本部

誓約と神と

鳴海

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/09/29 13:36

掲示板

オープニング


 リーンゴーン、リーンゴーン――――

 都心から離れた小さな町に、こじんまりとした協会がある。小高い丘の周囲には何もなく、その日は雲一つなく空が晴れ渡っていたこともあって、緑の芝生や真っ白な協会は色鮮やか。最高の結婚式日和だった。
 今日この日、二人は神に祝福され長い生涯を共に乗り越えるようにと、送り出される。
「良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も……」
 神父がそう口上を並べ、新郎も新婦も穏やかな顔で見つめ合い。うれしくてたまらないという表情をお互いに向ける。
「共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い……」
人で埋め尽くされた長椅子からは、柔らかな視線と暖かな空気が向けられていた。
 この場にいる誰もが、二人の長い苦難の道を知っているからだ。二人は何度も別たれ、何度も出会い、そして不遇な環境をものともせず、お互いを愛し続けることを誓い、この日を迎えている。
「他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、お互いに添うことを誓いますか?」
 誰もが祝福するその婚約は、しかし一転して打ち砕かれることになる。
「誓います」
 そう二人が答えた瞬間だった。
 神父の口元が吊り上り、それまであった穏やかな表情は消えうせた。
「今、神に誓ったな!」
 そう言って神父はその手に持つ聖書を無造作に床に落とした。そのページには血文字で『Guilty』と書かれており、それを見た来客たちはざわめいた。
「何をふざけたことを言ってるんだ、式が台無しじゃないか?」
「黙れ!」
 その時、未来を誓い合った二人の目の前に神が顕現した。
 まるで最初からそこにいたように、身長二メートルの白い布だけを纏った、背中に黄金の十字架を背負った男が現れたのだ。
「捧げよ、私が神だ」
 そう言うと男は新郎を片手で払い、壁に叩きつけると、新婦を片手で持ち上げた。
「イヤっ!」
 そう鋭く叫ぶも、その圧倒的力を振りほどけず、恐怖に顔が引きつる。
「やめて!」
 そしてその男は新婦の首筋に牙を立てた。その瞬間新婦の目はうつろになり、そして。物言わぬ人形とかしたのだ。
「ほら、死が二人を別つまで……、ふははははははは!」
 そう神父が叫ぶと、男が纏っていた白い布がはためき、伸び会場にいた全員の首筋へと突き刺さる。
 その後残ったのはわずかにうめき声をあげながら、虚ろな両目を開き息をするだけの人間電池たち。
 そう彼らは人間を生かして保存することによって、ライヴスの安定供給を図るつもりなのだ。
「なぜだ、なぜ私はこんなことをしている、ほんとに私はこんなことをしたかったのか?」
 そう神父が血の涙を流し。神は笑う。
 そして大量のライヴスを得たことによってドロップポイントはドロップゾーンへと変化し、直後町を飲み込んだ。

*   *

 そんな未来を予知したH.O.P.E.所属のプリセンサーは、直ちにこの事態を司令官に伝えた。
 事態は一刻を争う。司令官ははすぐにリンカーたちを収集した。
「すまない、緊急で対処にあたってもらいたい事件がある」
 そう司令官は焦った様子で皆の返事もきかないうちに話を始めた。
 敵はケントュリオ級が一体。現状ライヴス不足なのかドロップポイントを生成する程度の力しか持っていないようだ。従魔も使役していない、こいつだけの対処であれば苦労することはないだろう。だが注意するべき点が二つある。
 いくら力が弱くても愚神としての能力をきちんと持っていることに加え、奴が得意としているのは洗脳。
「どうやら体内にライヴスを流し込むことによって人間を洗脳できるらしい。それこそ一般人に至ってはかすり傷からでもライヴスを流し込めるようだが、おそらくリンカー相手にはそうはいかない」
 しかし、あの牙につかまればどうなるか分からないと司令官は続けた。
「さらに、彼が見た光景で死人は一人もいなかったが、おそらくそれはあえての行動だ。殺さず洗脳することで盾にも使えると計算しているんだろう。狡猾な奴だ、頭が切れる」
 もし一般人が操られている場合は、なるべく傷つけないようにしてほしいと司令官は続けた。彼らには全く戦闘力はないが、愚神をかばうことや、リンカーたちにまとわりつくことはできる。
「幸い洗脳を解くにはライヴスの流れを妨害すればいいとわかっている、つまり一度でも攻撃を当てると正気に戻るが加減が必要になる」
 そして最後に、と言いにくそうに司令官は続けた。
「おそらく、神父も操られている、あの愚神と契約していることは間違えないが口車に乗せられたのか、もしくは洗脳されて、望まない悪行を強いられている。なるべくなら彼も助けてやってほしいとおもう」
 司令官は一つため息をつき、そして言葉を続けた。
「時間は二時間後、準備と移動時間を考えるとギリギリなんだ。引き受けてくれるか?
彼ら、彼女らの幸せな時間を取り戻すことはできないかもしれない、けれどあの新郎新婦なら今後幸せな時間を作っていけると思うんだ、その時間すら奪わせたくない。だから頼む、協力してほしい!」
 そう司令官は皆に頭をさげた。

