! イルカさんがそうなっちまったら真っ先に武継ちゃんをおそっちまおうかな」
「や……ら、ライカー!!」
「ククッ」
 その驚く様が気に入ったらしく、治療を受けている鯆に遊ばれている。
「こ、こわかった……痛え……」
「ヲトヤったら顔がぐしゃぐしゃで締まらないんだから!」
 ミラグロスはずびずびぐすぐす泣きじゃくる鳳にご立腹のようだ。
「あれ? 響哉くんどうしたの? ……もしかして泣いてる? 大丈夫? お兄さん相談に乗るよ?」
「泣いてねぇ!!」
「そう? お兄さんはいつでも相談に乗るからね? 遠慮しないでね?」
 見えてはいないが声で鳳が泣いている事に気が付いた木霊が、オロオロしながら慰めようとして撃沈。寂しそうに首を傾げながらも退かない木霊に、オリヴィエが呆れた視線を送っていた。

 払った犠牲は大きい。出した損害は少なくない。けれど、大切な者は守りきった。
 掴み取った勝利に浸る戦士達の表情は、誰も彼も晴れやかなものであった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 違いを問う者
    葛原 武継aa0008
    人間|10才|男性|攻撃
  • エージェント
    Лайкаaa0008hero001
    英雄|27才|男性|ドレ
  • エージェント
    紅葉 楓aa0027
    人間|18才|男性|命中
  • みんなのアニキ
    aa0027hero001
    英雄|47才|男性|ドレ
  • エージェント
    帯刀 刑次aa0055
    人間|40才|男性|命中
  • エージェント
    アストリアaa0055hero001
    英雄|10才|女性|ドレ
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • エージェント
    鳳 響哉aa0101
    機械|18才|男性|攻撃
  • エージェント
    ミラグロス・カロンaa0101hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
    人間|19才|男性|防御
  • 見えた希望を守りし者
    ドロシー ジャスティスaa0553hero001
    英雄|7才|女性|バト
  • エージェント
    黄泉坂クルオaa0834
    人間|26才|男性|攻撃
  • エージェント
    天戸 みずくaa0834hero001
    英雄|6才|女性|ソフィ
  • もふもふは正義
    泉興京 桜子aa0936
    人間|7才|女性|攻撃
  • 美の匠
    ベルベット・ボア・ジィaa0936hero001
    英雄|26才|?|ブレ
  • エージェント
    ツラナミaa1426
    機械|47才|男性|攻撃
  • そこに在るのは当たり前
    38aa1426hero001
    英雄|19才|女性|シャド
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