解説

*目標 愚神の討伐


<ケントゥリオ級愚神(以下ギルティと呼称)の討伐〉
 近接攻撃型。体にまとう布で広範囲中距離を攻撃可能だが、威力が低く洗脳効果もリンカーに及ぶほどのものではないと推測される。
 ただしその鋭い二本の牙は高い洗脳能力があり、捉えられるとBS洗脳を受ける。血を吸っているわけではないため体力が奪い取られるといったことはない。
〈一般人〉
 洗脳を受けている一般人、一般人を洗脳するとややステータスが上がるらしく、リンカーの攻撃で死ぬことはないが、怪我をする可能性は十分考えられる。
 また一撃でも攻撃を受けると洗脳効果は解除される。(BD洗脳のルールと同じものが適用される)その場合意識を失っていなければ自分で逃げ出すだろう。
 ただ、一般人への攻撃はリスキーなので、そこはリンカーの実力が試される。
<神父>
 神父もおそらく洗脳されているものと思われる、ただし神父に戦闘能力はなく一般人の少し耐久力が高い程度なので洗脳の解除には最新の注意を払うように

<追記>
 建造物の破壊はやむなしとの判断、人命の被害以外は考えなくてもよい

リプレイ

一章 突入

「――行こう、ミスティ。洗脳されている人々を全員救い出すぞ…!」
 『カールレオン グリューン(aa0510)』は小高い丘を急ぎ足でかけていていた。鐘の音が聞こえる、そして悲鳴、間に合わなかった、だとすればプリセンサーが予測した通り、協会内にいる人間は全て洗脳されていることだろう。
「ハツ、レオン、ずいぶん熱いじゃねぇか。今日は一段と……」
 そう傍らの女性『ミスティ レイ(aa0510hero001)』が赤い髪をかき上げ、カールレオンに追随する。
「当たり前だ、こんなのはひどすぎる。俺たちが全て終わらせる」
 そうカールレオンが丘の上まで上り詰めると、そこには小さな教会があった、狂ったように鐘を打ち鳴らす教会はもはや祝いの雰囲気など微塵も纏っていなかった。
「早くいかないと……」
「まぁ、そうきばんなや」
 歩みを進めようとするカールレオンを関西弁の男が止める。
「まだ、やっこさんの準備ができてへん」
 そう首を振った小太りの男は『桂木 隼人(aa0120)』隣には隼人を見つめたまま視線を外そうとしない少女、『有栖川 有栖(aa0120hero001)』が立っている。
「初めての依頼で気張るのはわかるけどな、落ちついていかな……」
「さすが隼人君、こんな時でも冷静さを失わないんだね、素敵」
「ああ、はいはい、ありがとな」
「桂木、悠長なことは言ってられないぞ、ライヴスの吸収が終わればドロップゾーンを拡大させにかかるだろう、そうなれば被害がどこまで広がるか」
 そんなリンカー二人の作戦会議をよそに。
『アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)』は涼しい顔で丘のむこうを眺めていた。
「先生遅いね」
「ああ、何をやっているんだろうな」
そう、『マルコ・マカーリオ(aa0121hero001)』は答える
「犬と遊んでるのかな」
「それはないだろう…………。たぶん」
 そして、唐突に背後の作戦会議が終わった。気になりアンジェリカが振り返ってみると、四人の視線は遠くから堂々と歩み寄ってくる甲冑の男にくぎ付けだった。
「あれ、だれだ?」
 ミスティが明らかな警戒を示す。
「あ、先生だ」
「先生やて? もしかして、アレクセイさんか!」
『アレクセイ・クロスフォード(aa0522)』は全身に騎士鎧を纏っていた。そしてその後ろには執事姿の『ヘルムート・エアルドレッド(aa0522hero001)』が付き従っていた。
「すまない、遅くなってしまった」
「急患が入ってしまったのです、申し訳ありませんでした」
 そうエアルが頭を下げる。
「大丈夫だよ、先生、エアルさんも顔を上げて」
 そうアンジェリカが促す。
「やっと来たか、もうちょっとで突撃するとこやったわ」
「で、どうするんだ。俺たちはこれからどうやってあいつに近づく? 自称神のギルティに」
「素直に突撃すればいいだろう、正面から」
 そうあっけらかんと言い放つアレクセイ。その言葉に対して彼の英雄であるエアルですら難色を示した。
「あなたはいつも大雑把だ。きちんと理由があるんでしょうね、わたくしの旦那様は本来無謀な方ではないはずだ」
「ああ、理由はある。我々は『陽動』だろう? では目立たなくてどうする。彼らを信じよう、なに、悪いことにはならないはずだ」
 そう真剣な顔で全員を見渡したアレクセイ。その表情につられ全員の顔が引きしまる。
「はぁ、隼人君と一つになれる」
 一人を除いて。
「まぁ、もともとそれしかないか」
 そうため息をつきカールレオンはスマートフォンを取り出す。
「ではみんな、手はず通りに、提供されたスマートフォンを通話状態にして」
 そうカールレオンが指示を出すと、全員が黙々と作業を始めた。
 まずはスマートフォンをグループ通話モードにする。今回の作戦では、連絡用のスマートフォンを全員が持ち、通話状態にし所持しておく、これでこちらの状況は逐一あちら側に伝わるというわけだ。
「見取り図には目を通した? せっかく仲間たちが用意してくれたんだから使わない手はないよね」
 そうアンジェリカが問いかける。
「ぬかりはないよ」
 そうアレクセイが答えると全員が頷いた。
 そして全員の準備が整ったところで、アンジェリカが謳うように言った。
「リンクスタート」
 四人は一斉に英雄とリンク状態になる。眩く散るライヴスそして各々が姿を変えていく。
 ミッションスタートの合図だった。
 まず駆けだしたのはアンジェリカ。飛ぶように地面をかけながら一直線に境界を目指す。
「マルコさん! ぼくはこの初仕事、見事成功させて名を轟かせるよ!」
 そうアンジェリカはない胸を張り、ふふんと笑って見せた。
「いや、先ずは一般人の心配しろよ?」
「わかってるよ! おっと」
 その横をまるで雷のような速度で。アレクセイが駆けていく、そして教会の扉をぶち破った。
「本当に突撃しおった!」
「隼人君、わたし頑張るね! 隼人君の役に立ってみせるよ!」
「せやな、頑張って行こうな…………」
 教会内は地獄絵図とかしていた。もはや正気の人間はいなかった。
 全員がうめき声をあげ、ギルティにライヴスを供給する人形となっている。しかし突然の強襲に驚いたのか。神気取りの邪英は顔をしかめた。
 そしてそれを見るなり、アレクセイが叫んだ。
「神を名乗る愚かものは貴様か! 神聖な祭壇よりその汚い足をどけろ!」
「不遜だぞ貴様!」
 虚ろな目で神父が叫んだ。
「おうおうおうおう、神父さんとけったいな奴が真正面、十字架の前におるわ!」
「神聖なる神降臨の儀式の最中だぞ、控えろ!」
「神聖なる結婚式の間違えでしょ!」
 アンジェリカが壁を指さし叫ぶ。そこには目を虚ろにした、しかし目いっぱいに涙をためた新婦の姿がある。
「やれやれ、女を泣かす奴を神と認める訳にはいかねぇな。いくぞ、アンジェ!」
マルコが叫ぶ。
「胸糞悪い相手だぜ。レオン、サッサと終わらせるぞ!」
 ミスティが到着し、最後に突入してきたカールレオンがグリムリーパーを構えた。
「ああ、いこう、あいつを倒すぞみんな!」
 その時教会内の空気が変わった、ギルティは参列者からライヴスを吸収することをやめ、臨戦態勢をとる。神々しい輝きがまし、洗脳された人々が、ゾンビのようなうめき声をあげた。
「愚かな、近づかせるな我が信徒たちよ」
 そうギルティが命じると、洗脳を受けた参列者たちが一斉にリンカーたちに襲いかかってきた。
「チッ、やっぱそうなるんじゃねぇか。くるぞレオン」
「わかってる、みんな!」
「わかってるわ、武器を置けっていうんやろ」
 洗脳をうけていると言っても彼らは一般人だ、リンカーたちの攻撃を受けたらひとたまりもない、だからその場にいる全員が、武器を地面に突き刺すなり、収納するなりして、両手を空にした。リンカーたちは素手で対応する。
「数が多い、素手とはやりずらいものだね」
 アレクセイがつぶやく、羽交い絞めにしようとした男を背筋を伸ばす動きだけで吹き飛ばす。
 長椅子に叩きつけられた男は一瞬呆けた顔をしたあと、すぐに我に返り叫びながら逃げ出した。
「それでも一人ずつ洗脳を説いていくしかないだろ」
 カールレオンは勢いよく突っ込んできた女の勢いをそのままに、柔術の要領でなげとばし、地面に叩きつける。
 そして正気に戻った女性に手を差し伸べ。
「さあ、目を覚まして。此処は危険です。直ちに入口から外へ避難して下さい」
 そう誘導した。
 リンカーたちは手加減をして攻撃を放つ、その攻撃で正気に戻ったものは混乱しながらも教会から逃げ出していくが、しかし、そのほとんどはギルティの布によって再度洗脳されてしまう。
「きりがないわ!」
 隼人が叫んだ。このままではじり貧だ、いつまでたってもギルティに到達できない、それどころか、徐々にギルティから引き離されていっている。
「……そろそろ頃合いだな」
 だがそれは計算内。
 カールレオンは一般人の洗脳を解きながら、片手でメールを打っていた。徐々に信徒の群を神から引きはがすように遠ざかっていたのは、ギルティの望みかもしれないが、それはカールレオンの計算でもある。
 そしてある程度の距離が稼げたと判断した時。
 四人へと一斉にメールを送信した。
 その瞬間。
 ギルティの背後の壁が爆破された。瓦礫がギルティと神父に降り注ぐ、それをギルティは全て布で打ち払う。
「なんだ?」
 舞う土煙、逆光と煙でシルエットしか見えないが、そこには一組の男女が立っていた。
「幸せの門出になにやってくれてんだか」
「まったくじゃ、女の夢が叶う瞬間になんてことをしてくれたのじゃ」
 煙が張れれば、姿がはっきりと見える。手足に黒鉄の装具と全身に銀色の陽炎を纏う男『リィェン・ユー(aa0208)』その隣には長髪で眼帯をつけた美女『イン・シェン(aa0208hero001)』が立っている。
「まだいたのか」
 ギルティが無造作に布を二人に伸ばす。同時に新郎新婦を盾にしようと神父が動く。
 しかし布は切り払われ、新郎新婦の前には男が立ちはだかった。
 まず、布を切り裂いた巨大な斧は小柄な少女が振り回す武器であり、それを担ぎなおして微笑んだのは『新藤 瑠璃(aa1346)』という可愛らしい女の子だった。
「人質を取るだなんて、ちょっとずるいやつだね……。さすがのボクでもちょっとこういう奴には敬意を払えないなあ……」
 そして神父の行く手を遮ったのは『真壁 一輝(aa0757)』グリムリーパーの切っ先を神父に向けると、たまらず神父はギルティの元まで後退した。
「これ以上好きにはやらせん、お前たちのやりそうなことは全てお見通しだ」
「くっ……」
「お、お前たち、ななななな何者だ!」
 焦った神父がどもりながら問いかける、その問いかけに答えたのはその場にいる七人ではなかった。
「私たちは、H.O.P.E.のライヴスリンカー」
 その瞬間、神がかったスピードでリィェンの脇を通り過ぎる、紫の影。
 次いで、その青年が担ぐ長槍が唸りを上げる。
 それをギルティは全力の力で受け止めた。
 布を何枚も重ね真正面から槍を叩き伏せるようなつもりで。
 その直後轟音、爆音、衝撃波でステンドグラスが粉々に砕け散り、建物の軋む音がした
「ぐっ!」
「そして、お前たちを滅ぼすものです!」
 そこには見た目二十歳程度の青年が立っていた。
 彼の名前は『紫 征四郎(aa0076)』は本来であれば少女、だがリンク中に流れ込む膨大なライヴスが、彼女を青年の姿に変えているのだ。
「あああ! 神よ! お気を確かに」
 神父が神に縋り付く。
「ふふふ、確かに強いかもしれない、けれどこの程度……」
「その余裕も今のうちだけ、行きますよ、駄犬」
「わかってらァ、どチビ」
 征四郎の呼びかけに『ガルー・A・A(aa0076hero001)』が静かに答えた。

 二章 戦闘開始
「お前ら盛り上がってるとこ悪いんやけど、こっちまだ洗脳されてるやつらおんねん、手伝ってくれへんか」
 そう隼人が叫ぶが、ギルティへ奇襲を仕掛けた人間はそちらへはいけない、ギルティも通す気はなさそうだった。
「素直に通してくれるとは思えないね」
 リィェンがつぶやく。
「こちらはこちらでやるしかないようだな」
 陽動班は奇襲班が突入した際に、ほとんどの人間を解放できたとはいえ、まだ七人の洗脳者が残っている。状況は依然として厳しいままだ。
「引きつけておいてくれ」
 一輝が言う。
「なに?」
「ギルティとの戦闘の邪魔になる」
 そこで戦闘は突発的に始まった。まず反応速度で勝る征四郎がその槍を振り下ろす、そして切り上げ、回転からの貫き。流れるような連撃がギルティを襲う。
 その槍捌きは見事で、一撃一撃が確実にギルティの肌に傷を作っていく。
 たまらず大きく距離をとろうとしたギルティに征四郎は素早く肉薄、至近距離から槍を突き刺した。
 骨でも砕けたような轟音が轟き、串刺しにしたギルティを高々と掲げる。
「やったのか?」
 ガルーがつぶやく。
「油断するな!」
 リィェンが次いで叫んだ。ギルティの目は死んでいなかったからだ。
 その瞬間、驚くべきことにギルティの首が伸びた。布で槍をがっちり固定し、首を伸ばして征四郎の首筋に歯を突き立てようと狙う。
「征四郎君!」
 瑠璃が叫んだ。征四郎はとっさの回避が間に合わず、首に牙を受けてしまう。
「やってくれる」
 一輝はすぐさま助けようと駆け出そうとした、しかし嫌な予感が彼を止めた。
 敵を観察しよう、自分は万が一の場合にすぐに動けるように、そうにらみを利かせることを選んだ。
「大丈夫か! 今そっちに……」
アレクセイが叫ぶ、陽動班全員が助けに向かおうとするが、立ちふさがる、一般人が邪魔をして前に進めない。
「邪魔や!」
 そうアレクセイ、隼人、カールレオン、アンジェリカは洗脳をといていく、しかしギルティまでは遠い。
「征四郎君を離してよ!」
 瑠璃がその斧を叩きつける。衝撃でギルティは口を離し地面に転がったが、征四郎はうなだれて四つん這いのまま起き上がらない。
「そっちは任せたぞ!」
「なに?」
 一輝が聞き返すもリィェンあわてて教会内を駆けていく、その先には今にも逃げ出そうとする神父の姿があった。
「お前、それで本当にいいのか?」
 そういってリィェンは神父の頬に平手を叩き込んだ、一瞬何をされたか分からないという表情でぼんやりとしていた神父だったが、一粒、ほろりと涙を流し、そのうつろだった目に光が灯った。
「私はなんということを」
「よぅし、気がついたかだったらさっさと裏から逃げろ……ただし逃げ去るなよ」
 リィェンは神父が逃げ去るその後ろ姿を見送った。
「二人を頼む」
 リィェンはギルティに向き直る。振り向くことなく真っ直ぐ敵を見つめ、そしてその呼びかけに答えイン・シェンが新郎新婦の前に座る。
 イン・シェンは二人に優しくふれ頬をつねって、洗脳をといた。
「もう大丈夫じゃ」
 夢うつつと言った状態の二人を優しく抱きしめ、そして二人を教会から連れ出した。
「征四郎、お前、まさか」
 一方、一輝はうずくまる征四郎を抱え教会の隅へ退避していた、今は瑠璃が独りでギルティを応戦しているが、それもいつまで持つか分からない、早く戦闘に戻らなければいけなかった。
 だが征四郎は牙を受けている、おそらくは洗脳されている、だがいまだに襲ってこないということは。
「まだ戦っているのか」
 そう、征四郎は戦っていた、体は乗っ取られても心がまだ生きていた。
(おい征四郎、大丈夫か)
 ガルーの声が征四郎の脳裏にこだまする
(大丈夫ですよガルー、征四郎はまだやれるのです…………)
「きゃっ!」
 その時瑠璃の悲鳴が聞こえた。直後斧が床に突き刺さる音。
「一輝君! ごめん」
 ギルティが高速で近づいていることがわかる。それも一輝を洗脳するためにだ。
 だがそれにも動じず、一輝は言った。
「征四郎、すまない、手加減はできないぞ」
 次の瞬間、カッと目開いた征四郎は弾かれたように飛び起き、足元に置いてあった、槍を蹴り上げた。空中をまう槍を握りしめ、それを一輝に叩きつけようと回転させる。
 その一撃は重たく、受ければただでは済まないと直感で一輝は感じ取る。
 だがその攻撃を一輝は恐れない、なぜならその行動をは読めていたから。
 一輝は素早く懐に潜り込むと、渾身の掌底を征四郎の腹部に叩き込む。
 征四郎の口から空気が漏れた。
「……ありがとう」
 呻くように征四郎は言った。
「……これで、私は」
 そしてその見開かれた両目はしっかりと、ギルティを見据えていた。
「ハァ!」
 うなだれていたのも束の間。
 征四郎はすぐに槍を握り直し。一輝の脇をすり抜けて、急速に近づくギルティめがけて真っ向からぶつかる。
 それをギルティは回避できなかった。
 気合と共に、振りぬくような一線がギルティの腹部に直撃する。血のかわりに体内を循環しているライヴスが細かな霧のようにあたりに噴出した。
「なぜ、なぜ私の洗脳がこんなにたやすく、私は神だぞ」
「神とは人を助くものではなかったのですか!」
「なに?」
「あなたが神なはずがない。こんな下賤な真似を、神がするはずがありません! それに、それにこの世界に」
「「真の意味での神などいない」」
「ぬおおおおおおおおおおおおお!!」
 ガルーと征四郎の声が重なった瞬間。ギルティは本当の姿を見せた。
 神々しい姿がいっぺん、灰色の瘴気を纏い。その形相は鬼のように変化する。
「私の餌に成り下がれ、弱者が!」
 そして無数の布が伸び、洗脳が解除されたばかりの一般人へと向かう。そしてそれを妨害できないように、同時にギルティは周囲の椅子や彫像を投げつけた。
 とっさに征四郎は反応ができなかった、てっきり自分を攻撃すると思っていたのだ、しかしギルティが取った行動は違った。失ったライヴスの補充を選んだのだ。
 轟音、そして土煙。これだけの攻撃を受ければ一般人はたえられない。
「そんな……」
 瑠璃がそうつぶやいた瞬間だった。
 瑠璃は気が付く、一輝がいないことに、そして征四郎を覗く他のメンバーがいないことに。
 そして教会に鳴り響く甲高い金属音。教会の鐘の音ではない。
 それはまるで金属をすり合わせるような音。槍や大剣、刀を振りかざすそんな音。
 土煙が晴れた瞬間。ギルティは目を見開いた。
 信じられない光景が広がっていたからだ。
 あれだけの攻撃を受けても、ほぼ無傷で立っているリンカーたち。
 一輝。隼人。カールレオン。アンジェリカ。リィェン。アレクセイ。全員がギルティの攻撃を切り伏せ、時にはその身を盾にして、全ての一般市民を守っていた。
「信じられん、なぜお前たちは私に対抗できる! 私は神だぞ!」
 ギルティが吠える。そして実感する、これが世界の守護者、H.O.P.E.かと。
「これで終わりだ、由佳、ボクに力を貸して!!」
 瑠璃が動いた。一度ははじかれたイプシロンアックス、それを素早く回収し大きく振りかぶる。渾身の力を込めたその一撃を、ギルティはよけることができない。
「くそおおおおおおおおおお!」
 ギルティの絶叫がこだまし、真っ二つになった体は塵となって消えうせた。鳴り響いていた鐘の音は今はやみ、代わりに耳が痛いほどの静寂が押し寄せていた。

 三章 帰還
 隼人と有栖は遠くからぼろぼろになった教会を見つめていた。
 有栖が切なげに隼人に問いかける。
「わたしとの誓約、おぼえてるよね?」
「『ずっと一緒にいる』やろ。おぼえてるで」
 そう言って隼人は有栖を顧みず歩きはじめる、有栖はうれしくてたまらない、そんな笑みを浮かべてその後ろ姿を追った。
 アレクセイは甲冑を脱ぎ、白衣を着て神父の手当てをしていた、もともと獣医だ人の手当てくらいできる、そう応急処置をかってでたのだった。
「すみませんでした」
 唐突に神父がそう言った。
「私は神父失格だ、信じる神を間違えてしまった、仕事を辞めて、実家の農業でも継ぎます」
 そう涙を流しながら神父は語った。
 その姿を見て、近くでそれを眺めていたアンジェリカが神父の手を取る。
「悔いる心があるなら、貴方の中の神様は死んでないんでしょ? なら立ち上がって。貴方にはまだ出来る事があるでしょ」
 そう優しく語りかけた。
 そしてマルコがその肩にそっと手を置いた。
「同じ神父として、悔い改めるあんたを俺と俺の神が赦そう」
 そう語りかけると神父は涙をこらえることもやめ、泣きじゃくる。
「安心して下さい。もう大丈夫ですよ。ゆっくり立ち上がって……もう愚神は居ませんから焦らないで大丈夫です。お召し物の汚れをお取りしましょうか」
 そうエアルに連れ添われて、神父はH.O.P.E.の救助車両に乗り込んだ。
 征四郎はガルーと共に教会の内部にいた。リィェンと共にこの事件の物品回収を行っていたのだった。
「結婚……ガルーとのせーやくも似たようなものでしょうか」
「さぁな。死が2人を分かつまでってのは間違いじゃねぇが」
そんな二人の傍らで、エレンとカールレオンが口論をしながら瓦礫の撤去をしている。
瑠璃は楽しそうにコンクリート片を片付けていると『GUILTY』と書かれた清書をみつけた。
「これは、何だったんだろうね」
「さぁね、とりあえず持っていこう」
 そう一輝が答えた。
 リィェンは教会の裏側にいた。ショックで立ち直れない新郎新婦をイン・シェンがずっと抱きかかえていて、その様子を見に来たのだ。
 イン・シェンは二人の頭をなでながら、優しく語りかける。
 「ふたり共、大丈夫かえ?せっかくの門出に災難じゃったのぅ。じゃが、門出にこんな経験をしたんじゃ、これからの二人が歩む道にこれほどの困難はないじゃろう。じゃから、そなたらは幸せになれると思うのじゃ、じゃから、全てが終わった後に、仕切りなおして妾らにも祝わせてほしいのじゃ、そなたなら愛の門出を」
 それをリィェンは微笑みながら見ていた。 
 この日、結婚式はめちゃくちゃになってしまった、人生で一番の記念日になるはずだったのに、それが脆くも壊れてしまった、けれどもしイン・シェンが言うように立ち直ることができたなら、彼ら新郎新婦は笑ってこの日のことを話せる日が来るのだろうか。
「結婚おめでとう」
 そうつぶやいたリィェンの言葉に、新郎新婦は少しだけ笑みを作った。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
  • エージェント
    新藤 瑠璃aa1346

重体一覧

参加者

  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 優しき『毒』
    ガルー・A・Aaa0076hero001
    英雄|33才|男性|バト
  • ただのデブとちゃうんやで
    桂木 隼人aa0120
    人間|30才|男性|攻撃
  • エージェント
    有栖川 有栖aa0120hero001
    英雄|16才|女性|ブレ
  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • コンメディア・デラルテ
    マルコ・マカーリオaa0121hero001
    英雄|38才|男性|ドレ
  • 義の拳客
    リィェン・ユーaa0208
    人間|22才|男性|攻撃
  • 義の拳姫
    イン・シェンaa0208hero001
    英雄|26才|女性|ドレ
  • Knock out!
    カールレオン グリューンaa0510
    人間|18才|男性|攻撃
  • Knock out!
    ミスティ レイaa0510hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • エージェント
    アレクセイ・クロスフォードaa0522
    人間|27才|男性|生命
  • エージェント
    ヘルムート・エアルドレッドaa0522hero001
    英雄|20才|男性|バト
  • 我王
    ダグラス=R=ハワードaa0757
    人間|28才|男性|攻撃



  • エージェント
    新藤 瑠璃aa1346
    人間|15才|女性|攻撃



前に戻る
ページトップへ戻る